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インタビュー
2021年8月31日
2021年8月31日

現場を苦しめる新型コロナが共に支え合う地域連携を進展させた

トップランナーから現場へのエール 今回より6回シリーズで訪問看護のレジェンドともいえる方々3人にご登場いただきます。第1回前編は、訪問看護ステーションのみならず多方面でご活躍の秋山正子さんに、コロナ禍での訪問看護ステーションの実情についてうかがいました。 陽性者対応だけでない新型コロナ問題 新型コロナウイルス感染症のまん延は、訪問看護の現場にもさまざまな影響を及ぼしています。一つには、運営のあり方です。自宅待機の新型コロナ陽性者を訪問するなど、最前線で利用者を支えている訪問看護ステーションがある一方で、発熱や咳のある利用者の訪問を極力控えているステーションもあります。 訪問看護ステーションはだいぶ大規模化が進んできましたが、それでもやはり看護師5~6人のステーションが中心です。もし職員に感染者や濃厚接触者が一人でも出れば、たちまち訪問が滞ります。小規模ステーションであれば、運営自体に大きな影響が出ます。そうなれば利用者にも迷惑をかけることになりますから、自分たちの身を守ることも大切です。ここは難しいところですね。 職員の家族の発熱への対応も悩ましい問題です。私が統括所長を務める白十字訪問看護ステーションでも、この春、職員の子どもが通う保育園でクラスターが発生し、職員が出勤できなくなりました。休むことになった職員の訪問を、誰がどうカバーするかなどの対応が必要になりましたが、慌ててもしかたがありません。そういうときは淡々と対処していくしかないですね。 職員のやりくりに苦心する一方で、感染の影響による新規の依頼もあります。クラスターが発生してデイサービスが休業したから、臨時で訪問看護を利用したい。入院した病院の面会制限が厳しいので在宅で看取りたいから訪問看護に来てほしい。そんな依頼です。 陽性者にどう対応するかだけでなく、その周辺も含めたさまざまな影響が今、訪問看護に出ていると思います。 この難局を地域で連携して乗り越える とはいえ、悪いことばかりではありません。新型コロナへの対応を通して、地域でさまざまな連携や新しい取組が生まれてきています。 例えば、白十字訪問看護ステーションのある東京都新宿区は、一時期、夜の町での感染拡大がセンセーショナルに取り上げられました。これに対応するため、新宿区医師会が動きました。区内の複数の大病院が重症者対応に注力できるよう、開業医の先生方が発熱外来を運用したり、訪問でPCR検査をしたり、後方支援に取り組んだのです。たとえ陽性者数が増加しても、重症者や死者を増やさない。今ではそんな意識がかなり徹底されています。 訪問看護も、事業所同士の連携が進んでいます。感染拡大初期、病院に比べて在宅では、防護服などの感染予防の医療用品が手に入りにくい時期がありました。そこで、連絡会として行政に訴えるなど解決に動いたことをきっかけに、連絡会による横の連携が活発になりました。一つの事業所だけで悩むのではなく、一緒に考えましょうという意識が強まったのです。今では、防護服などの行政からの支援物資は、少し広い事業所がまとめて備蓄し、そこから不足している事業所に出すというしくみがつくられました。 また、医師会の先生方と月1回情報交換するなど、医療職同士の連携も進みました。そのおかげで、PCR検査の実施方法、感染初期の対応など、今ではさまざまな情報共有が速やかに行われるようになっています。 定期巡回・随時対応型訪問介護看護(以下、定期巡回)でも、事業所同士の連携が進んでいます。訪問看護同様、限られた人数で訪問介護を提供している事業所では、感染者や濃厚接触者が一人出れば、やはり欠員となった職員をどうカバーするかが問題になります。 あるとき、一人暮らしの利用者を支える定期巡回の事業所で、夜間帯を担当していた介護職が濃厚接触者になり、訪問できる介護職がいなくなったことがありました。そのときには、事情を知った他の訪問介護事業所がカバーし、何とか利用者を守り抜いたのです。 新型コロナの感染拡大は、これまでに誰も経験したことのない危機的状況です。だからこそ、地域の中で他の事業所とのチームワークが芽生え、互いに支え合っていこうという意識が強くなったとも言えます。この難局は、そうしたいい面も引き出しているのではないかと思います。 (後編へつづく) ** 秋山正子株式会社ケアーズ 白十字訪問看護ステーション・白十字ヘルパーステーション統括所長、暮らしの保健室室長/認定NPOマギーズ東京センター長   取材・文/宮下公美子(介護ライター) 記事編集:株式会社メディカ出版

コラム
2021年8月31日
2021年8月31日

私はALSを発症して6年になる40歳の医師です

enjoy! ALS 『enjoy! ALS』では、ALS患者として在宅療養をしながら、現在も診療を行っている現役の医師が、ALSに関するpositiveな情報をお届けします。 まず簡単に自己紹介を 私はALSという病気を発症して6年になる40歳の医師です。もともと、大学病院で皮膚科医として勤務しながら、医学部と看護学部で皮膚科の講義を行なったり、『毛包幹細胞』について研究したりしていました。2015年に研究のため、アメリカのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)に留学したのですが、同年の7月にALSを発症して帰国してきました。帰国後は、さまざまな検査や治療をしながら、同僚のサポートのもと大学病院で医師として診療を続けていました。徐々に手が動かなくなっていったため、カルテは音声入力で記録。歩けなくなったため、電動車いすで通勤……など工夫をしていましたが、発声が困難になってしまったため、2019年の3月に退職しました。 その後は自宅で、皮膚科医として遠隔診療をしながら、現在に至るまで在宅加療を続けています。診療の対象は、離島など皮膚科医のいない地域の患者さんや、私のように在宅療養しており皮膚科医の診察を受けられない患者さんで、iPadで画像や問診票を見て診療する形です。 このたび、お世話になっている訪問看護師さんから、「NsPaceでコラムを書いてみないか?」というお話をいただきました。すぐに「やります」と答えました。自分で言うのもなんですが、私は医師で、若年発症のALSという、かなりまれな患者です。発症してから国内外問わずさまざまな論文を読んでALSに関する知識を深めてきましたし、工夫をこらして快適な生活環境を作ってきました。 その中で強く感じたのは、「世の中にはALSに関してnegativeな情報が多すぎる!!」ということ。 あふれるnegativeな情報 ALSと診断された患者やその家族、それにかかわる看護師や介護士が、まずインターネットなどでALSを調べると、 “ALSは進行性の神経難病で、徐々に全身の筋肉が動かなくなっていき、治療法はなく、発症してからの平均余命は2〜5年” そんな乾いた文字だけが針のように突き刺さってきます。それは、今までのALS患者の症状や経過をただ統計学的にまとめて、羅列しただけ。 そういう私も約20年前、医学部生だったころに神経内科の授業でそう習いました。なんてつらくて、無慈悲な病気なんだと思い、絶対になりたくない病気ランキングワースト3には必ず入っていました。その当時はまさか自分がなるなんて思ってもおらず、ただ他人ごとのように授業を聞いていたものです。 つらい・残酷なだけの病気なのか しかし、そんな文字からは、現場の生の声は、入ってこないのです! 確かにALSは今でも治療法はありませんが、私が医学部生の時代とは違い、病態はわかってきています。運動ニューロンの中にTDP-43という異常なタンパク質が蓄積して、それが細胞死を引き起こしているということです。なんでTDP-43が蓄積するのか? どうすればそれを除去できるのか? それがわかれば根本的な治療につながってくるのですが、そこはまだ時間はかかりそうです。 しかし、ALS患者を取り巻く環境は劇的に進歩してきています!特にコミュニケーションツールの発展は目覚ましいものがあります。私は2021年2月に気管切開+声門閉鎖手術をしたため、声は出せず、目と口、足が少し動くくらいです。でもそれだけ動けば、できることが山ほどあります。歯のわずかな動きでiPadを操作して、皮膚科医として月100〜300人の患者さんを診察しているし、YouTubeやNetflixなども見ることができます。また、iPadに赤外線リモコンを記憶させて、テレビをはじめ、エアコンや扇風機など、さまざまな家電を操作することができます。目の動きだけで文字盤など何も使わずに会話することができるし(後々紹介します!)、目の動きだけでパソコンを操作して、大学で講義をする時のPowerPointスライドを作っています。ほかにもできることはたくさんあるし、やりたいこともたくさんあって、毎日時間が足りません。 ALSと前向きに向き合っていく人たちへ 私は日々充実して本当に楽しく過ごしています。 多くの人は、「ALSは、いろいろなことができなくなっていく、つらくて残酷な病気」ととらえていますが、「わずかな動きと工夫しだいで、いろいろなことができる可能性に満ちた病気」です!ALSと前向きに向き合っていく、患者とその家族、周りの医療スタッフに、ただただpositiveで有益な情報を伝えたくて、このコラムのタイトルをつけました。『enjoy! ALS』 **コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版 ■「みんなの訪問看護アワード」エピソード募集中!(~2025/1/24)今回で3回目となるNsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」では、2025年1月24日(金)17:00まで「つたえたい訪問看護の話」を募集中です! 訪問看護にかかわる方であれば、誰もが共有したいエピソードがひとつはあると思います。皆さまのエピソードをお待ちしています!

特集
2021年8月13日
2021年8月13日

在宅医療でヒヤッとしたこと4選

仕事中、いくら注意していても誰もがヒヤッとした経験が1度はあるのではないでしょうか。関わる対象が人だからこそ、他の職業に比べてヒヤッとする度合いが大きいかもしれません。そして在宅では、病院では起こらないようなことが起こりヒヤッとすることがあります。 今回は訪問入浴介護勤務の看護師が経験した、在宅ならではのヒヤッとしたことをご紹介したいと思います。 目次 ◆訪問したら利用者様が不在だった ◆入浴中、カテーテルが自然抜去 ◆利用者様のベッド上に忘れ物 ◆お布団の中にペットや虫 ◆まとめ   ◆訪問したら利用者様が不在だった 今回のケースの利用者様は、軽度の認知症がありましたが一人で暮らしていました。ふらつきが時々あるけれど歩行ができる方でした。ある日訪問すると、家の中のどこにもいません。ふらつきがあるのでどこかで転んで動けなくなっているのではないか、何か事故に巻き込まれたのではないかと一緒に訪問したスタッフと家の周囲を必死に探しました。 しばらくすると、私たちの心配をよそに「どうしたの?何かあった?」と利用者様が帰ってきました。利用者様にはあらかじめ訪問時間を伝えていますが、忘れて買い物に出かけてしまったそうです。利用者様の顔を見たときは、ホッとして一気に力が抜けました。 このことはケアマネジャーに伝え、その後は私たちが訪問する前にサービスに入るヘルパーさんからも、再度訪問時間を伝えてもらうようにしました。 ◆入浴中、カテーテルが自然抜去 訪問入浴介護の利用者様で、膀胱留置カテーテルを挿入している方は多いです。そのためスタッフ皆で抜去しないように気を付けて介助しているのですが、自然抜去してしまった経験があります。入浴中いつも通り介助をしていたのですが、湯船の中にぷかぷか浮かぶカテーテルを発見しました。手早く入浴を済ませ、すぐに訪問看護師に連絡しました。全身状態を伝えると、すぐに向かうので退室していいとのことでした。 後で伺うと、原因は膀胱留置カテーテルを交換したばかりだったのですが、固定液の量が少なかったために自然抜去したのではないかとのことでした。湯船に浮かぶカテーテルを見たときはスタッフと一緒に青ざめましたが、自分たちが原因ではなくてホッとしました。 ◆利用者様のベッド上に忘れ物 在宅の仕事では、たくさんの荷物を持って利用者様のお宅に伺うと思います。訪問入浴介護も同じです。多くの物品を持ち歩くため、利用者様のお宅に忘れ物をすることも少なくありません。私は体温計を利用者様の枕元に忘れてしまうことが何度かありました。 次の利用者様のお宅に行って使おうとしたときに気付くのですが、本当にヒヤッとします。サービスを中断してしまうことで利用者様に迷惑をかけてしまいます。そしてもし忘れた場所が利用者様のベッドで、寝返りなどをしたときに体の下敷きにしてしまったら怪我をするかもしれません。それがはさみなど鋭利なものだったら本当に危険です。 私はなるべく利用者様のお宅を出る前か、車に戻ったらすぐにナースバックの中身を確認するように心がけ、忘れ物をなくすようにしました。 ◆ お布団の中にペットや虫 これは今では笑い話ですが、その時は本当にヒヤッとしたことです。入浴の準備が整ったため、利用者様に「お洋服を脱ぎましょうね」と声をかけました。そして布団をめくると、なんとペットの猫がいて「ニャー!」という鳴き声と共にものすごい勢いで飛び出してきました。びっくりして、私も思わず声をあげてしまいました。利用者様のお部屋は昔ながらの造りでとても寒かったので、猫もお布団の中でぬくぬくしていたのでしょう。 他には虫がいたことも何回かあります。整った環境で暮らしている利用者様ばかりではありません。 病気のため体の自由がきかず、そのうえ一人暮らしという方も多くいらっしゃいます。訪問入浴介護の仕事を始めて、色んなお宅があるということを学びました。 ◆まとめ 重大な事故につながるものから珍事件までご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。命に関わる仕事だからこそ、ヒヤッとすることは極力少なくしたいですね。 その為には事前の準備や、ヒヤッとした原因を認識ことが大切だと思います。実際にヒヤッとした事例を共有して、対策を立てることに役立てていただけたら嬉しいです。 ** 記事提供:株式会社3Sunny(スリーサニー)  

インタビュー
2021年8月13日
2021年8月13日

オーストラリアで出会った訪問看護の魅力/海外訪問看護

オーストラリアでは訪問看護師特有の業務形態により、長年従事する看護師が多いため、求人の空きがなかなかないそうです。また、急性期、慢性期に分業されているため高いスキルが求められます。今回お話を伺った本田一馬さんは、オーストラリアで看護師資格を取得し、さまざまな経験を経て急性期の訪問看護師になりました。これまでの経緯や働き方、日本との違いについてご紹介します。 オーストラリアで訪問看護師になるまで Q 訪問看護師を目指したきっかけとは 高校卒業後に語学留学のために中国へ渡りました。その後、オーストラリアに移動したので、看護師資格を取得したのは27歳のときです。当時、オーストラリアでボランティアをしていて、そのなかで「看護師になってみてはどう?」と声をかけていただいたことがきっかけとなり、看護の道に進みました。 学生最後の実習で訪問看護を経験し、今までのクリティカルな領域とは大きな違いを感じました。患者さんと関わる中で、医学的な治療よりも住み慣れた家や家具、愛するパートナーやペットたちに囲まれた環境で、話を聴いてもらうことが一番の特効薬になり、大きな力が生まれることに気が付いたんです。 卒後はすぐにでも訪問看護師として働きたいと懇願しましたが、スタッフは経験8年以上のベテランばかり。師長からは「経験を積んできなさい」と諭されてしまいました。その言葉通り、救急外来や集中治療部、研究や老人ホーム勤務などの経験を積みました。その後も訪問看護の魅力が忘れられず、採用枠が空くのを待ちました。そしてある時、奇跡的にも1つポジションに空きが出たことで、念願だった急性期訪問看護師チームの一員になることができました。急性期訪問看護チームはなかなか求人情報が出ないこともあり、私の働いている医療機関ではゴールデンジョブと呼ばれることがあります。 急性期の訪問看護師の仕事 Q 急性期に特化した訪問看護とは オーストラリアの訪問看護は急性期と慢性期に分かれており、急性期では、1日3~4人の患者さんを訪問しています。1人当たり、約1~2時間かけて看護ケアを提供しています。また、日本でいうオンコールのような夜間対応はなく、必要があれば速やかに救急外来の受診をすすめています。 おもな仕事は、蜂窩織炎、骨髄炎、肺炎などを患った患者さんに在宅で抗生物質の投与を行うことがメインとなります。ほかには乳房摘出術後のドレーン管理などです。オーストラリアでは、ドレーンの抜去や抜糸なども看護師が行います。 急性期訪問看護チームの役割は、患者さんをできるだけ地域で看ることによって病院への入院を防ぐことです。そして容態が安定していても継続した点滴管理が必要な患者さんを、私たちのチームで受けることによって早期退院を目指し実現させることです。 患者さんの紹介は個人医院や病院からの紹介になりますが、入院されている患者さんが在宅でケアすることが可能かどうか退院前に確認し、難しそうであれば医師に対して意見することもあります。在宅では1人でケアすることになり、責任もありますからね。実際に働いてみて、やはり高い知識と技術、判断力が必要だなと感じます。経験や場数を踏んでいく必要があるという考えの方が多いですね。医療アシストを呼ぶことができない状況の中、とっさの判断を迫られたときに、いろいろな経験がとても役立ちます。 訪問看護ならではのかかわり Q 訪問看護師としてのやりがいとは 乳房摘出後のケアは男性看護師が介入しにくい部分ではありますが、まずは、患者さんと患者さんを取り囲む家族の皆さんと信頼関係を築くことだと思います。在宅なので、旦那さんが同席するケースが多くあります。一般的に女性としてのシンボルとして認識されている体の一部を失ってしまった妻を、少し離れたところから心配そうに見つめる旦那さん、そして、その妻に対して「どのように接していけばいいのか。」と悩む旦那さんは少なくありません。そういった家族の気持ちも含めたケアを行います。男性だから話せることがあったり、言いづらいことを引き出したり、家族全体のケアをいかにホリスティックに見ていくのかが大切ですね。 ただ、コミュニケーションが英語なので、細かいニュアンスが伝わりにくいことはあります。オーストラリアは多文化なので、患者さんの文化背景によって話し方やアプローチのしかたを考慮し、その患者さんに合った看護ケアを提供するよう心掛けています。もし、言葉が通じなくても、「自分のことを気にかけてくれている。」という姿勢が患者さんに伝わると信頼関係の構築につながり、コミュニケーションや看護ケアの提供がスムーズになるという経験をたくさんしています。そこがやりがいにもつながっていますね。 急性期の訪問看護は、一人ひとりにケアをする時間が長く取れることが魅力の一つだと感じます。もちろん、医師とも意見の交換をしますし、患者さんのために常に疑問を持って問いかけるようにしています。医師の言ったことがすべてとは捉えずに、納得できなかったことはとことん話し合います。看護師主体で率先して動けるので、ここもやりがいの一つですね。 日本とオーストラリアの懸け橋に Q 今後のビジョンについて 今は色々な意味で自分の視野や可能性を広げるために、大学院で修士課程(プライマリーヘルスケア看護)の勉強をしています。このまま学業に励み、博士課程まで勉強できればと思っています。博士課程取得後には、オーストラリアと日本のさらなる共同看護研究の発展や看護技術のエクスチェンジプログラムなどに加担する事で、お互いの科学的な看護実践の質を高め、より一層、患者のニーズに沿った安全で高度な看護ケアの提供につながればと考えています。日本からオーストラリアに留学や短期プログラムに参加する学生にも、グローバルな視点が身につくように色々な経験ができるような支援もしていきたいですね。お互いの文化を大切にしながら良いアイディアを取り込んでいくことで、良い変化が生まれ、最終的には患者さん、そしてコミュニティーの健康へつながると信じています。 また、知り合いの同僚が日本に行った時の感想を聞くと、とても親切であり、素晴らしい国だと言ってくれます。そんな自分の国を誇りに思います。日本の先輩や後輩の方々に、少しでも役に立つことができるよう精進していくことが最優先だと思っています。 ** Registered Nurse Nurse Immuniser Central Coast Local Health District Acute Post Acute Care Team (急性期訪問看護所属) 本田一馬 【略歴】 2010年 ニューカッスル大学 (オーストラリア) 医学部看護学科卒業 2011年 オーストラリア連邦内閣総理大臣賞を受賞し、山口大学へ客員研究員非常勤講師として赴任 2014年 主任看護師Aurrum Erina (高齢者介護施設) 2015年 正看護師 急性期内科 (Gosford Hospital, Australia) 2018年 急性期訪問看護師 Acute Post Acute Care Team, Gosford Hospital 2020年 シドニー大学 医学部保健学科修士課程 Master of Primary Health Care Nursing 入学 2021年 Nurse Immuniser として急性期訪問看護の傍、ワクチン接種業務に従事 Facebook:https://www.facebook.com/KazyAus Twitter:@KazumaHonda Instagram:kazuma_honda_aus

コラム
2021年8月10日
2021年8月10日

訪問看護師に必要なスキル・知識のまとめ

前回は医療制度・介護制度、礼節・礼儀などについてお話ししました。 第6回は、本コラム連載の最終回として訪問看護師に必要なスキル・知識の総括についてお話ししたいと思います。 訪問看護師に必要なスキル・知識のまとめ 今回を含めて、これまで全6回にわたり訪問看護師に必要なスキルを私なりにまとめさせていただきました。最後にこれらをもう一度、訪問看護の実際の業務フローに落とし込み、可視化したいと思います。 下図は、訪問看護業務フローと8つのスキル・知識の関係図です。見方としては、図・左下の「患者・利用者」から始まり、反時計回りで、患者・利用者→アセスメント→必要な看護の提供となります。 【訪問看護の業務フローにおける各スキルの位置づけ】 ➀患者・利用者の意向・状態変化 ここでは、「本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル」、「本人・家族の平時の生活を想像するスキル」が必要なスキルとなります。特に本人の思いの吸い上げは、最も重要であり、看護方針の基盤となるだけでなく、さまざまな判断の軸となります。 また本人のリアルな状態変化をしっかり見極め、看護に反映させるため、平時の本人の状態を想像するスキルが必要となります。詳しくは、下記をご参照ください。 第1回 思いを吸い上げるスキル・想像するスキル ②アセスメントと他職種との連携 次にご本人の意向などをもとにアセスメントを実施し、さまざまな看護プランを立てることになりますが、ここでは「マネジメントスキル(チームマネジメント)」、「コミュニケーションスキル」、が必要となります。 アセスメントをもとにし、設定された目標に対してどういった職種にどのように動いてもらうかを考え、さらに円滑に動いてもらうために、マネジメントスキルが必要となります。その際に、在宅現場においては、ひとつの職種で利用者さんの療養を支えることは難しいため、医師を含めた他職種とのコミュニケーションスキルが非常に重要となります。 コミュニケーションを取る時には、相手の職種・役割・所属組織の方針などを考慮にいれた俯瞰力を持って臨むことで、より円滑な連携が生まれ、マネジメントも良質なものとなります。また、特に医師に対しては、SBARを改めて実践することで、より良好な関係性を目指していただければと思います。詳しくは下記をご参照ください。 第2回 医師・他職種とのコミュニケーションスキル 第3回 コミュニケーションスキル(訪問看護指示書)とマネジメントスキル ③在宅現場での必要な看護の提供 最後に在宅現場での必要な看護の提供段階となりますが、ここではより良い看護を提供するために「医師のいない場で医療的判断を行うスキル」、「在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)」、「医療制度・介護制度などに関しての知識」、「礼節・礼儀などを実践できる素養」が必要となります。 まず医師がいない場で、訪問看護師が医療的判断を行うことはさまざまな不安があると思いますが、その不安は何をどこまで実践してよいか明確になっていないことが原因であることが多いです。そのため、ご本人の意向を知り、かつ医師からの包括的指示をもらうことで、その不安は払拭することが可能となります。 次に在宅療養中の利用者さんに起こりやすい疾患などに対しての看護スキルについては、「看護は芸術である」という観点のもと、それぞれの利用者さんに対して、みなさんが持っている看護技術を生かして、彩られた療養環境を作り出してみてください。 制度面については、訪問看護は医療保険と介護保険の2つの制度で成り立っており、さらに疾患などにより訪問回数なども決まっています。そのため、制度を知らないと看護プランを立てられないことがあるので、しっかりと理解することが重要です。 礼節・礼儀については前回コラムのとおりです。 これらのスキル・知識をもって、在宅現場でより良い訪問看護を実践していただきたいと思います。詳しくは下記をご参照ください。 第4回 医師のいない場で医療的判断を行うスキルと在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) 第5回 医療制度・介護制度などに関しての知識と礼節・礼儀などを実践できる素養 本コラム最終回として、訪問看護師に必要なスキル・知識の総括についてお話しさせていただきました。 これまで8つのスキル・知識をまとめてきましたが、豊富な訪問看護経験がある方にとって、本連載の内容は当たり前のことも多かったと思います。一方で、連載を通じて、さまざまな気付きをもらえた、という非常にありがたいご意見もいただきました。 患者・利用者さんのQOLの向上のために、今回の8つのスキル・知識が少しでもみなさんのお役に立てば幸いです。 おわりに、本連載を読んでいただいた方、また本連載に関わっていただいた関係者の方々に感謝を申し上げます。 ** 医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

特集
2021年8月10日
2021年8月10日

重症筋無力症(MG)

「難病を知る」シリーズ、第2回は、近年、有病率が増えている重症筋無力症(MG)です。 病態 重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう:MG)は、筋力の低下を主な症状とする自己免疫疾患です。遺伝性ではありません。 骨格筋の収縮は、アセチルコリン(ACh)の働きが関与しています。神経と筋とのつなぎ目の部分で、AChが神経終末から放出され、筋肉側にあるACh受容体にAChが結合することで、筋収縮が起こります。 MGでは、ACh受容体などを攻撃する異常な自己抗体が生じます。その抗体がAChの結合などを阻害し、筋収縮が妨げられる結果、筋力低下につながります。 なぜ、そのような自己抗体が作られるのか、原因はよくわかっていません。ACh受容体抗体のある人では胸腺腫などの合併も多く、胸腺のかかわりも疑われています。 疫学  2018年の全国疫学調査では患者数は約2.9万人で、人口10万人あたりの有病率は23.1人でした。2006年の調査結果と比べると、有病率は約2倍に増えています(難病情報センター調べ)。 男性よりも女性に多い疾患です(男女比1:1.7)。好発年齢は5歳未満と、女性では30~50歳代、男性では50~60歳代です。近年は高齢での発症(後期発症)が増加しています。 症状・予後 運動の継続ですぐに力が入らなくなり(易疲労性)、休息することで回復するのが特徴です。症状は日内変動し、夕方に症状が悪化しがちです。 初期には、まぶたが下がる(眼瞼下垂)、ものが二重に見える(複視)といった、眼症状の出現がよくみられます。 力が入らず持ったものをよく落とす、階段を上るときに脚がだるい、頸が前に下がるなど四肢や頸部の筋力低下、発語の障害(構音障害)や嚥下障害、咀嚼障害、また顔面筋力の低下や呼吸困難などがみられることもあります。 症状の出かたにより、眼瞼下垂や複視など眼症状のみが現れるタイプ(眼筋型)と、四肢の筋力にも症状が及ぶ(全身型)に分類されることがあります。重症度を示す指標であるMGFA分類では、眼筋型はⅠ、全身型はⅡ~Ⅴです。眼筋型から全身型に移行することもあります。 全身型では、急激な呼吸状態の悪化(クリーゼ)に注意が必要です。クリーゼの誘因は、感染症や手術、薬物、疲労などです。重篤な場合は人工呼吸器が必要になりますが、生命予後には影響はありません。 MGの長期予後は、免疫療法の普及により大きく改善しました。寛解率は2割未満ですが、生活や仕事に支障がない程度まで改善する例が5割以上に達しています。その一方で、あまり改善がみられないケースも1割ほどあります。 治療法 MGは自己免疫疾患なので、ステロイドや免疫抑制薬を用いた免疫療法が基本です。特に全身型の治療では免疫療法が中心となります。ただ、免疫療法でステロイド剤の長期投与は副作用がQOLを悪化させるため、早期からの免疫療法で生活に支障をきたす症状は短期間で改善させ、維持量を少量に抑えることが目指されます。 そのほか対症療法として、神経筋接合部のAChの濃度を高めることで神経から筋肉の信号量を増やす、コリンエステラーゼ阻害薬が補助的に用いられます。胸腺腫の合併のある人などでは、手術で胸腺を摘出することもあります。全身型で、これらの治療法で効果がみられない場合は、抗体製剤が用いられることもあります。 一方、症状が重篤な場合や、急激な増悪時は、自己抗体を除去する血液浄化療法や、免疫グロブリンを大量に投与する方法なども用いられます。 看護の観察ポイント ●筋力低下や眼症状など症状の変化 ●日常生活やセルフケアの実施に支障をきたしていないか ●転倒していないか ●構音障害によりコミュニケーションに問題が生じていないか ●嚥下障害や食事動作による筋疲労で、食事内容・量に影響が出ていないか ●適切に服薬ができているか ●口から唾があふれる、頭を支えられず首が垂れる、呼吸時に分泌物でごろごろと音がするなどの症状がないか ●患者さん、家族が不安やストレスを抱えていないか 次回は脊髄性筋萎縮症について解説します。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】 東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版  【参考】 ・難病情報センター『重症筋無力症(指定難病11) 病気の解説(一般利用者向け)』 https://www.nanbyou.or.jp/entry/120 ・日本神経学会『重症筋無力症診療2014』 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/mg.html ・井上智子ほか編(2016)『疾患別看護過程 第3版』,医学書院

特集
2021年8月10日
2021年8月10日

第2回 理念作成と事業計画/[その2]基本方針―やりたいことを表現する

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第2回目では[その1~4]にわたり訪問看護ステーションの運営に必要な理念と事業計画について解説していきます。[その2]のテーマは“基本方針”です。基本方針は事業所の理念を実現するために明確に示すことが大切です。基本方針の役割やつくり方をご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。 ●ここがポイント!・基本方針とは理念を達成するための事業所の基本的な姿勢や考え方を示すものである。・基本方針を明確にすることで、事業所のめざすべき方向性が明らかになる。・基本方針の作成は、3つの顧客の視点で考え、理念と結びつけることが必要。 基本方針とは 「基本方針」とは、理念([その1]参照)を達成するための事業所の基本的な姿勢や考え方を示すものです。皆さんがやりたいことや実現したいことに対して、どういう考え方や方向性で達成するのかを基本方針によって明確にします。 事業を運営していくうえで必要となる基本方針は、利用者(療養者)の視点だけでなく、訪問看護サービスを提供する自施設の職員、事業所の活動を支える医療機関やほかの事業所、地域とのかかわりなど多様な視点から考えていくことが求められます。 基本方針の役割 基本方針の大きな役割は、理念を達成することです。よって、基本方針は理念がなければつくることができません。また基本方針は事業所の活動指針となるものです。つまり、基本方針を定めることで、理念達成に向けた具体的な計画を打ち出すことが可能になります。このように基本方針は非常に重要な役割を担っています(図1) 図1 基本方針の役割 基本方針があると、理念に向かっていく方向が明確になる。一方、基本方針がないと向かっていく方向が曖昧になり迷ってしまう。 基本方針の作成ステップ 基本方針を作成するために必要なのは次の2つのステップです。順に説明していきます。  Step1 顧客の視点で考えるStep2 理念と基本方針をつなげる Step1 顧客の視点で考える   “経営学の父”と呼ばれるピーター・F・ドラッカーは、その著書『マネジメント』の中で顧客についてこのように述べています。「企業の目的とミッションを定義するとき、そのような焦点となるものは一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される。」(上田惇生訳:マネジメント【上】-課題、責任、実践.ダイヤモンド社,2008:99.より引用) ここで言う「顧客」には、大きく3つの視点があると考えられます。第1の視点は、訪問看護サービスの利用者(療養者)。つまり、訪問看護サービス事業の「活動対象」としての顧客です。第2の視点は、職員、開業医、ケアマネジャー、委託先など「パートナー」としての顧客です。第3の視点は、業界や地域社会など事業を取り巻く「環境」としての顧客です。 基本方針を「理念を実現するための事業所の基本姿勢・考え方」と捉え、これら3つの顧客のそれぞれの視点で「事業所の基本姿勢・考え方」を明確にしましょう。 Step2 理念と基本方針をつなげる 次に3つの顧客の視点から整理した基本方針をつなげて1つのストーリーにします。そうるすと、次のような表現が考えられます。 理念と基本方針の例   <理 念>地域医療の向上と在宅療養の生活の質向上を図ることで、療養者様と地域に愛され、全職員の幸せを実現する。   <基本方針>療養者が可能な限り自立し、安心して日常生活を営むことができるよう【活動対象の視点】、地域の医療機関、主治医、各事業所との連携を密にし【パートナーの視点】、療養者の在宅療養に必要なネットワークサービスが提供できるよう支援します。地域で必要とされ、なくてはならない事業所【環境の視点】をめざしながら、全職員の成長と夢を実現する事業所にします【パートナーの視点】。   このように3つの顧客の視点を含むことで、理念の実現に結びつく具体的な方法が基本方針に示されます(図2)。 理念や基本方針は、事業所の運営を考えるうえでなくてはならないものです。理念や基本方針が明示され徹底されれば、職員たちの働く姿勢(仕事に対する考え方やかかわり方)がそろいます。めざすベクトルが1つになることで、事業所の風土、職員の意識は飛躍的にレベルアップしていくことでしょう。 図2 3つの顧客の視点を組み込み基本方針をより強固なものにする 1本の矢では折れやすいが、3本にまとまると・・・・・ また、理念や基本方針を正しく理解した職員の行動は、事業所のブランド構築にも貢献します。ブランド構築とは、利用者とその家族や地域の住民などが事業所に対して抱くイメージを、事業所が認識してほしいイメージに近づける活動をいいます。 図3に示すように、ブランド構築は、事業所の理念と基本方針に沿った従業員の行動や態度、そして事業所が作成するパンフレットやウェブサイトなどのコミュニケーションツールによって構成されます。事業所のブランド構築には、理念や基本方針に対する従業員の理解がとても重要なのです。まずは理念と基本方針をしっかりと整え、職員たちに事業所の基本姿勢や考え方を示していきましょう。 図3 ブランド・ビルディング(ブランド構築)の考え方 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社

インタビュー
2021年8月3日
2021年8月3日

大学関係機関のメリットを生かし、 経営を超え、地域のために訪問看護を広く支援したい

看護学科のある大学直営の訪問看護ステーションを立ち上げた棚橋さつきさん。今回は、学びの場としての研修と、報酬請求などあらゆる業務をだれもができるようになることの重要性について語っていただきました。 研修機会の提供とスタッフ育成のために 2015年に開設した高崎健康福祉大学立の訪問看護ステーションでは、地域貢献のため、研修機会の提供に積極的に取り組んでいます。研修内容は、褥瘡、ストーマ、排泄ケア、難病、リハビリテーションなど多岐にわたります。現場で本当に困っていることを解決できるよう、専門的かつ実践的な研修にすることを心がけています。また、個人でも参加しやすいよう、参加費は1人2000円程度としています。 当初、研修の内容企画は、私と管理者が中心になって考えていました。しかし、私自身が息切れしてきたことや内容が偏る傾向も見えてきたことから、色々な分野を強みとするスタッフに考えてもらうことにしました。自分自身がどういう研修を受けたいか。講師は誰に頼むか。どういう形式で行うか。参加者は何人にするか。そうしたことを考え、計画を出してもらうことにしたのです。 私や管理者が立てた研修をただ手伝うのと、自分で企画運営するのとでは、経験から得られるものはまったく違います。地域包括ケアを考えたとき、訪問看護師として研修の企画運営をしていくのも必要な能力だと考えました。 任せてみると、それぞれの関心によって異なる内容の研修を提案してきます。私が考えるよりバラエティに富んだ内容になり、スタッフに任せて良かったと感じています。 スタッフに任せるということでは、月1回、管理者が行っていた診療報酬請求の際の書類の入力も、常勤スタッフに交代で担当してもらうことにしました。医療保険における利用者の疾患情報の入力です。 自分の担当以外の利用者も含め、その月1カ月の状態の変化などについて記録を読み込み、コンパクトにまとめて入力する。これが、スタッフにとっていいトレーニングになると考えたからです。こうした作業が診療報酬請求上、必要であると知っておいてほしいという気持ちもありました。 訪問看護に長く携わっていても、ステーションの運営や事務作業、労務管理などについて学ぶ機会はなかなかありません。当ステーションで長く勤めてくれているスタッフには、いずれ独立したとき、管理者になっても困らないようにしたい。そう考えて、このほか時間外勤務の計算なども、交代で任せるようにしています。 研修で変わる退院支援看護師の意識 地域貢献としては、このほか、訪問看護ステーションの立ち上げ支援や、退院支援についての勉強会「退院支援を考える会」(事務局は在宅看護領域)も行っています。 ステーションの立ち上げ支援は、当初、一つのパッケージをイメージしていました。ところが始めてみると、受講希望者のニーズは実に多種多様。「開設のための提出資料がわからない」「記録をどう整備すればいいかがわからない」など、一人ひとり違うのです。今はその人に合わせてオーダーメイドで対応しています。 申し込みは毎年3~4件ですが、受講後、管理者になった人が相談に訪れることもあります。こうした支援によって、県内の訪問看護ステーションの立ち上げには、かなり貢献できたと考えています。 「退院支援を考える会」は、もともとは当大学の学内事業として始めました。もう10年になりますが、定期的に研修会を開催しています。今は研修の一部を当ステーションで担当していますが、場所やパソコンの機材などは、大学の教室などを無償で借りて実施しています。大学関係機関で実施するメリットですね。 「退院支援教育研修」では、病院の退院支援担当のソ-シャルワーカーや訪問看護師が講義を行い、その後実習へ行き、最後に事例検討を行います。対象は病院の退院支援看護師で、25人が定員ですが、毎回、参加希望者が多く、すぐ定員になります。 この研修会で、退院支援のすべてを伝えることができるわけではありません。しかし、参加者は看護師ですから、現場を見ればどのような支援が必要か、ある程度イメージはできます。「車いすの練習を一生懸命やっていたが、こんな広い廊下なんて在宅にはない」など、実習のあと、参加者はさまざまな気づきを口にします。たとえ小さな気づきであっても、発想はそこから変わっていきます。そうすると、退院していく患者さんへの声かけも違ってくると思うのです。この研修では、そんな“訪問看護の入口”の部分の意識変革だけでもできればと考えています。 昨年からの新型コロナウイルス感染症のまん延で、在宅では感染についての知識が圧倒的に不足していることを痛感しました。当大学では2022年4月から、感染管理認定看護師課程を開設し教育研修に取り組む予定です。それを前に、今年は感染管理認定看護師に、1年間だけ当ステーションに来てもらい、在宅での感染対策のマニュアル作成を進めています。それをたたき台にして多くのステーションに対して発信し、活用してもらいたい。大学立の訪問看護ステーションとして、経営を超え、今後も訪問看護を広く支援する活動に取り組んでいきたいと考えています。 ** 棚橋さつき 高崎健康福祉大学 保健医療学部 在宅看護学 教授・ 高崎健康福祉大学訪問看護ステーション統括マネジャー 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2021年8月3日
2021年8月3日

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

在宅で暮らす指定難病の方の支援は、訪問看護の重要な使命の一つです。今回から、訪問看護が必要とされることの多い難病について、最低限知っておきたい病態・疫学と、看護のポイントを解説します。第1回は筋萎縮性側索硬化症(ALS)です。 病態 筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう:ALS)は、運動ニューロンが障害されることで起こる、進行性の疾患です。随意筋への指令伝達が障害されるため、全身の筋肉(上肢・下肢、舌、のど、呼吸筋など)が徐々にやせ、筋力が衰えていきます。 運動ニューロンのうち、上位運動ニューロンは、大脳皮質運動野から出た指令を脳幹や脊髄に伝えます。下位運動ニューロンは、脳幹や脊髄に伝わった指令を、末端の筋肉に伝達します。 ALSでは、上位と下位、両方の運動ニューロンが変性・消失し、指令が伝わらなくなることで、筋力低下や筋萎縮が進みます。原因はまだ解明されていません。 疫学 2019年度末時点でのALSの受給者証所持者数は1万人弱です。中年以降で発症が増加し、60〜70歳代が最多です(※1)。男性に多く、女性の1.3~1.4倍の有病率です。 ALSは多くの場合は遺伝しません。ただし、全体の5~10%で家族内での発症があります(家族性ALS)。 症状・予後 手足の筋力低下や、筋萎縮、球麻痺による言語障害・嚥下障害、呼吸筋麻痺による呼吸障害などが、進行性で現れます。 初期症状では手指を動かしにくい、腕の力が弱くなる、足がつっぱる、転倒しやすくなるといった四肢の症状が主体で、そこから全身に広がっていくパターンが典型的です。しかし、最初に進行性球麻痺(構音障害や嚥下障害など)がみられる例や、呼吸障害が出る例、認知症を伴う例などもあり、発症パターンはさまざまです。 全身の筋肉に比較的速く症状が広がり、最終的には呼吸筋麻痺が生じ、人工呼吸器を使わない場合の生命予後は発症後2~5年です。一方、人工呼吸器を用いない状態で発症から10年以上の生存例もあり、経過も個人差の大きい疾患です。 なお、病状が進んでも、視力や聴力、体の感覚などは比較的保たれる傾向があります。眼球運動は残りやすいため、眼球の動きを通じたコミュニケーション方法が活用できることも多いです。 治療・管理など ALSに対しては、神経細胞の障害を抑制し、進行を遅らせる薬が用いられますが、根本的な治療法はありません。そのため、対症療法が主体となります。 対症療法では、機能維持や障害を補う動作訓練などリハビリテーションと、リハビリテーションを実施できる栄養状態を評価する「リハビリテーション栄養」の考えかたに基づく介入が推奨されます。 栄養状態は、代謝亢進が目立つ初期には体重減少をできるだけ抑え、エネルギー消費が減少していく進行期にはエネルギー過剰とならないよう計画します。嚥下機能などに伴い、食形態の見直しや栄養療法の導入なども必要になります。 どんな病態でも同様ですが、消化管瘻や人工呼吸器の導入に際しては、基本的には本人の意思が優先されます。早期から多職種がかかわり、意思決定を支援する必要があります。 嚥下障害 残存機能を生かすリハビリや摂食方法、食形態の工夫などを行います。病態の進行をよく観察し、状況により、経管栄養法(消化管瘻や経鼻栄養など)が検討される場合があります。 呼吸障害 呼吸筋の訓練や排痰法の指導などを行うことがあります。呼吸障害が進んだ場合、人工呼吸療法による呼吸管理を検討します。人工呼吸療法には、マスクを用いる非侵襲的陽圧換気(NPPV)と、気管切開下陽圧換気(TPPV)があります。 コミュニケーション障害 発声や構音などが障害されると、コミュニケーションも阻害されます。とくに、コミュニケーションの阻害は、意思決定に際して困難を生じることが予想されるので、早い時点から検討と具体化を進める必要があります。残された機能を生かし、筆談や指文字、文字盤のほか、自分で動かせる部位を利用した意思伝達装置が用いられます。 リハビリのポイント ●早期からの関節拘縮や筋萎縮などによる痛みの予防・改善などに、ストレッチや、関節可動域を維持するリハビリが有効 ●軽度~中等度の筋力低下では、筋疲労をきたさない適度の負荷量で、筋力増強訓練も可能(月単位・週単位で筋力が低下していく病態を適切にとらえながら継続実行していくことは容易ではなく、とても重要なポイント) ●病状の進行に伴い、体位変換や、車いすでの座位保持など、生活の支援内容やその方法を随時変更・検討する ●福祉用具や補助具の導入などでは、本人の状態や生活への希望をふまえることはもちろん、刻々と変わる状態に合わせ、タイムリーな選定を支援する ●嚥下障害や呼吸障害、構音障害に対するリハビリ、動作のアドバイスを行う など 看護の観察ポイント 訪問時の「現在」で観察すべきこと、週〜月単位で把握すべきことがあることに留意しましょう。今の状態だけでなく、変化の有無とその様子を継続してみていけることは、訪問看護の強みといえます。 ●日常生活に支障をきたしていないか ●転倒しやすくなっていないか ●目立った体重減少がないか ●食事や水分が十分摂取できているか ●排便コントロールができているか ●むせや飲み込みにくさなど嚥下障害を疑わせる症状が出ていないか ●構音や発声などでコミュニケーションが阻害されていないか ●ふさぎ込む、不安を訴えるなど精神状態に変化がないか ●不眠の症状が出ていないか ●家族の身体的・精神的負担の程度 など 次回は重症筋無力症について解説します。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】 東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版  【参考】 ※1 厚生労働省『令和元年度衛生行政報告例 統計表 年度報 難病・小児慢性特定疾病』2021-03-01 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450027&tstat=000001031469&cycle=8&tclass1=000001148807&tclass2=000001148808&tclass3=000001148810&stat_infid=000032045204&tclass4val=0 ・日本神経学会『筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013』 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/als2013_index.html ・難病情報センター『筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2) 病気の解説(一般利用者向け)』 https://www.nanbyou.or.jp/entry/52 ・難病情報センター『筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2) 診断・治療指針(医療従事者向け)』 https://www.nanbyou.or.jp/entry/214 ・一般社団法人日本ALS協会『治療の進め方』 http://alsjapan.org/how_to_cure-summary/ ・井上智子ほか編(2016)『疾患別看護過程 第3版』,医学書院

特集
2021年8月3日
2021年8月3日

第2回 理念作成と事業計画/[その1]理念の作成―社会の“不”を満たす

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第2回目では[その1~4]にわたり訪問看護ステーションの運営に必要な理念と事業計画について解説していきます。 [その1]のテーマは“理念”です。理念は、事業の運営を行ううえで必要不可欠とされ、事業所の意思決定の判断基準や職員の行動の拠り所となる重要な役割を担っています。あらためて理念の意味や定める目的を押さえ、よい理念のつくり方を確認していきましょう。 ●ここがポイント! ・理念は組織の方向性を定めるとても大切な“言葉”である。 ・理念はバリュー、ミッション、ビジョンから構成される。 ・自分自身を振り返り、問いかけ、見つめ直すことで理念を作成する。 “理念”は事業の起爆剤! 事業を始めるにあたって、どの起業本を読んでも、どんな経営コンサルタントに話を聞いても「理念」を作成することはとても大事といわれます。それは、理念が、皆さんの行っている事業の「根底にある根本的な考え方」を表わすものだからです。言い方を変えると、理念は、事業への「熱意」と「動機」が表現されている大切な“言葉”なのです。 どのような業種でも、起業するときは自分の好きなことを仕事にし、毎日ワクワクしながら働けるような成功のイメージを描けることが必要です。 ワクワクする想いをしっかりと言葉に表し、多くの人に伝えることが大切です。共感を得られれば協力者が現れ、さまざまな化学反応を起こし、多くのチャンスや成長の機会を得ることができます。 このように理念とは事業をよりよくする“起爆剤”の要素をもっています。 理念を構成するもの 理念についてもう少し詳しく見ていきましょう。理念を因数分解すると、「バリュー」、「ミッション」、「ビジョン」の3つの要素に分解することができます(図1)。 図1 理念の構成要素 バリューとは「顧客に対する価値」を意味します。そしてミッションとは事業所が「果たすべき使命」を表現したものです。ビジョンは「実現をめざす未来」を示します。理念を定めるには、これら3つの要素についてしっかりと考え、明文化していく作業が必要です。 理念のつくり方 ではバリュー、ミッション、ビジョンについてどのように考えればよいのか、そのポイントを順にご紹介します。 バリュー あなたの顧客は誰でしょうか。バリューを考えるにあたり、価値を提供する相手、つまり顧客が誰かを考えることが大切です。あなたが行う事業の内容によって、顧客は利用者やその家族だけではなく、開業医やケアマネジャー、事業所の職員も考えられます。地域全体が顧客になる場合もあるでしょう。このように、顧客とは皆さんが事業活動を行うことで影響を受ける関係者を指します。 さて、皆さんの顧客は何を価値あるものと考えているのでしょうか? それを考えるのが次のステップ、ミッションです。 ミッション 皆さんは、なぜその顧客に対し事業を行うのでしょうか。その事業にはどんな意味があるのでしょうか。この問いに対する答えは、「顧客の“不”を探す」視点で考えていきます。 例えば、顧客を「独居・要介護高齢者」とした場合、以下のような“不”が挙げられます。 不便 → 足が不自由ななかでの遠方の病院への通院 不満 → 病院での長い待ち時間 不安 → 自宅での1人暮らし など “不”の付くところに顧客のニーズが隠されています。顧客の“不”(ニーズ)をくみ取り、ニーズを満たすことで、皆さんの事業に意味が生まれるのです。 ここで、バリューに関する問いを示します。 ・皆さんは、顧客にどのような価値を提供しますか。 ・それは顧客のニーズにマッチしていますか。 ・マッチしていると考える理由を説明できますか。 ・5年後、10年後、顧客のニーズはどのように変化すると考えますか。 ・これからも顧客のニーズの変化に対して提供する価値はマッチし続けるでしょうか。 ・マッチすると考える理由を説明できますか。 これらの問いは、顧客のニーズに対して、皆さんがもつ経営資源(人、モノ、金、情報)をどのように活かして価値に変えていくのか、または不足しているものをどのように補っていくかを考えるためのものです。 ビジョン 最後にビジョンについて考えます。ビジョンは次の問いかけから始めましょう。 「あなたが考える事業の成果とは何か」 皆さんが顧客に対し価値を提供した結果として、どのような成果を得たいか表現してみてください。成果は一つだけでなく、複数あってもよいです。また数字や言葉だけでなく、絵などのイメージを用いて表現してもよいです。 もし「成果」という問いが難しいと感じたならば、次の問いについて考えてみてください。 「あなたは顧客に何によって覚えられたいですか」 この問いは、顧客にどう見られたいかということではなく、皆さんの事業の存在意義を根幹から問い直すものです。価値の提供をとおして、どのような存在として顧客に認識されたいか、すなわちそれが事業に対する価値観や大切にしたいことに結びつきます。 それは自分自身の強みを探求することにもつながり、仕事に取り組む気持ちや姿勢に大きな刺激を与えてくれるはずです。自分自身を振り返り、問いかけ、見つめ直すことで理念を作成してみてください。 ** 齋藤 暁 株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長 中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部 https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社

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