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2022年4月5日
2022年4月5日

在宅復帰後の摂食嚥下リハビリテーション②

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、自宅への退院後、胃瘻栄養を離脱し、常食摂取が可能になった事例を紹介します。 経管栄養の離脱を目指す 患者さんが病院を退院して自宅や施設に戻られる際、経管栄養管理下での退院となる場合があります。 退院後すぐには経口摂取が困難で、胃瘻栄養を選択した場合でも、諦めず、無理のない範囲でのリハビリテーションが必要と考えます。 義歯の方の場合は、義歯装着と、発声練習や舌のストレッチなどのリハビリを日々継続すると、どこにどのような障害があるのか問題が整理されてくることもあります。 胃瘻から早く元の食生活に戻りたい 事例 Eさん、76歳男性。要介護5、左脳梗塞後に誤嚥性肺炎、胃瘻造設、前立腺肥大と心筋梗塞の既往あり。 Eさんは脳梗塞のため入院。退院し自宅へ戻った時点では胃瘻管理でした。自宅は、数人の従業員を抱える自営業の、店舗兼住宅です。4年前に心筋梗塞の既往があり、尿道カテーテルも留置しています。 妻は訪問看護師から指導を受け、胃瘻と尿道カテーテルのケアを手際良く行っています。しかし退院後、家族と従業員とが一緒に囲んでいた賑やかな食卓風景はなくなりました。食べられないEさんに食べているところを見せたくないと、お孫さんたちは隠れるように食事をしたからです。 この時点で、Eさんとご家族の「早く元の食生活に戻りたい」というゴールは、はっきりしていました。 いつの間にかバナナを完食! Eさんは入院中、義歯を装着していなかったということです。初回の嚥下評価で、言葉の巧緻性をみるオーラルディアドコキネシス(ODK)注1は、1秒間に「パ」が1回弱でした。しかも、「パ」が「ファ」に聞こえ、発声するたびに義歯が外れました。 そこで、基本的な機能的口腔ケアを指導すると、2週間後には笑顔で「お腹が空いた」との発語もあり、義歯装着もしっかりしてきました。 ところが、翌週に事件が起きました。 寝たきりのはずのEさんは、いつの間にかベッドから起き上がり、仏壇のお供えのバナナを1本完食していたのです。本人が白状されたそうで、家族も、連絡をもらった私も、何事もなくてよかったと胸をなでおろしました。義歯装着効果か、室内を歩く程度の距離を自立歩行できていたのにも驚きです。 VFでは経口摂取はまだ無理 今回は幸運にも無事でしたが、2回目もそうとはかぎりません。歯科医の判断で、Eさんは歯学部付属病院の専門外来で放射線嚥下造影検査(VF)注2を受けることになりました。 VFの結果、Eさんの嚥下には、少量の誤嚥と、喉頭蓋谷(こうとうがいこく)に多量の残留が認められました(図)。準備期-咽頭期のリハビリ対応が必要な状態です。とろみ使用の水分摂取は許可されたものの、経口摂取はまだ無理な状況でした。 図 喉頭蓋谷に多量の残留が認められる 1か月半後の再評価 VF後は、従来の口腔ケアに加え、嚥下障害の専門医の指導で、腹筋を鍛える足上げ運動や頭部挙上訓練が加わりました。痰の吐き出しや窒息時に備えるためです。歯科衛生士と訪問看護師が、Eさんにリハビリを行うことになりました。 1か月半後、VF再評価を行いました。 再VFでは、試料が喉頭蓋谷に残留することなく食道へと運ばれていき、嚥下機能が改善。専門医からも直接訓練(食物を使う訓練)の許可が出ました。 Eさんは、段階的摂食訓練を開始し、介入から約5か月で、ほぼ入院前の食生活に戻ることができました。 専門医の診断で納得を得る この事例のポイントは、「さあこれからお口の訓練を頑張りましょう!」から、バナナ事件で「おじいちゃんお口から食べられるよ」という方向に一気に傾いてしまいました。たまたま無事でしたが、誤嚥性肺炎の既往がある方なので、経口移行するならそれなりの嚥下評価と裏付けが必要です。ここからの立て直しが必要な事例でした。 バナナを食べている時の目撃者はいませんが、喉に詰まりそうな怖い状況を想像します。今回は早急に専門医の診断を求め、Eさんの訓練続行に、本人、家族、かかりつけ医を含めたチーム全員の、納得を得ることができました。 このことが、要介護5から3へと要介護度改善にもつながりました。 Eさんの食支援介入前後の評価  初診(退院後1か月半)介入後(退院後約5か月)食形態経管経口(常食)ODK(発語)パ1.2回/秒、不明瞭 パ5.4回/秒、会話が可能VF誤嚥あり、喉頭蓋谷残留あり誤嚥なし、喉頭蓋谷残留なし摂食状況レベル  レベル1(嚥下訓練なし)レベル9(三食経口摂取)介護度要介護5要介護3 間接訓練から直接訓練へ移行するポイント 間接訓練から直接訓練に移行する場合は、まず、嚥下評価で直接訓練が可能となることが前提です。そして、嚥下評価に加えて、以下の項目にも注意したいものです。 ・呼吸(SpO2 96%以上)や血圧の医学的安定・食欲がある・咳や痰の喀出、発声ができる・姿勢調整ができる ほか これらは、すべてが揃わなければならないわけではありませんが、なかでも「食欲」は重要です。長期間の経管栄養管理が継続されていると、嚥下評価上では経口摂取が可能でも、食欲を押し殺している人もいます。心理的なサポートが必要となります。 ー第5回へ続く 注1 オーラルディアドコキネシス(ODK):1秒間に「パ」「タ」「カ」をそれぞれ何回発音できるかをカウントする。 注2 嚥下造影検査(VF)造影剤を含む試料を使用する放射線下の精密検査で、歯科大学病院や耳鼻科で対応可能。地域の歯科医師会の在宅歯科医療地域連携室、嚥下障害の窓口などに相談するとよいです。 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士)記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年4月5日
2022年4月5日

訪問看護関連の「ここがポイント!」/令和4年度 診療報酬改定・決定版 後編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が確定しました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わるポイントを解説します。(2022年3月15日現在) 【目次】[ポイント1] 専門性の高い訪問看護師の専門的な管理に対する「専門管理加算」の新設 [ポイント2] 同行訪問する専門性の高い看護師に特定行為研修修了看護師が追加[ポイント3] 訪問看護師が特定行為を行う際に医師が「手順書」を交付した場合の「手順書加算」新設[ポイント4] 医療ニーズの高い利用者にメリット-複数名訪問看護加算で看護補助者が同行する場合に看護師等が含まれる[ポイント5] 看取りニーズへの対応-退院日に行ったターミナルケアの指導も加算要件[ポイント6] 訪問看護師がICTを活用して医師の看取り支援を行った場合の「遠隔死亡診断補助加算」新設[ポイント7] 医療ニーズの高い退院患者への長時間の退院支援指導の評価[ポイント8] 理学療法士が行う訪問リハビリテーションの報告が厳密に-訪問看護指示書に実施時間と頻度を明記[ポイント9] 事務手続きの簡素化-難病等の利用者への複数回訪問看護において評価区分の統合 【関連URL】・令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000920430.pdf・令和4年度診療報酬改定についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html 【告示・通知】・厚生労働省令第32号「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準の一部を改正する省令」・保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について・保発0304第3号 令和4年3月4日 「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」・保医発0304第4号 令和4年3月4日 「訪問看護ステーションの基準に係る届出に関する手続きの取扱いについて」・厚生労働省告示第59号「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部を改正する件」 令和4年3月4日 ・厚生労働省告示第60号「訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等の一部を改正する件」 令和4年3月4日 [ポイント1] 専門性の高い訪問看護師の専門的な管理に対する「専門管理加算」の新設  訪問看護ステーションに配置されている専門の研修を受けた「専門性の高い看護師」が訪問看護を行い、利用者の病態に応じた高度なケアおよび計画的な管理を実施した場合の評価として「専門管理加算」が新設され、月1回に限り所定額に2,500円が加算されます。 「専門性の高い看護師」とは、がん看護領域(緩和ケア、がん性疼痛看護、がん化学療法看護、乳がん看護、がん放射線療法看護)の認定看護師とがん看護専門看護師、および皮膚・排泄ケア認定看護師、ならびに特定行為研修を修了した看護師です。特定行為研修を修了した看護師が特定行為を行う場合は、「手順書加算(後述)」を算定する利用者が対象になります。 在宅患者訪問看護・指導料及び同一建物居住者訪問看護・指導料においても同様です。 専門管理加算 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p28より引用 [ポイント2] 同行訪問する専門性の高い看護師に特定行為研修修了看護師が追加 専門性の高い看護師による同行訪問を評価する「訪問看護基本療養費(Ⅰ)(Ⅱ)」の施設基準にある「褥瘡に係る専門の研修」に、「特定行為研修(創傷管理関連)」が追加されました。 国は特定行為研修の推進を強力に進めており、ここでも「特定行為研修を修了した看護師」にインセンティブが与えられた形です。今回の改定では、精神科リエゾンチーム加算、栄養サポートチーム加算、褥瘡ハイリスク患者ケア加算、呼吸ケアチーム加算の要件として履修が必要とされる研修の種類にも特定行為研修が追加されました。 「在宅患者訪問看護・指導料」の3、および「同一建物居住者訪問看護・指導料」の3についても同様です。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p28より引用 [ポイント3] 訪問看護師が特定行為を行う際に医師が「手順書」を交付した場合の「手順書加算」新設 訪問看護師が特定行為を行う際の医師の「手順書」交付に「手順書加算」が新設されました。 訪問看護ステーションの特定行為研修を修了した看護師が「特定行為」を行う際には、保険医療機関の医師が診療に基づいて特定行為の必要性を認めることが前提となります。 特定行為は、下記のように訪問看護において専門の管理を必要とするものに限られます。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p29より引用 [ポイント4] 医療ニーズの高い利用者にメリット-複数名訪問看護加算で看護補助者が同行する場合に看護師等が含まれる 複数名訪問看護加算で看護補助者が同行する場合に、看護師等が同行する場合も含めることになりました。 「複数名訪問看護加算」は、複数名で訪問看護を行う必要がある利用者に対して、同時に複数の看護師等による訪問看護を行った場合に算定できる加算です。「複数の看護師等」が同時に訪問を行う場合と「看護師等と看護補助者」が訪問する場合で、回数制限も算定額も違います。 これまでは看護補助者の同行では、「看護職員が看護補助者と同時に指定訪問看護を行う場合に限る。」とされていました。今回の改定では「看護補助者」が「その他職員(看護師等または看護補助者)」と変わり、看護師等が同行する場合も算定可能になりました。看護師等が複数で同時訪問する必要性の高い医療的ニーズの高い利用者にはメリットになります。 在宅患者訪問看護・指導料の注7及び同一建物居住者訪問看護・指導料の注4に規定する複数名訪問看護・指導加算も同様です。 複数名訪問看護加算の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p25より引用 [ポイント5] 看取りニーズへの対応-退院日に行ったターミナルケアの指導も加算要件 退院日に行ったターミナルケアに係る指導も「訪問看護ターミナルケア療養費」の要件として認められるようになりました。 「訪問看護ターミナルケア療養費」の算定にあたっては、利用者の死亡日とその前14日以内に2回以上の指定訪問看護を実施することとなっています。 これまでは、退院日の訪問は訪問看護基本療養費の算定ができなかったため、利用者が退院日かその翌日に亡くなった場合は、「訪問看護ターミナルケア療養費」は算定できませんでした。しかし、ターミナル期の利用者は退院直後に死亡することも多く退院日に訪問看護師がケアを行うことが多いため、指定訪問看護に「退院支援指導加算の算定に係る療養上必要な指導を含む」と変更されました。 1回を退院支援指導加算とする場合には、退院日にターミナルケアに係る療養上必要な指導を行っていることが必要です。 訪問看護ターミナルケア療養費の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p32より引用 [ポイント6] 訪問看護師がICTを活用して医師の看取り支援を行った場合の「遠隔死亡診断補助加算」新設 訪問看護ステーションに配置されている「情報通信機器を用いた在宅での看取りに係る研修」を受けた看護師が主治医の指示に基づいてICTを活用して、医師の死亡診断の補助を行う場合に、「遠隔死亡診断補助加算」として、1,500円が所定額に加算されます。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p34をもとに作成研修を受けた看護師が主治医の指示に基づき、ICTを活用し、医師の死亡診断の補助を行う 遠隔死亡診断補助加算 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p34より引用 [ポイント7] 医療ニーズの高い退院患者への長時間の退院支援指導の評価 退院日に看護師等が長時間にわたる退院支援指導を行った場合、退院支援指導加算として8,400円加算されることになりました。 「退院支援指導加算」は、退院時に訪問看護ステーションの看護師等が、退院する医療機関以外の場で、退院時に療養上必要な指導を行った場合に算定されます。訪問看護管理療養費は、退院日の翌日以降初日の指定訪問看護実施日に6,000円加算されるというものです。今回、医療的ニーズの高い利用者に対しては長時間の退院支援指導を行っている実態を反映した見直しとなりました。 退院支援指導加算の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p31より引用 [ポイント8] 理学療法士が行う訪問リハビリテーションの報告が厳密に-訪問看護指示書に実施時間と頻度を明記 医療的ニーズの高い利用者に対する理学療法士による訪問看護が適切に提供されるように、訪問看護指示書の記載方法が変更になりました。 具体的には、理学療法士等が訪問看護の一環として行う訪問リハビリテーションの「時間」と「実施頻度」を訪問看護指示書に記載することになりました。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p26より引用 [ポイント9] 事務手続きの簡素化-難病等の利用者への複数回訪問看護において評価区分の統合 難病等複数回訪問加算において、同一建物内の利用者の人数に応じた評価区分の加算について、同じ金額の評価区分を統合することになりました。 「難病等複数回訪問加算」は、難病等の利用者に対して必要に応じて1日に2回または3回以上の指定訪問看護を行った場合に算定でき、回数によって算定額が変わります。同一建物居住者に対しては複数回・複数名の訪問看護に対しては減算になるようになっています。今回の見直しにより、事務手続きの簡素化が図られました。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年4月5日
2022年4月5日

妄想・幻覚を訴える場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第6回は、妄想・幻覚を訴える患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代女性。4年前に認知症を発症し、症状が進行している。日ごろから「医師と嫁がグルになって私を毒殺する」「死んだ息子が帰ってくる」などと妄想・幻覚を訴えている。嫁に世話されることを拒否し、日々心安らぐことなく過ごしている。 なぜ患者さんに、幻覚や妄想が起こっているのか? 高齢になると、物や人など、大事な、よりどころの喪失体験が増えます。そして、「喪失するのではないか」という不安も増大します。認知症に伴い判断力が低下し、現実検討能力注1もなくなります。このようなことが重なって、妄想が生じます。 自分を援助してくれる家族を含めた周囲との人間関係や、今後の生活への不安などを背景に出現するため、身近な家族や近所の人などが妄想の対象になることがあります。 妄想が出現しやすい要因は、疑い深い性格的特徴や、不適切な人間関係や環境(援助する人が、患者さんを尊重しておらず無視するなど)があります。 この患者さんが訴える「息子が帰ってくる」などのように、本人の強い願望がそのまま妄想となることもあります。このような場合は、寂しさや不安なども背景にあると考えられます。 BPSDの分類 認知症の進行に伴って出現する、周囲が対応困難な言動をBPSDといいます。認知症の中核症状(記憶障害、認知機能低下など)による生活のしづらさに、その他の要因(疾患や身体状態の悪化、本人の性格特徴、環境の変化、人間関係など)が複合的に関連して出現する症状を指します。 下の表は、国際老年精神医学会が、対処の困難さの観点から分類したBPSDです。 BPSDのなかでも、心理症状である幻覚・妄想は、厄介で対処が難しい症状に分類されています。また不穏や攻撃性の背景に妄想があることもあります。 患者さんをどう理解する? 「嫁が医者とグルになって私を殺そうとしている」ことが現実であれば、こんなに怖いことはありません。自分の身近で生活している嫁と信頼しているはずの医師が、一緒になって自分を殺そうとしているのですから、一刻も早く逃げ去りたいと思うのは当然です。「いつ嫁に殺されるかわからない」という妄想があれば、嫁の援助を断るというのも理解できるでしょう。このような状況下では次のような対応が必要です。 妄想を否定しない 妄想とは「現実にはない事柄を一定期間、他者の説得によっても揺るがない仕方で強く確信する誤った判断ないし観念」2)のことです。現実にありえないことであっても、事実と思い込み、修正不能な思考ですので、他人に否定されても考えが変わることはありません。患者さんにとっては妄想イコール現実であると看護師はすべてを受け入れ、その妄想が起こる心理や、妄想による感情に視点を当てることが必要です。 身体的なアセスメントをする 睡眠や食事がうまくとれていない状態や、身体的な不調は、BPSDを悪化させます。気分が不安定な場合に、身体的なアセスメントと援助も必要です。 孤独感や不安感に寄り添う 「息子が帰ってくる」と話していることから、孤独感や不安感が背景にあると考えられます。患者さんの家族関係などの背景を知ることが援助につながります。そして患者さんに安心感を与えられる援助が必要です。ゆっくりと話を聴き、体に触れ、そばにいる時間を増やします。 また、お嫁さん以外の信頼できる家族の来訪をすすめることも必要です。 妄想の裏にある患者さんの欲求を知るために、日ごろからよく声を掛け、関係性を築いておくことが大切です。 妄想・幻覚への対応 患者さんが妄想を訴えはじめたら、まず、妄想の内容ではなく、妄想によって起こる気持ちや感情を全面的に受け止めることです。患者さんの気持ちに共感し、「今とてもつらい状況なのですね」「怖くて、いてもたってもいられない気持ちなのですね」と受け入れて聞くことです。 その後、患者さんが落ち着いたら現実的な行動をとれるように誘導します。たとえば「窓の外を一緒に眺めてみませんか」「喉が渇きましたね。一緒にお茶をいれに行きましょう」など、場所や行動を変えることで気分(感情)が切り替えられるようにしていきます。 こんな対応はDo not! × 患者さんが訴える妄想を否定する× 「それは妄想だから」と言って、患者さんの訴えを取り合わない× 身体的なアセスメントを怠る 注1 現実検討能力客観的に自分の考えをとらえ、その分析ができる能力。自分の考えと自分を取り囲む現実とを照合する力。 執筆茨城県立つくば看護専門学校佐藤圭子 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)国際老年精神医学会.『臨床的な問題』『痴呆の行動と心理症状』日本老年精神医学会監訳.東京,アルタ出版,2005,27-49.2)橋本衛.『認知症の妄想』老年期認知症研究会誌.19(1),2012,1-3.

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2022年3月29日
2022年3月29日

[3]身体の死後変化はエンゼルケアの必須知識!

死後のご遺体の変化に驚かれるご家族が少なくありません。ご家族にきちんと説明できるためにも、死後の身体変化に関する情報をしっかりと押さえておきましょう。また、どういった変化が生じるのか把握しておくことで、変化を最小限に抑える対処が可能ですし、さまざまな身体変化に遭遇しても冷静に対応することができます。 亡くなった高齢女性Aさんのご家族から困惑した声音で、担当だった看護師に電話がありました。 「おばあちゃんの口のまわりに灰色の輪がくっきりと浮き出てきたんです。不吉なことなんじゃないかって言う人もいて・・・・・・。一体、何なんでしょう、これ」 Aさんは黄疸が出ていたために、その死後変化として皮膚に変色が起こったのです。黄疸をもたらしているビリルビン色素の酸化亢進などによって時間とともに変色が起こります。毛根部が変色の生じやすい部位で、髪の生え際や眉、ひげ(あるいは口まわり、女性も口周囲にうぶ毛があるため)などに注意が必要です。 Aさんのご家族はそれを知らなかったため驚かれたのですね。看護師は異常事態ではないことを伝え、対処法などを次のように説明し安心していただきます。 「黄疸が出ていた方は、お口のまわりがくすんで輪のように見えることもあります。自然な変化ですから、ご心配はいりません。気になるようでしたら、その部分をファンデーションでカバーしていただいて問題ありません」 そして、必要に応じてファンデーションを使用したカバー方法なども説明します。 望ましいのは、黄疸のある肌は時間の経過とともに皮膚に変色が生じると思われることを、あらかじめエンゼルケアのときに説明できることです。さらに、最も望ましいのは、そのことを含めて死後変化のことなどが書いてある文書をお渡しすることです。文書については、連載の最終回でふれる予定ですので参考になさってください。 身体の死後変化の知識を得ておくことは、エンゼルケアを行ううえで必須です。亡くなった人のそれまでの身体の状態を把握している看護師は、例えば前出の黄疸の出ている方のように、変化についてのさまざまな配慮・対応が可能なためです。 知っておきたい身体の死後変化の特徴 では、ここで「身体の主な死後変化」を図1に示します。 図1 身体の主な死後変化 ( )内は、変化が始まる目安の時間を示す。変化の強度や速度には個人差がある。各項目の詳細については以下を参照。筋の硬直(死後硬直)(1時間~)筋弛緩後、下顎(1~3時間)、全身(3~6時間)へと硬直が進む。循環停止により酸素供給が停止することなどによる。死後半日から1日の間に硬直のピークを迎え、その後、解けはじめる。死の直前まで筋肉を使用していたり(急死)、高齢ではない場合などは硬直が強く表れる。体表面の乾燥(3時間~)循環停止によって内部から体表面への水分補給がなくなり、自力で保湿できなくなり乾燥する。特に外気にふれている頭部(その中でも口唇)は乾燥が急激に進む。表皮が失われている箇所や開放性の創部も乾燥しやすい。また、乾燥とともに皮膚の脆弱化も進む。水分量の多い乳児・小児は、成人よりも乾燥傾向が強い。顔の扁平化(直後~)重力の影響による。蒼白化(30分~)重力の影響を受け、比重の重い赤血球が沈下することで、皮膚の血色が失われる。全身の上面に生じるが、露出している顔面が特に目立つ。顔のうっ血(3時間~)急性の心疾患で亡くなった方に生じることが多い。腐敗(6時間~)恒常性の消失で細菌バランスが崩壊し、細菌群(中温菌)が異常繁殖することによって生じる。腹腔内からはじまり胸腔内、そして全身に広がる。身体の状態(水分が多い、栄養が多い、温かいなど)によって腐敗の進行度が変わる。体温低下(直後~)恒常性の消失で、気温の影響をまともに受ける。上下肢の末端部や外気にふれる顔面などから低下する。体幹部は下がりにくい。止血しづらくなる血液の凝固因子が大量に消費されることなどから、止血しづらい状態になる。黄疸の方の皮膚色の変化(24時間~)黄疸をもたらしている色素の酸化亢進などによって生じる。黄色→淡緑色→淡緑灰色に変化する。 さまざまな変化を図1で把握するとともに、全体的な変化の特徴として次の4点も押さえておくとよいでしょう。各タイミングでの判断に役立ちます。 ①死後の身体は「不可逆的に変化する」 図1に示した変化をはじめとして、死後変化のすべては不可逆的に進行します。つまり、変化する一方で、元の状態に戻ることはありません。生きているときのように、維持しよう、回復しようと身体は機能しません。 例えば、口唇は粘膜のため特に乾燥しやすい部分です。時間とともに乾燥が進み、表面が茶褐色に変色してしまったり、口唇全体の厚みが減ってしまったりし、それらが元の状態に戻ることはありません。ですから、早い段階で油分を塗布するなど、乾燥防止を行う必要があるのです。 ちなみに、葬儀社の方から看護師に対して「とにかく唇だけでも早めに油分を付けておいてほしい」と言われることがあります。葬儀社の方が担当する段には、すでに口唇の乾燥が極まってしまっていることがあるからのようです。 エンゼルメイクを含むエンゼルケアの時点で何をしておくべきなのかを判断し、実施することがポイントになってきます。 ②死後の身体変化は「予測しきれない面がある」 どんな死後変化がどの程度、どんな速さで起こるのか、エンゼルケアの時点ではその後を予測しきれない面があります。その大きな理由として、次の2点が挙げられます。 ・個体差を厳密には予測できない死後の身体変化は、死に至ったときの身体状態により個体差があります。例えば、体内の水分量が多く、さらに亡くなるまで高熱が続いていた場合は腐敗が早く強く出るかもしれないというようにおよその予想はできますが、厳密な予想はできません。 ・管理状況に左右されるご遺体は、身体の状態を一定に保つ機能は働いていないので、気温、湿度など身体を取り巻く環境の影響をまともに受けます。皆さんの手が離れた後、例えば暑い日などに適切な冷却がなされなければ急激に腐敗が進み、体液が漏れ出たりします。 身体の変化に困惑したご家族から問い合わせや相談の連絡があったなら、まず「お身体はいろいろな変化が出るのが自然のことです。異常事態ではないので心配はいりませんよ」と応対し、具体的な対応方法を説明するとよいでしょう。 ③死後の身体は「傷みやすい」 死後の身体変化が生じているイメージをつかんでほしいと思い、あえて「傷む」という表現を使います。 例えはあまりよくありませんが、釣ってきた魚を暖かい日に冷却もせず、ラップもかけずにテーブルの上に放置してしまうと、魚は急激に傷んでいきますね。人の身体も何もしなければ同じように傷んでいきます。 冷却や乾燥防止対策を行い、なるべく変化を抑えますが、抑えきれないケースも少なくありません。ただ現在は、亡くなった人との対面時には、衣類や花などでカバーされて目にふれないような配慮がされており、私たちは「傷む」という自然現象を忘れがちです。このことを含んでおいて、必要なときに「ご遺体は傷みやすいですよ」とご家族に説明します。 ④死後の身体は「重力の影響を受ける」 図1に示した「蒼白化」や「顔の扁平化」は重力に抗えなくなった結果、起こる変化です。他にも、身体の後面に開放性の創部(褥瘡など)がある場合は滲出液が漏れ出やすいので、あらかじめ対応をしておくといった判断ができます。 また、図1に示したように血液は止血しづらい状態になるため、鼻出血などがあると長く出続けることがあります。その場合は枕の高さを変えたり顔の向きを変えるなどし、重力の働く方向を変えることで、体外への出血量を減らせることがあります。 ご家族がご遺体を「起立させてほしい」と希望した例では、担当の看護師は便漏れなどがないように、重力の影響を考えながら希望に応じたとのことでした。 ワンポイントメモ臭気の話死後の早い段階で、気になる臭いが発生しやすい場所は、口腔内と瞼内です。 下顎が、早ければ死後1時間程度で硬くなるため、臭気防止のために口腔内だけは早めにケアを行います。マウスケア用のスポンジやガーゼなどで汚れを拭ったり、可能であれば歯磨きもします。瞼内のケアでは、眼脂に注意します。眼脂などの分泌物からも臭気発生の恐れがあるため、綿棒で拭うなど可能な範囲で除去しておきます。 腐敗による臭気もその後発生します。エンゼルケアの段階で行う臭気対策は、第4回で解説する冷却が有効です。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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2022年3月29日
2022年3月29日

訪問看護関連の「ここがポイント!」/令和4年度 診療報酬改定・決定版 前編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が確定しました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わるポイントを解説します。(2022年3月15日現在) 【目次】[ポイント1]  訪問看護ステーションに、新たに業務継続計画(BCP)の策定と職員の研修・訓練の実施が義務づけられた[ポイント2]  複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制加算で、地域の連携体制に参画していることが必要になった[ポイント3]  機能強化型訪問看護ステーションで、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化―訪問看護人材の育成や住民への情報提供・相談対応などの追加[ポイント4]  訪問看護ステーションと自治体・学校等との連携の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 【関連URL】・令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000920430.pdf・令和4年度診療報酬改定についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html 【告示・通知】・厚生労働省令第32号「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準の一部を改正する省令」・保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について・保発0304第3号 令和4年3月4日 「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」・保医発0304第4号 令和4年3月4日 「訪問看護ステーションの基準に係る届出に関する手続きの取扱いについて」・厚生労働省告示第59号「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部を改正する件」 令和4年3月4日 ・厚生労働省告示第60号「訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等の一部を改正する件」 令和4年3月4日 [ポイント1] 訪問看護ステーションに、新たに業務継続計画(BCP)の策定と職員の研修・訓練の実施が義務づけられた 訪問看護ステーションに業務継続計画(Business Continuity Plan:BCP)の策定が義務づけられました。感染症や非常災害が発生した場合でも必要な訪問看護サービスを継続的に提供するため、そして非常時の体制で早期の業務再開を図るためです。業務継続計画の定期的な見直し、必要に応じた変更も義務化されました。さらに、業務継続計画は職員(看護師等)にしっかりと周知し、必要な研修・訓練を定期的に実施しなければなりません。ただし、令和6年3月31日までは努力義務とされる経過措置がとられています。 業務継続に向けた取組強化の推進 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p20より引用 ○業務継続計画の具体的な項目1)感染症に係る業務継続計画①平時からの備え(体制構築・整備、感染症防止に向けた取り組みの実施、備蓄品の確保等) ②初動対応 ③感染拡大防止体制の確立(保健所との連携、濃厚接触者への対応、関係者との情報共有等)2)災害に係る業務継続計画①平常時の対応(建物・設備の安全対策、電気・水道等のライフラインが停止した場合の対策、必要品の備蓄等) ②緊急時の対応(業務継続計画発動基準、対応体制等) ③他施設及び地域との連携○研修・訓練1)研修:平常時の対応の必要性や緊急時の対応に係る理解の励行。定期的(年1回以上)教育を開催し、研修の実施内容を記録する2)訓練(シミュレーション):感染症・災害発生時に迅速に行動できるよう、事業所内の役割分担の確認、実践するケアの演習等を定期的(年1回以上)実施 保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について.4-(17)-②イ,ロより引用 [ポイント2] 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制加算で、地域の連携体制に参画していることが必要になった 複数の訪問看護ステーションが24時間対応体制加算を取るためには、業務継続計画(BCP)を策定したうえで自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワークに参画することが追加されました。 24時間対応体制加算は、必要時に緊急時訪問看護を行うことに加えて営業時間外の利用者・家族等との電話連絡や指導等の対応を評価するものです。複数の訪問看護ステーションが連携して24時間対応できる場合の算定要件として、従来は①離島・山間部などに所在する訪問看護ステーション、②医療を提供しているが医療資源の少ない地域に所在する訪問看護ステーションであることが要件でしたが、今回新たに相互支援ネットワークの参画の要件が加わりました。相互支援ネットワークは、以下のように公的なネットワークであることがポイントです。 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p20より引用 [ポイント3] 機能強化型訪問看護ステーションで、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化―訪問看護人材の育成や住民への情報提供・相談対応などの追加 「機能強化型1」「機能強化型2」では、地域の保険医療機関や他の訪問看護ステーション、または地域住民に対する研修や相談への対応実績があることが必須条件とされました。機能強化型訪問看護ステーションは「機能強化型1」「機能強化型2」「機能強化型3」の3型があり、それぞれ看護職員数、受け入れる重症度の高い利用者数、ターミナルケアや重症児の受け入れ等で違いがあります。 また、評価の見直しも行われ、算定額は「機能強化型訪問看護管理療養費1」が12,830円、「機能強化型訪問看護管理療養費2」が9,800円となりました。 さらに、専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいという項目が追加されました。そして、この看護師が専門的な知識および技術に応じて、質の高い在宅医療や訪問看護の提供の推進に資する研修等を実施していることが望ましい、とされました。 機能強化型訪問看護療養費の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 機能強化型訪問看護管理療養費1から3までについて、専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいこととして、要件に追加する。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 機能強化型訪問看護ステーションの要件等 ※変更点を【赤字】で示したhttps://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p22から抜粋 [ポイント4] 訪問看護ステーションと自治体・学校等との連携の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 訪問看護にかかわる関係機関との連携強化として、情報提供先の範囲が広がりました。訪問看護情報提供療養費1は、訪問看護ステーションと市町村・都道府県の実施する保健福祉サービスとの連携を図るものですが、情報提供先に指定特定相談支援事業者と指定障害児相談支援事業者が追加され、対象が15歳未満の小児から18歳未満の児童となりました。 訪問看護情報提供療養費2は、訪問看護ステーションの利用者が通園・通学するにあたって、訪問看護ステーションと学校等の連携を推進するものです。今回その情報提供先に高等学校が追加され、対象年齢が15歳未満から18歳未満になりました。これによって、医療的ケア児に対する訪問看護が強化されたといえます。 訪問看護情報提供療養費1の変更点 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p23より引用 訪問看護情報提供療養費2の変更点 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年3月29日
2022年3月29日

「朝、起きたら左足だけが腫れていた」場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第7回は、朝起きたら片足だけが腫れていた患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 83歳女性。「朝起きたら左足だけが腫れていて、もったりとして気になる。昨日は何ともなかったのに……」と言っています。   あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 足が腫れているという訴えであるため、まずは、足の皮膚や皮下組織、筋肉や骨に炎症が生じ、腫脹が起こっていることが考えられます。 また、リンパや静脈系の循環障害による浮腫の疑いがあります。 リンパ浮腫とは、リンパ管の狭窄や閉塞のためにリンパ液が滲み出して浮腫となったものです。手術侵襲や、がんの浸潤により起こることが多いです。 静脈系の循環障害による浮腫は、静脈の閉塞や狭窄により静脈圧が上昇することで血漿成分が滲み出して起こります。深部静脈血栓症の場合、脳梗塞や肺梗塞など生命にかかわる疾患を引き起こす場合があり、発見したら速やかに医療につなげる必要があります。 ここに注目! ● 足が腫れているという訴えは、浮腫によるものか、局所の炎症による腫脹か?● 局所性の浮腫が考えられる場合、静脈系の循環障害か、リンパの還流障害か? まずは、炎症による可能性を念頭に置いてアセスメントします。そのうえで浮腫による可能性が高いと考えられる場合は、浮腫が静脈性なのかリンパ性なのかをアセスメントします。 局所炎症のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・炎症の症状(痛み、しびれ、熱感、腫脹)・原因・誘因となったこと(転倒や転落、打撲、外傷、虫刺され、など)・ADLへの影響 局所炎症のアセスメント②客観的情報の収集 体温測定 炎症が起きている場合、免疫反応として、発熱が起こる可能性があります。高体温になっていないかどうかを確認します。 浮腫の確認 浮腫の部位と程度を確認します。 外傷などによって起こる局所の炎症による浮腫は、脚全体ではなく障害のある部位にみられますので、左右差を比べながら確認します。 痛みに注意しながら触れ、圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧迫時間は5~20秒、指が沈み終わったら離し、その深さで判定します。 炎症徴候の確認 皮膚の傷や、骨折を思わせる症状がないかを確認します。骨折がある場合は、関節が不自然に曲がっていたり、発赤や強い腫脹がみられ、圧痛と熱感があります。 炎症の徴候を確認するために、発赤と熱感を確認します。熱感については、熱に敏感な手背を使って確認します。人の皮膚温はさまざまなので、症状を訴えている側だけでなく、左右同時に触れてその差を確認します。 関節可動域 関節を動かせるかどうかを確認します。炎症がある場合は、動かすことで痛みが生じる可能性が高いので、確認しながら行います。どの程度の可動域制限があるかを、左右比較して観察します。 静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・静脈系末梢循環障害の症状(張るような痛み、重苦しさ、浮腫の日内変動、動かしにくさ、など)・リンパ系循環障害の原因・誘因(がんや手術の既往、など)・静脈系末梢循環障害の原因・誘因(急な臥床安静、歩行制限、下肢運動量の減少、下肢の圧迫、など)・ADLへの影響 静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント②客観的情報の収集 浮腫の確認 浮腫の部位と程度を確認します。 循環障害による浮腫は、血管の閉塞・狭窄の位置より下部に生じますが、皮下組織への水分の貯留が進むと足全体に生じることも多いです。 圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧痕がみられない腫脹の場合は、周囲径を計測することで、客観的な観察ができます。周囲径を計測する際は、体位および測定部位の関節からの距離を記録しておきましょう。 末梢循環の確認 静脈系の末梢循環障害では、皮膚色の変化はみられないことが多く、静脈瘤や慢性の炎症がある場合は赤茶色の変色がみられることがあります。動脈系の障害ではないので、皮膚温は保たれ、足背動脈などの末梢の脈も触知できます。 皮膚の視診・触診 リンパ浮腫では蜂窩織炎となっている場合もあります。蜂窩織炎では広範囲に発赤があり、腫脹し、熱感や痛みがあります。放置すると組織の壊死をきたしますので、速やかな治療が必要です。 報告のポイント ・浮腫の部位と程度、左右差がみられること、全身性の浮腫ではないこと・外傷や骨折などの筋骨格系の障害によるものか、その判断理由・静脈・リンパ系の循環障害によるものか、その判断理由 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2022年3月29日
2022年3月29日

専門性を押しつけない支援で利用者を支える

精神科訪問看護に特化して運営しているN・フィールド。今回は訪問先での主要な仕事の一つでもある服薬について、取締役の郷田泰宏さん、精神看護専門看護師の中村創さんにお話をうかがいました。(以下敬称略) お話郷田泰宏 株式会社N・フィールド 取締役中村創 株式会社N・フィールド 精神看護専門看護師 服薬中断という現実 [郷田]私たちは、精神疾患のある人を、病院から地域へと定着させる役割を担っています。サービスに入らせていただき徐々に利用者さんの地域での生活が落ち着いてきたと思っていたら、デイサービスなどへの通所が滞りがちになることがあります。その背景には、多くの場合、服薬の中断という現実があります。 調子が悪くなったとき、その変化を訪問看護師がいち早くキャッチし、医療との橋渡しをすることが大切です。薬の調整ですむ場合もありますし、入院になったとしても重症化する前に入院できれば、早期退院につながります。 早期対応によって調子を取り戻し、早く元の生活に戻っていただけるよう支援する役割を、訪問看護師は担っていると思います。 [中村]実際に訪問していても、病院で薬を処方されても、症状が治まるとつい服用を忘れてしまう。あるいは自己判断でやめてしまう利用者さんは、実は多いです。一般診療科でも、服薬の継続はしばしば課題になりますよね。高齢者や認知症の人も同様です。 向精神薬には副反応が強く出たり、期待する効果が出るまでの服薬継続に努力を要したりするものもあり、どうしても在宅ではご自身で管理しきれず、服薬の中断が起こりがちなのです。 「吐き気が出るから飲みたくない」ケース [中村]利用者さんに、「この薬は飲みたくない」と言われたことがありました。吐き気が強く出る抗うつ薬でした。 まず利用者さんに、その薬の作用を聞いているかお尋ねしました。「セロトニンをためておく作用があると聞いた」と答えてくださいました。そこで、「セロトニンは、たくさんたまると嘔吐中枢のスイッチを押す場合もあるんです」と伝えました。「それは知らなかった。医者から言われたかもしれないけれど、忘れていた」ともおっしゃいました。 専門性を引き出しに備えておく [中村]それから、脳の機能について説明しました。薬で増えたセロトニンの量を、脳が『これぐらいが一定なのか、じゃあ、もう吐かなくてもいいや』と学習するのに、2~4週間かかるんですよ、という説明です。その利用者さんは、飲みはじめて1週間でした。 さらに、「あまり吐き気がつらいようなら吐き気止めを処方してもらえるよう主治医に連絡しましょうか」と提案しました。制吐薬の処方により、実際吐き気が治まったことで、利用者さんは納得し、服用を継続することができました。 セロトニンについての情報提供のような、医療職としての専門性は、いつも引き出しには用意しておきます。でもいつも出すわけじゃない。あなたの必要に応じて発揮しますよ、というスタンスがいいのではないかと考えています。 「大丈夫かと思って飲まなかった」ケース [中村]もう一つは、利用者さんが「死ね」「消えろ」という声がしてとてもつらい、と訴えてきたケースです。そのとき私は、「それはいつからなのでしょうか。お薬も飲めているのにおかしいなぁ……」と、あえて独り言のように返しました。 すると、その利用者さんは「実は、大丈夫かなと思って、薬を飲まなかったんだよね」とポツリ。このような場合、服薬中断をとがめたり責めたりは絶対にしません。 私は「薬を飲んでいたときと、やめてみたときで何が変わりましたか」と尋ねました。「症状がなくなったから大丈夫と思って薬をやめたら、また症状が出てきた」と答える利用者さんに、「なるほど。ご自分では、そのことについてどう思いますか?」と問いかけました。 「症状が出たのは薬を飲まなかったからでしょ」というのは、こちらの考えの押しつけです。そうではなく、ご自分でそこに気づいてほしいわけです。 利用者自身が気づき、腑に落ちることが大切 [中村]この方は「じゃあ、ちょっと飲んだほうがいいかな」とおっしゃいました。そこで、服薬を続けるほうが症状は落ち着くし、自己判断で薬をやめて入院になる人も多いかな、という『一般論』を伝えます。ご本人が腑に落ちることが大切なのです。 自分の生活がうまくいっていることと、薬の効果が、実は関係がある。利用者さん自身がそう実感できて初めて、服薬は継続できるものです。その説明を抜きにして「ただ処方されているから飲んでください」ではうまくいかないですね。 重要なのは、薬を飲むか飲まないかではなく、利用者さん自身の生活の充足が実現されること。「生活の充足」というゴールに、薬を使ってたどり着く選択をするかどうかは、その人しだいです。私はそう考えて、「利用者さん自身が自分で気づき、選択するための支援」を行っています。 記事編集:株式会社メディカ出版

コラム
2022年3月29日
2022年3月29日

父親の背中

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、梶浦さんの「いちばんの治療薬」のお話。 将来はお医者さんになる 私の家には、私が講義をしている大学の看護学部の学生たちが、何人もヘルパーとして働きに来ています。その学生たちに、なぜ看護師になろうと思ったのか聞いてみたら、「キッザニアの職業体験で興味を持ったから」「助産師になりたかったから」「災害看護に興味があったから」などさまざまな意見がありました。いちばん多かったのは、「親が看護師や医師などの医療職だったので、その影響を受けた」というものでした。 実は私も、父親が医師(外科医)です。祖父も医師で叔父たちも医師という、医師家系で育ちました。周りに医師以外の職業がいなかったので、物心ついたころから、自分も将来医師になるんだろうと思っていました。 今でも覚えていますが、小学校受験のときのことです。 面接官に「将来何になりたいですか?」と聞かれ、「お医者さんになりたいです」。「なぜお医者さんになりたいんですか?」と聞かれて、「お腹を切りたいからです」と答えました。その小学校には落ちたらしい……(笑)。 カッコよかった父親の姿 そんな感じで、何となく、幼稚園児のころから医師という職業に興味を持っていましたが、小学校低学年でそれが確信に変わりました。 小学校1年生のある日、それまで元気いっぱいだったのに、急に血尿を出して倒れました。急いで父親の勤務先の病院に行って検査すると急性糸球体腎炎という病気で、そのまま一か月間入院しました。 そこで初めて父親の白衣姿を見ました。 ふだん家では、お酒を飲みながらテレビを見てぐーたらしている父親が、いろいろな人に「先生」と呼ばれて慕われていました。その姿が、とてもカッコ良く、誇らしかった。 そのときに、自分も将来お医者さんになろうと強く思いました。 「いいなあ、パパは」 自分にも息子ができて一人の父親になりました。私は息子が2歳のときにALSになったので、息子は病気になってからの私しか覚えていません。 もし病気になっていなかったら、たくさん一緒に遊んで、休みの日はサーフィンやバスケ(私は小学校から大学までずっとバスケ部だったので)を教えたり、勉強を教えたり、とにかく大好きな息子と一緒にいろいろなことをしたかった。そしてバリバリ働く父親の背中を見せてあげたかった。 今の息子には父親はどう映っているのだろうか。そんなことを何となく考えていたある日、息子にこんなことを言われました。 「いいなぁパパは、毎日寝ながらテレビを見てて楽しそうで。宿題もないしさー」 息子には寝ながらテレビを見ている父親として映っているのか!?と思いつつ、楽しそうに映ってくれているのであればいいかと思い、少し安堵しました。 いちばんの治療薬だ 息子も今では8歳になります。 息子には「パパはALSっていう、全身の筋肉がだんだん動かせなくなっていく病気なんだよ」と、小さいころから、病名や症状を包み隠さず伝えています。そのため、息子も幼いながら私の病気を何となく理解してくれています。そして、毎年七夕やお正月などの行事のたびに「パパの病気が早く治りますように」とお願いごとをしてくれます。 そんな息子の気持ちに後押しされて、「どんな状態になっても今できることを最大限頑張ろう。そしていつまでも息子にとって尊敬できるカッコいい父親でいたい」という前向きな気持ちになれます。どんな治療薬よりも、息子の存在がいちばんの治療薬だ! 息子よ、いつもありがとう!! 宇宙一のお医者さん そんな息子が最近、「将来は宇宙一のお医者さんになる!」と言いはじめました。 宇宙に医師はいるのか!?と心の中でツッコミつつ、スケールの大きい夢をキラキラした目で語ってくれる息子を微笑ましく見ていました。 私の家は医師家系ですが、親に「医師になりなさい」と言われたことは一度もありません。私も息子には好きな仕事についてほしいと思っています。 ただ、ベッドにへばり付いているこんな父親の背中が、少しでも息子に影響を与えられているのであれば、素直に嬉しいなぁと思うのです。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年3月22日
2022年3月22日

訪問看護あるある座談会 vol.11 オンコール編

訪問看護では付き物のオンコール。いつ電話が鳴るかドキドキ…という体験があるのではないでしょうか。今回は訪問看護師さん3名にお集まりいただき、訪問看護でのオンコールのあるあるトークをしていただきました。 ■座談会に参加してくれた看護師さんプロフィール かずもともとヘルパーとして働いていたが、訪問介護先で出会った訪問看護師の仕事に魅力を感じて看護師になる。現在は訪問看護師2年目。 けん家族の在宅看取りの経験から訪問看護師を志す。急性期病院で2年働いたのち、地方の訪問看護ステーションに就職。訪問看護師4年目。 みほ訪問看護の実習で暮らしが見える面白さを感じ、新卒から訪問看護師になる。オンコールやプリセプターもしている中堅ナース。訪問看護師6年目。 ドキドキだけどやりがいもあるオンコール担当 空耳だけど聞こえてくる着信音 かず:オンコールは3ヶ月くらい前から始めたばかりです。 みほ:オンコールは初めての経験かと思うのですが、電話持っていてドキドキしませんか? かず:いや、もうそれはドキドキしますよ。夜はいつかかってくるか分からないので、お風呂もいつ入ろうかタイミングが分からなくて。 けん:あるある! かず:やっぱりあるあるなんですね。(笑)持って最初に鳴った電話が、なんと間違い電話だったんですよ。訪問している方やよく電話が来る方ならまだいいのですが、あまり知らない利用者さんからの電話が来たらどうしようと思いますね。 みほ:何の疾患で何のお薬飲んでいるかとかの基本情報から確認が必要なこと、あるあるですね。 けん:ちなみに、夜中に起きては携帯をパカパカ開いちゃうんですけど、ありますか? かず:それはもちろんあります。中途覚醒がすごくて…。 けん:そうそう。寝落ちした時に「やばい!」って起きてパッと電話開いて、着信来てないとホッとします。病院の心電図モニターみたいに「あれ、電話鳴ってる?」ってなります。 かず:僕はまだ大丈夫なんですけど、他の先輩はよく空耳があるって言っていますね。 けん:僕は始めたばかりのころは週2〜3回くらいオンコールを持っていたので慣れるのも早かったんですけど、週1回だと慣れるのが大変そうですね。 かず:まだ慣れないですね。新規の利用者さんも来ますし、ある程度は情報収集しているんですけど、1週間で状態も変わりますし。先輩の緊急訪問の記録を見て、これが自分だったらどんな対応ができていたかな、って考えることもありますね。 みほ:救急搬送とかも最初は焦りますよね。 かず:そうですね。私はまだ1人で決めることはないのですが、でも緊急性が高くて迅速な対応をしなくてはならない場合に、もちろん先輩や医師に相談するし、でも現場に向かわなきゃならないし、一人前になるのは本当に大変です。それはもう繰り返しやるしかないんだろうな、と思います。 けん:一人前ってよく言われますけど、僕もまだわからないこともあるし、その時は所長に電話して聞いちゃいますし、訪問の独り立ちって定義が難しいなと思いますね。 みほ:独り立ちとは言われているけれど、私も全然聞いていますね。相談できる環境があるのがベストだと思っていて、一人で訪問はするけど、一人で抱え込まなくていいのかなと。 ドラマよりドラマティックな体験も けん:かずさんはオンコール持ち始めて、緊急訪問はしましたか? かず:今まで3回は訪問しましたね。1回は「もう息をしてない」って連絡があって、着いたらもう心音も停止していて、息もしていなくて。それが最初の緊急訪問でしたね。 けん:最初からお看取りだったんですね。 かず:そうなんです。その方はがんのターミナル期だったんですが、あと1週間とか1ヶ月とかそういう状況ではなくて、ゆくゆくは自宅でお看取りという話だったんです。私が担当していた利用者さんで、その前の週も訪問して「また来週も来ますね」って話していたところだったんです。奥様が起きたら亡くなっていたそうで、急変した、というか、安らかに息を引き取られましたね。 みほ:かずさんが担当していた利用者さんだったからこそ、かずさんのオンコールのタイミングのご逝去だったのかもしれないですね。 かず:同行した先輩も同じようにおっしゃっていました。先輩も契約の時に一緒に訪問してくれていたので、そういうタイミングだったのかもしれません。奥様が後悔はなくやり切ったとおっしゃっていて、そのときに自分が看護師になって本当によかったなって思いました。緊急電話を持たないとできない体験だったかもしれません。 みほ:突然のご逝去ってオンコールを持っていないと立ち会えない場合が多くて、運命的な何かがあるのではないかと思います。けんさんは同じような経験とかありますか? けん:そうですね。僕が訪問していた利用者さんで、結構お元気な方だったんですけど、週末に「最近寝ている時間が増えた」って奥さんからコールがあったんです。大きく体調は変わりなかったので経過観察になっていたんです。週明けに僕が訪問して挨拶したら、「ああ」って言って手を挙げてくれたんですが、そのタイミングで息が止まっちゃって。僕もびっくりして「〇〇さん!」って大きい声で呼んだり、奥さんにも「急なことだけど大丈夫ですか」って声かけたりして。何度もご逝去時の訪問はしていたので慣れているつもりだったんですけど、呼吸が止まる瞬間に立ち会うのはその時が初めてで、今思うと相当テンパっていましたね。自宅にいたいと話していたので、最後まで家で過ごせたのは良かったんじゃないかと思います。それが最近あった、びっくりしたお看取りでしたね。 みほ:待っていたんですかね。 けん:みんなにそう言われます。長く担当していた利用者さんで、今は奥さんのところに訪問させてもらっています。ドラマよりドラマティックですよね。人生の少しだけしか関わってないけど、人生を見せていただくありがたみとか、やりがいや幸せを分けてもらっているところもありますよね。記事編集:NsPace

インタビュー
2022年3月22日
2022年3月22日

精神科訪問看護師は利用者を孤立させない

精神科訪問看護に特化するN・フィールド。今回は精神科訪問看護で求められていることについて、取締役の郷田泰宏さん、看護師の中村創さん、精神保健福祉士の谷所敦史さんに語っていただきました。(以下敬称略) お話郷田泰宏 株式会社N・フィールド 取締役中村創 株式会社N・フィールド 精神看護専門看護師谷所敦史 株式会社N・フィールド 精神保健福祉士 精神病床でも在院期間が年々短縮化 [郷田]精神疾患も含め、病気の治療は基本的には病院で行われるものです。しかし入院治療をみると、医療費適正化政策によって入院期間は年々短縮化が進められています。 2010年には18.2日だった一般病床の平均在院(入院)日数は2019年には16.0日に。精神病床においても、2010年に301.0日だった在院期間が2019年には265.8日に短縮されています。 一般診療科も精神科も、病院での治療が終わったら、リハビリテーションなども含めたフォローは在宅で。今、日本の医療はそうした方針で動いているのです。 治療継続と孤立防止 [郷田]そこで、私たち精神科訪問看護が担うのは、治療の継続です。 精神疾患は、病院での治療が終わればそれで完治というものではありません。慢性疾患に近い側面があり、病院で集中的な治療を受けた後の継続的な治療において、当社のような訪問看護の役割があると考えています。 一方で、精神科訪問看護では、利用者さんを「疾患や障がいのある人」としてみるだけでなく、「地域で暮らす生活者」としてみる視点も必要です。 社会資源と結びつけることで終わらずに [郷田]精神の疾患や障がいを持つ人は、いろいろな症状の影響で、どうしても孤立しがちです。そこを、私たち訪問看護師が、デイサービスや就労移行支援事業所など、地域の社会資源との間に入って調整する、孤立させないようにする。 疾患や障がいがある人も、自分たちの居場所を求めています。そういう人々に、居場所や役割を提供していくこと。そして、単に社会資源と結びつけるだけでなく、利用者さんが今どういう状態にあるかという情報提供をすることも、訪問看護師の大事な役割だと考えています。 何かあったときに、利用者さんがすぐに相談できる存在として、私たち訪問看護師がいる。 訪問看護師は、在宅医療の一つのパーツにすぎません。利用者さんを中心に、地域のサポート資源全体で支えていく。そのために、私たち精神科訪問看護を上手に使ってもらえればと考えています。 生活を自分で成り立たせるサポート [中村]当社の利用者さんは、約4割が統合失調症系の疾患のある人です。次いで、依存症系、うつなどの感情障害系、パーソナリティ障害系の人が多い傾向にあります。実際に訪問すると、案外、自分で生活できている人が多い印象です。そこで私たちが果たす役割は、生活をご自分で成り立たせることへのサポートだと考えています。 実際に在宅で利用者さんを支援していると、精神科訪問看護に対する医師からの要望は、主に二つあります。一つは、利用者さんが在宅で安定して生活できているかどうかの確認。もう一つは内服状況の確認です。 精神疾患のある人は、ある程度生活ができていても、ちょっとしたことでつまずき、そこから生活がガタガタと崩れてしまうことがあります。私たちはそうならないよう、対処法を一緒に考えたり、部分的に手をお貸ししたりするわけですが、かといってできないことを肩代わりしてもいけない。この調整が、実はいちばん難しいと考えています。 看護師とは異なる側面からの支援 [谷所]当社では、看護師だけでなく、ソーシャルワーカーや作業療法士も参画し、多職種チームで利用者さんをサポートしています。私はソーシャルワーカーとして、看護師とは異なる側面から、在宅生活を円滑に送れるよう支援しています。 利用者さんには、偏食や過食がある、生活リズムが一定しない、金銭管理ができないなど、生活障害を抱える人も多くいらっしゃいます。経済的支援や地域サービスによる支援が必要でも、それをご自分で見つけるのが苦手な人もいらっしゃいます。そうした人と、支援制度や支援機関などの社会資源とをつないでいくのが、私たちソーシャルワーカーの役割です。 最近は、外来患者のソーシャルワーク担当制を採用していない病院が少なからずあり、そうした病院から「外来患者の障害年金の申請を手伝ってほしい」といった依頼が来ることもあります。 病院と連携して、病院では手が回らないところを請け負い、調整しながら利用者さんの生活を支えていく。地域でそうした役割を担うことも増えてきました。 医療だけでは支えきれない部分を、ソーシャルワーカーがカバーしていく。さらには、ゴミの出しかたや洗濯機の使いかたがわからないなど、小さいようで本人にとっては大きな悩みに、作業療法士が対応し生活の底上げを図っていく。 各職種が強みを生かし、多角的な支援を行うことによって、精神疾患のある人の在宅生活を支えているのです。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)厚生労働省.「平均在院日数」『平成22年(2010)医療施設(動態)調査・病院報告の概況』2010,22.2)厚生労働省.「平均在院日数」『令和元年(2019)医療施設(動態)調査・病院報告の概況』2019,21.

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