インタビュー

心不全の在宅移行と緩和ケアの課題&展望/クリニック医師×訪問診療医師 対談

心不全の在宅移行と緩和ケアの課題&展望

広島市内で連携を視野に交流している、循環器専門の開業医・上田健太郎先生と、循環器外科から訪問診療に転身した伊達修先生。お二人に、心不全の地域診療の将来についてお話しいただきました。後編のテーマは、心不全の患者さんが訪問診療へ移行するケースや、心不全における緩和ケア、今後の展望について。心不全の在宅療養において訪問看護師に意識してほしいことも含めてうかがいました。

>>前編はこちら
心不全の地域連携&心臓リハビリの重要性/クリニック医師×訪問診療医師 対談

▼プロフィール
上田 健太郎(うえだ・けんたろう)先生
上田循環器八丁堀クリニック 院長

上田 健太郎(うえだ・けんたろう)先生
1994年広島大学医学部卒業後、同大附属病院内科研修医、公立三次中央病院循環器科、広島市立安佐市民病院循環器内科副部長、JA尾道総合病院循環器科部長等を経て2015年より現職。循環器内科専門のクリニックとして、心臓リハビリテーションにも力を入れている。日本循環器学会認定循環器専門医、心臓リハビリテーション指導士、日本高血圧学会指導医。

伊達 修(だて・おさむ)先生
コールメディカルクリニック広島 副院長

伊達 修(だて・おさむ)先生
1994年広島大学医学部卒業後、県立広島病院、倉敷中央病院、北斗循環器病院、北海道循環器病院等で心臓血管外科医としてキャリアを積んだ後、2016年から地元の広島に戻り内科に転向。広島みなとクリニックを経て2020年より現職。訪問診療医として地域の患者さんに寄り添っている。日本循環器学会認定循環器専門医、日本脈管学会認定脈管専門医、日本外科学会外科専門医。

※文中敬称略

終末期の患者さんを家で診るのは難しい

ー現在、心不全の患者さんが訪問診療へ移行する一般的なケースを教えてください。

伊達:大きく分けて、2つのケースがあります。
(1)終末期を自宅で過ごしたいと患者さんやそのご家族がおっしゃるケース
(2)患者さんの高齢化により通院が難しくなるケース

まずイメージしやすいのは終末期でしょう。基幹病院に入院していて退院が難しくなったり、入退院を繰り返して心身ともにつらさを感じるようになり「もう入院は嫌だ」とおっしゃる患者さんを基幹病院から紹介いただいたりするケースです。この場合は終末期緩和ケアを行うことになります。

訪問診療中の伊達先生
訪問診療中の伊達先生

上田:ご本人や家族の強い希望が原動力となって訪問診療に移行するケースですね。

伊達:そのとおりです。(2)は、慢性心不全の患者さんが高齢になって通院が難しくなって在宅で受け入れるケース。上田先生が訪問診療との連携を考え始めたきっかけとしてお話しくださったようなケースですね。(前編を読む>>心不全の地域連携&心臓リハビリの重要性)慢性心不全は入退院を繰り返す病気ともいわれていますが、在宅で慢性心不全の治療を行うことで再入院率を下げることができないかと思いながら日々診療しています。

上田:伊達先生は、(1)と(2)のどちらのケースがより難しいと感じますか?

伊達:(1)の終末期の患者さんです。循環器疾患の終末期の患者さんを家で診るのは非常に難しい。がん患者さんの場合は、緩和のステージに入った段階で在宅を選ぶことが増えていて制度的にも整っているし、紹介する側である基幹病院の先生方の意識も十分醸成されている。一方で循環器となるとまだまだ在宅で過ごすことは難しいというムードが、患者さんにもドクターにも強いのだと思います。

上田:患者さんご自身やそのご家族も、「循環器の病気は病院で最期を迎えるのが当然」だと考えている部分もあるのかもしれませんね。

しんどいと思ったときが、緩和ケア導入時期

ー先ほど、終末期の緩和ケアに触れていただきました。心不全における緩和ケアについて、具体的なケア方法や導入時期などお聞かせください。

伊達:心不全は病気の症状そのものがつらいので、治療それ自体が緩和ケアのひとつだと思います。私はかなり手前の段階から、直接の疾患の治療とは別に症状の苦痛を取ることを真剣に考える必要があると思っているので、導入時期は「患者さんがしんどいと思ったとき」だと考えています。

ちなみに心不全領域の緩和ケアの話題でいうと、心不全緩和ケアトレーニングコースである「HEPT(HEart failure Palliative care Training program for comprehensive care provider)」が、若い先生を中心に広まりつつあるのは、大変頼もしいことだと思います。

上田:終末期には鎮痛目的での緩和ケアも行うことはありますか?

伊達:もちろんあります。ニトログリセリンを一日何回も使っていた在宅の患者さんにオピオイドを処方したら、「これは楽になる」といって使ってくれたケースもありました。症状が軽いうちに利尿剤の量や血圧の値を調整する治療を行ったんですが、在宅診療において治療と並行して患者さんの苦痛を取るケアをしていく必要性を感じましたね。

心不全の在宅診療は成長段階

ー心不全に関して、地域診療で感じる課題について教えてください。

伊達:まず、循環器疾患の終末期の患者さんが訪問診療を受けているケース自体が少ないんです。そうすると、当然ながら訪問看護師さんも心疾患のある方の終末期看護の経験数が少ない。講習会などで知識を得ても、実務経験が足りないというのはひとつの課題だと思います。

上田:私も同じ課題感を持っています。心不全の終末期を在宅で診る体制は経験も人材もまだまだ足りておらず、心臓の病気は急変があるので医師も看護師も敬遠しがちです。「心不全が増悪する、不整脈が出て倒れる、そうなったら対応に困る」と思われている方も多いでしょうが、安定しているときは安定するし、悪いところをうまく処置すれば回復もします。

経験を積んでくると「こういうときに悪くなりやすい」ということが分かるようになるし、分かると対応できるようになって自信にもつながります。

ー医師も看護師も、まず在宅診療の経験を積む必要があるということですね。

上田:そうですね。私のクリニックで行っている心臓リハビリは看護師に任せていますが、入職の段階で心臓リハビリの経験がある看護師は一人もいませんでした。ほとんどが経験ゼロで、経験者にサポートしてもらいながらレベルアップしていったので、訪問診療についてもまず経験してもらう必要があると思っています。

上田循環器八丁堀クリニックの皆さん
上田循環器八丁堀クリニックの皆さん

伊達:課題はありますが、将来の展望は明るいと思いますよ。どの疾患も通って来た道で、今は家に帰ることが珍しくなくなったがん患者さんも、一昔前は家に帰れなかったわけですから。

ただ、循環器の疾患の場合、良くなったり悪くなったりする特徴があるので、家で全部ケアするのは難しいと思います。悪くなったらどうしても基幹病院などで治療しなければいけないので、今後は病院と訪問診療と、さらに上田先生のような専門のクリニックとのやり取りがスムーズにできるようになることが求められるのではないでしょうか。

私たちが診ている心不全の患者さんでも自宅と病院を行き来する方はいらっしゃいます。ただ、私たちが介入しなかったらもっと行き来が増えてしまうので、少しでも家で落ち着いて過ごせる時間を延ばして、入院回数と入院期間を少なくすることが目標です。

どんな小さな変化でも知らせてほしい

ー心不全の患者さんが在宅で療養するにあたって、訪問看護師はどのようなことを意識すれば良いでしょうか。

上田:先ほどの話と重複しますが、慢性心不全は良くなったり悪くなったりを繰り返す特徴があります。そして悪くなるきっかけはさまざまです。風邪で調子を崩すとか、1週間で体重が2kg増えたとか、不整脈が増えてきているとか。寒くなると血圧が上がるので、季節的な影響も大きいですね。そういった、バイタルも含めた体調の変化を把握して、医師に知らせてもらえるとありがたい。ある程度予測することができれば、再入院を回避できる可能性は高くなります。そうはいってもなかなか難しく、私自身もうまくいかないことはありますけどね。

伊達:上田先生と同じく、小さなことでもぜひ共有してもらえたら助かります。ACPの話(前編を読む>>心不全の地域連携&心臓リハビリの重要性)でもそうですが、看護師さんがご存じの患者さんの情報をどれだけ教えてもらえるかによって、医療の質が変わりますから。

とはいえ、「こんな小さなことで連絡するのは…」と共有を控えてしまう看護師さんもいらっしゃるだろうと思います。

上田:そうですね、医師へのいわゆる「報・連・相」に難しさを感じている訪問看護師さんが少なくないと思います。当院では患者さんに心不全手帳を持ってもらっていて、週1回リハビリに通っている患者さんに関しては非常に有効なツールだと感じています。そういうツールを介して医師とコミュニケーションを取ると仕事がしやすくなるのではないでしょうか。

伊達:看護師さんが医師に対して感じる壁を取り去るのは医師の責任だと思っています。当院では情報共有にメールを使っています。メールだと電話よりも報告しやすくなると思いますよ。医療用のSNSもありますが、まだ使いにくいところがあるので、もう少し使いやすくなるといいですね。

上田:私たち医師同士の連携だけでなく、医師と看護師との連携を進めていくことが、地域診療の可能性を広げるカギになると考えています。地域医療で心不全を診られる社会を、一緒に目指していきましょう。

※本記事は、2023年11月の取材時点の情報をもとに構成しています。

取材・執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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