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訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
インタビュー
2023年4月4日
2023年4月4日

設立当時を振り返る 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会

8期目を迎えた福岡県のレスピケアナース(管理者:山田真理子氏)。2022年12月現在、看護師はパートを含め20名(正規スタッフ15名人)所属。加えてリハビリスタッフ10名、事務4名という大所帯です。しかし、設立当初のメンバーは数名のみ。建物の一角、「台所」からのスタートでした。初期から在籍したメンバーが「台所メンバー」と呼ばれるゆえんです。今回の座談会では、台所メンバーの皆さんに、立ち上げ当時や規模が拡大していく過程を振り返っていただきました。 >>レスピケアナース管理者 山田真理子氏 インタビュー記事はこちら規模拡大への想いと理念浸透の秘訣【利用者も看護師も幸せにする経営】 神﨑 喜代子さん(看護師) 立ち上げメンバー。管理者山田さんとは学生時代からの付き合い。看護師歴18年、訪問看護歴は7年目。レスピケアナース入職前は、大規模病院の心臓外科や消化器内科などで、終末期の患者に向き合う看護を経験。長崎県の総合診療クリニックにて、主任の経験も。 堀川 佐和子さん(事務)立ち上げメンバー。山田さんとは福岡病院の地域連携室にて出会う。レスピケアナースの前身となる訪問看護ステーションからの参加。平行して病院の連携室にも勤めていたが、2015年に退職し、レスピケアナース立ち上げに携わることとなった。 亀谷 涼子さん(看護師)レスピケアナース稼働から4ヵ月後に入社。訪問看護歴は15年程度。前職中、さらなるやりがいを求めて転職活動をしていたところ、Facebookで情報発信している山田さんを知る。ともに働きたいとの希望を伝え、レスピケアナースに転職した。大久保 奈央子さん(看護師)2016年に登録看護師として入職、現在は楽らく療養通所「プルーンベリーハウス」の準社員。小児科外来で看護師をした後、一時専業主婦に。長子の小学校入学を機に知人から山田さんを紹介され、訪問看護の世界に入る。 ※文中敬称略 レスピケアナース入職のきっかけ ─まずは、皆さんが集まってひとつの事業所をつくることになった、そのきっかけを教えてください。管理者の山田真理子さんとはどのような出会いだったのでしょうか。 神﨑: 私は、山田さんとは高校と准看学校の同級生なんです。名簿順では隣り合わせでしたね。学校を卒業した後の配属先でも、病棟が隣り合わせ。さらにその後、私は地元に帰って就職と結婚をしたのですが、なんと結婚相手が山田さんのおばあちゃんの家の裏に住んでいて(笑)、なんだか不思議な縁がありましたね。 そもそもは友人の就職のために山田さんにお声がけしたのですが、友人が引っ越しをすることになり、なぜか私が働くことになりました。それまで訪問診療の経験しかなかったので、訪問看護の世界を知ってはいたものの、自分が携わることになるとは思っていませんでしたね。 堀川: 私が山田さんや神﨑さんと知り合ったのは、山田さんがレスピケアナースのひとつ前の訪問看護ステーションを立ち上げたときです。そこで「事務のお手伝いをしてくれないか」と声をかけていただいて。しばらくは、日赤病院の連携室にもパートとして所属し続けていたのですが、2015年には完全に退職し、その半年後に山田さんや神﨑さんたちとレスピケアナースを立ち上げました。 レスピケアナースの始まりの場所となった台所 亀谷: 私が山田さんのお名前を知ったのは、福岡市南区の研修会ですね。転職活動中にはFacebookでの発信も覗かせていただきました。そうしているうちに、なんだか自分も山田さんと一緒に働いているような気持ちになっていまして(笑)。なにか通じるものがあったんでしょうね。「ぜひご一緒させていただきたい」と私から山田さんに連絡し、入職しました。転職してよかったなあと思いつつ、充実した日々を送っています。 大久保: 私は入社してもうすぐ7年になるかな、というところです。山田さんについては「すごい人がいるから、訪問看護をやってみないか」と友達に誘われまして。面接の時、訪問看護の経験がないことが不安だと伝えたら、「血圧が測れるなら大丈夫だから、おいで」と言ってもらって、入職しました。 神﨑: そうそう。私も大久保さんも、入職当時は人工呼吸器の管理なんてやったことがなかったんですよね。一から覚えていって、できるようになりました。大久保さんはすごくきっちりしている人で、管理やケアの方法を記録してしっかり勉強して、丁寧に取り組んでいたことを思い出します。 依頼を断らず、常によりよいケアを目指して ─レスピケアナースが規模を拡大できた理由は何だと思われますか? 堀川: 立ち上げ当時、とにかく新規依頼が多かったんです。それに対して十分な対応をするためにも、スタッフの増員は急務でした。 神﨑: なにせ、当時は訪問する看護師が、私と亀谷さんの2人しかいなかったんですよね。20時になっても訪問が終わらない。亀谷さんと電話で、「全部終わった?」「全然終わってない」「やっぱり?私も。じゃあね」などと、慌ただしくやり取りしながら回っていました(笑)。事務関連の業務についても、外注ができるわけもなく、自分たちでやるしかありません。苦手でも無理矢理ですね。 亀谷: そんなときもありましたね(笑)。どんなに利用申し込みが多くても、断ることはありませんでしたからね。すごいことだと思っていました。たとえ他の事業所で断られるようなケースでも、うちでは断りませんでしたから。 最初はバタバタしましたが、そうやっていくうちに、利用者さんからは「ありがとう」って言っていただいて。それに、外部に対してもレスピケアナースの価値をうまくアピールできていたと思います。必要なことを医師やケアマネジャーにフィードバックして、よりよいケアに繋げる。一つひとつ着実にやっていくことで、新規依頼も呼び込めます。そういった、良い循環をつくれたことが大きかったんじゃないでしょうか。 「理想の看護」を追い求めた結果が規模拡大 ─レスピケアナースはとても風通しが良いように見えますが、そうした職場環境も成長の要因になったのでしょうか? 大久保: もちろん、関係していると思います。不安なことがあっても、カンファレンスや情報共有の場ですぐに解決できました。しっかりコミュニケーションをとっていくとスタッフ同士いい関係を築きやすくなりますし、とても働きやすくなるんです。 カンファレンスではレスピケアナースとしての数値目標も共有されていましたので、自分も一緒になってその数字を目指していこうという気持ちにもなる。「貢献したい」と思えたんです。個々のモチベーションアップにも繋がりますし、規模の拡大という結果にも繋がったのでは。きっと、「みんなで同じ目標を持つ」ということが、自然にできていたんですよね。 亀谷: いまも、みんなが意見を聞いてくれて、シームレスに話せる環境ができあがっていますね。意思決定も早い。「今後どうしたいか」がしっかり伝わり、全体に浸透するんです。山田さんが持つ目標というのも、単純に規模を大きくすることがゴールではないとわかります。訪問看護はあくまでも入り口に過ぎない。地域の人々の困りごとを減らし、生活しやすい場所に整えていきたい、という確たる目標がある。そして、みんながそれについていこうとしています。 神﨑: 山田さんは管理者としての視点で組織の規模拡大を見据えていたと思いますが、私自身は規模拡大を強く目指していたわけではありませんでした。ただ、ご依頼が増えるぶん、やはりそれだけの器は必要です。無理に数をこなし続ければ、看護師として働き続けることはできません。仲間が無理をしなければならないという状況にあって、どうすれば問題解決できるのか、やりたい看護を実践するにはどうすればいいか……ということを考えたら、結果的に規模の拡大が解決策であった、ということです。 「自分たちがどんな看護をしたいのか」というのを意識するのは、とても重要ですね。それは、事業所の収益や個々の報酬といった形でもいいし、利用者さんやそのご家族が喜んでくださる姿でもいい。それらを具体的に表現することはできないとしても、スタッフの間で少しずつ意見交換し、想いを共有しながらやってこられたからこそ、自分たちの理想の看護に近づくことができた。その結果がいまの姿なのではないかと思います。 >>後編に続く規模が拡大してどうなった? 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部 ※本記事は、2023年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。

管理業務への処方箋
管理業務への処方箋
特集
2023年4月4日
2023年4月4日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その1:まずすべきことは何か

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第10回は、クレームを受けたとの報告がスタッフからあったとき、管理者としてまず何をすべきかについて考えます。 はじめに 「利用者からのクレーム」は、ないに越したことはありません。しかし、クレームがあったときに、管理者として適切な対応ができるよう、事前に考えておくことは有用です。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 管理者としてまずすべきことは何か 講師このケースで議論したいことは、CASEのタイトルにもあるようにクレームを受けるスタッフをどうするかです。まず管理者としてやるべきことは何でしょうか。 Aさん注2桐山さんとの面談が必要です。「訪問に来なくてもよい」と言われた状況を確認したいです。CASEに書かれた情報だけではわからないことが多いです。 Bさん桐山さんとの面談の後は、利用者や家族のところへ伺い、桐山さんからほかの看護師に変更してほしい理由を確認します。その内容から桐山さんと一緒に訪問内容を考えるなどして、解決できることかどうかを判断します。ルート組み替えの場合、誰に行ってもらえばいいか等も考えます。 Cさんルートの組み替えはほかのスタッフへの影響もありますし、桐山さんの今後も考えると、できることなら桐山さんに訪問を継続してもらいたいと私は思います。そのためにもまずは、桐山さんの利用者へのケアを同行訪問で確認したいです。そのときに、看護技術のチェックリストを用意しておいて、できるだけ主観的ではない指標で確認したいです。これができると桐山さんへのフィードバックもやりやすいです。 講師「クレームがあった」と報告を受けたときの、初動対応の案が出てきました。まずは事実確認が大事ですね。桐山さんと利用者、まずはこの二者からの事実確認が大切になります。そして看護技術についてチェックリストを使って確認するという意見も出ました。 クレームを発生させないために管理者ができることは何か 講師初動対応時にやるべきことがいくつか出ました。これとは別に、Cさんは桐山さんに訪問を継続してほしいという意見を持っていましたね。このことについてもう少し伺ってもいいですか。 Cさんクレームがあったときの初動対応としてはみなさんの発言のとおりだと思います。その上で、管理者は、ステーション全体としてクレームが生じないような取り組みもすべきだと思います。利用者から「訪問に来ないで」と桐山さんが言われたことは事実かもしれませんが、ケースの状況を考えてみると、クレームを受けた原因が桐山さんだけにあるとは思えません。桐山さんは入職して3ヵ月です。まだまだ支援が必要だと思います。 次回は、このクレームをスタッフナースの成長支援の機会ととらえ、管理者として支援を行うために、まずは「桐山さんが抱えている問題」について考えていきます。 >>次回「その2:桐山さんが抱えている問題は何か」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com編集:株式会社メディカ出版

訪問看護アワード2023受賞エピソード
訪問看護アワード2023受賞エピソード
特集
2023年3月28日
2023年3月28日

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。厳正な審査を経て、受賞作品が決定しました。大賞1件、審査員特別賞4件、入賞6件のエピソードを一挙にご紹介します! 「七夕の奇跡」 投稿者: 石井 啓子(いしい けいこ) さん 公益社団法人山梨県看護協会ますほ訪問看護ステーション(山梨県) 昨年7月7日、山間地域の鈴木きくよさんの訪問に、笹の枝を持っていきました。きくよさんは転倒を機にベッド上の生活となりました。認知症もあり簡単なコミュニケーションがとれるような状態でしたが、気配りが細やかで、ケアの後は必ず精一杯の笑顔で「ありがとう」と言ってくれました。その日はケアの後、持ってきた笹の葉を見せ、「今日は七夕ですよ。何か願い事を書いてみますか?」と私の持っていたノートを差し出すと、しばらく考えた後、震える手でぺンを持ちノートに『喜代子さん ありがとう』と書いてくれました。喜代子さんはいつも一生懸命に介護してくれている1人娘さんです。ケア後娘さんにノートを切って渡すと娘さんは「え?字が書けるんだね」と涙を流しました。先日老衰により自宅で亡くなられたきくよさん。娘さんときくよさんの身体を綺麗にし、気に入っていた洋服に着替えてもらいながら、あんな事があったよね等思い出話をしていると、娘さんは「あの七夕の日は奇跡だったよね。お母さんが書いた最後の字だったし、ありがとうなんて書いてくれて…私の宝物です」と言ってくれました。私にとっても宝物のようなエピソードです。 2023年2月投稿 ・関連記事大賞エピソード漫画化!「七夕の奇跡」【つたえたい訪問看護の話】 「担当看護師からパパママ友へ」 投稿者: 櫛野 秀原(くしの しゅうげん) さん ウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都) 私は今まで小児看護の経験がなく訪問看護に就いてから初めて経験しました。小児の利用者の中でも初めて担当した生後3か月の鎖肛のお子さんが一番印象に残っています。3か月という月齢に加えて、ストーマがあり、正直なところどう介入したら良いのだろうと不安になっていました。ストーマのケアの方法や発育発達について調べたり、ママも初めてのお子さんということもあり育児のことも一緒に悩みながら、試行錯誤していました。チーム内の助産師にも育児相談などの介入をしてもらい、すくすく成長し無事にストーマを閉鎖することができ卒業になりました。私自身に子供ができたときにママから育児本やグッズを教えてもらい、一人の父親として、多くのことを学ばせてもらいました。今では自分の子供と同じ保育園に通っていてパパママ友になりました。その子の成長を見ていると、まるで親戚のおじさんになった気持ちです。こうして卒業した後も、その子の成長を実際に目で見て知ることができることが、訪問看護のやりがいの一つだと感じます。担当した子や家族に関わったことで看護師として、一人の人として成長させてもらったと感じており感謝の気持ちでいっぱいです。 2023年1月投稿 ・関連記事受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 「利用者さんは私の先生」 投稿者: 中島 絵理子(なかじま えりこ) さん 一般財団法人同友会 藤沢訪問看護ステーション(神奈川県) 私の初めての受け持ちであり、忘れられない利用者さんは、小学校の元教員Bさん(男性)でした。60代という若さで難病を患っており、教員をリタイアして間もなくの発症でした。Bさんの亡くなられている奥様も元教員で、私の兄の担任の先生をしていた経緯もあり、地元で仕事をするということは運命のような巡り合いがあるのだな、と新人の頃から私は訪問看護に魅了されていました。長女が小学校に入学してから、軽いいじめに遭ってしまった事がありました。幼稚園から小学校という、自立への階段を登る第一歩で躓いてしまった長女が私は不憫でたまらなくなり、Bさんへ相談をしました。Bさんは難病で上手く喋ることができず、唾液の誤嚥もあり、咳込むことも多々ありました。そんな中、ゆっくりゆっくりと、子供を見守ることの大切さ、子供の持っている強さを教えてくれました。私はその言葉の暖かさに涙が出ました。看護というものは与えるだけではない、人生の先輩から与えられる物も大きいのだということを痛感しました。今は天国にいるBさん。優しいあの笑顔が忘れられません。私の子育て見守っていて下さいね。ありがとうございました。 2023年2月投稿 ・関連記事受賞作品漫画「利用者さんは私の先生<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 「そうだ、訪看がある」 投稿者: 梁井 史子(やない ふみこ) さん 愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道) 2年前、乳がんが再発した。転移もあった。3年前に手術・抗がん剤化学療法・放射線治療をして、やっと全て抜けた髪の毛も以前に近いほど伸びそろって、訪問看護の仕事もがんばっているそんな時に診断された。最初に病名を告知された時よりショックだった。再手術の後の抗がん剤治療が予定され、独身・独居で、近所に80代の年老いた母親が住んでいるだけで、日常生活での介護をしてくれる人など近くにいなかった私は不安で孤独でしかたなかった。その時私は「そうだ、訪看がある」と思った。私は以前勤務していた訪看ステーションに訪問看護を依頼した。結局抗がん剤の副作用に襲われ10ヶ月もの間休職した。激しい倦怠感や痛み、肝機能異常、糖尿病発症、全身の浮腫、皮膚炎、そして死への恐怖などとにかく苦しい日々だった。そんな毎日を支えたくれたのは、訪問看護だった。訪問看護は、とにかく心強く、やさしく、頼りになった。今現在も訪問看護師として働く私を救ったのも救うのも訪問看護だった。そして今は一人でも多くの利用者さんを救いたいと、改めて思っている。 2023年2月投稿 ・関連記事受賞作品漫画「そうだ、訪看がある<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 「冷え性なのに… 」 投稿者: 川上 加奈子(かわかみ かなこ) さん よつば訪問看護リハビリステーション(神奈川県) 100歳のKさんはいつも「出来ることは自分でやらないとね」と着替えなどもお手伝いなしで頑張られる方でした。あの日も体温計を挟む為に服を下から捲り始めたのですが、2枚3枚と捲っても中々肌は見えてきません。5枚目でようやくお腹が出てきたのですが、Kさんは息も絶え絶え。暫く沈黙の後、2人で「タケノコみたい!」と大笑いしたのを覚えています。そんな寒がりのKさんに体温計を挟もうとした時の事です。「ひゃっ!」冬場、中々温まらない冷え性の私の手がKさんのお腹に触れてしまったのです。私は「ごめんなさい!」と慌てて手を引っ込めようとしましたが、Kさんは意外にも私の手をがっしりと掴んで自分のお腹に押し当てたのです。そして「そのまま動かないの!ここが1番温かいんだから」と。私はびっくりすると同時に、自分の体温で私の手を温めようとして下さるKさんに、亡くなった母が重なり、目頭が熱くなったのを覚えています。そんなKさんとの思い出です。 2023年1月投稿 ・関連記事受賞作品漫画化!「冷え性なのに…」【つたえたい訪問看護の話】 「爪切りを通して」 投稿者: 古橋 笑生(ふるはし えみ) さん ひだかK&F訪問看護ステーション(埼玉県) Mさんはケアが終わるとすぐに「はい、またね」と切り上げてしまう節がありました。ある日Mさんの足の爪が伸びており、Mさんに爪切りを提案しました。すると「そんなことお願いしてもいいの?すごく助かるよ!!」と喜び、その後「今日爪切りお願いできる?」と頼まれることや、家族や日常生活での心配事など想いを話してくれるようになりました。しかし、徐々にMさんの状態が悪化していきました。福祉用具等について私が提案すると「よく見てるね…そうだね、そろそろ必要かもしれないね」と導入を受け入れてくれました。また、「本当に良く見てくれるんだ、少し違っただけでもすぐ気づいてくれて…」と笑顔で話して下さいました。残念ながら、昨年の暮れにMさんは急逝されました。最後の訪問時、自分の体調が悪い中でも奥さんを想う気持ちを話してくれました。たった1つ、『爪切り』という何気ないケアがMさんからの信頼を得るきっかけとなりました。 2023年2月投稿 ・関連記事受賞作品漫画「爪切りを通して<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 「104歳の日常」 投稿者: 長尾 弥生(ながお やよい) さん 白川訪問看護ステーションこだま(岐阜県) 訪問看護と言うと介護度の高い人や、医療依存度の高い人が使うイメージで少し敷居が高い気がするかもしれない。もちろん医師の指示書は必要であるが、訪問看護など必要ないと言う医師はほぼいない。訪問看護は医療的な処置は勿論、人生の最後のケアもおこなうが、介護指導、介護相談、病気の予防、家族支援まで多岐にわたる。私達のステーションの最高齢104歳の男性。かれこれ20年あまりのお付き合いになる。高齢者アパートに一人暮らしで、通所介護、ヘルパーの支援を受けているものの、身の回りの事はほぼ自立。マイペースな毎日が故に、エピソードが盛り沢山。決してアルコール中毒ではないが、お酒を飲んで人と話す事が大好きで、朝から一人で飲酒をされ呂律が回らない事もしばしば。訪問の度に一升瓶と缶ビールの数を数えるのも私達の仕事のひとつ。尿瓶の隣にあじのみりん干しが置いてあるが、本人が気にならなければそれでいい。はちゃめちゃな日常であるが、この日常はこの人にとって生きる力である。訪問看護とは病気を治すのではなく、その人の生活に寄り添い人生を支える仕事だと思う。その事を教えて下さった104歳の日常に感謝したい。 2023年2月投稿 ・関連記事受賞作品漫画「104歳の日常<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 「きっかけはポーカー」 投稿者: 服部 景子(はっとり けいこ) さん 愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道) 受け持ち利用者さんへ入浴を促しても「入りません」と拒否をされ、私では駄目なのかと落ち込む日々。ある日ふとテーブルにあるトランプが視界に入りました。「今日は二人でトランプしませんか?」と声をかけると意外にも「いいよ」と返事が。それ以降、ケアの後にポーカーをするのが定番となりました。政治、スポーツ、昔話など色々話しながらの真剣勝負、五分五分の戦いです。それから数ヶ月後、突然「頭洗ってくれる?」と声をかけられました。嬉しくて嬉しくてステーションに戻ってすぐ、仲間やケアマネさんに話し、皆で喜びを分かち合いました。訪問看護は利用者さんのご自宅にお邪魔してケアをさせていただく仕事です。利用者さんのテリトリーに入っての看護ですから気を遣う事も多い一方、利用者さんの生活や嗜好や信条に触れ易い環境下でケアをさせてもらえる喜びや楽しみも沢山あり、訪問看護の醍醐味なのだと感じた出来事でした。 2023年2月投稿 ・関連記事受賞作品漫画「きっかけはポーカー<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 「ちょっと早めの金婚式」 投稿者: 村田 実稔(むらた みのる) さん ウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都) 結婚50周年を迎える夫婦に対し、娘さんと作戦をたてサプライズ金婚式を行った話。尿管癌末期で病院から自宅に帰ってきたご主人。はじめは家の中を自由に動いていたが、病状の進行と共に、1日の大半をベッドで過ごすようになっていった。その頃奥様より「もう少しで結婚50周年なのよ」と一言があり、どうにかしてお祝いをしてあげたいと考えた。そこで、近くに住む娘さんと相談をし、急遽サプライズの自宅金婚式を行うこととした。計画をした1週間後、黄色や白の花がたくさん入った大きな花束と一緒にお祝いをした。前日はずっと横になっていたご主人であったが、この瞬間だけはお座りになって笑顔でピースする姿まであった。食欲もまったくなかったのにこの日だけは一杯のビールとお寿司をつまんだとか。そして、その一週間後にお看取りとなった。奥様からは「金婚式行えてよかった。悔いが残るところだった。」との声をいただくことができた。 2023年1月投稿 ・関連記事受賞作品漫画「ちょっと早めの金婚式<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 「新任訪問看護師からの学び」 投稿者: 佐藤 理恵(さとう りえ) さん 一般財団法人同友会 藤沢訪問看護ステーション(神奈川県) 私の勤務する訪問看護ステーションは、スタッフの平均年齢が50代、訪問看護師歴10年以上とベテラン揃いの事業所です。そんな事業所に昨年30代の新任訪問看護師が採用され、私が教育担当を任される事になりました。新任を迎え入れるにあたり、「今までの看護経験を活かし、その人らしい看護が実践できる看護師」を育成したいと意識して取り組んでいきました。訪問看護師としては新人でも、看護経験は10年あります。彼女が実践してきた糖尿病やフットケアの知識と経験が発揮できるような受け持ち利用者の選定を行い、自信をもって単独訪問ができるように進めていきました。また彼女が主催の勉強会を実施した事で、スタッフの意識も変わり、今では全員が糖尿病やフットケアの視点をもって利用者と関わっています。彼女の存在がとても良い刺激となっています。まさに「教育」とは「共育」であると実感しています。    今後も成長し合える職場づくりを目指していきます。 2023年2月投稿 ・関連記事受賞作品漫画「新任訪問看護師からの学び<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 「人生最高のラブレター」 投稿者:高倉 陽子(たかくら ようこ) さん 帝人訪問看護ステーション株式会社 望星台訪問看護ステーション厚木(神奈川県) 間質性肺炎で在宅酸素導入中。米寿間近で、ほぼ寝たきりの生活レベルでありながら、スマホをサクサク使いこなす患者様でした。「今日はギャル?それとも熟女が来たの?」など、毎回どの看護師が来るのか想像して楽しみにされていました。こちらから見るととても仲良し夫婦なのに「看護師さんが来ると、夫婦の会話が弾みます」とユーモア溢れるチャーミングな患者様でした。病状は徐々に進行していきます。医師から余命3ヶ月と宣告され、間もなく「苦しい。こんなに苦しいなら死にたい」と発熱するたびに肺へのダメージが顕著に現れはじめました。「最期まで家で看取りたい。でも苦しむ姿を見ていられない。自分の介護に自信がない」。奥様の葛藤のサポートも行って参りました。呼吸困難で会話は出来ず、筆談も手が震えて難しくなっていました。死後、亡くなる前日にスマホに残した奥様宛てのラブレターを息子様が発見しました。「かあさんへ。色々面倒かけました。本当にありがとう。余生を楽しんで慌てずにね。出来れば次も結婚して下さい」。粋な計らいに感無量でした。素敵なご夫婦の人生に寄り添えた事。在宅看護ならではの貴重な経験でした。 2023年2月投稿 ・関連記事受賞作品漫画「人生最高のラブレター<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 受賞された皆さま、おめでとうございます! 今後、「みんなの訪問看護アワード」表彰式のレポートやエピソードの漫画記事公開も予定しています。そちらもぜひご覧ください。 編集: NsPace編集部 [no_toc]

明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
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2023年3月28日
2023年3月28日

【セミナーレポート】後編:装具を選ぶポイントとケーススタディ-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応-

2022年12月16日、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「明日から生かせる!ストーマトラブルへの対応」を開催いたしました。講師は、急性期病院でストーマ管理を長きにわたって経験し、現在は訪問看護ステーションを開設している「皮膚・排泄ケア認定看護師」の原 慎吾さんです。 本記事では、前後編に分けてセミナーの一部ご紹介。後編では、適切な装具の選び方や、ケーススタディの内容をまとめています。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師看護師として急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。その中で、トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、その課題を解決すべく独立。現在は「看護のスペシャリストを在宅へ」をコンセプトに掲げ、病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開。2021年には訪問看護ステーションも開設している。 目次 1. 選択の基本  (1)皮膚保護剤(面板)の組成  (2)装具の形状 2. 選択するときに注意したいポイント  ・皮膚保護剤の粘着面の溶け具合  ・あらゆる体位での腹壁の質感  ・利用者さんの言動 3. ケーススタディ:びらんがある利用者さんへの対応  (1)アセスメントを行う  (2)粉状皮膚保護剤(パウダー)を活用する  (3)頻回に装具を交換する 1. 選択の基本 装具を選ぶにあたっては、大きくふたつのポイントがあります。ひとつめは皮膚保護剤(面板)の組成、ふたつめは形状です。 皮膚保護剤(面板)の組成 皮膚保護剤(面板)は、水になじまない「疎水性ポリマー」と、水になじむ「親水性ポリマー」とを組み合わせてつくられています。この割合が製品ごとに異なり、疎水性ポリマーの量が多ければ多いほど水に強く、粘着力が高いです。逆に親水性ポリマーの量が多いと、水には弱くなるものの、皮膚の負担は少ないというメリットがあります。皮膚保護剤は「長期用」「中期用」「短期用」に分けられていますが、疎水性ポリマーの量が多いものが長期用(使用期間5〜7日)、親水性ポリマーの量が多いものが短期用(使用期間1〜4日)です。なお、その中間に位置する中期用もあります(使用期間3〜5日)。ただし、これはあくまでも目安です。 利用者さんのご自宅にうかがった際は、ぜひ装具の名前を調べ、適切に使用できているかチェックしてあげてください。万が一、長期用のものを毎日交換するようなことがあれば、皮膚はあっという間に発赤やびらんなどのトラブルを起こします。逆に短期用を1週間も貼っていれば、突然装具が剥がれてしまう可能性もあるでしょう。 装具の形状 装具には、柔らかくて皮膚への影響が少ない平面装具と、硬いプラスチックでできた凸面装具とがあります。ちなみに、1枚のコストは前者のほうが低いです。 硬い腹壁には平面装具(および柔らかい皮膚保護剤)を、柔らかい腹壁には凸面装具(および硬めの皮膚保護剤)を使うとよいといわれています。お腹に対して指の向きを並行にして押し当て、沈む指が1本以下なら硬い、1本以上2本未満なら普通、それ以上は柔らかいと判断します。 筋肉質だったり皮下脂肪が少なかったりする方は、お腹を押さえるとすぐに腹直筋にあたる、つまり硬いですよね。そこに凸面装具をつけると、お腹が装具を押し上げてしまい、皮膚損傷の原因になります。漏れといったトラブルが起きた際も、ぜひ腹壁を触ってみてください。 さらに、「しわ」の状態も確認が必要です。しわが多い方に平面装具、柔らかい皮膚保護剤を使用してしまうと、これも漏れの原因になります。 2. 選択するときに注意したいポイント 装具選択のときに私が必ず見ているポイントについて、もう少し細かくお伝えします。 皮膚保護剤の粘着面の溶け具合 装具を交換する際、剥がしたものをすぐに捨てずに、必ず面板の裏面(粘着面)を確認しています。粘着面がいびつな形で溶け出している部分は、腹壁がへこんでいる、隙間ができるということ。つまり、漏れや便の潜り込みなどのトラブルが起きやすい部分なので注意が必要です。うまく貼れていれば、面板の裏面は均一の幅でリング状に溶けていることを確認できると思います。 あらゆる体位での腹壁の質感 指を押し当てて腹壁の質感を調べるというやり方はすでにお伝えしましたが、座位、臥位、立位と、その方がとりうるすべての体位でチェックすることがポイントです。体位を変更すると、腹壁が変形したり、しわの入り方が変わったりします。座ると臥位では見られなかったしわが入ることも多いので、必ず確認しましょう。寝たきりの利用者さんであっても、その方が日常生活の中でとる体位変換を実践してもらい、お腹の動きを見てください。 利用者さんの言動 利用者さんがどのくらい動けるか、指示に従えるか、手に震えはないかなど、全体的な言動も見ています。装具選択時には、その方にとって使いやすいかどうかを見極めることが大切です。そのため、ADLやセルフケアの状況・理解度・受容段階などをアセスメントします。 訪問看護師のみなさんは、初めての訪問の際に確認していただければと思います。 3. ケーススタディ:びらんがある利用者さんへの対応 ここからは、「ストーマの近接部にびらんが見られるが、面板全体では問題がない利用者さん」というモデルケースを挙げて、対応方法を時系列に沿って考えてみましょう。 (1)アセスメントを行う まずはアセスメントを行い、トラブルの原因を明らかにしていきます。ストーマの近接部にびらんが見られるものの面板全体では問題がない場合、化学的原因(排泄物の付着)が原因だと考えられます。現在の装具を使い続けていると、びらんになっている箇所が常に便に汚染されてしまう状態です。 (2)粉状皮膚保護剤(パウダー)を活用する びらんからは常に滲出液が出るため、面板を貼っても装具は密着せず、装具と皮膚の間に排泄物が入り込んでしまいます。すると、いつまで経っても治らず、状態が悪化する可能性も高いでしょう。 こういうケースでは、パウダーを使います。パウダーがびらんと面板の間に入り、滲出液を吸いながらゼリー状になって、排泄物をブロックしてくれます。さらに、パウダーにはpH緩衝作用があり、排泄物を中和して皮膚を守ってくれる効果もあります。 ただし、パウダーは名前のとおり粉状なので、水分を吸うと次第に溶けて崩れていきます。そのため、イレオストミー(回腸ストーマ)やウロストミー(尿路系ストーマ)の場合は、排泄物と一緒に短時間でパウダーが流れてしまうでしょう。しかし、数時間は皮膚を守ってくれるので、治療の一助になるかと思います。 (3)頻回に装具を交換する そして、頻回に装具を交換し、排泄物がびらんに付着する時間をできるだけ短くしましょう。私はこのような状態になった利用者さんには、「皮膚がヒリヒリしたら装具交換のタイミングだよ」とお伝えしています。びらんがある状態で新しい装具を使っても面板が密着しないので、まずは皮膚を治すのが最優先。短期用の皮膚保護剤(面板)やアクセサリーを使うなどして、可能な限り皮膚をきれいに保つようにしてください。 * ストーマトラブルが発生すると利用者さんの背負う負担はより大きくなります。今回お伝えした対応をとってみても課題が解決できない場合、ストーマ外来や皮膚・排泄ケア認定看護師に相談してみることも選択肢のひとつ。ご自身やご自身のステーションで抱え込まず、よりよい対策を模索してみてください。 編集:YOSCA医療・ヘルスケア [no_toc]

緩和ケア座談会
緩和ケア座談会
インタビュー
2023年3月28日
2023年3月28日

【緩和ケア座談会 後編】自殺願望への対応/最後の「大好きなお風呂」

在宅で最期を迎えたいという方が増えている中、現場で日々奮闘する訪問看護師は、利用者さんやご家族との関わり方を通じて、どのようなやりがいや難しさを感じているのでしょうか。ホスピスケアに注力する「楓の風」で働く4人の看護師のみなさんに、印象に残っている利用者さん・ご家族との思い出を語っていただく座談会を開きました。後編では、利用者さんの自殺願望への対応や、ご本人・ご家族の希望に沿った「最期」に関するお話を伺いました。 前編はこちら>>【緩和ケア座談会 前編】子どもに親の死をどう伝えるか/外国人家族のケア 松田 香織(まつだ かおり)さん在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫/緩和ケア認定看護師外科や脳外科、一般病棟、救急外来などを経て、2021年に楓の風に入職。看護師歴約25年、内訪問看護歴1年中島 有里子(なかじま ゆりこ)さん在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫 副所長内科や外科、透析センターなどを経て、2020年に楓の風に入職。看護師歴約21年、内訪問看護歴約3年廣田 芳和(ひろた よしかず)さん第2エリア長/在宅療養支援ステーション楓の風 やまと 所長/緩和ケア認定看護師小児科病棟、循環器・呼吸器・血液内科病棟などを経て、楓の風に入職。看護師歴約29年、内訪問看護歴約13年吉川 敦子(よしかわ あつこ)さん第1エリア長/スーパーバイザー化学療法科や婦人科、整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科病棟などを経て、2008年に楓の風に入職。看護師歴約28年、内訪問看護歴約14年株式会社楓の風ホールディングス神奈川県を中心に、首都圏で通所介護、訪問看護、訪問診療、教育事業等を展開。「最期まで自分らしく、家で生きる社会の実現」に向けて、在宅療養支援を行う 「いい加減、私を殺してくれませんか?」 ―前編では、松田さんと中島さんに、ご家族のケアに関するお話を中心に伺いました。続いて、廣田さんの印象深いご経験についても教えてください。 廣田: 10年ほど前、訪問看護の仕事を始めたころのお話です。ご両親と3人暮らしの、末期がんの40代の女性を担当していました。症状のコントロールが難しく、かなりの量の痛み止めを使っていたんです。その副作用や精神的なダメージが大きく、「体のだるさがきつい」と毎日私宛に電話がかかってきました。そのやり取りのなかで、「廣田さん、いい加減、私を殺してくれませんか」と相談されたのです。毎日訪問していたので、話しやすい関係性は作れていたと思いますが、1日目は「なるほど。殺してほしいですか。それはできないな、殺人者になってしまうから。とにかく、ラクになれる方法を考えましょう」とお返事したと思います。 それから、次の日もその次の日も、「どうしたら死ねるか」について電話で1時間ほど話しました。1週間くらい続いたあるとき、ふっと互いに気が抜けて、少し笑えてきたんです。「この話、いい加減、飽きませんか?」「飽きましたね」と軽いトーンでお話できて、結局彼女は自殺をしなかった。痛みやつらさはセデーションをかけてラクになるのですが、何が言いたいかというと、「殺し方」や「死に方」といったすごく深刻でネガティブな話が続いても、どこかでくるっとユーモアに変わる瞬間が来るんです。「もう、話していてもしょうがないよね」とお互いに思える瞬間が。 我々看護師は、利用者さんのネガティブな気持ちを真剣に聞き続けていると、こちらまで精神的に病んでしまう恐れがあります。もちろんこのケースでも私は真剣に話を聞いていたのですが、耳を傾けながらどこかに活路があるように感じていました。そして、結果的に活路があったと実感できたことは大きな収穫だと思います。 残念なことに、その利用者さんはその後すぐにお亡くなりになりました。彼女は「つらい」「死にたい」ということを、最後までご両親には言えませんでした。私だから、というよりは、一番近くにいた他人の看護師だからこそ、本音を言えたと思うんですよね。彼女とのやり取りが正しかったのかはいまだに分かりませんが、強く記憶に残っている利用者さんです。 向き合い続ければ方向転換できる瞬間がある 松田: ユーモアに変換されたという結果は、利用者さんとの信頼関係ができていたからこそですよね。なかなかその域に辿り着けないのではないかと思います。「今日も言い続けてみよう」と利用者さんが思える関係性を作れた過程にとても興味があります。 廣田: ちょうど訪問看護の施設ができたばかりで、まだ利用者さんの数が少なく、毎日対応できたという点も大きかったですね。もちろん、私から「こういう方法がありますよ」なんて提案は絶対にしないし、できません。利用者さんが口に出す自殺方法に対して、「その方法は○○だから残された遺族が大変ですね」「その方法だと○○ですし…、やっぱりだめですね」などと、「それをしたらどうなるか」を一緒に散々考えて、結局どれもダメだという結論に至ったんです。 松田: 利用者さんに「自殺したい」と言われたら、「何言ってるんですか」と否定してしまいがちだと思います。廣田さんが自分を否定せずに受け止めてくれて、一緒に真剣に考えてくれたこと、その利用者さんはうれしかったでしょうね。 廣田: そうですね。本当はすぐに「自殺はダメだよ」と言いたかったです。でも、その時は一緒に考えるしかないと思ったんですよね。あと、ピンチに陥ったときは、常にチャンスを狙っているような気がします。利用者さんとのネガティブなやり取りも、どこかで笑いに変えられる瞬間がくるのではないかと思うんです。何事も笑いは大事ですから。 松田: やっぱり、廣田さんにしかできない技です。 吉川: なかなかできないことですよね。私も今、担当している終末期の利用者さんで、「私は死ぬのを待っているだけ」「入院するときは死ぬとき」などとお話される方がいらっしゃいます。そういうお言葉が出たとき、傾聴に徹したり、「またお家で頑張りましょう」という言葉をかけたり、といった対応しか思いつかなくて…。何かアドバイスいただけますか? 廣田: 難しいですよね、すみません、すぐに答えは出てこないです。ただ、聞くしかないときもあると思います。後は、ダメでも試してみる。試してみないと分からないこともたくさんあります。「布団が吹っ飛んだ」くらいの思いっきりくだらないダジャレを言ってみるとか。失敗する可能性も大きいですが(笑)。 吉川: ダジャレはタイミングを見図るのが難しくて、ちょっと勇気ないですね(笑)。でも、色々と試してみます。 「お父さん、よかったね」 全員が納得の最期 ―吉川さんの思い出深い終末看護のエピソードについても教えてください。 吉川: 成人したお子さんが2人いる、末期がんの60代男性の利用者さんを担当しました。娘さんが結婚するときに、末期がんだと発覚。輸血が必要な状況で、家に帰れる状況ではなかったのですが、どうしても娘さんの結婚式に出席したいとおっしゃって、車椅子で30分だけでも外出できないかと病院側で調整されていましたが、外出が認められなかった経緯があります。 このままではご本人もご家族も後悔する、という思いから、退院して在宅療養に切り替わりました。ただ、結婚式は体力的に心配だという奥様の意見で、家族みんなで記念写真を撮りに行く計画に変更されたんです。帰宅して3日後には症状が安定するだろうと見込んで撮影日の予約を取り、息子さんらがお父様をサポートして写真館に連れていくことになりました。 当日、私は朝訪問して熱を測って状態を確認し、「何かあれば電話をください」と送り出しました。心配していたのですが、こういうときに人間はエネルギーが湧くものですね。容態が悪化することなく、無事に帰ってきたという連絡をいただき、ほっとしたことを覚えています。ご本人も「いい時間を過ごせた。もう悔いはない」とおっしゃっていました。 中島: いいお話ですね。 吉川: はい。でもまだ続きがあって、ご本人が「どうしてもお風呂に入りたい」とおっしゃったんです。病院でも入れなかったから、家のお風呂に入りたいと。医師に確認の電話を入れ相談した結果、「最後はご家族の判断」ということになりました。 そこで、ご家族に「入浴することで血圧が下がりますので、万が一ということもありますがいいですか」とリスクも含めてお話ししました。「父はお風呂が大好きで、お風呂で死んでもいいと言っている人だから、ぜひ入れさせてほしい」とのご家族の希望でした。 松田: ご本人やご家族のご希望とはいえ、看護師としては怖いですね。 吉川: そうですね。男性看護師と息子さんでお父様を浴室にお連れして、ほかのご家族も手伝って車いすに乗せて、さらにシャワーチェアに移しました。その時点で血圧はだいぶ下がっていたと思います。ご本人が浴槽にも入りたいとおっしゃるので、看護師もみんな濡れながら湯を溜めた浴槽に入れました。長湯はできないので、再びシャワーチェアに運んで、ご家族みんなで素早く体を拭いて、寝巻を着せて車いすでベッドに戻しました。 浴槽に入ったとき、ご本人は「気持ちいいなぁ」とおっしゃり、上がったあともすごく穏やかな表情をされていました。そして、ベッドに移したとき「あぁ」という声を発せられたんですよね。みなさん「風邪ひいちゃう」と体を拭いたりドライヤーで髪を乾かしたりするのに必死だったのですが、ふと、「あれ?息してないかも」と気づきました。お亡くなりになったんです。 でも、誰一人、入浴させたことを後悔しておらず、みなさん笑顔で「お父さん、よかったね」とおっしゃっていました。ご本人がやりたいことを成し遂げ、それをご家族みんなで手伝えた。その人らしい最後の過ごし方をご家族に見届けられて、亡くなった後に誰一人泣かないという場面は初めて経験しました。入院していたらありえないことですよね。看護師としての醍醐味を感じられ、「在宅看護ってすごいな」と思う、本当に忘れられない経験です。 中島: みんなが良かったと思える最期は、病院にいるとなかなか経験できませんよね。本人がやりたいことをやり切って幸せに最期を迎えるという、まさに在宅看護の素晴らしい例だと思います。 松田: 私は訪問看護師として働いてまだ間もないですが、病院勤務だと、看護師も「自分が主語」になりがちになります。「自分が訴えられたら嫌だ」「自分のせいになるのは怖い」と。血圧50台の患者さんを、絶対にお風呂に入れないですよね。でも在宅看護では、患者さんが主語になる。ご本人の想いを最優先に考えて叶えられるのはいいなと思えた素敵なエピソードです。 利用者さんに心をケアしてもらうことも 廣田: 吉川さんは利用者さんの意向に沿って勝手に行動したのではなく、きちんとご家族に「これでいいですか」と丁寧に説明して確認し、同意を得る作業を踏んでいらっしゃいました。だから、素敵なエピソードになるわけです。そこが私たちの役割であり、きちんとご家族みんなの意見を一致させることが重要になると思いますね。 吉川: そうですね。別のケースですが、自分でお風呂まで歩ける血圧が低い70代の女性の利用者さんが、「入浴したい」とおっしゃったんです。するとご主人が「入って倒れたらどうするんだ!」と怒り、私は「ご本人もご主人の気持ちも分かる。どちらに賛同したらいいんだろう」と迷ってしまいました。すると奥様が「私は入ると言ったら入るのよ!あなたは私の幸せを奪うの?」とおっしゃってご主人は黙ってしまい…。 そこでご主人に、「介助してきてよろしいでしょうか」と伝えたら、うなずいていただけたという経験がありました。案の定、血圧が48まで下がってしまい、その後はいくら本人が入浴したいと言っても、やはりご家族からの反対を受けて叶いませんでした。正解はひとつではない、難しい仕事だと思います。 廣田: そうですね。難しくて大変な仕事ですが、私たちは患者さんや利用者さんから逆に励まされることもありますよね。 20年以上も前の病院時代の話になりますが、末期の患者さんたちと関わり始め、夜勤も多くとにかく疲れて気持ちが落ち込んでいた時期がありました。すると、担当する70代ぐらいの末期の悪性リンパ腫の女性に「大丈夫?」話しかけられたんです。「え?」と返したら、「いつもと比べて元気がない。人生はつらいこともあるけど、いいときが必ず来るから大丈夫だよ」と言ってくださったんです。そのあと、トイレに行って泣いてしまいました。当時は若かったので、「末期の患者さんを自分が励まし支える役目だ」と強く思っていたのですが、逆に自分が励まし支えてもらっていたと気付いたんです。そして、「それでいいんだな」という風に見方が変わりました。患者さんが私を助ける役割を担ってくださることもある。むしろ、自分の弱い姿を見せることで、距離が縮まることもあります。自分は素直でいていいんだな、と思えるようになりました。 吉川: 利用者さんに励まされる、というのはよくわかります。私が担当した95歳の女性はいつもニコニコし、肌もツヤツヤされていて、とても90代には見えない方でした。ほぼ寝たきりで、介助がないと車いすに乗れない状態ですが、「毎日が楽しいわ。お空を見ていると気持ちが明るくなる」「これがおいしかった。あなたは今日、何を食べた?」「リハビリがつらいかって?全然楽しいわよ。これをやったら、歩けるかもしれないんだもん」などと前向きな言葉しか返ってこない。 一緒に過ごした1時間、私はずっと笑顔でした。私が何か利用者さんにケアをしたというより、私が心のケアをされたというか、たくさんのプレゼントをもらって帰ってきた気持ちになりました。私も終末期の利用者さんから、たくさん助けられています。 ―訪問看護や緩和ケアの醍醐味が伝わるエピソードをたくさんご紹介いただき、ありがとうございました。 ※本記事は、2022年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 執筆:高島三幸取材:NsPace編集部

エンジョイALS
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コラム
2023年3月28日
2023年3月28日

医師からみたできる看護師、患者からみたできる看護師

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。患者の立場になってみて改めて気づいた視点での、「自分が看護してもらいたい看護師さん」。ある看護師さんとのエピソードを紹介します。 患者の立場になってから変化した考え 医師として患者さんをみる側であった私は、ALSを発症してからは、患者として医師にみられる側になりました。ALSと確定診断されるまで、ALSをはじめとした神経難病を専門としているさまざまな先生方に診察してもらいました。 淡々と診断して治療を始めていく先生もいれば、とても親身になって、私のつらさや悩みに寄り添って、一筋の希望を残しながら「心が通った診療」をしてくださる先生もいらっしゃいました。 私はその先生を頼って東京から徳島大学病院まで行き、入院しました。その先生は今でもときどき、徳島から東京の私の家まで様子を見に来てくださいます。 たとえ同じ診断名と治療法であっても、医師の姿勢によって、患者はこんなにも気持ちが楽になるんだと、患者になってみて改めて気がつきました。 私は大学病院で働いていたとき、どれくらいの患者さんに「心が通った診療」ができていたのであろうか。今あのころに戻れたら、ひと回りもふた回りも、良い医師になれるような気がします。患者の立場になってみて、改めて医師とはどうあるべきか考えさせられました。 視点が変わると、見えてくるものも変わるのだなぁと思い、今回は「医師からみたできる看護師、患者からみたできる看護師」をテーマに書きたいと思います。 医師時代の私からみた「できる看護師」 医師としてバリバリ働いていたころに感じていた「できる看護師(一緒に働きやすい看護師)」とは、しっかりと周りの状況がみえており、フットワークの軽い看護師でした。 私のいた大学病院の皮膚科外来はかなり規模が大きく、皮膚科だけで診察室10室と処置室にベッドが2つあり、最大で12人の医師が同時に診察や処置や手術を行ないます。それを3~4人の看護師さんでサポートしてくれていました。 できる看護師さんはどの医師がどんな患者さんを診察しているかを常に把握しており、迅速にサポートしてくれます。たとえば、やけどの患者さんを診察していたら、医師が何も言わなくても処置カートを用意し、ガーゼや包帯や軟膏などの処置物品をすぐ使えるようにして、そばで待機しています。そんな看護師さんと一緒に仕事をすると、「この看護師さんできる!」と思ったものです。 患者になってから思う「できる看護師」 患者になってから感じた「できる看護師(こんな看護師さんに看護をしてもらいたいと思える人)」とは、危機管理能力がある、看護技術や知識レベルが高い、……などなどありますが、何といっても「優しくて思いやりのある、心のこもった看護」をしてくださる方だと私は思います。 私は2019年(ALSを発症して4年)に胃瘻をつくるために入院しました。2週間弱の短い入院でしたが、そのときに担当してもらった看護師さんの優しさを今でもはっきりと覚えています。 当時の私は、手足はあまり動かせませんでしたが、まだ自力で呼吸ができて、食事も会話もできる状態でした。その看護師さんは、いつも笑顔で病室に来て、何か困っていることはないか、つらいことはないか、と聞いてくれました。 私は「何とかなるさ!」をモットーに前向きに生きてきましたが、そのころはまだ完全には自分の病気を受け入れられてはいませんでした。徐々に進行する症状を目の当たりにして、ときどき無性につらくなり泣きたくなることがありました。しかし、家にはまだ幼稚園児の息子がいます。私を懸命に支えてくれる妻がいます。私が泣いたり弱音を吐いたりしたら家族に心配をかけてしまう、たとえ体が動かなくなっても私が家族の精神的な柱でいなくてはならない、という思いから、泣きたくなることを我慢する時もありました。 そんななかで胃瘻の手術は無事終わり、退院が近づいてきたある日の夜です。勤務時間は過ぎて夜勤への申し送りも終わったはずのその看護師さんが、病室に来て、困っていることはないか、つらいことはないか、と聞いてくれました。退院間近の安堵感と相まり、その言葉が胸の中にスッと入ってきて、気がついたら涙が溢れ、それまでのつらかったことを吐露しながら泣いていました。その看護師さんも私の話を聞きながら一緒に泣いてくれて、ため込んでいたつらさから解放された気がしました。 理解してもらえるかではなく、理解しようとしてくれる姿勢が嬉しい よく医療教育の現場では、「患者の立場になって考える」という言葉を耳にしますが、ALSになって、体も動かせず声も出せないこの感覚を、健康な人が理解するのは無理だと思いました。ただ、患者の状態を理解しようと努力することはできます。つらさを想像して寄り添うことはできます。患者はそんな看護師さんの態度を敏感に感じ取るものです。 患者にとっては、看護師さんの経験年数や学歴などは関係ありません。患者の思いを汲み取って、共感し、寄り添い、「心の通った看護」をしてくださる看護師さんに出会えることが何よりも喜びなのです。そんな看護師さんが増えてくれたら嬉しいなぁと思います。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣編集:株式会社メディカ出版

明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
特集 会員限定
2023年3月22日
2023年3月22日

【セミナーレポート】前編:皮膚トラブルの原因と対処法-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応-

2022年12月16日、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「明日から生かせる!ストーマトラブルへの対応」を開催いたしました。講師は、急性期病院でストーマ管理を長きにわたって経験し、現在は訪問看護ステーションを開設している「皮膚・排泄ケア認定看護師」の原 慎吾さんです。 前編となる本記事では、ストーマ装具装着に伴うトラブルのアセスメントから原因別に求められる対応をご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師看護師として急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。その中で、トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、その課題を解決すべく独立。現在は「看護のスペシャリストを在宅へ」をコンセプトに掲げ、病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開。2021年には訪問看護ステーションも開設している。 目次 1. まずは丁寧にアセスメントを  ・ストーマ装具装着に伴う皮膚トラブルの主な原因 2. 医学的原因(皮膚保護剤によるアレルギー)への対処法  ・対処の順番は必ずステロイドが先 3. 化学的原因(排泄物の付着)への対処法  ・ただし装具の見直しよりも先に皮膚の状態改善を目指して 4. 排泄物の漏れ、潜り込みが起こる主な原因と対策  (1)装具と腹壁の不適合  (2)装着時の不適切な手技  (3)装着直後に体を動かす  (4)使用期間の目安を守っていない --> まずは丁寧にアセスメントを ストーマ装具装着により皮膚トラブルが起きたときは、まずアセスメント行い、原因をはっきりさせましょう。なぜなら、どんなに高価な薬、創傷被覆材を使っても、原因を除去できなければ改善は難しいからです。 例えば皮膚保護剤(面板)のアレルギーが原因の場合は、アレルゲンを取り除いてあげなければ、どれだけ薬を塗っても苦痛が続いてしまいますよね。さらに、訪問回数が増える・時間がかかるなど、利用者さんにとって精神面・身体面・コスト面での負担も大きくなってしまいます。 ストーマ装具装着に伴う皮膚トラブルの主な原因 では、皮膚トラブルの原因にはどのような可能性が考えられるでしょうか。 ひとつめは、「医学的原因」といわれる皮膚保護剤によるもの。いわゆる「面板」によるアレルギーや刺激です。そしてふたつめは「化学的原因」、つまり排泄物の付着。排泄物にはタンパク質を分解する酵素が含まれているため、触れると皮膚が溶けてしまうのです。このふたつが主な原因ですが、他にも細菌や真菌への感染、装具の脱着による刺激などが原因になることもあります。 今回は、医学的原因と化学的原因について、それぞれ対処法をご紹介していきます。 医学的原因(皮膚保護剤によるアレルギー)への対処法 結論としては、装具を変更するしかありません。今は装具の種類がとても豊富ですから、必ず代替品が見つかります。判断に迷ったときは、ディーラー、もしくはメーカーに問い合わせてみるとよいでしょう。 なお、医学的原因への対処で注意してほしいのが、使用するステロイドの種類です。アレルギーによる皮膚トラブルの治療ではステロイドが使われますが、軟膏タイプを塗ると面板が粘着しなくなってしまいます。面板をきちんと貼れない場合、漏れや便の潜り込みなどの新たな問題につながるため、主治医にはぜひローションタイプのステロイドの処方をお願いしてください。 対処の順番は必ずステロイドが先 ステロイドを使用しても皮膚の状態が改善しないときは、真菌感染を疑い、皮膚科を受診してもらいましょう。なお、対処の順番は必ずステロイド→抗真菌薬となります。先に真菌感染を疑って抗真菌薬を使ってしまうと、皮膚科で顕微鏡検査を受けた際、そこに真菌がいたのかどうかの鑑別が困難になります。 化学的原因(排泄物の付着)への対処法 皮膚トラブルがストーマから連続している場合は、排泄物の付着が原因であることがほとんどです。このケースで絶対にやってはいけないのが、同じタイプの装具を使い続けること。漏れが頻回に起こるということは、装具が合っていない可能性が高いからです。 化学的原因の場合は、排泄物の漏れや面板の下へ潜り込みの原因を探って、対処していきましょう。原因となっている箇所が限定的であれば、粘土のような用手成形皮膚保護剤を使って「しわ」や「くぼみ」を補正してもらうとよいと思います。一方、全体的に問題が見られるような場合は、平面装具から凸面装具への切り替えを検討することも必要になります。 ただし装具の見直しよりも先に皮膚の状態改善を目指して 先に装具の見直しの重要性についてお伝えしましたが、びらんが見られるようなケースでは、まず皮膚の状態改善を図るようにしてください。なぜなら、びらんがある状況では体内から滲出液が出てくるので、患部が大きければ大きいほど面板の粘着面積が少なくなり、装具の種類を変えてもうまく貼れないことが多いためです。 なお、状態改善を目指すにあたっては、ジメチルイソプロピルアズレン軟膏や亜鉛華軟膏などの薬剤は使わなくてもよいケースがほとんどです。医学的原因への対処法でも触れたように、軟膏を塗ってしまうと面板の粘着が弱まり、漏れや潜り込みが起こる原因になります。排泄物付着による皮膚トラブルの場合、安易に薬剤は使用せず、装具交換の頻度を上げて(連日交換や1日おきの交換)洗浄することを心がければ、皮膚は自然に治っていくので、必要に応じて医師と相談してみてください。 排泄物の漏れ、潜り込みが起こる主な原因と対策 では、排泄物の漏れや潜り込みは、どのような原因で起こるのでしょうか。主に以下の4つが考えられます。 装具と腹壁の不適合 排泄物の漏れや潜り込みが起こる原因のひとつが、装具と腹壁の不適合。お腹に「しわ」や「でっぱり」があることで、うまく面板が貼れていないという状態です。 年齢を重ねれば自然とお腹の形が変わるので、この現象は、これまでトラブルなくストーマを使えていた方にも起こりえます。私自身、「20年以上ストーマを使ってきたのに、最近になって頻回に漏れるようになった」と悩んでいる方にお会いしたことがあります。装具は、年齢に応じて適切なものを選択することが必要です。 装着時の不適切な手技 軟膏を塗った上から装具を貼った、洗浄後濡れたまま装具を貼ったなどというケースです。繰り返しになりますが、粘着が弱まらないように気をつけてください。 装着直後に体を動かす 面板には初期粘着力が弱いという特徴があります。装着してからしばらくすると汗や体温によって徐々に皮膚保護剤が溶け出し、皮膚の細かなしわに入り込んで密着するしくみになっています。そのため、装具を装着してすぐに体を動かしてしまうと、ぽろっと剥がれてしまうことも。面板を貼った後はしばらく手で押さえ、温めて肌になじませるようにすると、初期密着を促すことができます。 使用期間の目安を守っていない 「装具は値段が高いからもったいない」といった理由で、使用期限の目安を超えて使用しているケースもよく見られます。(詳しくは、後編「皮膚保護剤(面板)の組成」参照)中には「漏れるまで貼っている」という方も。利用者さんに状況を確認し、適切な使用へ導いてください。 >>後編はこちら装具を選ぶポイントとケーススタディ-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応- 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

緩和ケア座談会
緩和ケア座談会
インタビュー
2023年3月22日
2023年3月22日

【緩和ケア座談会 前編】子どもに親の死をどう伝えるか/外国人家族のケア

高齢化が進行し続けていることもあり、在宅での緩和ケアを選ぶ終末期の患者数が増加しています。そうした現場で日々奮闘する訪問看護師は、利用者さんやご家族との関わり方を通じて、どのようなやりがいや難しさを感じているのでしょうか。ホスピスケアに注力する「楓の風」で働く4人の看護師のみなさんに、印象に残っている利用者さん・ご家族との思い出を語っていただく座談会を開きました。前編では、終末期のご家族のケアに関するお話をご紹介します。 松田 香織(まつだ かおり)さん 在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫/緩和ケア認定看護師外科や脳外科、一般病棟、救急外来などを経て、2021年に楓の風に入職。看護師歴約25年、内訪問看護歴1年中島 有里子(なかじま ゆりこ)さん 在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫 副所長内科や外科、透析センターなどを経て、2020年に楓の風に入職。看護師歴約21年、内訪問看護歴約3年廣田 芳和(ひろた よしかず)さん第2エリア長/在宅療養支援ステーション楓の風 やまと 所長/緩和ケア認定看護師小児科病棟、循環器・呼吸器・血液内科病棟などを経て、楓の風に入職。看護師歴約29年、内訪問看護歴約13年 吉川 敦子(よしかわ あつこ)さん 第1エリア長/スーパーバイザー 化学療法科や婦人科、整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科病棟などを経て、2008年に楓の風に入職。看護師歴約28年、内訪問看護歴約14年株式会社楓の風ホールディングス神奈川県を中心に、首都圏で通所介護、訪問看護、訪問診療、教育事業等を展開。「最期まで自分らしく、家で生きる社会の実現」に向けて、在宅療養支援を行う 右から、廣田さん、吉川さん、中島さん、松田さん 小1のお子さんにお母さんの余命を伝えるか ―ホスピスケアに力を入れている楓の風のみなさんは、多くの終末期の利用者さんやそのご家族と関わっていらっしゃると思います。まずは松田さんから、印象に残っている終末期の在宅看護について、教えてください。 松田: 私が印象に残っているのは、当時小学1年生だった息子さんがいらっしゃる40代の女性のケースです。病院で闘病されていたのですが、終末期はご自宅で過ごしたいというご本人の希望で家に戻って来られました。室内を自由には歩き回れず、ベッドかソファに座って過ごされていました。介護休暇を取得されたご主人が介護をされ、近所にお住まいのご主人のご両親がときどきお手伝いをされている、という状況でしたね。息子さんは当初、お母さんへの接し方が分からない様子で、距離をとっていることを感じました。 「息子さんにどれぐらいお話しされているのですか」とご主人に聞くと、病気のことのみで、予後については伝えていないとのこと。余命2~3週間と告知をされていたため、「子どもの多くは親の病気のことを知りたいと思っています。お手伝いしますので、検討してみませんか?」とお話ししました。その後、「子どもに伝えたい」とおっしゃってくださったので、絵本の活用をご提案しました。 ―どのような絵本を提案されたのですか? 松田: スーザン・バーレイの『わすれられないおくりもの』です。みんなから愛されている、物知りで困っている友だちを助ける優しさを持つアナグマのおじいさんが、ある日亡くなってしまいます。亡くなった後も、アナグマのおじいさんに教えてもらったことをみんなで思い出しながら生活していくという、死を悲しみだけで終わらせないお話です。 「この絵本を通して、お母さんの予後を伝えてみてはどうでしょう」とご提案したところ、お父さん(ご主人)が息子さんに絵本を読みながら伝えてくださり、意味を理解してくれたようでした。ただ、やはり息子さんは同じ空間にいてもお母さんに近寄れず、どう接すればいいか分からない様子だったんです。そこで、「水がほしいというときに持っていってあげると、お母さんはすごく喜ぶんだよ」と私からお話ししたり、お父さんから話していただいたりしました。その後、息子さんは私に「今日はお母さんにお水をあげたんだ」と報告に来てくれました。 お母さんに触っていいかどうかもわからないのだろうと思い、「手を握ったり、マッサージをしてあげたりしても大丈夫だよ」と話すと、息子さんはお母さんのほうへ少しずつ近づくようになり、夜は隣のベッドで一緒に寝るようになったそうです。「妻も息子もきっと嬉しかったと思う」と、お父さんから教えていただきました。 息子さんはお母さんの死まで涙を見せず ―こうしたシチュエーションで、子どもになかなか「親が亡くなること」を伝えられず悩む方は多いと思いますが、伝えることで子どもにどういったメリットがあるのでしょうか。 松田: そうですね、子どもは「幼いから」という理由で蚊帳の外にされがちですが、「自分が悪い子だから、お母さんが病気になった」と一人で抱え込んでしまうことがあります。伝えることで、そういった誤解や心の傷を防ぐことができます。今回のケースでも、「『息子さんのせいじゃない』ということを一番に伝えてください」と、お父さんにお願いしました。 息子さんはお母さんに積極的に関わるようになって、「お父さんの誕生日パーティーをお母さんと一緒にお祝いしたい」と企画して、ケーキを買いに行ってくれました。お父さんはよく泣いていらっしゃいましたが、息子さんはお母さんが亡くなるまで一切涙を見せずに、頑張っていましたね。 お母さんは、最後は苦しくなって「このまま楽になりたい」と言われて、点滴をやめてから2~3日後に亡くなられたのですが、「家族との時間を大事にできてよかった」とおっしゃってくださいました。 お亡くなりになった当日に私が訪問した際、息子さんは「お母さんが死んじゃったよ」と大泣きしながら伝えてくれました。息子さんの胸に手を当てながら「今までよく泣かずに我慢したね、頑張ったね。お母さんは、ずっとここ(息子さんの胸)にいてあなたを見ているから、何かあったら『お母さんだったら何て言うかな?』と考えるんだよ」と伝えました。お父さんも「そうだぞ、頑張ろうな」と伝えてくださって。 中島: 私も松田さんと一緒に訪問することがあったのですが、松田さんの丁寧な関わりによって、息子さんとお母さんとの距離が日に日に近づく様子が分かりました。最後はご家族みんなで悔いがないようにお母さんを看取ることができたんだなと、私も勉強になりました。 「死について」伝える絵本を年代別に用意 ―絵本を活用したご家族のケアについては、どのように学ばれたのでしょうか。 松田: お子さんとの関わり方の手法として、緩和ケア認定看護師の学校で学びました。死について学べる絵本は、探すと意外とあるんです。年代別に自分が伝えやすい絵本を2、3冊用意して活用しています。 吉川: その年代でしたら絵本という手法は有効ですね。年齢は異なりますが、昔、20歳の娘さんがいる終末期の女性を担当しました。ご本人の希望は、「どんなに自分の具合が悪くても娘には負担をかけたくない、自由にさせてあげたい」とのこと。お年ごろだった娘さんは夜遅くまで遊びに行って帰ってこない日もありました。 私は、もう少し娘さんにお母様の側にいてほしくて、「もう少し一緒に過ごしたほうが…」と利用者さんにご提案したのですが、「今のままでいい。人の家庭を土足で踏みにじらないでほしい」と言われました。利用者さんに嫌な思いをさせてしまい、別の看護師と交代したんです。最後まで関わることができず悔いが残っています。「亡くなる」という意味を上手にご家族に伝えられている松田さんの話を聞いて、今だったら、あのときのご家族に私はどんなふうに関われたのかなと考えさせられました。 松田: きっとそのお母様は娘さんの自由な姿を見られて幸せだったと思いますが、人によって解が違うことはわかっていても、看護師としては理想を言いたくなりますよね。それを押し殺すのは難しいことだと思うので、自分も吉川さんのように利用者さんの想いを尊重して引けたかどうか…。 中島: 20歳という年齢は、親とある程度の関係性ができているからこそ、介入が難しいかもしれませんね。 廣田: 私は今、末期がんのおばあさんを担当しています。離婚された息子さんと小学生のお孫さんがいて、そのお孫さんの面倒をみてきた女性です。でも自分が末期がんであることをお孫さんに言いたくないとのことで。1週間に1回だけ会いに行く息子さんの元妻に、自分の病気について知られたら、お孫さんが取られるかもしれないとおっしゃっています。松田さんならどうされますか? 松田: お孫さんに死について伝えるのではなく、まずは「おばあちゃんは病気だね、どんなふうに思っている?」とその子の気持ちを聞いてみるかもしれません。例えば、「だいぶおばあちゃんが弱ってきたから、もうすぐ死んじゃうのかな」と返ってくれば、「そんなふうに思っているんだね」と肯定するところで留めておくでしょうか。 廣田: なるほど。それが…私が訪問する時間帯はお孫さんが通学している時間で、お父さんはお仕事で不在なので、おばあさん以外と直接関わることができないんですよね。 松田: それは、難しいところですね。おばあさんのお気持ちもわかりますし…。 廣田: そうなんですよね。できれば、お孫さんのケアもしたいんですけれど。なかなかケースバイケースで、悩ましいものです。 ―みなさん、利用者さんの状況やお気持ちに合わせて常に悩みながらご対応されているのですね。 「察する文化」は外国人介護者に伝わらない ―中島さんは外国人のご家族をサポートされたと伺っていますが、詳しく教えていただけますでしょうか。 中島: 奥様が片言の日本語を話す40代の外国人で、日本人の80代のご主人が末期の大腸がんでした。近年、外国人のご家族と関わることは増えてきていますが、言葉や文化の壁を感じて悩むことが多いです。 利用者さんの状況について、入院先の医師は「栄養がとれて体力がついたら手術はできるが、体力がつかないと手術はできない」とご家族に話されていました。つまり、「病状的に栄養改善は困難なため体力は戻らない」ということ。離れて暮らしているご親族は理解されていたのですが、外国人の奥様は、言葉を鵜呑みにして「体力がついたら手術ができる」と考え、ご主人に無理やりごはんを食べさせようとされていたんです。 でもやはり体力は戻らず、感染症にかかってしまって、「病院にいては感染症がひどくなる」と、奥様は自宅療養を選ばれました。感染症は落ち着いて一命をとりとめましたが、いつ亡くなってもおかしくない状態ということが、奥様に伝わっていないのです。 ―日本人同士が自然に使っている遠まわしな言い方が、外国人の奥様に伝わらない、ということですね。中島さんは、どのように伝えたのでしょうか。 中島: 翻訳アプリを使って、「病院の先生はこういう意味で言ったんですよ」と伝えました。うまく翻訳できていたのかは分かりませんが、少しは理解してもらえたと思います。でも、訪問診療の医師からもきちんと伝えてもらおうと思ったのですが、やはり、「体力がなくて手術ができない」という説明を奥様にされたんですよね。しかたがないので、再び翻訳アプリを使って、あと数日で亡くなるということをストレートに伝えました。奥様は驚いて「そんなことはない!さっき先生は栄養をとれば助かるといった」と大泣きされてしまいました。 その後も、眠っているご主人を無理やり起こしてご飯を食べさせる日々が続きました。ご主人は「わかった、わかった」と言いながら一生懸命食べようとする。ご主人は手術ができないことを理解されていましたが、年の離れた奥様の気持ちも分かっていらっしゃったんですね。これも夫婦のひとつの愛の形なのかなと思い、見守っていました。 死を目の前にしたとき、訪問診療の先生からの「無理に食べさせても手術はできないんですよ」という言葉を私が隣で翻訳すると、やっと奥様は理解されたようでした。ご自身のおばあ様やお母様、夫婦2人の旅行写真をご主人に見せながら、思い出を語るような時間を過ごされ、最後はいい時間を過ごされたのではないかなと思います。 その後驚いたのは、亡くなられたとお電話をいただいて伺ったら、マンションのフロア中に響き渡る声で奥様が家の中を走り回り、泣き叫んでいらっしゃったご様子です。ショックや悲しみをそこまで全身で表現されるケースは、過去に目の当たりにしたことがなかったので、衝撃を受けました。一方で、亡くなった人と一緒の家で寝るのは怖いとおっしゃって。言語の壁、死についての受け止め方も含め、色々と学ばせていただきました。 文化の違いなのか、その方の個性なのか 松田: 私も一緒に関わらせていただきましたが、奥様は早口で、私は3分の1ほどしか理解できなかったんです。でも、中島さんは根気強く時間をかけて奥様と向き合っていました。「この時間に買い物に行きたいからデイサービスを調整してほしい」などと多くの主張や要望がある方でしたが、中島さんの適切なサポートのおかげで心強かったと思います。中島さんご指名のお電話がかかってきたり、下の名前で呼ばれていたり、そこまで信頼してもらえる関係性が構築できたのは、本当にすごいことだなと思っていました。 吉川: 奥様が利用者さんで、介護者のご主人が外国人というケースを私も担当したことがあります。日本語が通じず、英語で伝えてもうまく意思疎通が図れなくて、小学校のお子さんが伝言役になってくれたこともありました。でも、子どもには伝えられないこともある。コミュニケーションの限界を感じ、英語が話せるステーションの所長に通訳を頼みましたが、最後まで苦心しました。 廣田: 言葉の壁は大きいですが、文化の違いなのか、その人の個性なのか、一概に「外国人」でくくれないところもありますよね。デイサービスを調整して、という主張は、ちょっと行き過ぎではないかとも思う。それを文化の違いで終わらせてしまうのか、ご本人とコミュニケーションを取って意思疎通を図っていくのかの判断基準も課題だと思います。 中島: そうですね。ご主人が亡くなった後は、保険や役所関連の手続きがあったので、こうしたことをサポートしてくれる団体に引き継ぎました。その時にこの奥様の特徴やキャラクターなども一緒にお伝えしました。 吉川: ご主人と奥様の会話は日本語だったんですか? 中島: そうなんです。そこもまた面白いところで、ご主人が話される日本語は、奥様にしっかり通じているんです。いろいろ印象深い出来事がありましたが、コミュニケーションの在り方について勉強になりました。 ―ありがとうございました。後編では、廣田さん、吉川さんのお話を中心に伺います。 後編はこちら>>【緩和ケア座談会 後編】自殺願望への対応/最後の「大好きなお風呂」 ※本記事は、2022年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 執筆:高島三幸取材:NsPace編集部

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年3月22日
2023年3月22日

毎月恒例なのに、「あっ請求書…!」 ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

利用者さん宅を出てから請求書渡し忘れ発覚 毎月恒例、利用者さんへの請求書配り。出発するときには覚えていたはずなのに、つい渡し忘れちゃうにゃ… 事務担当から渡された請求書。事務所を出るときには忘れないように気合いを入れていたはずなのに、利用者さん宅に入ったら忘れてしまう…という経験、ありませんか? 多くの場合、そこまで大事には至りませんが、忘れると落ち込んでしまいますよね。訪問看護師さんからは、「利用者さん宅を出て、移動中に『あっ!』となる」「事務所に戻ってカバンの中を見てから思い出すことが多い」といった声も聞かれました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年3月22日
2023年3月22日

【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ

全国の主要都市に100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACE。実はそのピラティスのノウハウを、在宅医療へ導入していることを皆さんはご存じでしょうか? 今回は、自身もピラティスに魅了され、ZEN PLACE訪問看護で勤めることになった看護師の日高さんに、ピラティスの魅力やZEN PLACE入職のきっかけなどを伺いました。 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護心身ケアと未病のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 ピラティスを追いかけて訪問看護の道へ ―病棟勤務時代にピラティスにご興味を持たれたようですが、きっかけを教えてください。 私は元々ダンスが好きで、病棟看護師をしながらジャズダンスのインストラクターをしていました。当時、看護部長からも「素敵だからぜひ頑張って」と応援してもらえて、時間を調整しながらレッスンをしていたんです。ピラティスとの出会いは、そのダンススタジオのメンバーから「ピラティスいいよ」っておすすめされたことがきっかけですね。偶然にも家の近所にピラティススタジオがあったので、興味本位で通ってみました。 ―実際に体験されていかがでした? 実際やってみると身体が変わることを実感して、すごく面白いと感じました。私も医療従事者なので、身体に関する知識があるぶん、余計に楽しくなっちゃって。 また、ジャズダンスはバレエが基礎になっているので、体幹やコアマッスルが足りないと踊れないんですよね。ピラティスをやり始めることで、「身体の軸がしっかりしてきたな」と感じて、ピラティスへの興味が深まっていきました。 ―その後、ピラティスのインストラクターコースも受講されたとか? はい、受講しました! とても充実した時間になりました。 私は通学してセミナーを受講しましたが、最近はオンラインや通学+オンラインのハイブリッドコースなど、自身のライフスタイルに合わせて受講できるスクールが多いです。例えば、basiピラティスのマット通学コースの場合、集中した講義を合計36時間学び、100時間以上の自己実践、20時間以上のレッスン見学や30時間以上の指導練習を通し、資格取得が可能になります。資格を取得し、ようやくスタートラインに立てました! ―ZEN PLACEに転職しようと思ったのも、やはりピラティスがきっかけなのでしょうか? そうですね。どんどんピラティスへの興味が増して、「ピラティスを看護の仕事に活かせないかな」とインターネットで色々調べるうちに、ZEN PLACEを発見したんです。利用者さんに対してもそうですし、働き手である看護師に対してもピラティスを推奨している点に共感しました。 私も当初はダンスのトレーニングの一環として始めたピラティスでしたが、すごく自分の身体や心が整うのを感じて、「もっと働く看護師にピラティスが広まり、健康的な生活を手に入れて欲しい」と思うようになったんです。 特に急性期の病棟に勤めていると、「人が生きるか死ぬか」という命の瀬戸際のなかで看護をしているので、感情的になってしまいがちです。私も、ICUではやりがいや喜びを感じながら働いていましたが、改めて振り返ってみると心身ともに疲れていることが多かったように思います。「本当は運動して発散したいけど、仕事が忙しくて続かない」という悩みが多いのも看護師の実情です。もっと看護師にピラティスが広まってほしいと思います。 ―病棟から訪問看護への転職ですし、住むエリアも変わるなかで、悩まれなかったですか? 正直とても悩みました。急性期での看護も楽しい面ややりがいがありましたし、在宅の現場は、過去に派遣の仕事として訪問入浴をしたことがある程度。転職後の仕事内容のイメージもあまりできず、不安がありました。でも、最後は「自分がやりたいことをちゃんとやりたい」「やってみなきゃわからない!」と思い、転職を決めて東京へ引っ越しました。 ピラティスを活用するZEN PLACE訪問看護とは? ―入職後のことをお伺いします。ZEN PLACEでは、同一のステーションに訪問看護師や理学療法士、作業療法士等の色々な職種が在籍されていますが、職種間の連携について教えてください。 同じ利用者さんに看護師と理学療法士両方で入っていることもあるので、「今日はこういう状態だった」とステーション内で情報交換をしています。また、訪問看護のみで入っている利用者さんでもリハビリをしたほうが良いケースもありますし、逆にリハビリメインで入っている利用者さんに医療的な処置が必要になった場合は、看護師が入ったほうが良いこともあります。多職種と連携が取りやすく、意思疎通がスムーズで良い環境ですね。 ―職場の雰囲気としてはいかがでしょうか。 基本的にスタッフはみんな明るくて、職場内では笑顔や笑い声が絶えません。ピラティスが好きなメンバーばかりで、みんなで仕事後にレッスンを受けに行くこともありますし、和気あいあいとした職場でとても楽しいです。 ―皆さんにとって、本当にピラティスはリフレッシュもできる大切な時間なんですね。仕事の後にピラティスをするケースが多いのでしょうか。 そうですね。今もステーションの近くにあるスタジオで、「期間中に50日間ピラティスをしよう」というイベント(「50days challenge」)に同僚と参加しています (笑)。 こうしたイベントがないときでも、ZEN PLACEが運営するスタジオは各所にあるので、ステーションや自宅の近くにあるスタジオに寄ってから帰ることが多いですね。オンラインレッスンもあるので、家に帰ってからやることもあります。 人によっては朝ピラティスをしてから出勤しているケースもあると思いますし、ZEN PLACEでは福利厚生として、月に2回までは業務時間内でピラティスを受けに行っても良いという制度があります。訪問にキャンセルがでた時に行くこともありますね。 ―雰囲気が良くスタッフ同士も仲の良い職場のようですが、ピラティスを行っている影響もあると思われますか? もちろん、すべてがピラティスの効果だとは言い切れませんが、私は一助になっていると思っています。医療従事者は献身的に仕事をされている方が多い印象なので、自分のために何かをする時間って意識しないと取れないんですよね。でも、ピラティスをすると、その間は自分の身体と心と向き合うことになるので、「今日はあまり足が上がらないな」「仕事のことをいっぱい考えているな」など、色々と感じ取ることができます。 ピラティスは「動く瞑想」とも言われますが、自分に向き合うことで自分を大切にできるし、心身が整う効果があると思っています。自分自身が整うことで、利用者さんへの良い看護の提供や職場の雰囲気の安定につながるのかな、感じています。 心が安定すると、ネガティブな言葉も言わなくなりますね。「こういう嫌なことがあったよ」という話が出ても、愚痴になるのではなく、「そうなんだね、大変だったね」と受けとめたあと、「こうしたら改善するんじゃない?」とみんなで意見を出し合いますし、誰かがポジティブな言葉や思考に変換してくれます。 ―ありがとうございます。次回は、ZEN PLACEでのキャリアや、どのようにピラティスを訪問看護に取り入れているのかを伺います。>> 【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACEのキャリアパス&訪問時のピラティス活用法 ※本記事は、2023年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 編集・執筆: 合同会社ヘルメース取材: NsPace編集部

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