2023年1月24日
これって冬季うつかも? 精神科医が注意を促す季節性感情障害の特徴と対策【医師執筆】
冬になると、こんなことありませんか?・体が怠くて重い・どれだけ寝ても日中に強い眠気に襲われる・普段よりも甘いものや炭水化物の欲求が高まる
もしかしたら、その症状は冬季うつかもしれません。
冬季うつとは?
別名、季節性うつ病、または季節性感情障害とも呼ばれています。呼び方はさまざまですが、基本は同じ疾患です。今回は「冬季うつ」という呼び方で統一します。
冬季うつの特徴
冬季うつの具体的な症状とは?うつ病との違いは?
著しい体重減少や不眠症状を呈することが多い典型的なうつ病に対し、冬季うつは睡眠過多と食欲亢進を特徴とします。また、うつ病では抑うつ気分や興味や喜びの消失などの気分変化を訴える患者さんが多く見受けられますが、冬季うつでは意欲低下や倦怠感などを主の症状として訴える方が多いです。
罹りやすい人とは?発症する時期は?
好発年齢は20代前半の女性に多く、日照時間が短縮する秋から冬に症状が出現し、翌夏には症状がまったく認められない寛解(かんかい)状態となることを繰り返します。
もし症状に当てはまったら?
「冬場は眠くてなかなか起きることができず、眠気が取れない」「秋から冬は特にお腹がすいて食べてしまう」これらの自覚症状があってもすべての方が冬季うつとは限りません。不眠と過眠を繰り返すうつ病の方、双極性感情障害、そして、季節に関係のある心理社会的ストレス(例:毎年冬になると仕事が多忙になる)に影響された一過的な症状の可能性もあります。もし周囲の利用者さんや訪問看護師の中に、睡眠過多や食欲亢進症状でお悩みの方がいれば、安易に予想される診断名を伝えるのではなく速やかに精神科への受診を促してください。日常生活や社会生活に支障が出ているのであればなおさらです。
冬季うつの原因とは?
原因の一つに、日照時間が精神症状に影響すると考えられています。なぜ日照時間が睡眠過多や食欲亢進などの症状を引き起こすのでしょうか。日照時間が精神症状に影響する理由は2つあります。
(1)セロトニンの不足
1つ目がセロトニンです。セロトニンとは、ノルアドレナリンやドーパミンと並んで三大神経伝達物質の一つです。睡眠、食欲、気分の調整を担う重要なホルモンで、日光をはじめとした強い光がセロトニン神経を刺激することで分泌が活性化されます。冬季うつの方は日照時間が短くなる冬場に脳内のセロトニンの分泌量が少なくなり、症状が引き起こされると考えられています。
ここからは豆知識ですが、セロトニンは代謝されメラトニンに変化していきます。メラトニンは睡眠を司るホルモンです。セロトニンが不足すると、生成されるメラトニンも減少するためスムーズな入眠が困難となるリスクが高まります。過眠だけではなく睡眠リズム障害を呈するのは、メラトニンの調節障害によるものです。
(2)ビタミンDの不足
2つ目がビタミンDです。皮膚に直接日光が当たると、ビタミンDが生成されます。
ビタミンDはセロトニンやドーパミン生成には不可欠な物質です。少し乱暴にまとめれば日照時間が少なくなると、体内のビタミンDレベルが下がり、その影響で脳内セロトニン量が少なくなるものと心得てください。
ビタミンDが精神症状に影響するということは少し意外に感じられる方もいらっしゃるかもしれません。実際うつ病患者さんと体内のビタミンDレベルには関係があるとする論文もあります。
3つの対策方法
では、冬季うつの対策にはどのような方法があるのでしょう? 3つの対策をご紹介したいと思います。
(1)日光浴
一番手軽な対策方法は日光浴です。太陽光の重要性はここまでの説明でご理解いただけたでしょう。しかし、紫外線を浴びることによる肌への影響(光老化作用)を無視することはできません。悩ましいところですが、私は患者さんに1日に最低15分は太陽光を浴びましょうとお伝えしています。可能であれば午前中がさらに望ましいです。
太陽光を浴びると言っても天候に左右されてしまう可能性もあるため、最近では太陽光と同じように光を照射するデバイスも簡単にネットで購入することも可能です。
(2)運動
2つ目は運動です。運動によってセロトニンを増やす効果が確認されています。ただし運動強度に注意して行いましょう。ヘトヘトになるまでの運動量はおすすめしません。「あーよく動いたなー」と自覚するレベルを意識しましょう。運動の種類は基本問いません。
(3)炭水化物は質の高いものを摂取
3つ目は質の高い炭水化物を摂ることです。炭水化物はセロトニンの原料です。冬季うつの症状の一つである食欲亢進作用は、不足したセロトニンを補うために炭水化物を積極的に摂取しようとする代償行為とも考えられます。そこで注意しなければならないのは、炭水化物の質です。
一言に炭水化物といっても、カップラーメンや精製小麦を使用したパンなどの加工食品は健康面を考慮しても避けたいところです。おすすめは、芋類や豆類、玄米などです。
対策する上で精神科医からのアドバイス
もしかしたら、この記事を読んでいる方の中には、「対策方法は知っているけど、どうにも行動に移せない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
では、こんなマインドセットはいかがでしょうか。眠くなるのは身体の反応だと捉えて、睡眠時間を1時間程度はプラスで見積もるという考え方です。1時間を捻出する難しさは重々承知していますが、困難は分割してしまいましょう!
例えば、日々の生活の中で午前中30分、午後30分なら捻出できそうな気がしませんか?もちろん、15分を4回でも結構です。何気なく見てしまうSNSチェック、暇つぶしで見てしまう動画配信サービスなどなど。隙間時間を意識すればトータル1時間は案外あっさりと捻出できます。日常生活で行える工夫は無限大ですよ。
・あぁ寝過ぎてしまった・今日も朝から時間を無駄に過ごしてしまった・また食べ過ぎてしまった
そうしたネガティブな想いから、「もうどうでもいいや」と他の時間まで投げやりな過ごし方になってしまったり、暴食してしまったりする方が心身に悪影響を及ぼします。「よく寝たから体力が充電できた。パワー満タン!よく寝た分は日中に取り返すぞー」とマインドセットを切り替えて行きましょう。
不安であれば精神科へ気軽に受診をしましょう
冬季うつはQOLに大きく影響する疾患です。しかし、正しい対策や治療で事前の予防や症状改善が望める疾患でもあります。自力では乗り切れないことも専門職とともにあれば、新たな解決方法が見つかることもあるでしょう。症状に苦しんでいる方は、ためらわず精神科を受診していただければ幸いです。
著者茂木 千明(もぎ ちあき)精神科医 美容皮膚科医精神科専門医(精神神経学会認定) 精神保健指定医東邦大学医学部医学科卒業。都内の精神科救急病院に従事し、小児期から老年期まで幅広く診療を行い、研鑽を積む。その経験から、身体機能や外見が心に及ぼす影響に着目し、美容医療にも従事する。現在は診療の一環として、リストカット跡の修正アートメイクなどを積極的に行う。自身の名前にある通り「千倍、人を明るくする」をモットーに、患者さんに笑顔が戻るよう精神療法を中心に診療をしながら、講演や執筆活動を全国で行う。編集:合同会社ヘルメース
【参考】〇 Medical Hypotheses. Volume 83, Issue 5, November 2014, Pages 517-525,「Possible contributions of skin pigmentation and vitamin D in a polyfactorial model of seasonal affective disorder」https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S03069877140033512023/1/6閲覧