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ALS患者に必要な情報「実用編」~下肢(1)~
ALS患者に必要な情報「実用編」~下肢(1)~
コラム
2022年12月27日
2022年12月27日

ALS患者に必要な情報「実用編」 ~下肢(1)~

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は実用編の第3弾。梶浦さんが実際に使用した道具や工夫を紹介します。ALSはもちろん、他の疾患等をもつ方たちの生活にも参考にしてください。 下肢の症状によって何に困るか ALSの初発症状で、上肢の次に多いのが、下肢の症状です。下肢の筋力が低下すると、足が上がりづらくなり、歩きにくくなった・つまずきやすくなった・よく転ぶようになった、などの症状が出ます。また、人によっては頻回に足がつるようになり、痛みを伴うこともあります。 足を思うように動かせないし、だるい、疲れる。それでも「歩くのをやめてしまったら、今後ずっと車いすでの生活を送らなければならない」そう考えると、歩くのを諦める決断をするのには相当な覚悟がいるでしょう。 しかし、転ぶようになってしまったら、歩くことが重大な事故につながりかねません。私もギリギリまで自分の足で歩きたくて、頑張っていましたが、転んだときに受け身がとれず、そのまま顔面から倒れて眉間をパックリ切った経験があります。それ以来、歩かなくなりましたが、今思えばもっと早く歩くのをやめておけばよかったです。 車いすの選びかた 歩けなくなってからの移動手段としては、屋外では車いすの一択でしょう。車いすは、手動式のものから、電動式のもの、リクライニング機能がついておりフルフラット近くまで倒せるものなど、さまざまなものがあります。 手動式の車いすは、人に押してもらうぶんにはよいのですが、自分の力で動かそうとすると手の筋力をかなり使うので、ALS患者さんには不向きかもしれません。なので、手が少しでも動かせる間は、電動式の車いすを使う。操縦が難しくなってきたり、姿勢の保持がつらくなってきたりしたときに、リクライニング機能付きの車いすに乗り替えていくのがよいのではないでしょうか。 電動式の車いすには、ヘッドレストが付いていないものが多いのですが、ヘッドレストを後付けすることもできます。頭部の保持がつらくなってきたら、早めに付けることがおすすめです。 車いすクッションの選びかた 車いすには長時間座っています。それを考えると、車いすクッションの選択もとても重要です。 筋力が残っている時期は硬さがあるタイプを 立ち上がりや、座りなおしができる間は、少し硬さのあるもののほうがよいと思います。柔らかすぎるものは、お尻が沈んでしまい、立ち上がるときに足に力が入りにくくなってしまいます。 私の場合は、いろいろ試した結果、「アウルREHA 3Dジャスト」(加地)というクッションがよかったです。 これは適度な硬さがあり、3D形状が体にフィットして、姿勢の保持をサポートしてくれるため、座っているのも立ち上がるのも楽でした。 立ち上がりが難しくなったら体圧分散できるタイプを 足に力が入らなくなり、介助者の力を借りても立ち上がりや座り直しができなくなったら、柔らかくて体圧分散機能の高いものがよいと思います。長時間同じ体勢でもお尻が痛くなりにくいです。 私は「ロホ・クァドトロセレクト」(アビリティーズ・ケアネット)のハイタイプを愛用しています。 屋内のちょっとした移動に適したいす 屋外での移動は車いすがよいのですが、車いすだとサイズが大きく小回りも利きにくいので、自宅内でのちょっとした移動には不便なことがあります。 そんなときに重宝したのが、「ユニ21EL電動・低床」(アビリティーズ・ケアネット)です。 このいすは、車いすよりも小回りが利き、座ったまま足こぎで移動できます。歩くことは難しくなったが、まだ足こぎはできる程度の筋力が残っている間はとても便利でした。電動で座面を昇降できるため(左右両方の手すりの下にボタンがある)、足こぎするときは座面を低くし、立ち上がるときは座面を高くしてブレーキで後輪をロックすることで、立ち上がりも安全に楽にできます。 立ち上がりやすく快適なソファ 日中ベッド以外で過ごすときにとても快適だったのが、起立補助機能がついた電動リクライニングソファでした。 私は、歩けなくなっても、いすから立ち上がる程度の筋力がまだ残っている間は、ベッドではなく、できるだけ車いすやソファで過ごしたいと思っていました。 そんなときに探し出したのが、起立補助機能つき電動リクライニングソファです。このソファは電動で座面後部がせり上がるため、立ち上がるのがとても楽でした。また、フルフラット近くまで倒すこともできるので、休みたいときは楽な姿勢で休むことができます。 このような機能がついているソファが、福祉用具店だけではなく、大型家具店でも売られていますので、興味のあるかたはぜひ調べてみてください。諸事情により商品名は割愛しますが、私は大型家具店の5万円台のものを使っていました。 立ち上がりが難しくなったら 立ち上がることが難しくなり、ベッドから車いすへ移動しにくくなったときにとても便利なのが、電動介護リフトです。力がない介助者でも、一人で移動介助を行うことができます。 スリングシートの選びかた 電動リフトでは、体の下にリフト用のスリングシートを敷き込んで、スリングシートごと体を包み込んでハンモックのような状態で体をリフトで吊り上げて移動します。 スリングシートはいろいろ種類がありますが、ALS患者さんは徐々に頭を支える筋力も落ちてきて、自分の力では頭を支えられなくなってしまいます。なので、頭まですっぽり覆えるタイプのものをおすすめします。 リフトの種類 リフトには床走行式と天井走行式の二種類あります。 床走行式は置くだけなので設置は簡易ですが、大きいので置くスペースが必要なのと、高さがあまり出せないという難点があります。 一方天井走行式は、設置には工事が必要ですが、スペースを広く活用できて、天井高に応じて高さがかなり出せるので移動がスムーズにできます(工事が不要なレール組み立て式もあります)。 どちらもメリット・デメリットがありますので、ご家庭の状況に応じて検討していただければよいかと思います。ちなみに、私は天井走行式を使っています。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:株式会社加地     アビリティーズ・ケアネット株式会社

地域を巻き込みまちづくりをデザインする
地域を巻き込みまちづくりをデザインする
インタビュー
2022年12月27日
2022年12月27日

地域を巻き込みまちづくりをデザインする

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第11回は、「ものをつくらないデザイナー」として自治体からひっぱりだこの山崎亮さんから、まちづくりやワークショップの極意を聞いた。(内容は2016年7月当時のものです。) ゲスト:山崎 亮(コミュニティデザイナー/株式会社studio-L代表取締役)大阪府立大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了(地域生態工学専攻)。株式会社エス・イー・エヌ環境計画室を経て、2005年studio-L設立。東北芸術工科大学芸術学部コミュニティデザイン学科教授(学科長)。2013年東京大学大学院博士課程修了。慶応義塾大学特別招聘教授。著書に「コミュニティデザインの源流」(太田出版、2016)「ケアするまちのデザイン」(医学書院、2019)などがある。 ヒアリングはアウェイではなく相手のホームで聞く 川越●地域包括ケアには、まちづくりが重要といわれています。山崎さんのお仕事であるコミュニティデザインはまさに人の集う場、居場所づくりに関連していますね。 山崎●コミュニティデザイナーは、地域のコミュニティとともに未来をデザインしていく仕事です。仕事の8割は自治体からの依頼で、たとえば東京都墨田区の食育計画にかかわったのですが、区民の健康的な食事を考えるときには、健康づくりや未病、環境に対する配慮やゴミの問題、郷土の歴史を含めた地域に関することや、教育などについても考えていきます。そのような計画は住民が参加しないことには意味がないので、地域の人々に集まってもらい、一緒に計画を作っていきます。 川越●建築・デザインの専門家である山崎さんが、地域の人とどのように共同作業を進めていくのか興味があります。 山崎●地域をフィールドにするコミュニティデザイナーは、誰とでもすぐ友達になれる力が必要かもしれません。「あの人は話しやすい」と思われる関係性を作っておくと、必要な情報がスーッと下りて来る。 川越●地域包括ケアでいろいろなセクターの人が共同で仕事をするとき、そういうふうに黙っていても情報が入ってくるのは「技術」だと痛感します。 山崎●自治体の地域計画などは、ユーザーが目に見えず、誰にどうやって意見を聞けばいいのかわからない。それで、ワークショップという形で地域の人の話を聞き、計画の設計に反映させていくことにしました。実際に地域で行動を起こしていくことが大切ですから、合意形成だけではなく、主体形成みたいなものをつくっていきます。 川越●地域包括ケアの文脈でいうと、地域ケア会議が地域課題の抽出や解決策の検討の場になるという発想ですが、今のところ抽象概念にとどまり、やっていることは地域によってまちまちです。 山崎●会議をやるから集まりましょうではなく、こちらから行くほうがいいですね。会議室に来てもらうと緊張して本音が出ない人も多いので、僕らは最初のヒヤリングでは職場や自宅で話を聞くようにしています。 川越●ホームかアウェイかで言ったら、相手のホームに出掛けていくほうがいいということですね。 山崎●そうです。相手のホームなら、話題に困ったときも話のきっかけとなる情報がその場所にたくさんあるので、目に入ります。そうやってヒヤリングを行い、100人の人の配置がわかると、ようやくワークショップの参加者募集をかけていきます。 ワークショップは合意形成から主体形成まで担う 川越●今、「地域づくり協議体」という会議を各自治体でやることになっていますが、山崎さんがおっしゃるように、まずは話を聞きに行くほうがはるかに実践的な方法ですね。 山崎●ワークショップの参加者は公募が前提です。テーマに沿ったアイデアを出し合うほか、課題とまったく関係のない、参加者自身がやってみたいことを発言してもいい。1チームは7人くらいで、数回メンバーを替えながらやっていくと、何となく「この人とこの人は意見が合う」というのがみえてきます。 地域包括ケアのケースなら専門職に入ってもらい、住民の方たちと地域を調査し、今ある社会資源とやりたいことをどう組み合わせられるか、アイデアを合意形成として出してもらう。そして、何ができるかが見えてきたらチームビルディングを行います。つまり主体形成です。ここからは実行してもらう段階で、社会資源となるような活動をそれぞれのチームに生み出してもらいます。 「楽しい」「かっこいい」を加えるとまとまりやすい 川越●山崎さんのお仕事は、地域医療や福祉など、地域包括ケアシステムで行なっていることと同じ方向を探っていると思うのですが、こちらはなかなか定着・持続という形で発展させていくのが難しいですね。 山崎●僕自身は今、社会福祉に恋をしていて、社会福祉士の勉強をしているんです。今やっと就労支援のところまできましたが、19科目全部面白いです。バイスティックの原則とか、これはコミュニティデザインに絶対必要なことだとか、たくさんの気づきがあります。 川越●かつてはその分野の専門家だけですむ時代でしたが、今は他分野の専門家と専門家をどうつなぐか、市民がどう参加するかが求められています。つなぎかたを考える役割の人が必要だと痛感します。 山崎●自治体の施策は、税金を使うために議会で説明する必要があるので、どうしても「正しさ」を訴えてしまいますが、ワークショップでは、「正しいとは何か」を議論すると、それぞれの「正しさ」をぶつけ合ってしまい、まとまらない。そこに「楽しい」「かっこいい」「美しい」など感性の要素を入れるとまとまりやすくなるんです。 理性だけの「正しさ」では動いてくれなかった人も、地域包括ケアが楽しかったり、かっこよかったりすれば、動き出していく。感性に訴える、広い意味での美しさをデザインすることを意識しています。 川越●山崎さんのお話をうかがって、ファシリテーターとして企画を練ったり、関係者にどう依頼すれば人が集まるのかなど、専門職とは関係ない能力のほうがはるかに大事だなと思いました。そして、ワークショップに象徴される関係性づくりや合意形成があって、初めて新しい動きが生まれてくるのですね。 ー第12回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2016年7月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その3:ハラスメントを未然に防ぐ
CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その3:ハラスメントを未然に防ぐ
特集
2022年12月27日
2022年12月27日

CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その3:ハラスメントを未然に防ぐ

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第6回は、ハラスメントを未然に防ぐために管理者としてできることを話しあいます。 はじめに 前回は、管理者としての具体的な行動を考えました。続く今回は、ハラスメントを未然に防ぐことをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE2 スタッフから、利用者によるハラスメントの相談を受けたとき スタッフナース田中さんから「利用者Hさんの訪問を外してほしい」と相談を受けた。利用者Hさんには脳梗塞後麻痺と心不全があり、入浴介助を行なっていた。Hさんはニコニコと穏やかな性格だったが、介助時に「裸になって一緒に入ろう」などとセクハラ発言をされるのが不快という理由だった。Hさんは一人暮らしで、以前利用していた訪問看護ステーションでも同様の言動がみられ、さらに、キーパーソンの娘が「厳格で真面目な父がそんなことをするはずがない」と主張し、その訪問看護ステーションでトラブルになっていた。そんな経緯での当ステーションへの依頼だったため、依頼を受けることにはスタッフナースたちから反対の声が大きかった。よく依頼をくれるケアマネジャーからの依頼で、しかも直近は当ステーションの売上が低迷しているために、依頼を受けることにしたのだ。管理者としてどう対応したらよいだろうか? 設問もしあなたがこの管理者であれば、Hさんのような利用者への対応はどのようにすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 ハラスメントを未然に防ぐために管理者としてできることは何か 講師これまでは、すでに起きてしまったハラスメントへの対応について議論してきました。この対応はとても重要です。そして、ハラスメントを未然に防ぐための手立てを検討し、実施していくことも管理者の役割として重要です。では何をしておくとよいとみなさんは考えますか? Aさん注2オーソドックスなのですが、ご利用者やその家族に暴力・セクハラを許さない意思表明をして、重要事項説明書に事業所の対応を明記しておくといいのではないかと。今回の場合だと、Hさんの娘さんへの対応にもなると思います。 Bさんハラスメントへの対応について社員研修は実施しておきたいです。いざ起きてしまうとなかなか適切な対応ができないと思うので。ケースメソッド形式でやるのもいいかもしれませんね(笑)。そしてスタッフとは、ハラスメントについて相談しやすい体制を築いておく。 Cさん起こった後に弁護士に相談するという意見が出ていたと思いますが、ハラスメントからクレームや営業妨害などの事態に発展した場合に備えて、事前に弁護士に相談しておくことも必要だと思いました。 DさんHさんを紹介したケアマネとは付き合いが長そうなので、セクハラが起きたときの対応についても相談しておけたのではと思えますね。 講師ご利用者たちへの事前説明と、研修という声がありましたね。ケースメソッド研修でハラスメント対応を学習しておくのもいいと思いますよ(笑)。Cさん・Dさんの発言にあったように、事前にできることはたくさんありますね。 管理者として問題を未然に防ぐという意識を持って行動する 講師では、CASE2の議論のまとめに入りましょう。 今回は、ハラスメントへの事後対応と、ハラスメントを未然に防ぐために管理者がすべきこと・できることについて、ケースの議論を通して学びました。 事後対応は、スピード感を持って毅然とした対応をする必要があります。ハラスメントの事後対応については4つのステップを意識してください。 1.被害者のケア2.事実確認3.関係者との対応協議4.行為者への適切な措置 そしてさらに重要なことは、ハラスメントを未然に防ぐという考えに立って動くことですね。 Aさん私は今回のケースよりもっとひどいハラスメント事例に遭遇し、とても苦労した経験があります。その経験があるので、今はハラスメントを未然に防ぐにはどうしたらいいかを常に考えています。でも、こんな苦労はしたくなかった。 講師Aさんはたいへんなご苦労があったのだと思います。そういった経験から学ぶことはとても大事なのですが、痛みや危険を伴うこともしばしばです。ハラスメント対応の4つのステップはとても重要ですが、実際にこのステップをしなくてもいいように、問題を未然に防ぐ意識を持って行動してください。 * 次回は、CASE3「対応してくれないドクターに動いてもらうには?」を考えます。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇全国訪問看護事業協会.「訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業報告書」東京,全国訪問看護事業協会,2019,58p.https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/h30-2.pd2022/7/7閲覧〇三木明子監修・著,全国訪問看護事業協会編著.『訪問看護・介護事業所必携!暴力・ハラスメントの予防と対応』三木明子監修.大阪,メディカ出版,2019,210p.〇事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講すべき措置等についての指針.平成18年厚生労働省告示第615号.令和2年6月1日適用.

消毒による手荒れや室内の乾燥...冬場の乾燥対策どうしてる? 【訪問看護師アンケート】
消毒による手荒れや室内の乾燥...冬場の乾燥対策どうしてる? 【訪問看護師アンケート】
特集
2022年12月20日
2022年12月20日

消毒による手荒れや室内の乾燥…冬場の乾燥対策どうしてる? 【訪問看護師アンケート】

ただでさえ冬は乾燥する季節。頻繁に手洗いや消毒を繰り返す看護師は、特に乾燥による肌荒れに悩まされます。訪問看護師の場合、利用者さんのお宅の乾燥が気になることも。皆さんはどのような乾燥対策をしているのでしょうか? 訪問看護師22人に実施したアンケート結果をご紹介します。 アンケート実施期間:2022年10月25日~11月22日 全員が手指の乾燥が気になっているという結果に 冬場、訪問看護の業務中に肌の乾燥が気になることがあるかどうか調査したところ、全員「ある」と回答。また、全員「手指の乾燥が気になる」という結果でした。「すね」「かかと」が気になるという人も半数程度います。 業務のなかでも、やはり手洗いや消毒をしているときに乾燥が気になるとのこと。入浴介助や自転車・自動車の移動時に気になるという人も数名いました。 乾燥による肌荒れ対策。やはりハンドクリーム&リップクリームの保有者多し では、皆さんはどのような乾燥対策をしているのでしょうか。 約90%の人がハンドクリームを使用していると回答。リップクリーム、ボディクリームも人気でした。 具体的な対策内容について、以下のような声が聞かれました。 「乾燥肌の症状が強くなる前から保湿対策を行います。業務で自転車に乗るときは、マフラーを巻いたり上着の襟を立てたりして頬や口唇に外気が当たらないようにするほか、手袋も着用します 」(50代) 「水分を少なくとも1日1リットルは必ず摂りますね。日頃使用するハンドローション、クリームはベタつきの少ないものをこまめにつけます。勤務中の顔の乾燥に対してはシアバターをつけていて、ローション、クリーム類は無香料を使っています」 (50代) 症状が出る前の早めの乾燥対策や、業務に影響が出にくい保湿剤のセレクトは参考になります。その他、加湿器を使用している人や、「入浴後の保湿を大事にしている」という人も複数いました。 使用している保湿剤としては、・ヘパリン類似物質クリーム・ミネラルオイル・ワセリン等が主成分のクリーム・ひび・あかぎれに悩む人用のビタミン系クリームなどが人気でした。 一方で、以下のような声も。 「できる限り移動中にハンドクリームを塗ろうと思いますが、結局朝一しかできません……」(50代) バタバタと訪問看護業務をこなしているうちに、自分の乾燥対策が後回しになってしまうケースは多いでしょう。回答者のなかには「消毒と同時に保湿できるハンドクリームを使っている」という人もいました。時間がない人は、こうした製品を使用して「消毒時に保湿」する流れを作ってしまうのもひとつの手かもしれません。 訪問看護の利用者さん宅では「お湯・お水をはる」「加湿器の設置」を提案 では、利用者さんの乾燥対策についてはどうでしょうか。回答者のうち95%以上が、「利用者さん宅で乾燥が気になることがある」と答えています。病棟とは異なり、利用者さん宅の温度・湿度環境は簡単に調整できませんが、室内が乾燥していると利用者さんの肌トラブルの原因になってしまいます。 乾燥が気になったとき、どのような提案をしているのか聞いてみました。 「乾燥が気になっても提案しない」という人はゼロ。皆さん何らかの提案をしているようです。「洗面器・バケツ等にお湯・お水をはる」「加湿器の購入・設置」が同点1位という結果でした。 ただし、加湿器については賛否両論。カビを懸念する声が多く聞かれました。 「加湿器は、手入れがされずカビの繁殖に繋がるのですすめません。濡れたタオルを干す、霧吹きで加湿することをすすめています」 (50代) 「ペットボトル加湿器のような手軽で安価なものを提案します。その際、カビ対策についても言及します」 (30代) 「タオルや洗濯物を室内に干すことを提案するほか、カビが発生しないタイプの簡便な加湿製品を提案します。また、自分たちが訪問中、安全を確保したうえで電気ポットの蓋を開けて蒸気をあげることもあります」 (50代) そもそも加湿器の提案を避けている人もいれば、カビが繁殖しないタイプの加湿器・加湿製品を提案している人も。手入れが行き届かないことを考慮して、利用者さんが安全に少ない負担で続けられる加湿方法をアドバイスしているようです。 「提案してみよう」「実践してみよう」と思えるものがあれば、ぜひ明日からの訪問看護にいかしてみてください。 記事編集:NsPace編集部

融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
特集
2022年12月20日
2022年12月20日

融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、新人訪問看護師に必要な心構えや注意したいメンタルヘルスの症状をお伝えします。 要望ばかりでは心に負担も 「融通」も忘れずに 訪問看護の新人看護師は、どのくらいの臨床経験があるのでしょう。看護師国家試験を合格してすぐに訪問看護ステーションに就職する人はほとんどおらず、早くても5年程度の臨床経験を経てから訪問看護師になる人が多いのではないでしょうか。10年程度してから訪問看護師になる人も結構多く、訪問看護は年齢を気にせずに新しい世界にワクワクして入職できる分野かもしれません。 新しい世界はどんなことが待ち受けているかわかりません。想像するような仕事かどうかは、入職時にはある程度知っておきたいものです。もしあなたが入職前にこの記事を読んでいるのであれば、どういう仕事があるかは調べたりたずねたりしておきましょう。予想外の仕事が来た場合にメンタルを崩すことが減ります。 ただ、ここで大事なキーワードは「融通」です。ある程度の柔軟さは仕事をする上で大事ですし、人間関係のこじれを少なくすることもできます。働きだしてからの自分のためにも、要望ばかりにならないよう、与えられた仕事に対して臨機応変に処理することも大切です。自分の中で折り合いを付けられるように融通を利かせる許容範囲も考えておきましょう。 もうすでに入職している人は、職場でのキャリアプランやスキルアップについてはどこかの時点で上司に聞きつつ、自分のビジョンも伝えておくとよいでしょう。ギャップが少なければストレスが溜まりにくくなります。 焦りは禁物! 落ち着いた心持ちで働く 一方で、特に若い方は「医療は作業」という側面もあると改めて認識しておくとよいかもしれません。少しずつ自分のスキルや提供できる看護技術は上がっていきますが、月日を経て患者さんが変わりはすれども基本は同じような日々の繰り返しです。その中で自分の気持ちをどう安定させたり維持させたりできるかも大事になってきます。 さて「どうやって気持ちを維持させるか?」ですが、最初に意気込んでしまう人ほど慣れてくると意気消沈してしまうことがあります。また、まじめで責任感が強い人も、一生懸命がんばりすぎて気力を維持できなくなることもあります。 どちらの場合も「まずは急いでパワーアップしようと思わず、勤務を続けること」が大事です。最初の1~2ヵ月は言われたことを落ち着いた気持ちで遂行することを目標にしてください。ポイントは落ち着いた気持ちで仕事ができることです。 職場に相談できる人をつくる 気持ちがいっぱいいっぱいになったり、落ち込んできたりしたときは自分だけで抱え込まず職場の人に相談しましょう。訪問看護は1人業務になりやすい業態ですが、職場の中で話しやすい人を1人でよいので見つけておくとよいでしょう。職場に相談できる人がいるかどうかが、職場での気持ちの安定につながります。 とはいえ、入職後すぐは話しやすい人なんて誰もいない状態からスタートします。なるべく自ら話しかけることにトライしてみてください。話すきっかけとしては興味を持たれなくてもよいので雑談をしてみましょう。自分とまったく同じ人はいませんので、話したことすべてに興味を持ってもらえることはまずありません。 話題を考える時に参考になる有名なフレーズがあります。それは「木戸に立ちかけし衣食住」というものです。「季節(気象)」「道楽、趣味」「ニュース」「旅」「知人」「家庭」「健康」「仕事」の頭文字に「衣・食・住」を加えたフレーズで、これらの話題のうちどれかを選んで話すと雑談がしやすいと言われています。逆に、避けたほうがよいとされる「話題の3S」というものもあります。これは、話題にするとトラブルになる可能性がある「スポーツ」「政治」「宗教」のローマ字の頭文字Sを取った覚え方です。 うつを見抜くサイン こんな症状に気をつけて! 最後は、しんどくなったときに備え、知っておいてほしい内容をお伝えします。うつ病や適応障害によるうつ状態のときに出る症状は、気分の落ち込みや意欲の低下だけではありません。他にも注意してほしい症状があるのでご紹介します。同じ症状が見られる場合は早めに受診をしましょう。 不眠 代表的な症状が不眠です。寝られなくなったら何らかの精神的な不調が隠れている可能性を考えてください。少なくとも無理をしてしまっている可能性は大いにあります。 食欲低下 食欲低下は食べられないということ以外にも、おいしく感じなかったり、無理に食べている感覚が出たりします。 消化器症状や身体症状 うつ病の診断基準にはありませんが、下痢、便秘、胃痛、腹痛といった消化器症状、頭痛や動悸や呼吸困難感といった身体症状も出てくる場合があります。他に、涙が出る、仕事に行くのに足がすくんでしまうこともあります。 自責感・罪責感 自分で気づきにくい症状としては自責感・罪責感があります。自分を責めてしまう、迷惑をかけていると思ってしまう症状です。「今、休むと他の人に迷惑が掛かってしまう」。このセリフがよぎったときは危険信号だと思ってください。案外耳にしそうなセリフですが、精神的に追い込まれている状況でもこのセリフを言い続けて自分を責めてしまいます。 * 精神科に通院しながら働いている人は近年非常に増えており、受診を気に病む必要はありません。受診したことで何か冷たい扱いを受けるようであれば、逆にそういう職場であることを早めに知ることができて幸運だと思うくらいでよいかもしれません。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社

【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
特集 会員限定
2022年12月13日
2022年12月13日

【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-

2022年8月26日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護における生活期リハビリテーション」。刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科 部長の小口先生を座長に迎え、同課の理学療法士 仲村先生と作業療法士 日比先生に、それぞれの視点から訪問看護の現場で役立つ生活期リハの知識や具体的なテクニックを教えていただきました。 そんなセミナーの様子を、3回に分けてご紹介。第3回は、日比先生による「症例を通した日常生活動作の工夫」についての講演の後半をまとめます。 【講師】(座長)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科部長/リハビリテーション科専門医小口 和代 先生2000年より刈谷豊田総合病院勤務。2004年院内に回復期リハビリテーション病棟、2007年訪問リハビリテーション事業所を開設し、急性期から回復期、生活期まで幅広くリハビリテーション診療に携わっている。指導医として若手医師へのリハビリテーション教育やチーム医療の質の向上に取り組む。監修本:『Excelで効率化! リハビリテーション自主トレーニング指導パットレ!Pro.』医歯薬出版 2021年 (講演Ⅰ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科理学療法士仲村 我花奈 先生2002年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期(神経、整形、ICU)、介護老人保健施設を経験。現在は訪問リハビリテーションを担当している。利用者の社会参加やQOLの向上を目指し、前向きな生活が送れるよう取り組んでいる。 (講演Ⅱ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科作業療法士日比 健一 先生 2004年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期、回復期、介護老人保健施設を経験。認知症サポートチーム、緩和ケアチーム、ICTワーキングの経験を活かし、訪問リハビリテーションでは横断的な専門的支援を提供している。 目次▶︎ 検討症例の基本情報:90歳・男性のBさん▶︎ 困りごと(1) 起き上がりから車椅子への移乗が難しい ・移乗動作を助ける福祉用具 ・適切な車椅子を選んで移乗の負担の軽減を▶︎ 困りごと(2)食べるスピードが遅く、食事中ぼーっとする ・食具の種類と導入の注意点▶︎ 利用者さんの生活動作について助言する際のポイント --> ▶︎ 検討症例の基本情報:90歳・男性のBさん 90歳の男性Bさんの架空の症例を通して、具体的な生活動作へのアドバイス方法を考えていきましょう。最初にBさんの基本情報をご確認ください。 2症例目:Bさん(90歳/男性)・妻と二人暮らし。・4年前に脳梗塞を発症し、重度片麻痺の後遺症が残っている。・ADL動作は、食事以外は介助が必要。要介護認定は「要介護3」・移動は車椅子で全介助。ベッドで寝ていることが多く、外に出る気はまったく起きない。 そんなBさん、およびその妻が日常で感じているさまざまな困りごとについて順番に見ていきます。 1症例目はこちら>> ▶︎ 困りごと(1) 起き上がりから車椅子への移乗が難しい 最初の困りごとは、起き上がりから車椅子への移乗です。妻は「夫は体が大きいので介助が大変だ」と話し、Bさん本人も「車椅子に乗ると疲れるから、ベッドで寝ていればいい」といいます。寝たきりになるリスクが非常に高い状態ですね。 そこで、起き上がりと移乗の動作についてアドバイスします。それぞれ以下のような手順を踏むと、比較的スムーズに体を動かせるでしょう。 ※黄色のテープを巻いている足は、健康状態が悪い足を表現しています 【起き上がり動作の手順】STEP1:ギャッジアップ座位にするベットに頭を付けたままギャッジアップで上体を起こす。STEP2:高さ調整介助者の腰が深く曲がらないように、ベッドの高さを調整する。STEP3:足を降ろし、上体を起こす下肢を先に降ろし、上体を健康な足側の方向に起き上がらせる。 ※黄色のテープを巻いている足は、健康状態が悪い足を表現しています 【移乗動作の手順】STEP1:座面を上げる立ち上がりやすい高さ(目安は股関節が90度以上になる状態)までベッドを上げる。STEP2:上体を曲げ、臀部を上げるお辞儀をさせるように上体を曲げ、お尻が浮きやすい体勢にして立ち上がる。STEP3:悪い足を固定し、方向転換する悪い足を固定し、健康な足側に重心をかけて方向転換させる。 移乗動作を助ける福祉用具 併せて提案したいのが、移乗動作を助ける福祉用具です。利用者さんが臥位・座位・立位のどの状態から移乗するかによって選定してください。 立つことが可能であれば、L字手すりを設置し、立ち上がりをサポートします。座位の場合は、トランスファーボードや介助用ベルトを使用し、転倒予防や介助負担の軽減を図りましょう。そして座ることも難しい場合は、介助用リフトの導入を検討します。 適切な車椅子を選んで移乗の負担軽減を 移乗の負担を軽減するには、利用者さんに合った車椅子を選ぶことも重要になります。車椅子の選定ポイントは、車椅子の座位姿勢、使用目的、そして移乗動作の介助量です。選定基準を詳しく見ていきましょう。 ・普通型車椅子移乗の介助量が少なく、座位保持が可能な方向け。自走に適している。・モジュラー式車椅子移乗の介助量は中等度で、座位保持が可能な方向け。自走に適している。・リクライニング型車椅子移乗の介助量が大きく、座位保持が困難な方向け。介助用に適している。なお、リクライニング型車椅子はチルト機能があるものがおすすめ。座面から臀部がずれ落ちるのを軽減でき、転倒を予防できる。長い時間座位を保持する場合にも便利。 ▶︎ 困りごと(2) 食べるスピードが遅く、食事中ぼーっとする 続いての困りごとは、食事についてです。妻からは「食べるスピードが遅い。食事中にぼーっとしているのも気になる」と、本人からは「箸が使いにくくて疲れてしまう」という声が聞かれました。 食事動作へのアドバイスをする際には、まず先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期のどの段階に問題があるかを見極めましょう。Bさんの場合は、先行期に問題があるケースになります。 次に、具体的な評価と改善案を考えていきます。例えば「食べるのが遅い」ことには、多くの場合疲労の問題が隠れています。肘つきのある椅子やリクライニング機能のある車椅子に変えたり、一回の食事時間を短くして回数を増やしたりといった工夫をしてみてください。また、「ぼーっとしている」のは傾眠傾向にある可能性があります。覚醒している時間に食事をとるようにすると、介助者の負担を軽減できるかもしれません。 食具の種類と導入の注意点 「普通箸が使いにくい」とお困りの場合には、食具の見直しがおすすめです。利用者さんがどのような動作を難しく感じているかを観察し、以下の基準を参照して合うものを選定してあげてください。 指の曲げ伸ばしが困難な場合 → 自助具箸握り・つまみ動作が困難な場合 → 万能スプーン握りが困難な場合 → 万能カフ 食具の提案で注意してほしいのは、本人が自力でできる動きまでサポートしてしまうものは選ばないこと。過剰に動作を助ける道具を使うと、残存機能を低下させてしまう可能性があります。 ▶︎ 利用者さんの生活動作について助言する際のポイント 私の講演では、疾患や介助量が異なる2つの症例を通して、日常の生活動作や環境設定へのアドバイス方法についてご説明してきました。今回ご紹介した症例に類似するケースに限定せず、助言する際のポイントは大きく3つあります。 1つ目は、生活動作については安全で、誰でも実践できて、かつ習慣化できる内容を提案すること。2つ目は、環境設定は、心身機能の状態に合わせて検討すること。そして3つ目は、福祉用具を選ぶ際は、残存機能を発揮できるものにすることです。 上記に基づいたアドバイスは、きっと利用者さんの社会参加の一歩につながります。ぜひ、明日からの現場で実践してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

管理者のみなさんへのエール
管理者のみなさんへのエール
特集
2022年12月13日
2022年12月13日

管理者のみなさんへのエール

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。最終回は、第8回・第9回に続き、医療法人ハートフリーやすらぎの大橋奈美さんから、訪問看護管理者のみなさんへのエールです。 お話大橋奈美医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者(訪問看護認定看護師) 感染した利用者さん宅への訪問 私たちの事業所がある大阪市住吉区には、41の訪問看護ステーションがあります。そのうち、新型コロナウイルス感染症の感染者や濃厚接触者への訪問を積極的に行なっていたのは、わが事業所を含めて2ヵ所のみだと承知しています。私たちがコロナ禍で苦しむ以上に、利用者さんは苦しんでいます。訪問を拒む理由はありません。だから私たちは感染者への訪問を躊躇しませんでした。 多くのステーションが感染者への訪問を断るため、私たちの事業所には、新規の利用者さんが次々に紹介されました。入院できずに自宅療養を強いられているケースが多く、利用者さんはストレスを募らせています。そのストレスが怒りに変わり、訪問したスタッフに「何で入院させてくれへんの?」と暴言を吐く利用者さんもいます。 そこで私たちは、2名体制で訪問することにしました。2名であれば、もしもの場合でも110番通報が可能です。もちろん、そこまでに至ることはなく、おおむね利用者さんの怒りは翌日には静まり、「昨日は取り乱してすんません」と謝られる場合がほとんどでした。 加えていえば、「感染した利用者さんへの訪問は、むしろ安全だった」というのが今の実感です。なぜなら、感染者や濃厚接触者には、厳重なPPEで臨めるからです。さらに、感染者への訪問には、それなりの加算がつき、経営面でも好材料となったことを報告しておきます。 愚痴を言いたくなったら とはいえ、コロナ禍での訪問業務には、やはり、通常とは違うストレスを伴います。管理者ならなおさらで、愚痴の一つも言いたくなるのではないでしょうか。ただし、ステーション内での愚痴は厳禁です。懸命に頑張っているスタッフの士気を下げてしまいます。 愚痴は利害関係のない相手に漏らしましょう。管理者へのおすすめの愚痴相手は、ほかのステーションの管理者です。私は、管理者同士が集まる機会を設けています。 愚痴を漏らして、ほかの管理者が「あるある、うちもそうやねん」と反応したとき、「うちだけじゃ、ないねんな」と悩める管理者は解放されます。 規模の大きさは武器 管理者との愚痴の言い合い、聞き合いを通じて感じることがあります。特にコロナ禍においては、規模の小さなステーションの管理者ほど、悩みが深いということです。「もしスタッフに感染者が出たら、やり繰りできない」と顔を曇らせます。そのストレスが、感染対策だけではなく、スタッフの一挙手一投足への愚痴となっているようです。いつもなら笑って見過ごせることも、許容できず、スタッフへの不満となるわけです。 私は、「そうやなあ。その気持ちわかるわ」と受けとめた後、「でも、スタッフが10人を超えたら、把握でけへんよ」と続けました。私たちのステーションは常勤看護師が21名います。統括所長である私は、スタッフを信じて任せるしかありません。 規模が大きければ、スタッフの代替やサポートも容易です。私たちのステーションでは、一時期、スタッフの8名が感染または濃厚接触者になったことがありました。でも、何とかなりました。規模の大きさはさまざまな面でメリットが大きいのです。 人を増やすには これも私の感想なのですが、辞めるスタッフが多いステーションは、所長や管理者がスタッフに厳しすぎる傾向が強いようです。 離職者の多いステーションの管理者が、「私、褒められへんわ」と言いました。 私は、「褒めんでもかめへんよ」と返し、「ありがとうは言えるやろ」と続けました。 「ゴミを捨ててくれてありがとう、自転車を並べてくれてありがとう、吸引チューブを替えてくれてありがとうで、ええねん」 そんな「ありがとう」で、スタッフは自分が認められたと思えます。すると事業所の雰囲気は明るくなり、笑い声があふれ、自然にスタッフは定着し、増員もやりやすくなります。 スタッフに任せる 私はスタッフから、「大橋さんって、いつも丸投げする」とよく指摘されます。もちろん、丸投げではなく、最終のチェックは忘れず、不具合があれば責任をとる覚悟のもとに任せるわけなのですが、「丸投げする」と指摘したスタッフには、こう返します。 「せやねん、あんたやから、丸投げしていいかなと思ったんやわ」 すると、多くの場合、責任感を持って業務に向き合ってくれます。そして、業務が遂行できたのを見届け、「やっぱり、あんたに任せてよかったわ」と必ず伝えます。 コロナ禍で苦しむ管理者には、「どうぞ、これからもスタッフを大切にしてください」との言葉を贈りたいと思います。事業所やあなたが苦しいとき、助けてくれるのは、あなたに大切にされたスタッフたちなのです。 記事編集:株式会社メディカ出版

根気強く話を聞いて介入を拒む人の心を開く
根気強く話を聞いて介入を拒む人の心を開く
インタビュー
2022年12月13日
2022年12月13日

根気強く話を聞いて介入を拒む人の心を開く

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。今回のゲストはセルフネグレクトの研究に取り組む岸恵美子教授。地域づくりに欠かせない、高齢者や認知症を持つ人の孤立化防止を語り合った。(内容は2015年11月当時のものです。) ゲスト:岸 恵美子(東邦大学看護学部教授)日本赤十字看護大学大学院博士後期課程修了。看護学博士。保健師として勤務した後、自治医科大学講師、日本赤十字看護大学准教授、帝京大学大学院医療技術学研究科看護学専攻教授を経て現職(看護学部長と大学院看護学研究科長も兼任)。研究テーマは高齢者虐待、セルフネグレクト、孤立死など。 「ごみ屋敷」には支援が必要な人が住む 川越●岸先生は、高齢者虐待の研究からセルフネグレクトの研究に至りました。きっかけは何だったのでしょう。 岸●家族から心理的虐待を受けるうちに「自分はどうなってもいい、早く死にたい」と考えるようになっていく高齢者が大勢いました。でも近所や家族に迷惑をかけるから、自殺はしない。このまま静かに死んでいきたいとおっしゃる。そこで、虐待からセルフネグレクトに陥ることがあるとわかりました。 川越●セルフネグレクトのなかでも中核的なのが、「ごみ屋敷」ですね。 岸●ごみ屋敷に住む人たちは、最初は全然会ってくれない。でも不衛生な環境にいますし、明らかに支援の対象だと気づきました。なかには治療が必要な場合もありますから、まずはどう受診につなげるかが重要です。 川越●先生の著書(『セルフ・ネグレクトの人への支援』中央法規出版)に、ライフラインを止められても生活している事例が紹介されていますが、自治体に通報されるしくみはないんですか。 岸●自治体が個人情報保護法に縛られすぎて、民生委員からも「気になる人がいて訪問したいけど、情報がない」という話も聞きます。地域包括支援センター(以下、「包括」と称する)でさえ情報をもらえないことは多いですから。こういう場合は特例として個人情報を開示していいはずなんですが。 キーパーソンが病むと家族全体が崩れていく 川越●ごみ屋敷に限らず、広い意味でのセルフネグレクトの人たちはどのくらいいるんでしょう。 岸●2014年に全国的な自治体調査をしましたが、回答率が4割程度と低い。そもそも日本ではセルフネグレクトの定義が定まっていないので、調査するときに対象者の例を出しているのですが、「把握していない」という回答が多いですね。 川越●対象者には、認知症、統合失調症、アルコール依存なども入ってきますか。 岸●そういう人たちが孤立することが問題なんです。高齢の親と障害者の子どもという家族では、うまく介護できなくて、孤立していきます。こうなると、家族ごとセルフネグレクトになってしまいます。 川越●家族それぞれが問題を抱えているお宅では、患者自身がキーパーソンのため、家族全体まで崩れていくケースを在宅診療でもしばしば遭遇します。 岸●そうなる前の対策として、自治体は懸命に見守りをやっていますが、見守りの担い手(民生委員)が高齢者なので手が回らない。今まで困難事例といわれていた人は、実はセルフネグレクトかもしれないんです。 「帰れ」は「来るな」のサインではない 川越●本当は支援が必要なのに、助けを求める力がないんですね。 岸●そうなんです。訪問して「帰れ」と怒鳴られても、それが「来るな」というサインとは限らず、他人とほとんどコミュニケーションしていない人は、そもそも伝えかたがわからない。なぜ拒否しているのかをアセスメントしないといけない。疾患だけでなく、遠慮や気兼ね、過去に対人関係のトラブルがあって、他人とかかわりたくないという人もいます。 岸●人には自由権があるので、本人の意思を尊重しないわけにはいかないですし、明らかに医療が必要でも、本人が拒めば無理やり救急車に乗せることはできない。結局、繰り返し話を聞いていくなかで折り合いをつけていく、根気強い対応が必要です。 川越●そうしたなかで、拒否されていた人が心を開くきっかけはあるんですか。 岸●最も多いのは、自分の具合が悪くなったときです。急に痛くなったり立つのが大変になったりすると、病院に行ったほうがいいかなと思うようです。 訪問先で血圧を測って「今日は高いですね」と言うと、みなさん数値は気にするので、それで受診につながったりすることもありました。疾患を早く発見するという点では社会福祉協議会や包括が医療にももっと介入してほしいですね。 川越●北区の包括には、医師が支援につながらない認知症の人たちの訪問相談をするサポート医事業がありますね。 岸●サポート医事業で初めてごみ屋敷に踏み入る医師もいるわけです。拒否していた人でも、医者の話だと聞いてくれて、そこで一気に話が進む人もいます。 ごみ屋敷の場合、入院・入所がきっかけで、片づけが進むこともあります。入院して清潔な病室でおいしいものを食べているところに、「もうすぐ退院だけど、あの家には帰れないよね」と言うと、片づけを了承してくれる。もちろん、その前から少しずつかかわりを持って信頼関係を築けていないとだめですが。 基本的な生活を支えるサービスが必要 岸●高齢者の多い地域でよく話題となるのは、ごみの分別問題。認知機能が低下してくると、分別ができずにごみを出さなくなってしまうので、たとえば「目が悪くなって分別が大変」などの理由で分別免除シールみたいなのがあるといいですね。そうすると出しやすくなって家にため込まないと思うんです。 川越●分別ができなくなって、ごみ屋敷になってしまう人もいるんですね。配食サービスをやっている自治体は多いですが、それより前の段階で、ごみを出す支援があってもよさそうです。 岸●人が食事をするかぎり、絶対にごみはたまっていきます。ごみ出しにヘルパーさんを使おうにも、要支援にならないと使えない。庭の草むしりなども自分でできなくなると「いいや」と荒れ放題になる。介護保険以前の基本的な生活を支えるサービスが広がるといいと思います。 ー第11回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2015年11月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

【セミナーレポート】vol.2 具体的なアドバイス方法(1) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
【セミナーレポート】vol.2 具体的なアドバイス方法(1) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
特集 会員限定
2022年12月6日
2022年12月6日

【セミナーレポート】vol.2 具体的なアドバイス方法(1) -訪問看護における生活期リハビリテーション-

2022年8月26日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護における生活期リハビリテーション」。刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科 部長の小口先生を座長に迎え、同課の理学療法士 仲村先生と作業療法士 日比先生に、それぞれの視点から訪問看護の現場で役立つ生活期リハの知識や具体的なテクニックを教えていただきました。 そんなセミナーの様子を、3回に分けてご紹介。第2回は、日比先生による「症例を通した日常生活動作の工夫」についての講演の前半をまとめます。 【講師】(座長)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科部長/リハビリテーション科専門医小口 和代 先生2000年より刈谷豊田総合病院勤務。2004年院内に回復期リハビリテーション病棟、2007年訪問リハビリテーション事業所を開設し、急性期から回復期、生活期まで幅広くリハビリテーション診療に携わっている。指導医として若手医師へのリハビリテーション教育やチーム医療の質の向上に取り組む。監修本:『Excelで効率化! リハビリテーション自主トレーニング指導パットレ!Pro.』医歯薬出版 2021年 (講演Ⅰ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科理学療法士仲村 我花奈 先生2002年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期(神経、整形、ICU)、介護老人保健施設を経験。現在は訪問リハビリテーションを担当している。利用者の社会参加やQOLの向上を目指し、前向きな生活が送れるよう取り組んでいる。 (講演Ⅱ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科作業療法士日比 健一 先生2004年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期、回復期、介護老人保健施設を経験。認知症サポートチーム、緩和ケアチーム、ICTワーキングの経験を活かし、訪問リハビリテーションでは横断的な専門的支援を提供している。 目次▶︎ 検討症例の基本情報:80歳・女性のAさん▶︎ 困りごと(1) 階段で転びそうになる ・段差があるところで利用できる福祉用具▶︎ 困りごと(2) 便座に座ると立ち上がるのに苦労する▶︎ 困りごと(3) 杖を持つ手や、先に踏み出す足がわからない▶︎ 困りごと(4) 廊下のマットで足を滑らせた▶︎ 困りごと(5) 脱臼が怖くて靴下を履くのが不安 ・脱臼を予防する道具の使用を習慣化するのもおすすめ▶︎ 困りごと(6) 滑るのが怖くて浴槽に入れない --> ▶︎ 検討症例の基本情報:80歳・女性のAさん 私の講演では、明日から訪問看護の現場で役立ててもらえる「生活動作へのアドバイス方法」について、2つの架空の症例を通してご紹介していきます。 1症例目は、80歳の女性Aさん。最初に、以下Aさんの基本情報をご確認ください。 1症例目:Aさん(80歳/女性)・独居。・2年前に転倒し、大腿骨頸部を骨折。人工股関節術を受けている。・ADL動作は自立。要介護認定は「要支援1」・杖を使えば歩けるが、最近転びやすくなってきたこともあり、外に出る気が起きなくなっている。 そんなAさんが日常で感じているさまざまな困りごとについて、具体的な解決策を考えていきたいと思います。 ▶︎ 困りごと(1) 階段で転びそうになる 最初の困りごとは、転倒のリスクです。Aさんは「新聞をとりに行こうとしたら、玄関の階段でつまずきそうになった」と話します。 そこでアドバイスしたいのが、正しい階段昇降の方法です。まず階段を上るときには、健康な足から踏み出し、続いて悪い足を上げます。健康な足で体を持ち上げましょう。逆に降りるときは、悪い足を先に下ろします。健康な足で体を支えながら踏み出すことで、動きが安定するためです。 この階段での足の動かし方は、「行き(上り)はよいよい(いい足)、帰り(降り)は怖い(悪い足)」と覚えてみてください。 段差があるところで利用できる福祉用具 福祉用具を導入するのも有効な手段です。今回は玄関の階段での転倒リスクが問題になっているため、段差昇降や立位のバランスを安定させる「踏み台」や「玄関用の手すり」が役立つ可能性があります。また、立って靴を履くのが難しいケースや、玄関の上がりかまちが低く、座って靴を履くと立てなくなってしまうケースには、「靴を履くときの椅子」の設置を提案してもいいでしょう。 ▶︎ 困りごと(2) 便座に座ると立ち上がるのに苦労する 続いての困りごとは、トイレでの動作です。Aさんは「便座に座ったら立ち上がるのに苦労した」と話します。 便座からの立ち上がりをラクにするには、便座の位置を高くすることが効果的です。以下のような便座を活用すれば、問題を解消できる可能性があります。 ・設置式洋式便座便座の形状を和式から洋式に変更できるもの・高座便座現状の便座の上に補高便座を設置するもの・昇降便座自動で便座が持ち上がり、立ち上がるときに「お辞儀の体制」をとりやすくしてくれるもの また、トイレでは便座だけでなく扉の種類もチェックしておくことがおすすめです。折戸の扉は開閉に必要なスペースが狭いため、利用者さんの姿勢の移動が少なく、また介助者が一緒に入る空間も確保しやすいです。一方、一般的な片開きドアは開閉スペースが広くなり、扉を開くときに後方へバランスを崩しやすくなったり、介助者が入りにくかったりします。 トイレ動作は日中、夜間ともに頻度がとても高いので、利用者さんがおかれている環境を確認してください。必要に応じて手すりをはじめとした福祉用具の設置や、動作練習をしておくとよいでしょう。 ▶︎ 困りごと(3) 杖を持つ手や、先に踏み出す足がわからない 続いての困りごとは、歩行についてです。Aさんから「杖を持つ手や先に出す足がどちらかわからなくなってしまう」と相談を受けました。 杖を持つのは、健康な足側の手です。そうすることで、健康な足への重心移動がスムーズになり、悪い足が前へ出やすくなります。また、先に踏み出すのは悪い足です。健康な足で重心移動すると踏み出しやすくなるためです。 ▶︎ 困りごと(4) 廊下のマットで足を滑らせた 続いてAさんから「廊下に敷いていたマットで足を滑らせてしまった」という相談がありました。自宅で転倒する代表的な要因としては、マットやスリッパの利用が挙げられます。マットはずれないように工夫する、もしくは取り外す。スリッパはやめて、滑り止めのついた靴下を履くなど、転倒しにくい環境づくりについてぜひアドバイスしてください。 また、コードに足を引っかけて転んでしまうケースもよく見られます。頻繁に移動する場所にはコードを設置しないようにするといいでしょう。 ▶︎ 困りごと(5) 脱臼が怖くて靴下を履くのが不安 次は、更衣動作に関する困りごとです。Aさんは「人工股関節術を受けてから足を深く曲げてはいけないといわれていて、靴下を履くのが怖い」と話します。Aさんのいうとおり、人工股関節術を受けた方は、特定の姿勢をとると脱臼しやすくなります。特に術後6ヵ月までは、筋力低下の影響もあり、脱臼リスクが高くなるので注意が必要です。 では、脱臼しやすい姿勢とは具体的にどんなものでしょうか? 術式によって異なります。 前方侵入法の場合:体をひねって後ろを振り向く姿勢後方侵入法の場合:体を深く曲げる姿勢、足を体の内側に向かってねじる姿勢 なお、利用者さんは自分がどの術式で手術を受けたかわからないことも多いです。そんなときは、手術の傷跡を見て確認しましょう。前方侵入法は大腿部側面に、後方侵入法は臀部に傷跡があります。 脱臼を予防する道具の使用を習慣化するのもおすすめ 利用者さんに脱臼しやすい姿勢をずっと覚えていてもらうことはなかなか難しいので、リスクの低減につながる道具の使用を習慣化することがおすすめです。 例えば、靴下を履くときはソックスエイドを、靴を履くときは長めの靴べらを使う習慣をつければ、体を深く曲げる姿勢を自然と避けられます。 ▶︎ 困りごと(6) 滑るのが怖くて浴槽に入れない 最後の困りごとは、入浴についてです。Aさんは「浴槽で滑るのが怖いので、シャワーで済ませている」と話します。 こうしたケースでは、浴室での立ち上がりを助けたり、転倒を予防したりする用具を提案してみましょう。具体的には以下のような選択肢があります。 ・シャワーチェアー一般的にお風呂で使われている椅子より座面が高く、また肘つきや背もたれがあるので、立ち上がりがラクになる。肘つきや背もたれは手すりがわりにもなる。・バスボード浴槽を座ってまたぐ動作を安全に行える。ただし、設置すると浴槽内が狭くなるため、浴槽に入ってから取り外さなければならない場合も。・すのこ浴室の床に設置することで、床と入り口や浴槽との段差を小さくできる。ただし、扉がすのこに当たって開閉できなくなることがあるので要注意。 また、ぜひアドバイスしてほしいのが浴槽のまたぎ動作についてです。立ってまたぐ場合は、股関節を深く曲げずに済みますが、バランスを崩しやすいというデメリットがあります。一方、座ってまたぐ場合は股関節を深く曲げることになるものの、立位よりバランスが安定しやすくなります。 利用者さんの立位の安定性と、浴室のどこに手すりがあるかといった環境に応じて、そのケースに合った動作を検討してください。 次回は、「vol.3 生活動作への具体的なアドバイス方法(2)」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その2:相談に対して管理者はどう対応するか
CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その2:相談に対して管理者はどう対応するか
特集
2022年12月6日
2022年12月6日

CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その2:相談に対して管理者はどう対応するか

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第5回は、カスタマーハラスメントへの対応として、管理者としての具体的な行動を考えます。 はじめに 前回は、田中さんの心理的ケアと事実確認の必要性、ハラスメント対応のために関係する人々は誰なのか、意見を出しあいました。続く今回は、訪問看護管理者として何ができるのかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE2 スタッフから、利用者によるハラスメントの相談を受けたとき スタッフナース田中さんから「利用者Hさんの訪問を外してほしい」と相談を受けた。利用者Hさんには脳梗塞後麻痺と心不全があり、入浴介助を行なっていた。Hさんはニコニコと穏やかな性格だったが、介助時に「裸になって一緒に入ろう」などとセクハラ発言をされるのが不快という理由だった。Hさんは一人暮らしで、以前利用していた訪問看護ステーションでも同様の言動がみられ、さらに、キーパーソンの娘が「厳格で真面目な父がそんなことをするはずがない」と主張し、その訪問看護ステーションでトラブルになっていた。そんな経緯での当ステーションへの依頼だったため、依頼を受けることにはスタッフナースたちから反対の声が大きかった。よく依頼をくれるケアマネジャーからの依頼で、しかも直近は当ステーションの売上が低迷しているために、依頼を受けることにしたのだ。管理者としてどう対応したらよいだろうか? 設問もしあなたがこの管理者であれば、Hさんのような利用者への対応はどのようにすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 相談を受けた後にどのように対応していくか 講師ここまでの意見交換で、カスタマーハラスメントへの対応として、多くの関係者との協力が必要なことがわかってきました。では管理者として、やるべきこと・できることは、どんなことでしょうか? Aさん注2田中さんの話をよく聞き、そしてHさんに話を聞く必要があります。田中さんは思い出すのも嫌だとは思いますが、ハラスメント発生時のことについて詳細に記録を書くように指示します。あとはHさんの既往歴から考えると、Hさんに話をする前に、主治医と相談する必要があるなと思います。 Bさんできるだけ早く、ケアマネやキーパーソンの娘さんにも連絡する必要があると思います。ケアマネにはすぐに電話報告でいいと思いますが、娘さんは気難しそうですし、誤解があるといけないので対面でお話をしたいです。 Cさんすでに発言が出ていたと思いますが、事実確認と田中さんの心理的なケアはできるだけ早く行う必要があります。そしてハラスメントの事実があるのであれば、Hさんやその家族に対して契約解除もやむを得ないことを毅然とした態度で伝えるべきです。 Dさん田中さんの代わりに入るスタッフの検討も必要です。このステーションは売上が低迷しているので、ここで契約終了というのはなかなか言えないと思うんですよね。 Eさんセクハラについて相談できる専門家、弁護士さんのような人がいるといいですね。悪質なセクハラに発展しないとも限りませんし。でもスタッフを守ることも管理者としてやるべきことですよね。 講師記録をつけることは大切ですね。そして、田中さん・Hさんに事実確認をする順番やその方法についても、実際の問題に直面したときは考えなくてはなりませんね。ここまで、ハラスメントが起きた後に管理者としてできること・すべきことを議論してきました。 Fさんハラスメントが起きてしまった後の対応については、まさに今まで議論してきたことが役立つと思います。でも、ケースの管理者さんは、ハラスメントが起きる前にいろいろ対処ができたと思うんですよね。Hさんの状況も把握していたわけですし。 講師そうですね。では次回、ハラスメントを未然に防ぐ視点で、管理者はどうすればいいのか議論していきましょう。 「相談を受けた後にどのように対応していくか」の小括 「ハラスメントが起きてしまったら管理者として何をすべきか」を議論することで、①被害者のケア ②事実確認 ③関係者との対応協議 ④行為者への適切な措置 ── の4つのステップの大切さが共有されました。 そして次回は、「ハラスメントを未然に防ぐ視点で管理者はどうすればいいのか」を議論します。 ー第6回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

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