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訪問看護のケアで後悔・葛藤したエピソード【訪問看護のつたえたい話】
訪問看護のケアで後悔・葛藤したエピソード【訪問看護のつたえたい話】
特集
2024年1月16日
2024年1月16日

訪問看護のケアで後悔・葛藤したエピソード【訪問看護のつたえたい話】

訪問看護の仕事は、時に自分の力不足により迷惑をかけてしまうことや、適切な支援ができないこともあります。また何が正しいのか、どういう支援をするのが良いのか答えが出ず葛藤する場面に遭遇することもあるでしょう。「みんなの訪問看護アワード2023」から、そうした後悔や葛藤を感じたエピソードを5つご紹介します。 「終末期ケアで大切なもの」 「最適な看取り」とは何かを考えさせられるエピソードです。 訪問看護を始めて3年目のころ、乳がんの末期のOさんを受け持ちました。娘さんとは疎遠だったものの病気の悪化もあり、介護に協力してくれるようになりました。娘さんと過ごせることがOさんの喜びになっているのが、お話を聞くだけで伝わってきました。しかし、癌が悪化し、痛みが強くなってきたころ、入院をすすめられたOさんですが、「病院は嫌、家にいたい」という気持ちが強く麻薬を使いながら、訪問回数を最大限まで使い、自宅での生活を続けました。最初は娘さんも介護を頑張っていましたが、次第に疲労がたまり、変わりゆく母の姿が悲しくなってきていました。薬で意識が朦朧となる中、Oさんの目から涙が溢れたことが忘れられません。結局、娘さんの身体を考え、入院を選択し、Oさんは1週間後に病院で亡くなられました。私は看護師としてどうしたら1分1秒でも長く娘さんとの時間を過ごすことができたんだろう、自宅で娘さんの腕の中で最期を迎えることはできなかったのかと後悔が募ります。その人らしい看取りとはなんなのかということをOさんのケアを通して考え、まだ私の中ではっきりとした答えが出ていません、この答えを探すため、奮闘しています。 2023年1月投稿 「『みんなよく頑張りました。本当に楽しかったです。』と妻。」 末期の利用者さんを支えるご家族に寄り添う看護師の葛藤や感謝が綴られたエピソードです。 57歳、男性、脳腫瘍の末期で、訪問看護が導入された患者さん。余命宣告を受けてから1年経過、抗がん剤治療を受けながら、病院から在宅診療となりました。副作用のこともあり次の抗がん剤は希望されず経過を見ることとなりました。軽度の右麻痺や巧緻障害などがある中、妻は献身的にご主人を支えておられました。てんかんや吃逆など、長引きはしない症状もあり、いつ急変してもおかしくない状況で入浴介助を行い、状態観察をしていました。BSCの方向で、病院から紹介されていたのですが、在宅生活が2ヵ月以上安定した所、妻より、急変したら、病院に行き、最善のことをしてあげたいと言われ、奥様の意見に傾聴し、訪問医へ相談していました。末期の患者さんを支える家族の葛藤は計り知れず、看護師としての立場だけでは、どう寄り添っていけば良いのか、答えが見つからず、苦悩している矢先に、下血で急変しました。意識レベルが低下した状態で、止血剤、胃薬、補液の点滴で、意識が回復され、そこから、寝たきりの状態から数日経過し、コロナ禍の中、病院では難しい、親戚、友人との面会もでき、永眠。最後の妻の言葉がタイトル通りです。奥様に感謝です。 2023年1月投稿 「自分のエゴとの葛藤と1つの答え」 利用者さんと家族との希望が相違したとき、悩むケースは多いでしょう。その時々の状況や環境で判断することはもちろん大切ですが、「やりきることの大切さ」を学んだエピソードです。 訪問でのリハビリテーションの考え方を学ばせていただいた経験です。その方は難病を患いながらも自宅での生活を送られておりました。しかし徐々に病状は進行し、家族の手を借りる場面が増えていきました。本人の希望は「家にいたい」、家族の希望は「いずれは施設」。私自身としては、本人の希望をお手伝いしたく生活面や運動に対する指導を繰り返し行いましたが、いつまでも反映されず…。いつしか、熱の入った指導は自分のエゴなのでは?と思うことが増え、徐々に消極的な介入にシフトしていきました。その後も状況は好転せず、最終的に本人の希望しない施設入所が決まりました。サービス終了後、本人の理解が得られるまで戦い続けなかったことを強く反省しました。仮に将来的にも理解されないままだったとしても「こちら側が先に手を引くことは本当に後悔が残る」こと、また「人様と関われる時間は有限である」という認識を持つ大切さを学ばせていただきました。 2023年2月投稿 「辞めたい自分が出会えた看護のカタチ」 このまま看護師を続けるべきか…。葛藤を抱えていたからこそ、利用者さんが前向きになってくれたエピソードです。 「私は訪問看護師です。」とまだまだ自信を持って言えない半年くらいの話。私は病棟の看護師を2年くらいで辞めて、先輩の紹介で同世代の訪問看護ステーションに入社。うまく打ち解けられないし、仕事も慣れたけどなんだかやりがいも感じない。そんな日が続いていて。たくさん失敗もしてもう辞めてしまおうかなって思ってた。そんなときに出会った患者さん。高齢の旦那さんと二人暮らしだった。口癖は「もう私はいいんだ、いつ死んでも」。だからご飯もリハビリももう食べたくもやりたくないとベッドでずっと寝ながら話してた。褥瘡があったから、毎日訪問をした。その人はお店をやっていて、いつも行くとこのようなことを言いながら笑顔で迎え入れてくれた。逆にその方が私の話を聞きたいと言ってくれて話してるうちに色々な感情が溢れて泣いてしまった。たくさん聞いてくれた。その後から相手も少しずつ私に色々話してくれるようになり、「あなたのためにも頑張らないと!」とご飯も少しずつ進んで、歩く量も増えた。この時の行動は訪問看護師としては失格だと思う。だけどその時の自分でしか見つけられなかった患者さんの思いだなと感じた。 2023年1月投稿 「なんもできないけど」 新人訪問看護師として、どうすればいいかわからない。悩みながらも寄り添う努力を続けたエピソードです。 「お前なんかなんもできないんだから帰れ!」怒鳴られても側にいたい。そう思っていました。利用者さんは70才男性。膵癌末期。現役の造園業で職人気質。同居の孫は父親がなく、重度の知的障害児でした。自分が死ぬと残された家族はどうやって食べて行けばいいのか…体調を崩すと不安で焦慮し、訪問の際には予後予測の質問攻めでした。ある夜、陰嚢が腫れているから管を入れて水を抜いてほしいと連絡があり緊急訪問。管を入れても腫れはひかないことを再三説明しても納得されず、怒鳴られる始末。浮腫が全身に広がっており病態は悪化傾向。訪問看護を始めたばかりの私はどうしていいか分からず、涙をこらえてただ側にいることしかできませんでした。何もできないけど、側にいて体をさする毎日。そのうち私に笑顔をくれ、体を摩っている間は、穏やかに熟睡されるようになりました。未熟な私でも寄り添うことができていたのでしょうか…今でも思い出します。 2023年2月投稿 看護に絶対や正解はない 今回は、支援する中での葛藤や後悔したエピソードをご紹介させていただきました。実際に訪問看護をしていると、「こうすればよかった」「あのときこっちを選択していれば」「もっと自分に力があれば」と感じることがあるでしょう。しかし、看護には「絶対こうすれば成功する」「こうすることが正しい看護だ」という答えはありません。大切なのは利用者さんやご家族のニーズを捉え、どのように看護を提供していくことがいいのかを考えて、誠心誠意実践していくことなのかもしれません。どこか看護倫理の原点でもあるナイチンゲール誓詞を思い出すようなエピソード5つでした。 編集: 合同会社ヘルメースイラスト: 藤井 昌子 第2回「みんなの訪問看護アワード」エピソードの募集は終了いたしました。たくさんのご応募ありがとうございました。>>イベント詳細はこちらから第2回「みんなの訪問看護アワード つたえたい訪問看護の話」 特設ページ

せん妄への対応【精神症状の緩和ケア】
せん妄への対応【精神症状の緩和ケア】
特集
2024年1月9日
2024年1月9日

せん妄への対応【精神症状の緩和ケア】

身体疾患を抱える患者さんの中には、不安や抑うつ、不眠といった症状を呈し、ケアが必要な方がいます。今回のテーマは「せん妄」です。在宅で特に問題となる「過活動型」の事例をもとに、訪問看護師ができる支援について考えたいと思います。 せん妄とは意識障害を主体としたさまざまな精神症状を呈する状態。不穏や興奮、落ち着きのなさがみられる過活動型と、傾眠や活動性の低下がみられる低活動型に分けられる。身体の不調や薬剤の使用などによって急速に発症するのが特徴。 がん患者さんにみられるせん妄 せん妄は終末期のがん患者さんにはよくみられる症状です。予後1ヵ月程度の場合には30~50%、予後数日から数時間では80%以上の方がせん妄を経験するといわれています1)。このことからも在宅でのがん患者さんの看取りにかかわる上でせん妄は避けては通れない問題であることが分かります。 事例:Bさん(80代、男性、妻と2人暮らし)  直腸がんでストーマを造設し、ご自身でストーマ管理を行ってきたBさん。術後に化学療法を受けてきましたが、病気の進行もあり、BSC(ベストサポーティブケア:積極的ながん治療は行わず、症状の苦痛緩和を主に行うこと)に移行。また、自宅での看取りを希望され、訪問診療と訪問看護が開始されました。 Bさんは倦怠感が強く、寝ていることが多いのですが、トイレとシャワーだけは「自分でやる」と家族の手伝いを断り、気丈に振る舞われています。ご家族はふらつくBさんを心配しながらも、Bさんの意思を優先し、見守っていました。 Bさんの異変 ある朝、「ベッドからBさんが滑り落ちてしまった。よくわからないことを言って、私の言うことも聞いてくれない」と妻から連絡が入りました。訪問看護師が急いで駆けつけると、Bさんは床に寝たままの状態で、視線も合わず、意識の混乱が見られます。訪問看護師は、Bさんに声をかけながら全身状態を確認し、外傷もないようなので全介助でベッドへ戻し、医師に臨時の往診を依頼しました。 妻に状況を詳しく聞くと、実は最近Bさんは日が暮れるころになるとおかしな発言をすることがあり、気になっていたと話されました。今日も、明け方にBさんがつじつまの合わない話をし始めたと思ったら、ベッドの上で立ち上がろうとして、おしりから滑り落ちたとのことでした。 訪問看護師は、Bさんの言動がいつもと異なることからせん妄を疑いました。症状のアセスメントを行い、今後の対策を考える必要がありそうです。 アセスメントツールでせん妄の有無を評価 せん妄かどうかの評価はアセスメントツールを活用するとよいでしょう。さまざまなツールがありますが、ここでは国立がん研究センター東病院で開発された「せん妄アセスメントシート」(図1)を紹介します。このアセスメントシートにはせん妄のリスク評価から予防ケア、せん妄症状のチェック、せん妄出現時の対応までがステップごとにまとめられています。順番にチェックしていくことでせん妄対策が行える有用なツールです。 図1 せん妄アセスメントシート 国立がん研究センター東病院「せん妄アセスメントシート」(先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野より許諾を得て転載)https://www.ncc.go.jp/jp/epoc/division/psycho_oncology/kashiwa/090/20171115095243.html(2023/9/15閲覧) 早速シートに沿ってBさんの症状を評価します。まず、「STEP1 せん妄のリスク」です。Bさんの場合、「70歳以上」の項目が該当しますので、そのまま「STEP2 せん妄症状のチェック」に進みます。Bさんの様子を観察すると、視線が合わずにキョロキョロしており、つじつまが合わない言動が見られます。時間を確認してみると「うるさい」の一言しか返ってきません。STEP2に記載されている項目に複数当てはまるため、そのまま「STEP3 せん妄対応」へと進み、介入策を検討することにしました。 せん妄の治療とケア 「STEP3 せん妄対応」にも記載されているとおり、せん妄が起こったときに大切なのはせん妄に関係する因子のアセスメントを行い、改善が可能な因子に積極的に介入することです。せん妄には「準備因子」「直接因子」「促進因子」があること(図2)を念頭に、改善や除去が可能な因子があるかアセスメントし、介入策を検討します。 それとともにせん妄を起こしている患者さんの苦痛に十分配慮し、積極的な薬剤の使用を医師や薬剤師に相談します。Bさんのケースでは臨時の往診の後、リスペリドンを処方してもらいました。 図2 せん妄の発症 Bさんの場合、直接因子としては薬剤の影響、促進因子としてはがんによる疼痛が考えられます。そこで、疼痛緩和目的でモルヒネを頓用で使用し、安定した疼痛コントロールを行うことに。同時に、家族が服薬で苦労しないように、鎮痛のベースをテープ剤に変更したり、Bさんが自分で剥がせない適切な貼付位置を妻に指導したりといったサポートを行いました。薬剤師にも相談し、Bさんの処方薬を見直し、服用する薬剤を極力減らすようにしてもらっています。 自宅の環境を生かした対応 Bさんはベッド上で起き上がったり、転倒の危険があるのに一人で動いたりしています。このようなせん妄の症状から万が一のことを考え、転倒してもけがをしないように、低床ベッドを導入し、ベッド横のフローリングには布団やクッション、マットなど自宅にある衝撃を吸収できるものを敷くことにしました。 また、Bさんは昼間に寝てしまい、明け方に症状が活発化し転倒したことから、昼夜のリズムを整えるケアも必要です。例えば、日中はテレビをつけっぱなしにして生活の中の音が途絶えないようにし、午睡を避ける対策をとりました。自分の家にいるという安心感を最大限活用しながら工夫できることを検討し、実践していきました。 家族が安心して介護できるようにサポート 在宅では家族の介護力を確認し、必要に応じてサポートすることも大切です。病院とは異なり、在宅ではせん妄の症状が起こったとき、家族が対応しなければなりません。Bさんがつじつまの合わない話をし始めたり、そわそわと落ち着きがなくなったりした場合にどう応じるのがよいのかを妻と時間をかけて話し合いました。 Bさんは終末期せん妄を発症していると思われ、それはお別れの時が近づいているサインでもあります。不可逆的なせん妄である可能性も伝えた上で、Bさんの発言に対応する具体的な方法を説明しました。例えば、理論的に答えを返すのではなく、「そうだね」と相づちを打って同意を示す、否定的な声かけはしない、低めの落ち着いた声でゆっくり話すほうがよいといったようなことです。 また、対応に疲れてしまったときは、病院や施設などの利用を検討することも大切であり、つらいときにはいつでも相談してほしいと伝えました。困ったときにサポートできることを保証するのも訪問看護師の大切な役割です。在宅におけるせん妄へのケアでは、ご家族の苦痛にも目を向け、支えていく態度が求められます。 その後、妻は「自分一人では夫の面倒を見られないけれど、夫は最期まで自宅にいたいと思うから」と話し、それまで消極的だったホームヘルパーを積極的に利用するように。娘とも連絡をとり、娘家族が頻繁に家に訪ねてくるようなりました。 Bさんはつじつまの合わない発言はあるものの、薬物療法を開始したこともあり、落ち着いて過ごせる日が多くなりました。そして、孫に氷を口に入れてもらって、家族に囲まれながら最期のひと時を過ごし永眠されました。 * * * 在宅におけるせん妄への対応は、自宅がもつ環境による癒しの効果を最大限に活用して行います。そこが病院での対応と大きく異なる点です。せん妄が出現したときに、寝ること、食べること、トイレに行くことなど、生活に必要な動作を安全に行うにはどのようなサポートが必要か。また、ご家族がどのように対応したいと思っているかを話し合いながら、できる限り今まで送られてきた日常生活の様子を壊さないような調整を心がけてみてください。せん妄の症状があっても、残された時間を穏やかに過ごせるようなアイデアをご家族と一緒に考えてみるのはいかがでしょうか。 執筆:熊谷 靖代野村訪問看護ステーションがん看護専門看護師 ●プロフィール聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。 編集:株式会社照林社 【引用文献】 1)小川朝生著.「せん妄」,森田達也,木澤義之監修,西 智弘,松本禎久,森 雅紀,ほか編.『緩和ケアレジデントマニュアル第2版』.東京,医学書院,2022,p.329.

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2024年1月9日
2024年1月9日

雪国の訪問看護のお悩み…。ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

雪国の訪問看護は家の出入りも大変… 寒い地域では、雪が積もっていて利用者さんのお宅に入れないこともあるにゃ。一生懸命雪かきするけれど、時間に追われているから焦るにゃ…! 雪が多いエリアでは、雪かきをしないと訪問先に入れなかったり、訪問が終わったあとも雪に阻まれてすぐに帰れなかったりします。訪問看護師さんからは、「帰るときに車が雪に埋まっていて困った」「夜間のオンコールのときや、吹雪のときには特に困る」「1日のスタートが駐車場の雪かきから始まるステーションもあるらしい」といった声が寄せられました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

麻疹・風疹の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説
麻疹・風疹の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説
特集
2024年1月9日
2024年1月9日

麻疹(はしか)・風疹(三日はしか)の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説

感染力の強い感染症として知られている麻疹・風疹(麻しん・風しん)。浮腫状の皮疹や目の充血などを合併している場合は麻疹、広範囲にわたる発疹やリンパの腫れなどを合併している場合は風疹の可能性があります。麻疹・風疹の予防接種は子どものころに行うケースが多いですが、年齢によっては大人も再び接種したほうがよいでしょう。特に妊婦が感染した場合は、胎児に影響を及ぼす可能性があるため要注意です。訪問看護の利用者さんはもちろん、自身・ご家族の健康管理のためにも、麻疹・風疹について確認しておきましょう。 この記事では、麻疹・風疹の症状や原因、合併症や大人の予防接種などについて詳しく解説します。 麻疹とは 麻疹(はしか/ましん)は、麻疹ウイルスの感染によって急性の全身症状が現れる感染症です。症状や原因、感染経路、発生状況について詳しく見ていきましょう。 症状 麻疹ウイルスに感染すると、潜伏期10~12日を経て発症し、発熱や鼻水、咳などの上気道炎症状、結膜炎症状が現れて次第に増強します。発熱は2〜3日続き、その後に39℃以上の高熱とともに特有の発疹が耳後部、頚部などに現れ、顔面や体幹部および四肢末端にまで広がります。最初に出現する発疹は鮮紅色扁平ですが、皮膚面より膨隆し、後に不整形の斑状丘疹状皮疹となります。起こり得る合併症は肺炎や中耳炎、脳炎などで、中でも脳炎は1,000人に1人の割合で発症します。そのほか、10万人に1人程度の割合で、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という中枢神経疾患を発症することがあります。 原因 麻疹の原因は、麻疹ウイルスの感染です。2023年9月時点において、日本国内由来の麻疹ウイルスは認められておらず、海外由来のウイルスによる感染事例のみ見られています。 感染経路 麻疹ウイルスは、空気感染・飛沫感染・接触感染によって、人から人へ感染します。感染力は非常に強く、免疫を持たない人が感染した場合の発症率はほぼ100%です。なお、一度感染し発症すると、免疫が一生続くとされています。 発生状況 麻疹は、2007~2008年にかけて10~20代を中心に流行しましたが、2008年から5年間、中学1年生(12~13歳)および高校3年生(17~18歳)に相当する年代に2回目の予防接種を受ける機会を設けた結果、2009年以降の患者数は大きく減少しました。 2015年3月27日には、日本が麻疹を排除できていることを世界保健機関西太平洋地域事務局が認定しています。 風疹とは 風疹(ふうしん)は、風疹ウイルスの感染によって引き起こされる急性の発疹性感染症です。症状や原因、感染経路、発生状況について詳しく見ていきましょう。 症状 風疹ウイルスに感染すると、約2〜3週間の潜伏期間の後に発熱や広範囲にわたる発疹、リンパ節腫脹(耳介後部、後頭部、頚部)などが現れます。起こり得る合併症は脳炎、血小板減少性紫斑病などで、その頻度は2,000人〜5,000人に1人程度です。 原因 風疹の原因は、風疹ウイルスの感染です。厚生労働省は2017年12月に「風しんに関する特定感染症予防指針」を一部改正し、翌年2018年1月に施行。風疹の感染者が一例でも発生した際は、調査を迅速に実施することに努めるとともに、ウイルス遺伝子検査によって診断することとしました。 感染経路 風疹ウイルスの感染経路は、飛沫感染です。発疹が現れる前後約1週間は感染リスクがあり、風疹への免疫を持たない集団において、1人の風疹患者から5〜7人にうつす強い感染を有する1)とされています。 発生状況 1990年代前半までは、約5年周期で大規模な流行が発生していました。その後、幼児が予防接種の対象になった関係で一時的に流行が落ち着いたものの、2002年から局地的に流行。その後、予防接種の勧奨や疫学調査の強化などの対策によって流行が抑制されたものの、2014年から2017年にかけて多数の発生報告が見られています。このように、局地的な流行が度々見られることから、最新情報を随時チェックして対策することが重要です。 大人が麻疹・風疹にかかるとどうなる? 大人が麻疹・風疹にかかると、子どもと比べて発熱や発疹が長く続くほか、ひどい関節痛が起きることが多いとされています。 麻疹・風疹に妊婦がかかるとどうなる? 麻疹・風疹に妊婦がかかることには、次のような問題があります。 先天性風疹症候群のリスクが高まる 風疹の免疫が不十分な妊婦が妊娠20週頃までに風疹ウイルスに感染すると、胎児は白内障や網膜症、難聴、心疾患などの先天性異常を引き起こす先天性風疹症候群に罹患する恐れがあります。 麻疹は重症化リスクが高い 麻疹は妊娠中に感染しても胎児に先天奇形が生じる確率が低いものの、妊婦自身の重症化や流産・早産のリスク増加などが懸念されます。 風疹・麻疹のワクチン 風疹麻疹混合ワクチンを1歳になったら1回、小学校就学前の1年間にもう1回打ちます。ワクチンに期待できる効果や再接種について詳しく見ていきましょう。 ワクチンに期待できる効果 厚生労働省によれば、風疹麻疹混合ワクチンの予防接種を受けることにより、95%ほどの人がウイルスに対する免疫を獲得できるといわれています。1回目の接種で免疫を得られなかった場合でも、2回目を接種することで多くの人が免疫を獲得できます。 抗体検査を受けて必要であれば再接種する 接種から数年後には免疫が低下することがあるため、その後も免疫を維持するために追加のワクチン接種を受けることが大切です。特に、妊娠の予定がある方は、重症化リスクや胎児の先天性風疹症候群などの観点からなるべく受けることが望ましいでしょう。 1962~1978年生まれの男性は要注意 1962(昭和37)年~1978(昭和53)年生まれの男性は、子どものころに風疹の予防接種を受けていない可能性が高いでしょう。感染を広げるリスクを抑えるためにも、早めに予防接種を受けることが重要です。 * * * 風疹・麻疹は、長期にわたる発熱や発疹のほか、重篤な合併症が懸念されるため、免疫が低下していると考えられる場合は早めに予防接種を受けることが大切です。今回、解説した内容を自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【引用】1)厚生労働省.「風しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html(2023/12/21閲覧) 【参考】〇厚生労働省.「麻しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html(2023/9/25閲覧)〇厚生労働省.「風しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html(2023/9/25閲覧)〇政府インターネットテレビ「昭和37~53年度生まれの男性の方へ ~生まれてくる赤ちゃんを守る“風しん対策”」(2019/12/3)https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg19934.html(2023/9/25閲覧)

訪問看護認定看護師 活動記/中四国ブロック
訪問看護認定看護師 活動記/中四国ブロック
コラム
2023年12月26日
2023年12月26日

後進に繋ぐ在宅看護への想い【訪問看護認定看護師 活動記/中四国ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 中四国ブロック、杉本 由紀子さんのご登場です。杉本さんは現在、訪問看護ステーションでの後進育成を行うと同時に、看護大学で教鞭をとっています。 今回は、地域包括ケアシステムの中で訪問看護師が担う役割の重要性や、新卒訪問看護師輩出への想いなどを教えていただきます。 執筆:杉本 由起子訪問看護認定看護師/人間環境大学松山看護学部(地域・在宅看護学領域)・AOIケアリングステーション非常勤勤務大阪府出身。看護学校卒業後、大学病院等に勤務。結婚、出産後「目指したい看護」を模索し、「在宅終末期看護、在宅看取り」実践のため1995年より訪問看護ステーションに勤務。2012年 群市医師会に地域連携室を開設、「厚生労働省在宅医療連携拠点事業」や在宅緩和ケア推進モデル事業受託。2016年仲間と訪問看護ステーションを立ち上げ、2021年から現職。2001年 介護支援専門員資格取得2010年 訪問看護認定看護師教育課程修了2017年 大学院看護研究科看護学専攻臨床看護学分野高齢者看護学博士前期課程修了2021年 看護大学に勤務し、立ち上げた訪問看護ステーションでアドバイザー的役割に従事 海を超えたネットワーク! 私が所属する日本訪問看護認定看護師協議会の中四国ブロックは、美しい島嶼(とうしょ)部の浮かぶ瀬戸内海を超えたネットワークが自慢です。私が入会した当初は3人のメンバーでしたが、今では10倍近いメンバーになりました(2023年11月現在)。 ここ数年、ブロック長を中心に力を入れている活動は、「臨床推論」「在宅看取り」の講義です。臨床推論は主に新人訪問看護師を対象に開催し、ファシリテーターの役割を訪問看護認定看護師が担っています。 また、中四国エリアの特徴として、在宅・慢性期領域パッケージを含む認定看護師教育課程在宅ケア分野が徳島大学にあることも大きいでしょう。認定資格を取りやすい立地環境のため、メンバーの年齢層は幅広いです。訪問看護創設期を率いてきた世代はいわゆる「訪問看護第一世代」と呼ばれますが、その想いを引き継いだ第二世代、介護保険が始まって以降の第三世代のメンバーもおり、幅広い知識や情報の共有がしやすいことも誇りです。 中四国ブロックメンバーの訪問看護認定看護師も在宅ケア認定看護師も、みんなで協力し合って日本訪問看護認定協議会を盛り上げています。 訪問看護師は地域包括ケアのキーパーソン! 私の在宅看護実践における大きな経験・強みは、「在宅医療連携推進事業」のモデル事業に参加し、地域文化を重視したシステム作りに従事できたことです。 地域包括ケアシステム構築のためには、在宅医療の推進が必須。また、地域独自の方法を早急に確立することが求められています。難易度が高いながらもこれらの事業を無事に完遂できたのは、訪問看護認定看護師教育課程で培った、「実践・指導・相談」の学びがあったからこそです。 多職種との交流や、職種を超えたネットワーク・チーム作りのためには、情報共有のための共通言語化が欠かせません。多職種間を繋ぐことは訪問看護師の地域での大事な役割でもありますので、経験を生かして「顔の見える関係作り」に貢献できたと思っています。 訪問看護認定看護師として新たな働き方へ 2016年に訪問看護ステーションを立ち上げた際の経験についてもご紹介します。以下の3つのポリシーを掲げてスタートしました。 地域住民ファースト開かれたステーション地域課題の発見 例えば、休日・休日料金を設定しない。山間部エリアも活動エリアとする。いつでも地域住人や多職種からの相談を受け付ける。そして、地域の方々とのコミュニケーションを通じて地域課題を見つけることを心掛けてきました。 3人の仲間で開設した訪問看護ステーションも、現在ではケアマネジャーや多職種を含め30名あまりのスタッフ数に。機能強化型訪問看護ステーション1の算定もできるようになりました。現在私は、相談役として訪問看護ステーションに在籍し、臨床現場の後輩育成に関わっています。 また、訪問看護認定看護師としての活動を生かし、看護教員としても働いています。「看護を語る」ことや「在宅終末期看護の魅力」を看護基礎教育の場で学生に伝えていくことで、一人でも多くの学生に在宅看護に興味を持ってもらいたいと思っています。 新カリキュラムがスタートし、「地域・在宅看護」の教育を受けた看護学生たちがどんどん世に出ていきます。これからの地域包括ケアへの強い味方・担い手として、多くの新卒訪問看護師が誕生することを夢見ています。 * * * 「あきらめない看護実践」の場として、在宅看護はキラキラ輝いています。ご利用者さんやご家族とともに、希望を叶える。そんな現場が訪問看護にはあります。そして、どうか仲間とともに多くの「看護の語り」をしてください。その経験は、自己の成長に必ず役に立ちます。 ※本記事は、2023年11月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部 【参考】〇厚生労働省.「在宅医療の推進について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061944.html2023/11/9閲覧〇一般社団法人全国訪問看護事業協会.「訪問看護ステーションにおける 新卒看護師採用及び教育のガイドブック策定事業  報告書」(2016年3月)https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/H27-3.pdf2023/11/9閲覧

「社会的処方」 定義&具体例
「社会的処方」 定義&具体例
特集
2023年12月26日
2023年12月26日

政府も推進する「社会的処方」 定義&具体例 リンクワーカーは何をする?

「社会的処方」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? この言葉は、政府の「経済財政運営と改革の基本方針」(「骨太方針」)でも使用され、学会や論文でも目にする機会が増えました。孤独・孤立対策推進法も成立し、今後ますます医療や介護の場、さらに市民活動の現場においても耳にする機会は増えていくでしょう。注目されている「社会的処方」について、定義や具体例・課題をご紹介します。 社会的処方の定義 社会的処方(social prescribing)とは 「処方」と聞いて、多くの方が思い浮かべるのは薬の処方だと思われますが、社会的処方は医療的な処置ではありません。患者や相談者を地域社会の活動・人物などにつなげることで生活を支援し、健康増進や生活の質(QOL)・ウェルビーイングの向上を目指す取り組みを「社会的処方」といいます。従来は主に医療者が行うものとされてきましたが、最新の定義では医療者以外の市民同士が社会資源とのつながりを利用して人を元気にする取り組みも社会的処方と呼ぶようになってきています。 昨今、心身の健康は生物学的要因以外でも健康の社会的決定要因(SDH=Social Determinants Of Health)、例えば貧困や住環境、友人・家族関係、そして孤立によって影響を受けるという考え方が広まってきています。 孤立に対応する社会的処方に関連する活動は、日本においても民間団体や自治体レベルで行われてきましたが、政策に組み込まれ始めたのは「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太方針2020)のころです。骨太方針2020では、社会的処方について以下のように定義されています。 かかりつけ医等が患者の社会生活面の課題にも目を向け、地域社会における様々な支援へとつなげる取組81についてモデル事業を実施する。 81 いわゆる「社会的処方」と呼ばれる取組。 内閣府 「経済財政運営と改革の基本方針 2020~危機の克服、そして新しい未来へ~」(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2020/2020_basicpolicies_ja.pdf)より抜粋 社会的処方 発祥の地はイギリス 社会的処方の発祥はイギリスです。1980年代から自主的な活動としてスタートしていましたが、2006年にはイギリス保健省もその活動を紹介。国全体に関心が広がっていきました。社会的処方が外来診察・入院等を減らしたという調査報告もあり、2018年には補助金も準備され、孤独対応の政策のひとつとなったのです。 その結果、イギリス国内では社会的処方のネットワークが構築されており、GP(一般医・家庭医)が必要だと判断したら、専門の研修を受けた「リンクワーカー」と呼ばれる職種につなぎます。そしてリンクワーカーが、患者や相談者を地域の人やコミュニティにつながる役割を担っているのです。 日本における社会的処方の取り組み 近年、少子高齢化、核家族化や晩婚化、インターネットの普及など、さまざまな原因で人と人とのつながりが希薄になっています。家族や地域のコミュニティとの接触がない「社会的孤立」状態の人は増えており、社会問題になっています。「地域包括ケアシステム」「地域共生社会」の達成を目指す日本政府は、健康づくりや疾病の重症化予防に効果がみられるイギリスの社会的処方に注目しました。 そして、新型コロナウイルス感染症の蔓延をきっかけに、2021年には内閣官房に「孤独・孤立担当大臣」および「孤独・孤立対策担当室」が設置され、いくつかの都道府県において社会的処方のモデル事業を開始。政策の一環として社会的処方の運用が始まりました。2023年6月には「孤独・孤立対策推進法」が成立しています。 社会的処方の具体例とその特徴について 社会的処方の具体例 では、社会的処方とはどのような取り組みなのでしょうか。イメージするために具体例をみてみましょう。 例: あなたは、「気力が湧かなくてつらい」と言っている50代女性Aさんに出会った。夫婦二人暮らしで、夫以外の他者と関わる機会は月に数回という状況である。 この事例の場合、「つらいようだったら精神科の受診を」というアドバイスのみで終わるケースが多いかもしれませんが、社会的処方でのアプローチを考えてみます。 イギリスで社会的処方を推進しているSocial Prescribing Networkは、社会的処方の基本理念に以下の3つを挙げています。 「人間中心性」:その人に合ったつなぎ先をみつけること「エンパワメント」:その人の持つ力を引き出すこと「共創」:その方に合う社会資源が地域コミュニティになくても、一緒に創っていこうという考えで動くこと まったく症状や原因が同じ場合、医療の現場であれば処置や薬の処方箋は同じになるかもしれませんが、「人間中心性」「エンパワメント」を考慮すると、対象者に応じて社会的処方は変わってきます。その人の持つ力はなんなのかを知るためにも、押しつけがましいつなぎ方をしないためにも、すぐに解決策を示すのではなく、掘り下げてお話を聴いていきます。 以下のようなお話を聴けたとしましょう。 原因・状況を深掘りするAさんは、子どもが全員巣立ったことをきっかけに、喪失感や空虚感を抱くようになっていた。子どもの成長とともに保護者同士の付き合いは減っており、ご近所付き合いは元々希薄。 子どもの教育費を稼ぐためにパートに出ていたが、更年期障害の症状が重かったことをきっかけに辞めている。教育費の負担が減ったため経済的には困窮しておらず、就労の希望はない。精神科を受診することに対しては抵抗感を持っており、「そこまでではない」と思っている。その人の好きなこと・興味のあることを知る 「私には何のとりえもない」とAさんは言っていたが、自宅には猫の写真が飾ってあり、猫の小物がいくつか置かれていた。 「猫、お好きなんですか?」と聞くと、過去に猫を飼っていたこと、かわいかった様子を話してくれた。今も猫は好きだが、夫の反対もあり再び飼うことは難しいとのこと。 次に、地域につなげられないかを考えていきます。「つなぎ先」は、人物、企業、行政、地域コミュニティなどさまざまで、現状は行われていない活動を提案するのもよいでしょう。この例では、「猫が好き」という点にピンときたあなたは、以下のような対応を取りました。 近所に保護猫カフェがあり、店番や猫のお世話をするボランティア募集の貼り紙があったことを思い出した。Aさんにそれとなくそのことを伝えてみると、興味がある様子。そのお店のオーナーに連絡をとり、Aさんを紹介。Aさんは無理なく週に1回からボランティアを始めた。楽しくやりがいある活動や人・動物との出会いを通じて、生き生きした様子になった。 * * * 地域で孤立する人が増えている中、訪問看護師が利用者さんやそのご家族から、疾患・ケア以外の部分で相談に乗る場面も多いでしょう。社会的処方の取り組みは、ぜひチェックしておきたいところです。次回は、リンクワーカーを誰が担うか?といった課題をはじめ、日本に社会的処方のしくみを導入する際の問題点をみていきます。 >>次回の記事はこちら社会的処方の課題&重要性 誰がリンクワーカーを担うか 監修: 西 智弘(にし・ともひろ)医師/一般社団法人プラスケア代表理事/川崎市立井田病院腫瘍内科 部長(化学療法センター、内科兼務)2005年北海道大学卒。2012年から中原区在住。日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医。川崎市立井田病院で「早期からの緩和ケア外来」を立ち上げ。2017年、神奈川県川崎市に「医療者と市民とが気軽につながることができる場所」をつくりたいとの思いのもと、「一般社団法人プラスケア」を設立。『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』(学芸出版社)、『だから、もう眠らせてほしい(晶文社)』など著書多数 一般社団法人プラスケア神奈川県川崎市での「暮らしの保健室」や「社会的処方研究所」の運営を行っている。「社会的処方研究所オンラインコミュニティ」では、国内外の情報をシェアするほか、イベント・講演を実施。URL:https://www.kosugipluscare.com/ 執筆・編集: NsPace編集部 【参考】〇西 智弘編著 『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』(2020、学芸出版社)〇澤 憲明他 「英国における社会的処方 社会疫学に関連した取り組み・研究と総合診療」https://www.orangecross.or.jp/project/socialprescribing/pdf/socialprescribing_1st_02.pdf2023/11/24閲覧〇内閣官房「孤独・孤立対策の重点計画」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/juten_keikaku/r03/index.html2023/11/24閲覧〇内閣官房「孤独・孤立対策推進法」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/suisinhou/suisinhou.html2023/11/24閲覧〇内閣府 「経済財政運営と改革の基本方針 2020~危機の克服、そして新しい未来へ~」https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2020/2020_basicpolicies_ja.pdf2023/11/24閲覧〇内閣府「経済財政運営と改革の基本方針 2021 日本の未来を拓く4つの原動力~グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策~」https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2021/2021_basicpolicies_ja.pdf2023/11/24閲覧

利用者さんの急変や在宅死に遭遇したら【訪問看護 緊急時の対応法】
利用者さんの急変や在宅死に遭遇したら【訪問看護 緊急時の対応法】
特集
2023年12月26日
2023年12月26日

利用者さんの急変や在宅死に遭遇したら【訪問看護 緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは利用者さんの急変や在宅死を発見したときの対応法です。 訪問看護ではめずらしくない急変や在宅死 訪問看護の利用者さんには重症度の高い方や、ADL(日常生活動作)は自立していても重度な内部疾患を抱えている方が多くいらっしゃいます。そのことも影響して訪問看護の現場では病状の急変や在宅死は決してめずらしい出来事ではありません。 訪問したときに利用者さんが倒れていたら、あるいは亡くなっていたら、どう行動すればよいでしょうか。現場ではさまざまなシチュエーションが考えられます。それぞれの場面における対応方法を見ていきましょう。 急変や在宅死への対応法 ※NsPace編集部注:死亡診断にまつわる基本的な対応方法については、日本看護協会の資料もご参照ください。日本看護協会「在宅看取りの推進に向けた死亡診断の規制緩和について」 主治医に連絡し事前の取り決めに基づき対応 例えば予後不良な末期がんや末期心不全などの利用者さんでは、急変による死亡の可能性について予測がつきます。通常は訪問診療を受けていることが多いので、主治医との連携や連絡体制が整っていると思います。緊急時や呼吸停止していた場合、まずは主治医に連絡しましょう。基本的には事前に打ち合わせしている内容や、指示書に基づき対応します。 なお、主治医への電話連絡では利用者さんの受診状況によって工夫が必要です。地域のかかりつけ医に受診しているのであれば、比較的主治医と連絡をとりやすいですが、総合病院や大学病院などを受診している場合、連絡してもつながりにくいことがあります。そのようなときは、外来や退院連携室の担当者に連絡し、主治医に伝えてもらうとよいでしょう。 ここからは、医師に連絡することは大前提として、蘇生が望める場合と死亡していると思われる場合に分けて対応方法を解説します。 蘇生が望めると判断したら救急要請 呼吸および脈拍や意識レベルなどの身体状況から、救急車を要請するか否か判断を迫られる場面に遭遇することもあります。緊急時における事前の取り決めがなければ、わずかでも生活反応を確認できた時点で救急要請を行います。救急車を待っている間、医療職として利用者さんの蘇生に全力を尽くしましょう。 死亡と思われる場合は警察に連絡 一方、原因が分からず明らかに死亡していると思われる場合、警察に連絡します。私たちは訪問しているのでご本人がどういう病状であったかは分かっていますが、死亡原因がその病気によるものなのかは分かりません。検視が必要となります。警察の到着を待って、事情聴取に応じ、警察が必要とする情報を提供します。 ここで大切なのは、警察が到着するまでの間、できる限り利用者さんの身体や周囲の物に触れないということです。よほどの事件性がない限り、少々触れたとしても問題にはなりませんが、死亡の原因がご本人の病状によるものと判断できたとしても不用意に触らないことが望ましいです。 関係各所への連絡も忘れずに 急変時、死亡時ともに、利用者さんに関係する人たちへの連絡も重要な任務です。ご家族やケアマネジャーなど連絡先として情報を得ている方がいるはずです。身内がいない場合は、地域包括支援センターや行政窓口の高齢福祉課、生活保護課、保健衛生部など、日頃やりとりをしている担当者に連絡します。 また、ステーションに状況を報告します。この後に続く訪問調整の相談も忘れないでください。次の訪問予定時間に遅れが生じ、ほかの利用者さんに迷惑をかける事態を防ぐことも大切です。 急変や死亡が予測できなかった事例 訪問したらいつもどおりにケアを提供できることがほとんどですが、長く訪問看護師を続けていると、予想外の出来事に遭遇します。次に示す2事例は、筆者が経験した事例です。いずれも独居の男性であること、急変や死亡の予測ができなかったことは共通していますが、プロセスに若干の違いがあります。 環境の大きな変化を経験したAさん 高齢の母親と二人暮らしをしていたAさん。生活の多くの部分を依存していた母親が急死。突然独居となり、本人の生活が成立しなくなります。 以前から他人に自宅に入られたくないと訪問看護に消極的でしたが、主治医からのすすめもあり、週1回の訪問看護は受け入れていました。母親が高齢のため、保健師や地域包括支援センターの担当者はAさんがいずれは独居になる事態を予測し、本人が困らないように準備を整えていました。ところが母親の突然の死に訪問介護の準備が間に合わず、訪問看護を週2回に増やし、生活支援も含め対応することになりました。 ある日のこと、訪問予定時間に自宅にうかがい、呼び鈴を押しましたが応答がありません。玄関前で電話をかけますが、それにも応答なしです。玄関は施錠されており入室することもできないため、一旦ステーションに引きあげました。 数時間後に再度訪問するも状況は変わらず。普段の様子から長時間留守にされることはなく、何となく不安になりました。担当の保健師に報告し協議をしたところ、翌日Aさんの受診が予定されていることもあり、お互いに悩みながらもそのまま様子をみることにしました。 受診当日、本人が病院に行ける状態かどうかを確認するため、再度自宅に出向きましたがやはり応答がありません。平常時の本人の状態からすると異常事態としか考えられず、警察に連絡しました。現場に到着した警察に通報に至った経緯を説明します。警察であっても室内には勝手に入ることはできないようで、侵入可能か否かの判断はガイドラインに基づき対応しているようでした。 室内に入ると、リビングで倒れているAさんを発見。意識レベルが低下(JCS 300)していましたが、呼吸しており脈拍も何とか触れる状態です。警察が救急車を要請し、入院になりました。その後、訪問看護師から保健師はじめ関係者に一連の報告をしています。 うつ病を抱えたBさん Bさんはうつ病の診断を受けています。病気で就労できなくなり、復職の見通しが立たないつらさや、生活に対する不安の訴えもあり、訪問看護が開始されました。訪問看護は週1回の利用です。 訪問日にうかがい、呼び鈴を押しますが応答がありません。ドアノブを回してみると施錠されておらず、ドアを開けることができました。ドアを開放したまま、声かけしながら入室すると、押し入れに上半身を突っ伏した状態のBさんがいました。 状況からみて明らかに死亡していると確信したため、警察に連絡。警察はさらに救急隊に連絡し、到着した救急隊がBさんを確認し搬送する状態にないと判断しています。その後、監察医が訪問し検案を行い、警察がご遺体を搬送していきました。訪問看護師の役割は、警察から訊かれたことに対し情報提供することです。そして、地域でかかわっていた方に報告し、任務終了です。 Bさんのケースでは、病名から自殺という結果も考えられ得るわけですが、どういう状況であっても、看護師として死亡していると判断できたならば、本人の周囲には触れることなく、警察に通報します。 ただし、どうしても触れる必要がある場合、自分一人だけで触れることがないようにしてください。ほかの人がいるときに触れる目的を伝えてから実行します。もちろん現場保存の意図もありますが、後々、ご家族や身内の方から「物がなくなった」と疑われないようにするためでもあります。 もしものときのために普段から話しておく 訪問看護は常に今回紹介したようなアクシデントに遭遇する仕事だと思っています。急変や在宅死への対応のポイントをまとめます。 日ごろからご本人含め在宅医療にかかわるメンバーで急変時や死亡時の対応を事前に取り決めておく。急変時、事前の取り決めがなければ救急要請を行い、蘇生に全力を尽くす。原因が分からず死亡していると思われる場合、身体や周囲のものには触れず、警察に連絡する。警察にはきちんと情報提供を行う。 予後不良な利用者さんの場合、訪問時に緊急対応が発生する可能性が高いと予測されます。状態の把握に努め、いざというときにあわてず対応できるようにしておきましょう。また、予後不良の利用者さんに限らず、通常の訪問時からご本人のアドバンス・ケア・プラニング(ACP)の支援を通して、どのような医療やケア、対応を望んでいるのかを確認しておくことが大切です。独居の方であれば「いざというとき、家に入ってもよいですか」「カギはどうしましょう」など、想定されることはご本人やご家族と事前に取り決めます。そして、それらの情報を記録として残し、関係者と共有します。初めからあれこれ聞くことは難しいと思いますが、利用者さんの病状によっては初回訪問時に確認しなければならないこともあるでしょう。もしものときに備え、普段から意向を聞いておけるとよいですね。 * * * 利用者さんの急変や死亡事例は訪問看護師にとって深刻な事態ですが、起こったことだけでとらえるのではなく、そのことに至るまでのプロセスや関係性が重要です。ご本人が望む生き方や死の迎え方を私たちは日頃の訪問看護を通して知ること。その思いに寄り添うことが最期の時までに課せられた訪問看護師の役割と考えます。 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社

在宅のスキンケア がん性創傷(自壊創)
在宅のスキンケア がん性創傷(自壊創)
特集 会員限定
2023年12月19日
2023年12月19日

がん性創傷のケア アセスメントと痛み・滲出液・出血・臭気対策

がん性創傷は、皮下に生じたがんが発育して皮膚を破り創傷を形成したものです。創傷には、皮膚に生じる皮膚がんや、他臓器からの転移、治療や副作用で生じた創傷などがあります。がん性創傷は、治りにくく、さまざまな苦痛を伴います。 今回は、看護の実践場面で遭遇するがん性創傷について、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、創傷の特徴とスキンケアのポイントを中心に解説いただきます。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 がん性創傷の原因と経過 まずは、がん性創傷の原因となるがんと創傷の様子について、写真付きで確認していきましょう。 がん性創傷の原因となるがん 原発性がん原発性皮膚がん切除後の局所再発皮下軟部組織の肉腫・口腔底がん・肛門がん・子宮がんなどが皮膚に浸潤している場合乳がん(未治療な状態でがんが皮膚に浸潤し発育している場合)皮膚がん(悪性黒色腫・有棘細胞がん・扁平上皮がん・基底細胞がん・乳房外パジェット病など)転移性がん手術時にがん細胞が創部に移植されて発育する場合頸部・腋窩・鼠径部などのリンパ節転移病相が発育して皮膚を破る場合血行性やリンパ行性に皮下に転移した病巣が発育する場合 胃がん悪性リンパ腫 がん性創傷の臨床的特徴は以下のとおりです。 がん性創傷の臨床的特徴1) 進行性であり難治性である滲出液、臭気、出血、痛み、かゆみなどの身体的な苦痛を伴う臭いや容姿の変化による羞恥心、病状に対する不安などの精神的苦痛、疎外感や生きがいの喪失など霊的苦痛を伴うがん性創傷そのものが物理的障害となり、あるいは体動時痛を伴うことにより日常生活動作が低下する 治りにくく、ケアは生涯続く可能性も 皮膚に表出した皮膚がんは外科的に切除されますが、病期によっては切除が困難な場合もあります。転移性がんは、原疾患の治療が基本です。転移性であることから、放射線療法や化学療法、ホルモン療法などにより縮小に期待ができますが、完全に消失させることは困難な場合が多いでしょう。また、終末期の療養者の場合、低栄養や貧血、免疫機能の低下や自己治癒力の低下などにより、創傷の治癒が遅延しやすい傾向に。それにより、感染や壊死に至るリスクも高くなります。 創傷は身体のさまざまな部位に生じます。形態や症状、経過なども人それぞれです。皮膚に転移したがんが初期の場合、腫瘤として触知されますが、その後の経過で炎症症状が出現し、さらに創部の自壊が進行すると、痛みや出血、滲出液や臭いなどの症状を生じます。 がん性創傷は治りにくい創傷であり、ケアは生涯続く可能性があることを念頭に置きましょう。局所のさまざまな症状による身体的、精神的、社会的な苦痛を理解した上で、支援を検討することが大切です。 がん性創傷 アセスメントのポイント 療養者本人は、がんの進行に伴いさまざまな心身の変化を生じます。中でも創傷を有する療養者の場合、創部のケアや症状によって身体的苦痛が増すことや、精神的な不安や苦痛を伴うことも。本人や家族が、できる限り安楽な日常生活を継続できるように、療養者の苦痛や生活を考慮した上で、QOLを重視した多面的かつ全人的なアセスメントを行うことが必要です。 アセスメントのポイントは以下のとおりです。 現病歴の経過 がんの種類がんや創傷の治療内容と経過使用薬剤の種類合併症の有無 身体・生活状況 日常生活動作の状況 創傷が生活に与える影響:日常生活動作、排泄、食事、清潔ケア、睡眠、衣服、外出、仕事、家事、就学など栄養状態:体重の減少、食事摂取の状況・創傷への影響 局所の状態 創傷の状態:創部の部位・大きさ・深さ・多臓器への浸潤など創傷の症状:痛み、出血、滲出液(量・色調・臭気)、臭い、掻痒感、壊死の状況、炎症の有無、感染の有無などケア時の症状:痛み、不快感、疲労感、倦怠感など創周囲皮膚の状態:発赤、びらん、潰瘍、浸軟、疼痛、掻痒感など 精神的・社会的状況 抑うつ、不安、恐怖、悲嘆、苦悩、気力の低下など本人が創傷やがん(治療含む)に対し、どのように受け止めているか本人がどのような不安を抱き、どのように対応していきたいと望んでいるかボディイメージの変化をどのように受け止めているか創傷によって生活がどのように変化したか家族や友人などとのコミュニケーションの状況本人と家族の希望精神的な支援体制の状況 経済的な負担 創傷ケアにかかる衛生材料などの費用創傷ケアを行う時間や労力など社会資源サービスの利用にかかる費用など 痛み・滲出液・出血・臭気のスキンケア がん性創傷のケアは、全身を含めた創傷の症状コントロールと、その人と生活に合った最善のケア方法を本人・家族と一緒に考えることが大切です。また、できる限り容易でシンプルなケアにすることを意識しましょう。 基本的なケア方法は、 洗浄により創部を清潔に保つ創部の壊死組織を除去する創傷治癒を促進するために創部の湿潤環境を保つ創周囲皮膚を保護する などです。 本項では、がん性創傷の特徴である、痛み、滲出液、出血、臭気に対するスキンケアをご紹介します。 痛みに対するスキンケア がん性創傷の痛みの要因は、創傷ケアに起因するもの(ドレッシング材の接触・除去、洗浄など)、炎症・感染に起因するもの、がんの浸潤に伴うもの、創傷に対する外的刺激に伴うもの、創周囲皮膚のトラブルなどがあります。 ◯スキンケア時のポイント ケアを行う前に予防的な鎮痛剤を使用するドレッシング材を除去する際は、あらかじめ生理食塩水などを用いてドレッシング材を湿らせておき、濡らしながらゆっくり丁寧に除去する※洗浄のスキンケアにおいても、生理食塩水を用いることが基本であるが、水道水でも問題はない創面の乾燥を予防するために、油性基材の軟膏を用いる※軟膏はドレッシング材に塗布する使用するドレッシング材は、非固着性ガーゼや創傷被覆材などを選択し、剥離刺激による出血や痛みを予防する医療用テープなどで固定する場合は、低刺激性の医療用テープを使用して剥離による痛みを軽減する※あらかじめテープ貼付部位に非アルコール性皮膚被膜材などを使用する方法も 滲出液に対するスキンケア がん性創傷は、自壊が進行すると滲出液が増加します。滲出液の管理には、滲出液の量に応じたドレッシング材の選択が必要です。多少の滲出液をドレッシング材で回収することにより、下着や衣類への汚染が予防できます。 ◯スキンケア時のポイント 使用するドレッシング材は、吸収性に優れた非固着性ガーゼや吸収パッドを併用する創傷被覆材を使用する場合は、ハイドロファイバーやアルギン酸カルシウムなどを用いる軟膏を使用する場合は、吸水力に優れたマクロゴールやポリマービーズ含有のものを用いるドレッシング材の交換頻度は、滲出液の量に応じて検討するストーマ用装具を用いたパウチング、Mohs変法(モーズ変法:腫瘍組織を硬化させる)、ホルマリン、フェノールの塗布などで滲出液を軽減する方法もある 出血に対するスキンケア がん性創傷は、腫瘍部分が露出しているため毛細血管から血液が滲み出てくることも。腫瘍部は血流に富み、組織は脆弱であることから出血しやすい特徴があります。また、創面が広範囲である場合や血小板減少や出血傾向がある場合などは、出血量も多くなります。場合によっては、がんの浸潤による動脈の破綻などで大出血を起こす場合も。 がん性創傷による出血は、出血による全身状態の悪化をもたらすほか、止血死の可能性、療養者本人や家族の大きな心理的影響など、深刻な問題に繋がります。また、止血が困難な場合もあるため、血液で汚染された部分が目立たないような工夫など、本人や家族への細やかな配慮と心理的サポートも重要です。 ◯スキンケア時のポイント■止血時の対応 出血点をガーゼなどを用いて圧迫止血する出血点に、創傷被覆材(アルギン酸カルシウム材)を用いる ■ドレッシング材を剥離する際のポイント 生理食塩水などを用いて濡らしながらゆっくり丁寧に除去する創部の洗浄を行う際は、創を擦らない創面に接触するドレッシング材は、非固着性ガーゼを用いて剥離時の刺激を軽減するドレッシング材の固着を予防するために、油性基材の軟膏を用いる(軟膏はドレッシング材に塗布する) 臭気に対するスキンケア がん性創傷は、自壊が進行すると、壊死した腫瘍の代謝物質、嫌気性菌による感染などを原因とする臭気を伴うようになります。 ◯スキンケア時のポイント 可能な限り洗浄のスキンケアを行い、壊死組織や分泌物を取り除き創面の清浄化を図る臭気の軽減を図るために、カデキソマーヨウ素製剤やメトロニダゾール軟膏などを用いる※カデキソマーヨウ素製剤やメトロニダゾール軟膏は、細菌負荷を軽減するともいわれている※クリーム基剤のスルファジアジン銀などを用いると創面の水分量が過剰となり、ケアに困難さを生じたり、創周囲皮膚が浸軟したりする場合もある使用済みのドレッシング材は、速やかにビニール袋に入れて回収する臭気を低減する、消臭スプレーや消臭シートなどを使用する * * * がん性創傷は、療養者本人と家族のQOLの向上に貢献できるよう、チームによる支援が必要です。本人や家族の望む人生を安楽で快適に継続できるように、創傷の症状コントロールを行い、本人の緩和ケアを最優先した継続的なサポートが重要であるといえます。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。編集: NsPace編集部 【引用】1)松原康美,蘆野義和.『がん患者の創傷管理 症状緩和ケアの実践』,照林社,2007,p.20 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』,日本看護協会出版会.2022.〇松原康美,蘆野義和『がん患者の創傷管理 症状緩和ケアの実践』,照林社.2007. 〇内藤亜由美,安部正敏篇『Nursing Mook46病態・処置別スキントラブルケアガイド』,学研.2008.

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2023年12月19日
2023年12月19日

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護の現場では、疾患・障害等がある中でも懸命に前向きに生きる利用者さんがたくさんいます。「みんなの訪問看護アワード2023」に投稿されたエピソードから、利用者さんの前向きな姿勢に力を分けてもらえるエピソードを5つご紹介します。 「今日はどこに行こうかな」 滅びの呪文は引きこもりがちだった過去の自分に向けた言葉だったのかもしれません。未来に歩み出した利用者さんの力強い姿が目に浮かぶエピソードです。 彼は今日も街へ繰り出す。下半身麻痺のため日中はずっと車椅子。母親も病気のため介護してくれる家族は居らず、独りで生活を送っている。40代と若い彼は自身の病気を嘆き何度も自分で人生を終えようとした事もある。そんな彼に関わりだしてもう5年以上が経った。デイに行っても周りは高齢者だらけで話も合わない。職員とは忙しくゆっくり話す時間もない。最初は人見知りかあまり進んで話してくれる事は無かったが、徐々に打ち解け何でも話してくれるようになった。ある日彼からジブリ展に行ってみたいとの相談があった。今まで引き篭もりがちだった彼からそのような言葉が聞けて私は驚いた。受診とデイ以外の外出は久し振りだと彼は楽しそうにしていた。帰り際、物販で購入したのは、バルスと書かれたTシャツだった。それ以降、彼は外出を躊躇わなくなった。破壊の呪文が書かれたTシャツを纏い、過去の自分を破壊するかの様に未来に向かって車椅子を漕いで行く。 2023年1月投稿 「お風呂と花見と自宅がいいよ!」 最後までやりたいことを諦めず追いかけ達成しきった利用者さんに、拍手を送りたくなるエピソードです。 末期前立腺がんの男性の訪問看護に入ることになった。某自動車メーカーの支部長さんで、「何してくれるの?」くらいアウェイな空気でスタートする。シャワー介助から介入し始めて、徐々に関係ができた時に「何かやってみたいことはありますか?」と尋ねると、しばらくして「花見に行きたい」。この時余生は2-3月と言われており、(難しいかもしれないけど、応援したいと思って)一緒に計画立てて、本人の努力もありお孫さんとの花見を実現。痛みや倦怠感のある中、乗り切った彼は「また行きたい、次は元同僚と」とコメントし、こちらも達成。その後、最後は病院でと言っていたのに「実は家で過ごしたい」と本音を打ち明け、家族会議を提案。奥さんも反対していたけど、折り合いつけてくれて、結果6月に永眠される。やりたいことを追いかけた結果、予後予測を乗り越えて自己実現されました。 2023年2月投稿 「酸素をしたマジシャン」 好きなことを追いかける目や身体には力が宿る…。目標や希望は人の原動力になることがわかるエピソードです。 重症COPDで在宅酸素療法をしている方のお宅を初めて訪問したときのことです。酸素流量が増え、トイレに動くのもままならなくなりつつありました。ベッドに腰かけ、会話で大きく息をつきながら生真面目に受け答えする高齢の男性でした。ふと部屋の隅に目を向けると、そこにはまぶしい白いスーツとハット姿で華やかにリボンの束を投げているご本人の写真が。よく見ると鼻には酸素カニュラが付いています。在宅酸素の患者さんの集まりでマジックショーを披露したときの写真でした。退職してから始めたマジックをお孫さんにも教えているとか。その話になると疲れたような表情から目が活き活きとして饒舌になり、ハンカチマジックを披露してくれました。ご本人は手つきに納得がいかない様子。訪問看護と訪問リハビリで少しずつ体力を取り戻そうとずっと頑張っていました。その人の生活の場に伺う訪問看護の現場では、人柄や生き様、周りの人たちとの関係が、情報としてというよりも感覚として捉えられます。今でも、近くを通るたびに自分のことをそっちのけでサービス精神が旺盛なマジシャンの姿を思い出します。 2023年2月投稿 「おばあちゃんの知恵袋」 前向きな発想の転換はまさに「知恵袋」。先人たちの知恵はいつも私たちを救ってくれます。 とある女性の利用者さん宅への訪問時、私の異変に気付いたのか、「今日はどうしたん?暗い顔して」と言われ、「実はこの後怒りっぽいおじいさんのところに訪問するんです。その日の気分で顔を見るなり怒鳴りつけられることも…」という話になったところ、「じゃあ、あんた一回気をもむたびに10円、20円と心の中で数えたらええやん。今日はいっぱい儲けておいで。」と言われました。なんとかしてその利用者さんを怒らせないように、自身の対応に何か間違いはないか…など色々考えていた私の心はすっかり晴れ、二人で大笑い。でもさすがにお金の事を考えるのはちょっと気が引けると伝えると、「じゃあ、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と心で唱えたらどう?」「でもその時、声を出したり、手を合わせたりしたらあかんで」と言うからまた二人で大笑い。今でも、難しい利用者に出会うと、私は心の中で呟いています。「今日も何事もありませんように。南無阿弥…」 2023年2月投稿 「初回訪問看護」 疾患に負けまいと未来に向け希望を抱く利用者さんと、それを支えようとする訪問看護師の前向きな姿勢にエールを送りたくなるエピソードです。 今日が退院後初回訪問看護。病棟からは躁状態になると易怒性が高く、家族トラブル、浪費、内服中断傾向と聞いている。躁状態の典型のような男性、わたしの苦手とするタイプ。病状悪化での暴力暴言のリスクも大きい。怖い、気が重い、玄関の扉も重い。部屋に入るとシェフとして働いていた時の写真がたくさん飾ってある。どれも大きな口を開けて、外国人のシェフと肩を組んで笑っている。今の本人は疲れた表情で大きなテーブルにぽつんと座り、「入院前から薬を飲み忘れてたくさん余っている」と大きな体を小さくまるめて申し訳なさそうにしている。庭には元気なころに植えられたであろうハーブたちがしょんぼりしていて、今の本人とかぶる。一般就労をまたしたいという希望を叶えるために、体力をつけて内服の飲み忘れを減らして、と考えることはたくさん。けれど、写真の彼のようにキラキラ笑って過ごせる日が来るようにと願い、いつの間にか重い心が軽くなっていた。 2023年2月投稿 利用者さんの生き様に触れる 利用者さんの前向きな姿勢や生き様は、関わる訪問看護師だけでなく読者にまで元気や力を与えてくれる、そんなエピソードばかりでした。訪問看護は医療者から一方向的にケアを提供するのではなく、双方的な関係性であることを改めて感じますね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子  第2回「みんなの訪問看護アワード」エピソードの募集は終了いたしました。たくさんのご応募ありがとうございました。>>イベント詳細はこちらから第2回「みんなの訪問看護アワード つたえたい訪問看護の話」 特設ページ

適応障害、不安、うつ状態への対応【精神症状の緩和ケア】
適応障害、不安、うつ状態への対応【精神症状の緩和ケア】
特集
2023年12月19日
2023年12月19日

適応障害、不安、うつ状態への対応【精神症状の緩和ケア】

このシリーズでは主にがん患者さんの事例を中心に、患者さんが訴える精神症状の問題にどう向き合えばよいかを考えていきます。今回のテーマは「適応障害、不安、うつ状態」です。 不安とは漠然とした不確実な恐れの気持ちが継続する状態。適応障害とは*「がん」という現実に直面したための精神的苦痛が非常に強く、日常生活に支障をきたしている状態。うつ状態とは*適応障害よりもさらに精神的な苦痛がひどく、身の置きどころがない、何も手に付かないような落ち込みが2週間以上続き、日常生活を送るのが難しい状態。*国立がん研究センター がん情報サービス「がんと心」を参考に作成https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc01.html(2023/9/15 閲覧) がん患者さんにみられる精神症状 がん患者さんは診断や治療を受ける過程でさまざまなストレスを抱え、その結果、不安や抑うつ、不眠といった精神症状をきたすことが知られています。こういった症状が日常生活に大きな支障をきたす場合には適応障害やうつ病などが疑われます。 特に適応障害は、高頻度に認められる精神症状であり、せん妄とうつ病がそれに続きます1)。なお、不安や抑うつなどの症状はがん患者さんだけでなく、心不全や呼吸不全のような非がん疾患の患者さんにも生じるといわれています2)3)。 病的な状態ではないにしろ、多くのストレスを抱える患者さんにかかわる際、精神的な問題がないかアセスメントし、支援を行うことが訪問看護師に求められています。Aさんの事例を通して患者さんの症状にどうかかわるかを考えたいと思います。 事例:Aさん(80代、男性、独居) 大腸がんで手術を受け、一時的にストーマを造設。ストーマ管理の目的で訪問看護を週2回利用しています。手術後に肝転移が見られたため、現在は化学療法を実施中も口内炎の痛みや倦怠感がひどく、今まで通っていたデイケアにも通えなくなってしまいました。家で過ごす時間が長くなり、気分がすぐれない日も多いようです。今回は化学療法について不安があるとの訴えがあったため、化学療法に詳しい看護師が訪問することになりました。 Aさんは、いつもと違う看護師に少し緊張した様子でしたが、徐々に慣れていき、以下のようなことを話してくれました。 口内炎ができてしまい食事のたびにしみてつらいことそれに伴い食事がおいしくないこと 化学療法を受けると身体がだるくなり、やる気も起こらず、気がつくと寝ているだけの生活になっていること 心配事を解決し不安を解消 Aさんの訴えを聞いた訪問看護師は、まずはAさんの心配事の解消が必要と考えました。化学療法による副作用や症状の出現時期、対応方法を具体的に説明し、Aさんの不安を軽減できるように働きかけました。ところが、Aさんは説明を聞いた後も表情が硬く、「心配事は解決できそうです」と話されるものの、とても解決したとは思えない様子です。 全人的苦痛(トータルペイン)の視点でケア Aさんの不安そうな様子に変化がないことから、訪問看護師は身体的なつらさだけではなく、精神的、社会的、スピリチュアルな面から包括的にアセスメントすることにしました。 一般的に、がん患者さんが直面するつらさ(苦痛)は身体的な面だけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルと多面に及ぶとされています。これを全人的苦痛(トータルペイン)と呼びます(図1)。緩和ケアでは患者さんに生じるさまざまな苦痛に対応するために、全人的なアプローチが必要です。 Aさんはがんの診断を受けてまだ間がありません。Aさんご本人の苦痛の強さや、世話をしているご家族の心配や負担の大きさ、日常生活に支障をきたしている程度を判断。問題があると感じた場合、精神・心理的問題にすぐに対処します。そのため、Aさんの状況を適応障害、不安、うつ状態の視点から一つずつ確認することにしました。 図1 全人的苦痛(トータルペイン)の理解 淀川キリスト教病院ホスピス編.「緩和ケアマニュアル 第5版」.最新医学社,大阪,2007,p.39より引用 適応障害 適応障害は、比較的明確なストレスを原因として3ヵ月以内に発症し、日常生活に支障をきたしている状態をいいます。適応障害への対応は支持的・共感的に話を聞くことと、ストレスを作り出している問題を把握し、その中から解決可能なものを選択し、介入することです。 Aさんは、がんの診断、ストーマ造設、化学療法、そして化学療法による副作用などで多くのストレスを抱えていることが想像されます。まずは、Aさんにストーマの受け入れ状況を確認してみることにしました。 するとAさんは「いつもと違う状況で突然漏れると不安だが、看護師さんに相談できるし、交換自体は自分でできるから不安はない。服を着ていると案外ストーマがあることも分からないしね。同世代の友人が便秘だ、下痢だと困っているのを聞くと自分のほうが楽かなとも思うよ」と話されました。 不安そうな様子はあるものの、大きな環境の変化であるストーマ造設については肯定的にとらえることができているようです。化学療法に関しても前向きに取り組みたいと考えているそうです。日常生活への支障や本人の苦痛が強くなった起点が明らかな場合、専門医の診察を医師に相談しますが、それには当てはまらないと判断しました。 不安 次に、不安についてアセスメントしました。不安は図2に示すように、気分、思考、行動、身体の症状として現れます。Aさんにこの4つの面について具体的な症状を確認したところ、不眠や食欲減退の訴えはありましたが、気分面や思考面、行動面の自覚症状はないようです。Aさんの日常の行動や心理的に大きな障害は認められず、専門的な介入が今すぐ必要な状態ではないと考えました。 図2 不安の症状 藤澤大介 「不安」.森田達也,木澤義之監修、西 智弘,森 雅紀,山口 崇編集,『緩和ケアレジデントマニュアル 第2版』,医学書院,東京,2022,p.323.より引用 うつ状態 うつ状態については、「落ち込みのチェックリスト」(図3)といったスケールを用い、現在の自分の心の状態を振り返ってもらうとよいでしょう。Aさんに「今、悲しい気持ちや気分の落ち込みなどを感じますか」と問うと、「気分の落ち込みがあきれるほどひどい」との答えが。どのくらいその様子が続いているのか、以前に同じような経験をしたことがあるのかを重ねて問いかけてみました。 するとAさんから次のような話が聞かれました。 「実は、若い時にうつ病を発症し、長い間病院に入院していたことがある。子どもたちにも話せていない。あの時と今の自分の状態が似ているなと思っても、それで病院に行きたいとか、誰かに相談したいとか、とても言い出せなかった。このような状態で治療を続けていると、何のために生きているのか分からなくなる。でも、いろいろしてくれる家族や先生(医師)に悪くて」 図3 落ち込みのチェックリスト(米国精神医学会のDSM-IV診断基準に準拠) 【チェックリストの使い方】まずは、1.2.の質問についてお答えください。 1.2.ともに「ない」という方重い落ち込みではないようです。1ヵ月に1度くらい、上記の項目をチェックしてみることをおすすめします。1.2.の両方、あるいはどちらか1つが「ある」という方3.~9.の質問に答えてください。3.~9.の質問で、「はい」と答えた数を数えてみてください。1.2.の数も合わせた合計が5つ以上で、かつ2週間以上続いている方は適応障害やうつ病の可能性があり、専門家による心のケアが必要と考えられます。まずは担当医や看護師、ソーシャルワーカーへ相談することをおすすめします。精神科、精神神経科、心療内科、精神腫瘍科の医師、心理士による心のケアが役に立ちます。 国立がん研究センターがん情報サービス「がんと上手につき合うための工夫」https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc03.html(2023/9/15閲覧) 医師への相談をAさんに提案 Aさんが話し終えた後、訪問看護師は今の自分の気持ちを言葉にして伝えてくれたことがとても大切であるとAさんに伝えました。その上で、Aさんが信頼している担当の医師にも今の話を率直に伝えてみてはどうかと提案。また、治療を受けている病院でも、不安やうつ状態のような精神症状について、希望すればきちんと診てもらえることを説明しました。 Aさんから疲れやすさと気力の減退が特につらいとの訴えがあったので、そのことも医師に伝えるように提案し、その後はアドバイスをせず、Aさんの気持ちを傾聴するよう心掛けました。 看護師が帰るとき、Aさんは「自分の中で抱えていたものを話せて気分が少し楽になった。今度、治療のときに先生に話してみようと思う」と話されました。表情も少し和らいだようにみえました。その後、受診している病院で医師に自分の精神面について相談し、現在は精神科のカウンセリングを受け、少しずつ快方に向かっているそうです。 * * * 多くのストレスにさらされるがん患者さんでは、最初の訴えが身体的なものであっても、その背後にはほかに影響する要因が隠れていることがあります。その可能性を常に念頭におきながら会話をし、傾聴し、支持的にかかわることが重要です。 症状を引き起こしている問題が解決可能な問題であれば、小さな問題から解決し、患者さんにかかるストレスを減らしていきましょう。問題の解決が難しい場合は気持ちや感情に焦点を当てた介入を行っていくことが必要です。ぜひ訪問する利用者さんの様子をよく観察し、「いつもと違う」と感じたら気持ちをたずねてみてください。 執筆:熊谷 靖代野村訪問看護ステーションがん看護専門看護師 ●プロフィール聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Akechi T, et al. Psychiatric disorders in cancer patients: descriptive analysis of 1721 psychiatric referrals at two Japanese cancer center hospitals. Jpn J Clin Oncol 2001; 31(5): 188-194.2)北野大輔.心不全に対する緩和医療.日大医誌 2020; 79(4): 235-239 3)津田 徹.非がん性呼吸器疾患の緩和ケアとアドバンス・ケア・プランニング.日内会誌 2018; 107(6): 1049-1055.

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