アセスメントに関する記事

特集
2022年6月28日
2022年6月28日

【専門家執筆&監修】認知症患者が異食を行う原因は?対応方法・NG行動を解説

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。最終回の第12回は、食べられないものを食べる患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 70歳代女性。食事はあっという間に食べてしまい、食べたことを覚えていない。家族が目を離すとティッシュペーパーをお茶に浸けて食べたり、消しゴムや煮ていない豆類を食べ、嘔吐や下痢をする。 なぜ患者さんは異物を食べるのか? 認知症が重度になると、食物とそうでないものとの区別がつかず、異食が起きることがあります。異食とは、食べられないものを口に入れることや、食べてしまうことです。 味覚がしっかりあれば、異食した場合にも吐き出すことができますが、味覚が障害されていると飲み込んでしまいます。 また、満腹中枢の鈍化も、異食や過食を招くことになります。心理的に、孤独感や満たされない欲求などの代償として、異食が起こることもあります。 患者さんをどう理解する? このような認知症患者さんへの対応としては、苦痛や不安な思いに寄り添い、患者さんの苦痛を取り除くと混乱がしずまるといわれています。 異食に遭遇したら 異食をしている場面に遭遇した場合は、患者さんを驚かせないように、落ち着いた対応が大切です。 まずは、異食の患者さんを見かけたら、大きな声を出さないようにしましょう。その声に驚いて患者さんが反射的に飲み込むことがあります。 異食をしたものをすぐに口外に出そうと、患者さんの口の中に無理やり手を入れようとすると、患者さんは驚いて口を開かなかったり、噛んだりすることがあります。 慌てずに、患者さんの名前をゆっくり呼び、体にそっと触れて注意を向けてから、患者さん自身に口を開けてもらうようにお願いし、吐き出せるように促していきます。 異食の例 異食するものには、実にさまざまなものがあります。 異食の例 ・新聞・ティッシュペーパー・花・草・土・洗剤・薬品・化粧品・電池・タバコ・ゴミ・自分の便・布類(タオル等)・紙オムツ・花瓶の花 命に危険が及ばないものの場合は、他の食品(たとえばお菓子など)を用意して交換する方法もあります。 薬品・電池など命に危険があるものを食べた場合には、各製品に添付されている応急処置(吐かせる・水を飲ませて薄めるなど)をすると同時に、医師による処置を受けます。 異食により命に危険がおよぶものは、見えないところや手の届かないところに片付けて、患者さんの生活する空間の環境整備を行います。ティッシュペーパーや布などのように窒息に結びつくものにも注意を払い、患者さんの安全を守ることが必要です。 こんな対応はDo not! × 異食を発見したときに、驚いて大きな声を出す× 異食した物を慌てて口から出そうとする こんな対応をしてみよう! 異食は食欲の異常ではなく、欲求不満に伴う反射的、衝動的な行為であることが多いので、まずは患者さんの周囲に危険なものを置かないようにしましょう。また、異食をしていないかどうか、患者さんが口を動かしているときなどに声を掛け、見守るようにするとよいでしょう。 栄養素として鉄やカルシウム不足などが異食の原因となることもありますので、認知症の症状と決めつけてしまわず、きちんと検査し原因を明らかにすることも必要です。 執筆茨城県立つくば看護専門学校佐藤圭子 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)諏訪さゆりほか.「認知症高齢者の看護計画」『医療依存度の高い認知症高齢者の治療と看護計画』諏訪さゆりほか編.愛知,日総研出版,2006,179-85.2)油野規代ほか.『認知症を伴う大腿骨頚部骨折患者に関わる整形外科看護師の対応困難な場面における臨床判断』金沢大学つるま保健学会誌.34(1),2010,91-9. 3)長嶋紀一.「認知症の人の医学知識」『認知症介護の基本』長嶋紀一編.東京,中央法規出版,2008,39-40.

特集
2022年6月21日
2022年6月21日

【管理栄養士のアドバイスvol.7】高齢者の下痢と食事

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。前回は高齢者の便秘について学びましたが、今回は「下痢」についてです。 下痢への対応 皆さんご存じのように、「下痢」とは、水分を多く含む、かたちのない糞便を排泄することです。前回のダウンロード資料でも取り上げたブリストルスケール1)で、便性状のアセスメントが可能です。 下痢をすると、食欲不振や脱水、また腸管での栄養吸収不良により、低栄養につながる可能性もあります。 今回は、管理栄養士の視点での原因や対策の方法をお知らせしますが、下痢の原因は消化器疾患によるものや薬剤によるものなど人それぞれですので、多職種連携をして原因究明と対策に取り組みましょう。 在宅療養者によくある下痢症状 1食中毒 夏場に向けて特に注意が必要な食中毒ですが、予防で大事なことは、細菌やウイルスを「付けない」「増やさない」「やっつける」です。 生のお肉などは食中毒の原因菌が多ので、生食をする野菜、または生食食品に触れる包丁やお皿に「付けない」ように、生のお肉の取り扱いには注意が必要です。 暖かい室内は、細菌にとっては居心地の良い環境です。細菌を「増やさない」ために、料理は常温放置しないようにしましょう。 最後は「やっつける」です。食中毒の原因になる病原体は、高温で加熱することで死滅します。しっかりと中心まで熱が通るように加熱しましょう。中心部がまだ赤いようなお肉は、加熱が十分でなく、食中毒のリスクが高いです。 高齢者では、腸管が弱くなっていて、少しの病原体に感染するだけで重症化することもありえるので、特に注意が必要です。 チェックポイント! 在宅療養者さんの台所を覗いてみましょう。出来上がった料理が常温に置かれている場合は、冷蔵庫に入れるように伝えましょう。定期的に介入するヘルパーさんがいれば、情報提供して、衛生管理に協力してもらいましょう。 在宅療養者によくある下痢症状 2牛乳や乳製品 高齢者だけではありませんが、牛乳や乳製品を飲むとお腹を下してしまう方がいます。これは乳糖不耐症で、小腸粘膜上皮の乳糖分解酵素「ラクターゼ」が欠如しており乳糖が分解されないことで起こります。 牛乳や乳製品だけでなく、経腸栄養剤や栄養補助食品には乳糖が含まれていることが多いので、下痢をする場合は成分を確認してみましょう。 乳糖不耐症の場合は牛乳や乳製品を避けることが解決策ですが、経腸栄養剤には乳糖不使用の製品が少ないので、どうしても乳糖含有の栄養剤を使用しなければならない場合は、乳糖分解酵素の処方を主治医の先生と相談してみてくださいね。 チェックポイント! 乳糖不耐症が疑われる場合は、本人や家族に「若い頃に牛乳を飲む習慣があったか」「乳製品でお腹を壊す事があったか」を聞いてみましょう。 在宅療養者によくある下痢症状 3経腸栄養剤の使用 経腸栄養剤や栄養補助食品の使用により下痢をしてしまう場合、前述のように、まずは乳糖不耐症を疑います。 そうではない場合は、高浸透圧性の下痢の可能性があります。胃瘻や経鼻経管栄養の投与速度が高いと下痢をすることはよく聞きますが、経口摂取の場合も同様の症状が出る場合があります。 浸透圧の高い経腸栄養剤を摂取すると、小腸上皮の毛細血管から腸管腔内に水分が移動して腸粘膜で水分の再吸収が起こります。それにより、腸蠕動が亢進し下痢が生じるのです。 そのため、特に浸透圧の高い経腸栄養剤の場合は少量ずつ時間をかけて飲んだり、紅茶やコーヒーなどで薄めて飲む、または浸透圧の低い製品に変更をすることをおすすめします。 チェックポイント! 経腸栄養剤による下痢が疑われる場合は、何をどのくらいの速度で摂取(注入)しているのかを確認しましょう。 経口摂取の場合は、「一日のうちで数回に分けて飲んでくださいね」とお伝えすることも、対策の一つです。 下痢をしているときの対応 下痢による弊害の一つに脱水があります。下痢により、体内の水分が排出されてしまうため、水分や電解質が不足してしまう状態です。 そのため、水分吸収が速やかに行われる適度な浸透圧である経口補水液がすすめられています。経口補水液では、ナトリウムやカリウムなどの電解質も補えます。 薬局で購入できる経口補水液としては、OS-1(大塚製薬工場)やアクアソリタ(味の素)、明治アクアサポート(明治)などがあります。 急な下痢症状で家に経口補水液がない場合は、手作りできる簡単なレシピ(ダウンロード資料)がありますので、参考にしてみてください。 おわりに 下痢の症状や原因はさまざまであり、適切なアセスメントが重要です。今回挙げた、食品が由来する下痢のほかにも、消化器疾患によるものや難治性の病状もあります。 放置すると低栄養や皮膚トラブルにもつながることもあり、早期対応が重要な一方で、排泄というデリケートな問題のため悩みを打ち明けてくださらない人もおり、排泄にかかわる問題の表出は氷山の一角であるともいわれています。 特に、療養者とのかかわりが深く医療的知識の豊富な訪問看護師が、気づくことがとても重要です。ぜひ、この機会に担当利用者様の排泄状況にも目を向けてみましょう。 ー第8回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)Lewis,SJ.et al.Stool form scale as a useful guide to intestinal transit time.Scand.J.Gastroenterol.32(9),1997,920-4.2)医療情報科学研究所.『病気がみえるVol.1消化器』第6版.東京,メディックメディア,2020.3)谷口英喜.「経口補水療法」『日本生気象学会雑誌』52(4),2015,151-64. 記事協力株式会社大塚製薬工場味の素株式会社株式会社明治

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2022年6月21日
2022年6月21日

うつ熱?感染?高齢者が発熱した場合のアセスメント

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。最終回は、急に高体温となった患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 89歳男性。寝たきりで在宅療養をしている患者さんで、高齢の妻が介護しています。訪問して体温を計測したところ、38.0℃ありました。   あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 急に高体温となっており、感染による発熱、またはうつ熱や熱中症の可能性があります。体温を正確に計測して鑑別を行います。感染徴候を確認し、重篤度と原因を推定し、敗血症の徴候がみられたら速やかに医療につなげる必要があります。 ここに注目! ●感染による発熱かどうか?●寝たきりだと自分で環境調整がしにくく、介護力も強くはないため、うつ熱の可能性もあるのでは? 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・高体温の経過(気づいた時刻、その後の処置と経過)・高体温に伴う症状(熱感、悪寒、発汗、頭痛、頭重感、だるさ、関節や皮膚の痛み、ふらつき、転倒)・うつ熱・熱中症のリスクとなる環境(高温多湿、掛け物の掛けすぎ、湯たんぽや電気毛布の使用、など)・感染徴候(疼痛、腫脹、発赤、熱感、分泌物の増加、のどの痛み、咳、痰、喘鳴、尿の混濁や浮遊物、血尿、尿の臭気の増加、下痢、不消化便、血便、など)・生活への影響(食欲と食事摂取量の低下、水分摂取量の減少、活動量の減少、ADLの低下) 客観的情報の収集 体温 体温を測定し、平熱との差を確かめます。 うつ熱では、体温放散を促すと体温が下がります。薄着にするなど、熱が放散されやすいようにしてしばらく様子をみて、体温を計測しなおしてください。すぐに低下すれば、うつ熱と判断してもよいでしょう。 感染による発熱の場合は、冷罨法では体温の低下は起こらず、悪寒を増強する可能性があります。悪寒戦慄と解熱の日内変動がみられることが多く、消炎鎮痛薬の使用で速やかに体温が下がりますが、原因となっている炎症が治まらないかぎり、薬の効果が切れると上昇します。 皮膚温 看護師の手背を使って皮膚の温度を確認しましょう。 手背で皮膚温を触診 うつ熱の場合は熱がこもった状態であるため、皮膚温も高いです。体温は高いのに末梢に冷感がある場合は、発熱前の悪寒と考えられ、感染の疑いが強くなります。 敗血症徴候 感染が全身に及ぶと、重篤な全身症状を引き起こす敗血症になります。発熱に加え、ショック状態(頻呼吸、頻脈、血圧低下、意識レベルの低下やせん妄)となり、播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation;DIC)を併発することがあります。 DICでは、紫斑がみられることがあり、口腔や陰部等の粘膜から出血することもあります。このような徴候がみられれば、速やかに医師に報告して対処が必要です。 感染部位の探索 特に高齢者が感染を起こしやすいのは、 ・褥瘡や外傷、医療機器刺入部等、皮膚の破綻がある部位・呼吸器系・尿路・消化器系・医療機器挿入によるもの です。これらの部位の皮膚や粘膜に、腫脹・発赤・熱感・疼痛・分泌物増加がないかを確認します。 中心静脈カテーテル等の医療機器が原因となる感染は、原因を取り除かないかぎり治まらず、敗血症になる可能性がありますので、注意深く観察してください。 報告のポイント ・高体温の経過・炎症の徴候、炎症の原因部位・敗血症の徴候 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年6月14日
2022年6月14日

ケアを拒否する場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第11回は、清拭の前に布団を外すと殴ろうとする患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代、女性。以前からアルツハイマー病との診断を受け、行動障害がみられていたが暴力行為はなかった。何度も同じことを繰り返し話すが、こちらの質問には答えていた。ある日訪問して、説明後、全身清拭を始めようと布団を外すと「なんでそんなことするの、痛いでしょ!」と叫び、看護師を殴ろうとしてきた。 なぜ患者さんは殴りかかってきたのか? この患者さんは、ふだんから何度も同じことを繰り返し話しています。このことから、記憶障害が出ていることが推測できます。認知症による記憶障害のために、自分が話した内容を覚えておらず、同じ話を繰り返していると思われます。 また、「清拭のために」「布団を外す必要がある」という事柄の関連づけができていないことが推測されます。「ゼンシンセイシキ」(全身清拭)という言葉も耳慣れない表現だったのかもしれません。それらの理由から、「布団を外されて、何かされるのではないか」という恐怖心を抱いたのでしょう。 布団を外されると「痛い」と訴えていることから、痛みが恐怖につながっていると思われます。また、過去に「布団を外されると痛いことをされる」という、痛みの体験と結びつく記憶があるのかもしれません。 患者さんをどう理解する? 認知症の患者さんから拒否があった場合は、心配や苦痛などの理由があると推測し、相手の意思を尊重する姿勢を示しましょう1)。 この患者さんは、記憶を保持する時間がとても短いと思われますので、ケアをするときには、すべての行為動作における促しを、「これから○○しますね」など、あたかも実況中継をするかのように誘導するといった声掛けが必要でしょう。認知症の方は、これから何が起こるかを予測する力が低下していることがあり、こういった声掛けがより効果的です。 また、日常生活では「ゼンシンセイシキ」(全身清拭)という言葉は使わないので、意味を理解しないまま返事をしていたのかもしれません。 こんな対応はDo not! × 日常生活で使われない言葉を使用する× 認知症の患者さんの記憶障害や理解力に対する配慮不足× BPSDの出現を予測したかかわりへの配慮不足 こんな対応をしてみよう! ふだん使っている平易な言葉を使うよう心掛けることで、伝わりやすくなります。 また、認知症の特徴である記憶障害の程度に合わせた声掛けのタイミングも重要です。一つ一つの動作に合わせ、促しの言葉掛けが必要な場合もあります。 患者さんが暴力的になる背景には、過去に恐怖につながる経験があるのかもしれません。家族に聞くと、ケアのヒントが見つかるかもしれません。もし、暴力的になった場合は、感情を汲み取り「怖がらせてごめんなさい」などの声掛けをして、その場で清拭することにこだわらず、日を改めてもよいでしょう。 執筆関 千代子(せき・ちよこ)つくば国際大学医療保健学部 看護学科教授 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)中島紀恵子ほか編.『認知症高齢者の看護』東京,医歯薬出版,2007,170p.

特集
2022年6月7日
2022年6月7日

【管理栄養士のアドバイスvol.6】便秘を予防する食事

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第6回は、便秘を改善したいときの食事の工夫を紹介します。 はじめに 高齢者は、日々の運動量の低下や、食事の変化による食物繊維摂取量の減少、また腸内環境の変化により便秘を引き起こしやすいといわれています。今回は、便秘を改善する食品をいくつかご紹介いたします。 腸を元気にしよう 腸内フローラ 私たちの腸の中には、たくさんの細菌が生息しています。その数は約1,000種類ともいわれています。顕微鏡で腸を覗いたときに、まさにお花畑のように見えることから、「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。 この腸内フローラは、▷善玉菌 ▷悪玉菌 ▷日和見菌 ── の三種類に大きく分けられます。 健康な腸内では、体に良い働きをするビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が多いのですが、悪玉菌が優勢になると、悪玉菌が作り出す有害物質の影響により、便秘や下痢などお腹の不調を引き起こします。 日和見菌は、善玉菌と悪玉菌のうち、優勢な菌と同じ働きをします。すなわち、悪玉菌が優勢の環境下では、日和見菌が悪玉菌と同様の働きをし、さらに腸内環境が悪化してしまうのです。 さて、善玉菌の代表格であるビフィズス菌は、加齢変化とともに菌数が減少することがわかっています1)。高齢期に腸内環境が悪化しやすいのは、このような要因もあるといわれています。 プロバイオティクス 加齢により減ってしまう腸内の善玉菌を経口摂取することで、善玉菌の数自体を増やそう! このプロバイオティクスの代表的なものは、乳酸菌やビフィズス菌です。なんと、これらの細菌は、消化酵素によって死んでしまうことがなく、生きたまま腸に到達し、腸管内で増殖が可能なのです。 プロバイオティクスは、「腸内フローラのバランスを改善することによって、宿主の健康に好影響を与える生きた微生物」2)と定義されています。 プレバイオティクス 善玉菌のエサとなる食品を摂取する事により、善玉菌を元気にして腸内環境を改善しよう! プレバイオティクスの主な種類は、オリゴ糖や食物繊維などです。オリゴ糖にはビフィズス菌の増殖作用があり、食物繊維には腸内細菌の活性化作用があります。 プレバイオティクスは、「大腸の有用菌の増殖を選択的に促進し、宿主の健康を増進する難消化性食品」3)と定義されています。 シンバイオティクス プロバイオティクスとプレバイオティクス。この二つを組み合わせることで、さらなる相乗効果を目指すものが、シンバイオティクスです。すなわち、「善玉菌を腸に届けて、さらに善玉菌を元気に育てよう」ということです。 簡単に応用できる料理例はこちらです。 シンバイオティクス     プロバイオティクス     プレバイオティクス バナナヨーグルトヨーグルト(ビフィズス菌)バナナ(オリゴ糖)はちみつ(オリゴ糖)タマネギのみそ汁味噌(乳酸菌)ワカメ(水溶性食物繊維) タマネギ(水溶性食物繊維)ネバネバ納豆納豆(納豆菌)オクラ(水溶性食物繊維) メカブ(水溶性食物繊維)野菜たっぷり豚キムチ炒めキムチ(乳酸菌)キャベツ(オリゴ糖) シイタケ(水溶性食物繊維) 良い便をつくろう 腸が元気でも、便の原料が不足していると便秘になってしまいます。便は、水分が約70%です。残りは食べ物のカス、腸粘膜、腸内細菌の死骸によって構成されています。この食べ物のカスはすなわち、食物繊維です。食物繊維をしっかりととって、良い便をつくりましょう。 食物繊維は水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維の、ニ種類に大別されます。 水溶性食物繊維 水溶性食物繊維には、水分を保持してゲル状になり、便をやわらかくする働きがあります。 水溶性食物繊維を多く含む食べ物は、バナナなどの果物や、オクラやなめこ、山芋などのネバネバ食材、ワカメやメカブなどの海藻類です。 過剰に摂取すると、便がやわらかくなりすぎることや、下痢を引き起こすことがあります。サプリメントなどを使用する場合は、排便状況をみながら少しずつ量を増やしましょう。 不溶性食物繊維 一方で、不溶性食物繊維は、便の量を増やし、腸の蠕動運動を刺激して排便を促す働きがあります。 ゴボウやレンコンなど繊維が固い野菜や、キノコ類、黄粉や大豆などの豆類にも、不溶性食物繊維が多く含まれています。 不溶性食物繊維も、過剰に摂取すると便が固くなりすぎて、逆に便秘を引き起こすこともあります。サプリメントなどの使用は注意が必要です。 おわりに 高齢者には便秘の悩みはつきものですが、原因も体の状態にも個人差があるため、「これを食べたらみんな良くなる!」という万能食材はなかなかありません。だからこそ、ひとつずつ試してみて、変化を観察しながら気長に取り組んでいくことが重要です。 排便状態の変化に気づくためには、排便日記をつけてもらうこともよいですね。ぜひ、活用してみてください。 排便状態の把握に役立てられる「排便日誌」を【お役立ちツール】に掲載しておりますので日頃のケアにお役立てください。 ー第7回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)光岡知足.『腸内菌叢研究の歩み』腸内細菌学雑誌.25,2011,113-24.2)Fuller,R.『Probiotics in man and animals』J.Appl.Bacteriol. 66(5),1989,365-78.3)Gibson,GR.et al. 『Dietary modulation of the human colonic microbiota:introducing the concept of prebiotics』J.Nutr.125,1995,1401-12.4)清水健太郎ほか.『プロバイオティクス・プロバイオティクス』日本静脈経腸栄養学会雑誌.31(3),2016,797-802.5)福村智恵.『便秘と食習慣』厚生労働省e-ヘルスケアネット.https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-010.html 2022年4月15日閲覧

特集
2022年6月7日
2022年6月7日

褥瘡のせいでムセる? 慢性期の摂食嚥下リハビリテーション②

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、口腔機能には大きな問題がないのに、ムセがみられた事例を紹介します。 褥瘡による食生活への影響 娘さんの手料理とお孫さんの訪問を楽しみにしていた96歳の女性が、褥瘡を発症しました(DESIGN-R® 10点)。皮膚科医師による治療や管理栄養士による対応により改善したものの、さらなる問題が発生。チーム医療の連携によって健康な食生活を取り戻した事例を紹介します。 初診時は重篤な嚥下障害なし 事例 Gさん、96歳女性。要介護5、難聴、軽度認知症の疑い。常時寝たきりで褥瘡あり。残存歯数20本。 部分義歯の緩みのため、内科からの紹介があり、初回訪問となりました。まずは、歯科医師が部分義歯の緩みを調整しました。 嚥下評価は、緊張感と難聴のため、すぐには反応がないこともしばしば。ベッド上での嚥下評価(スクリーニング検査)は、オーラルデイアドコキネシス(ODK)注1は不明瞭。しかし、反復唾液嚥下テスト(RSST)注2や改訂水飲みテスト注3は、年齢的にはそれほどの問題もなく、おおむね準備期から咽頭期(連載第3回を参照)まで、特に重篤な嚥下障害は認められませんでした。 初診時の嚥下評価 RSST注22回/30秒ODKパ2回/秒、タ0.8回/秒、カ0回/秒改訂水飲みテスト注34点 頸部聴診音清明頬の膨らまし左右 十分できる食べこぼしなし 口腔衛生面では、口腔乾燥と、舌に軽度の舌苔付着がみられ、家族の協力も得られたので居宅療養管理指導にて月1回の訪問となりました。 間接訓練は、ブローイング(シャボン玉吹き)、パタカラ発声、口舌のストレッチを指導するのみで、しばらくはこのまま安定した状態が続くかと思われました。しかし、褥瘡が大きくなってきたと、訪問看護師からの情報提供がありました。 皮膚科治療と栄養指導で褥瘡が改善 内科から、皮膚科と管理栄養士の介入の要請がありました。 すぐに皮膚科医が診察し、デブリードマン(壊死組織に対する切除洗浄ほか)が行われました。そして、表皮形成促進作用のある噴霧剤が処方され、訪問看護師と連携し、創面の洗浄などに使用するよう対応をしました。 褥瘡治癒の過程には栄養が必須であり、低栄養では治癒が遷延します。Gさんの場合は、管理栄養士によると「摂取している総エネルギー量は600kcal/日で、全体的に低栄養の疑いがある」とのことでした。 さまざまな栄養補助食品の提案をしましたが、家族の意向で一般の食品の中からアイスクリームやプリン、おしるこを追加することになりました。褥瘡への対応として、アルギニン注4や亜鉛等が配合された栄養補助飲料を紹介すると、毎日欠かさずに飲むようになったそうです。 3か月ほどで、訪問看護師から、創面の表皮の形成がみられてきたと報告がありました。 今度はムセが頻発 ところが、Gさん宅から戻った管理栄養士から、再度の嚥下評価の依頼がありました。今度はムセが頻発するようになったのです。 再評価をしたところ、点数は前回の評価とあまり変化はなく、SpO2も94~96%と安定していました。 ただ、前回は車いす上で食事をしていたが、最近は、褥瘡への負担を心配してベッド上(セミファーラー位15~30度)での食事をしているとのことでした。食形態を確認すると煮魚や軟飯など、咀嚼できることを意識した、UDF区分の「容易にかめる」に近いことがわかりました。 ムセは咽頭期の症状ですが、臥床に近い姿勢が、準備期での咀嚼機能と口腔期の送り込みに影響して飲み込むときにムセが生じた、つまり食形態と姿勢がうまく適合していなかった可能性が十分に考えられました。 食事の姿勢でムセやすくなる 口腔機能に問題がないのにムセがみられる場合に、注意することは、姿勢です。 ムセにくい安全な食事時の姿勢は、起座位です。下にずり落ちやすい場合は、膝の下と足の裏をクッションなどで補正します。さらに、顎はあげずに、引くようにして食べてもらいます。しかし、Gさんの場合のように、仙骨に負担をかけまいと臥床に近い姿勢を優先するのであれば、舌などの飲み込みに重要な役割を担う口腔周囲筋群が重力の影響を受けます。 幸い、Gさんはその後、褥瘡の改善で、起座位に近い姿勢(60~90度)が可能になりました。それによってムセずに食事ができるようになりました。 96歳という年齢でも、内科・皮膚科・栄養・歯科にわたる、各チームの専門性が生かされた連携が奏功し、半年後には褥瘡もほとんど治癒するまで回復された事例でした。 次回は、脳血管障害後の胃瘻の方に、食事時の姿勢調整などで経口へ導いた事例を紹介します。 注1 オーラルディアドコキネシス(ODK):1秒間に「パ」「タ」「カ」をそれぞれ何回発音できるかをカウントする注2 反復唾液嚥下テスト(RSST):65歳以上では、3回/30秒で正常注3 改訂水飲みテスト:3mLの冷水を飲み、呼吸や嚥下の状態を評価する。4点以上でほぼ正常注4 アルギニン1):アミノ酸の一種。創傷治癒時に優先的に消費され、「条件付き必須アミノ酸」といわれる 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士) 【参考】 1)田村佳奈美.アルギニン.『Nutrition Care』9(7),2016,32-3.

特集
2022年5月31日
2022年5月31日

「昨日の夜から排尿がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第11回は、ふだんは朝に排尿があるのに、昨夜から今朝まで排尿がない患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 おむつを使用して排泄している90歳男性。ふだんは朝に排尿があるにもかかわらず、昨日の夜から、朝までおむつに排尿がみられません。 あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 尿が出ていない場合は、①尿の生成量が少なく、膀胱に尿がほとんど貯留していない(乏尿・無尿) ②尿の生成ができていて膀胱に貯留していても排出できない(尿閉) ── が考えられます。 ①乏尿では、▷脱水や嘔吐、発熱、心臓のポンプ能力の低下などで腎血流量が減少して尿の生成ができない ▷腎機能そのものに障害がある ▷尿路結石や腫瘍の浸潤により尿管が閉塞し、膀胱に尿がたまらない状態 ── などが考えられます。 ②尿閉は、膀胱よりも下位の障害、神経因性膀胱や前立腺肥大、尿道狭窄により起こるものです。患者さんの苦痛が大きく、放置しておくと尿貯留が上行性に広がり、水腎症や腎盂腎炎などを引き起こす恐れがあります。 乏尿(無尿)と尿閉では対処方法がまったく違いますので、これらが区別できるような情報を収集し、報告しましょう。 ここに注目! ●乏尿(無尿)により排尿がないのではないか?●尿閉により排尿がないのではないか? 乏尿(無尿)のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿路結石や腫瘍による激しい疼痛、腰部や背部に放散するような痛み・乏尿の原因となる循環血流量の減少を招く心不全のアセスメント、脱水の症状を確認する 乏尿(無尿)のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 乏尿の基準は400mL/日以下とされています。一回排尿量が150mLとすると、排尿回数では3回/日以下では注意が必要となります。最終排尿からの時間で換算すると、単純計算では8時間以上間隔が空くと要注意です。 ただし、ホルモンや血流量の関係で、日中は排尿間隔が長く、夜間には短くなるので、いつもの排尿時刻や回数と比較してください。 腎機能が保たれているのに尿量が少ない場合は、尿が濃くなります。最終排尿の色や臭気、いつもとの違いを確認してください。 脈拍・血圧測定 腎臓への血液循環が低下している状態では乏尿になりますので、血圧の低下、脈拍の低下がないかを確認します。 体温測定 高体温になると、不感蒸泄の増加で脱水状態となり、乏尿をきたす可能性があります。 身体への水分貯留のアセスメント 循環障害や腎障害では、全身性の浮腫があらわれます。顔面や全身の腫脹、重力がかかる部位の圧痕を確認します。水分出納を計算し、できれば体重もチェックできるとよいでしょう。 尿閉のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿閉の症状(尿意、激しい尿意、腹部膨満感、腹痛、強い焦燥感や不安感、冷汗、など)・尿閉の原因(前立腺肥大、尿線が細い、残尿がある、脳血管疾患や脊髄疾患等、神経因性膀胱となる要因、など) 尿閉のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 最終排尿時刻を確認し、どれくらいの時間出ていないのか、排泄できずに貯留している尿量を見積もります。また、ふだんの排尿時に、尿線が細い、排尿に時間がかかる、出きらない感覚がなかったかを確認します。 脈拍・血圧測定 痛みや尿が排出できない苦痛で、血圧や脈拍が上昇することがあります。意識レベルの低い高齢者や認知症の患者さんの場合には、苦痛の有無をバイタルサインから推測してください。 膀胱内の尿貯留の確認 膀胱は、正常であれば充満しても恥骨結合内部にとどまり、腹壁から視診・触診することはできません。 尿閉などで貯留量が多くなった場合は、下腹部が膨満し、硬く触れます。打診すると濁音が聞かれます。 腎臓の叩打診 背部の肋骨の下縁くらいに手を置き、その手の上を叩きます。両側行います。 尿路結石や尿路の狭窄では、叩打診をした場合に響くような痛みを感じることがあります。 カテーテルを挿入しての尿排出の確認 医師の指示を得て行いましょう。カテーテルを挿入する経路に狭窄や閉塞がある可能性があるので、なるべく細いカテーテルを用いること、違和感があった場合は速やかに挿入をやめて、医師に相談することが必要です。 報告のポイント ・最終排尿時刻と尿の性状、本人の訴え・乏尿または、尿閉の可能性があると判断したアセスメント結果 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年5月31日
2022年5月31日

排泄の失敗がある場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第10回は、オムツを外してシーツに失禁する患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代男性。10年前に脳梗塞を発症、2年前に脳血管性認知症の診断を受け、行動障害もみられている。会話は通じず、意味不明の言葉を発することもある。便意・尿意が不明なため、オムツを使用している。オムツを外してシーツに失禁することを繰り返し、シーツ交換してオムツをしようとすると抵抗する。看護師が「オムツはお嫌ですか?」と尋ねると、「そんなことない」と答えるが、いつもシーツが濡れている。 なぜ患者さんはオムツを外してしまうのか? 「オムツはお嫌ですか?」と看護師が尋ねていますが、患者さんはそもそも、問われている意味がわかっていないのかもしれません。脳血管性認知症で行動障害もみられており、認知症の特徴である失行・失認が背景にあると考えられます。 オムツを外す理由は二つ考えられます。 一つは、排泄するために下着を脱ぐように、排尿前にオムツを外している可能性です。そもそもオムツをしていると思っていない患者さんにとっては、下着(オムツ)を外すことは排尿時の当然の動作であり、「排尿もできてすっきり!」という気分と思われます。 もう一つは、オムツをしていること自体に不快感があるため、不快なものは除去したい本能から無意識に外している可能性です。説明してオムツをしても、患者さんには失認があり、オムツの目的を理解していません。自分が失禁してシーツを汚してしまったことを、まったく把握していないと考えられます。 患者さんをどう理解する? 認知症の患者さんとのやりとりで、質問に対して的確なあいづちや返事が返ってくることがあります。そんなとき、話が通じていると思いがちですが、実際はまったく通じていないことも少なくありません。 この患者さんは失禁を繰り返しているため、失禁が患者さんに及ぼす影響と、排泄への援助を考えていきましょう。 失禁が患者さんに及ぼす影響 ・皮膚の汚染は、皮膚の損傷に結びつく・失禁後の不快な状況から逃れようと次の行動をとることもあるため危険防止が必要・部屋に尿臭が漂い、周囲へ不快感を与えることにもなる・排尿の量が多いこともあるため、尿失禁への対応は早いほうがよい 尿失禁に至る疾患はさまざまありますが、この患者さんは、認知症によって、膀胱内に尿が貯留したという情報が脳に伝わっても正しく判断できず、その後の指令や行動がとれない状況だと思われます。 一般的な認知症患者さんにおける排泄問題への対応 認識の低下による場合 「トイレの場所がわからない」「膀胱内に尿がたまっていることがわからない」「尿意があっても脱衣の方法がわからない」「トイレや便器の認識ができない」などの状況で排泄がうまく行えず失禁してしまいます。トイレの位置がわからない場合は、目印になるものをつけ、夜間はなるべく明るさを確保できるように照明を工夫しましょう。 尿意がある場合 じっとしていられず、うろうろしたり、独り言をつぶやきながら動き回ったり、下着を下ろそうとしたり、下着に手を伸ばしたりといった動作をとる患者さんがいます。これらの行動は、排泄をしたいサインであることが多いです。その人特有のサインもあります。サインを見逃さず、トイレへ誘導しましょう。 尿意がない場合 患者さんの一日の水分・食事摂取量を観察し、一定の時間間隔をあけてトイレに誘導しましょう。 失禁後の対応 失禁後には、寝衣やシーツの交換など、介助者が慌ただしく動きます。患者さんは、その状況から、自分の存在が歓迎されていないと感じ取ります。失禁に対し迅速な対応は必要ですが、患者さんが存在を否定された気分にならないようなかかわりが必要です。言葉の意味はわからなくても、介助者の表情や口調から感じ取れるため、穏やかな口調で、目を合わせ、にこやかに接しましょう。 脳血管性認知症 脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害がもとになって発症する認知症です。急激に認知症が発症することもありますし、小さな脳血管障害を繰り返し少しずつ認知症が進むこともあります。出現する症状は、脳の障害部位によって異なります。 脳血管性認知症の特徴は、次の六つです。・脳血管が障害を受けた部位の働きは悪くなるが、障害を受けていない部位の機能は保持されていることが多い。・脳の障害によって、症状の変動や悪化がある。・注意力の低下よりも、意欲の低下(アパシー)が目立つ場合が多い。・感情のコントロールが困難で、急に泣いたり怒ったり、感情の起伏が激しくなる。・手足の麻痺、歩行障害、言語障害、排尿障害(頻尿、尿失禁など)など、日常生活に支障が起きる。・脳血管障害による高次脳機能障害がある(失行、失語、失認、注意障害など)。 こんな対応はDo not! × 患者さんを問い詰める× 寝衣交換をせかす× 患者さんの目の前で慌ただしくシーツ交換をする こんな対応をしてみよう! シーツや寝衣類の交換時には、必ず声を掛け、患者さんの意識が向けられるように行いましょう。「濡れていて気持ち悪いですね。大丈夫ですよ。すぐに交換しましょうね」と目を合わせ肩などに手を触れ、穏やかに話し掛けましょう。 オムツの使用が必要な場合には、患者さんの体型や体質、オムツの肌触りなどを考慮して、個々人に合わせて、できるだけ快適なものを選択することが大切です。また、夜間に心地良い睡眠がとれるような身体的準備や、環境を整えましょう。 執筆茨城県立つくば看護専門学校佐藤圭子 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)厚生労働省.『認知症施策』https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html

特集
2022年5月24日
2022年5月24日

【管理栄養士のアドバイスvol.5】栄養補助食品の選びかた

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第5回は、栄養補助食品の活用法を紹介します。 はじめに 前回は、低栄養のスクリーニング方法と、手軽にできる低栄養予防策をお伝えしました。今回は、栄養補助食品を活用した低栄養対策を、より詳しく考えていきたいと思います。 料理へのちょい足し 出来上がった料理に少し工夫ができるようでしたら、ちょい足しがおすすめです! オイルでエネルギー補給 食が細くエネルギー量が大幅に不足している場合は、油脂を活用すると、効率的にエネルギー補給を行えます。脂質は1gあたりのエネルギー量が約9kcalです。糖質やタンパク質は1gあたり約4kcalですから、それらと比べて少量高カロリーです。 卓上にMCT(中鎖脂肪酸)オイルやオリーブオイルの小瓶を置いて、おかずや味噌汁に少量垂らすだけで、食事の量を増やすことなくエネルギー補給が可能です。 タンパク質強化の補助食品 筋肉量が減少傾向であったり、タンパク質も不足している場合には、既製品のタンパクパウダーや、エネルギーとタンパク質を一度に強化できる補助食品がおすすめです。味噌汁や飲み物に溶かしたり、ご飯や粥に混ぜたりして、摂取してもらいます。 補助食品を活用しよう! 一人暮らしで食事管理が自分では難しい人などは、既製品の栄養補助食品を活用するのもよい方法です。栄養補助食品にはたくさんの種類がありますので、嗜好や嚥下状態に合わせて選定しましょう。 嚥下状態に合わせた形状を 栄養補助食品でいちばん一般的なのは、ドリンクタイプでしょうか。紙パックにストローが付いていてそのまま飲める補助食品は、最近ではドラックストアでも販売されています。 1.6kcal/mLの商品が多いですが、さらに少量高カロリータイプ2.0kcal/mLの商品もあり、100mLでご飯1杯分(200kcal)の強化が可能です。 ドリンクタイプの栄養補助食品は手軽に購入できる一方で、流動性が高いため、嚥下障害がある人には誤嚥のリスクがあります。水分にとろみをつけなければならない人であれば、半固形タイプやヨーグルト状の栄養補助食品を選びましょう。 甘いものが苦手なら…… 「栄養補助食品は甘くて苦手」という人もいます。最近は、甘くない栄養補助食品もありますので、嗜好に合った種類を探してみましょう。 佃煮のようにご飯にのせる高栄養ソースや、おかずの一品にもなる茶碗蒸しや胡麻豆腐風味の補助食品もあります。 ミキサー食は栄養価が減ってしまう? ミキサー食やソフト食の人は、もしかしたら食事自体の栄養価が下がってしまっているかもしれません。 ミキサー食は、食材をミキサーにかけて滑らかに加工していますが、水分量が少ない食材は滑らかになりにくいので、だし汁や水を加えてミキサーにかけます。その結果として、完成品では、重量あたりの栄養価が半減してしまうことになります。 不足したエネルギー量を補助食品で補おうとすると、全体量が増えてしまうので、ミキサー食自体の栄養価を上げる工夫をしましょう。 加水量はなるべく少なく! 水分を加えるときには、なるべく少量から、仕上がりの状態をみながら少しずつ水分を増やしましょう。 水分を加える代わりに粥ゼリーを活用する 水やだしの代わりに、粥ゼリー(お粥用のゲル化剤でゼリー状に固めたお粥、第3回参照)を入れる方法もあります。粥ゼリーを使うことで、水分に比べて栄養価は上がりますし、食事として一緒に食べるものなので、味の変化も少ないです。 また、本来食事としてとるはずの粥ゼリーを使えば、食事全体の量が増えてしまうこともありません。 水分の代わりに牛乳を活用する 前述したように、水を使うと栄養が薄まってしまうので、代わりに牛乳を使う方法もあります。牛乳はタンパク質やミネラルも含まれていて、栄養もしっかりとれます。 ただし、料理の種類によっては味が変わってしまうこともありますので、味見をしながら試してみましょう。 栄養補助食品の選びかた おわりに 栄養を強化する方法はさまざまありますが、認知症の一人暮らしで食事への工夫が難しい、経済的な問題により補助食品を購入できないなど、在宅高齢者の栄養強化は一筋縄ではいきません。 対応が難しい困難なケースの際は、訪問管理栄養士にサポートを依頼する方法もありますので、ぜひご活用ください。 当記事に掲載している「栄養補助食品の選びかた」をまとめた利用者さん向け資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。 ー第6回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1) 国立長寿医療研究センター.『在宅療養患者の摂食状況・栄養状態の把握に関する調査研究報告書』平成 24年度老人保健健康増進等事業,2013, [記事協力]株式会社明治キユーピー株式会社ネスレ日本株式会社ヘルシーフード株式会社株式会社クリニコハウス食品株式会社ホリカフーズ株式会社大塚製薬株式会社ニュートリー株式会社

特集
2022年5月17日
2022年5月17日

「昨夜、倒れて一時意識を失っていた」場合 【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第10回は、「昨夜、倒れて一時意識を失っていた」と家族から知らせがあった患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 86歳女性。 家族から「昨日の夜、トイレに行こうとしたら崩れ落ちるように倒れて、一時、意識がなくなったように見えました。でも、すぐに戻ったので様子をみていました」と言われました。   あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 一過性かつ短時間の意識障害であり、脳への血液供給が急に減少して起こる失神状態であると思われます。 失神は原因がわからないものも多いですが、不整脈や心血管の障害で循環に問題がある場合や、てんかんの場合は要注意です。 てんかんとは、大脳の神経細胞が発作性に興奮し、異常に大きな電気信号が起こることで、痙攣や一過性の意識障害を起こすことをいいます。高齢者では、脳血管障害に伴って、てんかん発作を起こす、または脳血管障害後に起こしやすくなることがあります。このまま様子をみてよいかを判断するために、多側面からのアセスメントをしていきます。 ここに注目! ● 一過性かつ短時間の意識障害であり失神と考えられるが、てんかん発作の可能性もある。● 失神の原因は何か? 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・倒れたときの状況(倒れた場所、時刻、倒れたときの環境、飲酒や入浴、体位の変化などの直前の行動、意識復活までにかかった時間、過去にもあったか、など)・倒れる前の前駆症状(冷汗、顔面蒼白、嘔気、欠伸、目のかすみや見えかたの変化、動悸、頻脈の自覚、など)・倒れた後の精神状態や身体状況(痙攣、意識レベルの低下や混濁、尿失禁)・倒れた理由について(心血管系障害の既往、脳神経系疾患の既往、服用している薬剤、など)・ADLへの影響 客観的情報の収集 脈拍測定 脈拍を測定することで、心臓の拍出量や不整脈の有無を確認することができます。不整脈(房室ブロックによる徐脈、心室頻拍や心房細動からの頻脈)により、心原性の失神を起こした可能性があります。 方法は、撓骨動脈を押さえて、数と性状を測定します。不整がある場合や心臓疾患の既往がある場合は、1分間測定することが原則です。自動血圧計やパルスオキシメーターの脈拍で代用することは避けてください。 現在は落ち着いている可能性があるので、発作時に測定できるようにご家族に脈拍測定の方法を指導するとよいでしょう。 血圧測定 立位になった際に失神している場合は、起立性の低血圧の可能性があります。仰臥位時・座位時・立位時で血圧を測定し、比較してください。 立位時に20mmHg以上低下するようなら要注意です。低血圧のために失神する場合もあります。 降圧薬を服用している際には、コントロール不良で低血圧や徐脈になっていないかを確認します。 てんかん発作の確認 てんかん発作は、昼夜を問わず、体位に無関係に起こり、全身の硬直や震えがみられることがあります(これらがない場合もあります)。顔色の変化や前駆症状がなく、意識の回復が遅延することが多く、尿失禁を伴うことがあります。このような状態であれば、原因が脳にあると判断し、報告・対処してください。 報告のポイント ・一過性の意識消失を起こしたこと、意識消失のきっかけや前駆症状、意識が戻るまでの時間・現在のバイタルサインの異常・てんかん発作の可能性・心原性の不整脈による意識消失の可能性 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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