2022年11月22日
[8]BCPとBCM(事業継続マネジメント)について考えてみよう
この連載では「訪問看護BCP研究会」の発起人のお一人、日本赤十字看護大学の石田千絵先生に訪問看護事業所ならではのBCPについて解説していただきます。最終回の今回は、ワークシートを使ったBCPの作成手順をおさらいし、さらにBCM(事業継続マネジメント)についても解説していきます。
【ここがポイント】・優先業務・重要業務の選定から事業継続計画サマリまでのワークシートの使い方をまとめています。・研修やシミュレーション訓練などをとおして、BCPの「計画・導入・運用・改善」を考えPDCAサイクルを回すことで、BCM(事業継続マネジメント)も行っていきましょう。
第8回、最後の回になりました。今回は、ここまでの連載でご紹介してきたリソース(資源)中心に考えることができるBCP策定のためのワークシートを再度取り上げ、その使い方を「Ⅱ 訪問看護ステーションの事業継続計画(BCP) 考え方と記載例」のひな形に沿って復習します。そして、「1.総論」の「6)研修・訓練の実施、BCPの検証・見直し」(図1)について考えていきたいと思います。
図1 「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)」の目次(「Ⅱ 訪問看護ステーションの事業継続計画(BCP)考え方と記載例」の項目を抜粋)
全国訪問看護事業協会.「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)―訪問看護ステーション向け―」,2020,p.2-3.より引用.https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r2-1-3.docx 2022/8/25閲覧
リソースを中心としたBCPの作成手順(優先業務・重要業務の選定~BCPのサマリ作成)
まずは、この連載の第7回までにご紹介してきた事業所のBCP策定に使用可能なワークシートと使用方法を簡単におさらいしていきましょう(図2)。
①優先業務・重大業務を選定する(業務トリアージ)
平常時における業務をリストアップし、各業務を発災後に「継続」「縮小」「中断」するか、振り分けます(業務トリアージ)。そして、「72時間以内」「72時間~1ヵ月以内」「1ヵ月以降」の時間軸でも検討し、72時間以内で「継続」となった業務が「優先業務・重要業務」といえます。
さらに、第4回からの+αの整理事項として、災害直後に行わなければならない特有の業務も書き出しておくとよいでしょう。この業務についても行うタイミングを「72時間以内」「72時間~1ヵ月以内」「1ヵ月以降」の時間軸で検討します。
①についての詳細な解説は第4回を参照。
②優先業務・重要業務のリソースを書き出す
①で選定した「優先業務・重要業務」について、業務遂行に必要なリソース(ヒト、モノ、カネ、情報)を検討し書き出します。
②についての詳細な解説は第5回を参照。
③リソースリスクを書き出す
②で検討したリソースに対して、大規模自然災害やパンデミックによって引き起こされるリスクを書き出します。
③についての詳細な解説は第6回を参照。
④リソースリスクを時系列ごとに書き出す
リスクを災害直後、72時間以内、1ヵ月以内、1ヵ月以降、に分けて書き出します。
④についての詳細な解説は第6回を参照。
⑤平常時の対策とリソースリスクへの対策・対応を検討する
減らさない対策・対応、活用する対策・対応、増やす対策・対応に分けて、リソースリスクへの対策・対応を検討します。
⑤についての詳細な解説は第6回を参照。
⑥ 事業継続計画サマリの作成(BCPの概要の完成)
⑤の内容を事業継続計画サマリに転記します。このサマリは、⑤のワークシートの時間軸を横に書き換えたものです。これまで検討してきた内容を1つにまとめることができるので、発災時に役立つ資料となります。平常時から誰でも目に付く場所に貼っておいたり、BCPや災害対策マニュアルの表紙にしておくとよいでしょう。
⑥についての詳細な解説は第6回を参照。
研修・訓練の実施とBCPの検証・見直し
BCP策定の根拠法令は、厚生労働省令「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(2021(令和3)年1月)、および「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」の改定です(2022(令和4)年4月)。そして、訪問看護事業所が2024(令和6)年3月までに義務づけられた内容は次の通りです。
感染症や災害が発生した場合であっても、必要なサービスを継続的に提供できる体制の構築を目指し、業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)などの計画・実施を行う。
つまり、BCPを策定するだけでなく、研修や訓練も行わないとならないと書いてあるのです。多くの事業所では、まだ十分に自事業所のBCPを検討できていないことがわかっています。そのため、研修や訓練を行うことまで求められている事実に、途方に暮れる方もいらっしゃると思います。また、何をもって研修や訓練というのかを疑問に思っている方も多いと思います。
では、訪問看護事業所におけるBCPの研修や訓練とは何を指しているのでしょうか?
実は、訪問看護事業所BCPにおいて、評価の指標は存在していません(2022年8月現在)。そして、研修や訓練の内容や規模についても、特に指定されているわけではありません。当然のことですが、だからといって、研修や訓練をする必要がないわけではありません。
例えば、先ほどお示ししたワークシートを用いてBCPを何度も見直し、ブラッシュアップすることも1つの研修と言えます。丁寧に自事業所の優先業務・重要業務を選定するだけでも、災害直後に一部の業務を「縮小」「中断」してもよいという判断が可能です。また、災害直後の混乱の中で判断がつきにくい状況であっても、事前の選定により、誰もが安心して重要業務を優先して実施することができます。
また、訓練(シミュレーション)も机上で実施可能です。自事業所のある地域で起こり得る自然災害の種類やその規模を、時間帯、曜日などを変えて、策定したBCPで対応できるのかをシミュレーションすることも訓練と言えるからです。
ケアプロ株式会社では、他地域で自然災害が起こるたびに、同じ災害が自事業所で起こったことと想定して、BCPを発動させるかどうか、させるとしたら現在のBCPで対応可能かといったことについてシミュレーションをしているそうです。そして、不足している想定やその対応方法が見つかり次第、自事業所におけるBCPをブラッシュアップし、多職種・多機関連携についても検討しているとのことです。
BCPとBCM
内閣府は、2005(平成17)年に初めてBCPガイドライン(第1版)を策定1)した後、2013(平成25)年のBCPガイドライン改定2)の際に、BCM(Business Continuity Management)、すなわち事業継続マネジメントが必要であることを記しています。BCP策定において事業継続のための計画を立案するだけでなく、BCMで「計画・導入・運用・改善」などを考えPDCAサイクルを回す必要があるためです。
図2は、内閣府が「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」の中で示したBCMのプロセスです。訪問看護事業のBCPにおいても、BCMの視点が初めから記されていたことがわかります。
図2 事業継続マネジメント(BCM)のプロセス
内閣府.「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」(改定版),2013,p.8. より引用。フキダシは著者による。
最後に
訪問看護事業所のBCP策定のお話は以上となりますが、みなさん、いかがでしたでしょうか? 少しはお役に立てましたでしょうか?
まずは、自事業所のある地域のハザードマップを手に入れ、自事業所の方針を立ててみてください。そして、優先業務・重要業務の選定から事業継続計画サマリまでつくってみましょう。同時に、利用者・家族への平常時の取り組みや、自事業所での平常時の取り組みも検討してみてください。
自事業所で対応しきれない事象が見つかれば、多職種・多機関などの外部リソースの活用を考えましょう。可能であれば、外部へのリソースの提供も検討してみるとよいでしょう。一度つくったら何度でもシミュレーションしてください。この繰り返しがBCMです。BCMのプロセスにより、よりよいBCPが策定できます。
「千里の道も一歩から」です。自事業所を守ることは、スタッフはもちろんのこと、利用者・家族を守ることであり、地域医療を守ることにつながります。何よりもみなさんご自身の健康をお祈りしつつ、新たな一歩を踏み出していただけることを願っています。
執筆 石田 千絵日本赤十字看護大学看護学部地域看護学 教授●プロフィール1989年聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業後、聖路加国際病院他で勤務。1995年阪神淡路大震災および地下鉄サリン事件を契機に、地域×災害に関わる教育や研究を始めた。災害の備えは「平時に自分らしく生き、かつ、社会的によい関係性を保つこと」がモットー。看護学博士。 「訪問看護BCP研究会」とは、2016年にケアプロ株式会社、日本赤十字看護大学、東京大学他の仲間による訪問看護×BCPに特化した研究会。毎月1~2回程度で研究や研修などを行っている。▼訪問看護BCP研究会のホームページはこちら※記録様式のダウンロードも可能です。 記事編集:株式会社照林社
【引用文献】1)内閣府.「事業継続ガイドライン 第一版-わが国企業の減災と災害対応の向上のために -」,2005.2)内閣府.「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」(改定版),2013.