2022年5月17日
「昨夜、倒れて一時意識を失っていた」場合 【訪問看護のアセスメント】
高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第10回は、「昨夜、倒れて一時意識を失っていた」と家族から知らせがあった患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか?
事例
86歳女性。 家族から「昨日の夜、トイレに行こうとしたら崩れ落ちるように倒れて、一時、意識がなくなったように見えました。でも、すぐに戻ったので様子をみていました」と言われました。 あなたはどう考えますか?
アセスメントの方向性
一過性かつ短時間の意識障害であり、脳への血液供給が急に減少して起こる失神状態であると思われます。
失神は原因がわからないものも多いですが、不整脈や心血管の障害で循環に問題がある場合や、てんかんの場合は要注意です。
てんかんとは、大脳の神経細胞が発作性に興奮し、異常に大きな電気信号が起こることで、痙攣や一過性の意識障害を起こすことをいいます。高齢者では、脳血管障害に伴って、てんかん発作を起こす、または脳血管障害後に起こしやすくなることがあります。このまま様子をみてよいかを判断するために、多側面からのアセスメントをしていきます。
ここに注目!
● 一過性かつ短時間の意識障害であり失神と考えられるが、てんかん発作の可能性もある。● 失神の原因は何か?
主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと)
・倒れたときの状況(倒れた場所、時刻、倒れたときの環境、飲酒や入浴、体位の変化などの直前の行動、意識復活までにかかった時間、過去にもあったか、など)・倒れる前の前駆症状(冷汗、顔面蒼白、嘔気、欠伸、目のかすみや見えかたの変化、動悸、頻脈の自覚、など)・倒れた後の精神状態や身体状況(痙攣、意識レベルの低下や混濁、尿失禁)・倒れた理由について(心血管系障害の既往、脳神経系疾患の既往、服用している薬剤、など)・ADLへの影響
客観的情報の収集
脈拍測定
脈拍を測定することで、心臓の拍出量や不整脈の有無を確認することができます。不整脈(房室ブロックによる徐脈、心室頻拍や心房細動からの頻脈)により、心原性の失神を起こした可能性があります。
方法は、撓骨動脈を押さえて、数と性状を測定します。不整がある場合や心臓疾患の既往がある場合は、1分間測定することが原則です。自動血圧計やパルスオキシメーターの脈拍で代用することは避けてください。
現在は落ち着いている可能性があるので、発作時に測定できるようにご家族に脈拍測定の方法を指導するとよいでしょう。
血圧測定
立位になった際に失神している場合は、起立性の低血圧の可能性があります。仰臥位時・座位時・立位時で血圧を測定し、比較してください。
立位時に20mmHg以上低下するようなら要注意です。低血圧のために失神する場合もあります。
降圧薬を服用している際には、コントロール不良で低血圧や徐脈になっていないかを確認します。
てんかん発作の確認
てんかん発作は、昼夜を問わず、体位に無関係に起こり、全身の硬直や震えがみられることがあります(これらがない場合もあります)。顔色の変化や前駆症状がなく、意識の回復が遅延することが多く、尿失禁を伴うことがあります。このような状態であれば、原因が脳にあると判断し、報告・対処してください。
報告のポイント
・一過性の意識消失を起こしたこと、意識消失のきっかけや前駆症状、意識が戻るまでの時間・現在のバイタルサインの異常・てんかん発作の可能性・心原性の不整脈による意識消失の可能性
執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版