インタビュー

訪問看護のラダー&評価制度 キャリアパスを「見える化」する意義

ラダー&評価制度

ソフィアメディ株式会社は、訪問看護スタッフや管理者に対する評価制度としてラダーを採用しています。随時改定を行いながら、スタッフの育成に効果をもたらすために模索を続けています。ソフィアメディの訪問看護において、ラダーはどのような価値を持つものなのでしょうか。QM(クオリティマネジメント)推進グループの篠田 耕造さん、田中 麻奈美さん、福島 圭輔さんにお話を伺いました。

篠田 耕造さん/CQO(Chief Quality Officer)
公立総合病院、専門病院、地域包括ケアを行う法人で、教育体制や業務プロセス・品質管理に携わりながら、MBA(経営管理学修士)・認定看護管理者を取得。日本看護協会教育委員・学会企画、岐阜県看護協会副会長等を歴任。JNAラダー・教育システム、管理者研修、医療経営セミナー講師などを行う。2022年よりソフィアメディ株式会社CQOに就任。

田中 麻奈美さん
作業療法士歴21年、ソフィアメディに在籍して13年目となる。訪問看護ステーションで従事していたが、産休・育休を機にキャリアチェンジし、バックオフィスの仕事も兼務。2020年よりQM推進グループに所属。スタッフ全般の育成プログラム作成、ラダー体制の整備などを行う。

福島 圭輔さん
理学療法士歴20年ほど。ソフィアメディには2013年に入社し、東京都大田区ステーション池上にてセラピストとして勤務。2016年分室であるステーション西馬込の主任セラピストとなる。2020年にバックオフィスへ異動。2020年から1年間採用担当、2021年からQM推進グループに所属し、管理者や主任など、マネジメント層に対しての育成、研修などを担当。

※本文中敬称略

※本記事は、2023年5月の取材時点の情報をもとに制作しています。

ラダーの浸透が難しい訪問看護業界

病棟を含め、「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」(JNAラダー)を見たことがある看護師は多いと思いますが、2023年6月にはクリニカルラダーに代わる新しい指標も示されました。違いについて教えてください。

篠田: もともと2016年に日本看護協会がラダーを開発した目的は、病院と高齢者施設・訪問看護が地域完結型のシームレスな看看連携を目指す上で、双方に共通する基準をつくるということにありました。クリニカルラダーは看護師共通の評価システムで、実践能力を5レベルに分け、それぞれ習得すべき「4つの力」(意思決定を支える力/ニーズをとらえる力/協働する力/ケアする力)に分けて目標を設定していました。

2023年の改定後の指標は「生涯学習」をテーマにしており、変化する社会やニーズに合わせて、看護職が継続的な学習を主体的に取り組み、その能力の開発・維持・向上を図り続けるための羅針盤として公開されました。看護職一人ひとりが看護職として活躍し続けるためには、各自のライフイベントや価値観に応じて、仕事と生活の調和を図りながら自律的に学ぶことが求められています。キャリア視点が加わったというイメージです。

■看護師のラダーについて

2012年: 日本看護協会「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)」を公表
2016年: 日本看護協会「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」を公表
2019年: 日本看護協会「病院看護管理者のマネジメントラダー(日本看護協会版)」を公表
2023年: 日本看護協会「看護師のまなびサポートブック」(看護師に求められる「看護実践能力」と、それに基づく学習項目、看護実践能力習熟段階も掲載)を公表
※「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」に代わる指標
参考:日本看護協会出版会「50年のあゆみ」
https://www.jnapc.co.jp/50th/chronology.html

訪問看護において、ラダーはどの程度導入されているのでしょうか。

篠田: 訪問看護のラダー導入率は全国的に見ても低く、協会は看護師間・施設間・地域間の切れ目のないケア提供を目指すためも、JNAラダーの浸透を推進していました。全国展開を目指す弊社においても、業界全体の流れと同じくラダーの定着が急務となったんです。

弊社がまずベースとしたのは、JNAラダーと滋賀県看護協会で出している訪問看護師向けのステップアップシートです。そこにソフィアメディの方針に基づいた調整・更新を随時行いながら、運用してきました。

そして、今回の日本看護協会の『看護師に求められる「看護実践能力」と、それに基づく学習項目、看護実践能力習熟段階』の公表に合わせて、我々も社内の評価システムをアップデートしているところです。

ありがとうございます。皆さんは評価制度の検討を担当されていると伺っていますが、もう少し担当されている業務の内容について教えてください。

福島: 私たちはQM推進グループに所属しており、そのグループが受け持つ業務のうちのひとつが、従来のラダーを含む評価制度についての検討・改善です。

振り返り面談の時だけに確認するような表面的な評価制度ではなく、日々の仕事に実際に活用できるか、といった点にも配慮しながら検討しています。現在は、研修をはじめとしたOff-JTだけでなく、どのようにして実践(OJT)にラダーや新人教育プログラムを組み込んでいくか、より実践的なものに仕上げられるか、ということを重点的に議論しています。周知内容・研修内容・コミュニケーションの方法など、施策の進行度合いやスタッフの反応も確認しながら進めています。

グループ内では進める施策ごとにチーム分けを行っているのですが、週1回のミーティングで全体進捗・部分進捗も確認しています。チーム内ではミーティング以外に1on1も行っており、体調管理や日々の小さな疑問点などを解決していく時間としています。

オンラインミーティング
グループ内のオンラインミーティングの様子

新人をフォローする役割も持つ評価制度

価システムの内容について、具体的に教えてください。

田中: これまで弊社では、クリニカルラダーにキャリアパス的要素を加えてアレンジし、「4つの力」ごとに採点が行われるような運用を行ってきました。カテゴリごとの到達度をパーセンテージで算出し、レーダーチャートで実践能力が可視化されるようなしくみを導入していました。現在は、もっと日々の実践の中でラダーを活用できるように、このようなしくみ自体を見直ししている最中です。

今回は、新たに導入した新人教育プログラムの一部である「クリニカルラダーレベル1」についてお話しできればと思います。こちらが実際のラダーの一部です。

クリニカルラダー

日々の実践を反映させ、ラダー評価ができるように工夫しています。例えば、この表においては、4つの力にそれぞれ①から④の番号を振り、「①-1」「①-2」…と細分化して、各項目の実践内容を具体的に書いています。ここに実践した日付を記載していくことで、日々の実践の中でラダーの項目を振り返りながら進めていくということができるんです。

篠田: それぞれの力に必要なOJTの内容が表示されており、それを実践したことを「振り返りシート」に記入するという、ラダーと実践が紐づけられたしくみも採用しています。これまではこの結びつきが非常に弱く、ラダーにおいて自分が目標達成に向け日々の実践で何をすべきかがわかりにくいものでした。また、評価が人事考課で行われ、半年に一度という頻度だったため、やはり日々の実践との結びつきという意味では非常に弱かったため、そういった点を改善しました。

初期は毎日、3ヵ月を過ぎたら1週間ごとなど、入社歴が浅いほど評価の頻度は高くなっています。「安全でかつ安心な訪問看護を提供する」というフェーズにいち早く届くよう、より細かく、より丁寧に評価するようにしているんです。「スモール・サクセス」とでも言いますか、細かく達成感を得られるようにしているんです。

─「レベル1」は、いわゆる「新人さん」のプログラムとのことですが、なぜレベル1の教育プログラム整備を優先されたのでしょうか。

訪問看護の1年以内の離職率は15~18%と、病院の離職率の11%前後と比べても高めです。病院とは違い、一人で目の前のお客様に対応する力が求められる訪問看護では、総合的な技術を持ち、調整を完結できるレベルだと思える「自己効力感」がなければ継続できる領域ではありません。新人さんがより早く裏付けのある自己効力感を持つためにも、やはり共通の物差しとして、評価制度を整備する必要があると考えました。JNAラダーはすべての看護師に必要な実践能力です。地域で求められる訪問看護の役割をキャッチアップしつつ、体系的な教育システムとして質の高いケア提供の実践に繋げていく事が重要だと考えています。

なお、弊社は教育体制として「チーム支援型」を採用しており、そのチームの中で指導に立つメンバーに対しての研修も当然重要視しています。指導者を通してチームメンバーの評価や状況把握を行うなど、直接評価を伝えていたときとは異なる体制を整えつつあります。また、現状は「経験を通しての教育」を行っている状況ですが、順次整備していく予定です。

―試行錯誤しながらの整備・運用だと思いますが、どのような部分に課題を感じていますか?

評価の段階は現在のところ3段階ですが、なにをもって「1」とするか「3」とするかの評価基準はあっても、評価者の経験や尺度によって変わってしまうことが課題ととらえています。病院では目の前で実践の評価がしやすい環境ですが、訪問看護は同行しないと実践の状況が確認できない環境です。評価者間での評価のバラツキが生じやすいことが課題と捉えており、整備していきたいと考えています。

ただ、考え方として押さえておきたいのは、ラダーはいわゆる「ラベル付け」のための評価ではないということです。評価すること自体が目的ではなく、あくまでも自身の成長のため、実践能力の評価・自己研鑽のツールであり、共通の物差しとして活用していくものです。厳しすぎる評価は成長を止めてしまう危険性もある。そうではなく、キャリア学習の支援、成長を促進につながるような評価制度にしたいというのが我々の願いです。

やはり病院よりも訪問看護は個別性が強くなりますので、「なにをもって」というのはお客様視点だと思います。病院であればキュアの視点で判断しやすいのですが、訪問看護は「生活」の視点をふまえた幅広いケアの視点が必要です。その人らしさを総合的に看るヘルスアセスメントが重要となり、すべての看護師に高い能力が求められます。訪問看護の特性を踏まえた上で、目の前のお客様のためにできることは何かを、さらに追い求めていく必要がありますね。

実績や頑張りが「見える化」されたという声

看護に直接携わるスタッフは、こういった評価制度をどのように捉えているでしょうか?

田中: 見えなかった部分が「見える化」されたというのは、スタッフにとって非常に大きいようです。訪問看護は病院と異なり、非常に主観的な評価に頼らざるを得ない側面がありましたが、ラダーを元に指導者とスタッフが面談を行うことで、「どう伝えたらいいのかわからない」「共通の物差しがなかった」という悩みがある程度解決できたという意味に受け止めています。それまで「報われなかった部分」ともいえる頑張りや努力が、評価に繋がっているということではないかと。現在、管理者に対するマネジメントラダーの作成も開始されていますし、さらに改善していけるといいなと考えています。

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後編では、マネジメント層の評価制度についてお伺いします。

>>後編はこちら
訪問看護のラダー&評価制度 マネジメント層に残る課題への取り組み

執筆: 倉持 鎮子
取材・編集: NsPace編集部

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