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つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表
つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表
特集
2024年3月12日
2024年3月12日

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。厳正な審査を経て、受賞作品が決定しました。本記事では、大賞1件、審査員特別賞3件、ホープ賞1件、協賛企業賞5件のエピソードをご紹介します! 「役割を求めて」 投稿者: 岡川 修士(おかがわ しゅうじ) さん 訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府) パーキンソン病に罹患して私達の訪問看護を利用することになった加東さん。彼女は元看護師で、まだまだ働く予定だったが、病気の影響で外出困難となり、退職を余儀なくされた。ある日、私が訪問すると「今は誰の役にも立ってない。まだ働きたい。欲しいのはお金じゃなく、役割なの」と話された。その表情は寂しそうだったが、働くことを諦めていない強い意志も感じた。聞くと、今もパソコンは使えるし看護師時代はサマリー等の事務作業も得意だったという。そこに可能性を感じた私は事務所に帰って社長に加東さんとのやり取りを説明した。すると社長は、「うちには事務員いないし、在宅で事務作業をしてもらおう!」と、雇用することを決めた。それを聞いて加東さんは大喜び。その後、初給料でお孫さんにクリスマスプレゼントを買ってあげた。加東さんは事務員という私達の事務所に欠かせない役割だけでなく、祖母としての役割も取り戻すことができた。 2024年1月投稿 「100年ぶりに入浴したU子さん」 投稿者: 新田 光里(にった あかり) さん @(あっと)訪問看護ステーション(東京都) U子さんは92歳。認知症があり内服管理と入浴目的で訪問が開始になった。人嫌いな一面があり、入室を拒む事もしばしば。入浴は数年間していないと思われた。皮膚トラブルを心配した私は入浴させる事に必死になり受け入れてくれないU子さんに憤りを感じ始めていた。所長に相談すると「まず、あなたがU子さんを好きにならなくちゃ」と助言をいただき、訪問の度にU子さんの素敵な所を見つけるようにした。ケアにこだわらず仲良くなることを最優先として一緒に塗り絵をしたり、りんごの唄を熱唱したり、戦争体験談を聞いては労いの言葉をかけ続けた。担当になって1年が経過したある日「汗かいちゃったから一緒にシャワーどうですか?」と声をかけると「シャワーはダメ。お風呂にしなさい」と言われた。嫌々ながらも脱衣していたが浴槽に溜まった湯が自分好みの湯加減だと分かると自ら浴槽に入り「う~ん!気持ちいい!100年ぶり~!」と満面の笑みがこぼれ、タオルで腕を擦っていた。100年ぶりの入浴後の湯は白濁していた。以後、毎週入浴介助することができた。U子さんの笑顔と甘酒のようなお湯の思い出は一生忘れられないだろう。 2024年1月投稿 「遠く離れていても」 投稿者: 鳥居 香織(とりい かおる) さん 医療法人社団亮仁会 さくら訪問看護ステーション(栃木県) 「肺気腫で在宅酸素をしている独居のAさん。奥様を亡くしてから、人との関わりを避け、いつ死んでも良いと言うの。トイレに行くだけで、肩呼吸をする程で、ヘルパーさんからは『介入するのが怖い』と言われて困って。会うだけ会ってくれないかしら」とケアマネさんからの電話。訪問するとAさんはベッドに座り、横を向いたまま私と目を合わせようとしません。ですが、テーブルにはカルピスが入ったコップが2つ並んでいました。(これがAさんの答えなのかな?)と思い、ゆっくり声をかけながら、背中のマッサージを始めると「気持ちが良いなあ。温かいなぁ。」とAさん。それから面白いように言葉が溢れ、若いころの話、奥様との馴れ初めの話、生前葬を決意した話などを語りました。人との関わりを避けていたAさんが訪問の度に笑顔になり、変化されていく様子はとても不思議な感じがしました。しかし、転倒を機に引っ越され、突然の訪問終了。どうされているか心配していたある日、葉書が届きました。「カーテンを閉めようと思って窓の外を見たら、お月様と目が合った。いつの間にか鳥居さんの顔に変わっていたよ。」と震える字で書かれていました。離れていても支えることが出来る事を学んだのです。 2024年1月投稿 「幸せとは」 投稿者: 川上 加奈子(かわかみ かなこ) さん よつば訪問看護リハビリステーション(神奈川県) 「『幸せとは、体験するものではなく、あとから思い出して気づくものだ』ですって!深いですねー」87歳になられるTさんの訪問時には、毎回その日の名言カレンダーを読み上げ、暗唱し、それについて話し合う、ということを看護ケアの脳トレとして行なっていました。「Tさんの今まで生きてきた中で1番幸せだと思ったことは何ですか?」と私。すると少しの沈黙の後に「何もない」とTさん。「えーそんな寂しいこと言わないでくださいよ。一つ位ありませんか?」と私。するとまた「…何もない」とTさん。側にいて会話を聞かれていた息子さんにも何だか申し訳ない様な気持ちになっていたその時でした。「だって、ずっと幸せだから」とぽそりとTさんが言われたのです。一瞬、時が止まったような衝撃を受け、何故だか泣きそうになっている自分がいました。寝たきりになってもなお、愛する息子さん2人がいつも側にいて、大好きな餡子を食べさせてくれたり、たまに喧嘩をしながらもリハビリをしてくれていること。それこそがTさんにとって、過去ではなく現在進行形の幸せなのだと気付かされたのでした。『幸せとは…』私もいつか自分の人生を振り返った時には、Tさんの様に思えたらいいなと感じています。 2023年12月投稿 ※訪問看護師歴3年未満の方対象 「最期のキッス」 投稿者: 大矢根 尚子(おおやね なおこ) さん 社会医療法人 三宝会 南港病院訪問看護ステーション(大阪府) O様 70歳女性 肺がん 脳転移にて終末期の方で心に残る経験をさせていただきました。口数の少ないご主人が1人で介護をされており訪問中も不安の表出や困りごとを口にされることなどがない方でした。ユマニチュードも取り入れながら、O様が大好きだった竹内まりやの「人生の扉」を流しながらケアを終えた時、ご主人が不意にO様の額にチュッとキッスをされたのです。意識も混濁していたO様ですが、嬉しそうに顔をくしゃくしゃにしながらニッコリと微笑まれました。照れくさそうに笑うご主人とO様を見ていると死が差し迫っているから特別にキッスをしたわけではなく、この夫婦の日常なんだと心が温まりました。歌詞も重なり素敵な年輪を重ねて生きてこられたご夫婦の愛を感じ涙涙でした。ユマニチュードも実践することでご主人の緊張がとけ、一緒にO様を支えることができ生活史に寄り添うことができたと感じました。また、自分の人生と重ね、今まで以上に時間を大切にしようと思いました。 2024年1月投稿 「無人島に街を!」メディヴァ賞 協賛企業:株式会社メディヴァヘルスケア系コンサルティング&イノベーション・カンパニー。「無人島に街をつくる」開拓者のように、医療・介護界の発展を実現していきます。 「秋ひまわりプロジェクト:外出のきっかけづくり」 投稿者: 白﨑 翔平(しらさき しょうへい) さん いま訪問看護リハビリステーション(大阪府) ご利用者さんの多くは、通院以外では家からほとんど出られません。そこで、秋ひまわりプロジェクトとして、事業所の駐車場裏の小さな雑木林を8ヶ月かけて丁寧にひまわり畑に変えました。その過程の写真を訪問の度にご利用者様と共に確認し、行ってみたい場所になることを目指しました。そして、ひまわり畑が形を成す頃、ご利用者様が担当の療法士や看護師と会話を楽しむ外出の機会を作り出したいと考えていました。しかし、残暑の影響で早すぎる開花があり、イベント当日には花が枯れてしまうと予測されました。そこで、企画を「ヒマワリ喫茶」から「ヒマワリの花束のプレゼント」に変更しました。刈り取る前にヒマワリ畑を訪れてくれたご利用者さんもおられました。収穫したひまわりを美しくアレンジし、お届けした瞬間の笑顔は忘れられない思い出となりました。多くの方がその花束をお仏壇に飾り、感謝の言葉を伝えてくださいました。 2024年1月投稿 ぽけにゅー賞 協賛企業:株式会社大塚製薬工場臨床栄養関連の医薬品・OS-1などに加え、在宅療養者の食・栄養課題の抽出・解決を支援するWEBサービス「ぽけにゅー」を提供しています。 「1週間は母より長生きしたい」 投稿者: 井出 咲子(いで さきこ) さん 訪問看護ステーションほのか(長野県) 進行性の胃がんを患い、医師から告げられた余命よりもう3ヶ月頑張って生きていらっしゃる76歳男性Fさん。Fさんは自宅での生活が困難で有料老人ホームで生活しています。私達はそこへ訪問看護としてお伺いしています。Fさんには97歳のお母様がいらっしゃり、お母様は別の老人ホームで生活していました。Fさんがホームで暮らすようになって、お母様と一緒に過ごしたいと希望され、お母様も同じホームに入所されました。Fさんの願いはただ一つ『母より1週間は長く生きたい』その気持ちで治療を受け、倦怠感が強くても、食欲がない時も頑張って食べ物を口に運び、精一杯生きていらっしゃいます。Fさんとお母様は仲が良く、可能な限り一緒の時間を過ごされています。Fさんのお布団にお母様は足を入れて温まっていてその姿がとても微笑ましいです。ある日、ホームの管理者からFさん親子をお寿司屋さんに連れて行きたいと相談がありました。私達訪問看護も同行しお寿司屋さんへ行きました。Fさんは6皿召し上がり大変喜ばれました。これからも『母より1週間は長く生きたい』というFさんの気持ちに寄り添い続け看護をしていきたいです。 2024年1月投稿 Tomopiia賞 協賛企業:株式会社Tomopiiaがん罹患者の方々の不安や孤独な気持ちに、SNSを使って看護師が個別対話で寄り添う、SNS看護サービス「Tomopiia」を提供しています。 「みんなに贈る体調管理表」 投稿者: 小林 奈美(こばやし なみ) さん 株式会社不二ビルサービス ケア事業部訪問看護ステーションふじ川内(広島県) Mさんは前立腺癌末期。几帳面な方で体調管理表を自ら作成されていた。妻は介護に悩み涙を見せる事もあった。ある時発熱、肺炎症状があり入院され過ごされていたが、数日経ち妻から「もう時間がない、家で過ごさせてあげたい」という電話を受けた。訪看が介入し一時外出する事になった。モルヒネ皮下注射を受けながらも笑顔のMさんに私は「おかえりなさい!」と声をかけた。そこにはいつもの日常があった。家族がいて、テレビを観たりソファーで座ったり特別な事をしているわけではなく、Mさんを包み込むように当たり前の幸せがあった。夕方病院へ帰る介護タクシーを見送った。次の日の朝である。さっき息を引き取ったよ、家に連れて帰るね、と連絡があったのは…。「見て…」と妻から見せてもらった体調管理表には「みんなのおかげで私の人生楽しかった ありがとう」と少し震えた文字。私は涙があふれた。この言葉が家族、私たちみんなを救っていた。 2024年1月投稿 看護のアイちゃん:本物の看護がしたい賞 協賛企業:セントワークス株式会社訪問看護の特性を踏まえたアセスメント・業務支援システム「看護のアイちゃん」などを提供しています。 「走る理由」 投稿者: 大日向 莉子(おおひなた りこ) さん ソフィアメディ訪問看護ステーション小山(東京都) 「息をしていないようです」と震えた声。遠くから「お父さん、お父さん、返事してよ」と叫ぶ音。連絡があったのは、年明け間もない1月のことでした。山田さん70代、前立腺癌。年越しを迎えるのは難しいと、ご家族は本人にその事実を伝えず、決死の想いで在宅療養を選択しました。家族だけが抱える「余命宣告」。それでも本人が不安でないように、眠れない日々も不安な日々も、ご家族は笑顔でいました。「山田さん、本当によく頑張りました」と話しかけると、そこにいた全員から大粒の涙が溢れました。お客様との信頼を築き、人生の最期に立ち会い、お別れに一緒に涙を流す。医療職として、一緒に涙を浮かべるのはどうなのかと言う人もいるかもしれません。だけど、ひとりの人として、その人と関わった者として、涙を流すのに正解も不正解もないと信じています。「ネクタイ結んであげませんか」「髭剃りしませんか」と家族と行うエンゼルケアも、最期に着る服が生前よく着てたスーツなのも、在宅の醍醐味だと思うのです。ケアの最後には涙でなく、そこには笑顔がありました。みんなが悔いなく、幸せであるように、今日も自転車を走らせるのです。 2024年1月投稿 NTTデバイステクノ賞 協賛企業:NTTデバイステクノ株式会社訪問看護ステーション専用に設計された電子カルテ「モバカルナース」などを提供しています。 「生涯いい男」 投稿者: 佐藤 有紗(さとう ありさ) さん 医療法人社団愛友会 訪問看護ステーションブルーべル(埼玉県) 毎週木曜日、インターホンを押すと部屋の奥から「いらっしゃい!上がって上がって」と声がする。私が訪問看護ステーションで働き始めた時から変わらない元気な声でいつも迎えてくれていました。その方は癌末期。余命は長くないと言われながらも元気に前向きに生活していました。その方はいつも野球を見ていたので、野球がわからない私は勉強がてら野球をみて、少しでも話ができるように準備してから訪問するようにしていました。担当してから3ヶ月ほど経った金曜日、かかりつけ医から「食事がしばらく取れていない、点滴加療が必要」と連絡がありました。私は驚きました。昨日もいつもと変わらない元気な利用者さんをみていたから。そこから目でわかるほど痩せて行く姿をみて、初めての終末期の対応に動揺している私を見て、利用者さんは「昨日の野球みた?」といつもの笑顔でいつも通りの会話を始めました。段々会話もできなくなって、土日まで持つかどうかと言われていたが、木曜日は訪れました。いつもの優しい笑顔で迎えてくれたその数時間後、天国へ旅立ちました。弱い所を見せず、ずっと前向きだった利用者さんはずっといい男でした。 2024年1月投稿 皆さま、おめでとうございます! 入賞作品については、こちらの記事をご覧ください。つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞 編集: NsPace編集部 [no_toc]

【トリプル改定 超速報】2024年度介護、障害福祉の報酬改定で訪問看護はどうなる?
【トリプル改定 超速報】2024年度介護、障害福祉の報酬改定で訪問看護はどうなる?
特集
2024年3月12日
2024年3月12日

【トリプル改定 超速報】2024年度介護、障害福祉の報酬改定で訪問看護はどうなる?

2024年度は診療・介護・障害福祉の報酬・基準のトリプル改定。訪問看護は3分野にまたがることが多いだけに、早期にポイントを押さえ、対処にのぞむ必要があります。本記事では、診療報酬の改定から「訪問看護師の処遇改善」にかかるポイントに触れるとともに、介護報酬や障害福祉サービスの報酬の改定についても取り上げます。 >>2024年度【診療報酬改定】超速報はこちら【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定で訪問看護はどうなる? 看護師等の賃金アップを図る新たな評価料 診療報酬改定に関する速報記事では、将来的な労働力人口の減少をにらんだ、人材確保・働き方改革についての改定項目を取り上げました。一方で、人材確保に向けては看護師および准看護師、保健師、助産師(以下、看護師等)の処遇改善も欠かせません。 もともと看護師等の処遇改善については、毎月決まって支払われる賃金の引き上げ(ベースアップ)を図ることを目的とした「看護職員処遇改善評価料」が設けられています。ただし、これはコロナ禍での看護師等の賃金引上げを目的に誕生したもので、訪問看護ステーションを含め、対象とならない医療機関もあります。 そこで、より多くの医療機関で働く看護師等のベースアップを実現するため、新たな報酬上の評価が設けられました。それが、「ベースアップ評価料」です。訪問看護も含まれます。 「24時間対応」の新評価が介護報酬でも 次に、介護報酬での訪問看護にかかる改定項目で目立つのは、今改定を含め、診療報酬側との整合性を図ったことです。 例えば、診療報酬改定項目では、「24時間対応体制加算」において「看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制」を評価する新区分が誕生しました。この「24時間対応体制加算」に該当する介護報酬側の項目といえば、「緊急時訪問看護加算」です。ここに、やはり「看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制」を評価した新区分(月600点)が設けられました。 また、診療報酬の24時間対応の連絡相談については、一定要件を満たせば、訪問看護ステーションの看護師・保健師以外でも対応可能となりました。同様の項目が介護報酬側でも定められています。 看取り期の加算も診療報酬と整合性を 診療報酬ですでに定められている項目と整合性をとった改定もあります。それが「看取り期」の利用者への訪問看護の評価です。 介護報酬での看取り期の対応といえば、「ターミナルケア加算」があります。利用者の死亡日および死亡前14日以内に2日(末期がんなどの場合1日)ターミナルケアを実施することが要件です。この評価が「死亡月に2000単位⇒2500単位」に引き上げられました。 診療報酬での同様の評価項目には、「訪問看護ターミナルケア療養費」があります。この給付額が25,000円なので、介護報酬側の単位はこの数字と揃えたことになります(介護報酬の算定を1点=10円とした場合、金額は揃うことになります)。 遠隔死亡診断補助加算が、介護報酬にも誕生 看取り期では、訪問した看護師が利用者の死亡に立ち会うケースも想定されます。その際、利用者が離島等に在住の場合、医師の訪問による死亡診断が難しいこともあります。 そうしたケースで、訪問した看護師が情報通信機器を使って主治医による死亡診断を補助した場合、介護報酬上で、先の「ターミナルケア加算」に上乗せされる形で「遠隔死亡診断補助加算(1回150単位)」が算定できることになりました。 同じ加算が、診療報酬でも2022年度に誕生しています(1回1,500円)。ここでも、介護・診療報酬の整合性が図られたことになります。 介護報酬でも専門性の高い療養管理を評価 2022年度に設けられた診療報酬上の評価と同じものが、2024年度の介護報酬改定でも誕生──こうしたケースはほかにもあります。 それが「専門管理加算」です。診療報酬では1月に1回2,500円、介護報酬では1月に250単位となります。 これは、緩和ケア、褥瘡ケア、人工肛門・人工膀胱ケアにかかる研修を受けた看護師、あるいは特定行為研修を修了した看護師が計画的な管理(悪性腫瘍の鎮痛・化学療法を行なっている利用者や真皮を越える褥瘡の状態にある利用者などが対象)を行った具合に算定できるものです。 在宅での重度療養ニーズが高まる中、介護報酬が診療報酬のしくみを追いかけるという傾向を象徴した改定といえます。 退院時共同指導加算、実態に合わせた要件に その他、介護報酬上での改定で注目したいのが、利用者の退院・退所に向けた流れの中での訪問看護への評価です。 まず、利用者の入院時(医療機関のほか介護老人保健施設や介護医療院含む)からの対応を評価したもの。そこで訪問看護師等が主治医等と共同し、利用者に対して在宅での療養上の指導を行った場合に、その後の初回訪問で「退院時共同指導加算」が算定できます。 この退院時の共同指導について、「文書で」という要件上の制約が削除されました。これは、入院中の指導にかかわらず、利用者が訪問看護での実地指導に頼るケースが見られる点を受けた改定です。 「退院当日の訪問」を初回加算で上乗せ評価 この「退院時共同指導料」を算定していない場合、退院・退所後の最初の訪問では、介護報酬上で「初回加算」が算定されます。 この「初回加算」について、利⽤者が退院した「その⽇」の訪問を評価する区分が誕⽣しました。既存区分(改定後はⅡ)はその⽉に1回300単位のままですが、「当⽇訪問」を⾏った場合の新区分(Ⅰ)は350単位に引き上げられます。 ちなみに、2021年度改定では「退院・退所の当⽇にも⼀定の管理が必要な利⽤者について初回加算が算定できる」とされました。ただし、特別な管理が必要でなくても、退院当⽇での本⼈や家族の困りごとは多様であることが分かっています。そうした実態から、積極的に「当⽇訪問」を評価したことになります。 理学療法士等による訪問はさらに減算 もう1つ、訪問看護で気になるのは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士(以下、理学療法士等)による訪問の評価でしょう。 2021年度改定では、訪問看護の機能集中の観点から理学療法士等による訪問の基本報酬がさらに引き下げられ、「通所リハビリだけでは屋内でのADL自立が困難」なケースに限定されました。 今改定では、理学療法士等による訪問が、看護師による訪問の回数を上回っている場合(緊急時訪問看護加算等を算定していない場合は同数でも)などで、さらに8単位の減算が行われます。 障害福祉の改定で訪問看護への影響は? 最後に障害福祉サービスに関する改定ですが、訪問看護が障害福祉サービスの報酬を直接受けるしくみはありません。ただし、障害者に対して医療保険での訪問看護を提供している場合、障害福祉サービスとの連携機会があるという点で注意したい項目があります。 それが、医療・保育・教育機関等連携加算です。同加算は、計画相談支援・障害児相談支援において、利用者の入退院時といったサービスの利用状況が大きく変化する際に、医療機関等との連携のもとで支援を行うことを評価した加算です。 この加算で、障害福祉サービス機関からの求めに応じて情報を提供する連携機関の中に「訪問看護」が明記されました。障害者に対して医療保険での訪問看護を提供している事業者としては、注意しておきたいポイントです。 ※本記事は、2024年2月27日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集: 株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001195261.pdf2024/2/27閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001205321.pdf2024/2/27閲覧

yellインタビュー「自分らしく楽しく働ける組織にするために。」
yellインタビュー「自分らしく楽しく働ける組織にするために。」
インタビュー
2024年3月12日
2024年3月12日

ニーズに応じて事業を拡大。限られた社会資源で地域の幸福度を上げるために

岡山市を中心に、訪問看護ステーション、定期巡回型随時対応型訪問介護看護、居宅介護支援事業所、デイサービスなどを展開するエール。2回目の今回は、経営者の平田さんにエールを立ち上げた経緯や、複数事業を展開する理由についても伺いました。 >>前回の記事はこちら訪問看護ステーション併設の定期巡回・随時対応サービスのメリットとは 平田 晶奈さんエール 代表取締役社長国立病院機構岡山医療センター小児病棟、岡山県精神科医療センター児童思春期病棟での勤務を経て、在宅支援の必要性を感じ訪問看護師へ転身。地域で在宅療養支援をする中で、地域包括ケアシステム構築のためには、24時間365日の在宅サービスが必須であると確信し、2015年に訪問看護ステーション エールを設立。定期巡回随時対応型訪問介護看護「ケアステップ エール」、介護サービスを利用したい方のケアマネジメントを行う居宅介護支援事業所「ケアメイト エール」、医療ケアが必要な重症心身障がい児・者のデイサービス「すくすく エール」を展開。https://yell-oka.com/ 医療的ケア児の家族が抱える悩み ―そもそも、ご自身で事業所を立ち上げようと思われたきっかけについて教えてください。 看護学校を卒業後に病棟で働いたのですが、精神的にも身体的にも過酷だと思いました。違う職場を経験したり、他の職場で働く看護師に話を聞いたりもしましたが、やはり厳しくて過酷な状況に耐えている人ばかりだったんです。看護師は尊い職業なのに、なぜみんなが気持ちよく仕事できるような環境にならないのかなと疑問を持ちました。そして、「そういう組織がないんだったら、自分で作ろう」と思ったんです。 ―エールには小児から高齢者まで幅広い利用者さんがいらっしゃいますが、平田さんは「子どもと関わっていきたい」という想いを強くお持ちだと伺っています。そこに至るまでの背景も教えてください。 私は、岡山医療センターの小児科を経て教育学部で学び、その後、精神科医療センターの児童思春期病棟で5年ほど働きました。その過程で多くの子どもたちやご家族との出会いがあったことが大きいですね。最初の小児科病棟では、小児がんを患った子どもや、先天性の疾患がある子ども、重度の障害を持った子どもたちを看護しました。児童思春期病棟では、親から虐待を受けて保護されて入院している子、摂食障害や重度の自閉症、何かの依存症を抱えている子など、精神疾患や精神障害を抱えている子どもたちと多く接してきました。 これらの経験の中で、子どもたちの退院後に家庭で孤軍奮闘しながら育児をするのは、何か違うのではないか、と思うようになったんです。徐々に、「訪問看護師として退院後も子どもたちや保護者をサポートしたい」という気持ちが強くなっていっていきました。しかし、当時の訪問看護は介護保険で高齢者を中心にサポートする事業所ばかり。医療的ケアが必要な子どもや精神疾患がある子どもを24時間365日サポートする訪問看護はなかなかありませんでした。運営面でもスタッフの技術的にも難しいからです。 ここでも「だったら、自分でやるしかない」というスイッチが入って、私の強い想いに賛同してくれた3人のメンバーでエールを立ち上げました。想いを掲げて発信していくうちに、共感したスタッフが徐々に集まってきてくれて、今に至っています。 ―訪問看護ステーションとして開業後、他の事業を展開されるに至った理由について教えてください。経営的なメリットもあるのでしょうか。 訪問看護をしていく中で、改めて在宅で医療的ケア児の保護者の方々がお子さんにつきっきりになっている状況を目の当たりにしました。そして、例えば「きょうだいの子たちはとても我慢している」「お母さんが介護で眠れていない」などのご家族のつらさも耳にし、サポートしてほしいというニーズがあることを知ったんです。そのような状況があると知ったら、いても立ってもいられません。どうすれば支援やサポートができるかと考えた結果、必要な事業が増えていったという流れです。 なので、会社を大きくしたいとか、利益を増やしたいといった目的で始めたわけでありませんが、経営的なメリットはありますね。利用者さんが「本当に欲しい」と思っているサービスを展開しているので、当然ニーズがあります。新規事業を始めて3年もかからず黒字化し、軌道に乗るのが早かったと思います。 でも、やっぱり利用者さんに喜んでいただけることが、この仕事の一番のやりがいです。「本当に困っていた。応えてくれてありがとう」「次は何をやるの?」「こんなことをしてほしい!頼むよ」といったお声をいただくとうれしいですね。利用者さんと一緒に事業を育てている感じがします。 利用者さんやご家族の自立を妨げない ―地域包括ケアシステムの実現に向けてのお考えや、展望を教えてください。 国は、地域包括ケアシステムを2025年までに実現することを目標にしており、団塊ジュニア世代が65歳以上になることによって起こる2040年問題を見据えて、地域共生社会の実現を目指しています。これは、支援される側と支援する側といった枠組みから脱して、「地域全体が協力してともに生きる社会」へ移行することを意味しています。 ですから、地域の中の私たちは「支援する側」だけではなくて、されることもあると思うんですよね。その認識を忘れず、専門職も地域住民の一員だと思うことが大事。「イマカフェ」や「ル・リアン」などのイベントにも、有識者・専門家として参加しているつもりはなく、私たちも教えてもらうこと、助けてもらうことがたくさんあります。その地域で生活をする1人の人間として、どんな貢献や生活ができるのかを考えていきたいと常々思っています。 ―ありがとうございます。「訪問看護師として」という部分にフォーカスすると、どういったことを重視されていますか? そうですね。訪問看護師に限ったことではないのですが、私たち専門職は利用者さんやご家族が「自分たちで生活する」のが基本であることを忘れてはいけないと思っています。専門職が力を発揮するのは、利用者さんやご家族がご自身で対応できないことだけ。過剰・過保護になりすぎて、「できること」を奪ってはいけないと思います。これは、在宅での看取りでも同じことが言えると思います。専門職も含めた「地域の社会資源」が限られる中で、いかに利用者さんやご家族が納得感と幸福感を得ながら最期を迎えられるのか。「あれもこれもすべて必要」という考えではなく、私たちも含めた地域全体の最善を意識しながら関わっていきたいですね。 その際、各専門職が協力し、対話し合うためのしくみも必要だと思います。私たちの目的は、利用者さんが在宅で快適に生活できること。それに向けて必要な支援を実現するために、職種にこだわらず動いていくのが理想だと思っています。 利用者さんの生活にいかに柔軟に対応できるか ―具体的には、どのように動いていくのが理想的でしょうか。 考え方としては、「リハビリスタッフ/看護師が何曜日の何時に訪問」と決めて動くのではなく、「利用者さんが生活する中で、今日は○○と○○の支援が必要だよね。必要な支援内容とエールのリソースを鑑みて、今日は○○と○○が入ろうか」という流れになっていきたいんです。 ケアマネジャーが作ったプラン通りに行うことが、現状の地域包括ケアシステムが指定するサービスです。でも、人は毎日同じ時間に同じことをするわけではありません。通院する必要がある、体調に変動があるなどイレギュラーなことばかり起こります。利用者さんの生活に合わせて柔軟かつ迅速な対応ができることが、究極のケアやサービスではないかと思っていて、私たちはこういうサービスを利用者さんに届けたいんです。 しかし、さきほどもお話ししたとおり、私たちも限られた社会資源です。地域の皆さまに対して提供できるサービスの量には限界があり、一部の方に注力しすぎてしまうと、他の方にサービスを提供できなくなってしまいます。だからこそ、その場でケアにあたっている人が職種の枠をできるだけなくしてサービスを提供したほうが、結果的にみんなの負担が減ると思うんです。 もちろん、点滴や傷の処置といった看護師の専門分野を介護士や理学療法士が担うわけにはいきませんが、看護師が褥瘡のケアをするときに、介護士がオムツを交換したり、理学療法士がシーツを整えたりといった「処置しやすくする補助」はできる。それが本当の異職種の連携ではないでしょうか。みんなで集まってミーティングをするのは、本当の意味での「連携」ではなく、情報共有に留まるのではないかと私は思います。 もちろん、スタッフによってスキルや経験の差があるので、ケアの質を均一化するのは難しいですね。なかなか一筋縄ではいきませんが、理想的なチーム連携を実現するためにスタッフへの声掛けや研修、ミーティングなどを実施しています。 ―ありがとうございました。次回は、教育制度や今後の事業展開などについて伺います。 >>次回の記事はこちら自分らしく楽しく働ける組織にするために。スタッフを応援する制度&風土 ※本記事は、2023年12月時点の情報をもとに構成しています。 執筆:高島 三幸取材・編集:NsPace 編集部

訪問看護の呼吸ケア
訪問看護の呼吸ケア
特集
2024年3月12日
2024年3月12日

訪問看護の呼吸ケア 安定期を長く過ごすための療養法・支援方法 基礎知識

在宅酸素機器や在宅人工呼吸器を使用し、在宅で療養する人が増えています。訪問看護師が安心して確実なケアを行えるようになるために、本シリーズでは日々酸素療法や人工呼吸療法にかかわる医療・看護のエキスパートがケアのポイントはもちろん、機器のしくみや管理方法、トラブル対応などをわかりやすく解説します。今回は、慢性呼吸器疾患をもつ利用者さんが安定期を長く過ごすために、訪問看護師が知っておきたい心の持ちようや療養法・支援方法の基礎知識を確認しましょう。 安定期を長く過ごせるためのケアが大切 慢性呼吸器疾患は、増悪、軽快を繰り返しながら緩徐に進行し、それに伴い呼吸困難が増強します。慢性呼吸器疾患患者さんにおいて、呼吸困難は、身体的側面だけでなく精神的・社会的・スピリチュアル的問題を生じさせます。日常生活活動を制限し、役割や趣味、生きがいなどの喪失をきたすため、疾患の治療および呼吸困難の改善を図る医療とケアは重要です。 呼吸困難を軽減する医療としては、例えば慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)であれば、ガイドラインに基づいた吸入療法などの疾患特異的治療、在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)、非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV)、呼吸リハビリテーションなどがあります。看護ケアとして、患者さんがこれらの治療法や療養法の必要性を理解し、生活に取り入れてセルフマネジメントできるように支援します。 慢性呼吸器疾患患者さんが安定期を長く過ごせるかどうかは、在宅で医療や療養法などをいかにセルフマネジメントできるかにかかっており、訪問看護師の役割はきわめて大きいです。導入編となる今回は、慢性呼吸器疾患患者さんへの支援を行う看護師の心の持ちようと、患者さんの療養生活についてお伝えしましょう。特に、患者さんから「もっと教えてほしい」というニーズのある「息切れを軽くする日常生活動作の工夫」や「呼吸訓練」1)など含めいくつかの必要な療養法や支援について説明します。 なおHOTやNPPVなどの個別の療法については、本シリーズの後発記事で解説します。 >>シリーズ一覧はこちら「訪問看護と酸素・人工呼吸療法」https://www.ns-pace.com/series/hot-hmv/ 看護師が支援を行う上での心の持ちよう 心の持ちようとして皆さんにお伝えしたい内容は次の3点です。 呼吸困難は「呼吸時の不快な感覚」で、主観的な症状です。患者さんが「呼吸困難がある」と言えばSpO2がよくても呼吸困難はあるのです。呼吸困難は身体的側面だけでなく精神的・社会的・スピリチュアル的な側面を併せもった多面的なものであり「Total Dyspnea」といわれています2)。呼吸困難の原因を多面的にアセスメントしていくことが大切です。私たちは、呼吸困難のある患者さんが治療や療養法などのセルフマネジメント能力を身につけることは、患者さんにとって「大きな仕事」であることを理解し、心から応援する気持ちで支援します。患者さんは自己の価値観に基づいて行動しています。すぐにアドヒアランス不良とレッテルを貼るのではなく、患者さんの考え方や価値観、病いに伴う個人の体験の理解が必要であることを認識し、患者さんの療養法や行動の意味を理解します。 患者さんの支援に必要なスキル 患者さんの支援に必要なスキルとして、患者理解、パートナーシップの構築、アドヒアランス・自己効力感へのアプローチがあります。 患者さんを理解する 患者さんの病いの体験やライフヒストリーなどの語りを対話で促進します。しっかりと聴いて、病いの解釈や価値観、患者さんが行っている療養行動の意味や病いとともに生活する中での苦悩を理解します。 パートナーシップを構築する 尊重する、信じる、謙虚な態度、聴く姿勢を示す、ともに歩む姿勢を見せる、熱意を示す、心配を示すなどの「患者教育専門家として醸し出す雰囲気」といわれる態度で接することが大切です3)。患者さんが望む生活に即したテーラーメイドの療養法をともに考える姿勢を大切にしましょう。 アドヒアランス、自己効力感の維持・向上へのアプローチを行う 自己効力感へのアプローチでは、成功体験、代理的経験、言語的説得、生理的・情動的状態の4つの情報を活用すると有効です。具体的に説明します。■ 成功体験自分で「達成できた」という成功体験をもつことです。酸素濃縮装置、携帯用酸素ボンベの取り扱いなど、小さな目標を立てて段階的に行い、自分で「できた」という成功体験を積み重ねていきます。■ 代理的経験自分と同じ状況にある人の成功体験や問題解決方法を知り、疑似的な成功体験をもつことです。例えば、HOT導入により生きがいである畑仕事ができなくなると感じている患者さんに、酸素を使って畑仕事を継続しているほかの患者さんの状況を紹介します。それにより、自分も「できる」という自信をもつことです。■ 言語的説得専門性に優れた信頼できる人から、励まされたり、褒められたりすることで自信を高めることです。例えば、「あなたなら、きっと酸素をうまく使って趣味のゲートボールをすることができますよ」と力強く話すことで、患者さんは「信頼している人からできると言われたのでできそうな気がする」と自信を高めます。■ 生理的・情動的状態課題を実行したときに生理的、心理的に良好な反応を自覚することです。適切な酸素流量の使用により、息切れの軽減を実感してもらいます。それとともに、モニタリングを行い、脈拍やSpO2が安定していることを視覚的に提示し、息切れが少ない状態を称えることで、患者さんは自信を高めます。 療養法を生活に取り入れるための試行錯誤するプロセスを称賛しながら保証し、「待つ姿勢」を大切にします。患者さんが呼吸困難のある中、がんばっておられることに私たちは気づくことが大切です。そして、少しでも行動変容が見られたらポジティブフィードバック、つまり承認・称賛します。 呼吸ケアに必要な療養法と支援 息切れを軽くする日常生活動作の工夫を伝える 日常生活動作(activities of daily living:ADL)の工夫としては、図1のような息切れを増強させる4つの動作、すなわち「上肢挙上動作」「息を止める動作」「反復動作」「体幹前屈姿勢」を控えていただくことが大切です。4つの動作をいきなり説明するのではなく、どのようなときに息切れがあるのか、そのときの動作要領はどのようなものかを患者さんに振り返っていただきます。その後で息切れを増強させる動作を行っている場合は、その原因と工夫(対策)を説明します。 また呼気は、筋収縮がなく呼吸仕事量が少ないため、動作の開始を呼気時に合わせること、動作が早い場合はゆっくり動き適宜休憩を取り入れることを説明します。特に拡散障害が著明な間質性肺炎は、労作時に低酸素血症になりやすい病態を示し、動作要領や休憩を取り入れるように伝えます。 図1 息切れを生じさせる4つの動作 呼吸訓練の指導を行う 呼気排出障害であるCOPDには、「口すぼめ呼吸」の習得は不可欠です。口すぼめ呼吸は気道内圧を上昇させ、末梢の気道閉塞や肺胞の虚脱を防ぎ呼気をスムーズにします。指導方法は図2を参照してください。 患者さんは、息切れがあると一生懸命に息を吸おうとしますが、呼気排出障害による動的肺過膨張により息が吸えずかえって息切れが増強します。息を吐くことで酸素が入ってくると説明し、呼気を意識するように促します。間質性肺炎は呼気排出障害でないため、口すぼめ呼吸は必須ではありません。呼気時間が必然的に長くなることで呼吸数を減少させてしまい、かえって息切れが増強する場合があります。 慢性呼吸器疾患患者さんは、呼吸困難が強い場合、口すぼめ呼吸やゆっくり大きな呼吸はできません。まず看護師は、タッチングや呼吸介助を行い「大丈夫ですよ」と声をかけ不安の軽減に努めます。そして、少し呼吸回数が減少したときに患者さんに呼吸調整を行ってもらいます。例えば、鼻から吸って口から吐くようにしてもらったり、COPDの患者さんであれば口すぼめ呼吸を促したりするとよいでしょう。呼吸困難が軽減したとき、「ご自身で息切れを軽減できましたね」と称賛し、自己コントロール感を高めます。自己で呼吸困難を軽減できた体験は、呼吸困難の再来への不安を軽減し、ADL制限の減少につながります。 図2 口すぼめ呼吸の指導方法 身体活動性の維持・向上を促す 慢性呼吸器疾患患者さんは、息切れによる行動制限によって筋力低下をきたし、さらに息切れが増強するという悪循環をきたします。できるだけ座位時間(sedentary時間)を減らし、少しでも動くこと、散歩は早く歩くのではなくゆっくり長い距離を歩くこと4)が効果的であると説明します。家族を含めて自宅で可能な運動や方法についてともに考えるとよいでしょう。万歩計は、ご自身で自然に目標設定できるため有効です。 精神的・社会的・スピリチュアル的側面への支援 呼吸困難は、病状だけでなく不安や恐怖などにより増強するという悪循環に陥ります。また、できることが少なくなり、役割喪失感や家族から受ける支援の増加などにより自尊感情の低下をきたします。患者さんの病状や療養生活の中で生じているさまざまな感情や思いを傾聴し、よき理解者となり、「訪問看護師さんが来てくれたらホッとする」と思ってもらえるような存在になることが重要です。 自宅には患者さんが大切にしている趣味や価値観を見出すものがたくさんあります。それらの話題や生活の中でがんばっていること、「役割」を見出し、言語化して家族とともに称賛することは、患者さんの精神的な支援になり、自尊感情を高めることにつながります。そして、社会的・スピリチュアル的側面への支援にもつながります。 アドバンス・ケア・プランニング アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)とは、将来の意思決定能力の低下に備えて、今後の治療・療養について患者さんやその家族とあらかじめ話し合うプロセスです。在宅は、病院と異なり患者さんがくつろげる場所であり、訪問看護師も患者さんの大切なものを見出しやすい状況にあります。 日々の療養支援の中で、患者さんは何気なく大切にしていることや望む生き方を語ることがあります。この貴重な「想いのかけら」をキャッチし、対話によりピースをつなげながら5)ご家族、医療者と話し合いを繰り返す中で価値観を共有していくことで、患者さんの意思を尊重することができます。 監修・執筆:竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長慢性疾患看護専門看護師 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本呼吸器学会肺生理専門委員会在宅呼吸ケア白書 COPD疾患別解析ワーキンググループ編.『在宅呼吸ケア白書2010』,日本呼吸器学会,2010:17.2)日本呼吸器学会 日本呼吸ケアリハビリテーション学会合同 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021作成委員会編.『非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021』,メディカルレビュー社,東京,2021:25.3)河口照子編.『慢性看護の患者教育 患者の行動変容につながる「看護の教育的関わりモデル」』,メディカ出版,大阪,2018:65-72.4)南方良章.「慢性閉塞性肺疾患患者に対する身体活動性研究の進歩」,日内科学誌 2019:108(12);2554-2560.5)西川満則,大城京子.「コミュニケーションの基本」,『ACP入門 人生会議の始め方ガイド』,日経メディカル,東京,2020:101-114. 【参考文献】安酸史子.『改訂3版 糖尿病患者のセルフマネジメント教育』,メディカ出版,大阪,2021.

yellインタビュー「ニーズに応じて事業を拡大。」
yellインタビュー「ニーズに応じて事業を拡大。」
インタビュー
2024年3月5日
2024年3月5日

訪問看護ステーション併設の定期巡回・随時対応サービスのメリットとは

岡山市を中心に、訪問看護ステーション、定期巡回型随時対応型訪問介護看護、居宅介護支援事業所、重症心身障がい児・者デイサービスなどを展開する「エール」。その名の通り、「人の可能性を信じ、応援する。」をコンセプトに、医療的ケアが必要な子どもたちから高齢者まで、地域の人たちのニーズに応える事業や取り組みを行っており、地域の福祉サポートの1つのロールモデルとして注目されています。エールを設立した平田晶奈さんに、訪問看護ステーション併設の定期巡回・随時対応サービスのメリットなどを伺いました。 平田 晶奈さんエール 代表取締役社長国立病院機構岡山医療センター小児病棟、岡山県精神科医療センター児童思春期病棟での勤務を経て、在宅支援の必要性を感じ訪問看護師へ転身。地域で在宅療養支援をする中で、地域包括ケアシステム構築のためには、24時間365日の在宅サービスが必須であると確信し、2015年に訪問看護ステーション エールを設立。定期巡回随時対応型訪問介護看護「ケアステップ エール」、介護サービスを利用したい方のケアマネジメントを行う居宅介護支援事業所「ケアメイト エール」、医療ケアが必要な重症心身障がい児・者のデイサービス「すくすく エール」を展開。https://yell-oka.com/ 重度の要介護者も地域でのサポートが可能に ―まずは事業展開について教えてください。エールでは定期巡回・随時対応型訪問介護看護(ケアステップエール)の一体型事業所として運営されていますが、その体制にするメリットは何でしょうか。 何よりも大きいのは、頻繁な吸引が必要だったり、脱水・転倒・肺炎を繰り返したり、認知症であったりといった重度要介護者を地域でサポート可能になることですね。定期的な頻回訪問で早期の発見や対応ができ、在宅介護の限界点を引き上げることができます。 また、事業運営面でもケアプラン実績管理の簡素化や収益の安定化、夜間勤務の実現によるスタッフのオンコール廃止や給与安定など、メリットは数多くあります。  地域の方々に開かれた開放的な事業所へ ―2021年に事務所を引っ越しされていますね。新事業所をつくる際にこだわったポイントなどを教えてください。 まずは「何のサービスを提供しているのか地元の人がひと目で分かるように」ということを意識しました。社用車や建物に社名や目立つロゴを設置して、見かけた方が「エールってなんだろう」と調べて、「訪問看護ステーションやデイサービスなどをやっているのか」と認識してもらえたらうれしいなと思って。ロゴは夜になればネオンで光るんですよ。 集中してオンラインミーティングが可能なスペースもコロナ禍に医療従事者を労い寄贈された絵画事務所はガラス張りで開放的事務所内のフリースペース また、エールを「地域の人々に向けたイベントを提供する場として定着させたい」という思いがあることも大きいです。以前の事務所でもイベントは開催していたのですが、事務所が狭かったため定期的な開催が難しかったんです。移転して広いフリースペースを作れたことで、月1回のペースでカフェイベントも定期的に開催しやすくなりましたね。 ―事務所内には、デジタル機器も数多くありますね。 そうですね。多機能な印刷機や、ビッグパッド(電子黒板)といったICT(情報通信技術)システムの導入にも投資しているので、よく驚かれます。 印刷機は、例えば最近は子ども向けイベントのチラシやポスター、パンフレットなどを内製しました。今まで1日かかっていたチラシの印刷作業が2時間ぐらいで終わり、しかもキレイに仕上がるので助かりますね。イラストの制作もスタッフやスタッフの子どもが手伝ってくれているんです。 ビッグパッド(電子黒板)は、訪問やリハビリのスケジュールや今月はどこからどんな依頼があって、今どんな進捗で動いているかが分かる利用者さんのリストを画面で一覧でき、誰が今どこにいるかのかがすぐに分かるようにしています。離れたデイサービスの事務所と、電子黒板を使ってオンラインミーティングをすることもありますね。 チャットをはじめとしたコミュニケーションツールを使ったり、定期巡回のスタッフの電話を自動的に録音する機能を導入してメモする必要をなくしたり、電話に出られない場合には外部のコールセンターにつながるようにしたり…といった取り組みもしています。 事務作業のスペースは、チームごとに分かれてはいますが、フリーアドレス制なので、それぞれ仕事のしやすい場所に座って作業しています。必要最低限のものだけ置くようにして、仕事が終わったら片付けて帰るスタイル。終業後はスッキリした状態になります。 ―ここまでICTシステムを導入している訪問看護ステーションはあまりないですよね。 そうですね。うちは事務スタッフがとても優秀で、「このソフトを使えばもっとスムーズに外部と連携できる」などアイデアを提案してくれるので、ICT化が進んできたということも大きいと思います。事務スタッフの人数が多く、4つの事業合わせて社員数が50人ですが、事務スタッフは常勤換算で7.1人。なるべくスタッフの負担を減らし、自身の役割に集中できるようにしたいという想いがあります。 地域貢献活動にも注力。保護者と行政が繋がる ―エールでは地域貢献事業にも注力されているとのこと。さきほどイベントに力を入れているというお話もありましたが、こうした取り組みの背景や内容について教えてください。 私はもともと小児科の看護師で、重度な障害を持つ医療的ケアが必要な子どもやそのお母さんと関わることが多かったんです。子どもが幼いほど手がかかり、ご家族は外出が難しくなるので、地域から孤立するケースを目にしてきました。困っている保護者の皆さんが子どもを連れて安心して集まり、気軽に相談できる場を提供したくて、交流会イベントとなる「イマカフェ」を2018年にスタートしたんです。 自分の親よりも先に子どもをお看取りしたご遺族など、共通の経験をされて悩まれている方たちにお声がけして集まってお話しいただいたのが始まりです。事務所が移転してフリースペースを作った2021年からは、コロナ禍も含めて月1回、定期的に開催してきました。 ―カフェイベントの開催でどのような反応がありましたか。 イベントをきっかけに地域に住む高齢者やご家族の方々が積極的に足を運んでくださり、「訪問看護をしていると聞いたんですが…」「実はうちの主人が要介護で…」などと声をかけてくださるようになりました。以前はケアマネジャーや病院のソーシャルワーカー経由でエールを知っていただくことが多かったのですが、直接ご依頼いただくケースが増えてきて、とてもうれしいです。 活動に刺激を受けた方が新たに活動団体を発足させる流れも生まれました。難病児・障がい児・医療的ケア児家族の絆を紡ぐ居場所である「ル・リアン/Le Lien」での取り組みもそうです。活動を応援したいという気持ちで、エールでは事務所のフリースペースを無償でお貸ししています。 ―ル・リアンの取り組み内容についても、もう少し詳しく教えてください。 ル・リアンは、エールの訪問看護を利用いただいた医療的ケア児の保護者の方々が運営しています。主な活動は、医療的ケア児のご家族が集まっての「お話し会」の開催。経験を共有し合うことで、難病や医療的ケア児のご家族が絆を築く場になっています。同じ日の午後に、イマカフェのイベントも開催しているんです。 24時間365日の介護をし、医療的ケア児を預ける場所がない保護者の方々は、介護と仕事の両立や、兄弟姉妹の授業参観日に行けないといったことで悩んでいます。当然自分自身の時間も取れず、これは社会全体の課題といえます。お話し会を開催することで、自分たちの悩みや思いを共有し合って孤独感から救われる、ピアカウンセリング的な役割を果たしているんです。 また、ル・リアンには地域の保健師や教育委員会の関係者なども参加しているので、行政と保護者が「一緒になんとかしていこう」と考える機会や相互理解を生んでいるのが、何よりの成果だと実感しています。医療的ケア児への支援や理解は高齢者向けのサービスほど進んでいない現状があり、予算も限られます。保護者が望むサービスが提供されていないため、どうしても「行政vs保護者」という構図になってしまいがち。でも、私は保護者の方々にご相談いただいた際は、「対立しちゃダメですよ」と言っています。行政側も、本当は力になりたくとも、予算が決まった公的機関だからこそ、曖昧で無責任なことは言えないわけです。対立関係ではなく、ル・リアンのような対話できるような機会をつくり、互いを知って前向きに考えていくことが大事ですよね。 ―ありがとうございました。次回は、エール設立の背景や、地域包括ケアシステムにまつわるお考えなどを伺います。 >>次回の記事はこちらニーズに応じて事業を拡大。限られた社会資源で地域の幸福度を上げるために ※本記事は、2023年12月時点の情報をもとに構成しています。 執筆:高島 三幸取材・編集:NsPace 編集部

訪問看護認定看護師 活動記/関東ブロック
訪問看護認定看護師 活動記/関東ブロック
コラム
2024年3月5日
2024年3月5日

地域がつながる「ケアの駅」【訪問看護認定看護師 活動記/関東ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。最終回となる今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 関東ブロック、山田 富恵さんの活動記です。コロナ禍での協議会の取り組み、地域住民や介護・医療職などをつなげる「ケアの駅」の設立、地域に向けたACP(アドバンス・ケア・プランニング)の啓蒙活動などについてご紹介いただきます。 執筆:山田 富恵看護学校卒業後、病棟勤務、脳外科急性期病院、クリニックのパート勤務などを経て、子育てをしながら医師会立訪問看護ステーションに勤務。子育て時間を優先し、ワークライフバランス重視で選んだだけのつもりが訪問看護の魅力にはまる。「在宅看護の現場で行われている看護判断や技術を系統立てて学びたい」「それを言語化するための学習がしたい」と感じ、2010年に訪問看護認定看護師資格取得。2014年に日本財団在宅看護センター 起業家育成事業を知って感銘を受け、第1期生として参加。修了後、2016年に起業し、現在アィルビー訪問看護ステーション管理者。2023年より日本訪問看護認定看護師協議会関東ブロック長。 役立つ知識の共有会や交流会を楽しく企画 私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会の関東ブロックは、東京都と埼玉県を範囲としています。ブロック委員みんなで知恵を絞り、関心の高い話題について学びつつ、交流も兼ねた活動報告ができるよう、年に2回の研修会と交流会を開催しています。 他ブロックの地域に比べると住民人口が多く、訪問看護認定看護師の人数も一番多いのですが、都市部の特徴なのでしょうか。所属事業所を越えての認定看護師同士の交流は少ないように感じます。私も当初は関東ブロックの委員にお声掛けいただいたことがきっかけで研修会や交流会に参加するようになったのですが、最近の話題に触れたり、日頃の悩みを話せたりと、皆様とつながれることに安心感と刺激をもらえる場です。 私は2023年度からブロック長を拝命したばかりなので、まだ何もお役に立っていませんが、前年度までのブロック長さんたちが大事にしてきたことを繋げていけたらと思っています。 コロナ禍で繋がる訪問看護の力に救われる 認定看護師として事業所を運営していて「本当に良かった!」と思ったのは、コロナ禍で不足していた感染防護具を、地域の訪問看護ステーションや介護事業所へ届ける活動に協力ができたことです。 地域に届けた感染防護具 日本訪問看護認定看護師協議会を通じて日本訪問看護財団からの情報をいただき、有志の協力団体のひとつとして活動をしました。スタッフや利用者さんを守りたいのにマスクや手袋が手に入らなかった日々…。感染防護具をお届けした地域の事業所にも、大変喜んでいただけました。 この感染防護具を届けるプロジェクトの協力団体は、北海道から沖縄まで110ヵ所あまりになったと聞いています。日本全体が感染症への怖さで閉塞感、孤立感を感じていた中で、このような活動に一部でも参加できてつながれたことは、本当に涙が出るほどありがたいことでした。実のところ、地域に貢献するために活動していたというよりも、経営者として管理者として、ひとりぼっちで重圧を感じていた私自身が、この活動によって大きく救われていたのです。品物がある以上に「つながっている」という安心感をいただきました。 コロナ禍当時は大変過ぎて、記憶が飛んでしまっている部分も多くありますが、今思い出すのは、感染防護具の箱を手渡した時の他事業所のスタッフの笑顔、訪問苦労話でスタッフと笑いあった笑顔、「あの時は来てくれてありがとう」とおっしゃった利用者さんとご家族の笑顔です。 「道の駅」のように「ケアの駅」があったら 認定看護師の教育課程を受けるうち、私がやりたいと思うようになったのは地域活動です。訪問看護ステーションを立ち上げ、今の広めの場所に事務所を移転したことをきっかけに、地域住民の方や地域連携職が集まって情報発信ができる場を作りました。観光地への移動途中にひと休みしたり、その地域の情報を得たりできる「道の駅」のようになってほしいという願いから、「ケアの駅」と名付けました。このケアの駅は、地域を走り回るケア提供者や地域の方が、気軽に立ち寄って休息したり、介護・健康情報の共有や相談をしたりすることで、ゆるくつながれる場にしたいと思っています。 元々鰹節屋さんだった風情あるアィルビー訪問看護ステーション 実際には、現事務所に引っ越した約1ヵ月後に新型コロナウイルス感染症の流行が始まってしまったので、2024年2月時点ではまだ一般の方が立ち寄れるようにはなっていませんが、感染対策に気を付けながら情報発信の会は複数回開催しています。 例えば、以下のような内容です。 在宅歯科医師によるオーラルフレイルの講義管理栄養士や企業の調理師によるとろみ剤と調理の工夫に関する講義社会福祉協議会の担当者による後見人制度に関する講義在宅医師による意思決定支援や在宅医療についての講義 また、今年度は都立病院と共同して、地域にACP(アドバンス・ケア・プランニング)を拡げる看護研究実践を行っています。「『人生会議』をしませんか」と題して、カードゲームを体験しながら自分の大事だと思うことを話し合う会を開催しました。また、区民まつりにテントを出して、健康相談窓口をしながらACPの周知活動を行いました。 ACPのカードゲーム区民まつりの様子ケアの駅での在宅歯科医師をお呼びしての講座認知症カフェで出前講座をしている著者 このように書くと順調に進んでいるように思われるかもしれませんが、なかなか思い通りにいかないこともあります。クラウドファンディングに挑戦してもうまくいかなかったり、準備をした会の当日に新型コロナや悪天候の影響で中止したり、会の開催以外は「ケアの駅」スペースは閉めているので広いスペースが無駄になっていたり…。試行錯誤の連続です。でも、広いスペースがあるおかげで、前述の感染防護具の箱を地域の分も含めて多く備蓄することができたので、「どんな経験も無駄にはならない」と自分に言い聞かせています。 私自身も、スタッフに訪問を分担してもらいながら重症者への訪問や緊急時訪問に行っているのですが、管理者業務や土日祝の訪問、地域活動などを頑張れるのは、利用者さんやスタッフのおかげです。在宅療養やお看取りで利用者さんやそのご家族に「本当に良かった」と言っていただけることや、新しいスタッフが「訪問看護が楽しい」と言って働いてくれることなどが、私の栄養になっています。 訪問看護の役割はますます重要に 2023年の総務省の人口推計1)では80歳以上の割合が初めて10%を超え、10人に1人が80歳以上になったそうです。驚いてしまいますね。今後、地域において訪問看護はますます役割が重要になってくると思われます。今現在、訪問看護に従事している方も、これから挑戦してみたい方も、無理と思わず奥深い地域活動や在宅看護にぜひ飛び込んでみてください。また、訪問看護師は一人で訪問することが多いですが、決して一人ではありません。お近くの訪問看護認定看護師や在宅ケア看護師とつながっていただけると大きな力になるのではないかと思っています。 ※本記事は、2024年2月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部 【参考】1)総務省統計局.「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」統計トピックスNo.138(令和5年9月17日)https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1380.html2024/2/9閲覧

誤飲・誤食【訪問看護 緊急時の対応法】
誤飲・誤食【訪問看護 緊急時の対応法】
特集
2024年3月5日
2024年3月5日

利用者から誤飲・誤食の訴えがあったら【訪問看護 緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは利用者さんから誤飲や誤食の訴えがあった場合の対応法です。 誤飲・誤食とは 訪問看護ではさまざまな緊急の訪問依頼があり、対応に走ることがあるかと思います。今回のテーマ「誤飲・誤食」も緊急性の高い項目の一つといえます。 「誤食」は、 食べ物以外のものを誤って口から摂取すること飲食物ではない異物を誤って飲み込んでしまうこと主に有害・危険な異物を飲み込んでしまうこと などと定義されています。ほかに食物アレルギーを持つ方がアナフィラキシーショックを起こす危険性のあるものを摂取した場合にも誤食が用いられます。 「誤飲」は誤食と同様な意味を持ちますが、飲み物に対して使用され、飲むか食べるかの違いとされます。ここでは誤飲・誤食を厳密に定義して述べるのではなく「食物以外の物を誤って口から摂取した場合」として記載します。 誤飲・誤食が起こったときの対応 誤飲・誤食が問題になるのは乳幼児の場合が多いでしょう。乳幼児が誤って口に含まないように、手の届く範囲に危険につながる小さな物を置かないように予防することが第一です。 高齢者にも誤飲・誤食はしばしば見受けられます。高齢者の誤飲・誤食事故による緊急訪問では、口にした物質を特定できれば対応もしやすくなります。まずは、本人が何を誤飲・誤食したのかを確認して、バイタルサインを測定し、アセスメントを実施します。 その時点においてはあまり状態変化を把握できなかったとしても、後から急変する可能性があります。例えば、誤飲・誤食した物の形状や性質などから、食道に傷をつけ出血してしまう、排泄に至るまでの間に消化管が閉塞・穿孔する、意識レベルが低下するなど、緊急性が高くなる事態も考えられます。状態を主治医に伝え、指示を受けてください。医療機関を受診し、状況によっては内視鏡検査を受けなければならないケースもあります。 誤飲・誤食した様子はあるが、何を飲み込んだのか判断できない場合、ベッド周囲や本人の周囲の状況を見て、飲んだと思われるものの残りや容器などから口にしたものを推定します。特定できれば、その物質と量、飲んだ時間なども確認し、主治医に伝えます。 主な誤飲・誤食の事例 PTP包装シート 消費者庁が2019年に公表した65歳以上の高齢者における誤飲・誤食の事故情報1)によると、医薬品の包装を誤飲した事例が116件と最も多かったそうです。そのうち83件がPTP(Press Through Package)包装シートを誤飲していました。包装の裏面には注意書きが添えられていますが、それでも事故は発生しています。PTP包装シートを誤飲すると消化管穿孔をはじめとした重大な合併症を引き起こす恐れがあります。事故を防ぐために、PTP包装シートは切り離さずシートのまま保管し、服用するときに1錠ずつ押し出して服用するよう、利用者さんやご家族への指導が必要です。 誤飲事例とは異なりますが、私が訪問していた高齢の利用者さんの事例を紹介します。その利用者さんはカプセル剤の薬袋に記載された「ケースから出して服用してください」という注意書きを読み、カプセル剤のゼラチンから散剤を取り出して服用すると思い込んでいました。医療職から見るとあり得ないような話ですが、実際に話をしてみて高齢者の思いを知ることができます。 義歯や詰め物 先ほどの消費者庁の調査によると、医薬品の包装の次に多かったのが義歯や歯の詰め物でした1)。多くは食事のときに食物と一緒に飲み込んでしまうため、日ごろから口腔ケアを通して、歯の状態をアセスメントしておくことが大切です。合わなくなった義歯やグラグラしている歯があれば、歯科を受診し治療しておきます。食後も必ず口腔ケアを行い、義歯や詰め物などがきちんとあるか確認をしておくとよいです。 食事関連でいうと、魚の骨を誤飲すると、食後に咽頭や喉頭部のあたりに痛みや違和感が生じます。骨の大きさや刺さった部位によっては自然に消失する場合もありますが、持続した痛みや違和感があれば、早めに受診につなげるとよいでしょう。 洗剤やシャンプー類、灯油 誤飲事例には、洗剤やシャンプー類、灯油もあります。どれをとっても飲み込まずに吐き出す方が多いと考えますが、どの程度の量を飲み込んだかは必ず確認します。飲み込んだ物によっては「牛乳や水を飲ませる」と説明するものもありますが、安易に飲ませず、何度かうがいをしながら、主治医に連絡して指示を得てください。 訪問看護ステーションに緊急連絡を受けた場合も対応は早めの方がよいので、電話で対処方法を助言します。 認知症の方の誤飲・誤食予防 認知症の方ではさらに注意や配慮が必要です。認知症の方は誤飲・誤食の自覚がないケースがあります。例えば、魚を食べたと認識できていなければ、骨が咽頭や喉頭に刺さっていたとしても、訴えが適切にできず症状が悪化してしまうでしょう。 自覚症状が不穏状態として現れるケースもあります。ただし、不穏状態の原因を特定するのは簡単ではありません。独居で過ごしている利用者さんは生活状況が見えづらく、「誤飲・誤食したかも」と感じさせる状況であっても、意識レベルや息に異臭があるなどの異状がなければ確定できません。 日ごろの食生活や状態を把握しておく 事故が起こった直後は、何を、どの程度の量、誤飲・誤食したのか特定が難しいことも少なくありません。そのため、日ごろから利用者さんの食生活をできる限り把握できるようにしておくとよいでしょう。私は必要に応じて利用者さんの冷蔵庫を見せていただきます。賞味期限が切れた物や、冷蔵庫に入れておくべきではない物が入っていないか、定期的にチェックし整理しておきます。こうした普段からの注意が誤飲・誤食を予防します。また、訪問看護だけでは対応できないため、訪問介護の方にも協力を得ながら一緒に対応することが重要です。 食物以外の物も口に含む習慣があれば、口に含めそうなものを周囲に置かないように配慮します。利用者さんの日ごろの状態を把握しておけば、異常時に「いつもと違う」といち早く気づけます。早い段階で医療機関につなげられるとともに、重度化予防にもなります。 * * * 訪問看護師は利用者さんの自宅に伺い、ケアを提供するだけの時間しかいられません。それ以外の時間は、ご家族が多くの時間を費やし介護をされています。緊急に対応しなければならない事態においても、病院や施設のようにはすぐに看護師が駆けつけられません。家族が安心して介護できる体制にするためには、誤飲・誤食したという情報があれば、できるだけ受診につなげて、異常がないか否かの診断を受けられるようにしましょう。それがご家族の安心につながります。 「食べること」は、生命維持や健康増進に不可欠な行為であると同時に、人生の楽しみであり、自己表現やコミュニケーションの一部でもあります。その楽しみがトラブルにつながらないように、予測される危険材料を事前に排除する取り組みができるとよいです。高齢になっても食を楽しむ観点から、訪問看護では「食べること」についての情報収集とケア方針をご家族も含めて共有しておくようにします。 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社 【引用】1)消費者庁.「高齢者の誤飲・誤食事故に注意しましょう!」(2019年9月11日付)https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_safety_cms204_190911_01.pdf2023/11/10閲覧

腸内フローラとは?腸活、健康への影響を解説
腸内フローラとは?腸活、健康への影響を解説
特集
2024年3月5日
2024年3月5日

腸内フローラとは?腸活の方法や潰瘍性大腸炎との関係、健康への影響を解説

「腸活」というワードを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。腸活には、腸内細菌によって作られる「腸内フローラ」が関係しています。この記事では、腸内フローラの意味を改めて説明するとともに、腸活の方法、健康への影響などについて詳しく解説します。訪問看護師さんご自身の健康管理を目的とすることはもちろん、腸活に興味を持った利用者さんからの質問に答えられるようにするためにも、確認しておきましょう。 腸内フローラとは 腸内フローラとは、人間の腸内に存在する細菌の生態系のことです。人の腸内に生息する約1000種類、約100兆個もの細菌が腸内フローラを形成しています。腸内フローラは体の健康を保つために重要な役割を果たしており、特にビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が増えることが望ましいとされています。 腸内では、善玉菌、悪玉菌、その中間の菌(日和見菌)の3つのグループに属する細菌が複雑なバランスを保ちながら共存しています。 善玉菌:腸の蠕動運動を促進する(消化吸収を補助)、悪玉菌の増殖を抑えて腸内のバランスを整える(乳酸・酢酸をつくって腸内を酸性にする)、免疫力をアップさせる等の働きをする悪玉菌:有害物質をつくって腸内をアルカリ性にし、下痢・便秘等を引き起こす日和見菌:腸内で優勢な菌と同じように働く。健康なときはおとなしく、悪玉菌の割合が増えると悪い働きをする 日和見菌が最も多く、次いで多いのが善玉菌。病気を引き起こす悪玉菌はできるだけ少ない状態が望ましく、このバランスが崩れると、便秘や下痢などの症状が現れます。 腸活とは? 腸活は、腸内環境を改善し、健康を促進するための活動のことです。健康な腸内環境とは、腸内に存在する細菌のバランスが適切であることを指します。 一般的に、細菌のバランスは以下の割合が望ましいとされています。 善玉菌:30〜40%悪玉菌:10%日和見菌:50〜60% この良好なバランスを実現・維持するために、食生活や運動習慣などを見直すのが腸活です。 腸活の例 食事や運動だけではなく、マッサージや十分な睡眠なども腸内フローラに良い影響を与えます。腸活の方法について詳しく見ていきましょう。 栄養バランスのとれた食事を心がける 栄養バランスのとれた食事を心がけることで、腸内の善玉菌が増えます。善玉菌が含まれる次の食品を意識的にとりましょう。 ヨーグルト、納豆、チーズ、キムチ、味噌 また、善玉菌のエサとなることで間接的に善玉菌の増加につながる次の食品もとりましょう。 海藻類、キノコ類、イモ類、ゴボウ 適度に運動する 腸腰筋を鍛えることで、便が出やすくなります。筋力トレーニングではなく、1日約20分のウォーキングを続けましょう。階段の上り下りによって、さらに効果が高まります。連続ではなく朝と夕方に分けても問題ありません。 良質かつ十分な睡眠をとる 睡眠不足は、ストレスを感じることで自律神経のバランスを崩し、結果的に腸内環境を悪化させてしまう場合があります。良質かつ十分な睡眠をとることは腸活の方法の1つといえます。早めに寝床に入り、部屋を薄暗くして静かに過ごしましょう。また、快適な室温や湿度に整えることも大切です。 マッサージをする マッサージで腸に直接刺激を与えると、腸の動きを活性化させることができます。指ではなく、手のひらを使い、時計回りにやさしくお腹を押しましょう。力を入れすぎると逆効果になる可能性があります。痛みや不快感があるときはすぐにやめて様子を見てください。また、妊娠中や産後間もないころ、腹部や生殖器の炎症がある方などはできません。 ストレスケアをする 腸の活動は自律神経がコントロールしています。そのため、ストレスケアで自律神経のバランスを整えることが腸内環境の改善につながります。 ストレスを感じる場面を可能な限り避けるとともに、瞑想、ヨガ、深呼吸などのリラックス法を日常に取り入れましょう。 腸活のメリット 腸活によって腸内環境を整えることには、次のようなメリットがあります。 お腹の調子が整う 腸活を行うことで、腸内の善玉菌が増えるだけではなく腸の運動を促進できます。これにより、便秘が軽減します。また、腸内細菌のバランスが整うことで、下痢の症状が軽減することもあるでしょう。 免疫機能に良い影響が及ぶ 腸内細菌のバランスが良い状態では、腸の免疫細胞が正常に機能し、細菌やウイルスに対する抵抗力が向上します。免疫系の異常が原因の病気のリスクも低下する可能性があります。ただし、腸内フローラと免疫機能との関係については完全には解明されていません。 老廃物の排出が促される 腸活を行うことで、便秘が軽減され、体内の老廃物や毒素が効率的に排出されます。ただし、老廃物を排出する機能が大幅に強化されるわけではありません。また、腸内環境が悪いだけで腸内に毒素や老廃物が過剰に溜まる心配もないでしょう。 ストレスが減少する 腸活によってお腹の調子が整うと、症状に伴うストレスから解放されます。ストレスが減少すれば自律神経のバランスも整いやすくなるという良い循環が生まれます。 腸内フローラ検査(腸内細菌叢検査)の方法・何がわかる? 腸内フローラ検査は、検便によって腸内細菌のバランスを調べる検査です。腸内細菌のバランスがわかると、どのように対処すれば腸内フローラが整うのかがわかります。また、主な細菌の割合だけではなく、菌の多様性、大腸がんのリスクや太りやすさなどがわかるケースもあります。通常、検査結果とともに腸活のアドバイスを受けます。 潰瘍性大腸炎と腸内フローラの関係 順天堂大学は、大腸粘膜に炎症が起きる指定難病「潰瘍性大腸炎(UC:Ulcerative Colitis)」の患者さんに対して、病気に関連する菌を発見し、抗生剤を用いた治療を行ってきました。また、抗生剤治療後の腸内フローラのバランスを整えるために、健康な人の便から作成した腸内細菌叢溶液を患者の腸内に移植する「便移植」という治療法(抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法)を導入しており、これにより多くの患者さんの症状が改善しています。 * * * 腸内フローラを腸活で整えることで、便通の改善や免疫力の向上、ストレスの減少などが期待できます。今回解説した内容を、ご自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:福井 美典糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医公式instagram:fukuinaika.biyou.eiyouからだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱくの食事の大切さを、自ら栄養指導をしている。分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、からだの細胞を活性化させる治療法を取り入れている。野菜ソムリエの知識を生かし、栄養素が効率良く摂れる食べ合わせを意識したレシピを考案。美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 【参考】〇厚生労働省「腸内細菌と健康」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html2023/9/25閲覧○順天堂大学医学部附属順天堂医院「潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌叢移植」https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/shokaki/about/gastrointestinal/intestinal_microbiota1.html2023/9/25閲覧

【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定
【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定
特集
2024年2月27日
2024年2月27日

【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定で訪問看護はどうなる?

2024年度は診療・介護・障害福祉の報酬・基準のトリプル改定。訪問看護は3分野にまたがることが多いだけに、早期にポイントを押さえ、対処にのぞむ必要があります。本記事では、診療報酬上の訪問看護に関係する改定の速報を取り上げます。 診療報酬改定率は+0.88%、施行は6月から 2024年度の診療報酬全体の改定率は、医療・看護従事者の処遇改善といった課題への対応の必要性を受け、+0.88%(薬価等は薬価+材料価格で▲1.00%)と、前回2022年度改定の+0.43%を上回りました。この+0.88%のうち、看護職員や病院薬剤師などの処遇改善については2024・2025年度のベースアップのための特例的な対応分として+0.61%が含まれています。 もう1つ、今回の診療報酬改定全般で注意したいのは、改定時期です。医療DXの推進にともない、医療機関や薬局、システムベンダに集中する改定時の業務負荷を軽減するため、これまで4月だった改定時期が6月へと2ヵ月ずれ込むことになりました。 この6月という改定時期については、介護報酬上でも訪問看護をはじめとした医療系サービスに適用されているので注意しましょう。 人材確保・働き方改革の推進が重点課題に 今回の診療報酬改定の重要テーマの1つは、将来的な労働力人口の減少もにらんだ人材確保・働き方改革等の推進です。 訪問看護では、診療報酬上で24時間対応体制の確保が評価されていますが、従事者にとっては大きな負担が生じがちです。そこで、24時間対応体制加算において「24時間対応体制における看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制が整備されていること」を評価する新区分が誕生します。具体的な体制整備として、「夜間対応した翌日の勤務間隔の確保」や「ICT、AI、IoT等の活用による業務負担の軽減」などの対応が求められます。 24時間対応にかかる連絡相談については、一定要件を満たせば、訪問看護ステーションの看護師・保健師以外でも対応可能になりました。 複数のステーション管理者の兼務が可能に 人員確保が困難な状況下では、訪問看護の質を落とさずに管理者の兼務を可能にできるかというテーマも浮上しています。 訪問看護の管理者は、現行では「同時に他の指定訪問看護ステーション等を管理することは認められない」が原則です。例外規定はありますが、管理者の責務の点であいまいさが残ります。 そこで、適切な兼務が可能になるよう、管理者にかかる規定が見直されました。具体的には、上記の「原則不可」の規定を削除した上で、例外規定について以下のように改めています。 (1)同一の指定訪問看護事業者によって設置された他の事業所、施設に従事すること(現行の「同一敷地内」という規定は削除)(2)上記(1)に従事の際も、本体事業所の利用者のサービス提供の場面で生じる事象を適時・適切に把握できること (3)職員および業務に関して、一元的な管理・指揮命令に支障が生じないこと など 訪問看護でも「医療DX情報」の活用を評価 2つめの大きなテーマが医療DXの推進です。この医療DXを進める上で重視されるのが、オンライン資格確認等システムや電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスの活用です。 訪問看護においても、これらの情報を取得・活用することで質の高い看護サービスを提供した場合の報酬上の評価が誕生しました。それが「訪問看護医療DX情報活用加算」です。要件としては、電子資格確認を行なう体制を整えた上で、その情報の取得・活用によって訪問看護を提供する旨を、事業所内やウェブサイト上に掲示することが求められます。 なお、医療DXの一環として、2024年6月より訪問看護レセプトのオンライン請求がスタートします。この改革を踏まえ、訪問看護指示書等では、原則として主たる傷病名において「傷病名コード」を記載することになりました。 利用者にとって分かりやすい看護提供を 前項で「ウェブサイト上の掲示」という規定が登場しましたが、今改定では、訪問看護を提供する際の「重要事項」についても、原則としてウェブサイト上の掲示が求められます。 これは国のデジタル原則にもとづいた施策で、利用者が事業所の情報を適時適切に閲覧できることにより、分かりやすい医療・看護を実現する環境を整備する目的もあります。ちなみに、介護サービス基準でも同様の規定が設けられています。 この「分かりやすい医療・看護の実現」というテーマに沿った改定に、医療機関・訪問看護ステーションにおける明細書の無料発行の義務化があります。ただし、すでに発行が義務化されている領収証で、個別項目ごとの金額等の記載が求められていることから、現在の領収証を「領収証兼明細書」とします(一定の経過措置あり)。 訪問看護の機能強化に向け評価の厳格化も 3つめの大きなテーマが、訪問看護の機能強化です。この場合の機能強化というのは、多様化する利用者や地域ニーズに対し、質の高い効果的なケアが適切に提供できているかを評価することです。 対象となったのは、訪問看護基本療養費に上乗せされる「訪問看護管理療養費」です。訪問看護管理療養費については、安全な提供体制が整備されていることが要件ですが、ここに新たな指標にもとづいた区分けが行われました。 例えば、同一建物居住者の割合や、厚労省が示す特掲診療科の施設基準別表(第7・8)に掲げる利用者への訪問看護の実績が問われます。要件が厳しくなっている点に注意が必要でしょう。 利用者ニーズに応じた評価のあり方へ その他、「評価が厳しくなった」という点では、緊急訪問看護加算でも月あたりの提供日数に応じた報酬の区分けが行われました。 一方で、利用者のニーズに応じて、集中的な資源投入への評価も見られます。例えば、医療ニーズの高い利用者の退院支援という点では、訪問看護管理療養費にかかる退院支援指導加算において、退院支援指導の長時間訪問の算定方法が拡大されました。具体的には、複数回の訪問の合計時間も評価対象となります。 また、訪問看護基本療養費の乳幼児加算において、超重症児(準超重症児を含む)や、やはり特掲診療科の施設基準別表(第7・8)に掲げるケースでの評価が引き上げられています。 訪問看護外だが、注目したい在宅療養の項目 訪問看護に直接かかわる項目ではありませんが、在宅療養に関連するということで、在宅療養指導料の見直しにも注目しましょう。在宅療養を進める上で必要となる患者への指導を評価した報酬で、訪問看護にとってその指導内容は押さえるべきポイントです。 注目したいのは、この在宅療養指導料の対象に、退院直後の慢性心不全の患者が加わったことです。訪問看護としても、慢性心不全の利用者へのサービス提供は特に高度な配慮が必要です。医師の指示書において、今改定を機に慢性心不全の患者に関する詳細な指示が加わる可能性を頭に入れておきましょう。 ※本記事は、2024年2月13日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2023).「令和6年度診療報酬改定の改定率等について」https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001180683.pdf2024/2/13閲覧〇厚生労働省(2024).「個別改定項目(その3)について」https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001206366.pdf2024/2/13閲覧

災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待
災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待
インタビュー
2024年2月27日
2024年2月27日

災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待/福永興壱先生インタビュー

在宅酸素療法(HOT)や在宅人工呼吸療法(HMV)の黎明期にかかわってこられた慶應義塾大学 福永興壱先生。今回は、HOT患者さんやHMV患者さんにとって不安の大きい大震災をはじめとした災害発生時において訪問看護師さんに期待することについてうかがいます。 >>前編はこちら在宅呼吸管理の進歩で「自宅に帰りたい」を実現/福永興壱先生インタビュー 慶應義塾大学医学部 呼吸器内科 教授福永 興壱(ふくなが こういち)先生1994年に慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学大学病院研修医(内科学教室)、東京大学大学院生化学分子細胞生物学講座研究員、慶應義塾大学病院専修医(内科学教室)、独立行政法人国立病院機構南横浜病院医員、米国ハーバード大学医学部Brigham Women’s Hospital博士研究員、埼玉社会保険病院(現:埼玉メディカルセンター)内科医長、慶應義塾大学医学部呼吸器内科助教、専任講師、准教授を歴任。2019年6月に教授に就任し、2021年9月より同大学病院副病院長を兼任。2023年現在、日本で結成されたコロナ制圧タスクフォースの第二代研究統括責任者を務める。 東日本大震災発生時は患者さんの安否を確認 ―今年も新年早々、わが国では大きな震災に見舞われました。近年、毎年のように全国で自然災害が発生しています。在宅で酸素療法(HOT)や在宅人工呼吸療法(HMV)を受ける患者さんにとって災害は大きな不安要素ですが、例えば東日本大震災のとき、先生はどのような対応をされましたか。 患者さんにとってもっとも深刻なのは「停電」の問題です。HOTもHMVも電源の確保が必要不可欠です。電気の供給が止まってしまうと、生命に直結しますから。 東日本大震災が起こったときは、東北だけでなく、関東でも数時間にわたる停電が何度も起こりました。あのとき、当院では患者さん一人ひとりに電話をかけて、状況確認を行いました。当院の患者さんのすべてが在宅医療を受けているわけではないからです。特に心配だったのは、外来に月1回来られる患者さんたちのこと。電話をかけると、皆さん、すごく安心してくださいました。 また、物資面でも医療機器メーカーさんと連携して対応しました。当院の患者さんのリストを作成し、それをメーカーさんに渡したところ、酸素流量から必要な容量を計算して、患者さん一人ひとりに酸素ボンベを届けてくれたんです。心強かったですね。患者さんも、「メーカーの人が酸素ボンベを届けてくれるから」と伝えると安心されていました。 日ごろの病状把握が災害時のトリアージにつながる ―自然災害が発生したとき、在宅で療養されている患者さんに対して訪問看護師さんが果たせる役割や、日ごろから意識してかかわってほしいこと、期待することを教えてください。 先ほどお話しした患者さん一人ひとりへの電話での状況確認の際、月1回外来にいらっしゃる患者さんもその電話で安心してくださったのですが、訪問看護を利用している患者さんはより重症な方が多く、訪問看護師の皆さんはもっと密接に患者さんにかかわっていると思います。だからこそ、災害時に訪問看護師の皆さんとコンタクトをとれることが患者さんの安心感につながるはずです。災害時に迅速に患者さんとコンタクトをとる方法を日ごろから考えていただくことが重要なのかなと、あのときの経験で思いました。 また、HOTを受ける患者さんの状態にもレベルがあります。例えば、動かなければ何とかSpO₂ 90%以上を保てる方もいますよね。患者さんの病状が分かる訪問看護師さんであれば、コンタクトをとるときに「今はあまり動かないで静かにしていましょう」と安静を促すことができます。一方、高流量の酸素療法を受けている患者さんであれば、酸素は命綱ですから、いち早く酸素ボンベを持って行かないといけません。 訪問看護師さんは、われわれ以上に患者さんの病状を把握していると思います。担当患者さんが多くても、日々の病状によってトリアージすることが可能になるのではないでしょうか。既に実施されている方も多いと思いますが、日ごろから病状を把握していることが「緊急時のトリアージにつながる」、そういう観点で普段から備えていただけると、患者さんも安心されるのではないかと思います。 COVID-19で感じた大学の一体感 ―2020年には新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が世界規模で流行しました。先生はCOVID-19に対する診療チームのリーダーをされていたとうかがっています。そのときのことも教えてください。 COVID-19のときは、慶應義塾大学全体で、それこそ臨床と研究が協働してCOVID-19に立ち向かいました。診療チームでは、呼吸器内科が先頭に立って、内科、外科、救急科、麻酔科など、さまざまな診療科が連携して患者さんに対応できる体制を整えていきました。 振り返ってもすばらしかったと思うのは、精神科の先生たちが「心のケアチーム」をつくってくれたことです。今でこそ「心のケア」は当たり前のように普及していますが、患者さんだけでなく、看護師をはじめとする医療従事者に対しても専門家がしっかりと心のケアにあたってくれました。 有用な医療情報に積極的にアプローチを ―最後に訪問看護師さんに向けてメッセージをお願いします。 結核病棟を持っていた国立病院で働いていたころ、そこで初めて在宅医療や訪問看護に触れ、地域医療の重要性を実感しました。現在のようなシステム化されていない時代の肺がん患者さんを、その病院の医師や地域の訪問看護師さんは非常にきめ細かくケアされていて、疼痛コントロールや酸素量の調整など、最期の看取りまでかかわっていらっしゃいました。そのときに初心にかえったというか、やはり医療は一気通貫なんだ、こうして成り立つのだと感動した覚えがあります。 在宅での看護は、病院のように整った環境で行う看護以上の大変さがあると思っています。在宅には患者さんの「生活」があります。そのため、訪問看護師さんは患者さんの生活を理解できないといけない、そう考えています。その一方で、在宅酸素療法の指導や援助もそうですが、近年、訪問看護で実施される医療処置の件数は年々増加しています。在宅での看護力が高まっている証だと思いますが、新たに学ぶことも増えてきているのではないでしょうか。生活を支えるケアだけでなく、高度な医療的ケアを実践するには最新の知識と技術が必要だと思います。 近年、デジタル化が急速に進み、手軽にアクセスできるWeb情報も増えています。さまざまなところで発信されている有用な医療情報に積極的にアプローチし、現場での問題解決に活用していただきたいと思います。学び続けることで自分の心の負担も減らせるでしょうし、レベルアップにも役立つ。それが結果的には患者さんのケアにつながっていくはずですから。取材・執筆・編集:株式会社照林社

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