特集 2021年7月20日 2021年7月20日 暑い時期は要注意!高齢者の脱水症予防 暑さが本格的になるこの時期、脱水から熱中症になり救急搬送される事例が数多く報告されています。今回は、特に屋内や夜間でも熱中症になりやすい高齢者の脱水・熱中症について解説します。 命にかかわることもある熱中症 熱中症は、高温多湿な環境に身体が適応できないことで生じるさまざまな症状の総称です。発熱だけでなく、身体のだるさや吐き気、手足の筋肉がつるなどの症状が出ることもあります。高齢者の場合、熱中症になっていることに気づきにくく、脱水による発熱やせん妄など、重篤な症状を引き起こすこともあり、重度になると命にかかわることもあります。脱水症を放っておくと熱中症に移行するため、まず脱水症を予防することが大切です。 高齢者は、以下の要因により脱水症になりやすいとされています。① 口の渇きを感じにくい② 体液が減少している③ 水分摂取量が減少している④ 腎機能が低下している 特に、独居や高齢者のみ世帯では、変化に気づきにくいという点も含めて注意が必要です。 高齢者の身体の変化に注意 それぞれについて、詳細にみていきましょう。① 口の渇きを感じにくい歳をとると感覚機能が低下するため、口渇を感じにくくなります。そのため、水分摂取量が減少して脱水傾向になります。 ② 体液が減少している人間の身体の半分以上は水分や電解質などから成る「体液」であり、その割合は子どもで約70%、成人で約60%、高齢者で約50%と、加齢に伴ってその水分量は減少していきます。高齢期では成人期と比較して水分量が10%程度少ないことから、慢性的に脱水気味な状態もみられ、脱水症一歩手前の「かくれ脱水」という言葉もよく聞かれます。 ③ 水分摂取量が減少している歳をとると、食欲が低下したり、飲み込みが悪くなったり、誤嚥を恐れ食事や水分の摂取量が減少することがよくみられます。また、夜間にトイレに行く回数を気にして水分摂取量を控え、体液量が減少することもあります。 ④ 腎機能が低下している体液量を保つためには、腎臓で水分や電解質を再吸収することが必要です。しかし加齢に伴って腎機能が低下すると、水分や電解質を再吸収できずに尿として排出してしまい、体液が失われやすい状態になり、脱水傾向になってしまうのです。 脱水症の兆候と対応 高齢者の脱水症の兆候としては、以下のようなことが挙げられます。・手が冷たい・口の中が乾いて唾液が出ない・舌の赤みが強い・わきの下が乾いている・頭痛や筋肉痛など体のどこかが痛い・微熱が続く このような兆候がみられた際には、脱水症かどうかを判断する目安として次のことを行います。・親指の爪を押す(2~3秒以内に赤みが引かない)・腕の皮膚や手の甲の皮膚をつまむ(3秒以内に皮膚が戻らない)・脈拍を測る(120回/分以上である) 上記に当てはまる場合は、まず経口補水液などの水分摂取を促し、かかりつけ医に相談し適切な対応を図ることが必要です。 なお、嘔吐・下痢・多量の発汗により水分摂取が必要と判断した際には、市販の経口補水液などを用いるのがよいでしょう。お茶などのカフェインが入っている飲み物は利尿作用をきたして電解質のバランスを壊す可能性があるためです。嚥下が心配な方にはゼリータイプの経口補水液もあります。ただし、心不全などの疾患により、医師から水分制限の指示を受けている方もいるため、この点を必ず確認しておくことが大切です。 水分摂取量はきちんと把握する 高齢者に水分摂取を心がけるように声かけをすると、たいていの場合「ちゃんと飲んでいます」と返ってきます。脱水症を防ぐには、利用者の主観ではなく客観的な事実を把握する必要があります。いつのタイミングで何をどれぐらい飲んでいるかを、必ず確認するようにしましょう。本人は飲んでいるつもりでも、確かめてみると1日500mL程度しか水分をとっていない人も少なくありません。 高齢者に十分な水分をとってもらうには、たとえば「朝起きたらこのコップで8分目飲んでほしい」「食事には味噌汁などの汁物を必ず付けましょう」などと、具体的な量と内容をわかりやすく説明することが重要です。脱水症は、ふだんのこうした食習慣こそが予防の第一歩となるのです。 室温を客観的に示しエアコン使用を促す 認知症の方は、特に脱水症に気をつける必要があります。脳の機能の低下により、暑さが気にならなくなり、夏に冬物のセーターを着て汗を流していたり、こたつに入っていたりするところを見かけることも少なくありません。 認知症でなくても、高齢者は暑さ寒さの感覚が鈍くなってくるため、夏でも厚手のカーディガンを羽織るなど、厚着をする傾向にあります。また、エアコンの風が嫌い、暑くない、電気代がかかるなどの理由でエアコンの使用を嫌がる方が少なくありません。こうした場合は、室内の温度を計測するなどの工夫によって、室温が高くなっていることを客観的に示し、適切にエアコンの使用を促すことが必要です。 在宅ケアの場では、医師、看護師、介護士など、支援にかかわるすべての人が脱水症予防の視点を持つことが大切です。生活は介護職やケアマネジャーまかせではなく、熱中症になったらどんなことになるか具体的な予測のできる訪問看護師も、積極的に予防にかかわりましょう。 ** 白木裕子 株式会社フジケア代表取締役社長/看護師/認定ケアマネジャーの会顧問 記事編集:株式会社メディカ出版 この度はNsPaceにお越しいただき、ありがとうございます。 NsPaceは訪問看護に携わる皆さま、これから携わりたいと思っている皆さまのための場所です。 日々、皆さまのお仕事に役立つ情報を発信していく予定ですので、よろしくお願いします。 ご面倒かと思いますがご利用の際は、会員登録(無料)をお願い致します。
インタビュー 2021年3月9日 2021年3月9日 異業種参入 第四の壁:専門職の教育 セントケア・グループが訪問看護部門の立ち上げたのは、今から約20年前です。拡大するにつれ、ケアの一定の質担保が困難になりますが、自社でアセスメントツールを開発することで、ケアの質を一定に担保する工夫をしています。教育やサポート体制について藤原さんにお伺いしました。 新人でも、ひとりで考える不安が減るツール ―たくさんの専門職がいる中で、どのようにケアの質を一定に保っているのでしょうか? 藤原: ベテランはアセスメントが得意なのは、全体像が見えているからです。 私たちは、新人や若手も必要な項目を入力していくことで、自分のケアを俯瞰的にとらえられるアセスメントツールとして『看護のアイちゃん』を開発しました。 ―具体的には、どんなメリットがあるのでしょうか? 藤原: 例えば、呼吸に異常を発見したが、医師に報告するべきことか迷うという事態は日常的に起こると思います。『看護のアイちゃん』で、報告するべき呼吸数を事前に設定しておけば、通常のケアの中で項目を入力後、フローチャートが出てきて、「報告が必要です」とシステムが教えてくれます。言い換えれば、別の看護師がなぜ医師に報告をしたのかを知りたい時にも、簡単に確認ができます。 ーなるほど。それは安心感がありますね。 藤原: また、毎回訪問看護でみる項目が決まっているので、新人さんでも目の前の何を見たらいいのかと、ひとりで考えなくてはいけない不安が軽減できると思います。 日々の記録はもちろん、計画書や報告書にもクラウド上で情報が反映されるようになっているので、管理者のチェック業務も、かなり楽になりました。 ―そのほかの看護師さんをサポートするしくみを教えていただけますか。 藤原: 採用時の研修は1.5日ほど座学と、1か月の同行研修があり、だいたい3か月でほぼひとり立ちの流れです。 ただ、技術的な部分のフォロー体制はまだ足りていないと感じています。今後は、手技をシナリオに沿って学習できるシミュレーションモデルのようなものも活用して行きたいです。 また、入職された後、中長期的な目標として、認定や専門看護師などのスペシャリスト、管理者のようなジェネラリストのキャリアステップを選べるようなしくみも作りたいと考えています。 ―管理者のチェック業務も楽になったとのことですが、レセプトの処理はどのようにされていますか? 藤原: 本社で集約しています。訪問看護事務という部門があり、そこで医療保険の請求書の間違いがないよう、加算のとり忘れがないように徹底してチェックしてから、レセプト請求しています。部門としては10人ほどいます。ただ、制度に関する相談は、私のいる訪問看護部門に連絡が来ることが多いです。それでもわからなければ、コンプライアンス課や厚労省に直接確認することもあります。 今後は、訪問のスケジュール立てから記録、請求までのすべてが、お客様の情報として管理できるような一気通貫のシステムにしていきたいですね。 セントケア・ホールディング株式会社 訪問看護部門 統括次長 藤原祐子 病院勤務で、在宅に受け皿がないために、帰りたくても家に帰れない高齢者が多くいる現実を見て、世の中の制度に疑問を感じるようになる。その後、結婚・出産を経て、2000年に介護保険制度がスタートするタイミングで、介護保険や訪問看護について勉強し、訪問看護師へ転身。管理者としてセントケア・グループに入職し、現在はセントケア・ホールディングの訪問看護部門統括次長として、訪問看護ステーションの安定運営をサポートする基盤づくりに注力している。 セントケア・グループ 1999年、株式会社として初となる訪問看護ステーションを開設。現在では97か所の訪問看護ステーションを全国に展開し、訪問入浴や訪問介護、デイサービス、有料老人ホームなどの幅広い事業にも取り組んでいる。(2020年11月時点) この度はNsPaceにお越しいただき、ありがとうございます。 NsPaceは訪問看護に携わる皆さま、これから携わりたいと思っている皆さまのための場所です。 日々、皆さまのお仕事に役立つ情報を発信していく予定ですので、よろしくお願いします。 ご面倒かと思いますがご利用の際は、会員登録(無料)をお願い致します。
インタビュー 2021年1月21日 2021年1月21日 ケアの質を向上させる!オマハシステムを徹底解説 訪問看護の記録評価システムの一つであるオマハシステムについて、「名前は聞いたことがあるけれど、実際どんなもの?」「導入すると何がいいの?」「どうやって導入するの?」と意外に知らない方も多いのではないでしょうか。 日本で一番オマハシステムに詳しい岩本さんに、徹底解説していただきます。 オマハシステムとは? 岩本: 病院の電子カルテに入っている『NANDA・NIC-NOC』などの看護問題分類と同じようなものだと思っていただければわかりやすいと思います。 ほかにも、介護現場のアセスメントで使用されるの『インターライ』、『MDS-HC』などの似たようなシステムは色々ありますが、在宅の現場で直感的に使えると私が感じたのが、オマハシステムでした。 オマハシステムの導入効果は? 岩本: 導入効果は多くありますが、ここでは三つのメリットを紹介します。 ①伸ばすべき点、改善すべき点を把握できるように 岩本: 現在ウィルでは、利用者さんの変化(知識、行動、状態)を毎月グラフ化して経時的に追っています。 利用者さんの問題について、「今どういう変化を起こしているか」が見える化されていることでPDCAサイクルが非常に論理的に回るようになってきています。 看護師自身が「今自分のやっているケアは意味があるんだ」、あるいは、「意味があると思ってやっていることに対して思ったように評点が変化していかないからプラン変更修正すべきだ」と考えることができるようになったんです。 ②ベテランの思考過程が新人に受け継がれるように 岩本: オマハシステムという共通言語があることで、ベテランと新人の思考過程の差を明らかにした上で、一緒にディスカッションできるようになりました。例えば利用者さんに対して、ベテランと新人では、フォーカスする問題に違いがあることが判明したんです。 その違いに対して、「どうして」「なぜなら」と一緒にディスカッションすることで、ベテランの思考過程が受け継がれていくという、教育的にもメリットを感じてます。 ③チームの強み弱みが明らかになり、対策を講じられるように ステーションのすべての利用者を「内疾患分類別」「立案している問題分類別」に見て、評点の平均値の変化を追うことで、ステーション全体の評価ができるようになりました。 これにより、チームの強み・弱みのあるケアが明らかになり、弱みへの対策の立案が可能になったんです。 例えば認知症のケアが弱い、ということがわかれば認知症に関する研修を集中的に行うことで、弱みを補うという感じです。システムの導入が、チーム全体のケアの質向上につながっていると思います。 システムはどのように導入するのか? 岩本: システム自体は、ただのコード文なので、運用にあたっては電子媒体が非常に重要です。 実は、初めはエクセルで作りこんでやってみたんですが、2ヶ月ほどで残業がものすごいことになったので、一回全部中止しました。 そこからシステムを業務の中に組み込める形にした訪問看護用電子カルテを開発し、現在ではウィルのすべてのチームでこの電子カルテを利用してレセプト請求まで行っています。 また開発した電子カルテは、他のステーションにも導入を始めています。データは広く使われることで価値が上がっていくため、今みなさんが利用している電子カルテとも連携していけるといいと思います。 オマハシステム徹底解説 岩本: 難しくとらえられがちなオマハシステムですが、考え方はシンプルです。システムは、三つの要素で構成されます。 ・看護問題(患者さんが抱えている問題やリスクを選ぶ) ・介入分類(その問題に対応した介入を選ぶ) ・評価の分類(介入を評価する) それぞれについて、詳しくお話していきます。 看護問題 『NANDA・NIC-NOC』の問題分類の数は非常にたくさんありますが、オマハの場合は、下図に示すように問題数自体が全部で42個です。 一人の人間が持つ色々な課題型を42個で表現しているという意味では分かりやすいと思います。 介入分類 私たちが利用者さんに対して行う介入は、大きく以下の4種類に分けられます。 ・直接何かをするケアの介入 ・直接その利用者や家族に指導して覚えてもらうという介入 ・観察をする介入 ・ケアマネジメントという介入 この中で特徴的で私が大好きなのが、「ケアマネジメントという介入」です。 直接介入はしていなくても、調整という介入を行っているということを、オマハシステムでは介入として記述ができるんですね。 具体的には、ケアマネージャーさんへの相談、福祉用具屋さんとの調整、薬局薬剤師さんと情報共有をしての薬のコントロールなども介入として扱われます。見えないケアだったものが、見えるケア、やっているケアとして記述され、さらに評価を行っていくということができるわけです。 ケアマネジメントの介入があることが個人的にオマハシステムの一つの大きな特徴だと思っています。 評価の分類 成果を測るために、私たちが介入したことで利用者さんにどういう変化があったことを評点していきます。基本的にはKBSの3つの側面から行い、5段階で評点します。 ・利用者さんの知識、理解(K) ・利用者さんの行動(B) ・利用者さんの客観的な状態(S) 例えば、認知症は高齢の方がなることが多いため、在宅ケアの介入でやっていきなり症状が改善するということは難しいかもしれない。 これは長期ケア、慢性期ケア、高齢者ケアでは当然起こりうることで、人間やはり老いを重ねていく、あるいは不可逆的な疾患に対して、すべて取り戻すというのは厳しいと思います。この時、状態の効果測定を要介護度などでするのは難しいでしょう。 しかし、状態は下がっていけども、例えば、ご本人がすごく混乱をしていたところから、自分で生活習慣に気づくことができて周辺症状が治る、あるいは苦痛なく楽しく過ごせるようになるかもしれません。 家族が「おばあちゃんなんでこんなことするの!」と怒ってしまい困っていた状態から「これは認知症の症状なんだ」だと理解し、気持ちの整理がついたということがあります。 こういった状況を ・知識、理解(K)が2点から5点になった ・行動(B)が上がった ・でも客観的な状態(S)は下がった と3つの側面で評点することができます。これが長期ケアあるいは在宅ケアの中でも私たちが介入することで変わる成果だと表現ができます。 岩本さんにとって、オマハシステムとは? 岩本: 「システムを使って何かを変えよう」と思っていたわけではなく、「在宅ケアの素晴らしさを証明したい」という気持ちがありました。 そもそもすでに現場では介護職、看護職、訪問診療をやっている医師含め、医療系の職種の皆さん、あるいは地域のお仕事をされている皆さんで協働しながら、日常的に素晴らしい実践があるわけです。 でもそれが中々、伝わらない。マニアックなサービスになっているせいで本当に必要な人に届かない、価値を知られていないためにお金がつかないことが、非常に悔しくて、それが示せるツールがほしいと思いました。 先輩たちが築き上げてきた、あるいは今は皆さんが取り組んでいる素晴らしい実践を本当に価値があることだと表現するためには、データが大事だと私は思っています。 既にある「価値のある実践」を「実際に介護看護在宅医療にとって価値がある」という表現するために、適しているのがオマハシステムだと思っていますし、こういった実践がいろんな人に認めてもらえるようになるといいな、と考えています。 WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師 岩本大希 ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養の中でも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。 この度はNsPaceにお越しいただき、ありがとうございます。 NsPaceは訪問看護に携わる皆さま、これから携わりたいと思っている皆さまのための場所です。 日々、皆さまのお仕事に役立つ情報を発信していく予定ですので、よろしくお願いします。 ご面倒かと思いますがご利用の際は、会員登録(無料)をお願い致します。