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特集
2021年10月5日
2021年10月5日

第3回 計画的な人材採用と育成/[その4]「目標管理」で“強いステーション”づくりを!

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第3回目では[その1]~[その4]にわたり訪問看護ステーションにおける人材採用と育成について解説していきます。今回のテーマは“目標管理”です。ここでいう目標は事業所の理念や基本方針につながるものであり、利用者へのケアをとおして、その実現に貢献できる目標である必要があります。目標管理の重要性を職場にしっかりと周知し、理解を浸透させましょう。 ●ここがポイント!・目標管理とは、職員一人ひとりが目標を設定し、自らを管理することである。・目標設定では、個人と組織のベクトルを合わせることが大切である。・目標管理を形骸化させずより高い成果を得るために目標達成を支援するコーチの存在が必要不可欠である。 目標管理とは 目標管理とは、経営学者ピーター・F・ドラッカーによって提唱されたマネジメント手法です。ドラッカーの著書『現代の経営』の中で目標管理は次のように記載されています。 「今日必要とされているものは、一人ひとりの人の強みと責任を最大限に発揮させ、彼らのビジョンと行動に共通の方向性を与え、チームワークを発揮させるためのマネジメントの原理、すなわち一人ひとりの目標と全体の利益を調和させるためのマネジメントの原理である。これらのことを可能にする唯一のものが、自己管理による目標管理である。自己管理による目標管理だけが、全体の利益を一人ひとりの目標にすることができる。」(P.F.ドラッカー著,上田惇生訳 『現代の経営【上】』ダイヤモンド社,2015,p.187.より引用) 目標管理とは、職員一人ひとりが目標を設定し、自らを管理すること、つまり、目標による管理のことです。 目標管理は「Management by Objectives and Self-Control」と表記します。目標管理を構成する3つのキーワード、「マネジメント」、「オブジェクティブズ」、「セルフ・コントロール」について順に説明していきます。 マネジメント(management)とは 直訳すると「管理」、「経営」ですが、managementの動詞形manageの原義には「馬を手で扱う」という意味があり、そこから転じて「(扱いにくい人や事柄などを)うまく取り扱う」、また「なんとかやり遂げる」という意味があります。ここではマネジメントを英語の訳に即して「工夫や苦労を重ねてやり遂げること」と考えます。 オブシェクティブズ(objectives)とは 複数のストレッチ目標を意味します。ストレッチ目標とは、簡単に達成できる目標ではなく、背伸びをして手を伸ばさないと達成できないような目標のことをいいます。 セルフ・コントロール(self-control)とは 自分自身で目的を定め、計画を立て、意欲的、かつ主体的な行動をとれることをいいます。 目標管理のねらいと効果 目標管理のねらいは、主体的に考えて活動する人材を育成することにあります。 職員自らがストレッチ目標を設定し、目標達成に向けて創意工夫して取り組むことで、自分で考え行動し、壁を乗り切る力が身につきます。何か問題が生じたときにも、常に当事者意識をもって対処できるようになります。 また目標が達成されることで、自信が育まれ、レジリエンス(さまざまな困難な環境や状況に対しても適応し生き延びる能力)が鍛えられます。 目標設定のポイント 目標設定では、個人と組織のベクトルを合わせることが大切です。職員一人ひとりの目標が事業所のめざす最終目標(理念や基本方針)につながることで、事業所全体の利益が調和された状態になり、組織全体のパフォーマンスが向上します。 そして、目標は具体的に設定します。ここでは「グタイテキ」の頭文字に沿って、設定のポイントをご紹介します。 グ:具体的言った人のイメージと受け取った人のイメージが一致する。行動レベルの言葉にする。タ:達成可能ストレッチ目標を設定する。イ:意欲的達成することで自分自身、または周囲にどんな価値やメリット、意味があるのか考える。テ:定量化・数値化例えば、よく使われる「~に貢献する」「~をバックアップする」「~を推進する」「スムーズに~する」「迅速に~する」は具体的ではないため目標設定では不適切。キ:期限を定める 「いつまでに」達成するのかを明確にする。 目標管理の形骸化を防ぐコツ 目標管理を1人で行い続けるのは大変なことです。忙しさのなかで怠けてしまったり、中身が追いつかず形式的なものに陥ってしまったりしがちです。この形骸化を防ぐコツは成果を出して、成功体験を積み上げていくことです。 そして、成果を出すためには目標達成を支援するコーチの存在が不可欠です。コーチがいることで、達成に至るまでの時期が短縮され、成果のレベルが格段に上がります。コーチ役は上司が担うとよいでしょう。信頼関係が深まりチームワークが強化されます。 コーチに期待される役割には以下のようなものがあります。・新しい気づきをもたらす・視点を増やす・考え方や行動の選択肢を増やす・目標達成に必要な行動を促す基本的にコーチは一方的に指導したり、アドバイスを与えたりすることはしません。対話をとおして問いかけ、相手からさまざまな考え方や行動の選択肢を引き出します。この技法を「コーチング」といいます。 コーチ自身も目標管理を支援する能力が必要となりますので、部下の可能性を最大限引き出せるようなコーチングスキルを身につけましょう。 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社 【引用文献】 P.F.ドラッカー著,上田惇生訳(2015)『現代の経営【上】』ダイヤモンド社

インタビュー
2021年10月5日
2021年10月5日

意思決定支援とは誰のため? 何のため? 「ややのいえ」の取り組みから考える

さまざまな人々が集い、出会い、語らう場として、看護から看取りまで「地域まるごとケア」を行う「ややのいえ」を運営する榊原千秋さん。今回は、「ややのいえ」の大切な理念とその実践、そこで出会ったある男性の最期について語っていただきました。 地域をまるごとケアする 「ややのいえ」の四つの理念 「ややのいえ」には、高齢者を中心とした出会いの場「ことぶきカフェ」、医療や介護相談「暮らしの保健室」、排泄の総合相談「おまかせうんチッチ」、産院+親子サポートを行う「ちひろ助産院」、訪問看護ステーションなど、さまざまな機能があります。住民は、「ややのいえ」とつながることで、新たな出会いやつながりが生まれます。ここは0歳から100歳を超える方々の「地域まるごとケア」の拠点であり、自分なりのありかた、生きかたを見つけていく「居場所」となっているのです。 「ややのいえ」には四つの理念があります。それは、前回お話しした義母のことも含め、私が三十余年、地域で出会った人たちから教えてもらったことがベースになっています。 一つめは、「とことん当事者」ということ。訪問看護でも、「今、いちばんしたいことは何?」と、家族ではなく本人の願いを聞きます。「星空が見たい」「猫と遊びたい」「お化粧をしたい」「『おしん』を最初から最後まで見たい」など、いろいろな望みが出てきます。願いを聞いたら、なぜそれを望むのかもたずねます。言葉にした「願い」だけではなく、「なぜそれを望むのか」が大事な場合もあるからです。それに、「なぜ」を聞くと、私たちもそれを実現したくなりますからね。 本当の願いがわかったら、ときにはチームを作り、それを実現します。そのプロセスが、「ややのいえ」のACP(アドバンス・ケア・プランニング)であり、意思決定支援の取り組みなのです。 大切にしていることの二つめは、専門職として出会う前に「人として出会う」こと。専門職として病気のこともきちんと診るけれど、最初にその人がいちばん大事にしているものを見る。気付く。そこから人と人としての関係を作っていくのです。 三つめに、「自分ごととして考える」。相手を人として知り、願いを知り、その願いへの思いを知る。そしてその願いをひとごとではなく、自分ごととして考えるのです。 一人の人を支えるには、医療職や介護職、制度だけでなく、いろいろな仲間の力が必要です。「ややのいえ」には文房具屋さんや不動産屋さんなど、地域のさまざまな仲間がいます。本人の願いをかなえるために必要なら、そうした仲間たちとチームを作ります。こうした、専門職だけでない支援、本人を取り巻く多くの人たちが一体となる「十位一体のネットワーク」の力が「ややのいえ」の理念の四つめであり、意思決定支援につながるものです。 ナラティブに出会い エビデンス的に人を看る 「ややのいえ」の訪問看護では、初回訪問から「ナラティブ」でその人と出会います。壁に表彰状がかかっていたら、「すごい、○○で賞を取ったんですか?」と聞いてみる。その人が大事にしていることを知ろうという目線で接していくのです。そうした目線は、「ややのいえ」として、「聞き書き」にずっと取り組んできた文化が影響していると思います。「エビデンス」的に人を看ながら、同時に、「ナラティブ」でも人を見る。そんな姿勢がスタッフに身についています。だから、専門職として出会う前に人として出会うことができるのです。 「聞き書き」は何も、構えて相手の話を聞き、書き留めるだけではありません。「あんたらの魂胆に乗せられてやるか」とか、「あーあ、俺はもうすぐ死ぬのか」とか、訪問したときに、ふと漏らした、その人らしいちょっとした独特な言葉があったとき、それをカルテに書き留めます。そんな「ひと言聞き書き」が、意思決定支援につながるACPの一部なのです。 それは、きちんと相手と向き合っているから、拾い上げることができる言葉です。「今日の血圧は」「足がむくんでいますね」と、体だけを看るかかわりだけでは、聞き逃してしまうかもしれません。 満足と幸せが残る意思決定支援とは 末期がんで在宅療養していたAさんは、あれこれ気遣われるのが煩わしく、心配する奥さんをも怒鳴りつける人でした。本人はまだ3~4年は生きられると思っていたのですが、いよいよ状態が厳しくなってきたとき、訪問看護師に「わしはどうなっていくのか」と聞いてきました。 そのとき訪問看護師は、「もともと生まれてきたところに帰って行くのですよ」と答えました。するとAさんはにこっと笑って、「母ちゃんを呼んでくれ。そして二人にしてくれ」と言いました。看護師が退出後、Aさんは奥さんの手を握り、二人でしかできない話をしたのだそうです。Aさんは、その日の深夜3時に亡くなりました。 Aさんが亡くなったあと、私たちはお通夜とお葬式に同席させていただき、ご親族と空気感を共有しました。グリーフケアですね。その後、四十九日までに弔問に訪れると、「あの時逝くとは思っていなかった。あの時間があってよかったよ」と奥さんはとてもいいお顔をされていました。 亡くなることを「旅立つ」という言葉で表現することがありますが、浄土真宗のさかんな北陸では「お浄土に帰る」と言います。看護師の「もともと生まれてきたところに帰って行くのですよ」という言葉は、Aさんの心に自然に受け止められたのだと思います。 意思決定支援はひとつの地域文化でもあると思います。同じ地域で暮らしているからこそ共有できるのだと。そして意思決定支援は、本人が亡くなられたあとのグリーフ期に真実が語られることがよくあります。はじめて出会ってからグリーフケアまで、本人にもご家族にも、ほがらかで穏やかな時間が持てますようにと願っています。   ** 榊原千秋コミュニティスペースややのいえ&とんとんひろば代表訪問看護ステーションややのいえ統括所長 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2021年9月28日
2021年9月28日

医療や介護を直撃した新型コロナウイルスが 訪問看護ステーションにもたらしたもの

トップランナーから現場へのエール 日本訪問看護財団は、現場の声を国や関係機関にあげ、職場環境改善や研修事業を行う訪問看護ステーションの職能団体の一つです。常務理事を務める佐藤美穂子さんに、新型コロナウイルス蔓延で訪問看護ステーションが受けた打撃について語っていただきました。 電話相談から見えてきた 感染対策、防護具不足、経営危機…… 新型コロナウイルスのパンデミック発生から1年以上が経過しました。この未知のウイルスは、訪問看護ステーションの運営をも直撃しました。私たち日本訪問看護財団は、情報発信と相談支援、国や関係省庁に要望を届けるための実態把握を、常日頃から行っています。コロナ禍においては、特に感染予防などに特化した形で数多く発信してきました。 情報発信としては、財団ウェブサイトに、感染症に関する特設ページを設けました。第一報は2020年3月6日で、平時の感染管理、利用者やスタッフの感染・感染疑い時の対応などを、細かく伝えました。この時の発信は、業務継続計画(BCP)としての側面に近い内容でした。 そのころすでに、外部者だからとの理由で、看護師の訪問が断られる事例が約15%発生していました。そこで、「訪問看護を利用する皆様へ」という利用者へのチラシのひな型を作成し、必要に応じて使っていただくようにしました。チラシには「訪問看護ステーションは感染管理を徹底しているので、部外者であっても安心です」といった内容をつづっています。 ウェブサイト上で無料電話相談の告知も行ったところ、新型コロナに関して300件を超える相談がありました。第1波が来たころは、感染対策をどうするかという相談が多かったのですが、すぐにマスクやフェイスシールドが手に入らないという相談が増えました。第3波が到来した2020年末~21年1月ごろは、変異株についての問い合わせが増えました。 管理者のこうした相談に丁寧に対応する一方で、新型コロナに関する緊急ウェブアンケート調査も4回実施しました。その内容は整理し、国へ提出しています。コロナ禍での混乱や管理者の不安が少しでも軽減されるよう、私たちも常に情報を発信しつづけ、かかり増し経費に対する交付金や、職員への慰労金についてもお知らせしました。 感染防護具や優先接種を国へ直接要望 財団が行った活動のなかで特に重要だったのは、先のアンケートの件もそうですが、厚労省や政府へ直接要望を伝えたことです。個人防護具の確保についても然りです。これは大変と思ったのが、訪問看護師はワクチンの医療従事者優先接種から外れていたことでした。最前線で活動している医療従事者であるにもかかわらずです。2021年1月15日にその事実を知り、すぐに、日本看護協会と全国訪問看護事業協会との連携で、田村厚生労働大臣に直接訴えました。そして、その月末には優先接種リストに訪問看護師を入れていただきました。 感染を防ぐために必須の個人防護具を訪問看護ステーションに届けることも、財団の急務でした。幸いにも、日本財団とネットライフ生命株式会社から7000万円の寄付をいただき、まずは4000箱(訪問看護ステーションや訪問介護事業所などが1週間使える程度の個人防護具のセット)を確保し、全国に無償で配送できるようにしました。これは現在でも続けているプロジェクトで、ぜひご利用いただきたいと思っています。 一時的な経営危機も 秋以降は利用者増へ コロナ禍では訪問看護ステーションも利用控えなどがあり、2020年4~6月は前年度に比べて1割程度収益が減少しているステーションが6割近くありました。ところが9月の段階では経営危機を乗り越えプラスに転じるステーションも多くなりました。 これには二つの理由があると思います。訪問看護ステーションは医療従事者が対応しているので、安心して利用できることを広く利用者に理解していただけたことが一つ。もう一つは、病院に入院していると面会制限で家族とも自由に会えないため、それなら家に帰って療養したいという人が増えたことです。 利用者が増えれば経営的には安定しますが、感染防護具の支出が増えて大変だという訴えもありました。医療保険では特別管理加算で算定できますが、介護保険では算定できません。そのため、2020年の第二次補正予算で、新型コロナウイルス感染症対策費としてかかり増し経費補助金が計上されました。介護保険事業者は、感染対策や人材確保によけいにかかった費用に対して、助成を受けることができるようになりました。2021年度は「サービス提供体制確保事業補助金」で、同様の助成金が受けられます。 このように財団は、訪問看護ステーションの生の声を国に届け、改善を訴えてきました。しかし新型コロナウイルス感染拡大は、平時の事業運営を根本から揺るがすものでした。それは、財団が4回にわたって行ったアンケート調査から明らかになりました。(後編へ続く) ** 佐藤美穂子公益財団法人日本訪問看護財団常務理事 記事編集:株式会社メディカ出版

コラム
2021年9月28日
2021年9月28日

positiveに生きよう! 〜ALSと診断されてからの経過と心の葛藤〜

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載。第2回は、診断前後の日々と葛藤の様子をお話しします。「enjoy!ALS」と思えるまでの心の動きは…… 「今の自分にできることを考えていこう!」 私は体も動かないし、声も出せないが、内面は何も変わっていない。 できなくなったことも多いし、大変なことも多いが、できることも、まだまだたくさんある。 できなくなったことを悔やむのではなく、今の自分にできることだけを考えて、生きていこう! ALSと診断されてから、すぐにそう考えられたわけではありません。そこまでには、さまざまな苦悩や葛藤がありました。 ALSという病気は、今まで培ってきたキャリアや地位やプライドがひっくり返されて、まったく違う人生を歩んでいかないといけない病気です。 そこで、まず私がALSと診断されてから在宅加療を開始するまでの、経過と心の葛藤についてお話ししたいと思います。 留学先で、「何かおかしい!?」 前回もお話ししましたが、私は大学病院で皮膚科医として勤務しながら、「毛包幹細胞」について研究をしていました。その研究のため、2015年の4月に、アメリカのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)に留学しました。 留学中は毎日趣味のサーフィンをしてから、職場に行く、充実した日々を過ごしていました。ところが、7月ごろから、少しずつ文字が書きづらくなってきたことに気が付きました。 当初は疲れているだけかと思い、さほど気にしていませんでしたが、8月になっても治らず、右腕が左腕よりも細いことに気が付きました。 さすがにおかしいと思い、自分の症状について調べはじめました。ちょうどサーフィンで首を痛めていたこともあり、同僚の整形外科医にも相談し、頸椎症や椎間板ヘルニアなどの可能性を考えMRIを撮りましたが、明らかな異常はありませんでした。するとUCSDの神経内科を紹介され、診察してもらうと、すぐにALS専門医に紹介されました。 何が何だか…… その時点で頭が真っ白になっていました。専門的な話を英語で説明され、さらに、何が何だかわかりませんでした。ただ、最後に「ALS専門医の貴方からみて、私はALSだと思いますか?」と聞くと、「多分ALSだろう」と言われたことだけは、はっきり覚えています。 その瞬間、後頭部をハンマーで殴られたような衝撃が走りました。事態が飲み込めず、ただただ呆然としていました。徐々にその診断の重さを理解して、気がついたら帰り道で号泣していました。 当時、私は34歳でした。2歳になる息子もおり、これからのことを考えると、恐怖と絶望で胸が張り裂けそうでした。ただそんななか、妻だけは気丈に振る舞い、私を支えてくれたおかげで、何とか正気を保つことができました。 まだ診断が確定したわけではないため、急いで帰国して精査しました。その後、さまざまな病院で検査するも、なかなか確定診断がつきません。さまざまな診断名を言われ、そのたびに一喜一憂する日々が続き、精神的にかなり疲弊して行きました。 結局ALSと確定診断されたのは、症状が出現してから9か月後の、2016年4月でした。そのときには右腕以外にも症状が出現しており、ALSの診断に納得したのを覚えています。 ALSと確定してから その後の日々は、今までとはまったく違うものでした。 すぐに仕事に復帰し、元どおりの生活を再開しましたが、右手が動かずカルテが書けなかったり、手術ができなくなったり、今まで当たり前のようにできていたことが、徐々にできなくなっていきました。なぜこんなことになってしまったのか? 何かの間違いではないか? と、自問自答を繰り返す日々が続きました。いくら考えても答えは出るはずもなく、考えれば考えるだけ気分が落ち込むだけでした。 時間があればいろいろ考えてしまいます。暇な時間を作らないように、一生懸命仕事をし、たくさん息子と遊び、映画を観て、ボーッとする時間をなくすようにしました。そして遠い未来のことは考えすぎず、今の自分の状態でできることだけをやるようにしました。 どうしても、つらく悲しくなるときは、ため込まず思いっきり泣くようにしました。よく手嶌葵さんの『明日への手紙』を聴き「明日を描こうともがきながら、進んでいく」という歌詞に自分を投影して泣いたのを覚えています。 そうやって、ストレスをコントロールしながら徐々に病気を受け入れて、自分の症状と向き合っていきました。何よりも妻が常にサポートしつづけ、息子がそばにいてくれたおかげで、前向きにやってこられました。 限界まで現場に出たい 私は医師という仕事が大好きです。限界まで、現場で働いて、直接患者さんを診療したいと思いました。 パソコンのキーボードがうてなくなったら音声入力装置を使い、歩けなくなったら電動車いすで通勤し、何とか診療を続けることができました。最後は声が出しづらくなっていましたが、同僚が自分の手となり声となって、ペアで診療してくれました。 さすがに、最後は患者さんより自分のほうが明らかに重症で、患者さんたちに心配されてしまい、診療が滞ってしまったため、2019年3月に退職し、東京の実家に戻り在宅加療を開始しました。 次回は、在宅加療を開始してから今に至るまでの経過をお話ししたいと思います。 私の主治医であるさくらクリニック練馬の佐藤先生が、クリニックのブログに前回コラムの感想を載せてくれました。よかったらこちらもご覧ください。 ** コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2021年9月28日
2021年9月28日

介護者、看護師、そして三男の嫁として 亡き義母の「意思」に触れた日々

保健師として地域で活動後、難病患者の在宅療養者の支援を経験した榊原千秋さんは、地域でさまざまな人々が集い、出会い、語らう場として「ややのいえ」(石川県小松市)を開設。訪問看護ステーション、助産院なども併設しています。今回は、夫の母を介護した経験から、身内の「意思決定支援」で強く考えさせられた事例について語っていただきました。 認知症があっても自分で居場所を決めた義母 「意思決定支援」という言い方、実は私、好きじゃないんです。ひと言で言えるような単純なものではないですし、一方向から見た真実にしかならないと思うからです。また、本人が本当の意思を表明するとは限りません。 93歳の時に、転倒による腰椎圧迫骨折で入院して寝たきりになった義母も、私たち親族には本音を言いませんでした。でも、知人を連れてお見舞いに行ったとき、会話の中でポロリと「家に帰りたい」と言ったのです。これが義母のACP(アドバンス・ケア・プランニング)に取り組んでいく、大きなきっかけとなりました。 同居していた長男夫婦は、「家では看られない」と私に施設入所の相談がありました。長男夫婦に初孫が産まれたこともあり、ひとまず介護老人保健施設(老健)に移りました。その直後に長男の妻が交通事故で入院し、面会に行けなくなりました。そこで義母は、「自分は捨てられた」と思い、ストレスからガリガリに痩せてしまったのです。 地方都市では、今も、親の介護は長男の嫁がするもの、という考えかたが根強くあります。本来なら、三男の嫁である私は、義母の介護に対して発言権もありません。しかし老健に義母を見舞いに行った際、夫が「このままにしておいていいのか」と私に言ったのです。 そこで、「ややのいえ」について親戚中を説明してまわり、私が「ややのいえ」に義母を引き取り、ケアすることが了解されました。 「今したいことは何?」と聞くのが、私の考えるACPの始まりです。 「ややのいえ」をお試しで訪れた義母の答えは、「鳴門金時(さつまいもの品種)を植えたい」でした。畑にうねを作ると、痩せ細った姿で、植えかたを指導してくれました。 そうして何回か「ややのいえ」で過ごしてもらううち、義母は自分から「ここに置いてくれやの」と言いました。認知症があっても、義母はちゃんと自分で自分の身の置き所を決めたのです。 すごいな、と思いました。これで、私も「ややのいえ」でともに暮らしながら義母をみていく覚悟が決まりました。 「迷惑をかけるから」の言葉の裏にあった思い 「ややのいえ」で暮らすようになった義母に、「どうしたい?」と聞くと、返ってくる答えは決まって、「最期の日までほがらかに楽しくおらせてくれやの」でした。老健にいたころには出なかった言葉です。 義母の望みどおり、畑仕事をし、梅干を漬け、洗濯物をたたみ、繕い物をする。隣のかき氷屋のかき氷をペロリと一人前食べたり、晩御飯を食べたのを忘れて私と半分こしてどら焼きを食べたり、義母は「ややのいえ」で自由にのびのびと過ごしていました。 義母とは1年半、「ややのいえ」で暮らしました。それが中断したのは、私が腎臓結石の手術のために入院することになったからです。やむなく、義母にはショートステイへ。しかし、その2泊目、義母は急性出血性大腸炎で緊急入院しました。 3か月たっても義母は回復せず、“いわゆるACP”として、胃瘻にするか、高カロリー輸液のポートをつくるかを聞かれました。 ショートステイ入所前日まで、お寿司をペロリと食べていた義母です。VF(嚥下造影検査)をしてもらうと、回復の見込みはあると言われました。 それなら、一時的に胃瘻を造設して栄養を確保し、嚥下のリハビリをお願いしようと考えました。 退院の時期が来たとき、胃瘻になり、痩せこけた義母に聞きました。「『ややのいえ』に戻らない? 帰ろうよ」と。すると義母は、「千秋さんに迷惑をかけるから行けない」と言うのです。 「迷惑をかける」とは、三男の嫁である私が再び義母をみることになったら、兄弟間で“もめる”、という意味で言っているのだと、私にはわかりました。認知症があっても、義母はちゃんと状況を理解していたし、家族のことを考えていたのです。 結局、義母は療養型病院に転院し、そこで亡くなりました。 「意思決定」のとらえかたは 立場によってさまざま 義母のお通夜の席で、米寿祝いの時作った義母のライフヒストリーを聞き書きでつづった冊子とアルバムとともに思い出が語られました。皆、それを見ながら話しているのに、義母が「ややのいえ」で過ごした日々のことは、まったく話題に上りませんでした。長男夫婦は私が義母の介護をすることをよしとせず、施設への入所を望んでいたこともあったからだと思われます。 一方、義母方の親族が言った「母は幸せやったよ」の一言には救われました。それぞれの立場や考えによって、本人の「意思決定」を取り巻く事実のとらえかたはまるで違うのです。 専門職として数多くの看取りにかかわってきた私ですら、「ややのいえ」での義母との1年を親族に語れない状況や、その時の感情は、今も大きなトラウマとなっています。 このように「意思決定支援」にかかわる当事者は多岐にわたり、その登場人物ごとに真実があります。支援者は、まずそのことを十分に認識しておく必要があると思います。 ** 榊原千秋 コミュニティスペースややのいえ&とんとんひろば代表 訪問看護ステーションややのいえ統括所長 編集協力:株式会社メディカ出版

特集
2021年9月28日
2021年9月28日

第3回 計画的な人材採用と育成/[その3]「人材育成」のカギはコミュニケーション力アップ!

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第3回目では[その1]~[その4]にわたり訪問看護ステーションにおける人材採用と育成について解説していきます。今回のテーマは“人材育成”です。今回はOJTやOFF-JTといった研修制度とともに、部下の育成に特化した対話形式のマネジメント手法である1on1ミーティングについてご紹介します。 ●ここがポイント!・新任訪問看護師の育成方法にはOJTとOFF-JTがある。・現場での指導だけでなく、その後もフォローと振り返りを促し次の成長につなげるしくみづくりが大切。・1on1ミーティングは、対話を通じて部下自らが問題解決の糸口を見つけ行動できるようにサポートする手法。 OJTとOFF-JT 新任訪問看護師の育成方法には、OFF-JT(Off the Job Training)による事業所外での基礎的な知識・技能の習得とともに、実際の仕事を通じて指導し知識・技術などを身に付けてもらい、担当ケースの難易度のレベルを徐々にあげるOJT(On the Job Training)があります。 さらに、OJTやOFF-JTで学んだ知識や技能を実践し、その結果について気づきや課題、改善点などを振り返るプロセスも育成の過程ではとても重要です。指導後のフォローも忘れずに、日常的に声かけし、振り返りを促し、次の成長につなげるしくみづくりが大切です。 例えば、OJTのしくみづくりに活用できるものとして、東京都福祉保健局のサイトで公表されている「訪問看護OJTマニュアル」と「評価シート」があります。▶東京都福祉保健局 訪問看護OJTマニュアル 「評価シート」をもとに訪問前に目標の意識づけを行い、訪問時に態度・行為全般を管理者がチェックし、訪問後に訪問内容全体の振り返りと次の目標設定を行います。お互いがOJTの状況を共有し、目標設定や振り返りに用いるコミュニケーションツールとして活用できます。 またこうした日々のOJTとは別に、新任訪問看護師以外の職員の人材育成を進めるうえで週1回あるいは月1回などのペースで「1on1ミーティング」と呼ばれる時間をもつことも効果があります。 1on1ミーティングとは 1on1ミーティング(以下、1on1とします)とは、部下と上司が1対1で行う対話のことをいいます。 上司が主体となって実施する業務管理や評価のための面談とは異なり、1on1の主体は部下です。部下のほうから仕事の悩みや問題などを上司に伝え、上司は一方的にアドバイスをするのではなく、問題解決に向けてどうしたらよいか部下と対等に意見を交わします。そして、対話を通じて部下自らが問題解決の糸口を見つけ行動できるようにサポートします。1on1は、職員1人ひとりが自律的な行動をとれるように、人材育成やパフォーマンスの向上を目的に、さまざまな企業で取り入れられています。 組織活動ではコミュニケーションをとることがとても重要です。これが不十分だと、報告や連絡、相談が滞り、お互いに何をしているのかわからなくなってしまいます。1on1では、仕事だけでなく、プライベートな話題も話します。部下とのコミュニケーション不足を解消するしくみとして、1on1を活用するのも1つの方法です。 1on1の進め方 事業所で1on1を導入するには、どのようにすればよいでしょうか。ここでは、1on1の進め方を4つのステップに沿って説明していきます。 Step1 信頼関係をつくる まずは日ごろからコミュニケーションを重ね、信頼関係をつくっておくことが大切です。信頼関係のないところで1on1を行っても、職員から本音を引き出すことは難しいでしょう。 普段の接し方や受け答えから、職員は上司がどのような人物か見ています。職員との関係性を築くためにどうしたらよいか考え、行動することが必要です。「私の話にしっかり耳を傾け、認めてくれる。信頼できる上司だ」と思ってもらえるように心がけます。 Step2 1on1を設定する  1on1を定期的なイベントとしてスケジュールに組み込みます。週に1回、最低でも月に1回の頻度で、1回あたり15~30分程度をめやすに実施します。直接会えない場合は、電話などで柔軟に対応し、短時間でもよいのでコミュニケーションの機会を設けるようにします。1on1は維持・継続することが大切です。 Step3 テーマを決める  テーマを決めずに1on1を始めると、時間がかかってしまいがちです。あらかじめ話すテーマを決めておき、質問事項や伝達事項をお互いに考えておくとよいでしょう。Step2で決めた実施時間を守るためにも効率的に進める工夫が必要です。 Step4 実施と記録  1on1では、部下の意見や考えをしっかり受け止め、認めることが大切です。また、「こういう問題を抱えているのではないか」「前回こう言っていたので今日はこれをアドバイスしよう」といった先読みや深読みはせず、先入観をもたずに、その場で部下が話すことに耳を傾けます。部下が安心して話せるような雰囲気をつくります。 そして、1on1の内容は共有できるように議事録を残すとよいでしょう。記録があれば認識の違いを避けることでき、振り返りにも活用できます。 質の高い1on1で人材育成を 1on1を定期的に行っていると、職員の成長や変化にすぐに気づくことができます。機動的に部下の行動計画をサポートすることができ、その結果として部下自身が自律的にスピーディかつ柔軟に目標達成に向けた行動をとれるようになります。 1on1は最初からスムーズに進むとは限りませんし、その効果はすぐにあらわれないかもしれません。しかし、1on1成功の秘訣は、継続・維持することです。回数を重ねるうちに信頼関係が深まるとともに、部下の実践能力が向上していきます。上司自身が成長する機会にもなるため、組織にとってプラスに働くことが期待できます。ぜひ質の高い1on1を取り入れ、職員の育成に取り組んでください。 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社

特集
2021年9月21日
2021年9月21日

進行性核上性麻痺(PSP)

パーキンソン病とよく似た症状がみられる難病です。高齢になってからの発症が大半です。さまざまな亜型があることが近年わかってきました。 病態 進行性核上性麻痺(PSP)は、脳の大脳基底核や脳幹、小脳などさまざまな場所の神経細胞が減少する疾患です。神経細胞などへの異常タウタンパクの蓄積が、神経症状を起こす原因と考えられています。根本の発症原因はわかっていません。初期に、歩行障害や動作緩慢など、パーキンソン病と似た症状がみられます。 疫学 中年期以降、主に50歳代以降に発症します。有病率は人口10万人あたり10~20人程度と推測されています(※1)。20年前よりも有病率は高くなっており、新たな臨床病型が明らかになってきたこと、高齢者の増加、周知が進んだことなどが背景として考えられています。性別による発症の男女差については報告によって異なり、一定の見解は得られていません。最近の平均発症年齢は70歳代と高齢化しています。大多数は遺伝性ではありません。 病型 近年、PSPのなかにも、さまざまな病型があることがわかってきました。そのため、典型例(RS)と他の病型(亜型)が区別されるようになりました。 ●リチャードソン症候群(RS)最も典型的で頻度が高い病型。姿勢保持障害や転倒などの運動症状と、非運動症状の認知機能障害が主にみられる。早期から転倒が多いことが特徴。 ●パーキンソン病型PSP(PSP-P)RS型の次に多い。初期は、振戦・無動などパーキンソン病と似た症状が長くみられ、転倒や認知機能障害の出現が遅い。運動症状が抗パーキンソン病薬で緩和される。 ●純粋無動症型PSP(PSP-PAGF)無動の症状、すくみ足が先行する。進行は遅い。 そのほか、失行・失語が主症状の病型や、認知機能の症状のみが出る病型など、いくつかの病型があることが明らかになっています。 症状 易転倒、眼球運動障害、認知機能障害など、さまざまな症状が現れます。以下はRS型の症状を中心に説明します。 ●運動症状初期に現れることが多いのが、易転倒、すくみ足、姿勢保持障害です。病状の進行とともに、体幹や頸部がこわばり、頸部後屈がみられます。眼球運動が障害され、特に下方を見ることが困難になります。眼球運動障害は発症2~3年後に出現することが多く、最初は上下の方向の障害で、進行すると左右方向の動きも障害されます。 ●非運動症状認知機能の障害は、多くは発症から1~2年後に出現します。初期から、目の前にある物に手を伸ばしてつかむ動作が特徴的です。転倒・転落につながるため、環境整備に注意を払う必要があります。危険に対する判断力や注意力が低下し、状況判断ができずに行動してしまうこともあります。 構音障害などさまざまな言語障害のほか、嚥下障害もみられ、中期以降は誤嚥性肺炎にも注意が必要です。 治療法 根本的な治療法はまだなく、対症療法とリハビリテーションを併用します。動作緩慢や筋肉の緊張など運動症状に抗パーキンソン病薬が使用されますが、効果は限定的・一時的です。 リハビリのポイント ●発症初期から長期的にかかわり、障害に応じたリハビリを実施していく●頸部や体幹のストレッチ、筋力の維持、バランスをとる訓練●嚥下訓練●言語訓練●目の前にあるものをつかむといった行動特性をふまえ、転倒予防のため室内環境を整備する●嚥下障害が進行すると経管栄養法の導入も検討される。本人の判断力低下で意思確認が困難になる前に、本人の意向やQOLなどについて話をしておく 看護の観察ポイント ●症状の変化、その程度●転倒の頻度、けがの有無●療養環境に転倒リスクとなるものがないこと●家具の角への緩衝材、保護帽などの対策本人の目に見えるところに気を引くものが置かれていないこと●余裕を持ってトイレに誘導する●視野に入っていない範囲の把握・対応はできているか●嚥下障害の有無●食事量●本人と家族・本人と支援者とのコミュニケーション●ベッドにいる時間が長い場合、褥瘡など皮膚の変化の有無●座位などで過ごす時間をとれているか●家族の介護力●本人 ・家族が不安やストレスを抱えていないか など ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 進行性核上性麻痺(PSP)診療ガイドライン2020作成委員会編(2020)『進行性核上性麻痺(PSP)診療ガイドライン2020』,神経治療学,37(3), pp.435-93.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/37/3/37_435/_pdf/-char/ja ・難病情報センター『進行性核上性麻痺(指定難病5) 病気の解説(一般利用者向け)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4114 ・平成28年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「神経変性疾患に関する調査研究」班(2017)『進行性核上性麻痺(PSP ) ケアマニュアルVer.4』http://pspcbdjapan.org/index.htm/want_to_learn/download/

インタビュー
2021年9月21日
2021年9月21日

仕事だけが生きがいの人生にならないために

トップランナーから現場へのエール 長年、訪問看護の世界をリードしてきた宮崎和加子さんは、60歳を機に、山梨県に一般社団法人だんだん会を設立しました。その背景にはある気づきがありました。多くの看護師に慕われた宮崎さんから、ベテラン看護師に贈る言葉とは。 頑張りの限界を自覚することも大切 訪問看護の分野はベテランが担うケースが多く、管理者が50歳以上、看護師の平均年齢は40歳を超えている事業所もあります。小規模なステーションでは、ICT化に積極的に取り組んでこなかったことから、いまだにタブレット端末が使えず、手書きで記録をしているところもあると聞いています。現在、それが解消されているかというと、そうでもないようで、やはり訪問看護の分野はどうしてもICTの導入は遅れていると私は見ています。でも、その人たちには、重度の人をチームで支えるために必須の、ナースとしての力量があります。何より、現在の訪問看護の手本になっている人たちです。でも私はあえてその方々に言いたいことがあります。それは、「自分ができないことをできると思い込んでいないか」ということです。 私自身、訪問看護は自分の生きがいだと思ってやってきましたが、客観的に見たら、65歳の高齢者です。以前は平気だったのに、夜10時まで仕事をしていて、やっと床に就こうとした深夜1時に電話が鳴ったり、夜遅くに雨が降っていたりすると、「訪問するのが嫌だな」と思う自分がいるわけです。それはもう、「今までできたことができなくなっている」ということなんです。 ベテランの訪問看護師の皆さんが、仕事に誇りを持っておられることは素晴らしいし、ぜひ続けていっていただきたい。けれども、どこかで「これまでできていたことができなくなっている自分」がいないか、無理していないかを、一度立ち止まって確認してください。自覚がないまま続けると、そのうち利用者やスタッフに迷惑をかけてしまうことになりかねません。もちろん若いスタッフは、迷惑だなあと思っても、管理者やベテラン看護師に面と向かって伝えたりはできないことが多いです。自分で気づくしかないのです。 私の友人の訪問看護師は、「私がこれだけ働いていると、周りのみんなが少しは休みなさいとか、ちゃんと食事もしないと倒れる、もう少し休んだほうがいいって言うんだけど、よけいなお世話よね」と言うのです。そして、自分の望みは死ぬまで仕事をしていたいと。それはそれで素晴らしい生きかただと思います。でも、ちょっと立ち止まって「それでいいのかな」と考えてみることが必要かもしれません。 入居者から学ぶ自らの引き際 だんだん会が運営するシェアハウス「わがままハウス山吹」に最近入所された人がいます。奥様を10年前に亡くされてから、96歳まで東京で独り暮らしをしていました。しかし、失禁なども始まって一人で生活することが難しくなったため、娘さんが住むこの地に引っ越して、入居されました。明らかに独り暮らしは限界で、手助けがないと暮らせない状態でした。ですが、ご本人はいまだに「僕はまだ独り暮らしができる。東京に帰ります」と、住み慣れた自宅を離れたことに納得していない。以前はできたことが、もうできなくなっている自覚がないんですね。 私がその人から学んだのは、私自身が「まだできる」と思っていないかということです。以前なら平気で徹夜で原稿を書いたり、夜中の急変にも対応したりできていた。それが自分の使命だと思ってやってきたけれど、客観的に見たら、もう無理ができない年齢です。責任の重い仕事をするなら、なおさら、今までできたことができなくなっている自覚を持ち、「できない」と引く勇気も必要なんです。 訪問看護黎明期にステーションを立ち上げたベテランの方々は、最後まで現役でいたいと思っている人たちがたくさんいらっしゃいます。仕事に生きがいを感じ、大きな使命感を持って働いていらっしゃるから、なおさらです。でも、どこかでできなくなっている自分がいないかを確認しないと、周囲に迷惑をかけてしまうことに、気づいてほしい。私自身がそう感じています。 現在、働きかた改革が進み、訪問看護の世界でも、世代間の考えかたに距離を感じることがあります。今の20~30代が看護学校で学んだ看護教育や環境と、私たちの世代が受けた教育とは、かなりの開きがあるように思います。そこを理解せず、これまでのやりかたで統一しようとしても、若い人たちは納得できないでしょう。これからの管理者は、世代間の考えかたの違いを自覚したうえで、どう組織をまとめあげるかを考えていく必要があると思います。 最近は、医療ニーズが高くても、在宅で暮らす割合が高まってきました。先日も、食道がん末期で入院中の人が「コロナ禍で家族と面会もできないなら、最期の時間を病院ではなく家で過ごしたい」と退院され、だんだん会の訪問介護事業所がかかわらせていただくことになりました。新型コロナの関係で病床が逼迫しているので、病棟並みの管理が必要な重度の人が家に戻るケースもあるようです。そのような人たちを支えるには、看護師の力だけでなく、相当のチーム力が必要です。年齢の壁、考えの違いを十分理解し、若い人たちの声にも耳を傾け、自らをも振り返ることで、よりよいチームとなっていくと考えています。 ** 宮崎和加子一般社団法人だんだん会理事長 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2021年9月21日
2021年9月21日

第3回 計画的な人材採用と育成/[その2]ミスマッチを防ぐ「採用面接」のポイント

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第3回目では[その1]~[その4]にわたり訪問看護ステーションにおける人材採用と育成について解説していきます。今回のテーマは“採用面接”です。求人広告を出し応募者が集まったら、次に行うのが面接です。今回は採用担当者が押さえておきたい求職者の人物像を見きわめるポイントと面接の場を活用した入職後のミスマッチを防ぐ方法をご紹介します。 ●ここがポイント!・面接は事業所の採用担当者と求職者がともに互いの理解を深め、ミスマッチがないか確認する場である。・面接の短い時間で求職者の能力や特性をすべて見きわめることは難しい。求める人物像をイメージし、そこからチェックする項目を絞り込む方法もある。・事業所について正確な情報提供を行い、求職者自身の考えや期待することとのギャップをできるだけ小さくすることが大切。 面接とは 面接は、求職者の性格や仕事に対する意欲や適性、能力の確認を行うために実施します。また質疑応答や意思確認などをとおして、事業所の採用担当者と求職者がともに互いの理解を深め、ミスマッチがないか確認するための場でもあります。 採用担当者の視点 採用担当者としては、大事な利用者を任せるので、本人と家族が安心できる人物を選びたいと考えるのではないでしょうか。例えば「仕事への情熱やプロ意識がある」、「安全な医療行為に関する知識がある」などは確認したい事項です。また、利用者や家族との間に何かトラブルが生じたときに適切に対応できないと、事業所にとっては顧客を手放すことになりかねません。「利用者の話をしっかりと聴くことができる」、「難しい状況や不測の事態に対処できる能力がある」といったスキルや適性も見きわめたいところです。 面接時のポイント 面接の短い時間で求職者の能力や特性をすべて見きわめることは難しいです。そこで、求める人物像をイメージし、そこからチェックする項目を絞り込むという方法を提案します。ここでは、一例として「利用者やその家族、ほかの職員との信頼関係を築ける人かどうか」という観点でチェックする際のポイントについてご紹介します。 相互理解を深めるコミュニケーション能力があるかどうか 訪問看護ステーションではさまざまな人たちとともに働きます。その中で、ほかの人の意見を聴き、気がついたことがあれば助言をしていくことも大切です。ていねいな言葉づかいや相手の話を聞く態度、自分の意見を話すときは5W1H(When・Where・Who・What・Why・How)を意識して相手に伝わる話し方をしているかなども、面接をとおして見ていきます。 基本的な接遇・マナーを身につけているかどうか 好感のもてる身だしなみや誠実な対応は、ぜひ身につけておいてほしいところです。例えば利用者のお宅に伺う際、明るく元気に挨拶をして、靴を揃えて上がれる人なのかどうかといった点は、面接室への入り方や身だしなみ、表情、声の大きさなどから判断します。 責任感があるかどうか 仕事に対する姿勢として責任感も大切です。例えば、過去の職場での不満や失敗などのエピソードからどのように対応したのかを聞き出して、責任感から行動する人物なのか、自分勝手な行動をする人物なのかがある程度推測できます。 学習意欲があるかどうか 学習意欲の有無も重要です。実務経験や資格などから仕事に対する学習意欲があるかどうかなどを判断します。 笑顔 最後に、面接で特に重視してほしいのが笑顔です。人を元気づけられる笑顔をもっているか、面接時の様子からストレートに評価してみてください。 入職後のミスマッチを防ぐために 面接には、求職者の人物像を見きわめる以外に、とても大切な役割があります。それは事業所について正確な情報提供を行い、入職後のミスマッチを防ぐということです。 面接時の質疑応答をとおして、事業所の理念や組織の雰囲気、採用条件や仕事内容、求めるスキルを求職者に伝えて、求職者自身の考えや期待することとのギャップをできるだけ小さくすることが大切です。ギャップが大きいと職員のモチベーションが低下し、入職後の定着に結びつかず、せっかく入ってくれた人材を逃すことになってしまいます。 事業所側は入職につながるよう、よいところだけをアピールしてしまいがちですが、採用前にネガティブな情報も含めてきちんと伝えられるようにしましょう。求職者がその情報も含めて入職を決められるプロセスを経ることが、その後の早期離職を防ぐ一助になるということを忘れないでください。 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社

特集
2021年9月21日
2021年9月21日

訪問看護あるある座談会 vol.6 移動中編

訪問看護の移動手段は何をご利用されていますか?暑い日も寒い日も雨の日も、自転車移動で訪問されている方も多いのではないでしょうか。今回も3人の訪問看護師さんにお集まりいただき、移動をテーマに訪問看護の「あるある」についてぶっちゃけトークをしてもらいました。 どう過ごす?訪問看護中の微妙な空き時間 みほ:このメンバーは3人とも自転車移動なんですよね。最近入った新人さんから「訪問移動中の5〜10分の微妙な空き時間、どうしてるんですか?」って聞かれて。 あい:私もそれ気になります。みんなどうしてるのかなって。 みほ:車移動だと車の中で待機できるじゃないですか。自転車だと、暑さをしのぐのにコンビニのイートインが便利なんですけど… ゆり:コロナでイートイン閉鎖してるところ、多いよね…  みほ:そうなんですよ。ここのコンビニにイートインコーナーがあるよって案内したら、新型コロナのせいでイートイン休止中でした… ゆり:外にいるのも暑いよね。イートインない時は、夏場だとアイス買ってコンビニの外の日陰見つけて食べたりしますね。最近はフラッペも売ってるから、熱中症にならないように顔とか首とか冷やして、溶かしながら飲んでいます。熱中症対策だと、干し梅も持ち歩いてますね。 あい:熱中症対策、大事ですよね。 ゆり:前の座談会(※夏対策編)でも話したけど、熱中症にかかるとつらいんですよね。暑くない時期だと、公園のベンチに座ってたり、自転車のサドルにタブレット置いて記録したりしてるかな。 あい:私もジュースとか買って、木陰や公園で休憩しながら記録してます。コンビニに寄って何か食べるほどの移動時間はあまりないので、ステーションの訪問の組み方とかにもよるのかもしれないですね。 ゆり:ステーションによっては移動時間を短く設定して、タイムロスないようにしているところもあるもんね。また食べ物の話になっちゃうけど、冬だとコーンスープとか肉まんとかで暖をとってるよ。 みほ:温まりますよね。隙間時間あると何かつまんじゃうので、病院から転職してきた看護師さんが、自転車移動だから痩せそうと思っていたけど結局合間で食べちゃって痩せない、って言ってました。 あい:私も痩なかったですね。夏の暑さで水分が出ていく感じはありますが。 ゆり:水飲むとトイレが心配になっちゃわない? あい:トイレのことも考えますね。次の訪問までの移動で「どこにトイレあったっけ」とか考えますね。 ゆり:そうそう。女性専用トイレがあるコンビニとか把握するようにしてます。 みほ:わかります。新人さんと同行しながら「ここのコンビニはトイレがきれいなのでおすすめ」とか教えますね。 あい:すごく詳しくなりますよね。笑 ササっと済ませる移動中の外ランチ みほ:外でランチすることとかありますか? ゆり:移動で事務所戻れない時は外で食べますね。食べるの早いほうなので、途中ラーメン屋さん入って、オーダーして3分くらいでラーメン出てきて、5分で食べて、出る、みたいな。すぐ出てくるところなら15分くらいで食べますね。 あい:すごい、私食べるの遅いのでできない…! ゆり:男性スタッフとか、牛丼屋でサッと食べる人とか結構いる気がする。 あい:たしかに、うちのところもそういう男性看護師さんいます。 みほ:ファーストフード店はすぐ出てくるので、よく寄りますね。時間もないしササッと食べちゃうんですが、早食いは体に良くないとは思ってます。 あい:みなさん早く食べて移動しているの、すごいですね。 みほ:しっかり休めればいいんですけど、移動時間がギリギリとか、緊急訪問が入ってバタついたりとかもあって。ゆっくり食べられる日はありがたいですね。 ゆり:忙しいときこそ、食べないと倒れちゃうからね。 移動中の急な雨、自転車移動どうしてる? みほ:突然の雨が多くて、かっぱも持ち歩いてるから、荷物多くなるんですよね。 ゆり:荷物が気になるんだったら、かっぱ以外に小さいポンチョをリュックに忍ばせるとか、雨よけのビニールの靴カバーを持ち歩くとかはおすすめ。ふくらはぎくらいまでの長さで、コンパクトにまとめられるんですよ。 あい:なるほど。いいですね。降りそうで降らない時に、何を履いていくか迷うんです。雨予報だけどまだ降ってないときに「なんとか大丈夫だろう」ってスニーカーで訪問行ったら、途中から降ってきて「ああ、長靴にしとけばよかった…」ってなります。 ゆり:しかも雨の日はマンホールとか点字ブロックで滑りますよね。 あい:みんな通る道ですよね。かっぱ着てレインバイザーするから、視界も悪くなって怖くないですか? みほ:わかります。怖いですよね。 ゆり:傘差し運転してる自転車とすれ違うのも怖い…。 あい:急な雨の日とか多いですよね。 ゆり:電動自転車、重いから避けるのが大変なんですよ。 あい:電動自転車、訪問看護で初めて乗ったんですけど、「えっ、重い!」ってびっくりしました。車道と歩道の溝の段差にハマって転びそうになったこともあって。訪問中に自転車で転ぶのも、みなさん1回はやってる気がします。 みほ:安全運転が一番ですね。 記事編集:NsPace

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