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特集
2022年8月23日
2022年8月23日

多くの「気づき」の情報が利用者の生活を快適に

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第7回は、福祉用具専門相談員の山上智史さんから、利用者の「できる」を引き出すための環境整備について紹介します。 在宅生活に必須の福祉用具のプロフェッショナル 私たち福祉用具専門相談員は、高齢者や障害を持つ人が残存機能を生かして生活しやすいよう、また、介助者が負担軽減しやすいように、住まいの環境整備をする専門職です。環境整備の選択肢としては、用具の使用や、住宅改修を行い整備します。 現在、介護保険ではレンタルできる福祉用具は13品目、購入できる福祉用具は5品目、住宅改修は5項目あります。福祉用具専門相談員は福祉用具サービス計画を立て、ケアマネジャーがそれをプランに入れて利用します。私たちは、そのプランどおり継続できているか、ミスマッチが起きていないかなど定期的に見直しをしながら、常にベストを目指して環境づくりをしています。 特に退院後の生活に必要な環境を整備 利用者に合った生活環境を作るためには、利用者の身体機能や疾患の状態などの情報が必須です。看護師と福祉用具専門相談員が情報共有することが多いのは、次のような場面です。 退院時の調整 病院ではできていたことが、在宅ではできないことがあります。 たとえば、病院では便座の高さが40cmで立ち座りができていたが、在宅では38cmで立ち座りが不安定になることがあります。また、食器や食具が病院と異なるため、家での食事はうまく食べられない方もいます。そのため、病院側の情報が多く入りやすい看護師との情報共有は重要です。 姿勢調整の相談 生活場面での座位姿勢やベッド上での姿勢は、嚥下や排泄に密接にかかわっているため、看護師からの情報が重要になります。たとえば看護師が把握している情報(座位保持時間、関節可動域、痛みの部位・具合など)に合わせて車いすの調整やクッションの選定を行っています。 生活動線の確保 生活のなかの「できない」には、さまざまな原因があります。たとえば「食べたくない」と言う利用者の本当の理由が「トイレに行く頻度を増やしたくない」ことだったこともあります。このように問題点を解決するヒントは間接的にほかの場所にある場合も少なくありません。 そのため、生活に密接にかかわっている家族・ヘルパー・看護師の情報を共有してもらうことで、環境面の改善に役立てることができます。 環境への「気づき」がポイント 福祉用具導入で食事介助が不要になった例 Aさん、80歳代女性、パーキンソン病 当時、私はヘルパーとしてパーキンソン病で座位が安定しないAさんの食事介助をしていました。40分隣に座り、Aさんの体を抱えながら食べ物を口に運び、Aさんは体を固くして口を開けるのが精いっぱいでした。 そんな時期に、私が部署移動で福祉用具専門相談員となり、当時新商品だった端座位保持テーブル「Sittan」という商品を見つけ、ケアマネに相談しました。すると端座位が安定しただけでなく、Aさんはテーブルに肘をついて自分で食事を食べだしたのです。 食事介助に40分かかっていたものが、自分で、20分で食べられるようになりました。このとき、「よかった」と喜びの感情と同時に「筋緊張で食べられなかったのは座る時の環境が悪かったんだ。気づかなくて申し訳なかった」と、環境づくりの大切さ、環境に目を向ける責任を痛感しました。 残存機能を生かした環境づくりで排泄行動が自立した例 Bさん、80歳代男性、脳梗塞片麻痺で歩行不可 脳梗塞をきっかけに車いす生活になったBさん。家のトイレは手前に段差が2ヵ所あり、立位が安定しないBさんは、歩行移動も、段差のせいで車いす移動もできない環境でした。退院時に看護師からおむつかポータブルトイレを用意するように言われ落ち込み、退院後はトイレ回数を減らすために食事も制限するようになってしまいました。 Bさんは、車いすの足こぎ移動やベッド上での横移動ができていました。それを知っていた私は、その自立機能を生かした環境にすることでトイレまで行けないかを考えました。そこで車いすの足漕ぎでトイレ近くまで移動してもらい、いすをトイレまで並べて置き、立ち上がらなくてもベッド上で横移動をする要領で移動ができるように工夫しました。 この環境にすることにより、Bさんは介助者の手を借りることもなく、自分のタイミングでトイレまで行くことができるようになりました。 福祉用具専門相談員が役立てること どんな福祉用具でも、メリットだけでなくデメリットもあります。 たとえば、エアマットレスは褥瘡防止のメリットがある反面、動きづらいデメリットがあります。車いすも下肢の負担軽減になるメリットの反面、下肢筋力低下の可能性というデメリットがあります。 ある利用者は、誤嚥を繰り返す原因が、体の機能低下と診断されていました。しかし実際に伺うと、テレビを見上げるような位置にあり、姿勢が崩れて結果的に誤嚥を繰り返していたことがわかりました。テレビの配置を低くし、誤嚥が改善されました。 私たちは利用者に合った用具を正しく選定する義務があり、そのためにも福祉用具専門相談員にできるだけ多くの情報をいただけると助かります。そしてぜひ私たちにも相談してみてください。 ー第8回へ続く 山上智史福祉用具専門相談員株式会社K-WORKER新宿食支援研究会記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:パラマウントベッド株式会社

特集 会員限定
2022年8月16日
2022年8月16日

【セミナーレポート】vol.1 フットケア アセスメント ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日のNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、訪問看護師の方に向けて「フットケア・爪のケアのポイント」をご紹介しました。講師は、皮膚科医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さん。3回に分けてセミナーの様子をお届けします。第1回の本記事では、高山先生にお話いただいた「高齢者のフットケア アセスメント」についてまとめます。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ フットケアの重要性 ・足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病▶ 足や爪のトラブルの原因 ・白癬 ・皮膚の老化 ・筋力や関節可動域の低下▶ フットケアに期待される効果 ・足浴の効果は絶大▶ 爪切り難民を救うために必要なこと --> ▶ フットケアの重要性 日本は人生100年時代を迎え、超高齢社会に突入しました。そこで考えなければならないのが、介護を要する年数を短くする方法です。介護を要する年数とは、すなわち経済を圧迫する年数。私たち足育研究会は、国民にのしかかる負担をこれ以上増やさないためにはどうしたらいいか、足元に着目してその解決策を模索しています。なぜなら、足や爪のトラブルは歩行に支障をきたすため。歩けなくなることは、介護が必要になるリスクに直結します。 足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病 足元のトラブルは生活習慣病であり、そのスタートは子ども時代にあります。私は日ごろから子どもたちの足を見ていますが、すでに足趾の変形が認められ、爪のトラブルが発症しているケースは少なくありません。これを放っておくと、加齢に伴い足趾の変形はさらに強まり、爪に不可逆的なトラブルが起こり、重症化します。そうして転倒しやすくなったり、痛みなどが生じて歩けなくなれば、フレイルや寝たきりになるリスクが高まったりもするでしょう。私たちは、この負のスパイラルをできるだけ早く断ち切るべく取り組んでいます。訪問看護師のみなさんにおかれましても、ぜひ足元のトラブルの成り立ちや患者さんが被る不利益を理解し、積極的にケアにあたっていただければと思います。 ▶ 足や爪のトラブルの原因 高齢者の足や爪のトラブルの代表的な原因としては、以下の3つが挙げられます。 白癬 非常に多くの高齢者が罹患している白癬は、爪を悪くする原因になります。爪は、爪母と呼ばれる皮膚に隠れた根元の部位でつくられ、爪床という『爪のベッド』に沿って前へと運ばれて、常に新しいものに置き換わる構造になっています。 そもそも、白癬というのは、足の白癬から始まります。①足の水虫(白癬)を放置してそれが爪に入ると②のような「くさび形」になるなどの変化が生じます。②の状態であれば、まだ爪の形を保ち、爪としての機能も果たせているケースが多いです。しかし、そのまま放置して重症化すると③のように変化して、爪の機能を果たせなくなるほどになります。糖尿病や下肢の末梢動脈疾患を抱えている方、もしくは透析を受けている方などのケースでは、④のような壊疽にもつながります。 皮膚の老化 高齢者の皮膚は、褥瘡をつくりやすい状態にあります。具体的な特徴は以下のようなものです。 【表皮】表皮細胞が減少し、免疫やターンオーバー、皮膚感覚が低下します。また、角層では皮脂の分泌が減り、天然保湿因子が枯渇して、強い乾燥が起こります。これによりバリア機能が低下したり、亀裂が生じたりして、アレルゲンや細菌などが皮膚内部に入りやすくなります。 【真皮】コラーゲンや弾力繊維が減少し、血管に変化が起きます。それが外力に対しての脆弱化を招き、創傷治癒力のさらなる低下、血管の閉塞をもたらします。 【脂肪組織】著明に萎縮します。とくに踵は筋肉がなく、脂肪組織だけで守っているため、ダメージを受けやすくなります。 筋力や関節可動域の低下 関節可動域が低下することで通常の歩行ができなくなり、皮膚や爪に過度な、もしくは不適切な負荷がかかって、指先を傷めたり爪が変形したりします。私たち足育研究会の調査では、巻き爪は足趾間力の低下がもたらしているというデータも得られました。 また、膝や股関節の可動域の低下、さらには筋力の低下によって座り方も変化します。大腿部をそろえて座ることができなくなり、足がパカッと開いてしまうのです。すると、踵の外側に強い圧力がかかり、褥瘡が現れやすくなります。 このように足や爪のトラブルの背景には、皮膚や関節、筋肉の変化など、さまざまな要因があります。これ以外にも、靴の問題なども深く関係してきます。こうした全身的な老化現象、生活習慣の果てにあるのが、高齢者の足の問題なのです。 先ほども少し触れたとおり、問題の発端は子ども時代にさかのぼります。柔らかい足で合わない靴を履いたり、運動量が不足したり。そして、足のケアが不足した状態も続き、やがては白癬や膝・腰の痛み、糖尿病、脳梗塞などの合併症が起きて、足元のトラブルにたどり着く……足や爪の状態は、その人の人生を色濃く反映しているといえます。 ▶ フットケアに期待される効果 そんな足や爪のトラブルを抱えた高齢者にぜひ行ってあげてほしいのが、フットケアです。肥厚した爪甲のケアは、フレイルやサルコペニアなどの予防につながることがわかっています。歩いても痛みがない状態、靴下などに引っかからない状態に爪を整えてあげることで、下肢機能の低下を改善できるからです。現場では、フットケア後に今まで運動できなかった方が歩き出したというケースはよく見られます。 また、爪白癬を患う要介護者に積極的にフットケアを行ったところ、実施期間中は介護度が上がらなかった、つまりADLを維持できたという研究結果もあります。歩ける期間をできるだけ長くするために、そして歩けない方も安全・安楽・衛生的に過ごすために、フットケアをやらない理由はありません。 足浴の効果は絶大 フットケアの中でぜひ行っていただきたいのが、足浴です。利用者さんに気持ちいいと感じてもらえることはもちろん、皮膚や粘膜の機能と関連のある器官を正常に保って感染を予防できる、筋肉を温めながらマッサージすることで運動効果を得られるなど、さまざまな効果が期待できます。継続的に足浴を実施すると、足関節の背屈可動域が改善するというデータも出ているほどです。足は『感覚臓器』。足浴で触ってあげる、少し動かしてあげることで、正常な感覚を呼び戻してあげてください。 ▶ 爪切り難民を救うために必要なこと このように、高齢者へのフットケアは大変重要であるにもかかわらず、『爪切り難民』は少なくありません。とくに介護を受けておらず、病院にも通っていない方は、多くの場合適切な爪のケアを受けられずにいます。 近年、足育研究会では爪切り難民対策として薬局に専門家を派遣してフットケアを行う取り組みを全国で始めていますが、こちらは要介護予備軍の方々を対象としています。介護を受けている方は自宅や施設で爪切りができることが前提の取り組みです。訪問看護の現場や、高齢者施設などは、当然『患者さんの足を守る場所』であってほしいと考えています。 みなさんには、高齢者の足の衛生や機能を守るという意識をもって、ぜひできる範囲でフットケアに取り組んでいただければと思います。 次回は、「在宅でのフットケアの実際」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年8月16日
2022年8月16日

ケアマネは多職種との信頼あってこそ司令塔

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第6回は、ケアマネジャーの森岡真也さんから、訪問看護師を含む多職種チーム構築を紹介します。 サービス調整だけではないケアマネの仕事 私が担当している地域、東京都新宿区は人口343,662人、高齢者人口67,187人、高齢化率19.6%(2022年5月1日現在)。新宿というと、一般的には高層ビル群や歌舞伎町の繁華街がクローズアップされるため、生活している人が少ない印象ですが、実際にはかなりの数の高齢者が住んでいる地域です。 地域的な特徴としては、独居高齢者・高齢者のみ世帯の比率が多く、また高齢化率が50%を超える大規模な都営住宅が2ヵ所あります。区内には大規模な病院が数多くあり、難病などで療養生活を送る方も多くいらっしゃいます。そのためか、訪問診療や訪問看護などの在宅医療が昔から充実している地域でもあります。 そんな新宿区で私がケアマネジャーの仕事を始めて16年になります。ケアマネジャーは一般的に、利用者に適したケアプランを作成し、利用者とサービス提供事業者の間に立って連絡調整をする、いわば介護保険の道先案内人のような専門職。最近では、介護保険外のサービスを調整する機会も多くあります。 ケアマネジャーとして働くためには、もちろん介護保険の幅広い知識が必要ですが、活動する地域のさまざまなフォーマル・インフォーマルサービスを提供する方々と関係を作り、利用者に紹介できるよう準備することも重要なのです。 顔の見える関係で把握できた情報が在宅ケアチーム構築につながる 新宿食支援研究会に参加したのは、同会設立時の2009年。以降、研修会やワーキンググループ、イベントなどでさまざまな方と出会い、その出会いが現在の私の仕事の糧となっています。 在宅生活の支援では、さまざまな問題が複合的に重なるケースが少なくありません。訪問看護師さんには、疾病上の管理のみならず、生活上の支援や家族関係の情報収集など、さまざまなことをお願いしています。また、看護師さん個々人のスキルや資質を頼ってケースを依頼することもあります。 新宿食支援研究会に関係している看護師さんとは、研修会などを通してスキルと顔の見える関係ができており、また食支援全般に深い知識と興味がある方が多いため、摂食嚥下機能障害をはじめ、さまざまな問題のある利用者の支援をお願いすることが多くあります。 病院などで組織内にすでにある多職種チームで支援を行うのとは違い、在宅ではさまざまな制約があり、支援の工夫が必要です。たとえば、本来必要な専門職が地域に不足している、または経済的な面で導入ができないため、多職種からその役割を補完してケアチームを組み立てることが多くあります。本来ならばST(言語聴覚士)の導入が必要なケースに、摂食嚥下訓練に詳しい看護師さんに入ってもらうことなどが過去にありました。 また、摂食嚥下機能に問題があり、一回の食事介助で少量しか食べられない方の食事回数・水分補給の回数を増やすため、ヘルパー・看護師・理学療法士・言語聴覚士・医師・歯科医師・管理栄養士など訪問するすべての職種の方々に、こまめな食事介助、水分補給の介助をお願いしたケースもあります。 このように、在宅ケアチームの構築には、地域の専門職個々人のスキルや資質を把握しておくことが重要となります。この把握にはやはり、実際に一緒にケアチームとして仕事をする前に、さまざまな研修会などで知り合えていることが役立っています。 多職種が常駐し、介護相談できるカフェをオープン 新宿食支援研究会でよく使われる「MTK-H®」という言葉があります。「M」は「見つける」、「T」は「つなぐ」、「K」は「結果を出す」、「H」は「広める」という、食支援にかかわる人の役割を表しています。 私たちケアマネジャーの役割の一つは、「T」、つなぐこと。在宅生活を希望されているご本人にとって、現況最適な在宅ケアチームを構築する役割です。そのためには、まず「M」、見つける役割を担う人が必要となります。われわれケアマネジャーが見つける人はもちろん、ご家族や地域住民の方です。ケアマネジャーとして、地域住民の方とつながって地域の社会資源を育んでいくことも、重要な仕事です。 新宿食支援研究会では、現在ワーキンググループとして地域住民の方とともにプロジェクトを進めています。 また法人事業として2022年6月に介護事業所併設のカフェ「介護相談もできるカフェ Sunnydays Café」をオープンしました。このカフェは、地域の喫茶店として機能しつつ、ケアマネジャーをはじめ介護の専門職がカフェに常駐し、地域の方の介護相談がある場合にはさりげなく寄り添いたいという思いでつくりました。Sunnydays Café内には、地域の方と医療・介護・福祉の関係者をつなぐ、さまざまなしくみを用意しています。 ケアマネジャーとして、多くの「K」、つまり結果を出す看護師さんをはじめとする医療・介護・福祉の専門職と、地域住民をつなぐ役割をこれからも果たしていこうと考えています。 訪問看護師さんには、ぜひ私たちケアマネジャーと直接つながる機会を持っていただき、地域の看護師さんの情報を気軽に利用者・家族・地域住民・専門職の方と共有できるよう、必要な情報をケアマネジャーに教えていただければと思います。 ー第7回へ続く 森岡真也ケアマネジャー株式会社モテギ新宿ケアセンター長新宿食支援研究会Sunnydays Caféhttps://sunnydayscafe.hp.peraichi.com/記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月16日
2022年8月16日

コーチングと口腔ケア

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回と次回は、コミュニケーションが困難だった人への対応事例を紹介します。 コミュニケーションが難しい方への対応 事例 Lさん、76歳男性、要介護Ⅱ。上総義歯、下部分義歯。義歯不安定、残存歯2本のみ。痰の喀出困難、OHAT唾液-1、帯状疱疹後神経痛、前立腺肥大症ほか。6年前に妻を亡くして以降、日々、機嫌が変わりやすくなった。内科からの紹介で、義歯不安定を主訴に訪問歯科診療にかかわる。帯状疱疹後神経痛(腰痛)がつらく、口腔ケア時にも、顔をしかめるほどの痛みが発作的に襲うことがあった。 Lさんには「なんで毎週来るんだ、毎週来なくてもいいんだよ! 床が傷付くから、荷物を床に置くんじゃない!」と、初診時からしばらくは、頭ごなしに怒鳴られることもありました。対応に苦慮しながら、ひたすら寄り添い傾聴し、ハフィング(痰を吐き出しやすくする方法)の指導や、義歯の内面調整を行いました。 コーチングスキルを取り入れる Lさんとのコミュニケーションに悩んでいたころ、コーチングの研修に参加することができました。「コーチ」の語源は「馬車」で、コーチングとは、人を馬車に乗せて目的地に運ぶ、つまり目標達成を支援するための、対話的コミュニケーションの技法です1)。 研修で教わったコミュニケーション技法を、Lさんとの会話で試みました。ペーシング(歩調合わせ)やリフレイン(繰り返し)の技法により、難解と思われた関係性が、少し開けてきたように思いました。 以下、Lさんとの会話の一部を示します。(下線部がリフレインの箇所) L「独りで暮らす自信がないなあ、もう僕、独りでは無理だと思う、歯科さん(筆者のこと)どう思う?」山田「そうですか。お独りではご無理がありますよね、不安ですよね」L「娘は仕事があるから、わがまま言えないし……」山田「娘さん、お仕事を持っていらっしゃるのですね、お忙しいのですね」 相手主導で、相手の言葉をリフレインし、傾聴すると、こちらが積極的に問わなくても、Lさんが独り暮らしを不安に思っていること、娘さんがお仕事を持っていて、Lさんの娘さんへの気遣いがわかりました。初診のころの機嫌の悪さは、腰痛のせいだけでなく、孤独感の影響が大だったのだと理解しました。 サービス担当者会議の開催 Lさんへの口腔ケアの指導も順調に進み、もう「毎週来るな」とは言われなくなったころ、チームにLさんの腰痛が周知され、介護支援専門員から、腰痛対策のためのサービス担当者会議が招集されました。 コロナ下のことで、会議は文書でのやりとりでしたが、介護支援専門員がそれぞれの意見をまとめ、Lさんに丁寧に説明が行われました。 その説明を受けた後も、Lさんは不安げで、「歯科さん、僕にはよくわからないので、説明してくれるかい」とおっしゃるので、図のようにそれぞれの職種の意見を示し、「皆さんが、Lさんのことをたいへん心配されていますよ。でも、何を選ぶかは、Lさんご自身ですよ」と伝えました。 Lさんの顔は生き生きと見えました。訪問鍼灸師のお試し施術も受けられましたが、慣れない鍼灸への怖さと、施術中の姿勢保持が困難だったため、自分でできるストレッチと、内科医提案の鎮痛薬治療を選ばれたのでした。 行動変容が促される その後は、訪問のたびに、ストレッチに歯磨き、舌の訓練も見せてくれるようになり、ご自分の話をしてくれるようにもなりました。あるときは、亡くなられたご自慢の奥様の写真も見せてくださいました。 義歯の安定には機能的なケアと唾液が必要です。精神的なストレスにより、唾液が減少することもあるので、訪問時のLさんとの何気ない会話に、心理面・体調面の好不調を探ることもありました。 コーチングは初心者ですが、基本的な介入を試みてから、急速にラポール形成が進行し、行動変容も促され、実際に口腔内環境が改善されたことには驚きでした。 残念ながら、腰痛はその後も大きく改善することはなく、ベッド上での時間も長くなり、ずいぶんと痩せられて、義歯も不安定になりました。 歯科医による義歯再調整のとき、そばで心配する私に、「歯科さん、あなたがいちばん、僕のことをわかってくれている。入れ歯が合わないのはね、歯科さんのせいではないからね。心配しなくていいよ、僕が悪いんだ」と笑顔で、おっしゃるのでした。 介入して2年半、Lさんは、そんな優しい言葉とたくさんの思い出を遺したまま、入所したばかりの施設で体調が急変され、愛する奥様のもとへ旅立たれました。 ー第10回へ続く 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士) 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)出江紳一ほか.『医療コーチングワークブック』東京,中外医学社,2019,168p.

インタビュー
2022年8月9日
2022年8月9日

移動式スーパーが買物難民高齢者を救う

在宅医療のキーマンである川越正平先生が、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第1回は移動スーパーが果たす驚くべき役割について紹介します。 ゲスト:住友達也氏1957年徳島県生まれ。タウン誌の発行やプランナーとして活躍後、買物困難者の実情を知り、2012年、社会貢献型移動式スーパー「株式会社とくし丸」を創業。買い物できない高齢者や限界集落へ食と見守りの視点を届けている。現在、株式会社とくし丸取締役ファウンダー。 おばあちゃんのセレクトショップ 川越●とくし丸は買物難民の高齢者宅を一軒一軒周って食品を販売していますが、生協の個別配送などとは違い、事業主であるオーナーが車を持って、地元のスーパーが商品を委託してお客さんに届けるという、すべて地元に還元されるビジネスモデルですね。 住友●おばあちゃんたちにとって、買物に出かけられなくなっても、日々の食材の買物は最後のエンターテイメントだと思うんです。地域の資本、地域の人材で地域の困っている人を助ける循環をつくって、とくし丸というキーワードで地方のスーパーが有機的に手を組んで、大手に対抗できるゆるやかなネットワークをつくりたいんです。 川越●売れ筋の商品はどんなものですか。 住友●お惣菜やお寿司のほか、肉や魚などの生鮮品が特に喜ばれます。 川越●新鮮なお刺身や出来たての総菜を届けてもらうのはうれしいでしょう。 対面だからこそわかる「異変」を包括へ相談 川越●とくし丸のビジネスモデルでユニークだなと思ったのは、1品につき10円上乗せして販売するというしくみです。10円高くても、みなさん買ってくださる? 住友●われわれは「商品をスーパーの店頭からおばあちゃん家まで届ける手間賃で10円ください」という発想なんです。 川越●お客さんの足代もかからないし、それで限界集落でも買物ができるならお安いものですね。買物難民を直接たずねて食品を販売することで高齢者の食や栄養を支える介護予防になっていますし、会話があるのもいい。 住友●介護予防につながる見守り協定を自治体と交わしています。電気や水道の検針、新聞配達は毎回対面まではしません。とくし丸は直接対面して販売するので、これまでいわゆる孤独死の方を9人発見していますし、その何倍もの人を事前に発見しています。 川越●認知症の方などもわかるんじゃないですか。 住友●同じものをたくさん買うお客さんがいて、認知症かもしれないと思ったら、まずご家族に、独居の方なら地域包括支援センター(包括)につないでいます。 川越●オーナーさんが包括とつながっているんですか。それはまさに地域包括ケア的な動きですね。 冷蔵庫の中までわかる絶対の信頼関係 川越●行政は一人暮らし高齢者の生活状況を知りたいと思い、アンケートを送ったりしているんですが、実は返ってこない人のリスクがいちばん高いんです。訪ねても会ってくれない人とか。 住友●われわれは直接会って話しますから、お客さんの好みや健康状態まで把握しています。オーナーはお客さんの冷蔵庫の中が全部わかると言ってます(笑)。あるおばあちゃんは、「今日、私、何食べたらいい?」って聞くそうです。すると、先週と先々週はこれを食べたから、そろそろ違うのがいいよねっておすすめするような会話がふつうに成立する関係なんです。 川越●高齢者のニーズはマーケティングが難しいと言われています。特に自分で買物ができなくなっている方の声は、いままで拾えなかったと思います。直接会って、欲しいものが聞けるというのは強みですね。 住友●おばあちゃんたちはネットスーパーは使えない、配食のお弁当は飽きる。やはり自分で買物したいんですよ。そこから「衣類が欲しい」「眼鏡を作りたい」などの要望もでてきて、衣類など別ラインの専用とくし丸も動き始めました。 移動スーパーはインフラでありメディア 川越●一台の車はだいたいどれくらいお客さんを持っているんですか。 住友●1人でだいたい150人。1つのエリアを週2回ずつ、計3エリア廻るので、1エリア約50人ほどです。全国で1000台走れば、15万人以上のおばあちゃんたちに会えるボリュームになるので、次のビジネスができます。 川越●そうなったら大手とも十分戦えますね。見守りだけでもいいですが、さまざまなデータが取れますから行政も喜びます。在宅医療をやっていると、病気だけの問題ではないことがわかって、地域や行政とも深くかかわっていかないと救えない場面に多く遭遇します。病院にも行っていない人は、重度化してから発見されることもままあります。だから、とくし丸のように別チャンネルでつながっている存在は意味があるんです。 住友●僕らは移動スーパーをやっているつもりはなくて、インフラでありメディアだと思っています。おばあちゃんたちと週2回会っていると、異変を感じて、ある日突然ガクッとくる方もいらっしゃる。 川越●「検診受けた?」とか声をかけてくれるだけでも意味がありそうです。市の広報紙で注意喚起してもなかなか読みませんが、会う人が一声かけてくれれば、ああそうかと思ってくださるかも。販売のついでに簡単な健康チェックや認知症スクリーニングができれば、行政は泣いて喜ぶと思います。 住友●第一線のオーナーには認知症サポーター養成講座を受けてもらっています。スーパーの協力で、助手席に看護師さんを乗せて血圧測定をしたり、AEDがどこにあるかがわかるアプリを使ってお客さんを蘇生させたりしたこともあります。 川越●それはすごい。とくし丸の販売ネットワークは、福祉面でもいろいろなことに使えそうですね。高齢社会は当分続きますから、医療介護にとってもすごく参考になるお話でした。 ー第2回へ続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 とくし丸 https://www.tokushimaru.jp/記事編集:株式会社メディカ出版 『医療と介護Next』2017年10月発行より要約転載。本文中の数値などは掲載当時のものです。

特集
2022年8月9日
2022年8月9日

スタッフの不安解消、安心できる仕事環境の整備は管理者の責務

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第1回は、東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さんです。 お話中島朋子東久留米白十字訪問看護ステーション 所長  「スタッフを感染させない!」 新型コロナウイルス感染症が国内でくすぶりはじめたとき、私の頭はその思いでいっぱいになりました。精神的緊張状態のなか、「今このときに、管理者として何をすれば最善なのか」を考え続け、一つひとつ実行してきました。 先手先手のPPEストック 感染症対策は、見えない相手との闘いです。闘いには武器が必要です。有力な武器の筆頭は、PPE(個人防護具)です。2020年2月早々には、PPEのストックを始めました。その費用が持ち出しになる心配はありましたけれど、スタッフの安全には代えられません。 日本国内では、感染者もまだまだ少なく、死者も出ていない段階でしたが、2月7日には、感染・リスクマネジメント係に、ストックを急ぐようにハッパをかけました。 個別事情に応える本音アンケート スタッフが抱く不安には個人差があります。その不安を「本音」で聞くために、アンケートを実施しました。質問は、感染、または、感染の疑いのある利用者宅を訪問できるかどうかを尋ねるものです。 事業所の看護師は13人です。そのうち、1人が「行きたくない」、数人が「できれば行きたくない」と答えました。一方で、半数が「職務上の使命から必要があれば行く」、4人が「積極的に行く」と答えてくれました。 「行きたくない」には、個別の事情もあります。「訪問したら発熱していたということもあるからPPEは持参してね」と言ったうえで、希望に添うようにシフトを組みました。 必要に応じて、躊躇なく 国内の感染者が拡大するにつれ、PPE関連が品薄になりました。ストックのおかげで少しだけ余裕がありましたが、先行きを考えると、PPEの在庫には不安を覚えます。 100均ショップなどで、代替品を工夫し補充するとともに、「どのような場合に、どの防護具を選択するのか」の白十字版の簡易マニュアルを作成し、「必要に応じて、躊躇なく使える」判断基準を示しました。これには、かなり時間を掛けました。 利用者への協力要請で働きやすくする 利用者への手紙も4報まで出しました。内容は、発熱時の事前連絡、訪問を受ける前の換気、発熱時は個人防護具を着用など、スタッフを感染から守るためのお願いです。こちら側からの要望ではあったわけですが、感染予防を徹底したスタッフが訪問してくれるとの印象を与えたのでしょう。利用者側からの苦情はありませんでした。 働きかたの環境整備 働きかたの環境も、非常時に合わせる必要が出てきます。そこで、社労士(社会保険労務士)と入念な話し合いを重ねながら、在宅ワークができるように就業規則を改変していきました。具体的には、事務職の在宅ワーク移行、直行・直帰による訪問の実施などです。 事務所レイアウトと雰囲気づくり 事務所レイアウトを大きく変更。部屋を三つに分散、デスクは壁向きなど、3密を徹底的に避けました。ただ、管理者の死角で、愚痴を言い合い気分的な負の連鎖が起きないようにする対策も必要でした。そこで、「完璧な職場なんてないんだから」と前置きしたうえで、愚痴や不満は、建設的な意見として言えるような雰囲気づくりに注力しました。 事業所連携でBCP構築 地域にはさまざまな事業所があります。コロナ禍での活動内容にも温度差があります。そのなかで、価値観を共有する訪問看護事業所に、BCP(事業継続計画)の協働を持ちかけました。どちらかの事業所が感染で休止になった場合には、代替でケアが提供できるようにするものです。その準備として、約200人の利用者をトリアージしました。事業所との連携は、管理者どうしで愚痴をこぼしあえる関係もつくれ、とても大切です。 管理者としての責務 そのほか、正しく怖がるための最新情報の収集と提供、PPE研修会の開催、スタッフの自己免疫力を高めるための残業の軽減、連携在宅診療医との発熱者対応の方向性共有、会議のオンライン化、ICT化の推進、事業所の換気工事、事務所内にシャワーと宿泊場所の確保など、さまざまな対策を講じてきました。 とはいえ、ウィズコロナへの道は、平坦ではありません。発熱した利用者宅に訪問してくれているスタッフを思うと涙が滲んだこともありました。 当初、「所長の私が発熱者宅を訪問する」と提案もしてみましたが、もちろん、副所長やスタッフから反対され、管理者としてやるべきことに注力するように割り切りました。本当にスタッフには感謝の気持ちでいっぱいです。これからは、管理者としてのプレッシャーを一人で抱え込まず、「私も不安なの」と本音をこぼせるような風土づくりも必要かもしれないと思っています。 ―第2回に続く 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月9日
2022年8月9日

CASE1スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき_その1:状況をどうとらえるか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第1回は、利用者に感情移入しすぎているように見えるスタッフナースに対して、管理者としてその状況をどうみるかを考えます。 はじめに 合同会社manabico代表の鶴ケ谷理子と申します。弊社は、訪問看護管理者に対するコンサルティングやセミナーを行なっている会社です。この連載は、私が講師を務めて開催しているケースメソッドセミナーの形式をもとに展開します。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながら読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE1 スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき スタッフナースの佐藤さんについて、「担当利用者に感情移入しすぎなのではないか?」と別のスタッフナースから相談があった。どうやら寝ても覚めても利用者のことを考えているらしい。佐藤さんは、在宅看取りの看護に携わることを希望して、病院から訪問看護に転職してきた背景がある。終末期の利用者を担当するのは2回目、今回は主担当として任されている。そのためか思いが強くなりすぎているように見える佐藤さんに対して、管理者としてどのような支援ができるだろうか? 設問あなたがこの管理者であれば、佐藤さんのようなスタッフへの支援はどのようにすべきと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 佐藤さんの状況を多面的にとらえる 講師このケースで議論したいことは、「管理者として佐藤さんにどのような支援ができるか」です。その前にまず、佐藤さんの状況について、みなさんはどのように考えますか? Aさん注2佐藤さんのように利用者に対して思い入れがあることは、看護師として悪いことではないと思います。ただ、思いが強すぎる と、利用者が亡くなった後に、佐藤さんが無力感や喪失感を感じることが心配です。そこへのフォローを考えたいです。 Bさん佐藤さんは、一人で背追い込みすぎていると感じます。ほかのメンバーも含めたケアカンファレンスを実施して、佐藤さんの気持ちのケアや、どういった看護をしていけばよいかを話し合えるといいと思います。でも忙しいからなかなかメンバーが集まらないのかもしれませんね。 CさんAさんも言われたように、利用者への感情移入が大きいと、利用者がお亡くなりになられた際の喪失感も大きくなります。どの利用者のかたに、どのスタッフが訪問に行くか、最終決定は管理者がしているはずです。管理者は、利用者だけでなく、スタッフも大切に考えて判断をすべきだと私は考えます。もっとこまめに佐藤さんに対して支援をすべきだったのではないでしょうか。 Dさん佐藤さんの精神状態も心配ですが、ルールから逸脱がないかどうかも私は気になります。佐藤さんのような様子だと、計画外の訪問や、個人的なやり取りを利用者としているかもしれないと思って。金銭や物品の受け渡しがあったりしたら、加えて別の対処も必要になるので。 「佐藤さんの状況をどうとらえるか」の小括 まずは、「佐藤さんの置かれている状況をどのようにとらえるか」について、それぞれの考えを出しあいました。 ●思い入れがあること自体が悪いわけではないが、佐藤さんの精神状態をよく観察し、フォローが必要。●佐藤さんが一人で背追い込みすぎている。ケアカンファレンスを開いて、ほかのメンバーとともに話し合いたい。●そもそも、この利用者への訪問を佐藤さんに続けさせてよかったのか。佐藤さんが行くなら管理者から何かしらの支援が必要だった。●訪問看護のルールから外れていないかを確認する。 一人で考えるだけでは思いつかないこともあり、A・B・C・Dさんは、ほかの人の意見を聞きながら気づきを得ていたようです。 次回は、「管理者として、佐藤さんに対してどのような支援ができるか」を考えていきます。 ─第2回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月9日
2022年8月9日

利用者を通して実感する多職種とのつながり

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第5回は、言語聴覚士の佐藤亜沙美さんから、連携で気づきを得た経験を紹介します。 在宅医療の世界へ 私は新宿にある訪問看護ステーションで働いている言語聴覚士(以下ST)です。 以前は急性期病院で働いていました。在職中、脳卒中で高次脳機能障害のみが残存してしまい、回復期病院にも転院できず不安を抱えたまま自宅退院される方。誤嚥性肺炎で入院後、ご家族へ食事指導をして退院となっても、再度誤嚥性肺炎を発症し入院される方。病院所属での力不足を感じることが多くありました。 縁があり、現在働いている訪問看護ステーションでSTを募集していると知り、在宅で働ければ私が感じていたモヤモヤは解消されるのではないかと思い、在宅医療の世界に仲間入りしました。 STへの需要に追いついていない 私が新宿で働きだした2015年、新宿区で常勤で働く訪問STはほかにいませんでした。現在でも、新宿区内全体(人口約33万人)で一桁しかいない状況です。需要に対し、供給が追いついていない現状です。 2022年4月、当社にSTが一人入職しましたが、1か月ほどで十数人分の枠が埋まりました。それだけST訓練を待っている方がいるのだと実感しました。 訪問で伺う利用者さんには、脳卒中後に自宅退院はしたものの、言語障害や高次脳機能障害に悩まされている人が多くおられます。そして病院で想像していたとおり、継続したリハビリを必要としていました。 誤嚥性肺炎を繰り返す事例では、病院でご家族に食事指導をしていましたが、実際食事を作り、介助していたのはヘルパーさんだったのかもしれないと、今の私なら考えることができます。 他職種との連携の実際 現在訪問しているALS(筋萎縮性側索硬化症)の方では、嚥下機能に合わせて、ヘルパー、管理栄養士とともに、理想の食形態を追求して調理方法を試行錯誤しています。 まず、訪問歯科の先生にVE(嚥下内視鏡)をやってもらい、食形態を決定します。食事の内容については、なるべく少量でも栄養が確保できるように、管理栄養士からアドバイスをもらっています。介入から2年が経ち、嚥下機能も徐々に低下がみられていますが、今のところ、誤嚥性肺炎や窒息などの問題は起きていません。 このように現在、他職種と連携して介入を行えるようになったのは、「新宿食支援研究会」に出会えたおかげだと思います。同会に参加させていただくようになったころは、まだ訪問に転職したばかりで、右も左もわからない状況だったので、他職種の方は何をしているのか、そして多職種連携の大切さをイチから教えてもらいました。 多職種連携については何となく知っていましたが、STとどんな連携ができるのか、そして他職種が何をやっているのかを細かく知ることで、私自身も視野が広くなりました。何より、私には解決できない問題があるときに、誰に頼ればよいのかがわかるようになりました。 以前の私なら気づけなかったかもしれない 在宅では、病院で働いていたときよりもたくさんの職種の方がいます。病院勤務時代は聞いたことがなかった職種もありました。新宿食支援研究会に参加する方だけでも30近い職種の方々がいます。そのそれぞれの仕事を知れただけでも、ご利用者様を助ける術が増えるのだと心強く感じました。 その一つとして、失語症の訓練で依頼が来たSさんの事例を経験しました。 初回訪問時、とても痩せている方だなと思い、体重の変化をご家族に確認すると、4か月で5kg体重が減少していたことがわかりました。食欲がなくなっているのは年齢的にしかたがないと思っていたとのことでした。Sさんは軽度の嚥下障害がありましたが、ご家族が作ってくれる食事を食べていたため、管理栄養士の力を借りて、食事内容を少量でカロリーがとれるように少し工夫し、間食で高カロリー食を摂取してもらいました。また薬剤師に確認したところ、副作用として食欲の低下がある薬剤を内服していたため、医師に相談し量の調整をしてもらいました。 体重は半年で4kgと少しずつですが増加し、以前よりもリハビリに対して意欲的になってきました。自分から散歩に行きたいと言うなど、体を動かすことが苦ではなくなってきたようだとご家族も嬉しそうでした。 恥ずかしながら以前の私なら、言語訓練のみに視点が向いてしまい、体重の変化には気づけなかったかもしれません。新宿食支援研究会に参加してよかったと思えた一例です。 「食べる」リハビリに密接にかかわるST 福祉系の方やご家族から、いまだによく聞かれることがあります。「STって何をしてくれるんですか?」と。 STは言語訓練をする人、摂食・嚥下訓練をする人などのイメージはあると思います。食べることは、生きていくうえで大事なことですよね。しかし栄養をとるだけが「食べる」ではないと思います。 家族と食べる、おいしく食べる、外食をする、旅行先で地元のものを食べるなど、「食べる」から連想されることはいろいろあると思います。でも、そのためには、いすに座る、口腔内を清潔に保つ、食事を食べる体力がある、などさまざまな条件が整わないと「食事」はできないのです。 ST一職種だけではどうにもできないこともたくさんあります。そんなとき、他職種の手を借りることの大切さを学びました。食べること、栄養、お口の中、何か困っていることがあれば、ぜひSTにご相談ください。 ー第6回へ続く 執筆佐藤亜沙美言語聴覚士訪問看護ステーションリカバリー・新宿食支援研究会記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月2日
2022年8月2日

【管理栄養士のアドバイスvol.10】リハビリを行う高齢者に必要な栄養

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。最終回は、高齢者がリハビリを行う際に気をつけたい栄養のポイントを紹介します。 はじめに 皆さんは「リハビリテーション栄養」(以下、リハ栄養)という言葉を聞いたことはあるでしょうか? 特に回復期リハ病棟など、これまでは機能回復のためにリハビリだけを一生懸命行うケースがありましたが、十分なエネルギーやたんぱく質を摂取しないで運動だけ頑張ると、体重や筋肉量が落ちてしまいます。一方、体重を増やそうと栄養管理だけ頑張って運動をしないと、筋肉ではなく脂肪が増えて、体重は増えても運動しにくい体になってしまいます。 リハ栄養とは、リハビリと栄養管理、両者の視点を持って同時に取り組むことを指し、特に高齢期にも重要な考えかたです。 リハビリによるエネルギー消費量 リハビリを行えば、その運動によりエネルギーの消費量が増します。筋肉をつけようとしてリハビリを頑張ったとしても、必要な栄養量が充足していなければ、運動で消費した分だけやせてしまう悪循環が起こってしまいます。 具体的にどのくらいのエネルギーを消費するのかは、リハビリの強度と時間によります。以下の計算式で算出できます。 計算方法 エネルギー消費量(kcal)= 体重(㎏) × メッツ注 × 時間(h) 注 メッツとは、身体活動の強度の指標で、安静時の何倍のエネルギーを消費するかを示します。 たとえば、体重50㎏の方が一日に3メッツ程度の運動を1時間行う場合、身体活動によるエネルギー消費量は50×3×1=150kcalです。よって、日常生活に必要なエネルギー消費量に、リハビリ消費分として150kcalを付加する必要があるということになります。 リハビリテーション栄養で重要な栄養素 リハ栄養においては、リハビリと栄養管理によって機能回復を目指しますが、栄養管理で重要なのはエネルギー消費量だけではありません。筋肉の合成にはたんぱく質が重要であり、たんぱく質も十分に摂取する必要があるのです。 食物として摂取したたんぱく質は、体内でアミノ酸まで分解され、再びたんぱく質に合成されます。アミノ酸は、体内で合成可能な「非必須アミノ酸」と、体内で合成できず外から摂取する必要のある「必須アミノ酸」の2種類に分けることでき、必須アミノ酸のなかでも、バリン、ロイシン、イソロイシンはBCAAと呼ばれて骨格筋の維持・増加に重要な役割をしています。 どのように摂取するか サルコペニア予防の栄養 加齢による筋肉量の減少および筋力の低下をサルコペニアと呼びます。サルコペニアの予防には、体重あたり1.0~1.2g/日のたんぱく質摂取が推奨されています。50㎏の方であれば、50~60gを一日に摂取するようにしましょう。 お肉やお魚であれば、手のひらにのるくらいの大きさに、たんぱく質がおおよそ10~20g程度含まれています。一日3回の食事の際に、手のひらにのる程度のたんぱく源をとることをイメージしましょう(お役立ちツールの「たんぱく質が多く含まれる食品」を参照)。 筋肉量を増加させたい場合の栄養 筋肉量の増加を目的とする場合は、レジスタンストレーニング直後にBCAA2g(たんぱく質10g)以上を糖質と一緒に摂取することがすすめられており、手軽に摂取できる補助食品を利用することも選択肢の一つです。 アミノ酸やBCAAを強化した補助食品はこのようなものがあります。 おわりに サルコペニアになると歩く・立つなど日常的な生活機能に影響が出ますし、転倒・骨折などのリスクにもなりえます。また、サルコペニアによる筋力低下は身体機能の低下につながり、食事量の低下から低栄養とフレイルにつながることもわかっています。 このようなフレイルサイクルを予防するためには、筋力を維持することが重要です。そして、筋力維持のためのリハビリテーションには、必要な栄養をしっかりととることが重要です。 訪問看護師のみなさんも、このリハビリテーション栄養の考えかたを、利用者・患者さんへのかかわりに生かしてもらえればと思います。 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:味の素株式会社     株式会社クリニコ 【参考】〇若林秀隆.『イラストで学ぶ高齢者リハビリテーション栄養』東京,講談社,2019,146p.〇若林秀隆ほか.『リハ栄養からアプローチするサルコペニアバイブル』東京,日本医事新報社,2018,226p.

特集
2022年8月2日
2022年8月2日

訪問看護で口腔ケアを行う新しい看護のありかた

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第4回は、訪問看護師の飯塚千晶さんから、口腔ケアを通した多職種とのつながりを紹介します。 訪問看護師は一人ではなかった 看護師の多くは在宅の現場へ飛び込む勇気がないと、よく耳にします。私も実際、以前は大学病院で勤務していました。父の死をきっかけに訪問看護の扉を開きましたが、働く前は、一人で動く不安やプレッシャーなどマイナスの要素ばかり感じていました。 ですが実際に働いてみると、訪問の場は確かに看護師一人かもしれませんが、実は周りには多くのサポーターがいます。 医師をはじめ、ケアマネジャー、歯科医師、ヘルパー、リハビリ専門職、福祉用具専門相談員、管理栄養士などなど……。相談できる専門職や窓口がたくさんあります。一人で背負う必要はなく、患者さんを取り巻くチーム全体で患者さんの生活を支えていく仕事です。 新宿食支援研究会との出会い 私は2018年2月、「訪問看護ステーションやごころ」を設立しました。看護師の母と妹と3人で立ち上げましたが、一緒に働くのは初めてだったので、各々のケアや考えの違いを改めて知りました。 一つの例として、私は大学病院では頭頸部外科・口腔外科に所属していたので、口腔内を観察することは、日々当たり前でした。しかし、整形外科に所属していた妹は口腔内観察という概念がなく、ほかの看護師でも口腔内観察をするという習慣はごく一部だということです。 私が新宿食支援研究会と出会ったのは、その年の8月でした。患者さんを通して知り合ったケアマネジャーさん、福祉用具専門相談員さんから「この会には看護師が少ない。一度参加してみてはどうか?」と声を掛けてもらいました。 看護師へ口腔ケアを広めたい この会は「最期まで口から食べる街づくり」を目的に多職種間での意見交換等行っています。当初私が参加した時期でメンバーは160名ほど、うち看護師は私を含め3名程度とかなり少なく、それは今も変わりません。 何を目的に、何をしているのか、わからないまま参加したところ、そこには歯科医師の五島朋幸先生がいらっしゃいました。歯科医師と話す機会がほぼなかったため、五島先生と知り合い、「看護師へ口腔ケアを広めたい」と伝えたことがきっかけで、現在に至ります。 今、私は新宿食支援研究会で、看護師のための口腔ケアについて考えるワーキンググループのリーダーを務めています。毎月検討会を行い、そこには看護師や歯科医師、歯科衛生士、ケアマネジャーなどが参加し、事例を通して学びを深めています。 コロナ禍以降、リモートで開催するようになると、全国から参加してくださるかたも増えました。 看護師以外の視点で気づきを得る 新宿食支援研究会に所属したことで、新宿区内の事業所(訪問診療、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所など)のかたと多く知り合うことができました。患者さんを通して、看護師の視点だけでなく、各々の視点からの意見を取り入れることで、新たな気づきを得ることができました。 看護師だけの意見では偏りが大きいため、ぜひ周りの関係者に頼ってみてください。なぜなら看護師はプライドが高く、自分たちの意見を押し通す傾向にあります。その選択が本当に正しいのか、振り返るためにも大切だと思います。 そして私は管理者として、多職種とつながるメリットは、頼り頼られる関係ができることだと思います。 看護師としてはプロフェッショナルですが、そのほかの領域においては素人同然。聞くことが恥ずかしくてなかなか表に出せないこともありますが、新宿食支援研究会で出会った人たちには気軽に質問したり相談されたりする関係性があり、それが日々の悩みを解決してくれます。ときには事業所内に向けた研修を無償で行ってくれることもあり、この会ならではの協力体制ではないかと思います。 多職種との距離を縮める機会を 皆さんが働いている場所でもこのような地域連携の場があれば、「看護師なのに知らないと思われる」などと躊躇せず、ぜひ参加してみてほしいと思っています。 看護師は日々の業務で忙しく、なかなか外部の場に参加することが難しいですが、一歩踏み出すことで新しいコミュニティが開け、仕事の依頼につながることも多いです。在宅では看護師は「怖い」「冷たい」「厳しい」などと思われがちです。積極的に参加し、多職種との距離を縮めることが重要ではないかと感じます。 口腔ケアと観察で全身の疾患や栄養への気づきもある  人工呼吸器を装着されている利用者さんに口腔ケアを行う様子 定例のリモートによるワークショップの様子PC上で全国から月1回夜、10数人の参加者が事例検討を中心に行っている  事例紹介 新宿食支援研究会の、患者さんへの介入事例を紹介します。 Aさん、80歳代女性。舌癌末期、独居 下顎に腫瘍が浸潤し滲出液が多く、連日の処置を要している 介入当初は歯も数本あり、咀嚼も問題なく、大好きなお寿司などを摂取していました。しかし1か月しないうちに、下顎骨が露呈しはじめました。疼痛も強くなり、大好きなお寿司も食べることができなくなり、本人の気持ちも沈みがちになりました。 この患者さんの状態を、新宿食支援研究会で毎月行っている症例検討会で議題に挙げ、口腔内の注意点や今後行うべきことなどを話し合いました。感染に注意すること、疼痛コントロールを重点的に、という意見をもらえ、翌日には訪問診療医・ケアマネジャー・ヘルパーへ伝達しました。 連日介入しているヘルパーと看護師で、口腔内の清潔保持に努め、感染を防ぐために、優しくゆっくりとケア(軟毛ブラシ・不織布ガーゼ・保湿剤を用いて)を行いました。ヘルパーには直接指導を実施。訪問診療では早急にオピオイドを導入し、疼痛緩和につながりました。 疼痛コントロールと口腔内感染の予防ができたことで、食事への意欲がまたわき上がってきました。 亡くなる1週間前、「お寿司が食べたい」と希望がありました。ヘルパーが出前を取り、まずは見た目を楽しんだ後、一口大に刻んだお寿司を口に運び、味わうことができました。飲み込みまではいきませんでしたが、食べたいという意欲を再燃できたことが、介入チームにとって、とても大きな喜びとなりました。 多職種でつながることでのパワー このように、病院とは違い、在宅では外部の力を知り、職種ごとの役割を発揮して、協力して、実践していくことがとても重要です。協力することでわれわれの力が存分に発揮できると考えています。 一人では何も生まれませんが、多職種とつながることで何倍ものパワーになり、患者さんへのサポートとなります。 看護師としての知識を持ちながら、周囲への意見に聞く耳を持ち、立場を変えて思い考えることがとても大切だと思います。 ー第5回へ続く 執筆飯塚千晶訪問看護ステーションやごころ管理者新宿食支援研究会訪問看護師 記事編集:株式会社メディカ出版

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