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特集
2022年9月6日
2022年9月6日

[1]実習の受け入れ、こんなこと『疑問』に思っていませんか?

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。今回は、訪問看護実習に関してよく寄せられる疑問を取り上げてお答えしましょう。 訪問看護の魅力を実習の場で伝えてほしい 近隣の看護学校から、看護実習を受け入れていただけないかと打診される訪問看護ステーションの管理者の方は多いのではないでしょうか。 看護教育では2022年のカリキュラム改正によって地域・在宅看護論が1年時から組み込まれ、地域連携の視点が教育開始時から必須になりました。 訪問看護ステーションは、地域・在宅看護実習の主な場であり、期待される役割はますます大きくなっています。とはいえ、日ごろから少ないスタッフで業務をこなしているステーションも多いため、なかなか受け入れに積極的になれないのではないかと思います。でも、在宅看護に興味のある学生や卒業後すぐに訪問看護師になりたいと考える学生も増えてきています。私は、大学の看護学科で地域・在宅看護学を教えています。訪問看護実習の受け入れをお願いする立場から、みなさんの現場で訪問看護の魅力を学生たちに伝えていただきたいと思います。 訪問看護実習への疑問、お答えします! 訪問看護ステーションの管理者の方々は学生の受け入れに関心はあるものの、事業所内のマンパワーの問題や場所が狭いといった環境面のご心配から、受け入れに一歩踏み切れないと思われることが多いようです。 確かにいろいろなご心配があるかと思いますが、正確な情報提供や少しの工夫で解決できることもあります。今回は、これまで管理者の方からお聞きしてきた疑問を取り上げて紹介していきます。少しでも訪問看護実習の受け入れについて知っていただき、意外と大変じゃないかも…と思っていたければ幸いです。 実習は1度受け入れたら、ずっと受け入れないといけないの? みなさん1度受け入れたら次の年は断れないんじゃないかと心配されることが多いようですが、答えは「ノー」です。 スタッフの人数や利用者さんの状況などから、受け入れが難しい年もあると思います。学生を送り出す側としては、毎年、受け入れのお願いをさせていただきますが、難しい状況のときは遠慮なく仰ってください。そして、また受け入れ態勢が整った段階でお声がけいただけければと思います。 学生に専用で使ってもらえるロッカーや部屋がないけれど受け入れても大丈夫? スペースの問題はご心配が大きいようで、このご質問を非常によく受けます。ですが、専用のロッカーや控え室がなくても問題ありません。 例えばロッカーがない場合、実習中の服装をあらかじめ指定していただくと、着替える必要がないのでロッカーはなくても問題ありません。白衣などの指定がなければ、学生は自宅からスニーカー、ポロシャツ、チノパンツ、冬はこれにカーディガンを加えた服装で、直接実習先に伺うことが多いです。 また、ステーション内で休憩する際は、差し支えなければ、スタッフの方が使用されているスペースを共有させていただけると助かります。スタッフの方と同じフロアにいることで、電話対応や関係者間の打ち合わせなど、事務所の日常業務を見学することができ、貴重な機会になると思っています。 実習に来てくれた学生に最初に伝えなければいけないことは?  まずは、利用者さんのお宅に伺うときの基本的なマナーについて共有をお願いします。もちろん、学校でも接遇・マナーに関する教育を行っていますが、訪問看護ならではのポイントがあるかと思います。 例えば、訪問したら靴はそろえて下座に置く、上着はたたんで身近に持っておく、利用者さんのお宅にあるものに触れるときはどうするのか、などです。訪問時に普段から注意していらっしゃることを、同行訪問前のオリエンテーションのときに伝えていただければ幸いです。 学生の中には、多職種と開催する会議に出席させていただけるケースもあるようです。その際は、会議出席時のマナーを知るチャンスなので、会議の目的・参加者・参加者の職種・日時と場所を把握する、携帯電話の電源を切る、メモをとるときは指導者の許可を得てから…といったようなことを伝えてあげてください。 個人情報の取り扱いが心配! 電子カルテの取り扱いで注意することは? 実習では、利用者さんを理解するため、実際に電子カルテの診療記録を閲覧させていただくことがあります。電子カルテは、すべての利用者さんの情報が電子保存されており、権限次第ではコピーも可能ですので、個人情報保護の観点から取り扱いには十分な注意が必要です。 学校でも実習前に個人情報の取り扱いおよびプライバシーポリシーに関する教育を行っていますが、訪問看護ステーション独自の規則も策定いただけるようお願いいたします。例えば、次のようなセキュリティ管理を徹底してもらえるとよいかと思います。 ・実習クールごとに学生専用のIDとパスワードを設定する。・電子カルテシステム上から使用権限を設定し、学生は担当患者の診療記録に限って閲覧のみ可能にする(入力・更新・転送不可にする)。・実習開始前に電子カルテのメンテナンス業者に確認を行う。 同行訪問の前は何をどこまで学生に伝えればよい? 同行訪問についてあれこれ説明していたら、ずっと話をしていたという実習指導担当者のご相談を受けたことがあります。少しでもよりよい実習にしたいとの思いからあれもこれも伝えなくては、と思ってくださるようです。 学生には、まずは利用者さんを知り、疾病や看護技術について復習し、実習での学びを深めてほしいと考えています。学生自身が情報を整理し、準備しておくことも必要ですので、同行訪問の前は訪問時に行うケアと、利用者さんの「身体状況」「環境・生活」「家族・介護の状況」「心理状況」の4点について事前にカルテを閲覧し、整理しておくように伝えてください(表1)。 また、学生は訪問先に伺うことに対してとても緊張しています。移動時間を利用して、訪問先での注意点、利用者さんやケア技術についてお話していただけると学生の緊張もほぐれてくるように思います。 表1 利用者さんの状況を整理するための4つのポイント カルテから情報収集し、利用者さんの状況を4つのポイントに沿って整理します。もし学生が利用さんの情報をうまく説明できないようでしたら、この4点について順に学生に質問を投げかけてみてください。 執筆 王 麗華大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授 ●プロフィール1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年9月6日
2022年9月6日

CASE1スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき_その2:管理者としてどう支援できるか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第2回も前回に引き続き、利用者に感情移入しすぎているように見えるスタッフナースのケースです。今回は管理者として何ができるかを考えます。 はじめに 前回は、終末期の利用者さんに過度な感情移入をしているように見える佐藤さんの状況について、A・B・C・Dさんはどう考えるか、それぞれの考えを出しあいました。続く今回は、「訪問看護管理者として何ができるか」をテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE1 スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき スタッフナースの佐藤さんについて、「担当利用者に感情移入しすぎなのではないか?」と別のスタッフナースから相談があった。どうやら寝ても覚めても利用者のことを考えているらしい。佐藤さんは、在宅看取りの看護に携わることを希望して、病院から訪問看護に転職してきた背景がある。終末期の利用者を担当するのは2回目、今回は主担当として任されている。そのためか思いが強くなりすぎているように見える佐藤さんに対して、管理者としてどのような支援ができるだろうか? 設問あなたがこの管理者であれば、佐藤さんのようなスタッフへの支援はどのようにすべきと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 管理者としてどのような支援ができるのか 講師ここまでのみなさんの意見から、管理者としては佐藤さんに何かしらの働きかけが必要なのは間違いなさそうです。では、具体的に、どのように働きかけますか? Aさん注2難しいかもしれませんが、私はステーションのメンバー全員でこの件について話をして、佐藤さん担当の利用者のところに、ほかのスタッフでも訪問できるようにしたいと思います。 Bさん私は、すぐに佐藤さんと話をする必要があるので、一対一の面談の時間を作ると思います。ほかのスタッフも含めてカンファレンスをできればよいですが、忙しいとなかなか集まりにくいので、現実的には一対一かなと。訪問看護師としての佐藤さんの成長を促すような支援ができればと考えます。 Cさん私も、チームで話をするにしても、まず佐藤さんと話をしておくべきだと思います。Bさんが言われたように、管理者が支援をするなら早いほうがよいと思うので。 講師一対一かチームか、人数の違いはありますが、佐藤さんと話す場を持つのは共通の意見ですね。その上で、できるだけ早いほうがよい、チームで対話するとしてもまずは一対一の面談からという考えも出ました。管理者として佐藤さんの異変に気がついたのであれば、すぐに行動に移すというのは自然な流れでしょう。 一対一の対話をどのように進めていくのか 講師では、佐藤さんと一対一で対話をすることを考えてみましょう。その面談は、どのような目的で行いましょうか。 Aさんこの利用者のことを佐藤さんが背負い込みすぎないような支援が目的になります。そしてその後に、より良いケアができるようになるために成長支援もしていきたいです。 Bさん事実確認もしたいです。制度外での訪問や、金銭授受といったことがもしあれば、そちらへの対処も検討しないといけませんから。佐藤さんやステーション全体の今後のことも考えて、この点も確認しておきたいです。 Cさん佐藤さんの育成を主目的に面談をするのは私も賛成です。ルールからの逸脱についての確認も、佐藤さんの状況についてはほかのスタッフから聞いただけなので、事実はどうなのか、管理者として確認することが必要だと思います。ですが、「〇〇さんがこう言っていたよ」と佐藤さんに伝えることは、うまく言えませんが間違っている気がするので、避けたいです。どんな言いかたで伝えるのがいいのか……、悩みます。 「何を目的に面談をするか」の小括 みなさんの話しあいから、面談の目的が大きく二つ出てきました。1.佐藤さんの、看護師としての成長をどうやって支援していくのか。2.ルールからの逸脱の確認。もし逸脱があれば対応を検討することも含まれます。これら二つの目的の背景には、管理者としてステーションをどのように運営していくべきなのかが根底にありますね。また、具体的に佐藤さんにどうやって伝えるのかの視点も登場しました。 そこで、次は「佐藤さんとの面談をどのように行うのか」を考えていきます。 ─第3回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学び、参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年9月6日
2022年9月6日

安心感をどう作るか② スタッフに安心感をもって訪問してもらうための工夫

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さんによるお話の最終回です。 お話中島朋子東久留米白十字訪問看護ステーション 所長  「迷い」は「不安」につながります。スタッフが迷うことなく訪問に臨むためには、「判断基準」の共有が欠かせません。第1回では、安心できる仕事環境整備について述べましたが、今回はもう少し掘り下げて具体的な事柄をお伝えします。 PPE使用についてのスタッフの遠慮 スタッフに迷いが最も見受けられたのは、PPE(個人防護具)の着用についてでした。新型コロナウイルス感染症が拡大しはじめたころ、テレビや新聞などのメディアは、感染対策用品の不足を連日伝えていました。 それもあり、巷では、マスクが店頭から姿を消し、トイレットペーパーさえも、奪い合いが起こりました。医療現場も同様です。特に在宅は病院に比べPPE不足が顕著でした。 私たちの事業所では、先手先手のPPEストックを心がけていましたが、それでも、PPEの入手は潤沢にはいきません。たとえ入手できても、価格がつり上がっていました。 そうした状況のなか、スタッフは事業所のことを心配したのでしょう、PPEの使用に迷い、特に高額なN95マスクの装着には、遠慮がみられるようになりました。 躊躇なくPPEを使うために PPEの利用を控えてしまっていては、スタッフ自身、そしてスタッフがかかわる利用者や家族を感染から守ることはできません。何よりも、そのときの状況に適合した「感染対策マニュアル」のアップデートが急務でした。 そこで、まずは、所長の私と副所長とで、PPE使用の判断基準のベースを作りました。 ベース作りにあたっては、厚生労働省、日本看護協会、東京都看護協会などが発信する信頼できる情報に毎日目を通すとともに、メディアの報道にもアンテナを張りました。たとえば、スーパーコンピュータ「富岳」による、マスクごとの飛沫の拡散検証結果を見ることにより、N95マスクの有効性を知ることができました。 私と副所長は、PPEの在庫や調達予定なども加味しながら、ベース作りを急ぎました。 わかりやすさと実行のしやすさ 迷わず・躊躇なくPPEを使うための判断基準には、わかりやすさと実行のしやすさが必要です。 たとえば、訪問先で向かい合う相手(利用者・家族)に症状がある、または、症状がなくても、小児・認知症・呼吸困難などでマスクができない場合には、N95マスクをもれなく使用するなどの判断基準を、できるかぎり具体的に示しました。 判断基準の合意と共有 判断基準は、納得のもとに利用してもらう必要があります。「判断基準」をトップダウンで守ってもらうのではなく、スタッフから現場感覚にあふれる意見をもらいながら、場面ごとに「これでいいよね」と合意を行い、納得のもとに共有していきました。 感染対策は、タイムリーさと迅速さが求められますが、スタッフ全員による共有の作業は、きわめて重要だと思っています。 利用者情報の入手 判断基準を実際に使用する際は、利用者情報を、正しく・速く入手することが大切です。 まずは、利用者宅に手紙を送り、PPEの使用に理解を求めるとともに、発熱などの場合には事前に知らせてほしい旨を伝えました。もちろん、利用者に発熱があるからといって訪問しないわけではないことを申し添えます。症状に応じた感染対策を行うことは、利用者自身や家族を守ることにもなる点を強調しました。 他職種からの情報入手も効果的です。「訪問したら、家族に○○という症状があった」といった報告は、PPE要否を判断するのに貴重な情報となりました。 N95マスクを躊躇なく使用する たとえ判断基準を整備しても、ケチケチの基準では、スタッフの迷いは軽減できても、不安を消し去ることはできません。 訪問看護ステーションのなかでも、私たちの事業所は、おそらくN95マスクの使用頻度は高いほうだと思っています。利用者にも納得してらい、できるかぎりの対策を行うことを心がけました。 その結果、訪問した後に、たとえ相手が陽性になったとしても、「訪問したスタッフは濃厚接触者に該当しない」ことが、しばしばありました。判断に迷う場合は保健所に連絡し、該当の有無を確認することもあります。 濃厚接触者についての情報も常に刷新 コロナ禍では、濃厚接触者の定義が何度か変わりました。管理者として、厚生労働省や東京都の最新情報を継続的に入手し、私たちの事業所における濃厚接触者の基準を常に刷新していきました。 そうした積み重ねにより、感染をむやみに怖がることはなくなりました。スタッフは、「これさえ押さえておけば安心なんだ」と、不安がらずに訪問を行うことができます。そして、管理者である私自身も、「これでいいんだ」という安心感を抱くことができるようになりました。 * 次回は、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の管理者、野崎加世子さんにお話しいただきます。 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2022年9月6日
2022年9月6日

医療的ケアが必要な子どもに当たり前の経験を提供

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第3回は、NHKアナウンサーから、50歳をすぎて福祉の世界に転身した内多勝康さん。医療的ケアを必要とする子どもたちを取り巻く問題がクローズアップされた。(内容は2017年3月当時のものです。) ゲスト:内多 勝康1963年生まれ。東京大学卒業。1986年、NHKに入局。アナウンサーとしてローカルニュースや生活情報番組を多く担当した。2016年3月退職し、国立成育医療研究センターが運営する医療型短期入所施設「もみじの家」のハウスマネージャーに就任。社会福祉士。 概念自体が新しい「医療的ケアが必要な子ども」 川越●NHKのアナウンサーから、「もみじの家」(国立成育医療研究センターに設立された子どものための医療型短期入所施設)への転身には驚きました。ハウスマネージャーというのは、どのようなお仕事なんでしょう。 内多●子どもたちとときどき交流しながら、主に事務的な仕事を行っています。寄付集めの対外活動、マスコミや見学者の対応、ホームページの管理やニュースレターの編集といった広報活動、ボランティアさんとの連絡調整など、組織運営全般にかかわっています。 川越●これまで主に医療的ケア児を対象とした短期入所施設があまりなかったのは意外です。 内多●医療的ケアが必要なお子さんという概念自体が新しいもので、そういうお子さんと家族をまるごと支えるような制度は、整っていないのが実情です。子どもはワクワクする体験や多世代の子どもたちとの触れ合いが必要ですから、遊びの時間を十分楽しんでもらうために、保育士や介護福祉士も配置しています。 合理的でなくても家庭のやり方にこだわる 川越●レスパイトなら本来、家族は家で休めるわけですが、「もみじの家」を利用する子どもたちは、必ずご家族が一緒なのですか。 内多●初めて利用するときの初日はお母さんと一緒に来ていただいて、自宅でされているノウハウを看護師たちが引き継ぎます。後は自宅に帰ってもいいし、一緒に泊まってもいいんです。 家ではずっと「介護する親とされる子ども」という関係だった親子が、ここにきて「安心してケアを任せることができて、初めて子育てができた」とおっしゃるお母さんもいました。 川越●「もみじの家」のような短期入所施設と日中預かりの施設が、どちらも全国に増えていってほしいですね。ところで、「もみじの家」運営のための報酬の出どころは障害者総合支援法ですか。 内多●はい、障害福祉サービス費が主な収入源です。しかし、福祉の枠だけでは支えることができないのが現実です。 医療型短期入所施設は、濃厚な医療が必要な子たちを受け入れると加算がつきますが、金額としては非常に少ないので、民間で事業としてやるには厳しい。今は運営上、寄付も重要な収入源ですが、政策に訴えるのならきちんと数字を出さなければと思っています。 医療と介護のハイブリッドな制度が待たれる 川越●病院ではなく施設で預かることで費用を節減できるという政策提言や、親御さんの負担軽減を訴えるといいかもしれませんね。それに親御さんが高齢になりケアが継続できなくなるという現実が起こりはじめていますから。 内多●それは非常に大きな問題だと思います。われわれが受け入れられるのは19歳未満のお子さんが対象なので、今でも「何とか延ばしてもらえませんか」という声は頻繁にいただきます。 川越●介護保険も特定疾病の場合で40歳から、一般には65歳からしか利用できません。でも本来、どんな年齢であれ、医療も介護も福祉も必要な方はおられます。 内多●医療的ケアが必要な、今ある制度では狭間に落ちている子を救えないのは確かです。どういう制度があればいいのか、子どもたちが置かれている環境や、お母さんがどのように在宅で支えているのかという実態を、より多くの人に知っていただき、支えるのは家族だけではなく社会的な問題なんだと思っていただくことに力を入れていくつもりです。 楽しい雰囲気の中で社会性をはぐくむ経験 川越●ご家族からの具体的な訴えを聞くこともありますか。 内多●自分の子どもが、ずっと社会との接点が持てないまま成長するという不安がすごく大きなストレスになっているようです。外出するチャンスがあっても受け入れてもらえる場所がない。だから、まず居場所をつくらないと。 川越●「もみじの家」が、その社会との接点になるわけですね。 内多●そうなんです。子どもたちは2階のプレイコーナーに集まって活動するんですが、自分ではそんなに動けない子も、楽しい雰囲気のなかにいることで「ふだんは見せない表情を見せる」とお母さんが気づくんです。居場所があると役割ができるし、親以外の大人がかかわることで社会性をはぐくむ経験になると思います。 教育の現場では医療的な保証がないので、今は、入学できても「ずっと親御さんがついていてください」というケースが多いです。医療的ケアが必要な子どもと家族も社会で支えていくコンセンサスが生まれるのが理想です。 川越●今は出産年齢も高年齢化していて、出産のリスクが高くなると、医療的ケアを必要とする子どもたちはこれからも増えていくことが予想されます。みんなで支えていくほうが、トータルでみれば国のためになるというシミュレーションができるといいですね。 内多●皆さんの意識がそうなっていってほしいと思います。最初の年の大事なテーマとして、医療的ケアが必要な子や家族の現状を知っていただくことを掲げてきましたが、今後は地域連携を進めていって、「もみじの家」が情報発信のハブ機能を備えた場所になれたらうれしいですね。 ー第4回へ続く 〇国立成育医療研究センター2002年に東京都世田谷区に設立された子どものための高度専門医療機関。http://www.ncchd.go.jp/ 〇もみじの家http://home-from-home.jp/ あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 『医療と介護Next』2017年3月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

コラム
2022年8月30日
2022年8月30日

ALS患者に必要な情報「実用編」 ~上肢②コミュニケーションツール~

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は実用編の第2弾。梶浦さんが実際に使用した道具や工夫を紹介します。ALSはもちろん、ほかの疾患などの方たちの生活にも参考にしてください。 指が動かなくても操作できます! 上肢の障害が進行していちばん困るのは、指先の細かい動きができなくなり、パソコンやスマートフォン、iPadなどのタブレットの操作ができなくなることではないでしょうか(患者さんの年齢にもよると思いますが)。ALS患者にとって、パソコンやスマートフォン・タブレットは、外部とのつながりを保つための必要不可欠なツールなのです。私はこれで仕事やメール・LINEなどあらゆることをやっていたので、指が動かなくなってきたときは、かなり途方に暮れました……。 しかし、ご安心ください! 指が動かなくなったって、パソコンやiPhone/iPadを操作することができます。 視線入力装置 まずパソコンです。指でキーボードやマウスを操作できなくなったら、視線入力装置を使って、目の動きでパソコンを操作することができます。視線入力装置は、ふだん使っているパソコンに後付けできます。 選択したいアイコンなどに視線を合わせて、そのまま見つめつづけるなどで操作が可能です。設定により操作方法はいろいろと可能です。個人で設定するのは難しいと思いますので、作業療法士(OT)さんなどに相談してみるとよいかと思います。 視線入力装置は、ALS患者さんの間では昔から普及しています。いくつか種類があり、助成金が出る場合もありますので、その点も含めて相談してみるとよいかと思います。 目を使わなくても操作できる 私は、大学で講義をするときは、視線入力装置を用いてパソコンのプレゼンソフトを操作してスライドを作っています。 ただ視線入力装置は画面をずっと見つづけないといけないので、長時間作業していると目が疲れてしまいます。 なので、ふだんは、歯のわずかな噛む力を使ってタブレットを操作しています(歯でどうやって操作しているかは、後で具体的にご紹介します)。これなら視線は自由に動かせるので、目の疲労が少ないですし、テレビを見ながら仕事やメールができ、視線を用いた会話(エアーフリック式文字盤)も自由にできます。 タブレットなどを外部スイッチで操作できる機能 最近は、障がい者でもタブレットなどを操作できる機能が備わっています。たとえばiPadだと、2013年のiOSバージョン7以降、設定によって、画面を触らなくてもさまざまな操作ができます。 自分がよく使う動作を中心にカスタマイズできますので、OSのサポートから調べてみてください。 私が使っている外部スイッチ 外部スイッチでとてもおすすめなのが、「ピエゾニューマティックセンサースイッチ PPSスイッチ」です。これは、ALSをはじめとする難病患者のことを考えて設計された入力装置(スイッチ)で、使用者の状態に合わせて、圧電素子(ピエゾ)と空圧(ニューマティック)の二種類のセンサーを選択できます。 圧電素子(ピエゾ)センサー ひずみ・・・やゆがみ・・・を感知して、信号を出力するセンサーです。ごくわずかな筋運動でもスイッチを押すことができます。 直径17mmのセンサー部を、体のどこでもよいので、まだ自分の意思で少しでも動かせる部位に医療用テープで貼り付けて使用します。指の関節部分や、おでこに貼り付けて使っている人が比較的多い気がします。私は左足の第二指が最後まで自分の意思で動かせたので、ここにセンサーを貼り付けて使っていました。 空圧(ニューマティック)センサー センサー部のエアバッグを触れることで反応するセンサーです。わずかな力で操作可能です。空気を少しでも動かせるものであれば、付属のエアバッグ以外で代用することもできます。 私は、手の指がわずかに動かせる間は、百円ショップで売っているおもちゃのゴム風船や、ゼリー飲料の空き容器に空気を入れて、エアバッグの代わりにセンサーの先に付けて使っていました。 空圧センサーを使って歯で操作する 気管切開をしてからは、マスク式の人工呼吸器が外れたため、口が自由に動かせるようになりました。そこで、吸引カテーテルの先端をハサミで切り、アイロンで穴を塞いで、空圧センサーに接続し、それを歯で噛んでセンサーとして使っています。 私はさらに、このカテーテルに低圧持続吸引装置注1のカテーテルも結び付けて、唾液を吸引しながらiPadを操作しています。 注1 口腔内の唾液を低圧で持続吸引する装置。私が使っているのはシースターのコンセント式設置型低圧持続吸ポンプです。 この方法は一石二鳥で、かなりおすすめです。ただ長期間同じ場所で噛んでいると歯列が乱れてくることがありますので、マウスピースを装着したり、噛む歯を変えながら使用することをおすすめします。マウスピースは、訪問歯科の先生が、在宅で歯型を取り、作ってくれます。余談ですが、むせ込んだときに歯を食いしばってしまう方にも、舌を噛まないようにマウスピースを装着することをおすすめします。 ※編集部注記事内容は執筆者個人の見解・経験です。PPSスイッチのチューブを噛んで操作することは個人の能力に依存し、メーカーが推奨する使用方法ではありません。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:パシフィックサプライ株式会社     シースター株式会社

特集 会員限定
2022年8月30日
2022年8月30日

【セミナーレポート】vol.3 専門家が考える正しいフットケアQ&A ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に実施した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。講師に皮膚科医の高山かおる先生、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、訪問看護の現場における足元のケアについて考えました。セミナーレポート第3回となる今回は、Q&Aセッションの様子をお届けします。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい?▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは?▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて!▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある?▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は?▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない?▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 --> ▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい? 【質問】白癬を患っている利用者さんが多く、厚く、脆くなっている爪を整える場面がよくあります。脆い爪は際限なく削れてしまうのですが、どこまでケアしたらいいのでしょうか? 【回答】高山先生:出血などしない程度であれば、自然に剥離してしまっている部分は削ってしまっても問題ありません。爪が靴下などに引っかからないようにする、隣の指を傷つけるなど危なくないようにするという意識をもってもらうといいと思います。 ▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは? 【質問】肥厚した爪、巻いている爪はどのように除去したらいいですか? 【回答】大場さん:まずはその方が歩けるかどうかで、残す爪の長さを検討してみましょう。歩く方の場合は、痛みが出ないように配慮しつつ、ある程度の長さを保って端から切っていきます。爪が皮膚に食い込んでいる場合はヤスリを使ってください。ただ、巻き爪は長くなればなるほど巻きが強くなるので要注意。あとは炎症が起きていたり、化膿していたりする場合は処置が必要になるので、その見極めも重要です。 高山先生:痛みがなければ、巻き爪であること自体は悪いことではありません。大場さんがおっしゃるとおり、伸びてしまうと先端が丸くなるので、適切な長さに整えることが大切です。すでに痛みを訴えている方の場合は、痛むポイントを探してあげて、そこに念入りにヤスリをかけるのもいいですよね。 大場さん:そうですね。痛みを取り除いてあげるだけでも、歩けるようになりますから。ADLの低下だけは避けたいので、私も歩行に支障が出ないようなケアをすること、自身では対応できないケースは訪問看護師さんにお願いすること徹底しています。 ▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて! 【質問】大場さんが現場で使用している愛用のヤスリを教えてください。 【回答】大場さん:基本的にダイヤモンド平ヤスリを使っています。 高山先生:厚い爪甲も削れますか? 大場さん:はい、ほとんどのケースで削れますよ。煮沸消毒できるので、衛生面を考えてもおすすめです。 ▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある? 【質問】次回の診療までに、訪問看護の現場でやっておくべき白癬の応急処置はどんなものですか? 【回答】高山先生:きれいに洗ってもらえれば十分です。白癬の餌は角質なので、足浴と保湿で角質をなくしてあげれば、症状は進行しにくくなります。なお、ワセリンで白癬が繁殖することはないので、保湿もしっかり行ってください。特別なことをして刺激を与えるより、基本的な処置を徹底してくださいね。 ▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は? 【質問】利用者さんから、まだあまり爪が伸びていない段階で「切ってほしい」とお願いされて判断に迷います。深爪にしてはいけない理由はあるのでしょうか? 【回答】高山先生:足の爪には体重の負荷を支える役割があるため、深爪はNGです。爪を切りすぎたり、斜めに切ったりすると、巻き爪につながってしまいます。また、そもそも適切な爪の長さを知らずに長年深爪にしてしまい、結果巻き爪になってしまっている方も多く見られます。まさに生活習慣病ですね。この利用者さんには、靴下に引っかかるなど不快な状態にならないように、ヤスリのかけかたを教えてあげるといいと思います。 ちなみに、歩行時にきちんと踏み込めている方は、理論的には深爪にはできません。なぜかというと、きちんと指先まで使って踏み込んで歩くためには、硬さのある爪が必要不可欠だからです。足を踏み込むと床反力(足と床の接地部分にかかる反力)が生じますが、必要十分な長さの爪がないと、この床反力が上手く体に伝わりません。つまり深爪にしてしまう方は、きちんと歩けていない可能性も高いと考えられます。 ▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない? 【質問】足底の白癬で皮膚が肥厚している方に対し、足浴時に軽石で削りながら洗い、保湿剤を塗布することを一年半ほど続けています。現在は肥厚部がかなり薄くきれいになりましたが、この方法を続けてもいいでしょうか? 【回答】高山先生:軽石でゴシゴシ削ることには賛成しかねますが、削りすぎにならない程度に、目の細かいヤスリをかけるのはいいと思います。ただ、濡れている足を削ると傷がつく恐れがあるので、風呂場などで行うのは控えてください。削りすぎて逆に皮膚が厚くなってしまう可能性もあります。このケースでは、おそらく保湿剤をしっかり塗っていることが効いているのだと思いますね。 ▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 【質問】爪切りに使う器具の洗浄はどのようにしていますか? 【回答】高山先生:体液がつかなければ、表面の汚れを落として乾かす、つまり除菌すれば十分だと考えています。もちろん、出血が見られたときなどは滅菌が必要ですが。衛生管理の専門家の先生に聞くと、大切なのは毎回同じ工程で洗浄することとおっしゃいますね。そうすることで習慣化でき、洗浄不足になることを防げるので。器具のどこをどうやって何回洗うか、ルールを決めて実践してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年8月30日
2022年8月30日

利用者さんとつながってこその「かかりつけ薬剤師」

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第8回は、薬剤師の齊藤直裕さんから、利用者さんの背景をふまえた「かかりつけ薬剤師」の支援と連携を紹介します。 「間違いのない服薬」だけではない 私は、在宅支援診療所である新宿ヒロクリニックで院内薬剤師をしています。大学卒業後は数年間、救急病院に勤務し、その病院勤務時代の知り合いであった訪問看護師さんに引っ張り出されたことをきっかけに、以来20年ほど薬剤師として在宅医療にかかわっています。 在宅患者さんへの薬剤師のかかわりは、薬の適正使用サポートが大きい部分ではあります。間違った飲みかた・使いかたを防ぐため、患者さんの理解度を確認しながら、管理方法をサポートすることです。 しかし、現実の治療と在宅生活を考えたときに、教科書どおりの「正しい使いかた」はできないことがままあります。たとえば「一日3回服用する」ことだけでも、生活のなかで毎日確実にできるかは難しい人もいます。必要なのは「間違いなく確実に飲ませる」といった厳格な管理ではなく、現在の病状と日常生活のバランスだと考えています。 医療や服薬が中心になりすぎることで、その人の生きがいや満足につながらない可能性を考えなければなりません。在宅療養支援診療所の大きな役割は、地域生活や社会生活のサポートです。その人が何を考え、これからどう生きていきたいかを、地域で一緒にサポートするスタッフと話し合いながら進めていく必要があります。 「一日3回服薬」が難しい場合は かといって、いい加減な服薬でよいわけでもありません。認知機能の低下などあって、一日に1回の服用なら何とかできるが、一日3回は難しい人がいたとします。それを「しょうがない」ですませるのではなく、たとえば一日1回の服用で長く効くタイプの薬に変更できるかもしれない。そこで仮に変更した場合、長く効き目がある薬はそのぶん、体に薬の成分が長く残ります。腎臓や肝臓の機能はどうか、万が一副作用が出たときにいかに早く気づくことができるか、などを考えて提案や調整を行います。 「薬剤師は医師の処方に従って薬を出すだけの人」と思われがちですが、在宅医療では薬剤師も、その方がどんな暮らしをしており、お体はどんな状況なのか、事前情報の段階でしっかり確認します。 その上で、特に薬を変更した場合などは、どんなタイミングで、何のために、どんな薬に変更して、どんなことに気をつけるのがよいか。地域で一緒に働くスタッフにも「専門家の意見として」共有させていただいています。病院などとは違い、ご自宅では医療従事者が常時いるわけではありません。万一異変があったら誰かが訪問した際に気づけるよう、すぐ連絡できる体制──「連携」が大切だからです。 在宅医療にかかわる薬剤師の多くは、直接患者さんのそばでケアをするわけではありません。病状と想いを共有して、地域の薬局と連携し、ふだんの服薬状況を確認しながら、ケアマネジャーさんを中心として情報共有し「支えようとしている人を支えること」で間接的なサポートができているのだと思っています。 「飲み忘れ」より多い「飲みすぎ」の相談 実際には、「飲み忘れ」でなく「飲みすぎ」の相談が、意外に多くあります。予定より早く薬がなくなってしまうため、管理方法などどうしたらよいかといった内容です。 外来に通院している人なら「薬がない」とご本人が病院に来ることもありますが、ご本人に過量服用している自覚がない場合が多く、対応に苦慮することがあります。 お一人でいる時間に服用してしまうことを防ぐのは難しく、薬を預かったり隠したりすることもご本人の自尊心を傷つけて、不安や不信感につながることがあります。ですから一概に「このようなケースはこうする」と決めることはできません。やはり連携が必要となり、日々変化する感情や病状に合わせての対応が求められます。 ご本人の認知機能はもちろんですが、それまで生きてきた過去(プライドやキャラクターなど)、生活の自立度、そしてどの程度管理すべきかの病状と経過、医師の見解を地域の薬局と共有し、ケアマネジャーさんとはサービスの受け入れ状況や、協力体制、薬剤の支給のタイミングを共有します。 私たちは、異変に気づいたときにすぐに共有できるような体制づくりや、情報共有システムなどの整備にも取り組んでいます。 多職種がともに学び、ともに悩むことの価値 血圧を下げる薬を例にとると、「血圧のコントロール」は手段であって、目的は、「脳卒中や心筋梗塞など大きな病気の予防」「予防した上で地域生活を維持すること」であったりします。前述の、病状や生きがい、人生満足度によっても、血圧のコントロールで考えられるリスクと、地域生活が維持できるかどうかのリスクの許容範囲は変わってきます。 多職種で共有するためには前提が重要です。在宅ケアは、他職種がどのようなことをしているか、同行しないと見えない部分が多くあります。新宿食支援研究会に参加することで、さまざまな職種について学ぶだけではなく、表面上わからなかったそれぞれの想いや現状も、交流を通して知ることができました。 それぞれの義務とプロフェッショナリズムを理解しつつ、病気や障害があったとしても、地域で安心して暮らせる社会をともに目指す。多くの職種が集まるなかで、それぞれのケースでともに悩むことが重要であり、サポートする側も含めた地域づくりをしていくことこそが大切なのだと学ばせていただきました。 執筆齊藤直裕薬剤師新宿ヒロクリニック新宿食支援研究会 記事編集:株式会社メディカ出版

特集 会員限定
2022年8月23日
2022年8月23日

【セミナーレポート】vol.2 具体的なケア方法 ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に行われたNsPace(ナースペース)の訪問看護師向けオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。皮膚科専門医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、それぞれの視点から高齢者の足元のケアについてお話をいただきました。セミナーレポート第2回となる今回は、大場マッキー広美さんによる「在宅でのフットケアの実際」をご紹介します。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 ・ケアプランの具体的な記載方法▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ・まずはよく観察する ・爪切りの流れとポイント ・足浴(清拭)のポイント▶ フットケアがもたらす心身へのメリット --> ▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 足や爪のトラブルは、転倒や下肢筋力の低下、ADL・QOLの低下につながるリスクが大変高い重大な問題です。訪問看護師のみなさんにはそのことを理解していただき、ぜひフットケアを看護の一環として積極的にケアに組み込んでほしいと思っています。 具体的なアクションとしては、まず利用者さんの足の状態をよく見て、医師に報告します。その上で、訪問看護指示書にフットケアについてしっかりと記載してもらい、ケアプランに盛り込むといいでしょう。その際、ケアマネージャーやご家族の方々にも、フットケアの必要性や期待される効果を説明してあげてください。 なお、訪問看護ステーションでのフットケアの提供方法については、自費サービスのメニューに組み込むことをご提案しています。 ケアプランの具体的な記載方法 ケアプランの記載方法に決まりはありませんが、私は単に『フットケア』とだけ書くのではなく、足浴や足の清拭、軟膏の塗布、爪切りなど、具体的なアクションの一つひとつを明記するといいと考えています。 ▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ここからは、実際に現場で提供するフットケア、爪切りと足浴(清拭)のノウハウをご紹介していきます。 まずはよく観察する まず、足や爪の状態をチェックする上で注目すべきポイントを細かく確認します。利用者さんの足を見る際は、以下の点に着目してみてください。 ・皮膚や爪の色・爪の長さ、厚さ、形・足の指の状態(伸びた爪で傷がついていないか など)・浮腫の有無・皮膚の温度、乾燥の具合・関節や皮膚の硬さ・脈 とくに爪の長さは要チェック。伸びたまま放置されているケースが多く見受けられます。 爪切りの流れとポイント STEP 1 ゾンデで爪と皮膚の境界線を分ける安全に爪切りを行うためには、ゾンデという細い棒状の器具を使って、まず爪と皮膚の境界線を分けましょう。フリーエッジ(爪床とつながっていない部分)にゾンデを優しく差し込み、しっかりと『切れる部分』を確認してください。このとき、ゾンデで溜まった汚れや角質を掃除すると、境界線を確認しやすくなりますよ。このゾンデを使った事前準備を怠ることで、出血してしまう爪切り事故が起きやすくなります。大きな問題がない爪であれば介護士も切ることができるので、ぜひ介護職の方にもやりかたを指導してあげて、現場でうまく分担できるようにしてみてください。 STEP 2 ニッパーで爪の端から切る爪と皮膚の境界線を確認したら、ニッパーで切っていきます。その際、爪の端から切ることで、短く切りすぎたり皮膚を巻き込んだりといった事故を防げます。なお、爪が厚い、もしくは固い場合は、まずは横からニッパーを入れて切り、次にその先端部分に向かって縦に切ると上手にカットできます。また、爪の長さをどのくらい残すかは、利用者さんの生活によって判断が異なります。歩ける方はある程度の長さをとっておかなければなりませんが、歩かないのであれば短く整えてもいいでしょう。 STEP 3 ヤスリでなめらかに整える次に、ヤスリで爪を整えましょう。ニッパーで切っただけだと角が残り、隣の指を傷つけてしまったり、靴下の繊維に引っかかって痛みが生じたりすることがあります。指で爪に触れて、引っかかりがないくらいを目指してください。また、爪に厚みがある場合は上から削ってもいいと思います。 なお、爪切り後は皮膚の状態をチェックしましょう。長年爪に覆われていた部分の皮膚は弱く、ひどい場合は傷になっていることもあります。爪切り直後はぬるま湯につけただけで皮膚がピリピリすることもあるので、扱いには細心の注意を払ってください。 足浴(清拭)のポイント フットケアにおいて、保清・保湿は重要なポイントです。足浴(清拭)を行い、仕上げに保湿する流れは、ぜひ実践していただきたいと思います。ここで間違えてほしくないのが、単に温かい湯に足をつける『足湯』ではなく、足を洗う『足浴』が必要だということ。清潔保持の観点では、石鹸を使って足の指や趾間まできちんと洗うことが大切です。 ▶ フットケアがもたらす心身へのメリット フットケアには、おそらくみなさんの予想を超えた効果があります。これまで外出できなかった方が少しずつ歩けるようになるといった事例は、決して珍しくありません。巻き爪、陥入爪、むくみなどが改善することで、歩くのが億劫ではなくなるのです。 また、利用者さんとの信頼関係が深まることも大きなメリット。私はこれまで、「今まで足元のケアなんてしてもらったことがない、うれしい」ととても喜んでくださる利用者さんをたくさん見てきました。高齢者の中には、自分の爪は一生このままよくない状態なのだと諦めている方が多いので、爪が短くきれいになるだけで心情に大きな変化があるのです。 利用者さんの身体にも心にもいい影響を与えるフットケア、訪問看護の現場にもっと浸透してほしいと考えています。 次回は、「専門家が考える正しいフットケアQ&A」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

インタビュー
2022年8月23日
2022年8月23日

部屋を借りにくい人を支援する「おせっかい不動産」

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生が、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第2回は、高齢や生活保護などで部屋を借りにくい人のために、奔走し支援している不動産業の斎藤 瞳さん。 ゲスト:齋藤 瞳1979年生まれ。神奈川県横浜市青葉区に2015年、アオバ住宅社を開業。主な事業は不動産仲介、集合住宅の定期清掃と短期集中清掃、賃借人退去後の各種手続きなど。「おせっかい不動産」としてドキュメンタリー番組で紹介された。 困りごとを知るとほうっておけない 川越●齋藤さんの本業は不動産業なのに、生活保護の方の部屋探しだけでなく、地域包括支援センター(以下、「包括」と称する)からの相談や訳ありの方の雇用創出など、ソーシャルワーク的なこともされています。そもそも、部屋を借りにくい理由のある人たちが訪れる? 齋藤●ほぼ全員(笑)。しかも理由が一つではなく、生活保護でシングルマザーでDV被害者で子どもに障害があってとか、複数難題がある人がやって来ます。 川越●そういう人の住まいはなかなか見つからないものですか。 齋藤●私は借りたい人としっかり話をして、どんな人かをわかっていますが、オーナーさんや不動産管理会社の多くは、訳ありというだけで「だめ」となっちゃう。私はそれに納得がいかなくて。 身寄りがなく緊急連絡先がない方の場合、うちがいったん部屋を借り上げてサブリースすることもあります。でもその人が滞納したらうちが損をするので、それを回避するために、毎月1回月末に、家賃を払いがてら集まってごはんを食べる交流会を開催しています。 川越●それが居場所づくりになっているわけですね。人口減少社会で、長い目で見たら部屋が空いてくるのに、オーナーさんはきちんと話を聞いてあげるといいですね。 齋藤●今、お取引をしていただいているオーナーさんとはしっかり関係を築きつつ、孤独死などのトラブルを起こさない取り組みをやっています。ただ下手に貸してトラブルになるくらいだったら貸さないほうがいいという人はまだ多いです。 ときには毅然として 断る勇気も必要 川越●斡旋した人の困りごとについて行政からも依頼がくるんですか。 齋藤●私たちはNPOでもボランティアでもない民間事業者なので、区から委託されている包括や障害のある人のための相談支援センターの方たちとつながって、そこを通じて区と関係を築きました。 川越●地域の高齢者の困りごとや相談を受けるのは、本来、包括の仕事です。そこから依頼がきて無料で引き受けているなら、齋藤さんの手が足りないときは、手伝ってほしいと逆に包括の人に依頼してもいいと思いますよ。 齋藤●私、話を聞いてもお金もらってないですからね(笑)。アパートを紹介したある人はアルコール依存症で、お酒を飲むと私に何十件もメールを送ってくるんです。多分さみしさのはけ口になっているんでしょうね。 川越●齋藤さんを唯一信頼できる人だと思っている人には気の毒ですが、齋藤さんはその人の家族になれるわけでも、その人の人生を背負えるわけでもないから、これ以上のお手伝いは限りがありますのでご理解くださいと伝えないと。 齋藤●私も自分の家族が大事だし、そこを犠牲にしてまで支援はできないです。これから行政や包括とは民間事業者としてどうお付き合いしていけばいいのか悩んでいるところです。 川越●かかわっている人が独居で、病院受診しているなら、病院に一緒について行って、診察のときに「この方を支援しているんですが、実はこんな問題があって」と言えば聞いてくれる人もいると思います。そうしたら「先生、また相談に乗ってください」って、医者を味方につければいいんです。 齋藤●それは考えつかなかったですね。専門的なことを相談できる応援団をもっともっと増やしていくのはいいですね。 地域包括ケアのために不動産業ができること 川越●区や市の単位でやっている地域ケア会議に市民委員として参加してみたらどうでしょう。地域の課題を話し合う会議なので、齋藤さんが出席すれば、応援団になってくれるケアマネ、民生委員さん、医療や介護の専門職ともつながりができますよ。 齋藤●家探しなど不動産に関連する問題だけならいいんですが、今は地域のすべての問題が全部うちに投げ込まれているような気がします。それにテレビで紹介されたら、人探しをしてほしいという問い合わせまでありました(笑)。 川越●そうだとしたら業務委託で料金が発生しますと言ったほうがよさそうですね。お金にならない仕事を包括が回してくるなら、代わりに土地の売却などを考えている高齢者を紹介してくださいって頼めばいいじゃないですか(笑)。 齋藤●横浜市青葉区は家も大きく所得も高い人がいるはずなのに、うちに来るのはお金にならない依頼ばかりです(笑)。 川越●いずれにしても安定した収入源がないと、活動を持続することが難しくなります。仲介手数料ビジネスだけではなく、土地売却物件等を原資にして、ソーシャル活動のための人材を雇えばできるんじゃないでしょうか。 支援的な活動も続けるなら、社会福祉士を雇って、包括から紹介された人の課題分析――仕事、収入、既往歴、介護の必要性などができれば、「ソーシャルワークができる不動産業」という新たな分野の創出になります。自治体によっては主任ケアマネと社会福祉士を雇えれば包括の運営を受託することも不可能ではなくなりますよ! 齋藤●そうなんですね。もっと勉強しないと。青葉区は障害者のためのグループホームが少なくて、運営主体の人もニーズもあるのに、場所がないんです。今は土地を持っている人を説得して建ててもらいたいというのが野望です。 川越●土地を有効活用したい人や売却したい人の案件を扱って、ソーシャルワークも含む事業活動や支援を行うことが経営の礎になるといいですね。 齋藤●古いアパートでも私に託してくれれば、すぐに満室にできるのにって思います。 川越●街の不動産屋さんが発信する地域包括ケアに期待しています。 ー第3回へ続くアオバ住宅社 http://www.aoba-jutakusha.jp/ あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 『医療と介護Next』2019年9月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

特集
2022年8月23日
2022年8月23日

安心感をどう作るか① ミーティング、カンファレンスなどのオンライン化

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第2回は前回に続き、東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さんです。 お話中島朋子東久留米白十字訪問看護ステーション 所長  カンファレンスをオンライン化 新型コロナウイルス感染症への対応で、オンライン化への取り組みは、一気に速度を上げました。結論から言ってしまえば、「やって良かった、デメリットはまったく感じない」と断言できると思います。 従来どおりの頻度でミニカンファレンス 利用者情報の共有は、訪問看護業務の生命線といってもよいでしょう。従来から、出勤者全員が参加する、毎朝30分のミニカンファレンスを開いていましたが、コロナ禍になっても休止したり、縮小したりすることは、まったく頭にありませんでした。 そこで、いち早くZoomを活用したオンライン会議を開始。3密を避けるために事務所のレイアウト変更を行ってからは、三部屋に分かれ、壁に向くようにデスクを配置。スタッフそれぞれは、背中合わせになるような形でパソコンの画面に向かいます。 また、事業所内のスタッフ密度を減らすため、自宅が近い人は自宅から会議に参加します。自宅参加のスタッフは、会議終了後に事務所に立ち寄り、訪問看護バッグをピックアップする方式に切り替えました。 余談ですが、壁向きのデスク配置は、業務が集中してできるという観点から、コロナ禍以前から検討していたレイアウトです。結果的に、コロナ禍で早期に実現できることになりました。 夕方の申し送りは、アラームが合図 17時30分、事務所内にアラームが響きます。夜勤者に引き継ぐための申し送りもZoomで行います。アラームを合図に、参加者は各自のデスクから会議に参加します。また、直帰したスタッフは自宅から参加します。 直帰するのは、主に、発熱のある利用者を訪問したスタッフです。発熱者への訪問は1日の最後とし、訪問後は直帰して、ただちに自宅で入浴することにしています。これは感染症対策の一環ですが、オンライン会議なので、自宅からの参加が可能となるのです。 そのほか、オンラインによる研修や外部機関との会議も、積極的に参加したり、活用したりしています。Zoomなどのオンライン会議システムは、コロナ禍が終わっても、欠かすことはできないでしょう。 在宅勤務を可能にするクラウド活用 感染状況に応じて、事務職を中心に在宅勤務を進めました。それを可能にしたのが、クラウドの活用です。 計画書、報告書、各種フォーマット、利用者情報、記録、サービス内容実績など、必要な人が、必要な時に、どこからでもアクセスすることができます。業務効率化のために、コロナ禍以前からシステム構築を行っていましたが、一気に実用レベルに仕上がりました。 訪問中に瞬時に共有 訪問看護の主戦場は、利用者の自宅です。訪問中に、タブレット端末(iPadなど)からクラウドにアクセスできることは、コロナ禍でなくても、極めてメリットが大きいと考えます。加えて、メッセージ交換アプリを利用し、ケアチームなどのグループ内で利用者情報を共有するといった方法もごく普通に行われるようになりした。 もはやICTは、訪問看護業務になくてはならないものになっています。 ICTに詳しいスタッフの力 2021年3月に採用した事務職員がICTに詳しく、ICT化の相談に乗ってくれたり、使い方を教えてくれたりなど、職場内でのICT普及に大きな力になってくれたことも報告しておきます。 どちらかというと、情報機器に弱いナースが多いなかで、「情報機器に明るいスタッフ」の存在は、必要不可欠なのかもしれません。 「助成金」を貪欲に狙う こうした一連のオンラインやICTなどの推進には、ある程度の費用がかかります。法人トップの決断は言うまでもありませんが、私は、助成金を貪欲に狙ってきました。都、市、その他、注意深く通達などをチェックしたり、アンテナを張っておいたりすると、さまざまな助成金をキャッチすることができます。 申請手続きなど若干面倒ですが、予算に限りがあるなかでの助成金の魅力は、それを超えるものがあります。 たとえば、iPadを夜間当番に配布できたのも助成金によるものです。 一般企業向けの助成金も活用する 訪問看護ステーションや在宅医療関連だけではなく、一般企業向けの助成金を活用することもできます。 就業規則の改定やICT化に向けたコンサルテーションを受ける費用は、中小企業向けの市の助成金制度で賄いました。 スプレッドシートを利用した、私たち事業所自慢のシフト表も、そのコンサルテーションの結果生まれました。無理なく、効率よく、柔軟な勤務を実現するシフト表により、感染予防に必要な健康的な働きかたが可能です。 ―第3回に続く  記事編集:株式会社メディカ出版

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