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新型コロナウイルスとインフルエンザ、症状・潜伏期間・対応を比較
新型コロナウイルスとインフルエンザ、症状・潜伏期間・対応を比較
特集
2024年10月1日
2024年10月1日

新型コロナウイルスとインフルエンザ、同時検査は可能? 症状・潜伏期間・対応を比較

2024年夏は、新型コロナウイルス感染症の第11波が到来し、感染者数が急増しました。冬に向けては、新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの同時流行が懸念されています。 本記事では、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時検査のほか、症状や潜伏期間、対応策などについて解説します。訪問看護の利用者さんやご家族に質問された際に回答できるようにしておくためにも、確認しておきましょう。 コロナ・インフルエンザ・一般的な風邪の違い 新型コロナウイルス感染症とインフルエンザ、一般的な風邪には、症状や潜伏期間、検査の推奨期間、対応方法などに違いがあります。それぞれ見ていきましょう。 潜伏期間・感染力 潜伏期間(病原体に感染してから症状が現れるまでの期間)と感染力の違いは、以下のとおりです。 病名潜伏期間(一般/最大)感染力のある期間感染力が最も強い期間 新型コロナウイルス1~14日間(平均3日~5日程度)   発症後7~10日発症2日前~3日     インフルエンザ     1~3日間程度発症1日前~発症後5日   発症1日前~3日後風邪2~4日(原因によって異なる)   発症1日前~7日(原因によって異なる)発症直後~2日後 新型コロナウイルスは、潜伏期間が最長2週間程度と比較的長いのが特徴です。ウイルスを体内に保有しながら症状が現れない期間が長いため、感染者は知らないうちに多くの人にウイルスを広めてしまう危険性があります。一方、インフルエンザの潜伏期間は1~3日程度で、風邪と比べても早く症状が発現します。 症状 症状の違いも見ていきましょう。 病名主な症状新型コロナウイルス発熱、咳や痰、咽頭痛、鼻汁、呼吸困難感、倦怠感、味覚・嗅覚障害、頭痛、筋肉痛、消化器症状 などインフルエンザ     発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感、咳、咽頭痛 など風邪くしゃみ、鼻汁、咽頭痛、微熱、発熱、咳、倦怠感 など コロナウイルス感染症では、咽頭痛や鼻汁などの上気道症状に加え、インフルエンザと類似した症状(発熱・倦怠感・関節痛など)を生じることが多いとされています。また頻度は減少しているものの、味覚・嗅覚障害を伴うこともあります。インフルエンザは関節痛、筋肉痛などを伴う全身症状が強く現れるのが特徴的。風邪は軽い咳や鼻水、微熱が中心であり、比較的軽症です。 二峰性発熱に注意 二峰性発熱とは、高熱が一度下がった後に再び発熱する現象を指し、特にインフルエンザや風邪、デング熱、麻疹などの感染症で見られることが多いです。この現象は通常、ウイルス感染による体の反応として現れますが、原因は完全には解明されていません。二峰性発熱は時に重症の合併症を引き起こすことがあり、肺炎や脳症などのリスクもあります。子どもに異常な行動やけいれんが見られた場合、速やかに医師の診察を受けるか、必要に応じて救急車を呼ぶことが重要です。 検査の推奨期間 新型コロナウイルス感染症は、発症から2日目~9日以内に行うことが通常です。 インフルエンザの場合は、検査で陽性が出る期間は発症後1~5日頃です。24時間以内は陽性が出づらい傾向があります。ただし抗インフルエンザウイルス薬が処方された場合、発症から48時間以内の服用が推奨されています。そのため、症状が出始めてから24時間~48時間以内に医療機関を受診し、インフルエンザ検査を受けることが望ましいでしょう。 風邪は、通常は検査を行いませんが、溶連菌感染症やインフルエンザなど検査可能な疾患の疑いがある場合には検査の実施を検討します。 コロナとインフルエンザの同時検査の信憑性は? コロナウイルスとインフルエンザの同時検査は可能ですが、その精度についてはまだ完全に明らかになっていません。特にインフルエンザでは、発熱後すぐに検査すると、偽陰性になる可能性があるため、24時間以上経過してからの検査が推奨されます。検査には、「研究用」と書かれたものは使わず、国が承認した体外診断用医薬品や第1類医薬品を使用することが重要です。   対応と薬 対応方法と薬の違いについては以下のとおりです。 病名対応薬(一般名)新型コロナウイルス自宅療養、酸素吸入、重症者は入院レムデシビル、カシリビマブ/イムデビマブ(抗体カクテル療法)、バリシチニブインフルエンザ       安静、解熱剤の使用、水分補給、必要に応じて入院  抗インフルエンザウイルス薬(オセルタミビルリン酸塩・ザナミビル水和物・ペラミビル水和物注射薬・バロキサビル マルボキシル など)風邪安静、解熱剤の使用、十分な休養アセトアミノフェン、イブプロフェンなど、症状に応じた薬(細菌感染の可能性が高い場合には抗菌薬) なお、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症にかかった子どもが出席停止期間を経過して登校する際、再受診や検査は通常必要ありませんし、治癒証明書や陰性証明書の提出も求められません。しかし、症状が続く場合や医師から再受診の指示があった場合は、指示に従うことが重要です。 治療開始から3~4日経過しても解熱しない場合や、風邪の場合で4~5日以上発熱が続く場合は、再受診を検討してください。なお、むやみに再受診すると感染拡大や体力消耗による悪化を招く恐れがあるため、再受診の目安を事前にかかりつけ医に確認しておくことが大切です。 大人の場合は、症状が改善すれば通常の生活に戻れますが、必要に応じて再受診を考慮してください。 2024~2025年冬の特徴 2024~2025年シーズンは、以下がワクチン製造株として選定されました。 新型コロナウイルスJN.1系統及びその下位系統に対応した株インフルエンザ A型株・A/ビクトリア/4897/2022(IVR-238)(H1N1)・A/カリフォルニア/122/2022(SAN-022)(H3N2) B型株 ・B/プーケット/3073/2013(山形系統)・B/オーストリア/1359417/2021(BVR-26)(ビクトリア系統) 一般的に、冬は気温の低下と空気の乾燥により、インフルエンザをはじめとした呼吸器系ウイルス感染症が流行しやすくなります。このため、マスクの着用や手洗い・手指消毒、室内の換気、ワクチン接種などの基本的な感染対策が重要です。インフルエンザと新型コロナウイルスの同時感染の可能性もゼロではありません。適切な予防策を講じましょう。 *** 冬季は、新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの同時流行が懸念されており、発熱患者の増加に伴い診療所や検査機関が逼迫する可能性があります。そのため、事前に各自で準備を整え、感染予防に努めることが大切です。今回、解説した内容をご自身の体調管理、利用者さんのアセスメントなどにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省「2024/25シーズンの季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの供給等について」(2024年9月20日)https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/flu/flu/vaccine2024/2024/9/20閲覧〇厚生労働省.「新型コロナウイルス・季節性インフルエンザの同時流行に備えた対応」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kansentaisaku_00003.html2024/9/20閲覧〇国⽴感染症研究所「COVID-19の抗原・抗体検査について」(2020年12月22日)https://www.niid.go.jp/niid/images/plan/kisyo/2_suzuki.pdf2024/9/20閲覧〇厚生労働省.「新型コロナウイルス最前線」『第12回新型コロナウイルス感染症の治療について』.広報誌『厚生労働』.2021年10月号 ,(株)日本医療企画,(2021年10月)https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202110_00003.html2024/9/20閲覧〇厚生労働省「令和5年度インフルエンザQ&A」(令和5年10月13日版)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2023.html2024/9/20閲覧

【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」
【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」
特集
2024年9月24日
2024年9月24日

【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」

2024年7月20日・21日と2日間にわたり、幕張メッセ国際会議場(千葉県幕張市)にて「第6回 日本在宅医療連合学会大会」が開催されました。テーマは「在宅医療を紡ぐ」。大会長は、国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター 市川病院神経難病センターの萩野 美恵子氏です。NsPace(ナースペース)編集部が大会の模様をレポートします。 多数の参加型の企画に込められた思い 「在宅医療を紡ぐ」というテーマが掲げられた本大会では、サブテーマとして以下の7つも掲げられました。 ・「幸」(Well being/生活の質・人生の質(QOL)の向上)・「働」(Collaborative decision making /協働意思決定)・「含」(Inclusion of diverse values/多様な価値観の包含)・「継」(sustainability/持続可能性)・「繋」(interdisciplinary team collaboration/多職種連携)・「楽」(enjoy your life/快) 多様性やジェンダーバランスに工夫されているほか、「聞く」講演だけではなく、ミュージカルや映像を「見て」、ワークショップや認知症カフェなどで「体験して」、参加者がさまざまな視点で楽しく参加しながら学べるプログラムを多数開催。 多職種がディスカッションする場面も多く見られ、在宅医療に携わる人たちが互いに知見を共有し、在宅医療の未来を見つめ交流する場となっていました。 参加型・体験型プログラム 多職種との交流を実現した参加型・体験型プログラムを一部紹介します。 ワークショップ「在宅における看取り時の立ち振る舞いについて考えませんか?」 座長:大屋 清文氏(ピースホームケアクリニック京都) 4~5名でグループを作り、医師、訪問看護師、利用者、家族などの役割を演じながら、看取りの場面における対応や立ち居振る舞いについてシミュレーションする企画。座長の大屋氏は、「看取り時の立ち居振る舞いについて、正解というものはない。答えではなく問いを持ち帰っていただきたい」と話されました。シミュレーション後のディスカッションでは、「この場面に『お疲れ様でした』という言葉はそぐわないのでは」「医師はご遺体にそのようには触れないのでは」といった臨場感のあるやり取りも。また、「普段とは異なる職種や家族役をやることで学びがあった」「医師・看護師ともにワークショップに参加しており、普段臨床の場では聞けない医師の本音も聞けた」といった感想が聞かれました。 虹色のcafé 「未来みらい」 カフェオーナー:川口 美喜子氏(札幌保健医療大学)カフェ共同オーナー:Lintos café(リントスカフェ)、まあいいかlaboきようと(平井 万紀子氏) 学会期間限定でオープンした虹色のcafé 「未来みらい」では、東京栄和会なぎさ和楽苑、社会福祉法人おあしす福祉会オアシス・プラスの方々など、障害のある方や認知症の方がスタッフとして活躍されていました。またこのカフェでは本格的なお菓子が楽しめるだけでなく、川口氏とLintos caféのバリスタ、とろみ剤の企業、歯科医師が約1年かけて共同で考案したとろみがついたおいしいコーヒーを味わうことができました。摂食嚥下障害がある方でも安全に楽しめるこのコーヒーは、飲みやすさとおいしさを両立。食べる歓びを実感できる機会となったこのカフェは、大変な賑わいを見せていました。また、認知症の方や障害を持っている方の「自分の街で当たり前の暮らしがしたい」「社会で活躍したい」という望みの実現のために必要なことについて考える貴重な機会となりました。 みんなで孤立をなくせ!!超高齢社会体験ゲームコミュニティコーピング体験会 一般財団法人コレカラ・サポートによって開発された、人と地域資源とを繋げることで社会的孤立を無くすための協力型ゲーム「コミュニティコーピング」の体験会が行われました。ゲームを通して、人と地域とを繋げる役割は、専門職だけでなく一般の人でも担えることがわかりました。 参加者からは「社会的孤立とはどのような状態なのか理解できた」「話を聞くだけで解決できる課題もあれば、専門家の助言が必要な課題もあり、地域にはさまざまな課題を抱える人が溢れているのだなと実感した」「自分にできることからやっていこうと思った」といった声が聞かれました。 在宅ケア体験フェスタ 神経・筋疾患の利用者さんを想定した呼吸リハビリテーション体験会では、2名1組となり、アンビューバッグや呼吸リハビリ機器を用いた吸気介助を実施する側と、利用者側の両方を体験しました。参加者からは「呼吸療法認定士の資格を持っているが、神経・筋疾患の利用者さんのための吸気介助は行ったことがなかったため勉強になった。今後取り入れたいと思った」「自分のやり方に軌道修正が必要なことに気付いた」といった声が聞かれました。 排尿支援の体験会には、複数のメーカーの導尿キットや超音波機器、膀胱留置カテーテルが用意されていました。それらの物品や機器を実際に手に取り、具体的な使用方法について知ることができました。訪問診療に携わっている看護師さんは「さまざまな物品に触れ、実際に体験や比較をできたことでメーカーごとの特徴について理解でき、今後もし自己導尿が必要になった利用者さんに出会ったら適切なアドバイスができそう」と話されていました。 ミュージカルや映画、映像を「見て」学ぶ シンポジウムについても、映画やミュージカルが取り入れられるなど、多種多様な伝え方のプログラムが並びました。 ミュージカル「きみのいのち ぼくの時間」 座長:中村 明澄氏(向日葵クリニック/NPO法人キャトル・リーフ)   堤 円香氏(メディカルホームKuKuru/NPO法人キャトル・リーフ) ミュージカル「きみのいのち ぼくの時間」が上演されました。NPO法人キャトル・リーフは2001年に創立以降、約20年にわたって病院や特別支援学校、高齢者福祉施設等でミュージカル活動を実施している団体です。「きみのいのち ぼくの時間」は、ミツバチのハチ子と、ハチ子に恋をしたカエルが主人公のお話。ミツバチの命はカエルに比べてとても短いため、二人の恋は女王蜂に反対されてしまいます。なんとか障壁を乗り越えますが、突然の嵐がやってきて…というストーリー。命にまつわるメッセージが多く込められており、会場には涙している人も。終了後はミュージカルの中で印象的だったシーンや言葉についてのディスカッションも行われました。 映像・講演「進行肺がんの息子に伴走した2年半を振り返って」 座長:荻野 美恵子氏(国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター国際医療者教育学/国際医療福祉大学医学部脳神経内科学)   田上 恵太氏(医療法人社団 悠翔会 くらしケアクリニック練馬)演者:関本 雅子氏(かえでホームケアクリニック) 関本 雅子氏は緩和ケア医であり、そして同じく緩和ケア医で息子の関本 剛氏をがんで亡くした母でもあります。会場では、剛氏の生前の講演やラストメッセージの動画が映し出されました。雅子氏の講演では、剛氏が残された時間をどのように過ごすことに決めたのか、メディアに出たことによる反応、剛氏の最期について、緩和ケア医と母のそれぞれの立場で後悔したことや学んだこと、救われたことなどが語られました。 訪問看護の魅力も次世代に紡ぐ 副大会長 高砂 裕子氏(一般社団法人南区医師会在宅事業部・南区医師会訪問看護ステーション 管理者)のコメントもご紹介します。 多くの方にご来場いただき、大変嬉しく思っております。本大会は、専門職だけでなく、また医師のみならず看護師や介護士をはじめとする多職種の方にも参加いただけたらという思いで企画しました。単に「ご参加ください」というだけではなく、例えば介護職の方々におすすめのプログラムには、プログラム表に「★」の印を記載するなど、実際に参加していただきやすいような創意工夫も行っています。体験型プログラムを組み込むことで、さまざまな職種の方と出会い、より楽しく過ごしていただける大会になったのではないでしょうか。私自身、30年間訪問看護師として利用者さんに寄り添い、身近なところで生活を意思決定支援する訪問看護は、とてもやりがいがある仕事だと思っています。それをぜひ次世代の人たちに紡ぎたいと思っています。2025年問題、2040年問題を前にした今、訪問看護ステーションの大規模化も推進しています。それぞれの訪問看護ステーションが、そして訪問看護師が、自身が目指す訪問看護を実現してもらえたら幸いです。 * * * 本大会では、在宅医療に携わるさまざまな職種の方々の「出会い」がありました。参加者同士が交流し、思いを伝え合い、いろいろな視点や立場から在宅医療の現状や展望について考える時間となりました。このような関わりこそが「在宅医療を紡ぐ」ことなのだと、気付きがたくさんあった大会でした。次回、来年6月に開催予定の第7回日本在宅医療連合学会大会「在宅医療の未来を語ろう。〜2025年問題に向き合い、2040年に備える〜長崎から全国へ」にも注目していきましょう。 取材・編集:NsPace編集部執筆:佐野 美和

2024年度診療報酬改定 DX推進と今後の展望
2024年度診療報酬改定 DX推進と今後の展望
特集 会員限定
2024年9月24日
2024年9月24日

2024年度診療報酬改定 DX推進と今後の展望【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)では、2024年6月14日に、オンラインセミナー「2024年度診療報酬改定 訪問看護の注意点&今後の展望」を開催しました。講師にお招きしたのは、訪問診療医で、医療・介護分野のコンサルタントとしても活躍する久富護先生です。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、利用者さんの状態やDX推進に応じた変更点や、今後の診療報酬改定の見通しなどについてご紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら2024 年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価【セミナーレポート前編】>>関連記事2024年度トリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉報酬改定)解説シリーズ 【講師】久富 護 先生医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医/株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 マネージャー/医療法人寛正会 水海道さくら病院 地域包括ケア部長/社会医学系専門医/医療政策学修士/中小企業診断士大学病院、民間病院に内科医として勤務する中で、医療・介護業界が抱えるさまざまな課題に直面。現在は訪問診療医として臨床現場に立ちつつ、業界の課題解決を目指し、行政や医療機関に対するコンサルティング支援も行っている。 緊急訪問看護加算の変更点 厚生労働省の調査で、緊急訪問看護加算を毎日算定している訪問看護ステーションが全体の約1%あるとわかり、訪問看護基本療養費の適正化のために緊急訪問看護加算の評価の見直しが行われました。具体的には、以下のとおり区分されています。 月14日目まで 2,650円月15日目以降 2,000円 多くの訪問看護ステーションでは従来どおり2,650円を算定できるかと思いますが、新たな算定要件として、訪問看護記録をつけること、加算理由を訪問看護療養費明細書に記載することが必要になりました。業務負担の増加をふまえると、緊急訪問看護加算は「実質減」と考えられるでしょう。 医療ニーズが高い利用者の退院支援の見直し 訪問看護管理療養費の加算として、「退院支援指導加算」が見直されました。これまでは「1回の退院支援指導が90分を超えた場合」のみ算定できましたが、利用者さんの状態によっては長時間の指導が難しく、頻回訪問が必要になるケースがあることから「複数回の退院支援指導の合計時間が90分超えた場合」も算定できるようになりました。なお、退院支援指導を実施した翌日以降に利用者さんが亡くなったり、再入院となったりした場合も退院支援指導加算を算定可能です(訪問看護基本療養費の算定は不可)。 訪問看護医療DXの推進 訪問看護の領域でも50円の「DX活用加算」が新設されました。現状では、オンライン請求を行い、オンライン資格確認ができる体制を整え、「医療DX推進の体制に関する事項及び情報の取得・活用等についての情報」を事業所内かウェブサイトに掲示することで請求可能です。 ただし、約1年間(2025年5月31日まで)の経過措置のうちに、オンライン資格確認プラットフォームの活用と「医療DX推進の体制に関する事項及び情報の取得・活用等についての情報」のウェブサイト掲載の両方を行う必要があります。なお、ウェブサイトには、以下の情報を明記しなくてはなりません。 ・訪問看護事業を行う事業所であること・重要事項(運用規定概要、職員勤務体制、そのほかステーションが定める重要事項)※介護サービス情報公表システムに記載があれば不要・そのほか、診療報酬項目上求められるもの また、レセプトのオンライン請求開始にあたり、訪問看護指示書に「傷病名コード」の記載が必須となりました。傷病名コードがない場合、監査で訪問看護ステーションにも指導が入る可能性があるため注意してください。 明細書の発行が義務化 明細書の発行が義務化されました。ただし、2025年5月31日までは、現行の領収証を領収証兼明細書※としてもよいとされています。 ※▼領収証兼明細書の一例厚生労働省.「医療費の内容の分かる領収証及び個別の診療報酬の算定項目の分かる明細書の交付について」P.8https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001219498.pdf 診療報酬改定から見える国の方針 2024年度診療報酬改定にあたっては、今後2年間で議論してほしい内容をまとめた付帯意見が出されました。以下は、その概要をまとめたものです。 同一建物施設への訪問看護の規制強化 同一建物居住者への効率的な訪問診療、訪問看護体制の検討を今後さらに進めることが求められています。この2年間で締めつけはきつくなる可能性がある、と考えられるでしょう。 ICTのさらなる推進 中央社会保険医療協議会(中医協)は、ICTを用いた情報連携状況調査の実施を決定。これをふまえ、2年後はさらに踏み込んだ推進の方針が示される見込みです。 他事業者との連携への加算 訪問看護ステーションと他事業者の連携について調査し、実施している事業所に対して加算していく姿勢がうかがえます。 また、厚生労働省が診療報酬改定前に出した基本方針を見ると、働き方改革やDX関連、他事業者との連携、口腔・嚥下・栄養領域の医療の推進は、2022年度に続いてアップデートされています。これらの項目は、今後も重ねて改定されると予想できます。 訪問看護ステーションが今後とるべき方針 訪問看護の利用者数はこの20年間で約10倍になり、医療依存度の高い方がどんどん在宅領域に入ってくるようになりました。また、医療費も増大しています。それを受けて、訪問看護ステーションには、「質の向上」と「量へのさらなる対応」の両立が求められるでしょう。 「質の向上」に向けた具体的な取り組みとしては、重症度の高い方や重い精神疾患がある方への対応、専門資格をもった看護師の配置があげられます。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのセラピストによる訪問看護は、引き続き厳しい評価を受ける可能性が高いでしょう。 「量への対応」では、ICTの活用やタスクシフト・シェアによる効率化があげられます。訪問看護管理療養費の見直しのところで同一建物居住者数が全体の7割未満に設定されたように(前編を参照)、医療機関も訪問看護ステーションも、効率的な事業所に対する締めつけは強化される見込みです。 また、連携面の充実化も重要なポイント。訪問診療医やケアマネジャー、歯科領域との連携が利用者さんにもたらすメリットの調査も行われる予定となっているので、今から意識することをおすすめします。 * * * 今回の診療報酬改定を総括すると、「医療保険と介護保険のすり合わせ」が行われた印象です。繰り返しになりますが、今後は質と量の双方を見据えた対応がより求められるため、組織づくりを含めたサービス提供環境の整備がますます重要に。ぜひ、その点を意識した運営を心がけていただければ幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇厚労省.中央社会保険医療協議会 総会(第560回)議事次第.中医協 総-2.「在宅(その3)」(令和5年10月20日)https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001158972.pdf2024/8/29閲覧〇厚生労働省(2024).「令和 6 年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf2024/8/29閲覧

スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア
スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア
特集
2024年9月24日
2024年9月24日

スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア【スピリチュアルケア】

患者さんのスピリチュアルペインを時間存在、関係存在、自律存在の枠組みで理解したら、次はスピリチュアルケアを考えていきます。本記事では、スピリチュアルケアの方法として欠かすことのできない基盤となるケアについて解説します。 >>前回の記事はこちら事例で検討 スピリチュアルペインのアセスメント【スピリチュアルケア】 基盤となるケアと特定の苦痛に対するケア スピリチュアルケアに関する欧米論文の文献レビューを行った結果1),2)より、スピリチュアルケアは「全般的なケア」と「個別のケア」とに分けられると報告されています。 「全般的なケア」は、スピリチュアルペインに対するケアの「基盤となる」ものです。「個別のケア」は、高い頻度でみられ、スピリチュアルペインに関連したケアとして考えられるものです。SpiPas(スピパス)の3次元の項目の概念に基づき、関係性、自律性、時間性のそれぞれの概念での特定の苦痛に対する個別のケアになります。 今回は、まず「全般的なケア」である「基盤となるケア」について説明します。 基盤となるケアには以下のものがあります。 信頼関係を構築する生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を強めるケアを行う現実を把握することを援助する情緒的サポートを行う置かれた状況や自己に対する認知の変容を促すソーシャルサポートを強化するくつろげる環境や方法を提供する積極的に症状を緩和するチームをコーディネートする ケアの具体的な方法は表1をご覧ください。 表1 全般的なケア スピリチュアルケアの実践に必要な心構え 信頼関係を構築する 深い苦悩を抱えているように見える患者さんがいるとき、その人に対して単に直接的に「スピリチュアルペインはありませんか」とたずねても、患者さんは何も答えようとはしないでしょう。 まずは、身体症状や精神症状としての苦痛が緩和され、患者さんのニーズに沿って生活しやすいように、日常生活援助を適切に丁寧に行うことが大切です。そうした援助から「自分は関心をもたれている、尊重されている」という意識が患者さんに生まれ、信頼関係が築かれていきます。 スピリチュアルな側面に関心を向ける 入院時の問診から前回ご紹介したSpiPas3)のような体系だったアセスメントをしていきます。同時に、日常のケアの場面で患者さんが語る言葉や行動を通して、患者さんの拠り所となっていることへの理解を深めます。患者さんのスピリチュアリティの状態を注意深くアセスメントしていくことが大切です。 患者さんは、「どのように今の時間を過ごしているのか」、「生活において、今どのようなことを大切にしたいのか/これまで何を大切にしてきたのか」をポイントにしていきます。 ケアのニーズをチームで検討する これまでに述べたようなアセスメントを通して、ケアの対象となっている患者さんに、スピリチュアルペインが存在するのか、存在するならばそれはどのような苦悩なのかを把握します。そして、スピリチュアルペインに対するケアのニーズはどのようなものなのかについて、チームによるケアカンファレンスで検討していきます。 スピリチュアルケアの目標 スピリチュアルペインの重要な点は、患者さんの問いかけが、相手(看護師)に答えを求めて発せられるのではないというところにあります。スピリチュアルペインは、他者が答えを与えることでも、解決することでもなく、その痛みや苦しみの意味をその人自身が見出すことで初めてその人にとって真実なものになるのです。 なぜなら、スピリチュアルペインは、まさに、その人自身の主観的領域の核である「価値観」に向き合う痛みだからです。周りの評価や世間の価値観とは異なり、死を前にしたその人自身の価値観が問われる苦しみであるということを、われわれは十分に心得てケアにあたる必要があります。 患者さんが穏やかな状態、納得のできる状態をケア提供者が一緒に見つけていくことが、スピリチュアルケアの1つの目標です。完全に穏やかな状態にはなれなくても、「苦悩をもちつつも生きていける」、すなわち、本人がその人なりに生きていけると思える状態に到達できればよいと考えられます。 スピリチュアルケアは個別性が高いものですので、心理面の対応(適切なコミュニケーション)がケアとなる場合もあれば、死の恐怖のように宗教的対応が必要となる場合もあります。スピリチュアルケアの到達点は、患者さん一人ひとりにとっての、穏やかな状態、苦悩との折り合い、生きる意味の自分なりの納得が目当てになるといえるでしょう。 次回は、「個別のケア」について解説していきます。>>次回の記事はこちらスピリチュアルペインを和らげる個別のケア【スピリチュアルケア】 執筆:前滝 栄子京都大学医学部附属病院 緩和ケアセンターがん看護専門看護師 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)森田達也,鄭陽,井上聡,他.終末期がん患者の霊的・実存的苦痛に対するケア:系統的レビューに基づく統合化.緩和医療学 3,2001,p.444-456.2)森田達也,赤澤輝和,難波美貴、他.がん患者が望む「スピリチュアルケア」―89名のインタビュー調査.精神医学 52,2010,p.1057⁻1072.3)田村恵子,森田達也,河正子編.看護に活かすスピリチュアルケアの手引き.第2版,青海社,2017,p.30.

2024年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価
2024年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価
特集 会員限定
2024年9月17日
2024年9月17日

2024年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価【セミナーレポート前編】

2024年6月14日、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「2024年度診療報酬改定 訪問看護の注意点&今後の展望」が実施されました。講師として登壇してくださったのは、訪問診療医で、医療・介護分野のコンサルティング支援も行っている久富護先生です。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、働き方改革や訪問看護ステーションの機能に応じた評価に関する変更点をまとめます。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>関連記事2024年度トリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉報酬改定)解説シリーズ 【講師】久富 護 先生医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医/株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 マネージャー/医療法人寛正会 水海道さくら病院 地域包括ケア部長/社会医学系専門医/医療政策学修士/中小企業診断士大学病院、民間病院に内科医として勤務する中で、医療・介護業界が抱えるさまざまな課題に直面。現在は訪問診療医として臨床現場に立ちつつ、業界の課題解決を目指し、行政や医療機関に対するコンサルティング支援も行っている。 24時間対応体制加算がアップ 「24時間対応体制加算」が見直され、看護業務の負担軽減への取り組みを評価する区分が設けられ、月1回に限り以下のとおり金額がアップしました。 (1)「24時間対応体制における看護業務の負担軽減の取り組み」の要件を満たす場合6,800円(400円アップ)(2)それ以外6,520円(120円アップ) (1)の「24時間対応体制における看護業務の負担軽減策」には以下ア〜カの6つがあり、アかイのどちらかを含む2つを実施すると要件を満たせます。 (ア)夜間対応した翌日の勤務間隔の確保(イ)夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)まで(ウ)夜間対応後の暦日の休日確保(エ)夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫(オ)ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減(カ)電話等による連絡および相談を担当する者に対する支援体制の確保 (ア)の勤務間隔については、具体的な数字は示されていません。通勤時間や勤務形態・勤務実態を考慮し、職員の休息が確保できるよう、厚生労働省の「労働時間等見直しガイドライン」を参照し、各事業所の実態に即して、定めてください。 なお、上記の要件は、介護報酬の「緊急時訪問看護加算(Ⅰ)」と同じ内容です。介護報酬の考え方が診療報酬にも適用されました。 「24時間対応に係る連絡体制」の見直し 24時間対応体制に係る連絡相談について、一定の条件を満たせば業務負担軽減の観点から保健師・看護師(以下「看護師等」)以外の方が対応してもよいことになりました。 ※詳細な条件は以下をご参照ください。厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」(P.28) 「看護師等以外の職員が利用者や家族からの連絡相談に対応するためのマニュアルが整備されていること」という条件がありますが、マニュアルに記載する内容は以下のとおりです。 地方厚生(支)局長に届出を提出する際には、このマニュアルを添付する必要があります。また、添付は不要ですが、勤務体制、状況をまとめた「連絡体制に関する書類」を用意し、各事務所で保管しなければなりません。 なお、24時間対応体制加算は1人の利用者さんに対し、1つの訪問看護ステーションだけが算定可能(介護報酬上の緊急時訪問看護加算との併算定も不可)なのでご注意ください。 管理者の責務が明確化 訪問看護ステーション管理者が担う責任も明確化されています。複数の事業所の管理について、従来は同一敷地内のみだったものが、距離が離れている場合でも許可されました。 ただし、以下のケースは「管理業務に支障がある」と判断され、認められません。 管理すべき事業所数が過剰な場合(数の規定はなし)管理者が併設の入居施設における看護業務と兼務する場合(併設入居施設の所属の場合)距離が遠すぎて緊急の駆けつけが困難な場合(距離の規定はなし) 事業所の機能に応じた管理療養費の見直し 月の初日の訪問の場合 訪問看護管理療養費が、機能強化型訪問看護ステーション以外を含めて見直されました。月の初日の訪問は、230~400円アップします。ただし、BCP(事業継続計画)の策定が条件となっています。 また、機能強化型訪問看護療養費1の施設基準も着目したいポイントです。算定には、以下にある専門の研修を受けた看護師の配置が要件となります。経過措置は約2年間で、2026年6月1日以降は、本要件を満たさないと算定できません(届出に研修修了を証明する文書の添付が必要)。 専門の研修日本看護協会の認定看護師教育課程日本看護協会が認める看護大学、看護系大学院の課程精神科看護協会の課程特定行為研修 月の2日目以降の訪問の場合 月の2回目以降の訪問における報酬は、横ばい、もしくは減少となりました。 訪問看護管理療養費1と2の報酬額500円の差は、利用者さんの数や医療依存度によって決まります。以下の要件を満たさないケースは、すべて2,500円です。 要件1(必須要件)直近1年の全利用者(介護保険のみの利用者を除く)のうち、同一建物居住者数(訪問看護基本療養費2と精神科訪問看護基本療養費3の算定数で計算)が7割未満。要件2(いずれかを満たせばOK)「月当たりの特掲診療料の施設基準等別表7、8※1に該当する利用者数(直近1年間平均)が4名以上」もしくは「月当たりのGAF 尺度※240以下の利用者数(直近1年間平均)が5名以上」。 なお、訪問看護管理療養費1を届け出るときは、「別表7、8」「GAF尺度40以下」に該当する利用者さんの数を各事業者で記録、保管する必要があります。 ※1 「特掲診療料の施設基準等「別表の7、8」は以下をご参照ください厚生労働省.「○特掲診療料の施設基準等」(平成二十年三月五日)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9733&dataType=0※2 GAF尺度については以下をご参照ください厚生労働省.「別紙1 GAF(機能の全体的評定)尺度 」https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/11/dl/s1111-2a.pdf 次回はDX推進に応じた変更点や、診療報酬改定における今後の展望などについて解説いただきます。>>後編はこちら2024 年度診療報酬改定 DX 推進と今後の展望【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf2024/8/29閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html2024/8/29閲覧

理想の看護&目標エピソード【つたえたい訪問看護の話】
理想の看護&目標エピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年9月17日
2024年9月17日

理想の看護&目標エピソード【つたえたい訪問看護の話】

看護師としての目標は勤め先や関わる仕事内容によっても変わってきますが、皆さんはどのような目標を設けていますか?「みんなの訪問看護アワード2023」から、「どういう看護師で在りたいか」「どういう看護を届けたいのか」という目標を定め、それを体現しようとしているエピソードを5つご紹介します。 「60点からのBCPスタート!」 策定まで試行錯誤が必要なBCP(業務継続計画)。定めた目標を段階的に評価して達成していくことの重要性を感じられるエピソードです。  「当事者のようで当事者でない」兵庫県西宮市出身の私は、阪神淡路大震災の時は千葉におり、東日本大震災の時は西宮に戻っていたので、まだ大きな揺れを経験したことがありません。自分ごとにできない弱みから、災害対策マニュアルの作成にも本腰が入らず、台風や停電の時も「大丈夫だろう」と正常性バイアスにまんまとハマってしまう日々でした。そんな私がBCP策定に着手できたのは、この当事者意識の薄さを乗り越えたい自身への挑戦でもありました。訪問看護サミットの視聴も大きなきっかけとなり、BCP策定を通して「出逢うべくして繋がった」多くの方たちの後押しが原動力となりました。BCPはやればやるほどその壮大さに圧倒されます。最初に自機関のBCPができた時には、「計画だもの。満点を目指さなくて良いんだ。60点からのBCPスタート!」と言い聞かせました。コレは、訪問看護の利用者の意思決定支援における、ゼロかヒャクかで決められない人の人生の支え方に通じます。利用者を支えている訪問看護スタッフを支える管理者の仕事として、BCPを自分ごとに昇華していけるよう挑み続けたいと思います。 2023年1月投稿 「訪問看護の力」 利用者さんにとっては入院生活と自宅生活は精神的に大きな違いがあり、訪問看護師として在宅生活の支援に注力したいという目標に共感できるエピソードです。 これまで回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟で勤務し、さまざまな理由で自宅退院を諦める方を見てきました。昨年8月に訪問看護師となり、これまでできないことばかりに注目し自宅に帰れない理由を探していたのではと思いました。病棟勤務の時に入院されていた方に訪問する機会があり、自宅で生き生きと暮らす姿に感動しました。認知症のため離床センサーをつけていた方にお会いした時は、目の輝きに驚きました。病棟では自由が制限され、固い表情だったのだと思います。その方が体調を崩し医師から入院を強くすすめられた時、絶対に入院しないと譲らず、点滴と体調管理のために連日訪問することになりました。入院せずに普段の生活に戻ることができた時、訪問看護の力を強く感じました。この経験を生かし、患者の「家にいたい」と願う気持ちに寄り添える看護師として成長していきたいです。 2023年1月投稿 「取り憑かれている私」 利用者さんの人生や生き様が、訪問看護師としての人生の目標や生き方を決めるきっかけになったエピソードです。 私には、勝手に「魂の言葉」と名づけ、取り憑かれているある利用者さんの言葉がある。私が30代前半で訪問看護ステーションに配属になり、1人立ちという単独訪問ができるようになったころ、神経難病の方のお宅へ訪問していた。その方は社会的地位も高く、知的で穏やかで若輩者の私にも丁寧に接してくれ、私の声がけのリハビリも一生懸命行ってくれた。進行の予防に取り組みながら、病気についても調べ、最新治療の情報を集めたりと積極的に向きあっていた。排泄が上手にできなくなり処置が必要になったころ、その方は「治療は諦めたけど、生きるのは諦めない」という言葉を言った。その方は、程なく入院し胃ろうを造設、気管切開をし、亡くなった。訃報を聞いたその時は、最後まで生きることに真剣に向き合った、「生きることを諦めなかった」結果だと思った。十数年たった今、「生きることを諦めない」とは、自分を知り、生きるということに向き合い、自分の意思で生き方を決めることだということがわかる。私は「魂の言葉が聞きたい」という思いで今も訪問看護に就いている。 2023年1月投稿 「生きた看護が生まれる場所」 看護師としてどういうスタンスで看護を行うか。目標や心がけは接遇や所作に表れます。そのことを明確に体現されているエピソードです。 在宅で療養する患者さん、介護をされている家族が安心して過ごせるように手助けをするのが訪問看護師の役割だと思う。そんな私が訪問時に心がけていることは特別なことをし過ぎないことである。医師からの指示や、複雑で家族ができないような処置をしているときは私の看護は始まっていない。家族に「私にもできそう」と思ってもらえるケアができたときが看護の始まりである。例えば、痰がうまく出せない患者さんには横向きになってもらい背中を擦る。呼吸が楽になるようにストレッチをして体の緊張ほぐす。この時にゆっくりと丁寧な所作で行う。なにをしていたか分からないような複雑な動きはしない。ケアを見ていた家族が「あれをしたら気持ちよさそう、楽になりそう」と思ってもらえたらケアは成功だ。ケアをやってみようと思ってくれる家族が増える。私がいない時間でも私の看護が生き続ける。そんなやさしい手が増えますようにと思い、日々訪問している。 2023年2月投稿 「看護師のゆらぎ」 目標を掲げることは、利用者さんに対してだけではなく、職場内のスタッフにも好影響を及ぼすことがわかるエピソードです。 一次病院から経験8年目にして在宅に飛び込んできた看護師。医師が側にいない、検査がすぐにできない環境で一人で訪問すること、検査ができない中でのアセスメント、すぐに苦痛の緩和ができない。アセスメント能力、コミュニケーション能力も今までよりも必要になると痛感し自信も崩れ看護師である自分に対して「今までの自分がクソだった」と泣きながら話すこともあった。個別面談や毎朝チームでのミーティングも行ったり泣きながら、笑いながら日々奮闘している。最近はチームに向けた勉強会を開催したいと自ら発信し実施した。ほかのスタッフ達も入職して一年は特に「目の前の人と向き合うことは自分自身と向き合う、自分自身を知る一年だった」と話していた。彼女自身のスキルアップと同時に彼女自身が自分と向き合えるようチームでこれからも伴走していきたい。そして在宅未経験な看護師達が地域に飛びこめる環境を整えていきたい。 2023年2月投稿 目標は成長につながる 「なぜ看護師という職業に就いたのか?」ということを振り返るきっかけになりそうなエピソードばかりでした。「仕事=賃金をもらうための対価」としてだけ捉えると、ルーティンワークになりがちですが、仕事はひとつの自己表現ともいわれています。時間をかけてやるからには「自分が成したいこと」を見つけ、目標として目指していきたいものですね。編集: 合同会社ヘルメースイラスト: 藤井 昌子

水痘(水ぼうそう)の症状・対処・予防法 帯状疱疹との関係も解説
水痘(水ぼうそう)の症状・対処・予防法 帯状疱疹との関係も解説
特集
2024年9月17日
2024年9月17日

水痘(水ぼうそう)の症状・対処・予防法 帯状疱疹との関係も解説

水痘(水ぼうそう)は子どもの病気とされていますが、大人もかかる可能性があります。大人がかかると重症化しやすいことに注意が必要です。また、過去に水痘にかかった人は、加齢とともに免疫力が低下すると、帯状疱疹を発症する恐れがあります。この記事では、多くの子どもがかかる水痘の症状や対処方法などを解説します。訪問看護の利用者さんはもちろん、ご自身やご家族の健康管理のためにも、水痘について確認しておきましょう。 水痘(水ぼうそう)について 水痘の症状や原因、感染経路、重症化リスクについてみていきましょう。 症状 水痘帯状疱疹ウイルスに感染後、2週間程度の潜伏期間を経て発疹が現れます。通常、子どもの場合は発疹が最初に現れる症状ですが、大人の場合は発疹が現れる前に発熱と全身倦怠感を伴うことがあります。 発疹は頭皮、体幹、四肢の順で現れ、かゆみを伴います。短時間で紅斑、丘疹、水疱、痂皮へと変化し、数日かけて発疹が現れるため、各段階の発疹が混在することが通常です。また、気道や鼻咽頭、膣などの粘膜にも発疹が現れる場合があります。倦怠感やかゆみ、発熱などが2〜3日続く軽症であることが一般的です。 原因 水痘は、水痘帯状疱疹ウイルスに感染することで引き起こされます。水痘帯状疱疹ウイルスはヘルペスウイルス科のα亜科に属するウイルスで、初めて感染する際は知覚神経節に潜伏感染します。水痘の症状が落ち着いた後も体からウイルスが完全に消失したわけではなく、疲労や加齢などで免疫が低下した際に再び増殖し、帯状疱疹として症状が現れます。 感染経路 水痘帯状疱疹ウイルスは世界中に分布しており、家庭内で起きたものについては90%以上が感染するとされています。感染者の水疱内容物や気道分泌物が主な感染源で、空気感染、飛沫感染、接触感染により広がります。発疹が現れる1〜2日前から出現後4〜5日、または痂皮化するまでは人にうつる可能性があります。そのため、水痘に気づいたときにはすでに周りの人にうつしている可能性があるので、その後の経過を慎重に見ることが重要です。 重症化リスク 水痘の重症化とは、子どもの場合は熱性けいれんや気管支炎、肺炎などの合併症が起きることを指します。大人の場合も合併症が見られることがありますが、水痘そのものが重症化するリスクが高いとされています。大人の水痘が子どもより重症化する理由として、細胞性免疫が強いため感染細胞の障害が著しいこと、成人の発熱性疾患の中では頻度が少ないため診断が遅れる場合があることなどが考えられます。合併症としては、肺炎や脳炎、心膜炎、細菌の二次感染による敗血症などが報告されており、特に免疫機能が低下している場合は、重症化しやすく生命の危険を伴うことも。十分な注意が必要です。 水痘のワクチン接種 水痘のワクチンは、1回の接種で重症化をほぼ100%予防でき、2回の接種によって発症そのものを高確率で予防できるといわれています。予防接種の時期は、1歳の誕生日の前日から3歳の誕生日の前日までです。1回目の接種は生後12ヵ月から生後15ヵ月まで、2回目の接種は3ヵ月以上の期間を空けて行います。 大人でもワクチン接種は可能で、過去に接種した回数を考慮して接種回数を決定します。なお、終生免疫と考えられてきた水痘も、再感染があることが知られるようになってきました。再感染は健常者でもまれに生じますが、特に免疫が低下した高齢者において報告が散見されているため注意が必要です。帯状疱疹患者の重要な感染源と考えられているため、50歳以上対象の水痘ワクチン投与が推奨されています。 水痘にかかった際の登園は? 水痘は第二種伝染病に該当し、飛沫感染する可能性が高い感染症です。保育園や幼稚園で感染が広がりやすいため、水痘にかかった児童はすべての発疹が痂皮化するまで出席停止となります。一部の保育園や幼稚園では、水痘にかかった児童の登園再開に際して、医師の許可証が必要な場合があります。 水痘と帯状疱疹との関連性 水痘と帯状疱疹は、どちらも水痘帯状疱疹ウイルスによって引き起こされます。子どものころに水痘帯状疱疹ウイルスに感染すると、水痘を発症するか無症状で経過します。その後、ウイルスは脊髄の近くの神経節に潜伏し、加齢や疲労などで免疫力が低下した際に再活性し、帯状疱疹を引き起こします。 帯状疱疹の予防には、水痘ワクチンの接種が有効です。前述の通り、過去に水痘を発症した人はすでに免疫を獲得しているものの、加齢とともに免疫力が弱まるためワクチン接種を受けたほうがよいとされています。 帯状疱疹の初期症状は、痛みや不快感などです。ピリピリ、ジンジン、ズキズキ、焼けるような痛みなどと形容されます。初期の痛みは通常、帯状の神経に沿って現れます。また、発熱やリンパ節の腫れといった一般的な風邪症状が現れることもあります。 帯状疱疹は上肢から胸背部にかけて現れることが多いものの、顔面や目の周りに発生することも少なくありません。帯状疱疹にかかった際に注意すべきは、帯状疱疹後神経痛(PHN)です。帯状疱疹が治癒した後も持続的な神経痛が残り、日常生活に支障をきたすことがあります。 * * * 水痘は、全身に発疹が現れて紅斑、丘疹、水疱、痂皮へと短期間で変化します。大人がかかると重症化しやすいため、少しでも感染を疑う症状が見られた場合は速やかに医療機関を受診しましょう。今回、解説した内容をご自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。  編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇厚生労働省「水痘」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/varicella/2024/9/10閲覧〇NIID 国立感染症研究所「水痘とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/418-varicella-intro.html2024/9/10閲覧

高齢者虐待防止 法定研修会in山形 イベントレポート
高齢者虐待防止 法定研修会in山形 イベントレポート
特集
2024年9月10日
2024年9月10日

高齢者虐待防止 法定研修会in山形 イベントレポート【7月24日開催】

介護保険法上、指定訪問看護ステーションが必ず実施しなければならない法定研修。事業所が適切な運営を行うために欠かせない研修ですが、実施方法に課題を抱える事業所が多い現実があります。 そこで、山形県看護協会・山形県訪問看護総合支援センター・山形県訪問看護ステーション連絡協議会は、帝人株式会社と共催で山形県下の2次医療圏ごとに訪問看護事業所向けの法定研修会を企画。山形県内4エリアを巡業しながら、現地開催+オンライン配信のハイブリッド形式で研修(全4回)を実施することとなりました。今回は、第1弾の高齢者虐待防止にまつわる法定研修会の模様をご紹介します。 座学+症例検討会を実施 2024年7月24日(水)の法定研修会は、山形県の訪問看護ステーションに勤務されている方を対象に、訪問看護会館(山形県 村山地区)にて開催されました。講師として山形県看護協会「訪問看護ステーションやまがた」の所長を務める山川一枝さんが登壇し、現地会場に27名、オンライン会場に48名、計75名の参加者が集いました。研修会の流れと目的は以下の通りです。 ※本研修で使用された資料は、NsPaceの「お役立ちツール」よりダウンロードいただけます。NsPace「お役立ちツール」>「その他」より、「高齢者虐待をよく知ろう|スライド集」および「高齢者虐待をよく知ろう|発表者用資料」をダウンロードしてください。 座学では、「高齢者虐待をよく知ろう」と題し、事業所が高齢者虐待を防止し、早期発見と適切な対応を行うための5つの規定(委員会の設置、指針の整備、従事者の研修など)について解説。また、高齢者虐待防止法に基づく虐待の分類(身体的・心理的・性的・経済的・ネグレクト)や、それぞれの深刻度1~4(虐待の程度)についても理解を深めました。参加者の皆さんは、一様に真剣な表情で講義を受けていました。 座学の後は、虐待の兆候を察知し、「チーム全体で虐待のリスク要因を判断する」というプロセスを体験するため、現地参加者とオンライン参加者がそれぞれグループに分かれて症例検討会を行いました。 症例検討会・グループディスカッションの様子 症例検討会では、虐待が発生する社会背景や虐待者側の要因などについて、さまざまな可能性を考えながら真剣に意見を交わす様子がみられました。虐待を通報する基準についての質問も挙がり、より実践的な学びを深めている様子が印象的でした。最後に全体の振り返りをし、高齢者虐待防止にまつわる研修会は終了。参加者にはオリジナルの受講証明書も渡されました。 負担軽減とリーダーシップ育成に繋がる 今回の研修会について、山形県看護協会の菅野理事や講師の山川氏、参加者の皆さんからのコメントもご紹介します。 ◆菅野 弘美氏山形県看護協会 常任理事(2021年6月~)山形県訪問看護総合支援センター長(2024年4月~) 当訪問看護総合支援センターでは、これまで多くの技術研修・管理者研修等を行ってきましたが、法定研修については各事業所にお任せしていました。しかし、訪問看護事業所の管理者の皆様にお話を伺う中で、法定研修の負担の大きさは認識していましたので、県内の訪問看護事業所が合同で法定研修を実施できれば、各事業所の負担軽減に貢献できると考えたんです。実際に管理者の皆様からも喜びの声が届いています。在宅医療は横との連携が重要で、私たちも日頃から地域の訪問看護事業所の管理者の集まり(ブロック会議)を開催したり、チャットを通じてコミュニケーションを取り合ったりしています。今回も研修とブロック会議をセットで開催しており、こうした機会を通じて横のつながりも深めていっていただければと考えてます。また、今回の研修の講師は4回とも山形県内の方に依頼しました。こうしたご登壇の機会を通じて、地域内でリーダーシップを発揮する人材の育成にも繋がればと考えています。 ◆山川 一枝氏山形県看護協会 訪問看護ステーションやまがた 所長訪問看護23年目。訪問看護に関する講演多数 今回講師を担当させていただいた「高齢者虐待防止」は大変難しいテーマで、一概に「ここからが虐待」と線引きしづらく、マニュアルどおりにいかないことも多いものです。だからこそ、兆候察知からリスク要因まで、ケアマネジャーを含むチームで共通認識を持ち、迅速に対応できるような体制をつくっておくことが重要だと思います。今回の講義やディスカッション等を通じて得た知識や気づきを、各チームに持ち帰っていただければ幸いです。また、私も訪問看護事業所の管理者をしていますが、法定研修は代表者が外部の研修に参加する際の費用や訪問スケジュールの調整、事業所内で研修を実施する際の準備等の負担があります。そもそもニーズに合った外部研修をみつけられず、困ることもありました。「みんなが実施しなければいけないなら、合同でできればいいのに」と思っていたので、今回の研修のお話は本当に助かりました。講師用の投影資料や台本もあるため、多少のアレンジは加えたもののほとんど準備がいらず、負担が少なく済みました。 ◆参加者の皆さんからのコメント 「法定研修の実施が決まり、対応に悩んでいた時に山形県看護協会から案内があり参加しました。事業所を少数で運営しており、研修日程の調整も難しいため、こうした企画はとても助かりました」「貴重な機会で、資料もわかりやすいので本当にありがたいです。発表者用の資料やスライド集もあるので、これを使ってスタッフ向けに研修を行います」「迅速にチームに情報共有をする重要さ、虐待者の背景にも目を向けてリスクを減らしていくことの大切さを改めて認識しました」「高齢者虐待防止には、社会環境、家族、虐待者側、被虐待者側などと多方向の要因からアプローチしていく必要があることを再確認できました。深刻度や具体例の資料が特に参考になりました。ここで得た知識をふまえて、兆候を見逃さずに対応していきたいです」 * * * 今回は、山形県内の看護協会、訪問看護総合支援センター、訪問看護ステーション連絡協議会と企業とが連携して法定研修会を実施したことで、各事業所の負担軽減につながった取り組みをご紹介しました。人手不足に苦しむ訪問看護事業所が多い中、今後ますますこうした効率化が重要になるでしょう。地域で連携する際の事例として参考にしていただければ幸いです。また、本研修の資料はNsPaceの「お役立ちツール」からダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。 ※本研修で使用された資料は、NsPace「お役立ちツール」>「その他」より、「高齢者虐待をよく知ろう|スライド集」および「高齢者虐待をよく知ろう|発表者用資料」をダウンロードしてください。※本記事は、2024年7月24日(水)時点の情報をもとに制作しています。 取材・編集:NsPace編集部執筆:高橋 佳代子

「骨粗鬆症」の知識&注意点
「骨粗鬆症」の知識&注意点
特集
2024年9月10日
2024年9月10日

「骨粗鬆症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は骨粗鬆症について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 骨粗鬆症の基礎知識 破骨細胞による骨吸収が骨芽細胞による骨形成を上回ると骨量が減少し、さらに進行すると骨粗鬆症になります(図1)。 図1 正常な骨代謝と骨粗鬆症 正常な骨代謝は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成とのバランスが保たれ、骨量を維持している。骨粗鬆症では、そのバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回った状態である 骨粗鬆症の最も重大な合併症は骨折です。大腿骨近位部骨折の1年以内の死亡率は10~35%で、急性心筋梗塞よりも予後は悪いことが知られています1)。大腿骨近位部骨折は骨折部位により骨頭骨折、頸部骨折、転子部骨折、転子下骨折と呼ばれます(図2)。 図2 大腿骨近位部骨折の分類 骨粗鬆症の診断 骨折リスク評価法FRAXを用いる FRAX(fracture risk assessment tool)を用いれば、10年以内の骨折発生リスクを計算することができます。訪問看護中に簡単に計算が可能です。ご自身の骨折リスクもぜひ計算してみてください。 ▼骨粗鬆症財団「骨折評価ツールFRAX」https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/selfcheck/frax.html FRAXで推定した大腿骨近位部骨折の10年リスクが3%以上、または骨粗鬆症関連骨折の主要リスクが20%以上の患者さんは薬物療法の適応に。未治療なら主治医に連絡しましょう。 DEXAで骨密度を計測 骨密度検査ではDEXA法(dual energy X-ray absorptiometry、二重エネルギー X線吸収測定法)を用いて骨密度を正確に計測します。 YAM(young adult mean、若年成人平均)値を基準(100%)に、70~80%を骨減少症、<70%を骨粗鬆症とし、骨折の既往歴があれば、80%以下でも骨粗鬆症と診断されます(図3)。 図3 骨粗鬆症の診断基準 骨量のYAM値が80%未満の場合、注意が必要となる 病歴聴取と身体所見のポイント 骨粗鬆症の原因には次のものがあります。該当する生活習慣や疾患がないかを問診と身体診察で確認しましょう。 アルコール多飲喫煙低体重(BMI<18.5)膠原病[関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)](関節痛や皮疹が出現)クッシング症候群(副腎皮質ホルモンの過剰分泌のため、満月様顔貌や中心性肥満、高血圧が起こる)甲状腺機能亢進症(手の振戦、体重減少、発汗増加、甲状腺腫大を認める)多発性骨髄腫(高齢者で貧血や腰痛、体重減少の場合に想起)薬剤(長期使用):ステロイド、メトトレキサート、抗けいれん薬 椅子からの立ち上がりが困難な場合、近位筋(大腿)の筋力が低下している可能性があります。立ち上がった時にふらつくようなら、バランスが悪いかもしれません。どのような薬でも4種類以上の内服は転倒のリスクを増加させるので注意が必要です。(1)筋力低下、(2)バランスが悪い、(3)4種類以上の薬の使用の3つすべてがあると、1年後の転倒リスクは100%といえます。 主な治療 非薬物療法 食事で十分なカロリーとタンパク質、カルシウム、ビタミンDが摂取できるとよいでしょう。禁煙、適度な飲酒、運動(ウォーキング)、転倒予防(十分な照明、階段や浴室の手すり、バランス訓練)、薬の調整(ステロイドの減量、起立性低血圧やめまいを起こす薬の中止)も重要です。 薬物療法 【ビスフォスフォネート】破骨細胞の働きを抑える第一選択薬です。アレンドロネートとリセドロネートは、椎体骨折を50~70%、大腿骨近位部骨折を40%、非椎体骨折を20~30%減らします。 多くの経口薬は週に1回、起床時に180mLの水で服用します。食道に薬物が長く停滞すると、食道炎や食道潰瘍を起こすため、内服後30分間は座位を保持し、水以外の飲食をしないように指導します。 副作用は胸焼けです。まれに顎骨壊死や非定型大腿骨骨折が生じることも。顎骨壊死は治療中のどの時点でも起こります。非定型大腿骨骨折のリスクは治療期間とともに増加するため、5年間の経口投与後に薬物治療を中断します。 腎機能低下(GFR<30mL/min/1.73m2)では禁忌または慎重投与です。 【デノスマブ】破骨細胞の活性化を抑制するモノクローナル抗体です。6ヵ月毎の皮下注により、骨吸収を抑制し、骨密度を増加させて脊椎、股関節、非椎体骨折のリスクを低減します。 副作用は低カルシウム血症、感染症(蜂巣炎、気管支炎)の増加、顎骨壊死、非定型大腿骨骨折です。腎機能が悪くても使用可能です。 効果が治療中止後には持続しないため、デノスマブによる最後の治療から6ヵ月後に、ビスフォスフォネートを代表とする骨粗鬆症の治療を開始しなければならない点に注意が必要です。 【カルシウムとビタミンD】従来、1000~1200mg/日のカルシウム摂取と25-OHビタミンD濃度が20~30ng/mLになるようビタミンDサプリメント1000IU/日を取ることが推奨されていましたが、その効果は最近では疑問視されています。 ●骨粗鬆症の最も重大な合併症は骨折です。大腿骨近位部骨折の1年以内の死亡率は約10%で、急性心筋梗塞よりも予後は悪いことが知られています。●FRAXを用いれば、10年以内の骨折発生リスクを計算することができます。●骨粗鬆症の治療にはビスフォスフォネートとデノスマブが有効です。   執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本整形外科学会/日本骨折治療学会監修,日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン策定委員会編集.『大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン2021 改訂第3版』,南江堂,東京,2021;80. 【参考文献】○American College of Physicians.「Endocrinology and Metabolism」,『MKSAP19』.AM.COLLEGE OF PHYSICIANS,2021;72-83.○Reid IR,Billington EO. Drug therapy for osteoporosis in older adults.Lancet 2022,399(10329):1080-1092.

利用者・家族からの暴力・ハラスメント 対策&対応
利用者・家族からの暴力・ハラスメント 対策&対応
特集 会員限定
2024年9月3日
2024年9月3日

利用者・家族からの暴力・ハラスメント 対策&対応【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)が2024年5月10日・24日に開催したオンラインセミナー、「【訪問看護】利用者・家族からの暴力・ハラスメント対策(全2回)」。訪問看護師への暴力・ハラスメント対策に取り組む北須磨訪問看護・リハビリセンター所長 藤田愛さんを講師にお招きしました。 セミナーレポートの後編では、暴力・ハラスメントへの具体的な対策、対応方法をご紹介します。 >>前編はこちら利用者・家族からの暴力・ハラスメント 基礎知識【セミナーレポート前編】 【講師】藤田 愛さん医療法人社団 慈恵会 北須磨訪問看護・リハビリセンター 所長/慢性疾患看護専門看護師/ヘルスケア・マネジメント修士(専門職)取得神戸市立中央市民病院、兵庫県立西宮保健所に勤務した後、1998年から訪問看護師として活動。2004年の北須磨訪問看護・リハビリセンター開設時から現職。訪問看護師が利用者やその家族から受ける暴力・ハラスメントの予防・改善に長年取り組む。2022年より「訪問看護師等の暴力・ハラスメント研修プログラム」の開発研究も行っている。 暴力・ハラスメント対策は法的な責務 令和3年度(2021年度)の介護報酬改定に伴い、ハラスメント対策は事業者の法的な責務として義務づけられました。利用者や家族から行われるものは、現在のところセクシュアルハラスメントのみが対象ですが、カスタマーハラスメントや暴力への対策も努力義務とされています。暴力・ハラスメントへの対策は、事業所が取り組むべき課題です。 暴力・ハラスメントへの具体的な対応 暴力やハラスメントへの具体的な対策としては、以下の5つが挙げられます。 対策1:管理者の意思決定、表明 まずは、管理者が暴力・ハラスメントを容認しない、職員を自らが守るという意思決定をし、それを表明する必要があります。事業所の基本方針として書面で共有するのもよいでしょう。ポイントは、繰り返し表明すること。そうでないと、「認知症の利用者さんだから仕方がない」「この程度なら我慢できる」などと、次第に元の状態に戻ってしまいます。 対策2:マニュアルの作成 厚生労働省をはじめ、さまざまな機関や組織でつくられたマニュアルを参考に、まずは1ページだけ作成しましょう。立派なマニュアルを用意しても活用できない場合が多いので、最初は簡単なものを目指すのがおすすめです。 対策3:重要事項説明書への記載 重要事項説明書に暴力・ハラスメントへの対応について明記し、利用者や家族に説明の上、合意をとることも大切です。 とはいえ、初回訪問時の契約の段階で暴力・ハラスメントについて言及すると、関係構築に影響するのではないかと心配される方も多いでしょう。これについては、重要事項説明書の前置きとして「質の高いサービスを提供するためにも、利用者・家族のみなさんに協力してほしい」といった内容を記載し、「お茶やお菓子、お礼の品物を受け取らない」といった事業所の方針のあとに、暴力・ハラスメント行為について触れるとよいでしょう。 信頼関係の構築に配慮しつつ、「職員への暴力・ハラスメント等により、サービスの中断や契約を解除することがある」と説明し、事業所としてのスタンスを明確に示すことが重要です。 対策4:発生時の報告・対応フローの取り決め 職員に「暴力やハラスメントがあれば報告してほしい」と働きかけても、実際はなかなか声が上がりません。虐待と同じで、「これは暴力(またはハラスメント)なのだろうか」といった「ためらい」が報告を遅らせます。 そこでフローに明記したいのは、「暴力・ハラスメントかもしれない」レベルで報告や相談すべきという点です。また、いきなり上司に相談するのは抵抗があるケースも多いでしょうから、被害者が話しやすい同僚からの報告も可能とするとよいでしょう。管理者の耳に話が入れば、当人からでなくても構いません。 対策5:全職員の意識、対応力の向上 職場全体で暴力・ハラスメント対策について繰り返し話し合い、意識を一致させましょう。また、訪問前にリスクを想定する、暴力やハラスメントの予兆に敏感になる、必要に応じて2人訪問を選択するといった対応力の向上にも努める必要があります。 暴力・ハラスメント被害者への歩み寄り 暴力・ハラスメントの被害者が出てしまった場合、非常に大きな精神的ダメージを受けているため、「被害に遭った人ファースト」を徹底しましょう。何よりも心情理解を優先し、寄り添うことが大切です。 二次被害の防止を 暴力・ハラスメント行為は一次被害。二次被害とは、上司や同僚など周囲の人々の言動で傷つけることを指します。被害に遭った医療従事者の多くは「自身の能力が原因で暴力やハラスメントを予測・抑制できなかった」と捉える傾向があり、周囲のスタッフも被害者に原因を探してしまうケースが少なからずありますので注意しましょう。利用者の疾患の有無や境遇に関わらず、暴力・ハラスメントを受けた被害者は悪くありません。 相談シートを活用して歩み寄りを よかれと思って見守るのみにとどめると、被害者が孤立する可能性があります。厚生労働省のハラスメント報告用「相談シート」を活用して歩み寄ることをおすすめします。このシートには現在の心の状態を数字で表現する項目があり、「今はここだけの話にしてほしい」「少人数であれば共有可」「全体に共有可」といったように、共有可否も確認できます。被害者の多くは、「大丈夫?」と聞かれれば「大丈夫」と答えがちです。このシートを使えば、本人の意向に沿った対応を目指せるでしょう。 なお、暴力・ハラスメントは記録する必要がありますが、多くの人の目に触れるカルテにはなかなか書きにくいはず。カルテとは別で記録を残す工夫をすることをおすすめします。 * * * 本セミナーの第2回で行われたグループディスカッションでは、参加者の暴力・ハラスメントへの価値基準の確認や、リスクを判断・回避するための「KYT(K:危険、Y:予知、T:訓練/トレーニング)」ワークを実施しました。各事業所でも定期的なトレーニングや情報共有の場を設けていただき、一人でも多くの訪問看護師が主体的に暴力・ハラスメント対策に取り組めるよう、体制を整えていただけたらと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇厚生労働省.「介護現場におけるハラスメント対策」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05120.html2024/8/22閲覧〇厚生労働省. 社会保障審議会「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」(2021年1月18日)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000750362.pdf2024/8/22閲覧〇厚生労働省. 株式会社 三菱総合研究所.「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」令和4(2022)年3月改訂https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947524.pdf2024/8/22閲覧

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