訪問看護ステーションのオンライン施策 ~全国展開やコロナ禍での情報共有~
全国に多数の訪問看護事業所を持つソフィアメディ株式会社では、どのように情報共有を行っているのでしょうか。今回は、広報グループ・グループマネジャーの宇佐見 紘子さんに、コロナ禍で新たに行ったオンライン施策やコミュニケーションについての考え方などを伺いました。
ソフィアメディ株式会社 「英知を尽くして『生きる』を看る。」を使命として、首都圏を中心に全国約90ヵ所で訪問看護ステーションを運営。訪問看護やデイサービス、居宅介護支援など、在宅医療に特化したサービスを提供している。 宇佐見 紘子さん/広報グループ・グループマネジャー 新卒でテレビ広告代理店に営業職として入社。その後、総務や経理などバックオフィス部門の経験を経て、ソフィアメディの親会社である株式会社シーユーシーに転職。採用アシスタント、採用担当、システム企画部署などを経て2021年にソフィアメディに転籍し、教育研修グループに所属。2022年4月より広報グループ・グループマネジャーとなる。 |
双方向のコミュニケーションを重視
─広報グループで担当されている業務について教えてください。
はい。まず、社外に向けてはコーポレートサイトを通じて弊社の運営・経営情報、採用に関する情報などをお伝えしています。社内に対しては、VMS(ビジョン・ミッション・スピリッツ)を浸透させていくためのコミュニケーション施策や、経営方針の共有などに関する企画、運営を行っています。
社内広報として行っていることは大きくわけて以下の4つです。
(1)経営方針共有会 年に1回の経営方針共有会の企画・運営。コロナ禍でオンラインに移行。オンラインであっても双方向のコミュニケーションとなるようさまざまな施策を行う (2)社内報 理念浸透を目的とし、社内のできごとや「人」について発信。紙にて掲示 (外部で行われた研修や、各事業所における人事関連の告知も含む) (3)ソフィアメディチャンネルの配信 月に1回のソフィアメディチャンネルでは、経営実績や課題の共有を行うほか、事業所独自の取り組みや、そこで働く人々の様子、生の声などをオンラインで発信 (4)バックオフィスからの連絡メールとクリッピング配信 週1回のメール配信(本社のある田町の地名を取り「田町通信」)では、バックオフィスからの業務連絡、研修や勉強会の告知を行う。また、同じく週1回、業界や世の中のトレンドニュースの共有を行っている |
オンライン施策が事業所同士の橋渡しに
─オンラインでの経営方針共有会はコロナ禍から開始されたそうですが、その経緯を教えてください。
従来の経営方針共有会は、会場を借り、土曜日に全社員が一堂に会して開催していました。しかし、重症度の高い方に対応できるよう24時間365日の運営体制への切り替えを行うとともに、展開地域も広がり、同じ日に全員が集まることが難しくなったため、各事業所がオンラインで参加する方法に。できる限り全スタッフが集まる方法を模索しました。「集まれないから」という理由で始まったオンライン化でしたが、リアル開催に比べて日程調整が少なく済み、スタッフが状況に応じて自宅から参加することも可能になりました。録画配信も簡単にできるようになったので、仕事やご家庭の都合で参加できなかった人は、後日録画視聴しています。
―オンライン開催をするために、どのような準備をされましたか?
弊社の場合は大人数向けの配信となるため、事前に専門のパートナー企業を入れて配信環境を整え、ハウリングなどを防止するため全スタッフにイヤホンを配布。誰もが参加できる環境を整えました。「オンラインだから盛り上がりに欠けてしまう」といったことがないよう、双方向でコミュニケーションを取るための検討もしましたね。ズームのチャット機能、スタンプ機能などを活用し、外部パートナーの協力を得つつ、画面上で盛り上がる演出ができるようにも工夫しました。
なお、この「チャット」も、新たに定着したといえることではないかと。社内のコミュニケーションツールであるGoogleChatを利用してテキストでのやりとりも頻繁に行うようになり、連絡手段として欠かせないものとなりました。
―事業所がエリアごとに分類されているそうですが、エリア内でもオンライン交流会が実施されているそうですね。そのほかに、どんなシーンでオンラインツールを活用していますか?
はい、エリアごとの交流会で親睦を深めているほか、例えばリファラル採用(社員からの紹介採用)についてもオンラインの打ち合わせを活用しました。バックオフィスの採用担当に加えて、訪問看護ステーションの有志スタッフも一緒になって採用を考える「リファラルメイト」を立ち上げました。どうすれば友人に紹介したくなるような会社にできるかを、オンラインミーティングやオンライン座談会などでディスカッションし、採用活動に活かしました。
遠方のスタッフとのやりとりや、拠点を越えたやりとりというのは、どうしてもハードルが高くなりますよね。でも、ほかの拠点で働く人々の顔が見える関係づくりというのはとても重要です。オンラインであればそのハードルはぐっと低くなるのではないでしょうか。
とはいえ、私たち広報グループが強いるという方法ではなかなか浸透しません。ソフィアメディにはやりたいと思ったスタッフが率先して始める空気感があるのですが、オンライン化に関しても自発的な取り組みが多く見られました。コロナ禍という危機的な状況を機に、働き方や社内コミュニケーションの幅は広がったとも捉えられますね。
─経営方針共有会やソフィアメディチャンネルなどをオンライン開催したあとは、毎回事後アンケートも行っていると伺いました。アンケートではどのような意見が来ていますか?
最も多いのは、新たな取り組みに関する意見ですね。「もっと背景を知りたい・詳細まで丁寧に説明してほしい」といった内容です。また、ソフィアメディチャンネルについても、構成に対する希望などがありますね。感謝の言葉や理解が深まったなどの声も毎月いただいています。
ちょっと変わったところでは、今年度は「軽食を摂りながらオンライン経営方針共有会を行う」といった試みを行ったのですが、これもアンケートの意見から生まれたアイデアです。夜の時間帯に実施されるので、お腹が空いてしまうということで、各事業所に軽食を届けました。リラックス効果を狙ってのものでもありましたが、とても喜んでもらえました。こういったユニークな施策も含め、できることはどんどんやっていきたいです。
広報から全スタッフに向けて、常々「どんどん意見を言ってほしい」と伝えており、毎月200名前後の方からアンケートの回答が送られてきます。社内報やメール、動画についてもさまざまなフィードバックがありますが、このように多くのスタッフから意見してもらえば、さまざまな角度から検証が可能です。広報グループ内部だけでは到底思いつかないアイデアが集まります。
「選択肢のひとつ」としてオンラインを選ぶ
─今後も、オンラインのコミュニケーションが主になるのでしょうか。
さきほどの経営方針共有会のお話のように、オンラインでは移動時間のロスがなく、限られた時間を有効に使えるようになったという意味で、非常に大きなメリットがありました。会議やちょっとした相談、さらに発展してブレイクアウトセッションやグループワークなどの予定が気軽に組めるようになったんです。リアルで「何度も顔を合わせる」というのはとても難しいことなので、オンラインならではのことですよね。
ただし、リアルにはリアルのメリットがあります。訪問看護ステーションの管理者による月2回の管理者会議もオンラインで行っていましたが、「ぜひリアルで」という声が上がり、先の4月に行われた管理者会議は、実際に全事業所から集まって行われました。オンラインに比べると調整は大変で難易度は高かったのですが、リアルで実施した意味は十分にあったと思います。同じ場所にいることでのやりとりのスムーズさや、ニュアンスの通じやすさなどはやはりリアルが強いので。オンラインでのやりとりを通じ、リアルとの比較ができたことで、それぞれの位置付けが再確認できました。
最初は「リアルができなくなったからオンライン」という補助的な役割だったのかもしれませんが、今後は選択肢のひとつとして考えていきたいです。頻繁に行うものはオンライン、年に1度程度の頻度であればリアル、などと頻度で考えるという手もありますし、状況や伝える内容に合わせて適切な方法を選択していきたいと思います。
手段より考えるべきは「なにを伝えるか」
─大規模事業所だからこそできた施策もあるかと思うのですが、小規模な事業所がオンライン施策を行う際の注意点やポイントはあるでしょうか。
オンライン施策自体に、事業所の規模はあまり関係ないかと思います。スマホやタブレットなどのデバイスと、インターネット環境があれば問題ありません。重要なのは「なにを伝えるか」ということかな、と。基本的なことですが、「事実を連絡する」だけがオンライン施策ではありません。
私たちのコミュニケーション活動は、ソフィアメディの「ぐるぐるモデル」の推進を目的としています。このモデルは2018年にVMS(ビジョン・ミッション・スピリッツ)を絵に描いた餅にせず、しっかりと実現させるために社内のしくみや制度を一気通貫させたものです。
【ぐるぐるモデル】
「ぐるぐるモデル」には、ビジョン実現のために必要と思われる道筋と、それぞれのステップを支え、成果を最大化するための施策が設定されています。育成、両立支援、評価、表彰、お客様満足、従業員満足、そして社外コミュニケーションと繋がるわけですが、社会にソフィアメディが知られると、そこから入社希望者が誕生するという大きな循環が描かれています。私たちは常に、「この取り組みはモデルにおいてどう機能するのか」というように照らし合わせを行い、ぐるぐるモデルのストーリーに基づいて伝えるようにしています。
どんな規模の事業所においても、経営理念に基づき、「なにを(なんのために)伝えるか」をはっきりさせてからコミュニケーションを取っていくことが重要なのではないかと思います。リアルで伝えるか、オンラインで伝えるかは、そのためにどちらが適しているかという手段でしかありません。
─情報共有施策について、今後の展望を教えてください。
私自身はすでに「ソフィアメディで働けてよかった」と思っていて、スタッフの皆さんにも同じように感じてほしいと心から願っています。生活のため、経験のため…働く目的はさまざまなものがあるとしても、この会社を選んだことを後悔させないようなコミュニケーションを重ねたい。そこに「オンライン」という方法があったというだけで、今後も新たな手段があれば、どんどん組み込んでいこうと思います。
─ありがとうございました!
※本記事は、2023年5月の取材時点の情報をもとに制作しています。
取材・執筆: 倉持 鎮子
編集: NsPace編集部