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ポータブルエコーの基礎知識
ポータブルエコーの基礎知識
特集
2023年4月18日
2023年4月18日

手軽で便利…でも難しい? 訪問看護師が知っておきたいポータブルエコーの基礎知識

新たなアセスメントツールとして訪問看護でも採用され始め、最近話題のポータブルエコー。使ってみたいと思っても、基礎教育を受けていない看護師にとっては、難解な専門用語を前に、敷居が高いと感じる人も多いのではないでしょうか。東葛クリニック病院でエコー回診を担い、その技術と判断方法を看護師にも指導している臨床検査技師・佐野由美先生に、エコーのしくみと使うために必要な基礎知識を教えていただきました。 音の反射信号を画像化するエコー エコーは、人の耳には聞こえないほどの高い音(超音波)をプローブから出して臓器にあて、跳ね返ってくる信号をプローブが受信し、画像化します。患者にとって無侵襲で、レントゲンのように被曝がなく無害であるため繰り返し検査することができます。 また、レントゲンは撮影後すぐに見ることができませんが、エコーならばリアルタイムで見ることができます。エコーで見ることができるのは、実質の臓器(中身の詰まっている臓器:肝臓、腎臓、膵臓、脾臓など)。尿や血液も見られますが、空気、骨に対しては不向きです。難点は、エコー画像の判断が実施者の技量に大きく左右されるところです。 エコーは深さ・部位ごとに3つのプローブがある プローブは3種類あり、見る深さや部位によってプローブを替える必要があります(図1)。お腹のやや深い部分、例えば膀胱を見る場合は、周波数の低いコンベックス型プローブを使います。コンベックス型プローブは先端が丸くなっており、広い範囲を観察することができます。 褥瘡エコーは表皮に近いところですので、体表に近い部分(乳腺や甲状腺、血管など)を見る周波数の高いリニア型プローブを選択します。薄く小型のセクタ型プローブは心臓に特化したもので、肋骨の間から心臓を見ることができます。 図1:「プローブの種類と使い分け」(提供:佐野由美氏) プローブの持ち方・走査方法 まず、プローブにゼリーを塗り、親指と人差し指、中指でプローブを握り、薬指は肌に添えて固定します(図2)。 図2:「プローブの持ち方 良い例 悪い例」(提供:佐野由美氏) 握りしめたり、持つ位置が上になりすぎたりしないようにしましょう。初心者は、固定が不十分で、強く握りしめすぎるあまり、細やかな動きができなくなりがちです。 横断像は、体軸に対して垂直にプローブを置き、縦断像は、体軸に並行にプローブを置いて描出します。この時、プローブマークの位置が重要です(図3)。 図3:「プローブマークについて」(提供:佐野由美氏) プローブマークとは、プローブの横についている突起のことです。このマークを横断像では患者の左側に、縦断像では患者の足側に向けてプローブを持つことが基本です。横断像ではプローブを当てた部分で切った断面を下からみた画像、縦断像ではプローブを当てた部分を切った断面を右から見た画像がそれぞれ描出されます(図4、図5)。 図4:横断像 (提供:佐野由美氏) 図5:縦断像 (提供:佐野由美氏) そこで重要となるのが、人体の解剖についての知識です。「この断面だから、この臓器がこんな形で見られるはず」とイメージできるようにしておく必要があります。私がエコーを教える時は、実際の解剖図を照らし合わせながら、画像を見ています。 走査方法は2つあり、プローブの角度を変えずに平⾏にスライドさせる平行走査と、プローブ設置面を支点とし傾けながら扇状に動かす扇動走査があります(図6)。 図6:平行走査と扇動走査 (提供:佐野由美氏) エコー画像 調整・判断の知識 エコーを扱う際には、画像の調整(ゲイン、フォーカス、ダイナミックレンジなど)の知識が最低限必要になってきます。特に、ポータブルエコーでは、全体の明るさを調整するゲインの知識が重要です(図7、図8)。 図7:画像の調整(提供:佐野由美氏) 図8:明るさの調整 ゲイン (提供:佐野由美氏) また、画像の判断で最低限覚えてほしいのはエコーレベルです。エコーレベルには、真っ黒の無エコーから、真っ白の高エコーまであり、そのエコーレベルで画像を判断していきます。戻ってきたエコーの力が大きい(硬いもの)ほど、白で描出され、小さい(柔らかいもの)ほど、黒で描出されます。しかし、空気やガスは例外で、白く見えます。 図9:エコーレベル (提供:佐野由美氏) 膀胱は見えやすい方ですが、尿の貯留具合などで左右され、個人差があります。健診で来られる方々はきれいに見えることが多いですが、高齢者は便秘気味でガスが多く、見えにくくなりがちです。 そのほか、エコーには、アーチファクト(画像ノイズ)という、実際には存在しないのに映し出される虚像がつきものです。理解していないと誤診につながる場合や、画像判断の手がかりにできる場合もあり、知っておく必要があります(図10)。 【多重反射】強い反射面が体表面付近で並行に向き合っている場合、反射面の実像の後方に砂を敷いたような画像に見えることがある。 【サイドローブ】エコーはプローブからまっすぐ垂直の方向に放射されるメインローブによって画像が抽出されますが、斜めの方向に放射されるサイドローブによって実像とは異なる画像が抽出されてしまうことがある。 【音響陰影】エコーを強く反射または吸収する物質の後方は、エコーが減弱あるいは消失した領域となる。これを音響陰影という。 【後方エコー増強】音響陰影とは逆に周囲に比べて白く描出されます。画面上にある嚢胞の後方が輝度が高くみえている。 【鏡面現象】鏡に映りこんでいるものが、鏡の向こう側にもあるのと同様に、エコーでもその現象が起こることを鏡面現象という。エコーを強く反射する平面があると、鏡の役割を果たして起こる。 図10:アーチファクトの一例 (提供:佐野由美氏) ポータブルエコー 技術習得と機器選びがカギ エコーは、臨床検査技師でもまだまだ未熟な領域が多くあり、使う人の技術がカギを握ります。研修やアフターケアで質問を受け付ける教育機関があり、看護師は超音波検査士という資格の対象職種となっています。管理者は、ある程度一人が習熟してから次を育てる、というように長いスパンで教育プランを作成する必要があるでしょう。 また、ポータブルエコーは以前より低価格になったとはいえ、最低でも数十万円以上と、決して安くはありません。でも、安いものはどうしても画質が劣ります。画質が悪いエコーでは分かりにくいため、途中で諦めてしまったり、継続使用ができなくなったりするケースがあります。個人的には、初心者の方は、低価格のものより画像がきれいな機器を選んでほしいと思います。 取材協力佐野由美氏(臨床検査技師)編集:メディバンクス株式会社 【引用・参考】(1)田中宏治. 『ナースのためのポケットエコー実践ガイド』 医歯薬出版株式会社, 2020.(2)『超音波検査技術テキスト』 一般社団法人日本超音波検査学会, 2012.(3)真田弘美・藪中幸一・野村岳志(編集). 『役立つ!使える!看護のエコー』 照林社, 2019.

高齢者虐待
高齢者虐待
特集
2023年4月18日
2023年4月18日

もしかしてネグレクト? 訪問看護師は虐待疑いにどう対応すべきか

この連載では、訪問看護師のみなさんが現場で遭遇しそうなケースをもとに、利用者さんからの相談内容に関連する法律や制度についてわかりやすく解説します。法律に苦手意識がある方でも自信をもって対応できるよう、役立つ知識をお届けします。今回のテーマは利用者さんが虐待を受けているのではないかと思われる状況での対応についてご説明します。 事例 夫と二人暮らしのご利用者Gさん(80代女性、要介護度3)。息子夫婦が近所に、娘夫婦が遠方に住んでいます。 がんばって在宅生活を続けてきましたが、最近夫が外出先で転倒・骨折してしまい、一気に在宅生活の継続が困難になってしまいました。結局、介護施設を探すことになり、当面の間は近所に住む長男の妻が食事を定期的に運ぶようになりました。 ただ、長男の妻はあまり義父母の介護には関わりたくないらしく、介護サービスの契約の立ち合いや施設探しには積極的に協力してくれないようです。 ある日、訪問看護師のHさんは、Gさんからこのような相談を受けました。 「別居の娘が食事を運んでくるけれど、最近食べ物がどれも腐っているの。変な味がするから捨てていて…。そのせいで食べるものがないのよ。」 「『別居の娘』さん? 近所に住んでいる長男の妻では?」と違和感を持ったHさんがもう少し詳しく話を聞いてみると、どうやらGさんは長男の妻と自分の娘を間違えているようです。「認知症が始まってしまったのかも」と思いましたが、実際に長男の妻が差し入れたタッパーを開けさせてもらうと、腐ったような酸っぱい臭いがします。 「この煮物は、確かに悪くなっているようですね。お腹を壊すといけないから食べないほうがよいでしょう。何日前のものですか?」とGさんに尋ねると、「今朝、娘が持ってきた」と答えます。臭いの原因を長男の妻に尋ねたのかと聞くと、「関係がよくないから黙って置いていくのよ。もうずっと顔も合わせていないわ」とのこと。Gさんの体調には大きな変化はなく、ほかに変わった様子はありません。このような状況で、訪問看護師のHさんは、どのような対応をとることが望ましいでしょうか。今回はいつもと趣向を変えて、クイズ形式でみなさんに質問します。以下の3つの選択肢の中から適切な対応を選んでください。A:自分は訪問看護師として関わっているに過ぎないので、Gさんの体調に問題がなければ何もしなくてよい。B:虐待(ネグレクト)に当たる可能性があるので、直ちに行政へ通報する。C:担当のケアマネジャーに報告し、問題意識を伝える。いかがでしょうか。 本シリーズをここまでお読みいただいた読者は、Aを選ぶことはないかと思いますので、BとCのどちらかを選ぶことになるでしょう。「わざと腐ったものを出したのだから、虐待では?」と思った人や、逆に「この程度のことで虐待にはならないでしょう。Gさんは認知症で何か誤解しているのかもしれないし」と思った人もいるかもしれません。 Bでも間違いとはいい切れないのですが、ここでの正解はCとしたいと思います。これからその理由を解説します。今回は、「虐待」について適切に対応できるよう基礎知識を確認していきましょう。 まず押さえる虐待防止法と虐待の5つの定義 高齢者虐待防止法(正式名称:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)という法律があります。これは、自らの身を守り、SOSの声を上げることができない高齢者を虐待から守るための法律です。 当たり前ですが、まずは「こういう法律があるのだ」ということを押さえてください。ほかにも障害者虐待防止法、児童虐待防止法があり、「虐待」は法律で明確に定められており、「法律を踏まえて対応する必要がある」と理解することが重要なポイントです。 高齢者虐待防止法では、虐待を5つに分類し、それぞれ以下のとおり定義しています。この法律を理解するためには、この定義の理解が非常に重要です。 身体的虐待 高齢者の身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えること 心理的虐待 高齢者に対する著しい暴言または著しく拒絶的な対応、そのほかの高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと 性的虐待 高齢者にわいせつな行為をすること、または高齢者にわいせつな行為をさせること ネグレクト 高齢者を衰弱させるような著しい減食、または長時間の放置、養護を著しく怠ること 経済的虐待 高齢者の財産を不当に処分すること、そのほか高齢者から不当に財産上の利益を得ること 訪問看護師にも通報義務がある 高齢者虐待防止法は「虐待を受けたと思われる利用者を発見した場合は、速やかにその事実を市町村に通報しなければならない」と定めています。この義務は、訪問看護をする看護師にも当然課せられています。 通報を受けた市町村や地域包括支援センターは、調査を行い、虐待を認定した場合、行政権限で利用者を措置処分により隔離することができます。緊急ショートステイや特別養護老人ホームへの入所を速やかに行うことで利用者を虐待者から引き離すのです。 「どの虐待に当たるか?」から出発する 先ほど「法律を踏まえて対応する」と書きました。現場の訪問看護師が具体的にすべきことは、虐待ではないかと思われたときに5つの虐待のどれに当てはまるかを考えることから始めます。 今回のGさんの事例では、「高齢者を衰弱させるような著しい減食、または長時間の放置、養護を著しく怠ること」、すなわちネグレクトが成立する可能性があります。そして、法律では「虐待を受けたと思われる利用者を発見した場合」に通報すべきとしているわけですから、ネグレクトの可能性がある以上通報をしなければならない、つまりBを選択する考えも十分成り立ちます。 しかし、現段階で直ちに通報することは時期尚早のような気もします。なぜなら、虐待容疑をかけられている長男の妻からは聞き取りをしていないからです。「なぜ、差し入れた食べ物が腐っていたのか」と聞けば、夏場で腐りやすかったり、Gさんが冷蔵庫に入れなかったりしたことが原因だったと分かるかもしれません。 一方、高齢者の権利擁護の観点からは、「そんな悠長なことをしていては、いつエスカレートするかわからない。腐っていたことは事実であり、認知症であれば食べてしまう危険もある。緊急性は高いのだから、行政に速やかに通報すべきだ」といった意見も考えられるところです。 もちろん暴力を受けていることが明らかであれば悩まず通報すればよいのですが、虐待の内容によっては突き詰めて考えていくと、結局何をすればよいかがわからなくなるという難しいケースが実は多いといえます。この点、虐待防止法は具体的にどこまで調査をした上で通報に踏み切るべき、ということまで定めてはいません。そのため、現場ではケースごとに判断せざるを得ないのです。 他職種と連携し必要な対応を検討する こうしたことを踏まえた上で、今回は正解をCとしました。その主な理由は、暴力や暴言といった緊急性を認めがたく、Gさんには認知症の疑いがあり何らかの誤解が生じている可能性が考えられるからです。 そもそも、日々の食事については宅配弁当といった別の方法も考えられ、身内に頼らなければならないものでもありません。また、長男の妻に介護負担がかかっていることが推測されます。ケアマネジャーに、そもそもこの状況を把握しているかをさっそく確認し、情報共有することが無難でしょう。訪問看護師が自分で直接長男の妻にヒアリングすることもできますが、その後どのようなケアプランを組み立てるかはケアマネジャーの管轄です。連携先としては、ケアマネジャーが適任といえます。 虐待の疑いありとして、直ちに市町村や地域包括支援センターに通報することも間違いではありませんが、ケアマネジャーに報告したとしても、利用者の安全確認や事実確認、情報収集などが行われることになります。ですから、まずはケアマネジャーに託す選択肢も十分考えられるのです。 もし、ケアマネジャーがまったく対処せず、状況が改善しないようであれば、そのときは迷わず通報をすればよいでしょう。 さて、最後に今回の回答例を示しますが、これはあくまで一例です。利用者さん本人に「あなたは虐待されている可能性があります」と言うこともできますが、現実的とはいいがたいです。どのような対応がベストか、ぜひ職場のみなさんで話し合ってみてください。 回答例 「食べ物がないと困りますね。ただ、息子さんの奥様もわざと腐ったものを出しているわけではないかもしれませんので、さっそく担当のケアマネジャーにこのことを伝えてみますね。」 執筆 外岡 潤介護・福祉系 弁護士法人おかげさま 代表弁護士 ●プロフィール弁護士、ホームヘルパー2級介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命とする。著書に『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)他多数。 YouTubeにて「介護弁護士外岡潤の介護トラブル解決チャンネル」を配信中。https://www.youtube.com/user/sotooka編集:株式会社照林社

訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
インタビュー
2023年4月11日
2023年4月11日

規模が拡大してどうなった? 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会

8期目を迎えた福岡県の訪問看護ステーション、レスピケアナース(管理者:山田真理子氏)。2022年12月現在、看護師20名、リハビリスタッフ10名、事務4名という大所帯ですが、設立当初のメンバーは数名のみ。建物の一角、「台所」からのスタートでした。 そんなレスピケアナースの初期時代を知る「台所メンバー」が集まっての座談会。前編では、立ち上げ当時のことや規模が拡大していく過程を振り返っていただきました。後半の今回は、規模が拡大したことによる変化や、今後の展望などについてお話しいただいた内容をお伝えします。 >>前編はこちら設立当時を振り返る 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会>>レスピケアナース管理者 山田真理子氏 インタビュー記事はこちら規模拡大への想いと理念浸透の秘訣【利用者も看護師も幸せにする経営】 神﨑 喜代子さん(看護師)立ち上げメンバー。管理者山田さんとは学生時代からの付き合い。看護師歴18年、訪問看護歴は7年目。レスピケアナース入職前は、大規模病院の心臓外科や消化器内科などで、終末期の患者に向き合う看護を経験。長崎県の総合診療クリニックにて、主任の経験も。堀川 佐和子さん(事務)立ち上げメンバー。山田さんとは福岡病院の地域連携室にて出会う。レスピケアナースの前身となる訪問看護ステーションからの参加。平行して病院の連携室にも勤めていたが、2015年に退職し、レスピケアナース立ち上げに携わることとなった。 亀谷 涼子さん(看護師)レスピケアナース稼働から4ヵ月後に入社。訪問看護歴は15年程度。前職中、さらなるやりがいを求めて転職活動をしていたところ、Facebookで情報発信している山田さんを知る。ともに働きたいとの希望を伝え、レスピケアナースに転職した。 大久保 奈央子さん(看護師)2016年に登録看護師として入職、現在は楽らく療養通所「プルーンベリーハウス」の準社員。小児科外来で看護師をした後、一時専業主婦に。長子の小学校入学を機に知人から山田さんを紹介され、訪問看護の世界に入る。 ※文中敬称略 幅広い利用者の受け入れ&広がっていく連携 ─これまでを振り返って、嬉しかったことや心に残っていることなどを教えてください。 大久保: 私はやっぱり、利用者さんとの思い出が心に残っています。特に覚えているのは、18トリソミーのお子さんが歩けるようになったことですね。そこまでの成長や歩みも思い出して、ご家族と一緒になって喜びました。もちろん、病院で勤めていたころにも似た経験はあったのですが、訪問看護だと長くご一緒できるぶん、さらにご家族と一歩踏み込んだ関係になれるように思います。 亀谷: わかります。訪問看護は幅広い年齢層の利用者さんと関われるから、その年代ごとに異なる感動がありますよね。お子さんの場合はやはり成長がダイナミックで、それをそばで見ていられるのはとてもワクワクします。 規模が拡大していくにつれ、より幅広い利用者さんを受け入れられるようになりますし、リハビリ職との連携も増えました。チームで情報共有して、利用者さんによりよい看護を提供できると、やっぱりうれしいですね。 ─規模が大きくなると、それだけスタッフ間のコミュニケーションが難しくなってくる側面もあるのでは? 堀川: そう感じた時期もありますね。事業所の体制が整う前に辞めてしまったスタッフが何人かいて、コミュニケーション不足が原因だったかもしれないと思うことはあります。私からすれば「山田さんにストレートに伝えればなんでも解決する」職場なんですが、やはり自分の意見をうまく外に出せない人というのはどうしてもいる。タイミングもあるのでしょうが、なんとかなった可能性が捨てきれないだけに、残念な気持ちはあります。 いまはそのときよりもスタッフが増えていますが、利用者さんのことはもちろん、プライベートのことも含めてよくコミュニケーションがとれていると思います。ここまでよい組織になってきたことに対して、喜びややりがいも感じています。 神﨑: そうそう。堀川さんは、一般的に想像する事務の範囲を超えて、利用者さんの情報をしっかり提供してくれて、ありがたいんですよね。利用者さんのことをしっかり把握していて、それこそどのようにご家族と過ごしているのかとか、利用者さん個人の「背景」まで把握している。 亀谷: 私もそう思います。堀川さん、利用者さんについてすごく詳しいので、最初のころ私は堀川さんが看護師資格を持つ方だと思い込んでいたんですよ(笑)。それくらい、的確な情報を伝えてくださると思います。 神﨑: やっぱり、レスピケアナースとして目指すところがはっきりしているからだと思うんですよね。それは亀谷さんも大久保さんも同じで、共通した強い思いがあるから、しっかり連携できるんじゃないかな。 「いつでも相談できる」という安心 ─規模が大きくなって、改めて感じたメリットを教えてください。 亀谷: まず、休みが取りやすくなりましたね。スタッフが多いので、気兼ねなく休日を取得できる。ほかのメンバーも、自分のライフスタイルに合わせて、柔軟な働き方ができていると思います。ありがたいことですよね。そういったことも含め、全体的にゆとりができたと言えます。 堀川: 山田さんと神﨑さんが日替わりで相談担当をやってくださるのも助かります。なにかあったらすぐ相談する、というシステムが整えられているんです。これもスタッフの層が厚いからこそできることではないかと。 ─「相談担当」と言うのは、訪問時に何かあった際の相談を受け付けているのでしょうか? 神﨑: いえいえ! もちろん訪問時の相談もありますが、内容はそれこそなんでも、「全部」です。当日のスタッフの体調不良や、「事故に遭った」などのトラブルも。今後自分はどう働いていけばいいのか、といった就業問題もありますね。件数で言うと、1日40件くらい、かな。 一同: えー!!?? ─みなさんも相談件数まではご存じなかったんですね(笑) 神﨑: 相談担当の日は、ずっとイヤホンを付けて電話していますね。例えば、「これから緊急訪問がある」というスタッフがいる場合、やはりそのスタッフは少し緊張しているんです。だから、少しでもその緊張がほぐれればいいな、と思いながら話します。まずは誰からコールがあったかを私に知らせてもらう。スタッフが利用者さんのところに到着したら、再び電話。実際に利用者さんの状態を確認してもらい、私からどう対応するかを提案するわけです。医師とコンタクトを取ったときにも電話をもらい、診療が完了したらまた連絡をもらう。そんな感じでやりとりをするので、夜通し電話は鳴っています。 ─とても大変なことだと思いますが、それだけ「相談を受ける」ことを大事にされているのですね。 神﨑: そうですね。やはり「レスピケアらしい看護」をしてほしい。その想いにブレが生じるのはイヤだから、客観的には大変に見えるかもしれませんが、相談してもらっていいんです。規模が大きくなるのはいいことですが、あくまでもレスピケアらしく、大きくならないと意味がない。少なくとも私はそう思っているので。 なかには「相談したいというより、話をしたいだけなんだな」っていう内容のときもありますが、それはそれでいいんじゃないかな。窓口をちゃんと開けておくことが大事ではないでしょうか。 子どもの夢の選択肢に「訪問看護師」を ─レスピケアナースは順調に規模を拡大されていますが、今後の目指している姿について教えてください。 神﨑: まず、訪問看護業界そのものに課題があるのは明白です。これを変えていくような働きかけをしたいですね。もちろん、うちの事務所だけが変わればいいという話ではありません。 訪問看護業界全体の人手不足が何年も続いている状況なので、高い技術を持つ人だけでなく、「さまざまなレベルの人がこの業界で働ける」というシステムの構築が必要なのではないかと思います。敷居を低くして、幅広い方が訪問看護業界の仕事に携わっていけるような社会にすることが理想です。利用者と看護師の数のバランスが取れ、訪問看護が特別なものでなく、地域社会に必要なもの、当然あるもの、という位置付けが確立されていくといいですよね。 それから、職場内での教育を継続していきたいとも考えています。立ち上げ当時からしばらくは毎日大変だったのですが、少ない人数でマンツーマンで教え合い、経験できたこと、学べたことがある。さらに規模が大きくなっても、そういった教育が維持できるような体制を整えていきたいですね。 時間があれば、その教育を地域に広げたい。中学校などに行って、子どもたちに訪問看護とはどういうものか、見せてあげたいんです。そういう職業があるんだ、こういう感じなんだ、というのを伝えたいですね。いつの日か、子どもたちから「将来の夢は訪問看護師」という言葉が出てくる世の中になるといいなと、思います。 ─ありがとうございました! 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部 ※本記事は、2023年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年4月11日
2023年4月11日

遺族訪問時の請求書って…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

遺族訪問時の請求書のお渡しって、切ない 遺族訪問は、とっても大切で緊張する場面。せっかく良い雰囲気になった後に請求書を渡すのって、ちょっと切ないにゃ… 遺族ケアの集大成である遺族訪問。ご遺族と故人との思い出も振り返ります。当たり前のことですが、そんな状況下でもご請求書を渡さなくてはいけません。ちょっと気まずいな…切ないな…と思っているかたも多いのではないでしょうか。訪問看護師さんからは、「せっかく良い雰囲気になっているのに、請求書を渡すとその雰囲気が壊れてしまう気がする」という声も聞かれました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年4月11日
2023年4月11日

【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACEのキャリアパス&訪問時のピラティス活用法

全国の主要都市に100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACEは、ピラティスのノウハウを在宅医療へ導入するという新しい取り組みを行っています。今回は、ZEN PLACE訪問看護の日高さんに、ZEN PLACEにおけるキャリアや実際にどのようにピラティスを訪問看護に取り入れているのかなどを伺いました。 >>前回の記事はこちら【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護ウェルビーイング創造のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 スタッフのニーズに合わせたピラティス研修 ―ZEN PLACEでの研修やキャリアについてお聞かせください。入職してからピラティスのインストラクター資格を取得することも可能だそうですね。 はい、可能です。福利厚生の一環でスタジオを利用することができるので、趣味としてスタジオに通うスタッフもいれば、ピラティスを学び将来的に職務に活かそうとするスタッフもいて、さまざまですね。実際に入職してから資格を取っている人もいますよ。 ZEN PLACEでは、WE(Wholebody Educator)と呼ばれるスタジオのスタッフが、訪問看護師向けに理念やピラティスの概要説明を行う研修があります。興味を持ちピラティスの資格を取りたいと思った場合は、養成コースに通うこともできるんです。 以前は、インストラクターと両立している看護師や理学療法士がいたこともありますね。現在は、基本的に訪問看護をしたいのであれば看護師としてステーションに所属し、スタジオでピラティスを教えるインストラクターになりたい場合はスタジオに所属するというパターンが多いです。 ピラティスを取り入れた訪問看護とは? ―実際、どのように訪問看護にピラティスを取り入れているか教えてください。 訪問時に「ピラティスだけをやる」ということはなく、基本的には訪問の目的に応じて、できるピラティスの動作を行っていただくことが多いですね。利用者さんの既往や現在の疾患、ADLの状況に応じてできない動作もあるので、可能な範囲内でピラティスの一部を行っていただくイメージです。 例えば、すぐにできるものだと呼吸のしかたですね。呼吸だけでもすごく変わりますよ。病気の有無にかかわらず、現代人は不安やストレス、不規則な生活から呼吸が浅くなりがちです。ピラティスは「鼻から吸って口から吐く」という呼吸で行うのですが、この呼吸のみを利用者さんと一緒に行うこともあります。(図1)。 図1:座位での呼吸練習 これを続けるだけで身体が温かくなってきますよ。利用者さんは疾患のことや将来のことなど、さまざまな不安を抱えているケースが多いのですが、呼吸を変えると気持ちも落ち着きやすくなります。お話を聞きながら、「ピラティスで行う呼吸を少し練習してみましょう」と促しています。 特に身体動作に支障がなければ、上向きになって骨盤を傾ける動作もしていますし(図2)、頭が後ろに行ってしまってうまく起き上がることができない方には、「ローリング」という背中を丸めて転がる動作をリハビリに組み込んで、起き上がりがうまくできるようにサポートすることもあります(図3)。 図2:骨盤の位置確認 図3:起き上がりの練習動作 夜眠れなくて眠剤を使っている利用者さんに、できるだけリラックスして穏やかに眠れるように、「ピラティスをしてから寝てみましょう」とお声がけしたところ、しっかり継続してくださった事例もありました。また、リハビリによる基本的動作の改善を実感していただいたり、「すごくスッキリしました」「リフレッシュしました」と言っていただけたりすると、もともと転職をしたきっかけがピラティスだったこともあり、とてもうれしくなりますね。 病院だとどうしても治療が優先なので、点滴や内服に頼らざるを得ないところもありますが、在宅ではお家でその人らしい生活をしていけるように促していけたらいいなと思っています。 少しずつ確実に広がっているピラティス ―訪問時には、基本的に毎回ピラティスを取り入れているのでしょうか? 利用者さんによってまちまちですね。場合によっては、当然医療的なケアを優先します。リハビリを担当する理学療法士のほうが積極的にピラティスを取り入れていて、訪問看護師は医師からリハビリの指示があった利用者さんに対して可能な限りピラティスを取り入れています。 指示書に「ピラティス」という言葉が入っているわけではないですが、「筋力低下の予防」や「歩行訓練」等の指示をいただいた際に、必要な動作や姿勢の形成にピラティスを用いますね。 ―利用者さんから「ピラティスを取り入れてほしい」と要望があるケースはありますか? ステーションの特徴としてピラティスを謳っているので、それを見て時々連絡して下さる方はいらっしゃいます。ただ、まだ医療・介護領域で一般的ではないこともあるせいか、利用者さん自ら「ピラティスを」とご要望をいただくことは少なく、こちらから働きかけて組み込んでいくことの方が多いですね。 ―訪問看護にピラティスを取り入れた際、介護保険の加算は取れるのでしょうか? 残念ながら加算が取れるわけではありませんが、「こういうエクササイズをしています」と報告書に書いて医師に伝えることはしています。 ―リハビリの一環として、ピラティスも取り入れているというイメージですね。 そうですね。ZEN PLACE以外でもこうした動きは強まっていて、最近はピラティスを学ぶ医療従事者の方が増えていると感じています。病院内のリハビリに取り入れているケースもありますよ。 ZEN PLACEのスタジオや養成講座に違う病院やクリニックで働く看護師の方が通われていることもありますし、ピラティスの必要性を感じている医療従事者が増えているようで、うれしいですね。 ―ありがとうございました。次回は、看護師がピラティスを行うメリットや気軽にできるピラティスの動作について伺います。 >>【ピラティス×訪問看護】初心者でもOK。気軽にできるピラティス基本動作 ※本記事は、2023年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 編集・執筆: 合同会社ヘルメース取材: NsPace編集部 【参考】○ZEN PLACE「【医療従事者向け】ピラティスインストラクター養成コース」https://www.pilates-education.info/courses/healthcare2023/3/20閲覧

みんなの訪問看護アワード2023 表彰式
みんなの訪問看護アワード2023 表彰式
特集
2023年4月4日
2023年4月4日

みんなの訪問看護アワード2023 表彰式イベントレポート【3月24日開催】

2023年3月24日(金)に、銀座 伊東屋 HandShake Lounge(東京都中央区)にて開催した「みんなの訪問看護アワード2023」表彰式。全国からエピソード投稿者をはじめとしたゲストの皆さまにお越しいただき、表彰、特別トークセッション、懇親会などで盛り上がりました。ここでは、表彰式当日の様子や参加された方々の感想などを、豊富な写真とともにお伝えします。 >>「みんなの訪問看護アワード」全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 受賞者の皆さまへのトロフィー・記念品授与 まずは受賞者への表彰。入賞、審査員特別賞、大賞の順にお一方ずつ審査員の先生方からトロフィー・記念品が授与されました。 入賞エピソード「爪切りを通して」投稿者の古橋 笑生さん(左)と、特別審査員の長嶺由衣子さん(右) 特別審査員の佐藤 美穂子さん(左)と、大賞エピソード「七夕の奇跡」投稿者の石井 啓子さん(右) 大賞エピソード投稿者 石井 啓子さん(山梨県)の受賞コメントを一部ご紹介します。「今回の受賞について、所属しているますほ訪問看護ステーションのみんなや、エピソードに登場する利用者さんの娘さんも一緒になって喜んでくれました。エピソードの漫画化も楽しみにしてくれています。エピソードを通して、訪問看護という仕事のやりがいや魅力が少しでも伝わったらうれしく思います。これからも、日々真摯に一人ひとりの利用者さん・ご家族に向き合っていきたいと思います。」 石井さんの「七夕の奇跡」を大賞作品に選出した理由について、特別審査員の佐藤 美穂子さんからのコメントもご紹介します。「七夕の日に『短冊に願い事を書いてみては』と思いつかれたことがまず素晴らしいと思いました。そして、利用者さんの持てる力を引き出すように『願い事を書いてみますか?』と語り掛け、実際に『喜代子さん ありがとう』という文字になったこと。これは本当に奇跡だと思います。私たちは、グリーフケア(悲嘆へのケア)を遺族に対するケアととらえがちですが、実は看取りのプロセスが大切です。ご本人が『ちょっとした今』を残すことによって、悲嘆を乗り越えられる。そうした体験を記したこのエピソードは、本当に素晴らしいと思います。私たち訪問看護師がたくさんの看取りに立ち会っていくなかで、こうしたエピソードを知ることはとても大切だと考え、審査員一同で、『皆さまに一番つたえたい話』として選出させていただきました。」 エピソード・訪問看護に関するトークセッション 左から特別審査員の長嶺由衣子さん、受賞者の村田 実稔さん(東京都)、長尾 弥生さん(岐阜県)、梁井 史子さん(北海道) 表彰後は、特別審査員の長嶺由衣子さんと、受賞者3名による特別トークセッション。エピソード投稿のきっかけや訪問看護師になった経緯、訪問看護の魅力を伝えるためにどうすれば良いかなど、幅広いテーマについてディスカッションされました。 「実は、ステーションのみんなには内緒で投稿しました。大賞を狙えると思っていたのですが、もっとすごいエピソードがありました」(村田さん)という裏話で会場に笑顔がこぼれる場面も 働くエリアも訪問看護師になった背景も異なる3名ですが、訪問看護の利用者さんの日常や想いに寄り添える点には、共通して魅力を感じているようです。 また、審査員特別賞(「そうだ、訪看がある」)を受賞した梁井 史子さん(北海道)は、現在もリンパ浮腫とつきあい、抗がん剤と鎮痛剤を飲みながら訪問看護師を続けているとのこと。利用者の立場になり、改めて訪問看護が「人生・環境を支えてくれるありがたい存在」だと感じたエピソードや「一日でも長く訪問看護師を続けたい」という想いを語ってくださいました。 訪問看護の魅力を伝える方法については、登壇者以外の皆さまからも「訪問看護師を主役としたドラマが放送されたら良いのでは」「訪問看護の魅力を伝えたくて、思い切って漫画・エッセイを出版社に持ち込んだところ、連載できた」「根強く『5年神話』(病棟で5年経験を積まないと訪問看護師をなることは難しいという考え)が残っているが、新卒訪問看護師もしっかり活躍している。看護学校の先生にも『大丈夫』と伝えていく必要がある」といったコメントがあり、活発な意見交換がなされました。 初対面でも意気投合。盛り上がった懇親会 参加した訪問看護師さんからは「訪問看護が好きな人ばかりで、前向きな気持ちになれた」という声も 式典の終了後は、審査員の先生方、エピソード投稿者の皆さま、協賛企業の皆さまなど、幅広い方々がご参加されての懇親会も開催。初対面の方々が多いはずが、あっという間に意気投合する様子が見られました。普段は違う都道府県で訪問看護師として働く皆さん。担当エリアの広さや訪問時間・利用者さんの傾向の違いなど、地域差の話題で盛り上がっていました。 また、当日は会場内に「質問BOX」を設置。質問が寄せられた方には、懇談会中に回答いただきました。 質問に回答する受賞者の佐藤 理恵さん(神奈川県) 大賞作品の漫画を描いていただく広田 奈都美さん(漫画家/看護師)にも、懇親会中に漫画制作に関するお話を伺いました。 大賞受賞者の石井 啓子さんと、漫画家の広田 奈都美さん 「『七夕の奇跡』の取材では、石井さんから利用者さんのかわいらしいエピソードをたくさん伺いました。そんなかわいらしさが伝わる漫画にしたいと思っています」といったコメントをいただきました。 また、特別に制作中の「七夕の奇跡」の漫画下書きも一部お披露目されました。 審査員の先生方・受賞者の皆さまのご感想 最後に、「みんなの訪問看護アワード」や表彰式について、特別審査員の先生や受賞者の皆さまに伺った感想をご紹介します。 佐藤 美穂子さん(公益財団法人日本訪問看護財団 常務理事)訪問看護の現場の皆さんの声を聞ける場を設けていただいたことに感謝しています。あまり自分のことを語らない奥ゆかしい訪問看護師さんも多いなか、今回のイベントは自分のことを語る良いきっかけになったのではないでしょうか。地域共生社会の実現が求められていますが、訪問看護は自身のライフステージに関わらず、看護師の資格を活かして地域に役立てるお仕事です。この表彰式で訪問看護師さんたちのお話を聞いていると、受け手・支え手に関係なく人生をともにしていくための道筋も見えてきて、とてもうれしく思っています。 高砂 裕子さん(一般社団法人全国訪問看護事業協会 副会長)訪問看護は、日々の季節の移ろいを感じることができるほか、利用者さんやそのご家族との距離が近い魅力ある仕事です。「みんなの訪問看護アワード」は、そうした魅力や日々の訪問看護の実践について多くの方に知っていただく、とても素晴らしい機会です。受賞エピソードが多くの方に読まれることで、在宅で療養されている方に訪問看護の存在を知っていただくことや、「訪問看護師になりたい」と思う仲間が増えることを期待しています。そして、こうした取り組みが継続されることを願っています。 長嶺 由衣子さん(東京医科歯科大学国際健康推進医学 非常勤講師)当初このイベントのお話を聞いたとき、素直に素晴らしい取り組みだと思いました。表彰式では、受賞者の方々からも「受賞が励みになった」「自分たちのやっていることに自信が持てた」という声が聞かれました。こうしたアプローチや応援は大事だと思います。皆さん本当は、お話ししたいエピソードがたくさんありますよね。それを言語化することで仕事の振り返りになり、表彰されるとより自信になる。そして、「訪問看護の魅力を伝える伝道師」として動こうという意識も生まれる。色々な意味で波及効果がある取り組みだと思います。 大石 佳能子さん(医療法人社団プラタナス/株式会社メディヴァ 代表取締役)初開催ながら数多くのエピソードが投稿され、表彰式にも多くの方が集まって、素晴らしい成果が出ていると思います。また、表彰式には全国の中でも想いや技術がトップレベルの方々が集まりました。同じような部分で悩み、乗り越えようと頑張っている皆さんなので、初対面でも結束するのが早いですね。訪問看護というニッチな分野だからこその連帯感もあるように思います。全国に訪問看護師の知り合いがいる、離れていても仲間がいる。そのように業界を支え合っていけるネットワークや連帯感が生まれる予感がしました。 高倉 陽子さん(入賞者/神奈川県)受賞のご連絡をいただいたときは、スタッフや所長をはじめとして、その場にいた全員が絶叫しました(笑)。エピソードの投稿内容も事前にみんなに相談していたので、周囲の支えがあったからこそとれた賞だと思っています。今後、エピソードを色々な方々に知っていただけることがうれしいですし、とても楽しみです。 服部 景子さん(入賞者/北海道)全国各地で一生懸命勤務されている訪問看護師の皆さんと表彰式の場で出会い、お話しできたことをとても光栄に思っています。また皆さんとお会いできる日を楽しみにしています。エピソードの漫画化も、心待ちにしています。 表彰式にご参加いただいた皆さまの集合写真 表彰式にご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。大賞作品の漫画は、2023年4月下旬に公開予定。そのほかの受賞作品についても、順次漫画を制作予定です。ぜひご覧ください。 取材・執筆・編集: NsPace編集部

訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
インタビュー
2023年4月4日
2023年4月4日

設立当時を振り返る 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会

8期目を迎えた福岡県のレスピケアナース(管理者:山田真理子氏)。2022年12月現在、看護師はパートを含め20名(正規スタッフ15名人)所属。加えてリハビリスタッフ10名、事務4名という大所帯です。しかし、設立当初のメンバーは数名のみ。建物の一角、「台所」からのスタートでした。初期から在籍したメンバーが「台所メンバー」と呼ばれるゆえんです。今回の座談会では、台所メンバーの皆さんに、立ち上げ当時や規模が拡大していく過程を振り返っていただきました。 >>レスピケアナース管理者 山田真理子氏 インタビュー記事はこちら規模拡大への想いと理念浸透の秘訣【利用者も看護師も幸せにする経営】 神﨑 喜代子さん(看護師) 立ち上げメンバー。管理者山田さんとは学生時代からの付き合い。看護師歴18年、訪問看護歴は7年目。レスピケアナース入職前は、大規模病院の心臓外科や消化器内科などで、終末期の患者に向き合う看護を経験。長崎県の総合診療クリニックにて、主任の経験も。 堀川 佐和子さん(事務)立ち上げメンバー。山田さんとは福岡病院の地域連携室にて出会う。レスピケアナースの前身となる訪問看護ステーションからの参加。平行して病院の連携室にも勤めていたが、2015年に退職し、レスピケアナース立ち上げに携わることとなった。 亀谷 涼子さん(看護師)レスピケアナース稼働から4ヵ月後に入社。訪問看護歴は15年程度。前職中、さらなるやりがいを求めて転職活動をしていたところ、Facebookで情報発信している山田さんを知る。ともに働きたいとの希望を伝え、レスピケアナースに転職した。大久保 奈央子さん(看護師)2016年に登録看護師として入職、現在は楽らく療養通所「プルーンベリーハウス」の準社員。小児科外来で看護師をした後、一時専業主婦に。長子の小学校入学を機に知人から山田さんを紹介され、訪問看護の世界に入る。 ※文中敬称略 レスピケアナース入職のきっかけ ─まずは、皆さんが集まってひとつの事業所をつくることになった、そのきっかけを教えてください。管理者の山田真理子さんとはどのような出会いだったのでしょうか。 神﨑: 私は、山田さんとは高校と准看学校の同級生なんです。名簿順では隣り合わせでしたね。学校を卒業した後の配属先でも、病棟が隣り合わせ。さらにその後、私は地元に帰って就職と結婚をしたのですが、なんと結婚相手が山田さんのおばあちゃんの家の裏に住んでいて(笑)、なんだか不思議な縁がありましたね。 そもそもは友人の就職のために山田さんにお声がけしたのですが、友人が引っ越しをすることになり、なぜか私が働くことになりました。それまで訪問診療の経験しかなかったので、訪問看護の世界を知ってはいたものの、自分が携わることになるとは思っていませんでしたね。 堀川: 私が山田さんや神﨑さんと知り合ったのは、山田さんがレスピケアナースのひとつ前の訪問看護ステーションを立ち上げたときです。そこで「事務のお手伝いをしてくれないか」と声をかけていただいて。しばらくは、日赤病院の連携室にもパートとして所属し続けていたのですが、2015年には完全に退職し、その半年後に山田さんや神﨑さんたちとレスピケアナースを立ち上げました。 レスピケアナースの始まりの場所となった台所 亀谷: 私が山田さんのお名前を知ったのは、福岡市南区の研修会ですね。転職活動中にはFacebookでの発信も覗かせていただきました。そうしているうちに、なんだか自分も山田さんと一緒に働いているような気持ちになっていまして(笑)。なにか通じるものがあったんでしょうね。「ぜひご一緒させていただきたい」と私から山田さんに連絡し、入職しました。転職してよかったなあと思いつつ、充実した日々を送っています。 大久保: 私は入社してもうすぐ7年になるかな、というところです。山田さんについては「すごい人がいるから、訪問看護をやってみないか」と友達に誘われまして。面接の時、訪問看護の経験がないことが不安だと伝えたら、「血圧が測れるなら大丈夫だから、おいで」と言ってもらって、入職しました。 神﨑: そうそう。私も大久保さんも、入職当時は人工呼吸器の管理なんてやったことがなかったんですよね。一から覚えていって、できるようになりました。大久保さんはすごくきっちりしている人で、管理やケアの方法を記録してしっかり勉強して、丁寧に取り組んでいたことを思い出します。 依頼を断らず、常によりよいケアを目指して ─レスピケアナースが規模を拡大できた理由は何だと思われますか? 堀川: 立ち上げ当時、とにかく新規依頼が多かったんです。それに対して十分な対応をするためにも、スタッフの増員は急務でした。 神﨑: なにせ、当時は訪問する看護師が、私と亀谷さんの2人しかいなかったんですよね。20時になっても訪問が終わらない。亀谷さんと電話で、「全部終わった?」「全然終わってない」「やっぱり?私も。じゃあね」などと、慌ただしくやり取りしながら回っていました(笑)。事務関連の業務についても、外注ができるわけもなく、自分たちでやるしかありません。苦手でも無理矢理ですね。 亀谷: そんなときもありましたね(笑)。どんなに利用申し込みが多くても、断ることはありませんでしたからね。すごいことだと思っていました。たとえ他の事業所で断られるようなケースでも、うちでは断りませんでしたから。 最初はバタバタしましたが、そうやっていくうちに、利用者さんからは「ありがとう」って言っていただいて。それに、外部に対してもレスピケアナースの価値をうまくアピールできていたと思います。必要なことを医師やケアマネジャーにフィードバックして、よりよいケアに繋げる。一つひとつ着実にやっていくことで、新規依頼も呼び込めます。そういった、良い循環をつくれたことが大きかったんじゃないでしょうか。 「理想の看護」を追い求めた結果が規模拡大 ─レスピケアナースはとても風通しが良いように見えますが、そうした職場環境も成長の要因になったのでしょうか? 大久保: もちろん、関係していると思います。不安なことがあっても、カンファレンスや情報共有の場ですぐに解決できました。しっかりコミュニケーションをとっていくとスタッフ同士いい関係を築きやすくなりますし、とても働きやすくなるんです。 カンファレンスではレスピケアナースとしての数値目標も共有されていましたので、自分も一緒になってその数字を目指していこうという気持ちにもなる。「貢献したい」と思えたんです。個々のモチベーションアップにも繋がりますし、規模の拡大という結果にも繋がったのでは。きっと、「みんなで同じ目標を持つ」ということが、自然にできていたんですよね。 亀谷: いまも、みんなが意見を聞いてくれて、シームレスに話せる環境ができあがっていますね。意思決定も早い。「今後どうしたいか」がしっかり伝わり、全体に浸透するんです。山田さんが持つ目標というのも、単純に規模を大きくすることがゴールではないとわかります。訪問看護はあくまでも入り口に過ぎない。地域の人々の困りごとを減らし、生活しやすい場所に整えていきたい、という確たる目標がある。そして、みんながそれについていこうとしています。 神﨑: 山田さんは管理者としての視点で組織の規模拡大を見据えていたと思いますが、私自身は規模拡大を強く目指していたわけではありませんでした。ただ、ご依頼が増えるぶん、やはりそれだけの器は必要です。無理に数をこなし続ければ、看護師として働き続けることはできません。仲間が無理をしなければならないという状況にあって、どうすれば問題解決できるのか、やりたい看護を実践するにはどうすればいいか……ということを考えたら、結果的に規模の拡大が解決策であった、ということです。 「自分たちがどんな看護をしたいのか」というのを意識するのは、とても重要ですね。それは、事業所の収益や個々の報酬といった形でもいいし、利用者さんやそのご家族が喜んでくださる姿でもいい。それらを具体的に表現することはできないとしても、スタッフの間で少しずつ意見交換し、想いを共有しながらやってこられたからこそ、自分たちの理想の看護に近づくことができた。その結果がいまの姿なのではないかと思います。 >>後編に続く規模が拡大してどうなった? 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部 ※本記事は、2023年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。

管理業務への処方箋
管理業務への処方箋
特集
2023年4月4日
2023年4月4日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その1:まずすべきことは何か

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第10回は、クレームを受けたとの報告がスタッフからあったとき、管理者としてまず何をすべきかについて考えます。 はじめに 「利用者からのクレーム」は、ないに越したことはありません。しかし、クレームがあったときに、管理者として適切な対応ができるよう、事前に考えておくことは有用です。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 管理者としてまずすべきことは何か 講師このケースで議論したいことは、CASEのタイトルにもあるようにクレームを受けるスタッフをどうするかです。まず管理者としてやるべきことは何でしょうか。 Aさん注2桐山さんとの面談が必要です。「訪問に来なくてもよい」と言われた状況を確認したいです。CASEに書かれた情報だけではわからないことが多いです。 Bさん桐山さんとの面談の後は、利用者や家族のところへ伺い、桐山さんからほかの看護師に変更してほしい理由を確認します。その内容から桐山さんと一緒に訪問内容を考えるなどして、解決できることかどうかを判断します。ルート組み替えの場合、誰に行ってもらえばいいか等も考えます。 Cさんルートの組み替えはほかのスタッフへの影響もありますし、桐山さんの今後も考えると、できることなら桐山さんに訪問を継続してもらいたいと私は思います。そのためにもまずは、桐山さんの利用者へのケアを同行訪問で確認したいです。そのときに、看護技術のチェックリストを用意しておいて、できるだけ主観的ではない指標で確認したいです。これができると桐山さんへのフィードバックもやりやすいです。 講師「クレームがあった」と報告を受けたときの、初動対応の案が出てきました。まずは事実確認が大事ですね。桐山さんと利用者、まずはこの二者からの事実確認が大切になります。そして看護技術についてチェックリストを使って確認するという意見も出ました。 クレームを発生させないために管理者ができることは何か 講師初動対応時にやるべきことがいくつか出ました。これとは別に、Cさんは桐山さんに訪問を継続してほしいという意見を持っていましたね。このことについてもう少し伺ってもいいですか。 Cさんクレームがあったときの初動対応としてはみなさんの発言のとおりだと思います。その上で、管理者は、ステーション全体としてクレームが生じないような取り組みもすべきだと思います。利用者から「訪問に来ないで」と桐山さんが言われたことは事実かもしれませんが、ケースの状況を考えてみると、クレームを受けた原因が桐山さんだけにあるとは思えません。桐山さんは入職して3ヵ月です。まだまだ支援が必要だと思います。 次回は、このクレームをスタッフナースの成長支援の機会ととらえ、管理者として支援を行うために、まずは「桐山さんが抱えている問題」について考えていきます。 >>次回「その2:桐山さんが抱えている問題は何か」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com編集:株式会社メディカ出版

訪問看護アワード2023受賞エピソード
訪問看護アワード2023受賞エピソード
特集
2023年3月28日
2023年3月28日

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。厳正な審査を経て、受賞作品が決定しました。大賞1件、審査員特別賞4件、入賞6件のエピソードを一挙にご紹介します! 「七夕の奇跡」 投稿者: 石井 啓子(いしい けいこ) さん 公益社団法人山梨県看護協会ますほ訪問看護ステーション(山梨県) 昨年7月7日、山間地域の鈴木きくよさんの訪問に、笹の枝を持っていきました。きくよさんは転倒を機にベッド上の生活となりました。認知症もあり簡単なコミュニケーションがとれるような状態でしたが、気配りが細やかで、ケアの後は必ず精一杯の笑顔で「ありがとう」と言ってくれました。その日はケアの後、持ってきた笹の葉を見せ、「今日は七夕ですよ。何か願い事を書いてみますか?」と私の持っていたノートを差し出すと、しばらく考えた後、震える手でぺンを持ちノートに『喜代子さん ありがとう』と書いてくれました。喜代子さんはいつも一生懸命に介護してくれている1人娘さんです。ケア後娘さんにノートを切って渡すと娘さんは「え?字が書けるんだね」と涙を流しました。先日老衰により自宅で亡くなられたきくよさん。娘さんときくよさんの身体を綺麗にし、気に入っていた洋服に着替えてもらいながら、あんな事があったよね等思い出話をしていると、娘さんは「あの七夕の日は奇跡だったよね。お母さんが書いた最後の字だったし、ありがとうなんて書いてくれて…私の宝物です」と言ってくれました。私にとっても宝物のようなエピソードです。 2023年2月投稿 「担当看護師からパパママ友へ」 投稿者: 櫛野 秀原(くしの しゅうげん) さん ウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都) 私は今まで小児看護の経験がなく訪問看護に就いてから初めて経験しました。小児の利用者の中でも初めて担当した生後3か月の鎖肛のお子さんが一番印象に残っています。3か月という月齢に加えて、ストーマがあり、正直なところどう介入したら良いのだろうと不安になっていました。ストーマのケアの方法や発育発達について調べたり、ママも初めてのお子さんということもあり育児のことも一緒に悩みながら、試行錯誤していました。チーム内の助産師にも育児相談などの介入をしてもらい、すくすく成長し無事にストーマを閉鎖することができ卒業になりました。私自身に子供ができたときにママから育児本やグッズを教えてもらい、一人の父親として、多くのことを学ばせてもらいました。今では自分の子供と同じ保育園に通っていてパパママ友になりました。その子の成長を見ていると、まるで親戚のおじさんになった気持ちです。こうして卒業した後も、その子の成長を実際に目で見て知ることができることが、訪問看護のやりがいの一つだと感じます。担当した子や家族に関わったことで看護師として、一人の人として成長させてもらったと感じており感謝の気持ちでいっぱいです。 2023年1月投稿 「利用者さんは私の先生」 投稿者: 中島 絵理子(なかじま えりこ) さん 一般財団法人同友会 藤沢訪問看護ステーション(神奈川県) 私の初めての受け持ちであり、忘れられない利用者さんは、小学校の元教員Bさん(男性)でした。60代という若さで難病を患っており、教員をリタイアして間もなくの発症でした。Bさんの亡くなられている奥様も元教員で、私の兄の担任の先生をしていた経緯もあり、地元で仕事をするということは運命のような巡り合いがあるのだな、と新人の頃から私は訪問看護に魅了されていました。長女が小学校に入学してから、軽いいじめに遭ってしまった事がありました。幼稚園から小学校という、自立への階段を登る第一歩で躓いてしまった長女が私は不憫でたまらなくなり、Bさんへ相談をしました。Bさんは難病で上手く喋ることができず、唾液の誤嚥もあり、咳込むことも多々ありました。そんな中、ゆっくりゆっくりと、子供を見守ることの大切さ、子供の持っている強さを教えてくれました。私はその言葉の暖かさに涙が出ました。看護というものは与えるだけではない、人生の先輩から与えられる物も大きいのだということを痛感しました。今は天国にいるBさん。優しいあの笑顔が忘れられません。私の子育て見守っていて下さいね。ありがとうございました。 2023年2月投稿 「そうだ、訪看がある」 投稿者: 梁井 史子(やない ふみこ) さん 愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道) 2年前、乳がんが再発した。転移もあった。3年前に手術・抗がん剤化学療法・放射線治療をして、やっと全て抜けた髪の毛も以前に近いほど伸びそろって、訪問看護の仕事もがんばっているそんな時に診断された。最初に病名を告知された時よりショックだった。再手術の後の抗がん剤治療が予定され、独身・独居で、近所に80代の年老いた母親が住んでいるだけで、日常生活での介護をしてくれる人など近くにいなかった私は不安で孤独でしかたなかった。その時私は「そうだ、訪看がある」と思った。私は以前勤務していた訪看ステーションに訪問看護を依頼した。結局抗がん剤の副作用に襲われ10ヶ月もの間休職した。激しい倦怠感や痛み、肝機能異常、糖尿病発症、全身の浮腫、皮膚炎、そして死への恐怖などとにかく苦しい日々だった。そんな毎日を支えたくれたのは、訪問看護だった。訪問看護は、とにかく心強く、やさしく、頼りになった。今現在も訪問看護師として働く私を救ったのも救うのも訪問看護だった。そして今は一人でも多くの利用者さんを救いたいと、改めて思っている。 2023年2月投稿 「冷え性なのに… 」 投稿者: 川上 加奈子(かわかみ かなこ) さん よつば訪問看護リハビリステーション(神奈川県) 100歳のKさんはいつも「出来ることは自分でやらないとね」と着替えなどもお手伝いなしで頑張られる方でした。あの日も体温計を挟む為に服を下から捲り始めたのですが、2枚3枚と捲っても中々肌は見えてきません。5枚目でようやくお腹が出てきたのですが、Kさんは息も絶え絶え。暫く沈黙の後、2人で「タケノコみたい!」と大笑いしたのを覚えています。そんな寒がりのKさんに体温計を挟もうとした時の事です。「ひゃっ!」冬場、中々温まらない冷え性の私の手がKさんのお腹に触れてしまったのです。私は「ごめんなさい!」と慌てて手を引っ込めようとしましたが、Kさんは意外にも私の手をがっしりと掴んで自分のお腹に押し当てたのです。そして「そのまま動かないの!ここが1番温かいんだから」と。私はびっくりすると同時に、自分の体温で私の手を温めようとして下さるKさんに、亡くなった母が重なり、目頭が熱くなったのを覚えています。そんなKさんとの思い出です。 2023年1月投稿 「爪切りを通して」 投稿者: 古橋 笑生(ふるはし えみ) さん ひだかK&F訪問看護ステーション(埼玉県) Mさんはケアが終わるとすぐに「はい、またね」と切り上げてしまう節がありました。ある日Mさんの足の爪が伸びており、Mさんに爪切りを提案しました。すると「そんなことお願いしてもいいの?すごく助かるよ!!」と喜び、その後「今日爪切りお願いできる?」と頼まれることや、家族や日常生活での心配事など想いを話してくれるようになりました。しかし、徐々にMさんの状態が悪化していきました。福祉用具等について私が提案すると「よく見てるね…そうだね、そろそろ必要かもしれないね」と導入を受け入れてくれました。また、「本当に良く見てくれるんだ、少し違っただけでもすぐ気づいてくれて…」と笑顔で話して下さいました。残念ながら、昨年の暮れにMさんは急逝されました。最後の訪問時、自分の体調が悪い中でも奥さんを想う気持ちを話してくれました。たった1つ、『爪切り』という何気ないケアがMさんからの信頼を得るきっかけとなりました。 2023年2月投稿 「104歳の日常」 投稿者: 長尾 弥生(ながお やよい) さん 白川訪問看護ステーションこだま(岐阜県) 訪問看護と言うと介護度の高い人や、医療依存度の高い人が使うイメージで少し敷居が高い気がするかもしれない。もちろん医師の指示書は必要であるが、訪問看護など必要ないと言う医師はほぼいない。訪問看護は医療的な処置は勿論、人生の最後のケアもおこなうが、介護指導、介護相談、病気の予防、家族支援まで多岐にわたる。私達のステーションの最高齢104歳の男性。かれこれ20年あまりのお付き合いになる。高齢者アパートに一人暮らしで、通所介護、ヘルパーの支援を受けているものの、身の回りの事はほぼ自立。マイペースな毎日が故に、エピソードが盛り沢山。決してアルコール中毒ではないが、お酒を飲んで人と話す事が大好きで、朝から一人で飲酒をされ呂律が回らない事もしばしば。訪問の度に一升瓶と缶ビールの数を数えるのも私達の仕事のひとつ。尿瓶の隣にあじのみりん干しが置いてあるが、本人が気にならなければそれでいい。はちゃめちゃな日常であるが、この日常はこの人にとって生きる力である。訪問看護とは病気を治すのではなく、その人の生活に寄り添い人生を支える仕事だと思う。その事を教えて下さった104歳の日常に感謝したい。 2023年2月投稿 「きっかけはポーカー」 投稿者: 服部 景子(はっとり けいこ) さん 愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道) 受け持ち利用者さんへ入浴を促しても「入りません」と拒否をされ、私では駄目なのかと落ち込む日々。ある日ふとテーブルにあるトランプが視界に入りました。「今日は二人でトランプしませんか?」と声をかけると意外にも「いいよ」と返事が。それ以降、ケアの後にポーカーをするのが定番となりました。政治、スポーツ、昔話など色々話しながらの真剣勝負、五分五分の戦いです。それから数ヶ月後、突然「頭洗ってくれる?」と声をかけられました。嬉しくて嬉しくてステーションに戻ってすぐ、仲間やケアマネさんに話し、皆で喜びを分かち合いました。訪問看護は利用者さんのご自宅にお邪魔してケアをさせていただく仕事です。利用者さんのテリトリーに入っての看護ですから気を遣う事も多い一方、利用者さんの生活や嗜好や信条に触れ易い環境下でケアをさせてもらえる喜びや楽しみも沢山あり、訪問看護の醍醐味なのだと感じた出来事でした。 2023年2月投稿 「ちょっと早めの金婚式」 投稿者: 村田 実稔(むらた みのる) さん ウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都) 結婚50周年を迎える夫婦に対し、娘さんと作戦をたてサプライズ金婚式を行った話。尿管癌末期で病院から自宅に帰ってきたご主人。はじめは家の中を自由に動いていたが、病状の進行と共に、1日の大半をベッドで過ごすようになっていった。その頃奥様より「もう少しで結婚50周年なのよ」と一言があり、どうにかしてお祝いをしてあげたいと考えた。そこで、近くに住む娘さんと相談をし、急遽サプライズの自宅金婚式を行うこととした。計画をした1週間後、黄色や白の花がたくさん入った大きな花束と一緒にお祝いをした。前日はずっと横になっていたご主人であったが、この瞬間だけはお座りになって笑顔でピースする姿まであった。食欲もまったくなかったのにこの日だけは一杯のビールとお寿司をつまんだとか。そして、その一週間後にお看取りとなった。奥様からは「金婚式行えてよかった。悔いが残るところだった。」との声をいただくことができた。 2023年1月投稿 「新任訪問看護師からの学び」 投稿者: 佐藤 理恵(さとう りえ) さん 一般財団法人同友会 藤沢訪問看護ステーション(神奈川県) 私の勤務する訪問看護ステーションは、スタッフの平均年齢が50代、訪問看護師歴10年以上とベテラン揃いの事業所です。そんな事業所に昨年30代の新任訪問看護師が採用され、私が教育担当を任される事になりました。新任を迎え入れるにあたり、「今までの看護経験を活かし、その人らしい看護が実践できる看護師」を育成したいと意識して取り組んでいきました。訪問看護師としては新人でも、看護経験は10年あります。彼女が実践してきた糖尿病やフットケアの知識と経験が発揮できるような受け持ち利用者の選定を行い、自信をもって単独訪問ができるように進めていきました。また彼女が主催の勉強会を実施した事で、スタッフの意識も変わり、今では全員が糖尿病やフットケアの視点をもって利用者と関わっています。彼女の存在がとても良い刺激となっています。まさに「教育」とは「共育」であると実感しています。    今後も成長し合える職場づくりを目指していきます。 2023年2月投稿 「人生最高のラブレター」 投稿者:高倉 陽子(たかくら ようこ) さん 帝人訪問看護ステーション株式会社 望星台訪問看護ステーション厚木(神奈川県) 間質性肺炎で在宅酸素導入中。米寿間近で、ほぼ寝たきりの生活レベルでありながら、スマホをサクサク使いこなす患者様でした。「今日はギャル?それとも熟女が来たの?」など、毎回どの看護師が来るのか想像して楽しみにされていました。こちらから見るととても仲良し夫婦なのに「看護師さんが来ると、夫婦の会話が弾みます」とユーモア溢れるチャーミングな患者様でした。病状は徐々に進行していきます。医師から余命3ヶ月と宣告され、間もなく「苦しい。こんなに苦しいなら死にたい」と発熱するたびに肺へのダメージが顕著に現れはじめました。「最期まで家で看取りたい。でも苦しむ姿を見ていられない。自分の介護に自信がない」。奥様の葛藤のサポートも行って参りました。呼吸困難で会話は出来ず、筆談も手が震えて難しくなっていました。死後、亡くなる前日にスマホに残した奥様宛てのラブレターを息子様が発見しました。「かあさんへ。色々面倒かけました。本当にありがとう。余生を楽しんで慌てずにね。出来れば次も結婚して下さい」。粋な計らいに感無量でした。素敵なご夫婦の人生に寄り添えた事。在宅看護ならではの貴重な経験でした。 2023年2月投稿 受賞された皆さま、おめでとうございます! 今後、「みんなの訪問看護アワード」表彰式のレポートやエピソードの漫画記事公開も予定しています。そちらもぜひご覧ください。 編集: NsPace編集部 [no_toc]

明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
特集 会員限定
2023年3月28日
2023年3月28日

【セミナーレポート】後編:装具を選ぶポイントとケーススタディ-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応-

2022年12月16日、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「明日から生かせる!ストーマトラブルへの対応」を開催いたしました。講師は、急性期病院でストーマ管理を長きにわたって経験し、現在は訪問看護ステーションを開設している「皮膚・排泄ケア認定看護師」の原 慎吾さんです。 本記事では、前後編に分けてセミナーの一部ご紹介。後編では、適切な装具の選び方や、ケーススタディの内容をまとめています。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師看護師として急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。その中で、トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、その課題を解決すべく独立。現在は「看護のスペシャリストを在宅へ」をコンセプトに掲げ、病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開。2021年には訪問看護ステーションも開設している。 目次 1. 選択の基本  (1)皮膚保護剤(面板)の組成  (2)装具の形状 2. 選択するときに注意したいポイント  ・皮膚保護剤の粘着面の溶け具合  ・あらゆる体位での腹壁の質感  ・利用者さんの言動 3. ケーススタディ:びらんがある利用者さんへの対応  (1)アセスメントを行う  (2)粉状皮膚保護剤(パウダー)を活用する  (3)頻回に装具を交換する 1. 選択の基本 装具を選ぶにあたっては、大きくふたつのポイントがあります。ひとつめは皮膚保護剤(面板)の組成、ふたつめは形状です。 皮膚保護剤(面板)の組成 皮膚保護剤(面板)は、水になじまない「疎水性ポリマー」と、水になじむ「親水性ポリマー」とを組み合わせてつくられています。この割合が製品ごとに異なり、疎水性ポリマーの量が多ければ多いほど水に強く、粘着力が高いです。逆に親水性ポリマーの量が多いと、水には弱くなるものの、皮膚の負担は少ないというメリットがあります。皮膚保護剤は「長期用」「中期用」「短期用」に分けられていますが、疎水性ポリマーの量が多いものが長期用(使用期間5〜7日)、親水性ポリマーの量が多いものが短期用(使用期間1〜4日)です。なお、その中間に位置する中期用もあります(使用期間3〜5日)。ただし、これはあくまでも目安です。 利用者さんのご自宅にうかがった際は、ぜひ装具の名前を調べ、適切に使用できているかチェックしてあげてください。万が一、長期用のものを毎日交換するようなことがあれば、皮膚はあっという間に発赤やびらんなどのトラブルを起こします。逆に短期用を1週間も貼っていれば、突然装具が剥がれてしまう可能性もあるでしょう。 装具の形状 装具には、柔らかくて皮膚への影響が少ない平面装具と、硬いプラスチックでできた凸面装具とがあります。ちなみに、1枚のコストは前者のほうが低いです。 硬い腹壁には平面装具(および柔らかい皮膚保護剤)を、柔らかい腹壁には凸面装具(および硬めの皮膚保護剤)を使うとよいといわれています。お腹に対して指の向きを並行にして押し当て、沈む指が1本以下なら硬い、1本以上2本未満なら普通、それ以上は柔らかいと判断します。 筋肉質だったり皮下脂肪が少なかったりする方は、お腹を押さえるとすぐに腹直筋にあたる、つまり硬いですよね。そこに凸面装具をつけると、お腹が装具を押し上げてしまい、皮膚損傷の原因になります。漏れといったトラブルが起きた際も、ぜひ腹壁を触ってみてください。 さらに、「しわ」の状態も確認が必要です。しわが多い方に平面装具、柔らかい皮膚保護剤を使用してしまうと、これも漏れの原因になります。 2. 選択するときに注意したいポイント 装具選択のときに私が必ず見ているポイントについて、もう少し細かくお伝えします。 皮膚保護剤の粘着面の溶け具合 装具を交換する際、剥がしたものをすぐに捨てずに、必ず面板の裏面(粘着面)を確認しています。粘着面がいびつな形で溶け出している部分は、腹壁がへこんでいる、隙間ができるということ。つまり、漏れや便の潜り込みなどのトラブルが起きやすい部分なので注意が必要です。うまく貼れていれば、面板の裏面は均一の幅でリング状に溶けていることを確認できると思います。 あらゆる体位での腹壁の質感 指を押し当てて腹壁の質感を調べるというやり方はすでにお伝えしましたが、座位、臥位、立位と、その方がとりうるすべての体位でチェックすることがポイントです。体位を変更すると、腹壁が変形したり、しわの入り方が変わったりします。座ると臥位では見られなかったしわが入ることも多いので、必ず確認しましょう。寝たきりの利用者さんであっても、その方が日常生活の中でとる体位変換を実践してもらい、お腹の動きを見てください。 利用者さんの言動 利用者さんがどのくらい動けるか、指示に従えるか、手に震えはないかなど、全体的な言動も見ています。装具選択時には、その方にとって使いやすいかどうかを見極めることが大切です。そのため、ADLやセルフケアの状況・理解度・受容段階などをアセスメントします。 訪問看護師のみなさんは、初めての訪問の際に確認していただければと思います。 3. ケーススタディ:びらんがある利用者さんへの対応 ここからは、「ストーマの近接部にびらんが見られるが、面板全体では問題がない利用者さん」というモデルケースを挙げて、対応方法を時系列に沿って考えてみましょう。 (1)アセスメントを行う まずはアセスメントを行い、トラブルの原因を明らかにしていきます。ストーマの近接部にびらんが見られるものの面板全体では問題がない場合、化学的原因(排泄物の付着)が原因だと考えられます。現在の装具を使い続けていると、びらんになっている箇所が常に便に汚染されてしまう状態です。 (2)粉状皮膚保護剤(パウダー)を活用する びらんからは常に滲出液が出るため、面板を貼っても装具は密着せず、装具と皮膚の間に排泄物が入り込んでしまいます。すると、いつまで経っても治らず、状態が悪化する可能性も高いでしょう。 こういうケースでは、パウダーを使います。パウダーがびらんと面板の間に入り、滲出液を吸いながらゼリー状になって、排泄物をブロックしてくれます。さらに、パウダーにはpH緩衝作用があり、排泄物を中和して皮膚を守ってくれる効果もあります。 ただし、パウダーは名前のとおり粉状なので、水分を吸うと次第に溶けて崩れていきます。そのため、イレオストミー(回腸ストーマ)やウロストミー(尿路系ストーマ)の場合は、排泄物と一緒に短時間でパウダーが流れてしまうでしょう。しかし、数時間は皮膚を守ってくれるので、治療の一助になるかと思います。 (3)頻回に装具を交換する そして、頻回に装具を交換し、排泄物がびらんに付着する時間をできるだけ短くしましょう。私はこのような状態になった利用者さんには、「皮膚がヒリヒリしたら装具交換のタイミングだよ」とお伝えしています。びらんがある状態で新しい装具を使っても面板が密着しないので、まずは皮膚を治すのが最優先。短期用の皮膚保護剤(面板)やアクセサリーを使うなどして、可能な限り皮膚をきれいに保つようにしてください。 * ストーマトラブルが発生すると利用者さんの背負う負担はより大きくなります。今回お伝えした対応をとってみても課題が解決できない場合、ストーマ外来や皮膚・排泄ケア認定看護師に相談してみることも選択肢のひとつ。ご自身やご自身のステーションで抱え込まず、よりよい対策を模索してみてください。 編集:YOSCA医療・ヘルスケア [no_toc]

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