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ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年7月11日
2023年7月11日

食べ物やたばこのにおい、ペットの毛が気になる…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

においやペットの毛などが気になるお宅も 訪問先で、傷んだ食べ物の腐敗臭やたばこのにおい、ペットの毛などが気になることがあるにゃ…。不衛生な環境で利用者さんの体調が心配だし、次のお宅のことも考えると、におい移りも気になるにゃ 認知症の方をはじめとして、利用者さん宅に訪問した際、傷んでしまった食べ物を目にすることもありますよね。食べ物に限らず、たばこやペットの糞尿のにおい、ペットの毛などが気になることがあるという声も聞かれました。利用者さんの体調への影響が心配なのはもちろんのこと、できるだけ次のお宅の訪問に影響がでないように、という観点で皆さん工夫しているようです。「におい移りが気になるときは、次の利用者さんの訪問前に消臭スプレーを活用する」「自分の衣類にペットの毛がたくさんついてしまって気になることがあるので、粘着カーペットクリーナーを持参している」といった対処法を実践している訪問看護師さんも。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

在宅看護と訪問看護の違い
在宅看護と訪問看護の違い
特集
2023年7月11日
2023年7月11日

在宅看護と訪問看護の違いは何?必要性やメリット・デメリットも解説

近年、少子高齢化に伴い、在宅医療が注目されています。在宅医療には在宅看護や訪問看護が含まれますが、「在宅看護と訪問看護の違いって何?」と考えたことがある方もいるでしょう。 医療現場でも両者の使い分けが曖昧になっているのが現状ですが、在宅看護と訪問看護の違いや、在宅医療の必要性について解説します。 在宅看護と訪問看護の違い 在宅看護と訪問看護については明確に区別されていない現状がありますが、ここでは区別して語られる際の違いを解説します。 一般的に在宅看護は、病気や障害をもつ方が住み慣れた自宅で療養を続けられるように看護を行うことを指します。一方、訪問看護は、療養中の利用者さんがいる居宅(老人ホームやグループホーム等も含む)に医療従事者(看護師、理学療法士、保健師など)が訪問して、看護を行うことを指します。 どちらも療養者が自分らしい充実した生活を送れるように支援する点においては同じだといえますが、訪問看護は利用者さんやそのご家族が希望して利用する「サービス」のひとつです。 訪問看護で行う仕事内容は、次のとおりです。 健康状態の確認や助言バイタルサインのチェックや問診、視診、触診などを行い、健康状態を確認する病状、疾患、日常生活に影響を及ぼす原因のアセスメントを行い、必要に応じて助言する日常生活の支援栄養や排せつの管理やケア、身の回りの世話、療養環境の整備などを行う利用者さん・ご家族の相談や助言、メンタルケア利用者さんが不安に思うことや分からないことがないか尋ね、必要に応じて助言やメンタルケアを行う褥瘡の予防や処置褥瘡の予防や改善に向けた処置や指導を行う認知症や精神疾患のケア症状に応じた住環境の整備や内服指導、介護者の支援・指導などを行う医療ケア医師の指示に従い、インスリン注射や点滴の実施、疼痛や血糖のコントロール、急変時の対応などを行う医療機器の管理・指導人工呼吸器や吸引器などについて、専門業種と連携して管理を行い、ご家族や利用者さんへ使い方などを指導するリハビリテーション看護師や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが医師の指示のもとにリハビリテーションを行う(ADL・IADLの維持・向上を目指した訓練やポジショニング、ROM訓練など) このように、訪問看護では利用者さんの日常生活の支援だけでなく、さまざまなケアを行う必要があります。また、このほかにも利用者さんの担当医師や薬剤師、栄養士、理学療法士、ケアマネジャーなどとの相談・情報共有が必要になるケースも多いでしょう。 訪問看護師は、利用者さんやご家族のケアを行いつつ、多職種と連携してより充実した在宅医療を提供できるようにするという重要な役割を担っています。 「地域看護」って何? 在宅看護や訪問看護と関連して、「地域看護」という言葉もよく聞かれるようになりました。地域看護とは、病院で個人を看護するのではなく地域のあらゆる年代の住民を対象とした看護のこと。地域に住む人々の健康かつ幸せな暮らしを実現することを目的にしています。地域看護の中に、在宅看護や訪問看護が含まれます。 在宅看護・訪問看護が必要な理由 ここからは、在宅看護・訪問看護の需要が増えている理由について、改めて見ていきましょう。 少子高齢化による高齢者人口割合の増加 日本は少なくとも1950年から総人口に占める高齢者(65歳以上)の人口の割合が増加しています。総務省のデータを見ると、1985年には総人口に占める65歳以上の割合が10%を超え、その後も著しく増加していることが確認できるでしょう。2025年には65歳以上が30%を占めるとも予測されています。 総務省統計局「1.高齢者の人口」1) 高齢者の増加に伴い、当然ながら要介護者数や死亡者数の増加が課題に。死亡場所として大半を占めていた病院・老人ホーム等の施設がひっ迫し、医療費も増大します。 病院から在宅への療養環境の移行 医療機関の病床は、医師がすぐに診療できる環境下にいる必要のある患者さんの利用が推奨されます。医療サービスが多くの患者さんに行きわたるように、医療機関での療養と在宅での療養は使い分ける必要があるのです。療養環境が在宅へ移行することで、行政の医療政策である「長期入院にかかる医療費の抑制」や「効率的な病床活用」の達成にもつながります。 また、厚生労働省が行った調査の中で、「終末期の療養場所に関する希望」についての問いがあります。それに対して、医療機関の併用を希望している方を含めると60%以上の方が「自宅で療養したい」と回答しました。患者さんやそのご家族のQOL(クオリティオブライフ:生活の質)の向上のためにも、在宅医療のニーズは高まっているのです。 在宅看護・訪問看護のメリット・デメリット 最後に、在宅医療・訪問看護を含めた在宅医療のメリットとデメリット、課題についても改めて見ていきましょう。 メリット 生活の質(QOL)の向上につながる何をもって生活の質が高い状態かどうかは人によって異なりますが、在宅医療は「大切な家族とともに過ごしたい」「一人で静かに暮らしたい」といったニーズを満たすことができます。 病院では設備が整っており、医師や看護師が常駐しているためいつでも治療や検査を受けられますが、なかなか自宅のようには心から安心して生活することができません。自宅は病院と比べれば制約が少なく、生活の質向上につながりやすいのが在宅医療の大きな魅力です。 ご家族や支援者の通院負担が減る通院に対するご家族の負担が軽減できるメリットもあります。訪問看護の活用によって、医師や看護師などが自宅に来て処置を行ってくれるため、ご家族にとっては通院する必要がなく、助かるでしょう。入院費用や病院への交通費がかからず、医療費の負担を抑えられる場合もあります。 デメリット ご家族の判断が求められるシーンが増える在宅医療でも訪問した看護師や理学療法士などの専門職が助言を行いますが、例えば緊急時(急変や転倒など)にはご家族や支援者のその場での判断が求められます。 入院していればすぐに医師や看護師が駆けつけて対応できますが、在宅医療だと、ご家族や支援者が最初の対応を行わなければならない場面も出てきてしまいます。緊急時の対応方法をあらかじめ指導しておくことが大切です。 最先端の医療行為を受けづらくなる医療機関にもよりますが、施設では設備が整っていることが多く、最先端の医療行為を受けやすいでしょう。しかし、利用者さんの自宅で医療行為を行う場合、十分な設備が整っていないケースも多くあります。利用者さんやそのご家族が希望する場合は医療機関での検査や治療も可能ですが、臨機応変に対応していく必要があるでしょう。 課題 医師や訪問看護師の不足医師・訪問看護師等、ニーズに対して人手が不足している現状があります。 在宅医療提供の地域格差都市部と地方での医療サービスの充実度や提供方法が異なり、地域によっては適切な医療サービスを受けられない現状があります。 多職種の連携が確立されていない在宅医療は、看護師だけでなく医師や介護士、理学療法士、保健師、薬剤師など多くの専門職が連携して提供されるのが理想です。しかし、現状ではまだ職種間の情報共有や協力体制が不十分のケースがあります。 * * * 在宅看護・訪問看護について、あらためてその重要性やメリット・デメリットを解説しました。今後も、少子高齢化や自宅療養の需要の高まりに伴い、在宅看護や訪問看護の需要が高まっていくと予測されます。あらためて在宅医療や訪問看護の意義をみつめなおしてみてはいかがでしょうか。 執筆:柿野 俊弥監修:川島 峻監修者プロフィール:医師、医学博士。横浜市立大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒業。虎の門病院、東大病院心臓呼吸器外科などで勤務ののち、Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital留学。帰国後、新宿アイランド内科クリニック院長として幅広い世代に対して内科疾患、予防医療を中心に診療している。呼吸器専門医、胸部外科専門医会員、呼吸器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医。編集:株式会社パンタグラフ 【引用】1)総務省統計局「1.高齢者の人口」https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1291.html2023/6/3閲覧 【参考】〇厚生労働省「訪問看護」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000661085.pdf2023/6/3閲覧〇公益財団法人 日本訪問看護財団「訪問看護とは(医療・福祉関係者向け)」https://www.jvnf.or.jp/homon/homon-1.html#houmon12023/6/3閲覧〇総務省統計局「1.高齢者の人口」https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1291.html2023/6/3閲覧〇厚生労働省 医政局指導課「在宅医療の最近の動向」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/h24_0711_01.pdf2023/6/3閲覧〇厚生労働省「在宅医療・介護の推進について」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/zaitakuiryou_all.pdf2023/6/3閲覧〇一般社団法人 日本地域看護学会「地域看護学の再定義」http://jachn.umin.jp/ckango_saiteigi.html2023/6/3閲覧〇厚生労働省「全国在宅医療会議「重点分野」」https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000157908.pdf2023/6/3閲覧〇厚生労働省「在宅医療の現状について」https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000909712.pdf2023/6/3閲覧

漫画「そうだ、訪看がある」
漫画「そうだ、訪看がある」
特集
2023年7月5日
2023年7月5日

受賞作品漫画「そうだ、訪看がある<後編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、梁井 史子さん(愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう/北海道)の審査員特別賞エピソード「そうだ、訪看がある」をもとにした漫画の後編をお届けします。 「そうだ、訪看がある」前回までのあらすじ二年前に乳がんを発症した訪問看護師の梁井さん。つらい治療を乗り越えたものの、再発…。悲しみに暮れていましたが、「私の人生は私のものだ!!」とがんに立ち向かっていくことを決意しました。頼れる親族がいない梁井さんは、かつて働いていた訪問看護ステーションを頼ることに。 >>前編はこちら受賞作品漫画「そうだ、訪看がある<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 そうだ、訪看がある<後編> 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師/訪問看護ステーション管理者。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1) エピソード投稿:梁井 史子(やない ふみこ)愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)今回、審査員特別賞をいただいたこと、漫画化していただいたことは、がんと付き合いながら生きていく上で大変励みになっています。同僚や友人たち、私を担当してくれた理学療法士さんなどは自分のことのように感激してくれましたし、病棟で働く友人が受賞エピソードを周囲に共有してくれて、訪問看護と接点がない方にも知っていただけました。また、表彰式をきっかけに首都圏在住の友人たちと再会でき、審査員の先生方や違うエリアで働く訪問看護師さんたちから、さまざまなお話を聞くこともできました。今回学んだことは、ぜひ今後の仕事に生かしていきたいと思います。本当にありがとうございました。 [no_toc]

漫画「そうだ、訪看がある」
漫画「そうだ、訪看がある」
特集
2023年7月4日
2023年7月4日

受賞作品漫画「そうだ、訪看がある<前編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、梁井 史子さん(愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう/北海道)の審査員特別賞エピソード「そうだ、訪看がある」の漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 そうだ、訪看がある<前編> >>後編はこちら受賞作品漫画「そうだ、訪看がある<後編>」【つたえたい訪問看護の話】 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師/訪問看護ステーション管理者。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1) エピソード投稿:梁井 史子(やない ふみこ)愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道) [no_toc]

がん身体症状の緩和ケア
がん身体症状の緩和ケア
特集
2023年7月4日
2023年7月4日

オピオイドスイッチングとタイトレーションとは【がん身体症状の緩和ケア】

前回に引き続き、Aさんを交えた投薬内容を見直すカンファレンスからスタートです。Aさんは膵臓がんで、つらい痛みが続いています。Aさんの鎮痛効果を高めるために何ができるのか、一緒に考えていきましょう。オピオイドスイッチング、タイトレーションについても解説します。 前回までのあらすじ 痛みのコントロールがうまくいっていないAさん。その状況を在宅主治医に伝えたところ、主治医からカンファレンス開催の提案がありました。早速、訪問看護師であるあなた、薬剤師、ケアマネジャー、在宅主治医がAさんの自宅に集まり、Aさんの投薬内容を見直す話し合いがスタートしました。 まずはオピオイドの量を増やし、便秘症状を緩和するためオピオイド誘発性便秘症治療薬であるナルデメジンの併用が決まりました。さて、カンファレンスの続きはどうなったでしょうか。 >>前回の記事はこちら鎮痛薬使用の4原則とWHOの三段階除痛ラダーとは【がん身体症状の緩和ケア】 カンファレンスメンバー 画像素材:PIXTA あなた: 先生、痛くなったときの対応はどうしたらよいでしょう。処方されているロキソプロフェンナトリウムではあまり効果がないように感じます。 在宅主治医: 確かにあまり効果はなさそうですね。膵臓がんの場合、腹腔神経叢への浸潤を多く認めるため、侵害受容性疼痛だけではなく、神経障害性疼痛も混ざっている可能性があります。ロキソプロフェンナトリウムから神経障害性疼痛にも有効といわれているオキシコドン速放性製剤に切り替えましょうか。Aさん、突然起こる痛みのときは、かなり強い痛みだったのではないですか? Aさん: はい、みぞおちあたりとその反対側の背中がじくじくと痛くなり、急に耐えられなくなるほど痛くなることがあります。その痛みが20~30分ほど続くことが1日に数回あります。 在宅主治医: 今回、徐放性製剤の量を倍の20mgに増やすので、その反応を見きわめましょう。増量は、通常1日投与量の30~50%量が目安ですが、これにあまりこだわる必要はないでしょう。そして、疼痛時にオキシコドン速放性製剤を10mg服用してみてはいかがでしょうか。まずはAさんの痛みを何とかしましょう。 薬剤師: オキシコドンは神経痛にも効果があるといわれていますので、私もオキシコドン速放性製剤の併用に賛成です。 あなた: 神経障害性疼痛には鎮痛補助薬と呼ばれる神経痛に効く薬があると聞きました。それを使うのはどうでしょうか? 薬剤師: では、ミロガバリンベシル酸塩を使用してはいかがでしょうか。鎮痛補助薬は比較的ゆっくり効いてくるお薬です。痛くなってから服用するよりも、定期的に服用していただいて、急な神経痛が出にくくなるように調整したほうがよいでしょう。 ケアマネジャー: Aさんの痛みが抑えられたとして、リハビリテーションは可能でしょうか? Aさんは少しでも歩いてご自身でトイレに行きたいと希望されているのですが、最近足もとがおぼつかない様子です。廊下に手すりを設置しているのですが、トイレに行くときもつらそうで…。 在宅主治医: リハビリテーションは大歓迎です。痛みをコントロールしながら、ご自身でトイレに行けるよう、可能な範囲で歩行や起立訓練を行いましょう。 Aさん: 足腰が弱ってきて、自分でトイレに行けなくなるのはつらいなと感じていました。リハビリテーション、楽しみです。ぜひお願いします。 あなた: 腹水も少し増えているようですが、腹水が増えて苦しくなったときはどうすればよいのでしょう? 在宅主治医: そうですね、自宅で腹水を抜く処置が可能です。ほかには、腹水が増えすぎないように、定期薬の中で利尿薬やステロイドを使用してみてもよいかもしれません。当院では困難ですが、抜いた腹水をろ過濃縮して体に戻す治療もあります。Aさんがご希望なら、1~2泊の入院で対処できる病院を紹介できますよ。 Aさん: 皆さんがまとまって私をサポートしてくれるのですね。こんなに心強いことはありません。 あなた: Aさん、これからお薬が少しずつ変わっていきます。その中で不愉快な症状が出てくるようであれば教えてください。例えば、食欲不振や眠気、吐き気、便秘、痛みがまだ残っているかどうかなどです。Aさんの症状やご希望を伺って、できるだけ早く解決できるようにしていきます。よろしくお願いします。 * こうして、投薬内容を見直すカンファレンスは終了しました。では、何がどう変わったのか、詳しく解説していきます。 Aさんの処方はどう変わったのか? カンファレンス前とカンファレンス後のAさんの処方内容を比較してみましょう(図1)。 図1 Aさんのカンファレンス前とカンファレンス後の処方内容 (赤字は追加・変更された薬剤および投与量を示す) オピオイドの増やし方 オキシコドンを10mgから20mgに増量しました。服用する時間もある程度指定しました。これは通過点かもしれず、Aさんの痛みの状態に応じてもう少し量を増やす必要があるかもしれません。 Aさんのケースのように、鎮痛効果と副作用の出方を観察しながら、患者さんにあった投与量を調節し、至適用量を決めることをタイトレーションといいます。薬剤を変更するときにも行われます。痛みを和らげるオピオイドの量は患者さんによって異なるということを意識しましょう。 増量方法について教科書的には、定期投与されていたオピオイドの量を30~50%増やすことが推奨されています。しかし、Aさんのケースではかなり強い痛みが存在しており、もともとの投与量自体も少なかったので、今回は10mgから20mgへと100%増やしています。 これで痛みのコントロールが不良な場合、オキシコドンの量をさらに30mgに増やし(50%増量)、その後40mg(25%増量)としても問題ないと考えられます。 オキシコドンの副作用である便秘への対策 ここではナルデメジンを使用しました。酸化マグネシウムは継続していますが、下痢や軟便が問題になるのであれば中止します。ナルデメジンと酸化マグネシウムを併用しても便秘が改善されない場合は、Aさんのようにセンノシドといった刺激性下剤を使用します。 オキシコドンの副作用である嘔気への対策 プロクロルペラジンマレイン酸塩という向精神薬を使用しました。悪心や嘔吐への対策としては、ほかに非定型向精神薬やハロペリドールが用いられることが多く、中枢性制吐薬の方がより有効です。 鎮痛補助薬 今回はミロガバリンベシル酸塩を使用しました。神経伝導路における神経興奮を抑える薬です。鎮痛補助薬にはほかにも種類がありますが、下降抑制系と呼ばれる、中枢を介して痛みの広がりを抑えるデュロキセチンも推奨薬として知られています。 利尿薬 腹水のコントロール目的で使用しました。全例に有効というわけではありませんが、腹水が増えるスピードを和らげる可能性があります。 ステロイド ステロイドは、通常、がん終末期の食欲低下や倦怠感の緩和を行う目的で処方されています。糖尿病を悪化させる可能性もあるので、全例というわけではありませんが、しばしば中等量が処方されます。 オピオイドスイッチング 患者さんの中には、投薬ではコントロールできない強い嘔気が出現してしまい、オピオイドを服用できない人や、別のオピオイドが持つ効果を求めて、その薬にシフトしたり、併用したりする人がいます。このように、投与中のオピオイドから別のオピオイドへ変更することをオピオイドスイッチングといいます。 オピオイドスイッチングを行う際、オピオイド導入時と同様に少量から投与して調整すると、患者さんの痛みがぶり返したり、逆に効き過ぎて呼吸抑制が生じたりする可能性も。そのため、変更後の投与量にはある程度の目安があります。ここで「がん疼痛マネジメントの原則-WHOがん疼痛治療ガイドラインとは」のところでも紹介した「オピオイド換算の目安」を再度示しておきましょう(図2)。以下の換算方法は、覚えておいて損はありません。 図2 オピオイド換算の目安 例えば、Aさんが40mg/日のオキシコドンを服用していたとします。がん性胸膜炎により、酸素投与していても呼吸困難がつらい場合、呼吸困難改善作用のあるヒドロモルフォン12mg/日に切り替えます。そうすると、痛みの緩和を同程度に行え、呼吸困難も改善できる可能性が出てきます。 痛みに対する対処だけでなく安心感を与えるケアを がんの痛みに対するオピオイドの使用は大切です。しかし、それ以上に、どのような人が、どのような人生を経て、どのように病気と闘い、今ここにいるのか。その人が、今何ができて、何ができないのか。それらに寄り添いながら、穏やかな笑顔で、少しでも安心していただけることが何よりも大切です。看護の力はこの時期の患者さんにとって大きな支えとなり得ます。これからの皆さんの支援に大きな期待を寄せています。 執筆:鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社

日本訪問看護認定看護師
日本訪問看護認定看護師
インタビュー
2023年7月4日
2023年7月4日

日本訪問看護認定看護師協議会 立ち上げ経緯&想い【特別インタビュー】

「訪問看護認定看護師/在宅ケア認定看護師」は、日本看護協会が行う認定審査に合格し、訪問看護において高いレベルの技術力や知識を持つと認定されたスペシャリストのこと。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会の取り組みについて、代表の大橋奈美さんと、監事の野崎加世子さんにお話しいただきます。 <参考> 新認定看護師制度への移行について2020年度から新認定看護師制度が誕生し、訪問看護認定看護師は「在宅ケア認定看護師」に名称変更。また、これまでは別途行っていた特定行為研修(※)が認定看護師制度に取り込まれることになりました。旧認定看護師制度は2026年度で教育終了予定です(認定審査は2029年度までで終了)。 ※看護師が医師による手順書により特定行為(診療の補助)を行う場合に特に必要とされる研修。在宅ケア認定看護師を目指す場合、在宅・慢性期領域の特定行為(呼吸器、ろう孔管理、創傷管理、栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連)を学ぶ。 ○プロフィール大橋 奈美(おおはし なみ)さん/協議会代表理事看護学校卒業後、総合病院等に勤務。2004年ハートフリーやすらぎ訪問看護ステーションに入職し、現在は常務理事。訪問看護のユニフォームを着て病棟に行けば病棟看護師に声をかけられ、近所を歩けば地元の方とフランクに会話するなど、地域に密着している現役の訪問看護師でもある。現監事の野崎さん(当時代表)の訪問看護師としての姿勢に感銘を受け、協議会へ。 野崎 加世子(のざき かよこ)さん/初代 協議会代表理事&現 監事看護学校卒業後、総合病院に勤務。岐阜県看護協会訪問看護ステーションの立ち上げから関わり、2023年3月末に定年退職。ステーション連絡協議会の会長職を10年以上歴任。岐阜県内で初めてナーシングデイを開設する、高山市内唯一の医療福祉アドバイザーに就任するなどパイオニア的な存在。現在「これからの在宅医療看護介護を考える会」の代表として活躍中。豊富な経験を基に訪問看護の魅力を伝えており、講演依頼が絶えない。 ※文中敬称略 協議会の活動内容&立ち上げ経緯 ―そもそも日本訪問看護認定看護師協議会は、どんなことをしている団体なのでしょうか。 大橋: 日本訪問看護認定看護師協議会(以下、「協議会」)は、訪問看護認定看護師のネットワーク構築と、訪問看護全体の質向上を目指して2009年に誕生しました。「施設から在宅へ」という大きな流れがあるなかで、訪問看護・在宅ケアのスペシャリストである認定看護師は、重要な役割を担っています。認定看護師同士で情報交換をしつつ自己研鑽を積み、地域包括ケアシステムの推進に貢献できるように日々活動しています。 ■日本訪問看護認定看護師協議会 活動 日本訪問看護認定看護師協議会ホームページ(https://jvncna.net/block_act/)より 当初は100名からのスタートでしたが、地道にネットワークを全国に広げていき、現在では362名の仲間がいます。認定看護師同士の研修会・勉強会はもちろん、協議会の外に向けても積極的に情報発信していますね。 例えば、2024年度の医療保険・介護保険の同時診療報酬改定に向けた要望書の作成や、訪問看護ステーションの運営・多機能化に関するコンサルテーション活動等を行っています。また「訪問看護に新たなツールを導入できないか」という試みを行ってくださる団体・法人等からのお声がけに対しても積極的に協力しています。 ―どのような組織単位で活動しているのでしょうか。 大橋: まず、年2回の総会をはじめとした協議会全体としての活動があります。また、地域特性もありますので、全国を大きく9ブロックに分けて地域単位の活動もしているんです。ブロックごとに交流や研修会の開催、地域貢献活動の企画&運営等も行っています。 ■日本訪問看護認定看護師協議会の9ブロック 日本訪問看護認定看護師協議会ホームページ(https://jvncna.net/block_act/)より ―ありがとうございます。2009年に協議会を設立されたとのことですが、初代 代表の野崎さんに、当時の経緯を教えていただきたいです。 野崎: はい。私は日本訪問看護財団の訪問看護認定看護師 教育課程(※)の2期生でした。当時はまだ開講したばかりだったので仲間も少なく、病院の看護師からは「訪問看護認定看護師って具体的に何をするの?」と聞かれてしまうほど知名度も低かったんです。認定看護師の役割である実践・相談・指導をどう進めるべきか、悩みました。 ※日本訪問看護財団の認定看護師教育課程(訪問看護)は2021年度より閉講。 そこで教育課程時代の恩師に相談したところ、団体(協議会)を作ることをすすめていただき、「あなたが代表ね!」と言われたんです(笑)。そういったきっかけで協議会を設立し、活動をさらに充実させるために2014年に一般社団法人化。今は大橋さんに代表をバトンタッチしたという経緯です。会員も当時の3倍以上になり、ずいぶん仲間が増えましたね! ―設立するにあたり、認定看護師さんたちや関係各所の方にはどのように声掛けをしていったのでしょうか。 野崎: すべての認定看護師の教育課程拠点に順次説明をしにいき、「在宅療養者が望むように過ごすには、質の高い看護を追求する仲間が必要です」という想いを伝えました。また、総決起大会を開き、「私たち訪問看護認定看護師はこれからも地域のために、看護のために活動します!」という宣言もしました。 設立後も、訪問看護認定看護師がいない自治体には、直に出向いてその意義をご説明する…といった地道な活動もしましたね。 ―反対意見やご苦労はありませんでしたか? 野崎: そうですね。協議会設立に限らず、新しいことをしようとすると、大抵反対のご意見はあるものです。「協議会はいらないのでは?個人で活動すればよいのでは?」というお声もいただきました。でも、「私たちの目指すところは地域ネットワークの構築であり、訪問看護の充実なんだ」という想いは、皆さん一緒なんです。しっかり対話していくことでご理解いただけて、無事に設立できました。 ―野崎さんの真摯にご説明をされる姿勢、前向きに周囲を巻き込んでいくパワフルさはなかなか真似できないものだと思います。大橋さんも、野崎さんの講演会を聞きにいかれたことがきっかけで協議会に入られたそうですが、そのときのことを教えてください。 大橋: そうなんです! 当時、別の訪問看護認定看護師さんの講演にも行っていたのですが、そこでは訪問看護に関するネガティブなことがたくさん語られていました。その上で最後に「やりがいがあるから皆さん来てください」っておっしゃるのですが、正直「こんなことを聞いて誰が訪問看護をやるんだろうか」と思っていました…。 これではいつまで経っても訪問看護師も認定看護師も増えない、と思っていた時に、野崎さんの講演を聞いたんです。野崎さんのお話のなかにはネガティブな言葉が一切なく、お話にも心から共感しました。私は「これぞ理想の認定看護師だ!」と、すっかり心を奪われたんです。もっとお話が聞きたくて、知り合って間もないのに「仲間たちと一緒に岐阜まで行っていいですか?」と連絡したことも。大歓迎してくださり、下呂温泉にも連れて行ってもらいました(笑)。 野崎: そんなこともありましたね(笑)。 大橋: だから私の講演も、99%は成功体験を語るようにしています。野崎さんのすごさは、協議会設立時もそうですが、それ以外でも積極的に行政や病院、関係者にアプローチして交渉し、新たな体制を作りあげていくことです。「体制がないなら作る」というポジティブな発想は、私のロールモデルになっています。 野崎: ありがとうございます。協議会の私たちが暗い顔をしていたら「訪問看護師になりたい」「協議会に入りたい」と思えませんから、これからも笑顔かつポジティブでいたいですね。 全国の仲間たちと訪問看護の質向上に貢献 ―協議会設立から約15年、法人化から約10年経ちました。協議会の活動を通して、訪問看護認定看護師の認知度や活動内容は変化しましたか? 野崎: はい、確実に変わっていますね。まず、困難事例があった際は、認定看護師が所属している事業所に依頼が来るようになりました。また、多職種が集う会議に参加した際、認定看護師が中心となってまとめている姿を見たこともあり、地域包括ケアの中心的な立ち位置になっていっていることを実感します。 大橋: 冒頭でも少し触れましたが、「訪問看護に関する協力要請は協議会に」という流れも定着しつつありますよ。例えば最近は大学との協働案件が多く、ポケットエコーやVRの研究に協力しています。コロナ禍には、日本訪問看護財団から感染防護具を各県に配布したいというご依頼をいただいたのですが、協議会のネットワークを活用して迅速かつ公平に対応できました。日本財団から遺贈基金をいただいて「在宅看取りを実践できる訪問看護師の育成事業」を実施できたことも、大きな功績です。 野崎: 認定看護師の知識と経験、そして使命感をもってやり遂げられたことは、協議会としても誇れることですね。 大橋: 全国に信頼できる仲間がいるからこそ、こうした大きな事業や取り組みができます。誠実な仲間たちに感謝です。 ―改めて、訪問看護認定看護師の存在意義や求められる姿勢について教えてください。 大橋: 我々には、大変な場面でも逃げずに利用者さんの側に居続ける姿勢が求められると思います。しっかりとアセスメントをして、諦めずにとことん考えていくことが認定看護師の存在意義ではないでしょうか。 野崎: 利用者と向き合う強さが必要なので、ズルい人にはできないですし、真摯に向き合うことが大事だと思います。訪問看護は、熱いハートと冷静な頭脳を持たないとできませんが、そこが魅力でもありますね。 大橋: 全部引き受ける覚悟も必要ですよね。覚悟があるから、よく勉強もする。病棟と違って対象者は全世代であり、疾患もさまざまです。本当にみんなよく勉強していると思います。野崎さんや私も、最近特定行為の研修を修了しましたしね! また、全国の訪問看護師さんたちの相談に乗るのも、私たちの重要な役目です。私が相談に乗る時は、なるべく可視化してお伝えするようにしています。「ストンと腑に落ちました」と言っていただけると、気づきを促す実践・指導ができた、と思えます。認定看護師は社会資源のひとつなので、ぜひ活用いただきたいです。 野崎: 本当にそうですね。全国に訪問看護認定看護師がいるので、壁にぶつかった時はぜひ気軽に相談してもらいたいです。 新たな仲間たちとともにさらにパワーアップ ―今後の協議会は、どのように発展していきたいと思いますか? 野崎: 認定看護師が継続して学べる環境の整備と、国の政策に活かせる活動をしていきたいですね。最近では企業から相談事業の依頼を受けることもあるので、情報交換をしながら活躍の場を広げたいと思っています。 大橋: 訪問看護ステーションに就職する際、「認定看護師がいる事業所なので選びました」という方も多いようです。認定看護師の役割を人材育成にも広げ、互いに育み合いながら裾野を広げていけるといいですね。 また、若手にとってもベテランにとっても、利害関係のない認定看護師に悩みごとや相談ごとを吐露できる環境があることは大切だと思います。今後はどんどん特定行為ができる「在宅ケア認定看護師」も増えてきます。名称は変わっても目指す部分は同じなので、これまで創り上げてきた基盤を大事にしつつ、新たな仲間を増やしてネットワークを強化したいと思っています。 ※本記事は、2023年4月の取材時点の情報をもとに構成しています。 取材・執筆:山辺 智子 日本訪問看護財団 研究員/看護師・保健師研究を通して訪問看護認定看護師の能力と行動に魅了され、活動を応援している一人編集:NsPace編集部

COPD学び直し
COPD学び直し
特集
2023年7月4日
2023年7月4日

【在宅医が解説】「COPD」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は慢性閉塞性肺疾患(COPD)について、訪問看護師に求められる知識や注意点を、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶこと 「COPD患者は、呼吸困難感で動けず、るいそう著明。苦しいことは強要せず、呼吸困難感を緩和し、傾聴・共感し、ACPを行ない、看取っていくのが最善」と思っていないでしょうか? 呼吸リハビリテーション(以下「呼吸リハ」)の効果を体験していない在宅チームが、残念ながら辿りがちな道です。在宅における多職種連携の包括的アプローチにより、COPDはV字回復が可能な疾患です。呼吸リハは、入院ではなく、日常生活の場でこそ行なうべきであり、行なわないのは、在宅チームの怠惰だと心得ていただきたいと思います。 COPDは気道の慢性的な閉塞による疾患 COPDとは、タバコの煙を長期に吸入することで、肺胞壁が壊れ(肺気腫)、気道には炎症が起こり、気道壁が肥厚し、気道分泌物が増える(慢性気管支炎)疾患です。 正常な肺では、肺胞壁の弾性線維が裏打ちして気道の形状を保てていたのが、肺胞壁の断裂で、呼気の途中で気道が虚脱(内腔がつぶれる)・閉塞。吐き出しきれずに貯留したガスで、気道の閉塞がさらに悪化するという悪循環が起こり、呼吸困難の最大の原因となります。まさに、慢性的に気道が閉塞している疾患です。また、疲弊した筋肉から炎症性サイトカインが出て、さらに肺や気道、全身に炎症を起こします。 筋力維持を図り、呼吸ケアで急性増悪を回避 治療方針は、生活の場で筋力維持を図りながら、多面的包括的呼吸ケアで急性増悪を回避することです。呼吸困難感を克服し、動き、筋肉を衰えさせないことが重要です。そのためには、薬物療法、リハビリと栄養療法は必要不可欠です。 呼吸困難感をとるために、気管支拡張薬の吸入、酸素療法・NPPV(非侵襲的陽圧換気)、心不全・心循環管理、呼吸理学療法、栄養療法、パニックコントロールなどを行ないます。これらは、病態疾患管理であると同時に、緩和ケア、心理社会的スピリチュアルケアにもなりえます。これらは在宅で行なわれます。 特に重要なのは、呼吸困難感のいちばんの原因となる動的肺過膨張(以下DHI;Dynamic hyper inflation)の予防です。呼吸状態は日内で変動しますが、セルフコントロール域を超えて過膨張が元に戻らなくなった状態が、急性増悪です。重症になればなるほど、セルフコントロール域が狭まり、ささいな要因(低気圧が近づく、不安、便秘、食後膨らんだ胃が横隔膜を挙上させるなど)で、頻呼吸になり急性増悪を起こします。気管支炎や心不全の増悪というエピソードがなくとも、急性増悪は起こりえます。 薬物療法のメインは気管支拡張薬です。コントローラー(長期管理薬)として、長時間作用型β2刺激薬(LABA)と、長時間作用型ムスカリニック受容体拮抗薬(LAMA)の吸入があり、労作前にDHI予防目的に投与する、短時間作用型β2刺激薬(SABA)や短時間作用型ムスカリニック受容体拮抗薬(SAMA)があります。 また、NPPVでは、吐き出されずに肺の中に残っているガスの圧(内因性PEEP)に相対する圧(カウンターPEEP)を、呼気圧(EPAP)として設定すると、肺内のガスを呼出させることができます。これは口すぼめ呼吸と同じ原理です。NPPVで、活動で生じた肺過膨張をリセットできれば、呼吸困難感の軽減にも役立ち、身体活動性を向上させることができます。 COPDに喘息が合併する場合は急性増悪を頻回に起こしやすく、喘息の管理をすることで、不可逆性と思われた気道閉塞が改善することもあります。 また、脈拍が速いことはそれだけで労作時の呼吸困難感につながるため、脈拍が速い場合にはβ1ブロッカーを併用することが、有効な運動療法を行なうためのコツだと考えています。 訪問看護でのポイント 日常生活での援助方針 日常生活のなかで呼吸困難感を生じる労作は(1)上肢を挙上する動作:洗髪や衣類の脱ぎ着、洗濯物を干す(2)上肢を反復させる動作:歯磨き、体を洗う(3)体幹を屈曲させる動作:靴下やズボンの着脱、足を洗う(4)息をこらえる動作:排便や、重い物を持ち上げる等が挙げられます。援助が必要であれば、ある程度の介入も検討しますが、なるべく患者が日常生活を営めるようにします。DHIの予防にSABAやSAMAをいつ吸ったらよいのかの指導も重要なポイントです。 在宅チームは点でのかかわりであり、急性増悪の徴候の早期発見が重要です。入浴時やデイサービスの送迎時などは、労作によって換気メカニクスの異常が早期に出やすいので、いつもと違うSpO2の低下や戻りの遅延、呼吸困難感の有無を、意識的に観察してください。 セルフマネジメントできるように援助する 急性増悪の予防にはセルフマネジメントも重要です。DHIの予防に自ら行なうべきことの指導(アクションプランニング)が大切です。 たとえば、低気圧が近づくとDHIを起こしやすく、労作前のSABAやSAMAのアシストユースの徹底、NPPVをいつもより長く行なう、などです。 また、患者がセルフモニタリングで症状の増悪に自ら気づけるよう、指導することも重要です。 ● 非活動時の体温、SpO2、脈拍、体重、喀痰の量・色、浮腫 ● いつもの活動時のBorg scale、SpO2、脈拍を患者が無理なく記録でき、かつ重要なポイントを患者ごとにアレンジしたセルフマネジメントシートを作成し、記録してもらいます。いつもと違うことに自分で気づくことができたか、アクションできたかも、訪問ごとに一緒に振り返ります。 訪問看護師のさらなる役割 医療チームに訪問PT・OT・栄養士がいない場合は、医師の指示のもと、訪問看護師が呼吸理学療法や栄養療法の知識を持ち、さまざまな教育や支援の担い手になる役割も求められます。 呼吸理学療法 DHIやSpO2低下が起こらないような、労作の工夫、呼吸法、酸素量の調整などを行ないます。 栄養療法 呼吸するだけで消費されるカロリー(呼吸仕事量)は700kcal/日で、これを基礎代謝量に追加摂取しなければ、体重が減っていきます。そこで、栄養学的な視点で食事内容をチェックし、高タンパク・高カロリー食を基本に、栄養補助食を追加するなど、必要カロリーが満たされるように工夫します。さらに心不全リスクがあれば、塩分管理も必要となります。 執筆:武知 由佳子医療法人社団愛友会いきいきクリニック 理事長/院長 編集:株式会社メディカ出版

ご遺体変化&詰め物事情セミナー
ご遺体変化&詰め物事情セミナー
特集 会員限定
2023年6月27日
2023年6月27日

特別先行公開! 死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情 セミナーQ&A

2023年4月14日(金)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」を開催いたしました。納棺師で株式会社沙羅代表の大垣 麻里氏を講師に迎え、エンゼルケアの後にご遺体に何が起こっているのか、詰め物の処置をどうすべきかなどについて解説いただきました。 本記事では、セミナー時に受講者の皆さまからいただいたご質問への回答を、セミナーレポートに先んじて公開いたします。当日、時間の都合により回答し切れなかった質問にも回答いただきました。セミナーにご参加いただいた方も参加できなかった方も、ぜひご覧ください。 【講師/質問回答】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 ■お役立ちツールも公開!お役立ちツール『「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧』では、より多数のご質問への回答を読むことができます。ぜひご活用ください。>>「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧 死後の対応・医療的処置について <Q1>検死になる条件について教えてください。例えば、訪問診療を導入しておらず、延命処置を希望しない方が孤独死した場合、救急車を呼ぶしかないのでしょうか。 医療にかかっていない状態で死亡された場合には、その原因をはっきりさせるために検死が行われます。孤独死の方のご遺体を発見された場合や、救急車を呼んだけれど到着した時点ですでに亡くなっていた場合も検死となってしまいます。ですので、ご質問にある訪問診療を導入していない孤独死の方の場合、検死になりますし、救急車を呼ぶのではなく警察に連絡することになります。 セミナー内でお伝えした通り、検死になるとご遺体が着衣なしで袋に入れられた状態での帰宅となり、ご家族が大変ショックを受けるケースが多いものです。「万が一の際にはかかりつけ医や訪問看護ステーションに連絡を」ということを、ご家族にお伝えいただいたほうがよいかと思います。 救急車到着時点でお亡くなりになっていない場合には検死にはなりませんが、救急車内で心臓マッサージや酸素吸入、点滴などがなされるかと思います。よくお伺いする事例として、心臓マッサージをして肋骨がすべて折れてしまい、ご家族が亡くなった後にそのことを知り、「救急車を呼んだせいで、痛い思いをさせてしまった」と落ち込まれることがあります。こうした、予想外の最期になってしまわないようにするためにも、ご家族に事前のご説明をしていただくのがよろしいのではないかと思います。 <Q2>最近は火葬場が混み合い、1週間程度後に火葬されることも多々あると思います。その状況を踏まえて気をつけるべきことがあれば、教えてください。 確かにCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行時は、1週間~10日と長くお待ちいただくことが大変多くありました。やはり、一番のポイントは乾燥対策と保冷です。 訪問看護師さんには、保湿剤をしっかりお顔やその周辺に塗っていただけると助かります。保冷については、訪問看護師さんがドライアイスを使用することは難しいかと思いますので、できるだけ室内の温度を低くしていただき、まずは腹部を、次いで胸部を保冷剤で冷却いただければと思います。その後、我々葬儀社が臓器の上や顔の横をしっかりとドライアイスで保冷していきます。 腐敗・冷却について <Q3>葬儀社が到着する前に冷却しなくてよいのでしょうか。室内の温度設定については、どれくらいがいいでしょうか。 ご遺体のことだけを考えればできるだけ早い冷却がよいでしょう。しかし、ご家族の立場に立ったとき、亡くなったばかりで、まだその状況を受け入れられていないときに、ご遺体に冷却材をのせられるというのは、非常につらいことだと思いますので、タイミングへの配慮が必要だと思っております。 例えば、高熱を出してお亡くなりになった方に、熱冷ましのイメージで「熱がおありだったので、少し置かせていただきますね」と保冷剤を置く…といった対応はできるかと思いますが、状況によって限界があるかと思います。 葬儀社が到着し、ドライアイスで強く冷却するのは、死後10時間~15時間程度経過後が一般的(※)かと思います。そのタイミングでも、もちろんご家族がおつらいのですが、比較的受け止めていただきやすいものです。無理はせず、強い冷却は葬儀社にお任せいただくのがよろしいかと思います。 室温は、腐敗防止の観点では一番低い設定温度でお願いできればベストですが、そばで見守るご家族にも配慮する必要があるでしょう。「できるだけ低い」温度設定でお願いできればと思います。 ※亡くなられた後、ご家族がどれくらいで葬儀社に連絡されるかによります。ただし、葬儀社を選択され、翌日に連絡したり、何社か見積もりをとって検討されたりする方もいらっしゃるため、ある程度の時間経過はあるものとお考えください。 <Q4>すい臓がんの方で、死亡確認翌日に全身が腫れあがり、たらこ唇になってしまったことがあります。生前のお顔と変わってしまったため、ご家族からご相談を受けました。お亡くなり直前に高熱が出ていたため、エンゼルケア後に腹部に保冷剤を載せ、暖房も切っていましたが詰め物はしていませんでした。どう対応すればよかったのでしょうか。 典型的な腐敗現象です。お亡くなりになる前からお身体の状態が悪く、腐敗が進行しやすい条件がそろっていたのではないかと思います。詰め物との関連性はなく、保冷が足りなかったことが主原因です。状態の悪い方については、ドライアイスを使用しての急速な保冷を行うことが大切だと思います。葬儀社に引継ぐ際、「状態が悪いので至急ドライアイスをしっかりあててください」とご伝言くださると助かります。 <Q5>エンバーミングについて教えてください。どのような内容で、どんなご遺体に実施されるのでしょうか。 簡単に説明いたしますと、血管を通じて血液を排出し、代わりに赤く着色した防腐液(ホルマリン、フェノール等)を注入し、体に行き渡らせることで、腐敗進行を遅らせるような処置を施していきます。それにより、ご遺体を長期間維持できるようにするご遺体保全処置がエンバーミングです。 事情があって火葬までの期間が長いケースや、ご遺体の損傷修復のためにも行われますが、実際には「感染予防になるから」「きれいになるから」といったご要望に基づく実施が多いです。 体液漏れについて <Q6>生前(数日前)に点滴の抜針をして、止血を確認しました。エンゼルケア時に抜針したわけではないですが、死亡後にその抜針した部位から血液や浸出液が出てくることはありますか? 2~3日前の皮下点滴の痕であっても、圧迫固定は必要になりますか? はい、生前止血を確認しても、針穴から体液が漏れることはあります。 皮下点滴の痕についても、実際に漏れるかどうかはケースバイケースですが、その後のご遺体の安置環境が不確定なため、圧迫固定の処置をされていたほうが安心だと思います。 詰め物について <Q7>訪問看護の現場では詰め物をしないように指導を受けていますが、詰め物をしたほうがよいのでしょうか。また、葬儀社では詰め物をしてもらえないのでしょうか。 確かに、詰め物をしていないケースは多いかと思います。在宅看護の方だけではなく、病棟・検死の方も含むデータですが、弊社(株式会社沙羅)の調査でも、60%近い方が「詰め物をしていない」という結果でした。 しかし、新型コロナウイルスの感染、もしくは感染疑いのある方に対し、詰め物・紙おむつ等をして体液の漏出予防を行った場合、納体袋不要という厚生労働省のガイドラインも出ました(2023年1月)。それに基づき、ご家族から詰め物のご要望があることもございます。また、必ずご遺体から体液が出るということはございませんが、詰め物をしていれば体液漏れのリスクが少なくなります。新型コロナウイルス感染有無に限らず、少しでも体液流出の可能性を少なくしたほうがよいのではないかとも考えます。「詰め物をしないといけない」とまでは思いませんが、「できるだけ詰め物をしたほうがよいのではないか」というのが現状の私の見解です。 葬儀社が詰め物をするかどうかについては、会社により対応がまちまちな現状があります。きちんと行うケースもあれば、まったく何も行わないケースもあり、一概に「葬儀社がちゃんと詰め物をしてくれます」と言えないのが心苦しいところです。 「どんな葬儀社に頼んでも、〇〇は行ってもらえる」ときちんと言えるような信頼できる業界になるべく、私も働きかけていきたいと思っております。 <Q8>訪問看護ステーションで用意しておくべき詰め物や、詰める際の道具についてアドバイスをお願いします。詰める際に割り箸をつかうことが多いのですが、ご家族がみていらっしゃることを思うと、心苦しいです。また、肛門に詰め物をせずに面で抑える際には、具体的にどのような処置をするとよいのでしょうか。 詰め物は、綿花が扱いやすいかと思います。詰める際には、可能ならエンゼルケア専用の鑷子(せっし/ピンセット)をご用意いただけたらベストです。 肛門については、肛門を覆うようにガーゼ・綿花・尿パット等でふさぎ、紙おむつと空間ができないようにしておくイメージです。 エンゼルケア・保湿について <Q9>ご遺体の手は組んだほうがよいのでしょうか。 死の習俗として手を組むイメージを持たれている方が多いのですが、そうしなければいけないという根拠はありません。ご家族のご要望があった場合に組む、という対応でよいかと思います。葬儀社では、搬送の際にストレッチャーに手が挟まってけがをさせないようにするために手を組んだり、合掌バンドを装着したりしている現状があります。 なお、例えば拘縮があるような場合は、手を組むことが難しいかと思います。ご家族に対して「無理に組まなくても問題はない」というお声がけをすると、安心いただけるかと思います。中には、「組まなければ成仏できない」と考え、不安に思われるご家族もいらっしゃいます。 ここで拘縮がある方のお身体を無理に伸ばしてしまうと、骨折してしまうこともあります。葬儀社は、制限はあるものの、ある程度高さ・幅に余裕のある棺をご用意するかと思いますので、ご安心ください。 <Q10>目の閉じ方を教えてください。目が閉じずに、眼球が乾燥している場合はどうしたらよいですか? 文章での説明がなかなか難しいのですが、目が薄く開いている程度でしたら、綿を眼球の上に乗せて閉じています。イメージとしてはコンタクトレンズのように薄く綿花をのせていただき、下まぶたを上げて上まぶたを下げます。 綿で閉じることが難しい場合は、エンゼルケア用の整容ゲルを用います。整容ゲルにはアルコールが含まれているのですが、アルコールを注入することで、体液と混ざって膨らみ、目が閉じやすくなります。 <Q11>保湿について、使用する保湿剤や頻度、ポイントなどを教えてください。メイク後の保湿方法や、白色ワセリンを使用してよいかについても教えてください。 保湿剤は、お手持ちの保湿剤でよろしいかと思います。頻度は、あくまで目安ですが一日一回程度です。お顔だけでなく、唇、耳、首などの周辺も忘れないようにしてください。 メイク後の保湿のやり方ですが、オイル系でもクリーム系でも、メイクスポンジに保湿剤を含ませてそっとおさえるように足していきます。白色ワセリンでも問題はありませんが、保湿効果が高い一方で、少しべっとり感があり、テカリが強く出ます。気を付けないと仕上がりに違和感が生じることがありますので、塗りすぎないようにお気を付けください。 <Q12>特別な化粧品を使ったほうがよいのでしょうか。ご本人が使用したものを使っていますが、問題ありませんか? また、自然に見せるためにはどうすればいいかについても教えてください。 我々はご遺体専用の化粧品を使用していますが、皆さんはご本人使用のお化粧品があればそちらでよいかと思います。ただし、ご遺体は体温が低いので、温度で発色するタイプの化粧品は使用することができません。また、クレンジング後、ベースメイクの前に保湿するようにしてください。保湿剤を充分にお持ちでない場合、足して差し上げてください。ベビーオイル・ハンドクリーム・ワセリンなどでも問題ありません(ワセリンは塗りすぎ注意)。 自然に見せる方法については、亡くなられた方によって好みが違うため、どのような見せ方が「その方にとっての自然」と感じるメイクなのか、非常に難しいところです。ただ、どのようなメーカーの化粧品でも、「保湿効果が高いものを選ぶこと」「色の濃淡の種類を多く用意すること」がポイントだと思います。 湯灌(ゆかん)について <Q13>湯灌の定義や、葬儀社が行う湯灌の内容について教えてください。また、訪問看護で清拭を行った場合も、湯灌は行うのでしょうか。 湯灌は、なかなか一口に説明をするのが難しいものですが、温かいお湯に入っていただく、火葬前の最後のお風呂です。洗髪・洗顔・お顔剃りなどを行い、全身を丁寧にボディソープで洗い流します。ただし、地域によっては清拭を「湯灌」と呼ぶこともあります(特に、関東より東の地域)。 湯灌は葬儀のプランの中でご家族が希望された場合に行うことなので、訪問看護でお体をきれいにされていた場合、通常は湯灌しないケースが多いかと思います。 <Q14>湯灌の前に、詰め物やエンゼルケアを行っても問題ないのでしょうか。詰め物がとれてしまうことはありませんか。湯灌する場合、ポリマーの詰め物はよくないというお話も聞きました。 問題ありません。特別なことがない限り、湯灌の際に詰め物が出ることはないでしょう。詰め物は、濡れるため湯灌後に葬儀社で交換するのですが、それでも意味があります。亡くなられてから湯灌されるまで間に、寝台車で移動されたり、安置されたりとお身体を動かすことが多いため、体液漏れの予防処置としての詰め物をお願いしたいです。 ポリマーは水を含むと100倍近く増えるため、どうしてもあふれ出ますが、湯灌をされるかどうかはエンゼルケア時には不確定のため、ポリマー処置されていても問題ありません。ただし、鼻腔については副鼻腔内ではなく、より奥にポリマーを注入しておいていただければと思います。 葬儀社の対応と訪問看護との連携について <Q15>訪問看護では、エンゼルケアは自費負担をしていただいています。葬儀は費用を抑えたものや湯灌なしのものなど、さまざまなプランがあるようで、どこまで自分たちが行うべきか迷います。訪問看護と葬儀社で、対応の違いはあるのでしょうか? 訪問でするべき対応は何だと思われますか。ご家族に説明するためにも知りたいです。 皆さんをはじめ医療者の方々が行うエンゼルケアは、病気と闘い人生を終えられた後、その方らしく身支度を整えること、本来の姿へ戻ること、という意味合いが強いと考えております。一方、我々葬儀社が行うケア・身支度は、「宗教儀式に向けての準備」という意味合いが強いです。 私は葬儀社サイドの者なので、ご家族に会うのは亡くなられた後になります。でも、皆さんは訪問看護でご家族のことも、亡くなられた方のこともよくご存知のはず。私がご家族だったら、故人が生前からお世話になった方に最後の身支度をしてほしいと思います。ですから、訪問看護師さんができる限り亡くなられたときの身支度をされるのが、ご家族の心情としてはベストではないでしょうか。ご家族のご要望に沿うことが基本ですが、場合によっては髪の毛を解くだけだったり、ご本人の口紅を塗ったりするのみでもよろしいかと思います。私は、ご家族が葬儀社に対し、「訪問看護師さんに綺麗にしてもらったからもう大丈夫です」とおっしゃるケースがもっと増えたらよいのではないかと考えています。 また、費用の兼ね合いから葬儀を当初の想定より縮小される方も大変多くいらっしゃいますので、結果的に訪問看護師さんによるエンゼルケアが最後のお支度になることもあります。 <Q16>訪問看護師がご遺体のお着替えをした後、葬儀場でもまたお着替えをすることになるのでしょうか? また、エンゼルケアのやり直しを行うことはありますか? ご家族に、看護師とエンゼルケアをしたいか、葬儀社にお任せしたいかの確認を行っていますが、看護師と行う場合も、例えば詰め物のやり方が不十分だったのではないか、やり直しをするのであれば無駄に金銭的負担をかけているのではないか、と不安になります。 ご家族の金銭的ご負担も考慮の上、そのようなお声がけをしていただいていること、大変ありがたく思います。 ご家族がどの葬儀社に依頼されるかによって異なりますが、弊社の場合は、訪問看護師さんがご遺体のお着替えやメイクをされていた場合、ご家族がそれを望まれたと判断し、特にご要望がない限りはお着替えやメイクをいたしません。 ただし、葬儀社によっては、例えば「白装束を販売したい」という都合によって、お着替えをしているにも関わらず「仏着に着替えないといけません」といった言い方をする良くないケースもあるようです。基本的には、ご家族から再度の着替え要望がなければ、する必要はないと私は考えております。メイクについても、ご家族から「イメージと違うのでやり直してほしい」というようなご要望がない限り行いません。 詰め物については、時間経過とともに変化が起きることも多いため、「完璧な処置」というのはどの時点であっても不可能だと思っています。状況に応じてやり直しが発生します。しかし、詰め物をしていただくことで、体液漏れの予防処置になりますので決して無駄にはなりません。ご遺体・ご家族のためにも大変ありがたいです。 <Q17>小児の場合にも大人と同じような処置をしていますか? 小児の方の場合、綿花詰をしないことが多いです。小さなお鼻やお口に詰め物をすることに、大変心苦しさを感じるためです。ご両親、特にお母様のご要望に寄り添い、どうされたいのかを充分に聞き取って対応するようにしています。また、ご両親がお見送りまでの間に何度も抱っこできる状態にしておけるように気を付けております。訪問看護師の皆さんも、ぜひご両親に対して、「抱っこしてもよい」ということをお伝えいただければと思います。 * * * 後日、オンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」の講義内容をダイジェストにしたレポート記事も公開いたします。ぜひそちらもご覧ください。 >>シリーズ一覧はこちら「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」セミナーレポート>>お役立ちツールはこちら「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧 編集: NsPace編集部

訪問看護師のためのウェルビーイング推進
訪問看護師のためのウェルビーイング推進
インタビュー
2023年6月27日
2023年6月27日

具体的に何をすればいいの? 訪問看護師のためのウェルビーイング推進

スタッフが笑顔で幸せに働くために、「ウェルビーイング推進グループ」を設置しているソフィアメディ。今回は、ウェルビーイング推進グループ マネジャーの宮地麻美さんに、活動内容の詳細や、グループ設置後のスタッフの反応などを伺っていきます。 >>前回の記事はこちらどうすればスタッフが幸せになる?訪問看護師のためのウェルビーイング推進 ソフィアメディ株式会社「英知を尽くして『生きる』を看る。」を使命として、首都圏を中心に全国約90ヵ所で訪問看護ステーションを運営。訪問看護や訪問リハビリテーションなど、在宅医療に特化したサービスを提供している宮地 麻美さん/ウェルビーイング推進グループ マネジャー1972年群馬県生まれ。看護師歴22年。精神薄弱児施設で4年働いた後、医療知識を求めて看護師の道へ。ナショナルセンターで15年勤務しつつ、看護教員資格を取得し、大学院へ進学。遷延性意識障害看護を学ぶ中で、口腔ケアの重要性を感じて摂食・嚥下障害看護認定看護師となり、急性期での看護を実践。2016年に回復期リハビリテーション病院に転職し、在宅看護の重要さを知る。2019年にソフィアメディへ転職後は訪問看護ステーション管理者として3年従事し、2022年2月より新設されたウェルビーイング推進グループのマネジャーを担当。 人と人をつなぎ、訪問看護の楽しさを共有 ―ソフィアメディのウェルビーイング推進グループは、従業員満足度(ES)の向上を目的に活動されていると伺いました。より具体的な業務内容について教えてください。 はい。私たちは「ありがとう」「いいね」がソフィアメディ全体に行き渡るようにしたいと考えています。そのため、スタッフ同士やスタッフと経営陣の気持ちをつなぐための活動や、やる気が上がり、不安が軽減するための取り組みを行っています。 ソフィアメディ内での呼び名も含まれますが、具体的な業務内容は以下のとおりです。 【ウェルビーイング推進グループの業務】・毎月の「ありがとうメール」配信・「ソフィアメディチャンネル」(月に一度の全社会)での「生きるを看る物語り」の発信・CEOとのステーション訪問・社内報のウェルビー記事・新入社スタッフのサポート・おせっかいお人好しの部屋・応援ナース 医療職流動化 ─気になる名称の活動が並んでいますが、まず「ありがとうメール」について教えてください。 働く環境や体調・メンタルなど、現在のコンディションを確認することを目的に、毎月全スタッフを対象にウェブアンケートをとっています。そのフリーコメント欄に、その月に感謝を伝えたい相手への「ありがとうメッセージ」を書けるようにしました。そのメッセージはウェルビーイング推進グループから相手の上長にメールで送り、上長から該当メンバーに共有されるようにしています。 ―直接ではなく、上長を介しているんですね。 はい、そのほうが一人のありがとうで完結せず、ありがとうがありがとうを生むしくみとしてやる気アップにつながると思いますので、あえてそうしています。コンディション確認のアンケートでは、スタッフからネガティブなコメントをもらうこともあるのですが、そのあとにしっかりと「ありがとうメッセージ」が書かれていることもあります。「ぜひありがとうを伝えたい」という強い意思をもったコメントも多く見られるようになりました。毎月のアンケートを回答するとき、今月は誰にメッセージをしようと考えるので、その月にお世話になった色々な人の顔を思い浮かべる時間になっているんです。 ─「ソフィアメディチャンネル」での「生きるを看る物語り」についても教えてください。 ソフィアメディチャンネルは、月に一度行われるソフィアメディの全社会なのですが、毎回時間をもらって、「生きるを看る物語り」を配信しています。日々の忙しさに身を任せながら訪問看護をしていると、「自分がどうありたいのか」「何のために何をしているのか」「何を実現したかったのか」を見失いがちです。それこそ、看護師になった理由や、何を期待し、何を実現したくて弊社に入社したのかも忘れかけてしまうことがあります。それらを振り返るきっかけとなるようなストーリーづくりを心がけています。 内容は幅広く、訪問看護のスタッフの人生を紹介するものやお客様へのインタビュー、お客様とスタッフの交流エピソード、看護・リハビリのあり方などを物語にまとめています。例えば、ACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)を話題にしたときは、「死というものに向き合わなければならないとき、患者さんが最終的に伝えたいことは何か」「まだ心の準備ができていないご家族はどうこの時間を過ごせばいいか」といった内容を発信しました。動画ではなく、抽象的なシーンを紙芝居のように見せながら語る、という形式で、観ている方が自身に重ねたり、想像したりができるように余白のある作りこみを心がけています。 アンケートで、「そういう看護がしたかった!」「自分もそういった観点を心がけて看護をしている」といった意見をもらえると、うれしい気持ちになりますね。事務職のスタッフに「大事にしてきた想い」を尋ねた回に、それを聞いた別の事務担当から「事務業務をこんなふうに考えることができるんだと知り、やる気が出た」といった意見をもらったことも。多種多様なスタッフがいますので、それぞれが持つ琴線に触れられるよう、幅広い視点で発信を続けています。 ギャップに苦しみがちな新入社スタッフのサポート ─新入社スタッフに対しては、どのようなサポートを行っていますか? 年間100名以上の新入社スタッフを対象として、入社後のフォロー・サポートを行っています。実務のオリエンテーションは別の部署が行うので、ウェルビーイング推進グループが行うのは、主にコンディションのフォローですね。多くの新入社スタッフは、実際に仕事を始めると、ギャップや違和感に苦しんでしまうんです。 新入社といっても、ソフィアメディの場合「看護師として1年目」という人はいません。病棟勤務から、想いをもって訪問看護へ、というケースがほとんど。でも、訪問看護のお客様は、病棟とは異なり本当に多種多様です。また、医療設備や必要物品が整っていないことが多いお客様のご自宅で、臨機応変に判断・対応していくスキルが求められます。病棟と大きく価値観が異なるため、リアリティショック(理想と現実とのギャップによるショック)は避けられませんが、ショックをなるべく減らすよう新人看護師の声を聞いたり、私たちが目指す看護について改めて話したりしています。 最近始めたのが、「1ヵ月目のあなたへ」というメールの配信です。スタッフたちと同じ目線に立ち、「どうしても100点を目指してしまうものだけど、60点でも十分なんだよ。一人で頑張りすぎなくていいんだよ」ということを伝えています。気持ちが和らぐよう、表現やデザインも工夫しています。できないことはできないと声をあげてもらうことが重要で、できないものだとこちらが把握できれば、手助けも可能なんですね。メールを通じて、「まずは自分を大切にしてほしい」ということを第一に訴えています。 ありのままを受け入れる存在の重要性 ─新入社スタッフの方に限らず、訪問看護師さんたちとのコミュニケーションについてもう少し詳しく教えてください。普段の声掛けではどんな点に気を付けていますか? そうですね。看護師は「看護に関して何でもできてあたりまえ」が前提とされる世界にいます。できないことがあると、患者さんの状況悪化に直結してしまう。だから誰もが気を張っていて、お互いを褒め合うことはあまりありません。お客様から「ありがとう」と言われることはあっても、看護師同士では「できて当然」という空気感のため、なかなか声を掛け合うことがないんです。 そして、「できてあたりまえ」という世界だからこそ、「患者さんを助けられなかった」という事態に直面すると、大きなショックを受けてしまいます。私自身、看護師になって10年ほどは泣きながら帰ることも珍しくありませんでした。誠意をもって強い気持ちで取り組もうとするほど、自分を追い込んでしまうものなんですね。 でも、看護師ひとりがどんなに力を尽くそうが、どうにもならないことはいくらでもあります。自分の看護のあり方をそのまま受け止めてくれる存在がいたら、私もそこまで自分を追い詰めることはなかったのではないかと思うんです。あのとき、「今のままでいいよ」「ちゃんとがんばってるよ」「十分だよ」という一言をもらえていたら、違ったんじゃないかな、という気持ちが大きいんです。そんな体験をもとに、できるだけスタッフたちに寄り添う言葉を選んでいます。 ─なるほど。自分で自分を追い込んでいる方が、さらに他人から叱られたら、とてもつらい気持ちになってしまいそうですね。 そのとおりです。マネジャー側も必死ですし、できないことがあると強い言葉で注意してしまうこともあるかと思うのですが、誰かに叱られるとなかなか前向きになれないもの。頭のなかが「叱られたこと」だけでいっぱいになってしまいますよね。教わったはずのことも吹き飛んでしまうかもしません。私が関わる看護師には、そういう経験をしてほしくないと強く思っています。 看護師はどうしても自分を二の次にしてしまい、自分を大切にすることが得意ではありません。でも、人生は一度だけなんです。看護師という仕事を選び、続けているスタッフたちをとにかく応援したいですし、自分を大切にしてほしい。そんな気持ちがいまの私を動かしていると思います。 ─ウェルビーイング推進活動を通じて、スタッフの皆さんに変化はありましたか? はい。生き生きと働いている様子を聞くこともありますし、各自抱え込んでしまいがちなステーション業務の大変さを打ち明けてもらえることも増えました。 ―解決が難しいお悩みだった場合は、どのように対応しているのでしょうか。 2022年度には70名ほどの看護師たちとお話ししたのですが、悩みがあれば、話を聞いて「リフレーミング」をしていきます。リフレーミングとは、一定の枠組みで捉えている物事を、違う枠組みで捉えようとする心理学的アプローチです。 例えば管理者と考え方が合わない場合、別の捉え方ができないか検討していきます。それぞれの看護観、人間観や仕事観などが影響してくるのですべてが合うことは難しいと思います。でもその中で「自分がどう考えたら、動いたら少しでも良い関係が築けると思いますか?」とご自身に問い、ご自身の中での最適解をご自身で選んでもらうのです。悩んでいると視野が狭くなってしまうものですが、一緒に視点を変えて考えることで、別の方法に気づき、ポジティブな考え方ができるようになってくれればと思っています。「自分が幸せになれないのは、社会のしくみや環境のせいだ」と考えがちな人もいますが、「自分自身の考え方が変わることでその社会の見え方が大きく変わる」こともあるのだ、と知ることで楽になることが増えると思います。 もちろん、ステーションごとにコンディションも違いますし、それぞれの強い想いがあって簡単にはいかないこともあります。でも、私たちは他人をコントロールすることはできませんし、一人ひとり違うからこそ、人間は面白い。その人の強みを生かせるよう、私自身が一歩引きながら考えることを心がけています。難しいことなので、これは人生を通した課題ですね。 自分の存在を認め、大切にすることが肝心 ─他のステーションの管理者の皆さまに向けて、「ウェルビーイングな職場づくり」をするためのコツを教えてください。 いろいろなアプローチがあると思いますが、一番の肝の部分は、「相手の存在そのものを認めること」ではないでしょうか。存在を認めることは、その人の命や人生を大切にすることに繋がります。具体的にどうすればいいの?と思うかもしれませんが、難しいことではありません。「まずは挨拶から」でいいんです。良い関係でないと、挨拶もままならないものですよね。挨拶は相手の存在を認めていることを伝える一番簡単な手段と思っています。 無事戻ってこられるよう「いってらっしゃい」と声をかけること。帰ってきたときには「おかえり、帰ってきてくれて嬉しい」と言葉で伝えること。 次に重要なのが「失敗が言える関係」にステップアップしていくことです。失敗を自ら好んでする人はいません。でも人は失敗するものでもあると思います。なので失敗を自分だけでなんとか取り繕おうとしたり、隠そうとしたりするのではなく、そのままを報告できること。言い訳を考える時間は、本当に無駄です。私は、そんなことを看護師にさせたくありません。「報告さえしてもらえればちゃんと引き継げるよ」「フォローできるよ」という姿勢が重要だと考えています。対処したあとに一緒に振り返ることはもちろんしていきます。 また、当然のことですが、管理者からのダメ出しは、看護師たちに大きな影響をもたらします。最大限言葉を選んで、「これから学んでいこう」と思えるメッセージを伝えたいですよね。その人が次の一歩を踏み出せるような言葉を考えることが重要だと思います。チーム作りは時間がかかりますが、それぞれの自分らしさを大切にしながら、じっくりすすんでいきましょう。 ─ありがとうございました! ※本記事は、2023年4月の取材時点の情報をもとに制作しています。 取材・執筆: 倉持 鎮子編集: NsPace編集部

家族看護
家族看護
特集
2023年6月27日
2023年6月27日

妻の病状を受け入れらない夫に対する関わり【家族看護 事例】

この連載では、訪問看護ならではの家族看護について「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を通して考えます。今回から実際の事例をもとに援助に行き詰まりを感じた場面を取り上げ、「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を使って分析。支援の方策を考えていきます。 事例紹介 Aさん(50代、女性) 事務職をしていた半年前に胃がんと診断。すでに腹腔内に転移し、手術ができる状態ではありませんでした。入退院を繰り返し、抗がん剤治療を試みましたが効果は得られず。緩和ケアを中心とした在宅療養の開始と同時に訪問看護が導入され、Aさん自身も治療ができる段階ではないことを理解していました。症状は進行し、現在Aさんはほぼベッド上の生活です。予後も週単位と考えられました。 家族構成 同居家族は、Aさんと夫(50代)、中学生の娘と小学生の息子の4人暮らし。夫は管理職として働きながら、家事や子どもたちの世話を一手に引き受けています。お互いの両親は遠方に住み、高齢でほとんどAさんの自宅を訪れることはありませんでした。 訪問看護師の悩み(直面している課題) Aさんは、苦痛症状も増強。今までは夫に強く主張することがほとんどなかったAさんでしたが、「もうつらい。もう死んでしまいたい。もうがんばったでしょ。お父さん、もういい」と夫に必死に訴えるようになりました。夫は「そんなこと言うな。がんばれ!」と大声で叱責。「妻の気力が落ちてしまったら死んでしまう。一日でも長く生きてほしい」と、ひたすらAさんを励まし続けていました。 Aさんのつらい思いに寄り添いたい訪問看護師は、夫に対し病状を受け入れ理解してほしいと説得を試みますが、夫の勢いが強く、うまく介入することができません。最期の時が迫りつつある中で、どう介入すればよいのか困っていました。 渡辺式家族アセスメント/支援モデルで考える 検討場面の明確化 Aさんが夫に自分の思いを必死に訴えるものの、夫は「そんなことを言うな」とAさんをひたすら励まし続けます。夫の強い勢いを前に、訪問看護師は戸惑い、うまく対応できませんでした。そこで、この場面を取り上げて、Aさん、夫、訪問看護師に何が起こっていたのかを検討したいと思います。 それぞれの文脈(ストーリー) ■訪問看護師訪問看護師は、「もうこれ以上がんばれない」と言うAさんに寄り添いたいと思う一方で、夫がAさんをひたすら励まし続けることに戸惑い、かかわりに困っていました。訪問看護師の「Aさんをかばい、夫を説得する」という対処の背景には、夫にAさんの病状を受け入れてもらい、家族そろって穏やかな終末期を過ごしてほしいとの切なる願いがあります。それと同時に、今のままでは穏やかな終末期が遠のいていくと感じる焦りもあります。そうした状況が介入への困難感の増強につながっていたと思われます。 ■夫夫は、妻の奇跡的な回復を信じているのに、妻が弱音を吐き、医療者が希望のない話ばかりすることに困っていたと考えられます。「自分の行動を正当化し、妻を過度に励ます」という対処の背景には、若くして妻を失うかもしれない現実に直面した夫の予期悲嘆や妻亡き後の不安があったことでしょう。加えて、夫としての使命感、希望を失いたくない思い、病状の進行が早くて気持ちが追いつかない状況、仕事と介護の両立による余裕のなさなど、実に多くの要因があると推察されます。 ■AさんAさんは、夫に身体のつらさ、苦しみを理解してもらえないことに困り、夫に必死に訴えていました。その背景には、夫の気持ちも分かるものの、どうしても自分の体力や気力が伴わない現状があったと考えられます。 それぞれの関係性 次にAさん、夫、訪問看護師の三者全体の関係性を俯瞰してみましょう(図1)。 夫はAさんを「過度に励まし」、Aさんはそのつらさを訪問看護師に「訴え」、それを「受け止める」訪問看護師は夫を「説得」。説得された夫は訪問看護師への「反発」を強め、さらにAさんを励ますという悪循環が生じています。訪問看護師が夫を説得すればするほど、事態を悪化させているのです。 また、Aさんと訪問看護師の関係はうまく循環していますが、夫は孤独な状態にあるといえます。Aさんと夫の関係は悪循環に陥り、夫婦間の緊張・葛藤が高まっている状況です。 図1 Aさん、夫、訪問看護師の相互関係 パワーバランスと心理的距離 夫と訪問看護師について検討した内容を図2に示します。 夫は訪問看護師に対する反発のパワーが高まっています。訪問看護師も夫に分かってもらいたいと思うあまり、夫に向けるパワーが高く、両者は拮抗状態です。 心理的距離を見てみると、夫は境界を越えて訪問看護師側に迫っています。訪問看護師は何とかその場に踏ん張って夫に対処しているものの、夫の詰め寄りに大きな負担を感じている状況です。 図2 夫と訪問看護師のパワーバランスと心理的距離 アセスメントをもとに支援の方策を考える そこで、Aさんに関わるケアチームでカンファレンスを開催し、スタッフ間でそれぞれが抱いていた支援の困難感を共有しました。 これにより、気持ちが楽になった訪問看護師は、「過度に励ます」という夫の対処の背景について話し合い、夫が抱えている実に多くの苦しみに今更ながら気づきました。そして、私たち医療者もつらいけれど、「ご主人はそれ以上にもっと苦しんでいる」と共感の気持ちが沸き上がってきました。それとともに医療者の中に理想の最期を求める気持ちがあり、それがかえって夫を追い詰めている現状も見えてきました。 そのような気づきにより訪問看護師は夫の説得をやめ、「Aさん、今日は痛みもないようで、楽そうにされていますね」、「表情が穏やかで、子どもさんとの会話を楽しんでおられました」といったような、むしろ希望につながる会話を心がけました。すると次第に夫の緊張がほぐれ、夫も訪問看護師に心配事を吐露するようになりました。 そして、夫の病状認識を助ける介入も行いました。夫はAさんの病状の進行が早い状況に大きな戸惑いを感じていました。そんな夫が信頼でき、十分につらさを訴えられるような医師との面談の場を設けるようにしたのです。これにより夫は、今後Aさんが辿るであろう経過についてのイメージが少しずつ明確になったようです。訪問看護師が一貫して、Aさんの症状緩和と睡眠の確保に努めたことも夫の介護ストレスの軽減につながりました。 当初、夫は訪問看護師に対し反発していましたが、訪問看護師が対応を変えたことによって、訪問看護師との関係が確実に変化していきました。夫は、子どもたちをAさんから遠ざけていましたが、「親子(Aさんと子どもたち)の時間を大切にしてはどうか」という訪問看護師の提案を聞き入れ、子どもたちがそれぞれ可能な介護を担えるように働きかけるようになりました。子どもたちの存在によって夫婦間の葛藤が緩和され、やがて家族間の穏やかな会話も増えました。夫と子どもたちは最期までAさんを在宅で看取ることができました。 事例におけるアセスメントと支援のポイント ● 看護師のパワーを下げ、支援者から変わる必要があると気づけたこと● 叱咤激励せざるを得ない家族の思いや背景をケアチームで話し合うことで、訪問看護師の認識が苦手意識から共感的理解へ変化したこと● 一貫して療養者の症状緩和に努め、夫とは希望をつなぐ会話を心がけたこと● 夫の病状認識を助ける他者の介入を実現させたこと ● 子どもたちを介護に招き入れ、夫婦間の葛藤を緩和して家族全体の力を引き出したこと 執筆:丸岡 留美子長浜米原地域医療支援センター ●プロフィール1989年滋賀県立総合保健専門学校保健学科を卒業。長浜赤十字病院に勤務し、訪問看護を経験する。2006年に緩和ケア認定看護師を取得。緩和ケア推進や相談等のチーム活動を行い、家族や在宅看取りへの支援に力を入れる。退職後、2023年より地域の多職種とともに地域医療に携わる。 2000年に「渡辺式」家族アセスメント支援モデルに出会い、院内で定期的に勉強会を開き、事例検討を重ねてきた。現在、NPO法人家族関係・人間関係サポート協会のセミナーを受講し、インストラクターを目指している。 ▶NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会のホームページ※渡辺式シートのダウンロードも可能です。 編集:株式会社照林社

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