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おたふくかぜの原因・症状・合併症は?ワクチンや男性不妊との関連も解説
おたふくかぜの原因・症状・合併症は?ワクチンや男性不妊との関連も解説
特集
2025年2月25日
2025年2月25日

おたふくかぜの原因・症状・合併症は?ワクチンや男性不妊との関連も解説

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)は、主に子どもがかかる感染症とされていますが、大人がかかる場合もあることや合併症などについて理解しておくことが大切です。この記事では、おたふくかぜの原因・症状・対処方法や予防接種ついて解説します。訪問看護の利用者さんやご自身・ご家族の健康管理のためにも確認しておきましょう。 おたふくかぜについて おたふくかぜは正式名称を流行性耳下腺炎といい、片側または両側の唾液腺が腫れることが特徴のウイルス感染症です。原因や症状、感染経路、流行時期、合併症などについて具体的に見ていきましょう。 原因 おたふくかぜは、ムンプスウイルスによって引き起こされる感染症です。感染力は、麻疹(はしか)や水痘(水ぼうそう)ほどではないものの、人口が密集した地域で流行する傾向があります。 症状 ムンプスウイルスに感染後、2〜3週間の潜伏期を経て唾液腺腫脹(両側、あるいは片側の耳下腺)と圧痛、嚥下痛、発熱などが主な症状ですが、感染しても症状が現れない不顕性感染もみられます。症状のピークは発症から48時間以内で、通常は1〜2週間で軽快します。コクサッキーウイルスやパラインフルエンザウイルスなどによる耳下腺炎や反復性耳下腺炎などと症状が似ています。反復性耳下腺炎は耳下腺腫脹を繰り返し、軽度の痛みがあるものの発熱はないことがほとんどです。おたふくかぜは4・5歳の子どもに多く見られ、15歳頃までに9割超の子どもが感染するとされています。2歳未満での感染例はあまりなく、特に0歳での感染は極めてまれです。また、1歳前後の幼児の場合は耳下腺の腫れが見られないケースのほか、症状がほとんどない「不顕性感染」となる場合も少なくありません。成人や学童期、思春期・青年期以降の子どもが感染する場合、症状が顕著に現れる傾向があります。特に唾液腺以外の部位が侵されることが多く、合併症の頻度も高くなります。 感染経路 ムンプスウイルスの感染経路は、飛沫感染・接触感染で非常に強い感染力を持っているといわれています。唾液を介して感染し、上気道粘膜上皮や頚部リンパ節で増殖した後、唾液腺のほか、睾丸、すい臓、腎臓、髄膜などで増殖します。 流行時期 おたふくかぜは季節に関係なく発生しますが、一般的には冬から初春にかけて流行する傾向があります。感染の広がりが比較的遅く、流行が広がるまでには長期間かかります。約2年間の流行期とそれに続く3年間の流行閑期があります。 重症化リスク おたふくかぜが重症化すると、5日以上続く発熱、強い頭痛、強い腹痛、吐き気、睾丸の痛みなどが現れます。大人は免疫機能が子どもよりも優れている分、ウイルスを排除する働きの反動として症状が強く現れる傾向があります。 合併症 おたふくかぜの合併症は、無菌性髄膜炎や脳炎、すい臓炎、聴神経炎などです。思春期以降の男性がおたふくかぜにかかると、精巣炎(睾丸炎)が起きる可能性もあります。 おたふくかぜのワクチン接種 おたふくかぜのワクチンは、合計2回の接種が推奨されています。1回目は1歳になってからなるべく早く、2回目は小学校入学前の1年間で接種します。妊娠早期におたふくかぜにかかると流産のリスクが高まるとの見解があるため、妊娠前にワクチンを接種しておくことが大切です。 おたふくかぜの保育園・幼稚園での対応方法 おたふくかぜは、学校保健安全法により学校で予防すべき感染症の第二種に指定されており、感染拡大を防ぐために出席停止の規定が設けられています。耳下腺、顎下腺、または舌下線の腫脹が発症した後、5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで出席停止です。ただし、病状が軽く、感染の恐れがないと医師に認められた場合は出席できます。また、以下のような場合も、出席停止となります。 患者の同居家族に感染している可能性がある人物がいる場合、予防処置の施行やその他の事情により、医師が感染の恐れがないと認めるまで おたふくかぜが発生した地域から通学する者については、その発生状況により出席停止が必要と認めたとき 流行地を旅行した者については、出席停止が必要と認めたとき このように、おたふくかぜの出席停止の有無や期間は保育園・幼稚園の考え方で異なるため、規定を確認する必要があります。 おたふくかぜで男性不妊になるって本当? 思春期以降におたふくかぜにかかると、ムンプスウイルスが精巣に炎症を起こすことがあります。これをムンプス精巣炎といい、精子を作る機能が低下するとされています。ムンプス精巣炎になると、数ヵ月から1年後に精巣が萎縮し、これが両方の睾丸に見られる場合は無精子症になる可能性があります。ただし、両方の精巣が萎縮する事例は少なく、不妊のリスクはそれほど高くはありません。 * * * おたふくかぜは、片側または両側の唾液腺が腫れることが特徴のウイルス感染症です。大人がかかると重症化しやすいため、早期に医療機関を受診した上で経過を注視しなければなりません。今回、解説した内容をご自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】◯NIID 国立感染研究所「流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/529-mumps.html2025/2/18閲覧◯島根県感染症情報センター「流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)」https://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/topics/tp010417.htm2025/2/18閲覧◯千葉医師会「おたふくかぜ」(2015/11/2)https://www.chiba-city-med.or.jp/column/063.html2025/2/18閲覧

ストーマトラブル対処法 アセスメントと原因【セミナーレポート前編】
ストーマトラブル対処法 アセスメントと原因【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年2月18日
2025年2月18日

ストーマトラブル対処法 アセスメントと原因【セミナーレポート前編】

NsPace(ナースペース)では、2024年11月8日にオンラインセミナー「事例で解説!ストーマトラブル対処法」を開催しました。講師にお迎えしたのは、ながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師の原慎吾さんです。アセスメント方法や装具、アクセサリーの選び方など、トラブル解消のノウハウを教えていただきました。セミナーレポート前編では、アセスメントに必要な知識をまとめます。 ※75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、起業。病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開するほか、ストーマアクセサリーの開発も手がける。2021年には訪問看護ステーションも開業。 ストーマトラブルのアセスメントの重要性 ストーマ装具装着により皮膚トラブルが起きたとき、まずはしっかりアセスメント行い、原因を明らかにすることが重要です。そうしないと、トラブルが再発してしまいます。ストーマ装具装着に関連する皮膚トラブルの主な原因は、以下の4つです。 <皮膚トラブルが起こる4つの原因>原因1:皮膚保護剤によるアレルギー(医学的要因)原因2:細菌や真菌による感染(生理的要因)原因3:排泄物付着によるもの(科学的刺激)原因4:装具の脱着による刺激(物理的刺激) 「原因4」については、面板を無理に剥がすようなケースで起こり得るため、粘着剥離剤を使用したり、面板を丁寧に剥がしたりすることでリスクを軽減できます。ほかの3つについては、それぞれの特徴や対処方法を詳しく見ていきましょう。 原因1:皮膚保護剤によるアレルギー(医学的要因) アレルギーが起きた場合は、今使っているものと似た形状の「他社製の装具」に変更します。同じメーカーだと面板の素材が共通する場合が多いためです。 その上で、アレルギー反応が起きている部分には、ステロイド(ミディアム以下のクラス)を使います。ポイントは、油脂性軟膏ではなくローションタイプの外用剤を選択すること。油脂性軟膏を塗ると、面板が粘着しなくなってしまいます。 2週間ほどステロイドを使っても改善が見られなければ、真菌感染を疑って皮膚科を受診してください。なお、ステロイドより先に抗真菌薬を使ってはいけないことに注意しましょう。抗真菌薬を使うと「肌表面の真菌」がいなくなり、顕微鏡検査や培養で真菌の有無を鑑別することが困難になります。 原因2:細菌や真菌による感染(生理的要因) 皮膚保護剤によるアレルギーが「ストーマ粘膜から全周的に赤くなる(面板を貼っている箇所以外はきれい)」のに対し、細菌や真菌による感染の場合、面板の外を含めて赤い斑点が連続せずに広がります。 この場合は、抗真菌薬(できれば軟膏ではなくローションタイプ)を使います。装具を変更する必要はありません。 なお、医師から「現状の装具の交換頻度よりも高い頻度で抗真菌薬を塗って」と指示されるケースもあります。その場合、皮膚トラブルが解消されるまでは、装具の交換頻度を上げなければならず、粘着力が強い長期交換用の装具を使用すると剥離刺激によって皮膚に大きな負担がかかります。薬剤を塗る期間中は、長期交換用の装具の使用は避けてください。 原因3:排泄物付着によるもの(科学的刺激) 排泄物の刺激で皮膚トラブルが起きた場合は、同じ装具を使用していても改善されないので、他社の装具への変更やアクセサリーの追加によって対処します。 患部の特徴としては、ストーマ粘膜から連続して発赤、びらんが見られます。何らかの原因で、ここに排泄物が触れていると考えられるでしょう。 排泄物の漏れやもぐりこみの原因をアセスメントしつつ、皮膚の改善を図ると、10日間ほどで上の写真のような状態になるはずです。その後、装具の変更を検討してください。発赤やびらんがあり、浸出液が出る状態では、装具をうまく装着できません。 なお、皮膚の改善にあたっては、安易に薬剤を使ってはいけません。肛門周囲によく使われるアズノール軟膏、亜鉛華軟膏などを使うと、皮膚を保護する面板をうまく貼れなくなります。 漏れ・もぐりこみの原因を探る 科学的刺激への対処では、漏れやもぐりこみの原因を探る必要があるとご紹介しました。具体的には、以下のような原因が考えられます。 装具と腹壁の不適合 装具が腹壁の状態に合っていないケースです。ストーマ造設時から長年にわたって同じ装具を使っている方は多くいらっしゃいますが、体型や皮膚の状態は加齢に伴って変化するため、装具の見直しが必要です。 装着時の不適切な手技 軟膏を塗る、洗浄後の濡れた皮膚に面板を貼る、面板を貼ってすぐに体を動かすなどの不適切な手技もトラブルの原因です。 面板には「初期の密着力が弱い」という特徴があります。装着してからしばらくすると体温や汗によって皮膚保護剤が溶けて皮膚のしわに入り込み、12~24時間かけて完全に密着します。そのため、貼った直後に動くと隙間ができて剥がれてしまう可能性があります。貼ってから5〜10分は体を動かさず、面板を温めるように上から手を置くのがベストです。 装具の限界を超えた装着 「もったいない」という考えから、装具を適切なタイミングで交換しないケースもよく見られます。中には「漏れるまで貼っている」という方も。利用者さんの状況を確認し、適切な使用期間で装具交換ができるように導いてください。 なお「漏れのリスク」は、剥がした面板の裏面をチェックするとわかります。 漏れない装具は、裏面のふやけた部分が「きれいな正円」を描いていますが、漏れやすい装具では円がいびつな形になる傾向があります。便の潜り込み具合や膨潤・溶解の程度などは漏れの原因を探る手がかりになるため、面板の裏側を確認する習慣をつけることをおすすめします。 次回は装具やアクセサリーの選び方、ストーマ傍ヘルニアへの対応やストーマトラブルの症例について解説します。 >>後編はこちらストーマトラブル対処法 装具選択とケーススタディ【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2025年2月18日
2025年2月18日

「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回はパーキンソン病について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 敗血症の基礎知識 敗血症とは「感染に対して制御することができない生体反応が起こるために、生命を脅かすさまざまな臓器の機能不全が起こる状態」です。65歳を超えると発生率が年々増加します。敗血症による死亡率は高く、敗血症に関連する臓器不全が1つ増えるごとに、死亡率は約15%増加します1)。 敗血症の症状と注意すべき身体所見 発熱があり、意識はややぼんやりとしていることが多いです。尿失禁や転倒、食欲不振は、高齢者の敗血症においてよくみられる症状です。 敗血症に関連する状態として菌血症があります。菌血症は、一時的に血液に細菌が入った状態(血液培養陽性)です。免疫機能が正常ならば、細菌は排除されます。 一方、敗血症は、菌血症が進行して全身に炎症が広がり、臓器障害を引き起こす状態です。血液培養は必ずしも陽性となりません。菌血症では悪寒戦慄(shaking chills)を伴うことがあります。悪寒戦慄とは、強い寒気を感じ、毛布をかぶっても歯がガチガチと震える状態です。菌血症の相対リスクは12倍に上昇します2)。高齢者の悪寒戦慄では、胆管炎や尿路感染症を第一に考えます3)。 敗血症の最も初期の症状は、頻呼吸(呼吸性アルカローシス)です。呼吸数を確認しましょう。組織環流障害を示唆する症状と身体所見には、意識変容(中枢神経)、尿量減少(腎臓)、網状皮斑や冷感(皮膚)があります4)。 敗血症では、肺炎や腹腔内感染、尿路感染、皮膚軟部組織感染の頻度が高いので、表1の症状に注意して病歴を聴取し、身体所見を確認しましょう。 表1 注意が必要な症状と身体所見 症状身体所見肺炎咳、痰ラ音(crackles)腹腔内感染(胆道感染症、腸閉塞、虫垂炎)腹痛、嘔吐、下痢腹部の圧痛、肝叩打痛、腹膜刺激徴候尿路感染頻尿、排尿時痛、残尿感、腰痛下腹部に圧痛、肋骨脊柱角に叩打痛皮膚感染(褥瘡)発赤、疼痛、膿皮膚びらん、壊死 「昨日元気で今日ショック 皮疹があれば儲けもの」、これは感染症診療の第一人者である青木眞先生の言葉です。元気だった人が、急にショック状態となることがあります。この場合、皮疹が認められれば次の疾患を疑います。 ● トキシックショック症候群(toxic shock syndrome:TSS)● 髄膜炎菌感染症● リケッチア感染症(ツツガムシ病、日本紅斑熱)● 脾臓がない人の肺炎球菌/インフルエンザ桿菌/髄膜炎菌/Capnocytophaga感染症● 肝臓が悪い人のVibrio vulnificus/Aeromonas hydrophila感染症● 黄色ブドウ球菌などによる急性感染性心内膜炎● 劇症型Clostridium perfringens感染症 診断 敗血症の診断基準として、quick SOFA(quick sepsis-related organ failure assessment:qSOFA、クイックソファもしくはキューソファと呼ぶ)を確認します。 qSOFA (1)呼吸数≧22回/分(2)精神状態の変化(3)収縮期血圧≦100mmHg2つ以上を満たす場合に敗血症を疑う(予想死亡率10%以上) 呼吸数は、橈骨動脈を触れて、脈拍を測定するふりをしながら、患者さんに気がつかれないように30秒間計測し、その結果を2倍にして求めます。時計がないときは、患者さんの呼吸をまねて、自分の呼吸より速いか確かめます。 最新トピックス2021年の敗血症ガイドラインでは、敗血症または敗血症性ショックの評価にqSOFAスコアを使用しないことを推奨しています。National Early Warning Score(NEWS)、全身性炎症反応症候群(SIRS)、Modified Early Warning Score(MEWS)などの他のスコアリングシステムは、院内死亡やICU入院の予測においてqSOFAよりも優れています5)。 研究により、qSOFAは特異度は高いのですが、感度が低いことが示されています。すなわち、qSOFA陽性であれば敗血症が疑われますが、陰性であっても必ずしも敗血症ではないとはいえないことに注意が必要です。 訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント 意識レベル、発熱、悪寒戦慄、血圧、呼吸数を確認します。 既往歴(例えば、糖尿病や血液透析、がん)や薬剤歴(例えば、ステロイドや抗がん剤)を確認し、免疫不全状態がどうかを判断します。 症状や身体所見から、どこが感染巣なのかを推測します。 治療 敗血症が疑われる場合、迅速に治療を行わなければ患者の予後が悪くなります。病院での精査治療が必要になるので、訪問看護師としては敗血症の可能性を探り、主治医とすぐに連絡をとります。可能ならば末梢ルートを確保し、生理食塩液の点滴をしながら、早急に病院に救急搬送することが大切です。病院で行われる治療(敗血症の1時間バンドル)について要点を解説します。 敗血症の1時間バンドル 乳酸値が2mmol/L以上に上昇している場合は、改善を確認するために2~4時間以内に再検査します。 抗菌薬治療を開始する前に、2セットの血液培養を採取します。 広域スペクトルの抗菌薬を1時間以内に投与します。最も一般的な病原体は、グラム陰性菌(大腸菌、クレブシエラ属)、またはグラム陽性菌(黄色ブドウ球菌、肺炎球菌)です。  低血圧、または乳酸値>4mmol/Lなら生理食塩液または乳酸リンゲル液を30mL/kgで投与します3)。 十分な輸液にもかかわらず、平均動脈圧*を65mmHg以上に維持できなければ、血管収縮薬(ノルアドレナリン)を使用します。 *平均動脈圧=(収縮期血圧―拡張期血圧)÷3+拡張期血圧 ●菌血症を疑う症状は悪寒戦慄です。●qSOFAで(1)呼吸数≧22回/分、(2)精神状態の変化、(3)収縮期血圧≦100mmHgのうち、2つ以上を満たす場合に、敗血症を疑います。●敗血症の原因となる感染症で多いのは、肺炎、腹腔内感染、尿路感染、皮膚軟部組織感染です。 執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Chick D,ed:Sepsis.MKSAP 19 Pulmonary and Critical Care Medicine, American College of Physicians,2022:77-80.2)Tokuda Y,Miyasato H,Stein GH,et al:The degree of chills for risk of bacteremia in acute febrile illness.Am J Med 2005;118(12):1417.3)坂本壮:救急外来ただいま診断中!第2版.中外医学社,東京,2024:136-172.4)塩尻俊明監修,杉田陽一郎著:研修医のための内科診療ことはじめ.羊土社,東京,2022:21-24.5)Evans L,Rhodes A,Alhazzani W,et al:The Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021.Intensive Care Med 2021;47(11):1181-1247.

訪問看護師がぎっくり腰になったときどうする?対処法や予防、現場での工夫
訪問看護師がぎっくり腰になったときどうする?対処法や予防、現場での工夫
特集
2025年2月18日
2025年2月18日

訪問看護師がぎっくり腰になったときどうする?対処法や予防、現場での工夫

ぎっくり腰は突然襲ってくる急性腰痛で、日常生活に大きな影響を与えます。特に訪問看護師のように身体的負担の多い職場では、そのリスクが常に付きまといます。本記事では、ぎっくり腰の症状と対処法、訪問看護師が直面する課題、さらに予防策としての「体作り」や「ノーリフティングケア」の重要性について解説します。 ぎっくり腰の症状 ぎっくり腰は医学的には「急性腰痛症」と呼ばれ、急激に発症する腰痛のことを指します。突然の激しい痛みが特徴で、ときには動けなくなるほどの痛みが生じることも。痛みが起きる範囲は主に腰から臀部(お尻)で、場合によっては脚にまで痛みが広がる場合もあります。 ぎっくり腰が起きる主なきっかけは、物を持ち上げようとする、腰をねじるなどの動作ですが、朝起きた直後や特に何もしていないときに発症することも少なくありません。 痛みの原因は多岐にわたりますが、以下の2つが主な原因であることが多いでしょう。 腰の関節や椎間板に過剰な力が加わったことによる損傷(捻挫や椎間板損傷) 腰を支える筋肉や靱帯などの軟部組織の損傷 ぎっくり腰になったときの対処法 ぎっくり腰になったときは、次のように対処しましょう。 安静にする ぎっくり腰になった際には、無理に動かず、痛みを軽減できる姿勢を見つけることが重要です。膝を少し曲げて、仰向けや横に寝る体勢、クッションや毛布を使って腰を支える姿勢で安静に過ごしましょう。 冷やす 発症直後は患部が炎症を起こしている可能性があるため、冷却が効果的です。冷却パックや冷湿布を使用して冷やします。冷却パックの場合、直接肌に触れないようタオルなどで包むことが大切です。また、冷やしすぎは血流障害を引き起こすリスクがあるため、十分に冷やしたらやめましょう。 医師の診察を受ける ぎっくり腰が続いたり、特定の症状がみられたりする場合には、専門医に相談することが重要です。以下のようなケースでは、早めの受診が推奨されます。 何度もぎっくり腰を繰り返す、またはなかなか治らない再発を繰り返す場合は、姿勢や筋力の問題、または別の疾患が原因となっている可能性があります。安静にしても腰痛が回復せず、むしろ悪化している場合、圧迫骨折や炎症性疾患など、通常のぎっくり腰ではない可能性があるでしょう。 下肢に痛みやしびれがある腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などにより、神経が圧迫されている可能性があります。特徴として、腰部脊柱管狭窄症では歩いていると足に痛みやしびれが生じて歩けなくなる間歇性跛行※(かんけつせいはこう)がみられます。どちらも症状が悪化し、下肢痛による歩行障害が進行する、日常に支障が出る、排便・排尿障害が出現する、といった場合は手術が検討されます。 ※間歇性跛行とは、歩行などで下肢に負荷をかけると下肢の疼痛・しびれ・冷えを感じ、一時休息することにより症状が軽減し再び運動が可能となること。 発熱、嘔吐、血尿、排尿時痛などの症状がある感染症や内臓疾患などが関連している可能性があります。例えば、解離性大動脈瘤などの血管の病気、尿管結石などの泌尿器の病気、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科の病気、胆嚢炎や十二指腸潰瘍などの消化器の病気などが考えられます。 訪問看護師の仕事はぎっくり腰と隣り合わせ 訪問看護では、利用者の住環境や希望により、家具や設備の配置の変更が難しい場合もあります。このため、看護師が無理な体勢で作業をすることになり、ぎっくり腰のリスクが高まります。特にトイレへの移乗や入浴介助など身体的負担の大きい場面では、看護師同士でその状況について共有し、以下のような視点から対応を検討しましょう。 倫理的観点……利用者の尊厳や希望を尊重する医療的観点……安全性と効率を兼ね備えた方法を選択する 看護師が、責任感や共感などによって無理をして体を壊してしまうことがないよう、チームで意見を出し合い、多様な視点を取り入れて適切な対応を決める必要があります。訪問看護の現場では、看護師自身の健康を守ることも、質の高いケアを提供するために欠かせない要素です。 訪問看護でぎっくり腰を予防するためのポイント 訪問看護でぎっくり腰を予防するために、下記の2点を押さえましょう。 ぎっくり腰が起こりにくい体作りをする ノーリフティングケアを行う それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。 ぎっくり腰が起こりにくい体作りをする ぎっくり腰の決定的な予防策はありませんが、日々の生活習慣を改善することでリスクを軽減できます。腰痛の多くは、運動不足や長時間のデスクワークといった生活の中で負担が積み重なり、腰や背中、肩の筋肉が硬直することで発症しやすくなります。 正しい姿勢を意識し、肩や背中の緊張をほぐすストレッチを取り入れることが大切です。また、ウォーキングをはじめとした適度な運動を習慣化し、筋肉や関節の柔軟性を保ちましょう。ストレッチングを中心としたエクササイズにより、筋肉の柔軟性を高めるとともに、血流が良い状態へ導くことができます。中央労働災害防止協会「運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」では、腰痛予防エクササイズが紹介されています。「運送業務で働く人」以外にも役立つ内容のため、チェックしてみましょう。 >>関連記事看護師のボディメカニクスについては、こちらも参考にしてください。訪問看護師のためのリハビリ知識 実践ノウハウ編【セミナーレポート後編】 ノーリフティングケアを行う ノーリフティングケアとは、介護者が利用者を「抱えたり持ち上げたりしないケア」を意味し、介護用リフトやボードなどの福祉用具を活用して移動や移乗を行うケア方法です。介護者の腰痛予防と身体的負担を軽減し、利用者の安全性と快適さを向上させることを目的としています。単に福祉用具を使用するだけでなく、利用者の自立支援という目的を損なわず、双方にとって「安全」「安心」「安楽(負担軽減)」を実現することが求められます。 ノーリフティングケアでは、「押す」「引く」「持ち上げる」「ねじる」「運ぶ」といった人力のみで行う介助を禁止しています。これに加えて、摩擦や抵抗を軽減する工夫が重要とされており、福祉用具の一例としてスライディングシートやボードを利用した移乗方法が推奨されています。 ベッド上での上方移動にはスライディングシートを、車椅子への移乗にはスライディングボードを使用することで、介助に伴う摩擦や筋緊張を最小限に抑えることが可能です。 介護用リフトの場合は、人の腕よりも広い面積で身体を支えるため安定感があり、筋緊張を緩和させ、リフト活用そのものがリハビリにもなります。また身体の緊張が和らぐことで拘縮予防も期待できます。皮膚が脆い高齢者の場合、力任せのケアでは、介護者がどれだけ注意していても、強い力によって痣ができたり、表皮剥離を引き起こしたりするリスクも。ノーリフティングケアは、こうした事故の防止にもつながります。 資源が限られる現場では福祉用具を使用できない場合もありますが、できるだけ不自然な姿勢を避け、腰痛のリスクを減らす工夫をしましょう。特に、長時間の立ちっぱなしや座りっぱなし、前屈や後屈ねん転などの姿勢は、腰痛の原因となりやすいため注意が必要です。 >>関連記事ノーリフティングケアについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。知っておきたいノーリフティングケア 看護師の腰痛予防や利用者の拘縮緩和も * * * 看護師が安全かつ快適に働ける環境を整えることで、利用者と自身の双方にとってより良いケアが実現します。ぎっくり腰は適切な対応と予防でそのリスクを最小限に抑えられるため、ぜひ今回紹介した対策を日々の業務に取り入れてみてください。 編集・執筆:加藤 良大監修:川上 洋平(かわかみ ようへい)医師・医学博士・整形外科専門医神戸大学医学部卒業。米国ピッツバーグ大学留学、膝スポーツ疾患や再生医療を学び、神戸大学病院、新須磨病院勤務を経て、患者さんにやさしく分かりやすい医療を提供することを目的に、かわかみ整形外科クリニックを開業。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医。専門は膝関節外科、スポーツ障害、再生医療。かわかみ整形外科クリニック(https://kawakamiseikei.jp/)。 【参考】〇日本整形外科学会「ぎっくり腰」https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/acute_low_back.html2025/2/12閲覧〇厚生労働省「医療保健業の労働災害防止(看護従事者の腰痛予防対策)(看護従事者の腰痛予防対策)」https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000564054.pdf2025/2/12閲覧〇厚生労働省「運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000041115_3.pdf2025/2/12閲覧

【2月4日up】足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】
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2025年2月4日
2025年2月4日

足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】

2024年10月25日に開催したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~」。在宅でのフットケアにも尽力している倉敷市立市民病院 形成外科医長 小山晃子先生に、訪問看護で役立つ足病変の知識やケアのノウハウを解説いただきました。セミナーレポート後編では、具体的なフットケアの方法を紹介します。 ※約80分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】 【講師】小山 晃子先生倉敷市立市民病院 形成外科 医長平成16年に高知大学を卒業し、倉敷市立児島市民病院にて臨床初期研修を修了。平成18年から川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科にて、褥瘡・創傷治癒を学ぶ。平成24年より現職。入院・外来・在宅で医療を提供しながら、医療者や介護者、市民を対象としたセミナーも行い、褥瘡・フットケアの「ミカタ」を増やすべく活動している。 圧迫による鶏眼や胼胝を防ぐフットケア 鶏眼(魚の目)や胼胝(タコ)は、潰瘍につながる恐れがあるため、フットケアでの予防が大切です。鶏眼や胼胝は、皮膚に角質が「くさび」のように突き刺さってできており、踏み続けると皮膚が破れる可能性があります。なお、鶏眼や胼胝にできた黒い点は、赤血球の色によるもの。すでに出血しているので、早急な対応が必要です。 具体的には、専門外来に相談し、適切なフットウェア・履物を選びましょう。着用して実際に歩き、鶏眼や胼胝がある箇所に圧がかかっていないことを確認してください。 足病変がある利用者さんの中には神経障害がある方も多く、潰瘍に気づかないケースもあります。ぜひみなさんの目と手で、圧迫もケアしてください。 【ケアのための知識】爪の構造 爪切りを含むフットケアをするにあたっては、爪の構造理解や名称を押さえておくことも大切です。 爪母(そうぼ) 爪をつくる「工場」のような組織で、断面図で見ると爪の根っこにあります。爪母でつくられた爪が、「爪床」と呼ばれるベルトコンベアのような皮下組織によって前に送り出され、次に説明する「爪甲」ができあがります。つまり、根本に近い部分は最近できた爪で、爪先の爪は1〜1年半前に生まれた爪です。 爪甲(そうこう) 爪の甲。爪周辺の皮膚の中にも埋まっており、ケアする際は「見えない部分にも爪甲がある」ことをイメージする必要があります。 爪郭(そうかく) 爪の縁の皮膚。両横を「側爪郭(そくそうかく)」、根本を「後爪郭(こうそうかく)」といいます。治療で使われる言葉なので、知っておいてください。 【ケアのための知識】爪の役割と変形の原因 爪は歩行を支える役割を担っています。歩く際に地面から受ける圧力を爪甲が受け止めることで、正常に歩行できるのです。 しかし、「歩かなくなる(爪に圧がかからなくなる)」と、爪甲は次第に縦にも横にも湾曲。あまり歩けなくなった方の爪が曲がるのはこのためです。 また、爪先を踏みしめて歩けていない場合も、爪に力が加わらず、同じように湾曲します。その場合、足の母趾裏にタコができるのが特徴です(左下写真参照)。 このように爪が湾曲し、「巻き爪」「陥入爪」になってしまうと、爪が非常に切りにくくなります。指先を踏んで歩く、もしくは同様の圧がかかるような運動を行うなどして、日頃から予防に努めましょう。 ただし、湾曲の程度が深刻な場合(右下図参照)は圧をかけると爪がホチキスの針を畳むように食い込んでしまうので、可能な範囲で爪切りをしつつ、病院に相談してください。そのほか、 外反母趾がある 立ち上がることができない 痛みや傷がある といった場合も、病院の受診が必要になります。 正しい爪の切り方 爪を切る際は、上の写真の姿勢で行ってください。使用する爪切りは、力が伝わりやすいバネつきのもの、爪をしっかりとキャッチする「のこぎり刃」のものがおすすめです。 爪を切る際は、あらかじめ目安となる線を引き、少しずつ小分けにして切り進め、線のところまで切りましょう。上の写真の場合、20回ほど刃を当てて切るイメージです。 湾曲した爪も、ご紹介した爪切りで少しずつ切ると、写真のように整えられます。また、湾曲に爪切りを沿わせるようにすると、痛みを抑えられます。 在宅における取り組み 在宅でのフットケアに長く取り組む中で、すべてのケースで「足病の完全な解消」を目指すのは難しく、「現状維持」を選ばざるを得ない利用者さんもいらっしゃると感じています。ただ、治療の目標に関係なく、ケアを続けることは必要です。 今後は、すべての方に継続的にケアを提供できる体制づくり、例えば「病院と在宅・施設との連携強化」が重要になると考えています。その一歩として、本セミナーでお伝えした内容が、みなさんの日頃の看護に少しでも役に立ち、「利用者さんの味方」として良質なケアを実践するヒントになれば幸いです。 * * * 足病ケアの質を向上するためには、病院や診療所と在宅医療を提供する方々がしっかりと連携し、チーム医療を実現することが欠かせないと感じています。訪問看護師さんの中には、今フットケアについて悩んでいる方も多いでしょう。そんなときは、ぜひ病院に相談してください。近年、スマートフォンやタブレットを利用することで、時間や場所に依存せず情報を共有できるようになりました。特に「見方」を共有する上で、画像の共有は大変重要です。在宅の患者さんと医師との間をつなぐ訪問看護師さんの、強力な「味方」を活用くださいね。 これからの時代、足病の利用者さんを助けるには、訪問看護師さんの存在が絶対に必要です。よりよい未来に向けて、みなさんと連携していければと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

「褥瘡の評価とケアの実践」 対面実技セミナーレポート(12/7開催)
「褥瘡の評価とケアの実践」 対面実技セミナーレポート(12/7開催)
特集
2025年2月4日
2025年2月4日

「褥瘡の評価とケアの実践」 対面実技セミナーレポート(12/7開催)

2024年12月7日(土)に、帝人株式会社の東京本社にてNsPace主催の対面セミナー「褥瘡の評価とケアの実践」を開催しました。ご登壇いただいたのは、皮膚・排泄ケア認定看護師で、教育支援やコンサルティングのトップランナーとして活躍する岡部美保さん。デモンストレーションを交えた実践的なケア方法のレクチャーはもちろん、現場における不安や疑問解決につながる知識やリアルなテクニックを幅広くご講義いただきました。約4時間にわたるセミナーの様子をダイジェストでお届けします。 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師 在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に「在宅創傷スキンケアステーション」を開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 褥瘡の評価やケア方法のイロハを復習 まずは講義形式での学習。参加者の皆さんには、以下のセミナーレポートをあらかじめお読みいただいた上で受講いただきました。 過去に岡部さんにご登壇いただいたオンラインセミナーのレポート記事 写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編 写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編 治りにくい褥瘡ケア~低栄養への対応と基本指針~【セミナーレポート前編】 治りにくい褥瘡ケア~代表例と具体的なケア~【セミナーレポート後編】 講義では、褥瘡の定義や原因はもちろん、褥瘡状態の評価スケール「DESIGN-R(※)2020」について解説。特に評価に迷いやすい「G:肉芽組織」や「N:壊死組織」といった項目を評価する際のポイントや、外用薬・創傷被覆材選びの指標などを教えていただきました。「不良肉芽と壊死組織の見分けに悩む」「良性肉芽か不良肉芽か判断しにくい」といった不安に対しても、組織の硬さや色合い、見た目など、評価の具体的なポイントを解説いただき、参加者の皆さんは熱心にメモを取っていました。 褥瘡ケアにおいて重要な外用薬については、薬効成分だけでなく「基材」を考慮することも重要。また、創傷被覆材は「被覆材の大きさ、厚さ、吸水量などの特徴を理解した上で、創傷の状態に応じて選ぶこと」が基本とのこと。過去に開催されたオンラインセミナーの復習だけに留まらず、プラスαの知識も得られる贅沢な内容となりました。 より実践的な知識も解説された座学の時間 チームに分かれて症例の評価やケアを検討 座学の後は4人1組に分かれ、症例検討会が実施されました。【症例検討会の流れ】 具体的な症例に対する評価とケア方法を検討 創傷模型にケアを実施 上記の内容と理由を発表 岡部先生による解説 参加者には、療養者の資料や創傷模型、ケア用品などが配布され、まずはDESIGN-R2020を使った褥瘡の評価からスタート。「深さ(Depth)はd2(真皮までの損傷)かD3(皮下組織までの損傷)のあたりでしょうか」「サイズ計算は私が担当しますね」「壊死組織(Necrotic tissue)とポケット(Pocket)はないので、NとPは0点で良さそうですね」などと意見を交わし、お互いに協力し合いながら進めていきました。 外用薬は講義資料を参考に選定。講師の岡部さんから「外用薬は評価スケールの大文字に着目して、改善するための優先順位を考えながら選んでみましょう」といったヒントがあると、「やはりヨウ素系の外用薬ですよね」などとケア方法を確かめ合っていました。 評価スケールをもとに真剣にケア方法を協議 創傷模型を使ったケアの実践では、創傷被覆材やテープの厚さや大きさ、貼る位置を確かめながら丁寧に進めていました。「外用薬はこのくらいの量をガーゼに塗ってから貼るのが良さそう」「仙骨部の褥瘡の場合、肛門側は八の字貼りが良いのではないか」など、議論が活発に行われていました。 外用薬の塗り方や創傷被覆材の貼り方も検討 褥瘡の状態評価とケアが終わると、いよいよ発表の時間です。DESIGN-R2020の点数をはじめ、外用薬の選定理由やケアのポイントが各チームから発表されました。どの参加者も真剣に聞き入り、発表が終わると拍手が起きていました。 その後、岡部さんが評価とケア方法を解説。チームによって個性が出ていましたが、岡部さんの評価と大きくずれることはなく、外用薬の分類も岡部さんの選んだものと一致。 各チームの発表も先生の解説も真剣そのもの 前半の講義が活かしつつ、具体的な症例をもとに評価・ケア方法を検討し、ディスカッションすることで、褥瘡に対する学びをさらに深めていきました。 気づきの多いデモンストレーション 最後は岡部さんによるデモンストレーション。褥瘡周囲皮膚の洗浄や拭き方、外用薬の塗り方や創傷被覆材の当て方など、一連のケア方法を見せていただきました。 「洗浄料は何プッシュくらいすると思いますか?」という質問からスタートした実演は、いきなり参加者を驚かせる展開に。岡部さんは10プッシュ以上の泡を手に取り、多くの参加者が「泡はこんなに山盛りでいいんだ!」「こんなに使っていなかった!」などの声があがりました。また、ポケットがある方の洗浄方法やカテーテルの使い方、拭き方のコツまで丁寧にレクチャー。 食い入るように先生の手元を見つめる参加者の皆さん 外用薬の塗り方や量、臀裂部のケア方法、ワセリンの塗り方、患部を観察する際の注意点なども伝えられました。 参加者からは「褥瘡は治癒傾向なのに対し、ポケットが縮小しない場合のケア方法は?」「高機能な創傷被覆材を使用したいが、購入していただくのが難しい場合はどうすれば良いか」「褥瘡を繰り返している方で、皮膚に盛り上がりや凹凸がある場合のケア方法は?」などの具体的な質問が寄せられ、訪問看護現場での褥瘡処置に対する真剣な姿勢が感じられました。 参加者からの質問にも丁寧に回答する岡部さん 現場の「リアル」を語り合った懇親会 セミナー終了後は、懇親会も開催。参加者の皆さんから「状態にあった外用薬を処方してもらうには、担当医に対してどのように報告・相談したらよいか」「創傷被覆材を代用する場合、どのようなものが使用できるか」など、質問も多く挙がっていました。 NsPaceの「N」マークを作って記念撮影も ◆参加者の感想「DESIGN-R2020の重要性を改めて認識しました。セミナーを通して各項目の評価のポイントを学ぶことができて良かったです。これまで良性肉芽か不良肉芽か迷うことがあったのですが、具体的な判断の目安も知れたので、現場ですぐに活かせそうです」「この秋に新たに事業所を立ち上げて、管理や教育が必要な立場になったのでセミナーに参加しました。評価やケア方法を再確認する良い機会になったので、今日のセミナーを参考に、事業所の看護の質向上に努めたいです」 そのほかにも、「受講前は評価方法や外用薬の選定基準が曖昧でしたが、受講してみて不安が解決しました」「知識を得たことで、今後は根拠をもとに自信を持ってケアを実践できそう」といった声も聞かれました。 ◆講師 岡部さん コメント「普段から訪問看護の現場で褥瘡ケアを実践されている方々にご参加いただいたので、評価もケア方法の検討も非常に的確で、皆さまの日頃の看護風景が目に浮かぶようでした。肉芽組織や壊死組織の見分け方、炎症の有無など、参加者の皆さんが評価に悩まれているシーンもありましたが、評価スケールを日常的に使用することで、自身の評価の精度が向上します。ぜひケア方法を検討する指標としても、苦手意識を持たずに評価スケール を活用していただければと思います。また、私は今後、褥瘡の患者さんは増えていくと想定しています。看護の質を保ち、さまざまな職種がチームとなって、褥瘡に悩む患者さんを少しでも減らしていけると良いですね」 * * * NsPaceでは、月に1回程度、オンラインセミナーも開催しています。ぜひ学びの場をご活用ください。 ※ DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。 取材・執筆・編集:高橋 佳代子

アレルギー性鼻炎の種類&原因|訪問看護の場での対応方法・予防法
アレルギー性鼻炎の種類&原因|訪問看護の場での対応方法・予防法
特集
2025年2月4日
2025年2月4日

アレルギー性鼻炎の種類&原因|訪問看護の場での対応方法・予防法

くしゃみ、鼻水、鼻詰まりといった症状により生活の質が低下するアレルギー性鼻炎は、通年性や季節性などが存在し、原因には住環境や食生活の変化、大気汚染などがあります。 訪問看護では、利用者さんの生活環境や習慣を踏まえた柔軟な対応が求められます。この記事では、アレルギー性鼻炎の種類や原因、対処法からケア方法まで解説します。本記事で解説する内容を、ご自身の健康管理や、利用者さんとそのご家族のアセスメントに役立ててください。 アレルギー性鼻炎の症状 アレルギー性鼻炎では、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりといった症状が見られます。 くしゃみ回数が多く連続して起こりやすいことが特徴です。 鼻水風邪のときのように粘り気はなく、無色透明でサラサラとしている傾向にあります。 鼻詰まり鼻粘膜の腫れによって起こります。 こうした症状が長引くと、 頻繁に鼻をかむことで粘膜が傷ついて鼻出血を起こす 集中力が低下する 睡眠不足になる イライラする といった症状も現れ、生活の質が著しく低下することもあるでしょう。 また、通常は鼻で呼吸をすると外気が鼻の中で適度に加湿され、体内に取り込まれます。しかし、鼻詰まりによって口呼吸になると、乾燥した空気がそのまま体内に入り、感染リスクも高まります。 アレルギー性鼻炎の種類 アレルギー性鼻炎は、アレルゲン(抗原:アレルギーの原因物質)が鼻粘膜から侵入しマスト細胞上のIgE抗体に結合することによって症状が引き起こされる抗原抗体反応(I型アレルギー)の一種です。これには、大きく分けて2種類あります。 ひとつは、ダニやホコリといったアレルゲンが原因となり、1年を通して症状が現れる「通年性アレルギー性鼻炎」です。もうひとつは、スギやヒノキなどの花粉が原因となり、花粉の飛散する時期に限定して症状が現れる「季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)」です。いずれのタイプでも、くしゃみ、透明で水っぽい鼻水、鼻詰まりといった症状が現れます。 なお、寒暖差によって引き起こされる「血管運動性鼻炎」と呼ばれるタイプもありますが、これは非アレルギー性の鼻炎です。 アレルギー性鼻炎の環境要因 アレルギー性鼻炎を発症しやすい環境要因を見ていきましょう。 住環境 現代の住宅は気密性が高いため、換気が不十分な状態が続くと、ダニやハウスダストといったアレルゲンが室内に溜まりやすくなります。さらに、高気密・高断熱住宅では梅雨時に室内の湿度が上がりやすく、アレルゲンとなるカビの発生を引き起こす要因に。そのため十分に換気をする、除湿機を使用するなど、室内の風通しをよくして適切な湿度を維持することが大切です。湿度が60%を超えると、カビやダニが発生しやすくなり、アレルギー性鼻炎をはじめとしたアレルギー疾患の原因となりますので、湿度の目安は60%以下とします。 また、現代社会では、単身世帯や共働き世帯が増え、掃除をする時間が限られている家庭も多くなっています。特に人が頻繁に行き来する廊下や洗面所などでは、目に見えないハウスダストが蓄積します。これらの場所を定期的に掃除し、アレルゲンを減らすことが重要です。また、観葉植物の葉や照明器具のカバー、天井などもハウスダストが溜まりやすいためこまめにチェックするようにしましょう。 食生活の変化 加工食品や添加物を多く含む現代の食生活が免疫バランスを崩し、アレルギー反応を引き起こしやすい体質を作るとされています。 排気ガス・PM2.5など 排気ガスやPM2.5などの大気汚染物質も、アレルギー性鼻炎を悪化させる要因です。特に都市部では、自動車の排気ガスや微細な粒子状物質が鼻の粘膜に炎症を引き起こし、症状を増悪させることがあります。 アレルギー性鼻炎による鼻詰まりの対処法 自宅では、生理食塩水や市販の鼻腔洗浄キットを使った鼻腔洗浄が有効で、アレルゲンの除去や粘膜の清潔を保つことができます。また、加湿器の使用や濡れタオルを部屋に干すことで部屋の湿度を保ち、鼻粘膜の乾燥を防ぐことも大切です。ただし、加湿器の水槽やフィルター、濡れタオルはカビの発生源となる可能性が高いため、加湿器は定期的に清掃し、部屋に干す濡れタオルも清潔なものにこまめに交換するなど、カビを防ぐための対策を欠かさずに行いましょう。 住環境の改善や生活習慣の見直しも、症状の軽減に大きな役割を果たします。しかし、現実には住環境を理想的に整えることが難しいケースも多いため、「できる限り改善に努める」という柔軟な姿勢が重要です。たとえば、部屋の掃除や換気を定期的に行うだけでも、ハウスダストやダニなどのアレルゲンを減らすことができます。また、カーテンや布団など、アレルゲンが溜まりやすい箇所の洗濯頻度を増やすよう伝えるのも良いでしょう。 そのほか、外出時にマスクを着用して花粉やホコリの吸入を防止したり、帰宅後に衣服をすぐに着替えてシャワーを浴びることでアレルゲンの付着を最小限に抑えたりなど、利用者さんの状況や状態に応じて対応策を検討してください。 アレルギー性鼻炎の治療法 症状がひどく改善しない場合は、医療機関での治療が必要です。アレルギー性鼻炎の治療法には、薬物療法とアレルゲン免疫療法、手術療法があります。 薬物療法抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬、鼻噴霧用ステロイド薬や経口ステロイド薬、点鼻用血管収縮薬などを処方します。 アレルゲン免疫療法アレルゲンを少量から徐々に増量して体内に取り込むことで、アレルゲンに対する体の過剰な反応を抑える治療法です。この治療法は、数年以上の期間が必要で、根気強く続けることが求められますが、薬物療法の副作用で治療の継続が困難だったり、薬物療法だけでは症状が十分に改善しなかったりする場合に選択されます。 手術療法鼻の粘膜をレーザーで凝固しアレルギー反応が鼻粘膜でおきにくくする下鼻甲介粘膜焼灼術や鼻腔の形を整えて鼻詰まりを改善する粘膜下下鼻甲介骨切除術、鼻漏改善やくしゃみ軽減のための後鼻神経切断術などがあります。 日常での鼻詰まり解消法 日常生活での鼻詰まり解消には、簡単に取り入れられる方法がいくつかあります。入浴することで体が温まり、血行が促進されるため、鼻詰まりの改善が期待できます。お湯から立ち上る蒸気が鼻の奥まで届き、鼻粘膜を潤してくれる効果もあります。また、蒸しタオルを鼻に当てる方法もおすすめです。タオルをお湯で濡らして絞り、鼻周辺に軽く当てると血流が良くなり、鼻詰まりを和らげる効果が期待できます。 子どもの鼻詰まりは、自分で鼻を上手にかむことができない場合、症状が悪化しやすいです。鼻水吸引器を使って鼻水を吸引することで、鼻詰まりを軽減させることができます。吸引器は電動タイプや手動タイプなどさまざまな種類があります。 快適な睡眠の工夫 上半身を高くして寝ることで、重力の影響で鼻の通りが良くなり、鼻詰まりが軽減されます。枕を少し高くしたり、リクライニングできるベッドを活用したりしましょう。 また、上述したように乾燥による鼻粘膜の刺激を防ぐためには、部屋の湿度を保つことが大切です。さらに、マスクをつけると、鼻周辺の湿度が保たれ、鼻の乾燥を防ぐと同時に外気の冷たさを和らげることにもつながります。 * * * アレルギー性鼻炎は、症状の辛さが日常生活に大きな影響を及ぼしますが、適切な治療や住環境の改善などによって、その負担を軽減することが可能です。訪問看護では、利用者さんの生活環境に合わせた提案やケアが重要です。今回紹介した対処法や予防策を活用し、アレルギー性鼻炎の悩み解消をサポートしましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:瀬尾 達(せお わたる)医療法人瀬尾記念会瀬尾クリニック理事長。耳鼻咽喉科専門医。クリニックでの診療の他、京都大学医学部講師や大阪歯科大学講師を兼任。祖父から代々の耳鼻科医の家系。兄は、聖マリアンナ医科大学耳鼻科教授。テレビやマスコミ出演多数。 【参考】〇東京都福祉保健局.「健康・快適居住環境の指針― 健康を支える快適な住まいを目指して ―」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/web_zenbun12025/1/30閲覧〇東京都福祉保健局「健康・快適居住環境の指針」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/web_arerugen_taisaku_kenkai_sisin2025/1/30閲覧〇日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会「アレルギー性鼻炎ガイド2021年版」http://www.jiaio.umin.jp/common/pdf/guide_allergy2021.pdf2025/1/30閲覧

足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】
足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年1月28日
2025年1月28日

足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】

2024年10月25日、NsPace(ナースペース)オンラインセミナー「足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~」を開催しました。講師にお迎えしたのは、在宅でのフットケアにも尽力されている小山晃子先生。訪問看護師が知っておきたい足病変とそのアセスメント、ケアの知識を、たくさんの症例とともに教えていただきました。セミナーレポートの前編では、足病変のアセスメントに必要な知識をまとめます。 ※約80分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】小山 晃子先生倉敷市立市民病院 形成外科 医長平成16年に高知大学を卒業し、倉敷市立児島市民病院にて臨床初期研修を修了。平成18年から川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科にて、褥瘡・創傷治癒を学ぶ。平成24年より現職。入院・外来・在宅で医療を提供しながら、医療者や介護者、市民を対象としたセミナーも行い、褥瘡・フットケアの「ミカタ」を増やすべく活動している。 訪問看護師さんに伝えたい足の「ミカタ」 本セミナーでは、フットケアをするにあたり「何を見て、どう考えて、どう行動したらよいか」、つまり足の「ミカタ(見方)」をお伝えします。あえてカタカナ表記にしているのは、「味方」の意味も込めているからです。みなさんには「利用者さんの味方になる」という姿勢でケアをしてほしいと考えています。 また、多職種との連携において重要なのは、言葉や考え方の統一。そして、利用者さんを中心に据えた共通の未来像を描くことです。在宅と病院の連携においても、同じ「ミカタ」で物事を捉え、同じ言葉で情報を伝え合うことで、共に利用者さんを支えてもらえたらと思います。 足病の定義と捉え方のポイント 最初に、「足病のミカタ」をご紹介しましょう。「重症化予防のための足病診療ガイドライン」では、足病を以下の7つに分けて定義しています。 糖尿病性足病変 → 血流・感染・圧迫 末梢動脈疾患(PAD) → 血流 慢性静脈不全症 → 血流・感染 慢性腎不全に伴う足病変 → 血流・感染 下肢リンパ浮腫 → 血流・感染 膠原病による足病変 → 血流 神経性疾患による足病変 → 圧迫 一見難しく感じるかもしれませんが、矢印右側の「血流」「感染」「圧迫」という3つの切り口で考えると、それぞれの問題や必要な対応を捉えやすくなるはず。私はこの3つの切り口を、「足病の3つのミカタ」と呼んでいます。 足を洗う前に必ず確認すべき「血流」 「足病の3つのミカタ」のうち、特に訪問看護師の方々に注目してほしいのが「血流」です。 ここでひとつ質問があります。みなさんはフットケアにあたり、利用者さんの足を洗いますか? 洗いませんか? その回答をふまえて、以下のケースをご覧ください。 [ケース1]糖尿病を患い、神経障害があるために足の状態が悪いことに気づいていない利用者さん。足を洗うと、皮膚が破れていた箇所に新しい皮膚が形成され、6週間後には傷が治りました。創傷処置もしましたが、足を清潔に保つことで治癒が促進されています。 [ケース2]糖尿病で足の一部が黒くなっている利用者さん。足を洗ったところ、感染が一気に進み、足の広範囲が壊死してしまいました。 ケース2で状態が悪化した理由は、「血流障害があり、傷を伴う足」だったためです。こうした状態の足を漫然と洗ってはいけません。 特に糖尿病性の足潰瘍は、血流障害の有無で治療方針が大きく変わります。血流障害がある冷たい足を洗浄し、垢やはがれかけた皮膚を除去する、つまり一種のデブリードマンをすると、状態が急速に悪化することがあるのです。 そのため、「洗うと悪くなる足」が存在することを念頭におき、足を洗うかどうか判断をしてください。よかれと思って洗った結果、利用者さんの足が壊死したら、利用者さんが大変な苦痛を強いられるだけでなく、ケアを提供するみなさんも心に大きなダメージを負ってしまうはず。後悔のないよう、覚えておいてほしいポイントです。 血流のアセスメント 末梢動脈疾患や下肢閉塞性動脈硬化症などにおける血流の状態を評価するスケールに、「Fontain分類」「Rutherford分類」があります。いずれも数字が大きいほど血流が悪いという評価です。間欠性跛行(歩いていると足が重く、もしくは痛くなって止まってしまい、少し休むとまた歩けるようになる状態。)の程度から動脈の詰まりを判断します。 ただし、歩いてもらわなければ評価できないため、あまり歩かない方の場合は間欠性跛行の進行に気づけません。無症状からいきなり足の痛みを訴えたり、壊疽が始まったりして、慌てて病院に駆け込む事態になりかねません。 在宅で実践してほしい「CRT検査」 そのほかにも血行の検査は数多くありますが、おすすめは「CRT(キャピラリィ・リフィリング・タイム/ Capillary Refilling Time)」です。道具を使わず、検査者の手だけで簡単に実践でき、動脈を探す手間もありません。 ご自身の手の親指と人差し指の先端を、ものをつまむような形で力を込めて5秒間合わせてください。指を開く時、指先に注目です。白くなっていた指先が、2秒以内に元の色に戻るかと思います。これが、血流が正常であるサインです。CRTでは、同じ要領で利用者さんの足の指先を検査者の指でぎゅっと押さえ、皮膚の色の変化を観察します。色が戻るのに3秒以上かかる場合は、血流障害の可能性を考え、病院への相談を検討してください。 形成外科医の傷の見方「神戸分類」 ここからは、「形成外医の足のミカタ」をさらに詳しくご紹介します。私たちは、血流と感染の状態を考慮しつつ、糖尿病性足潰瘍の「神戸分類」に照らし合わせて検討していきます。「神戸分類」とは、「知覚障害」「血流障害」「足の変形」という3つの「足病変の基礎因子」に注目して足の状態を4タイプに分け、治療を考えていくしくみです。 タイプⅠ知覚の障害や足の変形があり、足裏にタコができているような状態タイプⅡ血流障害があり、傷ができている状態タイプⅢ感染が見られる状態タイプⅣ血流障害と感染が合併している最重症の状態 タイプⅠの足の変形にはフットウェアの活用を、タイプⅢには感染した組織を除去するデブリードマンを選択します。一方で血行障害があるタイプⅡ、Ⅳは、第一に血行再建しなければなりません。血のめぐりが悪いまま、腐った組織を足浴で洗い流したり、デブリードマンをしたりすると、状態はかえって悪くなります。 次回は鶏眼や胼胝の予防や爪の構造や役割、爪の切り方などフットケア実践における必要な知識について解説します。>>後編はこちら足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇日本フットケア・足病医学会 (編).『重症化予防のための足病診療ガイドライン』南江堂,2022年

日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」
日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」
特集
2025年1月28日
2025年1月28日

日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」

少子高齢化や地域コミュニティの変化が進む中、「地域共生社会」をテーマに掲げた『訪問看護サミット2024』が、2024年11月30日(土)に開催されました。設立30周年を迎えた日本訪問看護財団の主催による本イベントは、「すべての人にウェルビーイングを」を合言葉に、訪問看護師をはじめ、医療、福祉、行政等の関係者が集い、地域包括ケアの未来について考える貴重な場でした。訪問看護の発展・継続に向けての具体的な解決策や、新しい地域ケアのあり方について深く議論された本イベントについてレポートします。 30周年を迎えた日本訪問看護財団 日本訪問看護財団は、1994年の設立以来、訪問看護の普及と質の向上を目指し、訪問看護師の育成や支援、情報提供などを通して地域包括ケアを推進。多くの訪問看護ステーションを支援し、制度づくりにも寄与してきました。設立30周年を迎えた2024年、今回のサミットは「明日のエネルギー」になることを目指し、訪問看護の未来を見据える、熱気ある会となりました。 日本訪問看護財団 理事長 田村やよひ氏 理事長の田村やよひ氏は、2040年問題を背景に、訪問看護が「地域包括ケアの要」であると強調。「今後の社会における訪問看護の役割を改めて問い直す場」としてサミットの意義を語り、共感を呼びました。 厚生労働大臣事務次官や文部科学大臣らの祝辞もあり、訪問看護業界と行政との連携の重要性を再認識したほか、訪問看護の発展に尽力した個人や団体への表彰式も行われました。 訪問看護師の役割を改めて考える 3つの特別公演 本イベント内では、地域共生社会の推進に向けて訪問看護師が何をすべきかを考えるために、貴重な特別講演が開催されました。 ◆「ポスト2025年の在宅医療と訪問看護への期待」 医薬品・医療機器業界の政策に深く関わってきた武田俊彦氏は、少子高齢化が想定以上のスピードで進んでいる現状に言及。2040年問題への対応が急務であると指摘しました。 1983年に施行された老人保健法では、在宅医療の推進や入院医療の適正化が掲げられたものの、高齢者のQOLを十分に尊重した医療体制には未だ課題が残るとのこと。従来の地域中核病院に資源を集約する体制を見直し、「医療ネットワーク」「患者や家族」「在宅ケア」が連携し、地域や家族を中心とした医療・介護体制を築く必要性について言及。その中で訪問看護は、生活の質(QOL)を支え、その人らしい人生を形作るための鍵になるとも語りました。訪問看護の持続可能なサービス提供のためには、経営基盤の安定化が急務であるとも述べ、聴講者の共感を集めました。 病院や施設から地域や在宅へのシフトを支える訪問看護師の役割が、これまで以上に重要になることが改めて共有された本講演。政策の振り返りを踏まえつつ、これからの訪問看護が進むべき道筋が示されました。 ◆「訪問看護におけるウェルビーイングとは」~すべての人が幸せに生きるために~ ウェルビーイングを推進している前野マドカ氏は、「医療従事者は自分を犠牲にしがちだが、人は幸せになるために生きているという根本的な事実を忘れてはならない」と提言。ウェルビーイングは、単なる健康にとどまらず、幸せややる気、思いやりなどを含む広い概念であり、これを高めるには学びと行動が不可欠だと解説。幸せは寿命を延ばし、創造性や生産性を高める予防医学としても重要であると述べました。 特に、幸せを育む4つの因子「自己実現」「つながり」「前向き」「独立」をバランスよく育むことが幸福度を高め、他者との良好な関係を築く要であり、「ありがとう」などの優しい言葉には、人の心を満たし、ウェルビーイングを向上させる力があるとのこと。 また、自分の良さや強みを知り、「私は大丈夫」と自分をとことん信じる姿勢が重要だと前野氏。それぞれが自分らしさを活かし、互いを尊重し合い協力することで、共生社会の礎が築かれることを学びました。 ◆ナイチンゲールの地域看護思想から学ぶ~時代を超えても変わらないこと~ 最後は、ナイチンゲール看護研究所 所長の金井 一薫氏による講演。ナイチンゲールが提唱した「病院は患者に害を与えない場所であるべき」「治療処置が絶対に必要である時期が過ぎたならば、いかなる患者も一日たりとも長く病院にとどまるべきではない」といった思想は、地域看護の原点として現代も受け継がれています。金井氏は、現代の日本においても、訪問看護師が行政や多職種と連携して利用者のQOL向上に寄与することの重要性を強調。 また、ナイチンゲールが示した「看護(ケア)の5つのものさし」(生命力の消耗の最小化、もてる力の活用、回復過程の促進、生命力の増大(自然死への過程)、QOLの向上とその人らしい生活(死)の実現)は、現代の訪問看護においても地域連携システムで活用できる普遍的な指針であり、質の高いケアを提供するための基盤であると解説されました。 講演後の平原優美氏(日本訪問看護財団 常務理事)との対談では、制度の隙間で支援が届かない人々に対し、地域包括ケアに関わる職種と行政との連携の重要性が改めて指摘されました。また、学生時代から在宅看護を学び、早期に実践できる人材を育てることが、地域看護の未来を切り拓くために欠かせないとの意見が述べられ、会場から多くの共感を得ました。 日本訪問看護財団の在宅看取りプログラム&災害時ネットワーク 本イベントでは、日本訪問看護財団の取り組みに関する成果や今後の活動等についても報告されました。 ◆在宅看取り教育プログラムの成果とこれから 日本訪問看護財団は、在宅看取りの訪問看護体制を強化することを目的に「訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)」を2020年度より開発。2023年度より指導者向けの「PENUT-T」を開発しています。 PENUTは、在宅看取り初心者の訪問看護師が「在宅看取りができそうだ」「やってみたい」と思えることを目指したプログラム。講義と演習を通して、終末期ケアの知識や多職種との連携スキルを習得し、多様な事例を学ぶことで、症状緩和への困難感を軽減する効果が確認されているとのこと。特に、実際に在宅看取りを実践してきた講師が紹介するリアルなケーススタディは、受講者の心に響く内容になっているそうです。 参考:Web研修等のご案内 | 公益財団法人 日本訪問看護財団 公式ウェブサイト 「自宅で最期を迎えたい」と思っても、実際に自宅で最期を迎えられている人は限られている現状があり、訪問看護師が担う役割は重要です。より多くの人が希望通りの場所で最期を迎えられる社会を目指すために、財団の挑戦は続きます。 ◆災害時ネットワークの発足 日本訪問看護財団は、災害時に地域のステーションや関連団体等との迅速な情報共有を行うための「災害時ネットワーク」を発足しました。このネットワークでは、平時から交流会や勉強会を通じて関係性を深め、災害時にはLINEオープンチャットを活用して情報を共有するしくみを構築しています。 参考:災害時ネットワークについて | 公益財団法人 日本訪問看護財団 公式ウェブサイト これにより、被災地における訪問看護ステーションの被害状況や、必要な支援について情報共有が行えるようになります。また、在宅ケアに関わる団体への速やかな情報提供も行えるとのことです。 地域で生きる力を支えるために 今回のイベントでは、設立30周年を記念して制作された、新たなロゴとキャラクターについても発表されました。 日本訪問看護財団の新しいロゴ&キャラクター引用:公益財団法人 日本訪問看護財団「ロゴ・キャラクター紹介」 ロゴに描かれた輪は、利用者や家族、訪問看護師、医師、介護職といった多様な人々がつながり合い、支え合う様子を表現しています。キャラクターは、ふわふわの白い羽で大空を自由に飛び回る小鳥の「エナガ」をモチーフに、親しみやすさと柔らかさを兼ね備えたデザインで、訪問看護師が地域全体を見守る存在であることを象徴しています。 * * * 本イベントは、訪問看護を本気で応援し、未来を本気で変えようとする人々が集う、熱意溢れる場でした。日本訪問看護財団は相談窓口を用意しており、有益な情報発信も数多く行っています。ぜひ積極的に活用していきましょう。 取材・編集:NsPace編集部執筆:佐野 美和

ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】
ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】
特集
2025年1月28日
2025年1月28日

利用者さんのお宅事情はいろいろ ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

ケアするためのスペースが… 利用者さん宅のスペースや家具配置によっては、どうやってケアするか悩むこともあるにゃ 訪問看護は利用者さんのご自宅でケアするため、スペースや家具の配置等によっては苦慮するケースもありますよね。訪問看護師さんからは、「部屋の都合上、介護ベッドを壁際につけて配置せざる負えないことが多いです。片側からしかアプローチできないため、浣腸や摘便などの排便ケアを行う際に、悩むことがあります」といった声も聞かれました。 ニャースペース病棟経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

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