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優先業務・重要業務の継続に必要なリソースについて考えてみよう
優先業務・重要業務の継続に必要なリソースについて考えてみよう
特集
2022年11月1日
2022年11月1日

[5]優先業務・重要業務の継続に必要なリソースについて考えてみよう

この連載では「訪問看護BCP研究会」の発起人のお一人、日本赤十字看護大学の石田千絵先生に訪問看護事業所ならではのBCPについて解説していただきます。今回は、被災後の優先業務・重要業務の継続に必要なリソース(資源)について具体的に考えていきます。 【ここがポイント】・優先業務・重要業務を継続するために必要なリソースをヒト、モノ、カネ、情報に分けて検討し、すべてを『見える化』することが大切です。・利用者・家族は「リソース:ヒト」として考えません。 今回の第5回、そして次回の第6回は、リソース中心のBCPのキモともいえる回です。全国訪問看護事業協会の「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」では「Ⅱ 訪問看護ステーションの事業継続計画(BCP)考え方と記載例」の「2.平常時の対応」と「3.緊急時(~復旧における事業継続にむけた対応)」の内容にあたります(図1)。 図1 「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)」の目次(「Ⅱ 訪問看護ステーションの事業継続計画(BCP) 考え方と記載例」の項目を抜粋) 全国訪問看護事業協会.「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)―訪問看護ステーション向け―」,2020,p.2-3.より引用.https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r2-1-3.docx2022/8/25閲覧 第5回では、被災後に優先業務・重要業務を継続させるために必要なリソースは何かを考えていきます。 もし、今回から読み始めた方がいらっしゃいましたら、この連載の第3回のリソースに注目したBCP策定の考え方と、第4回の優先業務・重要業務の選定を確認してから読み進めてください。いっそう理解が深まると思います。 「優先業務・重要業務」の実際 ここからは、あらためて訪問看護BCP研究会メンバーのケアプロ株式会社の例1)を参考にして進めたいと思います。 ケアプロ株式会社では、平常時の訪問看護業務を「訪問看護サービス(医療処置関連など)」「訪問看護サービス(健康生活状況観察)」「訪問看護サービス(内服管理など)」「訪問看護サービス(リハビリテーション)」「サービス担当者会議・退院カンファレンスなど他職種カンファレンス」の5つに分けてBCPを策定しています。 このうち「訪問看護サービス(医療処置関連など)」は72時間以内に「縮小」「中断」することができない、すなわち「継続」すべき業務であることから「優先業務・重要業務」としています。 COVID-19によるパンデミックの初期には、感染予防の観点から全国の医院などで受診を控える高齢者が多く見受けられました。そして、訪問看護の現場でも利用者や家族がサービス提供者からの感染リスクを恐れ、数ヵ月程度、訪問サービスを断わる事例が都内で起こりました。BCP研究会メンバーによりますと、その多くはリハビリテーションを主目的とした利用者・家族だったようです。 この現象をリソース(資源:ヒト、モノ、カネ、情報)で解釈すると、パンデミック初期に顧客が減ることは、リソース(カネ)に問題が生じたことになります。言い換えると、限られたスタッフ(リソース:ヒト)を、リハビリテーションを主目的とする利用者に優先的に配置する必要がないということを意味しています。 そのため、ケアプロ株式会社でも「訪問看護サービス(リハビリテーション)」業務は、72時間以内は「中断」し、1ヵ月以内・1ヵ月以降も「縮小」する業務としています。 優先業務・重要業務に必要なリソース(ヒト、モノ、カネ、情報)の検討 優先業務・重要業務を継続する上で必要なリソースは、図2のワークシートを使って検討するとよいでしょう。第4回で洗い出した優先業務・重要業務を図2のAの部分に記載します。そして、優先業務・重要業務ごとに基本的に必要なリソースをヒト、モノ、カネ、情報に分けて記載します。 例えば「訪問看護サービス(医療処置関連など)」の業務継続に必要なリソースであれば、「ヒト:対応可能なスタッフ3割程度」「モノ:移動手段としての自転車、持参する衛生材料、スタッフの生活のための備蓄や休憩場所」「情報:利用者情報や連携情報」といった具合です。優先業務・重要業務がどのようなリソースによって成り立つのかという観点から考えるとよいです。 さて、第4回で行った優先業務・重要業務の選定では、誰もが「訪問看護業務」を優先業務・重要業務に選ばれたと思います。このほかに、どのような利用者の訪問看護を「優先業務・重要業務」と選定されましたか? ケアプロ株式会社では、そのほかの優先業務・重要業務として「訪問看護記録の作成」「労務管理(出退勤状況、休暇状況、残業状況などの勤怠管理)」などを挙げており、それらに必要なリソースとして「ヒト:メンタルサポートができるスキルを持つ人材」「ヒト:労務管理担当者」「モノ:勤怠管理・残業管理シート」「情報:スタッフ情報」などを挙げています。 これらをすべて挙げた後、ヒト、モノ、カネ、情報をリソースごとで取りまとめると、優先業務・重要業務の継続に必要なリソースすべてを『見える化』することができます。 図2 優先業務・重要業務に必要なリソースを考えるワークシート 【ワークシートの記載例はこちら】 「リソース:ヒト」と利用者・家族の関係 BCP策定でわかりにくいのは「リソース:ヒト」の範囲です。訪問看護ステーションのBCPにおいて、利用者や家族はどのように捉えるとよいのでしょうか? このことは、モノづくりをしている中小企業のBCPにおける「リソース:ヒト」を例に考えると少しイメージが付きやすくなるかもしれません。モノづくりの会社でモノを購入してくださる顧客と同様に、利用者は訪問看護サービスを購入してくださる顧客といえます。一方で、モノづくりの重要な対象はモノの素材などですが、利用者もサービス提供にかかわる重要な対象です。 つまり、訪問看護ステーションにおけるBCPを考える際には、利用者は「顧客」であるとともに「重要な業務の対象」でもあることを認識する必要があるのです。そのため、利用者・家族への平常時の教育などの重要性も検討することになりますが、利用者や家族は「リソース:ヒト」には含まれません(あえて入れるとすると、BCPの視点では「リソース:カネ」に含まれます)。ここではひとまずこのことを押さえておいてください。 具体的には、「リソース:ヒト」に関する災害時のリスクを考え、平常時の備えについて十分に検討することが大切です。平常時の備えが十分であれば、利用者や家族の幸せを守ることができ、限りある「リソース:ヒト」の活動の範囲を絞って有効に活用でき、事業継続も可能になるからです。 次回の第6回では、リソースや利用者の災害時のリスクを想定し、それらにどのような対策・対応を講じていくとよいかを検討していきたいと思います。 執筆 石田 千絵日本赤十字看護大学看護学部地域看護学 教授●プロフィール1989年聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業後、聖路加国際病院他で勤務。1995年阪神淡路大震災および地下鉄サリン事件を契機に、地域×災害に関わる教育や研究を始めた。災害の備えは「平時に自分らしく生き、かつ、社会的によい関係性を保つこと」がモットー。看護学博士。 「訪問看護BCP研究会」とは、2016年にケアプロ株式会社、日本赤十字看護大学、東京大学他の仲間による訪問看護×BCPに特化した研究会。毎月1~2回程度で研究や研修などを行っている。▼訪問看護BCP研究会のホームページはこちら ※記録様式のダウンロードも可能です。 記事編集:株式会社照林社 【引用文献】1)金坂宇将・岡田理沙著.「都市型大規模ステーションにおけるリソース中心の作成手順に沿ったBCP-ケアプロ訪問看護ステーション東京-」,BCP研究会編著.『訪問看護事業所のBCP』,東京,日本看護協会出版会,2022,p.66-81.

感染予防対策とコストのバランスをどう考えるか
感染予防対策とコストのバランスをどう考えるか
特集
2022年11月1日
2022年11月1日

安心感をどう作るか⑥ 感染予防対策とコストのバランスをどう考えるか

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の野崎加世子さんによるお話の最終回です。 お話野崎加世子岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山 管理者 「事業継続」という責任 コストを考えるときに、いつも頭に浮かぶのは、一人の利用者さんの言葉です。 その方は、ある訪問看護ステーションを利用していたのですが、そこが閉鎖されてしまい、私たちが引き継ぎました。利用者さんは「昨日まで来ていた看護師さんは、どうして来られなくなったの?」と嘆き、「自分が死ぬまで、あの看護師さんに来てもらおうと思っていたのに……」と暗い表情で続けます。 そんな利用者さんの嘆きを聞くにつれ、閉鎖の理由がなんであれ、事業の継続は私たちの重い責任だと、あらためて襟を正しました。 コロナ禍は終わりがみえず、PPE(個人防護具)の購入費など、感染予防対策のコストがかさんでいます。加えて、ロシアのウクライナ侵攻の影響や円安の進行により、燃料費、光熱費、衛生資材、事務機器・用品などの相次ぐ値上げにより、確実にコスト負担が増えています。 削れるもの、削れないもの 支出抑制を考えるとき、「何もかもコスト削減」では、現場の士気は低下してしまいます。管理サイドの意思決定に不満を抱くスタッフも増えるでしょう。 訪問看護ステーションの「ハート」を示す意味でも、コストを削れるものと削れないものとに分けることが重要です。 削れないものは、コロナ禍においては、感染予防対策が該当します。私たちのステーションでは、基本的にN95マスクをつけて訪問します。使い捨てエプロンを使用することも多く、それらの費用負担はとても大きいのが現状です。しかし、利用者さんとスタッフの安全・安心のためには出費を惜しみません。「何としても、利用者さんもスタッフも守る」。それが、ステーションのハートです。 コスト削減のプロが示す「見えるデータ」 一方、削れるものについては、コスト削減のプロフェッショナルである事務スタッフが大きな力を発揮してくれます。 私たち看護師は、「だって利用者さんのために必要だから、しかたがない」と考えがちです。そんな私たちに向けて、事務スタッフは冷静に、データを提示してくれます。 たとえば、「2年前に比べてガソリン代が○%増えていますよ」とデータを「見える化」してくれるのです。そんな形で示されたら、対策をとらないわけにはいきません。 たとえば、ガソリン代 私たちの訪問エリアは広大で、山間僻地もあります。片道50km(往復100km)の利用者さん宅にも訪問します。ガソリン代が1割増えただけでも、出費はばかになりません。私たちのステーションは規模が大きく、ガソリン代の増加分は、パート社員1人分の人件費に匹敵しました。 そこで、訪問の順序を見直すなど、移動距離が短くなるように知恵を出し合いました。並行して、市にもガソリン代の補助を根気強く要請しました。その際には事務スタッフが作ってくれたデータが抜群の説得力をもちました。結果として、片道20km以上の訪問には、補助金が出るようになりました。 ケチケチ作戦とスケールメリットの創出 ガソリン代だけではありません。小まめな消灯、裏紙使用、洗濯物を一定量ためてから洗濯機を回すなど、あらゆる場面でケチケチ作戦を行いました。 仕入れコストにも着目しました。サテライトを含めて、事業所単位で行っていた仕入れを一本化し、スケールメリットを狙いました。私たちのステーションが比較的大規模といっても、病院のスケールにはかないません。そこで、事業所をまとめることで、仕入れの単位を大きくしました。その結果、自動車保険や火災保険にも、このスケールメリットを生かすことができました。 経営規模の小さい訪問看護ステーションならば、地域でまとまって共同仕入れを行う方法も十分に検討に値すると思います。 「その気」になってもらうための、あの手この手 コスト削減で重要なのは、スタッフに「その気」になってもらうことでしょう。そのためには、事務スタッフを含めて、それぞれの専門性に最大限の敬意を払うことです。それに加えて、管理職が上から目線をやめることではないでしょうか。 「いろんな物が値上がりして大変だよね」と家計の話題からもっていったり、職員が相談に来たときは、仕事の手をとめて、しっかり向かい合って聴いたりするなど、スタッフと同じ目線に立つことが大切だと考えています。特に年に2回行う個人面談では、スタッフの話を聴くことに全力を傾けます。 コスト削減よりもケアの質に目が向くのは、看護師として素晴らしいことだと思います。だからこそ、何としても事業が継続できるように、あの手この手でコスト削減を行っています。 * 次回は、医療法人ハートフリーやすらぎの常任理事・統括管理責任者(訪問看護認定看護師)、大橋奈美さんにお話しいただきます。 記事編集:株式会社メディカ出版

予防と外来と訪問、すべてを管理栄養士のフィールドに
予防と外来と訪問、すべてを管理栄養士のフィールドに
インタビュー
2022年11月1日
2022年11月1日

予防と外来と訪問、すべてを管理栄養士のフィールドに

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第7回は、フリーランスで活動する管理栄養士の米山久美子さん。在宅高齢者の栄養問題と、訪問管理栄養士の活動について話を聞いた。(内容は2018年3月当時のものです。) ゲスト:米山久美子管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、在宅栄養専門管理栄養士 管理栄養士として病院に勤務後、イギリスへ留学。2010年、訪問栄養食事指導・居宅療養管理指導所「地域栄養サポート自由が丘」を開設。日本栄養士会認定栄養ケアステーション「eatcoco(イートココ)」主宰。日本在宅栄養管理学会、日本静脈経腸栄養学会、摂食嚥下リハビリテーション学会所属。 訪問管理栄養指導を必要とする人は 川越●今日は、在宅高齢者の栄養問題と、栄養のプロである訪問管理栄養士の活動について話を聞かせください。 米山●地域のクリニックに所属するかたちで、訪問栄養食事指導・居宅療養管理指導所を開設しています。10人の管理栄養士が在籍し、50人の栄養指導を行っています。一人につき、だいたい月1~2回程度訪問します。 川越●栄養指導を必要とする人はどんな人が多いですか。 米山●在宅で療養している高齢者がほとんどです。多くは認知症があって、腎臓病や糖尿病、腎臓病、摂食嚥下障害、低栄養の方で、認知症があったり骨折後に歩けなくなったりして通院できないような人たちです。がんの人も数人います。低栄養の人は、自分で食事を用意できないことも多く、ヘルパーさんの活用や買ってきたものでどうするかなど、今の環境のなかでできることを提案していきます。 川越●ただ「弱ってきたね」と言われるだけで、栄養に問題があることにすら気づかれない人も多いと思います。気づかないと介入が始まらない。医者は栄養学まで学んでいませんから、やはり専門職がいるといいですね。 実際の手技が少なく説明しにくい仕事 米山●管理栄養士は、診療報酬・介護報酬の制度上でもリハビリのようなわかりやすい手技が少ないので、医療者に対しても仕事内容を説明しづらいんです。 川越●たとえば栄養アセスメントでは、食形態や味、調理、お金のかからない工夫などの指導は、ご家族にもわかりやすい。あとは、疾患ごとにアプローチが異なる部分がありますね。 医師はカロリーのことは詳しくなくても、1ヵ月後に1kg太らせたいという指示は出せます。栄養状態が改善すれば肺炎のリスクも下がるし、サルコペニアは呼吸不全にもがんにも影響するので、筋肉を戻したいとか、そういう指示なら出せるかもしれません。 米山●漠然とした指示でも、私たちは患者さんの経済状態などを考えて介入していくので、先生たちは栄養士を上手に利用してほしいです。それに、「糖尿病になったらもう甘いものは食べられない」と考える人が多いのですが、私は食べたいものを食べながら、ほかの部分で調整して数値を下げるような指導を心掛けています。食と口腔のサポートでフレイルや低栄養が解決すると、車いすの人が杖をついて歩けるようになることもあります。 賞味期限切れが「見えていない」ことも 川越●月2回程度の介入で結果は出せますか。 米山●もちろん家族や本人、ヘルパーの協力があってこそですが、出せます。 食べたものを聞き取って、冷蔵庫の中を見てアセスメントできるのは、明確に数字を食品に置きかえられる管理栄養士だけだと思うんです。 川越●冷蔵庫の中を見て、朝昼晩何をどれくらい食べているかを聞けば、だいたいわかりますか。 米山●わかります。今日訪問してきた人も、最初は「冷蔵庫開けるの?」と抵抗していましたが、開けてみたら案の定、賞味期限が10年以上前の食品が出てきました(笑)。高齢者には食品パッケージの表示が見えていない人が多いんです。だから古いものがいつまでも冷蔵庫にしまわれている。 川越●それは盲点ですね。冷蔵庫だけじゃなくて、レトルト食品が多いとかお酒のびんが増えているとか、そんなところからも情報が得られますね。本人からの聞き取り以上に、よりリアルに食の実態がみえるんですね。 70歳を過ぎると食べかたが変わる 川越●たとえばリハの強度を上げようとすると、栄養も上げないといけない。それを医師がわかっていないので、低栄養の人がリハだけやっても筋肉はむしろ減っていくというような、本来あってはいけないことが行なわれている可能性があります。 米山●そういう例が実際ありました。早く私たちを呼んでくれればと思いました。 川越●たとえば骨粗鬆症なのに診断されていなくて、治療もしていない人はたくさんいると思います。骨折の既往歴があるだけでイエローカードなのに、診断名も薬の処方もされていない。 米山●そういう点からも、私は全国民が70歳になったら栄養チェックができないかと思っています。なぜなら70歳を過ぎると食べかたが変わってくるので、シニアの食事にシフトしないといけない。それを知ってもらうためにも、全員にアセスメントするくらいのほうがいいと思っています。 川越●シニアの食事とは? 米山●体内での栄養の吸収などが変化してくるので、食べかたも変えていかないといけない。なのにメタボな食事を気にしすぎて低栄養になっている人がたくさんいます。 川越●地域包括支援センターでスクリーニングをかけて、ハイリスクの人が洗い出せれば、そこに予防的に入ることができますね。管理栄養士の活躍が期待されます。 米山●在宅の栄養指導で結果を出すことで、管理栄養士が地域で必要とされる職種の一つにならなくてはと思っています。そして栄養ケア・ステーションとして、地域で啓発のための講話や料理教室などさまざまな取り組みをして、管理栄養士が独り立ちできるようにしていきたいです。 ー第8回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護 Next」2018年3月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

特集 会員限定
2022年10月25日
2022年10月25日

【セミナーレポート】vol.3 上手な活用のポイント/訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは

2022年7月22日(金)、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは」を開催。田中公孝先生を講師に迎え、医療・介護領域におけるICTの必要性や活用方法などを教えていただきました。セミナーレポート最終回となる今回は、ICTをより有効活用するために意識したいポイントをご紹介します。 【講師】田中 公孝 先生杉並PARK在宅クリニック 院長日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医/難病指定医2017年より東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに携わるかたわら、医療・介護分野におけるICTの普及活動に従事。市や医師会のICT事業にも参加する。2021年春には杉並PARK在宅クリニックを開業し、区内の医療現場でのICTによる多職種連携を牽引している。 目次▶ 【ポイント1】職種ならではの言葉を理解しようとする意識をもつ ・多職種連携を成功させるには『三方よし』の精神が必要▶ 【ポイント2】災害時にこそ、多職種でICTの積極的な活用を▶ 【ポイント3】ICTでの連絡頻度は、患者さんの状態によって判断 ・ICTでの連絡で訪問看護に期待されること▶ 【ポイント4】ICTを有効活用できるかどうかは関係性が左右する --> ▶︎ 【ポイント1】職種ならではの言葉を理解しようとする意識をもつ 多職種がICTを利用する体制を構築できると、『その職種ならではの言葉』を理解しやすくなります。たとえば、看護師さんからはよく「随伴症状」という言葉を聞きますが、介護職の方には伝わりづらいかもしれません。そんなふうにどの職種にもよく使われる専門用語があって、これがICT上で文字のコミュニケーションを重ねることで、徐々に理解できるようになる。すると、職種間の連携のハードルがどんどん下がっていきます。 また、ICTでこまめにやりとりをすることで、他職種の人の考え方やクセへの理解も深まるでしょう。個人的には、「文字化されることでお互いを理解しやすくなる構造」は、多職種連携を推進するための重要なポイントだと考えています。 多職種連携を成功させるには『三方よし』の精神が必要 近江商人の有名な理念に『三方よし』というものがあります。売り手と買い手だけでなく、世間にもいい影響を与える商売をしようという、私も大好きな考え方です。 この精神は、多職種連携にも通じるものです。具体的には、みなさんが売り手としてサービスを提供するとき、買い手である患者さんやご家族を満足させるだけでなく、他職種の人たちのことも意識してほしいという思いがあります。薬剤師やリハビリ職、ヘルパーなど、ケアに携わる全員がいいと思える形をつくることが、多職種連携を成功させるためには必要なんです。もちろん、ケアは常に利用者さん本意であるべきですが、職種間できちんと目線を合わせることも同じくらい重要なポイントだと思います。そしてそのためには、ICTを活用するなどして、ほかの職種が大事にしていることや背景を理解することが有効でしょう。 ▶︎ 【ポイント2】災害時にこそ、多職種でICTの積極的な活用を ICTを活用するなら、ぜひ災害時の備えになることも意識しておきたいですね。まず、電話以外に情報の入手・発信ができる手段があるという点だけでも大きな価値があります。そして、ICTを多職種で活用することで、お互いにほかの職種がもっている情報を入手できます。災害時は情報が勝負になるので、幅広い情報をタイムリーに入手できることはとても有益です。また、最近はBCPも業界で注目のテーマとなっていますが、その観点でもICTは活躍してくれます。利用者さんの情報を共有することで、より確実に、効率的に安否確認ができるでしょう。 ▶︎ 【ポイント3】ICTでの連絡頻度は、患者さんの状態によって判断 「ICTでの連絡はどれくらいの頻度でするのがいいですか?」という質問をよくいただきますが、そこは患者さんの状態に応じて判断するといいでしょう。病状が不安定な方や、介入してからまだ日が浅い方の場合は、比較的まめに情報を共有するべきです。一方で、生活が落ち着いている方の場合は、たまにでいいと思います。 頻回共有が必要なケースとしては、やはり終末期が挙げられます。お看取りの直前は、強い疼痛や不眠などが頻繁に見られる事例があり、その際はレスキュー、眠剤の使用も多くなりがち。少なくとも終末期の患者さんにはICTでやりとりができる訪問看護ステーションと連携できるとありがたいと思っています。すでに東京都では、医師に合わせてICTを導入している訪問看護ステーションが増えている状況なので、この動きがさまざまな地域にもぜひ広がってほしいですね。 ICTでの連絡で訪問看護に期待されること 訪問看護師のみなさんにまずお願いしたいこととしては、ご家族の発言や不安、臨時対応についての情報共有です。こちらは先にお伝えした連絡頻度の目安にかかわらず、ぜひ連絡してください。 また、ほかの職種より高頻度で訪問されている訪問看護師さんだからこそできる提案も積極的にしてほしいですね。例えば末期がんの患者さんなら、麻薬のベースアップや排便コントロールなど。それから、今後は独居の高齢者の見守りも増えていくと思うので、そうした情報も多職種に連携していただくことを期待しています。 ▶︎ 【ポイント4】ICTを有効活用できるかどうかは関係性が左右する ICTを効果的に活用するためには、メンバーの関係性が重要になります。「こんなこと聞いていいのかな」と思わない・思わせない関係がないと、ICTを導入したものの、情報がまったく共有されないという結果になってしまいます。つまり、『ICTが入るとチームの連携がよくなる』のではなく『日々コミュニケーションがとれている関係の中で、ICTがよりよく活きる』と考えるべきなんです。 また、ICTを導入した後も、それだけに頼ることはおすすめしません。ずっと文字だけでやりとりをしていると、どうしてもニュアンスがずれるなどの課題が生まれてしまいます。電話や対面でのコミュニケーションもしっかりとりながら、ICTを併用してもらえるといいと思います。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年10月25日
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[4]訪問看護における優先業務・重要業務について考えてみよう

この連載では「訪問看護BCP研究会」の発起人のお一人、日本赤十字看護大学の石田千絵先生に訪問看護事業所ならではのBCPについて解説していただきます。今回は、BCP策定において悩むことの多い、優先業務・重要業務の選定について具体的に教えていただきます。 【ここがポイント】・優先業務・重要業務は、手順を踏んで検討することで選定が可能です。・その手順とは、平常業務をリストアップし、業務トリアージ(被災時の「継続」「縮小」「中断」)を行います。そして、業務トリアージで「継続」となった業務を優先業務・重要業務と考えます。 第4回は「優先業務・重要業務の選定」を中心に学んでいきたいと思います。全国訪問看護事業協会が作成した「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」の「1.総論」にある「優先業務の選定」の部分です。 ひな形の例では、「優先業務は、訪問看護ステーションの存続に関わる最も重要性・緊急性の高い事業のことで、訪問看護ステーションの場合は、訪問看護業務になる。訪問看護業務の再開の判断基準の検討、訪問看護利用者の中で優先する順位の検討、目標復旧時間を検討しておく」1)と記されています。 このひな形の例は、2021年度末に、私が所属しているBCP研究会メンバーが作成したものですが、現在はもっと具体的、かつわかりやすく示せるようになりました。当時は、訪問看護事業所の業務を「訪問看護業務」とだけ記載していましたが、そのほかにも重要な業務があります。現在は、ワークシートを使って、平常業務や業務の内容、リソースの把握、対応を検討することで、すべての業務から継続すべき業務(優先業務・重要業務)を選定する方法をBCP研究会では提案できるようになりました。では、その方法を以下でご紹介いたします。 優先業務・重要業務の選定の手順 ①平常業務をリストアップする まず、表1のワークシートを用いて平常業務をリストアップしましょう。このワークシートにはBCP研究会メンバーのケアプロ株式会社の例を示していますので、参考になさるとよいと思います。 具体的には「訪問看護業務」「記録業務」「請求業務」「スタッフ管理業務」「労務関連業務」「会議・委員会等業務」「物品管理業務」「地域活動業務」「経理管理業務」「その他」とあります。業務名や種類は自由に変更させてよいので、自施設の平常業務を『見える化』します。 ②業務内容を記載する 次に、それぞれの業務の具体的な内容を記します。例えば、「訪問看護業務」であれば、医療ニーズの高い療養者への訪問看護や内服管理を目的とした利用者への訪問看護といった具合です。よくわからない場合は、平時に行っている具体的な業務を表に当てはめてみてください。必要時、後で見直しましょう。 ③業務トリアージを行う そして、ハザードリスクの高い災害などを想定し、発災後にこれらの業務を継続するか(継続)、縮小して継続するか(縮小)、中断するか(中断)という業務の振り分け(業務トリアージ)をします。その際、「72時間以内」「72時間~1ヵ月以内」「1ヵ月以降」の時間軸で検討し、表に「継続」「縮小」「中断」の文字を記載してください。 トリアージとはフランス語で「振り分ける」という意味です。BCP研究会では、業務の振り分けを「業務トリアージ」と呼んでいます。業務トリアージでは、発災後の大変な状況でも継続し続けないとならない業務か、縮小しながらも継続しなければならない業務なのか、一旦中断をしてもよい業務なのかを振り分けます。 発災後に振り分けることは困難ですし、事前に振り分けておくと、安心して優先業務・重要業務を後回しにせずに対応することができるようになります。また、縮小した業務や中断した業務について、3日、1週間、10日間、1ヵ月、2ヵ月といった時間軸のどこで再スタートするかなど、決めていく必要があります。これらは、「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」の「2.平常時」「3.緊急~復旧における事業継続にむけた対応」に係る内容になってきますので、この連載の第5回以降で説明をしていきたいと思います。 ④優先業務・重要業務の選定 ③で「継続」と選定した業務を、「優先業務・重要業務」と考えます。 表1 優先業務・重要業務の選定(ワークシート) 復旧目標の考え方 この連載の第2回で復旧目標を1ヵ月単位で考えることを推奨していますと説明したように、大規模な自然災害を想定していても、被災状況を完全に想定することは困難です。また、リソースの中でも「カネ」や「ヒト」に関する問題が1ヵ月単位で変化することがわかっていることから、今回用いている表でも、1ヵ月を目途に作成しています。みなさんの復旧目標の考え方によって、時間軸を変えてもよいと思います。 * 前回から実践的な内容となってきましたので、自施設に照らし合わせて作成をしながら読み進めてはいかがでしょうか? この連載が終了するころには、BCP策定を一度終えることができるだけでなく、研修や見直し(BCM)についても検討できるようになっているかもしれません。 執筆 石田 千絵日本赤十字看護大学看護学部地域看護学 教授 ●プロフィール1989年聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業後、聖路加国際病院他で勤務。1995年阪神淡路大震災および地下鉄サリン事件を契機に、地域×災害に関わる教育や研究を始めた。災害の備えは「平時に自分らしく生き、かつ、社会的によい関係性を保つこと」がモットー。看護学博士。 「訪問看護BCP研究会」とは、2016年にケアプロ株式会社、日本赤十字看護大学、東京大学他の仲間による訪問看護×BCPに特化した研究会。毎月1~2回程度で研究や研修などを行っている。▼訪問看護BCP研究会のホームページはこちら ※記録様式のダウンロードも可能です。 記事編集:株式会社照林社 【引用文献】 1)全国訪問看護事業協会.「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」,2020,p.12.

コラム
2022年10月25日
2022年10月25日

ALS患者最大の選択肢。気管切開するか? しないか?

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、気管切開をするかしないかの葛藤を経て、ALS患者さんや支える人に伝えたい梶浦さんのメッセージです。 ALS患者が通る大きな決断 ALS患者は、その診断名を告げられてから、つらい選択肢をいくつも乗り越えていかなければなりません。仕事をやめるタイミングや、自分で食べることを諦めて人に食べさせてもらうタイミング、歩くことを諦めて車いすで移動するタイミングなど、さまざまなことを決断しないといけません。 そのなかでも大きな決断は、「胃瘻を作る手術をするか?」「気管切開をして侵襲的人工呼吸療法(TPPV)を行うか?」だと思います。 「胃瘻を作る手術をするか?」に関しては、第7回でも書きましたが、早期に行うことを強くおすすめします。ALSでは栄養療法がとても重要ですし、嚥下が困難になったときの栄養や薬剤の投与経路を確保する点でも、とても大切です。 「気管切開をするか?」に関しては、多くの患者さんがいちばん悩むところでしょう。 気管切開をするか? しないか? 気管切開をするほうがよいのか・しないほうがよいのかについては、簡単に答えが出せる問題ではありません。患者さん自身を取り巻く環境や、人生観によって大きく左右されることになります。 最終的には本人が決めていくことになるのですが、本当は生きたいのに、家族に負担をかけたくないという思いから気管切開を諦める人もいます。体も動かせず、声も出せない状態になることが想像できず、生きていける自信がないという理由から気管切開を決断できないでいる人もいます。また、残念ながら医療者側の無知により、気管切開をする選択肢を奪われてしまう人もいます。 そのような理由から、日本のALS患者で気管切開を行う人はわずか20~30%にとどまります。この数字を見た人の多くは、やはり気管切開をして生きていくことはハードルが高く、過酷な選択であると感じるでしょう。 しかし、本連載の第4回でも書きましたが、欧米では気管切開を行う人は数%~10%強ですので、世界からみたら日本は飛びぬけて気管切開を行う人が多い国ととらえられています。その理由はさまざまだと思いますが、大きな理由として上げられるのは、日本は非常に医療福祉に厚い国であることでしょう。 公助を上手に使いましょう 重度の肢体不自由者などの要件を満たす患者さんであれば、障害者自立支援法の重度訪問介護制度の対象です。重度訪問介護を使えば、介護保険とは別にヘルパーによる訪問介護サービスを受けることができます。一人ひとりの身体状況や同居家族の状況などをふまえて各市町村がサービス時間を決定するのですが、最大で一日24時間365日のサービスを受けている人もいます。(市町村ごとに独自の決定権があるため、市町村によってバラつきがあるのが難点ですが…。患者・家族が粘り強くサービスの必要性を訴えていかないといけません。) この重度訪問介護による訪問介護サービスと、介護保険による訪問介護サービスはそれぞれ独立した制度ですので、これらをうまく組み合わせれば、多くの時間を家族以外の人に支援してもらえるようになり、家族の負担を軽減できるようになります。 介護の基本は「自助→共助→公助」ですが、ALS患者は自助や共助ではどうしようもできない段階が来ます。なので公助をうまく使い、生きやすい環境を整えてください。 諸外国と比べても、こんなに手厚いサービスを受けられる国などなかなかないので、日本人に生まれてきて本当によかったなぁとつくづく思います。日本という国は気管切開して人工呼吸器をつけて生きていくには、とても恵まれた環境にあると思います。 気管切開をするか、しないか、悩んでいるALS患者さんへ さまざまな心の葛藤があるかと思います。しかし、「生きたい」という気持ちがあるのであれば、どうぞそのお気持ちを大切になさってください。私は大学病院で医師をしていたころ、生きたいと思っていても、生きられなかった患者さんを何人も見てきました。生きたい気持ちがあり、生きられる選択肢がある自分はまだ幸せなのだなぁと思ったりもします。気管切開をして、この先どうなっていくのかは私自身もわかりません。つらいこともあると思います。でも私は気管切開を行うことで呼吸苦から解放されて、たくさんの幸せな時間を過ごすことができています。そのことを考えたら、この先どんな状況になっても、気管切開をしたことを後悔はしないだろうなと思っています。 この文章は、気管切開をするかどうか悩んでいたALS患者さんから相談を受けたときに、私が送ったメールの一部です。その人からは、先の見えない不安や恐怖と闘いながらも、心の底にある「生きたい」という気持ちが伝わってきました。今は無事に気管切開を終えられています。 これはあくまでも私個人の考えかたです。気管切開をしないという考えかたを否定するものではありません。気管切開をしないという決断も立派な選択肢の一つだと思います。 ただ、この記事が、同じ心の葛藤を抱えたALS患者さんの「生きたい」という気持ちに少しでも寄り添い、心の支えになれたら嬉しいです。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇荻野美恵子.『日本におけるALS終末期』臨床神経.48,2008,973-5.

特集 会員限定
2022年10月18日
2022年10月18日

【セミナーレポート】vol.2 ICT活用の成功事例/訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは

2022年7月22日(金)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは」を開催。田中公孝先生を講師に迎え、医療・介護領域におけるICTの必要性や活用方法などを教えていただきました。全3回に分けてお届けしているセミナーレポートのうち、第2回となる今回は、田中先生が実際に見てきたICT活用の事例と分析をご紹介します。 【講師】田中 公孝 先生杉並PARK在宅クリニック 院長日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医/難病指定医2017年より東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに携わるかたわら、医療・介護分野におけるICTの普及活動に従事。市や医師会のICT事業にも参加する。2021年春には杉並PARK在宅クリニックを開業し、区内の医療現場でのICTによる多職種連携を牽引している。 目次▶ 【事例1】時間外対応の細かな内容把握が可能に ・緊急連絡にICTは基本的にNG。チーム内でルール確認を▶ 【事例2】終末期の情報共有における負担を軽減▶ 【事例3】独居見守りにおける、多職種での情報交換が迅速に▶ 【事例4】地域とのつながりが明らかになり、より行き届いたケアを実現 --> ▶︎ 【事例1】時間外対応の細かな内容把握が可能に 訪問看護ステーションで22時過ぎに患者さんから電話相談を受けた。相談内容について、看護師による回答を含めた詳細と、その後は患者さんからとくに連絡がなかった旨を、看護師がICTで報告。医師は翌日の朝に内容を確認。時間外対応の情報を無理なく報告することが可能になり、医師もこれまで把握できなかった情報を得られるようになった。 この事例からわかるのは、ICTを活用すれば、夜間や土日などの時間外対応の情報を関係者が無理なく把握できるということです。勤務時間外の患者さんの状況について、担当者以外はなかなか把握しにくい状態にありますよね。もちろん、緊急性が高いケースでは、電話で情報共有がされているでしょう。しかし、「電話をかけるほどではない」と判断された情報は、ほかの事業所に伝達されないケースも多いのではないでしょうか。ICTは、電話と違って受け手が無理のないタイミングで情報を確認できるため、緊急性が低い内容も報告しやすくなります。そうして多くの情報が入ってくることで、患者さんの状態の理解や今後の予測がしやすくなるのです。 緊急連絡にICTは基本的にNG。チーム内でルール確認を ただし、緊急対応にICTが適さないことは、チーム全員が理解しておく必要があります。「土日に書き込んだ情報を相手が見るのは、週明け月曜日になる可能性がある」という前提で使わないと、トラブルを招きかねません。ICTを導入する際は、最初にチーム内で『目線合わせ』をきちんと行うことが重要です。 ▶︎ 【事例2】終末期の情報共有における負担を軽減 終末期の患者さんのケアを行う際、訪問看護師が容態(意識レベルや排尿量、血圧、脈拍、SpO2など)やご家族の様子をICTにて都度報告。看取りの際は、医師が死亡診断と死亡時刻、およびその場の状況などをICTに報告。関係者の疲弊を防ぎながらスムーズなお看取りにつながった。 一日でダイナミックに状態が変わることも多い、つまり連絡頻度が極めて高くなる終末期の情報共有は、ICTが最も活躍するといっても過言ではない場面です。すべての報告を電話で行っていると、関係者はかなり疲弊してしまいますからね。電話で細かなニュアンスの確認をする機会はもちろん必要ですが、とくにお看取りが近いタイミングの報告には、ぜひともICTを活用したいところです。私の場合は、終末期の患者さんのケアには、ほぼすべてのケースで訪問看護師さんにICTを使っていただいています。私もお看取りの際には、ICTで死亡診断と死亡時刻などを必ず報告します。これをやっておくと、ターミナルケア加算の算定にも便利です。 ▶︎ 【事例3】独居見守りにおける、多職種での情報交換が迅速に 独居の方への訪問時、軽度の症状や日々のケアの中で気になったことなど、細かなことをICTで共有。服薬管理がうまくいっていないなどの課題を報告することで、多職種で迅速に改善方法を模索することも可能に。 こちらは、ICTの可能性を別の角度からお伝えするための事例です。独居の方のケアでは、職種間の連携が課題になるケースが多く見られます。たとえば服薬管理なら、看護師さんは「患者さんがうまく服薬できていないので、もっと工夫してほしい」と望んでいるものの、薬剤師側は「訪問回数などの兼ね合いで責任をもちきれない」と考えるなどといった具合ですね。 このような状況では、まず関係者全員が情報をこまめに把握できる状態をつくることが望まれます。ご自宅に連絡帳を置いて情報共有する方法もありますが、連絡帳を確認するには、現場に行かなければならないため、課題をタイムリーに認識することが難しい。場合によっては、一週間以上経って情報が伝わることもあるでしょう。しかしICTなら、訪問しなくても情報をキャッチすることが可能。質の高いケアを目指しやすくなるでしょう。 ▶︎ 【事例4】地域とのつながりが明らかになり、より行き届いたケアを実現 医師が訪問時、同じタイミングで地域の民生委員の方が訪問。患者さんがその方から生活のサポートを受けていることを把握。また、民生委員の方から「ゴミ出しがうまくできていない」「新聞を複数契約してしまっている」などといった情報を入手し、併せてICTで関係者に共有。情報を受け、ケアマネージャーが積極的に介入するようになった。 この事例から伝えたいのは、幅広い情報を共有しやすくなるというICTのメリットに加えて、『実は私たち専門職が見えている範囲は狭いかもしれない』ということです。みなさんの中には、患者さんだけでなく、そのご家族まで見ている方も多いでしょう。しかし、患者さんが独居や二人暮らしの場合は、地域の方々が深く関わっていることもある。そんなケースでは、家族以外との関係にも目を向けられるのがベストです。まさにこの事例では、民生委員さんとの連携が生まれ、日常生活の困りごとを専門職間で共有できたことで、よりケアの質が高まりました。 すべてのケースにおいて地域の方との関係を意識する必要はありませんが、「地域包括支援センターからケアマネージャーさんにサポートが切り替わると、地域とのつながりが途切れてしまうケースもある」という話は耳にするので、紹介しました。これから独居高齢者を支えていくためには、地域資源の存在を意識することがより必要になっていくのではないでしょうか。 次回は、「vol.3 ICTの上手な活用のために知っておきたいポイント」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年10月18日
2022年10月18日

[3]訪問看護BCPをリソース中心に考えてみよう

この連載では「訪問看護BCP研究会」の発起人のお一人、日本赤十字看護大学の石田千絵先生に訪問看護事業所ならではのBCPについて解説していただきます。第3回からいよいよ実践的な内容に入っていきます。今回は、全国訪問看護事業協会が作成したBCPのひな形を参照しつつ、リソース(資源)を中心に考えるBCP策定について教えていただきます。 【ここがポイント】・BCPにおけるリソース(資源)は、事業継続に必要な「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つに分けて考えることができます。・事業者にとっての災害は「事業継続のためのリソースが足りなくなること」であり、リソースの確保と、それを活用するための手立てを整えておくことがリソース中心のBCPといえます。 今回は、全国訪問看護事業協会が作成した「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」のうち、「Ⅱ 訪問看護ステーションの事業継続計画(BCP) 考え方と記載例」を参考に進めていきたいと思います。 このガイドラインの「1.総論」にまとめられている「基本方針」「推進体制(災害時の対応体制)」「事業所周辺のリスクと被害想定」について具体的に学んだのちに、「2.平常時の対応」と「3.緊急時(~復旧における事業継続にむけた対応)」の要となるリソース(資源)に注目したBCP策定の考え方をご紹介します。 基本方針 BCPのひな形の最初に記すべき事柄が「基本方針」です。事業所の基本方針、または災害対策における基本方針を記載します。BCP策定における基本方針となりますので、概ねの方針だけでも記しておくと一貫性のあるBCPをつくることができると思います。 また「基本方針」は、被災後の「想定外」な出来事への対応の判断基準ともなり得ます。BCPで災害発生後に起こり得る事象を時間軸に応じて想定し、あらかじめ対策を検討しておいても「想定外」な出来事が起こりますので、被災後で混乱している状況下での適切な判断・行動の指針としても「基本方針」が大切なのです。 「基本方針」の記載例1には、「災害時には、事業所職員の命と安全を第一に守り、担当している利用者の安否確認、安全確保に尽力し、早期の事業の復旧、継続を目指す」1)とあります。この事業所の例では、看護職の職務を全うする以前に、「職員の命と安全を第一に守る」とされている点がポイントとなります。BCP策定においても、「想定外」の出来事が起きた場合でも、「職員の命と安全を守る」という方針に基づいて検討することになります。 推進体制(災害時の対応体制) 推進体制として「主な役割」「部署・役職」「氏名」「補足」ほかを示します。責任者・災害対策本部長、スタッフ情報管理担当、利用者・家族情報管理担当、労務管理担当、設備インフラ担当などの「主な役割」に対して事前に役割を決めておきます。その際、それぞれの役割担当者に対して、リーダーやサブリーダーを配置できるとよりよいです。災害対策や災害マニュアルで取り決めてきた体制を記載するか、BCPの視点で役割を検討して示します。ヒト(スタッフ)・ヒト(利用者/家族)・モノ・カネ・情報に関して網羅されているか、確認をしてください。 事業所周辺のリスクと被害想定 ハザードマップを活用 自然災害のリスクは、市区町村のホームページなどで公開されている「ハザードマップ」で調べましょう。 「ハザード(hazard)」とは日本語で、災害などの危険・危機や、その原因となるものであり、具体的には、地震・洪水・津波・火山、病原菌・ウィルスなどを指します。ハザードマップは、河川や津波による水害、台風や地震による土砂災害など、ハザードの種類毎に危険度が示されたマップ(地図)です。ハザードマップを確認することで、災害の種類ごとに異なる事業所周辺のリスクを適切に把握することができます。 余談ですが、「災害」と「ハザード」は同意語ではありません。災害は、ハザードに人や社会の脆弱性が重なったときに起こるものです。通常地震が起こりにくい国ですと、震度5強の震災で多数の家が倒壊し、多数の死傷者を伴う災害として報道されることがありますが、日本の建築基準法に基づいた家屋であれば倒壊しないことも多く、さらにほかに被害がない場合、「災害」にはならないのです。地震などのハザードを防ぐことはできませんが、地震による災害はある程度の予防ができるのです。 交通やライフラインに関する被害を想定 被害想定としては、市区町村全体でどのようなハザードがあるのか、ハザードにより交通やライフラインに関する被害の想定をするとよいです。例えば、「A町では、〇〇地震が30年以内に70%の確率で起こり、最大で震度6が想定されている。また、毎年のように台風の被害があり、河川の氾濫により事業所が水没する可能性がある」などです。 次に、ハザードマップで最も危険度が高く示されている事象を選択し、想定された被害について具体的にシミュレーションしてみましょう。「震度6の場合、△△線の不通と▲▲通りの閉鎖が想定され、電車や車での訪問は困難になる」「ライフライン(電力・ガス・水道など)」は、「事業所の電力の停電でPCの使用不可・充電不能、固定電話の使用不能、ガスの使用不可、水道の不通により飲料水・手洗いの使用不可」などです。自施設で影響を受ける想定と同時に、それらがいつまで続くのかを想定しておきます。(▶参照ひとくちメモ「ライフラインの応急復旧のめど、どう立てるの?」) 被災から10日程度の自施設を中心とした事象について、より具体的に想定ができるようになると、災害直後から10日程度の対策も十分に検討することができます。もしも、被災状況の時系列での変化が想定できない方は、 BCP を策定したのちに、改めて過去の震災や自然災害の記事をみなさんで読んだり調べたりするような研修も計画されるとよいと思います。まずは、一度、粗くてもよいので、BCP策定を進めていくことをおすすめします。第3回の内容を概ね検討できましたら、第4回の「優先業務・重要業務の選定」に進んでください。 なお、「1.総論」には「研修・訓練の実施」「BCPの検証・見直し」など、事業継続マネジメント(BCM;Business Continuity Management、以下BCMとする)を記す項目が残されていますが、BCMについては第8回で説明をいたします。 リソースに注目したBCP策定の考え方 「1.総論」の推進体制でも責任者・災害対策本部長という災害時の体制のほか、ヒトや情報(スタッフ情報管理担当、利用者・家族情報管理担当)、モノ(設備インフラ担当)・カネ(労務管理担当)というように、ヒト・モノ・カネ・情報といったリソース(資源)の視点で確認をしてきました。事業継続に必要なものも同様に、リソース(ヒト・モノ・カネ・情報)で表すことが可能です。それは、リソースの視点から災害を再定義することができるからです。 先ほど、災害とハザードの関係を説明しましたが、事業所にとっての災害とは、「災害現象によって事業の継続に支障が出る、あるいは事業が継続できなくなること」と言い換えることができます。また、事業継続ができなくなる理由もリソース不足によるものであることから、「事業継続のためのリソースが足りなくなること」が事業者にとっての災害であると再定義できます。このようにリソースの観点から災害を再定義しますと、地震などのハザードが生じても、事業継続のためのスタッフ、カネ、医療資器材などのリソースが潤沢であれば、事業継続は可能であり、事業者にとっては災害にはならないのです2)。 「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」の「2.平常時の対応」と「3.緊急時(~復旧における事業継続にむけた対応)」がリソースに注目したつくりになっているのは、リソース中心のBCP、すなわち「リソース不足が起こることを想定したリソースの確保と、それを活用するための手立てを整えておくこと」2)が、ハザードを災害にしないための重要なポイントとなるためです。 * 次回は、「1.総論」の中でも策定でつまずくことの多い「優先業務・重要業務の選定」を中心に学んでいきたいと思います。「2.平常時の対応」と「3.緊急時(~復旧における事業継続にむけた対応)」では重要業務・優先業務のリソースについて検討していきますので、とても大切な部分になります。 ひとくちメモ ライフラインの応急復旧のめど、どう立てるの?電気・ガス・水道が大規模地震で使用できなくなった場合、できなくなった理由にもよりますが、過去の震災ではガスよりも電気の復旧が最も早いことが知られています。 東京都防災会議によりますと、電気の応急復旧は、23区部で7日、多摩で7日。上水道は23区部で31日、多摩で13日、下水道は区部で16日、多摩で4日。ガスは57日、電話は区部で14日、多摩は8日で応急復旧がなされることが想定されています3)。 各都道府県の防災会議などで被害想定やライフラインの応急復旧想定がなされていますので、一度確認されるとよいです。それらの情報は、「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」のひな形「1.総論 5)災害情報の把握」に災害情報収集先とURLなどを記す欄がありますので、記載しておくとよいでしょう。 施設の場合では、ライフラインの復旧は業務継続にとってより重要な要件となります。訪問看護事業所では、業務継続に施設ほどの直接的な影響はないのですが、間接的な影響を与えます。電気が通らないことによるPCやスマートフォンの充電、固定電話の使用ができないなどの情報に関わる問題や、呼吸器を装着している利用者への対応などです。 特に呼吸器装着者などの利用者にとっては、命にかかわる重要な問題が関係していますので、いずれにしても、災害時のライフラインについての想定は必要です。 執筆 石田 千絵日本赤十字看護大学看護学部地域看護学 教授 ●プロフィール1989年聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業後、聖路加国際病院他で勤務。1995年阪神淡路大震災および地下鉄サリン事件を契機に、地域×災害に関わる教育や研究を始めた。災害の備えは「平時に自分らしく生き、かつ、社会的によい関係性を保つこと」がモットー。看護学博士。 「訪問看護BCP研究会」とは、2016年にケアプロ株式会社、日本赤十字看護大学、東京大学他の仲間による訪問看護×BCPに特化した研究会。毎月1~2回程度で研究や研修などを行っている。▼訪問看護BCP研究会のホームページはこちら ※記録様式のダウンロードも可能です。 記事編集:株式会社照林社 【引用文献】1)全国訪問看護事業協会.「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」,2020,p.10.2)菅野太郎著.「リソース中心のBCPの考え方」,BCP研究会編著.『訪問看護事業所のBCP』,東京,日本看護協会出版会,2022、p.30-31. 3)東京都防災会議.「東京都における直下地震の被害想定に関する調査報告書」,1997.

インタビュー
2022年10月18日
2022年10月18日

入院によるサルコペニアがフレイルを招く

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第6回は、高齢者の入院後・治療後に寝たきりにさせないため、早期の栄養介入やリハビリが必要と訴える若林先生。フレイル、サルコペニア予防について在宅医療関係者にもぜひ知ってほしい。(内容は2019年1月当時のものです。) ゲスト:若林秀隆1995年横浜市立大学医学部卒業。2016年東京慈恵会医科大学大学院医学研究科臨床疫学研究部卒業。専門はリハビリテーション栄養、サルコペニア、摂食嚥下障害。対談当時は横浜市立大学附属市民総合医療センター所属。 長生きをすれば誰でもフレイルになる? 川越●今日はフレイル、サルコペニアについて教えていただこうと思います。在宅を支える専門職のなかには、この二つの厳密な違いを理解していない人が多い印象です。 若林●定義でいうと、サルコペニアは「筋肉が減って筋力が落ちている状態」です。若い人でも筋力は落ちるので、定義では「加齢」が外され、「進行性、全身性の骨格筋疾患」とされていますが、長生きをすれば誰だってなりえます。 川越●身体機能も含めると、フレイルとかなり近いですね。 若林●フレイルは、要介護の前段階というとわかりやすいと思います。フレイルの主な原因は、サルコペニア、低栄養、ポリファーマーシー(多剤服用)といわれていますが、ほかにも活動量不足、疾患や認知症の影響などがあります。 身体的な面だけでなく、精神的フレイル、社会的フレイル、オーラルフレイルとさまざまあって、実はややこしいんです。 在宅療養者は肺炎になっても入院させない 川越●よく「高齢者が肺炎で入院すると2週間後には寝たきりになっている」といわれますが、絶対安静、禁食となったら、当然でしょうね。 若林●サルコペニアは急性期病院でつくられる場合が多くて、栄養サポートとリハを行えば改善する可能性もあります。でも肺炎などで入院すると、ほとんどの場合サルコペニアは進んでしまいます。なぜかというと、肺炎だと体内で炎症が起こっていて、炎症があるときは、自分の筋肉を分解してエネルギーをつくるからです。 川越●私のところでは肺炎になっても9割がたは入院させません。高齢者の場合、入院すると必ずせん妄が起きるし、せん妄が起きたら間違いなく縛られます。家にいたらせん妄は起きにくいし、少なくともトイレは自力で行くし、抑制もしない。食べられるうちは食事もするから禁食もしません。 若林●それが正解です。入院させないのが一番なんです。嚥下に関しても、病院ではリスク管理的に禁食にしがちなので、基本的には在宅でやったほうがいい。環境因子的には、在宅のほうが嚥下機能・認知機能に良い影響を与えていて、病院のほうが悪いんですね。 ベストは入院しないこと。入院しても、一日も早く退院することです。 川越●環境因子の影響を知っているかどうかは重要ですね。 若林●私も在宅リハを10年以上やっていますが、在宅での評価は入院中とは違うことに気づいている医療者は少ないと思います。 低栄養改善にはたんぱく質が重要 川越●低栄養と身体機能の関係についてはどうでしょう。 若林●低栄養の原因は三つあります。一つはエネルギー不足・たんぱく質不足で、拒食症や、入院中に禁食で不適切な点滴だけ、といった人などです。二つめは侵襲です。骨折や手術、誤嚥性肺炎の急性期などで炎症が強い場合、人の体は一日に1kg自分の筋肉を分解することもあります。三つめは悪液質です。がん、慢性心不全、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などで認めることが多いです。 川越●どのようにすれば栄養改善できるんでしょうか。 若林●エネルギーとたんぱく質を多めにとることです。しかし、その攻めの栄養管理が今の栄養サポートではできていないことが多いです。 川越●在宅の場合、そもそも何キロカロリーとれているかも難しいものです。 若林●細かく把握しなくても、むくみ以外で体重が増えていて、ざっくりエネルギー量とたんぱく質がとれていればよいと判断します。たくさん食べられない人が太るためには、こまめに間食や夜食をとることをおすすめしています。 栄養と運動はセットで 川越●リハが大事なことは介護職も含めてみんなわかっていますが、本当は運動と栄養とセットでやらないと効果がない。でも栄養の知識は、医療者も介護者も不足しています。 若林●なぜサルコペニアになるのかを考えたときに、運動は頑張っているけど力が出ないという人が多いんです。つまり食べていない。 筋トレで一度筋肉を分解した後、たんぱく質やエネルギーがあって初めて筋肉をより合成できるので、運動だけして栄養をとらないと、結局筋肉はつくどころか落ちていきます。 川越●なのに在宅高齢者には三食炭水化物という人が実際にいて、たんぱく質が圧倒的に不足しています。訪問リハが入っていれば、それだけで運動できていると思っているのも深刻です。「歯科衛生士が週1回口腔ケアに行けば歯磨きしなくていい」とは誰も思わないのに、リハはリハ職が訪問したときだけでいいと、みんな誤解しています。 若林●リハの定義が正しく理解されていないからでしょうね。セラピストが行うのは機能訓練などですが、その人の生活機能を高めることすべてがリハビリです。サルコペニアから寝たきりになるのは、活動量減少、栄養不足、疾患などが原因で、全員が改善するのは難しいですが、改善可能性のある人も確実にいます。在宅でも質の高いセラピストや管理栄養士が介入することで、改善できるものは改善させないといけません。 川越●たいへん勉強になりました。 ー第7回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護 Next」2019年1月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

特集
2022年10月18日
2022年10月18日

安心感をどう作るか⑤ 感染症版BCPの作成

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第6回は、第4回・第5回に続き、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の野崎加世子さんです。 お話野崎加世子岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山 管理者 BCP(業務継続計画)の作成が、診療報酬・介護報酬上でも、強く求められるようになりました。今回は、そのうちの感染症版BCPについての話ですが、感染症版BCPについては、厚生労働省のHPで「新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」が発行されており、私たちの訪問看護ステーションでも、それを参考にBCPを策定しました。そのプロセスで最も重視したのは、「自分たちのこととしてBCPを作成する」という強い姿勢です。 自分たちのBCP 私たちの訪問看護ステーションでの感染症版BCPは、「感染対策委員会」と「BCP委員会」の共同で策定しました。これは、同BCPの策定は、「感染症対応マニュアル」の刷新と切り離せないという考えかたによります。 その過程で重視したのは、管理職などの委員会のメンバーだけではなく、すべてのスタッフが、「自分のこと」「自分の課題」として積極的に策定に参画するということでした。「自分が感染したらどうするか?」「自分が濃厚接触者になったらどうするか?」「そのとき、自分の家族はどうするか?」「自分が担当している利用者への訪問はどうするか?」「自分のチームのメンバーが訪問に行けなくなったらどうするのか?」そのようにスタッフに問いかけていきます。 事業の継続を個人目線でみれば、「今の仕事が続けられるかどうか」です。それは、「いかにして、自らの生活と利用者の健康を守るか」という真剣な問いであり、感染症版BCPの策定に参画することで、「他人事ではない」といった当事者意識が芽生えます。 しかし、そうした問いに関する回答は容易ではありません。スタッフの考えかたと事業所の方針とを合わせながら、具体的な回答を見つけ出すプロセスで、当事者であるスタッフは、「安心」を手にします。 具体的なシミュレーション もしも○○となった場合にはどうするか?──感染症BCPの策定プロセスは、具体的なシミュレーションの積み重ねです。たとえば、このように決めていきます。 チーム5人で訪問看護を行なっていたとします。うち1人が濃厚接触者になって訪問から離脱した場合は、チーム内で補い合い、現行のサービスを維持します。 2人が濃厚接触者になった場合は、ほかのチームから応援し、現行のサービス量を何とか保ちます。 3人が濃厚接触者になり、チーム内の戦力が2人になった場合には、現行のサービス量の維持は困難になるものと考えます。そこで、訪問の回数を調整したり、ご家族でできるところをお願いしたりします。ふだんから、もしものときにご家族の協力をどこまで得られるか、セルフケア能力をアセスメントしておくことが重要となります。また、かかりつけの診療所などにも協力を求め、訪問診療時に家族ケアを行なってもらうなど、あらゆる可能性を視野に入れた計画を立てます。 法人としての対応 感染または濃厚接触者になった場合の休業の扱いについても、法人として確定しておく必要があります。私たちの事業所では、「業務命令」として自宅待機してもらう観点から、感染したり、濃厚接触者になったりした場合には、「特別休暇」扱いとして給与を支給します。 スタッフは、それを知ることで、安心して働くことができます。 自然災害版BCPとの違い 自然災害版と感染症版のBCPは、共通点が少なくありませんが、明らかな違いもあります。その一つは「予防」の視点です。 自然災害に対して、私たちはきわめて非力です。ところが感染症の場合は、感染予防を行うことで感染拡大を未然に食い止めることができます。この点が、感染症対応マニュアルとセットで考えることが求められる理由です。 地域連携の内容も自然災害版BCPとは異なります。自然災害では、地域がまるごと被害を受けることが想定されます。一方、感染症の場合は、いわゆる「無傷」の事業所が数多く温存されていることが想定できます。そうした認識に立ち、感染拡大時の事業所連携の内容を平時から詰めておくことが重要です。 実際、私たちの地域でも、ほかの訪問看護ステーションが新規の受け入れを休止した際に、私たちの事業所が新規受け入れを代替したことがありました。また、訪問看護ステーションどうしはもとより、介護系サービスとの連携も考慮しておく必要もあるでしょう。 BCPの策定では、国からいわれたからではなく、「自分たちと利用者の安心のために作る」という積極的な姿勢が、もしものときの有効性を担保します。「事業所をつぶさないために作ろうよ」。それが私たちの合い言葉です。 ―第7回に続く 記事編集:株式会社メディカ出版

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