2021年1月22日
なぜスタッフの心が離れてしまうのか?(ビジョンと成果)
訪問看護ステーションにおける大きな課題として、スタッフの離職率の高さがあります。スタッフが1人辞めると、採用・育成コストはもちろん、利用者さんとの信頼関係にも影響がでます。
本コラムでは、スタッフに安心して長く働いでもらうために、経営者や管理者が知っておくべきこと、やるべきことをお伝えします。
「ビジョン」と「成果」を明確にする
訪問看護ステーションの運営は、「ビジョン」と「成果」によって決まります。「ビジョン」とは実現したい将来像であり、「成果」とはビジョンを実現するための具体的な行動指針です。
ビジョンの設定
多くの訪問看護ステーションには経営者の理想の看護観や理念があると思います。利用者さんへのひとかたならぬ思いには私も常に感服する気持ちでいっぱいです。
ですが、せっかくの理念が、将来どのような姿となって実現されているか、はっきりと描かれており、明確にスタッフに伝わっているでしょうか?
もし理念のみしか設定していないのであれば、まずご自身の事業の方向性と未来の事業の姿を融合させて、ビジョンを設定しましょう。
例えば「情報技術を活用し、多職種連携と連携して、2025年までに地域に欠かせない訪問看護ステーションとなる」などです。
想いの共有
次に、スタッフ自身には「何のためにここで働くのか」「何のためにこの仕事をするのか」を考えてもらいます。ビジョンを設定する段階から、スタッフと一緒に考えてもいいかもしれません。
組織の思いと個人の思いが重なるところが、スタッフたちの育成方針となっていきます。
逆に、自身の理想の看護を追求するあまりスタッフの思いに気づかないでいると、知らないうちにスタッフとの関係に溝ができることにもなるので、十分気を付けましょう。
成果の設定
「ビジョン」が明確になり、想いを共有できたら、次にビジョンを実現するためにはどんな「成果」が必要か考えます。
皆さんの事業所の「成果」とはなんでしょうか?
「成果」として最もわかりやすいのが売り上げです。売り上げとは数字だけでなく、例えばどんな思いで達成していくかもひとつの「成果」と言えます。
また当然ですが、成果を出していくことは経営者や管理者一人では成し得ないことで、スタッフたちにもその成果への理解を深めてもらう必要があります。
そのためにも自分たちにとっての成果とは何かについてスタッフとしっかりと話し合い、「成果の基準」を明確にすることが必要です。
成功循環モデル
「成果の基準」が明確になったら、その成果を得るために、どうすべきか考えます。ここではダニエル・キム「成功循環モデル」における、「結果の質」の上げ方をご紹介します。
このモデルでは、「結果の質」を上げるには、「行動の質」を高める必要があります。「行動の質」を上げるには、「思考の質」を高める必要があります。「思考の質」を上げるには、「関係の質」を高める必要があります。では「関係の質」を高めるとは、どういうことでしょうか?
関係の質を高める
訪問看護ステーションでは、集まってくるスタッフは皆、専門スキルを持った者同士。それぞれのキャリアや背景があります。そのために個々の考えや価値観が異なるのは当然でしょう。
一方、訪問看護は個別で利用者さんのところへ行く仕事ではありますが、事務所ではさまざまな連携やコミュニケーションが必要になっていきます。
では、もしスタッフ同士が相手への理解や信頼をしていない状態で事業が運営されていたら、何が起こるでしょうか?
スタッフ同士の心理的な安全性を保てていないため、必要なことすら共有されず、仕事が行き違い、結果的には利用者さんへのサービスの質の低下にもつながるでしょう。また、サービスは提供できたとしても、非効率で、働き方としては無駄の多いやり方になってしまいかねません。
そのために、管理者としてはこのスタッフ同士の「関係性」に関わっていくことが必須となります。
次回はこの関係性を意図的に改善していくために、管理者として「コーチング」の視点を持つことで何ができるかについてお話します。
OfficeItself 代表 コーチ・ファシリテーター
山縣いつ子
2008年から企業や医療従事者向けにコーチングや研修を提供。クライアントは中間管理層を始め、女性管理者も多く、ベンチャーの執行役員、医療従事者、NPO組織の代表など幅広く担当している。
【コラムご意見番】 ~訪問看護ステーション管理者 ぴあの目~
本コラムを読んで、スタッフがビジョンを理解することで、行動が変わったケースを思い出しました。私が新設の訪問看護ステーションで管理者をやっていた時のお話です。
当時は新設のため利用者が少なく、スタッフみんなで営業に行って新規の利用者を獲得しないと、ステーションの運営も困難な状況でした。
ですが、スタッフたちは「看護しに来ているのに、なんで営業なんか・・・」という思いが強くあり、なかなか営業に行ってくれませんでした。
しかし、私が言った一言で、スタッフたちが営業に行ってくれるようになりました。そして、このコラムを読んで、その言葉がビジョンにつながっていたんだと気づきました。
「看護を提供できる場を広げるために私たちのことを地域の人たちに知ってもらおう。依頼が来たら、みんなでいい看護を提供できるようをがんばろう」
当たり前の言葉に思えますが、お互いが「私たち看護をたくさんの人に届けたい」という想いを共有できたことが結果的に、「たくさんの方に利用してもらうために営業をがんばろう」と成果の設定へとつながったと思います。
その一方コラムを読んで、あの時、成果の基準を明確にして、スタッフみんなで成功循環モデル回せていたら、もっと地域に愛される訪問看護ステーションになれたかもしれないなという後悔も少しありました。