2023年7月11日
在宅看護と訪問看護の違いは何?必要性やメリット・デメリットも解説
近年、少子高齢化に伴い、在宅医療が注目されています。在宅医療には在宅看護や訪問看護が含まれますが、「在宅看護と訪問看護の違いって何?」と考えたことがある方もいるでしょう。
医療現場でも両者の使い分けが曖昧になっているのが現状ですが、在宅看護と訪問看護の違いや、在宅医療の必要性について解説します。
在宅看護と訪問看護の違い
在宅看護と訪問看護については明確に区別されていない現状がありますが、ここでは区別して語られる際の違いを解説します。
一般的に在宅看護は、病気や障害をもつ方が住み慣れた自宅で療養を続けられるように看護を行うことを指します。一方、訪問看護は、療養中の利用者さんがいる居宅(老人ホームやグループホーム等も含む)に医療従事者(看護師、理学療法士、保健師など)が訪問して、看護を行うことを指します。
どちらも療養者が自分らしい充実した生活を送れるように支援する点においては同じだといえますが、訪問看護は利用者さんやそのご家族が希望して利用する「サービス」のひとつです。
訪問看護で行う仕事内容は、次のとおりです。
健康状態の確認や助言バイタルサインのチェックや問診、視診、触診などを行い、健康状態を確認する病状、疾患、日常生活に影響を及ぼす原因のアセスメントを行い、必要に応じて助言する日常生活の支援栄養や排せつの管理やケア、身の回りの世話、療養環境の整備などを行う利用者さん・ご家族の相談や助言、メンタルケア利用者さんが不安に思うことや分からないことがないか尋ね、必要に応じて助言やメンタルケアを行う褥瘡の予防や処置褥瘡の予防や改善に向けた処置や指導を行う認知症や精神疾患のケア症状に応じた住環境の整備や内服指導、介護者の支援・指導などを行う医療ケア医師の指示に従い、インスリン注射や点滴の実施、疼痛や血糖のコントロール、急変時の対応などを行う医療機器の管理・指導人工呼吸器や吸引器などについて、専門業種と連携して管理を行い、ご家族や利用者さんへ使い方などを指導するリハビリテーション看護師や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが医師の指示のもとにリハビリテーションを行う(ADL・IADLの維持・向上を目指した訓練やポジショニング、ROM訓練など)
このように、訪問看護では利用者さんの日常生活の支援だけでなく、さまざまなケアを行う必要があります。また、このほかにも利用者さんの担当医師や薬剤師、栄養士、理学療法士、ケアマネジャーなどとの相談・情報共有が必要になるケースも多いでしょう。
訪問看護師は、利用者さんやご家族のケアを行いつつ、多職種と連携してより充実した在宅医療を提供できるようにするという重要な役割を担っています。
「地域看護」って何?
在宅看護や訪問看護と関連して、「地域看護」という言葉もよく聞かれるようになりました。地域看護とは、病院で個人を看護するのではなく地域のあらゆる年代の住民を対象とした看護のこと。地域に住む人々の健康かつ幸せな暮らしを実現することを目的にしています。地域看護の中に、在宅看護や訪問看護が含まれます。
在宅看護・訪問看護が必要な理由
ここからは、在宅看護・訪問看護の需要が増えている理由について、改めて見ていきましょう。
少子高齢化による高齢者人口割合の増加
日本は少なくとも1950年から総人口に占める高齢者(65歳以上)の人口の割合が増加しています。総務省のデータを見ると、1985年には総人口に占める65歳以上の割合が10%を超え、その後も著しく増加していることが確認できるでしょう。2025年には65歳以上が30%を占めるとも予測されています。
総務省統計局「1.高齢者の人口」1)
高齢者の増加に伴い、当然ながら要介護者数や死亡者数の増加が課題に。死亡場所として大半を占めていた病院・老人ホーム等の施設がひっ迫し、医療費も増大します。
病院から在宅への療養環境の移行
医療機関の病床は、医師がすぐに診療できる環境下にいる必要のある患者さんの利用が推奨されます。医療サービスが多くの患者さんに行きわたるように、医療機関での療養と在宅での療養は使い分ける必要があるのです。療養環境が在宅へ移行することで、行政の医療政策である「長期入院にかかる医療費の抑制」や「効率的な病床活用」の達成にもつながります。
また、厚生労働省が行った調査の中で、「終末期の療養場所に関する希望」についての問いがあります。それに対して、医療機関の併用を希望している方を含めると60%以上の方が「自宅で療養したい」と回答しました。患者さんやそのご家族のQOL(クオリティオブライフ:生活の質)の向上のためにも、在宅医療のニーズは高まっているのです。
在宅看護・訪問看護のメリット・デメリット
最後に、在宅医療・訪問看護を含めた在宅医療のメリットとデメリット、課題についても改めて見ていきましょう。
メリット
生活の質(QOL)の向上につながる何をもって生活の質が高い状態かどうかは人によって異なりますが、在宅医療は「大切な家族とともに過ごしたい」「一人で静かに暮らしたい」といったニーズを満たすことができます。
病院では設備が整っており、医師や看護師が常駐しているためいつでも治療や検査を受けられますが、なかなか自宅のようには心から安心して生活することができません。自宅は病院と比べれば制約が少なく、生活の質向上につながりやすいのが在宅医療の大きな魅力です。
ご家族や支援者の通院負担が減る通院に対するご家族の負担が軽減できるメリットもあります。訪問看護の活用によって、医師や看護師などが自宅に来て処置を行ってくれるため、ご家族にとっては通院する必要がなく、助かるでしょう。入院費用や病院への交通費がかからず、医療費の負担を抑えられる場合もあります。
デメリット
ご家族の判断が求められるシーンが増える在宅医療でも訪問した看護師や理学療法士などの専門職が助言を行いますが、例えば緊急時(急変や転倒など)にはご家族や支援者のその場での判断が求められます。
入院していればすぐに医師や看護師が駆けつけて対応できますが、在宅医療だと、ご家族や支援者が最初の対応を行わなければならない場面も出てきてしまいます。緊急時の対応方法をあらかじめ指導しておくことが大切です。
最先端の医療行為を受けづらくなる医療機関にもよりますが、施設では設備が整っていることが多く、最先端の医療行為を受けやすいでしょう。しかし、利用者さんの自宅で医療行為を行う場合、十分な設備が整っていないケースも多くあります。利用者さんやそのご家族が希望する場合は医療機関での検査や治療も可能ですが、臨機応変に対応していく必要があるでしょう。
課題
医師や訪問看護師の不足医師・訪問看護師等、ニーズに対して人手が不足している現状があります。
在宅医療提供の地域格差都市部と地方での医療サービスの充実度や提供方法が異なり、地域によっては適切な医療サービスを受けられない現状があります。
多職種の連携が確立されていない在宅医療は、看護師だけでなく医師や介護士、理学療法士、保健師、薬剤師など多くの専門職が連携して提供されるのが理想です。しかし、現状ではまだ職種間の情報共有や協力体制が不十分のケースがあります。
* * *
在宅看護・訪問看護について、あらためてその重要性やメリット・デメリットを解説しました。今後も、少子高齢化や自宅療養の需要の高まりに伴い、在宅看護や訪問看護の需要が高まっていくと予測されます。あらためて在宅医療や訪問看護の意義をみつめなおしてみてはいかがでしょうか。
執筆:柿野 俊弥監修:川島 峻監修者プロフィール:医師、医学博士。横浜市立大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒業。虎の門病院、東大病院心臓呼吸器外科などで勤務ののち、Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital留学。帰国後、新宿アイランド内科クリニック院長として幅広い世代に対して内科疾患、予防医療を中心に診療している。呼吸器専門医、胸部外科専門医会員、呼吸器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医。編集:株式会社パンタグラフ
【引用】1)総務省統計局「1.高齢者の人口」https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1291.html2023/6/3閲覧
【参考】〇厚生労働省「訪問看護」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000661085.pdf2023/6/3閲覧〇公益財団法人 日本訪問看護財団「訪問看護とは(医療・福祉関係者向け)」https://www.jvnf.or.jp/homon/homon-1.html#houmon12023/6/3閲覧〇総務省統計局「1.高齢者の人口」https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1291.html2023/6/3閲覧〇厚生労働省 医政局指導課「在宅医療の最近の動向」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/h24_0711_01.pdf2023/6/3閲覧〇厚生労働省「在宅医療・介護の推進について」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/zaitakuiryou_all.pdf2023/6/3閲覧〇一般社団法人 日本地域看護学会「地域看護学の再定義」http://jachn.umin.jp/ckango_saiteigi.html2023/6/3閲覧〇厚生労働省「全国在宅医療会議「重点分野」」https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000157908.pdf2023/6/3閲覧〇厚生労働省「在宅医療の現状について」https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000909712.pdf2023/6/3閲覧