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実践的浮腫ケア セミナーレポート【現地開催】
実践的浮腫ケア セミナーレポート【現地開催】
特集
2024年4月2日
2024年4月2日

【現地開催】明日から使える実践的浮腫ケア セミナーレポート(1/27開催)

2024年1月27日(土)に、越屋メディカルケア株式会社東京営業所(東京都新宿区)にてオフラインセミナー「明日から使える実践的浮腫ケア」が開催されました。ご登壇いただいたのは、ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者の岩橋 知美さん。総勢20名の訪問看護師さんに向けて、浮腫の基本から実践的なケア方法に至るまで、実技演習を交えながら講義いただきました。約4時間に渡るセミナーの様子を写真とともにダイジェストでお伝えします。 【講師】岩橋 知美さんICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、2009年にICAA設立。2014年聖マリア病院形成外科でアロマ、リンパ浮腫ケア外来開設。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 まずは座学で浮腫の基本を総ざらい 在宅療養者にとって辛い症状のひとつである浮腫。座学では、浮腫が起きるメカニズムや原因、在宅療養者に多く見られる浮腫の特長といった基礎知識の復習からスタートしました。浮腫はADLだけでなく、QOLの低下を招く原因にもなることが伝えられ、参加者は真剣な眼差しで熱心に耳を傾けていました。 また、浮腫悪化のリスクやアセスメントで注目すべき点なども伝えられ、参加者は改めて在宅看護における浮腫ケアへの理解を深めた様子でした。 >>関連記事NsPaceセミナーレポート「浮腫のアセスメントとケア」シリーズ一覧はこちらhttps://www.ns-pace.com/series/edema-assessment-and-care/ 数々の圧迫用品に参加者は興味津々 浮腫の基本を復習した後は、具体的なアプローチ方法についても講義。浮腫ケアは、複合的治療が前提だとした上で、圧迫療法やスキンケアが重要といったポイントが伝えられました。 各テーブルに多種多様なチューブ包帯(筒状包帯)やインジケーター付き弾性包帯などの見本が配られると、参加者は肌触りや伸縮性を確かめたり、腕に装着したりと学びを深めていました。 圧迫用品やパッティング材に見て触れる参加者の方々 中でも盛り上がりを見せたのは、市販の化粧パフで作成されたパッティング材。チューブ包帯の食い込み対策や皮膚硬化部の保護のために使用しますが、簡単に作成できることから驚きの声が上がっていました。 ドレナージや浮腫ケアの手技を実演 座学終了後はいよいよ実技講習がスタート。圧迫用品の使用方法をはじめ、ドレナージや浮腫ケアの流れなどが実演されました。 まず行われたのが上肢・下肢へのチューブ包帯の使用方法の実演です。浮腫ケアは、チューブ包帯で圧力の「勾配」を作ることが重要だと解説され、勾配の作り方や注意点などが紹介されました。 包帯の巻き返しが起きやすい箇所も丁寧に解説 中でも大きな盛り上がりを見せたのは、顔への圧迫療法。化粧パフで作成したパッティング材とイビキ用マスクを組み合わせた方法で、参加者からは驚きの声が上がりました。 続いて、ドレナージややや圧力のある浮腫アプローチ手技も実演されました。浮腫ケアには、圧力が少しある方がより効果的だとし、下肢・上肢の順で浮腫アプローチの手技を解説。半円を描きながらリンパドレナージをしていく方法や、ふくらはぎを下からすくい上げるように施術し、巡りを促す方法など、さまざまな手技を実演。どの参加者も講義に熱中し、患者さんを想う真剣な気持ちが会場全体を包み込んでいました。 参加者の皆さんは時に大きく頷きながら講義に集中 実演の終盤では、平編みのチューブ包帯やインジケーター付き弾性包帯の使用法も紹介。圧迫状態での運動が効果的だとし、足首の曲げ伸ばしや、股関節の回旋運動などの方法が伝えられました。 参加者も浮腫ケアを実践し、大盛り上がり 実演を踏まえ、参加者も3~4名ずつに分かれて浮腫ケアの実践へ。岩橋さんが各ベッドをまわり、力のかけ方や手の動かし方をレクチャー。特にドレナージと浮腫ケアアプローチの力加減の違いをレクチャーすると、その大きな違いに驚く声があちこちで上がりました。 参加者からは「浮腫ケア施術ひとつをとっても奥が深い」「ドレナージは、思ったよりも軽い力で驚いた」「すごく気持ちいいし、日々の患者さんのケアに役立てたい」といった声が続々。 実技演習は明るく楽しい雰囲気で大盛り上がり はじめは見様見真似だった参加者も次第にコツをつかみ、岩橋さんから「上手!その調子!」と声をかけられるシーンも多数。実際の訪問看護を想定し、「この手技なら10分くらいはできるかも」とシミュレーションをはじめる参加者もいらっしゃいました。 圧迫用品も参加者同士で装着し合い、圧力の勾配の作り方などを確認。中でもインジケーター付き弾性包帯の巻き方に苦戦する参加者が多く見られましたが、伸縮をかけずに足にそわせるように巻くとうまく巻けることを教わると、みるみる上達。楽しくも着実に学びを深める様子がうかがえました。 圧迫用品の使用方法も丁寧にレクチャー 時間終了後も質問が飛び交い、大盛況のうちに座学・実技演習を終えました。 「明日から実践したい」と喜びの声が多数 セミナー終了後は、集合写真を撮り、懇親会も開催。参加者はすっかり打ち解け合い、お互いの実務や訪問看護への想いを語り、モチベーションを高め合っていました。 感想などを共有し合いながら懇親会を楽しむ皆さん セミナーの感想をうかがうと、「明日からでもすぐに実践したい」や「気軽に質問できる雰囲気が良かった。手技も楽しく学ぶことができた」などの声が寄せられました。 ■参加者の感想(抜粋) 「先月から訪問看護のお仕事を任されたばかりなんですが、浮腫に悩む患者さんもいて、少しでもお役に立ちたいという一心で参加しました。ドレナージや浮腫ケアの手技を直接先生に教わり、とても勉強になりました。訪問看護は時間との勝負ですが、その中でもすぐに実践できることが見つかって良かったです」 「対面開催のセミナーがあることを知り、群馬から駆け付けました。浮腫に悩む患者さんを多く受け持っていますが、寝たきりの方は多くなく、リハビリが必要な方が中心です。今回、圧迫して運動した方が良いことを学んだので、リハビリ専門の職員とも連携し、さらに患者さんの役に立つことができればと思います」 講師を務めた岩橋さんも、大きな手ごたえを感じたご様子。 「波打つように頷く皆さんの反応を受け、患者さんへの真剣な想いや日頃の努力がひしひしと伝わってきました。質問も数多くいただき、具体的な解決策や手技をお伝えできてとても良かったです。訪問看護はどうしても時間が限られますが、その中でもできるケアやポイントをお伝えでき、有意義な時間となりました」 懇親会終了後は、どの参加者も笑顔で会場を後にし、大好評のうちにセミナーの幕を閉じました。NsPaceでは今後も訪問看護師さんのためのセミナーを企画していく予定です。ぜひ今後のセミナー情報にご注目ください。 取材・執筆・編集:高橋佳代子

治りにくい褥瘡ケア~代表例と具体的なケア
治りにくい褥瘡ケア~代表例と具体的なケア
特集 会員限定
2024年3月26日
2024年3月26日

治りにくい褥瘡ケア~代表例と具体的なケア~【セミナーレポート後編】

2023年12月15日(金)に開催したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「治りにくい褥瘡のケア~在宅で治癒を目指す方法~」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師に迎え、治りにくい褥瘡をケアする際に役立つ知識やノウハウを教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、前編に引き続き治りにくい褥瘡の代表例と、そのケア方法や注意点をご紹介します。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら治りにくい褥瘡ケア~低栄養への対応と基本指針~【セミナーレポート前編】 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 複数の褥瘡がある/創部が大きいケース 複数の褥瘡があったり、創部が大きくその周りにポケットができていたりする褥瘡は治りにくい褥瘡の代表例です。 >>関連記事写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編複数の褥瘡を有する方の事例について解説しています。 ここで、創部の形に着目してみてください。以下の写真を見ると、創部には丸いものと縦長のものがあることがわかります。 この差には、どのように外力が加わったかが表れています。創部が円形に近い褥瘡は、骨突出部に圧迫が加わったことで生じます。一方、創部が縦長など不整形な褥瘡は、圧迫に加えてずれの影響も受けて生じます。 こうした外力の影響は、ポケットにも表れます。 ポケットには「初期型ポケット」と「遅延型ポケット」の2種類がありますが、このうち遅延型ポケットは、治癒過程で外力が加わることで生じます。 ポケットがある褥瘡のケア これをふまえて、ポケットのケアのポイントを見ていきましょう。 外力の低減、排除ポケットのケアでは、外力を極力排除することが重要です。ポケットを観察すると、どの方向にずれや摩擦が加わっているかがわかるので、それをふまえて外力への対策を検討してください。褥瘡の評価やケアによる損傷を防ぐ吸引カテーテルで創部を洗浄する際は、カテーテルのサイズが細いもの(10Fr以下)を使用し、肉芽損傷を防ぎましょう。同じくポケットの計測も、鑷子を内部に入れると、先端の尖った部分で肉芽を傷めたり、ポケットを深く、広くしたりするリスクがあります。細い綿棒などを使って計測するのが安全です。ポケット内部に充填物を入れすぎないガーゼをはじめとした充填物を使用する場合は、ポケットを拡大しないよう、たくさんの量を強く押し込まないように注意してください。介助による外力に注意する私たちの介助によって創周囲の皮膚に加わる外力も、ポケットを広げる原因に。体位変換や褥瘡のケアをするときに創周囲の皮膚を引っ張ると、ポケット内部の組織を損傷する可能性があります。できるだけずれや摩擦などの外力をかけないよう気をつけましょう。ポケットに使用する外用剤は適切なものを選ぶポケットを形成した褥瘡の場合、カデキソマー・ヨウ素の使用にはご注意ください。カデキソマー・ヨウ素は洗浄が不十分であるとポケット内部にポリマービーズが残存して、感染を起こす可能性があります。使用の際は、ポケット内部の洗浄を確実に行いましょう。 局所に臨界的定着疑いがあるケース 臨界的定着疑いのある褥瘡とは、感染一歩手前の非常に危険な状態です。創面にはぬめりがあり、多量の滲出液により創周囲の皮膚は浸軟。そこに外力が加わることで創周囲の皮膚は肥厚し、さらに表皮の巻き込みなどを生じると治りにくくなっています。 在宅における褥瘡ケアでは、密閉性が高いあてものを使用しているケースがよく見られます。これにより創面、創周囲の温度と湿度が上がって皮膚が浸軟するだけでなく、感染リスクも高まります。また、厚みのあるあてものを使用している場合は創部が圧迫され、肉芽が損傷し、血流が障害されることにより肉芽組織の形成も遅れ、褥瘡の悪化はもちろん治癒も遅延します。 臨界的定着疑いのある褥瘡のケア 臨界的定着の疑いがある場合は、感染に移行させないケアが重要です。 ケア方法としては、まずは口腔ケア用スポンジや医療用スポンジなどで創面のぬめりをとります。その後、抗菌、細菌抑制作用がある外用剤(カデキソマー・ヨウ素やポビドンヨードをはじめとしたヨード製剤など)で創面の環境を整えましょう。 多量な滲出液を吸収できる非固着性のガーゼを使って創部を管理することをおすすめします。非固着性ガーゼは、肉芽損傷の予防にもつながり、安全かつ確実なケアができます。 創辺縁部に問題があるケース 以下の写真の褥瘡のように、創辺縁部に浸軟や肥厚、表皮の巻き込みといった問題がある場合は、さらに治癒の遷延やポケットの拡大を引き起こしやすくなります。 以下の写真は、比較的浅い褥瘡であるにもかかわらず、なかなか治癒しないケースです。創周囲の皮膚が浸軟していることがわかりますよね。 浸軟の原因としては、多量の油脂性軟膏を塗布していることが考えられます。油脂性軟膏は厚塗りすると外用剤と皮膚の間に汗などの水分が溜まりやすくなり、浸軟を起こしやすくなります。 それから、あてものに排泄物が潜り込んだ状態で長い時間密閉されると、皮膚は浸軟を生じます。いわば、尿で湿布をしてしまうような状態になっています。浅い褥瘡であっても治りにくくなっていきます。 上記の図は、褥瘡の深さについて、「NPIAP分類」と「DESIGN-R(※1)2020」を比較し、まとめたものです。 赤線部分が浅い褥瘡と深い褥瘡を分ける境界線です。ただし、浅い褥瘡であっても、適切なケアが行われないと治癒までの期間は長くなります。 >>関連記事写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編NPIAP分類とDESIGN-R2020について解説しています。 創辺縁部に問題がある褥瘡のケア 創辺縁部に問題がある褥瘡のケアでは、浸軟を防ぐ工夫も必要になります。以下の写真は、使用した外用剤に含まれる水分、および滲出液による浸軟が見られる褥瘡です。 壊死組織の自己融解のためにスルファジアジン銀クリームを使用しましたが、同薬剤は乳剤性基剤であることから水分が多く、さらに壊死組織が融解する過程でも滲出液が多くなります。こういうケースで必要なのが、創周囲の皮膚に油性の撥水クリームや白色ワセリンなどを薄く塗っておくこと。水分から創辺縁部の皮膚を守るケアをプラスするとよいでしょう。 創辺縁部に問題がある褥瘡の具体例とケア方法 最後に、写真で具体例をご紹介します。以下の写真は、いずれも滲出液が非常に多く出ているケースになります。 ここで「滲出液が多いから」とガーゼを必要以上に厚くしてしまったり、密閉性の高いパッド類を使用すると、創部の圧迫や創周囲の浸軟を起こします。 以下の写真は、そうして創周囲の皮膚が浸軟した褥瘡です。 創周囲皮膚の浸軟・肥厚・表皮の巻き込みは、褥瘡を治りにくくする大きな要因です。これらを予防するためには、外力・栄養ケアや洗浄・保湿・保護のスキンケアなどを実践しましょう。 * * * 在宅での治りにくい褥瘡に対するケアを考える際には、難治化している要因を多面的に分析し、見極めることが大切です。褥瘡を正しく評価し、利用者さんやご家族と一緒にその家でできる最善のケア方法を見つけていただければと思います。 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

HOT・NPPV・HFNC・CPAPの特徴を解説。在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法の基礎知識
HOT・NPPV・HFNC・CPAPの特徴を解説。在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法の基礎知識
特集 会員限定
2024年3月26日
2024年3月26日

NPPV・HFNC・CPAPの特徴を解説。在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法の基礎知識

本シリーズでは、安心して確実な在宅呼吸ケアを行えるようになるために、ケアのポイントはもちろん、機器のしくみや管理方法、トラブル対応にいたるまで、酸素療法や人工呼吸療法のエキスパートがわかりやすく解説。今回は、HOT(在宅酸素療法)と在宅人工呼吸療法について、NPPV(非侵襲的陽圧換気)やTPPV(気管切開下陽圧換気)、HFNC(ハイフローセラピー/高流量鼻カニュラ酸素療法)、CPAP(シーパップ療法/持続陽圧呼吸療法)も含め各療法の特徴を概観していきます。 増えてきた慢性呼吸不全に対する在宅医療 近年では疾患があっても住み慣れた自宅や施設で病院と同じような医療的ケアを受けて過ごしたいという患者さんが増加しています。そのような患者さんの意思や希望を尊重し、できるだけ入院の機会や期間を減らして患者さんやご家族のQOL向上をめざすのが在宅医療です。慢性呼吸不全をきたして在宅医療を利用する患者さんも多く、その原因となる主な呼吸器疾患は次に示すとおりです。 慢性閉塞性肺疾患(COPD):在宅医療を受ける慢性呼吸不全の中でも最も多くみられる疾患の1つ。比較的長期間にわたって徐々に進行することが多い間質性肺炎:労作時にかなりの高流量酸素投与が必要になるケースが多い肺結核後遺症:近年は罹患率や外科的治療の減少などにより少しずつ減少傾向にある肺がん:原発性や転移性の肺がんは在宅療養期間が上記の疾患と比較して短いものの主要な疾患の1つ神経筋疾患:非常に長期間の在宅療養となる これらの疾患患者さんに対して行われている各治療法を概説します。 在宅酸素療法とは 在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)は、主には慢性呼吸不全状態の疾患に対する酸素を吸入する治療として最も頻繁に行われています。対象疾患はCOPD、間質性肺炎、肺結核後遺症、それに肺がんや慢性心不全などの患者さんにも適応があります。図1は2010年の報告にはなりますが、在宅酸素療法を導入している患者さんで最も多い疾患はCOPDで全体の45%を占めていました。 図1 在宅酸素療法の疾患別内訳 日本呼吸器学会肺生理専門委員会,在宅呼吸ケア白書COPD疾患別解析ワーキンググループ編.「在宅呼吸ケア白書 COPD(慢性閉塞性肺疾患)医療担当者アンケート調査」,日本呼吸器学会,2010.をもとに作成 適応基準 適応基準は、安静時の室内空気吸入下で動脈血液ガスの酸素分圧(PaO2)が55Torr以下、または60Torr以下で睡眠時や労作時に著しい低酸素血症をきたす場合です。 使用する酸素供給装置 在宅酸素療法には主に「酸素濃縮器」を使用する方法と「液体酸素」を使用する方法があります。酸素濃縮器は空気から窒素を吸着して約90%以上の酸素濃度に濃縮する装置です。3L/分程度から10L/分ほどの高流量の酸素を流せるものや、通常の設置型と充電して持ち運んで使用できるポータブルタイプなど、さまざまなものが提供されています。 液体酸素は、自宅に液体酸素の入った大きなタンクを設置し、酸素チューブを介してタンクから直接酸素を吸入する方法であり、外出時には小型の容器に液体酸素を移して持ち運ぶことができます。 使用するデバイス 在宅酸素療法で使用されるデバイスで最も一般的なものは鼻カニュラです。これは比較的手軽に負担なく装着できますが、患者さんの一回換気量や呼吸回数の影響を受けやすく、同じ酸素流量でも患者さんの呼吸状態により吸入気の酸素濃度が異なってしまうことに注意が必要です。また6L/分以上の流量では鼻粘膜への刺激が強くなるため、一般的には5L/分までの流量となっています。より高流量の酸素投与が必要な場合にはリザーバー付きカニュラや開放型酸素吸入システムを使用することもあります。 酸素流量の設定 酸素流量の設定は、一般的にはPaO2≧60〜80Torr(SpO2 90〜95%)を目標とします。しかし、COPDや肺結核後遺症などにしばしば認められる慢性II型呼吸不全、つまりCO2貯留傾向にある患者さんに対しては、換気状態を維持してCO2ナルコーシスを避ける必要があります。やや低めの目標設定が必要となるため、酸素流量や吸入デバイスの選択にも注意を要します。 在宅人工呼吸療法とは 在宅人工呼吸療法(home mechanical ventilation:HMV)とは、在宅で人工呼吸器を使用して換気の補助を行う治療法です。HMVにはNPPVとTPPVの2つの方法があります。 在宅NPPVとは NPPVとは「non-invasive positive pressure ventilation」の略で、非侵襲的陽圧換気を意味します。 慢性呼吸不全患者さんのうち、呼吸困難や下腿浮腫などの肺性心の兆候があり、低酸素血症に加えて慢性的なCO2貯留傾向を示す患者さんに対しては、継続的な補助換気(人工呼吸療法)が必要となる場合があります。その中で導入が比較的容易で侵襲度が低いNPPVは第一選択であり、気管内挿管や気管切開をすることなくマスクを介して換気を行うことができます。 マスクは鼻マスクや口鼻マスク(フルフェイスマスク)を使用します。徐々に病状が進行してきた安定期(慢性期)に導入する場合と、II型呼吸不全の増悪によって入院時にNPPVを導入してからそのまま在宅に移行する場合などがあり、導入基準は疾患によって少し異なります。CO2貯留の程度と低酸素血症、増悪の頻度などによって導入が検討されます。実際に導入されている対象疾患はCOPD、肺結核後遺症、神経筋疾患が主なものとなります。 一方で自発呼吸が弱い、もしくはない場合や認知症で協力や理解が得られにくい場合、顔面の外傷、皮膚障害などでうまくマスク装着ができない患者さんに対しては適応外となってしまいます。 在宅TPPVとは TPPVとは「tracheostomy positive pressure ventilation」の略で、気管切開下陽圧換気を意味します。気管を切開し、確実に空気を肺に送り込むことができるので、自発的な呼吸が十分できない場合に導入されます。 以前は病院で気管内挿管による人工呼吸管理を受け、抜管が困難となった症例に対して気管切開を施行し、そのまま在宅に移行していたケースが多くみられました。NPPVが保険適応となってからは大多数の症例が在宅NPPVで対応できるようになってきたため、在宅TPPVの患者さんの数は減少しています。 しかし、筋力低下や球麻痺が進行する神経筋疾患患者はNPPVでは対応することができず、TPPVを施行せざるを得ません。したがって現在では在宅TPPVを施行している患者さんの8割近くは筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)や筋ジストロフィーといった疾患が主体となっています。 NPPVとTPPVの違いについては、表1に簡単にまとめました。 表1 NPPVとTPPVの比較表 *【VAP】ventilator-associated pneumonia:人工呼吸器関連肺炎 在宅ハイフローセラピーとは 在宅ハイフローセラピーとは在宅で行う「高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula oxygen therapy:HFNC)」のことです(図2)。 通常の鼻カニュラであれば6L/分以上の流量で鼻粘膜への刺激が強くなり、FiO2(吸入気酸素濃度)の上昇はあまり期待できません。より高流量の酸素投与を行うためには、ほかのデバイスへの変更を要しますが、マスクは口元まで覆われるため飲食がしにくく、患者さんが閉塞による不快感を訴えることもしばしばです。 一方、ハイフローセラピーは、専用の鼻カニュラを介して加温加湿した高流量の空気と酸素の混合ガスを投与する方法の1つで、さらに高流量の酸素投与が可能になります。メリットは次のとおりです。 口を覆わないことによる快適性PEEP*効果が得られる解剖学的死腔のウォッシュアウト一定の酸素濃度を投与できる十分な加温加湿による気道クリアランスの維持 など 在宅ハイフローセラピーは病院内での使用とはやや異なり、今のところ適応はPaCO2が一定の範囲のCOPD患者さんに限られています。 *【PEEP(Positive End Expiratory Pressure)】気道内圧が低下する呼気の終わりにも一定の陽圧をかけて、呼気時に肺胞や末梢気道がつぶれないようにすること 図2 在宅ハイフローセラピーの装置の例と鼻カニュラの装着イメージ 画像提供:Fisher & Paykel Healthcare 株式会社 画像提供:レスメド株式会社 CPAPとは CPAPとは「continuous positive airway pressure therapy」の略で、「シーパップ療法」、「持続陽圧呼吸療法」と呼ばれます。 主に閉塞性睡眠時無呼吸に対する代表的な治療法です。鼻マスクもしくはフルフェイスマスクを装着して気道内に陽圧をかけて気道の閉塞を防ぐことにより、睡眠時に生じる無呼吸を抑制して低酸素血症を改善します。日中の眠気をはじめとした自覚症状の改善や合併症の予防・改善、生命予後の改善、交通事故リスクの軽減、心疾患イベントの減少などの効果が認められています。 CPAPはほかの治療法とはやや異なり、比較的若く、ご自身で機器の管理が可能な患者さんに導入されるケースがほとんどです。ただし、導入された患者さんが高齢になった場合、訪問看護で対応する必要性が多くなることが考えられます。 * * * ここまでご紹介してきた呼吸器関連の治療法は、どれも訪問看護で対応する必要性があるものばかりです。各治療法の位置づけは図3のようなイメージです。また、訪問看護に関連する診療報酬(在宅療養指導管理料)を表2にまとめましたので、こちらもご参照ください。 次回以降の連載で、各治療法についてのさらに詳しい解説や患者さんの観察・アセスメント、治療継続のためのポイントなどについての看護師、医師、臨床工学技士といった専門的な立場からお話しする予定です。より理解を深めていただき実際の現場で安心して確実なケアを行っていただけることを願っております。 >>シリーズ一覧はこちら「訪問看護と酸素・人工呼吸療法」https://www.ns-pace.com/series/hot-hmv/ 図3 呼吸器関連の治療法の位置づけ HMVの実施方法にはTPPVとNPPVがある。HFNCはNPPVとHOTの中間的な治療法として位置づけられている。睡眠時無呼吸症候群の治療に使われるCPAPは人工呼吸療法に含まれない。*1【HMV】home mechanical ventilation:在宅人工呼吸療法*2【TPPV】tracheostomized positive pressure ventilation:気管切開下陽圧換気*3【NPPV】noninvasive positive pressure ventilation:非侵襲的陽圧換気*4【HFNC】high flow nasal cannula:高流量鼻カニュラ酸素療法*5【HOT】home oxygen therapy:在宅酸素療法*6【CPAP療法】continuous positive airway pressure therapy:シーパップ療法、持続陽圧呼吸 表2 在宅での呼吸管理に関連する在宅療養指導管理料 監修・執筆:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 呼吸器内科 主任部長呼吸ケアセンター センター長編集:株式会社照林社

食中毒の原因・応急処置・注意点を解説
食中毒の原因・応急処置・注意点を解説
特集
2024年3月26日
2024年3月26日

【食中毒予防】梅雨の時期は要注意!食中毒の原因・応急処置・注意点を解説

細菌やウイルス、有害物質等が付着したものを食べることで、下痢・嘔吐などの症状が出る食中毒。梅雨の時期は高温多湿により食中毒の原因菌が増えやすいため、より一層の注意が必要です。特に小さな子どもや高齢者は免疫力が低いため、食中毒が重症化するリスクが高いとされています。 今回は、梅雨の時期に特に気を付けたい食中毒の原因や応急処置、注意点などについて解説します。訪問看護の現場でも、利用者さんやそのご家族から食中毒について質問されることもあるでしょう。その際に答えられるように、食中毒について基本的な知識を再確認しておくことをおすすめします。 食中毒の原因と分類 食中毒の原因は、ウイルスや細菌、植物をはじめとした自然毒、寄生虫、化学物質などさまざまですが、大半を占めるのが「ウイルス性食中毒」と「細菌性食中毒」です。 ウイルス性食中毒は、ウイルスが付着している食品や人の手を介して感染します。主な原因はノロウイルスです。細菌性食中毒には、サルモネラ菌やカンピロバクターなどが増殖した食品を摂取することによって生じる「感染型」、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌などの細菌から産生された毒素を食品とともに摂取することによって生じる「毒素型」に分けられます。 そのほかフグ毒や貝毒、毒キノコ、ジャガイモの芽といった「自然毒食中毒」、農薬やヒスタミン、油脂の酸敗といった「化学性食中毒」、魚介類、生肉、野菜に寄生している虫による「寄生虫」に分類されます。 食生活において、特に注意が必要なのは細菌性食中毒でしょう。自然毒についても、十分な知識なく有毒な山野草を口にすることで食中毒になるケースがあるため気を付けたいところです。 食中毒になりやすい食べ物・飲み物 どのような飲食物でも食中毒になる可能性がありますが、特に次のようなもので多数発生しています。 飲みかけのペットボトル 飲みかけのペットボトルには、人の口腔内や鼻腔、皮膚などに存在する黄色ブドウ球菌が付着しています。短時間で飲みきるのであれば問題ありませんが、時間を置いたり細菌が増えやすい高湿度な環境に放置したりすると、食中毒になるリスクが高まります。これは、食べかけのお弁当やおにぎり、パンなどにもいえることです。また、製造過程で黄色ブドウ球菌が付着し、それを食べた人が食中毒になる場合もあります。 黄色ブドウ球菌が作る毒素は強力で、加熱では除去できません。食中毒になった際の症状は吐き気や腹痛などで、汚染された食品を口にしてから30分~6時間程度で発症します。 鶏肉等の生焼け肉 鶏肉や豚肉、牛肉などの生焼け肉には、サルモネラ菌やカンピロバクターなどが付着しています。牛肉は表面にしか細菌が付着していないため、中まで火が通っていなくても問題ないとされています。しかし、調理工程で細菌が付着するリスクもあるため、食中毒を防ぐという観点からは中まで十分に火を通すことが大切です。 食中毒になった際の主な症状は、食後数時間から数日後に現れる吐き気や腹痛、下痢、発熱などです。 生野菜 生野菜には、腸管出血性大腸菌のO157やO111などが付着している可能性があります。また、十分に加熱されていない肉に細菌が付着しており、生肉に触れた手や包丁、まな板などが生野菜に触れることが原因で食中毒になるケースも少なくありません。細菌は十分な加熱によって死滅するため、うっかり生肉を触った手で生野菜に触れた場合は加熱調理しましょう。 腸管出血性大腸菌による食中毒は、食後12~60時間に激しい下痢や血性下痢(下血)が腹痛とともに現れます。重症化によって亡くなるケースも珍しくないため、より一層の注意が必要です。 魚介類 十分に加熱していない魚介類には、ノロウイルスや腸炎ビブリオ菌、貝毒等による食中毒のリスクがあります。ノロウイルスによる食中毒は冬季に流行すると知られていますが、ウイルス自体は1年を通して存在しており、夏場にも発生しています。なお、貝毒は熱に強く、十分に加熱しても無害にはなりません。貝毒は2~4月、6~8月に発生しやすいため、この時期を中心に国によって貝毒検査が行われています。 ノロウイルスは牡蠣やアサリ、シジミといった二枚貝、腸炎ビブリオ菌は魚介類全般に見られます。いずれも熱に弱いため、十分に加熱することで食中毒を防ぐことができます。ノロウイルス食中毒になった場合は、食後1~2日程度で下痢・吐き気・腹痛・発熱などの症状が現れます。 有毒植物 有毒植物については、厚生労働省が定期的に注意喚起しています。食用と間違えやすい有毒植物には、ニラと似たスイセン、ギョウジャニンニクと間違えやすいバイケイソウ、ジャガイモやタマネギと似たイヌサフラン、サトイモと似たクワズイモなどがあります。 嘔吐や下痢のほか、頭痛やめまい、手足のしびれなど全身に症状が現れます。イヌサフランについては重症の場合は死亡することもあるため、より一層の注意と速やかな対処が必要です。 食中毒の応急処置 食中毒を疑う症状が現れた場合は、脱水症状を防ぐために水分を補給しましょう。また、吐き気や嘔吐がある場合は、食べ物が気道に詰まらないように横向きに寝かせます。下痢止めは、食中毒の原因菌やウイルスの排泄を阻害し、症状を悪化させるおそれがあるため、自己判断で使用してはいけません。また、解熱鎮痛剤も同様です。 激しい嘔吐や呼吸困難、意識がもうろうとする、血便や激しい下痢が続くなどした場合は、医療機関を受診しましょう。 食中毒を防ぐために普段から注意しておくこと 食中毒を防ぐために、利用者さんには以下のような行動を奨励しましょう。 手洗いを徹底する食べかけのものは冷蔵や冷凍はせず、食べきるか廃棄する食材の賞味期限や保存方法を守る劣化や変色が見られる場合は適切に処分する食品を再加熱する際は、十分に加熱する 上記の中でも、食べかけのものを保存するケースに気をつけましょう。特に認知症の方は冷蔵庫にいつから入れていたものかわからないものを口にしてしまうことがあります。「もったいない精神」によって変色しているものを口にする可能性もあるため、注意しておきましょう。 * * * 食中毒は、不衛生な調理方法をした場合だけでなく、保存方法の問題や不十分な再加熱によっても起きる可能性があります。また、誤って有毒植物を口にしてしまうこともあるでしょう。食中毒は身近なトラブルのため、梅雨の時期はより一層の注意が必要です。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省.「食中毒」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html2024/3/21閲覧〇農林水産省.「食中毒の原因と種類」https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomo_navi/featured/afp1.html2024/2/12閲覧〇日本訪問看護財団.「有毒植物による食中毒防止の徹底について 」https://www.jvnf.or.jp/newinfo/2023/230413rouken-tsuchi.pdf2024/2/12閲覧

治りにくい褥瘡ケア~低栄養への対応と基本指針 ~
治りにくい褥瘡ケア~低栄養への対応と基本指針 ~
特集 会員限定
2024年3月19日
2024年3月19日

治りにくい褥瘡ケア~低栄養への対応と基本指針~【セミナーレポート前編】

2023年12月15日(金)に開催したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「治りにくい褥瘡のケア~在宅で治癒を目指す方法~」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師に迎え、治りにくい褥瘡をケアする際に役立つ知識やノウハウを教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、低栄養によって治癒が進まない褥瘡に対するアプローチや創傷治癒の基本的指針についてまとめます。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 「治りにくい褥瘡」とは 治りにくい褥瘡の代表例としては、以下の5つが挙げられます。 慢性的な低栄養状態複数の褥瘡を有している創部やポケットのサイズが大きい局所に臨界的定着疑いがある創周囲の皮膚(創辺縁)に浸軟や肥厚、表皮の巻き込みなどの問題がある また、上記の褥瘡が生じる原因には以下のようなものがあり、褥瘡があるご本人の問題と、療養生活環境の問題の2つに分類できます。 >>関連記事褥瘡の基礎知識 発生原因・予防的スキンケア・在宅療養生活でのポイント褥瘡の基礎知識についてはこちらをご参照ください。 慢性的な低栄養状態があるケース まずは、「慢性的な低栄養状態」への対応方法を見ていきましょう。例えば、こちらは一人暮らしの高齢者男性の冷蔵庫、および食事の写真です。 冷蔵庫の中には、基本的に調理不要の食べ物が入っており、食事内容を見ると、栄養バランスが偏っていることがわかりますよね。エネルギー摂取量も不足しています。 このように低栄養の状態が続くと、以下の写真のような治りにくい褥瘡ができやすくなります。 栄養状態の評価方法 まずは現在の栄養状態を評価します。以下の簡易栄養状態評価表(MNA-SF)は、在宅で活用しやすい評価スケールでしょう。 ふくらはぎの周囲径と、資料右側のAからF2までの質問への回答があれば、BMI測定が難しくても栄養状態をスクリーニングできます。 褥瘡の治癒に必要な栄養素 以下の資料は、褥瘡の治癒を目指すにあたって必要なエネルギーとたんぱく質量、そして食材に含まれるたんぱく質量をまとめたものです。 褥瘡の治癒を促進するためには、1日あたり約1,600〜1,800kcal(体重45kg)のエネルギー摂取が推奨されています。また、たんぱく質は体重1kgあたり1.25〜1.5gが目標となっており、体重45kgで1,350kcalを摂取する方なら50〜70gになります。食材に含まれるたんぱく質量を参照すると、毎日必要量を確実に摂取することは難しい場合もあると思います。そのため、「目標値にできるだけ近づけられるような支援を目指す」という意識を持って看護や介護ができると良いと思います。 また、アミノ酸やビタミン類、微量元素を摂ることも重要なポイントです。とくに、褥瘡の治癒にはコラーゲンペプチドが非常に有効です。コラーゲンペプチドは、飲料やゼリータイプのものが市販されていますので、経口摂取の状態やお好みに合わせてお選びいただくことができます。 創傷治癒の基本指針 TIMEコンセプト 次に、創傷治癒の基本的な指針についても押さえておきましょう。創傷治癒遅延の要因を取り除き、創面の環境を整えて治癒を促進する「創面環境調整(wound bed preparation:WBP)」という概念として、「TIMEコンセプト」があります。TIME(タイム)とは次のスライドに示した4つの臨床的観察ポイントに合わせ、具体的対策が提示されています。 例えば、「活性のない組織または組織の損傷(Tissue non-viable or deficient)」が見られる場合は、デブリドマンによる壊死組織の除去を行うことで、創面の環境を整えます。「感染または炎症(Infection or inflammation)」が起こっている場合は、全身的な治療を含め、感染創に有効な外用剤などを用いて感染のコントロールを行います。「湿潤のアンバランス(Moisture imbalance)」があるときは、創面が乾燥したり、過剰に湿潤した状態にならないケアが大切です。創部の肉芽形成や上皮化に重要な細胞の増殖・遊走のためには適度な湿潤環境が重要です。「創縁の治癒遅延またはポケット(Edge of wound non advancing or undermined)」がある場合はポケットを縮小させるために正しい評価と治療が大切になります(詳細は後編参照)。 DESIGN-R2020に基づいた褥瘡ケア DESIGN-R(※1)2020も病院や訪問看護の現場で重要な褥瘡評価ツールとして利用されています。DESIGN-R2020はTIMEコンセプトと同じく、壊死組織を取り除き、肉芽形成をし、創の収縮を促すというステップで治癒を目指します。褥瘡が発生した場合、一つひとつの褥瘡をきちんと評価して、その褥瘡状態に合ったケア方法を考えることが大切です。 >>関連記事写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編DESIGN-R2020について詳しく解説しています。 「活性のない組織または組織の損傷」のケア例 ここで、TIMEコンセプトの「T」にあたる「活性のない組織または組織の損傷」の例をもう少し詳しく見てみましょう。 訪問看護の現場で行われるデブリードマンでは、スルファジアジン銀クリームを使用した自己融解的デブリドマンなどがあります。また、ブロメラインの軟膏を使った酵素的デブリドマンを行うケースもあります。水分を含んだ柔らかい壊死組織で覆われた創面などに有効です。肉芽組織が多い創面では、薬剤の持つたんぱく分解酵素の特徴から痛みや灼熱感を生じる場合がありますので、使用の際は注意が必要です。 なお、以下はDESIGN-R2020に基づいた在宅における褥瘡ケアの外用剤をまとめたものです。ケアに迷われた時のご参考になればと思います。 次回は、治りにくい褥瘡に対する具体的なケア方法に焦点を当てて解説します。 >>後編はこちら治りにくい褥瘡ケア/~代表例と具体的なケア~【セミナーレポート後編】 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

高齢者の頭の体操10選 脳トレ
高齢者の頭の体操10選 脳トレ
特集
2024年3月19日
2024年3月19日

高齢者の頭の体操10選 脳トレに期待できる効果や方法について解説

頭の体操によって脳をトレーニング(脳トレ)することで、認知機能によい影響を与えられる可能性があります。多くの高齢者施設やデイサービス、訪問介護などで行われており、その効果を実感している高齢者の方も少なくありません。 本記事では、高齢者の頭の体操による脳トレの方法や期待できる効果などについて詳しく解説します。利用者さんに脳トレについて質問されたときに答えられるようにしておくことが大切です。また、訪問看護師から利用者さんに向けて、脳トレをおすすめするのもよいでしょう。 脳トレとは 脳トレとは、頭の体操によって脳を活性化させることです。高齢者は若年者ほどアクティブに活動したり考えたりする機会が少ないため、どうしても脳の働きが低下しがちです。脳トレは、体力が衰えている高齢者も心身に大きな負担をかけずに楽しめます。 高齢者に対する脳トレの効果 脳トレでは、複数の思考や動作を同時に行います。これにより認知機能の向上が期待できるため、認知症予防の一環としても行われています。 老化に伴って低下する記憶や注意力、問題解決能力などが改善されることで、高齢者の活動性や生活の質が向上する可能性があります。 高齢者が在宅でできる脳トレ 高齢者が自宅や施設などでできる脳トレの方法を紹介します。 簡単な計算問題を解く 簡単な計算問題を解くことは、頭の体操になります。紙と鉛筆を使うことで指先も刺激されるため、脳と体の両方のトレーニングが可能です。足し算やかけ算、割り算、九九など、いくつかのバリエーションを取り入れましょう。 なぞなぞを解く なぞなぞを解く際は、言葉の意味を考えたり風景をイメージしたりします。同時に複数のことを行うため、脳トレにつながります。 例えば、「辛くて食べられる椅子は?」というなぞなぞの答えは「カレーライス」です。このように、「椅子」と前文の意味を踏まえて柔軟に考える必要があります。 漢字の書き・読み 漢字の書き・読みでは、記憶を思い出す必要があるため、脳トレの1つとして効果が期待できます。簡単なものから難しいもの、四字熟語などさまざまなパターンの問題を出しましょう。 例えば、「秋刀魚(さんま)」「五月雨(さみだれ)」など、漢字自体は小学生で習うものの、少し難解な熟語を問題にするとよいでしょう。 制限付きしりとり 制限付きしりとりは、食べ物や家具などジャンルに制限をつけて行うしりとりです。制限なしのしりとりと比べて熟考が必要なため、脳をより強く活性化できるでしょう。 最初は「食べ物」のように大きなジャンルにし、慣れてきたら「果物」「野菜」など小さなジャンルで制限すると白熱するかもしれません。 間違い探し 2枚の絵を用意して間違い探しをする脳トレです。1枚の絵を見て記憶し、2枚目の絵との違いを見つける必要があるため、脳の活性化につながります。人によってレベルが異なるため、最初は簡単なものから始めましょう。 連想問題 連想問題は、スタートとゴールの言葉を設定し、連想を続けてゴールを目指すゲームです。例えば、スタートを「りんご」、ゴールを「椅子」として、「りんごといえば赤色」「赤色といえばトマト」のように連想してゴールを目指します。なお、スタートとゴールの言葉がかけ離れすぎてしまうと、なかなかゴールに辿り着かなくなってしまうため、注意しましょう。 高齢者が在宅でできるレクリエーション(脳トレ+運動) 脳トレに運動を加えたレクリエーションもご紹介します。在宅で利用者さんと訪問看護師の2人から実施可能ですが、車いすを利用している利用者さんや視覚・聴覚等に障害がある利用者さんに関しては、必要に応じてサポートしながら行いましょう。 数えながら指を曲げる体操 指を単に曲げるのではなく、数えながら曲げることで頭と体の両方を同時に使う脳トレです。体を大きく動かす必要がないため、体力が低下している方も行いやすいでしょう。 親指から小指まで、「1、2、3」と数えながら曲げていき、終わったらもう一方の手も同じように行います。 後出しじゃんけん 後出しじゃんけんは、相手が出した手に対して、勝つか負けるかの指示どおりの手を出すゲームです。例えば、相手に勝つ指示の場合、チョキを出されたらこちらはグーを出します。また、相手が口でチョキといい、こちらは手か足でグーを出すなど、手足や口を組み合わせるのもおすすめです。 足を使ったじゃんけん 足を使ったじゃんけんは、普段は手で行うじゃんけんを足でするゲームです。グーは両足を揃え、チョキは両足を前後に開き、パーは両足の間隔を大きく開けます。脳トレに加えて足の運動にもなります。 リズム体操 リズム体操は、音楽に合わせて体を動かす体操です。ふりつけは独自に考えてもよいですが、さまざまなリズム体操の動画がインターネット上で公開されているため、参考にするとよいでしょう。 マルチタスクトレーニング マルチタスクトレーニングは、合図によって動作を変更することで心身をトレーニングするゲームです。例えば、右手で鼻、左手で右の手首を持ち、合図とともに左手で鼻、右手で左の手首に持ち替える、といった具合に動作を変更します。 * * * 高齢者の脳トレは、認知機能の向上につながります。体を動かすレクリエーションであれば、身体機能の向上も期待できるでしょう。ただし、車いすを利用している、視覚・聴覚等に障害があるなど、利用者さんの状態を踏まえて脳トレやレクリエーションを選び、必要に応じてサポートすることが大切です。脳トレはどれも簡単にできるので、ぜひ参考にしてみてください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。

訪問看護の呼吸ケア
訪問看護の呼吸ケア
特集
2024年3月12日
2024年3月12日

訪問看護の呼吸ケア 安定期を長く過ごすための療養法・支援方法 基礎知識

在宅酸素機器や在宅人工呼吸器を使用し、在宅で療養する人が増えています。訪問看護師が安心して確実なケアを行えるようになるために、本シリーズでは日々酸素療法や人工呼吸療法にかかわる医療・看護のエキスパートがケアのポイントはもちろん、機器のしくみや管理方法、トラブル対応などをわかりやすく解説します。今回は、慢性呼吸器疾患をもつ利用者さんが安定期を長く過ごすために、訪問看護師が知っておきたい心の持ちようや療養法・支援方法の基礎知識を確認しましょう。 安定期を長く過ごせるためのケアが大切 慢性呼吸器疾患は、増悪、軽快を繰り返しながら緩徐に進行し、それに伴い呼吸困難が増強します。慢性呼吸器疾患患者さんにおいて、呼吸困難は、身体的側面だけでなく精神的・社会的・スピリチュアル的問題を生じさせます。日常生活活動を制限し、役割や趣味、生きがいなどの喪失をきたすため、疾患の治療および呼吸困難の改善を図る医療とケアは重要です。 呼吸困難を軽減する医療としては、例えば慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)であれば、ガイドラインに基づいた吸入療法などの疾患特異的治療、在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)、非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV)、呼吸リハビリテーションなどがあります。看護ケアとして、患者さんがこれらの治療法や療養法の必要性を理解し、生活に取り入れてセルフマネジメントできるように支援します。 慢性呼吸器疾患患者さんが安定期を長く過ごせるかどうかは、在宅で医療や療養法などをいかにセルフマネジメントできるかにかかっており、訪問看護師の役割はきわめて大きいです。導入編となる今回は、慢性呼吸器疾患患者さんへの支援を行う看護師の心の持ちようと、患者さんの療養生活についてお伝えしましょう。特に、患者さんから「もっと教えてほしい」というニーズのある「息切れを軽くする日常生活動作の工夫」や「呼吸訓練」1)など含めいくつかの必要な療養法や支援について説明します。 なおHOTやNPPVなどの個別の療法については、本シリーズの後発記事で解説します。 >>シリーズ一覧はこちら「訪問看護と酸素・人工呼吸療法」https://www.ns-pace.com/series/hot-hmv/ 看護師が支援を行う上での心の持ちよう 心の持ちようとして皆さんにお伝えしたい内容は次の3点です。 呼吸困難は「呼吸時の不快な感覚」で、主観的な症状です。患者さんが「呼吸困難がある」と言えばSpO2がよくても呼吸困難はあるのです。呼吸困難は身体的側面だけでなく精神的・社会的・スピリチュアル的な側面を併せもった多面的なものであり「Total Dyspnea」といわれています2)。呼吸困難の原因を多面的にアセスメントしていくことが大切です。私たちは、呼吸困難のある患者さんが治療や療養法などのセルフマネジメント能力を身につけることは、患者さんにとって「大きな仕事」であることを理解し、心から応援する気持ちで支援します。患者さんは自己の価値観に基づいて行動しています。すぐにアドヒアランス不良とレッテルを貼るのではなく、患者さんの考え方や価値観、病いに伴う個人の体験の理解が必要であることを認識し、患者さんの療養法や行動の意味を理解します。 患者さんの支援に必要なスキル 患者さんの支援に必要なスキルとして、患者理解、パートナーシップの構築、アドヒアランス・自己効力感へのアプローチがあります。 患者さんを理解する 患者さんの病いの体験やライフヒストリーなどの語りを対話で促進します。しっかりと聴いて、病いの解釈や価値観、患者さんが行っている療養行動の意味や病いとともに生活する中での苦悩を理解します。 パートナーシップを構築する 尊重する、信じる、謙虚な態度、聴く姿勢を示す、ともに歩む姿勢を見せる、熱意を示す、心配を示すなどの「患者教育専門家として醸し出す雰囲気」といわれる態度で接することが大切です3)。患者さんが望む生活に即したテーラーメイドの療養法をともに考える姿勢を大切にしましょう。 アドヒアランス、自己効力感の維持・向上へのアプローチを行う 自己効力感へのアプローチでは、成功体験、代理的経験、言語的説得、生理的・情動的状態の4つの情報を活用すると有効です。具体的に説明します。■ 成功体験自分で「達成できた」という成功体験をもつことです。酸素濃縮装置、携帯用酸素ボンベの取り扱いなど、小さな目標を立てて段階的に行い、自分で「できた」という成功体験を積み重ねていきます。■ 代理的経験自分と同じ状況にある人の成功体験や問題解決方法を知り、疑似的な成功体験をもつことです。例えば、HOT導入により生きがいである畑仕事ができなくなると感じている患者さんに、酸素を使って畑仕事を継続しているほかの患者さんの状況を紹介します。それにより、自分も「できる」という自信をもつことです。■ 言語的説得専門性に優れた信頼できる人から、励まされたり、褒められたりすることで自信を高めることです。例えば、「あなたなら、きっと酸素をうまく使って趣味のゲートボールをすることができますよ」と力強く話すことで、患者さんは「信頼している人からできると言われたのでできそうな気がする」と自信を高めます。■ 生理的・情動的状態課題を実行したときに生理的、心理的に良好な反応を自覚することです。適切な酸素流量の使用により、息切れの軽減を実感してもらいます。それとともに、モニタリングを行い、脈拍やSpO2が安定していることを視覚的に提示し、息切れが少ない状態を称えることで、患者さんは自信を高めます。 療養法を生活に取り入れるための試行錯誤するプロセスを称賛しながら保証し、「待つ姿勢」を大切にします。患者さんが呼吸困難のある中、がんばっておられることに私たちは気づくことが大切です。そして、少しでも行動変容が見られたらポジティブフィードバック、つまり承認・称賛します。 呼吸ケアに必要な療養法と支援 息切れを軽くする日常生活動作の工夫を伝える 日常生活動作(activities of daily living:ADL)の工夫としては、図1のような息切れを増強させる4つの動作、すなわち「上肢挙上動作」「息を止める動作」「反復動作」「体幹前屈姿勢」を控えていただくことが大切です。4つの動作をいきなり説明するのではなく、どのようなときに息切れがあるのか、そのときの動作要領はどのようなものかを患者さんに振り返っていただきます。その後で息切れを増強させる動作を行っている場合は、その原因と工夫(対策)を説明します。 また呼気は、筋収縮がなく呼吸仕事量が少ないため、動作の開始を呼気時に合わせること、動作が早い場合はゆっくり動き適宜休憩を取り入れることを説明します。特に拡散障害が著明な間質性肺炎は、労作時に低酸素血症になりやすい病態を示し、動作要領や休憩を取り入れるように伝えます。 図1 息切れを生じさせる4つの動作 呼吸訓練の指導を行う 呼気排出障害であるCOPDには、「口すぼめ呼吸」の習得は不可欠です。口すぼめ呼吸は気道内圧を上昇させ、末梢の気道閉塞や肺胞の虚脱を防ぎ呼気をスムーズにします。指導方法は図2を参照してください。 患者さんは、息切れがあると一生懸命に息を吸おうとしますが、呼気排出障害による動的肺過膨張により息が吸えずかえって息切れが増強します。息を吐くことで酸素が入ってくると説明し、呼気を意識するように促します。間質性肺炎は呼気排出障害でないため、口すぼめ呼吸は必須ではありません。呼気時間が必然的に長くなることで呼吸数を減少させてしまい、かえって息切れが増強する場合があります。 慢性呼吸器疾患患者さんは、呼吸困難が強い場合、口すぼめ呼吸やゆっくり大きな呼吸はできません。まず看護師は、タッチングや呼吸介助を行い「大丈夫ですよ」と声をかけ不安の軽減に努めます。そして、少し呼吸回数が減少したときに患者さんに呼吸調整を行ってもらいます。例えば、鼻から吸って口から吐くようにしてもらったり、COPDの患者さんであれば口すぼめ呼吸を促したりするとよいでしょう。呼吸困難が軽減したとき、「ご自身で息切れを軽減できましたね」と称賛し、自己コントロール感を高めます。自己で呼吸困難を軽減できた体験は、呼吸困難の再来への不安を軽減し、ADL制限の減少につながります。 図2 口すぼめ呼吸の指導方法 身体活動性の維持・向上を促す 慢性呼吸器疾患患者さんは、息切れによる行動制限によって筋力低下をきたし、さらに息切れが増強するという悪循環をきたします。できるだけ座位時間(sedentary時間)を減らし、少しでも動くこと、散歩は早く歩くのではなくゆっくり長い距離を歩くこと4)が効果的であると説明します。家族を含めて自宅で可能な運動や方法についてともに考えるとよいでしょう。万歩計は、ご自身で自然に目標設定できるため有効です。 精神的・社会的・スピリチュアル的側面への支援 呼吸困難は、病状だけでなく不安や恐怖などにより増強するという悪循環に陥ります。また、できることが少なくなり、役割喪失感や家族から受ける支援の増加などにより自尊感情の低下をきたします。患者さんの病状や療養生活の中で生じているさまざまな感情や思いを傾聴し、よき理解者となり、「訪問看護師さんが来てくれたらホッとする」と思ってもらえるような存在になることが重要です。 自宅には患者さんが大切にしている趣味や価値観を見出すものがたくさんあります。それらの話題や生活の中でがんばっていること、「役割」を見出し、言語化して家族とともに称賛することは、患者さんの精神的な支援になり、自尊感情を高めることにつながります。そして、社会的・スピリチュアル的側面への支援にもつながります。 アドバンス・ケア・プランニング アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)とは、将来の意思決定能力の低下に備えて、今後の治療・療養について患者さんやその家族とあらかじめ話し合うプロセスです。在宅は、病院と異なり患者さんがくつろげる場所であり、訪問看護師も患者さんの大切なものを見出しやすい状況にあります。 日々の療養支援の中で、患者さんは何気なく大切にしていることや望む生き方を語ることがあります。この貴重な「想いのかけら」をキャッチし、対話によりピースをつなげながら5)ご家族、医療者と話し合いを繰り返す中で価値観を共有していくことで、患者さんの意思を尊重することができます。 監修・執筆:竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長慢性疾患看護専門看護師 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本呼吸器学会肺生理専門委員会在宅呼吸ケア白書 COPD疾患別解析ワーキンググループ編.『在宅呼吸ケア白書2010』,日本呼吸器学会,2010:17.2)日本呼吸器学会 日本呼吸ケアリハビリテーション学会合同 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021作成委員会編.『非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021』,メディカルレビュー社,東京,2021:25.3)河口照子編.『慢性看護の患者教育 患者の行動変容につながる「看護の教育的関わりモデル」』,メディカ出版,大阪,2018:65-72.4)南方良章.「慢性閉塞性肺疾患患者に対する身体活動性研究の進歩」,日内科学誌 2019:108(12);2554-2560.5)西川満則,大城京子.「コミュニケーションの基本」,『ACP入門 人生会議の始め方ガイド』,日経メディカル,東京,2020:101-114. 【参考文献】安酸史子.『改訂3版 糖尿病患者のセルフマネジメント教育』,メディカ出版,大阪,2021.

誤飲・誤食【訪問看護 緊急時の対応法】
誤飲・誤食【訪問看護 緊急時の対応法】
特集
2024年3月5日
2024年3月5日

利用者から誤飲・誤食の訴えがあったら【訪問看護 緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは利用者さんから誤飲や誤食の訴えがあった場合の対応法です。 誤飲・誤食とは 訪問看護ではさまざまな緊急の訪問依頼があり、対応に走ることがあるかと思います。今回のテーマ「誤飲・誤食」も緊急性の高い項目の一つといえます。 「誤食」は、 食べ物以外のものを誤って口から摂取すること飲食物ではない異物を誤って飲み込んでしまうこと主に有害・危険な異物を飲み込んでしまうこと などと定義されています。ほかに食物アレルギーを持つ方がアナフィラキシーショックを起こす危険性のあるものを摂取した場合にも誤食が用いられます。 「誤飲」は誤食と同様な意味を持ちますが、飲み物に対して使用され、飲むか食べるかの違いとされます。ここでは誤飲・誤食を厳密に定義して述べるのではなく「食物以外の物を誤って口から摂取した場合」として記載します。 誤飲・誤食が起こったときの対応 誤飲・誤食が問題になるのは乳幼児の場合が多いでしょう。乳幼児が誤って口に含まないように、手の届く範囲に危険につながる小さな物を置かないように予防することが第一です。 高齢者にも誤飲・誤食はしばしば見受けられます。高齢者の誤飲・誤食事故による緊急訪問では、口にした物質を特定できれば対応もしやすくなります。まずは、本人が何を誤飲・誤食したのかを確認して、バイタルサインを測定し、アセスメントを実施します。 その時点においてはあまり状態変化を把握できなかったとしても、後から急変する可能性があります。例えば、誤飲・誤食した物の形状や性質などから、食道に傷をつけ出血してしまう、排泄に至るまでの間に消化管が閉塞・穿孔する、意識レベルが低下するなど、緊急性が高くなる事態も考えられます。状態を主治医に伝え、指示を受けてください。医療機関を受診し、状況によっては内視鏡検査を受けなければならないケースもあります。 誤飲・誤食した様子はあるが、何を飲み込んだのか判断できない場合、ベッド周囲や本人の周囲の状況を見て、飲んだと思われるものの残りや容器などから口にしたものを推定します。特定できれば、その物質と量、飲んだ時間なども確認し、主治医に伝えます。 主な誤飲・誤食の事例 PTP包装シート 消費者庁が2019年に公表した65歳以上の高齢者における誤飲・誤食の事故情報1)によると、医薬品の包装を誤飲した事例が116件と最も多かったそうです。そのうち83件がPTP(Press Through Package)包装シートを誤飲していました。包装の裏面には注意書きが添えられていますが、それでも事故は発生しています。PTP包装シートを誤飲すると消化管穿孔をはじめとした重大な合併症を引き起こす恐れがあります。事故を防ぐために、PTP包装シートは切り離さずシートのまま保管し、服用するときに1錠ずつ押し出して服用するよう、利用者さんやご家族への指導が必要です。 誤飲事例とは異なりますが、私が訪問していた高齢の利用者さんの事例を紹介します。その利用者さんはカプセル剤の薬袋に記載された「ケースから出して服用してください」という注意書きを読み、カプセル剤のゼラチンから散剤を取り出して服用すると思い込んでいました。医療職から見るとあり得ないような話ですが、実際に話をしてみて高齢者の思いを知ることができます。 義歯や詰め物 先ほどの消費者庁の調査によると、医薬品の包装の次に多かったのが義歯や歯の詰め物でした1)。多くは食事のときに食物と一緒に飲み込んでしまうため、日ごろから口腔ケアを通して、歯の状態をアセスメントしておくことが大切です。合わなくなった義歯やグラグラしている歯があれば、歯科を受診し治療しておきます。食後も必ず口腔ケアを行い、義歯や詰め物などがきちんとあるか確認をしておくとよいです。 食事関連でいうと、魚の骨を誤飲すると、食後に咽頭や喉頭部のあたりに痛みや違和感が生じます。骨の大きさや刺さった部位によっては自然に消失する場合もありますが、持続した痛みや違和感があれば、早めに受診につなげるとよいでしょう。 洗剤やシャンプー類、灯油 誤飲事例には、洗剤やシャンプー類、灯油もあります。どれをとっても飲み込まずに吐き出す方が多いと考えますが、どの程度の量を飲み込んだかは必ず確認します。飲み込んだ物によっては「牛乳や水を飲ませる」と説明するものもありますが、安易に飲ませず、何度かうがいをしながら、主治医に連絡して指示を得てください。 訪問看護ステーションに緊急連絡を受けた場合も対応は早めの方がよいので、電話で対処方法を助言します。 認知症の方の誤飲・誤食予防 認知症の方ではさらに注意や配慮が必要です。認知症の方は誤飲・誤食の自覚がないケースがあります。例えば、魚を食べたと認識できていなければ、骨が咽頭や喉頭に刺さっていたとしても、訴えが適切にできず症状が悪化してしまうでしょう。 自覚症状が不穏状態として現れるケースもあります。ただし、不穏状態の原因を特定するのは簡単ではありません。独居で過ごしている利用者さんは生活状況が見えづらく、「誤飲・誤食したかも」と感じさせる状況であっても、意識レベルや息に異臭があるなどの異状がなければ確定できません。 日ごろの食生活や状態を把握しておく 事故が起こった直後は、何を、どの程度の量、誤飲・誤食したのか特定が難しいことも少なくありません。そのため、日ごろから利用者さんの食生活をできる限り把握できるようにしておくとよいでしょう。私は必要に応じて利用者さんの冷蔵庫を見せていただきます。賞味期限が切れた物や、冷蔵庫に入れておくべきではない物が入っていないか、定期的にチェックし整理しておきます。こうした普段からの注意が誤飲・誤食を予防します。また、訪問看護だけでは対応できないため、訪問介護の方にも協力を得ながら一緒に対応することが重要です。 食物以外の物も口に含む習慣があれば、口に含めそうなものを周囲に置かないように配慮します。利用者さんの日ごろの状態を把握しておけば、異常時に「いつもと違う」といち早く気づけます。早い段階で医療機関につなげられるとともに、重度化予防にもなります。 * * * 訪問看護師は利用者さんの自宅に伺い、ケアを提供するだけの時間しかいられません。それ以外の時間は、ご家族が多くの時間を費やし介護をされています。緊急に対応しなければならない事態においても、病院や施設のようにはすぐに看護師が駆けつけられません。家族が安心して介護できる体制にするためには、誤飲・誤食したという情報があれば、できるだけ受診につなげて、異常がないか否かの診断を受けられるようにしましょう。それがご家族の安心につながります。 「食べること」は、生命維持や健康増進に不可欠な行為であると同時に、人生の楽しみであり、自己表現やコミュニケーションの一部でもあります。その楽しみがトラブルにつながらないように、予測される危険材料を事前に排除する取り組みができるとよいです。高齢になっても食を楽しむ観点から、訪問看護では「食べること」についての情報収集とケア方針をご家族も含めて共有しておくようにします。 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社 【引用】1)消費者庁.「高齢者の誤飲・誤食事故に注意しましょう!」(2019年9月11日付)https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_safety_cms204_190911_01.pdf2023/11/10閲覧

腸内フローラとは?腸活、健康への影響を解説
腸内フローラとは?腸活、健康への影響を解説
特集
2024年3月5日
2024年3月5日

腸内フローラとは?腸活の方法や潰瘍性大腸炎との関係、健康への影響を解説

「腸活」というワードを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。腸活には、腸内細菌によって作られる「腸内フローラ」が関係しています。この記事では、腸内フローラの意味を改めて説明するとともに、腸活の方法、健康への影響などについて詳しく解説します。訪問看護師さんご自身の健康管理を目的とすることはもちろん、腸活に興味を持った利用者さんからの質問に答えられるようにするためにも、確認しておきましょう。 腸内フローラとは 腸内フローラとは、人間の腸内に存在する細菌の生態系のことです。人の腸内に生息する約1000種類、約100兆個もの細菌が腸内フローラを形成しています。腸内フローラは体の健康を保つために重要な役割を果たしており、特にビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が増えることが望ましいとされています。 腸内では、善玉菌、悪玉菌、その中間の菌(日和見菌)の3つのグループに属する細菌が複雑なバランスを保ちながら共存しています。 善玉菌:腸の蠕動運動を促進する(消化吸収を補助)、悪玉菌の増殖を抑えて腸内のバランスを整える(乳酸・酢酸をつくって腸内を酸性にする)、免疫力をアップさせる等の働きをする悪玉菌:有害物質をつくって腸内をアルカリ性にし、下痢・便秘等を引き起こす日和見菌:腸内で優勢な菌と同じように働く。健康なときはおとなしく、悪玉菌の割合が増えると悪い働きをする 日和見菌が最も多く、次いで多いのが善玉菌。病気を引き起こす悪玉菌はできるだけ少ない状態が望ましく、このバランスが崩れると、便秘や下痢などの症状が現れます。 腸活とは? 腸活は、腸内環境を改善し、健康を促進するための活動のことです。健康な腸内環境とは、腸内に存在する細菌のバランスが適切であることを指します。 一般的に、細菌のバランスは以下の割合が望ましいとされています。 善玉菌:30〜40%悪玉菌:10%日和見菌:50〜60% この良好なバランスを実現・維持するために、食生活や運動習慣などを見直すのが腸活です。 腸活の例 食事や運動だけではなく、マッサージや十分な睡眠なども腸内フローラに良い影響を与えます。腸活の方法について詳しく見ていきましょう。 栄養バランスのとれた食事を心がける 栄養バランスのとれた食事を心がけることで、腸内の善玉菌が増えます。善玉菌が含まれる次の食品を意識的にとりましょう。 ヨーグルト、納豆、チーズ、キムチ、味噌 また、善玉菌のエサとなることで間接的に善玉菌の増加につながる次の食品もとりましょう。 海藻類、キノコ類、イモ類、ゴボウ 適度に運動する 腸腰筋を鍛えることで、便が出やすくなります。筋力トレーニングではなく、1日約20分のウォーキングを続けましょう。階段の上り下りによって、さらに効果が高まります。連続ではなく朝と夕方に分けても問題ありません。 良質かつ十分な睡眠をとる 睡眠不足は、ストレスを感じることで自律神経のバランスを崩し、結果的に腸内環境を悪化させてしまう場合があります。良質かつ十分な睡眠をとることは腸活の方法の1つといえます。早めに寝床に入り、部屋を薄暗くして静かに過ごしましょう。また、快適な室温や湿度に整えることも大切です。 マッサージをする マッサージで腸に直接刺激を与えると、腸の動きを活性化させることができます。指ではなく、手のひらを使い、時計回りにやさしくお腹を押しましょう。力を入れすぎると逆効果になる可能性があります。痛みや不快感があるときはすぐにやめて様子を見てください。また、妊娠中や産後間もないころ、腹部や生殖器の炎症がある方などはできません。 ストレスケアをする 腸の活動は自律神経がコントロールしています。そのため、ストレスケアで自律神経のバランスを整えることが腸内環境の改善につながります。 ストレスを感じる場面を可能な限り避けるとともに、瞑想、ヨガ、深呼吸などのリラックス法を日常に取り入れましょう。 腸活のメリット 腸活によって腸内環境を整えることには、次のようなメリットがあります。 お腹の調子が整う 腸活を行うことで、腸内の善玉菌が増えるだけではなく腸の運動を促進できます。これにより、便秘が軽減します。また、腸内細菌のバランスが整うことで、下痢の症状が軽減することもあるでしょう。 免疫機能に良い影響が及ぶ 腸内細菌のバランスが良い状態では、腸の免疫細胞が正常に機能し、細菌やウイルスに対する抵抗力が向上します。免疫系の異常が原因の病気のリスクも低下する可能性があります。ただし、腸内フローラと免疫機能との関係については完全には解明されていません。 老廃物の排出が促される 腸活を行うことで、便秘が軽減され、体内の老廃物や毒素が効率的に排出されます。ただし、老廃物を排出する機能が大幅に強化されるわけではありません。また、腸内環境が悪いだけで腸内に毒素や老廃物が過剰に溜まる心配もないでしょう。 ストレスが減少する 腸活によってお腹の調子が整うと、症状に伴うストレスから解放されます。ストレスが減少すれば自律神経のバランスも整いやすくなるという良い循環が生まれます。 腸内フローラ検査(腸内細菌叢検査)の方法・何がわかる? 腸内フローラ検査は、検便によって腸内細菌のバランスを調べる検査です。腸内細菌のバランスがわかると、どのように対処すれば腸内フローラが整うのかがわかります。また、主な細菌の割合だけではなく、菌の多様性、大腸がんのリスクや太りやすさなどがわかるケースもあります。通常、検査結果とともに腸活のアドバイスを受けます。 潰瘍性大腸炎と腸内フローラの関係 順天堂大学は、大腸粘膜に炎症が起きる指定難病「潰瘍性大腸炎(UC:Ulcerative Colitis)」の患者さんに対して、病気に関連する菌を発見し、抗生剤を用いた治療を行ってきました。また、抗生剤治療後の腸内フローラのバランスを整えるために、健康な人の便から作成した腸内細菌叢溶液を患者の腸内に移植する「便移植」という治療法(抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法)を導入しており、これにより多くの患者さんの症状が改善しています。 * * * 腸内フローラを腸活で整えることで、便通の改善や免疫力の向上、ストレスの減少などが期待できます。今回解説した内容を、ご自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:福井 美典糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医公式instagram:fukuinaika.biyou.eiyouからだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱくの食事の大切さを、自ら栄養指導をしている。分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、からだの細胞を活性化させる治療法を取り入れている。野菜ソムリエの知識を生かし、栄養素が効率良く摂れる食べ合わせを意識したレシピを考案。美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 【参考】〇厚生労働省「腸内細菌と健康」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html2023/9/25閲覧○順天堂大学医学部附属順天堂医院「潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌叢移植」https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/shokaki/about/gastrointestinal/intestinal_microbiota1.html2023/9/25閲覧

糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年2月6日
2024年2月6日

「糖尿病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は糖尿病について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶこと 糖尿病患者の在宅療養では、脳卒中や心筋梗塞、低血糖症などの救急搬送を要する疾患の発症予防や、■高血糖 ■低血糖 ■シックデイ ── などへの留意が必要です。そのためには、外来受診や訪問診療での医師の診察に加え、ケアマネジャーを中心とした地域の訪問薬剤管理指導や訪問看護、訪問栄養指導、訪問リハビリテーション、訪問介護等のサポートと、何よりご家族の協力が不可欠です。シームレスかつタイムリーな地域連携のために、ハイセキュリティな医療用SNSをはじめとしたICT利用や、日本看護協会が推奨する特定行為研修修了看護師の地域配置が、一助になると考えられます。 在宅医療での糖尿病患者の特徴 在宅医療で介入が必要な糖尿病患者は、高齢や認知症だけでなく、廃用症候群や摂食嚥下障害の合併があり、高血糖、低血糖、シックデイ、自己管理困難、介護力不足など、複数の療養阻害要因を抱えるケースが散見されます。これらに対して安全性を担保するために、以下の対応が必要です。 治療方針 在宅での高齢者糖尿病患者では、身体機能や認知機能、心理状態、社会的環境を勘案し、個別的かつ総合的に目標を設定することが求められます。具体的には、認知機能やADL、そして重症低血糖リスクが危惧される薬剤の使用有無によって、血糖コントロール目標値を設定します。詳細は「高齢者糖尿病診療ガイドライン」1)を参照してください。 糖尿病を持つ患者への訪問看護 訪問看護では、患者の協力体制を得ることが不可欠です。血糖自己測定(SMBG)の値推移、日々のバイタルサイン、身体状況からアセスメントして推測される状況を、医師へ報告する必要があります。 患者ごとの血糖コントロール方針が立てられる 高齢患者では、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」2)に沿って、年齢や認知機能などをもとに、カテゴリー分類が判断されます。高齢者では、健康状態や治療内容によって、血糖コントロールの方針が異なります。必ずしもHbA1c値を下げるのがよいわけではなく、カテゴリーによってはHbA1c値を緩徐に上げる場合もあります。そのため、連携先の医師と、患者の情報を共有することが重要です。 患者のADLや年齢、薬剤、残存疾患といった情報から、患者にとって最適な血糖コントロールが判断されます。患者に接する機会が多い医療職である訪問看護師が、患者との人間関係を構築し、日常生活の情報を聞き取り、医師へ情報提供できる体制が望ましいでしょう。また、患者に対し、日々の治療に対するモチベーションが低下しないよう、血糖測定や内服を忘れず実施できていることへの労りの声掛けも大切です。 過去に低血糖を起こした既往がないか 低血糖は生命リスクを高めます。過去に低血糖を起こしていればリスクが高いと判断し、対応することが必要です。シックデイの際にはどのような対策をとればよいか主治医に相談の上で、患者へ指導します。 また、低血糖を頻発している人は、交感神経症状である発汗や頻脈、手指振戦が出ないこともありますので、中枢神経症状である頭痛や集中力低下がないかを注視することも必要です。 薬剤の服薬状況 過去に処方されて余っている薬などがないかを、確認する必要があります。過去処方されていたスルホニル尿素薬(SU薬)など、低血糖を惹起する血糖降下薬が出てきたから「今の薬とあわせて飲んでしまった」というケースもありえ、場合によっては救急搬送や致命的な状態に至る場合もあります。現在処方されている薬だけではなく、過去処方の残薬がないかを初回介入時に調べることが重要です。 訪問看護師に求められる対応とそのポイント 低血糖 低血糖で現れる自律神経症状(発汗、動悸、手の震えなど)が高齢者では現れにくく、高齢者は低血糖となっても無自覚となりやすい特徴があります。高齢者の低血糖は、転倒や骨折、うつ状態の誘因になるともに、認知症発症の危険因子でもあります。QOLの低下にもつながるため、注意を要します。 経口摂取が可能な場合は、ブドウ糖10gまたはブドウ糖を含む飲料200mLを摂取し、15分後に血糖を再測定します(ブドウ糖以外の糖類では効果発現が遅れます)。 経口摂取が不可能な場合は、ブドウ糖や砂糖を口唇と歯肉の間に塗りつけ、グルカゴンがあれば1mgを注射し、医療機関に搬送となります。応急処置で意識レベルが一時回復しても低血糖の再発や遷延があり、注意を要します。 シックデイ 急性疾患の併発等によって、血糖コントロール悪化、食事摂取量低下があれば、対策が必要です。可能であれば血糖値を頻回に測定しながら、家庭ではできるだけ経口的に、水分・炭水化物・塩分を摂取させます。お粥やスープ、お茶、ジュース、アイスクリームなどが摂取しやすいとされています。 薬剤コンプライアンスとアドヒアランス 独居や老老介護生活の患者の場合、在宅医療の開始となった早期に、残薬整理の介入を実施することは、過量服用や薬剤不適切使用の防止に有用な手段です。 また、訪問薬剤管理指導により、薬剤師が定期的に生活状況を確認することで、食前食後薬の用法統一、腎機能・血糖値・食事量を考慮した減薬、認知機能や運動機能を考慮した注射剤デバイス変更など、処方への提案が可能です。薬剤師による電話フォローも、コンプライアンス、アドヒアランス両方の向上に寄与すると考えられます。 自己血糖測定や自己注射の援助 自己管理が必要にもかかわらず、それが困難な患者では、 ■家族や訪問看護による他者管理■訪問薬剤管理指導、訪問介護等による見守りのもとでの自己管理を検討します。 独居や経済的問題等でコメディカルの介入が困難な場合には、スマートフォンのビデオ通話機能を利用し、遠隔で看護師見守りで実施するケースもあります。 制度面の知識 ■身体障害者手帳申請:肢体不自由、視覚障害、じん臓機能障害(eGFR20未満)等■自治体ごとの医療福祉費支給制度の利用で、自己負担の費用を軽減できる場合があります。しかし、独居高齢患者等では、申請準備が困難なケースも少なくありません。ケアマネジャーが中心となり、本人の意思に寄り添いながら、主治医や多職種、福祉や行政等の間に立ち、申請援助をすることも重要です。 特定行為研修修了看護師の活躍 秋田県由利本荘市は、全国的にも高齢化率が高く、訪問診療医が少ない地域です。そのような地域において、在宅にかかわる看護師の特定行為研修を進める動きが活発に行なわれています。これは、秋田大学大学院医学系研究科 安藤秀明教授のご協力のもと、訪問診療医が実習を担当し、働きながら地域で特定行為研修を受講できる体制が構築されました。2022年には第1期生として4法人6名の看護師が研修を受けました。 特定行為研修修了者の活動により、医師数が限られた地域であっても、望まれるケアの充足につながります。たとえば、特定の範囲内であれば基礎インスリン量の変更も、医師の指示を待たずに看護師が変更することができます。専門的な医学教育を受けた看護師が訪問することで、地域で、病院に近い質の高い糖尿病療養を実施できる一助になると期待されています。 訪問看護師による遠隔指導 由利本荘市のごてんまり訪問看護ステーションでは、訪問看護師による遠隔指導を行なっています。在宅患者にタブレットを貸与し、SMBG指導や超速効型スケール指導、インスリン注射指導を遠隔で実施しています。高齢になるほどインスリン単位数間違いの危険性が高くなりますが、つど遠隔で指導を実施することで、指導効果は上がり、単位数間違いによる低血糖リスクを予防することができます。 遠隔指導のよさは、通常は入院しなければ困難な強化インスリン療法の指導でも、在宅で実施できることです。指導のために入院となると、筋力や認知力の低下が避けられませんが、それらを防ぐこともできます。何よりも入院費の削減に大きな効果を発揮します。 2023年12月現在は、D to P(Doctor to Patient)による遠隔診療に対する診療報酬算定は要件があるものの認められていますが、N to P(Nurse to Patient)またはD to P with Nについては診療報酬上の評価がありません。しかし、きたるべき超超高齢社会と限界集落の増加に備えてN to Pを実施していかなければならない地域として、このような取り組みを行なっています。 執筆:谷合 久憲  たにあい糖尿病・在宅クリニック院長藤沢 武秀ごてんまり訪問看護ステーション看護師血糖コントロールに係る薬剤投与関連特定行為研修修了者八鍬 紘治日本調剤東北支店在宅医療部薬剤師糖尿病薬物療法履修薬剤師秋田県糖尿病療養指導士長堀 孝子SOMPOケア由利本荘介護支援専門員木村 有紀ごてんまり訪問看護ステーション作業療法士齋藤 瑠衣子たにあい糖尿病・在宅クリニック管理栄養士 編集:株式会社メディカ出版 【参考文献】1)日本老年医学会ほか編著.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,264p.2)日本老年医学会ほか編著.「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標・治療方針」.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,34.3)週刊日本医事新報  NO.5198 2023

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