コロナ禍に行ったアンケート調査にみる 不安を克服し前に進もうとする姿に誇り
公益財団法人日本訪問看護財団常任理事の佐藤美穂子さんインタビュー、後編は日本訪問看護財団が昨年から今年にかけて4回にわたり行ったアンケート調査から見えてきたものを中心に語っていただきました。コロナに翻弄される訪問看護師の不安と、その先にある光明とは。
目次
コロナで明らかになった 日本人のヘルスリテラシー
コロナ禍の中で1年半経って私が感じたのは、日本は諸外国に比べ、ヘルスリテラシーがしっかりしていると思っていましたが、実はそうでもなかったということです。
「マスク着用」「手指消毒」といえば、みんな従うところは徹底しているなあと感心します。しかし、緊急事態宣言も度重なり、その効果はしだいに薄れてしまっています。
またコロナ禍で医療従事者にスポットが当てられ、報道番組などで多くのドキュメンタリーも作られましたが、メディアは「医療崩壊」などセンセーショナルな話題を取り上げる傾向にあります。
現実には、感染病棟の看護師は、着脱に時間がかかる個人防護具のフル装備で、トイレを長時間我慢し、食事もままならないという現状がありました。
医師は定期的に見回りに来ますが、人工呼吸器も経管栄養も、実際にベッドサイドでマネジメントしているのは看護師です。これらの行為は看護師の特定行為研修制度にもつながるのですが、そういう看護師の総合的な力量 —— 対応力、技術力、指揮力をこそ、メディアにもっと取り上げてほしかったですね。
看護師のメンタルヘルスを良好に保つためには
昨年から今年にかけて財団が4回実施しているアンケート調査からみえてきたのは、コロナ禍で働く訪問看護師のメンタルヘルスの不安定さが、完全に解消できていないことです。
看護師は医療者として最前線に立ち、猛烈な感染力がある未知のウイルスに対峙しなければなりません。訪問先や、移動中に、万が一にも感染したらどうしようという恐怖心はどれだけのものだったでしょう。
また、個人防護具が足りなくなることへの不安、本人たちの気分の落ち込み、疲労感、イライラ、孤立感を募らせた看護師が多かったことが、アンケートからうかがえました。
利用者の命も、自分の家族の安全も守らなくてはならない緊張感に押しつぶされ、休職・退職していった看護師もいました。家族から「そういう(リスクの多い)仕事は休んだら」と言われ、身近な人から仕事に対する理解を得られなかったことで落ち込んだという人もいました。
一方で、不安でメンタルが低下したスタッフに対して、「このままではいけない」と別のスタッフが奮起してカバーしあっていることもアンケートからみえてきました。
たとえば、ふだん控えめなスタッフが「とにかく感染に気を付けてこの危機を乗り越えよう」と発言したり、ウイルスについてもっと医学的・科学的・客観的に学ぼうという姿勢がみえたりしていました。なるべく接触時間を短くする分、ICTを活用して利用者の体調管理や健康相談を行っているステーションもありました。
管理者はそういう姿を頼もしく感じ、スタッフに、いっそう感謝の気持ちを持ったといいます。
パンデミック下での訪問看護 管理者が行うべきこと
管理者ならではの悩みもあります。
万が一スタッフが濃厚接触者や感染者になってしまうと事業所が回らなくなるので、とにかくみんなが安心して働けるよう、「スタッフの命は必ず守るし、健康な暮らしを第一に考えて行動しますから、皆さん安心して」など、管理者からのメッセージを丁寧に伝えて安心してもらっている様子もうかがえました。もちろんその裏付けとして、感染に対する正確な知識をみんなで共有する、個人防護具を全員が十分に使えるように整備するなどを、怠りなくやらなくてはなりません。
感染者に対する差別などが起こっている場合、スタッフの精神的な負担を管理者がフォローすることも大切なことです。
濃厚接触者になって10~14日間仕事ができなくなったスタッフが職場復帰したときには温かく迎える。そして当事者の体験をしっかり共有して、根拠に基づく感染防護をさらに徹底する。そんなフォローも管理者には必要です。
訪問看護サミット2021で多くの仲間と会える日まで
感染症は、いつかは必ず治まります。来年あたりは、ポストコロナという新たな状況を描かないといけないでしょう。そして10年後くらいに、また新たなウイルスが出てくるかもしれません。
今回、このような世界的なパンデミックをみんなが経験したのですから、これを契機に私たち訪問看護師には地域でどんな役割があって、どういうことをすればいいのか、地域とのつながりを強めるためにも、しっかり業務継続計画(BCP)を作成していただければと思います。
なお、これからも人材確保がままならない状況は増えてきます。みんなで集まることができない今、ICTを活用するなどして、屋根の下の連携ではなく大空の下での地域との連携をより強めていく必要があります。
管理者層は、苦手意識を克服するためにも、ICTに強いスタッフの経験を共有し、若いジェネレーションとうまくやっていってほしいですね。
また、日本訪問看護財団の個人防護具無料提供は現在も続けています(2021年9月28日時点)。感染者対応に限定しているわけでもなく、フル装備でなくてもいいですし、ヘルパーさんにも使っていただけます。財団ウェブサイトより申し込みいただけますので、ご利用ください。
◎日本訪問看護財団『感染防護具支援プロジェクト』
https://www.jvnf.or.jp/covid-19_project2020.html
また、11月6日には訪問看護サミット2021を開催します。テーマは「どんな時も共にある訪問看護をめざして、ポストコロナの最善のシナリオを描こう」です。ライブ配信を行いますので、ぜひご参加ください。
◎訪問看護サミット2021の詳細はこちら↓
https://www.jvnf.or.jp/summit2021/index.html
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佐藤美穂子
公益財団法人日本訪問看護財団常務理事
記事編集:メディカ出版