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訪問看護事業所の休廃止を防ぐ
訪問看護事業所の休廃止を防ぐ
インタビュー
2023年3月14日
2023年3月14日

訪問看護事業所の休廃止を防ぐ~利益創出の理解と組織づくりの思考は看護と同じくらい大切~

訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッション。最終回は、訪問看護事業所の休廃止を回避し維持するために、何が必要かを語り合いました。管理者自身が、お金の動きを理解できる力をつけること、組織マネジメントに必要な思考を身につけること。そのために、自分で抱え込む精神を捨てるアンラーニングが重要です。 第3回「訪問看護管理者が真にやるべきこと」はこちら>> 「看護+パッション」だけでは起業はできても維持が難しい 中原: 訪問看護で事業を始めようとするなら、もちろん看護のスキルも必要なんだけど、どれだけの入るお金があって、どれだけお金が出ていくのか。そこを理解できるスキルが絶対に必要。しかも最初から2.5人で、人数分の利益を上げなきゃならないでしょう。 その次に、私だったら組織づくりを考えるかなと思います。1人いなくなったら休止だから、とにかく離職を避けなくてはならない。 乾: そうなんですよね。個人商店ではない。2.5人必要で、もともと組織化されていますから。売上をあげて、いくらコストがかかって……に始まり、人を採用して定着させるところまで。 中原: それらと同じぐらい看護が大事ではあるんだけれど、ビジネスの理解やマネジメントスキルが必要だという認識をもって、覚悟をくくっておかないと、「看護+パッション=訪問看護」だけでは起業はできても維持が難しい。 学び直しの機会がなかった 乾: 病院に勤務してきて「やりたい看護がしたい」で訪問看護に飛び込む、一般的な看護師さんのキャリアパスでは、そういった視点を得る機会ってなさそうですよね。 中原: 訪問看護のマネジャーがど・はまりしてつまずいていくパターンや、どうマネジメントしていけばいいか、そんな研究や理論はあるんでしょうか。 落合: 看護師って、思いを馳せて患者さんをずっとみて育っていて。なので、マネジメントも「後輩を思いやって」という文化で、そこにマネジメントの根拠や理論はないことが多いんです。 たとえば「フィードバックってどうやるんだ?」ってときも、「中原先生の本にある、こういうフィードバックの方法に基づいて……」のような考えかたはせずに、ひたすら「思いやりを込めて……」とか、先輩から受けてきたフィードバックを後輩に同じようにする。だから、パターナリズムなフィードバックを受けてきた人は、ちゃんとパターナリズム的なフィードバックをしてしまう。そんなことがありがちだと思っています。 一方で患者さんに対しては、たとえば緩和ケアだと患者さんに寄り添うコミュニケーション技術が構築されていて、看護のスキルであれば学べといわれるし、学ぶんです。なのに、組織運営に関する技術は学んでこないんですね。 過去の先輩の知恵を大切にしつつ、マネジメントとか経営の技術は知るべきだよな、とはすごく思います。 中原: せっかく思いを持って立ち上げるんだから、その思いが無駄にならないような学び直しの機会があったら、先ほどの休廃止に至る典型的パターンが避けられるかもしれないですよね。 マネジメントの武器は、「聞く」「しゃべる」くらいしかない 中原: 訪問看護の管理者は、ソロプレイヤーでもありながらマネジメントもやって、かつ従業員側もみなくてはならないし、利用者側もみなくてはならない。そんな状況で、何から始めて、どういうふうにステップアップしていくのか。学び直す機会をどう持つかだと思います。 この業界に合った形のマネジメントの手法をどう実現するのか、そこから、知見を積み重ねることです。皆さんの領域の研究者が、皆さんのカルチャーや状況に合ったマネジメント手法や組織開発手法を、地道に研究したほうがいいのではないでしょうか。私の本なんか読まないでいいですから(笑)。地道に地道に、皆さん自身の領域で起こっていることを「探究」するとよいと思います。 乾: いえ、中原先生の本にある1on1だとかフィードバックだとか、一般的なマネジメントのスキルも、実際現場ではすごく必要とされているし、重要だと思います。私たちの支援先の事業所さんでも、「こうしたいけど、どうすればいいんだっけ」と知らなかったり経験不足だったりが現実にあるので。それは業界の特殊性以前に、土台として必要なことだと。 中原: なるほど、そうですね。どこの世界でもマネジメントって、起こったことを傾聴していきながら振り返って、じゃあ今後はどうしようと目標を設定していく、そういったことを地道にやるしかない。マネジメントって結局、そんなにたくさん武器はないんです。聞いてしゃべるくらいしかなくて、それを愚直にやっていくのがマネジメントですから。マネジメントは「ABC」ってよく言われます、絶望しますけど。「A:あたりまえのこと」を「B:ばかにせず」「C:ちゃんとやる」、これに尽きますね。 乾: その「どんな武器があるのか」や「武器の使いかた」を知ることが、現場で必要とされているのだと思います。 落合: そういうものだと私も思います。 管理者にこそアンラーニングが必要 落合: 訪問看護師的な感覚でいうと、思いだけでやるならたぶん、中原先生がおっしゃるみたいに1人でやるのが本当にいちばんいい。だけど制度上それは無理で、すると2.5人とか3人とか、5人までのいわゆる小規模でやるのがいいんでしょう。聞く・話すの能力だけで考えても、結果的に5人ぐらいまでが、管理者1人(優しい人で)が面倒をみることができる限界の人数なんだろうと。 そこに、「聞く」や「話す」をマネジメントの技術として実践できると、10人とか15人ぐらいの人を支えられるのかなと。そのために見える化のサービスが必要なのかもしれないし、中原先生の本を読むのがいいのかもしれないし、いわゆる業界理解をすると伝えかたが変わるのかもしれないし。 それは勉強が必要ではあるんだけど、自分で抱え込む精神をまず真っ先にアンラーニングして、いち管理者の努力で解決しようとせずに、うまく外部を活用して自分のものにしていったらいいんじゃないかな。 ─ 管理者としては、病院から訪問看護に入ってきた人へ学習機会を提供して、ゲームチェンジを理解させること。そして訪問看護は病院看護の延長ではない、異なる競技に挑んでいるんだという前提で、管理者自身にもアンラーニングの必要性があることに気づかされました。どうもありがとうございました。 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版

在宅で行う認知症看護
在宅で行う認知症看護
特集 会員限定
2023年3月7日
2023年3月7日

【セミナーレポート】看護師が意識したい7つのポイント -在宅で行う認知症看護-

2022年11月24日に行われたNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、認知症看護認定看護師である福岡 裕行さんを講師に迎え、「在宅で行う認知症看護」を開催いたしました。 今回はそのセミナーの様子を、前後編にわけてご紹介。前編では、認知症訪問看護において福岡さんが大切にしている7つのポイントや、利用者さんの自信を育てるテクニックについて教えてもらいました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】福岡 裕行さんオールハッピー訪問看護ステーション 管理者/認知症看護認定看護師認知症治療病棟に勤務する傍ら、兵庫県看護協会認知症看護認定看護師教育課程で学び、2012年 認知症看護認定看護師資格を取得。その後も臨床経験を積みつつ、認知症サポーター養成講座などの講師も務め、2015年には認知症ケア上級専門士資格を取得する。2018年7月にはオールハッピー訪問看護ステーションを設立し、現在まで地域の医療を最前線で支え続けている。 目次 1. 認知症看護で意識したい7つのポイント (1)まず聞いてみる姿勢 (2)「1訪問1笑い」にチャレンジ (3)「あんたがいうなら」を目指す (4)「死ぬまで元気でいてほしい」という想い (5)「老いては子に従え」は考えもの (6)雑談の中で情報収集 (7)「ベスト」より「ベター」を目標にする 2. 失敗の回避と成功の蓄積で利用者さんの自信を育てる --> 認知症看護で意識したい7つのポイント 私が訪問看護の現場で認知症の利用者さんとかかわる際は、以下の7つのポイントを意識しています。 まず聞いてみる姿勢 「認知症だからこんなこと聞いてもわからないだろう」と決めつけず、利用者さんご本人に積極的に質問するようにしています。記憶の障害が認められるときは、例えば「昨日はどう過ごしていたんですか?」といった過去についての質問は避け、現在の考えや気持ちに焦点を当てた問いを投げかけてみるといいでしょう。 「1訪問1笑い」にチャレンジ 訪問する際、必ず1回は利用者さんに笑っていただくこと、つまり「いい感情の記憶」を残すことを目指しています。訪問看護で行ったことが嫌な記憶として残ってしまうと、ご家族が同じように介護することが難しくなってしまう可能性があるためです。逆に、いい記憶を残せればご家族の介護がスムーズになることもあります。 また、レビー小体型認知症の場合、ストレスがかかると症状が悪化するといわれる一方で、人と笑い合うことは安心感や自信を生み、症状の改善が期待できるとされています。ぜひみなさんも、利用者さんとご家族のために「1訪問1笑い」にチャレンジしてみてください。 「あんたがいうなら」を目指す 「あんたがいうなら、デイサービスに行ってみよう」「あんたがいうなら、お風呂に入ってみよう」などと利用者さんにいってもらえるような信頼関係を築くことを常に目指しています。 「死ぬまで元気でいてほしい」という想い ある利用者さんは、以前「私はもう死にたいんだから、来なくていい」と訪問看護を拒否されていました。そこで私は「◯◯さん(利用者さん)に死ぬまで元気でいてほしいし、亡くなる前日まで笑っていられる生き方をしてほしいから、訪問看護に来ています」と伝えたんです。すると、その日からスムーズに訪問看護に入らせてもらえるようになりました。今でもその方を担当していますが、「最期まで笑っていたいね」といってくれるようになりましたよ。 「老いては子に従え」は考えもの 「老いては子に従え」という考え方は、利用者さんの自己決定の妨げになる場合があります。「子どもがいうから◯◯している」とおっしゃる方に対しては、私たちがまずご本人の意見を丁寧に聞き、自己決定支援に取り組むことが大切だと考えています。 雑談の中で情報収集 長谷川式認知症スケールのような認知機能の検査ではなく、雑談の中で情報を収集することも意識しています。 病院の心理士に聞いたところによると、検査のために簡単な計算問題を出すと、「なぜこんなことを聞くんだ、人をバカにしているのか」と怒り出す方もいらっしゃるそうです。訪問看護において利用者さんの怒りを買ってしまうと、以降の介入に支障をきたすリスクがあるので、何気ない雑談から情報を得るように努めることはとても重要です。 「ベスト」より「ベター」を目標にする ベストではなくベターを目標にするという考え方も大切です。例えば、薬を飲めない利用者さんの訪問看護を担当したとします。看護師が介入したからといって、決められた服薬量を毎日欠かさず飲むことはなかなか難しいでしょう。しかし、まったく薬を飲めなかった状態から7〜8割でも飲めるようになれば、私はそれでもいいのかなと思います。 服薬ルールをどこまで遵守する必要性があるかについてはもちろん主治医との相談が必要ですし、状況の改善に向けて工夫することは大切ですが、ベストを強く求めすぎると利用者さんに大きなストレスを与えかねません。前述のとおり、嫌な記憶が積み重なることはご家族の介護負担の増加や症状悪化のリスクになりますので、柔軟な対応を心がけてください。 失敗の回避と成功の蓄積で利用者さんの自信を育てる 失敗体験を回避する、および成功体験を蓄積することは、認知症の利用者さんの訪問看護において非常に重要です。失敗してしまい、それを周囲に指摘されると、利用者さんはどんどん自信や意欲を失ってしまいます。 ・失敗しにくい状況をつくること・失敗しても「黒子」になって見えないところでフォローすること・ときには見て見ぬふりをして自信の喪失を防ぐことを心がけるといいでしょう。 その逆に、成功体験を増やすことで自信を育てることができます。例えば、認知機能の低下が見られる以前の「利用者さんが光っていた時代」を承認することも効果的です。このやり方は回想法といい、「昔はどんなお仕事をしていたんですか?」「〇〇(その方の経験が活きるような内容)について私にアドバイスをください」などと声をかけ、その回答に対して「すごいですね」「教えてくれてありがとうございます」と承認していきます。これを繰り返すことで、利用者さんは自身の存在価値を改めて認識することができ、どんどん自信がついてくるはずです。認知症を患うと、生活障害によってどうしても成功体験が減ってしまうもの。ぜひみなさんが意識的にその機会をつくるようにしてください。 >>後編はこちら【セミナーレポート】ご家族とのかかわり方 -在宅で行う認知症看護- 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

利用者も看護師も幸せにする経営
利用者も看護師も幸せにする経営
インタビュー
2023年3月7日
2023年3月7日

先を見越した採用とオープン経営の重要性 【利用者も看護師も幸せにする経営】

0歳から高齢者の方まで幅広く介護保険や医療保険を利用しての訪問看護を提供する、機能強化型訪問看護ステーション、「レスピケアナース」。前編に引き続き、レスピケアナース設立者で管理者の山田真理子さんにお話を伺いました。 >>前編はこちら規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】 株式会社アイランドケア 常務取締役レスピケアナース 管理者 在宅看護専門看護師(2020~)山田真理子さん内分泌内科と血液内科の混合病棟に2年、呼吸器内科病棟に計5年ほど勤務。その後、人工呼吸器や患者教育に興味を持ち、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で9年間訪問看護ステーションの管理者を務める。事業所設立を目指して2015年に独立。同年12月にレスピケアナース設立。 レスピケアナースの制度と戦略的採用 ─レスピケアナースでは土日祝日も安定してサービスを提供されていますが、各曜日や時間帯の人員バランスを調整するのは、大変ではありませんか? 家庭環境によっては「ほどほどに稼げればいい」という人もいますし、「たくさん働いて稼ぎたい」という人もいます。そういった希望を聞き、バランスを考えた上で採用することが大切です。「平日のみ希望」で入った方に「土曜日も働いてください」とお願いするのは、当然難しいでしょう。でも、あらかじめ「土曜日も働く前提」で採用していれば、あまり問題になりません。入職後に働き方の希望が変わることもありますが、ある程度余裕をもって人材を採用しているので、即座に人員不足にはならないようにしているんです。 一定の条件に希望が偏らないように人を集めること、先を見越した採用をしていくことで、バランス調整はしやすくなると思います。 ─レスピケアナースへの就職希望者には、どの年代が多いですか? そうですね、30代から40代が多いです。ほかに比べると、比較的若い年齢の人が集まっているかもしれません。今後は新卒の採用も増やしたいと考えており、学生向けのイベントも実施しています。 新卒採用を積極的に進めたい理由は、訪問看護に対して先入観のない人材のほうが、より効率的に教育できると思うから。私も病棟経験がありますが、病院特有の思考回路になると、それを切り崩して新たな感覚を構築するのは難しく、看護師当人が苦しむこともあります。学校で在宅看護論を習い、そのままレスピケアナースに就職してもらえば、本人もあまり苦労することなくスムーズに働けると思います。やるべきことがすっと頭のなかに入るというか。誰しも、経験を積めば積むほどそれまでの働き方を変えるのに苦労しますよね。入社してからのスキルアップが重要だと思いますので、専門知識は求めていません。 ─報酬制度については、何か意識されていることはありますか? スタッフのモチベーション維持を大事にしたいので、簡単に言うと「働いたら働いた分だけ稼げる環境」を整えています。例えば、土日祝日や夜間に働けば、当たり前ですがそのぶんの給与を支払います。土日祝や早朝夜間も働き、当番もするスタッフは、夜勤もこなす病棟看護師と同等程度はもらえるようなイメージです。 平日のみのスタッフと夜間・休日も働くスタッフが、「ちょっと給与が違う」程度ではモチベーションは維持できませんよね。目に見えて給与が上がり、「これだけ働いた甲斐がある」という実感を持てるように、と思いながら設定しています。 オープン経営で、スタッフも経営者視点に ─スタッフの皆さんへの報酬を支払うための利益確保は、どのようにされていますか? 訪問単価を上げていくために、特別管理加算がとれる利用者を確保してきました。自分自身の専門分野が呼吸ケアであり、在宅酸素療法や在宅人工呼吸療法を行っている利用者が得意だとパンフレットなどで広報したり、関連の研究会や学会で成功事例を発表したりと工夫しています。ある程度戦略的な部分になりますが、機能強化型ステーションの制度ができたとき、「これは必ず取りに行こう」と考え、まずは「機能強化型2」を、次に「機能強化型1」を取りました。 さらに言えば、「よい看護をすれば事業所が儲かる。その儲けは自分たちに戻ってくる」というところを、みんなで分かち合いたいと思っています。これは採用面接のときから伝えていることですが、レスピケアナースの賞与は完全に利益に連動しています。赤字か黒字か、というところは本来経営者の視点ですが、スタッフにもその視点を持ってもらいたい。「黒字なら自分たちに還元される」ということであれば、満足度が上がります。多忙さが目に見える報酬として戻ってくれば、納得もできるでしょう。そんなふうにして、我々経営者と働くスタッフとが、一緒になってやっていければと思っています。 ─レスピケアナースでは、基本的に残業をしない方針と伺っています。余裕のある人員採用以外に、何か工夫されていることはありますか? 効率化のために、勤怠管理やカルテ、スケジュール表等をICT化(※)しています。これは設立当初から実践すると決めていたことで、行政からの助成金もいただきました。ICT化により直行直帰が可能になるので、わざわざカルテを取りに事務所に立ち寄る必要もありません。週に一度は、ZOOMで事例検討やカンファレンスなどをしていますが、集まるのはそれで十分だと思っています。 ※ICT化= Information Communication Technologyを取り入れること。PCやスマートフォンといったデジタル機器を導入し、情報を可視化。より管理しやすくすることで、効率的に業務を行う。 ICT化によって、訪問単価、売上人件費率、常勤換算数、どこから紹介があったか、訪問件数などのデータも、グラフ化してスタッフの誰もが見られるようにしています。グラフを読む能力となるとまた別問題なのですが、情報をオープンにすることで、さきほどの「スタッフの経営者視点」にもつながっていくと思っています。 ─データの共有によって、具体的にはどんなアクションが生まれるのでしょうか。 例えば、どんな流れで利用者が増えるのかわかれば、利用者を増やすために何をすればいいのかのアイディアも浮かびます。レスピケアナース内の小児チームが「〇〇病院からの利用者紹介が減っている様子」から「病院に配るパンフレットを刷新しよう」といった動きをしていましたが、そういった具体的な動きに繋がるんです。 また、スケジュール表や常勤換算数・訪問数等を見れば、どの部分にスタッフが足りないか、余裕があるなら利用者をどれだけ増やせるか、といったこともスタッフ自身が判断できます。まずは適切な情報を見せ、それぞれが考えていい環境をつくることが大事ですね。 組織に「余裕」をつくり、学んだことを実践 ─風通しのよい職場づくりのために、スタッフの皆さんに特に伝えていることはありますか? 「失敗してもいい」「リカバリーできない失敗はない」ということでしょうか。例えば、失敗したことの報告に対して、私がそれを責めることはありません。報告さえしてくれれば、必ず何かしらの形でフォローする。リカバリーする。だから、うちのスタッフはたとえヒヤリハットの報告があっても嫌がらないんです。むしろ、「報告すると感謝されるから、どんどん報告する」と言っていますね。自分の発言が業務改善に繋がりますから、「自分はこの職場に必要とされているんだ」という気持ちにもなると思います。 ─最後に、組織をつくる上で重要視すべきことはなんだと思いますか? これからマネジメントに取り組む方々に向けてお伝えしたいことがあればお願いします。 大切なのは、余裕をつくるということかなと思っています。「忙しくて何もできない」という状況をつくらないことが大切です。レスピケアナースでは、オンとオフをきっちり分ける、長時間勤務になった翌日は勤務時間の調整を行う、年に1回はリフレッシュ休暇を取るなどのルールを設け、それが実現できるスタッフ数と利用者数のバランスを考えて、採用と新規利用者の受け入れを行っています。オンとオフをきっちり分け、しっかり休日を確保するには、チームワークが大事で、一人で担当の利用者に対峙せず、複数のスタッフが一人の利用者に訪問できることが重要です。しかし、レスピケアナースでも立ち上げ1~2年は忙しくて余裕がない時期もありました。今どうしても忙しい人は、多少無理をしてでも勉強会に参加して発想の転換をしたり、仕事を仲間と分担したりすることが大切です。 レスピケアナースでは、小児ケア、医療安全、呼吸不全のワーキングチーム、ACP看取りチームと、4つのチームがあり、それぞれ勉強会等も企画してくれます。自分自身が主体にならなくても、スタッフたちが動かしてくれるようなしくみづくりも重要でしょう。 そういったことも踏まえると、最初の話に戻りますが、やはり、ある程度の規模の大きさは必要ですね。「規模を大きくすること」そのものが目的だったわけでなく、そういった余裕のある働き方を可能にするために、立ち上げ時から規模を大きくすることを重要視し、目標としていました。SNSやブログでもその想いを発信していたから、より具体的に方向性が見えたのかもしれません。 私は別に、経営者としてオリジナリティがあるわけじゃないんです。きっと、私と同じことを誰かが言っています。私はセミナーに参加するのも好きなんですが、いいお話を聞けば「自分もやってみよう」と素直に思う。「そんなことはできない……」ではなく、たぶんやれるな、じゃあどうすればいいのかな、と前向きに考え、実践することが重要なのだと思います。「現状を打破したい」というとき、情報取集はとても大事ですからね。ぜひ、新たな情報に触れ、固定概念を持たずにチャレンジしてほしいと思います。 ─ありがとうございました。 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年3月7日
2023年3月7日

冬場の利用者さん宅の床と水が…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

とっても床が冷たい&お湯が出ないお宅も 冬場の床、とっても冷たくて凍えそうになることがあるにゃ…。お湯が出ない洗面所も、肉球がかじかむにゃ 冬場にフローリングやビニールの床がとっても冷たくなってしまうお宅、ありますよね。洗面所でお湯が出ないお宅もあり、手足が冷えてしまいます…。訪問看護師さんからは、「冬は厚手の靴下を履いている」という声や、「訪問先によっては逆にとても暖かいこともある。厚着するとかさばるし、ケア・シャワー浴等の邪魔になってしまうので悩ましい」といった声が聞かれました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

ケースメゾットで考える管理業務
ケースメゾットで考える管理業務
特集
2023年3月7日
2023年3月7日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その3:どのように働きかけることが効果的なのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第9回はCASE3「ドクターをどう動かせばいいのか」の議論のまとめです。 はじめに 前回(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)は、なぜK医師とは連携しにくいのかについて、A・B・C・Dさんそれぞれの意見を交換しました。今回は、訪問看護管理者としてどのようにK医師に働きかけるかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか  「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?  設問あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 K医師にどのように働きかけることが効果的なのか 講師ここまで(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)のみなさんの意見から、K医師とよい連携をするために管理者としてできることは、「K医師と訪問看護の目標を一致させる」「K医師と訪問看護の情報の非対称性を解消する」の二つが出ました。では、具体的な取り組みとして訪問看護管理者は何ができるでしょうか? Aさん注2当たり前のことですが、 各利用者の在宅生活の目標についてよく知ってもらい、医師と看護で目標を一つにするために、K医師と話し合う時間をとりたいです。訪問看護は、利用者の意思を尊重したケア体制を構築したいので、K医師に看護側の考えを理解してもらうことは必須のことと思います。 BさんK医師はお忙しいのでしょうから、報告書を持参して相談するなどの機会を探ってみるのがよいかもしれませんね。専門医による診察がない状態がこのまま続くことによって、「利用者にこんな支障が起こりうるのでは」など、看護側がどんなことを懸念していて、なぜK医師に相談したいと思っているのかを、まず報告書に書くことも一つです。 CさんあまりにもK医師の対応がひどいなら、医療法人の本部に相談することも必要だと思います。なので、K 医師の対応について客観的な事実を集めるようにスタッフには指示をしておこうと思います。 Dさんケアマネジャーなどの関係者との情報交換を通じて、誰に働きかければK医師が動くのかを考えたいです。また、この在宅療養支援診療所には他の訪問看護ステーションもかかわっているでしょうから、地域の訪問看護ステーションの管理者会議などでK医師について聞いてみることもできると思います。 講師K医師に情報を提供するさまざまな手立てと、K医師やK医師が所属する医療法人の情報を収集するための具体的な取り組みが出てきましたね。さまざまな困難があることでしょうが、医療法人の本部との相談も視野に入れ、利用者の利益を中心としたケア体制の構築を進めていってください。 連携の鍵は「目的の不一致」と「情報の非対称性」の解消にある 講師では、これまでの議論を受けて、CASE3のまとめです。 みなさんの意見から、・利用者の状況を小まめに医師に伝えること・利用者ごとの在宅療養の目標を医師と看護師で擦り合わせておくことの必要性が見えてきました。 医師に限らず、多職種連携の場面においてキーとなる人物がなかなか動いてくれないという話はよく聞きます。その人自身に問題があるというよりは、その人物の合理的な選択の帰結として生じるものと捉えるほうが、効果的な働きかけを考えることができます。どなたかも発言されていましたが、人の性格などは急に変わるものでもありません。 今回のケースで管理者としてできることは、K医師との「目的の不一致」と「情報の非対称性」(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)を解消するために動くことです。 Cさん連携しにくい医師への対応をしていて、「どうしてこの人はわかってくれないのだろう」と思うことが多々あったのですが、相手のことを十分に理解していなかったかもしれないと思いました。 講師はい、そうなんです。変えられないところを気にしても自分が疲れてしまうだけです。働きかけをして効果がありそうなところにご自身の力を集中させてください。ある人や組織との連携がうまくいかないことがあれば、「目的の不一致」と「情報の非対称性」の解消を考えてみてください。このことは他の場面でも応用できる考えかたですよ。 * 次回は、CASE4「クレームを受けるスタッフをどうするのか」を考えます。 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇入山章栄.『世界標準の経営理論』東京,ダイヤモンド社,2019,114-132.

規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】
規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】
インタビュー
2023年2月28日
2023年2月28日

規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】

福岡市の「レスピケアナース」は、0歳児から高齢者の方まで幅広く介護保険や医療保険を利用しての訪問看護を提供する、機能強化型訪問看護ステーション。医療依存度の高い方向けの看護を得意としています。設立者で管理者の山田真理子さんに、ご自身が目指してきた訪問看護ステーションの在り方や、順調に規模を拡大してきた秘訣を伺いました。 株式会社アイランドケア 常務取締役レスピケアナース 管理者 在宅看護専門看護師(2020~)山田真理子さん内分泌内科と血液内科の混合病棟に2年、呼吸器内科病棟に計5年ほど勤務。その後、人工呼吸器や患者教育に興味を持ち、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で9年間訪問看護ステーションの管理者を務める。事業所設立を目指して2015年に独立。同年12月にレスピケアナース設立。 前職での違和感と、成し遂げたかった想い ─早速ですが、レスピケアナース設立のコンセプトから教えてください。 「看護職」というと技術や経験が注視されがちですが、私は物事の受け止め方、看護観・ケア観、ビリーフ(思い・信条)に共感できるスタッフであることを重視しています。仕事から学び、学ぶことが仕事だという考えに共感してくれる方々と働くために、レスピケアナースを設立しました。看護師2.5人と、事務・アルバイトさんのみの小さな事業所からのスタートでしたが、現在は順調に人員と売上の規模を拡大しており、多くの方々に訪問看護をご提供しています。 ─訪問看護ステーション設立以前の働き方について教えてください。現在の山田さんの指針に繋がっているご経験などもお伺いしたいです。 前職では、大企業が運営する訪問看護ステーションで9年間、管理者を務めていました。そこで感じたのは、大きな組織のなかで自分ができることの限界です。例えば、人員を増やすにしても、欠員補充しかできず、マッチする人材を選ぶことができませんでした。 訪問看護ステーションは、当然ながら看護師がいなければ何もできませんから、「不足してから補う」という方法は合いませんし、現場が疲弊してしまいます。また、ミスマッチな人材が加わると現場が混乱し、お互いに不幸なのです。次第に「私に人事裁量権をもらえたら、もっとうまく運営できるのに、成果が出せるのに」という気持ちが強くなっていきました。 それから、自由に発言できないというのも組織にいるからこその制限ですね。自分自身が強い想いを持っていても、あくまでも会社の方針と齟齬がない形でしか語れません。「私自身」がどんなことから影響を受けどうしたいか、といったことも言えない。そこから飛び出したいと思いましたし、愚痴や文句を言う前に、自分で理想の事業所をつくるべきだと思いました。 現在は余裕のあるうちに人材を採用する体制を作っているので、予期なく欠員が出ても残された従業員が疲弊しづらくなっています。また、SNSやブログで自分の想いを発信できるので、共感してくれた方がレスピケアナースに来てくれるケースも多くありますね。 ─山田さんの経営思想は、ナイチンゲールからも影響を受けていると伺っています。 はい。20年ほど前ですが、ナイチンゲール思想を研究されている金井一薫先生の「KOMI(Kanai Original Modern Innovation)理論」を知り、勉強会にも参加するようになりました。それまで私はナイチンゲールに対しとにかく献身的なイメージを持っていたのですが、彼女はイギリス初の統計学者であり、レーダーチャート開発や病院経営などでも手腕を奮っていました。「戦争で死ぬよりも感染症で死ぬ人の方が多い、だから衛生環境を整えるべきだ」といったことを、数字を用いて根拠を示し、政府の意思も動かしているんです。 つまり、彼女はただ「患者さんのためになると思う」という気持ちだけで献身的に働くのではなく、根拠を示して他人を納得させることのできる人間でした。それまで私が抱いていた印象とはまるで違う。とてもかっこいいと思ったんです。私もナイチンゲールのようにデータを駆使し、広い視野を持って経営したいと考えるようになりました。 また、この思想は看護の現場にも生かせます。例えば医師と話す場面で、「この患者さんは痛がるからレントゲンを撮ってほしい」ではなかなかうまくいきません。「この患者さんはこのような動作をすると痛がるため圧迫骨折の可能性がある、だからレントゲンを撮るべきでは」と、根拠をもとにアセスメントをしたほうがいいでしょう。 視野を広げて「みんなが幸せになる看護」へ ─ナイチンゲールは「情報」を重要視したのですね。それが冷静な判断を産み出す材料になると知っていた。現代に近い理論的な考え方だと思います。 そうです。もっと正確に言うと「客観的な情報」です。利用者さんの言葉だけを重視すると、その方の主観的な考え、いわゆる「S情報」だけに振り回されてしまいます。なぜ、このような「S情報」が出てきたのか、発言の背景にあることに目を向けなければ、利用者さんの困りごとの解消や軽減に至りません。また、「よかれ」と思って、利用者さんの「S情報」のみを元に現行の制度の域を超えたサービスをチームに黙って一人のスタッフが提供してしまったり、スタッフ自身が「利用者さんの希望を叶えられない」と無力感を感じたり、「こんなことは看護じゃない!」と不満に思うスタッフがいたりして、スタッフの方向性が揃わない。そのようなサービスを続ければ現場に無理が出て、訪問看護事業所が潰れてしまう恐れもあります。 訪問看護事業所が潰れても利用者さんは地域にいますので、次の訪問看護事業所を利用した時、制度の域を超えたサービスを受けられて当然と思ってしまい、次の事業所に不満を感じることになるでしょう。事業者の数が減れば、サービス自体も受けられなくなる。これでは、利用者さんも看護師も、誰も幸せにはなれません。 ─「よかれ」と思って対応している看護師さんに対して、理解を促す難易度は高いのではないかと想像します。どういった対応をしていますか? 看護の「意味付け」をし、レスピケアナースらしさを浸透させるために、月に2回、必ず「事例検討」をしています。この事例検討の目的は、いわゆる「SECI(セキ)モデル」(一橋大学大学院教授の野中郁次郎氏らが提唱するフレームワーク)を回すことです。これはそれぞれが持つ知恵を言語化して共有し、暗黙知を形式知に変える。これにより、さらに上の知恵を発見したり、作り出したりしていくモデルです。それぞれが個別で持っている「暗黙知」が「形式知」となり、客観的な情報になります。討論を通じてマニュアルに書いてあっても読めない「行間」までを読み合い、浸透させる。私はこれを「文化を作る」と表現しています。 事例検討時に自身の看護を評価するために利用してもらっているのが、ICFの情報整理シートや臨床判断モデルです。ICFの情報整理シートは、看護利用者の環境についての情報を整え、客観的に把握するためのもの。臨床判断モデルは、利用者さんのニーズや関心、健康問題などを総合的に捉え、必要とされる具体的な看護行為を導き出すための思考モデルです。このどちらかを使って担当者に発表してもらい、私がファシリテーションしています。 中堅のスタッフには成功事例も出してもらうようにしています。様式に落とし込むだけで、「暗黙知」が言語化されるんです。そして、ディスカッションすることによって、参加したスタッフがハッと気づきを得る体験をし、事例提供者は自身が行ったケアを客観的に見返すことができます。このように共有できる形にすることが、「形式知」になることであり、これを繰り返して「文化を作る」ということを実践しています。 そのほかの日々の記録や報告書や計画書もできるだけ確認し、適宜フィードバックしています。こうした成果物をみれば、「行き詰まっているのかな」「悩んでいるのかな」と気づくこともできるので、とても大事なことだと思っています。 繰り返し丁寧に理念や意図を説明する ─事例検討について、スタッフの皆さんの反応はいかがですか? みんな精力的に取り組んでくれています。ただ、慣れない新人さんには複雑で難しい作業に見えるようで、焦ってしまうこともあるようです。そういうときに私は、「『筋トレ』のように考えてくれればいい」と伝えています。決してプレッシャーを与えるために事例検討をしているわけではなく、「レスピケアナースらしさ」を身につけていくためのトレーニング手法なのです。スタッフの反応を見ながら、こういった意図も丁寧に繰り返し説明するようにしています。 ─クリニカルラダー(※)も活用されていらっしゃるんですよね。 はい。基本的には日本看護協会のものをベースにしています。クリニカルラダーは、活動の場を問わず、看護師ひとり一人が力を発揮できるようにという考えのもとで開発されたものです。看護師の評価の項目に、意思決定を支える力、ニーズを捉える力、協働する力、ケアをする力の4つがあり、バランスがよいと思って採用しました。年に1回、12月から1月にチェックしてもらうようにしています。 ※クリニカルラダー: はしご(=ラダー)を上るように段階的にキャリアアップするしくみ。段階ごとに課題は異なり、それぞれの段階で明確な目標設定が可能 特に「意思決定を支える力」「協働する力」については、病棟看護師も含めて足りないケースが多いと思います。クリニカルラダーでチェックすることにより、今は持っていないが将来には獲得しなければならない能力についても理解できるようになり、「これは自分の仕事ではない」と人任せになるケースが減りました。一緒に仕事をする者同士、連携することができるようになるんです。スタッフたちには具体的なエピソードも書いてもらい、私はそれらに対してフィードバックをしています。 仕事に来てくれれば9割満足 ─自分が得るべき技術が明確になると、やる気に繋がりますよね。それぞれが持つ看護についての考え方もしっかりするのでは。 そうです。レスピケアナースとしての考えが浸透します。ただそれでも、「素晴らしいことをするのが看護だ」とは考えないでほしいんです。利用者さんにとっては「看護してくれる人が来てくれた」というだけで、基本的には十分。私はいつも、スタッフに「仕事に来てくれれば私は9割満足」と伝えています。 例えば、事例検討の担当になることが重荷になってしまう心境なら、また別の時にすればいい。無理をせず働いてほしいと考えています。シフトについてもそうです。週に3回休みが欲しいなら、そういう働き方をすればいい。バーンアウトして訪問看護ができなくなったら、誰の幸せにもならないからです。それができる職場にするためにも、規模を拡大してきたんです。 当たり前のことですが、人によってできることとできないことがあり、考え方が違い、「でこぼこ」しています。私は、「でこぼこしているメンバーがたくさんいるが、関係性はフラットで、チームになると力を発揮する」組織を作りたいんです。パーフェクトなスペシャリストになってほしいわけではありません。自分の考えを押し付けたり、自分には技術がないと卑下したりするのは、ノーマライゼーションではありません。お互いを受け入れ、誰しも自分の可能性や能力を高められる状況でこそ、さまざまな意見や知恵が生まれてくると考えています。 ─ありがとうございました。後編では、採用や経営についてさらにお話を伺います。>>後編はこちら先を見越した採用とオープン経営の重要性 【利用者も看護師も幸せにする経営】 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部

幸せのかたち 〜ALSだって幸せだ!〜
幸せのかたち 〜ALSだって幸せだ!〜
コラム
2023年2月28日
2023年2月28日

幸せのかたち 〜ALSだって幸せだ!〜

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、体の状態に合わせて変化していく「幸せのかたち」を考えます。 体を動かせなくなって初めて気づく幸せがある 「幸せ(幸福)」とは、辞書によると、 心が満ち足りていること 「広辞苑」1) 人間は生きていくなかでさまざまな欲求をもち、それが満たされることを願うが、幸福とはそうした欲求が満たされている状態、もしくはその際に生ずる満足感である(後略) 「日本大百科全書(ニッポニカ)」2) とありますが、皆さんはどんなときに幸せを感じるでしょうか? ALSを発症する前の私は、仕事で疲れはてた後に冷えたビールを飲むひと口目の瞬間や、まだ薄暗いうちに海に入って日の出を見ながらサーフィンをしているとき、休みの日に家族で出かけるとき、息子と思いっきり遊んでいるときなどに、特に幸せを感じていました。 今の私は、体をまったく動かせず、声を出すこともできませんし、人工呼吸器を着けないと呼吸もできません。このことだけを聞くと、私はとびきり不幸なように思えるのでしょう。私もALSと診断されて間もないころは、将来の自分の姿を想像して、何て悲惨なんだと思っていました。いや正直、想像もつかなかったのが本音です。 しかし、体が動かせなくなって初めて気づく幸せもあるのです。確かに、できなくなったことも、不自由なことも、たくさんあります。しかし、だから不幸かといったら、そんなことはありません。「不便であること」と「不幸であること」は違うのです。徐々に動かせなくなっていく体に順応して「幸せのかたち」は変化していきます。 今の私は、動かない手足をときどき曲げ伸ばししてもらうだけで、気持ち良くて、幸せな気分になります。この感覚は、手足が自由に動かせたときにはわからないものでした。 また週1回は外出し、都会のコンクリートジャングルを抜けて、広い芝生がある公園でランチ(胃瘻からの経管栄養)をとります。皆さんにとってはただの公園かもしれませんが、ふだん家にこもっている私にとってはまるでニューヨークのセントラル・パークに行ったような気分です(行ったことはありませんが……笑)。 ALSになる前は、こんな些細なことで幸せを感じられるとは思ってもいませんでした。幸せとは日常生活でのギャップによって感じることができるのだと思います。そういう意味では、人一倍何もできない私は、人一倍ギャップを感じることができるのでしょう。 困難に対して鈍感になれる そして、人間は「鈍感力」と「適応力」という大きな力を持っています。 「鈍感力」とは、継続的に降りかかる困難などに対して鈍くなることで、上手に受け流し、ストレスをため込まない力です。 多くのALS患者は、症状がどんどん進行していき、月単位で体が動かせなくなっていきます。私も、発症当初の、利き腕である右腕が動かせなくなっていったときは強いストレスに襲われました。しかし、動かせない状態が続くと、その状態が当たり前になっていき、ストレスをあまり感じなくなりました。両腕ともまったく動かせない今では、動かせていたことが思い出せないくらい、動かせない状態が自然になっています。 このように、できない状態が続くと、その状態に慣れ、苦痛に感じなくなっていきました。一種の生体防御反応だと思いますが、周りが想像しているより本人は意外とつらくありません。(私の場合ですので、ALS患者さん全員に当てはまるわけではないと思いますが。) できなくなる状態に対応して、自分を変えられる 「適応力」とは、変わっていく環境に合わせて、自分の行動や考えかたのほうを切り替えて、うまく対応させる力です。 ALS患者は筋力低下に伴い、それまでできていたことが、徐々にできなくなっていきます。筋力低下のスピードは、ALS患者のなかでも個人差がありますが、急に何もできなくなるわけではありません。次にできなくなるであろうことを、それができなくなる前に予測して対応することができます。 私は、右手の指先から動かせなくなっていったため、左手で文字を書く練習を始めました。最初はまったくうまく書けず何度も挫折しましたが、毎日練習を続け、右手で文字が完全に書けなくなるころには、何とか左手で文字を書いて、カルテも書けるようになりました(まあ、下手すぎて、私にしか読めなかったのですが……笑)。その数ヵ月後には左手も動かなくなりましたが、そのころには音声入力装置を使ってカルテを書くようになりました。 「できなくなった。じゃあそこで諦めよう」ではなく、そこから何ができるのかを考えていけば、必ず道は見つかりました。たとえその道が険しく過酷な、綱渡りのような道であっても、最初の一歩さえ踏み出せれば、そこから道は続いていきます。 私がいちばん伝えたいこと ALSと診断された当初は、いったい自分はこれからどうなってしまうのか?と、不安と恐怖で胸がいっぱいでしたし、今振り返るとつらいこともたくさんありましたが、幸せなこともたくさんありました。 不安や恐怖が完全になくなることはないかもしれませんが、ALSという病気は、人それぞれ症状も進行するスピードも違うのだから、つらい未来のことを考えすぎてもよいことはありません。 そのつどできることを模索しながらやっていけば、何とかなるさ! コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版 【引用】1)新村出編.広辞苑.第7版.東京,岩波書店,2018.2)宇都宮芳明.「幸福」日本大百科全書(ニッポニカ),JapanKnowledge, https://japanknowledge.com/閲覧2023/01/13

訪問看護管理者が真にやるべきこと
訪問看護管理者が真にやるべきこと
インタビュー
2023年2月28日
2023年2月28日

訪問看護管理者が真にやるべきこと~スタッフ支援としくみづくりに注力する~

訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッション。訪問看護事業所運営が厳しい要因の一つに、管理者が何もかも担っている現状があります。第3回は、本当に管理者が注力すべき業務へ集中するための方策と、その一手である大規模化がなぜ進まないのかを考えます。 第2回「学び直しの機会を提供することが重要」はこちら>> ひとりが全部の機能を持っていることは望ましい姿ではない ─ これまでの話を振り返ると、人材採用難や看護師の学び直し機会の必要性、閉鎖リスクなど課題が多く、マネジャーや単体の組織では解決できないことも多いようです。管理者は、まず何を押さえるとよいでしょうか。 中原: まずは「顧客」を確保することでしょうね。顧客がいないと、ビジネスは回りません。訪問看護事業を始めるとき、利用者はある程度確保した段階から始まるんですか? ─ これもそれぞれです。地域の病院やケアマネジャーとのつながりがあって、最初から何人か獲得している場合もありますし、立ち上げ初期は顧客ゼロで、利用者開拓からの事業所もありますね。 中原: そこそこ顧客を持っていて、かつ、人が突然辞めて連鎖退職が起こることがないように、うまく回していく。やはりこれに尽きるのでは。でも、かなりの「無理ゲー(クリアが無理なゲーム)」だと私には思えます。そのことを覚悟して、始めることでしょうね。 乾: 「管理者がひとりで全部の機能を持っている」という話題もありましたが(第1回「人材採用難に立ち向かうために」参照)、私も他の業界にいた経験から、まさにそのとおりに見えています。一般の企業だと、稼ぐのは営業部が、金勘定は経理部が、採用は人事部がやる。それを、小規模の訪問看護事業所だと、管理者さんが基本やらなくてはいけない。そこが厳しいなと。 中原: おっしゃるとおりですね。本当にそうだと思います。 管理者はスタッフ支援としくみづくりに注力すべき 乾: ウィルさんもされているような、たとえば外部が提供する教育のツール利用や、大きなところに人事部門を引き受けてもらうなど、なるべく管理者の仕事を剥がすことが重要だと思います。そこがまた小規模では金銭的にも余裕がないとは思うんですが。 中原: そういうことでしょうね。全部やるのは難しい。落合さんはどうですか? 管理者にできることとは何でしょうか。 落合: そうですね、すべてをひとりがやるのは難しいなかで、やはり、スタッフに能動的に働いてもらうための心理的安全性の獲得。いちばん管理者が注力すべきところは、そこだと思います。 小規模事業所が多い理由は、直接管理をしているからだと私は思っているんです。ひとりが面倒をみることができる範囲はせいぜい5~6人だという、いわゆる「スパン・オブ・コントロール」を脱すると管理不能になって、結局5人ぐらいに落ち着いているのが実情なんじゃないかと。つまりは、管理者がすべて抱え込むマネジメントをやっている表れなんだと思っています。 聞いた話ですが、看護師は、教育・臨床を経ていくなかで、恥を感じがちで、自分で抱え込む人間が育つ傾向なのだそうです。加えて、自分から学ぶのではなく、「教育は受けるものである」という感覚も育ちがち。 先ほど出た話題(第2回「学び直しの機会を提供することが重要」参照)の、病院看護から訪問看護へのゲームチェンジを理解させる教育のなかで、そんな視点での支援をしないといけないんだなと思いました。教育は「与えられるもの」ではなくて自分から学習機会を活用していく、そのように行動が変わる支援です。管理者のマイクロマネジメントで動かすんじゃなく、能動的に動くことへのサポートですね。 スタッフが能動的に動けるように支えるマネジメントと、管理者だけで抱えずシステマチックにしくみを整えること。いちばん管理者が注力すべきはそこだと思っています。 中原: ありがとうございます。おっしゃるとおりだなと思いますね。 今後、訪問看護事業所の大規模化は進むか ─ 大規模化の推進が、訪問看護業界の喫緊の課題として上がっています。 中原: それはうなずけます。スケールを生かすのは一手ですね。 ─ ただ、非常にローカルなビジネスですので、直営だと狭い地域でしか成り立たない。落合さんが共同設立されたウィルさんのように、フランチャイズ化していろんな地域で運営できるモデルを構築されようとしている事業者もありますが、今はまだ大規模化の道筋はみえていないのが現状です。 乾: 私も落合さんに聞きたいのですが、訪問看護は、医療事業では特例的に営利法人が運営でき、資本力のある株式会社の参入もある。これから、たとえば買収が進んでどんどん成長するような存在が出てくるでしょうか。それともまだ今のような、小規模が大半の時代が続くと思いますか。 落合: 事業統合が増えるとは思いますが、医療・福祉の世界では、これまで市場統合がされていないんです。良い事例がいくつもあっても「それは○○市の○○事業所だから可能な事例でしかない」で終わっていて、それが繰り返されている状況なので、今後も大きく統合が進むとはあまり思えない。他業界のようには市場統合は起こらないのではと予想しています。 市場統合よりも「仲良くつながろう」がフィットする 落合: 統合というよりは、「仲良くつながろう」がフィットするのではと思っています。社会保障事業なので、どこで働いたって給料が大きく変わるわけでもないから、皆で仲良くやって、研修なんかも皆で作って一緒にやれば、それが業界全体の貢献にもなるよね、と。 中原: その「仲良く」とは、たとえば「今日うち人が足りてないんだけれど、貸してくれる?」もできるんでしょうか。 落合: それは難しいですね。登録しないといけないので。 中原: そうすると一つやりうる方法が、共通化できるもの、たとえば教育のコンテンツを「一緒にやりません?」的なことですね。 落合: そうです。ちょうど今、ウィルのグループでやりたいと思っていることがそれです。 診療報酬や介護報酬が改定されると、まず料金表が変わるんですが、料金表を1万3000の事業所で作るなんて本当に意味がない。誰かひとりが作って皆で仲良く使おうよと。 それから、5人以下の事業所が大半ということは、一つの職場の中には同期がほぼゼロなんです。それなら、エリアで同期の勉強会をしようよとか。 中原: いいですね。 落合: 隣の事業所をライバルと思わないほうがいいよねと思っているんですが、実際には人の奪い合いもあります。社会保障ですから、「うちこそは」と差別化して市場で競争するなんて、本来はそぐわないはず。そこに無理やり特徴をつくるとか、社会の形としてもビジネスの形としても有意義ではないことが実際には行なわれていて、自滅につながるんじゃないかと気になります。 大規模化とは業務を破綻させないしくみをつくること 乾: 訪問看護では大規模化のメリットがかなりあると思うんですけどね。 落合: はい、あります。大きく成長することを嫌う文化が根強い業界でもあり、大きな統合は難しいだろうなという感触ですが。 乾: 確かに医療・介護の領域だと、規模拡大イコール利己的な金儲けと誤解されるのか、資本主義的なものを嫌う風潮は確かにありますが。規模を大きくすることで、機能を本部でまとめて管理するですとか、できることが出てくるので、実用面ではすごく有意義だと思います。 中原: 金儲けというより、回るしくみを作ることなんですけどね。「最低ここまではみんなでやりましょう」のしくみにするほうが、建設的だと思います。 >>次回「訪問看護事業所の休廃止を防ぐ」はこちら 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版

ニャースペース
ニャースペース
特集
2023年2月22日
2023年2月22日

入浴介助時の足元って…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

入浴介助って長靴…?裸足…? 利用者さんの入浴介助。みんなは何を履いてるにゃ…? 裸足でやって足が濡れるのは嫌だけど、長靴もっていくのも大変にゃ 「浴室で入浴介助をするとき、みんなは何を履いているの?」という声が訪問看護師さんから聞かれます。確かに難しい問題です。長靴を持参して履く? 裸足で介助して、あとで足を拭く…? 長靴を全員分用意しているステーションもあれば、利用者さんに用意していただくステーションもあるようです。小さなことに見えるけれど、結構困りますよね。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

オンライン同行訪問の活用ポイント 基本研修にプラスすることで安心感アップ
オンライン同行訪問の活用ポイント 基本研修にプラスすることで安心感アップ
インタビュー
2023年2月21日
2023年2月21日

オンライン同行訪問の活用ポイント 基本研修にプラスすることで安心感アップ

「NsPace With(ナースペースウィズ)」は、多忙な訪問看護ステーションの新人教育をサポートするサービスです。現場経験やスタッフ指導経験のある看護師が、新任訪問看護師の訪問にオンライン同行するほか、訪問前の準備や訪問後のフィードバック、定期的な管理者への評価結果報告なども行います。 実際にオンライン同行訪問サービス(以下「オンライン同行」)を利用した「しもふり訪問看護ステーション」の経営者 木和田さんと、所長・管理者の木下さんにお話を伺いました。後編では、オンライン同行利用後の所感と活用方法についてお話しいただきます。 >>前編はこちら試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由>>オンライン同行を体験した文屋さんの記事はこちら「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記 株式会社 ユニメコム 代表取締役木和田 俊治郎さん調剤薬局の運営会社での取締役時代、訪問看護ステーションの立ち上げ責任者に。企業買収に伴い2015年に独立し、訪問看護ステーション運営会社である株式会社ユニメコムを設立。 しもふり訪問看護ステーション 所長・管理者木下 亜矢子 さん銭湯の番台や外来勤務の准看護師を経て、正看護師になるタイミングで訪問看護の道へ。 しもふり訪問看護ステーション看護師 8名、理学療法士 3名、作業療法士 4名、言語聴覚士 1名、事務 1名が所属(2023年1月時点)。 オンライン同行がスタッフの精神的サポートに ―2022年に、当時入職したばかりだった訪問看護師の文屋さんがオンライン同行を利用されています。実際にオンライン同行を利用してみて、いかがでしたか? 木下さん(以下敬称略): 本人もそう言っていますが、最初はオンライン同行の看護師さんとのコミュニケーションにかなり緊張している様子でした。慣れない職場でひとりだけ外部の人とオンラインミーティングをしている、という状況も発生するので、気を遣うことも多かったと思います。でも、回を追うごとにどんどんオンライン同行の看護師さんとも仲良くなって、慣れていきましたね。 人によって向き不向きがあると思いますが、文屋の場合は利用してよかったです。私にとって一番うれしいのは、サービスを利用した文屋が笑顔で「安心した」「心強かった」と言っていることですね。訪問看護師なりたての一人訪問は誰しも緊張しますし、初めて訪問看護の世界に飛び込むわけですから、普通は不安になったり、病棟とのギャップで苦しんだりします。 文屋が抱える不安は十分わかっていても、時間の制約があって私や他のメンバーが常に寄り添い続けることはできません。オンライン同行が精神的なサポートをしてくれて、よかったと思います。 右から木下さん、木和田さん、オンライン同行を利用した訪問看護師の文屋さん 管理者の方針が明確なら、意見の相違も「良い気づき」に ―サービス利用前は、木下さんの方針とオンライン同行の看護師の指導内容に差異が生じるのでは、というご懸念もあったと伺いました。実際に方針や意見の相違はあったのでしょうか。 木下: ありました。「オンライン同行の看護師さんの言うこともわかるが、しもふりではこうしてほしい」「この利用者さんの過去の経緯や背景を踏まえると、AではなくBにしたほうがいい」などと思ったことがあります。その際は、「私は管理者としてこう思うよ。あなたはどう思う?」と、文屋自身に考えてもらうことを意識しながら議論して、そこで出た結論を文屋から伝えてもらいました。 実際にやってみると、管理者としての方針をきちんと伝えられれば、意見が食い違っても特に困ることはないと思いました。オンライン同行の看護師さんの指摘が「そのとおりだな」と思った案件もありますし、第三者が入ることで、気づきや考えるきっかけが生まれてよかったです。 ただ、私と同行訪問の看護師さんとの間で文屋が板挟みにならないように、という点は意識していましたね。文屋と話し合って決めた結論がオンライン同行の看護師さんの意見と違っていた場合にも、「じゃあ〇〇のほうがいいね。そう言っておいて~」くらいの軽いトーンで伝えていました。管理者も同行する看護師さんも、どちらもあなたの味方なんだよ、というスタンスが伝わるように気を付けました。 木和田さん(以下敬称略): このように、木下が管理者として「自分の軸がちゃんとしていれば大丈夫」という考えで対応してくれたことは、経営者として本当にうれしいことですし、大きな成果だと考えています。オンライン同行を利用する前にイメージしていた「レベルアップ」はしっかり達成できたと思います。 オープンマインドな姿勢で臨むと学びが増える ―しもふり訪問看護ステーションでは、スタッフの方の意向も確認しながらオンライン同行の利用有無を決めていらっしゃいますが、人によって向き不向きはあると思われますか? 木和田: 本当に、プラスになるかマイナスになるかは「その人次第」という側面があると思います。例えば、過去のやり方を「絶対的基準」として捉えている人の場合、コンフリクト(対立)が起こりやすいですし、学びにつながりにくい。オンライン同行を使う方には、オープンマインドな姿勢が求められると思います。 木下: そうですね。オンライン同行の看護師さんに対して、自分の意見や考えをきちんと言えることも大事だと思います。なかには、何か意見を聞かれたときに「特にありません」という回答ばかりになる方もいらっしゃると思うのですが、そういう方は向いていないというか、「まだ早い」かもしれないですね。アセスメントができない看護師さんに対しては、オンライン同行を始めるより先に教えることがあると思います。 教育の土台があってこそ「あと一押し」として活用できる ―最後に、他の訪問看護ステーションがオンライン同行を利用する際のアドバイスをお願いします。 木和田: 当ステーションにはオンライン同行がマッチしましたし、今後も使っていこうと考えています。ただ、「オンライン同行だけ」を研修とするのはあまりよくないと思いますし、教育体制をきちんと構築してからの利用がいいのではないでしょうか。所属しているステーションの方針が不明確なまま突き進んでしまうと、目指す方向を見失いやすいでしょう。 まずは訪問看護ステーションとして数ヵ月単位の研修プログラムを組んだうえで、プラスαとしてオンライン同行を使うのがいいんじゃないかなと思います。不安な部分をあと一押ししてもらう、というイメージですね。 ―ありがとうございました。 編集・執筆: NsPace編集部 ※本記事は、2022年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。 *  *  *  *   ■ナースペースウィズ訪問看護スタッフ向けオンライン同行訪問サービス。訪問看護の現場景観と新任看護スタッフ指導経験のある看護師が同行訪問OJTをオンラインで支援

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