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2022年2月22日
2022年2月22日

訪問看護あるある座談会 vol.9 男性看護師編

いろんな場面でついつい頼りにしてしまう男性看護師さん。今回は男性の訪問看護師さん2名をゲストに迎え、訪問看護での男性看護師あるあるトークをしていただきました。 ■座談会に参加してくれた看護師さんプロフィール かずもともとヘルパーとして働いていたが、訪問介護先で出会った訪問看護師の仕事に魅力を感じて看護師になる。現在は訪問看護師2年目。 けん家族の在宅看取りの経験から訪問看護師を志す。急性期病院で2年働いたのち、地方の訪問看護ステーションに就職。訪問看護師4年目。 みほ訪問看護の実習で暮らしが見える面白さを感じ、新卒から訪問看護師になる。オンコールやプリセプターもしている中堅ナース。訪問看護師6年目。 訪問看護でも頼りがいのあるメンズナースたち ケアマネジャーや利用者さんからも愛される男性訪問看護師 けん:男性看護師がうちのステーションに2人いるんですが、今働いている地域に男性看護師が少ないみたいで、体格が大きい人とか介助量が多い利用者さんの依頼は多いですね。あとは女性の体に触れてしまう利用者さんとか、手が出てしまう利用者さんの対応をお願いされることもありますね。ケアマネさんは「かずさん体格いいからね」って言ってくれるんですけど、筋肉じゃなくて脂肪なんですよ。あはは。東京都内は男性の訪問看護師さんが多そうですが、地方は男性が少ないのかなって思います。 みほ:なるほど。たしかに都内は男性の訪問看護師さんも多い印象です。 かず:けんさんの話と近いですが、よく力仕事を任されますね。訪問でもそうですけど、事務所でも重いもの運んだりするのをお願いされます。 けん:めちゃくちゃわかります。事務所内では高いところのものを率先して取ったりしていますね。事務所の引っ越しがあったときも、冷蔵庫とか洗濯機を運びました。 みほ:男性陣、パワー的にも頼れる存在です。私の体験談ですが、男性看護師が来ることで良い刺激になる女性の利用者さんもいます。 けん:ありがたいことに、そういう利用者さんは何人かいますね。若い男性が来てくれるなんて嬉しいって言ってもらうこともあります。誕生日の時に一緒に写真撮ろうねって約束したら、ばっちりお化粧して、服も新調して待っていてくれたんです。 みほ:利用者さんもイキイキして、素敵な看護ですね。かずさんはどうですか。 かず:そういう利用者さんはいらっしゃいますね。逆もしかり、女性が来てくれて嬉しいという男性の利用者さんもいますよね。 みほ:そうですね。かっこいいところを見せようとリハビリを頑張ってくださる男性の方もいます。ただ、張り切りすぎて疲れ過ぎないようには気にかけていますね。笑 男性NGについて、ぶっちゃけどう思う? みほ:男性の利用者さんでは、同性の男性看護師にケアをしてもらう方が羞恥心が少なく安心だという人もいますよね。反対に男性NGという利用者さんもいると思うんですが、それで落ち込んだりされたことはありますか? かず:ヘルパー時代は同性介護と決まっていたので、男性の利用者さんには必ず男性ヘルパーが入っていたんです。看護師になってからは男性女性関係なく訪問していますが、今のところ男だから嫌だって言われたことはないです。契約のタイミングで事前に聞いてくれていて、例えばトイレ介助は同性がいいという場合は女性スタッフに訪問を任せています。 みほ:たしかに、契約の時に聞いておくのは大事ですね。 けん:僕もそうですけど、どんな年代でも異性に体を見られるのは恥ずかしい、というのはあるじゃないですか。だから、「男性はちょっと…」と言われても傷つくことはあまりないですね。ただオンコールの時に、若い女性の利用者さんからのコールで「女性の看護師さんいないんですか。じゃあ家族でなんとかします!」って言われてしまったことがあって、そこはどう対応したらよかったんだろうと思いますね。 みほ:ありますよね。夜間のオンコールで「どうしても男性看護師じゃないと」と言われて、近所に住んでいる男性スタッフになんとか都合つけて行ってもらったことがあります。オンコールじゃない日に呼び出して申し訳ないと思いつつ、利用者さんの希望に沿いきれないもどかしさもあり、悩みどころですね。 女性コミュニティ内で活躍するメンズナース けん:あと、病棟とかステーション内の仲介役になることが多いですね。 かず:仲介役でいうと、学生時代に実習でそういう役割をしていたのを思い出しますね。女性が多い中で、自分が間に入って教員と学生を繋ぐとか、なぜか自然と僕がやるようになっていましたね。 けん:わかります。実習で気持ちが沈んでいる子がいて、先生が話しかけるとすぐ泣いちゃうので、先生から「けんくんから声かけてもらっていい?」って言われて「ええ、僕で大丈夫ですか?」ってしどろもどろになったりしました。 かず:性格やキャラクターもあるのかもしれないですけど、気づいたらそのポジションになりますよね。それはそれでいいのかなと思っています。 みほ:実習グループに看護男子が1人いると、雰囲気を柔らかくする良い要素になっている気がします。お二人とも柔らかい雰囲気なので、パイプ役でつらい時もあれば、目をかけてもらうなど良い点もありそうだと思うのですが、どうですか? けん:今働いている訪問看護ステーションのほかの男性スタッフも僕と同じようにホワッとした雰囲気なので、うちの男性勢はホワホワしているねって目をかけてもらっていますね。 かず:私のいるステーションでは男性看護師が3人いて、リハビリ職も合わせるともう少しいるんですけど、男性スタッフ同士は仲良くなりやすいですね。打ち解けられるので看護とか利用者さんのことも相談しやすくてありがたいです。 けん:病院でもそうでしたけど、男性看護師の団結力ってありますね。 みほ:昔、男性看護師が主役のドラマがありましたよね。看護婦から看護師に呼び方も変わって男性看護師も認知され始めて、変化の時期だったと思うんです。増えてきてはいてもまだ少数派の中であえて看護師になると選ぶことは素敵ですし、志を持っていてアツい人が多いですよね。 けん:ありがとうございます。訪問看護は病院とはまた違う面白さがあるので、ぜひ、もっと男性看護師が増えてほしいです。 記事編集:NsPace

特集
2022年2月22日
2022年2月22日

「訪問看護」関連はこう変わる! /令和4年度診療報酬改定・速報解説 前編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が示されました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わる重要な部分にフォーカスして、速報でお届けします。(2022年2月14日現在) 【目次】■複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制にBCP策定と地域連携体制参画が必須―「24時間対応体制加算」の算定要件に追加【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑧】※ ■訪問看護ステーションの業務継続を推進-BCP策定、研修・訓練の実施が義務化【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑨】 ■訪問看護師の地域住民への情報提供や相談業務を強化―「機能強化型訪問看護ステーション」のさらなる役割強化【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑩】 ■医療的ケア児に対する訪問看護の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑪】 ■理学療法士の訪問リハビリテーションの内容記載の明示【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑫】 ※【】内は、個別改定項目について.中医協 総-1 4.2.9,https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdfの項目を表示 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制にBCP策定と地域連携体制参画が必須―「24時間対応体制加算」の算定要件に追加 24時間対応体制加算を算定できる場合の要件について、業務継続計画(Business Continuity Plan:BCP)を策定した上で、自治体や医療関係団体等が整備する地域の連携体制に参画する場合が追加されました。「24時間対応加算」の算定要件は、初回は『特別地域』(離島・山間部など)で2つの訪問看護ステーションが連携して24時間体制を整えることでしたが、令和2年度の診療報酬改定で『特別地域』だけでなく、『医療を提供しているが医療資源の少ない地域』と対象が広げられています。 訪問看護ステーションの業務継続を推進-BCP策定、研修・訓練の実施が義務化 感染症や災害が発生した場合でも必要な訪問看護サービスを継続的に提供するために、そして非常時の体制で早期の業務再開をはかるために、訪問看護ステーションにBCP策定が義務づけられました。さらに、職員の看護師等に業務継続計画を周知し、必要な研修・訓練を定期的に実施しなければなりません。介護報酬ではすでに令和3年度介護報酬改定において訪問看護でもBCPの策定が義務化されており、3年間の経過措置の後2024年から義務が発生することになっています。 訪問看護師の地域住民への情報提供や相談業務を強化―「機能強化型訪問看護ステーション」の役割強化 「機能強化型1」「機能強化型2」において、地域の保険医療機関や他の訪問看護ステーション、または地域住民に対する研修や相談への対応実績があることが必須条件とされました。機能強化型訪問看護ステーションは「機能強化型1」「機能強化型2」「機能強化型3」の3型があり、それぞれ看護職員数、受け入れる重症度の高い利用者数、ターミナルケアや重症児の受け入れ等で違いがあります。令和2年度診療報酬改定で追加された「機能強化型3」は、「地域の訪問看護の人材育成等の役割」を評価したものでした。今回は、「機能強化型1」「機能強化型2」においても、訪問看護人材の育成や住民への相談対応など、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化されたものといえます。評価としては、「機能強化型訪問看護管理療養費1」が12,830円、「機能強化型訪問看護管理療養費2」が9,800円となりました。さらに、機能強化型訪問看護管理療養費1~3の算定基準において、在宅看護等に係る専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいという項目が追加されました。 医療的ケア児に対する訪問看護の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 訪問看護情報提供療養費1は、訪問看護ステーションと市町村・都道府県の実施する保健福祉サービスとの連携を図るものですが、対象に指定特定相談支援事業者と指定障害児相談支援事業者が追加されました。そして対象が、15歳未満の小児から18歳未満の児童となりました。訪問看護情報提供療養費2は、訪問看護ステーションの利用者が、保育所、認定こども園、家庭的保育事業、小規模保育事業、事業所内保育事業、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校前期課程、特別支援学校の小学部・中学部に、通園・通学するにあたって、訪問看護ステーションと学校等の連携を推進するものです。今回その情報提供先に高等学校が追加され、対象年齢が15歳未満から18歳未満になりました。医療的ケア児に対する訪問看護が強化されたことになります。 理学療法士の訪問リハビリテーションの内容記載の明示 医療的ニーズの高い利用者に対する理学療法士による訪問看護が適切に提供されるように、訪問看護指示書の記載方法も変更になりました。具体的には、理学療法士等が訪問看護の一環として行う訪問リハビリテーションの時間と実施頻度を訪問看護指示書に記載することになりました。介護報酬においては令和3年度改定ですでに、理学療法士等による訪問看護を行った場合について、通常の訪問看護報告に別添という形で「理学療法士、作業療法士または言語聴覚士による訪問看護の詳細」の記録を添えることになっています。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年2月22日
2022年2月22日

言葉による返事がない(運動性失語)認知症患者さんとのコミュニケーション方法

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第3回は、話し掛けてもうなずくだけで、言葉を発してくれない患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代男性。認知症の診断を受けている。半年前くらいから、動作が鈍くなり話もしなくなってきた。あいさつするとうなずくが、話し掛けても発語はない。問い掛けにも、「あー」という声だけ。すべての日常生活行為で、声を掛けても反応がないし、話もしてもらえない。 なぜ患者さんは発語がないのか? 失語とは 認知症の症状のうち、記憶障害、見当識障害、失認、失行、失語、判断力・実行機能の低下などは、中核症状と呼ばれます。これらは、脳障害そのものが引き起こす症状です。 この患者さんは、この中核症状が引き起こす「失語」の状態と考えられます。 失語では、「言葉を話すこと」だけでなく、▷言葉を聞いて理解すること ▷文字を理解すること ▷文字を書くこと ▷復唱すること ── などすべての言語機能が、程度の差こそありますが、同時に障害されます。 失語症の種類 脳の左前頭葉には言語に関するブローカ野とウェルニッケ野があり、その障害部位により症状が異なります。 失語症の種類 運動性失語 (ブローカ野/運動領域の近くの障害)構音(発声)は保たれているが、喋ることが困難で、まとまった意味を流暢に表出することができない感覚性失語 (ウェルニッケ野聴覚領域の近くの障害)相手の言う言葉は音として聞こえるが、意味が全く理解できない この患者さんの場合、話し掛けてもほとんど言葉による返答がないことから、運動性失語があると考えられます。 運動性失語の患者さんは、自分の思いや、食事や排泄など日常的な欲求も、他者にうまく伝えることができません。自分の状況を他者に伝えることができなければ、支援を受けることも困難です。単に言葉を失うだけではなく、他者との関係性をも失って、孤独になっていくと予測できます。 患者さんをどう理解する? 看護師には、「患者さんの思いを知りたい」気持ちを持つことと、コミュニケーションの工夫が必要になります。 「患者さんの思いを知りたい」気持ちと患者さんの体調の把握 患者さんの状態は日によって異なり、意思疎通がとれる日とまったくとれない日があります。意思疎通を体調のバロメーターとし、患者さんに活動をすすめたり、休息を促したりしていきましょう。 コミュニケーションの工夫 ・患者さんの名前を呼び、覚醒を促し、看護師側に注意が向くようにする。・顔を見て、目線を合わせて話をする。・自分の存在を知らせ、ゆったりと患者さんを尊重した態度で接する。・一つの文で伝えるのは一つの内容だけにし、平易な言葉を選択する。・「はい」「いいえ」で意思表示ができる会話文も取り入れる。患者さんのペースで話してもらい、看護師は言葉を補っていく。・予測される本人の欲求を絵などで見せる(食事、飲水、排泄など)。・タッチングなど、非言語的コミュニケーションを活用し、安心感を与える。・会話に集中できる環境を作り、会話する機会を多く持ち発話を促していく。 話し掛けても返答がない患者さんの場合、患者さんが何も感じていないかのように思えてしまい、看護師が話し掛けることも、発語がある人に比べて少なくなりがちです。上のような工夫を取り入れて、積極的にかかわっていきましょう。 こんな対応はDo not! × 医療者・看護者側のペースで物事を進める× テレビがついたままなど、騒然とした環境下で話をする× 一度にたくさんの事柄を話す× 命令的な表現、相手を見下した言葉を使用する× 子どもに対するような言い回しで話し掛ける× 無理に言い聞かせようと、患者さんの言い分や行動を否定する 執筆茨城県立つくば看護専門学校佐藤圭子 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇松田実.『症候学から見た認知症疾患の鑑別診断』最新医学.68(4),2013,761-6.

コラム
2022年2月22日
2022年2月22日

ALSの治療法について 〜栄養療法がとても大切!〜

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。ALSでは薬物療法と並んで栄養療法がとても大切です。 日本で承認されているALS治療薬 現在日本では、ALSにはリルゾールとエダラボンの二つが、治療薬として認可されています。 リルゾールは、神経伝達物質であるグルタミン酸の過剰興奮による、運動ニューロン(骨格筋を支配する神経細胞)の変性を抑える作用があるといわれるものです。人工呼吸器装着までの期間を3か月程度遅らせる効果があるとされていますが、生活の質(QOL)の低下速度を緩やかにする効果については言及されていません。 一方エダラボンは、もともと2001年に脳梗塞急性期治療薬として承認された薬剤です。細胞が傷害される原因の一つであるフリーラジカル(活性酸素)を取り除き、細胞を保護する作用を有することから、ALSに有効ではないかと考えられ、2015年に世界に先立って初めて日本で認可された薬剤です(アメリカでも2017年に認可されています)。 QOLの低下速度を緩やかにする効果があるとされていますが、人工呼吸器装着までの期間を遅らせる効果については言及されていません。 残念ながらどちらも満足した治療効果が期待できるとはいえないものの、ある程度の治療効果は認められており、発症早期から開始するほうがよいです。何よりも、前向きに治療をしている姿勢が、病気とともに生きていくうえで精神衛生上とても良い方向に働くと考えます。 私も発症早期から、どちらも積極的に開始しています。 体重を落とさないことが予後を良くするといわれている! これらの薬物療法に加えて、ALSでは栄養療法がとても重要と考えられています。 ALS患者さんでは、しばしば病初期から著しく体重減少を起こすことがあります。 原因としては、ALS特有の病初期〜中期(人工呼吸器を装着するまで)にかけての異常な代謝の亢進、病気の進行に伴う全身の筋肉量の減少、嚥下機能の低下に伴う食事摂取量の減少、呼吸機能の低下に伴う努力性呼吸(自然に呼吸ができないため、一所懸命に呼吸をすること)によるエネルギー消費量の増加、などが考えられますが、はっきりとしたことはわかっていません。 ただ、もともと体重の軽い人や、病初期からの体重減少のスピードが速い人は、病気の進行速度も速いというデータも出ており1)、体重減少を抑えることが重要であると考えられています。 また、最近の見解では、「ALSを発症した当初から体重を落とした群と、体重を落とさなかった群を比較すると、体重を落とさなかった群のほうが、人工呼吸器を装着するまでの期間が長く、QOLが低下する速度も緩やかである」2、3)という結果が出ており、食事と併せた高カロリー療法が、進行を遅らせる効果があるとされています。 効率的にカロリーをとる工夫 一般的に、カロリーを多くとることは、肥満や糖尿病や高脂血症などの原因としてマイナスなイメージがありますが、ALS患者さんではそんなことを言っている場合ではないと思います。すでに合併症のある方は注意が必要ですが、カロリーを多くとることを最優先に考えてもよいのではないでしょうか。 またALSは全身の筋力が落ちていく病気のため、筋肉の原料であるタンパク質を多くとろうと思われる人もいらっしゃいますが、ALS患者さんに必要なのはあくまでも体重を落とさないためのカロリーですので、タンパク質にこだわらず、糖質や脂質などもしっかりとることをおすすめします。 タンパク質と糖質は4kcal/g、脂質は8kcal/gですので、食事量を多くとるのが大変な人は、脂質を多く摂取したほうが効率よくカロリーがとれるのでおすすめです。 冷や奴に揚げ玉を追加したり、味噌汁にごま油を垂らしたり、ヨーグルトにオリーブオイルを混ぜたりと、方法は何でもよいかと思います。皆さんが食べやすい方法を試してみてください。 体重を減らさないために ちなみに、私は2015年に34歳という若さでALSを発症しました。まだまだ食欲もあり、一日でも長く「生きたい」「愛する家族と一緒にいたい」と強く思っていました。 なので、発症当初から、とにかく体重を減らさないように気をつけて食事をとるように意識し、いろいろなものを大盛りで食べていたら、結果的に半年間で体重が10kgも増えました。 体重を増やしたほうがよいのかについては、今のところ明確なエビデンスは出ていませんので、まずは体重を落とさないことを意識してみてください。 早めの胃瘻造設がおすすめ 栄養療法は、薬剤による治療ではないため見落とされがちですが、とても重要です! 経口摂取ができるうちは、体重を落とさないように意識して食事のメニューを考えましょう。そして、経口摂取に疲労を感じたら(できれば疲労を感じる前に)早めに胃瘻を作る。つまり、安定して栄養を摂取できるようにしておくことを、強くおすすめします。 胃瘻を作ったら経口摂取できないのでは?と誤解をされている患者さんもいらっしゃいますが、そんなことはありません。胃瘻を作っても今までどおり経口摂取できます。 実際私は、胃瘻を作ったあとも経口摂取を続け、胃瘻を使わない期間がしばらくありました。 ちなみに胃瘻を作る手術は、外科or消化器内科の医師が、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を用いて行います。手術は原則的に仰臥位で自発呼吸下にて行うため、呼吸状態がある程度保たれていないと手術ができません。特殊なNPPV(非侵襲的陽圧換気。気管切開を行わないで、マスクを着けるだけの人工呼吸器)をつけながら手術ができる施設もありますが、手術の難易度が格段に上がり、患者さんの負担も大きくなってしまいますので、その点も考慮して、早めに主治医の先生とご相談することをおすすめします。 ※本コラムは執筆者個人の見解です。治療については主治医とご相談ください。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)Shimizu,T.et al.Reduction rate of body mass index predicts prognosis for survival in amyotrophic lateral sclerosis:a multicenter study in Japan.Amyotroph.Lateral Scler.13,2012,363.2)Shimizu,T.et al.Prognostic significance of body weight variation after diagnosis in ALS: a single-centre prospective study.J.Neurol.266,2019,1412-20.3)Nakayama,Y.et al.Body weight variation predicts disease progression after invasive ventilation in amyotrophic lateral sclerosis.Sci.Rep.9,2019,12262.

特集
2022年2月22日
2022年2月22日

第8回 労災保険・健康診断・メンタルヘルス対策/[その4]コロナ禍の今だからこそ取り組みたい 職場のメンタルヘルス対策

長期化するコロナ禍への対応において、訪問看護師が受ける心理的負担やストレスは拡大傾向にあります。管理者にとって、感染対策はもちろん、職場内のメンタルヘルス対策も重要な課題となっていることでしょう。今回は、スタッフのメンタルヘルスケアに活用できるセルフケアとコミュニケーションについて具体的な方法をご紹介します。 コロナ禍で「自分が感染してしまうこと以上に、利用者さんを感染させてしまったらどうしよう」という不安と緊張から体調を崩したり、メンタルヘルスの不調を訴えるスタッフが増えてきています。事業所としてどのような対策をとればよいでしょうか。厚生労働省が示す指針に基づき、まずはスタッフ自ら行う「セルフケア」と管理者が主体となって行う「ラインによるケア」に取り組んでみましょう。 メンタルヘルス対策における「4つのケア」 メンタルヘルスの不調を訴えるスタッフに対して、職場内でどのように対応すればよいでしょうか。参考にしたい方策として2006年3月に厚生労働省が示した「労働者の心の健康の保持増進のための指針(2015年11月改正)」が挙げられます。これは、労働安全衛生法70条の2の規定に基づき策定されたメンタルヘルス指針です。 この指針において、職場でのメンタルヘルス対策では「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要とされています。4つのケアとは「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、「事業場外資源によるケア」です(図1)。 図1 メンタルヘルス対策における「4つのケア」 小規模事業所が多い訪問看護ステーションでは、これら4つのケアうち、セルフケアやラインによるケアから始めるとよいでしょう。 セルフケアへの取り組み セルフケアはスタッフ自ら行うケアです。セルフケアにおいて重要なことは「労働者自身がストレスに気づき、これに対処するための知識、方法を身につけ、それを実施すること」であり、「ストレスに気づくためには、労働者がストレス要因に対するストレス反応や心の健康について理解するとともに、自らのストレスや心の健康状態について正しく認識できるようにする必要がある」と先ほどの厚生労働省の指針※1で述べられています。 ストレスへの気づきのポイントは、以下に示すような自分の「変化」に自ら早めに気づくことです。 ・心配事が頭から離れず、考えが堂々めぐりする・疲れやすく、元気がない(だるい)・気力、意欲、集中力の低下を感じる(億劫、何もする気がしない)・寝つきが悪くて、朝早く目がさめる・食欲がなくなる・人に会いたくなくなる など※2 自分の変化に気づいたら、1人で抱え込まずにまわりの人に早めに相談することが大切です。 また、ストレスへの対処方法として、普段から「3つのR」を心がけ、ストレスを溜め込まないようにします。 【3つのR】レスト(Rest):休息、休養、睡眠レクリエーション(Recreation):趣味や娯楽、気晴らしリラックス(Relax):ストレッチなどのリラクゼーション 「疲れた」と感じたときに、例えば、以下のような行為で気分転換を図ります。 ・職場では……軽いストレッチで緊張を和らげた後、スタッフとのコミュニケーションを図り、思考を整理し、プラス思考に変換していく。 ・日常では……十分で快適な睡眠をとるとともに、趣味など仕事から離れた活動を行い心身ともにリフレッシュを図る。 ここでご紹介したような方法を含め、スタッフがセルフケアを正しく行えるように、ストレスへの気づき方やストレスの予防・軽減、対処方法を学べる機会を設けるとよいでしょう。 ラインによるケアへの取り組み ラインによるケアは管理者が主体となって実践します。ケアのキーワードは「コミュニケーション」です。厚生労働省が作成した職場のメンタルヘルス対策のリーフレット「職場における心の健康づくり」では「職場の管理監督者は、日常的に、部下からの自発的な相談に対応するよう努めなければなりません。そのためには、部下が上司に相談しやすい環境や雰囲気を整えることが必要です」と示されています。相談しやすい環境づくりの一例として、この連載の第3回[その3]でご紹介した「1on1ミーティング」を取り入れるのもおすすめです。 さらに、このリーフレットでは「管理監督者が部下の話を積極的に聴くことは、職場環境の重要な要素である職場の人間関係の把握や心の健康問題の早期発見・適切な対応という観点からも重要です。また、部下がその能力を最大限に発揮できるようにするためには、部下の資質の把握も重要です。部下のものの見方や考え方、行動様式を理解することが、管理監督者には求められます」と述べられており、その具体的な方法として、積極的傾聴(アクティブリスニング)が挙げられています。 特にこのコロナ禍においては、職員との話し合いや連携によって危機を乗り越えようとするチームワークの形成がとても重要です。そのためにも、まず、スタッフの話を聴く積極的傾聴が必要となるでしょう。図2に積極的傾聴のポイントを示しましたので、参考にしてみてください(図2)。 図2 積極的傾聴のポイント 積極的傾聴によって部下が安心して話せる関係を築くことで、部下自身が漠然としていた自分の気持ちや感情に気づき、どうしたらよいか自ら考え、行動するきっかけをつくることができます。管理者や上司が適切なコミュニケーションができるようになるためにも、この「話を聴く技術」を習得する機会を設けてみてはいかがでしょうか。 ・職場でのメンタルヘルスケアは、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」および「事業場外資源によるケア」の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要です。・訪問看護ステーションではこれら4つのケアうち、セルフケアやラインによるケアから始めるとよいでしょう。 【参考】※1 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(2015年11月改定)https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/roudou/an-eihou/dl/060331-2.pdf※2 厚生労働省「うつ対策推進方策マニュアル」 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0126-5b2.html 齋藤 暁株式会社ムトウ 執行役員 コンサルティング統括部 部長・CPS事業部 部長 ●プロフィール中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 記事編集:株式会社照林社

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2022年2月15日
2022年2月15日

【セミナーレポート】看取りの作法~事例検討と質疑応答編~

2021年12月17日(金)、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーを行いました。講師に田中公孝先生をお迎えした今回のテーマは、2021年11月開催セミナーから引き続き「看取りの作法」。リアルな看取りの実例を通し『医療者が看取りに向き合う』ときに意識したい点について、田中先生のご経験をふまえながらお話いただきました。今日の訪問看護からすぐに取り入れられるエッセンスをピックアップしてお届けします。 2021年11月12(金)開催「看取りの作法」セミナーレポートはこちら≫ 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 「看取り」を見据えた医療者のかかわり方 サービス開始時、利用者の方の情報を分析し、医療の視点からみなさん計画を立てると思います。もちろん決めつけすぎるのは良くありませんが、計画段階で『どこまでを見据えるか』という点は重要です。看護計画に主眼を置きすぎると見落としてしまいがちな「本人はどうしたいのだろう」という視点。この視点もバランス良く持ちながら患者さんとかかわっていく必要があると考えていて、私の場合は「最期をどういうふうに迎えたいか」という点も注視します。・最期について、家族とどうやって話し合うのか・専門職としてどのような意志決定の支援ができるかというところまで思考を拡張させながら、医学アセスメント、家族関係や希望を含め、計画を立てていきます。 家族間の問題が表出したとき、医療者はクッションになり得る 終末期になると家族の問題や関係性が集約されてきます。これまで関係性が希薄だった家族が集合してコミュニケーションをとり始めると、ギクシャクしてしまうことも多い。そういった場面で、専門職はクッションになれる可能性がある。その点についても意識しながら、看護計画を立てていくと良いのかなと考えています。 利用者の方の日々の生活から読み取る観察眼 利用者の方のことを知るために、私が意識しているのは次の2つです。まずひとつは利用者の方に「具体的な質問をする」こと。たとえば「食事のあとはなにをして過ごしますか?」と漠然と聞くのではなく、「新聞は読みますか?」「テレビは観ますか?」など1歩踏み込んで尋ねることで初めて返ってくる答えがあります。もうひとつは「観察する」ことです。利用者の方の身の周りに置いてあるものや日常でよく使うもの、飾っているもの。そういったもののなかに、大切にしたい思い出や誇りを持っていることが隠れている。そこに目配りをすることでコミュニケーションのきっかけができるだけでなく、短期間でも心の距離を縮めやすくなり、心を開いてもらうことにつながります。これは利用者本人だけでなく、家族に対しても同じことが言えます。 グリーフケアのコーディネート 会いたい人に会えるように 看取りの際、私たちの行為にはグリーフケアをコーディネートするという側面が含まれます。ご家族からも話を聞くことは、利用者本人のことを知るだけでなく、ご家族に対する死前のグリーフケアにもなるんです。死前に「悲嘆を共有できる専門職」として家族に認めてもらうことで、死後のグリーフケアもスムーズになります。 グリーフケアの基本についてはこちら≫ また、やりたいことを叶えていくことで、本人はもちろんご家族も「良かった」と思える。死前のグリーフケアという意味も含めて本人に「やりたいことはないですか?」「会いたい人はいますか?」と聞いたり、「会いたい人には会った方が良いですよ」と促したりします。 そして心構えを伝えることも重要です。私たち医療者は事例を見ているので看取りへ向かう経過のイメージができますが、ご家族には難しい。だから事前に「これから1カ月でこうなります」「1週間でこうなります」という変化を専門家として提示することで心構えを促します。そうすると「じゃあ、あれをやらなくちゃ」と家族の行動が変わる。そこをコーディネートするのがすごく重要かなと考えています。 Q&Aセッション 短期間で関係性を構築するためのアドバイスいただけますか? Q 最近は介入後に数週間で旅立たれることが多いです。関係性や信頼関係に中途感があります。短期間で関係性を構築するためのアドバイスをいただけますか? A 事前にどれだけ看取りに向けてのシナリオを描けるかというのが鍵となります。準備無しで行き当たりばったりだと、絶対に中途半端になってしまう。これまでの治療で患者さんや家族が抱えた気持ちのモヤモヤを解きほぐして、家族に看取りへの心構えや経過を説明して、家族関係のコーディネートをして…ということができれば中途感はぬぐえるかなと思います。このとき、ひとりでパンクしないために看取りのためのベストチームを形成しておくことも重要です。同じような価値観で組める医師に依頼して、看取り経験が豊富な看護師、ケアマネージャーともトライアングルチームを組んで、家族のグリーフケアもケアマネージャーにフォローしてもらって、というようなプロデュースをしてチームで手分けできると、かかわる時間が短く自分たちがあまり時間を割けないなかでも、上手くいくように思います。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年2月15日
2022年2月15日

5日前インフルエンザにかかり、ずっと排便がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第4回は、インフルエンザにかかってからずっと排便がない患者さん。さて訪問看護師はどのようにアセスメントをしますか? 事例 5日前からインフルエンザにかかり、昨日から熱が下がってきた80歳女性。 ふだんは2日に1回の頻度で排便があるのですが、ここ5日間は排便がなく、何らかの対処が必要かどうか看護師は考えています。 便の頻度や便の性状は、▷食事の摂取量 ▷水分出納 ▷交感神経と副交感神経のバランスが乱れたことによる腸蠕動運動の変調 ── など、さまざまな要因で変化します。排便のケアを考えるにあたっては、便がどの程度、どこに貯留しているかをアセスメントする必要があります。 たとえば、下行結腸に便が貯留していないのに浣腸をしても排便は起こりません。腹部のアセスメントを十分に行ってからケアを考え、苦痛が最小限になるような排便ケアを考えていきましょう。 ここに注目! ●排便の頻度からみると、便秘状態と考えられる。●インフルエンザ罹患の影響で、食事や水分の摂取、腸蠕動に変調があった後であり、便の貯留はどの程度かをアセスメントし、ケアを考える必要がある。 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・便秘の経過(ふだんの排便の頻度と性状、最終排便からの日数、最終排便の量・性状、排便困難、ふだんの下剤や浣腸の使用、など)・便秘の症状(腹部膨満感とこれに伴う苦痛、腹痛、腹部不快感、排ガス、便意、悪心、など)・便秘の要因について(食事摂取量、食事内容〈繊維質の量、ヨーグルトなどの乳酸菌食品の摂取〉、水分摂取量、水分出納、など) 客観的情報の収集 便の性状と回数 これまでの排便、最終排便の状況について、記録を参照し、量と硬さを確認して現在の便の貯留量を推測します。ふだんから排便量が少ない場合は、食事摂取ができていなければ、もっと便の量が減る可能性があります。 腹部の視診・触診 視診で腹部全体の膨満があれば、便やガスの貯留が疑われます。皮下脂肪が少ない場合は、便の貯留部位が膨隆して視診できる場合があります。恥骨結合直上から左側腹部にかけてよく視診します。 触診は、恥骨結合の上から左下腹部を少し深め(3cmくらい)の位置で、手を動かして感触を探りながら行います。 普通便が貯留している腸は、鉛筆ほどの太さで柔らかく触れます。大量に貯留している場合は、より太く、範囲が広くなります。また、兎糞便化している場合は、コロコロと小さく硬く触れます。 腹部の打診 打診では、ガスが貯留している場合は鼓音となり、音の性質もポンポンと高い音になります。固形の便が貯留している場合は、その部分が濁音となります。左下腹部を重点的に打診して、どの程度、便が貯留しているかを見積もります。 腹部打診音とその評価 鼓音 (ポンポンと高く響く軽い音)ガスの貯留であり、腸の存在部位では正常音。高い鼓音は、高度なガス貯留を示す濁音 (ドンドンと響かない短い音)水分が多い状態、充満した膀胱、肝臓、便、腫瘍 腸音 右の下腹部で腸音を1分間聴取します。腸の蠕動が低下している場合は、腸音は低く、頻度が少なくなります。 ストレスなどにより腸の運動を支配している自律神経のバランスが乱れると、下痢と便秘を繰り返す痙攣性の便秘となることがあります。精神的ストレスが大きいときに起こることが多い便秘の種類です。この場合は、腸蠕動が亢進していることも考えられます。 報告のポイント ・最終排便からの日数と腹部膨満感や嘔吐、食欲不振の症状の有無・腸蠕動と排ガスの有無による腸管麻痺の可能性・腹部膨満、打診・視診による便の貯留の位置や量の推定 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年2月15日
2022年2月15日

第8回 労災保険・健康診断・メンタルヘルス対策/[その3]パートも健康診断の対象者? スタッフの健康管理、正しく知ってしっかり実践

事業者は、労働安全衛生法に基づき、労働者に健康診断を実施する義務があります。訪問看護ステーションには常勤だけでなく、パートやアルバイドなど、さまざまな勤務形態のスタッフがいます。健康診断の実施対象となる範囲や健康診断の種類など、今回は管理者にとって必須の知識である健康診断の概要について解説していきます。 私の訪問看護ステーションには、パートタイムで働く看護師や理学療法士が在籍しています。健康診断では「常時使用する労働者」が対象になっていますが、パートのスタッフも健康診断の対象になりますか。パートで働くスタッフに対しても、一定の要件を満たす場合は、健康診断を実施する義務があります。 健康診断の種類にはどのようなものがある? 訪問看護ステーションは、事業者として労働安全衛生法(以下「安衛法」という)66条に基づき、スタッフに対して医師による健康診断を実施しなければなりません。では、実施が義務づけられている健康診断にはどういったものがあるのでしょうか。表1に、事業者が実施しなければならない一般健康診断の種類をまとめましたので、ご覧ください。 表1 一般健康診断の種類 ※特定業務:深夜業を含む業務。労働安全衛生規則(以下「安衛則」という)13条1項2号で14の業務が定められている ここでは一般健康診断のうち、「雇入時の健康診断」と「定期健康診断」について説明していきます。 パートタイム労働者も健康診断の対象者に含まれる? 雇入時の健康診断と定期健康診断の対象者は「常時使用する労働者」です。常時使用する労働者とは、次の2つの要件を満たす人をいいます。 (1)期間の定めのない労働契約により使用される者であること。なお、 期間の定めのある労働契約により使用される者の場合は、契約期間が1年以上の者、並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者、および1年以上引き続き使用されている者。(なお、特定業務従事者健診〈安衛法45条の健康診断〉の対象となる者の雇入時健康診断については、6か月以上使用されることが予定され、または更新により6か月以上使用されている者) (2)その者の1週間の労働時間数が当該事業場において、同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分3以上であること。 厚生労働省「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律の施行について(抜粋)」(平成19年10月1日付け基発第1001016号)より つまり、1年以上雇用している、またはそれが見込まれる労働者で、1週間の所定労働時間が常勤スタッフの4分の3以上であるパートタイム労働者(以下、パート)に対しては、健康診断を実施しなければなりません。 では、1週間の所定労働時間が常勤スタッフの4分の3に満たないパートではどうなるのでしょうか。この場合、法的な実施規定はありませんが(1)の要件に該当していれば、1週間の所定労働時間が常勤スタッフのおおむね2分の1以上あれば健康診断を実施することが望ましいとされています。 健康診断の費用はステーションで負担しますか? 労働安全衛生法の義務に基づいて実施される健康診断の費用は、すべて事業者が負担します。 また、管理者の方から「健康診断を受けている間の賃金はどうなるのか?」との疑問もよく聞かれます。厚生労働省の基準によると、一般健康診断の場合は、受診に要した時間の賃金は労使協議により定めるべきものとしたうえで、スタッフの円滑な受診を考えれば、事業者が支払うことが望ましいとしています。参考にしてください。 健康診断実施後の注意点は? 健康診断の実施後も、ステーションには事業者として行わなければならないことがあります。 まず、健康診断の結果は、スタッフ自ら健康管理できるよう、スタッフに通知しなければいけません(安衛法66条の6)。そして、健康診断個人票を作成し5年間保存することが義務づけられています(安衛則51条)。なお、従業員が50人を超える事業所では、定期健康診断を行ったら所轄の労働基準監督署長に結果報告書を提出する義務があります(安衛則52条)。 また、健康診断で異常の所見ありと診断されたスタッフがいれば、健康を保持するための必要な措置について医師に意見をきく必要があります(安衛法66条の4)。そして、医師の意見により必要ありと認めるときは、就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮など、適切な措置を講じなければなりません(安衛法66条の5)。さらに、特に保健指導が必要なスタッフがいれば、医師や保健師による保健指導の実施に努めなければなりません(安衛法66条の7)。 健康診断は、労働者に受診義務があります。もし受診を拒否するスタッフがいれば、そのままにしておくのではなく、義務であることを伝えて受診するよう促してください。 よりよい看護サービスを提供するためにも、スタッフの健康管理はとても大切です。管理者としてスタッフの健康状態の把握に努め、その結果に基づき適切な対応を実践できるようにしましょう。 ・1年以上雇用している、またはそれが見込まれ、1週間の所定労働時間が常勤スタッフの4分の3以上であるパートタイム労働者は、健康診断を実施しなければなりません。・健康診断実施後も、診断の結果に基づきスタッフの健康管理を適切に行うことが必要です。 【参考】〇厚生労働省リーフレット「健康診断を実施しましょう」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf〇厚生労働省リーフレット「パートタイム労働者の健康診断を実施しましょう!!」https://www.lcgjapan.com/pdf/lb09094.pdf?22 ※健康診断の種類や実施義務などについて詳しく紹介されています。ぜひご参照ください。 齋藤 暁株式会社ムトウ 執行役員 コンサルティング統括部 部長・CPS事業部 部長 ●プロフィール中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年2月15日
2022年2月15日

悪性関節リウマチ

悪性関節リウマチは、関節リウマチに血管炎などの関節外症状を合併した病型です。 病態 悪性関節リウマチは、関節リウマチに加え、血管炎や臓器障害など関節以外の症状があって難治性または重症のものをいいます。重症の関節リウマチを指す疾患名ではありません。 関節リウマチとは、免疫異常のために関節に炎症が起こり、進行すると関節の変形などをきたす病気です。男性より女性に4倍多く、中年期以降の発症が多い疾患です。 関節リウマチも悪性関節リウマチも、原因は不明です。ただ、悪性関節リウマチは家族内での発症も12%にみられ、遺伝的な要因がある程度かかわっていると考えられています。 なお、「悪性関節リウマチ」は日本独自の疾患名・概念で、欧米では血管炎を伴う関節リウマチは「リウマトイド血管炎」と呼ばれます。 疫学 悪性関節リウマチの頻度は、関節リウマチ患者のうち0.6〜1.0%です。関節リウマチよりも男性の占める割合が高いのが特徴です。また、悪性関節リウマチと診断される年齢のピークは60歳代と、関節リウマチよりもやや高齢です。 前述のように、関節リウマチに血管炎などを合併するものが悪性関節リウマチですが、血管炎は、一般的に関節リウマチに長く罹患し、関節の破壊が進行した人に起こります。 2019年度末時点で、悪性関節リウマチでの受給者証所持者数は約5,000人です。やはり60歳代が最も多く、70歳以上の人の割合も多くなっています。 関節リウマチの早期診断や治療の進歩により、近年では、悪性関節リウマチの発症頻度は低下傾向と報告されています。 症状・予後 関節リウマチの多発関節炎に加えて、血管炎による症状が加わります。血管炎は、全身性血管炎型と末梢動脈炎型に分けられます。 血管炎の症状 全身性血管炎型     全身の血管炎に基づく症状(38℃以上の発熱、体重減少、紫斑、上強膜炎、筋痛、筋力低下、間質性肺炎、胸膜炎、多発単神経炎、消化管出血、など)末梢動脈炎型潰瘍、末梢の血管梗塞、四肢先端の壊死・壊疽、など 全身性血管炎型では、症状は急速に出現して悪化します。末梢動脈炎型では通常、進行は緩徐です。 悪性関節リウマチの予後は、国内の疫学調査では軽快21%、不変26%、悪化31%、死亡14%、不明・その他8%と報告されています。血管炎による臓器障害や間質性肺炎を伴う場合は、生命予後が悪いとされています。死因で最も多いのは呼吸不全で、それに続くのは感染症の合併、心不全、腎不全などです。 治療・管理など 基本的な治療方針は、関節外病変を取り除くことと、関節の変形や身体機能低下の進行の抑制です。 悪性関節リウマチに対しては、炎症を抑えるステロイド、関節リウマチに用いられる抗リウマチ薬、免疫抑制薬が用いられ、合併症対策として血栓を防ぐ抗凝固薬などが用いられます。重症例などでは、血液内にできてしまった免疫複合体などを取り除くために血漿交換療法が行われることもあります。 看護の観察ポイント 入院での治療が基本となりますが、在宅で気になる症状があった場合は、すぐに主治医に相談しましょう。在宅での繰り返す心不全の急性憎悪などの場合には、訪問看護による観察が重要になります。 ●男女を問わず、長く関節リウマチを患い関節破壊が進行した人、60歳以上の人などでは特に留意●発熱や体重減少、急に出現し悪化する息苦しさ、手足の紫斑や皮膚潰瘍、手首・足首の知覚異常や力の入りにくさには注意 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 〇厚生労働省.難病・小児慢性特定疾病.『令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『悪性関節リウマチ(指定難病46)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/43〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『悪性関節リウマチ(指定難病46)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/205〇磯部光章ほか.悪性関節リウマチ『血管炎症候群の診療ガイドライン』2017年改訂版.2018,91-5.

コラム
2022年2月8日
2022年2月8日

患者・家族の認識とグリーフケア

訪問特化型クリニックから、在宅緩和ケアのtipsを紹介する「家庭医が伝える在宅緩和ケア」。最終回は、在宅緩和ケアのなかでも難しさとやりがいが入り混ざる「患者・家族の認識とグリーフケア」について紹介します。 患者家族の受け入れ度合いはさまざま 終末期と一言でいっても、訪問診療や訪問看護に紹介されてくる患者さん・家族は、認識や受け入れの度合いがさまざまです。 在宅医療になって納得している人。納得していない人。前医の不平不満がある人。不安が強い人。現状を受け入れがたいと思っている人。 こうした患者さんとその家族に対して、皆さんはどのように考えて取り組んでいますか?私からは、一つ。エリザベス・キューブラー=ロスの「死の受容プロセス」をふまえてアセスメントすることをおすすめします。 キューブラー=ロスの死の受容プロセス ① 否認と隔離② 怒り③ 取引④ 抑うつ⑤ 受容 キューブラー=ロスによれば、死に直面した人間の感情は、おおよそ、①から⑤へと順を追って経過するといいます。順番が前後することもあるといわれ、実際に経験としても実感があります。 それでは、私が遭遇してきた臨床場面を例に、具体的に考えていきましょう。 ②「怒り」の時期 いちばんよく出会うのは、前医への不満や怒りがある患者さんとその家族の場合です。これは、②「怒り」のステージの状態です。 この段階のときは、ひたすら傾聴して、ときには相槌や、これまで経験してきた他の事例などもお話に交えながら、ためているものを吐き出してもらいます。 ためているものをここで一定程度出していただかないと、次の受容段階に進みません。そして、これから緩和ケアを提供していくなかで、どんな声掛けが合っているのかがつかみにくい状況になってしまいます。 これまでの経過や感情を出してもらうことを最優先として、特に初回・2回目の訪問では、病状の変化ももちろん重要ですが、傾聴してこれまでの経緯や感情をとらえることを最優先事項にします。 できれば「在宅医療が入ってくれたから苦痛が緩和された」「食事や排泄の負担・不安が軽減された」と感じてもらえるアプローチも同時にできると、怒りの消化とともに、在宅医療への信頼感の熟成につながる印象です。 ③「取引」と④「抑うつ」の時期 この時期が他の段階と比べても悲嘆が強い印象で、これらの時期と判断した際は、ケアの合間やケアが終わった後に心情をお聞きして、相槌をうちながら傾聴するのが重要です。 特に本人や家族が不安として抱えていることについて、専門職が訪問するたびに吐き出してもらうことを意識します。 傾聴や、さまざまな質問に答えながらコミュニケーションを重ねることは、より受容を促します。「これから先どうなっていくのか」という不安を支えていくことが、この時期の専門職の重要な役目と思います。 ⑤「受容」に至った状態 「受容」に至ったと判断すれば、あとは、どんな最期になるかを説明したり、それに向けて準備をしてもらったりを促していきます。 特に最近、私自身が強く感じるのは、病状経過の説明だけでなく、銀行関係の話、葬式業者の話など、死後の社会的な手続きについても、少しでよいので言及することが大事だと考えています。それこそ、死後の処置としてエンゼルケアをするかどうか、といった話もあらかじめ具体的に詰めておくことが重要でしょう。また、お会いになりたい家族・親戚がいないか、いたら早めに会いに来てもらうよう勧めることも、ケア職の大事な役目です。 かかわりはじめからグリーフケアが始まっている 個人的な経験として、キューブラー=ロスの死の受容プロセスをしっかり通ると、死前のグリーフケアも非常にうまくいく印象です。このため、終末期にかかわる専門職は、「在宅緩和ケアでかかわった瞬間からグリーフケアが始まっている」という認識で臨むことが重要だといえるでしょう。 トータルペインの考えかたは前回お話ししましたが、かかわる時点でさまざまな側面の苦痛をアセスメントし、それぞれにアプローチしていくだけでも、かなり骨が折れる作業ではあります。ですが、今回の「患者・家族の認識とグリーフケア」のように、患者さんとその家族の感情面や葛藤にフォーカスした専門的アプローチも、相当重要な位置を占めると私は考えています。 事例から得る学びを糧にする 終末期の事例は、やること・意識することが非常に多いのですが、経験を重ねていくほど似た場面も経験します。まったく同じ事例はないのですが、それまでの経験を糧にして目の前の事例に応用できると、個人的経験からも思います。 ですので、一つ一つの終末期事例の経験を大事に、自らの糧にしていくよう心がけてください。特にデスカンファレンスなど他者と振り返る機会は、自分が気づかなかった視点を得られる重要な機会です。ぜひ、かかわった職種で振り返る機会をつくることをおすすめします。 私が好きな「コルブの経験学習サイクル」1)という考えかたがあります。簡単にいうと、経験を振り返って知恵を紡ぎ出し、明日に生かすという学びのサイクルです。 一つの終末期事例の経験をしたら、しっかり振り返ることで、概念化、いわゆる教訓や気づきを言語化し、次の事例に適応させていく。そんなサイクルを忙しい在宅の臨床業務のなかでもしっかり回していってもらえれば、徐々に終末期の対応力が上がっていくと思います。 連載のおわりに さて、看取りの作法について、全3回取り扱ってきましたが、いかがでしたでしょうか? 看取りの1週間前に今後起きることについて説明することも、トータルペインでアセスメントして多面的なアプローチをすることも、キューブラー=ロスの死の受容プロセスを活用することも、かなり実践的なものだと思って、本連載で紹介させていただきました。 皆様の明日からの臨床現場での参考にしてもらえれば幸いです。 著者田中 公孝2009年滋賀医科大学医学部卒業。2015年家庭医療後期研修修了し、同年家庭医療専門医取得。2017年4月東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げにかかわり、医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、市や医師会のICT事業などにもかかわる。引き続き、その人らしく最期まで過ごせる在宅医療を目指しながらも、新しいコンセプトのクリニック事業の立ち上げを決意。2021年春 東京都杉並区西荻窪の地に「杉並PARK在宅クリニック」開業。 杉並PARK在宅クリニックホームページhttps://www.suginami-park.jp/ 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)Kolb,DA.Experiential Learning:experience as the Source of Learning and Development.Englewood Cliffs,Prentice Hall,1984.

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