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コラム
2021年3月16日
2021年3月16日

訪問看護師にビジネスマインドを持ってもらうには?

「看護師が一件一件の訪問に時間をかけ過ぎていて、トータルの訪問件数が増えず、売上が伸びない…」 「ステーション管理者が、労務管理やコンプライアンス遵守の感覚を持っていない…」 「人材採用やスタッフ教育を、もっと現場でしっかりやって欲しい…」 訪問看護事業を「ビジネス」として運営する事業者は、訪問看護師やステーション管理者などの専門職に対して、上記のような悩みや要望を持っている場合が多いようです。特に昨今は、訪問看護業界に民間事業者の参入が増えていることもあり、医療現場の経験がない「ビジネスマン」と、ビジネスの経験がない専門職が、お互いにカルチャーショックを受けるケースが増えています。事業者が日頃慣れ親しんでいるビジネス用語を使って現場業務の改善をリクエストしても、専門職がその意味や意図を十分に理解できず、一方的に指示を出す事業者に対して「現場のことをわかっていない!」と反発心を覚えるケースもあるでしょう。 本稿では、事業者を主な読者と想定して、訪問看護師にビジネスマインドを持ってもらうための、専門職とのコミュニケーションにおける工夫と心構えについて考察します。 コラム執筆者: 株式会社メディヴァ/コンサルタント 内野宗治   「奉仕の精神」と「ビジネス」は共存可能という現実を伝える 多くの事業者が「専門職はビジネスマインドに乏しい」と感じる背景には、専門職が経営やビジネスについて学ぶ機会を持つことが少ないという現実があります。 例えば看護学校や病院では、看護技術や「患者のための奉仕の精神」は学ぶものの、医療機関の経営やマネジメントについてはほとんど学びません。また、医療は公的な社会資本であり、多くの民間ビジネスのように純粋な市場原理で動いている世界ではないことも、看護師に限らず医療職が自身の仕事を「ビジネス」として捉えにくい一因でしょう。人によっては「奉仕の精神」と「ビジネス(≒お金儲け)」は相反するものだという認識を持っていて、事業者が利潤を追求することを快く思わないかもしれません。   こうした背景を踏まえると、専門職に対していきなり「ビジネスマインドを持て!」と言うのではなく、まずは「奉仕の精神」と「ビジネス」が共存可能であり、むしろビジネスとして成立してこそ継続的に「奉仕の精神」を発揮することができる、という現実を伝えていくことが重要でしょう。その上で、「ビジネスマインドを持つ」とは具体的にどういうことなのかを説明する必要があります。 課題の羅列ではなく、まずはポジティブなフィードバックを 事業者が「専門職はビジネスマインドに乏しい」と感じる事例として、例えば訪問看護師の中には「利用者さんのために」という気持ちが強い故に、一人の利用者への訪問に規定以上の時間を費やしてしまう人がいることが挙げられます。これは専門職としてのプロ意識、情熱の表れであるとも言える一方、訪問一件あたりにかける時間が増えると必然的にトータルの訪問件数が減ってしまうため、目先の売上は減少してしまいます。 もちろん、たとえ訪問件数が増えても、訪問時間が短くなったことによって一人一人の利用者に対するケアの質が下がってしまい、その結果として利用者が減少してしまうようでは本末転倒です。あくまでも「一人一人の利用者に質の良いケアを提供する」ことを前提に、時折「自分がしている仕事はどれくらいお金を生んでいて、どれくらいコストがかかっているのか」と考えて欲しい、というのが、多くの事業者にとっての望みではないでしょうか。効率化やコストカットばかり考えても、それが良いケアの提供に繋がる可能性は低いでしょう。 具体的なアプローチ方法として、まずは経営に関する情報やデータを必要に応じて専門職と共有し、職種の垣根を越えて対話する機会を設けてみるのはいかがでしょうか。その際、「訪問件数が少ない」「コストがかかり過ぎている」といった課題を羅列するのではなく、まずは「あなたがこれだけ売上を出してくれて、助かっている」といったポジティブなフィードバックを行い、その上で「もっと良くするにはどうすれば良いか」を話し合うことで、建設的な対話に発展する可能性が高まります。 専門職と非専門職の間で「翻訳」するスタッフがいることが理想 専門職と非専門職の間で、上記のような対話をスムーズに行うことができるに越したことはありませんが、実際にはなかなか難しく、上手くいかない場合もあるでしょう。そのような場合の解決策のひとつとして、両者の橋渡しを担う「翻訳者」とも言うべき人材を確保することが挙げられます。 経営的に成功している事業所には、現場の看護師と経営サイドの中間に立って、両者の意見や要望を「翻訳」して伝えるスタッフがいる場合があります。例えば「売上を伸ばす」「営業する」といったビジネスレベルの表現を「良いケアを実施して、地域で評価され、より多くの利用者に依頼される」「地域で顔の見える関係性を構築して、チームケアの質を向上させる」といった現場レベルの表現に言い換えることによって、専門職にとって受け入れやすい言葉になります。 小規模の事業所だと、そのような人材を探して採用することは現実的に難しいかもしれませんが、その場合は今いるスタッフの中から適任者を探して、実務を通じて「翻訳」技術を学んでもらうことが望ましいでしょう。また、たとえ「翻訳」できるスタッフがいるとしても、事業者自身が専門職の考えや現場の苦労を理解する努力をし、専門職とのコミュニケーションを図る必要があることは言うまでもありません。「訪問看護師にビジネスマインドを持ってもらう」には、まず事業者が「専門職マインドを持つ」ことが、実は一番の近道なのではないでしょうか。 株式会社メディヴァ コンサルタント 内野宗治 東京都出身。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。IT系コンサルティング会社勤務、ニュースサイト編集者、スポーツライター、通信社記者(マレーシア支局)等を経て現職。メディヴァでは、ヘルスケア関連企業の新規ビジネス開発や先進医療の普及・実用化に向けた戦略策定支援、自治体の地域医療拡充サポート、中央省庁の調査案件等に携わる。

コラム
2021年3月16日
2021年3月16日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 経営編~

【第1回】ソフィアメディ(株)創業者水谷氏から学んだ「訪問看護の社長業」(※1)について語ります。  コラム執筆者:一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー/理事長  上原良夫 訪問看護業界の経営基本 現役の頃、私は教育・研修部長まで引き上げていただき、水谷氏から直接幾つもの教えを受けました。 訪問看護事業に限らず訪問診療や介護系事業では、人事部門、教育・研修部門、渉外・営業部門、会計部門の4部門に強いリーダーを配置することが肝心だ、とも教わりました。 訪問看護ステーションの経営サイクルとは 製造業では、モノを仕入れて、加工して製品にし、売れるように商品化して販売します。そしてお金を動かす会計機能が重要ですが、我々の業界では以下のように置き換えます。 モノを仕入れる=優れた人物採用活動の徹底。 加工して製品にする=教育・研修メニューと運営の徹底。 売れるように商品化して販売する=技術は当然、礼儀、礼節、マナー、エチケット、言葉使いなど躾て、地域関係者に宣伝、広報活動を徹底する。 会計機能=事務、請求、回収、分配を徹底。 サービス業の経営視点 今回は人事部門の要領について自分が教えをいただいた内容を披露したいと思います。根本には何処にも真似ができない経営方針書があり、社員には開示して、毎朝朝礼で朗読もしていました。 先ず人事部門の定義は、「人が中心、人で社質が決まります」とその思想が明確であり、初っ端なから腑に落ちる文言がありました。 次には以下のような具体的な方針と手段が明記されています。(ここで伝えたい内容に絞っているため、全てではありません。) ① 募集媒体・イベント・少人数勉強会・体験訪問・採用特典等沢山の智恵を駆使します。通用しない過去手法は捨て、直ぐに次案を創造すること。 ② 就業特典や手当、入社前後の優遇策、女性・子育てに関する時間や立場の優遇策、短時間でも生産性が上がり労使にメリットがある工夫、教育・研修の徹底した差別化対応などの施策をどんどん打っていきます。 ③ SNS、ICTの先行と、有能コンサルタントの活用、隠れた異業種の優良企業との交流も積極的に進めて、井の中の蛙状態にならない。さらなる独自性を強く意識した人事部構造を創ることが大事です。この点、先行投資を惜しみません。 ④ 大学、短大、専門学校、業界団体等に顔を売ること。ある程度の定期訪問と情報交換、ときには会食も交えて人間関係を深めることが大事です。学校の講座やセミナーも引き受けて、直接学生に訴えるような場面をつくることも重要です。 ⑤ NS・PT・OT・STは臨床経験5年以上の中途採用に拘らず、短期の経験でも人間性と専門性を修得してもらい、ロイヤリティの高い人物を採用していきます。 ⑥ 総合職は大学新卒採用を基本としながらも、キャリアが必要なケースは中途採用で年間計画人員を確保します。事務職・介護職は新卒配置と中途採用の両面で対応します。 ⑦ 募集要項・会社の取り組み紹介は、知性と感性の勝負である。正直な内容は当然であるが、文章力、色、見せ方を泥臭くスマートに演出するのが鉄則である。HPは毎週1回、フェイスブックはほぼ毎日の管理が原則です。 ⑧ 肝心要は面接対応力ですが、親身、親切、丁寧、優しい、素敵な笑顔、動画企画が良い、機転・気が利く、前後の連絡が良い、幹部の同席、判断が早いなど全て競合と比較されています。応募者の判断基準は、事前の評判や規模・実績・給料の評価が50%、担当者の人柄、感じの良さ、熱心さが50%です。 いかがでしたでしょうか。訪問看護事業者といえども、全てサービス業の視点で深く追求していたと思います。専門職の狭い了見はなく、英知が散りばめられていました。次回はこの続きと他の部門について、ソフィアメディ(株)創業者水谷氏から薫陶を受けたことを語ります。 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫  【略歴】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務   【参考】 ※1:水谷和美著「訪問看護の社長業」

コラム
2021年3月9日
2021年3月9日

コミュニケーションスキル(訪問看護指示書)とマネジメントスキル

第2回では、「医師・多職種とコミュニケーションを取るスキル」について解説しました。今回は他職種とコミュニケーションを取るスキルの訪問看護指示書についてとマネジメントスキルについてお話します。 訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル ②本人・家族の平時の生活を想像するスキル ③他職種とコミュニケーションを取るスキル ④マネジメントスキル ⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル ⑥在宅療養利用者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) ⑦医療制度・介護制度などに関しての知識 ⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 医師とコミュニケーションを取るスキル【対医師・訪問看護指示書について】 前回の続きとして、コミュニケーションの中では、実地寄りの話になりますが、訪問看護指示書のやり取りについて、お話をしたいと思います。なお、ここでは、前回と同様に同一法人所属ではない医師とのやり取りを想定しています。 訪問看護指示書について、困った経験を持つ看護師さんは非常に多いと思います。私のところにも、訪問看護師さんから「円滑に指示書を記載してもらうには、どうすればよいでしょうか?」という相談があります。その相談の種類はおよそ2つに分けられます。 【代表的な訪問看護指示書に関しての相談】 ・訪問看護指示書を中々記載してくれない(期限) ・記載して欲しい内容が指示書内に書いていない(内容) これらの相談に対して、前回お話した「俯瞰的に物事をみること」に基づいてお答えします。なお、ここでは仮に医師側にその原因がある場合でも、訪問看護師さんが主体となって解決するための方法という視点で考えていきます。訪問看護指示書依頼のコツは4つあります。 【訪問看護指示書依頼のコツ】 1.依頼のタイミングを工夫する 2.依頼の方法を工夫する 3.依頼の必要性を明確にする 4.指示してほしい内容を明確にする それぞれについて、説明していきます。 1.依頼のタイミングを工夫する まず、ほとんどの訪問看護ステーションが実施していると思いますが、出来れば1か月程度前を目途に指示書の記載依頼を出しましょう。その際に、「俯瞰的に物事をみること」に則り、いわゆる一人在支診(医師一人で運営している在支診)のように、事務員がいない診療所に対しては、依頼を出す時間帯を工夫しましょう。 医師側は多忙なため、その依頼事項を失認してしまうことが多いです。少なくとも医師が繁忙な時間を避けて依頼することが良いでしょう。一般的には、お昼の時間帯や16時以降がおすすめです。逆に週初めや週終わりは往診発生率が高くなるため、なるべく依頼は避けるようにしましょう。 2.依頼の方法を工夫する 例えばFAXやメール、ICT等で依頼を出す場合、メールタイトルなどに明確に「訪問看護指示書依頼」といった文言を記載しましょう。さらに可能であれば、「なぜ指示書がすぐに必要なのか」の記載があると、医師側も後工程を意識するため、記載への意識が少し高まることがあります。例えば、メール内容に「次の訪問看護指示期間における訪問予定を立てる必要があるため、指示書が必要」と記載するなどです。 電話等での依頼では中々対応してくれず、直接医療機関に訪問して指示書の記載をお願いしている訪問看護ステーションもあると思いますが、これは業務負荷が高くなってしまいます。 患者側の病態背景的に問題がない場合であれば、最長指示期間(6か月間)で指示書を記載してもらうのもひとつの手でしょう。また、退院時に病院主治医から6か月間の指示期間で訪問看護指示書の記載を依頼することも、同様に有効だと思います。 3.依頼の必要性を明確にする 特別訪問看護指示書の依頼に苦労されている訪問看護ステーションが多い一方で、医師側からは、「○○訪問看護ステーションは、すぐに理由も言わずに特別訪看指示書を求めてくる」という声が上がることがあります。 私自身も何度も特別訪問看護指示書の記載依頼をいただいたことがありますが、やはり指示を出す側としてもその責任を負うため、指示書の必要性をきちんと説明してもらえた方が、対応がしやすいと感じます。これは特に信頼関係の構築が未達の医療機関相手の場合に当てはまります。 つまり、「○○さん(患者)は現在、こういった状況なので、こういった処置やこういった観察のために、訪問看護の頻度を上げたいと考えていますが、いかがでしょうか?」、「ご家族の負担が大きくなっているため、訪問看護の頻度を増やした方が良いと考えますが、いかがでしょうか?」といった形で指示を仰いでもらうと、医師側も特別訪問看護指示に対しての納得が得やすくなります。 ここでもこれまでのコラムでお話した俯瞰力やSBARがその力を発揮してくることになります。仮にこれでも特別訪問看護指示が出なかった場合は、ケアマネージャーに相談し、その必要性を説明しつつ、介護保険での訪問看護回数を増やせないかの相談する流れとなると思います。 4.指示してほしい内容を明確にする 最近は電子カルテ上で訪問看護指示書を作成することが多くなってきているため、どうしても前回指示のコピー&ペーストで作成することが多くなります。そのため、肯定できることではないですが、直近の患者さんの病態が反映されていなかったり、病態変化に伴った指示内容が漏れたりするケースが多くあります。 それらに対しては、訪問看護ステーション側で指示書の下書き、もしくは付箋をつけて、記載して欲しい内容を明確にすることで解決できることが増えると思います。もちろん、下書きを嫌がる医師も多いため、事前に見極めが必要となりますが、少なくとも訪問看護ステーション側が欲しい指示を明確にされることに対して、抵抗を感じる医師は少ないと思います。 マネジメントスキル ここで述べるマネジメントはケアマネジメントではなく、患者さんのために動く多職種で構成されたチームに対してのマネジメントの話が主となります。在宅医療介護現場においては、チームマネジメントが重要ですが、病院等の医療機関内と比較すると、各職種の所属組織が変わるため、やや難度は上がります。しかし、基本的な考え方は在宅医療介護現場も入院等の現場も同じです。 すでにみなさんが実践されていることも多いと思いますが、ここではマネジメントを少し構造化して述べたいと思います。 マネジメントとは何か? 様々な定義がありますが、ここでは「組織(チーム)として、ミッションを達成するための仕組み」として考えます。その上で、在宅医療介護の現場におけるミッションを「いかに患者利益を上げるか」、仕組みを「各職種の働き」と捉えることとします。「患者さんの利益を最大化するために各職種がどう働くか」がマネジメントであり、それを促進させるのがマネージャーです。 ただし、医療介護現場においては一般的な企業と違いマネージャーが明確でないことが多く、裏を返せば、チームメンバー全員が自身の業務範囲の中で、患者利益を追求するマネージャーになり得るし、ならないといけないと考えています。 そう考えると、訪問看護師に必要なマネジメントも見えてきます。つまり、患者利益を最大化するために、自身がアクションするとともに、医師やケアマネージャー、介護職等の他職種にどのようにアクションしてもらうかを考え、それを実行してもらう必要があるのです。 では、どのように具体的にどのようにマネジメントしていけばよいのでしょうか?一般的な流れをご説明します。 【在宅医療介護現場におけるマネジメントの流れ】 1.患者利益を最大化する目標の設定(大項目と小項目の設定) 2. チーム全体で目標大項目の共有、関連職種で目標小項目の共有 3. 目標に基づいた他職種へのアプローチ 1~3を、病態変化や環境変化に応じて再確認/再設定しながら、繰り返す 1.患者利益を最大化する目標の設定 マネジメントにおいて最初にすべきことは、目標設定です。目標設定とは「何が患者利益を最大化するか、明確にする」ことです。ここで必要になるのが第1回のコラムでお話した「本人の思いを吸い上げるスキル」です。本人の思いなくして、利益の最大化は絶対にありません。本人の思いを吸い上げることで、患者利益の最大化が見え、マネジメント目標となるのです。 また目標の具体性については、少しACPの考え方と近くなる部分もありますが、大項目と小項目の設定が必要です。大項目は患者さんがどういった形で日常を過ごしたいか、最期を迎えたいかといったすべての職種と共有すべき目標です。小項目は大項目をもとに作成する、主に自身の業務範囲を中心とした特定の職種と共有すべき目標です。例えば内服の種類が減らしたいという患者さんの思いを訪問看護師さんが吸い上げた場合、それを主に医師や訪問薬剤師とともに、可能な限り内服薬の整理を目指します。 ここで注意してほしいのが、マネジメント目標は患者さんの病態変化、ADL変化、家庭環境の変化等で変わるということです。状況が変わった際には、再度患者さんの思いを吸い上げ、その変化に気付いた場合は、目標を再設定するステップを繰り返しましょう。 2.チーム全体で目標大項目の共有、関連職種で目標小項目の共有 マネジメント目標が定まったら、その共有をしていきます。共有はすでにされている方が多いと思いますが、重要なのが大項目の共有です。患者さんの病態が変化した際に、チームのベクトルを合わせることが出来るか否かで、マネジメントの成否が決まるといっても過言ではありません。 共有の方法は、電話・メール・ICT等、様々なツールがありますが、訪問看護師さんの立場では、可能であれば少なくとも医師やケアマネージャーとは対面や電話等の口頭で伝えるやり方が、最もお互いにその目標を理解しあえると考えています。特に訪問看護師さんならではの目線で設定された目標は医師が気づいていないことがあるため、ぜひしっかり共有していただきたいと思います。 3.目標に基づいた他職種へのアプローチ 共有ができたら、次はマネージャー的な動きとして、いかに目標達成のために他職種に動いてもらうかを考えます。これには多くの方が苦労をされていると思います。絶対的な対策はありませんが、マネジメント目標がしっかり共有できていれば、他職種のアクションにつながることも増えるため、まずは目標の共有を意識しましょう。 しかし、それでも円滑にアクションに繋がらないことも多いと思います。その場合、ここでも「俯瞰的にものごとを見ること」が重要になります。相手がどういった考えを持っているか、どういった行動原理があるかを見極めることができれば、相手に合わせて自身がやり方を変えることができます。結果として、相手に行動を促すこともマネジメントのひとつの方法なのです。 相手の行動原理にある程度あわせて、自身を変えることになりますが、あなたの行動がチームとして患者さんの利益を最大化することにつながります。 例えば、ケアマネージャーが看護師資格保有しているなど医療のことも含めて、マネジメントシップを取れると判断できる場合には、そのケアマネージャーと密に連絡を取りましょう。反対に、もしケアマネージャーが医療については、進んでマネジメントシップを取りたがらないと判断できる場合は、訪問看護師さんが医療についてはハブ機能を担いましょう。 このように相手の考え方やスキルの応じたて判断や適応をすることで、円滑な他職種へアプローチを実践しましょう。訪問看護師さはチームの要となることが非常に多いため、マネジメントスキルを磨くことで、患者利益の最大化をぜひ、目指していただきたいと思います。 本コラム第3回目として、訪問看護指示書に関してのコミュニケーションのコツやマネジメントについて述べさせていただきました。次回は、医師のいない場での医療的判断などについてお話します。 医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

インタビュー
2021年3月9日
2021年3月9日

備えがあれば、コミュニケーションでも困らない

前回は、災害時個別支援計画の概要や作成の経緯についてお伺いしました。今回は実際どのようにして支援計画を立てているか佐渡本さんと下園先生にお話伺います。 利用者さんの災害意識の高まりに繋がることも ー先ほどの個別支援計画には「調整担当者」や「家族状況」を記載する欄がありましたが、作成は誰がどのようにしているのですか? 佐渡本: 基本的には、その方に合わせた原案を私たちで作成して持っていきます。その上で「こういう時はどうしようか」と利用者さんと相談しながら決めています。 ご家族や多職種との連携についてはまだ研究途中ですが、実際問題として避難物品を準備してもらう、あるいは連絡方法を考えるときにはご家族の協力が必要です。 ーケアマネジャーさんともお話されているのですか? 佐渡本: 支援が足りない方にはケアマネジャーさんや民生委員さんに入っていただかないといけないこともあります。なので、基本的には利用者さんとご家族を中心として、ケアマネジャーさんにも調整役として協力していただいて作成しています。 ー実際に災害時個別支援計画を運用したケースはありますか? 佐渡本: いえ、まだないですね。災害が起きていないので、実際に使ったことはないです。 下園: でも、意識はちょっと高まってますよね。「災害が起こった時のために準備はしなきゃね」とか「やっぱり私もちゃんと考えた方がいいかしら」と言ってくれる方もいます。 佐渡本: そうですね。避難グッズを準備してくれたり、消火器を点検してくれたり、ガスの元栓を閉めるようにしたり、そういう意識の高まりがありますね。あとは、利用者さんが私たちに対して今まで以上に信頼や安心感を持ってくださっていると感じることもありました。 まだ一部の利用者さんのみで導入しているものですが、今後ステーションとして1つの強みになるのではないかと思っています。 ーステーションの強みというのは? 佐渡本: 例えば、難病の方を担当されているケアマネジャーさんは、災害を気にされていることが多いです。 災害時個別支援計画を作成できるステーションとして、私たちを選んでいただけるようになるといいなと思っています。 地域の連携ツールとしての個別支援計画 ー最後に、災害時個別支援計画の今後の展望についてお伺いできますか? 佐渡本: 様式の基本はできましたが、例えば、医療依存度が高いか、認知機能の低下があるか、介助者がいるかなどの違いによって、作り方は変わってきます。利用者さん、看護師、ケアマネジャーさんや主治医に見てもらいながら、さらにブラシュアップしていきたいと思っています。 ー今後の課題などはありますか? 佐渡本: はい。1つは、現在の個別支援計画は時間をかけて作成していますが、利用者さんにお金をいただいているわけではないので、継続していく難しさがあることです。もう1つは、名古屋は今まで災害が少なかった地域なので、災害への理解を得るのに苦労するケースがあることです。どう浸透させて、継続していくかを今後もっと考えて行きたいですね。 下園: 私は災害時個別支援計画書そのものが、情報共有の連携ツールになると思っています。実は災害時には、利用者さん1人に対して、何人もの人が様子を見に家に行くということが発生しています。限られた時間とマンパワーの中で、すごく無駄な動きをしているんです。 ーそうなんですね。知りませんでした・・・。 下園: この無駄をなくすためにも、誰がどこに行ったとか、どんな状況かという情報を共有できるしくみが必要です。こういった情報共有ができるITツールを、開発してもらいたいなと思います。 また、災害時の避難所の体調不良者への対応など、訪問看護師さんの力をより有効活用していくことができないかとも考えています。地域全体で協力して、色々なしくみを実現していきたいですね。 合同会社Beplace代表 / テンハート訪問看護ステーション管理者 / 感染管理認定看護師・臨床検査技師 佐渡本琢也 臨床検査技師として勤務する中で、患者と接する仕事に魅力を感じ、看護師の道へ。病院では脳神経外科、消化器外科を経験し、感染管理認定看護師の資格を取得。母を癌でなくした経験から「在宅で看護師ができることが、まだあるのではないか」という思いを持ち、同僚からの誘いをきっかけに愛知県名古屋市にテンハート訪問看護ステーションを立ち上げた。 愛知医科大学 医学部衛生学講座 客員研究員 下園美保子 阪神淡路大震災、東日本大震災を経験。東日本大震災では保健師として岩手県山田町の災害救護班の一員として、各家の訪問や避難所運営の管理に従事。その後、学生に対する災害対策マニュアル作成、大学のBCP作成など、災害に関わるプロジェクトや研究にも携わる。

インタビュー
2021年3月9日
2021年3月9日

異業種参入 第四の壁:専門職の教育

セントケア・グループが訪問看護部門の立ち上げたのは、今から約20年前です。拡大するにつれ、ケアの一定の質担保が困難になりますが、自社でアセスメントツールを開発することで、ケアの質を一定に担保する工夫をしています。教育やサポート体制について藤原さんにお伺いしました。 新人でも、ひとりで考える不安が減るツール ―たくさんの専門職がいる中で、どのようにケアの質を一定に保っているのでしょうか? 藤原: ベテランはアセスメントが得意なのは、全体像が見えているからです。 私たちは、新人や若手も必要な項目を入力していくことで、自分のケアを俯瞰的にとらえられるアセスメントツールとして『看護のアイちゃん』を開発しました。 ―具体的には、どんなメリットがあるのでしょうか? 藤原: 例えば、呼吸に異常を発見したが、医師に報告するべきことか迷うという事態は日常的に起こると思います。『看護のアイちゃん』で、報告するべき呼吸数を事前に設定しておけば、通常のケアの中で項目を入力後、フローチャートが出てきて、「報告が必要です」とシステムが教えてくれます。言い換えれば、別の看護師がなぜ医師に報告をしたのかを知りたい時にも、簡単に確認ができます。 ーなるほど。それは安心感がありますね。 藤原: また、毎回訪問看護でみる項目が決まっているので、新人さんでも目の前の何を見たらいいのかと、ひとりで考えなくてはいけない不安が軽減できると思います。 日々の記録はもちろん、計画書や報告書にもクラウド上で情報が反映されるようになっているので、管理者のチェック業務も、かなり楽になりました。 ―そのほかの看護師さんをサポートするしくみを教えていただけますか。 藤原: 採用時の研修は1.5日ほど座学と、1か月の同行研修があり、だいたい3か月でほぼひとり立ちの流れです。 ただ、技術的な部分のフォロー体制はまだ足りていないと感じています。今後は、手技をシナリオに沿って学習できるシミュレーションモデルのようなものも活用して行きたいです。 また、入職された後、中長期的な目標として、認定や専門看護師などのスペシャリスト、管理者のようなジェネラリストのキャリアステップを選べるようなしくみも作りたいと考えています。 ―管理者のチェック業務も楽になったとのことですが、レセプトの処理はどのようにされていますか? 藤原: 本社で集約しています。訪問看護事務という部門があり、そこで医療保険の請求書の間違いがないよう、加算のとり忘れがないように徹底してチェックしてから、レセプト請求しています。部門としては10人ほどいます。ただ、制度に関する相談は、私のいる訪問看護部門に連絡が来ることが多いです。それでもわからなければ、コンプライアンス課や厚労省に直接確認することもあります。 今後は、訪問のスケジュール立てから記録、請求までのすべてが、お客様の情報として管理できるような一気通貫のシステムにしていきたいですね。 セントケア・ホールディング株式会社 訪問看護部門 統括次長 藤原祐子 病院勤務で、在宅に受け皿がないために、帰りたくても家に帰れない高齢者が多くいる現実を見て、世の中の制度に疑問を感じるようになる。その後、結婚・出産を経て、2000年に介護保険制度がスタートするタイミングで、介護保険や訪問看護について勉強し、訪問看護師へ転身。管理者としてセントケア・グループに入職し、現在はセントケア・ホールディングの訪問看護部門統括次長として、訪問看護ステーションの安定運営をサポートする基盤づくりに注力している。 セントケア・グループ 1999年、株式会社として初となる訪問看護ステーションを開設。現在では97か所の訪問看護ステーションを全国に展開し、訪問入浴や訪問介護、デイサービス、有料老人ホームなどの幅広い事業にも取り組んでいる。(2020年11月時点)      

インタビュー
2021年3月9日
2021年3月9日

カフェも併設!地域と繋がるステーション

野花ヘルスプロモート(通称 のばな)では、地域住民との交流カフェ「NOBANA SIDE CAFE」や地域の高齢者見守り「みま〜も」を運営し、地域に貢献しています。引き続き、冨田さんにお話を伺いました。 まちの保健室のような本格派カフェ ―のばなさんでは、「NOBANA SIDE CAFE」というカフェも運営されていますよね。どのようなきっかけで始められたのですか? 冨田: 地域の居場所、まちの保健室のようなコンセプトで作りました。 どうしても私たちの職種って、目の前に患者さんやご家族が来られる時には、すでに病気であったり困っていたりする状態のことが多いです。そのため、支援を開始するタイミングが遅くなってしまいます。 そこで、私たちの日頃の仕事を地域の人に知ってもらい「何か困ったら、ここに相談すれば大丈夫や」「ここなら安心や」と思ってもらいたくて、岸和田の商店街のど真ん中にカフェを作りました。 ―カフェがすごくおしゃれで、驚きました。 冨田: 一番大切にしたのは、いわゆるカフェスタイルにすることです。巷では認知症カフェやデスカフェなどもありますけど、本格的にこだわったカフェが作りたかったので、店内のデザインや雑貨はアメリカの古いスタイルのものにしています。 ―カフェはどのような方が来られますか? 冨田: 客層が面白いんです。高齢者も多いですけど、このあたりは喫茶店でモーニングを食べる文化があるのでおしゃれな方もたくさん来ます。周辺でモーニングが食べられる喫茶店が少なくなってきた中で「NOBANA SIDE CAFE」ができたので、憩いの場という役割も担っているようです。 ―カフェではどんな活動をされているのでしょうか? 冨田: カルチャーセンターのような体験活動が定期的にできればよかったのですが、コロナ禍で今はできていないですね。こんな中で地域の方々はどうやって情報を集めるのだろう、と思っていた中で訪問看護だけはずっと直接お宅に伺うことができました。 集まることはできなくても、行って情報を伝えることはできる。これはまさに訪問看護だからできたことかなと思っています。そうはいっても、リアルに集まりたいですね。 本来繋がらないところと繋がれる ―高齢者見守りの「みま~も岸和田」はどのようにして始められたのですか? 冨田: 法人の代表である医師から「地域でできる活動はないか」という相談を受けたんです。みま~も代表の澤登久雄さん(全国に拡大中!地域を支える『みま~も』とは?)と知り合いの看護師がいたので、そのつてでのれん分けをしてもらいました。 みま~もは全国に何か所も活動拠点がありますが、それぞれコンセプトは少し違います。岸和田の場合は高齢者の見守りだけではなく、子どもも交えてスタートしました。 自分が助けてもらいたいときには助けてもらい、自分に余裕ができて助けられるときには助けるという場所を作っています。 ―実際はどのような活動をされているのでしょうか。 冨田: セミナーだけでなく、書道や着付けなど、地域の人が趣味を広げることができるような活動もしています。弊社のスタッフも運営委員として参加はしていますが、地域の人がメインとなってお互い教え合えるように進めています。 運営にはどうしても資金が必要なので、地域の企業に協賛していただいています。協賛企業の中には、この活動から地域のニーズを拾って形にしているところもあります。かゆいところに手が届くような企業は、地域にも愛されるんだなと実感しています。 ―実際に地域のニーズを拾えた例など教えていただけますか? 冨田: 例えば、葬儀屋さんって営業なんてできないですが、エンディングノートの書き方や人の死を悪いものと捉えない面白い話をしてくれたことで、地域の中でファンが増えました。本来だったら繋がらなかったところと繋がることができるんですよね。 ―最後に、訪問看護にかける想いをお願いします。 冨田: 日本全体で看護師の仕事を俯瞰してみたら、働ける場所って昔と比べて変化してきていると思うんです。今まで通りどこの病院でも働けるのは難しくなってくるだろうし、そういう時に訪問看護という選択肢が出てきてほしいです。 病院では「看護師さん」と呼ばれがちですが、訪問看護では「○○さん」と名前を呼んでもらえることで、楽しかったり、使命感だったり、やりがいだったりを感じることができます。自分がどうしたいかではなく、地域に何が必要とされているかを正しく捉えて返していくことですね。 野花ヘルスプロモート代表取締役 冨田昌秀 祖母が看護師だった影響を受けて自身も看護師に。病棟での看護に違和感があり、介護保険施行のタイミングで起業を決意。代表を務める野花ヘルスプロモートは認知症ケアに注力しており、大阪府岸和田市にてケアプランセンター、デイサービス、訪問介護、訪問看護、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホームを運営。

コラム
2021年3月2日
2021年3月2日

漫画『ナースのチカラ 〜私たちにできること 訪問看護物語〜』に学ぶ、訪問看護という職業の魅力

『ナースのチカラ 〜私たちにできること 訪問看護物語〜』という漫画をご存知だろうか? 2020年4月に単行本第1巻が発売されたこの作品は、義母の介護をキッカケに50歳で新人訪問看護師となった主人公と、彼女を支える訪問看護ステーションの同僚たち、そして利用者や家族の奮闘を描いた物語だ。この漫画を通して、訪問看護という職業の魅力を紐解いていきたいと思う。 コラム執筆者: 株式会社メディヴァ/コンサルタント 内野宗治 事例集のような作品 この漫画は一話読み切りのエピソードで毎回、様々な病状や家庭環境、価値観を有する利用者や家族が登場し、訪問看護師たちが「どうサポートすべきか」と頭を悩ませる。 「自宅で最期を迎えたい」利用者や家族の希望を叶えるため、あの手この手でサポートする訪問看護師たちの姿には胸を打たれるが、美しい話ばかりではない。 80歳代の母親と50歳代の引きこもり息子が暮らす「ゴミ屋敷」をスリッパ持参で訪問したり、末期の乳がんを患う女性の夫が妻の介護に疲れてうっかり他の女性と浮気してしまったり、といった妙にリアリティあるエピソードも読み応えがある。 この漫画の作者、広田奈都美さんは、自身が病棟、訪問のいずれも経験している看護師であり、前作に当たる『おうちで死にたい 自然で穏やかな最後の日々』もやはり訪問看護を題材にした作品だ。 訪問看護に関する制度やお金についての専門的な話や、在宅療養において重要なACP(アドバンス・ケア・プランニング)の話などもあり、ストーリーを楽しみながらも訪問看護について多角的に学べる、よくできた事例集のような作品になっている。 「利用者や家族の「生活」や「人生」に寄り添うのが在宅」 これらの作品を通じて描かれているのは、訪問看護という仕事が単に患者の「病気」を見るのではなく、利用者や家族の「生活」や「人生」に寄り添い、支えるものであるということ。そして、利用者の数だけ異なるサポートの形があるということだ。 たとえば、末期癌を患った男性の妻が、夫の病状を心配する余裕もないほど、お金の不安で頭が一杯になってしまうというエピソードがある。 夫の治療費、子供たちの進学費用、微々たる貯金とパートタイムの仕事で得る給料・・・助成金や保険金をもらえるならもらいたいが、何がどうなっているのかよくわからない。そんな彼女を見かねた訪問看護師が、家にある「お金に関する書類」を全て集めるよう提言し、役所や保険会社にひとつひとつ問い合わせていく。その結果、「これだけ稼げば、何とかやっていける」という目処が立ち、ひと安心したところで女性は初めて涙を流す。 現実には、訪問看護師がここまで介入するケースは多くないかもしれないが、在宅療養者にとって比較的身近な存在である訪問看護師は、利用者や家族にとっての「相談窓口」的存在になることも多いだろう。いわゆる「看護」業務の枠を超えて、利用者や家族を多面的にサポートする仕事が多くなりやすいことは、訪問看護という仕事の大変さであり、同時に醍醐味であることが伺える。 「家族固有の問題」ではなく「社会全体の課題」 「在宅の基本は家族です。あくまで家族がお世話するのをお手伝いするのが在宅なんですよ」 このセリフは、作中に登場する訪問看護師が発するものだ。 もちろん、家族がいない独居者や、訳あって家族の支援を受けられない人もいるので、必ずしも「家族がお世話するのをお手伝いする」ことが訪問看護師に求められるわけではない。だが、病院の入院患者と比べ、在宅患者は家族と過ごす時間が長く、家族のサポートが必要となるケースが多いこともまた事実だ。 現状は、家族が主体でケアをしていることが多いので、その本人と家族のケアのやり方を尊重するのが大切だと、このセリフは教えてくれる。 介護保険制度が創設されるまで、介護を主に担ってきたのは家庭・家族だった。その後、「家庭・家族が担ってきた介護を社会共通の課題として認識し、実際の介護(ケア)を担う社会資源を、税と保険料を中心に拠出された財源によって社会全体が担っていくもの」という考えに基づく介護保険サービスが導入されたことによって、在宅医療を「家族固有の問題」ではなく「社会全体の課題」として捉え、社会全体で支える「介護の社会化」が進んだ。 このような背景から、在宅の主役は「在宅療養者・家族」であり、主役を支えサポートすることが訪問看護師や在宅療養に関わる専門職の役割なのだと言える。 『アンサング・シンデレラ』の次は訪問看護師? 訪問看護師の不足は、日本の訪問看護業界における主要な課題のひとつだ。 厚生労働省が2019年に推計(※1)したところによると、2025年に日本全国の看護職員は6〜27万人不足する見込みで、特に訪問看護師の不足が懸念されている。また、日本看護協会の発表(※2)によると、2018年における訪問看護ステーションの求人倍率は2.91倍で、病院や介護老人福祉施設(特養)を抑えて、最も求人倍率の高い(求人数に対して求職者が少ない)施設となっている。 訪問看護師の数を増やすには、適切な制度や教育、キャリアパスの設計に加えて、訪問看護師という職業の魅力が世の中で広く認知され、「訪問看護師になりたい」という人が増えていくことが重要だろう。もしかすると、『ナースのチカラ』や『おうちで死にたい』を読んで訪問看護師を目指す人も、今後出てくるかもしれない。 病院薬剤師が主人公の漫画『アンサング・シンデレラ』は今年、石原さとみの主演でテレビドラマ化されたが、訪問看護師が主役のドラマは生まれるだろうか? 株式会社メディヴァ コンサルタント 内野宗治東京都出身。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。IT系コンサルティング会社勤務、ニュースサイト編集者、スポーツライター、通信社記者(マレーシア支局)等を経て現職。メディヴァでは、ヘルスケア関連企業の新規ビジネス開発や先進医療の普及・実用化に向けた戦略策定支援、自治体の地域医療拡充サポート、中央省庁の調査案件等に携わる。 【参考】 ※1:医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ(概要) ※2:2018年度 「ナースセンター登録データに基づく 看護職の求職・求人・就職に関する分析」 結果

インタビュー
2021年3月2日
2021年3月2日

もしもに対応できる!災害時個別支援計画

テンハート訪問看護ステーションでは、愛知医科大学の下園先生と共同で、利用者さんごとに個別で災害時個別支援計画を作成し、「もしも」に備えています。具体的な支援計画の作成方法と共同開発することになった経緯を伺いました。 「ぱっと見て、さっと動ける」がコンセプト ーどのような経緯で、訪問看護ステーションと大学が共同で災害時個別支援計画を作ることになったのでしょうか? 佐渡本: 経緯としては、まず自分たちで一般的な訪問看護ステーションの災害対策マニュアルを作って、模擬訓練をやっていたんです。でも実際訓練をしてみると、利用者さんそれぞれの状況や環境がかなり異なっていて、制作したマニュアルが現実的ではないと気づきました。 ー現実的でないというのは? 佐渡本: 実際震災が起きたときに自分たちがどう動くかが見えない、概念的なマニュアルになっていたんです。 災害が起きた時に誰がどう動くか、何をするかが具体的に書いてあるマニュアルを作りたいと思いました。下園先生とは元々懇意にしていて、たまたまこの話をしたところ、興味を持っていただきました。 下園: 実は私の研究室の学生が、難病で在宅療養している方の災害対策に強い問題意識を持っていて、災害時個別支援計画の研究をしていたんですね。佐渡本さんと話した時に「実はこんなことを学生がやってて」と言ったら「うちもこんなことに困ってて」というお話があったので、そこでマッチしたのがきっかけです。 ー偶然にもお互いの課題が一致したんですね。 佐渡本: この偶然をきっかけに、下園先生に災害対策マニュアルの作成に協力していただくことになりました。 災害時の動き方を全部網羅できるわけではないけれど、1つのツールとして災害時個別支援計画を作成してはどうかという話になったんです。 ー具体的にどのようなことが記載されているのでしょうか? 佐渡本: 災害が起きた際に利用者さんご自身が「ぱっと見て、さっと動ける」ために必要なことを書いています。訪問看護師や行政が動くことが難しい中でも、ご利用者さんが1人でも生き延びるためのものです。避難所に避難される方であれば避難所に行くまでの動き方、自宅避難の方であれば自宅で生活できる環境の整え方を記載しています。 下園: 個別支援計画を作成することはステーションにとってもメリットがあります。1つは、災害が起きてもやることが決まっているため焦らず対処できること、もう1つは責任の範囲が明確化されることです。 ー責任の範囲の意味を教えて下さい。 下園: 例えば、訪問看護に向かう道中に震災が起きたとします。災害時の行動を決めておかないと、「待っていたのに看護師さんが来なかった」ということになるリスクがあります。 ーリスク回避のためにはどうしたらよいでしょうか? 下園: 個別支援計画で、災害時に利用者さんは何ができるか、何をする予定かが決まっていれば、あらかじめ利用者さんやご家族に説明しておけます。災害が起きた際は「看護師は自分の身の安全確保を最優先し、訪問へは行きません。訪問が終わって帰る道中でも同様です」ということも事前に説明しておけば トラブルを未然に防ぐことができます。 被害の想定まで行うことで具体的な行動レベルに ー実際の災害時個別支援計画を見せていただけますか? 佐渡本: はい、改良を続けているので今は少し違うものになっていますが、こちらが2019年に学会で発表したときのものになります。 下園: 各項目について簡単に説明しますね。 「調整担当者」は利用者さんの全体状況を見通してマネジメントできる方、「家族状況」は実際に連絡がつき動けるご家族を明記します。 この2つの項目は、被災時に訪問看護ステーションが動けなかったとしても、自分自身で行動するのに必要な情報です。「想定被害」は、利用者さんの家の場所と想定震度から被害を想定したものです。 この被害の想定には、名古屋市が出している液状化危険度マップや津波到達時間想定マップを利用していますが、この作業がとても大変なのが今の課題です。 ー想定は、大変でも必要不可欠な要素なんですね。 下園: きちんと想定ができていないと、どこに避難すべきか、何をすべきかを決めることができません。そのほか、裏にはかなり細かく具体的な行動を書けるようになっており、悩まず行動ができるように工夫しています。「想定被害」の記載があることが、私たちの災害時個別支援計画の大きな特徴だと思います。 合同会社Beplace代表 / テンハート訪問看護ステーション管理者 / 感染管理認定看護師・臨床検査技師 佐渡本琢也 臨床検査技師として勤務する中で、患者と接する仕事に魅力を感じ、看護師の道へ。病院では脳神経外科、消化器外科を経験し、感染管理認定看護師の資格を取得。母を癌でなくした経験から「在宅で看護師ができることが、まだあるのではないか」という思いを持ち、同僚からの誘いをきっかけに愛知県名古屋市にテンハート訪問看護ステーションを立ち上げた。 愛知医科大学 医学部衛生学講座 客員研究員 下園美保子 阪神淡路大震災、東日本大震災を経験。東日本大震災では保健師として岩手県山田町の災害救護班の一員として、各家の訪問や避難所運営の管理に従事。その後、学生に対する災害対策マニュアル作成、大学のBCP作成など、災害に関わるプロジェクトや研究にも携わる。 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年3月2日
2021年3月2日

異業種参入 第三の壁:お客様獲得

事業規模の拡大には、専門職の確保とともに継続的にお客様の確保が必要です。オープン当初のステーションにも真似できる、営業戦略の立て方と営業のコツを藤原さんに伺いました。 データを活用した、綿密な計画 ーセントケア・グループの営業戦略を教えていただけますか? 藤原: 訪問診療をやっている医師が強い、ケアマネさんが強いなど、地域によって特徴があります。お客様獲得には、こういったデータをもとに戦略を立てることが大切です。 セントケアでは、以下の手順で営業戦略を決めています。 1. お客様獲得が必要なエリアを選定 2. 該当エリアにある訪問先リストの作成 3. データをもとに各訪問先に対し、「誰が営業に行くか」「どういったことを話すか」を会議で決定 特に3については、その施設にいる方の性質まで考えた上で、誰が行くべきかを決めています。営業先の中で特に重要だと思っているのが、病院です。訪問看護の指示を出すのは医師なので、医師との信頼関係は、継続的なお客様獲得にとって重要なことだと思っています。 ー病院への営業というのは、具体的にどのようなことをされるのでしょうか? 藤原: 具体的な営業方法はシンプルで、看護師が定期的に病院に伺うようしています。 そうすると、どの病院でどんな患者さんが退院されるのかがわかるようになってきますし、退院調整室と顔見知りになれます。 そこで相談してもらい、退院前のカンファレンスに参加することができれば、主治医との信頼関係を作ることができます。医師との信頼関係があれば、退院後のやり取りもスムーズになるので、お客様の安心にもつながっていると感じます。こういった戦略は各子会社の事業部と本社の私達が一緒に考えています。 ー看護師さんの中には、「営業が苦手」という方も多いかと思いますが、どのようにサポートしていますか? 藤原: 本社から現場の悩みに対応したアドバイスをしています。例えば「ケアマネさんへの営業で、初回にセントケアの良いところをアピールし終わってしまうと、二回目以降の訪問に行きづらいです。どうしたら良いでしょうか?」というお悩みがありました。 これには「アピールだけでは、うまく行きません。今、ケアマネさんがどんなお客様を担当されているかを聞いた上で、困ったことがあれば相談してもらえる関係性を作るといいですよ」とアドバイスしました。 ーなるほど。ちょっとしたことかもしれませんが、すごく納得しました。 藤原: ほかにも「来週お答えを持ってきますね」と言えば、次につながりやすいなど、今まで上手くいった例をお伝えする役割を本社で担っています。 また営業の際に活用できる、お客様の病気や状態への対応方法の事例をまとめたチラシも現在では50種類くらい用意しています。 ー50種類も!チラシはどのように活用されているのでしょうか? 藤原: 活用方法としては例えば、胃ろうを作った直後のお客様の家族が、今後のこと心配している状態であれば、「訪問看護ではこういうケアをしていきますよ」とチラシを使って説明して、ケアを実際にイメージしてもらっています。こういったお客様に安心してもらう工夫の積み重ねが、セントケアの価値を高めていくと思います。 セントケア・ホールディング株式会社 訪問看護部門 統括次長 藤原祐子 病院勤務で、在宅に受け皿がないために、帰りたくても家に帰れない高齢者が多くいる現実を見て、世の中の制度に疑問を感じるようになる。その後、結婚・出産を経て、2000年に介護保険制度がスタートするタイミングで、介護保険や訪問看護について勉強し、訪問看護師へ転身。管理者としてセントケア・グループに入職し、現在はセントケア・ホールディングの訪問看護部門統括次長として、訪問看護ステーションの安定運営をサポートする基盤づくりに注力している。 セントケア・グループ 1999年、株式会社として初となる訪問看護ステーションを開設。現在では97か所の訪問看護ステーションを全国に展開し、訪問入浴や訪問介護、デイサービス、有料老人ホームなどの幅広い事業にも取り組んでいる。(2020年11月時点)    

インタビュー
2021年3月2日
2021年3月2日

地域の強みを活かし合う「見える事例検討会」とは

地域全体の底上げをするため、のばなでは「見える事例検討会」を実施しています。実際にどんな人が参加して、どのように行われているのでしょうか。引き続き、冨田さんにお話を伺いました。 見えることで伝わる思い ー見える事例検討会をはじめたきっかけを教えてください。 冨田: 病床数が減ってスムーズに入院できないこともある中で、在宅生活をどう支えていくかに強く課題を感じていました。そこで必要だと思ったのが、多職種で知恵を共有し連携を図ることです。 どんな方法がいいか試行錯誤した結果、「見える事例検討会」に辿り着きました。 ーどんな試行錯誤をされたんですか? 冨田: これまでは自分たちの活動や思いを可視化できる機会がありませんでした。それが劇場型というか、勉強会という形で「見える」ようにしたことで自分たちの思いが伝わるようになりました。 名刺交換をしたらネットワーク広がった気になることもありますが、名刺交換した人がどういう思いで利用者さんと関わっているかを知る機会はなかなかありません。それが、ひとつの事例を通していろんな意見を出していくと見えてくるんです。 ー名刺交換のお話、確かに!と思いました。参加されている方の反応はいかがですか? 冨田: お互いの考えが見える場所として、同じように実感してくれているようです。 見える事例検討会の目的は「援助技術の向上」「事例の課題解決」「ネットワークの構築」です。参加者は医師、看護師、そのほかの医療従事者、ボランティア、民生委員、お寺の住職、行政の方なんかも来ますが、一番多いのは、訪問看護ステーションさんですね。 ーお寺の住職さんまでとは幅広いですね。訪問看護ステーションにとってはどのようなメリットがあると感じますか? 冨田:参加者が自分たちの意見を出すことにより、福祉関係者や行政の人たちから「この訪問看護ステーションは、こういう考えでやっているのか」と認識してもらえます。まず知ってもらうことで、次の関係に進んでいくことができると思いますね。 多職種の強みと弱みを生かせる地域へ ー見える事例検討会は具体的にどのように実施されているのでしょうか? 冨田: 検討会は「見え検マップ」というマインドマップを中心に進行しています。まずAさんという方に関して病気、家族構成、生活状況、課題などの事例を提供されます。参加者が「ここはどうですか?」など質問をして、答えられた情報をマップに追記していく流れです。 ホワイトボードに書き足していくことで全体像が視覚的に見えるようになります。そして、事例に関わっている方が見落としていた部分や自分たちの強みにも気付くことができます。 ー具体的にどんな気づきがあるのか、聞かせてください。 冨田: 例えば、看護師さんが参加されていると質問内容は薬や持病など医療的なものがどうしても多くなりがちです。一方、ケアマネジャーさんなど他の職種からは地域住民との関わり、経済状況などについての質問が上がってきます。 専門と専門外のように「強みと弱み」を補っていけるような知恵の共有ができていきます。お互いに「ここは協力しなければ」という気持ちになりますね。 ー自分と違う職種の人がいるからこそ、気づけることがあるんですね。 冨田: はい。他にも、権利擁護の使い方が分からなかったケアマネジャーさんに士業の方がアドバイスできたこともありました。地域包括支援センターの方が地域の社会資源を知り、ないものは行政としてどう作っていくか、考える材料として持ち帰ることもあります。 ー見える事例検討会は今後の目標などはありますか? 冨田: 地域力の底上げのためにファシリテートしていければと思っています。 実は見える事例検討会の発祥は横浜なんです。医師と社会福祉士の方が立ち上げ、その方々から研修を受けました。現在は日本全国に見え検トレーナーの養成講座を受けた方がいて、地域ごとに行われています。 ー冨田さんは何年前から、見える事例検討会をやられているんですか? 冨田: 僕たちが見える事例検討会を始めたのは2014年です。開催回数も80回を超えました。在宅を軸に働かれている多職種の方や看護学生の間でもスタンダードになるまで続けていきたいと思っています。 野花ヘルスプロモート代表取締役 冨田昌秀 祖母が看護師だった影響を受けて自身も看護師に。病棟での看護に違和感があり、介護保険施行のタイミングで起業を決意。代表を務める野花ヘルスプロモートは認知症ケアに注力しており、大阪府岸和田市にてケアプランセンター、デイサービス、訪問介護、訪問看護、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホームを運営。 地域で活躍する訪問看護ステーションについてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

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