2021年11月2日
男性にだけ発病する遺伝性の難病です。筋肉を動かすための神経細胞が死滅し、筋萎縮が現れるのが特徴で、日本には3,000人ほどの患者がいるとみられています。
病態
球脊髄性筋萎縮症(きゅうせきずいせいきんいしゅくしょう:SBMA)は、男性だけに発病する遺伝性の神経筋変性疾患です。別名、ケネディ病、ケネディ・オルター・スン症候群ともいわれます。
球脊髄性筋萎縮症の原因は、男性ホルモン(アンドロゲン)の受容体を構成するタンパク質の遺伝子異常です。変異したアンドロゲン受容体がうまく分解されずに神経細胞内に蓄積し、細胞を壊死させると考えられています。女性は、この遺伝子変異を持っていても発症しません。男性ホルモンが関与するためと考えられています。
球脊髄性筋萎縮症では、脳幹や脊髄にある筋肉を動かすための神経細胞(下位運動ニューロン)が徐々に死滅し、神経が接続している筋肉も萎縮するため、顔面や舌、四肢の筋力低下、筋萎縮が現れます。
原因となる遺伝子は、性染色体のX染色体上にあるため、父親である患者からY染色体を受け継ぐ男児には遺伝子変異は伝わりません。一方、X染色体を受け継ぐ女児は、100%の確率で保因者となります。保因者となった女性からは、50%の確率で子どもに遺伝子変異が受け継がれます。
疫学
男性のみに発病し、発症頻度は人口10万人に1~2人といわれています。日本国内の患者数は2,000~3,000人程度と推定されています。(※1)2019年度末現在、受給者証所有者数は約1,500人です。特に30~60歳の発症が多く、50~60歳代で受給者証所有者が多くなっています。(※2)
症状・予後
顔面や舌、四肢の筋力低下、筋萎縮などの症状がゆっくりと進行し、嚥下障害や呼吸機能低下が起こります。最初に筋力の低下に気づくことが多いのですが、その前に手が細かく震える、筋肉がつるといった症状を経験することがあります。
症状は、球麻痺によるものや、筋力低下が主です。具体的には、しゃべりにくい、むせる、飲み込みが悪くなるなど嚥下障害、顔がぴくつく、手足の筋肉がやせて力が入らないといったものがあります。筋力低下は、体幹に近い筋肉で強く現れることが多いため、特に、立ち上がり動作や歩行が不安定になりがちです。
また、軽度ですが、アンドロゲンの作用が低下するため、女性化乳房、睾丸萎縮、女性様皮膚変化などが生じることもあります。
そのほか、耐糖能異常や脂質異常症、肝機能異常、ブルガダ症候群などの合併がみられることもあります。
一般的な経過では発症から10年ほどで嚥下障害が目立つようになり、15年ほどで車いす生活に至ります。
治療法
根本的な治療法はまだありません。男性ホルモンが、変異したアンドロゲン受容体に作用することで進行を促すため、男性ホルモンの分泌を抑える薬が進行抑制目的に使用されます。通院が可能な状態であれば、ロボットスーツによる歩行運動処置が、保険診療の対象になる場合があります。
リハビリのポイント
●症状の進行に応じて、運動療法を実施し、手足の筋力低下抑制をはかる●嚥下機能の低下に対して、食形態を工夫する●嚥下訓練などを行う
看護の観察ポイント
●症状の変化、転倒しやすくなっていないかを観察する●むせる、飲み込みにくいなど、嚥下障害の有無・変化を観察する●食形態と嚥下機能を確認し、必要時は食形態について助言する●コミュニケーションに問題が生じていないかを観察する●車いすやベッドにいる時間が長い場合は、褥瘡など皮膚の症状・変化を観察する●家族の介護力をアセスメントするなど
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監修:あおぞら診療所院長 川越正平
【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。
記事編集:株式会社メディカ出版
【参考】※1 難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け) 球脊髄性筋萎縮症(指定難病1)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/73※2 厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病 令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.
○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)球脊髄性筋萎縮症(指定難病1)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/234○「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会『神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009』東京,医学書院,2009,184p.○日本医学会『医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン』https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf