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想いがつながる場所~シームレスケア訪問看護ステーションの挑戦・宮崎さん・梶さんにインタビュー~
想いがつながる場所~シームレスケア訪問看護ステーションの挑戦・宮崎さん・梶さんにインタビュー~
インタビュー
2026年4月14日
2026年4月14日

想いがつながる場所~シームレスケア訪問看護ステーションの挑戦・宮崎さん・梶さんにインタビュー~

【※本記事はNsPace Careerが事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Careerが担当しました。】 人生と向き合うきっかけ――「在宅ケア」への転機 「せっかくやるなら、社会的に意味のあることをしたいと思いました」 そう語るのは、株式会社シームレスケア代表の宮崎さんです。急性期の総合病院で約5年間勤務されたのち、ご自身の家族の介護を通じて在宅ケアの世界に入りました。 「母が難病になり、自宅でケアを受けるようになったのです。そのとき、訪問看護のありがたさを肌で感じたのがきっかけでした。加えて、私自身、三つ子を育てていた時期でもあり、時間的な柔軟性が必要でした」 訪問看護の現場で経験を積み重ねていく中で、次第に「もっと栄養面まで踏み込んだ支援がしたい」と考えるようになりました。そこで、病院勤務時代の仲間である管理栄養士に声をかけ、北海道から転居してもらい、共に2018年に「シームレスケア訪問看護ステーション」を立ち上げました。 設立当初は、事業の方向性や現場での運営体制も手探りの状態でした。制度も整っていない中での立ち上げでしたが、仲間との対話や利用者さまとの信頼関係の積み重ねにより、少しずつ地域に根ざしたステーションとして成長していきました。 「切れ目のないケアを届けたい」という理念は、今もなお組織の核となっています。医療・介護・生活支援が途切れることなく繋がること。それが、利用者さまの安心感や生活の質の向上に直結すると信じているからです。 シームレスケアの歩みには、「誠実さ」が常に根底に流れています。宮崎さん自身、「人として誠実であること」が、すべての行動や判断の原点だと語ります。 「うちの仲間たちは、誰かのために動ける人ばかりです。利用者さまに対してだけでなく、職員同士に対しても、互いに思いやりを持って接しています。そうした誠実な姿勢が、組織としての信頼につながっているのだと思います」 この信念は、単に理念として掲げるだけでなく、日々の実践の中で自然と表れています。困っているスタッフがいれば手を差し伸べ、困難なケースに直面してもチームで話し合いながら乗り越えていく――そんな姿勢が、職場全体に息づいているのです。 その積み重ねが、地域からの信頼にもつながり、今では多くのケアマネジャーや医療機関からも頼りにされる存在となっています。事業所としての規模が大きくなる中でも、「目の前の一人に誠実に向き合う」という姿勢を忘れずに、地域に根ざしたケアを続けています。 働きやすさを支える柔軟な制度と人のあたたかさ 看護部主任の梶さんは、神奈川県で急性期病院やクリニックに勤務された後、転居をきっかけに訪問看護の道を選ばれました。 「直接ケアに関わり、アセスメントの力をもっと磨きたい。訪問看護って、子育てと両立しやすいと聞いたのです。ちょうど新しい環境を探していたので、『やってみよう』と思いました」 最初は未経験で不安もありましたが、「紹介会社の方から“ここ、人がとてもいいよ”と勧められて。それが後押しになりました」と話していました。 実際に入職してみると、その言葉通りだったそうです。子育て中のスタッフが多く、病児保育を兼ねたこどもとの同伴出勤を許可するサポートもあり、安心して働けると感じたそうです。 「子どもが熱を出したときでも、“お互いさま”の精神で理解してくれる環境があるのです。それって、本当にありがたいことだと思います」 子育てしているスタッフがいるからこそ、お互いに信頼して支えながら仕事ができることは、キャリアプランが途切れないために重要な要素です。 同行訪問や段階的なオンコール指導により、無理なくステップを踏むことができます。 「最初から一人で行ってと言われていたら、絶対に無理でした。でも、先輩が同行してくれたり、少しずつ任せてくれたりしたので、不安なく始めることができました」 訪問看護が未経験だった梶さんも、安心してキャリアを積むことができたようです。 制度面も充実しており、子どもの同伴出勤、1時間単位の有給など、スタッフの生活を支える工夫が随所に見られます。また、定期的な面談を通じて、キャリアやライフスタイルに合った働き方を共に考える体制も整えられています。 「自分らしく、そして安心して働ける場所です」 明るくはきはきとお話しされる梶さん。 職種の垣根を越えた連携が生む“シームレスな支援” シームレスケアでは、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士など、幅広い専門職が連携し、利用者さまを多角的に支えています。この連携の要は、専門性を尊重し合い、対等な立場で意見を交わす風土にあります。 「腰痛がある方に、“どうすれば負担なく介助できるか”をセラピストに相談できるのです。足の置き方ひとつで、本当に変わるのですよ」 このような現場のやりとりは日常的に行われています。実際に、清拭しかできなかった方がシャワー浴を希望された際にも、リハビリ職と相談しながら動線や移乗方法を見直すことで、安心・安全に希望を実現させたというエピソードもありました。 また、リハ職が看護師の動作を観察しながら「その介助方法、腰に負担がかかりませんか?」とフィードバックを行うこともあれば、逆に看護師が「この方の体調面からすると、今日の訓練はこう調整したほうが良いかもしれません」と助言することもあります。 「どこに足を置けば腰への負担が減るか」「この体位での介助は安心か」といった現場での細やかな工夫は、表には出にくいながらも、利用者さまの生活の質を大きく左右する重要な要素です。 こうした“気軽に相談できる関係性”は、日々の積み重ねによって築かれています。「なるべくみんなでランチをしたり、対面で会ったりする時間を大切にしています。顔を合わせると、信頼感が育まれるのですよね」 日常的にコミュニケーションを取ることで、単なる情報共有を超えた「相互理解」が生まれ、それが連携の質を一層高めています。チームの中で、誰かがひとりで抱え込むことなく、「困ったらすぐ相談できる」関係性が、職種を問わず築かれているのです。 そして、この“シームレス”な関係性は、単に職務を円滑にするだけでなく、ケアの質そのものを底上げしています。利用者さまの「その人らしさ」を引き出すためには、身体的なケアだけでなく、心理的な安心感や信頼関係の構築が欠かせません。 シームレスケアでは、職種の違いを超えて“ひとつのチーム”として、常に「この人にとって、いま何が最善か」をともに考え続けています。このような文化が、“切れ目のない支援”の根幹となっているのです。 地域に根ざす「誠実な会社」であり続けるために 宮崎さんが掲げる目標の一つは、「地域で最も誠実な会社」であることです。 「地域の皆さまにとって、安心して頼れる存在でありたいです。そして職員にとっても、“ここで働けて良かった”と思える職場を目指しています」 その思いの背景には、ご自身の在宅介護経験を通して実感した、地域に根差した包括的な支援体制の重要性があります。訪問看護の現場では、看護だけで解決できない課題も多く存在し、そのたびに「チームでどう補い合えるか」が問われます。 そのため、宮崎さんは今後のチャレンジとして、地域に診療所を開設し、訪問看護・訪問リハビリ・居宅介護支援といった多職種サービスを一体化させる構想を描いています。 「在宅医療って、診療、看護、リハビリが一体となってはじめて機能するのですよね。それを地域の中で完結できるようにしたいのです」 このような地域連携の強化は、利用者さまの安心・安全な暮らしを支える基盤となり、同時に、働くスタッフにとっても専門性を発揮しやすい環境につながります。 また、会社としての持続的な成長にも目を向けています。事業を安定的に発展させることにより、職員への給与や教育面での還元を進め、モチベーションや働きがいを高めていくことを目指しています。 「職員一人ひとりの“やってみたい”という想いを大切にしています。そのチャレンジが、結果的に地域への貢献にもつながる。そんな循環を大切にしています」 こうした理念のもと、現場では日々「自分ごと」として物事に向き合う姿勢が根づいています。小さな気づきを見逃さず、丁寧に形にしていく。その積み重ねが、地域社会の中で確かな信頼となって花開いているのです。 「安心して頼れる存在でありたい」と地域全体にも目を向けられている宮崎さん。 これからの仲間へ――挑戦と成長を支える土壌 シームレスケアでは、未経験から訪問看護に飛び込むスタッフも多く、支援体制がしっかり整えられています。同行訪問を重ね、段階的にオンコールを持ちます。緊急訪問の際は先輩とペアで行うなど、安心してスキルを積み重ねていける環境です。訪問看護が未経験の場合、「一人で訪問するのが心配」と不安に感じる方も少なくありません。シームレスケア訪問看護ステーションでは、少しずつ成功体験を得ながら、チャレンジしていけるような支援を用意しています。 「最初から一人でやってと言われていたら、不安でいっぱいだったと思います。でも、先輩がずっとフォローしてくれて、本当にありがたかったです」 また、勉強会や外部研修も無理のない頻度で行われており、日々の業務を圧迫しないような工夫もなされています。加えて、ライフワークバランスを支援する制度として、育休復帰時の面談やコーチング支援なども充実しています。 「最初に産休を取ったスタッフがいたとき、制度がまだ整っていなかったのです。でもそのときに“ライフワークバランスサポーター”という新たな役割が生まれて、一人ひとりの働き方をより丁寧に考えるようになりました」 このように、スタッフの声を起点に制度がつくられていく文化が、組織の中に根づいています。より良い組織を作っていく中で、オープンな風土があることが働きやすさや、看護ケアの向上にもつながっています。 「ここでは、“看護師である私”と“母親である私”、どちらも大切にできるのです」 梶さんの言葉は、多くのスタッフの想いを代弁しているように感じられます。 インタビュアーより 取材を通して何度も耳にしたのは、「人がいい」という言葉でした。それは、単なる仲の良さではなく、専門職同士がお互いの強みを活かし合い、信頼でつながっている証だと感じました。 「切れ目のない支援」とは、制度や技術だけではなく、一人ひとりが目の前の人に丁寧に向き合い続ける“姿勢”から生まれるものなのかもしれません。 また、特に印象に残ったのは、制度づくりにおける柔軟さとスピード感でした。初めての産休取得者が出た際に「ライフワークバランスサポーター」という新たな仕組みを立ち上げたという話は、まさに現場の声が制度を形づくる好例だと感じました。 一人ひとりの「こうして働きたい」という思いが、決して置き去りにされない。そうした空気の中でスタッフがのびのびと働いている姿は、まさに「人を大切にする組織」そのものでした。 看護の専門性と人間性、そのどちらも大切にしながら成長していける場所。そんな職場で働くことの意義と希望を、今回の取材で強く実感しました。 誰一人置き去りにしない、そんな想いが、この場所には確かに息づいていました。 事業所概要 株式会社シームレスケアシームレスケア訪問看護ステーション ■稲毛ステーション住所:千葉市稲毛区穴川4-13-28-201 ■検見川ステーション住所:千葉市花見川区検見川町3-326-1 平助ビル201 ■習志野ステーション住所:習志野市鷺沼台3-12-18-101 開設日:2018年8月1日 訪問エリア:千葉市稲毛区、美浜区、花見川区、習志野市が主なエリア 経営理念 ミッション○在宅医療・介護が変わる流れをつくる○在宅療養者様が、体験したことのない感動と安心を提供する ビジョン○チームによる集合知により、最良で最適なサービスを提供する○利益追求とともに、顧客・職員の幸せを追求する○地域でNo.1の誠実な在宅医療チームを目指す 事業所紹介ページhttps://ns-pace-career.com/facilities/14546 この記事を読んで「訪問看護、自分にもできるかも」と感じた方へ 「もっと患者さんと関わりたい」「自分らしい看護を実現したい」そう感じている看護師の方は少なくありません。 NsPace Careerナビでは、訪問看護の現場で働く看護師のリアルな声を多数掲載しています。 精神科訪問看護で活躍する看護師の声 未経験から訪問看護を始めた体験談 育児と両立しながら働く現場の実例 各ステーションの教育体制・チーム文化 さらに、キャリアの悩みやモチベーション維持のコツなど看護師として働くうえで役立つ記事も充実。 「自分に合う訪問看護の職場って、どんなところだろう?」そのヒントが、きっと見つかります。 ▶ 他の訪問看護師インタビューを読むhttps://ns-pace-career.com/media/ 記事提供:NsPace Careerナビ編集部 NsPace Career

訪問看護の組織づくりでMVVが必要な理由
訪問看護の組織づくりでMVVが必要な理由
コラム
2026年4月14日
2026年4月14日

訪問看護の組織づくりでMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が必要な理由

訪問看護ステーションの運営では、日々さまざまな判断が求められます。利用者・家族・多職種との調整、スタッフ教育、緊急対応――。その場その場で最善の選択をし続けることは簡単ではありません。ステーションの規模が大きくなるほど、判断基準の違いによる迷いや負担が管理者に集中しやすく、「組織としての軸」を求める声が増えてきます。こうした背景から近年注目されているのが、組織の理念や価値観を言語化した「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」です。訪問看護において、なぜMVVが重要なのでしょうか? その理由とメリットを、現場の課題と照らし合わせながら解説します。 訪問看護の組織づくりでMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が必要な理由 訪問看護ステーションの運営において、「MVV(Mission・Vision・Value)」を掲げるケースが増えてきました。日本語にすると「使命」「目指す未来」「価値観」ですが、耳なじみのない方もいるかもしれません。知っていたとしても、「理念を作った方がいいとは聞くけれど、忙しくてそこまで手が回らない」「本当に必要なのだろうか?」と感じている管理者の方も多いのではないでしょうか?確かに、理念がなくても、訪問看護の現場は回るでしょう。それでも多くのステーションが、ある段階で組織運営の壁にぶつかります。 そこで今回は、訪問看護ステーションにおいてMVVを明確にするメリット、明確にしないデメリットをお伝えしたいと思います。 訪問看護では理念がなくても機能する一方で… 訪問看護は、専門職の集まりです。看護師はそれぞれ高い倫理観を持ち、「利用者さんのために」という思いを共有しています。そのため、組織として明確な理念がなくても、現場はある程度機能します。 「利用者に寄り添うケアを行い、チームで協力しながら業務を進める」ことは、多くの看護職が当たり前のように行っているでしょう。しかし、ここに落とし穴があります。それは、「良いと思っていること」の基準が人によって違うということです。例えば、 利用者からの急な訪問依頼にどこまで応えるのか 家族からの相談にどう対応するのか 時間外対応をどう判断するのか こうした場面で、スタッフごとに判断が分かれることがあります。 小規模な組織であれば、管理者の考え方や暗黙のルールで回ることもあります。しかし、組織が少しずつ大きくなってくると、この違いが徐々に表面化してきます。 組織が大きくなると生じる価値観のズレ 訪問看護ステーションの運営では、スタッフが増えるほど組織マネジメントの難易度が上がります。人数が少ないうちは、 管理者の価値観 長く働くスタッフの経験 暗黙のルール などで組織がまとまることもあります。 しかし、スタッフが増え、新しいメンバーが加わると、価値観のズレが生まれやすくなります。例えば、 ケアの優先順位の考え方 利用者や関係者への対応のしかた チーム内の役割意識 といった部分で小さな違いが積み重なると、チームとしての一体感が弱くなります。 さらに、判断のたびに管理者に確認するような組織になると、管理者の負担も大きくなります。「このケースはどう対応したらいいですか?」「この判断でよかったでしょうか?」こうした相談が増えれば増えるほど、管理者は現場判断を一手に引き受けることになります。 訪問看護管理者の役割は方向性を示すこと 訪問看護管理者の仕事は多岐にわたります。人材管理・クレーム対応・地域連携・経営管理など、日々の業務に追われることも少なくありません。その中でも特に重要な役割が、組織の方向性を示すことです。訪問看護は現場判断の連続です。利用者や家族の状況は一人ひとり異なり、マニュアルだけでは対応できない場面も多くあるでしょう。だからこそ、スタッフが迷ったときに立ち返ることができる「軸」が必要になります。その軸を言語化したものが、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)です。 MVVは組織の判断基準になる MVVを改めて定義すると ●Mission(使命):私たちは何のために存在するのか●Vision(目指す未来):どんな組織を目指すのか●Value(価値観):どんな行動を大切にするのか を言語化したものです。これらが明確になると、現場の判断基準が揃います。MVVを明らかにすれば、スタッフが迷ったときに、「私たちの価値観から考えるとどうだろう?」と考えることも可能です。 管理者がその場にいなくても、組織としての判断ができるようになることから、管理者の負担を減らすという意味でも非常に大きな効果があります。 MVVがチームを強くする MVVのもう一つの役割は、チームの一体感を生み出すことです。訪問看護ステーションは、背景が異なる医療職が集まってチームを形成しています。一人ひとりの経験や価値観が違うからこそ、組織として大切にするものを共有することが重要です。 MVVがある組織では、 同じ方向を向いて仕事ができる 判断基準が共有される チームとしての一体感が生まれる といったポジティブな変化が起き、チームを強くするのです。また、MVVを組織で共有することで、採用の場面でも効果が期待できます。理念に共感して入職するスタッフは、組織に馴染みやすく、長く働く傾向があります。 まとめ:組織のコンパス「MVV」を明確にしよう! MVVを明確にするのは、立派な言葉を掲げるためではありません。大切なのは、組織のコンパスとして機能させることです。訪問看護の現場では、日々さまざまな判断が求められます。そのときに、組織全体で大切にする価値観があるかどうかで、チームワークは大きく変わります。もし今あなたが、組織運営に迷いを感じているのであれば、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか?「私たちは、何のためにこのステーションを運営しているのか?」「どんな組織を目指し、どんな行動を大切にするのか?」これらを明確にし、共有することが、強い組織づくりの第一歩になるかもしれません。 執筆・編集者:米沢まさこ(看護師ライター)監修:小瀬文彰(看護師・保健師・経営学修士)株式会社UPDATE代表取締役2013年慶應義塾大学看護医療学部卒。ケアプロ訪問看護ステーション東京にて、新卒訪問看護師としてキャリアをスタート。訪問看護の現場・マネジメント経験の後、薬局・訪問看護を運営するスタートアップ企業にて最高執行責任者として40拠点・年商65億規模の経営に携わり、上場企業へのグループインを実現。現在は株式会社UPDATEの代表として、訪問看護のマネジメントコーチ(経営・組織づくり支援)や組織マネジメント講座を通し、「想いある医療者に、マネジメントの力を」届ける事業を展開中。その他、業界団体の研修会登壇や調査研究支援(シンクタンク事業)も実施中。

南海トラフ地震発生時の対応とは?災害への備えと応急処置を解説
南海トラフ地震発生時の対応とは?災害への備えと応急処置を解説
特集
2026年4月7日
2026年4月7日

南海トラフ地震発生時の対応とは?災害への備えと応急処置を解説

訪問看護師として日々利用者さんの健康を支える中で、南海トラフ巨大地震のような大規模災害が発生した際には、適切な対応が求められます。地震の影響で交通機関が麻痺し、ライフラインが途絶える状況下では、訪問先での対応や移動中のトラブルにも備えておく必要があります。 本記事では、南海トラフ巨大地震発生時における災害看護の対応について、防災対策や応急処置の方法を解説します。 南海トラフ巨大地震とは 南海トラフ巨大地震は、駿河湾から日向灘沖を震源域として起きるとされている地震です。過去に100~150年の間隔で大地震が発生しており、甚大な被害をもたらすことが想定されています。 南海トラフ巨大地震がもたらす影響範囲 政府の中央防災会議が公表した被害想定によると、最大クラスの南海トラフ地震が発生した場合、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7の揺れが発生する可能性があります。隣接する周辺地域では広範囲にわたって震度6弱から6強の強い揺れが生じると考えられています。 さらに、関東から九州にかけての太平洋沿岸では10メートルを超える津波が発生し、沿岸地域に大きな影響を及ぼす可能性が指摘されています。 避難方法のノウハウ 災害発生時に備えて、避難方法のノウハウを習得しておきましょう。 火災発生時の避難方法:煙と炎から命を守る 火災の初期段階から大量の煙が発生し、数分以内に室内を充満することがあるため、ためらわずに避難を開始することが必要です。外出先や宿泊施設では、事前に避難経路を確認し、非常口の位置を把握し、万が一の際にも落ち着いて行動できるよう備えておきましょう。 また、酸素濃縮装置等を使用している利用者さんがいる場合、装置の2m以内に火気を置かないようにし、日頃から火の取扱いに十分注意しておくことが重要です。災害時には電力供給が停止し、酸素濃縮装置を使用できなくなる可能性があるため、十分な容量のバッテリーや酸素ボンベを備えておきましょう。 津波発生時の避難方法:素早く高台へ避難する 津波は、短時間で沿岸部に到達します。津波から命を守るためには、迷わずにすぐに高台や津波避難ビルなどの安全な場所へ移動することが最も重要です。 地震発生時に強い揺れを感じた場合や、長時間にわたる揺れが続いた場合は、ただちに津波の発生を想定し、避難行動を開始する必要があります。 高齢者の避難方法 高齢者が安全に避難するために、避難行動要支援者名簿や個別避難行動および福祉避難所について行政に確認しておきましょう。 自宅には、食料や水、懐中電灯、救急セットといった基本的な防災用品に加え、高齢者向けの必需品も用意しておきます。たとえば、嚥下機能が低下している方のためにお粥やとろみ剤を準備し、排泄に不安のある方にはおむつや尿取りパッドを多めに備えておきましょう。また、持病がある場合は、常備薬とお薬手帳をすぐに持ち出せるようにしておきます。 車椅子を使用している方や寝たきりの方は、シーツや毛布を活用した搬送方法を習得しておくと役立ちます。まず毛布やシーツで全身を包み、頭部を安定させた上で、両肩を少し浮かせるようにして頭側から引っ張ります。この際、床面の凹凸や障害物に注意しながら、安全に移動できるよう慎重に進めることが大切です。 自宅の災害対策のポイント 地震や火災などの危険から命を守るためには、事前の対策が不可欠です。下記のように対策しましょう。 カテゴリ対策内容詳細耐震対策建物の耐震診断自宅の耐震性能を専門家に診断してもらい、必要に応じて耐震補強を行う。家具・家電の固定本棚や食器棚、テレビなどをL字金具や耐震マットで固定し、転倒・落下を防ぐ。ブロック塀や屋根の点検ひび割れや老朽化がないか確認し、必要なら補強工事を実施する。火災対策火災警報器・消火器の設置各部屋に住宅用火災警報器を設置し、消火器の設置と定期点検を行う。プロパンガスの固定ガスボンベが倒れないよう、鎖や固定具でしっかり固定する。感震ブレーカーの導入地震時に自動で電気を遮断し、火災の発生を防ぐ。避難計画家の中の安全な場所の確認家族で話し合い、地震や火災時に安全を確保できる場所を決める。避難経路の確保家から避難所までの経路を確認し、障害物がないか定期的にチェックする。連絡方法と集合場所の決定災害時に連絡が取れない場合の集合場所や連絡手段を事前に決めておく。非常用品の準備飲料水・食料の備蓄最低3日分(できれば1週間分)の水・食料を準備する。緊急時の必需品懐中電灯、携帯ラジオ、予備の電池、カセットコンロなどを用意する。高齢者・乳幼児向けの備えお薬手帳、常備薬、おむつ、粉ミルクなど、個々のニーズに応じた備蓄を行う。防災意識の向上防災訓練への参加地域の防災訓練に参加し、避難手順や消火方法を学ぶ。近隣住民との連携近所の人と防災に関する情報を共有し、助け合いの体制を整える。災害時の知識の習得家族全員で防災に関する知識を学び、実践できるようにする。 >>関連記事震災時に医療機関や訪問看護の現場はどうなった?事例から知る必要な備え 南海トラフ地震ガイドラインについて 南海トラフ地震に備えるための指針として、内閣府が策定した「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン」があります。 地方自治体や指定公共機関だけでなく、病院や劇場、百貨店、宿泊施設など多くの人が利用する施設、また石油・火薬・高圧ガスを扱う事業所などの管理者が参考にできるように設計されています。それぞれの施設に適した防災対応を計画し、いざというときに円滑に実行できるように備えることが重要です。 参考:内閣府「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた 防災対応検討ガイドライン 【第1版】」 南海トラフ地震に備えた医療分野の動き 南海トラフ地震に備え、医療分野では多方面での準備が進められています。 広域災害・救急医療体制(DMAT) DMATは、災害急性期に活動できる機動性を持ち、専門的な訓練を受けた医療チームです。医師、看護師、業務調整員(医療職や事務職員)がチームを構成し、大規模災害や多くの傷病者が発生した事故の現場で、発災から48時間以内の急性期に活動することを目的としています。 災害拠点病院と地域医療連携の強化 災害時の医療提供を強化するためには、地域全体で連携し、迅速かつ的確な対応を行うことが重要です。その中心的な役割を担うのが、災害拠点病院です。災害拠点病院は、被災地域における医療の中核として機能し、負傷者の受け入れや治療を行うだけでなく、地域の医療機関と連携しながら、医療提供体制を維持するための支援を行います。 災害発生時には、多くの負傷者が一度に発生するため、災害拠点病院単独での対応には限界があります。そのため、地域の一般病院や診療所ともネットワークを構築し、役割を分担しながら医療を提供できる体制を整えておくことが求められます。 利用者情報や対応についてまとめておく 訪問看護においてBCPの策定が義務付けられていますが、災害時に適切に対応できるよう、利用者さんに関する情報を整理し、必要な対応を事前に準備しておくことが求められます。 利用者さんの緊急連絡先リストを作成し、家族や主治医、ケアマネジャー、かかりつけの医療機関など、災害時に連絡を取るべき相手を整理しておきます。電子データだけでなく、紙媒体でも管理し、停電や通信障害が発生した場合にも活用できるようにしましょう。 訪問看護師が単独で情報収集や安否確認を行うのではなく、地域のサービス事業者や自治体と協力しながら、迅速な対応ができる体制を作っておくことで、混乱を避け、利用者さんの安全を確保することにつながります。 避難が必要な場合に備えて、利用者さんごとに適切な避難場所を確認し、本人やご家族と共有しておくことも重要です。避難場所が遠い場合や、体調の問題で移動が難しい利用者に関しては、早めに代替案を検討し、地域の支援機関と協力しながら適切な避難支援を行えるように準備しておく必要があります。 訪問看護師の訪問先、移動中怪我をした人の応急処置の方法 訪問看護師は、利用者の自宅を訪問する際に、移動中や訪問先で怪我をした人に遭遇することがあります。こうした場面では、迅速かつ適切な応急処置を行い、症状の悪化を防ぐことが重要です。応急処置の方法について詳しく見ていきましょう。 出血時の応急処置 出血は、適切な止血によって重症化を防ぐことができます。成人の体には、体重のおよそ7~8%にあたる約4~5リットルの血液が流れています。例えば、体重50kgの人の血液量は約4リットルです。全血液量のうち30%(約1.2リットル)以上を短時間で失うと、生命に危険が及ぶ可能性があります。止血方法には、直接圧迫止血法と止血帯止血法があります。 直接圧迫止血法は、出血部位に清潔なガーゼやハンカチを当て、手でしっかりと圧迫することで出血を止める方法です。可能であれば傷口より心臓に近い部分を軽く押さえながら止血を行います。 止血帯止血法は、大量出血がある場合や直接圧迫止血法で効果が見られない場合に行います。腕や足などの出血部位の上部に布や専用の止血帯を巻き、適度に締めて血流を制限します。ただし、長時間の圧迫は神経や血管に損傷を与える可能性があることに注意が必要です。 骨折や捻挫への対応 骨折や捻挫は、転倒や事故によって発生することが多く、訪問先や移動中にも十分に起こり得る怪我です。 打撲の場合は、患部を氷や冷水で冷やし、炎症を抑えることが基本です。 捻挫では、無理に動かさず、患部を冷やして安静に保つことが大切です。伸縮性のある包帯で軽く圧迫し、枕やタオルを使って患部を少し高くすることで腫れを抑えることができます。 骨折が疑われる場合は、むやみに動かさず、可能な限り患部を固定することが重要です。骨折した部分の周囲を布やタオルで覆い、ダンボールや板などを添えて固定するとよいでしょう。腕の場合は三角巾やスカーフを使って吊るし、下肢の場合はまっすぐ伸ばした状態で安静に保ちます。 *** 南海トラフ巨大地震のような大規模災害は、いつ発生してもおかしくありません。適切な避難計画や防災対策を立てることはもちろん、応急処置のスキルを磨き、利用者さんの命を守るための知識を身につけておくことが重要です。日頃から災害時の対応を意識し、訓練や情報共有を行いながら、いざというときに備えていきましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:寺西 貞昭【所属団体・職】・NPO 法人高齢者住まいる研究会 理事長(事務局住所:愛知県一宮市木曽川町黒田字山 72 番地)・老人総合福祉施設グリーンヒルみふね デイサービス職員災害支援マネージャー(施設住所:熊本県上益城郡御船町辺田見840-9)【経歴】・介護現場での業務を続けながら高齢者施設・障がい者施設・保育施設等における BCP 策定等に関する支援を目的として平成25年1月に NPO 法人高齢者住まいる研究会を設立し現在の活動に続く。・介護施設が大地震に襲われるという状況を想定した災害想定ゲーム「KIZUKI」を開発する。・上記「KIZUKI」ゲームと平成 28 年熊本地震被災施設の事例をあいちなごや強靭化共創センター「要配慮者利用施設防災講習会」「要配慮者利用施設 BCP 講習会」等にて講演あいち・なごや強靱化共創センター (gensai.nagoya-u.ac.jp/kyoso/)(研修等の実施状況は NPO 法人高齢者住まいる研究会のホームページ福祉防災ドットコム (fukushibosai.com)を参照)【保有資格】・介護福祉士、防災士、防災士アドバイザー・介護支援専門員令和元年 愛知から熊本へ移住。 【参考】〇気象庁「南海トラフ地震について」https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/nteq/index.html2026/4/1閲覧〇内閣府.防災情報ページ みんなで減災「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/yoshiensha.html2026/4/1閲覧〇東京都防災ホームページ「災害が起きる前に(自宅編)」https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/bousai/1000027/1000286.html2026/4/1閲覧〇国立健康危機管理研究機構 危機管理・運営局DMAT事務局「DMATとは」http://www.dmat.jp/dmat/dmat.html2026/4/1閲覧〇総務省消防庁「救助」https://www.fdma.go.jp/relocation/e-college/cat65/cat65/cat46/6-9.html2026/4/1閲覧

「この人の人生に関われる」——訪問の現場で育った看護師の物語 ~訪問看護ステーションMARE 吉原さんにインタビュー~
「この人の人生に関われる」——訪問の現場で育った看護師の物語 ~訪問看護ステーションMARE 吉原さんにインタビュー~
インタビュー
2026年3月31日
2026年3月31日

「この人の人生に関われる」——訪問の現場で育った看護師の物語~訪問看護ステーションMARE 吉原さんにインタビュー~

【※本記事はNsPace Career が事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Career が担当しました。】 訪問看護との出会いは、驚きの連続だった 「自分の家族の中に、ケアが必要なひとがいて。地域で受ける医療や介護はもともと身近だったんです——」 病棟経験はあったものの、訪問看護は初めて。吉原さんは知らない世界に飛び込む不安もあったと言います。 「最初は“本当に一人で行くの?”って。病棟ではチームで動くのが当たり前だったので、一人で判断する場面があるって聞いた時は正直怖かったです」 けれど、実際に現場に立ってみると、その印象は大きく変わっていきました。 「おうちの中に入って、その人の人生の一部を見せてもらう感じ。こんなに丁寧に関われるんだって驚きました」 訪問看護ならではの濃い関わり。吉原さんの心には、その新鮮さとやりがいが強く残ったそうです。はじめての訪問看護では、主に精神疾患を抱える利用者さんへ訪問していたと話す、吉原さん。 その後、ご縁があって訪問看護ステーションMAREに入職されました。入職後は、その明るいお人柄を評価され、主任としてスタッフを引っ張っています。 未経験からの挑戦——「わからない」を乗り越えて 最初は、とにかく「わからないことだらけ」。 「何かをするときに“これで大丈夫?”と思ってました。病棟ではすぐ聞けるけど、訪問はその場で判断しないといけない。それが怖かったですね」 それでも、吉原さんが一歩ずつ前に進めたのは、周囲の支えがあったからだといいます。 「“わからないならすぐ聞いて”と常に言ってもらえたんです。報告や相談がしやすい雰囲気で。同行訪問もたくさんしてもらえたので、自信がつくまで安心して学べました」 スタッフみんなが話しやすく、相談しやすい。そういった雰囲気の中で、日々の積み重ねが少しずつ自信に変わっていきました。 「わからないってこと自体が、成長の種なんだって今は思えます」 明るく笑顔でお話しされる吉原さんには、元気がもらえる。 「この人の人生に関われる」訪問のやりがい 病棟では感じられなかった“生活のリアル”。訪問の現場では、それが日常です。 「肺炎を繰り返す方がいて、毎月のように入院していたんです。どうしたら再発せずにおうちで暮らせるかみんなで考えたり、悩んだりして…その方、入院はしたくなくて。ケアの介入頻度を増やして関わったことで、その後入院せずにご自宅で過ごせているんですよ」 吉原さんは、自分のことのように嬉しそうに利用者さんの話をしてくれます。 「“ありがとうね”って言われた時は、やっぱり嬉しいです。病院とは違って、感謝の言葉がダイレクトに返ってくるのが訪問の魅力だと思います」 自分の関わりが、その人の人生や生活に直接つながっている。だからこそ、感じられる喜びも大きいのかもしれません。 一人じゃないから頑張れる——支え合うチームの存在 「一人で行くから不安、と思われがちなんですけど……実は全然一人じゃないんです」 吉原さんは、そう断言します。訪問の現場では、一人で訪問していても、常にチームとつながっています。 「訪問中に“これどうしよう”って思ったら、すぐに電話で聞けるんです。『それならこうしてみて』ってすぐ返ってくる。そういう安心感があるから、怖くなくなるんですよね」 また、訪問看護ステーション全体の雰囲気も、吉原さんの背中を押してくれたそうです。 「スタッフを“みんなで育てる”空気があるんです。上下関係というより、横のつながりが強い。誰かが困ってたら、みんなでフォローしようっていう文化があるから、挑戦しやすいんです。それに、スタッフとは“1日1笑”ではなく、それ以上の“1日5笑以上”です!楽しく働けているのもスタッフみんなの明るいところだと思います」 お互いを支え合うスタッフにも訪問看護ステーションMAREならではの特徴があります。看護師だけでなく、理学療法士や言語聴覚士が在籍しており、多様な関わりをすることで、利用者さんの生活のサポートをより豊かにしています。さらに、訪問美容を担っている、美容師も在籍しているため飛び込みの依頼が直接事務所に来ることもあるとか。 「近所の方がチラシやポスターを見て、“髪を切ってほしいの”と訪問美容だけの依頼が来ることもあります。地域の方に訪問看護を知っていただく良いきっかけになっていると嬉しいです。」 訪問看護だけにとらわれず、地域にも開かれた訪問看護ステーションとして新しいケアの形を提供しています。 未来の仲間へ伝えたいこと 未経験で不安を感じている看護師さんへ、吉原さんはこう語ります。 「“できない”を理由にしなくて大丈夫です。私も最初はできなかったけど、それでもここまでこられました」 そして最後に、こんな言葉を添えてくれました。 「患者さんに関わることで、自分自身が育てられる——そんな仕事です。迷っているなら、ぜひ一度見学に来てほしいです」 やわらかく、でも力強いメッセージ。 訪問看護の温かさ、そして吉原さんのまっすぐな人柄が、きっと誰かの背中をそっと押してくれることでしょう。 インタビュアーより 「楽しいって思えるのがいちばん」という吉原さんの言葉が、とても印象的でした。訪問看護は、一人ひとりの人生に丁寧に寄り添える仕事。それが大変ではあるものの、“楽しい”ととらえる吉原さんのまなざしや語り口から、その奥深い魅力を強く感じました。 経験の有無にかかわらず、「人と丁寧に向き合いたい」と思う方にこそ、訪問看護という選択肢がある——そう思わせてくれるインタビューでした。 スタッフの中には、訪問美容を担当する美容師さんも働いています! 事業所概要 事業所名:訪問看護ステーションMARE 住所:〒661-0025 兵庫県尼崎市立花町1-14-11 ハイツルミナール302号 ◎ 勤務形態:常勤・非常勤(応相談) ◎ 教育体制:同行訪問・定期カンファレンス・OJTあり ◎ 雰囲気:落ち着いたアットホームな空気。子育て中のスタッフも活躍中。 運営方針:ステーションの看護職員等は、要介護者の心身の特性を踏まえて、全体的な日常生活動作の維持、回復を図ることを重視した在宅療養が継続できるように支援いたします。要支援者が可能な限りその居宅において、自立した日常生活を営むことができるよう、その療養生活を支援するとともに利用者の心身の機能の維持回復を図り、もって利用者の生活機能の維持又は向上を目指すものといたします。 事業の実施に当たっては、関係市町村、地域の保健、医療、福祉サービスとの綿密な連携を図り、総合的なサービスの提供に努めるものとします。 兵庫県尼崎市にある訪問看護ステーション。未経験者の受け入れ体制が整っており、「パーキンソン病・がんターミナル専門」24時間対応型訪問看護ステーションです。スタッフ同士の横のつながりが強く、安心して相談・共有できる風通しの良さが魅力。 事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/16677 この記事を読んで「訪問看護、自分にもできるかも」と感じた方へ う感じている看護師の方は少なくありません。 NsPace Careerナビでは、訪問看護の現場で働く看護師のリアルな声を多数掲載しています。 精神科訪問看護で活躍する看護師の声 未経験から訪問看護を始めた体験談 育児と両立しながら働く現場の実例 各ステーションの教育体制・チーム文化 さらに、キャリアの悩みやモチベーション維持のコツなど看護師として働くうえで役立つ記事も充実。 「自分に合う訪問看護の職場って、どんなところだろう?」そのヒントが、きっと見つかります。 ▶ 他の訪問看護師インタビューを読むhttps://ns-pace-career.com/media/ 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

生活保護制度(医療扶助) 訪問看護師が知っておきたい基礎知識 サムネイル
生活保護制度(医療扶助) 訪問看護師が知っておきたい基礎知識 サムネイル
特集
2026年3月31日
2026年3月31日

生活保護制度(医療扶助) 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

レセプト業務を行っていると、患者さんの自己負担金が発生しないケースに出合うことがあります。これまで取り上げてきた医療費助成制度の中でも、生活保護制度による医療扶助は異質かもしれません。生活保護については、訪問看護ステーションにおけるレセプトの公費の欄に医療券番号を入力することになっているため、生活保護における医療扶助のしくみについて知っておく必要があります。 ※本記事は、2025年6月時点の情報をもとに構成しています。 生活保護制度とは 訪問看護を利用している方の中には、生活が困難な状況にあると思われる方もいます。所得が低く、自己負担額の支払いが難しい場合には、生活保護制度(以下、生活保護)の対象となるかもしれません。 日本国憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めています。生活保護は、最低生活の保障と自立の助長を図ることを目的とし、生活に困窮している人々に対し「健康で文化的な最低限度の生活」を保障し、自立した生活ができるように積極的に援助する制度です。 生活保護は世帯単位で申請しますが、世帯に資産や能力などがある場合には、まずは世帯員全員がそれらを活用し、最低限度の生活を維持することが求められます。言い換えると、生活保護を受けるには、資産や能力などが活用できないことが要件になります。また、扶養義務の履行ができるかどうかも保護の決定に影響を与えます。扶養義務者が扶養できるのであれば、生活保護は期待できません。 生活保護には8つの扶助があります。このうち、訪問看護ステーションに関係するのは、「(4)医療扶助」と「(5)介護扶助」です。 (1)生活扶助:日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱費等)(2)住宅扶助:アパート等の家賃(3)教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費(4)医療扶助:医療サービスの費用(5)介護扶助:介護サービスの費用(6)出産扶助:出産費用(7)生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用(8)葬祭扶助:葬祭費用 生活保護が決定されれば、「最低生活費」といわれる決められた生活費が支払われます。この最低生活費は、年金や児童扶養手当など受給できる費用(収入)を控除して支払われます(図1)。 図1 収入がある場合の最低生活費(生活保護費) 生活保護を受けるまでの流れ 生活保護を受けたい場合、住所地の市区町村を管轄する福祉事務所の生活相談窓口に相談するところから始まります。生活保護の申請を行うと、主に福祉事務所が訪問調査や資産調査などを実施し、申請から原則14日以内に生活保護を受けることができるかどうかを審査し、判断します。生活保護の受給が開始されると、ケースワーカーが年数回の訪問調査を行い、生活に関する指導を行います。 このようなことから、市区町村のケースワーカーと訪問看護ステーションが連携し、生活保護の対象者について情報を共有しておくことも、訪問看護において有効でしょう。 生活保護による医療扶助とは 生活保護を受けている場合、国民健康保険の被保険者から除外され、「医療扶助」により医療サービスを受けられることが保障されています。 医療に関する制度として、健康保険法・国民健康保険法などの医療保険制度や、これまで解説してきたさまざまな医療費助成制度がありますが、これらの制度では支給の適用範囲に限りがあります。この範囲から外れるものについて、生活保護の医療扶助で賄われることになるのです。 訪問看護ステーションは指定医療機関として要届け出 生活保護を受ける方が医療扶助を受ける場合、福祉事務所などに申請しなければなりません。申請に基づいて認められると、「生活保護法医療券」(以下、医療券)または「診療依頼書」が発行され、この医療券によって指定医療機関で診療を受けることができます。 訪問看護ステーションも生活保護法の指定医療機関として都道府県に届出をし、健康保険や国民健康保険などと変わらないサービスを提供することが求められます。 なお、訪問看護療養費のレセプト請求は、都道府県の社会保険診療報酬支払基金へ請求します。医療券は1ヵ月ごとに発行されます。医療券から請求明細書に必要事項を間違いなく入力し、請求しなくてはなりません。また、医療券は1年間保管する義務があります。 医療扶助によって支給される可能性があるもの 医療扶助では医療のほかに次のものが支給される場合があります。 入院患者に対する日用品費 おむつ代 寝巻などの被服費 入院や退院、通院のための移送費 治療材料費(義肢や装具、眼鏡、収尿器、ストマ用装具など) 訪問看護には関係ありませんが、保険外併用療養費に当たる部分は、原則として医療扶助の対象として認められていません。 【生活保護による介護扶助について押さえておこう】医療扶助に関連する制度として、介護扶助についても簡単に紹介します。介護サービスも介護扶助として生活保護の対象です。介護保険では自己負担の割合は1割ですが、医療保険未加入者の場合、介護報酬の全額を介護扶助で負担します。介護扶助の場合、介護サービス指定事業者や指定居宅介護支援事業者が「介護券」を受け取ります。請求時は、介護券の必要事項を介護報酬明細書へ転記し、介護レセプトを国民健康保険団体連合会に提出します。 * * * 在宅医療において療養生活が長くなると生活が困窮する可能性があります。訪問看護師の皆さんも、基本的な生活保護に関する知識を身に付けた上で、利用者さんやそのご家族を支えていくとよいでしょう。 執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある編集:株式会社照林社 【参考文献】○ 厚生労働省:生活保護制度.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html2025/6/27閲覧

訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)開発秘話/日本訪問看護財団
訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)開発秘話/日本訪問看護財団
コラム
2026年3月24日
2026年3月24日

訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)開発秘話/日本訪問看護財団

在宅で最期を迎えることを希望する人がいるなか、訪問看護師は、療養者や家族に寄り添いながら看取りを支える重要な役割を担っています。そうした社会的背景のもと誕生したのが、訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT:ピーナット)です。本記事では、PENUTの特徴とともに、開発に込められた思いや歩みを紹介します。 ■公益財団法人 日本訪問看護財団 PENUT事務局職員 平原 優美(ひらはら ゆみ)/常務理事、在宅看護専門看護師小沼 絵理(おぬま えり)/事業部所属岸 純子(きし じゅんこ)/事業部所属、在宅看護専門看護師角田 佳奈美(すみだ かなみ)/事業部所属濱谷 雅子(はまたに まさこ)/事業部所属※手前左から時計回りに記載 執筆:濱谷 雅子(はまたに まさこ)/公益財団法人 日本訪問看護財団 事業部博士(看護学)。早稲田大学スポーツ科学部を卒業後、修士課程から看護学の道へ。2020年度より現職。日本訪問看護財団が5年間にわたり実施した「訪問看護師向け在宅看取り教育プログラムの開発」事業では、主研究者として開発に携わる。訪問看護師の優れた実践をインタビュー調査などを通じて理論化し、その成果を広く社会へ発信する研究活動を行っている。 訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)ってなに? 訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT: Program of End-of-life care for home visiting NUrses Training)は、在宅看取りを実践できる訪問看護師の養成を目的としたプログラムです。オンデマンド講義(約10時間)と演習(1日間)で構成されます(図1)。 2021年度に実施したモデル事業を含め、2026年1月末までに818名が修了しています。 【PENUTの3つの特徴】 PENUTの主な特徴は以下の通りです。 1. エビデンスに基づく系統的なプログラムPENUTは、アンケート調査、インタビュー調査、専門家のレビュー、モデル事業を経て開発された、エビデンスに基づく系統的なプログラムです。PENUTの有効性を検証した研究1)は、日本看護科学学会にて学術論文優秀賞および最優秀演題口頭発表賞を受賞しました。 2. 在宅看取りに卓越した訪問看護師と医師による臨場感ある講義講義は、在宅看取りに豊富な経験をもつ訪問看護師と医師が担当しています(表1)。各講義では、実際の事例に基づく支援の過程や療養者・家族とのコミュニケーションの様子などが再現され、臨場感のある学びが得られます。また、講義はオンデマンド配信のため、受講期間内であればいつでもどこでも何度でも視聴可能です。 3. 専門的な教育を受けたファシリテーターによる演習演習では「訪問看護計画の立案」と「コミュニケーション技術の習得」をテーマにグループワークを行います。訪問看護師向け在宅看取り指導者養成プログラム(PENUT-T)※により専門的な教育を受けた指導者がファシリテーターを担当します。 ※ 訪問看護師向け在宅看取り指導者養成プログラム(PENUT-T:Program of End-of-life care for home visiting NUrses Training-Trainer)は、PENUTを開催できる指導者を養成する教育プログラムです。詳しくは別の記事で紹介します。 PENUTはどうして誕生したの? 日本訪問看護財団では、訪問看護師による在宅看取りの推進を目的に、2017年度よりELNEC-J(End-of-Life Nursing Education Consortium-Japan)コアカリキュラムを用いた研修を実施してきました。ELNEC-Jは科学的根拠に基づいた有用なプログラムですが、主に医療施設における成人がん患者のケアを想定しており、当財団としては訪問看護に特化した包括的な看取り支援のための教育プログラムの必要性を感じていました。 国内の年間死亡者数は2040年には約168万人に達すると推計されています2)。また、国民の約半数は自宅で最期を迎えることを希望しています3)。こうした社会的背景を受け、当財団は2020年度よりPENUTの開発に着手しました。 PENUTの開発秘話 PENUT開発の歩み PENUTの開発は、日本財団の助成を受けて2020年度に始まり、5年間の計画で進められました。 図2に示すように、はじめに有識者で構成される検討委員会(委員長:東京大学・山本則子教授)とワーキング委員会を設置し、文献検討、アンケート調査、インタビュー調査を重ねてプログラム案を作成しました。その後、モデル事業の実施・評価を行うなど、複数の段階を経て完成に至りました。 コロナ禍での手探りのスタート PENUT開発事業は、まさにコロナ禍の真っただ中にスタートしました。緊急事態宣言が発令されるなか、訪問看護の現場は日々対応に追われ、ひっ迫した状況にありました。そのような状況で「プログラム開発をしている場合ではないのではないか」という声もありました。一方で、多死社会の到来は目前に迫っており、地域で看取りを支えるしくみづくりは待ったなしの課題です。こうした中長期的な視点で事業を進めることも、当財団の使命であると考え、PENUT開発事業をスタートさせました。 しかし、いざ事業を始めてみると、プログラム開発の手順や進め方について、右も左も分からないことばかりでした。どのような段階を踏めば質の高い教育プログラムがつくれるのか、どのように根拠を積み上げていくのか、手探りの状態からのスタートでした。 課題に一つひとつ向き合い、積み上げた5年間 そこで、財団事務局とワーキング委員で、国内外の類似プログラムや教育理論、研究方法について、文献を読み込み、必要なプロセスを一つひとつ整理していきました。そして、プログラムの開発や評価研究の経験をもつ専門家から助言をいただきながら、少しずつ事業の形を整えていきました。 こうして動き出した事業でしたが、5年間の道のりは決して平坦ではありませんでした。モデル事業の参加者は集まるのか、効果的なコミュニケーション技術演習をオンラインでどのように行うのか、収集した膨大なデータをどのように分析しプログラムに反映させるのかなど、一つひとつの課題に対し、事務局で議論を重ね、検討委員とワーキング委員の助言を得ながら進めていきました。 現場の訪問看護師の思いと実践がプログラムに そのようななかで、モデル事業に参加し、開発に協力してくださった全国の訪問看護師の皆さんの存在は、私たちの大きな支えとなりました。インタビュー調査では、日々悩みながらも積み重ねられている素晴らしい実践を、丁寧に、時に熱を込めて語ってくださいました。その語りに触れるたびに、「このような実践ができる訪問看護師をもっと増やしたい」という思いが強くなりました。 さらに、プログラムの講師や演習のファシリテーターを担当してくださったのも、まさに現場で看取りを支えている訪問看護師の方々でした。ご自身の経験を惜しみなく共有し、受講者に寄り添いながら学びを導く姿に、私たちは何度も心を動かされました。その実践の深さに触れるたび、「この内容を社会へ発信したい」という思いを強くしました。 このように、全国の訪問看護師の皆さんが語ってくださった実践、講師やファシリテーターとして支えてくださった方々の熱意、そして専門家の助言が、プログラムの要素を形づくっていきました。まさにPENUTは「現場とともにつくる教育プログラム」として育まれてきたのだと感じています。 研修情報・詳細はこちらさらに詳しい情報や研修開催情報については、PENUT専用ウェブサイトをご覧ください。 https://www.jvnf.or.jp/penut/ 次回は、「PENUT誕生で変化する看取りの現場」と題し、受講者の声を紹介します。>>次回の記事はこちら訪問看護師向け在宅看取り教育プログラムPENUT 研修風景&受講者の声/日本訪問看護財団 【参考文献】1)濱谷雅子, 平原優美, 小沼絵理, 沼田華子, 野口麻衣子, 菱田一恵, 岡本有子, 竹森志穂, 新幡智子, 栗田佳代子, 山本則子:無作為化比較試験による訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)の有効性の検討. 日本看護科学会誌, 44, 218-227, 2024. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/44/0/44_44218/_pdf/-char/ja2026/3/10閲覧2)内閣府(2022):第1章 高齢化の状況 高齢社会白書 (令和4年版),5, 日経印刷株式会社.3)厚生労働省(2023): 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書.https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryo_a_r04.pdf2026/3/10閲覧

心不全の緩和ケアがよく分かる 症状・治療・在宅支援のポイント
心不全の緩和ケアがよく分かる 症状・治療・在宅支援のポイント
特集
2026年3月24日
2026年3月24日

心不全の緩和ケアがよく分かる 症状・治療・在宅支援のポイント

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるために、訪問看護師が知っておきたい知識・視点を整理します。今回のテーマは「心不全」。息切れや浮腫、倦怠感など心不全特有の症状とその観察ポイント、薬物治療やアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を含む在宅での支援について、東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所の藤田真奈先生に分かりやすく解説していただきます。 心不全とは 心不全診療のガイドラインでは、次のように定義されています1)。 心臓の構造・機能的な異常により、うっ血や心内圧上昇、およびあるいは心拍出量低下や組織低灌流をきたし、呼吸困難、浮腫、倦怠感などの症状や運動耐容能低下を呈する症候群 また、2017年10月31日には、日本心不全学会と日本循環器学会が、国民向けの定義として以下のように合同で記者発表しました2)。 心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気 心不全の分類として代表的なのが、左室の収縮機能(EF:駆出率)によるものです。 ●HFrEF:EFが低下した心不全●HFpEF:EFが保たれた心不全●HFmrEF:EFが軽度低下した心不全●HFimpEF:EFが改善した心不全※特に重要な分類を太字にしています。 最近増えている高齢者の心不全では、HFpEFが多いことが特徴です。 心不全の主な症状 心不全では主に「肺うっ血」「体うっ血」「低心拍出・組織低灌流」の3つが原因となり、さまざまな症状が現れます。それぞれの原因によって、次のような症状がみられます。 ●肺うっ血息切れや呼吸苦など●体うっ血下肢を中心とした全身の浮腫、腹部膨満感、食欲低下など●低心拍出・組織低灌流疲れやすさ、倦怠感、めまい、失神、認知機能の低下、せん妄など 心不全末期ではこれらの症状が重なり、不安や不眠が加わることで、より多様な症状となって患者さんを苦しめます(表1)。実際、末期には6~7種類の症状を有するという報告もあります3)。 表1 終末期における身体および精神症状 症状がん(%)心不全(%)倦怠感23~10042~82痛み30~9414~78悪心・嘔吐2~782~48呼吸困難16~7718~88不眠3~6736~48せん妄・認知機能障害2~6815~48抑うつ4~806~59不安3~742~49文献4)を参考に作成 なお、こうしたさまざまな症状が起こる末期であっても、心不全の場合、症状緩和と並行して病態の改善をめざした治療もできる限り継続します(治療の詳細については後述します)。 症状の分類にはNYHA心機能分類(表2)があります。訪問看護が必要な患者さんはNYHAⅢ度以上の方が多いですが、苦しみの程度や日常生活にどのような影響が出ているかは個々で異なります。そのため、実際の生活状況を見ながら、丁寧に評価することが重要です。 表2 NYHA心機能分類 NYHA Ⅰ   通常の心不全に起因する身体活動の制限はない。NYHA Ⅱ安静時には快適であるが、日常的な身体活動で心不全に起因する症状(呼吸困難、疲労、ふらつき)がわずかにみられる。NYHA Ⅲ安静時には快適であるが、日常的な身体活動以下で心不全の症状がみられる。NYHA Ⅳ 安静時にも心不全の症状がみられる。文献5)を参考に作成 心不全の進行の特徴 心不全は、急性増悪と治療による部分的な回復を繰り返しながら、徐々に進行していきます。急性増悪時にそのまま死に至ることもありますし、また致死的不整脈で突然死する可能性もあり、がんと比較すると予後の予測が困難です。 心不全患者の観察ポイント:変化に注目 バイタルサインは必須の確認指標ですが、「体重」も重要です。一般的に1週間で2kg以上の増加があると、生理的な体重増加を超えている可能性があります。その場合には、食事量の変化や息切れの有無を確認します。また、呼吸の様子(起座呼吸の有無、呼吸補助筋の利用の有無など)を観察しながら、慎重に身体所見をとりましょう。観察ポイントは以下のとおりです。 不整脈の有無 下腿浮腫の程度 頸静脈(特に内頸静脈)の怒張 肝腫大の有無 四肢冷汗の有無 聴診における湿性ラ音や過剰心音(Ⅲ音・Ⅳ音)、心雑音の有無 など 大切なのは「いつもと違う所見か」「安定時と比較して、新たに出現もしくは増悪している所見なのか」という視点です。なお、長期の低心拍出により悪液質や筋量減少をきたし、体重減少を生じる場合もあります。体重の増加だけでなく、減少にも注意が必要です。 心不全の治療 心不全の治療は、病態改善のための積極的治療と、症状緩和のための治療を並行して行っていきます(図1)。ここでは主に薬物治療について述べます。 図1 心不全の緩和ケアモデル 【参考】がんの緩和ケアモデル 文献6)を参考に作成 心不全の場合、緩和ケアと並行して、病態の改善をめざした積極的治療もできる限り継続される。 病態改善を目的とした薬物治療 代表的な薬には以下のようなものが用いられます。 ACE阻害薬:エナラプリル、カプトプリル、イミダプリル アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB):ロサルタン、カンデサルタン、アジルサルタン アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI):サクビトリルバルサルタン ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA):スピロノラクトン、エプレレノン β遮断薬:カルベジロール、ビソプロロール SGLT2阻害薬:ダパグリフロジン、エンパグリフロジン こうした薬を、患者さんの病状や病態、血圧や心拍数、血液検査結果などを見ながら調整していきます。また、病態改善薬は心不全末期でも継続することが原則ですが、血圧低下や心拍数低下が患者さんの苦痛につながる場合は、減量や中止を検討することもあります。 症状緩和を目的とした薬物治療 代表的な薬剤は利尿薬です。【主な薬剤】 ループ利尿薬(フロセミド、アゾセミド、トラセミドなど) 【上記薬剤で効果が不十分な場合に併用される薬剤】 サイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジドなど) バソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタン) また、前述したMRAやSGLT2阻害薬にも利尿作用があります。 利尿薬は浮腫や胸腹水の軽減に有効ですが、漫然とした使用は脱水や腎機能低下、電解質異常、血圧低下にもつながるため、避けるべきです。 その他にも状況に応じて以下の薬剤を使用します。 低心拍出、組織低灌流による症状:経口強心薬(ピモベンダン、ドカルパミンなど) 治療抵抗性の呼吸苦:少量のオピオイド(心不全で使用可能なオピオイドとしてコデインリン酸塩、塩酸モルヒネがあります) 不安症状や不眠症状:抗不安薬や睡眠薬(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬やメラトニン受容体作動薬等が望ましいです) さまざまな治療やケアでも耐え難い苦痛が残存する場合は、多職種で検討し、患者さんやご家族と十分に話し合った上で、鎮静薬の使用も検討します。 薬物治療以外の治療・ケア 薬物だけでなく、以下のような介入も有効かつ重要です。 心臓リハビリテーション 非侵襲的陽圧換気療法(NPPV) 在宅酸素療法(HOT) 心負荷が軽減される食生活や生活環境の調整 高齢者の心不全へのアプローチ 最近、急増している高齢者の心不全では、認知症や悪性疾患、骨折後のADL低下、独居、フレイルなど、心臓以外にもさまざまな疾患や問題を多く合併していることも特徴です。これらは心不全の治療・管理だけでは解決しないことも忘れてはいけません。 訪問看護師が大切にすべき視点と役割 患者さんの在宅生活を捉える視点 訪問看護師は、患者さんの在宅生活を見ることで、心不全が患者さんの生活にどれくらい影響しているのか、日々の生活で何に困っているかを直接見て把握することができます。そして、それを在宅チームに還元し、改善策をチームで話し合うことができます。訪問看護師の適切な観察と評価は、患者さんのQOLの改善に直結します。 ●食事や内服状況の評価例えば、高血圧が続いている心不全の方の食生活が塩分過多になっていることに気付いた場合、栄養指導や配食弁当の導入で改善が期待できます。また、服薬管理ができていないことが分かった場合には、訪問薬剤指導の導入や薬の一包化、服薬回数の調整(1日1回への整理)などで改善するかもしれません。 ●住環境の評価階段昇降やトイレの様子、手すりやベッドの有無など、在宅生活における患者さんの心負荷の程度を評価します。その情報をもとに改善策を、医師やリハビリ、介護スタッフと共有し、話し合うことで、心不全患者さんの在宅生活は確実に向上します。 ●アドバンス・ケア・プランニング(ACP)への取り組み心不全は予後予測が難しい疾患です。だからこそ、日々の生活の中で患者さんの意思や価値観を理解し、終末期も含め、将来どのような医療・ケアを受けたいのか、人生の最期の時間をどうやって過ごしたいのかを、患者さんの気持ちに寄り添いながら、ともに考えていきます。医師やほかのチームメンバーと情報共有・協力しながら意思決定支援を行っていくことも重要です。 訪問看護師が築く信頼と安心 もちろん医療者であっても、患者さんの私生活や個々の事情に自由に踏みこんでよいわけではありません。少しずつ信頼関係を築きながら患者さんの気持ちを理解し、生活を改善するために必要な情報を得ていくことが重要です。 大切なのは、患者さんの病状や状況を理解し、患者さんに寄り添い、安心してもらうことです。心不全の薬や治療にはさまざまなものがありますが、状態をよく分かっている訪問看護師が、患者さんの話を傾聴したり、背中をさすったりするだけで、苦痛や症状が緩和されることはよくあります。看護師の寄り添いとケアには、大きな力があると感じています。 まとめ 日本の心不全患者数は、2030年には約130万人に達するといわれています7)。入院ベッドの不足やコロナ禍を経て、在宅で療養する心不全患者さんも増加の一途をたどっています。 そのような中、訪問看護師の存在は極めて重要です。訪問看護師が中心的な役割を担い、医師や理学療法士、ヘルパー、ケアマネジャー、薬剤師、栄養士などと協力し、多職種連携による「在宅ハートチーム」をつくることが求められています。訪問看護師がハブとなって情報共有と多職種との協力を続けながら、患者さんに寄り添い、患者さんやご家族が安心して在宅療養生活を送れるように応援・サポートします。こうした支援の輪を広げていくことは、多くの心不全患者さんを救うことになるでしょう。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)ACP:advance care planning(アドバンス・ケア・プランニング)EF:ejection fraction(駆出率)HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction(EFが低下した心不全)HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction(EFが保たれた心不全)HFmrEF:heart failure with mid-range ejection fraction(EFが軽度低下した心不全)HFimpEF:heart failure with improved ejection fraction(EFが改善した心不全)NYHA:New York Heart Association(ニューヨーク心臓協会)ACE:angiotensin converting enzyme(アンジオテンシン変換酵素)ARB:angiotensin II receptor blocker(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)ARNI:angiotensin receptor neprilysin inhibitor(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)MRA:mineralocorticoid receptor antagonist(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)SGLT2:sodium glucose cotransporter 2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)NPPV:noninvasive positive pressure ventilation(非侵襲的陽圧換気療法)HOT:home oxygen therapy(在宅酸素療法)ADL:activities of daily living(日常生活動作)QOL:quality of life(生活の質) 執筆:藤田 真奈東京ふれあい医療生活協同組合 オレンジほっとクリニックふれあいファミリークリニック、梶原診療所高知大学医学部を卒業後、自治医大病院で初期研修を行う。一般内科・循環器内科の修練を積んだ後、在宅医療の世界へ。独居や認知症を合併した高齢心不全の方たちが一人でも多く心地よい在宅生活を送れるよう、日々患者さんと向き合っている。資格:循環器内科専門医・在宅医療専門医・総合内科専門医・認知症サポート医 編集:株式会社照林社 【文献】1)日本循環器学会,日本心不全学会,日本心臓病学会,他:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン.日本循環器学会.2025:19.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf2025/10/23閲覧2)日本循環器学会,日本心不全学会:『心不全の定義』について.https://www.j-circ.or.jp/five_year/teigi_qa.pdf2025/10/23閲覧3)Nordgren L,Sörensen S:Symptoms experienced in the last six months of life in patients with end-stage heart failure.Eur J Cardiovasc Nurs 2003;2(3):213-217.4)Moens K,Higginson IJ,Harding R:Are there differences in the prevalence of palliative care-related problems in people living with advanced cancer and eight non-cancer conditions? A systematic review.J Pain Symptom Manage 2014;48(4):660-677.5)Heidenreich PA,Bozkurt B,Aguilar D,et al:2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines.Circulation 2022;145(18):e895-e1032.6)Gibbs JS, McCoy AS, Gibbs LM, et al. Living with and dying from heart failure:the role of palliative care. Heart 2002;88(Suppl 2):ii36-ii39. 7)Okura Y,Ramadan MM,Ohno Y,et al:Impending epidemic: future projection of heart failure in Japan to the year 2055.Circ J 2008;72(3):489-491.

腹膜透析におけるトラブル対応とセルフケア指導の実践事例集
腹膜透析におけるトラブル対応とセルフケア指導の実践事例集
特集 会員限定
2026年3月17日
2026年3月17日

腹膜透析におけるトラブル対応とセルフケア指導の実践事例集

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として症例写真等を掲載しているため、NsPace会員様(医療関係者)限定で公開しています。 腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は、患者さん自身やご家族に一定の自己管理能力が求められるため、トラブル対応やセルフケア支援において訪問看護師の果たす役割は非常に大きいといえるでしょう。今回は、当院で実際にかかわった事例をもとに、訪問看護の視点から実践的な対応や指導の工夫を紹介します。※本記事で使用している写真の掲載についてはご本人・ご家族、関係者の了承を得ています。 はじめに PD治療で頻度の多いトラブルは、連続携行式腹膜透析(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:CAPD)関連の腹膜炎(CAPD腹膜炎)、出口部感染とトンネル感染、体液管理不良で、これらはPD離脱の主要な原因でもあります。安定したPD治療の継続には、在宅でのトラブル予防や異常の早期発見・重症化予防のための、セルフケアの向上を目的とした声かけや観察が重要となります。 事例1:出口部感染を繰り返す中年男性への支援 50代男性。糖尿病性腎症によりPDを導入。独居生活。透析方法は連続携行式腹膜透析(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:CAPD)を選択、同時に訪問看護の利用が開始された。 CAPD導入後、出口部感染を繰り返したため出口部変更術が行われた症例です。退院後1週間目の訪問看護では出口部の状態は良好でしたが(図1)、2週間目の訪問時に出口部周囲の発赤と浸出液が確認されました(図2)。訪問看護師が、連携アプリ上で画像付きで病院へ報告したことで、早期に治療方針を再検討することができました。 図1 退院後1週間目の出口部 術後の発赤や血餅の付着があるが、腫脹は軽度で浸出液もなかった。 図 2 退院後2週間目の出口部 出⼝部周囲に発⾚と腫脹の悪化および膿性浸出液が認められ、出⼝部感染が強く疑われる。 訪問看護師による観察・共有が早期治療介入に直結 当院では、「出口部スコア」(図3)を訪問看護ステーションと共有し、現場での感染評価に活用しています。「腫脹」「痂皮」「発赤」「疼痛」「排膿」の5項目を、それぞれ0~2点で評価し、合計点数が4点以上を「出口部感染」として医師に報告するしくみです。また、感染の疑いがある場合には、速やかに画像付きで情報を共有できるようにしています。 図3 訪問看護ステーションと共有している「出口部スコア」 執筆者の所属病院と訪問看護ステーションが共有しているスコア表。スコア表は、文献1)をもとに作成。 今回のケースでは、訪問看護師が出口部の状態から4点以上と評価し、迅速に病院へ報告。病院では、訪問看護師に培養検体の採取・搬送を依頼し、エンピリック治療(病原体が確定する前に抗菌薬治療を開始すること)を早期に開始できました。治療経過も引き続き画像データとともに共有しています。訪問看護師の適切な観察と病院との連携で、患者さんが頻回に通院することなく、診断および治療を完了できたケースです。 また、出口部感染の再発を予防するため、出口部ケアやカテーテルの固定方法を統一化することも大切です。腹膜透析認定指導看護師が作成したマニュアル(図4)を訪問看護師と共有し、発赤・腫脹や痂皮、疼痛、浸出液(特に膿性浸出液)に注意して患者さんのセルフケア指導を行っていただくようにしています。 図4 訪問看護ステーションと共有している「出口部ケアの手順」 執筆者の所属病院と訪問看護ステーションが共有しているマニュアル。マニュアルは腹膜透析認定指導看護師が作成。 事例2:体重・水分管理が不安定な高齢男性への支援 80代男性。軽度の認知機能低下あり。高齢の妻と2人暮らし。近隣に長男が居住。CAPDを実施中で、訪問看護の利用もあり。 食事摂取量が不安定で、体重・血圧のコントロールに難渋していた症例です。体重減少時には血圧低下やふらつき、体重増加時には血圧上昇や浮腫を認めていました。外来ごとに薬剤の変更や透析液の調整を行っていたものの、いずれも残ることがあり、服薬やCAPD実施の不安定性が危惧されていました。 治療状況の把握と症状観察、家族への支援も 病院でも在宅での治療状況を正確に把握するため、訪問看護師が残薬や透析液の使用状況を確認することで、治療のアドヒアランスが明確になりました。さらに、体重と血圧、浮腫の状態を定期的に観察し、必要に応じて連携アプリを通じて病院と情報を共有したことで、外来受診を待たずにCAPDの処方変更(高張液の使用回数の調整)が可能になりました。 また、訪問看護師が長男に観察ポイントを説明し、訪問がない日も体重や血圧を継続的に測定できるように支援しました。 このケースでは、訪問看護師が家族とともに在宅での観察を行い、病院と迅速に状況を共有することで、処方の即時調整や服薬管理の改善につながりました。その結果、体重や血圧の変動幅を小さく抑えられたケースです。 事例3:画像による情報共有で不要な緊急受診を回避 70代男性。自動腹膜透析(Automated Peritoneal Dialysis:APD)を実施中。 排液の混濁がみられたものの、訪問看護師の対応で食餌性乳び腹水と判断でき、不要な緊急受診を回避できた症例です。あるとき、患者さんから「ボトルの排液が白濁している」と訪問看護師に連絡が入りました。急いで駆けつけると、図5のように排液は確かに白色に混濁している状態でした。 図5 白濁した排液 訪問看護師が患者さんの問診を行ったところ、前日に餃子と豚骨ラーメンを食べていたことが判明。触診でも腹部に圧痛や違和感はなく、発熱も認めませんでした。 訪問看護師は得られた情報と排液の画像を病院に共有しました。病院では排液混濁の程度と自覚症状に乖離があることから乳び腹水の可能性も考慮し、訪問看護師に尿試験紙での排液検査を依頼。検査したところ、白血球反応は陰性でした。そのため、腹膜炎の可能性は低く、次回排液まで経過観察としました。 排液が混濁すると腹膜炎を強く疑いますが、薬剤性(カルシウム拮抗薬)や食餌性(脂質の多い食事後の乳び腹水)でも同様の所見がみられます。細菌性腹膜炎の場合、腹水中に白血球が遊走するため、尿試験紙で白血球反応が陽性になることが多くあります。 的確な症状評価と情報共有 訪問看護師が問診・身体診察を行い、連携アプリを通じて病院に画像付きで報告したことで、病院側も「在宅での経過観察で問題ない」と判断でき、不要な緊急受診を回避できました。実際に次回の排液は透明であり(図6)、細菌性肺炎ではなく、食餌性の乳び腹水であることが分かり、患者さんやご家族の安心につながったケースです。 図6 状態が改善された排液 おわりに PDの離脱原因として、体液の過剰と腹膜炎が大多数を占めると報告されています2)が、いずれの病態も早期に対応することで離脱の回避が大いに期待できます。 また、PDにおいては、患者さん・ご家族は大きな不安を抱えながら在宅で治療を継続しています。わずかな体調の変化にも敏感に反応し、ときに不要な緊急受診をされ、心身の負担になってしまうことも経験します。 訪問看護師の皆さんは、患者さんの生活にもっとも近いところで支援する立場として、医学的知識と生活支援力の両方を発揮することが求められます。患者さん一人ひとりに合わせた支援が、PDの安定的な継続とQOLの向上につながると考えています。 執筆:上村 太朗松山赤十字病院 腎臓内科 部長 2001年 愛媛大学医学部卒業関西圏の市中基幹病院で研修2005年 松山赤十字病院入職2016年 松山赤十字病院腎臓内科部長 前任部長・原田篤実より受け継いだラストマンシップを診療の軸に、地域と連携し、すべての腎臓病患者さんが困らない医療を心がけています。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Szeto CC,Li PKT,Johnson DW,et al:ISPD Catheter-Related Infection Recommendations:2017 Update.Perit Dial Int 2017;37(2):141-154.2)Kawaguchi Y,Ishizaki T,Imada A,et al:Searching for the reasons for drop-out from peritoneal dialysis: a nationwide survey in Japan.Perit Dial Int 2003;Suppl 2:S175-S177.

【人工呼吸器装着者 難病事例看護】「災害時」どうする? 避難計画策定の実際と課題
【人工呼吸器装着者 難病事例看護】「災害時」どうする? 避難計画策定の実際と課題
特集
2026年3月17日
2026年3月17日

【人工呼吸器装着者 難病事例看護】「災害時」どうする? 避難計画策定の実際と課題

難病を抱える訪問看護利用者さんの災害時の対応について悩む方も多いでしょう。筆者が住む鹿児島県は台風が多く、規模の大小にかかわらず、避難や安全管理を怠ると命を失う恐れがあります。今回は、難病看護師であり訪問看護ステーション管理者でもある筆者が取り組んでいる、難病人工呼吸器装着者の災害避難入院について紹介します。 人工呼吸器装着者の災害時の備え 筆者は、2015年5月に「びっぐすまいる訪問看護ステーション」を開設し、鹿児島県北西部の3市町村を活動エリアとしています。2020年6月に「居宅介護支援事業所大笑い」を開設し、2025年1月には「びっぐすまいる訪問看護ステーションサテライトさつま町」をオープンしました。乳児から高齢の方まで幅広く対応し、医療依存度の高い方の訪問も行っています。現在、人工呼吸器装着者は難病の方を中心に6名います。 人工呼吸器装着者の場合、生活場所や自宅の環境、介護状況などによって、在宅避難がよいのか、避難先への移動がよいのか、その選択はさまざまです。台風や大雨のように災害が予測される場合は、電源確保の観点から事前に避難できるよう準備を進めています。 災害への備えとして重視している点は次のとおりでです。(1)災害から逃げる(連絡先・避難先の確保、避難搬送訓練)(2)安全に過ごせる場所の確保(情報・通信手段の確保)(3)普段からの防災対策(お薬手帳の準備、医療機器の電源確保) 避難先の選定と制度利用についての課題 避難先は事前に本人や家族と話し合い、病院やホテル、知人・親戚宅(地理的条件や電源確保的に安全と思われる場所)など、それぞれです。移動時間や費用、心的安全性を考慮し、平時から各所と連携を図っています。 コロナ禍では事前に断られることもあったため、避難先の確保が大変でした。病院の場合、「空床があれば」という条件のため、入院先候補をいくつか交渉しておく必要があります。入院を希望しない場合、各自でホテルと交渉をされていましたが、電源はあってもホテル内のベッドの角度が変えられないことや、周りのスペースが問題となり現実的ではありませんでした。 病院への避難では制度の確認が必要 現在はほとんどの方が病院に避難されますが、病院によってその取り扱いが異なります。医療保険による入院や難病法による一時入院(レスパイト入院)、障害者総合支援法に基づく医療型短期入所制度(空床利用型を含む)の利用など、あらかじめどのような取り扱いをされるのか確認が必要です。 なぜなら、人工呼吸器の持ち込みは当然としても、医療型短期入所制度を活用する場合、持ち込まねばならない医療消耗品や衛生材料、注入食などがあるからです。場所と電源を貸すだけ、という説明をされる病院担当者もいます。 医療型短期入所制度は、障害福祉サービスに位置づけられるため、事前に住居する自治体(区、市町村)の障害福祉担当課へ申請し、支給決定を受ける必要があります。そして、病院担当者との面談や事前打ち合わせなど行い、利用可能かどうか検討していただくことになっています。 持参物品リストの作成 どこに避難しようとも、避難入院に備え、患者ごとに「避難時の持参物品リスト」を作成しておきます。できるだけ短時間にスムーズな移動が行えるよう、災害に対する個別計画が必要です。日頃から家族や重度訪問介護員をはじめ、介護職への指導も実施しておきましょう。 災害時の避難計画と関係者との連携 台風をはじめとした災害が予測される場合、本人と家族、ケアマネジャーなどの関係者と避難方法を検討しておきます。 ケアマネジャーは、移動手段の手配を行うため、結果的に避難はしなかったとしても、早めに連絡をとるように心がけています。場合によっては、訪問入浴といった介護サービスをキャンセルすることや、介護サービス事業所側がサービスの提供を休止する場合もあるため、各介護サービス提供元と連携をとっていただく必要があります。 同時に、避難先に挙がっている病院に対して、避難の相談をしなければなりません。空床がなかったり、他の人工呼吸器装着者の予約が入っていたりすることもあるため、数ヵ所の病院に確認します。その上で、台風や大雨で移動が困難にならないうちに避難します。 避難入院の調整と連携 一言で「避難入院」といっても、とてつもなく多くの方の協力と連携が必要となります。入院先の調整は病院相談員が担当し、日頃看ていない患者を看てくれる病棟との連携を行います。連携方法は、詳しいサマリーで対応します。必要に応じて、病院到着時に病院では使用になじみのない排痰補助装置や低圧持続吸引器の説明を行っています。 ケアマネジャーは、移動手段の手配や人員確保を行います。人工呼吸器や排痰補助装置、低圧持続吸引器など機器の持ち込みが多いため、移動はとても大変です。持ち込み物品の準備は家族とともに訪問看護師が行います。呼吸器会社の担当者も来てくれることがあり、大変助かっています。 医療型短期入所では、入院中に、家族や重度訪問介護員の付き添いを必要とする場合があり、スタッフのシフト調整が必要なため、介護事業所とのやり取りに時間を要することが多いです。 避難を阻むもの ここまで述べたような準備をして、無事に避難入院できたとしても、そこに至るまでの患者の心理的な葛藤、避難にかかる人的資源、移動、経済的要因は、避難を遅らせる要因となり得ます。 患者の心理的葛藤 患者は、自宅で日常生活が送れないこと自体に不安を感じています。1つは、コミュニケーションの問題です。通常の読唇や文字盤での意思疎通が、病院では困難となるためです。 病室で意思伝達装置(パソコン)を用いて看護師らとコミュニケーションすることはできても、パソコンのセッティングが必要な場合は、患者が我慢せざるを得ないこともあります。また、吸引手技やその頻度などが、日頃の方法と異なるために負担を感じています。何より、病棟は忙しく、患者は対応してもらえるかどうかが不安です。 そうした状況から、患者は「ポータブル電源(図1)がある自宅にいたほうがよいのでは」と考え、なかなか避難に踏み切れません。 しかし、患者が自宅にいることで家族や介護者も危険な状況に置かれるため、その点について理解を得なければなりません。暴風雨直前に家族や関係者の説得に応じ、急遽避難が決定することもありました。 図1 患者宅で準備しているポータブル電源 避難行動のための人的資源 避難には、人工呼吸器や排痰補助装置、低圧持続吸引器、意思伝達装置(パソコン)など、多くの機器の運搬が必要です。介護タクシーと家族の自家用車だけでは運搬できないこともあります。 また、移動に際し同乗者を誰にするか、家族が対応できないときにどのように人員を確保するのかについても考慮しなければなりません。患者を取り巻く環境や介護体制によって異なるため、最悪の事態を想定し、最善策を検討しておくことが重要です。 時には地域の方にお手伝いいただくこともあるため、地域ぐるみの支援活動も検討しなければいけません。また、台風時には、みんなが一斉に移動するため、訪問看護師も時間調整を行わなければならず、まさに事業所が台風のような忙しさになります。 避難による経済的負担 避難移動を自家用車以外で行う場合、福祉車両でなければ移動はできません。その場合には、当然ですが、移動費がかかります。一般のタクシーと異なり、車椅子対応やストレッチャー対応の場合は料金が高くなります。移動距離にもよりますが、往復で2万円程度かかることもあり、少しの台風や大雨情報では動きたくない、という気持ちになりがちです。また、家族が付き添う場合、食費や移動費が増えることも予想されます。 今後の避難にかかわる課題 コロナ禍では、避難入院をすることが困難でした。今後、新たな新興感染症が発生したときに、長期的かつ絶対的な電源確保を要する難病患者が、避難する場所をどう確保するのか、難病支援と災害支援の観点から考えていかなければなりません。 避難に伴う経済的負担が命を守る障壁とならないよう、何らかの支援制度ができることに期待したいものです。そのためには、当事者や関係者が声をあげることが大切です。特に、福祉施策を担当する市町村自治体の理解が重要と考えます。当県においては、患者会とともに声をあげることで、令和6年(2024年)新規事業として非常用電源貸し出しに関する補助が開始されました。まだ十分に認知されていない事業ですが、一歩ずつでも患者家族の安全のために役立つものにしていきたいと思います。 また、私たちが制度について正しく知ることで、自治体だけでなく病院にも働きかけることができ、医療型短期入所のような支援制度を増やしていけるのではないかと感じます。 避難入院準備は、本人と家族の避難訓練の1つと捉えられ、想定外災害時への行動示唆となります。さらに、本人と家族だけでなく関係者の防災意識を高めることができ、これは大きな産物といえるでしょう。医療機器に苦手意識を持っていた支援者が徐々に取り扱いに慣れていくというメリットもあり、日常生活のなかでも本人と家族の安心につながっています。 人工呼吸器装着者の電源を確保でき、土砂災害の危険からも避難できること。台風が過ぎ去った後に「準備は大変だったけど、台風被害はなくてよかったね」と笑って言えることを願っています。訪問看護師として、難病看護師として、多くの方と連携し、地域の中で自助・互助・共助を発揮でき、難病患者や家族の安全確保を続けていきたいと思います。   執筆:柳田 千草合同会社BigSmile 代表 びっぐすまいる訪問看護ステーション 管理者看護師(看護学修士)、介護支援専門員、日本看護協会認定看護管理者、日本難病看護学会認定・難病看護師鹿児島県立保健師学校、鹿児島大学大学院保健学研究科博士前期課程を卒業。総合病院での病棟や外来勤務を経て、1992年より訪問看護の分野に携わる。その後、保健所や市役所の嘱託保健師として勤務し、看護学校講師、複数の訪問看護ステーションの開設支援を行う。クオラグループの運営企画室在宅管理部長を経て、合同会社BigSmileを設立し現在に至る。また、在宅領域における「災害支援」や「暴力・ハラスメントへの備えと対応」をテーマとした講演活動も積極的に行っている。編集:株式会社照林社

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2026】
つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2026】
特集
2026年3月10日
2026年3月10日

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2026】

NsPaceの特別イベント「第4回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。厳正な審査を経て、受賞作品が決定しました。本記事では、入賞エピソード15件をご紹介します! 大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞はこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2026】 「Yさんの日常に伴走」 投稿者: 安藤 芳雄(あんどう よしお) さん andYou訪問看護ステーション(埼玉県) Yさんは65歳女性。独り暮らし車椅子生活。Yさんの愛猫4歳は車椅子の肘掛けに乗る。さながらナウシカとテトのよう。Yさんはゴジラとプロレスが好き。通販も大好き。Yさんは大食い。うどん3玉ペロリ。これがYさんの普通。Yさんの左下肢は股関節から下が無い。右下肢は麻痺。坐骨に不治のD4褥瘡あり。Yさんのベッド移乗法は柔道の前回り受け身。これがYさんの普通。尿は留置カテーテルだけど便は不意に出てしまうことがある。独りではどうにもできないので緊急訪問看護する。人に頼るところはしっかり頼る。これがYさんの普通。Yさんは時々高熱が出る。多分褥瘡からの熱。これもYさんの普通だけど、これは辛い。私たちは決めた 【毎日朝晩褥瘡を洗おう】その日から高熱が出なくなった。訪問看護1日2回がYさんの普通になった。アウトレットモールに出かけた。人生初のジンギスカンを食べた。新幹線に乗って、USJのアトラクションに乗った。富士山には行けなかった。「よいお年を」で別れた翌朝に「あけましておめでとう」の挨拶をした。Yさんは嚥下が弱くなった。むせるのが普通になった。それでもお餅16個食べた。これが普通だから。肺炎が治らずHOTが始まった。入院治療よりも自宅で愛猫との生活を選んだ。Yさんの普通だ。最期の前日、愛猫を親友に託した。全てやりきった顔だった。今でも空から見守ってくれている。 2026年1月投稿 「『ごめんね』が『ありがとう』に変わった日」 投稿者: 奥田 玲子(おくだ れいこ) さん さんふらわぁ訪問看護リハビリステーション(東京都) 病状の進行により寝たきりとなり、四肢麻痺のある80代女性利用者さんを在宅で支援していました。自力での排便が困難となり、浣腸や摘便、洗浄、オムツ交換といった排泄ケアが必要な状況でした。その方は元来とても気を遣われる方で、ケアのたびに「汚いことをさせてごめんね」「いつも申し訳ないね」と話されていました。自分の汚物処理に他人の力を借りることに、強い負い目を感じておられたのだと思います。私たちは「それが仕事ですから」「気にしないでくださいね」と伝えてきましたが、申し訳なさは軽くなりませんでした。ある日のケアの中で、「私たちは便を取りに来ているのではなく、〇〇さんの不快感を取りに来ているんですよ」とお伝えしました。その言葉に少し驚いた表情をされた後、その日を境に「ごめんね」は「ありがとう」に変わりました。状況やケア内容は変わっていません。変わったのは、「迷惑をかけている」という捉え方から、「つらさを受け取ってもらっている」という感覚でした。看護とは処置を行うことだけでなく、その人の心の負担を引き受けることでもある。この経験は、私たちの大切にしている看護観を改めて教えてくれました。 2025年12月投稿 「旅立つ前の願い」 投稿者: 葛西 聡子(かさい ふさこ) さん 社会医療法人 函館博栄会 高齢者複合施設 ケアタウン昭里 訪問看護ステーションあまりりす(北海道) 小さな漁業の町の自宅で写真館を営んでいた78歳の男性。住民の成長していく姿を撮り続けてきた。妻と子ども、孫がいつも傍にいた生活。体調に気付いたのは、黄染と腹水が貯留し始めた頃。大腸癌、肝臓転移だった。「入院しない、家で死にたいんだ」。家族も「家に居たらいい」。訪問看護を開始した。黄染で掻痒が強く自宅での入浴を希望し、その時間は彼から沢山の思い出やこれからのことを聞いた。数日後、目が開かなくなり呼吸状態も落ちてきた。家族に、死期に近づく過程を説明した。泣きながらメモを取っていた。気になり夕方、こちらから入電。「呼吸が変わってきた」。訪問すると下顎呼吸となり「看護婦さんが教えてくれたから、覚悟できたよ」。妻は、携帯電話で遠方の家族に電話し「じぃちゃん、頑張ったね、ありがとう」彼の耳に当てて聞かせた。やがて呼吸は止まった。家族に見守られながら、生まれた自宅で亡くなりたいことを話してくれていた。初めての看取りの話です。家族との時間、一緒に看護すること、そしてご本人の最期への思いを理解して叶えていくことを大切に思い訪問看護をしています。 2026年1月投稿 「要介護5から自立へ 在宅回復の軌跡」 投稿者: 金﨑 千晶(かねさき ちあき) さん 訪問看護ステーション ぽっぽスマイル(福岡県) 74歳男性。COVID-19後の重症肺炎により気管切開・人工呼吸器管理での治療を受け、呼吸器からは離脱できたものの、痰が多く経口摂取は困難と判断され、経鼻経管栄養のまま要介護5で退院となった。退院後、訪問診療と訪問看護(看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)による在宅支援を開始。元公務員で意思の強いFさんは、思うようにいかない現実に苛立つ場面もあったが、私たちはその姿を「諦めたくない気持ち」「生きる力」と受け止め、多職種で粘り強く関わった。「頑張る自分が大好き!」その言葉通り、Fさんは毎日のリハビリに真摯に取り組み、徐々に経口摂取が可能となり経鼻胃管は抜去。痰の減少とともに気管カニューレも抜去に至った。久しぶりに奥様と「声」で会話できた日の笑顔は、今も忘れられない。雨の日も暑い日もリハビリを継続し、5ヵ月後には趣味の釣りを再開。最終的に要介護5から非該当(自立)へと回復した。「コミュニケーションボードでの会話は、正直つらかった。今、声で気持ちを伝えられることが本当にうれしい」 そう話すFさんの表情は、穏やかで優しいものだった。7ヵ月後の訪問看護卒業の日。「ここまで一緒に来てくれてありがとう」涙を浮かべながら感謝を伝えてくださった。在宅看護・在宅リハビリは、命を支えるだけでなく、その人らしい人生を取り戻す力がある。本症例は、その確かな可能性を示した一例である。 2026年1月投稿 「花子さんとピアノ」 投稿者: 川上 加奈子(かわかみ かなこ) さん よつば訪問看護リハビリステーション(神奈川県) 「音楽は本当に素敵ですね。聴いていると涙が出そうになります」花子さんは93歳。昔、息子さんと2人で音楽鑑賞にもよく出かけていたとのこと。そのため、訪問看護の際にスマホでクラシックを流すととても喜ばれていた。そんなある日、ふとご自宅にあるピアノに目がとまる。たしか花子さんは幼稚園の先生をされていたからピアノは弾けるはず…。「ピアノ?もう40年も昔の話です。弾けませんよ」と苦笑いする花子さんの手をとり、一緒に鍵盤を押す。すると「ドドソソララソ…」。花子さんは音階を口ずみ、指も辿々しくも動きだしたのである。さらには、私が「ふるさと」をピアノで弾くと大きな声で歌いだされ、「なんて楽しいのかしら。毎回やりたいくらい!」と満面の笑みが溢れた。それ以降、花子さんのリクエストにお応えして、ケアの最後には脳トレと嚥下リハビリとしてピアノと歌を一緒に楽しんでいる。「相手を知ることとは、その人が大切にしていることに興味を持つということ」看護研修で学んだこの言葉を、これからも忘れずに利用者さん一人ひとりと関わっていきたいと思っている。 2025年12月投稿 「全・全・半・全・全・全・半」 投稿者: 小林 桂(こばやし けい) さん 訪問看護ステーション デライト石神井公園(東京都) 意味のない独り言に聞こえる言葉を、私はその日、初めて“追いかけた”。居間で彼は、無表情でぼそっと言った。「全・全・半・全・全・全・半」。独語は不明瞭で、質問しても返答は噛み合わない。会話は同席する両親への聞き取りが中心になり、両親も「何を言っているか分からない。妄想の中にいるみたい」と困っていた。沈黙が落ちるたびに、私も“会話する意味”を見失いかける。心の不調を抱える彼の言葉は、ほどけて、こちらの手からこぼれていくようだった。それでも、意味のない音にしてしまわないよう、私は一つだけ決めた。分からない言葉ほど、そのままにしない。並びに聞き覚えがあり、そっと繰り返すと、彼は続けた。「全・全・半…ドレミファソラシド」ピアノの鍵盤だ。両親に尋ねると「そういえば小学生の頃キーボードを習ってた。そんなこと覚えてたの」と懐かしむ。本人に「弾いていたんですか」と聞くと、視線を落としたまま、静かに一度だけ頷いた。初めて会話が繋がった瞬間だった。私の声は、届いていなかったわけじゃない。そう思った途端、胸の奥がじんわり熱くなった。在宅の居間には、家族の記憶と本人のことばが同時にある。その場で背景に触れられるのが訪問看護の強みだと知った。以来、噛み合わない返答の中にも手がかりがあると考え、目線や言葉の端に意味が宿ると信じて手繰り寄せ、対話の糸をほどくように関わり続けている。 2026年1月投稿 「迷いながらも正解のない選択に寄り添う看護」 投稿者: 坂口 葵(さかぐち あおい) さん カンナ訪問看護ステーション(千葉県) 膀胱がん末期80代後半男性。妻と、別居の娘が三人いる。訪問当初は拒否も強かったが、最期は自宅にいたいとの本人の思いを尊重し、スタッフ皆で丁寧に関わり続け、在宅療養は途切れることなく続いていた。徐々に衰弱が進み、水分摂取が困難になると皮下点滴の継続を巡って家族の意見が割れた。「苦しい時間は短くしてあげたい」そう語る妻に、娘は「でも、何もしないで見ているのは辛い。点滴で少しでも元気になるなら…」と声を詰まらせた。私は迷っていた。点滴を続ければ身体的苦痛は増すかもしれない。だが、ここで止めれば「何もしてあげられなかった」という後悔を家族に残すかもしれない。悩んだ末、結論を出すことを目標にするのではなく、家族が互いの思いを語り尽くす場を整えることが今の最善だと判断した。血圧や脈圧の変化、今後起こり得る経過などを説明し、「正解はありません。迷いながら、その時に一番納得できる選択を一緒に考えましょう」と伝えた。話し合いの末、点滴は一日だけ行われ、翌日の誕生日には家族全員が集い、穏やかな時間を過ごされた。逝去後のエンゼルケアでは、娘が「父さんの髪を洗うの、初めて」と涙を流し、孫たちもそっと手を伸ばした。二十代で訪問の世界に飛び込んだ私は、この仕事を通して人生で本当に大切なことを教えてもらっている。大変だが、これ以上に尊い仕事はないと感じている。そんな誇りを胸に、今日も私は訪問に向かう。 2026年1月投稿 「家族で過ごした宝物の時間」 投稿者: 清水 由佳(しみず ゆか) さん スターク訪問看護ステーション三鷹(東京都) 70代の男性が、ほとんど準備の整わないまま急遽退院することになった。末期の膵がん。医師は「家で看取るのは難しい」と話していた。それでも本人は「家族のそばで過ごしたい」と静かに願った。娘さんの家庭には幼く精神疾患を抱える子どもたち、そして自身の精神的な不安もあった。どう考えても「余裕がある状況」ではない。それでも娘さんは「できる限り家で看たい」と父の思いを受け止めた。私はそんな“覚悟”を支え、連日訪問した。不安が強い娘さんには、玄関先で短い会話を重ねて安心を届けた。落ち込みやすい本人には、お孫さんの布団やクッションをそっと傍に置き、「家族の気配」が心を支えるよう工夫した。私が訪ねると本人は不思議と落ち着いた。「あなたは、私の薬みたいだね」と言われたこともあった。わずか9日間。しかしその短さを感じさせないほど、濃く温かい時間が家族の間につくられていった。夫婦で静かに交わした会話。お孫さん一人ひとりとの別れ。旅立ちのあとには、家族全員でエンゼルケアを行い、最期の“ありがとう”を手で伝えた。私が帰ろうとした時、娘さんが涙をこらえ「宝物の時間を、ありがとう」と仰った。家族の力を信じ、その思いに寄り添い、その人らしい最期をそっと支えた。それは看護の力が確かに息づいた、私にとっても忘れられないエピソードとなった。 2026年1月投稿 「『好き』の力が引き出す可能性」 投稿者: 城間 裕斗(しろま ゆうと) さん えん訪問看護ステーション東京池袋(東京都) パーキンソン病を患うその方は、仮面様顔貌(かめんようがんぼう)で表情の変化が乏しく、日中の多くをベッド上で無気力に過ごされていました。リハビリ中も意欲低下が目立ち、身体機能が徐々に低下していくことに私は焦りを感じていました。そんなある日、会話の中で「昔はハーモニカが得意だった」というお話を聞きました。「もう一度、あの音色を聴きたい」と思った私は、自分でもハーモニカを購入して練習し、次回の訪問時に一曲披露しました。すると、普段は自発的な動きが少ないご本人が、お礼にと自らハーモニカを手に取り、一曲奏でてくださったのです。パーキンソンの症状もあり、本当に吹けるのかと少し不安もありましたが、聴こえてきたのは美しく、力強い音色でした。ベッドサイドでは20代のお孫さんと3歳のひ孫さんも一緒に手拍子をして喜んでおり、その光景に胸が熱くなりました。この経験から、ただ訓練を繰り返すのではなく、その方の歩んできた人生や趣味に寄り添うことの大切さを学びました。これからも、利用者様の「好き」という気持ちを引き出し、心から動きたくなるようなリハビリを目指していきたいです。 2026年1月投稿 「拒絶の先にあった"家で生きる"という選択」 投稿者: 鈴木 開哉(すずき かいや) さん ウィル訪問看護ステーションよこはま北山田(神奈川県) 「どうせお前らも、俺の敵なんだろ」。50代男性独居、アルコール性肝硬変末期。著明な腹水と呼吸苦、失禁が続き、易怒性が強く、入院先や在宅サービスでトラブルを重ね、支援は次々と断たれていた。計画相談員からの依頼は、「今回もかなり難しいが、受けてもらえないか」という切迫した一本の電話だった。私たちは「全ての人に、家に帰る選択肢を」という理念のもと、拒絶されることを前提に介入を決めた。ハラスメントの懸念から男性スタッフのみで開始したが、訪問しても扉は開かず、インターホンは無視される。安否を案じて郵便受けから室内を確認すれば激怒され、追い返される。それでも関わりを絶やさなかった。ある日、意識は朦朧、呂律は回らず、便汚染のベッド上で横たわる姿を目にする。肝性脳症を疑い、拒否の合間に声をかけ続け、往診医と連携し救急搬送につなげた。しかし病院でも居場所はなく、早期退院となる。退院後、彼が受け入れた支援は訪問看護だけだった。薬局も入室できず、私たちが内服を受け取り、一包ずつカレンダーにセットする。扉が閉ざされ続ける中でも相手を知ろうと関わりを続けたことで、少しずつ信頼が生まれ、本心を聞くことができた。その瞬間、看護はようやくケアとして成立した。 2026年1月投稿 「お風呂と寿司で生き抜く力」 投稿者: 清政 満枝(せいまさ みつえ) さん スターク訪問看護ステーション板橋徳丸(東京都) Aさんは70代男性で一人暮らし、透析通院中。脳梗塞を患い高次脳機能障害もありましたが、PT、OT、STリハ継続しながら透析も続けていました。しかし生きていくのが嫌になり、透析通院を拒否するようになりました。様々な職種、多くの友人が説得しましたが、ご本人の意思は変わらず透析をしない日々が続きました。ご本人、遠方に暮らす妹、沢山の友人、仕事仲間、主治医、CM、ヘルパー、リハ、看護師等と何度も話し合いを重ねましたが彼の意思は変わらず、透析は終了しました。彼の願いは好きなことを最期まで続けたい。それは「大好きなお風呂に毎日入りたい」こと、「好きなものを食べたい、外食したい」ということでした。急変や転倒リスクを恐れて制限するのは簡単です。しかし彼の思いを尊重し希望を叶えるため、部屋のレイアウトや福祉用具を工夫したり入浴介助の方法を模索したり、多職種で知恵を絞りチームが一丸となって支えました。ある日彼は「お寿司屋さんに行きたい」と言いました。透析を止めて一ヵ月程経っており体調は決して良くありません。それでも多職種が時間を合わせ、外出を実現。出かける準備をする彼の笑顔は、誰もが忘れられない瞬間でした。本当にやりたいことはもうできません。しかし今できるやりたいことを多職種がチームとなり実現できたことは、訪問看護だからこそできる力。最後まで希望を叶える時間は、支えた全員にとって忘れられない時間でした。 2026年1月投稿 「最期まで医師でありたい」 投稿者: 寺山 佳佑(てらやま けいすけ) さん 訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府) 抗がん治療を受けながら在宅で働く神経内科医のKさん。咽頭がん術後に化膿性脊椎炎を発症し腕を上げられなくなり、訪問リハを希望された。気管切開によりコミュニケーションは、筆談。初回の訪問は、現役の神経内科医にリハを行うため、異様な緊張感が漂っていた。私は、腕が上げられない原因を説明しリハを行った。腕は徐々に上げられるようになったが、がんの経過は芳しくない。私はKさんにリハ以外でケアができることはないかと悩んでいた。ある日、「趣味はありますか?」と尋ねると、パソコンの前に案内された。すると、リハ中は仏頂面なKさんが嬉しそうに自分の研究論文を見せてくれた。私は、Kさんにとって医師という仕事が日常であり、「最期まで医師でありたい」という想いが伝わってきた。ちょうどその頃、同僚が社外の研修会を行うため、パーキンソン病の発表を準備していた。そこで、Kさんに発表の内容を見て頂けないかと相談すると、快く引き受けて下さった。次の訪問時、家族が上機嫌でパソコンに向かっている姿を楽しげに話してくれた。Kさんは、同僚に在宅で必要なパーキンソン病の薬や生活指導の内容を丁寧に伝えた。発表後、訪問するなり筆談で「発表はどうだった?」と尋ねられた。私は「大盛況でしたよ」と伝えるとお互いに笑みがこぼれた。Kさんとの出会いは、その人にとっての生きがいを理解することの大切さを学ばせてもらった貴重な経験となった。 2026年1月投稿 「桜を見上げるたびに思い出す」 投稿者: 寺山 恵(てらやま めぐみ) さん 医療法人社団 成美会 訪問看護ステーションあさがお(茨城県) 「その人らしい生活を送れる看護がしたい」という思いから訪問看護へ、そこで初めて出会ったのが、神経難病を抱えるNさんです。日常生活は容易ではなく、転倒を繰り返すNさん、好き嫌いがはっきりとした性格で、調子の悪い日には目も合わせてくれません。理想として思い描いていた看護と現実のギャップに悩みましたが、Nさんの思いを否定せず、そばに居続けることを選びました。そんなある日、「この辛さは誰にも分からない」「筋力を落としたくない。ここに居たい」「娘には迷惑をかけたくない」と想いを私に話してくれました。調子がいい日は一緒に一歩ずつ、調子が悪い日は腋窩を支えながら半歩ずつゆっくりと散歩をし、アパートの敷地内に咲いていた、たった1本小さく咲いている桜を眺め「来年もまた見に来ようね」と笑い合った時間は、今でも心に残り、春になり桜を見るとふとNさんの笑顔を思い出します。体調が急変し、救急車で運ばれていく姿を見送ったのが最後の訪問でした。数ヵ月後、遠方に住む娘さんから「あなたに直接感謝を伝えたくて」と電話があり、人目も憚らず私は泣き崩れ、喪失感から次の訪問に向かうまで気持ちを立て直すのに時間がかかった経験も、深く胸に刻まれています。Nさんとの出会いは、訪問看護とは理想を語ることではなく、その人の人生に覚悟をもって寄り添うことなのだと教えてくれました。 2026年1月投稿 「本当の願い」 投稿者: 豊嶋 絵理(とよしま えり) さん えん訪問看護ステーション三豊(香川県) 指定難病の強皮症である彼女の身体は自分の思い通りには動かない。彼女の痛みを和らげようとマッサージをしている時「豊嶋さんは何で訪問看護師になろうと思ったの?」と聞かれ「こうやってゆっくり話をしながら人と関わりたかったからです」と迷わず答えた。「私もヘルパーやっててね、よく時間を過ぎても話を聞いて励ましてあげてた。豊嶋さんは私と同じやね」と微笑んだ。彼女には以前、他事業所が介入しており様々な理由で契約が終了した経緯がある。調子が良くシャワー浴ができた日「寒いと痛みが強くなって辛いんよ。前は無理って言われたけど本当はお風呂がいい。けどシャワーできるようになっただけいいよね」と寂しそうに諦めた言葉。けれど前向きな彼女を私は知っている。「○○さん!色々工夫は必要だけど、挑戦してみましょう!諦めるのはまだ早いです」。勝算があったわけではないが、私は彼女に挑戦して欲しかった。うちの事務所の強みはリハビリスタッフがいること。早速担当スタッフへ相談し福祉用具も手配。我々の心配をよそに動作確認クリア!初めて湯船に入れた時は、満面の笑顔で「無理って言われたしやる前から諦めてた。家のお風呂に入れたの2年ぶりよ!本当に嬉しい。試してくれてありがとう!」 彼女の本当の願いが叶った瞬間に私が立ち会えたのも、彼女の勇気とそれを支えてくれたチームのお陰。ここからまた彼女の挑戦は続く。それをサポートするのが私の仕事。 2026年1月投稿 「旅のコンダクター」 投稿者: 八箇 多恵(はっか たえ) さん 訪問看護ステーション 十色(富山県) 肺癌の末期を宣告後、彼は全国各地を旅して回り、食べ歩きにも行き、緩和ケア病棟から1次退院をした時は、冬がやがて訪れる頃だった。彼の要望は、バイタルサイン測定も排泄や食事の話も、「それをしたところで命が伸びる訳でもなく、それならこの1時間を有意義なものにしたい」と、1時間看護師と色々な話をすることを希望した。彼は旅プラン提案するのが好きだった。私が訪問すると「所長、皆にリフレッシュ休暇あげよ!人生楽しまなきゃ、今しかできないことあるし」と話をしていた。いつの間にか見られないはずだった桜を見て、七夕の短冊は「リフレッシュ休暇が取得できるようになりますように」と、記載されていた。その後状態悪化で再入院。顔を見に行くと「これ、母ちゃんが忘れないようにって持たしてきた」。照れながら見せたのは、我々の新年の挨拶の写真入チラシ。「あんたらのお陰で家での生活楽しかったわ」。病室にも分厚い時刻表の本と、地図があった。「いつでも相談のれるようにな」と笑顔で笑った。今年から、リフレッシュ休暇採用になって皆順に旅する予定である。 2026年1月投稿 * * * 皆さま、おめでとうございます!今後、「みんなの訪問看護アワード」表彰式の様子をご紹介する記事や、大賞を受賞したエピソードの漫画記事も順次公開予定です。ぜひご覧ください。 編集: NsPace編集部 [no_toc]

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