2023年6月13日
みんなの訪問看護アワード 投稿のきっかけは?【特別トークセッション 前編】
2023年3月24日(金)に、銀座 伊東屋 HandShake Lounge(東京都中央区)にて開催した「みんなの訪問看護アワード2023」表彰式。エピソードを投稿された方をはじめとしたゲストの皆さまに全国からお越しいただき、表彰、特別トークセッション、懇親会などで盛り上がりました。ここでは、特別トークセッションの内容をピックアップしてお届けします。
本トークセッションのテーマは、「つたえたい訪問看護の話」。ファシリテーターに東京医科歯科大学国際健康推進医学 非常勤講師の長嶺由衣子さんを迎え、受賞者の皆さんとエピソード投稿の背景や訪問看護師になったきっかけ、訪問看護の魅力等について幅広くディスカッションされました。前編の今回は、エピソード投稿のきっかけや背景についてのお話です。
【ファシリテーター】長嶺 由衣子(ながみね ゆいこ)さん東京医科歯科大学国際健康推進医学 非常勤講師 【登壇者】村田 実稔(むらた みのる)さんウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都)「みんなの訪問看護アワード2023」入賞投稿エピソード「ちょっと早めの金婚式」 長尾 弥生(ながお やよい)さん白川訪問看護ステーションこだま(岐阜県)「みんなの訪問看護アワード2023」入賞投稿エピソード「104歳の日常」 梁井 史子(やない ふみこ)さん愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう「みんなの訪問看護アワード2023」入賞投稿エピソード「そうだ、訪看がある」 >>エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】>>表彰式の模様はこちらみんなの訪問看護アワード2023 表彰式イベントレポート【3月24日開催】
※以下、本文中敬称略※本記事は、2023年3月時点の情報をもとに構成しています。
東京・岐阜・北海道の受賞者3名が登壇
長嶺: ファシリテーターの長嶺です。今日は、皆さんのお話を聞くことをとても楽しみにしていました。よろしくお願いいたします。早速ですが、皆さん簡単に自己紹介をお願いします。
村田: 「ウィル訪問看護ステーション江東サテライト」の村田実稔と申します。訪問看護師2年目です。以前は小児病院のPICUで勤務していました。今回は、私の心に残っている末期がんの利用者さんのエピソードを投稿しました。本日はよろしくお願いします。
長尾: 岐阜県の「白川訪問看護ステーションこだま」からまいりました、長尾と申します。白川といっても有名な「白川郷」ではなく、下呂温泉から名古屋方面へ車で1時間弱ほど走ったところにある白川町です。白川茶が有名ですが、少子高齢化の影響で茶畑がソーラーパネル化しています。携帯の電波が届かないエリアもあり、サルやカモシカに出合う場所にあるお宅を訪問しています。
梁井: 札幌市から参りました。「愛全会 訪問看護ステーション とよひら・ちゅうおう」の梁井史子と申します。エピソード内容や見た目でもおわかりだと思いますが、乳がんを患って休職していました。2022年9月に訪問看護師として復帰しまして、抗がん剤・鎮痛剤を服用し、ホルモン治療を続けながらフルで勤務しています。そんな状態でも、自分には「訪看がある」という想いを込めたエピソードを、看護師と看護を受ける側、両者の目線から書かせていただきました。このような賞をいただいて、本当に感謝しています。
長嶺: 皆さん、ありがとうございます。梁井さんは、きっと想像を絶する大変さのなかでお仕事されているのだと思います。でも、お話しすると大変明るい方で、利用者さんたちはきっと梁井さんの明るさに勇気づけられているのでしょうね。
それでは、皆さんの投稿エピソードについて深掘りしていきましょう。まず、長尾さんには、104歳の在宅療養者の日常をコミカルに書いていただきました。このエピソードを投稿しようと思ったきっかけは何でしょうか。
エネルギーとパワーが溢れる自由奔放な104歳
長尾: 私のステーションにはこんな元気な方がいるんだ、ということを伝えたかったんです。訪問看護をしていると、私のほうが利用者さんたちからたくさんのエネルギーとパワーをいただき、癒やされることがたくさんあります。訪問看護の現場は大変なことも多いですが、「こんなに楽しい日常がある」「訪問看護は楽しい」ということが伝わればいいなとも思いまして。
長嶺: なるほど。この104歳の方のエピソードを読んでいて、私の患者さんで、国宝級の剣道家だった方のことを思い出しました。黄疸で皮膚が真っ黄色という状況でも、「運動が足りない!」と言って運動をされていて(笑)。長尾さんの利用者さんも、同じように「自由奔放」という感じですね。「お酒を飲めているから健康だな」ということが判断基準になるような、お酒好きな方なのだと思います。こうした利用者さんと接するときに、気をつけている点はありますか?
長尾: 100歳を超えていらっしゃいますし、ステーションとしてもできるだけ大らかに対応しようという方針です。その方の日常や、自由奔放さを受け入れるイメージですね。
長嶺: 100歳を超えていないとNGですか(笑)?
長尾: いえいえ(笑)。100歳を超えていても超えていなくても、自由奔放に生きている方には、その方を受け入れるような対応を心がけています。
長嶺: ありがとうございます。400字以内のエピソードの中に書ききれなかったことはありますか?
長尾: 長寿の秘訣は、食べること、寝ること、ストレスがないことの3点がよく挙げられますが、この104歳の利用者さんは、まさにそれを体現しています。食欲旺盛ですし、電動車イスを自分で運転してピザを買いに行くなど、本当に自由な生活をされています(笑)。
長嶺: 本当に自由ですね(笑)。では、受賞されて、ステーションの皆さんはどういった反応でしたか?
長尾: 実はもともと、「この方のエピソードを4コマ漫画にしたら面白いよね」と同僚と話をしていたんです。受賞作品は後日漫画化が予定されていますし、この機会に全国の方に知っていただけることになり、みんな喜んでくれています。
長嶺: 医療従事者は医療的な面から患者さんの行動にブレーキをかけることが多いと思いますが、ご自宅にお邪魔する訪問看護は、医療従事者が主体の空間ではなく、患者さんご本人が主体となる空間に入るということですよね。だからこそ、その方の良いところを探して人間性や価値観をみることが大事なのだと思います。「訪問看護とは病気を治すのではなく、その人の生活に寄り添い人生を支える仕事だと思う」という一文にも共感しました。ぜひ漫画にして広めていただければと思います。
次は村田さんに伺いたいのですが、村田さんのエピソードは、「結婚50周年を迎える夫婦に対し、娘さんと作戦を立てて、サプライズの金婚式を行った」という内容でした。どうしてこのエピソードを投稿しようと思ったのでしょうか。
村田: 私が初めて担当した末期がんの利用者さんで、このエピソードが私にとってとても印象深かったので選びました。
長嶺: 利用者さんに対して、この金婚式のようなサプライズイベントをよく企画されるのでしょうか。
村田: そうですね、利用者さんに喜んでもらいたいという気持ちが強いですし、私はそうしたイベントを企画するのは得意なほうだと思います。
長嶺: 利用者さんの奥様からの何気ない一言で金婚式のイベントをやることになったそうですが、どんな気持ちで企画されたのでしょうか。
村田: やらない後悔よりやった後悔のほうがいいのではないかと思ったんです。ご家族に、利用者さんが亡くなられた後に「やっておけばよかった」と後悔してほしくなかったですし、まずは行動して利用者さんやそのご家族にも喜んでいただけるように努力したいと考えました。
長嶺:素晴らしいですね。エピソード内に書ききれなかったことはありますか?
村田: 利用者さんの奥様と友人として一緒に食事をしたり、娘さん夫婦が経営する美容院に今でもいったりすることがあって、本当によくしていただいています。
長嶺: ありがとうございます。続いて梁井さんは、ご自身の乳がんの再発について書いてくださいました。投稿しようと思ったきっかけを教えてください。
乳がん再発で「仕事の大切さ」を再認識
梁井:ステーションの看護主任から投稿をすすめてもらったのですが、自分の乳がんが再発したエピソードしか頭に浮かばず、締め切り当日の昼休みに急いで書きました。
長嶺: 訪問看護の患者さんについて語るエピソードがほとんどの中、梁井さんのエピソードだけが、訪問看護を担うご自身のお話でした。どうしたら継続的に訪問看護ができるのか、訪問看護師が仕事を継続しやすくなるヒントがあるように思います。ご自身の体調が優れないなかで書いてくださったことに、お礼を申し上げます。
単刀直入に伺いますが、闘病しながらなぜ訪問看護のお仕事を継続されているのでしょうか。
梁井: 訪問看護が、私の生きがいなんです。
プライベートなお話になりますが、私の家族は現在、兄と母のみです。兄には家庭があって少し遠方に住んでおり、近くに住んでいるのは高齢の母のみ。私は結婚しておらず、若い頃に子宮内膜症で子宮を全摘し、子どもがいるわけでもありません。そんな人生を歩んできて、乳がんが再発して転移したとわかったとき、「私の人生は、生き方は、どうあればいいんだろう」と思いました。「再発したら、もう死ぬしかないんじゃないか」「このままだと、悔しいじゃないか」と。それと同時に、「私には大事にしている仕事がある」とも思いました。
勤務先の事業所の所長からも、「がんばって」「戻ってきてくれるのを待っているから」と声をかけてもらい、すごく心強かったんです。自分には訪問看護の仕事がある、仲間がいるということが、励みでした。今日も、2人の同期が付き添いできてくれましたし、看護学校時代の同期もLINEで毎日励ましてくれました。そうした友達や後輩は看護関係がほとんどなんです。だからこそ、「看護という仕事から離れたくない」「このまま終わってたまるか」と思うことができました。
2回目の乳がんがわかって化学療法で治療しているときは本当につらかったですが、看護師や理学療法士さんに来ていただいたことが励みでした。同業者に励まされたことで、この仕事の凄みを改めて実感したというか、私にとって熱い経験だったんです。
長嶺: 治療しながら働く上で、心身のつらさはないのでしょうか。
梁井: もちろん身体的なつらさはあるものの、精神的には充実していて、ストレスは発症前よりないんです。無理して仕事をしているという感覚はありません。自分が患者の立場を経験したことで、今は前よりも上手に患者さんをケアできているのではないか、患者さんに上手に話しかけられているのではないか、と思える自分もいます。看護は一瞬一瞬で終わるものではなく、その人の人生・生活・環境を支えるものだともわかりました。訪問看護はすばらしい仕事だと、誇りを持ってやっています。
長嶺: 素晴らしいですね。医療従事者は、自分自身は経験したことがない状況やつらさを抱える患者さんと接することが多いですが、どんなに経験を積んでも理解しきれないこともあると思います。梁井さんは、私たちの何倍も患者さんに寄り添えているのではないかと感じます。
梁井: いえ、そんなに立派なことはできていないと思います。実は、がんが再発して「看護師にならなきゃよかった」と思ったこともあります。治療法や処方される薬で予後がわかってしまうからです…。こんなにつらい思いをするのなら、看護師にならなきゃよかったと思うぐらいしんどかったです。でも、そこを乗り越えると、逆に看護の知識が勇気になったり、力になったりする。「大丈夫」とも思えました。今は、「自分にしかできないがん患者さんへの看護がある」と思えることも力になっています。
>>後編はこちら 訪問看護師になった理由&訪問看護の魅力【特別トークセッション 後編】
執筆: 高島 三幸編集: NsPace編集部