インタビュー

医療的ケア児にまつわる課題&あるべき支援-医療的ケア児と訪問看護

これからの医療的ケア児と訪問看護

厚生労働省によると、医療的ケア児(NICU等に長期入院した後、人工呼吸器・胃ろう等を使用して、医療的ケアをしながら日常を送る児童)の数は約2万人に上り、2008年ごろと比べると2倍になっています。2021年には、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行され、医療的ケア児への支援は「努力義務」ではなく「責務」となりました。そうした時代の流れの中で、医療的ケア児にまつわる課題やあるべき支援、訪問看護師できることは何でしょうか。清泉女学院大学 北村千章教授にお話を聞きました。

清泉女学院大学 小児期看護学
北村 千章(きたむら ちあき)教授
看護師・助産師。新潟県立看護大学大学院看護学研究科修士課程修了。「全国心臓病の子どもを守る会」にボランティアとして参加したのをきっかけに、先天性心疾患および22q11.2欠失症候群の子どもたち、医療的ケアが必要な子どもたちを、地域ボランティアチームをつくってサポート。2019年、清泉女学院大学看護学部に小児期看護学准教授として着任。慢性疾患のある子どもたちが大人になったときに居場所を持ち、ひとり立ちできるための必要な支援や体制つくりについて研究している。同年、NPO法人「親子の未来を支える会」の協力を得て、医療的ケア児の就学サポートを開始。医療的ケアが必要な子どもが、教育を受ける機会が奪われないしくみづくりを目指す。2023年4月より、清泉女学院大学看護学部 小児期看護学 教授に就任。

目標は、子どもたちの未来を広げること

―先生が理事をされているNPO法人「親子の未来を支える会」では、「赤い羽根福祉基金」による活動として、医療的ケア児の就学支援体制の構築や、「学校における高度な医療的ケアを担う看護師」(以下、「学校看護師」)の派遣、各種施設の視察、学校看護師を集めるための研修会等を実施されています。どのような想いで活動されているのでしょうか。

「親子の未来を支える会」の活動資料

学ぶ意欲があり、学べる能力があっても、生活する中で医療的なケアを必要とする子どもの学び先は、特別支援学校に限られてしまうことが大半でした。「親子の未来を支える会」では、そうした子どもの就学先の選択肢が狭まってしまう現状を課題に掲げ、彼らが学校で学べるように「学校看護師の配置」の実現を最低限の目標にして活動を続けてきたのです。

以前は、人工呼吸器をつけている医療的ケア児は長生きができないという現実がありましたが、今は決してそんなことはありません。むしろ人工呼吸器をつけている状態のほうが安全であるという時代となり、医療的ケア児は成長して大人になります。そんな彼らの未来を想像すると、日常生活において自分でできることを増やしたり、彼らの持っている能力を引き出したりといった教育を、子どものころから施すことが本当に大切だと思うのです。子どもの成長を最大限に促すためにも、医療的ケアの専門知識を生かして学校職員や保護者と連携・協働ができる「学校看護師」の存在が欠かせません。

実際に支援活動を続けていると、学校で教育を受けた医療的ケア児は驚くほど自身でできることが増えていくことを実感しています。もちろん、病気や疾患を抱えているので無理はできません。主治医とも連携しながら子どもが持っている力を引き出し、これから先も続く彼らの未来が少しでも明るくなるようなサポート体制を整えていければと考えています。

教育機関に医療関係者が入るハードルの高さ

―活動されるなかで、苦労されることもあったのではないでしょうか。

北村 千章さん

そうですね。試行錯誤の連続でした。「親子の未来を支える会」で最初に支援させていただいたのは、新潟県のAさんという医療的ケア児。Aさんは小学校の途中から病気が進行して人工呼吸器をつけることになり、特別支援学校に移りました。

Aさんは知的レベルが高く、理解力もあり、何よりも本人が学校で学びたいと思っていました。でも、安全面を第一に考える学校側としては、「人工呼吸器をつけるほど重症な子どもを学校で受け入れることは難しい」という発想になってしまいます。学校側はサポートできないし、だからといって保護者がずっとAさんに付き添うという選択は、ご家族が仕事を辞めることになったり、心身ともに疲弊してしまったりする恐れもあり、現実的ではありません。教育現場に医療従事者が入ることについても高いハードルがあり、特別支援学校に移る選択肢しかなかったのです。

でも私は、Aさんの未来を考えるとやはり学校に通えたほうがいいと思い、校長先生のもとに何度も通ってAさんが学校で教育を受ける必要性や、学校に看護師を配置することの重要性を訴え続けました。先生から、「(当時の)県のガイドラインでは、医療的ケア児を学校に通わせることはNGとされているのに、北村先生はどうしてそんなに頑張るのですか?」と言われたこともあります。

―交渉が難航する中で、どのようにして学校看護師の配置が実現したのでしょうか。

ディスカッションを重ねていくうちに、私たち以上に学校の先生たちのほうが、心情的にはAさんにそのまま学校で学んでほしいという思いが強いことに気づきました。先生は、「県のガイドラインに逆らうことは難しい」と言っていただけで、Aさんを「通わせたくない」「受け入れたくない」とは言っていなかったんです。「どうして理解してくれないのか」と訴えていた、我々の最初のアプローチのしかたが間違っていたのだと思いました。そこで一歩引いて、「どうすれば『学校看護師』の配置が実現できるか、一緒に考えていただけませんか」と相談するような姿勢に変え、先生方が主体となって考えていくと、物事が動き始めたんです。

現在は新潟県のガイドラインも変更されているので、医療的ケア児が学校に通うのはOKになりました。でも、Aさんが通い始めたときはまだガイドラインが変更される前だったので、校長先生が「人工呼吸器」を「生活補助具」として扱ってはどうかと県に提案してくださいました。そこから流れが変わり、我々のチームから学校看護師を配置できるようになり、Aさんは再び学校に通うことができたんです。

あくまでも我々は医療的ケアをする役割なので、教育について一方的に口出しするのではなく、まず先生方の考えをヒアリングすることが大切。その上で学校看護師が介入するとしたらどのような形で入ることができるのかを相談しながら、学校側を主体に話を進めていくことの重要性を学びました。このときの経験は、他の自治体で調整するときにも役立っています。

―現在は、学校に看護師が介入するハードルは下がっているのでしょうか。

学校看護師の設置はかなり進んできましたが、全国的に見るとまだ、学校側は「どんな人が来るのかな」「あまり余計なこと言わないでほしいな」などと思いながら、恐る恐る受け入れている現状があると思います。それでは介入のハードルは下がりませんし、いいサポート連携にもつながりません。だからこそ、私たちは「学校看護師の役割」を明確にし、定義していかなければいけないと考えています。

地域で医療的ケア児を支える世の中へ

―地域連携に関しても伺っていきたいと思います。北村先生は「減災ナースながの」という活動もされています。地域の災害対応の取り組みについて教えてください。

「減災ナースながの」
「減災ナースながの」(https://gensainurse-nagano.org/)Webサイトより

2019年、長野県・千曲川の洪水で長沼地区のほぼ全域が浸水したという水害があった際、医療的ケア児は避難できなかったんです。幸いみんな命に別状はなかったものの、災害対応について大きな危機感を抱くようになりました。個別の支援計画はありましたが実際には何もできず、地域連携型支援も機能していませんでした。

避難所に移動するにも人の手が必要ですから、まずは医療的ケア児の存在を周囲に知ってもらえるネットワークづくりが大事だと思っています。

また、医療的ケアを必要とする人にとって電力は24時間欠かせないものであり、災害時の電力確保は喫緊の課題になります。そこで自動車メーカーの協力を仰いで、電気自動車を使用して電力を確保し、実際に人工呼吸器や加湿器の作動を試行しました。人工呼吸器は問題なく作動し、加湿器の温度上昇も確認できました。

さらに、「一緒に災害時のシミュレーションをしませんか」と県に提案し、「減災ナースながの」のホームページを立ち上げて医療的ケア児の存在を発信したり、イベントを開催して助成金を集めたりもしています。

電力確保のために動くことも大切ですが、いざというときに1日や2日でもいいので、吸引をはじめとした医療的ケアができる看護師の存在も大切になりますね。そうした連携が取れるしくみ作りを目指して、今後も活動を続けていきます。

―医療的ケア児のケアプランを考える際、医療従事者が入っていないことにも課題があると伺っています。

高齢者の介護でケアマネジャーが介護計画を立てるように、医療的ケア児のサポート計画を考えるケアプランナーがいます。でもその役を担うのは発達支援センターに所属する相談支援専門員で、医療ではなく「福祉」の人。人工呼吸器をつけて病院から自宅に戻ってきた子どもをケアプランナーと保健師が連携して支えていますが、医療的サポートが必要だからこそ、訪問看護師が介入できる体制になったほうがいいように思います。

また、普通学級がいいのか、特別支援学級のほうがいいのかといった、子どもの就学先に関して地域の関係者が集まって話し合う「支援会議」があります。私も参加していますが、そこには保健師や訪問看護師の姿はありません。

かつて医療的ケア児は短命で、自宅に戻って来られるのは「医療的ケアの必要がない子ども」が主だったので、医療従事者が介入する必要性はないと考えられていたのかもしれません。しかし、医療技術の発達とともに医療的ケア児が増えることで、ケアの形も変化する必要があります。例えば、医療的ケア児を幼いころからサポートしてきた訪問看護師にも「支援会議」に参加してもらい、「この子はここまで自分でできます」「このサポートは続けたほうがいい」といった情報をシェアして提案してもらえるだけでも、より充実したサポートにつながるはずです。そう考えると、医療的ケア児をサポートする側と、訪問看護ステーションとの連携が大切になるとも思います。

―訪問看護師は、医療的ケア児のケアにどのように関わっていくとよいと思いますか?

「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」では、学校における医療的ケアも責務だとされており、「学校看護師」を設置することで保護者も働けるとうたっています。しかし、実際にはそう簡単なことではありません。夜間や土日は保護者が面倒を見なければいけませんし、学校看護師の数も足りず、制度も十分に整っていません。そこで、地域の訪問看護師がさっと学校に入り、30分でもいいので子どものケアができるようになれば、本当はすごくいいなと思っています。

医療的ケア児が退院して自宅に戻ってきたときから訪問看護師に支えてもらえれば、子どもたちも保護者も安心で助かるはずです。子どもが学校に行くようになれば、その子のことも学校のこともよく知る地域の訪問看護師がサポートしていく。さらに理想を言えば、小学校から中学校に上がっても、同じ訪問看護師が継続的にサポートしていくのがベストだと思います。

訪問看護師の皆さんは、「利用者が地域で生活していくためにどうすればいいか」について普段から考えていると思います。割合としては高齢者の方へのサポートが大半だと思いますが、その中で医療的ケア児のサポートがもっと広がっていくといいなと思います。

―ありがとうございました。次回は、医療的ケア児の保護者との関わり方について伺っていきます。

>>次回の記事はこちら
見落としがちな親視点 保護者に聞く&寄り添う看護-医療的ケア児と訪問看護

※本記事は2022年12月の取材内容をもとに構成しています。

執筆:高島三幸
取材・編集:NsPace 編集部

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