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家族看護 事例
家族看護 事例
特集
2023年8月29日
2023年8月29日

訪問看護師の家族看護 療養者のセルフケア&家族との関わり【事例紹介】

この連載では、訪問看護ならではの家族看護について「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を通して考えます。今回は、子どもに対する心配が大きく、過干渉になってしまう家族が登場します。訪問看護師はどう対処すればよいか困惑しますが、支援者である自分自身を深く見つめなおすことで状況が変化していきます。 事例紹介 Aさん(10代後半、女性) 有名進学高校に在籍していましたが、友人関係のトラブルが引き金となり、幻覚や妄想などの症状が出現し、統合失調症と診断されました。 数ヵ月の入院生活を経て、現在は休学し自宅療養中。全般的に意欲や自発性の低下が見られるものの、母親の送迎により週2回デイケアに通所しています。母親は日中仕事で不在のため、Aさん一人ではインターホンの対応ができず心配だとして、祖母に来てもらっています。 Aさんは携帯電話やSNSを利用して友人と交流を持ちたいと母親に訴えますが、発症前にSNSでの友人とのやりとりで落ち込むことがあったことを理由に、母親は携帯電話を持つことやSNSの利用を禁止しています。Aさんは残念そうではありますが、母親とぶつかることはなく、漫画を読んだり、テレビを見たりして、ほかのことで気を紛らせています。訪問看護師がAさんへ問いかければ、そつなく返事が返ってきますが、Aさんから積極的に話すことはありません。 家族構成 同居家族は、Aさんの父(50代、会社員)、母(50代、教員)、弟(高校生)の4人。近隣に住む母方の祖母が支援してくれています。母親は管理職のため多忙ですが、仕事の調整をしながらなんとかAさんの送迎を行っています。 訪問看護師の悩み(直面している課題) Aさんが携帯電話やSNSを利用して友人と交流を持ちたいと訴えても認めず、一人で留守番することにも難色を示す母親が、かえってAさんの自立を阻害しているように感じ、違和感を持っています。Aさんの力量をアセスメントして、母親にAさんの自立に向けた方法を提案したいと思いますが、母親がAさんの行動を強く統制しているためそれもできません。 そして、訪問看護師に対する母親の対応が威圧的に感じられ、母親にどのように関わったらよいのか糸口が見いだせず困っています。まだ訪問を始めて日が浅く、結局のところ、「心配だからダメ」という母親の話を一方的に聞くばかりで、深くは踏み込めないままに訪問が続いています。 渡辺式家族アセスメント/支援モデルで考える 検討場面の明確化 Aさんの願いを聞き入れもせず、Aさんを一人で留守番させることもしない母親。そんな母親に対して、訪問看護師は違和感を持っていました。どのように関わったらよいのか訪問看護師が困惑していた、この時期を取り上げて、Aさん、母親、訪問看護師に何が起こっていたのか検討したいと思います。 それぞれの文脈(ストーリー) ■訪問看護師訪問看護師はAさんの自発性を大切にし、Aさんの希望を叶えたいと思っていましたが、結局、母親の話を一方的に聞くという対処に終わっていました。背景にあったのは、Aさんの実際の力量がアセスメントできず、母親を説得する具体的な材料を持っていなかったこと、また母親の言動から考えを曲げようとしない頑なさに圧迫感を覚えていたことが挙げられます。 ■母親母親は、Aさんが携帯電話やSNSを利用して友人と交流を持ちたいという願いに困惑し、娘の願いを聞き入れず、自己のコントロール下に置くという対処をとったと考えます。その背景には、発症の引き金になったのが友人関係のトラブルであり、また同じことが起こるのではないかという不安や、何としても再発だけは避けたい、親として自分が娘を守らなければという使命感があったと思われます。 ■AさんAさんは母親から携帯電話を持つことやSNSの利用を禁止され、仲のよい友人に連絡できないことに困っていました。しかしAさんは、母親に強く不満を訴えることもなく、母親の判断に身を委ね、漫画を読んだり、テレビを見たりして、ほかのことで気を紛らわせています。その背景には、元々反抗期を経ておらず、母親の意見に従ってきた母子関係がありました。また、薬の鎮静効果による眠気や陰性症状による意欲低下があること、「母親が自分のことを心配してくれていることもわからないではない」という気持ちがあったと考えられます。 それぞれの関係性 次に母親、Aさん、訪問看護師の三者全体の関係性を俯瞰してみましょう(図1)。 ■母親とAさん母親はAさんをコントロールし、Aさんはそれに身を任せています。このままでは変化は起こらず、悪循環といえるでしょう。 ■Aさんと訪問看護師訪問看護師は、Aさんの気持ちを引き出そうと問いかけますが、Aさんはそつなく合わせるような対応です。対立や葛藤関係にあるわけではないですが、このままでは関係はなかなか深まらないと思われます。 ■母親と訪問看護師母親は、訪問看護師に対して期待はあるものの、何をどこまで期待できるのかが分からない状況です。再発への不安からとにかく今は自分の考えを通したいと主張しています。 まだ訪問を開始してから日も浅く、母親に対して関わりにくさを感じている訪問看護師は、母親に深く踏み込むことはせず、話を聞きながらAさんの主張に対してしかたなく応じています。訪問看護師は母親へのアプローチの方法を探っている状態だと思われます。 図1 Aさん、長女、訪問看護師の相互関係 パワーバランスと心理的距離 ここでは、母親と訪問看護師を取り上げて考えてみます(図2)。 母親の言動に圧迫感や関わりにくさを抱いていた訪問看護師のパワーは低くなっていたと思われます。一方、再発への不安が強く、何としても娘を守らなければという強い使命感に駆られていた母親のパワーは高いと考えられます。 両者の心理的距離はどうでしょう。お互いに関心を寄せていますが、娘を守りたい母親は境界を越えて訪問看護師へ迫っており、ベクトルもやや太くなっています。訪問看護師の方は、母親に対し何とか関わりの糸口を見つけようと、母親へ関心を向けながらもとどまっています。 図2 母親と訪問看護師のパワーバランスと心理的距離 アセスメントをもとに支援の方策を考える まずは、看護師のパワーを上げる必要があります。そのために、経験豊かなスタッフとの同行訪問を実施しました。これまでは母親に圧迫感を抱いていましたが、ベテランのスタッフとともにいることで安心感が得られ、落ち着いて母親の思いをじっくり聴き、話し合うことができました。 訪問看護師は、「友人関係で失敗してそれが再発につながるのが怖い」と訴える母親の気持ちを十分に受け止めるように努めました。そして、折に触れて「失敗はむしろ成功へのヒントになること」を伝え、訪問看護師として「失敗から学んで成長につなげることができるように支援すること」を保証しました。 また、母親に対し、Aさんの状況や母親の役割について繰り返し丁寧に説明しました。つまり、Aさんは病気を抱えつつも親からの自立という大切な発達段階を歩んでいる途上にあること、母親は自分自身の不安に圧倒されるのではなく、娘であるAさんを見守り自立を応援する段階にあることを伝えたのです。 Aさんに対しては、Aさんが自分の意思を尊重できるように「どうしたいのか?」と問いかけることを大切にしながら関わりました。 こうした支援により、母親は徐々にAさんの自立を見守れるように変わってきました。現在Aさんはデイケアに一人で通い、留守番もできるようになりました。一定のルールのもと携帯電話も使いこなしています。母親は過干渉になることもなく、Aさんとの距離感も良好なものとなっています。 事例におけるアセスメントと支援のポイント ●過干渉にならざるを得ない母親の不安の強さをアセスメントし、十分受け止めたこと●母親に苦手意識を感じる自分自身を認め、ほかのスタッフに応援を求めたこと●母親に、失敗は成功のヒントになること、またたとえ失敗しても成長につなげられるように支援すると保証したこと●母親に自立を促す役割の大切さを強調し続けたこと 執筆:株崎 雅子地方独立行政法人埼玉県立病院機構埼玉県立循環器・呼吸器病センター ●プロフィール2010年より「渡辺式」家族看護を学び、2023年「渡辺式」家族看護認定インストラクターを取得。現在は「渡辺式」の普及を目指し、急性期病院での活用や看護管理者への活用に向けて奮闘中です。 執筆:堤 真紀訪問看護ステーションみのり東京支店 所長 ●プロフィール2023年「渡辺式」家族看護認定インストラクターを取得し、現在は臨床だけでなく、家族看護の講義や執筆を行うなど実績を積み重ねています。 編集:株式会社照林社

ラダー&評価制度
ラダー&評価制度
インタビュー
2023年8月29日
2023年8月29日

訪問看護のラダー&評価制度 マネジメント層教育に残る課題への取り組み

訪問看護スタッフや管理者に対する評価制度としてラダーを採用しているソフィアメディ株式会社。今回は、特に「マネジメントラダー」における課題や、業界全体に求められる教育制度に関して、前回と同じくQM(クオリティマネジメント)推進グループの篠田 耕造さん、田中 麻奈美さん、福島 圭輔さんに、お話を伺いました。 >>前編はこちら訪問看護のラダー&評価制度 キャリアパスを「見える化」する意義 篠田 耕造さん/CQO(Chief Quality Officer)公立総合病院、専門病院、地域包括ケアを行う法人で、教育体制や業務プロセス・品質管理に携わりながら、MBA(経営管理学修士)・認定看護管理者を取得。日本看護協会教育委員・学会企画、岐阜県看護協会副会長等を歴任。JNAラダー・教育システム、管理者研修、医療経営セミナー講師などを行う。2022年よりソフィアメディ株式会社CQOに就任。田中 麻奈美さん作業療法士歴21年、ソフィアメディに在籍して13年目となる。訪問看護ステーションで従事していたが、産休・育休を機にキャリアチェンジし、バックオフィスの仕事も兼務。2020年よりQM推進グループに所属。スタッフ全般の育成プログラム作成、ラダー体制の整備などを行う。福島 圭輔さん理学療法士歴20年ほど。ソフィアメディには2013年に入社し、東京都大田区ステーション池上にてセラピストとして勤務。2016年分室であるステーション西馬込の主任セラピストとなる。2020年にバックオフィスへ異動。2020年から1年間採用担当、2021年からQM推進グループに所属し、管理者や主任など、マネジメント層に対しての育成、研修などを担当。※本文中敬称略 ※本記事は、2023年5月の取材時点の情報をもとに制作しています。 課題となるマネジメントラダーの作成 ─管理者に対する教育「マネジメントラダー」について教えてください。 福島: 現在QM推進グループでは、マネジメントラダーの作成も進めています。本来は全領域を網羅したラダーを一気に作成できるといいのですが、非常に難易度が高いため、段階的に作成しています。まずは、新任管理者を対象としたものから着手しました。先輩管理者から受けるOJTと、我々が作成するOff-JTが横軸で支援し、管理者を育成していきます。 また、弊社のビジョン、ミッションを達成するため、「管理者としてあるべき姿」の要件を挙げています。その要件を満たすための「6つの能力」を設定しています。「6つの能力」については、日本看護協会の病院看護管理者のマネジメントラダーを参考にし、そこから到達目標や具体的な基準と項目を加え、マネジメントラダーとして構築しました。 篠田:20代後半から30代前半の経験の浅い若手管理者がスタッフの育成や評価を行うのは、やはりハードルが高いものです。しかし、指定訪問看護事業所として、管理者が従業員の資質向上や研修の機会を確保する必要があり、新任管理者であっても育成・評価から事故・苦情対応まで幅広い役割が求められます。ですから、まずは新任管理者層を重視して育成し、プログラムについても現在作成している最中です。管理者育成の全体最適化はこれからですね。 QM推進グループ 打ち合わせの様子 縦軸と横軸でフォローを充実させていく ─Off-JTとOJTとも関わりがあるのですね。 篠田: はい、もちろん。QM推進グループではステーション支援の機能も持っており直接的なサポートも併せて行っています。マネジメントスキルの高い管理者が寄り添って行うOJT体制を推進しています。それらを「縦軸」とし、バックオフィスは、マニュアルを充実させる・研修を行う・システムを整えるといった「横軸」のフォローを行って、組織全体で新人管理者を支えるしくみを充実していきたいと考えています。いまが本格的に動き出した、というタイミングですね。 「QM推進グループで経験値の高い管理者を地域に派遣する」という支援方法もありますが、我々が目指しているのはそのようなかたちではありません。限られた人材でまわしていくのではなく、あくまでもステーションがあるそれぞれの地域に近い指導者が活躍してくれるのが理想ではないかと考えています。地域の特性や属性などを理解している人材を活かし、地域に根差すステーションをつくる、というところを目指したいんです。 全国的に訪問看護ステーションの量と質の拡大が求められる中で、一番の課題となるのは管理者不足と、その育成にあります。とはいえ、弊社は既に「管理者をやったことがないからできない」という言い訳ができる規模ではありません。全国にステーションを持つブランドとしてやるべきことは、そういった弱点といえる部分を放置せず、しっかりと支えて育成すること、リードタイムを短くしていくことではないかと考えています。もちろん、管理者以外のスタッフ育成やケアの質保証や向上に向けても整えていく予定です。 田中: たとえば、セラピストに関しても日本看護協会のラダーを参考にしながらラダーを作成しています。ただ、やはり全国を見てもセラピストにラダーを導入している実例がないので、なかなか苦戦しています……。運用して、現場の声を集めながら進めていきたいと考えています。「訪問看護にマッチするセラピストとは」といった面についてもこれから追求していく必要がありますね。 業界の大きな課題に立ち向かう先駆者 ─ここまでお話を伺って、業界全体の課題もあるように思いました。 篠田: はい。まさにこれからというところであり、いま粛々と、着実に進めているところです。課題感は大きいですね。ただ、高齢化社会の中で本当に生活を支えていく訪問看護はなくてはならないものであり、我々の課題は業界全体の課題でもあるといえます。弊社がある意味先駆的に物差しと価値を示していき、経営基盤を活かしてできることに取り組み責任を果たしていくことが必要、とも思うんです。 訪問看護は社会的インフラとしてニーズが高まっている一方、経営は難しい実態があります。人員確保はするものの、教育については「おいてけぼり」になっているのが今の状態です。実務に追われ、手が回らないんですね。このような事態を招かないためにも、弊社も、体系的な教育プログラムと併せて、大規模ステーションでの研修体制など、地域の教育ネットワークを構築することも、ソフィアメディだからこそできることではないかと。地域のステーションや施設へ、部分的にプログラムを提供することも視野に活動を推進していきたいですね。 ─訪問看護には独特の教育が必要ですね。 篠田: そうです。病院とは異なり、訪問看護は「人の生活の場」に入って行くので、そこで看護を行うにあたっての「意思決定支援」と、その意思決定を支えるための「協働する力」がより重要になります。お客様の状況や家庭に合わせて調整する力が高く求められます。また、訪問看護は継続的な日常の療養支援が必要であり、在宅療養者のニーズに応じて、医療や介護を包括的に提供できるよう調整することが求められます。当然、一律な介入はあり得ませんので、事例を通して経験し、確実に次に繋げていくチームでの経験学習が大切になりますね。 そこが、ある意味では訪問看護の「醍醐味」ともいえます。本当の意味での「お客様本位」を考え、それが達成できる喜びも感じられる。そのぶん負担もありますが、それを支えていけるだけの教育システムをつくっていきたいと考えています。 ─ありがとうございました! 執筆: 倉持 鎮子取材・編集: NsPace編集部

緩和ケア がん身体症状
緩和ケア がん身体症状
特集
2023年8月29日
2023年8月29日

悪性腹水の原因と対応【がん身体症状の緩和ケア】

末期膵臓がん患者のAさん(49歳)。痛みも落ち着き、倦怠感も以前ほどではなくなりました。しばらくは症状がうまくコントロールでき安定していましたが、最近、腹部の膨満感が出現するようになりました。在宅主治医によると、膵臓がんが腹膜に播種したがん性腹膜炎による腹水であろうとのこと。今回はがんの影響によって生じる腹水の緩和ケアについて解説していきます。 悪性腹水のメカニズムと緩和ケア 悪性腹水は進行がん患者においてしばしば見られる症状です。たまった腹水が少量であれば自覚症状はあまりありませんが、大量にたまると外観の変化やさまざまな自覚症状が出現します。主な症状は腹部膨満感や腹痛、胸やけ、悪心・嘔吐、食欲不振などです。 腹水がたまる原因には、滲出性と漏出性の2つがあるといわれています。例えば、がん性腹膜炎で腹水がたまるのは滲出性によるものです。腹膜上にがん細胞が拡散すると、それぞれのがん細胞の周囲で、がん細胞と戦うため炎症が起こります。この炎症の結果、滲出液と呼ばれる液体が出てきて腹腔内に蓄積されていきます。 漏出性の代表例は肝硬変やネフローゼです。腹膜自体に異常はなく、血液中のタンパク質濃度が低下することによって浸透圧が低下し、血管から水分が漏れ出し、腹腔内にたまってしまう状態です。この場合、利尿薬を使用して水分貯留を改善させることが少なくありません。 しかし、がん緩和ケアの現場では、どちらか一方のみが原因というよりは、これら2つが重なりあって腹水が生じるといわれています。どちらの原因が主体なのかはケース・バイ・ケースです。抗炎症薬としてのステロイドで症状が軽快するケースもあれば、利尿薬が有効なケースもあり、両者を組み合わせることもあります。 さて、訪問看護師であるあなたは、今日は在宅主治医に同行し、Aさんのご自宅に訪問しています。在宅主治医はAさんの腹部の状態を確認し、悪性腹水であることを確信したようです。 在宅主治医: 触診でも波動を感じますので、ほぼ腹水で間違いないと思います。次回は携帯型の腹部エコーを持参して詳しく検査してみましょう。 Aさん: 腹水ですか……。次から次へとおかしなことが起こるので不安です。どのようにすればよいのでしょうか? あなた: 確かに次から次に嫌なことが起こりますよね。それでもAさんはこれまで一つひとつ、乗り越えてこられたと思います。Aさんのつらさが少しでも楽になるように私たちが協力しますので、つらいときは遠慮なく教えてください。 Aさん: はい、ありがとうございます。  症状に応じて利尿薬の投与、腹腔穿刺を行う 在宅主治医: Aさん、まずはお腹に水がたまりにくくなるように利尿薬を使用しましょう。それでも水がたまり、苦痛が強いようであれば、お腹に針を刺して水を抜く治療もあります。腹部膨満感がすみやかに解消されるので、楽になる方は多いですよ。(利尿薬の使用については【ワンポイントメモ】「利尿薬を使用すると患者さんは脱水状態にならないの?」参照) Aさん: そうなんですね。少し安心しました。今はそれほどつらくはないのですが、悪化したときにどうなるのかが不安でした。 あなた: 利尿薬が開始されるとトイレに行く回数が増えると思います。Aさん、トイレに行くのは大変ではないですか? Aさん: 自分で歩いて行けるのですがよろけることがあるので、トイレにも手すりがあればいいのにと思うことはあります。 あなた: 確かにそうですね。ケアマネジャーさんに連絡して、手すりの設置を相談しましょう。ベッドの近くにトイレを置くこともできますが、それはいかがでしょうか? Aさん: 手すりはお願いしたいのですが、ベッド脇のトイレはまだ必要ないと思います。 あなた: わかりました。 Aさんの自覚症状の程度や環境整備への要望を確認したところで、あなたと在宅主治医はAさんのお宅を後にしました。帰り道の途中で、あなたは気になっていた腹腔穿刺について医師にたずねました。 あなた: 先生、腹腔穿刺は在宅でも可能なのですか? 在宅主治医: もちろん可能です。腹部エコーで腹水がたまっている場所を確認してから、局所麻酔を行い、血管留置用のプラスチック留置針を用いて穿刺します。量が多いときには2Lほど抜けることもあります。 あなた: 処置のとき、私たちがお手伝いできることはありますか? 在宅主治医: 通常、腹腔穿刺は1時間程度かけて行います。最初の30分くらいは私たちも患者さんを観察していますが、それ以上の時間になるとほかの訪問診療があるので、ずっと付き添うことは厳しいのです。急激な腹腔穿刺中に血圧が下がることもありますので、患者さんの苦痛の確認とバイタルサインのチェックを行っていただくと助かります。訪問看護ステーションによっては、排液がなくなったことを確認し、留置針を抜いて消毒し、創処置をしてくれます。 あなた: 私たちも管理者と相談して、お手伝いしたいと思います。先生、もう1つ教えてください。抜いた腹水を処理して、体内に戻す治療があると聞いたことがあるのですが……。 CARTや腹腔静脈シャントについても知っておこう 在宅主治医: CART(cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy)、腹水濾過濃縮再静注法のことですね。腹水を抜けるだけ抜いて、がん細胞や細菌などを取り除き、タンパク質(アルブミンやグロブリンなど)の有用成分を濃縮して体内に戻す治療です。一般には在宅ではできないので、通常は病院で1泊から2泊入院して行います。点滴をしながら腹水をできるだけたくさん抜きます。腹水のたまるスピードが速く、何回も穿刺が必要になるならAさんと相談してもよいかもしれませんね。 あなた: CARTはすべての病院が対応してくれるわけではありませんよね? 在宅主治医: それぞれの病院ごとに異なるのが実情ですが、一生懸命情熱を持ってCARTに取り組んでいる先生もいらっしゃいます。そんなドクターのことを知っておくことも大事かもしれませんね。 あなた: はい、わかりました。先生、いろいろと教えていただきありがとうございました。お引き止めして申し訳ありませんでした。 あなたはステーションに帰り、がん看護専門看護師の先輩Bさんにもう1つ気になる治療法があったので質問してみました。 あなた: 先輩、最近Aさんに腹水がたまるようになってきたのです。以前、何かの本で読んだことがあるのですが、お腹にカテーテルを埋め込んで静脈に戻すポンプのようなものがあるようなのです。この治療法について何かご存知ですか? Bさん: それは腹腔静脈シャント、別名「Denver(デンバー)シャント」のことね。手術を行って、腹腔内と鎖骨下静脈を直接つなぐ特殊なカテーテルを埋め込むの。そのカテーテルには逆流防止弁が付いていて、腹水が静脈内へ流れるようになっているのよ。腹壁に固定した小さな風船状のポンプがあって、それを患者さん自身が何回も押し込むことで腹水がくみ上げられて静脈の中に押し込まれるの。 あなた: 大きな手術が必要になるのですね。 Bさん: そうなの。Aさんの今の状態では手術を行うことは難しいかもしれないわね。症例数も少ないから、がん性腹膜炎に対してこの治療を行うことに対してまだ評価が定まっていないのよ。がん細胞も静脈の中に入る可能性があるし、心臓にも負担がかかるかもしれない。 あなた: そう簡単にはできないことがよくわかりました。 苦痛症状の緩和には看護ケアの力を Bさん: そうね。でもあなたがAさんに寄り添い、彼を支援することはまだまだできるはずよ。徐々に症状が進んできて、Aさんは不安を感じているはず。なるべく腹部膨満感が強くならないような食支援を行ったり、腹部が張っていても安楽に過ごせるような環境を整えたり、Aさんが少しでも安心して過ごせるように私たちにできることはたくさんあるわ。おそらくご家族もすごく不安を感じているのではないかしら。ご家族のケアをしっかりやっていくこともとても大切よ。 あなた: そうですね。Bさん、ありがとうございます。まだまだやれることがありますよね。もっとAさんとご家族に寄り添って1日1日が生活しやすいように援助していきます。 * その後、Aさんは腹腔穿刺を数回行いました。全身の衰弱が進み、約1ヵ月後にご自宅で旅立たれました。オピオイド投与もうまくいき、大きな苦痛を感じることなく過ごされたことが、ご家族にとっての救いになっていたように思われました。担当訪問看護師であるあなたにとってもよい仕事ができ、大きな学びがあったケースとなりました。 【ワンポイントメモ】 利尿薬を使用すると患者さんは脱水状態にならないの?確かに少し脱水気味になります。だからといって大量の輸液を行うと、逆に腹水が増えてしまうとの報告があります。また、がん緩和期では患者さんが乾いた状態(ドライサイド)で管理したほうが、より苦痛が少なくなるといわれています。ほかに胸水や気道分泌物が多い場合も輸液が多いと悪化すると指摘されています。その意味からも輸液を最小限にして、ドライサイドにしたほうが苦痛の軽減につながると考えられているのです。強い脱水や電解質異常で患者さんが苦しまないように、採血を行い、その程度を評価し、投薬量や投薬内容を調整します。 執筆:鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社

認定看護師活動記 近畿
認定看護師活動記 近畿
コラム
2023年8月22日
2023年8月22日

地域と病院をつなげる取り組み【訪問看護認定看護師 活動記/近畿ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 近畿ブロック、雨森 千恵美さんの活動記です。近畿ブロックの活動内容や、フィードバックカンファレンスの導入をはじめとした看看連携の取り組み、地域で訪問看護の存在感を高める取り組みなどをご紹介いただきます。 執筆:雨森 千恵美訪問看護ステーション ゆげ(滋賀県) 管理者。看護学校卒業後、医科大学付属病院に勤務、代謝・内分泌内科病棟での臨床経験を活かし、糖尿病療養指導士の資格を取得する。結婚出産後は、夜勤のない職場に復帰するため訪問看護ステーションに再就職。在宅看護の魅力にとりつかれ2012年に独立。訪問看護を深く学ぶため訪問看護認定看護師の資格を取得した。2018、2019年には協議会の近畿ブロック長に就任。「近畿ブロックの規約」の作成を行い、その後も「在宅看取りの育成研修事業」を企画。実行力や統率力を評価されている。 現在は、訪問看護のパイオニアとして後任の指導と、地域と病院がつながるしくみ作り(フィードバックカンファレンスの定着)や認定看護師の活躍の場作り、災害時支援チームの一員としての活躍の場をますます広げている。 会員相互の交流を図りネットワークを構築 まずは、私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会の、近畿ブロックの活動についてご紹介します。 近畿ブロックでは、毎年訪問看護認定看護師としての日頃の実践報告を6府県の代表者が発表する日を設けています。認定看護師として自身の活動を振り返り、今後に活かす貴重な機会です。また、実践報告と同時に「経営について」や「災害といのち」などの関心の高いテーマの基調講演を行っており、学びつつ交流もできる、非常に充実した1日になるため、会員の満足度も高くなっています。これらの活動に参加していると、訪問看護認定看護師として同じ志を持った熱い仲間と交流することができるため、企画すること自体が非常に楽しいです。 フィードバックカンファレンスで看看連携 私が行っている、地域での活動についてもお伝えします。私が住んでいる滋賀県では、全世代型地域包括ケアシステムの充実のために、圏域別に地域看護ネット会議を開催しています。過去には、地域課題として「退院後の振り返りができていない」ことが取り上げられ、まずは「病院と在宅との看看連携強化が必要」との意見も出ました。 そこで私は、訪問看護認定看護師実践報告会で聴いた「フィードバックカンファレンス」の手法が、看護職同士がつながるしくみとして効果的ではないかと提案しました。フィードバックカンファレンスとは、フィードバックが必要だと感じたケースについて、病院側・地域側のどちらからでも依頼できる、というしくみです。例えば病院側が訪問看護ステーションにフィードバックカンファレンスを依頼することにより、退院時の支援や調整が適切であったか、振り返ることができます。 2019年から始め、今年で5年目。コロナ禍で一時はオンライン形式の開催に変更し、調整が難航する時期もありましたが、2023年7月時点までで16例の実績をつくることができました。 実際に開催してみると、フィードバックカンファレンスは、相互理解や信頼関係の構築に役立つのはもちろんのこと、認定看護師の指導を受ける機会になる、看護師以外の専門職とつながる機会になる、そして本人・家族の思いを共有できる場になる、といったメリットがあることがわかりました。今後は、よりフィードバックカンファレンスが全国に普及するよう願っています。 地域での訪問看護の存在価値を高める そのほかにも、地域の中で訪問看護の存在価値を高めるための活動を行っています。 病院看護では医療職同士のつながりのみとなってしまうケースも多くありますが、地域ではさまざまな専門職が協働しています。医療と介護と看護が一体となって、療養者の日常生活の支援から看取りまで実践していきます。多職種との連絡・調整・協働は、訪問看護の最も得意とする分野であり、必要不可欠。人的ネットワークを広げて信頼関係を構築しておくことは、困難なケースでの交渉・円滑な支援につながるでしょう。 最近は、高齢一人暮らしの利用者が増えています。癌ターミナルや認知症になっても、最期まで家で過ごすためにどうしたら良いか。地域の特性を活かして行政と一体となり、地域住民も巻き込んでいく必要があります。本人・家族はもちろん、支援者のすべてが穏やかでいられる方法を模索するのも、やりがいがあって楽しいものです。 また、医療的ケア児をとおして学校関係者とつながったり、育児相談事業を行って、地域の母親たちとつながったりする活動も行っています。新たなつながりを構築することにもやりがいを感じています。新型コロナウイルス感染症によって自宅療養者が急増したときは、保健所の負担を少しでも減らしたいと、電話による健康観察や自宅訪問事業も受託しました。多いときは1ヵ月で2,000件を超える対応を行いました。今後も、さまざまな場面で訪問看護の力を発揮し、地域での存在価値を高めていきたいと考えています。 * * * 訪問看護の魅力は何でしょうか?道中は四季を感じながら利用者宅に向かうと「待ってました」の笑顔に迎えられ、時には想像以上の力を発揮され隠されたパワーに驚かされます。日常生活を一緒に過ごし、喜びと悲しみを共有し、人として成長させていただきます。訪問看護をはじめて25年。在宅医療をこよなく愛し、日々やりがいを持って看護を行っています。訪問看護を目指す方が増え、一緒に訪問看護の素晴らしさを共有できる日を待ち望んでいます。 ※本記事は、2023年7月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

緩和ケア がん身体症状
緩和ケア がん身体症状
特集
2023年8月22日
2023年8月22日

がん悪液質には集学的な治療が必要【がん身体症状の緩和ケア】

あなたが担当する末期膵臓がん患者のAさんは、近頃、体重減少と食欲不振がみられ、がん悪液質の状態にあるようです。Aさんの症状緩和について先輩訪問看護師に相談したところ、治療薬「アナモレリン」について教えてもらいました。あなたは治療に関してさらに詳しく知りたいと思い、在宅主治医に相談してみることにしました。 >>前回の記事はこちらがん悪液質とは【がん身体症状の緩和ケア】 がん悪液質の薬物的治療 あなた: 先生、Aさんのことで相談があります。最近、Aさんにがん悪液質と思われる体重減少や体動困難が見られるようになり、横になっていることが多くなりました。せっかく痛みがよくなっているので、家族との思い出づくりもしていただきたいのですが、それもできず、食欲も低下しています。そこで調べたのですが、「アナモレリン」という薬が食欲改善に有効と聞きました。先生、Aさんにこの薬を投与してみるのはどうでしょう。 在宅主治医: よく勉強しましたね。私もその薬をそろそろ使うべき時期と考えていました。使用してみましょう。それ以外にも有効とされる薬剤があるので、アナモレリンの効果を見ながら試してみるとよいかもしれません。 あなた: 先生、「それ以外の薬剤」には、どのような薬剤があるのですか? 在宅主治医: まずはステロイドです。炎症性サイトカインの放出ががん悪液質の原因の一つという話は聞いたことがありますね。ステロイドは炎症性サイトカインの放出を抑制し、炎症反応を減少させることでがん悪液質の全身倦怠感、食欲不振といった症状を改善させてくれます。 あなた: ステロイドには糖尿病や骨粗鬆症といった副作用がありますが、Aさんに投与しても問題ないのでしょうか? 在宅主治医: Aさんに残された時間はそれほど多くありません。長期間の投与になるわけではないので、副作用も限られるでしょう。血糖値が上昇すれば対応しますが、厳密なコントロールは必要ありません。高血糖で昏睡に陥るようなことにならなければよいのです。 あなた: ひどい高血糖にならないように、私たちも血糖チェックを行うことにしますね。先生、ほかにはどのような薬剤が使用されているのでしょうか? 在宅主治医: アナモレリンとステロイドも含め、がん悪液質に有効とされる薬剤を整理してみましょう(表1)。 表1 がん悪液質に有効とされる薬剤 あなた: 漢方も使用されているのですね。とても勉強になりました。ところで先生、Aさんは現在もリハビリテーションを継続していますが、体力的に問題はないのでしょうか。どうも無理をさせているような気がするのです。  がん悪液質の非薬物的治療 あなたはリハビリテーションがAさんの体力をさらに消耗させているのではないかと心配しています。ところが、在宅主治医の見解はまったく異なるものでした。 在宅主治医: 本人がリハビリテーションをやめたいと言っているのであれば、やめてもよいのですが、私は継続するほうがよいと思っています。もちろん、筋肉減少がリハビリテーションだけで解決できるわけではありません。運動療法以外にも、先ほど説明した薬剤の投与や栄養対策を行って、がん悪液質の進行をできるだけ抑えることが重要だと考えています。それに、リハビリテーションはAさんの「自分でトイレもいけなくなった」といった人生への無意味感につながるスピリチュアルペインを和らげてくれる可能性もありますよね。 あなた: なるほど、そうだったのですね。教えていただきありがとうございます。リハビリテーションはこのまま続けたほうがよさそうですね。先生、栄養対策のお話がありましたが、栄養対策としてはどのようなことを行えばよいのでしょう? 在宅主治医: そうですね。十分量のエネルギーとタンパク質の摂取が必要ですが、進行したがん患者さんは味覚も低下します。味のはっきりした食事のほうが食べやすいこともあるので、さまざまな味の栄養剤を併用したり、甘いアイスやプリン、ゼリーといった食材を追加したりする方法もあります。タンパク質であれば、料理に加えるだけで手軽に補給できる市販品を試してみるのもよいでしょう。 また、口の中のことも考える必要があります。歯の調子が悪くて食べられなかったり、ステロイド投与中に口腔カンジダが発症して食事量が低下したりすることもあります。歯科医や歯科衛生士との連携も大切だと思いますよ。 あなた: なるほど。栄養士さんの栄養指導も必要そうですね。ありがとうございます。Aさんやケアマネジャーさんとも話し合ってみます。 * がん悪液質の非薬物的治療において、栄養療法単独の介入ではあまり有効性は指摘されていません。運動療法では身体機能やQOLの改善が得られたとの報告はあるものの、エビデンスが得られたリハビリテーションプログラムは週に2~3回、1回60~90分の運動であるため、高い脱落率が問題と考えられています1),2),3)。現在、栄養療法、運動療法を同時に介入させる試験が進行中です。 がん悪液質には集学的治療が必要 がん悪液質は進行すると治療に反応しにくくなります。在宅で療養する患者さんの場合、かなり進行した状態であることが多いですが、治療に反応することも少なくありません。がん悪液質にはステージ分類があり、EPCRC(European Palliative Care Research Collaborative:欧州緩和ケア共同研究)によって前悪液質、悪液質、不応性悪液質の3つに分類されています4)。前悪液質と悪液質のステージでは早期介入が求められる段階で、不応性悪液質のステージでは緩和的治療がメインになります。この分類でいうとAさんは悪液質から不応性悪液質の状態ですので、治療による症状改善が期待できる状況です。 がん細胞による炎症は全身のさまざまな臓器に影響を及ぼします。脳に働き食欲を抑制したり、骨格筋の分解を促進し筋量を減少させたりします。肝代謝にも影響し、栄養成分の代謝が不良になります。また、脂肪が非効率的に消費され、急速に減少します。そこに高齢や併存疾患、抗がん剤の治療毒性、廃用症候群といった要素が加わるため、臨床像は一人ひとり異なります。そのため、がん悪液質の治療には、薬物療法や栄養療法、運動療法などを含めた集学的な治療が必要とされています。 したがって、その治療には医師、看護師、栄養士、理学療法士、臨床心理士、歯科医、歯科衛生士などの多職種によるチーム連携が必須であり、これらを在宅で機能させることが重要です。その中でも訪問看護師の役割は大きく、それぞれの職種を結びつける役割が期待されています。また、患者さんの揺れ動く思いに寄り添い、失った機能に対する落胆にも寄り添い、共感し、ときには励まし、一緒に歩む姿勢も求められているといえます。 執筆:鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社 【参考】1)Oldervoll LM, et al. Physical exercise for cancer patients with advanced disease: a randomized controlled trial. Oncologist 16(11), 2011, 1649-1657.2)Adamsen L, et al. Effect of a multimodal high intensity exercise intervention in cancer patients undergoing chemotherapy: randomised controlled trial. BMJ. 2009; 339: b3410. doi: 10.1136/bmj.b3410.3)Rummans TA, et al. Impacting quality of life for patients with advanced cancer with a structured multidisciplinary intervention: a randomized controlled trial. J Clin Oncol. 24(4), 2006, 635-642. 4)Fearon K, et al:Definition and classification of cancer cachexia:an international consensus. Lancet Oncology. 12(5), 2011, 489-495.

ラダー&評価制度
ラダー&評価制度
インタビュー
2023年8月22日
2023年8月22日

訪問看護のラダー&評価制度 キャリアパスを「見える化」する意義

ソフィアメディ株式会社は、訪問看護スタッフや管理者に対する評価制度としてラダーを採用しています。随時改定を行いながら、スタッフの育成に効果をもたらすために模索を続けています。ソフィアメディの訪問看護において、ラダーはどのような価値を持つものなのでしょうか。QM(クオリティマネジメント)推進グループの篠田 耕造さん、田中 麻奈美さん、福島 圭輔さんにお話を伺いました。 篠田 耕造さん/CQO(Chief Quality Officer)公立総合病院、専門病院、地域包括ケアを行う法人で、教育体制や業務プロセス・品質管理に携わりながら、MBA(経営管理学修士)・認定看護管理者を取得。日本看護協会教育委員・学会企画、岐阜県看護協会副会長等を歴任。JNAラダー・教育システム、管理者研修、医療経営セミナー講師などを行う。2022年よりソフィアメディ株式会社CQOに就任。田中 麻奈美さん作業療法士歴21年、ソフィアメディに在籍して13年目となる。訪問看護ステーションで従事していたが、産休・育休を機にキャリアチェンジし、バックオフィスの仕事も兼務。2020年よりQM推進グループに所属。スタッフ全般の育成プログラム作成、ラダー体制の整備などを行う。福島 圭輔さん理学療法士歴20年ほど。ソフィアメディには2013年に入社し、東京都大田区ステーション池上にてセラピストとして勤務。2016年分室であるステーション西馬込の主任セラピストとなる。2020年にバックオフィスへ異動。2020年から1年間採用担当、2021年からQM推進グループに所属し、管理者や主任など、マネジメント層に対しての育成、研修などを担当。※本文中敬称略 ※本記事は、2023年5月の取材時点の情報をもとに制作しています。 ラダーの浸透が難しい訪問看護業界 ─病棟を含め、「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」(JNAラダー)を見たことがある看護師は多いと思いますが、2023年6月にはクリニカルラダーに代わる新しい指標も示されました。違いについて教えてください。 篠田: もともと2016年に日本看護協会がラダーを開発した目的は、病院と高齢者施設・訪問看護が地域完結型のシームレスな看看連携を目指す上で、双方に共通する基準をつくるということにありました。クリニカルラダーは看護師共通の評価システムで、実践能力を5レベルに分け、それぞれ習得すべき「4つの力」(意思決定を支える力/ニーズをとらえる力/協働する力/ケアする力)に分けて目標を設定していました。 2023年の改定後の指標は「生涯学習」をテーマにしており、変化する社会やニーズに合わせて、看護職が継続的な学習を主体的に取り組み、その能力の開発・維持・向上を図り続けるための羅針盤として公開されました。看護職一人ひとりが看護職として活躍し続けるためには、各自のライフイベントや価値観に応じて、仕事と生活の調和を図りながら自律的に学ぶことが求められています。キャリア視点が加わったというイメージです。 ■看護師のラダーについて 2012年: 日本看護協会「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)」を公表2016年: 日本看護協会「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」を公表2019年: 日本看護協会「病院看護管理者のマネジメントラダー(日本看護協会版)」を公表2023年: 日本看護協会「看護師のまなびサポートブック」(看護師に求められる「看護実践能力」と、それに基づく学習項目、看護実践能力習熟段階も掲載)を公表※「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」に代わる指標参考:日本看護協会出版会「50年のあゆみ」(https://www.jnapc.co.jp/50th/chronology.html) ―訪問看護において、ラダーはどの程度導入されているのでしょうか。 篠田: 訪問看護のラダー導入率は全国的に見ても低く、協会は看護師間・施設間・地域間の切れ目のないケア提供を目指すためも、JNAラダーの浸透を推進していました。全国展開を目指す弊社においても、業界全体の流れと同じくラダーの定着が急務となったんです。 弊社がまずベースとしたのは、JNAラダーと滋賀県看護協会で出している訪問看護師向けのステップアップシートです。そこにソフィアメディの方針に基づいた調整・更新を随時行いながら、運用してきました。 そして、今回の日本看護協会の『看護師に求められる「看護実践能力」と、それに基づく学習項目、看護実践能力習熟段階』の公表に合わせて、我々も社内の評価システムをアップデートしているところです。 ─ありがとうございます。皆さんは評価制度の検討を担当されていると伺っていますが、もう少し担当されている業務の内容について教えてください。 福島: 私たちはQM推進グループに所属しており、そのグループが受け持つ業務のうちのひとつが、従来のラダーを含む評価制度についての検討・改善です。 振り返り面談の時だけに確認するような表面的な評価制度ではなく、日々の仕事に実際に活用できるか、といった点にも配慮しながら検討しています。現在は、研修をはじめとしたOff-JTだけでなく、どのようにして実践(OJT)にラダーや新人教育プログラムを組み込んでいくか、より実践的なものに仕上げられるか、ということを重点的に議論しています。周知内容・研修内容・コミュニケーションの方法など、施策の進行度合いやスタッフの反応も確認しながら進めています。 グループ内では進める施策ごとにチーム分けを行っているのですが、週1回のミーティングで全体進捗・部分進捗も確認しています。チーム内ではミーティング以外に1on1も行っており、体調管理や日々の小さな疑問点などを解決していく時間としています。 グループ内のオンラインミーティングの様子 新人をフォローする役割も持つ評価制度 ─評価システムの内容について、具体的に教えてください。 田中: これまで弊社では、クリニカルラダーにキャリアパス的要素を加えてアレンジし、「4つの力」ごとに採点が行われるような運用を行ってきました。カテゴリごとの到達度をパーセンテージで算出し、レーダーチャートで実践能力が可視化されるようなしくみを導入していました。現在は、もっと日々の実践の中でラダーを活用できるように、このようなしくみ自体を見直ししている最中です。 今回は、新たに導入した新人教育プログラムの一部である「クリニカルラダーレベル1」についてお話しできればと思います。こちらが実際のラダーの一部です。 日々の実践を反映させ、ラダー評価ができるように工夫しています。例えば、この表においては、4つの力にそれぞれ①から④の番号を振り、「①-1」「①-2」…と細分化して、各項目の実践内容を具体的に書いています。ここに実践した日付を記載していくことで、日々の実践の中でラダーの項目を振り返りながら進めていくということができるんです。 篠田: それぞれの力に必要なOJTの内容が表示されており、それを実践したことを「振り返りシート」に記入するという、ラダーと実践が紐づけられたしくみも採用しています。これまではこの結びつきが非常に弱く、ラダーにおいて自分が目標達成に向け日々の実践で何をすべきかがわかりにくいものでした。また、評価が人事考課で行われ、半年に一度という頻度だったため、やはり日々の実践との結びつきという意味では非常に弱かったため、そういった点を改善しました。 初期は毎日、3ヵ月を過ぎたら1週間ごとなど、入社歴が浅いほど評価の頻度は高くなっています。「安全でかつ安心な訪問看護を提供する」というフェーズにいち早く届くよう、より細かく、より丁寧に評価するようにしているんです。「スモール・サクセス」とでも言いますか、細かく達成感を得られるようにしているんです。 ─「レベル1」は、いわゆる「新人さん」のプログラムとのことですが、なぜレベル1の教育プログラム整備を優先されたのでしょうか。 訪問看護の1年以内の離職率は15~18%と、病院の離職率の11%前後と比べても高めです。病院とは違い、一人で目の前のお客様に対応する力が求められる訪問看護では、総合的な技術を持ち、調整を完結できるレベルだと思える「自己効力感」がなければ継続できる領域ではありません。新人さんがより早く裏付けのある自己効力感を持つためにも、やはり共通の物差しとして、評価制度を整備する必要があると考えました。JNAラダーはすべての看護師に必要な実践能力です。地域で求められる訪問看護の役割をキャッチアップしつつ、体系的な教育システムとして質の高いケア提供の実践に繋げていく事が重要だと考えています。 なお、弊社は教育体制として「チーム支援型」を採用しており、そのチームの中で指導に立つメンバーに対しての研修も当然重要視しています。指導者を通してチームメンバーの評価や状況把握を行うなど、直接評価を伝えていたときとは異なる体制を整えつつあります。また、現状は「経験を通しての教育」を行っている状況ですが、順次整備していく予定です。 ―試行錯誤しながらの整備・運用だと思いますが、どのような部分に課題を感じていますか? 評価の段階は現在のところ3段階ですが、なにをもって「1」とするか「3」とするかの評価基準はあっても、評価者の経験や尺度によって変わってしまうことが課題ととらえています。病院では目の前で実践の評価がしやすい環境ですが、訪問看護は同行しないと実践の状況が確認できない環境です。評価者間での評価のバラツキが生じやすいことが課題と捉えており、整備していきたいと考えています。 ただ、考え方として押さえておきたいのは、ラダーはいわゆる「ラベル付け」のための評価ではないということです。評価すること自体が目的ではなく、あくまでも自身の成長のため、実践能力の評価・自己研鑽のツールであり、共通の物差しとして活用していくものです。厳しすぎる評価は成長を止めてしまう危険性もある。そうではなく、キャリア学習の支援、成長を促進につながるような評価制度にしたいというのが我々の願いです。 やはり病院よりも訪問看護は個別性が強くなりますので、「なにをもって」というのはお客様視点だと思います。病院であればキュアの視点で判断しやすいのですが、訪問看護は「生活」の視点をふまえた幅広いケアの視点が必要です。その人らしさを総合的に看るヘルスアセスメントが重要となり、すべての看護師に高い能力が求められます。訪問看護の特性を踏まえた上で、目の前のお客様のためにできることは何かを、さらに追い求めていく必要がありますね。 実績や頑張りが「見える化」されたという声 ─看護に直接携わるスタッフは、こういった評価制度をどのように捉えているでしょうか? 田中: 見えなかった部分が「見える化」されたというのは、スタッフにとって非常に大きいようです。訪問看護は病院と異なり、非常に主観的な評価に頼らざるを得ない側面がありましたが、ラダーを元に指導者とスタッフが面談を行うことで、「どう伝えたらいいのかわからない」「共通の物差しがなかった」という悩みがある程度解決できたという意味に受け止めています。それまで「報われなかった部分」ともいえる頑張りや努力が、評価に繋がっているということではないかと。現在、管理者に対するマネジメントラダーの作成も開始されていますし、さらに改善していけるといいなと考えています。 * * * 後編では、マネジメント層の評価制度についてお伺いします。 >>後編はこちら訪問看護のラダー&評価制度 マネジメント層に残る課題への取り組み 執筆: 倉持 鎮子取材・編集: NsPace編集部

訪問看護計画書の書き方
訪問看護計画書の書き方
特集
2023年8月22日
2023年8月22日

訪問看護計画書の書き方は? 記入例や注意点も紹介

新卒訪問看護師の方や、病棟から訪問看護へ転職した方は、訪問看護計画書の書き方で悩むケースが多いでしょう。本記事では、これから訪問看護に従事する方に向けて、訪問看護計画書の書き方について解説します。記入例や注意点も解説しているので、ぜひ参考にしてください。 訪問看護計画書とは 訪問看護計画書とは、訪問看護サービスを提供するにあたり、療養上の目標や具体的なサービス内容を利用者ごとに記載する書類です。訪問看護指示書の交付による主治医の指示を受けた上での作成が必要になります。訪問看護計画書の作成は「利用者の健康状態の評価」「ケアプランの立案と目標設定」「コミュニケ-ションと連携の促進」の3つが主な目的で、利用者に質の高い訪問看護サービスを提供するために作成します。 作成後は、利用者やご家族・支援者に内容の説明を行い、同意を得なければなりません。また、すでにケアマネジャーや利用者などが居宅サービス計画書を作成している場合、その計画内容に沿った作成が必要です。ちなみに居宅サービス計画書は、基本的にケアマネジャーが作成しますが、まれに利用者やご家族が作成することもあります。しかし、手続きや事業所との連携および調整まで行う必要があるため、一般的には利用者やご家族にとっては難易度が高いです。 訪問看護計画書の書き方 訪問看護計画書を書く際のポイントは、以下のとおりです。 主語は看護師側ではなく利用者側にする目標は利用者主体で記載する挙がった問題には優先順位をつける(いのちや生活に影響するものは優先順位が高い)優先順位を付けるために「#(ナンバー)」の記号で#1、#2とナンバリングするコピー&ペースト(同じ文章の使いまわし)はなるべくしないようにする義務として医師への定期的な提出が必要であり、ケアマネジャー・連携している訪問看護ステーションや医療機関にも提出する場合があるため、分かりやすく丁寧に記載する これらの基本的なポイントを押さえた上で、各項目の記入例と詳細内容を見ていきましょう。 訪問看護計画書 記入例 訪問看護計画書は、標準とする様式に準ずる必要があり、厚生労働省によって以下の7つの項目を記載するよう定められています。順にみていきましょう。 (1)利用者の基本情報 利用者の氏名や生年月日、要介護認定の状況、住所を記載します。電子カルテを使用している訪問看護ステーションでは登録したIDを入れることで自動的に入力されます。 (2)看護・リハビリテーションの目標 訪問看護計画書では、主治医の指示、利用者の希望、利用者の状態を考慮し、看護・リハビリテーションの目標を設定します。ケアプラン(居宅サービス計画書)や訪問看護指示書の内容を参考にしながら、利用者がどのような生活を送りたいのかを理解し、目標を具体的に立てることが大切です。 (3)年月日/問題点・解決策/評価 訪問看護計画書では、計画を作成した日付や修正した日付を記載します。毎月、計画書の見直しをしている場合は、見直しで修正を行った日付を記載してください。問題点・解決策の項目では、目標とリンクした内容を記載します。具体的な問題点やそれに対する解決策、必要な看護や支援、ケアの内容を具体的に記載します。また、評価の項目では、実際に提供したサービスの評価や問題の改善状況、引き続き計画を実施するかどうかの判断を記載する必要があります。 (4)衛生材料等が必要な処置の有無 脱脂綿やガーゼ、絆創膏など、衛生材料が必要な処置の有無では、はじめに「有」または「無」のどちらか該当する方に丸をつけます。必要な処置がある場合は、処置の内容、衛生材料の種類、サイズ、必要量などを具体的に記載しましょう。「無」の場合は記載する必要はありません。 訪問看護で使用する衛生材料の具体例としては、次のものがあります。 使い捨て手袋:感染予防や処置時の衛生を保つために使用注射器・注射針:採血や薬の注射などに使用カテーテル:膀胱留置カテーテルや胃ろうカテーテルなど、体液の排出や栄養剤の投与に使用絆創膏:創傷部位の保護に使用テープ:包帯の固定に使用ガーゼや脱脂綿:傷口や皮膚の保護に使用消毒薬:処置前の手指消毒や器具の消毒に使用生理食塩水:創傷や口腔内の洗浄に使用尿バッグ(ウロバッグ)やドレーンバッグ:体液の管理に使用 使用する衛生材料はすべて記載しましょう。 (5)備考 備考には、各項目に書ききれない留意事項や特記事項を記載します。利用者やご家族からの情報や注意事項、連絡事項などを必要に応じて追記し、訪問看護師同士や関係者間で情報共有を円滑に行えるようにします。 また、すでに老人保健法及び健康保険法等の指定訪問看護を実施している場合、備考欄に要介護認定の状況を記載しましょう。 (6)作成者名 計画書を作成した人の氏名を記載します。訪問看護計画書は、訪問看護に携わる医療従事者が同じ目標に向かってケアプランを共有し、作成しています。そのため、訪問看護師以外にも、リハビリ職や保健師なども記載した場合は、全員の氏名を明記し、計画の責任者を明確にすることが必要です。 (7)年月日/事業所名/管理者氏名 最後に、計画書を作成した日付、事業所名、管理者の氏名を記載します。こちらも責任の所在を明確にするために必ず記載しましょう。加えて、管理者の捺印が必要になるので、主治医に提出する前には押してもらっておきます。 訪問看護計画書を作成する際のQ&A 訪問看護計画書を作成する際に疑問点として挙げられやすい内容についても、Q&A形式で解説します。 誤った内容を記載してしまったらどうなる? 前提として、訪問看護計画書は必要に応じて情報開示を求められることもあるため、偽りのない内容を記載するべきです。しかし、誤って記載してしまうこともあるでしょう。その際は、気付いた時点ですぐに該当箇所を修正する必要があります。修正前の内容、修正した箇所、修正した日時が分かるようにして、改ざんの疑いや誤解を防ぐことが大切です。もし、看護記録の改ざんを行った場合、刑法により「証拠隠滅」「文章偽造」の罪に問われ、処罰の対象となる可能性があります。 どれくらい保管しないといけないの? 訪問看護計画書は、訪問看護終了日から2年間の保存が必要だと法的に定められています。保管期間中は、いつでも復元できる状態にしておく必要があります。保管の方法として、訪問看護計画書は、電子媒体と紙媒体のどちらでも問題ありません。紙媒体で作成した訪問看護計画書を、電子媒体に保存しておくことも可能です。 どれくらい具体的に書くべき? 具体性の程度に関しては、明確に定められていません。しかし、どのような目標に対して、どのようなサービスを行ってきたかを第三者が見ても分かるよう、曖昧な表現を避け、具体的な情報を記載することが大切です。 例えば、衛生材料等が必要な処置の有無の項目では、処置の内容や衛生材料について具体的に記入し、次の1ヵ月に必要な量を明記しましょう。ただ、訪問看護計画書は、利用者やご家族の方も見る書類です。専門用語の多用や問題点、評価などの書き方には配慮が必要になります。 訪問看護計画書はいつ作成する? 訪問看護計画書に提出期限はありません。しかし、適切な指定訪問看護を提供するためには、定期的に提出する必要があります。 一般的には、毎月提出するところが多いです。例えば、月末に報告書・計画書を作成して、利用者やご家族の同意を得た後、翌初月に主治医へ提出します。そして、翌月の頭には、次の計画書を作成するといった流れになります。事業所によって、訪問看護計画書の提出時期は異なるため確認しておくとよいでしょう。また、利用者の状態に変化があった際や訪問看護指示書に変更があった場合は、修正するか別途作成が必要です。 訪問看護計画書を修正するタイミングとしては、次のような場合です。 保険が切り替わったとき区分の変更があったとき主治医からの指示が変更されたとき利用者の状態が変化したとき居宅サービス計画書が変更されたとき 提供する訪問看護サービスと訪問看護計画書の記載内容に相違がないよう作成しましょう。 初回訪問後の計画書作成は初回加算できる? 一定の条件に該当した場合、初回加算することができます。条件については、次のとおりです。 同月内に複数訪問看護事業所がそれぞれ新規に訪問看護計画書を作成した場合訪問看護を2ヵ月以上休止し、再開した場合要支援の状態で介護予防訪問看護を実施した後、要介護状態になり、訪問看護へ移行する場合(逆に訪問看護から介護予防訪問看護に移行する場合や継続の場合も同様)初回もしくは初回訪問看護を行った日の属する月に指定訪問看護を行った場合(暦月で1月のみ) 介護保険の訪問看護において、退院共同指導加算を算定する場合は、初回加算の算定はできません。また、医療保険による訪問看護の利用から介護保険の利用に変更した場合でも算定はできないので、注意が必要です。 訪問看護計画書は利用者の意向に沿って作成 訪問看護計画書は、利用者により質の高い訪問看護サービスを提供するために作成します。医療従事者の考えだけで計画書を作成するのではなく、あくまで利用者主体で作成することが大切です。利用者が満足できるケアの提供を念頭に置いた上で、本記事でご紹介した書き方や記入例、注意点を参考にして訪問看護計画書を記載していきましょう。 執筆:柿野 俊弥監修:川島 峻監修者プロフィール:医師、医学博士。横浜市立大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒業。虎の門病院、東大病院心臓呼吸器外科などで勤務ののち、Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital留学。帰国後、新宿アイランド内科クリニック院長として幅広い世代に対して内科疾患、予防医療を中心に診療している。呼吸器専門医、胸部外科専門医会員、呼吸器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医。編集:株式会社パンタグラフ 【参考】○厚生労働省「訪問看護計画書及び訪問看護報告書等の取扱いについて」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4396&dataType=1&pageNo=1(2023/6/15閲覧)○公益社団法人 日本看護協会「看護記録に関する指針」https://www.nurse.or.jp/nursing/home/publication/pdf/guideline/nursing_record.pdf(2023/6/15閲覧)○厚生労働省「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa0500&dataType=0&pageNo=1(2023/6/15閲覧)○厚生労働省「訪問看護計画書等の記載要領等について」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000613544.pdf(2023/6/15閲覧)○一般社団法人 大阪府訪問看護ステーション協会「訪問看護記録の管理方法について」https://daihoukan.or.jp/記録に関する事項/(2023/6/15閲覧)○社団法人 全国訪問看護事業協会「訪問看護に係る看護消耗品、看護用器具等に関する現状調査」https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/H11-2-1.pdf(2023/6/15閲覧)

受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ」
受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ」
特集
2023年8月9日
2023年8月9日

受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ<後編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、櫛野 秀原さん(ウィル訪問看護ステーション江東サテライト/東京都)の審査員特別賞エピソード「担当看護師からパパママ友へ」をもとにした漫画の後編をお届けします。 「担当看護師からパパママ友へ」前回までのあらすじ鎖肛のお子さん(優太くん)のケアに入っていた訪問看護師の櫛野さん。佐藤さん夫婦と対話を重ね、試行錯誤しながら訪問していました。互いを支え合う佐藤夫婦を尊敬していた櫛野さん。櫛野さん自身もパパになることがわかり、早速佐藤さんに報告しました。 >>前編はこちら受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 担当看護師からパパママ友へ<後編> 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。 エピソード投稿:櫛野 秀原(くしの しゅうげん)さんウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都)今回の受賞は、佐藤優太くん(仮名です)のお母さまも喜んでくださいました。私のケースのように、看護師としてだけではなく、一人の人として接してもらえるのは、利用者さんとの距離が近い訪問看護師という職種の醍醐味だと思っています。私は、どんどん若い世代の看護師さんたちも在宅医療の世界に飛び込んで来ていただきたいと思っており、そう思えるような訪問看護の魅力が伝えられたら…と考えて応募いたしました。エピソードやこちらの漫画を読んでいただき、少しでもそういった魅力が伝わるとうれしいです。 [no_toc]

在宅ケアに生かせる/ピラティスの実践
在宅ケアに生かせる/ピラティスの実践
特集 会員限定
2023年8月8日
2023年8月8日

在宅ケアに生かせる/ピラティスの実践【セミナーレポート後編】

2023年5月19日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「ピラティスの基礎知識&実践【在宅ケアに生かせる】」を実施しました。講師を務めてくださったのは、理学療法士として訪問看護の現場でピラティスを実践した経験をもつ、ピラティスインストラクターのTatsuya.Sさんです。後編では、看護師のみなさんにぜひ実践いただきたいピラティスをご紹介します。 >>前編はこちら在宅ケアに生かせる/ピラティスの基礎知識&事例【セミナーレポート前編】 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】Tatsuya.Sさんピラティスインストラクター(zen place pilates武蔵小杉スタジオ 所属)/理学療法士・健康運動指導士・介護支援専門員大学で理学療法を学び、理学療法士として6年間にわたって総合病院に勤務。回復期リハビリテーション、訪問リハビリテーション、デイケアを経験する。その中で予防分野に興味をもつようになり、ピラティスと出会う。訪問看護の現場で理学療法士としてピラティスを実践した後、より学びを深めるため、現在はピラティスインストラクターとして活動している。 ピラティスを実践してみよう ピラティスを指導する上では、自身が実践者であることがとても重要なポイントになります。自分が実際に感じたことでないと、他者に伝えることは難しいからです。 ここからは、看護師のみなさんにぜひ実践いただきたいピラティスをご紹介しますので、ぜひこの記事を読みながらトライしてみてください。マットやバスタオルが手元にある方は床で、ない方は座位の動きではイスを、臥位の動きは壁を使って行ってください。 立位→四つ這いのエクササイズ 【STEP 1】足を軽く開いて立つ足を坐骨の幅(こぶしひとつが入るくらい)に合わせて開いて立ち、背骨が左右の足の中心にくるように意識します。さらにイメージできる方は、「母指球・小指球・かかとの3点×左右の足=6点」の中心に背骨がくるようにしましょう。 【STEP 2】どこまで体重をかけられるのか確認(前後)つま先とかかとそれぞれに、交互に体重をかけていきます。「これ以上傾くと倒れそう」というギリギリまで体重を移動しながら、足裏に意識を集中して、自分がどこまで体重をかけられるのかを確認します。このとき、背骨がどのような状態になっているかも意識できるとベターです。 【STEP 3】どこまで体重をかけられるのか確認(左右)STEP 1の状態に戻ったら、次は左右に揺れます。STEP 2と同じように足裏の感覚に意識を向け、今どこに体重がかかっていて、どこまで重心を移動できるか確認してください。 【STEP 4】ゆっくりと四つ這いの姿勢になる続いて、四つ這いの姿勢に移行します。まずは頭をゆっくりと前に傾け、次に太ももで体を支えながら膝を曲げていきます。頭は5kgもの重量がありますから、その重みにつられて背骨が上から順番に丸まっていきます。 【STEP 5】尾骨から頭まで一直線にキープ体が左右どちらかに傾いていないか注意しながら手を床まで下ろしたら、四つ這いになります。肩の下に手、股関節の下に膝がある体勢です。背中は、頭のほうがやや高い状態で、尾骨から頭まで一直線にキープします。 【STEP 6】「骨盤後傾」の動きまずは尾骨のみを丸め(尾骨は小さいので、外からは動いていないように見えます)、続いて仙骨、腰の背骨を曲げます。「骨盤後傾」という動きです。 【STEP 7】さらに体を丸める手と足で床を押しながら、胸の背骨、首、頭までを順番に丸めていきます。 【STEP 8】つま先を立て、背骨を一直線に次に、足首を返して床につま先を立てましょう。そのまま膝を空中に浮かせて、背骨を一直線にします。 【STEP 9】坐骨を天井に向かって上げるそのまま坐骨を天井に向かって上げます。手と手の間に頭があり、尾骨から頭まで斜め一直線になっている状態が理想的です。 アップストレッチ 【STEP 10】「アップストレッチ」を行う右膝を少し曲げ、左のかかとは下げてストレッチします。続いて左膝を同じように曲げて、右のかかともストレッチしましょう。呼吸を止めないように注意してください。 座位(あぐら)のエクササイズ 【STEP 1】座って背筋を伸ばすマットがある方は、あぐらの状態で床に座ります。イスを使う方は浅く腰かけてください。いずれも、坐骨に座ることを意識しましょう。また、尾骨から頭まで「長い背骨」をつくるイメージで、背筋を伸ばします。 【STEP 2】手を前に伸ばし上下に動かす両手を「前ならえ」の状態にしたら、息を吐きながら上に上げます。続いて、息を吐きながら前ならえの形に戻します。背骨の形はキープします。 【STEP 3】手を伸ばし左右に開閉する次に、前ならえの状態から、息を吸いながら横に手を広げましょう。そして、息を吐きながら手を閉じます。 【STEP 4】頭・首・胸を反らした後、背骨全体を丸める今度は、息を吸いながら手をオープンしたら、尾骨は動かさずに、頭と首、胸を反らせます。そして、息を吐きながら手を戻し、背骨全体を丸めてください。 【STEP 5】側屈の動きSTEP 1の姿勢に戻したら、手を頭の後ろに添え、側屈の動きをしていきます。息を吸いながら背骨を右に曲げ、吐きながら戻す。同じ要領で左にも曲げましょう。 【STEP 6】背骨をひねる動き続いて、背骨をひねる動きです。頭を背骨の上でくるくる回すイメージで、息を吐きながら左右にひねり、吸いながら戻します。イメージできる方は、胸椎7・8番からひねることを意識しましょう。 仰向けのエクササイズ 【STEP 1】基本姿勢をとるマットがある方は床に仰向けに寝て、足を軽く曲げ、お尻をもち上げやすい位置までかかとを引き寄せます。壁を使う方は、背中をつけた状態で膝を曲げ、かかとは壁から一足分離してください。全員、足幅は坐骨幅に開きます。 【STEP 2】「ペルビックカール」を行う尾骨の先端から丸めるように動かし、骨盤を後傾します。続いて、仙骨の上と腰の背骨を浮かせます。そして、尾骨に近いほうの背骨から順番に、胸の背骨の一番上まで床から剥がしてもち上げます。このエクササイズを「ペルビックカール」といいます。 ペルビックカール 【STEP 3】ゆっくりともとの姿勢へ戻すSTEP 2(ペルビックカール)の状態で息を吸い、吐きながら胸から順に戻していきます。 【STEP 4】「シングルレッグリフト」を行う(1)続いて、シングルレッグリフトを行います。右足を膝関節の角度が直角(90度)になるようにもち上げましょう。股関節も90度にし、足首は伸ばします。ピラティスの用語では、このポーズを「テーブルトップポジション」といいます。 テーブルトップポジション 【STEP 5】「シングルレッグリフト」を行う(2)息を吸いながら右足のつま先を床にタッチします。ももの角度は45度です。そして息を吐きながらテーブルトップポジションに戻しましょう。骨盤や背骨をキープすることを意識しながら、左足も同じように行います。これで、シングルレッグリフトは終了です。なお、壁を使う方は足踏みをするような状態になります。 【STEP 6】「チェストリフト」を行うここから、チェストリフトを行います。STEP 1の体勢(かかとは楽な位置で構いません)に戻ったら、頭の後ろで手を組み、肘が視野にギリギリ入るようにします。その状態で息を吸って、吐く息で頭から順に、首、胸、腰、尾骨まですべての背骨を丸めていきます。そして、息を吸いながら戻しましょう。 チェストリフト 【STEP 7】「チェストリフト ウィズ ローテーション」を行う次に、頭から尾骨まで丸めた状態でホールドし、息を吐きながら胸の背骨を左右にひねります。戻すときは息を吸いましょう。両ももの間でひねるようなイメージで行います。これでチェストリフトとチェストリフト ウィズ ローテーションが完了です。 チェストリフト ウィズ ローテーション うつぶせのエクササイズ 【STEP 1】「バックエクステンション」を行う(1)床にうつぶせに寝転がり、手を顔の横にもってきます。壁を使う方は、壁から少し離れている状態でOKです。 【STEP 2】「バックエクステンション」を行う(2)息を吸いながら、頭、首、胸を反らせましょう。息を吐きながら戻します。おへそが少し床から浮いているイメージをもって行ってください。 バックエクステンション 深呼吸のエクササイズ 【STEP 1】「キャットストレッチ」を行う四つ這いの姿勢をとります。肩の下に手、股関節の下に膝がくるようにし、両手両足で背骨を支えます。その状態で、息を吐きながら背骨全体を丸め、吸いながら反らせましょう。少しテンポを上げて繰り返します。 【STEP 2】膝を1cm浮かせたり戻したりする次に、四つ這いの体勢で足首を返して床につま先を立て、息を吸います。そして、息を吐きながら膝を1cm浮かせてください。再び吸いながら戻し、繰り返します。 【STEP 3】お尻をもち上げ、ゆっくりと起き上がる四つ這いからお尻を天井に向けてもち上げたら、両足のかかとを床につき、手を足のほうへ歩かせて体を起こしていきます。背骨全体が丸まって、腕はだらんと脱力した状態です。そのまま、背骨を下から順番に積み重ねる意識で起き上がります。 【STEP 4】「ロールダウン」を行う息を吸ったら、吐きながら上から順番に背骨を丸めます。再び背骨が丸まって、手がだらんと垂れ下がる姿勢になります。そこで息を吸い、再び吐きながら体を起こしてください。 ロールダウン 【STEP 5】腕を大きく動かしながら深呼吸最後に、体を起こしたら手を前からもち上げて「バンザイ」の姿勢をとります。下ろすときは体の横からです。続いて、息を吸いながら横から手をもち上げ、吐きながら、今度は前に下ろしましょう。 ピラティスで最も大事なことは、難しいポーズをとることではなく、体の隅々に意識を向け、その反応を観察しながら行うことです。利用者さんの体の状態を見ながら、ぜひ訪問看護の現場で実践していただき、一人でも多くの方の心身機能がより良い状態になったらうれしいです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ」
受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ」
特集
2023年8月8日
2023年8月8日

受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ<前編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、櫛野 秀原さん(ウィル訪問看護ステーション江東サテライト/東京都)の審査員特別賞エピソード「担当看護師からパパママ友へ」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 担当看護師からパパママ友へ<前編> >>後編はこちら受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ<後編>」【つたえたい訪問看護の話】 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。 エピソード投稿:櫛野 秀原(くしの しゅうげん)さんウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都) [no_toc]

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