2024年9月24日
2024年度診療報酬改定 DX推進と今後の展望【セミナーレポート後編】
NsPace(ナースペース)では、2024年6月14日に、オンラインセミナー「2024年度診療報酬改定 訪問看護の注意点&今後の展望」を開催しました。講師にお招きしたのは、訪問診療医で、医療・介護分野のコンサルタントとしても活躍する久富護先生です。
今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、利用者さんの状態やDX推進に応じた変更点や、今後の診療報酬改定の見通しなどについてご紹介します。
※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。
>>前編はこちら2024 年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価【セミナーレポート前編】>>関連記事2024年度トリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉報酬改定)解説シリーズ
【講師】久富 護 先生医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医/株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 マネージャー/医療法人寛正会 水海道さくら病院 地域包括ケア部長/社会医学系専門医/医療政策学修士/中小企業診断士大学病院、民間病院に内科医として勤務する中で、医療・介護業界が抱えるさまざまな課題に直面。現在は訪問診療医として臨床現場に立ちつつ、業界の課題解決を目指し、行政や医療機関に対するコンサルティング支援も行っている。
緊急訪問看護加算の変更点
厚生労働省の調査で、緊急訪問看護加算を毎日算定している訪問看護ステーションが全体の約1%あるとわかり、訪問看護基本療養費の適正化のために緊急訪問看護加算の評価の見直しが行われました。具体的には、以下のとおり区分されています。
月14日目まで 2,650円月15日目以降 2,000円
多くの訪問看護ステーションでは従来どおり2,650円を算定できるかと思いますが、新たな算定要件として、訪問看護記録をつけること、加算理由を訪問看護療養費明細書に記載することが必要になりました。業務負担の増加をふまえると、緊急訪問看護加算は「実質減」と考えられるでしょう。
医療ニーズが高い利用者の退院支援の見直し
訪問看護管理療養費の加算として、「退院支援指導加算」が見直されました。これまでは「1回の退院支援指導が90分を超えた場合」のみ算定できましたが、利用者さんの状態によっては長時間の指導が難しく、頻回訪問が必要になるケースがあることから「複数回の退院支援指導の合計時間が90分超えた場合」も算定できるようになりました。なお、退院支援指導を実施した翌日以降に利用者さんが亡くなったり、再入院となったりした場合も退院支援指導加算を算定可能です(訪問看護基本療養費の算定は不可)。
訪問看護医療DXの推進
訪問看護の領域でも50円の「DX活用加算」が新設されました。現状では、オンライン請求を行い、オンライン資格確認ができる体制を整え、「医療DX推進の体制に関する事項及び情報の取得・活用等についての情報」を事業所内かウェブサイトに掲示することで請求可能です。
ただし、約1年間(2025年5月31日まで)の経過措置のうちに、オンライン資格確認プラットフォームの活用と「医療DX推進の体制に関する事項及び情報の取得・活用等についての情報」のウェブサイト掲載の両方を行う必要があります。なお、ウェブサイトには、以下の情報を明記しなくてはなりません。
・訪問看護事業を行う事業所であること・重要事項(運用規定概要、職員勤務体制、そのほかステーションが定める重要事項)※介護サービス情報公表システムに記載があれば不要・そのほか、診療報酬項目上求められるもの
また、レセプトのオンライン請求開始にあたり、訪問看護指示書に「傷病名コード」の記載が必須となりました。傷病名コードがない場合、監査で訪問看護ステーションにも指導が入る可能性があるため注意してください。
明細書の発行が義務化
明細書の発行が義務化されました。ただし、2025年5月31日までは、現行の領収証を領収証兼明細書※としてもよいとされています。
※▼領収証兼明細書の一例厚生労働省.「医療費の内容の分かる領収証及び個別の診療報酬の算定項目の分かる明細書の交付について」P.8https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001219498.pdf
診療報酬改定から見える国の方針
2024年度診療報酬改定にあたっては、今後2年間で議論してほしい内容をまとめた付帯意見が出されました。以下は、その概要をまとめたものです。
同一建物施設への訪問看護の規制強化
同一建物居住者への効率的な訪問診療、訪問看護体制の検討を今後さらに進めることが求められています。この2年間で締めつけはきつくなる可能性がある、と考えられるでしょう。
ICTのさらなる推進
中央社会保険医療協議会(中医協)は、ICTを用いた情報連携状況調査の実施を決定。これをふまえ、2年後はさらに踏み込んだ推進の方針が示される見込みです。
他事業者との連携への加算
訪問看護ステーションと他事業者の連携について調査し、実施している事業所に対して加算していく姿勢がうかがえます。
また、厚生労働省が診療報酬改定前に出した基本方針を見ると、働き方改革やDX関連、他事業者との連携、口腔・嚥下・栄養領域の医療の推進は、2022年度に続いてアップデートされています。これらの項目は、今後も重ねて改定されると予想できます。
訪問看護ステーションが今後とるべき方針
訪問看護の利用者数はこの20年間で約10倍になり、医療依存度の高い方がどんどん在宅領域に入ってくるようになりました。また、医療費も増大しています。それを受けて、訪問看護ステーションには、「質の向上」と「量へのさらなる対応」の両立が求められるでしょう。
「質の向上」に向けた具体的な取り組みとしては、重症度の高い方や重い精神疾患がある方への対応、専門資格をもった看護師の配置があげられます。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのセラピストによる訪問看護は、引き続き厳しい評価を受ける可能性が高いでしょう。
「量への対応」では、ICTの活用やタスクシフト・シェアによる効率化があげられます。訪問看護管理療養費の見直しのところで同一建物居住者数が全体の7割未満に設定されたように(前編を参照)、医療機関も訪問看護ステーションも、効率的な事業所に対する締めつけは強化される見込みです。
また、連携面の充実化も重要なポイント。訪問診療医やケアマネジャー、歯科領域との連携が利用者さんにもたらすメリットの調査も行われる予定となっているので、今から意識することをおすすめします。
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今回の診療報酬改定を総括すると、「医療保険と介護保険のすり合わせ」が行われた印象です。繰り返しになりますが、今後は質と量の双方を見据えた対応がより求められるため、組織づくりを含めたサービス提供環境の整備がますます重要に。ぜひ、その点を意識した運営を心がけていただければ幸いです。
執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア
【参考】〇厚労省.中央社会保険医療協議会 総会(第560回)議事次第.中医協 総-2.「在宅(その3)」(令和5年10月20日)https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001158972.pdf2024/8/29閲覧〇厚生労働省(2024).「令和 6 年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf2024/8/29閲覧