ケア知識に関する記事

特集
2022年3月29日
2022年3月29日

「朝、起きたら左足だけが腫れていた」場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第7回は、朝起きたら片足だけが腫れていた患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 83歳女性。「朝起きたら左足だけが腫れていて、もったりとして気になる。昨日は何ともなかったのに……」と言っています。   あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 足が腫れているという訴えであるため、まずは、足の皮膚や皮下組織、筋肉や骨に炎症が生じ、腫脹が起こっていることが考えられます。 また、リンパや静脈系の循環障害による浮腫の疑いがあります。 リンパ浮腫とは、リンパ管の狭窄や閉塞のためにリンパ液が滲み出して浮腫となったものです。手術侵襲や、がんの浸潤により起こることが多いです。 静脈系の循環障害による浮腫は、静脈の閉塞や狭窄により静脈圧が上昇することで血漿成分が滲み出して起こります。深部静脈血栓症の場合、脳梗塞や肺梗塞など生命にかかわる疾患を引き起こす場合があり、発見したら速やかに医療につなげる必要があります。 ここに注目! ● 足が腫れているという訴えは、浮腫によるものか、局所の炎症による腫脹か?● 局所性の浮腫が考えられる場合、静脈系の循環障害か、リンパの還流障害か? まずは、炎症による可能性を念頭に置いてアセスメントします。そのうえで浮腫による可能性が高いと考えられる場合は、浮腫が静脈性なのかリンパ性なのかをアセスメントします。 局所炎症のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・炎症の症状(痛み、しびれ、熱感、腫脹)・原因・誘因となったこと(転倒や転落、打撲、外傷、虫刺され、など)・ADLへの影響 局所炎症のアセスメント②客観的情報の収集 体温測定 炎症が起きている場合、免疫反応として、発熱が起こる可能性があります。高体温になっていないかどうかを確認します。 浮腫の確認 浮腫の部位と程度を確認します。 外傷などによって起こる局所の炎症による浮腫は、脚全体ではなく障害のある部位にみられますので、左右差を比べながら確認します。 痛みに注意しながら触れ、圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧迫時間は5~20秒、指が沈み終わったら離し、その深さで判定します。 炎症徴候の確認 皮膚の傷や、骨折を思わせる症状がないかを確認します。骨折がある場合は、関節が不自然に曲がっていたり、発赤や強い腫脹がみられ、圧痛と熱感があります。 炎症の徴候を確認するために、発赤と熱感を確認します。熱感については、熱に敏感な手背を使って確認します。人の皮膚温はさまざまなので、症状を訴えている側だけでなく、左右同時に触れてその差を確認します。 関節可動域 関節を動かせるかどうかを確認します。炎症がある場合は、動かすことで痛みが生じる可能性が高いので、確認しながら行います。どの程度の可動域制限があるかを、左右比較して観察します。 静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・静脈系末梢循環障害の症状(張るような痛み、重苦しさ、浮腫の日内変動、動かしにくさ、など)・リンパ系循環障害の原因・誘因(がんや手術の既往、など)・静脈系末梢循環障害の原因・誘因(急な臥床安静、歩行制限、下肢運動量の減少、下肢の圧迫、など)・ADLへの影響 静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント②客観的情報の収集 浮腫の確認 浮腫の部位と程度を確認します。 循環障害による浮腫は、血管の閉塞・狭窄の位置より下部に生じますが、皮下組織への水分の貯留が進むと足全体に生じることも多いです。 圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧痕がみられない腫脹の場合は、周囲径を計測することで、客観的な観察ができます。周囲径を計測する際は、体位および測定部位の関節からの距離を記録しておきましょう。 末梢循環の確認 静脈系の末梢循環障害では、皮膚色の変化はみられないことが多く、静脈瘤や慢性の炎症がある場合は赤茶色の変色がみられることがあります。動脈系の障害ではないので、皮膚温は保たれ、足背動脈などの末梢の脈も触知できます。 皮膚の視診・触診 リンパ浮腫では蜂窩織炎となっている場合もあります。蜂窩織炎では広範囲に発赤があり、腫脹し、熱感や痛みがあります。放置すると組織の壊死をきたしますので、速やかな治療が必要です。 報告のポイント ・浮腫の部位と程度、左右差がみられること、全身性の浮腫ではないこと・外傷や骨折などの筋骨格系の障害によるものか、その判断理由・静脈・リンパ系の循環障害によるものか、その判断理由 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年3月22日
2022年3月22日

クローン病

クローン病は、長期にわたる栄養療法が必要となる場合が多く、QOLへの影響が大きい内部障害の一つです。 病態 クローン病は、潰瘍や線維化を伴う炎症が、消化管に生じる疾患です。口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位で起こる可能性があります。小腸と大腸、なかでも小腸末端部で好発します。特徴的なのは病変の分布で、病変部と病変部の間には正常な部分がみられます。 クローン病の原因は諸説あり、遺伝的要因に、ウイルスや細菌などの感染や腸内細菌叢の変化、食事中の成分を抗原とする反応など環境要因が複雑に絡みあった結果の、免疫系の異常反応と考えられています。 クローン病は、炎症性腸疾患(大腸や小腸の粘膜に、慢性的な潰瘍や炎症が起こる疾患)に分類されます。他には潰瘍性大腸炎も炎症性腸疾患です。どちらも難病に指定されています。 潰瘍性大腸炎は、炎症が生じる部位が大腸粘膜に限られていて、クローン病とは発症年齢や男女比なども異なります。 疫学 クローン病が好発するのは10歳代~20歳代の若年者で、男女比は約2対1と男性に多い疾患です。最多発症年齢は男性で20~24歳、女性では15~19歳です。クローン病は先進国で多い疾患で、特に北米やヨーロッパでの発症率が高く、環境衛生や食生活が大きく影響していると考えられています。動物性脂肪やたんぱく質の摂取量が多く、生活水準が高いほど発病しやすいと考えられています。喫煙も発病リスクの一つとされています。 欧米ほど発症頻度は高くありませんが、日本でも近年患者数は右肩上がりです。 2019年度末時点のクローン病での受給者証所持者数は、約4.5万人に上ります。患者数のピークは30~40歳代で、年齢が高くなるにつれ減っていきますが、75歳以上の患者もいます。 症状・予後 症状は、患者によっても、またどの部位に病変があるか(小腸型、小腸・大腸型、大腸型)によっても異なり多様です。主な症状は下痢、腹痛ですが、発熱、下血、体重減少や全身倦怠感、貧血などもよくみられ、痔瘻などの肛門病変もしばしば伴います。 狭窄や穿孔、瘻孔を合併することがあります。また、関節炎や虹彩炎、結節性紅斑などの皮膚症状、成長障害など消化管外の合併症も多く、症状には個人差があります。長期経過例では下部消化管悪性腫瘍のリスクが高まることも知られています。 治療法 薬物療法と栄養療法が基本です。消化管狭窄・穿孔、膿瘍などの合併症に対しては、手術も適応になります。各種治療を組み合わせて、活動期は疾患の活動性を制御し、栄養状態を維持しつつ、寛解期は炎症の再燃・再発を予防が治療の目標になります。 近年の薬物療法の進歩により、多くの患者で寛解状態に至ることが可能になっていて、将来は手術の必要な患者は減っていくと予想されています。ただし、症状が小康状態でも病状は進行すると考えられているため、治療の継続や定期的な検査が大切です。 薬物療法 症状がある活動期には、5-アミノサリチル酸(ASA)製剤、ステロイド、免疫調節薬などが用いられます。5-ASA製剤や免疫調節薬は、症状改善後も再燃予防の目的で継続的に使用します。これらの治療法では効果が十分でない場合は、分子標的治療薬(抗TNFα受容体拮抗薬)が用いられます。血球成分除去療法が適応になる場合もあります。 栄養療法 栄養療法の目的として、栄養状態の改善に加え、腸管の安静維持や食事からの刺激の回避などによる症状改善も重要です。栄養療法には、経腸栄養法(成分栄養)と中心静脈栄養があります。経腸栄養法は長期の管理となることから、脂肪製剤の静脈投与などが必要になります。 短腸症候群などで経腸栄養ができない場合には、中心静脈栄養の絶対的適応です。近年、TPN管理下でのセレン欠乏が報告されているため、セレン欠乏症による諸症状(心筋障害など)も知っておくとよいでしょう。 一般の食事に関しても、低脂肪・低残渣の食事が推奨されていますが、病変部位や消化吸収機能によっても異なるため、主治医や管理栄養士と相談して病態上許容可能な食品を探します。 看護の観察ポイント 経口摂取や消化吸収の不良により栄養状態が悪化しやすいため、定期的に採血データのアルブミン値やBMI値を把握し、大きな体重変動は医師と情報共有することが大切です。下痢により体液量や電解質バランスが崩れることがあるため、排泄状況などの確認も重要です。再燃・再発予防のための服薬も適切に行われているか、把握しておきましょう。経腸栄養法や中心静脈栄養を利用している患者には、栄養状態のほか、その管理方法にも目を配り、必要ならば使用法を助言します。 監修あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『クローン病(指定難病96)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/219〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『クローン病(指定難病96)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/81〇「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班).『大腸炎・クローン病診断基準・治療指針』厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業.令和2年度分担研究報告書.2021.〇厚生労働省.『難病・小児慢性特定疾病』令和元年度衛生行政報告例.2021-03-01.

特集
2022年3月15日
2022年3月15日

[2]一方的に進めない! エンゼルケアでもコミュニケーションが重要

日ごろより、コミュニケーションに留意していることと思いますが、エンゼルケアでもご家族とのコミュニケーションがとても大切です。ケアする側からの一方的なケアになってしまう部分がないよう、適切な声かけや説明、相談を行いましょう。看取りの場では、ご家族の意向を最優先するという心構えが必要です。 これまでの「死後処置」を見直す 北は網走から南は奄美大島まで、全国各所にエンゼルケアの講演や研修会に伺いました。それで見えてきたことの1つは、長らく行われてきた「死後処置」の内容は全国的におおむね標準化されていたということ。実施の流れだけでなく、お顔用の、充実しているとは言い難い化粧品類がお菓子の缶などに入れてある、といったことまで多くの現場で一致しており、そのことに驚きました。 「こうするもの」と伝えられてきたこの死後処置を、看護師の皆さんは真摯にていねいに実践してきたことと思います。 しかし、ご家族の希望や意向をしっかり伺うようになり、それまでの実施には一方的な面があったことがわかってきました。 例えば、亡くなった方の口が開いている場合、これまでは当然閉じることがベストだと考えた対応が行われてきましたが・・・・・・。 あるケースではこんなやりとりがありました。 看護師「開いているお口ですが、いくつか閉じる方法がありますので、これからご説明します」ご家族(亡くなった男性の妻)「いえ、無理に閉じなくていいです。亡くなったときに口が開いていたなら、それが楽なのかもしれないから。もう、夫には微塵も頑張らせたくないんです」 亡くなった男性は白血病で何度目かの化学療法にトライしていました。闘病生活を支えてきたご家族だからこそ「これ以上はがんばらせたくない」と感じたのだと思います。 また、幅広の包帯を顎下にぐるりと回して頭頂部で結び、顎を引き上げて口を閉じる対応がなされた方のご家族は、そのときの思いをこう話しました。 「縛られて、苦しそうで、痛そうで、つらかったけれど、そうしなければいけないのかと思い、口に出せませんでした。それからずいぶん経ちますが、つらい記憶として今も残っています」 ケアする側がよかれと思って実施することでも、ご家族は希望しない場合があります。十分にコミュニケーションを取りながら、ご家族の希望や意向にできる範囲で対応することが大切です。 ご家族の希望に柔軟に対応するための留意点 さまざまなご家族の希望に柔軟に対応するためにも、コミュニケーションを取る際は以下の2つのことに留意します。 ①ご家族はご遺体を生きているときと同様に気遣うことが多い、予想を超える希望も少なくない、と含んでおく 死亡告知を受けており、頭では死亡したことを理解していても、ご家族はご遺体を生きているときと同様に気遣っていることが多いです。これは、さまざまなケースからわかってきました。 前出のケースのように、口が開いていたほうが楽かもしれないから閉じないでほしい、縛られて苦しそう、という思いもその例ですね。 他にも「痛み止めの坐薬を入れてほしい」と希望したり、顔に四角い白い布をかけるかどうかの問いに対して「夫はまだ心臓が止まっただけだから、亡くなった人みたいにしないで」と応えたり、冷却の説明に対して「冷たくて寒そう」と応えたケースもあります。 ある在宅での看取りの場面では、ご遺体を「一度起立させてほしい」との希望があり、担当の看護師がサポートして実現したこともあります。 ②ご家族の承諾は不可欠 第1回でもふれましたが、エンゼルケアの場面では、ご家族の承諾を得て進めることがポイントです。 また、ご家族に判断して承諾していただくためには、それをなぜ行うのか、どんなふうに行うのか、など実施内容についての適切な説明と提案をし、希望や意向を伺うことが必要です。 入浴についてのコミュニケーション例 では、具体的にどのようなコミュニケーションを行えばよいでしょうか。ここでは入浴を実施する場合を例にご説明します。 看護師「それでは、よろしかったら、これから○○さんにお風呂に入っていただきませんか? 介助する人数としても可能な状況ですので。お身体の今後の変化のことを配慮し、ぬるま湯でシャワー浴の形で。いかがでしょう?」 エンゼルメイクの入浴では、身体をあたため腐敗を助長する恐れがあるため湯船につかることは避け、ぬる湯によるシャワー浴が望ましいのです。 ご家族「えー!? お風呂はうれしいけれど。おじいちゃんは湯船につかるのが何よりも好きだったんです。最近ずっと湯船に入れていなかったんだから、最後くらい入れてあげたいわ。絶対、入れてあげたいです!」 この希望を受けて、あらためてご遺体の状況や気温から腐敗リスクを評価し、この後の葬儀社による冷却が始まる時間も合わせて検討し、次のように提案します。 看護師「それでは、短時間になりますが湯船に入っていただきましょう。そして、お風呂から出られたらすぐに胸とお腹を冷やしましょう。そうすれば、その後のお身体の変化をかなり抑えられると思います。いかがでしょうか?」 この提案に対し、ご家族が承諾したなら、入浴を実施してすぐに冷却を行います。ご家族が承諾せず、「ゆっくり湯船に入れてあげたい」と希望されたなら、腐敗現象による漏液など、つらい事態について理解されていないかもしれないと考え、あらためて説明し、承諾を得られるようにします。 ご家族への説明や提案は簡潔にわかりやすく ご家族は、エンゼルケアの場面について何もご存じではないことが多いのですが、死後の身体の変化のことなどから一つひとつ説明することは現実には時間的に限界があります。 そのため、エンゼルメイクを始める前に、 看護師「これから清拭や着替え、お顔のスキンケアやお顔色のカバーなどを始めたいと思います。ご質問や気になる点、また『こういうふうにしてほしい』といったご希望がありましたら、遠慮なく仰ってください。では、始めてよろしいでしょうか?」 というようにおおまかに説明し、承諾を得てから実施します。そして、ケアを行いながら可能な範囲でご家族への声かけと説明を行うとよいでしょう。 適宜簡略化しながら説明や提案を行うためにも、ご家族に渡す文書の作成がポイントとなります。文書を受け取ったご家族もたいへん安心されるのでおすすめします。文書の活用については連載の第8回で詳しくご紹介します。 ワンポイントメモ同席していただく際の声かけは「お願いします」がおすすめ声かけでは「ご家族に同席していただかなければエンゼルケアを行えない」という状況を伝える表現が必要です。例えば、次のような声かけがおすすめです。「これから、○○さんらしく身だしなみを整えたいと思いますので、(ご家族の)どなたかにご同席をお願いします(or どなたかに、付き添っていていただきたいです)」 ある緩和ケア病棟では、声かけを「ご一緒になさいませんか?」から「同室をお願いします」に変更したところ、ほぼ皆さんが同室されるようになったとのことです。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

特集
2022年3月15日
2022年3月15日

網膜色素変性症

網膜色素変性症は、網膜にある細胞が障害され、次第に視力が衰えていく遺伝性の疾患です。患者数は60歳代にピークがありますが、先天盲の原因にもなっています。 病態 目の奥にある網膜には、外から入った光を感知して信号に変換する細胞や、信号を脳に伝える視神経線維などが存在し、眼球に入った光を脳に伝えます。 網膜色素変性症は、この網膜の働きに進行性の異常を生じる疾患です。 視神経には、桿体細胞と錐体細胞の、二種類の細胞があります。桿体細胞は、中心窩以外の網膜全体に存在します。主に暗所で働き、明暗を判別します。視野にも関連します。錐体細胞は、明所でおもに働き、色を判別します。黄斑部に多く存在します。 網膜色素変性症は、桿体細胞の障害が主体です。暗所で物が見えにくい(夜盲)、視野が狭くなるといった症状が最初に出現し、病状の進行とともに視力が低下していきます。 網膜色素変性症は遺伝子異常によって起こり、多くは単一の遺伝子の異常が原因です。ただし、原因となる遺伝子異常の種類は多く、それぞれに応じてタイプがあるため、それも症状などの多彩さの一因になっています。 なお、親からの遺伝が明らかに認められる患者は全体の5割程度です。 疫学 日本における有病率は4,000~8,000人に1人の割合とされています。2019年度末時点の網膜色素変性症での受給者証所持者数は、約2.3万人です。ピークは60歳代で、75歳以上の人が4割弱と高齢者での受給が目立ちます。一方、小児の受給例もあり、一定程度の障害を持つ人は幅広い年代に分布しています。 症状・予後 夜盲が特徴的です。夜盲と視野狭窄が、初期に自覚されやすい症状です。 病状の進行に伴って、視力低下や色覚異常、羞明(まぶしく見える)、光視症(光が視野の一部に走って見える)などが生じます。これらの症状は、すべて両眼で進行します。 網膜色素変性症は、途中失明の原因にもなり、早ければ40歳代で失明状態に至ります。ただし、光が感知できず視野が真っ暗になるような例(医学的失明)はあまり多くはありません。 同じ病名、遺伝子異常でも重症度や進行スピードが違う例も報告されているため、病状の見通しなどは専門医に確認してください。 白内障や黄斑浮腫を合併する場合があります。これらの合併症に対しては、通常の治療を行います。 治療・管理・リハビリなど 確立された治療法はありません。対症療法として、βカロテンの一種やビタミンA、ビタミンE、網膜の血液循環を改善する薬などがありますが、効果については明確な結論は出ていません。現在、遺伝子治療や網膜移植、人工網膜などの研究が進められている段階です。 ロービジョンケアの観点から、視覚を補うための用具を活用することも、生活支援につながります。コントラストのはっきりした食器や調理器具、ルーペ、書見台など簡単な補助具や、百円ショップで入手できる代用品でも、QOLの向上が見込めることが多くあります。ロービジョンケアに理解のある眼科医など、専門家につなぐことが重要です。 最近の技術革新は目覚ましく、視覚障害者がパソコンやスマートフォンを操作できる音声ソフトなどもあります。白杖や、羞明のための遮光眼鏡、夜盲のための暗所視支援眼鏡といった専門的な補助具もあり、専門家のアドバイスを求めることがとても有効です。 一定程度以上の視覚障害は、身体障害者手帳の対象です。症状の程度に応じて社会福祉制度を利用することも推奨されます。 看護の観察ポイント 視力低下や視野狭窄のため、周囲にある物に気づきにくく、衝突や転倒の原因になります。医師やケアマネジャーなど多職種とともに、患者の生活習慣をふまえ、室内環境や外出時のサポート体制などを整えることが大切です。 障害の程度に応じて補助具を活用するとともに、後の視機能の低下に備え、症状が進行する前から操作に慣れてもらうことも推奨されます。 白内障などの合併症もあるため、症状の進行が疑われる場合は、そのつど医師に情報提供し受診につなげます。 ●視力低下や視野狭窄などの症状が進行していないか●日常生活に支障が出ていないか●転倒などがないか●視機能低下に対する補助具を使用できているか●必要な社会福祉制度に橋渡しされているか●視力視野の低下に対して患者の不安や焦りなどが大きくなっていないかなど 監修あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班網膜色素変性診療ガイドライン作成ワーキングクループ.『網膜色素変性診療ガイドライン』日本眼科学会雑誌.121(12),2016,846-961.〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『網膜色素変性症(指定難病90)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/196〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『網膜色素変性症(指定難病90)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/337〇厚生労働省.『難病・小児慢性特定疾病』令和元年度衛生行政報告例.2021-03-01.

特集
2022年3月8日
2022年3月8日

在宅復帰後の摂食嚥下リハビリテーション①

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、摂食嚥下リハビリにより食形態が向上し、介護負担の軽減につながった事例を紹介します。 摂食嚥下のメカニズム 食物を口に入れ飲み込むまでの一連の機能を、摂食嚥下機能と呼びます。摂食嚥下のメカニズムは、五つの段階に分けて考えます。 5期モデル1) 1.先行期   口に入れる前、色や形、においなどから、食物を認識し、どのように食べるか判断する2.準備期味覚や舌触りなどの情報を得るとともに、食物を咀嚼して唾液と混ぜ合わせ、飲み込みやすい食塊を作る3.口腔期舌の動きなどによって、食塊を口腔内から咽頭に運ぶ4.咽頭期食塊が咽頭付近に到達すると、嚥下反射が起こる(軟口蓋が閉じ、喉頭蓋が反転し気管の入り口を塞ぐ)。このとき、0.3秒ほど呼吸が停止する5.食道期食塊が、食道の蠕動運動によって胃に運ばれる この考えかたが、嚥下障害を改善に導くリハビリテーションへの指標となります。 神経疾患や筋疾患、認知症といった重篤な全身疾患や心理的な問題は、上記の5期それぞれにも影響を与えます。ADL低下にとどまらず、誤嚥や窒息など、生命の危機にもつながります。 重篤になるほど、本人の苦痛だけでなく、家族や介護者に大きな負担ともなります。 摂食嚥下機能のリハビリテーションは、間接訓練(食物を使わない訓練)だけでは進みません。食べられるようになるためには、5期のどこに・どのような障害が・どの程度あるのかを適切にアセスメントし、その後、直接訓練(食物を使う食べる訓練)が必要となります。 口腔ケアと摂食嚥下リハビリにより介護負担の軽減へ 今回は、2回の脳出血後、摂食嚥下リハビリにより食形態が向上し、介護負担の軽減につながった事例を紹介します。 事例 Dさん、45歳男性、要介護5。左側に麻痺、脳出血後高次脳機能障害ほか既往あり。2回目の脳出血での入院時に、一時経鼻胃管栄養管理となったが、カテーテルを自己抜去。OT・STによる懸命なリハビリ後、経口摂取が可能となり退院した。しかし退院後もDさんは寝たきりで、毎回の食事介助に1時間以上かかる。妻は、嚥下食の準備や、子ども2人を育てる生活と不安から疲弊し、「せめて家族の食形態に近い食事ができるようになってほしい」と強い希望を持ち、歯科に依頼した。 Dさんには誤嚥性肺炎の既往もあり、歯科大学附属病院の摂食嚥下専門外来と連携して対応することにしました。 嚥下機能評価をもとに訓練計画を立てる 専門医により嚥下内視鏡検査(VE)注1評価を実施し、咽頭期の問題は比較的軽度であり、準備期・口腔期に訓練が必要とわかりました。 ▷段階的摂食訓練で段階的に食形態を上げていく ▷口唇・舌のストレッチや舌口外法で主に舌の後方の力をつける ▷舌口内法で舌全体の力をつける ── などを短期目標としました。 そして、麻痺のある左側に残渣が確認されていました。妻には、日々の口腔ケアに、とろみ茶との交互嚥下を行うことをお願いしました。交互嚥下とは、形態が異なる食材を交互に食べることです。そうすることで、口の中や咽頭の残留を防ぐことができます。 歯科専門職の居宅療養管理指導は2~4回/月が上限です。そのため、Dさんの口腔衛生面の対応について、他職種にも積極的に情報共有しました。情報を共有することで、歯科専門職が訪問しないときでも、他職種が口腔や摂食嚥下の状況を観察し、サポートしてくれます。質の高い口腔ケアの提供が可能になり、私の背中を押してくれました。 Dさんのリハビリ経緯 直接訓練は、急がずあわてず、呼吸や医学的安定が大前提です。VE評価後、約4か月をかけ、ペースト食から軟飯へと進みました。 そのころ、Dさんは鰻が好物だと聞き、フワフワのオムレツの中に、よく刻んだ鰻を仕込み、持参しました。「よく噛んでくださいね、中からお好きなものが出てきますよ」と声掛けしたところ、鰻入りオムレツ約100gを、5分で完食されました。 麻痺のある左側に確認されていた残渣は、毎日のケアで一掃されました。咀嚼も向上しました。 ゴールは、「家族の食形態に近い食事」でした。ご飯の炊飯時、水を多くして軟飯とします。おかずは、刻んだりほぐしたりで細かくした後、片栗粉などでまとめます。約半年で、希望に近い地点に辿り着くことができました。 結果  介入前介入後(約半年後)食形態学会分類 2-1.2-2UDF 容易に噛める食事時間1時間30~40分MWST注244兵藤スコア1-1-1-1―BMI17.518.5 おわりに 病院を退院し在宅療養に入ると、摂食嚥下機能の再評価もないまま、病院での食形態をそのまま継続している患者も多いと聞きます。本事例では、早期から専門医との連携により嚥下評価を受けることができました。そして、妻や他職種との協力により、食形態の向上と食事時間の短縮がかない、介護負担の軽減を得ることができました。 次回は、在宅復帰後、胃瘻栄養を離脱し、常食摂取が可能になった事例を紹介します。 注1 嚥下内視鏡検査(VE):兵頭スコア(鼻腔~喉頭の内視鏡像を、主に4つの視点から評価する)で評価する。合計点7点を超えると経口摂取が困難となるが、今回の症例は事前の評価が比較的軽度だったので、事後の評価は省略となった。 注2 MWST(改訂水飲みテスト):嚥下スクリーニング法として一般的に使用されている評価法。冷水3mLを嚥下し、嚥下前後の呼吸やむせの有無、頸部聴診音などで評価する。 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士) 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)山田あつみ.『介護現場で今日から始める口腔ケア』大阪,メディカ出版,2014,60-1.

特集
2022年3月8日
2022年3月8日

後縦靱帯骨化症

後縦靭帯骨化症は、椎体を覆う後縦靭帯が骨化してしまうことで、脊柱管が狭窄し、神経が圧迫される難病です。 病態 後縦靭帯とは、脊椎の後面を覆う靭帯です。頸椎・胸椎・腰椎・仙骨・尾骨とつながる脊椎は、椎骨がつながったものですが、椎骨をつなげて安定させているのが靭帯です。椎骨を覆う靭帯は前縦靭帯と後縦靭帯があり、前縦靭帯は椎骨の前面を、後縦靭帯は椎骨の後面を縦走しています。 後縦靱帯骨化症は、その後縦靱帯が骨化して、硬く、肥大してしまう難病です。骨化のために、脊柱管狭窄をきたし、脊髄が圧迫され、神経症状が出ます。 脊椎は、頸椎、胸椎、腰椎に分けられますが、後縦靱帯骨化症は特に頸椎で多く生じます(頸椎後縦靱帯骨化症)。 原因として、遺伝的素因やホルモンの異常、カルシウム代謝異常、糖尿病、肥満傾向、全身的な骨化素因、骨化部位における局所ストレスなど、さまざまな要因が考えられていますが、はっきりしていません。家族内での発症例が多く、兄弟間では約30%の確率で靱帯骨化症がみられるとの報告もあり、遺伝との関連が指摘されています。ただ、血縁者に必ず遺伝するわけではなく、さまざまな要因のかかわりが推測されています。 疫学 中年以降の発症が多く、男女比は2対1と男性の頻度が高くなっています。また、糖尿病や肥満があると、後縦靱帯骨化症の発生頻度が高いことがわかっています。 日本人においては、後縦靱帯骨化症の発生頻度が、欧米や他のアジア諸国に比べて高いことが示されています。ただし、X線検査で骨化がみられても、その全員に症状が出るわけではありません。 2019年度末時点の後縦靭帯骨化症での受給者証所持者数は、約3.2万人です。40~50歳代で増えはじめ、75歳以上が約1.3万人と多数を占めます。 症状・予後 頸椎の後縦靱帯骨化症では、初期症状は、多くは上下肢のしびれ・痛みです。進行に伴って、しびれ・痛みの範囲が広がります。症状は、四肢の感覚障害、歩行障害、巧緻運動障害へ進行します。重症になると、起立・歩行障害のほか、膀胱直腸障害(排尿・排便障害)が生じることもあります。 胸椎の後縦靱帯骨化症では、下肢の脱力・しびれが初発症状です。主に体幹~下半身に生じます。重症になると、頸椎後縦靱帯骨化症と同様の症状になります。 腰椎後縦靱帯骨化症は、歩行時の下肢痛みやしびれ、脱力などです。 これらの症状は必ず悪化していくとは限らず、半数以上の人では数年経過しても症状は変化しません。一方、進行性の場合は、手術が必要になることもあります。 なお、室内での転倒など、軽微な外傷をきっかけにした発症や、急な増悪がみられることがあります。 治療・管理 保存治療 圧迫されている神経の保護を目的として、患部を安静保持する装具固定が行われます。 対症療法として、しびれ・痛みに対して、神経障害性疼痛治療薬(抗けいれん薬、抗うつ薬、ステロイドなど)が使用されることがあります。 手術治療 症状が重度または進行性の場合は、脊柱管を広げて圧迫を除く目的で、手術治療が選択されます。 リハビリテーションのポイント 首や手足のストレッチなどの運動療法は、血行改善や痛みやしびれ感の軽減、筋力の維持などによいとされます。しかし、筋肉・関節を痛める危険性もあるため、専門医の指示のもと実施することが求められます。カイロプラクティックやマッサージなど民間療法の有効性は確立されておらず、合併症の報告もみられており、推奨されていません。 看護の観察ポイント 手足のしびれ感の悪化や手足の動きのぎこちなさ、排尿状態の変化などが生じた場合、悪化の可能性があるので、早めに専門医の受診を促します。また、転倒などでも脊髄症状が悪化し、重度の麻痺が起こるリスクがあるため、日常生活での注意点を伝えます。室内や庭先など慣れた場所ほど、健康な人でも油断から転倒するリスクが高まるので、この病気を発症した人はいっそう慎重に行動することが求められます。 ●頭や首に衝撃を与える首の運動や、転倒・転落は悪化の原因となることを、患者に説明し日常生活指導を行う●転倒しないように室内環境を整備する●自転車やバイクなど転倒リスクのある移動手段を利用しない●装具の日常使用に関しては医師や理学療法士への相談を促す●頸椎後縦靱帯骨化症では、首を後ろに反らせる姿勢は避けるよう指導するなど 監修あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/脊柱靱帯骨化症診療ガイドライン策定委員会編.『脊柱靱帯骨化症診療ガイドライン』東京,南江堂,2019,104p.〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『後縦靱帯骨化症(OPLL)(指定難病69)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/257〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『後縦靱帯骨化症(OPLL)(指定難病69)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/98〇厚生労働省.『難病・小児慢性特定疾病』令和元年度衛生行政報告例.2021-03-01. 

特集
2022年3月1日
2022年3月1日

[1]エンゼルケアの基本姿勢をキーワード化して共有しよう

人間の貴重な営みの1つである「看取り」。その場面の充実をめざして、ケアする立場の看護師などがお手伝いをする、それがエンゼルケアです。今回は、訪問看護ならではのエンゼルケアとは何かをご紹介するとともに、事業所としてぜひ取り組んでほしい基本姿勢の整理と共有について解説していきます。 その場の調整役・助言役としてのサポートも大切 高齢の男性Fさんのケース。ご家族は、Fさんを在宅で看取ると決めました。死に至るまでの身体の変化やその対処法、そしてもしもの時が訪れたときの流れなどについて、何度も深くうなずきながら説明を受け、落ち着いて介護をしている印象でした。 やがてその時が来て、訪問看護師の2人がエンゼルメイクを始めさせていただく声かけをしようとしたら、その家族らの姿がありません。家(一戸建て)の中を探し始めると、裏庭でFさんの長男と三男がつかみあいのけんかを始めており、Fさんと同居し介護を中心的に担っていた長女は台所の隅で糠床をかきまぜ始めていました。さらに、離れにいた大学生の孫は古いオーディオを押入れから持ち出し、大音量でレコードを聴きはじめます。そうこうしているうちに葬儀社の方がやってきて(二男があわててすぐに来てくれと電話していたことがのちに判明)、Fさんが横たわる隣室でトンテンカンと設えをし始めたのです。 この光景もFさんのご家族らしい看取りの一場面だとも言えます。 しかし、亡くなったその人と改めて対面したり、エンゼルメイクを行う様子を見たり、できる部分で手を出したりした記憶が、グリーフワークにおいて大きなプラスとなることを知っている看護職は、その場の一時的な調整役・助言役として声かけや行動をすることが重要になってきます。 葬儀社の方にはいったんお引き取りいただき、Fさんのご家族は看護師の声かけで手浴を行うなどじっくりエンゼルメイクの時を過ごしたとのことです。 エンゼルケアの「目的」や「キーワード」の共有が大切 エンゼルケアには次のような特徴があります。●最終決断はご家族が行う●ご家族の意向や希望の内容には幅がある例えばご遺体の冷却について、ご家族が腐敗の進行を理解したうえで冷却を拒否した場合には、それに従う方向で対応します。必要だからとケアする側が冷却を強行した場合、悪ければ訴訟という言葉が聞かれる事態となる可能性があります。 また、「(ご遺体を)一度立たせて(起立させて)ほしい」、「あと30分くらい点滴を入れたままにしておいてほしい」、「床ずれがどれくらいのものだったか、見せてほしい」など、ご家族の意向や希望は予想外の場合もあります。 エンゼルケアにはこのような特徴があるため、看護師にはその場で柔軟な対応が求められることが少なくありません。柔軟な対応がエンゼルケアの肝と言ってもよいのです。 ただ、対応する際に「これでいいだろうか」、「あとで私の判断を(同僚や上司から)批判されるのではないか」といった不安を覚えながらの対応になってしまうこともあるかもしれません。 そうならないように・・・・・・。まず、エンゼルケアの目的をはじめとして所属先の事業所におけるスタンスを確認し、基本姿勢をキーワード化して職場のみんなで共有します。 次に、現場で対応する看護師に全面的に判断を一任する、という方針にします。 そして、担当の訪問看護師は実践の際に共有しているキーワードを頭に浮かべながらどうするか判断します。みんなに支持してもらえる、という安心感とともに自信をもって対応ができることでしょう。 そこで、各事業所でエンゼルケアの目的を整理し、キーワードを見出して共有していただくことをおすすめします。私が代表を務めるエンゼルメイク研究会の考えを参考として次に記します。 エンゼルケアの目的:「亡くなった方のセルフケアの代理」 ご本人の代わりにエンゼルメイク(身だしなみの整え)を行う、ご本人の代わりに腐敗を抑える冷却を行う、と考えます。この発想に基づき、何をどの程度行うのか、その加減を判断しやすく、一緒に行うご家族に「○○さん、身体からにおいが出てしまうの、うれしくないでしょうからね。少し冷たいけれど冷却をしましょう」という自然な声かけが可能になると考えます。 キーワード:「その人らしく」 その人らしさは、家族の記憶の中にあります。ご家族は亡くなった人が元気に活躍していたころをイメージすることが多く、担当看護師はそのころの様子を知らないことが多いですね。 キーワード:「エンゼルメイクは看取りの手段」 お顔のみならず、爪切りや手浴などさまざまなエンゼルメイクの場面は、そのプロセスをご覧いただくだけでなく、ご家族が行うことで実感のある看取りの手段になります。可能な範囲でよいので行っていただきましょう。 キーワード:「ご家族の得心のために」 十分に納得する、気持ちがおさまる、といった意味で使われる「得心が行く」という言葉は、ご家族の希望に応じる際の理由としてフィットします。予想外の希望に添う対応をした際に「ご家族の得心につながると考え、希望どおりに実施」というふうに引き継ぎや記録ができます。 キーワード:「遺族ではなく家族」 生前から出会ってケアを行ってきた立場として、ご本人が亡くなった後も、ご家族はご家族に変わりなく、引き続き「ご家族」と呼ぶのが自然です。声かけの際にも役立つキーワードです。 ワンポイントメモこの連載では、エンゼルメイク、エンゼルケアを次の意味で使用しています。エンゼルメイク医療行為による侵襲や病状などによって失われた生前の面影を、可能な範囲で取り戻すための顔の造作を整える作業や保清を含んだ、「ケアの一環としての死化粧」である。また、グリーフケアの意味合いも併せもつ行為であり、最期の顔を大切なものと考えたうえで、その人らしい容貌・装いに整えるケア全般のことである。→外見・身だしなみの整えエンゼルケア患者さんが亡くなられて以降、看護師(あるいは他のケアの立場の人)の手から離れるまでの、エンゼルメイクを含むすべての死後ケアを指す。次の用語は、葬儀関係業者のサービスに関する用語です。他にもさまざまありますが、サービスの内容やおよその料金などを把握しておくと、ご家族から質問されたときに助言することもできますね。湯灌(納棺)サービス主に儀式として洗体や着付け、納棺などを行う。家族は同席可能。エンバーミング遺体の消毒や防腐処理、外見修復などを、日本遺体衛生保全協会の自主基準に則って、技術者が行う。家族は同席しない。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年2月15日
2022年2月15日

悪性関節リウマチ

悪性関節リウマチは、関節リウマチに血管炎などの関節外症状を合併した病型です。 病態 悪性関節リウマチは、関節リウマチに加え、血管炎や臓器障害など関節以外の症状があって難治性または重症のものをいいます。重症の関節リウマチを指す疾患名ではありません。 関節リウマチとは、免疫異常のために関節に炎症が起こり、進行すると関節の変形などをきたす病気です。男性より女性に4倍多く、中年期以降の発症が多い疾患です。 関節リウマチも悪性関節リウマチも、原因は不明です。ただ、悪性関節リウマチは家族内での発症も12%にみられ、遺伝的な要因がある程度かかわっていると考えられています。 なお、「悪性関節リウマチ」は日本独自の疾患名・概念で、欧米では血管炎を伴う関節リウマチは「リウマトイド血管炎」と呼ばれます。 疫学 悪性関節リウマチの頻度は、関節リウマチ患者のうち0.6〜1.0%です。関節リウマチよりも男性の占める割合が高いのが特徴です。また、悪性関節リウマチと診断される年齢のピークは60歳代と、関節リウマチよりもやや高齢です。 前述のように、関節リウマチに血管炎などを合併するものが悪性関節リウマチですが、血管炎は、一般的に関節リウマチに長く罹患し、関節の破壊が進行した人に起こります。 2019年度末時点で、悪性関節リウマチでの受給者証所持者数は約5,000人です。やはり60歳代が最も多く、70歳以上の人の割合も多くなっています。 関節リウマチの早期診断や治療の進歩により、近年では、悪性関節リウマチの発症頻度は低下傾向と報告されています。 症状・予後 関節リウマチの多発関節炎に加えて、血管炎による症状が加わります。血管炎は、全身性血管炎型と末梢動脈炎型に分けられます。 血管炎の症状 全身性血管炎型     全身の血管炎に基づく症状(38℃以上の発熱、体重減少、紫斑、上強膜炎、筋痛、筋力低下、間質性肺炎、胸膜炎、多発単神経炎、消化管出血、など)末梢動脈炎型潰瘍、末梢の血管梗塞、四肢先端の壊死・壊疽、など 全身性血管炎型では、症状は急速に出現して悪化します。末梢動脈炎型では通常、進行は緩徐です。 悪性関節リウマチの予後は、国内の疫学調査では軽快21%、不変26%、悪化31%、死亡14%、不明・その他8%と報告されています。血管炎による臓器障害や間質性肺炎を伴う場合は、生命予後が悪いとされています。死因で最も多いのは呼吸不全で、それに続くのは感染症の合併、心不全、腎不全などです。 治療・管理など 基本的な治療方針は、関節外病変を取り除くことと、関節の変形や身体機能低下の進行の抑制です。 悪性関節リウマチに対しては、炎症を抑えるステロイド、関節リウマチに用いられる抗リウマチ薬、免疫抑制薬が用いられ、合併症対策として血栓を防ぐ抗凝固薬などが用いられます。重症例などでは、血液内にできてしまった免疫複合体などを取り除くために血漿交換療法が行われることもあります。 看護の観察ポイント 入院での治療が基本となりますが、在宅で気になる症状があった場合は、すぐに主治医に相談しましょう。在宅での繰り返す心不全の急性憎悪などの場合には、訪問看護による観察が重要になります。 ●男女を問わず、長く関節リウマチを患い関節破壊が進行した人、60歳以上の人などでは特に留意●発熱や体重減少、急に出現し悪化する息苦しさ、手足の紫斑や皮膚潰瘍、手首・足首の知覚異常や力の入りにくさには注意 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 〇厚生労働省.難病・小児慢性特定疾病.『令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『悪性関節リウマチ(指定難病46)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/43〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『悪性関節リウマチ(指定難病46)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/205〇磯部光章ほか.悪性関節リウマチ『血管炎症候群の診療ガイドライン』2017年改訂版.2018,91-5.

特集
2022年2月1日
2022年2月1日

ミトコンドリア病

ミトコンドリア病は、発症年齢も症状もさまざまで、とらえどころのない難病の一つです。細胞内のミトコンドリアの働きの低下が、原因であることがわかっています。 病態 ミトコンドリア病は、ミトコンドリアの働きの低下により起こる病気の総称です。 ミトコンドリアとは、全身の細胞に存在する器官で、ミトコンドリアによりエネルギーが産生されます。そのエネルギーが細胞の活動の源になるため、ミトコンドリアの働きが低下すると、細胞そのものの活動性も低下します。特に脳や心臓など、多くのエネルギーを必要とする臓器では、影響が大きくなります。 ミトコンドリア病の発症時期は幅広く、乳幼児期から成人までとさまざまです。原因は、先天的な遺伝子変異が主体です。 ミトコンドリア病に関係する遺伝子変異は、今わかっているだけで200種類程度に上り、病型や個人によってもそのパターンは多彩です。それらの遺伝子変異は、細胞の核にあるDNAの変異のほか、ミトコンドリア内にある別のDNA(ミトコンドリアDNA)の変異でもみられます。 核のDNA上の遺伝子変異は、親から子に伝わる可能性があります。一方、ミトコンドリアDNAは母親から子どもに伝わるので(母系遺伝)、ミトコンドリアDNA上の遺伝子に変異などがある場合は、母親から子に伝わる可能性があります。核DNA上での遺伝子変異と、ミトコンドリアDNA上の遺伝子変異は、いずれも突然変異で生じる場合もあります。 疫学 ミトコンドリア病の発症は、乳児から成人まであらゆる年齢の人でみられます。性別による発症差はありません。発症頻度は、イギリスやフィンランドで人口10万人あたり9~16人という報告もありますが、実はもっと多いのではないかともいわれています。 2019年度末時点でのミトコンドリア病での受給者証所持者数は1,500人程度です。10歳未満から75歳以上まで幅広い年齢層におよんでいます。 症状・予後 症状は中枢神経や筋肉、心臓、目や耳などの感覚器、肝臓、腎臓、内分泌系など多様な臓器・組織にみられ、症状も幅広いのが特徴です。表は、小児期に発症する代表的なミトコンドリア病の病型です。 表 ミトコンドリア病の病型例 病型特徴CPEO (慢性進行性外眼筋麻痺症候群)・主な症状は、眼瞼下垂、眼球運動障害・CPEOに、網膜色素変性と心伝導障害を合併するものをカーンズ・セイヤ症候群と呼ぶ・小児~成人期に発症MELAS(メラス)  ・脳卒中様症状を伴うミトコンドリア病(けいれん、意識障害、視野狭窄、視力障害、運動麻痺など)・小児~成人期に発症MERRF(マーフ)・ミオクローヌスてんかんや小脳症状を特徴とするミトコンドリア病・小児~成人期に発症リー脳症・精神運動発達遅滞、筋力低下、けいれんなど、脳と筋肉の症状・乳幼児~小児期に発症 治療・管理など 対症療法として、各症状への適切な治療・管理をすることが重要です。症状が生じている臓器の専門医と連携した対応が求められます。 ミトコンドリアの働き自体を回復させる原因療法の確立も目指されています。日本では、MELASによる脳卒中発作の抑制の目的で、2019年にタウリンが保険適用されました。 ミトコンドリア内でエネルギーを産生する過程に使われる各種ビタミンや栄養素を補給する意味で、ふだんからのバランスの良い食事が治療の基本とされています。 リハビリのポイント 症状に応じたリハビリが必要とされます。また、運動麻痺などに対して、装具や福祉用具などが必要になることもあります。 看護の観察ポイント 現れている症状に応じた観察が必要になります。 ミトコンドリア病では介護保険の対象にならない年齢層の患者も多いため、障害者総合支援法による支援などへの橋渡しも求められます。加えて、症状が複数の臓器に及ぶと、複数の診療科、医療機関にかかることもあるため、情報共有を意識してかかわることが大切です。 そのほか、介護する家族にかかる介護負担が大きくなりがちなので、レスパイトケアを提案することも必要です。 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『ミトコンドリア病(指定難病21)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/194〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『ミトコンドリア病(指定難病21)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/335〇厚生労働省.難病・小児慢性特定疾病.『令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.

命に寄り添う口腔ケア
命に寄り添う口腔ケア
特集
2022年2月1日
2022年2月1日

認知症と義歯の関係

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、超高齢でも、認知症があっても、義歯の調整と口腔ケアで咀嚼機能が回復した事例を紹介します。 8020運動を知っていますか 1989年、厚生労働省と日本歯科医師会は、80歳で20本の歯を維持することを目指す「8020運動」を制定しました。当時、80歳の平均残存歯はわずか5本でした。28年が経過した2016年の調査では、「80~84歳の約半数が残存歯20本以上」を達成しました。 なぜ20本必要なのか。それは、単純に「タコやイカが食べられるから」だけではありません。20本以上歯があると、医療費の削減(残存歯数が0~4本に比べ総医療費は約17万円/年少ない)、自立歩行ができる、本人の健康感が大きい、などが報告されているのです。 しかし実際には、すでに「20本もありません、入れ歯なんです」といった人も多いのが現実です。今回は、義歯でも咀嚼できれば、全身への好影響につながることを、事例をもとに紹介します。 認知症で入れ歯を入れなくなった例 Bさん、96歳女性。要介護4、上下総義歯。難聴・認知症ほか既往あり。「3か月前から入れ歯を入れなくなり、『新しく作ったほうがいいのでは』と家族から相談がありました」と、ケアマネジャーから紹介あり。 初回の介入 歯科医師の診断で、早速、義歯の内側を調整しました。調整では、歯科用の特殊な樹脂を義歯の内面に裏打ちし、接着します。 口の周囲の筋肉のリハビリ後、まず上の義歯だけを装着すると、Bさんはすぐに義歯を取り出してしまいました。懲りずに、私は再び上義歯を装着すると同時に、片手でBさんが外そうとする手と握手し、バナナの薄切りをBさんの奥歯へと運びました(義歯は前歯で噛むと後ろから空気が入りこみ、外れやすくなるので、基本は奥歯で咀嚼します)。 そして耳元で「お好きなバナナですよ」と声掛けしました。すると、何とか義歯を外さずに噛めるようになりました。 その後、下の義歯も装着し、唾液に溶ける赤ちゃん用せんべいを渡すと、ご自分で奥歯に持っていこうとしました。 2か月後の変化 Bさんは、それまで食事は車いす上での全介助でした。数回の訪問診療後(初診から約2か月)には、食卓のいすに座り、箸を使って、自立した食事が可能になりました。 当初、家族は新しい義歯の作製を望まれていましたが、新しい義歯は、型取りから仕上げまで4~5段階を要します。認知症のあるBさんには苦痛になると考えられました。本事例では、旧義歯の調整と、舌や口唇の力をつける機能的ケア、前歯ではなく左右の奥歯でしっかり噛む咀嚼訓練を選択し、それらが回復のスピードアップにつながりました。 さらに、姿勢が起座位であるほうが噛みやすいのですが、起座位の時間が長くなると自立歩行や転倒予防にもつながります。義足や義手がそうであるように、道具(義歯)をうまく使いこなすには、根気強い丁寧なリハビリ職の対応とチーム医療が必須です。Bさんのケースでは、サービス担当者会議にはBさんが通うデイサービスの職員も出席し、デイ利用中の口腔リハビリや食事支援をしてもらいました。それらも早期自立への一助となったと考察します。 機能的ケアで発語が増えた例 Cさん、98歳女性。要介護3、認知症ほか既往あり。上が総義歯、下が部分義歯。義歯破損で訪問歯科を希望された。 下義歯の修理・調整のための訪問のたびに、衛生面の口腔ケアも必要でしたが、機能的ケアも取り入れていきました。 開口訓練、ストロー福笑い、呼吸訓練、パタカラ体操は、認知症でもでき、義歯でうまく噛めるようになる機能的ケアです。 ストロー福笑い パタカラ体操 介入して1年後の変化として、食事量の増加、食事時間の短縮、自分からの発語や歌が増え、しかも発語が明瞭になりました。 義歯を入れられなくなったケース これまでに経験した、高齢者で義歯が入れられなくなるケースと、解決法を紹介します。 ①認知症により義歯での噛みかたを忘れてしまう 認知症のために、義歯を異物としてとらえてしまうケースもあります。いずれも、段階的な咀嚼訓練を行うことで解決できました。 ②義歯を作製したときよりやせた やせたために義歯が合わなくなるケースはよく耳にされるかと思います。義歯が合わない、外れるなどのために、食事量が減少してやせるといった因果関係もあります。歯科医につなぎ、義歯の内面調整が必要です。 ③口腔乾燥 口腔乾燥があると、粘膜に義歯が密着しにくい状態です。義歯が不安定になり口内に傷ができやすくもなります。軽度であれば、保湿剤を義歯の内面に塗布することでも効果がみられます。唾液分泌を促す機能的ケアに、棒付き飴でのストレッチがあります。 棒付き飴を使った口唇・舌・ほおのストレッチ 棒を引き抜こうとすると、唇が飴をとらえて口が閉じる。味覚による唾液分泌と、飴の棒を引っ張ることにより口唇を閉じる訓練になる。(実施の判断時は、糖尿病のリスクがないことを確認。食前の実施がよい。) ①~③が複合的に生じることもあります。しっかり装着するためにも、市販の義歯安定剤を試していただくのもよいでしょう。 義歯のケア方法 義歯は主にプラスチックです。日ごろの洗浄や消毒を怠ると、プラスチック特有の極微細な気泡中に、口腔内細菌が繁殖します。低栄養や免疫力低下が引き金となり、カンジダ菌(日和見菌)による義歯性口内炎が発症することもあります。 義歯は、最低一日1回の手入れが必要です。歯磨剤は使用せず、流水下で義歯用ブラシ洗浄し、義歯洗浄剤に30分以上浸けます。 おわりに 認知症があっても、あきらめる必要はありません。入れ歯が合わず落ちる、すぐ外してしまうなどの場合は、ご家族にも相談の上、早期に訪問歯科へつないでもらうようケアマネジャーに伝えましょう。 次回は、2回の脳出血後に嚥下困難になった方を、介護負担の軽減へ導いた症例を紹介します。 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士)記事編集:株式会社メディカ出版

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