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特集
2022年8月9日
2022年8月9日

利用者を通して実感する多職種とのつながり

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第5回は、言語聴覚士の佐藤亜沙美さんから、連携で気づきを得た経験を紹介します。 在宅医療の世界へ 私は新宿にある訪問看護ステーションで働いている言語聴覚士(以下ST)です。 以前は急性期病院で働いていました。在職中、脳卒中で高次脳機能障害のみが残存してしまい、回復期病院にも転院できず不安を抱えたまま自宅退院される方。誤嚥性肺炎で入院後、ご家族へ食事指導をして退院となっても、再度誤嚥性肺炎を発症し入院される方。病院所属での力不足を感じることが多くありました。 縁があり、現在働いている訪問看護ステーションでSTを募集していると知り、在宅で働ければ私が感じていたモヤモヤは解消されるのではないかと思い、在宅医療の世界に仲間入りしました。 STへの需要に追いついていない 私が新宿で働きだした2015年、新宿区で常勤で働く訪問STはほかにいませんでした。現在でも、新宿区内全体(人口約33万人)で一桁しかいない状況です。需要に対し、供給が追いついていない現状です。 2022年4月、当社にSTが一人入職しましたが、1か月ほどで十数人分の枠が埋まりました。それだけST訓練を待っている方がいるのだと実感しました。 訪問で伺う利用者さんには、脳卒中後に自宅退院はしたものの、言語障害や高次脳機能障害に悩まされている人が多くおられます。そして病院で想像していたとおり、継続したリハビリを必要としていました。 誤嚥性肺炎を繰り返す事例では、病院でご家族に食事指導をしていましたが、実際食事を作り、介助していたのはヘルパーさんだったのかもしれないと、今の私なら考えることができます。 他職種との連携の実際 現在訪問しているALS(筋萎縮性側索硬化症)の方では、嚥下機能に合わせて、ヘルパー、管理栄養士とともに、理想の食形態を追求して調理方法を試行錯誤しています。 まず、訪問歯科の先生にVE(嚥下内視鏡)をやってもらい、食形態を決定します。食事の内容については、なるべく少量でも栄養が確保できるように、管理栄養士からアドバイスをもらっています。介入から2年が経ち、嚥下機能も徐々に低下がみられていますが、今のところ、誤嚥性肺炎や窒息などの問題は起きていません。 このように現在、他職種と連携して介入を行えるようになったのは、「新宿食支援研究会」に出会えたおかげだと思います。同会に参加させていただくようになったころは、まだ訪問に転職したばかりで、右も左もわからない状況だったので、他職種の方は何をしているのか、そして多職種連携の大切さをイチから教えてもらいました。 多職種連携については何となく知っていましたが、STとどんな連携ができるのか、そして他職種が何をやっているのかを細かく知ることで、私自身も視野が広くなりました。何より、私には解決できない問題があるときに、誰に頼ればよいのかがわかるようになりました。 以前の私なら気づけなかったかもしれない 在宅では、病院で働いていたときよりもたくさんの職種の方がいます。病院勤務時代は聞いたことがなかった職種もありました。新宿食支援研究会に参加する方だけでも30近い職種の方々がいます。そのそれぞれの仕事を知れただけでも、ご利用者様を助ける術が増えるのだと心強く感じました。 その一つとして、失語症の訓練で依頼が来たSさんの事例を経験しました。 初回訪問時、とても痩せている方だなと思い、体重の変化をご家族に確認すると、4か月で5kg体重が減少していたことがわかりました。食欲がなくなっているのは年齢的にしかたがないと思っていたとのことでした。Sさんは軽度の嚥下障害がありましたが、ご家族が作ってくれる食事を食べていたため、管理栄養士の力を借りて、食事内容を少量でカロリーがとれるように少し工夫し、間食で高カロリー食を摂取してもらいました。また薬剤師に確認したところ、副作用として食欲の低下がある薬剤を内服していたため、医師に相談し量の調整をしてもらいました。 体重は半年で4kgと少しずつですが増加し、以前よりもリハビリに対して意欲的になってきました。自分から散歩に行きたいと言うなど、体を動かすことが苦ではなくなってきたようだとご家族も嬉しそうでした。 恥ずかしながら以前の私なら、言語訓練のみに視点が向いてしまい、体重の変化には気づけなかったかもしれません。新宿食支援研究会に参加してよかったと思えた一例です。 「食べる」リハビリに密接にかかわるST 福祉系の方やご家族から、いまだによく聞かれることがあります。「STって何をしてくれるんですか?」と。 STは言語訓練をする人、摂食・嚥下訓練をする人などのイメージはあると思います。食べることは、生きていくうえで大事なことですよね。しかし栄養をとるだけが「食べる」ではないと思います。 家族と食べる、おいしく食べる、外食をする、旅行先で地元のものを食べるなど、「食べる」から連想されることはいろいろあると思います。でも、そのためには、いすに座る、口腔内を清潔に保つ、食事を食べる体力がある、などさまざまな条件が整わないと「食事」はできないのです。 ST一職種だけではどうにもできないこともたくさんあります。そんなとき、他職種の手を借りることの大切さを学びました。食べること、栄養、お口の中、何か困っていることがあれば、ぜひSTにご相談ください。 ー第6回へ続く 執筆佐藤亜沙美言語聴覚士訪問看護ステーションリカバリー・新宿食支援研究会記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月2日
2022年8月2日

【管理栄養士のアドバイスvol.10】リハビリを行う高齢者に必要な栄養

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。最終回は、高齢者がリハビリを行う際に気をつけたい栄養のポイントを紹介します。 はじめに 皆さんは「リハビリテーション栄養」(以下、リハ栄養)という言葉を聞いたことはあるでしょうか? 特に回復期リハ病棟など、これまでは機能回復のためにリハビリだけを一生懸命行うケースがありましたが、十分なエネルギーやたんぱく質を摂取しないで運動だけ頑張ると、体重や筋肉量が落ちてしまいます。一方、体重を増やそうと栄養管理だけ頑張って運動をしないと、筋肉ではなく脂肪が増えて、体重は増えても運動しにくい体になってしまいます。 リハ栄養とは、リハビリと栄養管理、両者の視点を持って同時に取り組むことを指し、特に高齢期にも重要な考えかたです。 リハビリによるエネルギー消費量 リハビリを行えば、その運動によりエネルギーの消費量が増します。筋肉をつけようとしてリハビリを頑張ったとしても、必要な栄養量が充足していなければ、運動で消費した分だけやせてしまう悪循環が起こってしまいます。 具体的にどのくらいのエネルギーを消費するのかは、リハビリの強度と時間によります。以下の計算式で算出できます。 計算方法 エネルギー消費量(kcal)= 体重(㎏) × メッツ注 × 時間(h) 注 メッツとは、身体活動の強度の指標で、安静時の何倍のエネルギーを消費するかを示します。 たとえば、体重50㎏の方が一日に3メッツ程度の運動を1時間行う場合、身体活動によるエネルギー消費量は50×3×1=150kcalです。よって、日常生活に必要なエネルギー消費量に、リハビリ消費分として150kcalを付加する必要があるということになります。 リハビリテーション栄養で重要な栄養素 リハ栄養においては、リハビリと栄養管理によって機能回復を目指しますが、栄養管理で重要なのはエネルギー消費量だけではありません。筋肉の合成にはたんぱく質が重要であり、たんぱく質も十分に摂取する必要があるのです。 食物として摂取したたんぱく質は、体内でアミノ酸まで分解され、再びたんぱく質に合成されます。アミノ酸は、体内で合成可能な「非必須アミノ酸」と、体内で合成できず外から摂取する必要のある「必須アミノ酸」の2種類に分けることでき、必須アミノ酸のなかでも、バリン、ロイシン、イソロイシンはBCAAと呼ばれて骨格筋の維持・増加に重要な役割をしています。 どのように摂取するか サルコペニア予防の栄養 加齢による筋肉量の減少および筋力の低下をサルコペニアと呼びます。サルコペニアの予防には、体重あたり1.0~1.2g/日のたんぱく質摂取が推奨されています。50㎏の方であれば、50~60gを一日に摂取するようにしましょう。 お肉やお魚であれば、手のひらにのるくらいの大きさに、たんぱく質がおおよそ10~20g程度含まれています。一日3回の食事の際に、手のひらにのる程度のたんぱく源をとることをイメージしましょう(お役立ちツールの「たんぱく質が多く含まれる食品」を参照)。 筋肉量を増加させたい場合の栄養 筋肉量の増加を目的とする場合は、レジスタンストレーニング直後にBCAA2g(たんぱく質10g)以上を糖質と一緒に摂取することがすすめられており、手軽に摂取できる補助食品を利用することも選択肢の一つです。 アミノ酸やBCAAを強化した補助食品はこのようなものがあります。 おわりに サルコペニアになると歩く・立つなど日常的な生活機能に影響が出ますし、転倒・骨折などのリスクにもなりえます。また、サルコペニアによる筋力低下は身体機能の低下につながり、食事量の低下から低栄養とフレイルにつながることもわかっています。 このようなフレイルサイクルを予防するためには、筋力を維持することが重要です。そして、筋力維持のためのリハビリテーションには、必要な栄養をしっかりととることが重要です。 訪問看護師のみなさんも、このリハビリテーション栄養の考えかたを、利用者・患者さんへのかかわりに生かしてもらえればと思います。 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:味の素株式会社     株式会社クリニコ 【参考】〇若林秀隆.『イラストで学ぶ高齢者リハビリテーション栄養』東京,講談社,2019,146p.〇若林秀隆ほか.『リハ栄養からアプローチするサルコペニアバイブル』東京,日本医事新報社,2018,226p.

特集
2022年8月2日
2022年8月2日

訪問看護で口腔ケアを行う新しい看護のありかた

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第4回は、訪問看護師の飯塚千晶さんから、口腔ケアを通した多職種とのつながりを紹介します。 訪問看護師は一人ではなかった 看護師の多くは在宅の現場へ飛び込む勇気がないと、よく耳にします。私も実際、以前は大学病院で勤務していました。父の死をきっかけに訪問看護の扉を開きましたが、働く前は、一人で動く不安やプレッシャーなどマイナスの要素ばかり感じていました。 ですが実際に働いてみると、訪問の場は確かに看護師一人かもしれませんが、実は周りには多くのサポーターがいます。 医師をはじめ、ケアマネジャー、歯科医師、ヘルパー、リハビリ専門職、福祉用具専門相談員、管理栄養士などなど……。相談できる専門職や窓口がたくさんあります。一人で背負う必要はなく、患者さんを取り巻くチーム全体で患者さんの生活を支えていく仕事です。 新宿食支援研究会との出会い 私は2018年2月、「訪問看護ステーションやごころ」を設立しました。看護師の母と妹と3人で立ち上げましたが、一緒に働くのは初めてだったので、各々のケアや考えの違いを改めて知りました。 一つの例として、私は大学病院では頭頸部外科・口腔外科に所属していたので、口腔内を観察することは、日々当たり前でした。しかし、整形外科に所属していた妹は口腔内観察という概念がなく、ほかの看護師でも口腔内観察をするという習慣はごく一部だということです。 私が新宿食支援研究会と出会ったのは、その年の8月でした。患者さんを通して知り合ったケアマネジャーさん、福祉用具専門相談員さんから「この会には看護師が少ない。一度参加してみてはどうか?」と声を掛けてもらいました。 看護師へ口腔ケアを広めたい この会は「最期まで口から食べる街づくり」を目的に多職種間での意見交換等行っています。当初私が参加した時期でメンバーは160名ほど、うち看護師は私を含め3名程度とかなり少なく、それは今も変わりません。 何を目的に、何をしているのか、わからないまま参加したところ、そこには歯科医師の五島朋幸先生がいらっしゃいました。歯科医師と話す機会がほぼなかったため、五島先生と知り合い、「看護師へ口腔ケアを広めたい」と伝えたことがきっかけで、現在に至ります。 今、私は新宿食支援研究会で、看護師のための口腔ケアについて考えるワーキンググループのリーダーを務めています。毎月検討会を行い、そこには看護師や歯科医師、歯科衛生士、ケアマネジャーなどが参加し、事例を通して学びを深めています。 コロナ禍以降、リモートで開催するようになると、全国から参加してくださるかたも増えました。 看護師以外の視点で気づきを得る 新宿食支援研究会に所属したことで、新宿区内の事業所(訪問診療、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所など)のかたと多く知り合うことができました。患者さんを通して、看護師の視点だけでなく、各々の視点からの意見を取り入れることで、新たな気づきを得ることができました。 看護師だけの意見では偏りが大きいため、ぜひ周りの関係者に頼ってみてください。なぜなら看護師はプライドが高く、自分たちの意見を押し通す傾向にあります。その選択が本当に正しいのか、振り返るためにも大切だと思います。 そして私は管理者として、多職種とつながるメリットは、頼り頼られる関係ができることだと思います。 看護師としてはプロフェッショナルですが、そのほかの領域においては素人同然。聞くことが恥ずかしくてなかなか表に出せないこともありますが、新宿食支援研究会で出会った人たちには気軽に質問したり相談されたりする関係性があり、それが日々の悩みを解決してくれます。ときには事業所内に向けた研修を無償で行ってくれることもあり、この会ならではの協力体制ではないかと思います。 多職種との距離を縮める機会を 皆さんが働いている場所でもこのような地域連携の場があれば、「看護師なのに知らないと思われる」などと躊躇せず、ぜひ参加してみてほしいと思っています。 看護師は日々の業務で忙しく、なかなか外部の場に参加することが難しいですが、一歩踏み出すことで新しいコミュニティが開け、仕事の依頼につながることも多いです。在宅では看護師は「怖い」「冷たい」「厳しい」などと思われがちです。積極的に参加し、多職種との距離を縮めることが重要ではないかと感じます。 口腔ケアと観察で全身の疾患や栄養への気づきもある  人工呼吸器を装着されている利用者さんに口腔ケアを行う様子 定例のリモートによるワークショップの様子PC上で全国から月1回夜、10数人の参加者が事例検討を中心に行っている  事例紹介 新宿食支援研究会の、患者さんへの介入事例を紹介します。 Aさん、80歳代女性。舌癌末期、独居 下顎に腫瘍が浸潤し滲出液が多く、連日の処置を要している 介入当初は歯も数本あり、咀嚼も問題なく、大好きなお寿司などを摂取していました。しかし1か月しないうちに、下顎骨が露呈しはじめました。疼痛も強くなり、大好きなお寿司も食べることができなくなり、本人の気持ちも沈みがちになりました。 この患者さんの状態を、新宿食支援研究会で毎月行っている症例検討会で議題に挙げ、口腔内の注意点や今後行うべきことなどを話し合いました。感染に注意すること、疼痛コントロールを重点的に、という意見をもらえ、翌日には訪問診療医・ケアマネジャー・ヘルパーへ伝達しました。 連日介入しているヘルパーと看護師で、口腔内の清潔保持に努め、感染を防ぐために、優しくゆっくりとケア(軟毛ブラシ・不織布ガーゼ・保湿剤を用いて)を行いました。ヘルパーには直接指導を実施。訪問診療では早急にオピオイドを導入し、疼痛緩和につながりました。 疼痛コントロールと口腔内感染の予防ができたことで、食事への意欲がまたわき上がってきました。 亡くなる1週間前、「お寿司が食べたい」と希望がありました。ヘルパーが出前を取り、まずは見た目を楽しんだ後、一口大に刻んだお寿司を口に運び、味わうことができました。飲み込みまではいきませんでしたが、食べたいという意欲を再燃できたことが、介入チームにとって、とても大きな喜びとなりました。 多職種でつながることでのパワー このように、病院とは違い、在宅では外部の力を知り、職種ごとの役割を発揮して、協力して、実践していくことがとても重要です。協力することでわれわれの力が存分に発揮できると考えています。 一人では何も生まれませんが、多職種とつながることで何倍ものパワーになり、患者さんへのサポートとなります。 看護師としての知識を持ちながら、周囲への意見に聞く耳を持ち、立場を変えて思い考えることがとても大切だと思います。 ー第5回へ続く 執筆飯塚千晶訪問看護ステーションやごころ管理者新宿食支援研究会訪問看護師 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月2日
2022年8月2日

口腔粘膜疾患と口腔ケア

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、口腔粘膜疾患や衛生面での口腔ケアについてお話しします。 口腔粘膜の疾患 前回では、準備期を「餅つき」に例えて、「噛む」ためには舌、唇、頬や、筋肉が重要な役割を果たすことをお話ししました。 高齢者の口腔内では、歯や歯肉だけでなく、唇、舌、頬の内側、口蓋など、口腔粘膜に疾患が見つかることも多くあります。低栄養やストレス、喫煙、傷などが起因となり、口内炎などの疾患が発症します。 軽度な口内炎でも、放置すると重篤な状態へ進行することもあるので、口腔ケアの際には粘膜の観察も大切です。 義歯もなく、下の歯が上口唇に刺さっていた事例 事例 Jさん、96歳女性、要介護5。難聴、軽度認知症の疑い。常時寝たきりで褥瘡あり。残存歯数20本。部分義歯がゆるいと、内科からの紹介で訪問。 Jさんは、上顎が無歯顎で、義歯もなく、残存歯は、下顎の前歯が4本あるだけでした。発声もなく、噛むことで、下の歯の先端が上口唇や粘膜に刺さり、咬傷ができていました。口腔ケアも不十分で、紅く腫脹した口腔カンジタ症注1の所見もありました。 口腔ケアを指導後、歯科医師が、上の口唇の傷の保護と、噛み合わせを高くするなどの目的でPAP(舌接触補助床、第5回参照)を作製しました。 できあがったPAPを初めて装着した日、顎関節マッサージの後、装着のため頑張って大きく開口したJさんは、「痛いよ!」と、とても大きな声を挙げました。ベッドサイドで様子を見ていた娘さんは、「まあ、おばあちゃんの声が久しぶりに聞けた!」と喜んでいました。 Jさんの口腔内はそれまで、上下の高さに隙間がないので、発声のために舌を動かすスペースもありませんでしたが、PAPにより舌が動かせる隙間ができ、発声や嚥下の改善、唾液誤嚥の減少にもつながりました。その後、家族や介護士などに口腔ケアの手技を伝え、カンジタ症はずいぶん改善しました。 上皮剝離膜、痂皮へのケア 主に終末期にある方では、上皮剝離膜や痂皮(かひ)の付着に注意が必要です。 痂皮とは、痰やプラーク(歯垢)などが固まった状態で、口腔粘膜に付着することがあります。誤嚥性肺炎のリスクにもなります。 痂皮が付着した様子 痂皮は、口腔内用の保湿剤をよく塗布し、数分ふやかしてから、さまざまな用具を使用してゆっくり時間をかけて除去します。剝離時に出血を伴うこともあり、口腔ケアシート 注2 で圧迫止血を繰り返しながら、慎重にケアします(非経口摂取患者口腔粘膜処置 注3 )。 口腔内の痂皮を見つけたら、歯科専門職でない方は無理に除去せず、ケアの後に保湿剤を塗布してください。保湿剤の代わりにワセリンを使用する人もいますが、ワセリンは乾燥を防ぐ目的で塗布するものです。汚れを除去する場合には不向きです。 虫歯の鋭縁が舌に大きな傷を作った事例 事例 Kさん、87歳男性、要介護4。施設介護。脳出血後右麻痺、常時寝たきり。 初診時、左下に大きな虫歯があり、舌の側面に潰瘍様の大きな口内炎が見つかりました。食事や発声のたびに、虫歯の鋭縁(欠けて尖った部分)が、舌を深く傷つけていたのです。 Kさんの舌の側面にできた口内炎 すぐに歯科医師が虫歯の鋭縁を削り丸くし、翌週には口内炎が軽快しました。放置していれば、癌化することも十分に考えられる炎症でした。 口腔粘膜傷害時のケア ・赤または白い斑点の口内炎が2週間以上続いている・接触痛(ヒリヒリ、ピリピリ、しみる、灼熱感)が2週間以上続いている・ステロイド使用で口内炎がある・抗がん薬治療で口内炎がある・放射線治療で口内炎がある これらの場合には、研磨剤含有の歯磨剤やアルコール含有の洗口剤を使用せず、またゴシゴシと強い歯磨きをしないように指導し、早急に歯科受診を促します。 おわりに 介護現場で口腔ケアが拒否される理由の一つに、今回お話ししたような粘膜疾患が挙げられることがあります。 懐中電灯などで口腔内の観察をして、粘膜の異常に気づいた場合は、早急に歯科へ情報提供をお願いします。 次回は、コーチングによって、ゴールに近づくことができた症例です。 注1 口腔カンジダ症:低栄養を引き金に、日和見菌のカンジダ・アルビカンスが増殖し、粘膜に紅斑や腫脹などを発症する。義歯清掃を怠ると義歯性口内炎を発症し、義歯が装着できないほど痛みを伴うこともある。低栄養が改善しなければ、薬物治療でも治りにくく、再発しやすい。 注2 口腔ケアシート:口腔内に使用できるウェットシート。口腔ケア時に拭き取り用として使用する。保湿剤とともにCOVID-19飛沫対策として推奨している。 注3 非経口摂取患者口腔粘膜処置(歯科診療報酬):経口摂取が困難な患者に対して口腔衛生状態の改善を目的として、歯科医師またはその指示を受けた歯科衛生士が、口腔清掃用具等を用いて口腔の剝離上皮膜の除去を行った場合に算定できる。月2回まで、1回110点。 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士)記事編集:株式会社メディカ出版

コラム
2022年7月26日
2022年7月26日

ALS患者に必要な情報「実用編」 ~上肢①〜

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、梶浦さんが使ってみてよかった道具や工夫を紹介する、実用編です。ALSはもちろん、ほかの疾患などの方たちの生活にも参考にしてください。 「実用編」でお伝えしたいこと ALS患者が自分らしく生き抜いていくのに、最も必要なものは「情報」です。 徐々に動かなくなる体に対応させて、できることをいかに維持していくかが課題になっていきます。そのためにはさまざまな工夫や道具が必要です。その情報を得るため、多くの人はインターネットで調べることになるのですが、ここに大きな落とし穴があります。 前回のこの連載で書きましたが、ALS患者はたくさんの苦悩を乗り越えながら何年もかけて自分の病気を受け入れていくことになります。 インターネットで調べたら、自分が欲しい情報だけ入ってくるわけではありません。溢れ返るnegativeな情報のなかから、自分が欲しい情報を探し出さないといけません。それは、病気をまだ受容できていない段階の患者にとっては、とてもつらく苦しい作業です。知る必要のない情報や、知るにはまだ早すぎる情報は、ときにはpositiveに生きていこうという気持ちも折りかねません。 私も、最初のころはインターネットを使って、役に立ちそうな情報を探し回っていましたが、欲しい情報にたどり着く前に心が折れて、何度も挫折して、そのうち探さなくなった経験があります。この連載では、そんなnegativeな情報をそぎ落として、positiveで有益な情報のみを伝えたいという思いで書いてきました。 そんななかで、私自身が今まで工夫してきたアイデアや、使ってきてよかった物を「実用編」として、具体的にご紹介していきたいと思います。 ALSと道具とのつきあい ALSは、徐々に全身の筋肉を動かせなくなっていく進行性の神経難病です。初発症状は上肢(40%)や下肢(33%)やのど(25%)にあらわれやすく、文字が書きにくい、箸が持ちにくい、歩きにくい、つまづきやすくなった、声が出しづらい、飲み込みにくくなった、などの症状から始まります1)。その後は、徐々に全身の筋力が同時多発的に低下していきます。 徐々に症状が進んでいき、月単位でできないことが増えていく時期を「進行期」と考えます。症状が進行して体を動かすことができず、人工呼吸器を装着して、基本的にはベッド上で生活する時期を「維持期」と考えます。 特に「進行期」では、いかに工夫して、それまでできていたことを維持していくかが大切になっていきます。介護保険を使い、いろいろな福祉用具のレンタルや購入ができるのですが、それらの多くは病院で作業療法士(OT)さんや理学療法士(PT)さんが紹介してくれます。この連載では、そんな一般的な福祉用具も紹介しつつ、多くの人が教えてもらわないであろう工夫や道具を中心にご紹介したいと思います。 また進行期は、個人差はあるものの、一般的には症状の進行が速く、高価な福祉用具を購入したのに数か月しか使えなかった……なんてこともしばしばあります。「実用編」では、長く使えそうなものや、安価で購入できるものを中心に、初発症状の頻度の高い上肢→下肢→のど、の順番に、お役立ち情報をまとめていきます。 ALSに限らず、他の神経難病や脳卒中の後遺症、脊髄損傷の方など、さまざまな方たちにも応用できる内容も多いと思いますので、参考にしてみてください。 指先の筋力が低下しても使える箸 私も含めて、初発症状が片側上肢の遠位側(指先)の筋力低下から始まり、頭側(腕〜肩にかけて)の筋力低下を徐々に自覚するようになる方が比較的多くいます。遠位側の筋力低下で初めに困るのは、指先の細かい動きができず、箸などが持ちづらいことです。福祉用具で、トングのようにお尻の部分がつながっている箸などがあるので、参考にしてください。 腕を上げにくくなったときの工夫 症状が進行すると、腕を上げて食事を口まで持っていくことが大変になっていきます。そうなってくると食卓の上に台を置いて、その上に食事を乗せて、口と食事までの距離を近くすることで食べやすくなります。 また、肘を食卓に乗せることでも、腕の重さが軽くなります。腕を支えてくれる、momoという福祉用具もあるため参考にしてください。ただ、ALSの進行具合によっては、数か月程度しか使えないこともありますので、注意が必要です。 ポケットで腕の重さを支える このころには、歩行時に腕の重さを支えるのがつらくなってくるのですが、このことを病院で相談したら、骨折した時によく使う、腕を支える三角巾のようなものを紹介されました。ただこの時期のALS患者の多くは、とうていまだ自分がALSであることを受容できていません。多くの人は、自分が病気であることを周囲から隠そうとします。三角巾のような目立つものを着ける気にはなれないのが正直なところだと思います。 なので、私はポケットが中央でつながっている服やポケットが深い上着を着て、ポケットの中に手を入れて腕を支えていました。 座った状態で腕を支える この段階で、とても役に立ったのがニトリのこのビーズクッションです。 これは、座った状態で腕が上げづらく、スマートフォンが使いにくかったので購入したのですが、座って膝の上に置いたときのクッションの角度が絶妙で、腕を乗せて安楽な姿勢をとりながらスマートフォンを操作できるので、かなり便利でした。 まったく腕が上がらなくなりスマートフォンを持てなくなっても、クッションの上に百円ショップなどで売っている滑り止めシートを貼って、その上にスマートフォンやタブレットを置いて使えます。 ちなみに私は、いろいろな素材の同じものを5個も買ってしまいました。クッションの中のビーズを出し入れできるので、別売りの補充用ビーズでボリュームを調整できます。ぜひ参考にしてみてください。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:有限会社ウインド     テクノツール株式会社     株式会社ニトリホールディングス 【参考】1)日本ALS協会.初期症状と診断.https://alsjapan.org/care-early_symptom/

特集 会員限定
2022年7月26日
2022年7月26日

【セミナーレポート】訪問看護の診療報酬改定ポイント~押さえておきたい変更点のポイント~

2022年4月20日に開催した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー『訪問看護の診療報酬改定ポイント』。セミナーレポート第3回となる今回は、訪問看護関係者が押さえておきたい変更ポイントをまとめます。※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】酒井 麻由美さん株式会社リンクアップラボ代表取締役。医業経営コンサルタント。急性期病院の医事課に勤務した後、2002年から医療や介護領域のコンサルタントとして活動。2018年には独立、自身の会社を設立する。「月刊保険診療」(医学通信社)、「看護管理」(医学書院)、「月刊WAM」(福祉医療機構)など医業・介護経営雑誌に多数寄稿。 目次▶ 「専門性の高い看護師」への期待と評価 ・同行訪問の条件追加 ・専門管理加算の新設 ・医師の手順書加算の新設▶ より合理的な算定を目指すための改定 ・複数名による訪問についての見直し ・情報提供にかかる条件変更 ・ターミナル療養費の条件変更 ・退院支援指導加算の見直し ・遠隔死亡診断補助加算の新設▶ 届出内容に変更が生じた場合に必要な対応▶ 訪問看護指示書の様式 ・リハビリテーション欄変更▶オンライン対応による業務の効率化・合理化を推進 ・カンファレンスの条件変更 ・在宅管理の評価見直し ・入退院支援加算1の算定要件の変更 --> ▶ 「専門性の高い看護師」への期待と評価 ・同行訪問の条件追加 訪問看護ステーションの看護師が訪問する際、専門性の高い看護師が同行すると、追加で点数を算定できます。これまでは「専門性の高い看護師=国または医療関係団体等が主催する褥瘡ケアに係る専門の研修を600時間以上受けた者」と定義されていましたが、今回の改定では「創傷管理関連の特定行為研修(特定行為に係る看護師の研修制度の創傷管理関連の区分の研修)を受けた者」という条件も追加されました。 ・専門管理加算の新設 緩和ケア・褥瘡ケアまたは人工肛門ケアおよび人工膀胱ケアに係る専門の研修を受けた看護師が単独で計画的管理を行った際の評価が新設されました。「専門管理加算」といい、月1回2,500円を算定できます。特定行為研修を修了した看護師も対象になりますが、その場合は医師が訪問指示書と併せて手順書を発行する必要があります。すなわち、特定行為研修を修了した看護師の訪問に専門管理加算を算定できるのは、手順書加算を算定できる利用者を診たときのみです。なお、専門管理加算を算定する月には、専門性の高い看護師が必ず1回以上訪問しなければなりません。また、ひとりの利用者に対して専門管理加算を算定できるのは月1回のみ。複数名の専門の高い看護師が別々に訪問した場合も、算定は1回だけです。 ・医師の手順書加算の新設 医師や歯科医師が、看護師の診療補助を目的に手順書(文書または電磁的記録)を発行した場合、6ヶ月に1回(手順書の有効期限が最大6ヶ月であるため)、150点の手順書加算の算定が認められました。この手順書加算が算定されないと、特定行為研修を修了した看護師の専門管理加算が算定できないので要注意です。 ▶ より合理的な算定を目指すための改定 ・複数名による訪問についての見直し 別表7や別表8に該当する方、特別訪問看護指示書に係る指定訪問看護を受けている方、暴力行為が見られる方などの訪問では「複数名訪問看護加算」を算定できますが、その同行者の定義が明確になりました。「看護補助者」の記載が「その他職員」に変わり、看護師、准看護師、看護補助者(事務職員等を含む)がこれに含まれます。ただし、職種によって訪問回数に上限があります。看護師やPT・OT・ST、准看護師は週1回、看護補助者は週3日です。なお、これまで看護補助者は訪問看護事業所で雇用されていない人員でも構いませんでしたが、秘密保持や安全の観点から事前に研修を行っておくことは重要でしょう。 ・情報提供にかかる条件変更 訪問看護情報提供療養費1には、情報提供先に指定特定相談支援事業者と指定障害児童支援事業者が追加され、算定対象の年齢は15歳未満の小児が18歳未満の児童に拡大されました。訪問看護情報提供療養費2では、情報提供先に高等学校が追加され、算定対象の年齢はすべての条件において15歳未満から18歳未満に引き上げられています。 ・ターミナル療養費の条件変更 利用者が退院翌日に亡くなった場合、退院日は退院支援指導加算を算定するため、その日の訪問は訪問看護ターミナル療養費の算定基準となる2回にカウントできませんでした。今回の改定では、退院支援指導加算の対象日もカウントが可能になり、訪問看護ターミナル療養費を算定しやすくなっています。 ・退院支援指導加算の見直し 長時間にわたる療養上必要な指導を行ったときは、退院支援指導加算を8,400円算定していいという要件が加わりました。 ・遠隔死亡診断補助加算の新設 遠隔死亡診断を行う際、従来は看護師のサポートへの評価は行われていませんでしたが、遠隔死亡診断加算として1,500円を算定できるようになりました。ただし、厚生労働大臣が定める地域に居住する利用者であること、厚生労働省「在宅看取りに関する研修事業」および「ICTを活用した在宅看取りに関する研修推進事業」により実施されている研修を受けた看護師が配置されていることという条件を満たした場合のみになります。 ▶ 届出内容に変更が生じた場合に必要な対応 従来は、届出内容に変更があって当該届出基準を満たさなくなった、もしくは当該届出基準の届出区分が変更となった場合は、変更の届出を行うことが義務づけられていました。今回の改定では、「機能強化型訪問看護療養費に係る届出」に記載した看護職員数等について、当該届出基準に影響がない変動なら、変更の届出は不要となっています。なお、「専門管理加算に係る届出」に記載した専門の研修を受けた看護師が退職し、同様の研修を受けた看護師を新たに雇用した場合は、算定要件に影響するため変更の届出が必要です。 ▶ 訪問看護指示書の様式 訪問看護指示書内の「留意事項及び指示事項」Ⅱの1記載が変更になりましたが、2022年3月31日以前に交付した分は、変更後の様式による再発行は不要です。 ・リハビリテーション欄変更 訪問看護指示書のリハビリの欄について、PT・OT・STの誰が行くのか、また1日あたり何分、週何回行くのかの指示が必要になりました。PT・OT・STの訪問回数が決まったことにより、看護師の代わりにPT・OT・STが訪問するのもNGに。指示書と異なる訪問を行う場合は再発行が必要です。 ▶ オンライン対応による業務の効率化・合理化を推進 ・カンファレンスの条件変更 医療従事者等によって行われるカンファレンスについて、参加者全員のオンライン参加が可能になりました。例えば退院後カンファレンスもオンラインのみで完結します。 ・在宅管理の評価の見直し 在宅時医学総合管理料(施設入居時等医学管理料)について、これまでは月の訪問回数が2回または1回の2種類で管理料を定めていましたが、今回の改定から「月2回の訪問のうち1回はオンラインで管理」という種類が加わり、点数が新設されました。 ・入退院支援加算1の算定要件の変更 100床以上を有する地域包括ケア病棟は入院支援加算1の算定が必須となり、連携する医療機関や介護施設など、訪問看護ステーションを含む25ヶ所以上の職員と、年3回以上の面会が必要になりました。なお、この面会はオンラインでOK。つまり、病院にとってオンライン対応ができない訪問看護ステーションは連携しにくいということです。オンライン設備の整備・活用は、今後必須になるといっても過言ではないでしょう。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年7月26日
2022年7月26日

在宅訪問管理栄養士が支える地域の栄養

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第3回は、管理栄養士の稲山未来さんから、在宅訪問管理栄養士の活動を紹介します。 単独で在宅訪問する管理栄養士の仕事 皆さんは在宅の患者さん・利用者さんの栄養課題に気づいたとき、また食や栄養について相談を受けたとき、どのように対応していますか? 訪問看護事業所における食事・栄養支援状況の調査1)によると、回答が得られた事業所のうち、「利用者から食事・栄養相談を受けたことがある」と答えた事業所は100%、その相談に「その場で即答できる」としたのは約30%、即答できない場合の対処法としては、「同僚看護師に相談」「インターネットで検索」が上位を占め、「管理栄養士に相談」と返答した事業所はわずか18%でした。 管理栄養士としては少し寂しい結果ですが、この結果は、管理栄養士が訪問看護事業所と連携することで、いっそう利用者さんに貢献できることを示唆しているように感じます。 訪問看護師のみなさんには、「訪問管理栄養士に相談する、そして依頼をつなぐ」という方法があることを、ぜひ覚えておいていただければ嬉しいです。 在宅訪問栄養食事指導 在宅訪問栄養食事指導とは、在宅に訪問し、利用者の栄養食事指導を行うサービスのことです。利用者の状況によって、医療保険または介護保険(介護保険では居宅療養管理指導)で支援を行うことができます。 対象となるのは、栄養学的な課題をかかえている人です。糖尿病や腎臓病などの慢性疾患に対して管理が必要な人、低栄養状態、摂食嚥下障害の人が挙げられます。 どのように介入が始まるか 在宅訪問栄養食事指導の介入依頼は、居宅介護事業所のケアマネジャーからの場合が多いですが、訪問看護師から依頼されることもあります。私は歯科医院に勤務しているので、所属先の歯科医師から依頼を受けることもあります。 管理栄養士が行う栄養指導については、療養上の管理を行う主治医から指示を受けるルールです。ですから、依頼があれば、まずは主治医に栄養介入の必要性があるかを確認し、指示栄養量や病歴などの情報を得てから介入がスタートします。 具体的にどんな介入をしているの? 多く受ける依頼は、体重減少傾向の高齢者に対して栄養強化をしてほしいという内容です。補助食品の選定、また家族やヘルパーへの買物・調理指導、献立の提案など、その人の課題や生活環境に合わせた支援を行います。 また、歯科医師からは、摂食嚥下障害がある人への嚥下調整食指導の依頼が多いです。嚥下調整食の指導では、調理を担当される人に、適切な嚥下調整食の調理ポイントをお伝えします。 これら以外にも、糖尿病や腎臓病、脂質異常症など、対象となる疾患は多岐にわたります。共通していえることは、いつまでも食を楽しむための環境調整を行っているという点です。 家族への嚥下調整食指導の様子(左側のテーブル手前に利用者さんが在席中) 嚥下機能確認のため嚥下音の確認 管理栄養士介入のメリットって何? 管理栄養士の介入によるいちばんのメリットは、利用者の栄養状態が改善することによるQOL向上です。実際に多くの事例で栄養状態が改善し、体重が増加するなどの効果が出ています。 また、それだけではなく、関連職種にとっても良い効果があります。 前述したように訪問看護師からは食事・栄養相談を受ける機会が多いですが、訪問時間は限られていますよね。特に在宅高齢者においては栄養課題がさまざま、解決を妨げる障害もさまざまで、対応には想定以上に時間がかかってしまうものです。食や栄養の課題には管理栄養士の手を借りることで、看護師は看護ケアに専念できるのではないでしょうか。 たとえば嚥下調整食の指導などに関しては、管理栄養士であれば、家族やヘルパーの調理時に同席して、調理実演を行うことができるので、より効率的かつ的確に指導を行うことが可能です。 訪問看護師との連携例 あるとき私は、歯科医師から、進行性難病で摂食嚥下障害を持つ人への介入を依頼されました。 その人は、摂食嚥下障害のため、経鼻経管栄養で栄養補給を行っていましたが、歯科医師の介入で摂食嚥下機能が改善してきていました。歯科医師から、一日1回の経口摂取を始めましょうと指示が出たことにより、まずは昼食の提供が始まりました。 ヘルパーが作り置きした料理を、訪問看護師が見守るもとで、本人が自己摂取します。経口摂取開始当初は刻み食を召し上がっていましたが、やがて咀嚼機能が改善し、ペースの配慮さえすれば常食を摂取できるようになりました。 ここで課題になってくるのは、どのくらいの量を食べてよいのかということです。経口摂取は昼食のみの一日1食のため、経鼻経管栄養も継続中です。 管理栄養士は主治医と連携をとり、低栄養傾向であるその方に対しては、徐々に体重増加を目指せるような目標エネルギー量を設定し、栄養剤で不足する分を経口から摂取する方針となりました。経口での摂取エネルギー量は一食あたり400~500kcalを目安に、それ以上食べられるようになったら、経管栄養剤を減量するという対応です。 その方針を、本人やご家族、訪問看護師にも伝えます。管理栄養士は、食事時間に訪問看護師とともに同席し、ご自身のふだんの食器を使って、400~500kcalの食事がどの程度の量なのかをお伝えしました。いつも同じ食器に同じくらいの量を盛り付けることで、目標エネルギー量に均一化できます。 看護師との連携により、経口摂取による目標エネルギー量を安定して充足できたため、ご利用者様の体重は徐々に増加し、栄養状態も改善に向かいました。 ある日の昼食 新宿食支援研究会から学ぶ多職種連携 多職種連携において大切なことは、チームメンバーの仕事と役割を知ることだと考えています。 新宿食支援研究会には、食支援にかかわる人が、一般・専門職問わず多く在籍しています。同一職種が集まり専門性を高めあうスタディグループもあれば、多職種でお互いの事例相談を行うグループもあります。 意見交換により他の職種が抱える課題を知ることは、自分の専門性を生かすポイントを見つけるきっかけにもなります。そして自分自身にとっては、困ったときに誰に何を相談すべきなのかが明確になるので、より円滑なチーム連携につながります。 どのように管理栄養士と連携するのか 在宅訪問管理栄養士は地域によってはまだまだ少なく、「連携をしようと思ってもどこにいるのかわらない」という声を頂くことがあります。そんな場合は、活動地域の都道府県栄養士会に問い合わせてみてください。都道府県栄養士会は訪問管理栄養士の情報を多く持っているので、訪問可能な管理栄養士を探すことができます。 訪問看護師と管理栄養士の連携はまだまだ少ないですが、よりよい連携が増えることを期待したいですね! ー第4回へ続く 執筆稲山未来(管理栄養士)ふれあい歯科ごとう所属・新宿食支援研究会 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)東本恭幸ほか.在宅医療における食事・栄養支援の現状と課題:訪問看護事業所への質問用紙調査から. 『日本在宅医療連合学会誌』1(1),2019,22-30.

特集
2022年7月26日
2022年7月26日

[4]知っておきたい、結婚式の席に同行するときのマナーや事前準備

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての連載です。今回は、利用者さんが出席される結婚式に同行するときのマナーや事前準備について解説します。付き添い看護のプロにもお話を伺っていますので、参考になさってください。 大切な日だからこそ利用者さんに「恥をかかせない」看護を 訪問看護を担当する利用者さんから「結婚式に出席するため同行してほしい」と依頼された経験はあるでしょうか? このような依頼があったら、頼りにしていただけたことがうれしい反面、慣れていないために不安な気持ちになるかもしれません。 今回は、結婚式などのお祝いの日に、日頃から担当している訪問看護師として利用者さんに同行する際のマナーや事前準備のポイントを考えます。 某看護雑誌の企画で、看護部長のみなさまのインタビュー記事を連載したことがあります。そのときのある看護部長のコメントが大変印象的でした。「患者さんに恥をかかせない。それが看護よ」この言葉は、特別な行事に参加する利用者さんをサポートする訪問看護師のみなさまにとってもキーワードになるのではないでしょうか。 付き添い看護のプロ、前田和哉さんにお話を伺う オーダーメイドの付き添い看護サービス「かなえるナース」を立ち上げられた株式会社ハレ取締役代表の前田和哉さんに伺ったお話をご紹介します。同行する際のマナーから、事前に準備しておくこと、確認しておくことなど、知っておきたいポイントを教えていただきました。 ― 結婚式に出席する方に同行する場合、服装はどのようにされていますか? [前田さん]礼服にしています。ラフな平服で同行したケースで、両家対面の際に、同行した側の方たちではなく、相手方のご家族が看護師の服装について難色を示した、という話を聞きまして。依頼者のご迷惑にならないよう、そして式に礼意を表すためにも基本的に礼服を着用するようになりました。 ― 服装は、礼服か礼服に準じたものが適切と考えたほうがよいですね。必要物品を入れるバッグなどの持ち物も、その場にマッチした外見かどうか、事業所内で確認しておくとよいかもしれませんね。できるだけ物々しくならないように配慮することも必要そうです。同行する対象の方の病状によって持参する物品は違ってくると思いますが、マナーの観点から現場で「持参すればよかった」と思われた物品はありますか? [前田さん]はい。まず思い出すのは、粘着テープでできたクリーナーです。依頼者である男性が着用された礼服にフケが目立ったときがありまして。髪に寝癖がついたまま、といったこともあり、ドライシャンプーなどでさっと保清して差し上げるなどもよいと思い、準備したりもします。 それから、「替え用のマスク」。感極まって、涙を流されてマスクが濡れてしまったためです。 他は「ストロー」でしょうか。水分摂取をするためにご自宅では吸い飲みを使っているとしても、祝宴の場ですからストローのほうがよいようです。会場の方にご準備をお願いすることもよいと思います。ただ、持参していたほうがさっと使えてよいですね。 在宅療養では、自然にそろっている何気ない用品がありませんから、その点を意識して持参物品をそろえるといいでしょうね。 ― なるほど。確かに、と思うことばかりです。式次第などスケジュールへの配慮にはどのようなことがあるでしょうか。 [前田さん]何といっても記念写真の撮影への配慮は欠かせません。みなで記念写真などを撮影するタイミングに、トイレに行っていたとか、別室で何かしら処置をする必要ができたなどで、写れなかったら大変残念です。また、例え写真に入れたとしても、そのときに疲れ果てた状態で、疲れた表情のまま写ってしまわないように、と考えます。いつごろ何をどう対応するべきか、と考えながら注力します。 ― 大事な点ですね。ご本人は、写真にはよい表情で写りたいでしょうし、ご家族や縁者の方たちもそれを望んでいると思いますし。式には最初から最後まで出席する方が多いのでしょうか。 [前田さん]いえ、そんなことはないです。容態によっては、式の最初から最後まで出席することにこだわらず、乾杯とか、写真撮影とか、要所のみ出席していただくような方向も看護職としてご提案します。 ― どのくらいの時間でお疲れになるとか、望ましい姿勢やお薬を飲むタイミングなど、状況に応じて看護判断を行い、おすすめの方法をご提案できるとよいですね。依頼したご本人やご家族も安心して過ごすことができると思います。 最後に、日ごろ訪問看護をしている方から結婚式の付添いの依頼があり、慣れていない対応のため不安のある方に向けてアドバイスをお願いできますか? [前田さん]特に付き添い看護は難しいことではないです。基本的に病院受診に同行することなどと同じですよ。 ― ありがとうございました。 事前準備も十分に行うことが大切 同行当日までに、主治医とご本人やご家族と打ち合わせ、輸液ポンプや酸素ボンベ、吸引器などを持ち込む必要がある場合は、それらをどのように配置し、使用するかをしっかり検討し、結論を出します。結論は、ご本人やご家族と共有するだけでなく、会場の担当者とも必要な部分のみ共有しておくとよいでしょう。 また、会場までの交通や会場の下見も必要です。車椅子で利用できるエレベーターがあるかなどバリアフリーに関する情報も調べておきます。会場の担当者とは、容態が変化したときに使用できる別室があるかどうか、横になったほうがよいときの対応方法なども打ち合わせておきます。当日、何かあったときにすぐに連携できる体制を整えておくと安心です。 なお、当日の飲食については、こちらの役割をまっとうするために遠慮させていただくことを伝えておくとよいです。 事前準備を十分に行っておけば、当日は、普段どおり、病院受診に同行するときと同じように、観察し判断し、必要な対応をとれるのだと思います。 * 以上、計4回にわたって、マナーにまつわる記事を連載いたしました。参考になる点がありましたら幸いです。 わが国では1992年に訪問看護ステーション制度が発足し、看護職の所長が誕生して30年たちました。今後も、訪問看護時のマナーを継続的に話題にしていくことが、訪問看護領域のさらなる成熟につながるように思います。 ワンポイントメモ●同行に訪問看護指示書は必要?今回ご紹介したような結婚式への同行は保険外対応として行います。そのため訪問看護指示書は必須ではありません。ただし、利用者さんの状態によっては、出先の状況に応じて医師の指示に基づく医療行為が必要であるなど、訪問看護指示書が重要となるケースも少なくないと思います。主治医と利用者さん、ご家族と事前の打ち合わせする際に、訪問看護指示書の必要性について確認しておくとよいでしょう。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

特集
2022年7月19日
2022年7月19日

熱中症を防ぐ! 新しい生活様式での熱中症予防と経口補水液の作りかた

暑い夏がやってきました。この時期、利用者の体調とともに気を使うのが、熱中症にかからないための対策です。この記事では、2022年7月時点の情報を基に、厚生労働省が発表している「新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた熱中症予防のポイント」に基づく熱中症の予防、そして経口補水液の作りかたについて紹介します。 新しい生活様式の中での脱水症予防 新型コロナウイルスの流行によりマスク着用をはじめとした新しい生活様式が一般的になりました。ただ、マスクをするといくらかの息苦しさを感じ、かえって熱中症になってしまうのでは、と危惧する利用者もいると思います。 そこで、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた熱中症予防のポイント」を基に、コロナ禍での脱水症予防について解説します。 マスクの着用 高温多湿の環境下でマスクをすると、熱中症となるリスクがあります。そのため、屋外にいるときでほかの人と2メートル以上の間隔をあけられれば、マスクを外すよう利用者に説明しましょう。また、マスクを着用するときは、作業や運動を避けた方が良いといえます。 マスクを着用して外へ出るときも、気温の高い日や暑い時間帯は避け、なるべく涼しい服装をすることを利用者にすすめるのも大切です。 エアコンの使用 暑いときはエアコンの使用が効果的です。しかし、家庭用のエアコンだと換気の機能がついていないものがほとんどです。新型コロナウイルスなどの予防のため、定期的に換気しつつ、換気時に室温が上がらないよう注意しましょう。そのために、室温計を設置するのがおすすめです。換気中に室温が30度以上となるようであれば、そこで換気をやめエアコンの冷気を室内で循環させるよう、利用者に説明しましょう。 涼しい場所への移動 利用者が外出時に厳しい暑さを感じ、喫茶店、カフェなどといった場所で体を休ませようとするケースがあると思います。ただ、コロナ禍では店内の人数制限が設けられ入店できない場合もあるかもしれません。そうしたときは、日陰、木陰、風通しの良い場所に体を移すだけでも効果があることを利用者に説明しましょう。 日頃の健康管理 朝食前、夕食前などというように、定時の体温測定を利用者にすすめましょう。新型コロナウイルスへの罹患を察知できる可能性が高くなるだけでなく、脱水症予防・対策にも日常の体温測定は効果的です。熱中症となった場合は、体温が高くなることがあるためです。 経口補水液の作りかた 熱中症の予防や、万が一、熱中症となってしまったときは通常の水ではなく経口補水液での水分摂取が必要です。発汗によってナトリウム(塩分)が体から不足し、普通の水を飲むだけでは体がナトリウム濃度を保とうとしてすぐに水分を排出してしまうからです。よって、塩分を含んだ経口補水液が必要となります。 NsPaceの「お役立ちツール」内に経口補水液の作りかたのPDFがあり、ダウンロード可能です。ぜひ、こちらをご覧になって利用者さんへのご説明の際にお役立てください。 ※屋内や夜間でも熱中症になりやすい高齢者の脱水・熱中症について「暑い時期は要注意!高齢者の脱水症予防」でも解説しているので、ぜひご参照ください。 【参考】〇厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた熱中症予防のポイントをまとめました」2022/07/12閲覧https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_coronanettyuu.html 記事編集:NsPace編集部

特集 会員限定
2022年7月19日
2022年7月19日

【セミナーレポート】訪問看護の診療報酬改定ポイント~これからの訪問看護ステーションに求められること~

2022年4月20日に開催したオンラインセミナー『訪問看護の診療報酬改定ポイント』。セミナーレポート第2回となる今回は、改定によって「これからの訪問看護ステーションには、なにが求められるのか」についてお届けします。※約60分間のセミナーのから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】酒井 麻由美さん株式会社リンクアップラボ代表取締役。医業経営コンサルタント。急性期病院の医事課に勤務した後、2002年から医療や介護領域のコンサルタントとして活動。2018年には独立、自身の会社を設立する。「月刊保険診療」(医学通信社)、「看護管理」(医学書院)、「月刊WAM」(福祉医療機構)など医業・介護経営雑誌に多数寄稿。 目次▶ より高まる「機能強化型」訪問看護ステーションへの期待 ・地域医療機関や住民への情報提供 ・地域の訪問看護ステーションへの研修の実施 ・「専門の研修を受けた看護師」の配置は今後2年間で検討を▶ これからは事業継続計画(BCP)の策定が必須に ・複数の訪問看護ステーションによる、24時間対応体制の評価拡大 --> ▶ より高まる「機能強化型」訪問看護ステーションへの期待 2024年以降は病院の病床数を減らし、その分訪問看護をもっと活用していこうという流れがあるなかで、今回の診療報酬改定では「機能強化型1」「機能強化型2」にあたる訪問看護ステーションの単価が増額されました。その代わりに、以下のとおり新たに求められることも増えています。 ・地域医療機関や住民への情報提供 訪問看護の利用拡大に向けた課題のひとつに、「訪問看護がどういうときに使えるか、どんなメリットがあるか」が十分に理解されていない現状が挙げられます。病院の医師や看護師を含め、「訪問看護は、点滴など何らかの処置が自宅で必要になったときに利用するもの」だと思っている方も多いですが、実際はそうではありませんよね。みなさんご存じのとおり、病状を観察したり、患者さんの家族の相談に応じたりといった対応も行っています。そうした「訪問看護に関する正しい情報を、地域の医療機関や住民に発信する」ことが、機能強化型1、機能強化型2の訪問看護ステーションに新たに求められます。 ・地域の訪問看護ステーションへの研修の実施 訪問看護ステーションのなかでも、機能強化型1、2に分類される施設には多くの看護師が在籍していて、看取りの対応や重症の患者さんの看護経験も豊富な傾向にあります。そこで、機能強化型1、2の訪問看護ステーションで培われた「質の高いノウハウを、地域のそのほかの訪問看護ステーションに研修で伝える」ことが義務づけられました。これにより、各地域の訪問看護の品質を底上げすることが狙いです。 この「研修」の内容や期間については、現在のところ明確な基準は特にありません。訪問看護の品質向上やより幅広い利用につながるものであればOKとされています。例えば、地域の訪問看護ステーションと連携して事業継続計画(BCP)を策定し、その内容を研修や訓練という形で共有する。または、地域の医療従事者の方々に訪問看護に同行してもらい、実際の現場の様子を見せながら研修を行うといったことが挙げられるでしょう。 なお、研修の形式はオンラインでも可能とされています。ご自身の事業所の状況に合う研修の形を考えてみてください。 ・「専門の研修を受けた看護師」の配置は今後2年間で検討を 今回の改定で注目したいポイントのひとつが、すべての機能強化型訪問看護ステーションに「在宅看護に係る専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましい」という記載があることです。「在宅看護に係る専門の研修」とは、具体的には以下のとおりです。 ・日本看護協会の認定看護師教育課程・日本看護協会が認定している看護系大学院の専門看護師教育課程・日本精神科看護協会の精神科認定看護師教育課程・特定行為に係る看護師の研修制度により、厚生労働大臣が指定する指定研修機関において行われる研修 なお、2022年の改定では「配置されていることが『望ましい』」という記載にとどまっていますが、2024年にはおそらく配置が『必須』になると予想されます。次回の改定の際に焦ることのないように、今後2年間のうちに専門の研修を受けた看護師の配置を実現できるよう対応を進めておくことをおすすめします。 ▶ これからは事業継続計画(BCP)の策定が必須に もうひとつ今回の改定で義務づけられたのが、業務継続に向けた取り組みの強化、つまりはBCPの策定です。感染症や非常災害が発生した際も利用者に訪問看護の提供を継続的に実施すること、もしくは非常時の体制で早期にサービス提供の再開を図ることを目指します。なお、BCPの策定は2021年の介護報酬改定でも義務づけられています。その際に対応している場合は、同じ内容で問題ないでしょう。 ・複数の訪問看護ステーションによる、24時間対応体制の評価拡大 BCPの策定にあたって知っておきたいのが、24時間対応体制の構築における複数の訪問看護ステーションの連携ルールが変わったことです。これまでも、2つの訪問看護ステーションが連携して24時間対応をした場合であっても、「24時間対応体制加算」の算定は認められていました。ただし、特別地域もしくは医療資源が少ない地域に所在する訪問看護ステーションのみという条件がついていたのです。 しかし今回の改定では、前述の条件に加えて、自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワークに参画している訪問看護ステーションでも算定が認められることになりました。「自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワーク」とは、具体的には以下の3つを指します。 ・都道府県、市町村または医療関係団体等が主催する事業・自然災害や感染症等の発生により業務継続が困難な事態を想定して整備された事業・都道府県、市町村または医療関係団体等が当該事業の調整等を行う事務局を設置し、当該事業に参画する訪問看護ステーション等の連絡先を管理している なお、医療資源が少ない地域の訪問看護ステーションと、(特別地域もしくは医療資源が少ない地域にある)地域の相互支援ネットワークに参画している訪問看護ステーションとが連携した場合も、24時間対応体制加算の算定が可能です。 次回は、「押さえておきたい変更点のポイント」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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