2022年9月13日
【セミナーレポート】vol.1 BCP策定の基礎知識/BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~
2022年6月24日(金)に行ったNsPace(ナースペース)主催の訪問看護師向けオンラインセミナー「BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~」。来年度の診療報酬改定で訪問看護ステーションでもBCPの策定が義務化されることを受け、BCPとはどんなものか、どういう手順でつくればいいのかを、複数の訪問看護ステーションを運営するWyL株式会社 代表取締役の岩本大希さんに教えてもらいました。第1回の本記事では、今知っておきたい基礎知識についてご紹介します。※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。
【講師】岩本 大希さんWyL株式会社 代表取締役/ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長/看護師・保健師・在宅看護専門看護師2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営(2020年12月現在)。訪問看護現場におけるBCPの重要性にいち早く着目し、2021年には厚生労働省が推進する研究事業(厚生労働科学特別研究事業)「在宅医療の事業継続計画(BCP)策定に係る研究」に参画。
目次▶ BCPってどんなもの? 定義と策定が必要な理由▶ 医療領域におけるBCP策定の重要性と難しさ ・医療領域のBCPは独自に作成することが必要▶ BCPと災害対策マニュアルとの違い ・使用する順番は災害対応マニュアル→BCP▶ 同業者や地域の他業種と一緒につくるBCPもある
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▶ BCPってどんなもの? 定義と策定が必要な理由
近年よく耳にするようになった「BCP」とは、正式には「Business Continuity Planning」といい、日本語では「事業継続計画」と呼ばれています。その名前のとおり、災害をはじめとした何らかのリスクが発生した際、万が一業務を中断せざるを得ない状況になっても、できるだけ早く復旧するための計画のことです。『何らかのリスク』とは、具体的には以下のようなものが挙げられます。
自然災害(天災):地震・台風・水害・土砂崩れ・積雪・感染症・火災技術的リスク(事故):停電・上水道停止・下水道機能不全・火災・ガス共有停止・PCシャットダウン人為的リスク(人災):多数傷病者事故・テロ
BCPを策定する理由は、端的にいうと『亡くなってしまう方を減らすため』。BCPをきちんと策定し、それに準じた対応をすることで、災害それ自体でいのちを落とす方の数、または二次災害を含めた関連死の件数を半減させられる可能性があるといわれています。ちなみに、この『亡くなってしまう方』の中には、利用者さんだけでなく従業員も含まれます。つまりBCPの策定は、みなさんの周りにいる大切な人たちの、そしてみなさん自身のいのちを守るための重要なアクションなのです。
▶ 医療領域におけるBCP策定の重要性と難しさ
BCPの策定が早くから進められていた業界の代表例としては、工場をもつ製造業や鉄道をはじめとした交通事業、水道・ガス・電気などのインフラ事業が挙げられます。サービスの供給をストップするわけにはいかない業界が先駆けとなっていることがわかるでしょう。
では、私たちが従事する福祉を含めた医療サービスはどうでしょうか? 間違いなく『公益性が高いインフラ』に該当するはずですよね。そこで2024年度の診療報酬改定で、訪問看護ステーションにもBCPの策定が必須となったのだと考えられます。
医療領域のBCPは独自に作成することが必要
医療現場におけるBCPの策定には課題が多くあります。まず大前提として、医療サービスの提供には高い専門性が求められ、誰でもできるわけではありません。さらに、発災直後に患者数、それも緊急性の高いケースが急増するという需要の変化や、個別性が高いサービスであることなども考慮しなければならない。つまり、他の業界で使われているものを流用することは難しく、自分たちで一から対策を練らなければなりません。
▶ BCPと災害対策マニュアルとの違い
BCPというワードを聞いて「既存の災害対策マニュアルだけでは不十分なの?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかと思いますが、BCPと災害対応マニュアルでは役割が異なります。BCPは事業を復旧させていくための大きなプランで、災害対応マニュアルはその中の一部、初動の部分のみについて対応をまとめたものです。
なお、災害対策マニュアルは事象(地震、水害など)ごとに対応をまとめているのに対し、BCPは天災に限らず事故や人災などあらゆるリスクに対応する形、『オールハザードアプローチ』となっているのもポイントです。BCPは、原因となるリスクが何であるかに関わらず、事業の継続・復旧を図るための計画をまとめたものということですね。
使用する順番は災害対応マニュアル→BCP
活用の順番としては、何らかのリスクが起こった際、まずは災害対応マニュアルを使って初期対応にあたります。その後、事業をすぐに復旧することが難しい場合はBCPを発動し、計画に則ってじわじわと元の状態に戻していく流れになります。
▶ 同業者や地域の他業種と一緒につくるBCPもある
BCPと一口にいっても、厳密にはいくつかの種類があります。まずは、事業所単位での対応を考えるBCP。基本的にはこれが最小単位となるでしょう。これをベースにして、外部組織と連携してつくるBCPがあります。
連携型BCP:近隣の同業者と連携してつくるBCP地域包括BCP:同じエリアにある病院やヘルパー事業所、クリニック、医師会、保健所など、他業態の組織も含めて幅広く連携してつくるBCP
こうしてネットワークが広がれば、ひとつの事業所単位では対応できないリスクも乗り越えられる可能性が高まります。ただ、最小単位である事業所のBCPをまとめられていない段階で、連携型や地域包括BCPのことまで考えるのは、なかなかハードルが高いはず。まずは事業所のBCPを策定することで、自分たちのリソースだけでは対応できないこと、連携の必要性が自ずと見えてくるので、そこを最初の第一歩として取り組んでもらえればいいのではと思います。
次回は「vol.2 具体的なBCP策定手順 前編」についてお伝えします。
記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア