2024年11月5日
訪問看護で皮疹を発見 もう迷わない医師への皮膚症状の伝え方【多数の症例写真で解説】
在宅療養者によくみられる皮膚症状。「なかなか改善しないけれど、本当にこの処置で合っている?」そんなモヤモヤ、よくありますよね。適切な治療につなげるためにも、正確に医師に症状を伝えたいものです。今回は、さまざまな種類がある皮疹について、皮膚科専門医が写真を見比べながら見方を分かりやすく解説。医師への報告に活用できる写真の撮り方も紹介します。
そもそも在宅の皮膚疾患は多いの?
在宅医療において、皮膚疾患はしばしば問題となります。東京都の調査で「在宅主治医が連携を必要と考えている診療科はどこか」というアンケートで、1位は歯科でしたが2位以下の医科の中では皮膚科が一番でした1)(図1)。図1 在宅医療の主治医が連携を必要とした診療科(n=1,209)
文献1)を参考に作成
また、以前に日本臨床皮膚科医会が行った調査では、在宅療養者の約70%が何らかの皮膚疾患を有していたという結果が示されています2)。それまではレセプトのデータから0.1%程度とされていたので、それよりもはるかに多くの療養者が皮膚疾患に悩んでいることが分かりました。皮膚疾患の内訳は図2をご覧ください。主訴にならないためにスルーされていたのかもしれません。療養者のQOLを上げるために、それらに対処することは重要であると思います。図2 在宅療養者における皮膚疾患症例数
文献2)を参考に作成
筆者は1999年の開業後まもなく往診を始めました。図3は、2023年末までの直近20年間の往診のデータです。これは主訴をまとめたもので、褥瘡が最多で、湿疹皮膚炎、真菌症などと続きます。褥瘡についてはこのNsPaceでも「在宅の褥瘡・スキンケアシリーズ」を始めとして多くの記事が掲載されていますので、今回はその他の皮膚疾患について解説していきたいと思います。
>>褥瘡の基礎知識に関する記事はこちら在宅の褥瘡・スキンケアシリーズ褥瘡の基礎知識 発生原因・予防的スキンケア・在宅療養生活でのポイント図3 往診患者の主訴別分類(2004~2023年・ふくろ皮膚科クリニック)
皮膚病変の表現方法
図4 この皮疹、あなたならどう報告しますか?
図4のような皮疹がある患者さんがいます。この皮疹、他の人に報告するとき、何と表現しますか?「右の脇腹に赤いブツブツがあります」では悲しいですね。皮疹の表現方法には一定の決まりごとがあります。
それは「どこに、どんな、何が、どのように」を押さえることです(図5)。「どこに」は解剖学的な場所を示せばよいので、図4では「右側胸部から腹部にかけて」ですね。「どんな」については色、大きさ、形態などについて記載する必要があります。「何が」は、後で説明します。「どのように」は、少数、多数などの数(量)や分布の様子(びまん性、線状、環状、など)を示します。皮疹を表現するときは「どこに、どんな、何が、どのように」と覚えてください。図5 皮疹の表現方法
どこに?・解剖学的に正しい名称を用いるどんな?・色:赤でも「淡い」、「濃い」、「くすんだ」などそれぞれ意味がある・大きさ:米粒大、鶏卵大など物に例える。数値でもよい・形態:隆起や大小、表面の状態など何が?・丘疹(きゅうしん)、紅斑、びらんなどどのように?・数(量)や分布(びまん性、線状、環状など)の様子
「何が」は皮疹の名前
皮疹には最初に現れる原発疹と、それが変化・修飾を受けて生じる続発疹がありますが、ここでは詳しくは触れません。主な皮疹の表現について対比をしながら解説します。
紅斑と紫斑
図6 紅斑と紫斑
図6に紅斑と紫斑を示します。単に色の違いではなく、紅斑は炎症を起こして毛細血管が拡張している状態をいい、紫斑はそこに出血がみられる状態をいいます。出血があるということは、血管が障害されているか、血液に問題があるかのどちらかであると思われます。目の前にある赤い・紫っぽい変化が紅斑か紫斑かを見分けることにより、病態に迫ることもできるのです。
ガラスやアクリルなどの透明な板で圧迫することによって、消えるか(消えるなら紅斑)、消えないか(消えないなら紫斑)で区別する方法が有用です(図7)。図7 紅斑と紫斑の見分け方
丘疹と結節
図8 丘疹と結節
次に、丘疹と結節の違いはどうでしょうか。いずれも主に細胞成分が増大していて盛り上がっている状態を指します。絶対的な規定ではありませんが、概ね1㎝までが丘疹、それ以上3㎝までが結節、さらに大きいものは腫瘤と呼ばれます。細胞成分が増えるのは炎症や腫瘍などが原因であり、それぞれを判別することが重要です。
膨疹(ぼうしん)と水疱
図9 膨疹
膨疹とは一過性の真皮の浮腫で、多くの場合はかゆみを伴い短時間で消失します。膨疹であることが分かれば、診断は蕁麻疹でほぼ確定できます。この膨疹について、多くの患者さんは「水疱」と表現されますが、膨疹と水疱は別の状態です。水疱は壁構造を持ち、液体の内容物があるものを指します。内容物が好中球を含んだ膿であれば膿疱といいます。水疱と膿疱については図10をご覧ください。図10 水疱と膿疱
びらんと潰瘍
図11 びらんと潰瘍
びらんと潰瘍は、単純に障害されて欠損している深さの問題です。表皮までであればびらん、真皮以下に達するものを潰瘍と呼びます。これは褥瘡の深さを判定する際に必要となる知識です。
皮疹にはほかにも嚢腫、鱗屑(りんせつ)、痂皮(かひ)、亀裂などがありますが、詳しく勉強されたい方は成書をご参照ください3)。
写真で記録・伝達する
皮疹の性状を言葉で記載することは今でも大事ですが、皮疹の記録・伝達については、写真という有効な手段があります。筆者が入局したころはフィルムで現像する方法でしたから、でき上がってきた臨床写真がピンボケだったりアングルがおかしかったりすると、先輩の医師に怒られたものでした。
今ではデジタルカメラで、何度でも撮り直すことができます。それでも時々、いかがなものかと思うような写真による報告を見ることがあります。芸術的な写真を撮る必要はありませんが、最低限注意すべきポイントは以下の4つです。
本人や家族の承諾を得て、個人情報保護に注意する
大前提です。顔だけでなく、氏名、ID番号などにも注意しましょう。
撮影する角度に注意する
隆起している病変などはわざと角度をつける場合もありますが、一般的には正面から撮らないと形や大きさが正確に分かりません(図12)。さらに言えば、例えば褥瘡であれば同一体位で撮る、可能な限り大きさが分かるようにスケールを一緒に写す努力をしましょう。ただ、患者さんの苦痛を最小限にするよう注意が必要です。図12 撮り方による分かりやすさの違い
仙骨部の褥瘡を撮影する際に、Aでは形も大きさも分かりません。Bのように正面から撮る必要があり、さらにCのようにスケールを一緒に写すとよいでしょう。ただしCでは骨突出のためスケールが湾曲してしまっているので、スケールは横方向(頭側→尾側)に貼ったほうがよかったかもしれません。
余計なものをいれない
在宅ではどうしても周囲に置いてある物や、人などを写しこんでしまうのですが、極力取り除くようにしましょう。個人情報保護にも関係します。
明るさに注意し、ピントを合わせる
在宅では暗いことが多いので、照明を当てることも考えます。また、最近のデジタルカメラやスマートフォンでは少ないかもしれませんが、違うところにピントが合っていることが時々あります。
筆者は往診を専門にしているわけではないので、病状に変化があった場合にすぐに往診することができません。そのような場合には写真で連絡をしていただくことにしています。昨今はさまざまなソーシャルメディアが登場していますが、個人情報が流出しないような手段を用いることに注意が必要です。
また、手っ取り早い、昔からのツールとしてFAXがありますが、臨床写真をFAXで送るのは、無理です。何度か送られてきたことがありますが、白黒の訳の分からない画像を見て途方に暮れるだけでした(図13)。図13 FAXで送られてきた正体不明の画像
図14は、ある高齢者施設から送られてきた写真です。中指と環指を拡大すると、いくつもの鱗屑が付着した線状の皮疹が見られ、これだけで疥癬トンネルであることが分かります。この写真を撮った看護師さんも、疥癬を疑い、それらしい部分をきちんと撮ってくださいました。とてもよい写真でしたので、許可をいただいて引用させていただきました。図14 わかりやすい写真の例
いくつもの疥癬トンネル(←)が見られます。
* * *
以上、今回は皮疹の見方や写真の撮り方など総論的なことを述べてみました。次回からは具体的な皮膚疾患についてお話ししたいと思います。
執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社
【引用文献】1)厚生労働省:第7回医療計画の見直し等に関する検討会、平成23年10月31日.https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001tfc5-att/2r9852000001tfdm.pdf2024/7/12閲覧2)日本臨床皮膚科医会在宅医療委員会,日本看護協会,みのり地域訪問看護ステーション:在宅療養者における皮膚疾患実態調査 日本臨床皮膚科医会・日本看護協会との共同事業(在宅療養者の皮膚疾患罹患状況と対応の現状).日臨皮会誌 2007;24(3):245-252.3)清水 宏:あたらしい皮膚科学 第3版.中山書店,東京,2018:64.