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コラム
2021年6月22日
2021年6月22日

適切な人材を集めるための「採用デザイン力」を上げる

前回は、適切な人材を継続的に採用していく力をその組織の『採用力』として、その『採用力』は4つの要素からできていることを紹介しました。(①有形採用リソース、②無形採用リソース、③採用デザイン力、④採用オペレーション) その中で、まず訪問看護ステーションが注力すべきは即効性のある2つ、採用のやり方を工夫する「採用デザイン力」と、応募から入職までの効率性を高める「採用オペレーション」です。第3回では、そのうちの「採用デザイン力」を向上させるノウハウを紹介していきます。 1.求める人物像を見直す 一般企業に毎年行われている人材採用についての調査で「選考時にどんな要素を重視するか」というアンケートがありますが、その1位は16年連続で「コミュニケーション能力(82%)」、2位が10年連続で「主体性(61%)」となっています(※1)。これを見るだけでも採用基準が非常に均質化しているのがわかります。 「採用のやり方(デザイン)」を変えるための第一歩として、まずは求める人物像を再考するところから始めます。求める人物像を明確にすることで、求人広告で謳うメッセージが明確になります。なんの工夫もなく求人広告を出して、大手と同じような人材を求めても、訪問看護ステーションに「良い人材」が応募してくる確率は低いからです。以下の3つのポイントから、求める人物像をもう一度考え直してみてください。 ①必要条件を盛り込みすぎない すべてを兼ね備えた人材など、世の中にはいません。必要な要件を盛り込みすぎると対象者は限定され、採用の自由度を狭めます。引き算で考えて、本当に必要な要件は何かをもう一度考えてみましょう。社内の評価制度を基準の延長線上でよいと思えば、イメージが湧きやすくなるかもしれません。 ②後天的要素ではなく、先天的要素で絞る ある組織心理学の研究者によれば、私たちが持っている能力は「極めて簡単に変わるもの」と、「非常に変わりにくいもの」の2つがあるとのことです(※2)。「簡単に変わるもの」は、仕事や研修などを通じて育成可能な後天的要素ですので採用基準にする必要はありません。「非常に変わりにくい」とされている能力や性格、志向などの人物特性は、入社後の育成が難しい先天的要素ですので、採用基準としてきちんと見ておかなければなりません。 ③スキルフィットよりカルチャーフィットを どうしても訪問看護の経験やスキルを求めてしまいがちです。しかし、スキルは高いけど組織の雰囲気に合わない(カルチャーフィットしない)人は採用しない方が良いでしょう。組織が小さいほどそう思います。経験が少なくても、時間をかけたら習得できることであれば目を瞑って、いまの組織の状況でぎりぎりの採用基準を考えてみましょう。最終的には選考のタイミングであらためて皆で検討すれば良いので、求める人物像は「カルチャーフィット」を中心に考えます。 ちなみに、私が務めている訪問看護ステーションで最も重要視している採用基準は、①スキルや経験はなくても向上心があること、②個人よりもチーム重視で行動できること、この2つだけに絞っています。 2.媒体選定 Push型マーケティングをうまく使う さて、求める人物像が決まったら、次は求人広告の方法についてです。自組織が求人していることを求職者に知ってもらわなければ始まりません。大手であれば自社サイトに求人広告を出していれば一定の応募者は集まりますが、多くの訪問看護ステーションはその存在も知られていない可能性があるために、応募者が来るのを受け身で待っていても集まりません。費用は多少かかってしまいますが、適切な場所に情報を発信して求職者に知ってもらわなければなりません。 マーケティング(ここでは求人広告)の基本は、「Push」と「Pull」で広告媒体を使い分けることです。採用力が低い組織の場合は、Push型をうまく使う必要があります。 ①求人媒体を利用する(ほとんどが有料) ハローワーク、有料求人広告、チラシのポスティング、紹介会社の利用などは、効果を見ながら積極的に活用しましょう。数ある有料の求人広告の中で何を利用するかは、その地域、その職種で利用されている1位、2位の求人媒体を中心に検討する必要があります。上位の求人媒体が何かわからない場合は、求人広告の営業マンや紹介会社の担当者、実際の応募者との会話から探っていくのが良いでしょう。 ②紹介会社(エージェント)を利用する 紹介会社を利用するか否かは色々な意見がありますが、私が務める訪問看護ステーションでは紹介会社を活用しています。多くの紹介会社は成果報酬型なので、採用するまでは費用はかかりません。適切な人材であれば、組織にも貢献し、長く務めてくれる可能性も高くなりますので、紹介手数料以上の効果が得られると考えています。とにかく、一人でも多くの求職者に自組織の求人情報を届けることを優先して考えています。 ③ある程度の期間をとって募集する 一般企業と異なり、医療業界の特性やマッチングの問題から、常に潤沢な求職者が存在するわけではありません。ある時期に集中して、複数の有料求人媒体に掲載しても、巡り合わない可能性があるので、期間を長めにとって採用活動するほうが良いと考えています。 ④さまざまなチャネルで発信する 連載の第2回で紹介しましたが、求人広告だけに頼るのではなく、考えられる方法はとにかく色々と試してみましょう。 私が事務長を務める訪問看護ステーションでは、在宅医療や訪問看護に興味のある方に1年中同行見学を受け付けています。今は病院に勤務にしているものの訪問看護に興味を持っている看護師さんなども見学に来てくれます。見学から私たちのステーションを気に入っていただき入職にいたった看護師さんも少なくありません。 またあるときは、「訪問看護1日研修」というイベントを連携する病院に案内したこともあります。目的はリクルートではなく純粋に在宅医療の啓発だったのですが、在宅医療や訪問看護を実際に見たことのない多くの病棟看護師さんが研修に来くださり、大変好評でした。その中で、訪問看護や私たちの訪問看護ステーションに興味を持っていただけた方もいらっしゃいました。 よい人材獲得のために常にアンテナを張っておき、知恵を結集してチャレンジングな取り組みをしていくことを考えていきましょう。 今回は、①求める人物像、②媒体選定について紹介してきましたが、その上で重要なのは、自組織の情報と魅力・独自性をしっかりと表現することです。次回は、採用活動のコンセプトブックとなる「求人パンフレット」の作り方と活用方法について紹介していきます。 ** 株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 シニアマネージャー/医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 事務長 村上典由   【略歴】 兵庫県出身。甲南大学経営学部卒業。広告代理店での勤務を経て、阪神大震災を機に親族の経営する商社、不動産管理会社などの経営再建と清算業務に従事。2001年からMBOにより飲食店運営会社を設立し副社長を務める。2009年より株式会社メディヴァに参画。「質の高い医療サービスの提供」を目指して在宅医療の分野を中心に医療機関・企業・自治体などの支援を行なっている。医療法人社団プラタナス桜新町アーバンクリニックの事務長を兼務。2015年度政策研究大学院大学医療政策短期特別研修修了。   【参考】 ※1 一般社団法人 日本経済団体連合会 2018年度新卒採用に関するアンケート調査結果 https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/110.pdf ※2 ブラッド・D・スマート著(2005)『Topgrading』Portfolio社

特集
2021年6月22日
2021年6月22日

訪問看護あるある座談会 vol.4 インシデント編

医療現場では付き物のインシデント。皆さんも大なり小なり一度は経験したことがあるのではないでしょうか。「ああ、やっちゃったな」と落ち込んでしまうこともありますよね。今回も3人の訪問看護師さんにお集まりいただき、インシデントをテーマに訪問看護の「あるある」についてぶっちゃけトークをしてもらいました。 気遣い合える環境が生む安心感、ステーション内でインシデントを共有するメリット あい:訪問看護は楽しいです。病院経験があると「できる」って思われるところがあって、半年くらいでもう一人前の扱いでしたね。 みほ:不安はあっても、訪問スケジュール的に1人で行くしかない!ってこともありますよね。 あい:そうですね。お休みの関係とか。 ゆり:不安を感じながら訪問する時に、私はミスをしちゃったことがあって。気管カニューレの利用者さんの移乗をした時に、カニューレが抜けかかっちゃって急いで入れ直したことがあったんです。すぐに対応が取れたけど、若手の子だったらどうしようってパニックになっちゃうんじゃないかなと。 あい:うん、頭ではわかっていても、ためらっちゃうかもしれません。 ゆり:大人の気管カニューレを入れたのは、実はその時が初めてで。経験年数を重ねていても初めてのことってあるし、緊張もする。インシデントやヒヤリハットが起きても、きちんとみんなで共有するのが大事だと思う。ステーションの信用問題にも関わるからね。 みほ:ヘルパーさんとかご家族のかたが見ていることもありますもんね。 ゆり:うん。落ち込んでステーション帰ってきてね。そしたら若いスタッフたちが「誰でもあり得る状況だったし、もし私がそのインシデントを起こしていたらすごく怒られていたと思う。おかげで移乗のときここに気を付けないといけないって気付けました。ありがとうございました。」って感謝されたの。大丈夫だった?とか声を掛けてくれる環境のほうが、報告しやすいし、救われるよね。 みほ:皆さん優しいですね! あい:こういうインシデントがあったんだ、って共有してもらえると、想像できて心構えができるので、安心感がありますね。在宅に慣れないうちは尚更。 ステーションの糧になる、インシデントの振り返り みほ:ステーションに「インシデント振り返りシート」ってありますか? あい:元々はなかったですね。私が同行した訪問でインシデントが起きた時に、書いて全体に共有したのが初めてでした。 みほ:すごい。自分からレポートを書いて出したんですか? あい:そうなんです。新人さんと同行訪問中のインシデントで。内服薬をお薬カレンダーにセットするときに2人で入れたんです。そのとき、たまたま新人さんが担当したところが複雑なセット方法で、そこにセットミスがあったんです。後日利用者さんから「内服セットが間違っているよ」って電話がきて発覚しました。ステーション設立して初めて、インシデントレポートを使ってカンファレンスをしましたね。 みほ:大事ですよね。こういう機会がないと、振り返る機会ってなかなかないですから。同行訪問中のインシデント、あるあるだなって思いました。 ゆり:同行訪問っていつもと違うことしちゃうよね。 みほ:そうそう、緊張なのか普段しないミスをやっちゃいますね…。 あい:そうなんですよ…。1人が内服セットして、もう1人がダブルチェックする方が良かったなって思うんですけど、同行の緊張もあってか、普段と違う判断をしてしまいました。 ゆり:時間が迫って焦ることもあるよね。 あい:まさにその日もほかのケアが延びて、2人でやった方が早いねって流れになったんです。新人さんもそれなりに看護師経験があったので「一緒にやろう」ってなって起きたミスでしたね。利用者さんもストレートに言う方だったので、新人さんも落ち込んじゃって。嫌な体験させちゃったなって反省して、しっかり振り返ろうってなったんです。 ゆり:あいさん、いい先輩。インシデントはいつやってもショックですよね。細心の注意を払っても、環境要因とかヒューマンエラーで起きる時は起きちゃう。だからこそ、起きたら共有して対応策を考えていかないと、看護の質もステーションの質も上がらないと思う。インシデントってクレームに直結するから。ステーション立ち上げを手伝った時に、インシデントマニュアルとクレーム報告対応書は準備しましたね。インシデントはステーションの糧になるから、レポートで溜めていったほうがいいと思う。 みほ:今まで溜まったレポートを見ると、こんなところに危険があるんだって気付けるので、教育にも繋がっている気がします。口頭の報告と振り返りだけで終わっちゃうと、もったいない気がしますね。 ゆり:振り返りシート書くの、めんどくさいって思うんだけど、書いて振り返りをしたからこそ安全にケアができる、利用者さんの生活も保持されると思うと、書いた方がいいですよね。 ** NsPaceではインシデント・アクシデント報告書など各種ツールのサンプルをご用意しております。各事業所様で編集してご利用ください。【ツール一覧を見る】 記事編集:NsPace

インタビュー
2021年6月15日
2021年6月15日

チームで共有すべき訪問看護の提供価値とは

この対談では、訪問看護ステーションの経営課題、改善点についてお話しいただいています。テーマにしたのは、新幹線清掃の仕事ぶりが『7分間の奇跡』と注目された、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(以下「テッセイ」という)の業務改善内容です(※1)。まったく異なる業種ですが、そこには学ぶべき多くのヒントがありました。 テッセイは、まず現場スタッフ自ら提供する商品と価値について考え、答えを出すことで、自分たちの仕事に新しい価値観を見出すことができました。新しい価値観を皆で共有できたことが、改革の大きな原動力になっています。第2回の対談では、病院とは異なる訪問看護事業の価値についてお話しいただきました。 自分たちの提供価値を定める意義 大河原: 訪問看護ステーションを見て感じるのは、看護師たちの価値観の違いに起因するいざこざが多いということです。私も経験がありますが、病院の看護師は先輩に言われたことに従わなければならない状況が多くあります。訪問看護ステーションでも、先輩看護師や管理職看護師が自分のやり方を押しつけている状況があると思います。 訪問看護は、1人の利用者さんをチームで看ています。本来は、チーム全員が同じ価値をもって連携することが理想だと思いますが、看護師以外にリハビリ職もいるため、職種によって看る観点が違ったり、看護師同士でもキャリアが違ったりして、意見が違ってしまうことがあります。 カンファレンスで担当者が集まる機会はあるのですが、みなさん忙しいので、タイムリーに行われているかというと難しいのが実情です。ウェブ会議が浸透するとよいのですが、医療や介護の領域はITリテラシーが意外と高くないのです。 当社でも、みんなが同じ1つの価値を持っているというレベルにはまだ達していないと思います。 芳賀: 提供する価値が何なのか、みんなが共通の認識を持っていれば、職種は違ってもそれを判断基準に考えることができると思います。 以前のテッセイの従業員は、新幹線の車内を掃除することが仕事だと思っていました。しかし業務改善後のテッセイは、従業員に「あなたの仕事はなんですか」と尋ねると、「お客様の旅の思い出づくり」と答えるようになりました。 これと似た話があります。墓石に名前を彫っている職人に「あなたの仕事はなんですか」と尋ねると、ある職人は「名前を彫ることだ」と言い、別の職人は「この人のお墓をつくっている」と答えました。 この2つのエピソードは、自分の仕事がどういう価値を生み出しているのかを、その人がどう認識しているかで、最終的にはお客様に提供する価値が大きく変わってしまうことを表わしています。 つまり、一人ひとりの考え方が社内でバラバラだと提供価値も変わってしまい、会社が本来目指している目的が達成できなくなるということです。 【テッセイの改革】 改革を行った矢部氏は、「新しいトータルサービスを目指す」という目標を掲げ、自分自身とスタッフたちに「私たちの商品は何なのか」と問い続けました。もちろんテッセイの仕事は、新幹線を快適に利用できるように車内を整えることです。では、なぜきれいな車内が必要なのでしょうか。それは新幹線の旅を楽しんでもらいたいからです。では、清掃員が「自分の仕事は清掃だけ」と考え、駅構内でお客様から道を尋ねられても無視したら、お客様は新幹線の旅を楽しめるでしょうか。 スタッフたちは、そのように考えていった結果、自分たちの商品(提供価値)が「お客様に旅のよい思い出を持ち帰ってもらうこと」であると気づいたのです。またこの新しい価値観を全員に理解してもらうために、新しい制服の導入、伝道師となる役職者の任命、新たな標語の設定など、スタッフの意識を変える改革を行っていきました。 関係者全員が同じ価値を共有することが理想 大河原: 当社は、それぞれがやりたい看護への想いを大事にしていますが、一つ強く言っていることがあります。それは「療養上の世話」を重視するということです。 一般的に看護師には、療養上の世話と診療の補助という二つの責務があります。病院は患者さんの病気を治す所なので、病院の看護師は診療の補助が重要な仕事だと思います。 しかし訪問看護は、療養上の世話だと思っています。なぜなら、在宅の方は病気を治したくて家にいるわけではなくて、家で生活したくて病気と向き合っているからです。 例えば、糖尿病をわずらっていて、自宅でお菓子やジュースを飲食していたらどうするか。病院なら禁止しますが、訪問看護の場合は、それが良くないとわかっていても完全に取り上げるのが利用者さんにとって一番良いとは限らないよね、というのが当社の考え方です。 リカバリーの場合、こうした価値観を『もう1人のあたたかい家族」という理念として掲げ、自分の家族だったらどう看るか、ということを医療職として考えることを大事にしています。 理念を浸透させる方法として、今は各事業所で毎日朝礼を行っています。その利用者さんが自分の家族だったらどう対応するか、理念に基づいた気づきを毎朝誰かが発信していくことで、療養上の世話という方向へみんなの意思を統一していくようにしています。 とはいえ、現在の理念にしたのは半年前なので、まだまだこれからですね。 ただ、訪問看護業界を見渡すと、価値観を示す理念を掲げている会社は多くありません。こうした点も訪問看護業界の課題といえます。 芳賀: 理念として、全社員に『もう1人のあたたかい家族」という考え方を示しているのは素晴らしいですね。また、朝礼でスタッフ自らメッセージを発信していく取り組みは、テッセイでも行なっています。理念や価値をみんなで共有していくプロセスとしては需要なことだと思います。 ただその理念は、大河原社長たち経営陣が作ったものだと思います。 テッセイの改革は、全員が同じ価値観を持つことができるようになって、初めて成果が出ました。しかも、最も大切な提供価値である「旅の思い出づくり」というコンセプトは、本社や社長が考えたのではありません。社員たちにものすごく議論をさせて、自分たちで考えさせました。 また、旅の思い出づくりは1社でできることではありません。そこで社員の要望で、車内販売の販売員や車掌などとも連携するために、他の会社や職種の人たちとも話し合いを重ねていきました。 在宅医療も同じですね。場合によっては組織も異なるさまざまな専門職の人がサービスを提供しますが、相手は1人の利用者さんです。だから、すべての関係者が同じ価値観を持っていたほうがよく、組織間の連携も欠かせません。 訪問看護ステーションでも、自分たちが提供する利用者さんへの価値とは何なのかを、社員の方々にとことん話し合ってもらってはいかがでしょうか。 ** 名古屋商科大学大学院、NUCBビジネススクール 教授 芳賀 裕子  【略歴】 慶應義塾大学卒。慶應義塾大学経営管理研究科修了(MBA)。筑波大学大学院ビジネス科学研究科後期博士課程修了。博士(経営学・筑波大学)。プライスウォーターハウスコンサルタント(株)にてコンサルティングに従事。その後コンサルティング事務所を立ち上げ、大手企業のヘルスケア分野への新規参入コンサルティングを30年近く実施。医療、健康関連、介護、ヘルスケア業界を得意とし、ベンチャー企業取締役、ヘルスケア事業会社の執行役員なども歴任。 Recovery International株式会社 代表取締役社長/看護師 大河原 峻  【略歴】 看護師として9年間臨床に携わった後に、オーストラリアで働くが現実と理想のギャップに看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。設立7年で11事業所を運営し(2020年12月時点)、事務効率化や働き方改革など、既存のやり方にとらわれない独自の経営を進める。  【参考書籍】 ※1 著・矢部輝夫、まんが・久間月慧太郎(2017)『まんが ハーバードが絶賛した 新幹線清掃チームのやる気革命』、宝島社

インタビュー
2021年6月15日
2021年6月15日

現象学から捉える看護~専門看護師の実践~

大阪にある訪問看護ステーションほがらかナース。管理者である岩吹さんは、在宅看護専門看護師の資格を持ち、地域で生活する利用者さんのケアだけではなく、専門看護師として看護師に教育を行っています。教育課程のなかで学んだ『現象学』の活用について、お話を伺います。 利用者さんを通じて成長していく、スペシャリストとしての専門看護師 ―大学院で専門看護師の資格を取得されて、実践ではどのように役立ちましたか。 岩吹: 大学院には48歳のときに行きました。一緒に学んだ同期は30代前後の若い人が多く、教育課程も違う世代だったのですごく苦しみました。だけど、実践でやってみて役立っているなと思うことは多くあります。例えば、困難事例で悩んでいる看護師にも、「ここはどうなの?」と質問を投げかけ、客観的にアドバイスできるようになりました。自分の中の引き出しが増えたような感覚です。 利用者さんとの対応でうまくいかないのは、自分のせいでもなく、相手のせいでもない。見方が悪いわけでもなく、知らないだけなんです。「本当のこの人は、どのようにして今までの生活を過ごしてきたのか」を見ていきます。 現象学ともいいますが、なぜクレームばかり言うのだろうか、なぜこんな現象が起こっているのかを考えます。相手の語りを聞くことによって、その人自身を捉えることができるようになります。固定概念や先入観でガチガチに固めてしまうのではなく、その人の在り方が必ずあるはずなので、そこを一緒に見ていくようにしています。 また、利用者さんに「話を聞いてもらってよかった」と、思ってもらえることも大事ですね。楽しかった、嬉しかったという感情があってこその『傾聴』だと思います。私たちも看護師という支援者である前に一人の人間なので、利用者さんを通じて成長していくという姿勢も忘れてはいけないと思います。 現象学と看護の世界 ―現象学について学んだとのことですが、どのように看護に生かすのでしょうか。 岩吹: 現象学とは世界がいかに意味づけされたものか、現象を探求する、捉える学問です。エドムント・フッサールという哲学者が創始者です。物事を捉えるときに私たちは、「こうあるもの、こうしてあるべき」と先入観を持って判断しています。現象学では、ありのままに現象を捉え、本当にそうあるべきなのかと先入観を排することを一番に学びました。 現場に戻ってきて、この看護師さんは先入観で物事をみているなと思うことは増えました。一度アセスメントしてケアがうまくいかないとき、「あの人はああいう人だよね」と決めつけているのではないか、だからうまくいかないのではないかと立ち返り、先入観を取り除いていくと見えてくるものがあります。そのためには、本人に話を聞きながら、ありのままを捉えていくことで、信頼関係が築けるようになってきます。 どのような現象が起きていたのか、当事者と一緒に振り返る ―具体的にどういう風にやっていくのですか。 岩吹: 私も大学院で学んできたと言っても、2年間は頭の中がクエスチョンマークでいっぱいでした。卒業してから現場に出て、スタッフや利用者さんと話をするようになって、ようやくわかってきました。 まずは、振り返ることです。私たちはすぐにこうすればよかったと、方法論を考えてしまうところがありますが、方法の前に現象を理解することが大事です。現象を捉えることができると、自然と方法が出てきます。「この人はここに価値観を置いているから、ここを大事にしないといけない、そのためにはこうしていこう」というイメージです。 ―すごく難しいですね。 岩吹: 難しいです。「この人気を付けたほうがいいですよ」と先に申し送りで言われると、別の人の先入観が入ってから関わることになるので、自分もその先入観に囚われてしまいます。私も偉そうなことを言っていますが、立ち返る癖をつけないといけないと思っています。 例えば、精神疾患の利用者さんの何度目かの訪問の際に、チャイムを鳴らしたはずなのに、「鳴らさないで入ってきた」と怒りのクレームが入ったことがありました。看護師本人はなぜ怒られたのかもわからず、逃げ場もなく帰ってきて、すぐに私のところに電話をして来ました。気が動転していた様子だったので、まずは話を聞いて気持ちを落ち着かせました。そのあとは私が対応し、後日利用者さんのところに事情を聞きに行きました。やはり怒っていましたが、ヘルパーさんや区役所にもクレームを入れていたので、なんだかおかしいと思ったら、薬を飲めていなかったことがわかったんです。利用者さん自身も感情のコントロールができなかったと話していました。利用者さんも怒ってしまったことを反省していて、一緒に振り返りをして薬を続けていくことになりました。 対応した看護師は、自分が原因で怒られたと思っていて、行きたくないと言っていました。しかし、利用者さんの身に起こった現象をひとつずつ確認し、声かけをしていくことによって、「そういえば薬を飲んでいなかった」と、ぽつりぽつりと話すようになりました。それからは、「利用者さんともう一度やりとりしたい」と言うようになりました。 このように、感情が落ち着いたときに、どのような現象が起こっていたのかを振り返ることをとても大事にしています。 ** 訪問看護ステーションほがらかナース管理者 岩吹隆子 血液内科病棟で5年、脳外科病棟で5年経験後、訪問看護師として働く。結婚や出産などで看護師の仕事を一度離れるも、復職。訪問看護認定看護師取得後、2018年に在宅看護専門看護師の資格を取得。2020年に訪問看護ステーションほがらかナース開設。

コラム
2021年6月15日
2021年6月15日

なぜ、あの組織には良い人が集まるのか?

まずはじめに、適切な人をバスに乗せ、不的確な人をバスから降ろし、つぎにどこに向かうべきか決める。 (出典:ジェームズ・C・コリンズ 著、山岡洋一 翻訳『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』 日経BP,2001) これは前回取り上げた、偉大な組織に共通する人事についての考え方ですが、どんな組織でも優秀な人材が採用できるわけではありません。どんなに費用をかけても、優秀な人材が集まらない組織もあれば、外から見ていても「なぜ、あの組織は優秀な人が集まるのか?」と思うほど優秀な人材を採用できている組織もあります。 このような、優秀な人材を継続的に採用し続ける力をその組織の『採用力』と考えて、第2回は、その『採用力』について解説していきます。 『採用力』を決める4つの要素 一般的には、業界大手、地域No.1の病院などは人が集まりやすいと考えられますが、業界大手や地域No.1病院でも、職場環境が悪かったり、給与条件が悪かったりすれば人は集まりにくくなるでしょう。一方、ベンチャー企業や小さな組織でも仕事のやりがい、良い職場環境、ユニークな働き方や評価制度を取り入れるなどの方法で人材をうまく引きつけている組織もあります。組織の大小に関わらず人材を採用する力には差があります。これが『採用力』です。人材こそがすべての源泉である医療・介護業界では、もっとこの『採用力』を重要視し、その向上に注力する必要があると常々感じています。 この『採用力』は4つの要素からできていると考えています。1つ目が「有形採用リソース」、2つ目が「無形採用リソース」、3つ目が「採用デザイン力」、4つ目が「採用オペレーション」です。(出典:服部泰宏著『採用学(新潮選書)』新潮社、2016) 以下、その一つ一つについて解説していきます。 ①有形採用リソース 1つ目の「有形採用リソース」とは、都心部の大病院や地域No.1の病院などのように、好立地で有名な医療機関であったり、給与条件が良かったり、採用活動に潤沢な予算があったりと、その組織自体が有しているハード面で有利なリソース(資源)を言います。一般的に知名度が低く小規模な訪問看護ステーションは、この「有形採用リソース」はかなり弱いので、これ以外の要素を強化していかなければなりません。 ②無形採用リソース 2つ目の「無形採用リソース」とは、「従業員のための訴求価値(EVP:employee value proposition)」というものです。例えば、最先端の取り組みをしていること、社会貢献に繋がっていること、また、ワーク・ライフ・バランスの取れた働きやすさ、学べる組織や、自分のやりたいことが実現できる組織、仲の良い組織など、「人材が、この組織で働きたい」という魅力・価値のことを言います。優秀な人材獲得が、組織の業績に大きな影響を与えることから、近年非常に注目されています。 訪問看護ステーションで考えてみると、ターミナルケアや小児看護などに特化して、そこでしかできない仕事であったり、職場のチームワークが抜群に良い組織であったり、研修など学べる環境をとことん重視している風土、働いた分だけ給与に反映される報酬制度がある組織なども「従業員のための訴求価値(EVP)」を持っていると言えます。 いくら良い業績を上げて、多くの職員を採用したとしても、このEVPが低ければ離職者は絶えることがなく、穴の空いたバケツに水を注ぎ続けることと同じで、いずれ業績にも悪い影響を与えることになるでしょう。 「従業員のための訴求価値(EVP)」は、短期的には変わりにくいものの、時間をかければ改善していくことができます。私はこのEVPを向上させることこそが、経営者が力を注ぎ込むべき対象であると思っています。持続的な「良い人材」の獲得のためにも、このEVPの向上に取り組んでいくことが重要です。 ③採用デザイン力 3つ目の「採用デザイン力」とは、「採用のやり方(=デザイン)」を変えることです。具体的には、求める人物像や採用基準の独自性を高めたり、求人広告媒体を工夫したり、その広告デザインに力を入れたりすることです。 「採用デザイン力」について具体的にイメージできるように、Apple創業者の故スティーブ・ジョブズ氏が会社創業期に参考にしたと言われる、人材採用の『教え』を紹介します。  第1条 :職場を「広告」にしてしまいなさい。自分たちの仕事に自信があって、それを外にうまく伝えられていないなら、 職場そのものを広告すればいい。  第3条 :求人広告こそが勝負だ。それがクリエイティブでなかったら、誰がクリエイティブになってくれるのか。  第4条 :採用基準は「情熱」である。  第7条 :できる社員にはそれなりの人脈がある。その人脈を使うといい。それが人材登用のビジネスというものだ。  第15条:逸材はどこにでもいる。レジや洋品店やウェイトレスに目を配りなさい。  第17条:ときどきはおもしろい会やコミュニティに顔を出すべきだ。 (出典:ノーラン・ブッシュネル&ジーン・ストーン 著、井口 耕二 翻訳『ぼくがジョブズに教えたこと 才能が集まる会社をつくる51条』飛鳥新社、2014) 採用の過程で応募者は、一度は職場を見る機会があるでしょう。その職場で働く職員がイキイキと働いていれば、それは一番説得力のある広告になるということ、求人広告を妥協せずに最高のものにすること、採用の基準をスキルや経験ではなく「情熱」のような独自の基準にすることなど、一般的に知られている採用活動とは一味違った内容が書かれています。このような「採用のやり方」を「採用デザイン力」として考えます。どんな組織でも知名度が低い時期は人材の獲得に苦戦しますが、そんな中でも優秀な経営者は人材獲得のため、「採用デザイン力」に知恵を結集し、執念を燃やしている姿勢がよくわかります。 ④採用オペレーション 4つ目の「採用オペレーション」とは、募集→応募→面接→選考→内諾→入職といった一連のプロセスの効率性を指します。せっかく求める人物像を設定し、採用活動をして応募者を集めても、選考プロセスである「採用オペレーション」を非効率なものにしてしまうと入職につながらず、すべてが水の泡になってしまいます。この内容についても、この連載の中で具体的な取組方法などを紹介していきます。 以上、『採用力』を構成する4つの要素を紹介しましたが、訪問看護ステーションがまず取り組むべきは、即効性のある3つ目の「採用デザイン力」と、4つ目の「採用オペレーション」の向上です。次回以降は、これらについてすぐにでも取り組める具体的なノウハウを紹介していきます。 ** 株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 シニアマネージャー/医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 事務長 村上典由   【略歴】 兵庫県出身。甲南大学経営学部卒業。広告代理店での勤務を経て、阪神大震災を機に親族の経営する商社、不動産管理会社などの経営再建と清算業務に従事。2001年からMBOにより飲食店運営会社を設立し副社長を務める。2009年より株式会社メディヴァに参画。「質の高い医療サービスの提供」を目指して在宅医療の分野を中心に医療機関・企業・自治体などの支援を行なっている。医療法人社団プラタナス桜新町アーバンクリニックの事務長を兼務。2015年度政策研究大学院大学医療政策短期特別研修修了。   【参考書籍】 ジェームズ・C・コリンズ著、山岡洋一 翻訳(2001)『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』 日経BP 服部泰宏著(2016)『採用学(新潮選書)』新潮社 ノーラン・ブッシュネル&ジーン・ストーン 著、井口 耕二 翻訳(2014)『ぼくがジョブズに教えたこと 才能が集まる会社をつくる51条』飛鳥新社

インタビュー
2021年6月8日
2021年6月8日

テッセイ改革で訪問看護に化学反応を引き起こす

この対談では、訪問看護ステーションの経営課題、改善点についてお話しいただいています。テーマにしたのは、新幹線清掃の仕事ぶりが『7分間の奇跡』と注目された、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(以下「テッセイ」)の業務改善内容です(※1)。まったく異なる業種ですが、そこには学ぶべき多くのヒントがありました。 訪問看護事業は、医療の在宅化が進んだことで重要性が高まる一方で、経営が安定しない、スタッフの確保が難しいなど、多くの課題を抱えています。第1回の対談では、新幹線の清掃会社であるテッセイと訪問看護ステーションに共通する経営課題についてお話いただきました。 ビジネス界で注目されるテッセイと訪問看護の共通点 芳賀: テッセイはビジネス界では知られた存在です。アメリカのハーバード・ビジネス・スクールのMBA(経営学修士)でも教材として取り上げられており、私たち経営学者もよく参考にしています。 テッセイは、親会社であるJR東日本から新幹線の清掃業務を受託している、典型的な子会社です。お客様からの苦情や従業員のミスが多く、離職率も高い状態で、JR東日本グループのなかでも評判があまりよくない企業でした。 改革を行った矢部氏はテッセイの親会社であるJR東日本の上級管理職でした。最悪な状態の清掃会社を立て直すという使命を持ってテッセイに入り、そして見事に業務を立て直しました。 ただ、テッセイの仕事は難易度が高いもので、改善は簡単ではありませんでした。 新幹線の車内清掃は、新幹線が終着駅に着き再出発するまでの12分間で済ませる必要があります。しかもその12分にはお客様の乗降に必要な5分間も含まれているので、実質的には7分で全車両のシート・テーブル・床・トイレを清掃しなければなりません。 テッセイの清掃員たちの業務量は、ボーイングの大型飛行機1機分の清掃の半分の時間で、6機分清掃するのと同じといわれています。 そのような大変な業務でありながら、経営もサービスの質も、人の働き方も劇的に変えたことで、成功事例として取り上げられるようになったのです。 この点を踏まえて、訪問看護事業とテッセイの共通点、異なる点を考えていきたいと思います。 矢部氏は、テッセイに入って最初にすべての事業所を回り、従業員からヒアリングをしました。そして、従業員一人ひとりは真面目な人が多く、個人の資質のせいでこのような業績になっているわけではない、ということを発見しました。それであれば、やり方を変えればうまくいくと確信したのです。 訪問看護ステーションで働いている看護師さんたちは、そもそも看護師をやろうと志した段階で、高い職業意識を持っているはずです。個人の資質が一定レベル以上にあることは、テッセイと訪問看護の共通点といえます。 異なる点は、その仕事をやりたいと思って選んだかどうかではないでしょうか。看護師は、看護師の仕事をやりたくてなった人が多いと思います。一方、かつてのテッセイの従業員には、どんな仕事をやってもダメで、仕事がなくてここに入ったという人が少なくありませんでした。 大河原社長はこの本を読んで、働いている人たちの気質についてどのように感じましたか。 大河原: おっしゃるとおり、真面目で個人の資質が高い人が多いところは訪問看護と共通していますね。 そのほかにも、新幹線の車内清掃と訪問看護はまったくかけ離れた業種ですが、意外に共通点があると感じました。 実は看護業界のなかでは、訪問看護はまだ人気があるとはいえない仕事です。国内には100万人以上の看護師がいますが、訪問看護師はそのうちのわずか4、5万人(※2)で、病院に比べるとまだ地位が確立されていない状況です。そのような中、真面目な従業員にやりがいを持って働いてもらうにはどうしたらよいか、という課題はテッセイと同じだと思いました。 また、新幹線の車内清掃に7分という時間制限があるように、訪問看護でも1件30分とか60分といった時間制限があります。テッセイも訪問看護も、限られた時間内で最大限パフォーマンスを発揮しなければならないというところが、似ていると思います。 【テッセイの改革】 清掃の仕事は3K(きつい・汚い・危険)と呼ばれて敬遠されがちな職業であり、テッセイも希望の企業に就職できなかった人や失業した人が、最後にしかたなく応募するような会社でした。そんなテッセイで矢部氏は、社員たちに『誇り』と『生きがい』を持たせることに成功し、改革を成し遂げました。どのようにして、現場スタッフの意識を変えたのでしょうか。 矢部氏は、現場のポテンシャルを下げている原因が『本社の管理体制』と『仕事に対する世間のイメージ』であることを突き止め、制服を変え、本社の体制も変え、社員のやる気を引き出す戦略を一つひとつ実践していきました。そして、かつては『いわれたことだけ』をこなしていたような社員を、新しいサービスを自分たちで考え提案するまでに変身させたのです。 今後の訪問看護事業に求められる組織的な運営へのシフト 大河原: 訪問看護事業所の6割以上は5名以下の小規模事業所です(※3)。それだけ企業規模が小さいと、経営者も従業員も手弁当でやることが少なくありませんが、手弁当ではいつか限界がやってきます。年間1,000近い事業所が生まれて1,000近い事業所が撤退する、これが訪問看護業界の実態です(※4)。 しかし、訪問看護事業も大規模化していかないと効率化できません。そして業務を効率化しないと、経営資源を人に集中させることができない。訪問看護は人が主役の事業であり、時間で動く業務なので、今後、効率化は大きな課題になっていくと思います。 芳賀: テッセイは矢部氏の改革によって、現場スタッフが誇りと生きがいを持って働けるしくみをつくることに成功しました。訪問看護業界は、まだそうしたしくみができあがっていない状況ということですね。 政府や厚生労働省は、医療保険制度と介護保険制度のなかで、ある程度の企業規模を持つ訪問看護事業者を想定した動きをしているように見えます。訪問看護も、組織化して一定の業務効率を持ちながらサービスの質を上げていかなければならない時期に来ているのかもしれません。 組織としてどう運営していくかという視点が必要になってくるでしょう。その意味でも、テッセイの業務改革は参考になる部分が多いと思います。 ただし、テッセイの改革は、最悪の状況、マイナスからのスタートでした。リカバリーはまだ設立7年ですし、訪問看護も業界としてまだ確立されていない、いわばこれからの業界です。今の訪問看護事業は無から有をつくる段階であり、そこは大きく違うといえます。 大河原社長をはじめ、訪問看護ステーションの経営者の方々には、新しい考え方にも前向きに取り組んでいっていただきたいと思います。 ** 名古屋商科大学大学院、NUCBビジネススクール 教授 芳賀 裕子 【略歴】 慶應義塾大学卒。慶應義塾大学経営管理研究科修了(MBA)。筑波大学大学院ビジネス科学研究科後期博士課程修了。博士(経営学・筑波大学)。プライスウォーターハウスコンサルタント(株)にてコンサルティングに従事。その後コンサルティング事務所を立ち上げ、大手企業のヘルスケア分野への新規参入コンサルティングを30年近く実施。医療、健康関連、介護、ヘルスケア業界を得意とし、ベンチャー企業取締役、ヘルスケア事業会社の執行役員なども歴任。 Recovery International株式会社 代表取締役社長/看護師 大河原 峻  【略歴】 看護師として9年間臨床に携わった後に、オーストラリアで働くが現実と理想のギャップに看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。設立7年で11事業所を運営し(2020年12月時点)、事務効率化や働き方改革など、既存のやり方にとらわれない独自の経営を進める。  【参考書籍】 ※1 著・矢部輝夫、まんが・久間月慧太郎(2017)『まんが ハーバードが絶賛した 新幹線清掃チームのやる気革命』、宝島社  【参考資料】 ※2 厚生労働省 平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況 就業保健師・助産師・看護師・准看護師 結果の概要 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/18/dl/kekka1.pdf ※3 厚生労働省 アフターサービス推進室活動報告書(Vol.15:2014年3月~6月)平成26年6月30日 https:/www.mhlw.go.jp/iken/after-service-vol15/dl/after-service-vol15.pdf ※4 一般社団法人 全国訪問看護事業協会 令和2年度 訪問看護ステーション数 調査結果 https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r2-research.pdf

インタビュー
2021年6月8日
2021年6月8日

訪問看護師としての自分の使命

大阪の商店街の中にある、訪問看護ステーションほがらかナース。管理者を務めるのは、訪問看護認定看護師、在宅看護専門看護師の認定資格を持つ岩吹さんです。今回は、認定や専門看護師を取得するに至ったきっかけついてお話を伺います。 生き生きしている患者さんの姿から感じた在宅の可能性 ―訪問看護師として働くまでの経緯を教えてください。 岩吹: 最初に総合病院で5年勤めた後、人と違うことがしたくて、なんとなく訪問看護を考えていました。しかし、それまでは血液内科病棟にいたので、在宅でもよくみる脳外科などの領域も経験したほうがいいだろうと思い、脳外科の病院に転職しました。 病棟自体は寝たきりの方が多いところでした。そこで5年ほど勤めたころ、ある患者さんが退院することになり、その後外来で対応する機会があったんです。そこでとても生き生きとしている患者さんの姿をみて、在宅の力ってすごいなと思いました。それで私もチャレンジしてみようと思い、訪問看護の道に進みました。 最初の訪問看護ステーションでは3年ほど勤め、結婚を機に一度看護師の仕事からは離れていました。 壮絶な体験を経て大学院で在宅看護専門看護師を取得 ―それからはどうしていたのですか。 岩吹: 2005年のある日、夫が肺がんだということがわかりました。そのとき長男は10カ月、次男の妊娠がわかったタイミングでした。がん患者と家族のつらさを自分自身が体験して、こんな気持ちでいたんだと感じました。今まで自分がしてきたことが、どんなに浅はかであったか、利用者さんの立場になることができていなかったと痛感しました。「この看護師は冷たいな」「親身になってくれているな」というのが手に取るようにわかったんです。 闘病生活1年で、夫は他界しました。当時、長男が2歳、次男が生後半年で、子どもを抱えながら今後どうしていくか、この子たちを食べさせなきゃいけないと、無我夢中でした。看護師の仕事に戻ることは少し躊躇しましたが、この仕事しかないという思いや、夜勤ができないということもあり、訪問看護師として戻ることを決心しました。 しかし、夫が亡くなった翌年には母親も急死し、以前から躁うつ病で入退院を繰り返していた兄が脳梗塞を起こして、面倒をみなければなりませんでした。なんで自分がこんな目に遭うのかと、とても落ち込みましたね…。 ―壮絶な体験があったのですね…。そんな中で訪問看護の仕事を再開されてからはどうでしたか。 岩吹: 仕事をはじめると、がんで闘病中の利用者さんに対応することもあり、フラッシュバックして仕事ができないのではと不安になることもありました。そんななか、がんを患っていたある利用者さんが「つらいんや…」と、私にだけ気持ちを打ち明けてくれました。フラッシュバックもありましたけど、一生懸命励ましている自分がいて、利用者さんから「あんたみたいな看護師は初めてや。本当にわかってくれる人はいなかった。」と言われました。ふと我に返ったときに、患者さんに寄り添うとはこういうことなのかと感じたんです。 看護師としての知識や経験は浅かったかもしれないけど、私には患者さんや家族の気持ちが少しわかると思いました。そして、当時始まったばかりであった訪問看護認定看護師に挑戦して、スペシャリストを目指すと決めました。 しかし、一年間の教育課程だったので、知識を詰め込んでも整理できておらず、認定をとってもなんとなく資格が取れたという状況でした。うまく看護を言語化することができず、くすぶっていたところで、「これは大学院にいくしかない」と思いました。当時、私よりも10個ほど年下の認定課程の専任教員だった方が、驚くほど言語化が上手だったんです。その方が大学院に行っていたので、私もとりあえず同じようにやってみようと思い、在宅看護専門看護師の教育課程に進みました。 ―岩吹さんは患者さんにケアとして還元していくなかで、夫のことや看護師としての自分、仕事との向き合い方、生き方を整理していったように感じましたがどうでしょうか。 岩吹: そのとおりですね。患者さんを励ますことで、自分自身も助けられたのかもしれません。これが私の使命というか、夫を亡くしたこと、兄の面倒をみていたことが私の強みで、ここに命を注いでいったらいいんだ…と電撃が走ったように感じました。こうした使命感があると、人間いろいろとつらいことがあっても、楽しく、前に進むことができると実感しています。 つらいことには意味があると思うんです。看護師にも、看護師でない人にも伝えたいのは、「今のつらい思いは未来に役立つ」ということ。絶対に後々、力になります。 ** 訪問看護ステーションほがらかナース管理者 岩吹隆子 血液内科病棟で5年、脳外科病棟で5年経験後、訪問看護師として働く。結婚や出産などで看護師の仕事を一度離れるも、復職。訪問看護認定看護師取得後、2018年に在宅看護専門看護師の資格を取得。2020年に訪問看護ステーションほがらかナース開設。

コラム
2021年6月8日
2021年6月8日

ステーションにとっての「人材採用のゴール」とは

医療機関における採用と定着の問題は、過去から続く医療機関にとっての大きな問題です。そもそも診療報酬で縛られた医療機関、そして採用の対象となる医療従事者も資格職であるために差別化が難しく、地域の有力な医療機関以外は非常に劣勢であり、優秀な人材を獲得することが難しい環境が続いてきました。これからさらに少子高齢化で働き手が減少し、医療ニーズも変化あるいは縮小していく中で、医療人材の採用と定着の取り組みはますます重要になっていきます。特に、訪問看護は2045年ころまでニーズは増え続ける見込みではあるものの、地域の人材は圧倒的に不足しています。 近年、一般企業における採用活動は、インターネットの普及や採用ツールの開発、研究によって近年大きな進化を遂げていますが、一方で医療機関の採用活動はまだその進化が及んでいないと言えるでしょう。 私は医療コンサルタントと並行して、東京都世田谷区で在宅療養支援診療所と訪問看護ステーションを運営している組織の事務長として採用業務を10年間以上担当してきました。この採用活動の経験と、進化した一般企業の採用活動を参考にして、採用と定着のための具体的なノウハウをお伝えしていきます。 不利な環境にある訪問看護ステーション 毎年、日本看護協会から「正規雇用看護師の離職率」が公表されていて、2018年度の離職率は10.7%と横ばいでした(※1)。離職率とは、年間の総退職者数を平均職員数で割った値で、1年間に何%の人員が入れ替わったかを把握することができる指標です。値が高いほど悪いことを意味します。 産業別にも公表されていて、離職率の低い産業としては、建設業9.2%、製造業9.6%。医療・福祉業界は14.4%と全業界の中でも高い(悪い)水準です(※2)。 医療業界の中で、正規雇用看護師の離職率を見てみると、病床規模別では病床数が多い程離職率は低く(500床以上で10.4%)、病床数が少なくなるほど高くなります(99床以下は11.5%、病床数無回答で12.4%)。設置主体別に見てみると、公立病院が最も低く7.8%、訪問看護ステーションによく見られる個人事業では14.1%と高くなっています(※1)。つまり、このデータからも分かる通り、病床がなく、個人事業主に近い小規模事業所である訪問看護ステーションはもともと不利な環境にあると言えます。 重要なのは「適切な人材の採用」 ビジネス書としては大ベストセラーの『ビジョナリー・カンパニー』という書籍があります。マッキンゼー出身のジェームズ・C・コリンズなどによって書かれたもので、「永続」している会社がどんな特徴を持っているのか?という謎の解明に挑んだ書籍で、企業の大半の経営者が読んでいると言われる名著です。その中でも「だれをバスに乗せるか」という採用にまつわる章があり、以下のような表現でその重要性について説いています。 ・まずはじめに、適切な人をバスに乗せ、不的確な人をバスから降ろし、つぎにどこに向かうべきか決めている。この原則を厳格に一貫して適用する。人材は重要な資産ではない。適切な人材こそが重要な資産なのだ。 ・偉大な組織への飛躍には、人事の決定に極端なまでの厳格さが必要なことがあげられる。成長の最大のボトルネックは何よりも、適切な人びとを採用し維持する能力である。 (出典:ジェームズ・C・コリンズ著 山岡洋一(翻訳)『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』 日経BP,2001) ここで注目すべきは、戦略の決定の前に「適切な人の採用が重要」であり、その採用に極端に厳格であるという姿勢です。「優秀な人材」ではなく「適切な人材」と書かれているのは、スキル重視ではなく、組織のカルチャーを重視する姿勢です。カルチャーに合うか、合わないかという面は、優秀であるか否かよりも重視されていることがわかります。このカルチャーフィットの視点は、この連載の中でも詳しくとりあげます。 レベル4以上の人材を集めることを目指す もう一つ、人材を見極める上で重要な視点を紹介します。ゲイリー・ハメル教授という最も影響力のある経営思想家トップ50にも選出された研究者で、コンサルタントでもある彼が提唱している考え方です。彼は、人材には6つのレベルがあり、レベル4以上の人材を集めなければ組織は衰退すると言っています。 ・企業が繁栄するかどうかは、あらゆる階層の社員の主体性、想像力、情熱を引き出せるかどうかにかかっている。そしてそのためには、全員が自分の仕事、勤務先やその使命と精神面で強くつながっていることが欠かせない。 ・レベル1から3は、世界のどこでも雇うことができるので、社員から従順さ、勤勉さ、知識だけしか引き出せないなら、あなたの会社はいずれ経営が傾くということである。 (出典:ゲイリー・ハメル著 有賀裕子(翻訳)『経営は何をすべきか』 ダイヤモンド社,2013) ゲイリー・ハメルが言うレベル4以上の人材を集めることの重要性は、経営者・マネージャー経験者であれば、感覚的にもわかることだと思います。 スキル重視ではなく、カルチャーフィットであり、主体性、創造性、情熱を持ったレベル4以上の人材を集めることを「採用活動のゴール」と考えて一歩目を踏み出しましょう。 訪問看護ステーションの人材採用 在宅医療と訪問看護のニーズは、多くの地域で今後ますます伸びていき、ほとんどの都心部では2045年がニーズのピークにあたります。ますます増えるニーズへの対応のためにも、人材採用の重要性は高まっていきます。また、訪問看護に欠かせない24時間対応の負担を軽くするためにも、ある程度人員を確保して、大きな組織を目指したほうが安定するでしょう。また、カルチャーフィットした良い人材が採用できれば、実践するケアの質や組織のチームワーク向上、他の職員への相乗効果などポジティブなスパイラルが形成されます。しかしながら、組織に合わない不適切な人材を採用してしまえば、逆に組織全体が悪いスパイラルに陥ってしまうという重大な分岐点でもあります。 採用と定着を改善することは、医療機関にとっても、またそこで働く医療従事者、サービスを受ける患者・利用者にとっても素晴らしい成果を生み出すことになります。他の医療機関に先駆けて、採用と定着に真剣に取り組む医療機関が1つでも多く誕生することを願っています。 次回以降、採用面では不利な立場にある訪問看護ステーションが、病院などに対峙して良い人材を採用するためにはどうすればよいのか、採用活動について改めて考え直すとともに、すぐに取り組める具体的な採用ノウハウを紹介していきます。 ** 株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 シニアマネージャー/医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 事務長 村上典由  【略歴】 兵庫県出身。甲南大学経営学部卒業。広告代理店での勤務を経て、阪神大震災を機に親族の経営する商社、不動産管理会社などの経営再建と清算業務に従事。2001年からMBOにより飲食店運営会社を設立し副社長を務める。2009年より株式会社メディヴァに参画。「質の高い医療サービスの提供」を目指して在宅医療の分野を中心に医療機関・企業・自治体などの支援を行なっている。医療法人社団プラタナス桜新町アーバンクリニックの事務長を兼務。2015年度政策研究大学院大学医療政策短期特別研修修了。   【参考】 ※1 日本看護協会 2019年 病院看護実態調調査 https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/research/95.pdf ※2 厚生労働省 -2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概況- https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/20-2/dl/gaikyou.pdf   【参考書籍】 ゲイリー・ハメル著 有賀裕子 翻訳(2013)『経営は何をすべきか』 ダイヤモンド社 ジェームズ・C・コリンズ著 山岡洋一 翻訳(2001)『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』 日経BP

インタビュー
2021年6月1日
2021年6月1日

人と人との繋がりを大切にするステーション運営

医療法人ハートフリーやすらぎ常務理事の大橋さん、訪問看護ステーション所長である田端さんに、引き続き採用や営業、ステーション運営についてお話を伺いました。 協調性を重視した採用試験 ―スタッフへのインセンティブをしっかり還元する、こうした魅力的なステーションだと募集が多くて採用が大変そうですが、実際はどのようにされているのですか。 大橋: うちでは一次試験は書類審査、二次試験は同行訪問、三次試験は面接をしています。 種明かしをすると、面接時よりもリラックスしやすい昼食や休憩時間の様子をよく見ています。例えば昼食のとき、一緒に同行した人から「先に食べていていいよ」と言われたときにどうしているかなどです。訪問看護で大事なのは、相手に合わせられるか、配慮がどこまで行き届くかというところなので、そこを見ています。 あくまで私の考えですが、職場の風土が「相談しやすい関係づくり」を目指しているので、こうした非言語的なコミュニケーションを含めて採用のときには大事にしています。 地域に貢献することで営業なしで黒字経営 ―営業に関してはどのようなことを行っていますか。 大橋: 正直、営業といわれるようなことはしていません。例えば、地域の老人会などに参加した際、その集会場のトイレの便座が冷たかったので、温水洗浄便座を購入してくださいと40万円寄付したことがありました。すると、集会に参加した方々が「トイレが温かい」「これはあそこの訪問看護ステーションの方がつけてくれた」ということで、それがゆくゆくは顧客に繋がっています。 そもそも私はギブ&テイクのテイクは基本的に求めていません。こうして地域が潤うために必要なことは何かを考えています。 田端: ほかには、子ども食堂への寄付や小学生の職業体験を受けることもしています。また、訪問看護先で、利用者さんのご家族が自分も訪問看護を受けたいと言ってくれたりして、家族同士や口コミなどでも繋がっています。 大橋: ナーシングデイは、あえて団地にこだわりました。ちょうど殺風景になっていた団地があり、私たちが入ることで活性化するのではないかと思ったんです。そのために、1年間草むしりから美化運動をはじめました。最初は住民から怪しまれていましたが、少しずつ挨拶をしてもらえるようになりました。 それから「ピンクの服を着た人たちは看護師だ」という認識となり、ナーシングデイを開くころには、「あんたらやったんか、嬉しいわ~」と言ってくれるまでになりました。ナーシングデイの開設時は、地域住民からの反対なども一切なく、すぐに受け入れてもらえました。 運営に悩む管理者へのアドバイス ―ステーション運営に悩む管理者も多いと思いますが、大橋さんからアドバイスをするとすればどんなことでしょうか。 大橋: 私はトップで決まると思っています。明るくなかったらダメ。能力が高くても考え方がマイナスだと、スタッフにも伝わります。明るいところには明るい人材が来ますから。 できない言い訳を考えるような人が管理者になったらダメです。よく管理者が「誰が責任をとるのか」「責任はとれるのか」という言葉を使うことがありますが、説明責任はあるにしても、人のせいにする人は向いていないと思います。スタッフに対して尊敬して敬意を表しながら、ともにチームで歩むという姿勢がない限りは、スタッフは育ちません。そこの人選をミスしないことが大事だと思います。 また、「どんどん営業に行きなさい」と言われることもありますけど、突然パッと来た営業の人に、「じゃあお願いします」と大事な家族を任せられますか? 地道に一人ひとりに丁寧に接することで、必ず次に繋がると思っています。ケアマネさんにも、郵送で報告書を渡して終わりではなく、たまには「こんにちは~いつもありがとうございます!そういえばね~」と気軽に会話ができるような、そんな機会をなくしてはいけないと思います。 一人ひとりを大事にするというのは、利用者さんやスタッフを大事にするだけではなく、付随する人全員を大事にすることなんです。こうした地道な活動を経て、組織は着実に大きくなっていくと思っています。 ** 医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者 大橋奈美   三次救急で8年、看護短大の非常勤講師として1年、公立病院で5年勤務の後、ハートフリーやすらぎを立ち上げる。 日本訪問看護認定看護師協議会 代表。 医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション所長 田端支普   総合病院の小児科を含めた混合病棟で6年、産婦人科混合病棟で4年勤務後、ハートフリーやすらぎに入職し、訪問看護師に。2012年に訪問看護認定看護師の資格を取得。2018年に特定行為研修修了。

インタビュー
2021年6月1日
2021年6月1日

訪問看護が子どもや家族を地域に繋ぐためのかけ橋に

医療ケアがあるから…と諦めるのではなく、その先をともに考える。小児に特化した訪問看護ステーションベビーノの所長平原さんに、ベビーノの強みや今後の取り組みについてお伺いしました。 医療だけではなく、生活に根付いたサービスを提供する ―ベビーノさんの強み、力を入れているところを教えてください。 平原: ベビーノでは小児に特化した理学療法士や作業療法士などもいます。看護だからリハ職だからということではなく、子どもや家族に対してチームで関わっているところが強みだと思います。未就学児で訪問する期間は限定されているなかで、医療だけではなく、生活に根付いたサービスの提供ができればと思います。スタッフが皆、優秀なのですごく助かっています。 ―ベビーノさんが今後取り組みたいのはどんなことでしょうか。 平原: NICUからお家に帰ってきて、楽しく安全に生活ができるという土台はその子の人生のベースにもなるので、医療保険での訪問は変わらずに丁寧に続けていきたいです。 実は2020年9月に相談支援事業所を開設し、2021年2月からは保育所等訪問支援事業も準備しています。ベビーノを使っている子が対象です。子どもたちがお家で生活することを考えて、訪問だけではなく、地域にしっかり繋がっていくところをやっていきたいと思っています。 保育所等訪問支援は、お家ではできるけど、保育所ではうまくできないところをお手伝いするイメージです。例えば、ごはんがうまく食べられないといった場合、何回かベビーノのスタッフが訪問し、姿勢や使っている道具、環境、周囲のお友達、先生たちとの関わりなどを見て、調整していきます。今までは家族の希望で、自費やボランティアでやっていたところをシステム化したものです。もちろん、保育所に連絡をして許可がもらえてから介入します。 インクルーシブに、きっかけを作って繋ぐ 平原: 医療ケアが必要な子たちが、どんどん保育園に入っていって、訪問看護師も保育園などに訪問しながら医療ケアのサポートや体調管理のお手伝いをやりたいと思っています。だけど、「保育所等訪問支援事業は福祉サービスで、医療じゃないから訪問看護師は訪問できないよ」と言われてしまいました。既存のシステムには乗れないところもありますが、医療ケアがあるから保育園を諦めるということではなく、通えるように一緒に目指していきたいです。世の中いろんな人たちがいるので、インクルーシブに、その中で少しサポートが必要なところにベビーノがお手伝いにいくようになればいいですね。書類だけで疾患名や障がいをみると、「どんな子が来るんだろう…」と保育園側も不安が大きいと思います。だけど、実際にお子さんたちに会われると、「全然、ほかの子たちと一緒にいても大丈夫じゃない」と、特別なことをするわけではないと思ってもらえるケースもあります。 私たちはずっと大きくなるまで携われるわけではないですが、きっかけを作って繋いでいくところを専門的にやっていきたいです。そのためには、訪問看護の部分はしっかりとやらないと説得力がないので、お家での生活のお手伝いを丁寧にやっていきたいです。そして今後はグループ事業として、重症児や医療的ケア児のための発達支援事業所の開設も準備中です。 今、関わっている子たちがどういう風に幸せな生活を組み立てていくのか、コロナ禍で今までの当たり前ができなくなることもあるので、答えがないところを一緒に考えていく存在でありたいです。 ** 訪問看護ステーションベビーノ所長 平原真紀 (助産師、看護師) 大学病院のNICUで勤務し、主任を経験した後、2010年に訪問看護ステーションベビーノを開設。当時はNICUから退院した子どものサポートがなかったため、育児支援サービスとして乳幼児専門の訪問看護を提供している。 ※本記事への写真掲載はご家族の許可をいただいております。

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