インタビュー

訪問診療クリニックで働くということ(後編)

訪問診療クリニックで働く菅 基さん。今回は一風変わったプロフィールと、病棟勤務から転職した際の驚きの経験を語っていただきました。

なぜ文系四大卒が看護師に?

一般の文科系大学を出て就職もしたのに、どうして看護師になったのかとよく問われます。

新卒で入社した会社では営業職でしたが、仕事内容や今後のキャリアに対して自分の軸がみえず、悩んでいました。偶然、実家の近所に都立の看護学校があったこともあり、看護師の資格を生かした仕事をしようと決心しました。

入学してみると、学生は若い女性ばかりではなく男性も多いし、30代・40代の方もいて、違和感なく学べました。

これまでずっと学校での成績基準の世界で生きてきて、看護学校には、それだけでは推し量れない世界があることにまず驚きました。また、ずっと文系だったので、理系科目には苦労もしました。大学入試より勉強したかもしれません。

そしてみなさんそうだと思いますが、実習期間中は課題が多すぎて眠れないのには参りました。でも目的がはっきりしているので、乗り切れました。

価値観はアップデートしていくもの

国家試験合格後は、5年間病棟勤務を経験しました。呼吸器内科、血液内科など内科系混合病棟でしたが、3年目以降、男性看護師は私一人だったので、目立つというか、下手なことはできない(笑)。力仕事的な部分では頼られましたが、男性が一人の環境は、なかなか肩身が狭かったです。

ふり返って思うのは、自分の経歴や経験で価値観を固めてはいけないな、と。今でも心掛けています。

大学卒だから看護学校でも成績がすごい良かったかというとそんなことは全然なかったし、職場でも家庭でも、その時の自分のステージや将来性を見すえ、総合的にその場での自分の価値観をアップデートさせることが必要だなと学びました。

医療の常識が通用しない訪問看護という仕事

そろそろ異動のタイミングという5年目に、もともと興味があった在宅系で、地域の人とかかわりながら経験が積めることを期待し、訪問看護ステーションに転職しました。

訪問看護は、患者さんの自宅での限られた物品と限られた空間でサービスを提供するので、病院では当たり前だと思っていたことが通じない世界でした。

また、患者さんやご家族の医療に対する考えや価値観が優先されるので、そこをはねのけると「もう来なくていいです」と言われてしまいます。実際、私もそう言われたことがありました。

ALSでずっと在宅療養されている方のところに私が入った時です。ご家族がALSの患者さんであるご本人のために介護の会社を立ち上げたほどで、鉄壁の価値観 ── たとえば酸素飽和度が1%でも下がったら困るなど ── が形成されていました。
私はそこを理解せず、医療の正当性を主張して失敗しました。

「24時間対応なんて無理」と考えている人へ

高齢者の増加に伴い、訪問診療を必要とする人はますます増えていきます。サービスを提供する私たちの将来的なビジョンとして、少ない人数でいかに業務を回していくかを考える必要があります。先にお話ししたICTの導入も、業務効率化、残業ゼロへの有効な手段です。

訪問看護はやってみたいけれど、24時間対応は無理と考えている方。深夜に駆けつけることは、事業所の方針にもよりますが入職前に思っていたよりはずっと少ないとお伝えしたいです。実際に訪問看護ステーションに在籍されている方なら、みなさんご存じだと思います。

なぜ深夜の訪問をしなくてすむのか。
私たち医療者は、夜間に起こりそうなことをあらかじめ予測し、日中できることでしっかり予防・対応します。また、今後起こりうることを患者さんやご家族にもしっかり説明しています。
そうすることで、患者さんやご家族は安心され、コールが減り、緊急連絡にも多くが電話対応ですむことになりました。

訪問診療が入るときには多職種チームが形成されている

訪問診療は、在宅系サービスのなかでは最後に入るサービスだといわれます。

たとえば高齢になって生活に支障が出てくるようになると、まずは地域包括支援センターに相談し、ケアマネジャーが入り、要介護認定が下りると訪問介護やデイサービス・デイケアを利用しはじめます。

病後など、やがて医療が必要になってくると訪問看護が入り、ご本人が病院にも行けなくなると、最後に訪問診療が入ります。つまり患者さんにかかわる多職種がすでに形成されていることが多いのです。

すでにサービスを利用している患者さんのところに私たちが加わるため、訪問看護師さんの役割はとても重要で、連携を大切にしています。当院にも懇意にしている訪問看護ステーションは複数あり、それぞれの個性と特徴を把握し、訪問看護を依頼しています。

訪問診療クリニックも、キャリアと家庭の両立に適した職場

もちろんターミナルで自宅に戻られた方や、一切サービスを使っておらず突然調子が悪くなったけれど入院はしたくない方など、先に診療が入るケースもあります。そんなときは、私たちが介護保険とは何かなど、制度的なことを説明しています。

いざ訪問してみると、家族関係に問題があったり、必要な在宅サービスが入っていなかったりなど、手が足りないと感じる部分もあります。医療だけにとどまらず、患者さんとご家族の悩みも受け止められるよう今後も頑張っていきたいですね。

そのためにも、現在、一緒に働く仲間を増やしたいと考えています。

キャリアと家庭を両立させながら働ける職場だと自負しています。訪問看護経験者で、在宅診療クリニックに関心のある方、チームで働いてみたいという方は、ぜひご連絡ください。

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菅 基(すが もとむ)
杉並PARK在宅クリニック(東京都杉並区)看護師

杉並PARK在宅クリニック
https://www.suginami-park.jp/

記事編集:株式会社メディカ出版

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