ケア知識に関する記事

スピリチュアルペインを和らげる個別のケア【スピリチュアルケア】
スピリチュアルペインを和らげる個別のケア【スピリチュアルケア】
特集
2024年10月29日
2024年10月29日

スピリチュアルペインを和らげる個別のケア【スピリチュアルケア】

「スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア【スピリチュアルケア】」で解説した「基盤となるケア」に続き、今回はもう1つのケア「個別のケア」について解説します。患者さんのスピリチュアルペインの訴えに焦点をあて、スピリチュアルケアの実践を学んでいきましょう。 ケア提供者の基盤となる「気遣う」姿勢 看護師がスピリチュアルケアを実践するには、前回も述べたように、普段から「全般的なケア」である基盤となるケアを念頭において、まずは患者さんとのよりよい関係性を構築することが重要です。看護師は傾聴や共感、沈黙、ともにいることといった基本的コミュニケーションを用いて、患者さんが直面している苦しい現実や、そのために生じる否定的な感情を表出できるように援助していくことが大切です。 ケア提供者である看護師は、専門職としての知識や技術、倫理観を備えていることを前提として、以下の5つの姿勢で患者さんを「気遣う」ことが望まれます。 積極的な傾聴ができる共感的な感性を磨く自己の価値観や倫理観から自由である自己の弱さや限界を認めるチームの一員としてかかわる 患者さんのスピリチュアルなニーズに気づき、スピリチュアルペインをケアしていくためには、患者さんに関心を寄せて、そこに「居合わせること(presence)」1)が重要です。看護師は、患者さんと居合わせることにより、いつもとは違う感情が表現されていることや、行為や行動が違っていることに気づけるのです。 「事例で検討 スピリチュアルペインのアセスメント【スピリチュアルケア】」で示したがんの終末期にあるAさん(男性、60代、膀胱がん)の事例で表出されたスピリチュアルペインをもとに、個別のケアとして、「負担感/申し訳なさ」(関係性のスピリチュアルペイン)に関するケアの工夫と、「自分のことができないつらさ」(自律性のスピリチュアルペイン)に関するケアの工夫について、そのポイントを以下に挙げます2)。 「負担感/申し訳なさ」に関するケアの工夫 「負担感/申し訳なさ」に関するケアの工夫には6つのポイントがあります。順に説明します。 1 患者さんの価値観を理解する●患者さんがどんな価値観をもっているかを知る●患者さんの価値観を否定することなく、気持ちを理解しようとしていることを伝える2 負担感/申し訳なさについて患者さんとご家族が気持ちを伝え合えるようにコーディネートする●患者さんの負担感/申し訳なさを感じている気持ちを聴く●ご家族は実際にどう感じているのか、ご家族の気持ちを聴く●ご家族が負担とは感じていないことや、本人・家族相互の気持ちを自然体で伝え合えるようコーディネートする、または橋渡しする3 患者さんの負担感/申し訳なさが減るケアを工夫する●患者さんが負担だと感じることは何か、なぜそれを負担と感じているかを知る●日常生活で負担を感じさせない工夫をする●「してあげる」ケアを避ける●患者さんのがんばりを支える●喪失を最小化する●今までの人生の価値を振り返る4 新たな視点を提示する●患者さんの価値観を尊重しつつ、新たな視点を提示してみる●新たな視点を提示する言葉は、患者さんの負担にもなりうることをケア提供者が知っておく5 ご家族の負担を和らげる●ご家族に対する十分な情緒的サポート、ねぎらいを行う●ご家族が介護と生活を両立できるためのサポートを行う●ソーシャルワーカーと連携し、適切な社会資源を紹介する6 患者さんのコーピングを支持する●患者さんの行っているコーピングを理解し、支持する文献3)をもとに作成 「自分のことができないつらさ」に関するケアの工夫 「自分のことができないつらさ-自分で自分のことが思うようにできないつらさ」に関するケアの工夫には3つのポイントがあります。 1 喪失を最小限にする●患者さんが自分でできるようサポートする●患者さんが自分の力を最大限活かせるための環境を整備する●リハビリテーションの導入を相談する●補助具(コルセット、ステッキ、歩行器、車いす、電動車いすなど)の使用を相談する●患者さんの希望に沿った症状緩和を行う2 コントロール観を最大限にする●何を、いつ、どこで、どんな方法で行うかを患者さんが選択できるように配慮する●達成が難しいようなことでも否定せず、患者さんが挑戦することを支持する3 患者さんのコーピングを支持する●患者さんのコーピングを理解し、支持する文献4)をもとに作成 ケア提供者に求められる態度・考え方とは スピリチュアルケアにおけるケア提供者の基本的な態度や考え方を調査した研究結果5)から、スピリチュアルケア提供者の「心構え」として次のことが示されています。「患者さんの可能性を信頼し、人生へ敬意を払う」<人間への信頼と敬意><傾聴がケアとなることの自覚>、「心・苦悩・人生に意識を向ける」<スピリチュアリティの探求>、「問題解決的関わりや過度な期待によって巻き込まれることへの自戒」<医療者本位への自戒>です。 また、患者さんのスピリチュアルな側面のニーズを満たすためには、「誠実さ、謙虚さ、ケアリングを意識して患者さんに向き合う姿勢」が必要とされています。ケアリング(caring)の概念は明確化されていませんが、共感や気づかい、思いやりなど、ケア提供者の心情や態度を表すものとされています。 患者さんにケアリングを行うとは、患者さんを精神的に成長しうる存在として捉え、共感や気遣い、思いやりを基盤としながら、一方的に患者さんを支援するという態度では成り立ちません。患者さんの成長や自己実現のために(実現を助けるために)、患者さん・ご家族とともにケアを行っていくことが大切です。 一方、スピリチュアルな苦悩の中にある患者さんとの関わりは容易なものとは言い難いでしょう。自分自身がどのような意識の志向性をもった人間で、今自分が何を感じ、どのような感情を抱いているのか、時に自己を見つめ直す機会をもつことはとても重要です。自然や、文化、芸術などに触れ、自分自身へのケアも意識的に取り入れることも大切なことです。 看護師として、一人の人間としてケアにあたる スピリチュアルペインは、本来、終末期の患者さんに限らず有限の生を生きるわれわれ誰もが直面せざるをえない苦しみです。その内容は非常に個人的であり、人格的なものです。したがって、スピリチュアルケアは、その人をあるがままに受けとめ、その人が「どのように生きるか、どのように生きてきたか」という、生きることそのものを支えるケアであるといえるでしょう。 鷲田 清一氏6)は、「自分の言葉がわかってもらえたかどうかよりも、その言葉が受けとめられたかどうかのほうがはるかに大きな意味をもっている。揺れている、無防備な自分をそのまま認めて肯定してくれる他者がそばにいてくれること自体が、私たちを支えてくれるのだと思う」と述べています。 人間存在そのものへの問いかけや、スピリチュアルな側面での苦悩をもつ人への関わりは、一方的な解釈や答えを与えることでも、励ますことでもありません。苦しみを、悲しみあるいは怒りとして、個々に表出するその人を、ありのままに、それでよいのだと受け入れることから始まるのだと思います。そして、その人の背景にある苦しみに(喜びにも)、寄り添いたいとの思いで、ともにあり続けることが大切であり、そのようなケアの担い手でありたいと願っています。 執筆:前滝 栄子京都大学医学部附属病院 緩和ケアセンターがん看護専門看護師 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Tamura K, Kikui W, Watanabe M (2006) Caring for the spiritual pain of patients with advanced cancer: a phenomenological approach to the lived experience. Palliative and Supportive care4, 1-10.2)田村恵子,森田達也,河正子編.看護に活かすスピリチュアルケアの手引き.第2版,青海社,2017,p. 58-65.3)同上,p.59-60.4)同上,p.62.5)同上,p. 129-131. 6)鷲田清一.そこにいる力、聴くことの力.ターミナルケア,2000,10(3).p.199-204.

「透析療法」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
「透析療法」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年10月15日
2024年10月15日

「透析療法」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は腎不全の治療として導入される透析療法をメインに取り上げ、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 透析療法の基礎知識 推定糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満(CKDの重症度分類:G4)の患者は、腎代替療法(RRT:renal replacement therapy)である血液透析や腹膜透析、腎移植について教育を受ける必要があります。透析導入より3~6ヵ月以上前の腎臓専門医への紹介は、透析導入後の良好な予後が期待できます。多職種によるRRTの説明と教育を行うことが、腎障害進行速度の抑制、緊急透析の回避、RRTの選択に関連することが報告されています。 日本では慢性透析療法を受けている患者数が約35万人いて、台湾、韓国に次いで世界第3位の透析大国です。RRTは進行したCKD(慢性腎臓病)患者の生活の質(QOL)を改善させ維持することを目的としています。高齢または複数の合併症を有する患者は、RRTを望まない可能性があります。緩和ケアによる苦痛の軽減が重要です。 >>関連記事「慢性腎不全(CKD)」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】CKD(慢性腎臓病)について詳しく解説しています。 透析療法の種類 透析療法には血液透析と腹膜透析があります。また、ここでは先述したRRTの1つ、腎移植についても紹介します。 血液透析 血液透析は、半透膜で隔てられた血液と透析液を対流させ、濃度勾配に逆らう対流と拡散によって血液中の溶質を除去します。週3回、4時間程度の通院治療が必要です。透析室での拘束時間に加え、透析中または透析後の低血圧、透析後の過度の疲労が問題となることがあります。 腹膜透析 腹部に留置したカテーテルから腹腔に透析液を注入します。腹膜が半透膜の役割を果たし、腹膜を介して拡散と浸透の原理により水と物質の交換が可能になります。この方法を連続携行式腹膜透析(CAPD)といいます。透析液の交換は1日に約3~4回行われます。日中に交換を行うこともできますが、サイクラーと呼ばれる自動腹膜透析装置を用いれば眠っている間に透析液を交換することができます。この方法をAPD(自動腹膜透析)といいます。 腹膜透析の利点には、時間の制約が少ないため自律性を高められることや穿刺の苦痛がないといったことが挙げられます。腹膜透析の生命予後は血液透析とほぼ同じですが、近年では腹膜透析の方が予後はよいとの報告があります。 腹膜炎は死亡率の増加に関連する重大な合併症で、感染を繰り返すと腹膜障害により透析療法の効果が低下します。腹膜透析に関連した腹膜炎の発生頻度は低く、2~3年に1回程度です。通常はグラム陽性球菌(皮膚常在菌)が原因で、カテーテルを取り扱う際の適切な皮膚衛生と無菌的手技が重要となります。 腎移植 平均余命とQOLを改善し、透析と比較して医療コストの大幅な削減をもたらします。わが国では深刻な死体腎提供不足のため、生体腎移植に依存しています。その一方で、生体腎ドナーが腎臓を提供することで末期腎不全に至るリスクが増加するという問題があります。 また血液透析や腹膜透析を開始する前に施行される先行的腎移植が行われることもあり、有用性が示されています。 図1 RRTの種類 RRT導入は尿毒症の症状や検査所見(脳症、嘔吐、肺水腫、高カリウム血症、出血)およびeGFR<15mL/分/1.73m2で判断します。 合併症と治療 血液透析や腹膜透析では次の合併症が起こることがあります。 感染症 感染症は末期腎不全(ESKD: end stage kidney disease)における死亡原因の第1位です。透析患者では、B細胞の減少やT細胞による免疫反応の低下に加え、穿刺により皮膚から細菌が侵入する危険があります。発熱の原因は感染症が多く、悪寒戦慄(毛布をかけても体の震えが止まらない)がある時は菌血症の可能性が高くなります。 透析時に脱血や返血で使用するバスキュラーアクセスの感染が48~89%です1)。バスキュラーアクセス以外の感染症の存在を確認するため、発熱以外に咳や痰、腹痛や下痢、頻尿や残尿感がないかを問診する必要があります。抗菌薬投与前に血液培養や痰培養、尿培養を考慮します。菌血症が疑われる場合には、血液培養の結果を待つことなく抗菌薬治療が開始されます。 心血管疾患 心臓突然死は第二の死因です。透析中の血清電解質の急激な変化や慢性的な容量負荷が心肥大を起こします。また、カリウムやカルシウムなどの電解質、血圧、体液量、pHの変化が不整脈の原因となります。 弁膜症(特に大動脈弁狭窄症)も多く、透析中の急激な体液除去によって誘発される透析内低血圧は、臓器低灌流による心血管系および中枢神経系の障害を引き起こす可能性があります。また、透析患者は動脈硬化進行例が多いです。 むずむず脚症候群(RLS:restless legs syndrome) むずむず脚症候群とは、安静時や夜間に生じる、下肢がむずむずするような不快感や異常知覚のことです。周期的に脚がぴくつき、不眠となる場合があります。原因は脳のドパミン系の機能異常で、鉄剤による鉄の補充やドパミン作動性抗パーキンソン病治療薬(プラミペキソール、ロチゴチン)が有効です。 メンタルヘルス 透析患者の5~10人に一人はうつ病を有している可能性があります。不眠(または過眠)、食欲低下(または過食)、抑うつ気分、今までに楽しめていたことが楽しめないという症状があれば、担当医に連絡することが必要です。 かゆみ そう痒症の病因は明らかではありません。透析患者の約70%程度にみられます。夜間や透析中(または透析直後)に背部や顔、シャント肢を中心にかゆみを訴えることが多いのが特徴です。保湿剤、タクロリムス軟膏、ステロイド外用薬が治療に用いられます。訴えがなくても、かきむしったあとがあるかどうか、皮膚の観察を行いましょう。 透析患者で注意すべき薬剤 腎機能が低下している透析患者には注意すべき薬剤があります。表1に主なものをまとめました。また、薬剤投与量の一覧表は日本腎臓病薬物療法学会のホームページから無料で閲覧ができます。 ▼日本腎臓病薬物療法学会「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」https://www.jsnp.org/ckd/yakuzaitoyoryo.php 表1 透析患者で注意すべき薬剤 慢性心不全治療薬                  予後改善薬とされるRAS(レニン・アンギオテンシン系)阻害薬、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプライシン阻害薬)、β遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)をすべて使用すると高カリウム血症や血圧低下を起こす可能性がある降圧薬● 腎排泄型のβ遮断薬は減量して使用する● 特殊な膜を用いた透析ではACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬の使用が禁忌となる● MRAは高カリウム血症のリスクが上昇する抗凝固薬● 直接経口抗凝固薬(DOAC:direct oral anticoagulant)は禁忌● ワルファリンを使用することもあるが、出血性合併症に厳重な注意が必要脂質異常症治療薬● すべてのスタチンとペマフィブラート、エゼチミブは使用できる● ベザフィブラートとフェノフブラートは禁忌血糖降下薬● インスリン、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬(腎排泄型では減量)が用いられる● SU(スルホニル尿素)薬やメトホルミン、ピオグリタゾン、SGLT2阻害薬は避けたほうがよい鎮痛薬● アセトアミノフェンは常用量で使用できる● トラマドールやプレガバリン、ミロガバリンは減量が必要● モルヒネやコデインは代謝物が蓄積するため避けたほうがよい 訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント 発熱があれば、バスキュラーアクセス部位の発赤や腫脹、咳や痰、腹痛や下痢、頻尿や残尿感についてアセスメントします。 設定されたドライウェイト(身体に溜まった余分な水分を透析療法によって取り除いたときの体重)を基準とした体重増加、心不全を示唆する夜間発作性呼吸困難、SpO2低下、肺のcrackles(クラックル)、頸静脈怒張、下腿浮腫について確認し、心不全をできるだけ早期に発見します。 不眠(または過眠)、食欲低下(または過食)、抑うつ気分、今までに楽しめていたことが楽しめない気持ち、希死念慮について確認します。 最新トピックス透析の差し控えや継続中止の決断に至った場合、保存的腎臓療法(CKM:conservative kidney management)を行う必要があります。CKMには共同意思決定(SDM:shared decision making)と患者中心のケア、積極的な症状管理、アドバンス・ケア・プランニング(ACP:advance care planning)の重視、末期腎不全(ESKD:end stage kidney disease)の進行を遅らせるための介入が含まれています。CKMとRRTの比較に関するシステマティックレビューによれば、生存率はRRTのほうが有意に良好でしたが、QOLについては同等あるいはCKMのほうが良好な傾向にあったことが報告されています。 患者の意思の尊重 患者が自分らしく、よりよい最期を迎えることができるよう、人生の最終段階における医療とケアを進めていくことが大切です。医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされたのちに、患者本人が意思を決定することが重要です。本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合には、家族の希望を問うのではなく「ご本人がもし意思表示できるとしたらどのように仰ると思いますか」と家族と医療従事者で患者の意思を推定する必要があります。 ● eGFRが30mL/分/1.73m2未満(G4)の患者は、腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)について教育を受ける必要があります。● 透析の合併症では感染と心臓突然死に注意します。● 透析患者では薬の減量が必要になることや使用禁忌の薬があります。   執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Vandecasteele SJ,et al.:Staphylococcus aureus infections in hemodialysis: what a nephrologist should know.Clin J Am Soc Nephrol 2009;4(8):1388-400. 【参考文献】○日本腎臓学会:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社,東京,2023.○日本透析医学会:2022年慢性透析療法の現況.2022年末の慢性透析患者に関する集計,2022.https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2022/pdf/01.pdf2024/07/8閲覧○Chick D,et al.:Chronic kidney disease.MKSAP19 Nephrology,American College of Physicians,p75-91,2021.○坂井正弘他編集:透析療法のすべて.Hospitalist 2023;11(2).○透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言作成委員会:透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言.透析会誌 53(4):173~217,2020○Tsai HB, et al.:Conservative management and health-related quality of life in end-stage renal disease: a systematic review.Clin Invest Med 2017;40(3):E127-E134.○Ren Q, et al.:Quality of life, symptoms, and sleep quality of elderly with end-stage renal disease receiving conservative management: a systematic review.Health Qual Life Outcomes 2019;17(1):78.○厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン.2018.https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf2024/7/8閲覧

CPAP療法とは?知っておきたい適応や禁忌、治療継続につながる対応
CPAP療法とは?知っておきたい適応や禁忌、治療継続につながる対応
特集 会員限定
2024年10月8日
2024年10月8日

CPAP療法とは?知っておきたい適応や禁忌、治療継続につながる対応

睡眠時無呼吸症候群は、いびき・日中の眠気・倦怠感などの症状がみられる疾患で、在宅診療でも遭遇することがあります。上気道の狭窄が原因であることが多く、CPAP(持続陽圧呼吸)療法が行われています。今回はCPAP療法の適応・装置・メンテナンス法などを紹介します。 CPAP療法の適応疾患・基準 睡眠時無呼吸症候群の治療に用いられる 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)は、夜間の断続的な低酸素血症・高二酸化炭素血症・睡眠の分断などが原因で、いびきのほかに日中の眠気・倦怠感などを感じるようになる疾患です。2003年の新幹線オーバーラン報道がきっかけで、SASは世間一般にもよく知られるようになりました。 日本人を対象とした研究では、男性で約24%、女性で約10%に睡眠呼吸障害が報告されており1),2)、SASは有病率の高いcommon diseaseであると考えられています。心血管イベントや認知機能低下などのリスクも高くなることから、適切な治療が必要です。 SASは、上気道が閉塞してしまう「閉塞性睡眠時無呼吸」と、気道閉塞を伴わない「中枢性睡眠時無呼吸」に大きく分類されます。CPAP(continuous positive airway pressure)療法は、持続的に気道へ圧力をかけることで上気道の閉塞を解除し無呼吸を改善する治療法で、閉塞性睡眠時無呼吸に対して有効となります(図1)。 ただしCPAP療法はあくまで対症療法であり、根本的な原因治療ではないことを知っておかなければいけません。肥満であれば減量を試みる価値がありますし、扁桃肥大・アデノイドなど耳鼻科疾患があれば、その切除を検討することが必要です。 図1 CPAP療法のしくみ AHI20以上で在宅CPAP療法が適応に 在宅CPAP療法の使用基準は診療報酬上、以下に該当することとされています3)。 (1)無呼吸低呼吸指数(apnea-hypopnea index:AHI、1時間あたりの無呼吸および低呼吸数)が20以上であること(2)日中の傾眠・起床時の頭痛などの自覚症状が強く、日常生活に支障を来していること(3)睡眠ポリグラフィー上、頻回の睡眠時無呼吸が原因で、睡眠の分断化、深睡眠が著しく減少または欠如し、CPAP療法により改善する症例であることC107-2 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料 ただし、睡眠ポリグラフ検査(polysomnography:PSG)は、睡眠時にさまざまなセンサーを取り付ける煩雑な対応が必要で、入院で実施する必要があります。そのため、自宅で実施可能な施設外睡眠検査をはじめに行うことも多く、AHI の代わりに呼吸イベント指数(respiratory event index:REI)40以上の結果が得られ、かつ上記の(2)の症状を認めれば、CPAP療法の導入を行うことができます。 CPAP療法が使用できないケース CPAP療法は、嚢胞性肺疾患(巨大なブラがある、肺リンパ脈管筋腫症、Birt-Hogg-Dube症候群など)、気胸、病的な低血圧症、脱水症、脳脊髄液の漏れ・頭部外傷歴・頭蓋内気腫がある患者さんには使用できません。 またSASの症状があっても、AHIが5〜20の場合はCPAP療法の適応とはなりません。ただし、歯科で作製してもらった口腔内装置(マウスピース)を用いた治療は行うことができます。 CPAP療法の標準装備 CPAP装置は、メーカーによりデザインの違いはあるものの、そのしくみはほとんど同じです。CPAP装置に加え、加湿器(CPAP装置と一体型になっているものも多い)、チューブ(もしくは加温チューブ)、マスクが標準装備です(図2)。 図2 CPAP療法に必要な装置 マスクの形にも種類があり、鼻全体を覆うタイプ(ネーザルタイプ)、鼻腔に当てるタイプ(ピロータイプ)、鼻と口全体を覆うタイプ(フルフェイスタイプ)があります(表1)。ネーザルタイプが一般的ですが、それぞれにメリット・デメリットがあるので、適切なマスクを選択することが必要です。 表1 CPAPマスクの種類と特徴 マスクの装着方法 マスクのタイプ、メーカーによって装着方法は少し異なりますが、よく使用されているネーザルタイプの標準的な装着方法を紹介します4)。(1)マスクはチューブから外し、単体で装着する(2)マスクの左右の方向を確認し、マスククッションを鼻に当てる(3)ストラップあるいはヘッドギアを装着する(4)マスクからリークがないよう、また痛みを感じることがないよう、バンドを調整しマスクをフィットさせる(5)最後にチューブをマスクに接続し、CPAP装置を起動させる 各メーカーがマスクの装着方法を動画で紹介しているので、一度確認しておくとよいでしょう。 ネーザルマスクを用いる際に、開口が問題となる場合には、顎が下がらないようにチンストラップや細いテープの使用を考慮します。 CPAP療法の実際 患者さんごとの最適な圧力調整が必要 CPAPの陽圧値は、固定圧あるいは自動圧調整(Auto CPAP)で設定します。固定圧は、それぞれの患者さんに適した一定陽圧を調整し決めなければならないので(タイトレーションといいます)、適切な管理ができるまで細やかな調整が必要となります。 それに対しAuto CPAPは、装置内のセンサーを用いて無呼吸や気流制限を解析し、睡眠中の圧力を自動的に増減させるしくみです。基本的に最低・最高圧を設定するだけでいいのでタイトレーションが簡便であり、近年頻用されるようになっています。しかし、圧力変動で違和感を覚える場合があること、睡眠状況の変化を察知してから圧力調整が行われるため予防的効果が低くなってしまうことがデメリットとして挙げられます。 陽圧そのものが不快に感じられることは多く、CPAP開始後にゆっくりと圧力を上昇させるramp機能や、呼気時に圧力を下げる機能が備わっているものもあります。 アドヒアランス低下の要因に適切に対応 CPAP療法は、患者さん自身が治療方針に賛同し、積極的に治療を継続する「アドヒアランス」が大切です。アドヒアランスが低下する原因として、鼻閉感、鼻の刺激、口の乾燥、腹部膨満感、リークの刺激、マスク痕や皮膚の炎症などが挙げられます。抗ヒスタミン薬の導入、加温加湿器の使用、マスクフィッティングの調整、圧設定の調整、皮膚保護など、患者さんの訴えに合わせた対応をすることで、アドヒアランスの向上が期待できます。 CPAP療法を継続できない患者さんには、顎矯正手術や植え込み型舌下神経刺激療法を行うことがあります。高度肥満患者さん(BMI 35以上)には腹腔鏡下スリープ状胃切除術の適応があり、減量することでAHIを低下させられる可能性が報告されています5)。 なお、マグネット付きストラップのマスクは装着が容易ですが、マグネットと相互作用する医療機器(ペースメーカー、植込み型除細動器など)を使用している患者さん、器具(脳動脈瘤クリップ、塞栓コイルなど)が体内に存在している患者さんには使用禁忌となっており、注意が必要です。 治療継続とAHI5以下が目標 CPAP装置の設定は医師が行います。患者さんは寝る直前にマスクを装着し、CPAP装置を起動させるだけでよいです。訪問看護師さんをはじめとした医療従事者は、CPAP装置に記録されたデータをもとに、CPAP療法が適切に行われているか評価します。装着日数を増やすこと、AHIが5以下になること、4時間以上の使用日数が70%以上になるように、アドヒアランス改善を目指します。リークが多いようであれば、マスクフィッティングの再確認が必要です。 CPAP装置は毎日のメンテナンスが必須 CPAP装置使用後は、チューブ差込口や空気取り入れ口にほこりが詰まっていないか毎日確認が必要です。清潔を維持するため、マスク本体はパーツごとに分解し、中性洗剤を用いてぬるま湯で毎日洗います。チューブは使用後吊り下げて保管し、週に1回はぬるま湯と中性洗剤で洗います。加湿器のチャンバーも、毎日使用後にぬるま湯と中性洗剤で洗います。これらの洗浄処置を怠ると、細菌・真菌などが繁殖し感染症の原因となります。なお、実際のメンテナンスは、使用している装置の取扱説明書や添付文書に従い行うようにしてください。 また、マスクやチューブに傷がないか毎日確認する必要があります。問題があればメーカーに問い合わせし交換してもらいます。 執筆:細野 裕貴地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸器内科 診療主任 監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 呼吸ケアセンター センター長竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長 編集:株式会社照林社 【参考文献】1)Matsumoto T,Murase K,Tabara Y,et al. 「Impact of sleep characteristics and obesity on diabetes and hypertension across genders and menopausal status: the Nagahama study」. Sleep 2018;41(7):1-10.2)松本健. 「本邦の睡眠呼吸障害―ながはまコホートの結果から」. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2021;30(1):33-38.3)厚生労働省:「医科診療報酬点数表に関する事項」. 20244)帝人ファーマ「操作動画「AirFit N20 マスク」」.https://medical.teijin-pharma.co.jp/product/zaitaku/airfit-n20/movie.html2024/03/29閲覧5)西島宜生.「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)におけるCPAP以外の治療」. 日本内科学会雑誌 2020;109:1082-1088.

「慢性腎不全(CKD)」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
「慢性腎不全(CKD)」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年10月1日
2024年10月1日

「慢性腎不全(CKD)」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は慢性腎不全(CKD:chronic kidney disease)について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 慢性腎不全(CKD)の基礎知識 腎臓の障害または腎機能低下が3ヵ月以上続く病態を慢性腎不全、CKD(chronic kidney disease)といいます。腎臓の障害は血清クレアチニンの上昇や、タンパク尿またはアルブミン尿の持続、画像診断による両側の腎臓萎縮から判断されます。腎機能低下とは糸球体濾過量(GFR)が60mL/分/1.73m2未満を指します。 日本では成人の8人に1人がCKDとされ、高齢になるほど発症率は高くなり、80歳代では2人に1人といわれています。人工透析にかかる医療費は、患者一人あたり年間500万円にも上ります。医療費抑制の点からもCKDの悪化予防が大切です。 CKD患者のほとんどは末期腎不全に進行しません。30歳以上の健康な成人では、推定糸球体濾過量(eGFR:血清クレアチニン、性別、年齢からGFRを推算した値)の平均低下速度は年間約1mL/分/1.73m2です。アルブミン尿やタンパク尿の増加および/または糖尿病性腎疾患などの危険因子を有する患者は、より急速に進行する可能性が高いです。 CKDの重症度は、GFRのレベルに基づいてG1からG5に分類されます(表1)。アルブミン尿は腎疾患および心血管疾患の罹患率および死亡率の上昇と関連しているため、GFRに基づく腎臓の病期はアルブミン尿の程度によってさらに細かく分かれています。表1で示す緑→黄→オレンジ→赤の順に死亡リスクが高くなります。 表1 CKDの重症度分類 重症度は原疾患・GFR区分・蛋白尿区分を合わせたステージにより評価する.CKDの重症度は死亡,末期腎不全,CVD死亡発症のリスクを緑■のステージを基準に,黄■,オレンジ■,赤■の順にステージが上昇するほどリスクは上昇する.(KDIGO CKD guideline 2012を日本人用に改変) 日本腎臓学会 編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社,2023:4.より許諾を得て転載 診断 CKDの診断は先述したとおりですが、日常の臨床では血清クレアチニンから推定するeGFRを用いるのが一般的です。したがって、3ヵ月以上eGFR<60mL/分/1.73m2であることの確認、またはeGFRに関係なくタンパク尿またはアルブミン尿が持続していることの確認が必要です。 なお、eGFRは筋肉量が減少している患者では高めに算出されます。そのような場合はクレアチニンの代わりにシスタチンC値を用いてeGFRを計算します。 合併症と治療 CKDでは次の合併症が起こることがあります。 心血管疾患 心血管疾患はCKD患者の主要な死因です。死亡リスクはeGFRが低下し、アルブミン尿が増加するにつれて高くなります。 高血圧 高血圧を合併する頻度も高く、130/80mmHg未満にコントロールすることが推奨されています(米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)『血圧ガイドライン』[2017]、日本腎臓学会・日本高血圧学会『CKD診療ガイド 高血圧編』[2008])。ACE阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬の投与によりCKDの進行を遅らせる可能性があります。ループ利尿薬は心不全を合併している場合に使用されます。食塩摂取量は3~6g/日が推奨されています。 脂質異常症 ほとんどのケースでスタチンによる治療が勧められます。LDL<120mg/dL(可能なら<100mg/dL)を目標とします。 高カリウム血症 カリウム値が高くなると、典型的な心電図変化が見られます。テント状T波やQRS幅の延長、P波の消失、またQRS波とT波の区別が難しくなりサインカーブのように変化する心電図所見を認めます(図1)。腎機能の悪化した患者が徐脈性ショックを起こしたケースでは、高カリウム血症を必ず鑑別診断に挙げなければなりません。 図1 高カリウムの時の心電図 腎性貧血 腎機能が低下するとエリスロポエチン(EPO)の産生が低下し、正球性正色素性貧血となります。しかし、CKD患者には消化管出血もよく起こるので、鉄欠乏性貧血も確認する必要があります。息切れや動悸、倦怠感、黒色便、食欲低下、体重減少の有無を聞きましょう。 消化管出血に関連し、高齢者の消化性潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)では腹痛をまったく訴えないことがあります。50歳以上の患者では、常に悪性腫瘍の可能性を考えてください。数ヵ月以内で5%を超える体重減少があったか、上部消化管内視鏡検査や下部消化管内視鏡検査が最近施行されているかを確認することが重要です。  最新トピックス糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬は、糖尿病性腎臓病のみならず、糖尿病非合併のCKD患者においてタンパク尿を有する場合、腎機能低下の進展抑制、心血管疾患イベントおよび死亡の発生抑制ができることが分かりました1)。 訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント CKDのリスクとなる高血圧や糖尿病、腎疾患、膠原病、高尿酸血症の治療歴を確認します。NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)の内服や喫煙についてもチェックが必要です。 [注]NSAIDsの内服は、腎機能や心不全の悪化、消化性潰瘍を起こします。PPIは間質性腎炎を起こすことが知られています。担当医に服薬状況を伝えましょう。 ほとんどのCKD患者に症状はありません。進行すると全身や下腿に浮腫がみられます。心不全はできるだけ早期に診断して治療を行うことが重要です。心不全を示唆する次の症状や身体所見に注意してください。 左心不全 左心不全になると、就寝後2~3時間して突然息が苦しくなって目覚めます(夜間発作性呼吸困難)。体動時の息苦しさやSpO2の低下も認められます。進行すると前屈みで座位になっていないと苦しくなります(起座呼吸、図2)。靴紐を結ぶ動作のように前屈みになると息苦しくなるか(ベンドニア、前屈呼吸苦)を確認してもよいでしょう(図3)。息苦しくなれば、左心不全です。両側の肺下部で吸気時にcrackles(クラックル)が聴取されます。膜型聴診器を聴診器の跡が残るくらい強く背中に押しつけ、大きく深呼吸をしてもらうのがポイントです。 図2 左心不全における起座呼吸 臥位で呼吸困難が増強し、起座位で軽減する状態を起座呼吸という。前屈みで座位になっていないと苦しくなる。 図3 ベンドニア(前屈呼吸苦) 靴紐を結ぶ動作のように前屈みになったときに息苦しくなる症状のことをベンドニアという。 右心不全 右心不全では頸静脈の怒張や肝腫大、両下腿の浮腫を認めます(図4)。座位で頸静脈が確認できれば中心静脈はかなり高いと推定できます。下腿を指で圧迫し痕をつけた後に手を離すと40秒経っても圧痕が残ります(slow edema)。 図4 右心不全の所見 右心不全では頸静脈の怒張や肝腫大、両下腿の浮腫を認める。 * * * 多くの患者では、左心不全と右心不全が同時に起こります(両心不全)。右心不全の最大の原因は左心不全です。急激な体重増加は心不全の悪化を意味するため注意が必要です。また、末期腎不全になると、尿毒症症状(意識障害、頭痛、不眠、疲労感、嘔気、食欲不振、息苦しさ)が現れることがあります。 意識レベルの低下、急激な体重増加、SpO2低下(<90%)、急速な下腿浮腫の悪化があれば担当医に連絡しましょう。 ●CKDの診断には、3ヵ月以上eGFR<60mL/分/1.73m2であることの確認、またはeGFRに関係なくタンパク尿またはアルブミン尿が持続していることが必要です。●CKDは予防が重要。降圧目標は収縮期130/80mmHg未満、食塩制限は3~6g/日とします。●CKDと心不全は合併しやすいです。心不全を示す症状や身体所見を早期にアセスメントしましょう。   執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)⽇本腎臓学会:CKD 治療における SGLT2 阻害薬の適正使⽤に関するrecommendation.2022年11⽉29⽇策定.https://jsn.or.jp/medic/data/SGLT2_recommendation20221129.pdf2024/6/17閲覧 【参考文献】○日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社,2023:4.○Chick D,et al.:Chronic kidney disease.MKSAP19 Nephrology,American College of Physicians,p75-91,2021.○Heerspink HJL,Stefánsson BV,Correa-Rotter R,et al.:Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease.N Engl J Med 2020;383(15):1436-1446.

【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」
【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」
特集
2024年9月24日
2024年9月24日

【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」

2024年7月20日・21日と2日間にわたり、幕張メッセ国際会議場(千葉県幕張市)にて「第6回 日本在宅医療連合学会大会」が開催されました。テーマは「在宅医療を紡ぐ」。大会長は、国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター 市川病院神経難病センターの萩野 美恵子氏です。NsPace(ナースペース)編集部が大会の模様をレポートします。 多数の参加型の企画に込められた思い 「在宅医療を紡ぐ」というテーマが掲げられた本大会では、サブテーマとして以下の7つも掲げられました。 ・「幸」(Well being/生活の質・人生の質(QOL)の向上)・「働」(Collaborative decision making /協働意思決定)・「含」(Inclusion of diverse values/多様な価値観の包含)・「継」(sustainability/持続可能性)・「繋」(interdisciplinary team collaboration/多職種連携)・「楽」(enjoy your life/快) 多様性やジェンダーバランスに工夫されているほか、「聞く」講演だけではなく、ミュージカルや映像を「見て」、ワークショップや認知症カフェなどで「体験して」、参加者がさまざまな視点で楽しく参加しながら学べるプログラムを多数開催。 多職種がディスカッションする場面も多く見られ、在宅医療に携わる人たちが互いに知見を共有し、在宅医療の未来を見つめ交流する場となっていました。 参加型・体験型プログラム 多職種との交流を実現した参加型・体験型プログラムを一部紹介します。 ワークショップ「在宅における看取り時の立ち振る舞いについて考えませんか?」 座長:大屋 清文氏(ピースホームケアクリニック京都) 4~5名でグループを作り、医師、訪問看護師、利用者、家族などの役割を演じながら、看取りの場面における対応や立ち居振る舞いについてシミュレーションする企画。座長の大屋氏は、「看取り時の立ち居振る舞いについて、正解というものはない。答えではなく問いを持ち帰っていただきたい」と話されました。シミュレーション後のディスカッションでは、「この場面に『お疲れ様でした』という言葉はそぐわないのでは」「医師はご遺体にそのようには触れないのでは」といった臨場感のあるやり取りも。また、「普段とは異なる職種や家族役をやることで学びがあった」「医師・看護師ともにワークショップに参加しており、普段臨床の場では聞けない医師の本音も聞けた」といった感想が聞かれました。 虹色のcafé 「未来みらい」 カフェオーナー:川口 美喜子氏(札幌保健医療大学)カフェ共同オーナー:Lintos café(リントスカフェ)、まあいいかlaboきようと(平井 万紀子氏) 学会期間限定でオープンした虹色のcafé 「未来みらい」では、東京栄和会なぎさ和楽苑、社会福祉法人おあしす福祉会オアシス・プラスの方々など、障害のある方や認知症の方がスタッフとして活躍されていました。またこのカフェでは本格的なお菓子が楽しめるだけでなく、川口氏とLintos caféのバリスタ、とろみ剤の企業、歯科医師が約1年かけて共同で考案したとろみがついたおいしいコーヒーを味わうことができました。摂食嚥下障害がある方でも安全に楽しめるこのコーヒーは、飲みやすさとおいしさを両立。食べる歓びを実感できる機会となったこのカフェは、大変な賑わいを見せていました。また、認知症の方や障害を持っている方の「自分の街で当たり前の暮らしがしたい」「社会で活躍したい」という望みの実現のために必要なことについて考える貴重な機会となりました。 みんなで孤立をなくせ!!超高齢社会体験ゲームコミュニティコーピング体験会 一般財団法人コレカラ・サポートによって開発された、人と地域資源とを繋げることで社会的孤立を無くすための協力型ゲーム「コミュニティコーピング」の体験会が行われました。ゲームを通して、人と地域とを繋げる役割は、専門職だけでなく一般の人でも担えることがわかりました。 参加者からは「社会的孤立とはどのような状態なのか理解できた」「話を聞くだけで解決できる課題もあれば、専門家の助言が必要な課題もあり、地域にはさまざまな課題を抱える人が溢れているのだなと実感した」「自分にできることからやっていこうと思った」といった声が聞かれました。 在宅ケア体験フェスタ 神経・筋疾患の利用者さんを想定した呼吸リハビリテーション体験会では、2名1組となり、アンビューバッグや呼吸リハビリ機器を用いた吸気介助を実施する側と、利用者側の両方を体験しました。参加者からは「呼吸療法認定士の資格を持っているが、神経・筋疾患の利用者さんのための吸気介助は行ったことがなかったため勉強になった。今後取り入れたいと思った」「自分のやり方に軌道修正が必要なことに気付いた」といった声が聞かれました。 排尿支援の体験会には、複数のメーカーの導尿キットや超音波機器、膀胱留置カテーテルが用意されていました。それらの物品や機器を実際に手に取り、具体的な使用方法について知ることができました。訪問診療に携わっている看護師さんは「さまざまな物品に触れ、実際に体験や比較をできたことでメーカーごとの特徴について理解でき、今後もし自己導尿が必要になった利用者さんに出会ったら適切なアドバイスができそう」と話されていました。 ミュージカルや映画、映像を「見て」学ぶ シンポジウムについても、映画やミュージカルが取り入れられるなど、多種多様な伝え方のプログラムが並びました。 ミュージカル「きみのいのち ぼくの時間」 座長:中村 明澄氏(向日葵クリニック/NPO法人キャトル・リーフ)   堤 円香氏(メディカルホームKuKuru/NPO法人キャトル・リーフ) ミュージカル「きみのいのち ぼくの時間」が上演されました。NPO法人キャトル・リーフは2001年に創立以降、約20年にわたって病院や特別支援学校、高齢者福祉施設等でミュージカル活動を実施している団体です。「きみのいのち ぼくの時間」は、ミツバチのハチ子と、ハチ子に恋をしたカエルが主人公のお話。ミツバチの命はカエルに比べてとても短いため、二人の恋は女王蜂に反対されてしまいます。なんとか障壁を乗り越えますが、突然の嵐がやってきて…というストーリー。命にまつわるメッセージが多く込められており、会場には涙している人も。終了後はミュージカルの中で印象的だったシーンや言葉についてのディスカッションも行われました。 映像・講演「進行肺がんの息子に伴走した2年半を振り返って」 座長:荻野 美恵子氏(国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター国際医療者教育学/国際医療福祉大学医学部脳神経内科学)   田上 恵太氏(医療法人社団 悠翔会 くらしケアクリニック練馬)演者:関本 雅子氏(かえでホームケアクリニック) 関本 雅子氏は緩和ケア医であり、そして同じく緩和ケア医で息子の関本 剛氏をがんで亡くした母でもあります。会場では、剛氏の生前の講演やラストメッセージの動画が映し出されました。雅子氏の講演では、剛氏が残された時間をどのように過ごすことに決めたのか、メディアに出たことによる反応、剛氏の最期について、緩和ケア医と母のそれぞれの立場で後悔したことや学んだこと、救われたことなどが語られました。 訪問看護の魅力も次世代に紡ぐ 副大会長 高砂 裕子氏(一般社団法人南区医師会在宅事業部・南区医師会訪問看護ステーション 管理者)のコメントもご紹介します。 多くの方にご来場いただき、大変嬉しく思っております。本大会は、専門職だけでなく、また医師のみならず看護師や介護士をはじめとする多職種の方にも参加いただけたらという思いで企画しました。単に「ご参加ください」というだけではなく、例えば介護職の方々におすすめのプログラムには、プログラム表に「★」の印を記載するなど、実際に参加していただきやすいような創意工夫も行っています。体験型プログラムを組み込むことで、さまざまな職種の方と出会い、より楽しく過ごしていただける大会になったのではないでしょうか。私自身、30年間訪問看護師として利用者さんに寄り添い、身近なところで生活を意思決定支援する訪問看護は、とてもやりがいがある仕事だと思っています。それをぜひ次世代の人たちに紡ぎたいと思っています。2025年問題、2040年問題を前にした今、訪問看護ステーションの大規模化も推進しています。それぞれの訪問看護ステーションが、そして訪問看護師が、自身が目指す訪問看護を実現してもらえたら幸いです。 * * * 本大会では、在宅医療に携わるさまざまな職種の方々の「出会い」がありました。参加者同士が交流し、思いを伝え合い、いろいろな視点や立場から在宅医療の現状や展望について考える時間となりました。このような関わりこそが「在宅医療を紡ぐ」ことなのだと、気付きがたくさんあった大会でした。次回、来年6月に開催予定の第7回日本在宅医療連合学会大会「在宅医療の未来を語ろう。〜2025年問題に向き合い、2040年に備える〜長崎から全国へ」にも注目していきましょう。 取材・編集:NsPace編集部執筆:佐野 美和

スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア
スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア
特集
2024年9月24日
2024年9月24日

スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア【スピリチュアルケア】

患者さんのスピリチュアルペインを時間存在、関係存在、自律存在の枠組みで理解したら、次はスピリチュアルケアを考えていきます。本記事では、スピリチュアルケアの方法として欠かすことのできない基盤となるケアについて解説します。 >>前回の記事はこちら事例で検討 スピリチュアルペインのアセスメント【スピリチュアルケア】 基盤となるケアと特定の苦痛に対するケア スピリチュアルケアに関する欧米論文の文献レビューを行った結果1),2)より、スピリチュアルケアは「全般的なケア」と「個別のケア」とに分けられると報告されています。 「全般的なケア」は、スピリチュアルペインに対するケアの「基盤となる」ものです。「個別のケア」は、高い頻度でみられ、スピリチュアルペインに関連したケアとして考えられるものです。SpiPas(スピパス)の3次元の項目の概念に基づき、関係性、自律性、時間性のそれぞれの概念での特定の苦痛に対する個別のケアになります。 今回は、まず「全般的なケア」である「基盤となるケア」について説明します。 基盤となるケアには以下のものがあります。 信頼関係を構築する生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を強めるケアを行う現実を把握することを援助する情緒的サポートを行う置かれた状況や自己に対する認知の変容を促すソーシャルサポートを強化するくつろげる環境や方法を提供する積極的に症状を緩和するチームをコーディネートする ケアの具体的な方法は表1をご覧ください。 表1 全般的なケア スピリチュアルケアの実践に必要な心構え 信頼関係を構築する 深い苦悩を抱えているように見える患者さんがいるとき、その人に対して単に直接的に「スピリチュアルペインはありませんか」とたずねても、患者さんは何も答えようとはしないでしょう。 まずは、身体症状や精神症状としての苦痛が緩和され、患者さんのニーズに沿って生活しやすいように、日常生活援助を適切に丁寧に行うことが大切です。そうした援助から「自分は関心をもたれている、尊重されている」という意識が患者さんに生まれ、信頼関係が築かれていきます。 スピリチュアルな側面に関心を向ける 入院時の問診から前回ご紹介したSpiPas3)のような体系だったアセスメントをしていきます。同時に、日常のケアの場面で患者さんが語る言葉や行動を通して、患者さんの拠り所となっていることへの理解を深めます。患者さんのスピリチュアリティの状態を注意深くアセスメントしていくことが大切です。 患者さんは、「どのように今の時間を過ごしているのか」、「生活において、今どのようなことを大切にしたいのか/これまで何を大切にしてきたのか」をポイントにしていきます。 ケアのニーズをチームで検討する これまでに述べたようなアセスメントを通して、ケアの対象となっている患者さんに、スピリチュアルペインが存在するのか、存在するならばそれはどのような苦悩なのかを把握します。そして、スピリチュアルペインに対するケアのニーズはどのようなものなのかについて、チームによるケアカンファレンスで検討していきます。 スピリチュアルケアの目標 スピリチュアルペインの重要な点は、患者さんの問いかけが、相手(看護師)に答えを求めて発せられるのではないというところにあります。スピリチュアルペインは、他者が答えを与えることでも、解決することでもなく、その痛みや苦しみの意味をその人自身が見出すことで初めてその人にとって真実なものになるのです。 なぜなら、スピリチュアルペインは、まさに、その人自身の主観的領域の核である「価値観」に向き合う痛みだからです。周りの評価や世間の価値観とは異なり、死を前にしたその人自身の価値観が問われる苦しみであるということを、われわれは十分に心得てケアにあたる必要があります。 患者さんが穏やかな状態、納得のできる状態をケア提供者が一緒に見つけていくことが、スピリチュアルケアの1つの目標です。完全に穏やかな状態にはなれなくても、「苦悩をもちつつも生きていける」、すなわち、本人がその人なりに生きていけると思える状態に到達できればよいと考えられます。 スピリチュアルケアは個別性が高いものですので、心理面の対応(適切なコミュニケーション)がケアとなる場合もあれば、死の恐怖のように宗教的対応が必要となる場合もあります。スピリチュアルケアの到達点は、患者さん一人ひとりにとっての、穏やかな状態、苦悩との折り合い、生きる意味の自分なりの納得が目当てになるといえるでしょう。 次回は、「個別のケア」について解説していきます。>>次回の記事はこちらスピリチュアルペインを和らげる個別のケア【スピリチュアルケア】 執筆:前滝 栄子京都大学医学部附属病院 緩和ケアセンターがん看護専門看護師 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)森田達也,鄭陽,井上聡,他.終末期がん患者の霊的・実存的苦痛に対するケア:系統的レビューに基づく統合化.緩和医療学 3,2001,p.444-456.2)森田達也,赤澤輝和,難波美貴、他.がん患者が望む「スピリチュアルケア」―89名のインタビュー調査.精神医学 52,2010,p.1057⁻1072.3)田村恵子,森田達也,河正子編.看護に活かすスピリチュアルケアの手引き.第2版,青海社,2017,p.30.

水痘(水ぼうそう)の症状・対処・予防法 帯状疱疹との関係も解説
水痘(水ぼうそう)の症状・対処・予防法 帯状疱疹との関係も解説
特集
2024年9月17日
2024年9月17日

水痘(水ぼうそう)の症状・対処・予防法 帯状疱疹との関係も解説

水痘(水ぼうそう)は子どもの病気とされていますが、大人もかかる可能性があります。大人がかかると重症化しやすいことに注意が必要です。また、過去に水痘にかかった人は、加齢とともに免疫力が低下すると、帯状疱疹を発症する恐れがあります。この記事では、多くの子どもがかかる水痘の症状や対処方法などを解説します。訪問看護の利用者さんはもちろん、ご自身やご家族の健康管理のためにも、水痘について確認しておきましょう。 水痘(水ぼうそう)について 水痘の症状や原因、感染経路、重症化リスクについてみていきましょう。 症状 水痘帯状疱疹ウイルスに感染後、2週間程度の潜伏期間を経て発疹が現れます。通常、子どもの場合は発疹が最初に現れる症状ですが、大人の場合は発疹が現れる前に発熱と全身倦怠感を伴うことがあります。 発疹は頭皮、体幹、四肢の順で現れ、かゆみを伴います。短時間で紅斑、丘疹、水疱、痂皮へと変化し、数日かけて発疹が現れるため、各段階の発疹が混在することが通常です。また、気道や鼻咽頭、膣などの粘膜にも発疹が現れる場合があります。倦怠感やかゆみ、発熱などが2〜3日続く軽症であることが一般的です。 原因 水痘は、水痘帯状疱疹ウイルスに感染することで引き起こされます。水痘帯状疱疹ウイルスはヘルペスウイルス科のα亜科に属するウイルスで、初めて感染する際は知覚神経節に潜伏感染します。水痘の症状が落ち着いた後も体からウイルスが完全に消失したわけではなく、疲労や加齢などで免疫が低下した際に再び増殖し、帯状疱疹として症状が現れます。 感染経路 水痘帯状疱疹ウイルスは世界中に分布しており、家庭内で起きたものについては90%以上が感染するとされています。感染者の水疱内容物や気道分泌物が主な感染源で、空気感染、飛沫感染、接触感染により広がります。発疹が現れる1〜2日前から出現後4〜5日、または痂皮化するまでは人にうつる可能性があります。そのため、水痘に気づいたときにはすでに周りの人にうつしている可能性があるので、その後の経過を慎重に見ることが重要です。 重症化リスク 水痘の重症化とは、子どもの場合は熱性けいれんや気管支炎、肺炎などの合併症が起きることを指します。大人の場合も合併症が見られることがありますが、水痘そのものが重症化するリスクが高いとされています。大人の水痘が子どもより重症化する理由として、細胞性免疫が強いため感染細胞の障害が著しいこと、成人の発熱性疾患の中では頻度が少ないため診断が遅れる場合があることなどが考えられます。合併症としては、肺炎や脳炎、心膜炎、細菌の二次感染による敗血症などが報告されており、特に免疫機能が低下している場合は、重症化しやすく生命の危険を伴うことも。十分な注意が必要です。 水痘のワクチン接種 水痘のワクチンは、1回の接種で重症化をほぼ100%予防でき、2回の接種によって発症そのものを高確率で予防できるといわれています。予防接種の時期は、1歳の誕生日の前日から3歳の誕生日の前日までです。1回目の接種は生後12ヵ月から生後15ヵ月まで、2回目の接種は3ヵ月以上の期間を空けて行います。 大人でもワクチン接種は可能で、過去に接種した回数を考慮して接種回数を決定します。なお、終生免疫と考えられてきた水痘も、再感染があることが知られるようになってきました。再感染は健常者でもまれに生じますが、特に免疫が低下した高齢者において報告が散見されているため注意が必要です。帯状疱疹患者の重要な感染源と考えられているため、50歳以上対象の水痘ワクチン投与が推奨されています。 水痘にかかった際の登園は? 水痘は第二種伝染病に該当し、飛沫感染する可能性が高い感染症です。保育園や幼稚園で感染が広がりやすいため、水痘にかかった児童はすべての発疹が痂皮化するまで出席停止となります。一部の保育園や幼稚園では、水痘にかかった児童の登園再開に際して、医師の許可証が必要な場合があります。 水痘と帯状疱疹との関連性 水痘と帯状疱疹は、どちらも水痘帯状疱疹ウイルスによって引き起こされます。子どものころに水痘帯状疱疹ウイルスに感染すると、水痘を発症するか無症状で経過します。その後、ウイルスは脊髄の近くの神経節に潜伏し、加齢や疲労などで免疫力が低下した際に再活性し、帯状疱疹を引き起こします。 帯状疱疹の予防には、水痘ワクチンの接種が有効です。前述の通り、過去に水痘を発症した人はすでに免疫を獲得しているものの、加齢とともに免疫力が弱まるためワクチン接種を受けたほうがよいとされています。 帯状疱疹の初期症状は、痛みや不快感などです。ピリピリ、ジンジン、ズキズキ、焼けるような痛みなどと形容されます。初期の痛みは通常、帯状の神経に沿って現れます。また、発熱やリンパ節の腫れといった一般的な風邪症状が現れることもあります。 帯状疱疹は上肢から胸背部にかけて現れることが多いものの、顔面や目の周りに発生することも少なくありません。帯状疱疹にかかった際に注意すべきは、帯状疱疹後神経痛(PHN)です。帯状疱疹が治癒した後も持続的な神経痛が残り、日常生活に支障をきたすことがあります。 * * * 水痘は、全身に発疹が現れて紅斑、丘疹、水疱、痂皮へと短期間で変化します。大人がかかると重症化しやすいため、少しでも感染を疑う症状が見られた場合は速やかに医療機関を受診しましょう。今回、解説した内容をご自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。  編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇厚生労働省「水痘」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/varicella/2024/9/10閲覧〇NIID 国立感染症研究所「水痘とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/418-varicella-intro.html2024/9/10閲覧

「骨粗鬆症」の知識&注意点
「骨粗鬆症」の知識&注意点
特集
2024年9月10日
2024年9月10日

「骨粗鬆症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は骨粗鬆症について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 骨粗鬆症の基礎知識 破骨細胞による骨吸収が骨芽細胞による骨形成を上回ると骨量が減少し、さらに進行すると骨粗鬆症になります(図1)。 図1 正常な骨代謝と骨粗鬆症 正常な骨代謝は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成とのバランスが保たれ、骨量を維持している。骨粗鬆症では、そのバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回った状態である 骨粗鬆症の最も重大な合併症は骨折です。大腿骨近位部骨折の1年以内の死亡率は10~35%で、急性心筋梗塞よりも予後は悪いことが知られています1)。大腿骨近位部骨折は骨折部位により骨頭骨折、頸部骨折、転子部骨折、転子下骨折と呼ばれます(図2)。 図2 大腿骨近位部骨折の分類 骨粗鬆症の診断 骨折リスク評価法FRAXを用いる FRAX(fracture risk assessment tool)を用いれば、10年以内の骨折発生リスクを計算することができます。訪問看護中に簡単に計算が可能です。ご自身の骨折リスクもぜひ計算してみてください。 ▼骨粗鬆症財団「骨折評価ツールFRAX」https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/selfcheck/frax.html FRAXで推定した大腿骨近位部骨折の10年リスクが3%以上、または骨粗鬆症関連骨折の主要リスクが20%以上の患者さんは薬物療法の適応に。未治療なら主治医に連絡しましょう。 DEXAで骨密度を計測 骨密度検査ではDEXA法(dual energy X-ray absorptiometry、二重エネルギー X線吸収測定法)を用いて骨密度を正確に計測します。 YAM(young adult mean、若年成人平均)値を基準(100%)に、70~80%を骨減少症、<70%を骨粗鬆症とし、骨折の既往歴があれば、80%以下でも骨粗鬆症と診断されます(図3)。 図3 骨粗鬆症の診断基準 骨量のYAM値が80%未満の場合、注意が必要となる 病歴聴取と身体所見のポイント 骨粗鬆症の原因には次のものがあります。該当する生活習慣や疾患がないかを問診と身体診察で確認しましょう。 アルコール多飲喫煙低体重(BMI<18.5)膠原病[関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)](関節痛や皮疹が出現)クッシング症候群(副腎皮質ホルモンの過剰分泌のため、満月様顔貌や中心性肥満、高血圧が起こる)甲状腺機能亢進症(手の振戦、体重減少、発汗増加、甲状腺腫大を認める)多発性骨髄腫(高齢者で貧血や腰痛、体重減少の場合に想起)薬剤(長期使用):ステロイド、メトトレキサート、抗けいれん薬 椅子からの立ち上がりが困難な場合、近位筋(大腿)の筋力が低下している可能性があります。立ち上がった時にふらつくようなら、バランスが悪いかもしれません。どのような薬でも4種類以上の内服は転倒のリスクを増加させるので注意が必要です。(1)筋力低下、(2)バランスが悪い、(3)4種類以上の薬の使用の3つすべてがあると、1年後の転倒リスクは100%といえます。 主な治療 非薬物療法 食事で十分なカロリーとタンパク質、カルシウム、ビタミンDが摂取できるとよいでしょう。禁煙、適度な飲酒、運動(ウォーキング)、転倒予防(十分な照明、階段や浴室の手すり、バランス訓練)、薬の調整(ステロイドの減量、起立性低血圧やめまいを起こす薬の中止)も重要です。 薬物療法 【ビスフォスフォネート】破骨細胞の働きを抑える第一選択薬です。アレンドロネートとリセドロネートは、椎体骨折を50~70%、大腿骨近位部骨折を40%、非椎体骨折を20~30%減らします。 多くの経口薬は週に1回、起床時に180mLの水で服用します。食道に薬物が長く停滞すると、食道炎や食道潰瘍を起こすため、内服後30分間は座位を保持し、水以外の飲食をしないように指導します。 副作用は胸焼けです。まれに顎骨壊死や非定型大腿骨骨折が生じることも。顎骨壊死は治療中のどの時点でも起こります。非定型大腿骨骨折のリスクは治療期間とともに増加するため、5年間の経口投与後に薬物治療を中断します。 腎機能低下(GFR<30mL/min/1.73m2)では禁忌または慎重投与です。 【デノスマブ】破骨細胞の活性化を抑制するモノクローナル抗体です。6ヵ月毎の皮下注により、骨吸収を抑制し、骨密度を増加させて脊椎、股関節、非椎体骨折のリスクを低減します。 副作用は低カルシウム血症、感染症(蜂巣炎、気管支炎)の増加、顎骨壊死、非定型大腿骨骨折です。腎機能が悪くても使用可能です。 効果が治療中止後には持続しないため、デノスマブによる最後の治療から6ヵ月後に、ビスフォスフォネートを代表とする骨粗鬆症の治療を開始しなければならない点に注意が必要です。 【カルシウムとビタミンD】従来、1000~1200mg/日のカルシウム摂取と25-OHビタミンD濃度が20~30ng/mLになるようビタミンDサプリメント1000IU/日を取ることが推奨されていましたが、その効果は最近では疑問視されています。 ●骨粗鬆症の最も重大な合併症は骨折です。大腿骨近位部骨折の1年以内の死亡率は約10%で、急性心筋梗塞よりも予後は悪いことが知られています。●FRAXを用いれば、10年以内の骨折発生リスクを計算することができます。●骨粗鬆症の治療にはビスフォスフォネートとデノスマブが有効です。   執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本整形外科学会/日本骨折治療学会監修,日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン策定委員会編集.『大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン2021 改訂第3版』,南江堂,東京,2021;80. 【参考文献】○American College of Physicians.「Endocrinology and Metabolism」,『MKSAP19』.AM.COLLEGE OF PHYSICIANS,2021;72-83.○Reid IR,Billington EO. Drug therapy for osteoporosis in older adults.Lancet 2022,399(10329):1080-1092.

【秋の花粉症】ブタクサ、ヨモギ、カナムグラ。時期と注意点は?
【秋の花粉症】ブタクサ、ヨモギ、カナムグラ。時期と注意点は?
特集
2024年9月3日
2024年9月3日

【秋の花粉症】ブタクサ、ヨモギ、カナムグラ。時期と注意点は?

花粉症は、くしゃみや鼻水だけではなく、倦怠感や微熱などの症状が出て生活に支障をきたすこともあります。アレルギー性疾患のため、原因となるアレルゲンを避けることで予防が可能です。花粉症といえばスギやヒノキなど春のイメージが強いですが、実は秋にもアレルギーの原因となる花粉は飛んでいます。 本記事では、秋の花粉の飛散時期や注意点について解説。風邪だと思っていたら花粉症だったケースや、ほかの疾患と混同してしまうケースもあるため、訪問看護のアセスメントに役立ててください。 秋に飛ぶ花粉の種類 秋に飛ぶ花粉の主な種類は、ブタクサとヨモギ(ともにキク科)、カナムグラ(アサ科)です。キク科やアサ科の草花は背丈が低いため、スギやヒノキのような樹木の花粉に比べて遠くまで飛ぶことはありません。数メートル程度の飛距離ですが、住宅街やオフィス街にも自生している身近な植物です。 飛散時期 ブタクサとヨモギ、カナムグラの花粉の飛散時期は、8~10月頃です。特に関東や東北で多く飛ぶほか、関東ではブタクサが12月頃まで飛散するとの報告もあります。そのため、花粉症の症状が強く現れる方は、秋が過ぎてもしばらくは花粉症対策をしておくことが大切です。 花粉症とハウスダストのダブルパンチに注意 ハウスダストやペットの毛などがアレルゲンとなり、季節と関係なく一年中続くアレルギー性鼻炎を「通年性アレルギー性鼻炎」といいます。 花粉症は、ハウスダストアレルギーと同じくアレルギー性鼻炎を引き起こす原因となります(季節性アレルギー性鼻炎)。どちらもアレルゲンが異なるだけで、発症のメカニズムは同じ。通年性アレルギー性鼻炎を持つ方が花粉症を発症すると強い症状が現れる可能性があるため、特に注意が必要です。 花粉症の対応方法 花粉症の原因となる植物が生えているところをあらかじめ調べておくことは難しいもの。以下のような対応を行いましょう。 マスクやメガネを着用する 外出時には、マスクやメガネを着用し、花粉が体内に侵入するのを防ぎましょう。また、花粉が付着した手で目をこすったり鼻の粘膜に触れたりしないよう注意が必要です。 屋内に入る前に服についた花粉を落とす 外出から帰宅した際には、外で付着した花粉を払い落として、室内に花粉を持ち込まないようにしましょう。家の中に入る前になるべく花粉を落とすことが大切です。 花粉が付着しにくい素材の服を着る 上の項目と関連しますが、花粉が付着しにくい素材の服を選ぶことで、家の中に持ち込む花粉の量を減らすことができます。ポリエステルやナイロンなど表面がツルツルした素材は、花粉が付着しにくく、払い落とすのも容易です。 洗顔とうがいをする 外出後や帰宅後には、手洗い・うがい、丁寧な洗顔をすることで、花粉を体内に取り込むリスクを軽減できます。 こまめに掃除する 室内の掃除を定期的に行い、家具や床などに付着した花粉を除去します。特に、布団やカーテンなどの花粉が溜まりやすい場所を重点的に掃除しましょう。 喫煙や飲酒を控える アルコールは毛細血管を拡張させ、鼻づまりや目の充血などの症状を起こしやすくします。また、喫煙は鼻粘膜に直接刺激を与えるため、花粉症の発症リスクや花粉症自体を悪化させる可能性が高まります。花粉が多く飛散する季節だけでも喫煙や飲酒をできるだけ控えましょう。 無理をせずに早めに治療を開始する 花粉症の症状が現れたら、無理をせず早めに医師の診断を受け、適切な治療を開始しましょう。抗アレルギー薬や舌下免疫療法など、さまざまな治療法があります。個々の症状や重症度に応じて、適切な治療を受けましょう。 >>関連記事花粉症の基礎知識や治療法についてはこちらの記事もご参照ください。訪問看護活動に生かす疾患の知識「花粉症」 * * * 花粉症は、微熱や頭痛など風邪と似た症状が現れることもあるため、安易な自己判断は禁物です。訪問看護の利用者さんが花粉症の症状を訴えた場合は、今回解説した内容を参考にして、アセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長  医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇政府広報オンライン「花粉症で悩む皆さま! 早めの治療や予防行動を!」https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201102/2.html2024/8/30閲覧

【現地開催】専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア セミナーレポート
【現地開催】専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア セミナーレポート
特集
2024年8月20日
2024年8月20日

【現地開催】専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア セミナーレポート(6/2開催)

2024年6月2日(日)に、東京の銀座駅すぐの会場にてNsPace主催の対面セミナー「専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア」を開催しました。ご登壇いただいたのは、看護におけるフットケアの第一人者である西田壽代さん。アシスタント講師として医療フットケアスペシャリストの大慈めぐみさんにもお越しいただき、「見る・聞く・触れるでコツをつかんでやってみる!」をテーマに、爪ケアのイロハを講義いただきました。約4時間にわたるセミナーの様子をダイジェストでお届けします。  【講師】西田 壽代さんJTFA(日本トータルフットマネジメント協会)会長足のナースクリニック代表/足の専門校スクールオブぺディ専任講師皮膚・排泄ケア認定看護師/日本フットケア・足病医学会認定フットケア指導士聖路加国際病院、東京海上ベターライフサービス株式会社、駿河台日本大学病院を経て2010年より「足のナースクリニック」代表を務める。病院や高齢者施設、訪問看護ステーションなどと提携し、フットケアや皮膚・排泄ケア分野におけるスタッフ教育や患者ケア、多職種連携などに取り組む。著書に『実践!介護フットケア 元気に歩く「足」のために』(講談社)など。【アシスタント講師】大慈 めぐみさん訪問看護ステーション ナースであんしん湘南 管理者JTFA(日本トータルフットマネジメント協会)認定の医療フットケアスペシャリストとして活躍し、NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」にて入賞。「足の爪切りから始まる看護」と題して、心に響くエピソードを投稿してくださいました。 座学で爪ケアの基礎知識を学習 巻き爪や肥厚爪、白癬菌に感染した爪など、在宅療養者の爪は十人十色。座学では、動画を用いながら、爪ケアの重要性や医療行為の範囲、爪切り前のアセスメントのポイントなどが解説されました。爪の構造を理解し、器具を正しく使用することは、安全な爪ケアの第一歩となります。 中でも参加者が興味深く取り組んでいたのは、一人ひとりの爪の形に合わせた「爪切り設計図」。鉛筆等で爪に直接ガイド線を書き込み、その線に沿って爪切りを進めます。参加者は、真剣に爪各部の名称や構造を確認しながら設計図作成のポイントを学習していました。座学の終盤には「爪白癬で爪がポロポロと崩れてきてしまう方は、どこまで切れば良いのか?」「上を向いて生えている爪はどう対処すべきか?」などの質問も飛び交いました。 西田さんの分かりやすい講義に引き込まれる参加者の皆さん 専門家が爪ケアのプロセスを実演 座学の後は、アシスタント講師の大慈さんがモデルになり、爪切りのデモンストレーションが行われました。ニッパーや爪用ゾンデ、爪やすりなどの専用器具の紹介や使用方法をはじめ、足指の支え方から角質や爪垢除去のポイントも丁寧に解説。爪切り設計図を作成する際の視点や爪切りのコツ、爪やすりの使い方のコツなども実演されました。 実演中、スクリーンに映し出された先生の手元を参加者全員が食いいるように見つめ、講義に熱中していました。 専用器具の使い方も丁寧に実演 デモンストレーションの後は、各テーブルに配置された足型模型を使用し、参加者の皆さんも技術習得に向けて練習をスタート。2人1組になり、爪切り設計図の作成から爪切りの実践まで、正しく安全にケアするための実技演習を進めました。 誤った爪切りは、皮膚の損傷や出血などのトラブルにつながるだけでなく、巻き爪の原因にもなります。お互いにニッパーの持ち方や使い方などを丁寧に確認し合いながら、慎重に実技を進める様子が印象的でした。  先生のアドバイスをもとに足型模型で爪ケアを実践 バケツや洗面器不要の泡足浴を体験 模型での練習を終えた後は、いよいよ参加者同士で爪ケアの実践です。まずは医療的スキンケア(保清)のひとつである「泡足浴」から実践。ビニール袋と少量の水、ボディーソープを使用した画期的な洗浄方法に参加者からは驚きの声が上がりました。 「この方法ならバケツや大きい洗面器などの道具がそろわなくても、すぐに実践できる」「寝たきりの患者さんの保清にも活かせそう」といった声が聞かれたほか、「ビニールのくしゅくしゅとした感覚や泡が気持ち良い!患者さんのケアに役立てたい」といった声も挙がり、会場全体が一気に賑やかな雰囲気に包まれました。 泡足浴を実践し合い、会場は明るい雰囲気に 爪切りも実習し、現場での実践力を養う 保清の後は、参加者同士で爪周りの角質除去や爪切りを実践。講師の西田さんと大慈さんが各テーブルを回りながら、正しい爪切りに欠かせない「爪切り設計図」の作成のコツをはじめ、足の支え方、ニッパーの持ち方などの一連の流れを直接指導しました。 専門家から直接指導を受け、すぐに実践 参加者の皆さんは、日頃から患者さんの爪ケアに取り組んでいても、「爪」に特化した研修を受けた経験がある方は少なく、爪ケアのプロセスを改めて学び、不安や疑問が解消されるシーンも見受けられました。 道具の使い方も目の前で分かりやすく解説 特にフットケアの第一人者から直接指導を受ける機会はなかなかなく、参加者からは「変形して盛り上がった爪はどう切ればいいのか」「ニッパーの種類はどのようなものを選ぶといいか」「巻き爪で痛みのある方にはどのように対応すべきか」など、質問が多数。訪問看護師さんの日頃の悩みがひしひしと伝わってきました。 参加者の皆さんのお困り事にも丁寧に回答 実技演習の終盤には、参加者同士で爪ケアの流れをおさらいし、確認し合う様子も。終始、明るい雰囲気でセミナーを終えました。 不安や不明点が解消されたとの声も セミナー終了後は、懇親会も開催。参加者は担当患者さんのケア方法を西田さんや大慈さんに相談したり、業務の中で困ったシーンなどを共有したりと、お互いに学びを深め合っていました。 すっかり打ち解け合い、懇親会を楽しむ皆さん ■参加者の感想 「セミナーに参加するまでは、自己流で患者さんの爪を躊躇なく切ってしまっていました。でも、ニッパーの刃先の当て方や切り方、洗浄方法などを実際に練習して、正しいケア方法の基本が理解できました。今回の学びを活かし、患者さんの安全な暮らしに貢献していきたいです。」 「実技演習では、こんなに頻回にテーブルを回ってきてくれると思わず、手厚い指導に驚きました。講義自体の内容も分かりやすく、悩んでいた爪白癬に対しての対応も分かり、現場ですぐに取り組みやすいと感じました。ゆっくり丁寧に教えてもらえて、とても良かったです。」 そのほかにも、「今後の爪ケアへの不明点が解消された」「自分の『くせ』が分かった」「我流で爪をカットしていたことを反省しつつ、注意する点が分かった」といった声も。 講師を務めた西田さんも、大きな手ごたえを感じたご様子。 「訪問看護師さんの中にもさまざまな経験値の方がおられ、不安を感じながらも懸命にケアに当たっている方がいることを改めて実感しました。対面セミナーでは、参加者お一人おひとりのお悩みを聞きながら、直接ケア方法をレクチャーし、より実践的な講義ができたかと思います。私は全国各地でこうしたセミナーや講演を開催していますが、実はあと2県(岩手県と島根県)で全国制覇達成なんです!今後も自身の活動を通して、看護師の皆様のスキルアップに貢献できればと意気込んでいます。」 また、アシスタント講師の大慈さんも、「自分の普段の経験からアドバイスできるシーンもあり、少しでも参加者の皆さんのお役に立てたのであれば何よりです」と明るい笑顔を見せてくださいました。 * * * NsPaceでは今後も訪問看護師さんのためのセミナーを企画していく予定です。その道の専門家から直接指導を受けられるチャンスをぜひご活用ください。 取材・執筆・編集:高橋 佳代子

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