コミュニケーションに関する記事

【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-
【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-
特集 会員限定
2023年2月7日
2023年2月7日

【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-

2022年10月28日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「ターミナル期における家族看護」を開催しました。講師を務めてくれたのは、家族支援看護に造詣が深い堀 美帆さんです。 今回はそのセミナーの様子を、前後編にわけてご紹介。前編では、訪問看護の現場で家族看護を実践する堀さんに、ターミナル期の家族看護にあたる上で看護師にもとめられる意識や、ご家族に対してできることを教えてもらいました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】堀 美帆さんウィル訪問看護ステーション葛西サテライト元 家族支援専門看護師(2017年~2022年)新卒で小児専門病院に入職。そこで病気の子どもを育てる家族の思いを知り、自分にできることを模索すべく大学院に進学し、家族看護について学ぶ。その後、重症心身障害児者病院での勤務を経て、地域で生活する子どもと家族の生活を支えたいとの思いから訪問看護の世界へ。現在は幅広い年代の利用者さん、およびその家族に寄り添い、「家族の力を引き出すケア」を提供している。 目次 1. ターミナル期の家族看護の難しさ 2. ターミナル期の家族看護のポイント3つ  (1)ご家族の病気体験を理解する  (2)死への準備教育  (3)ご家族一人ひとりに療養上の役割を見出す --> ターミナル期の家族看護の難しさ 私はこれまで、ターミナル期における家族看護の難しさを実感する場面にたくさん直面してきました。 とくに最近多く見られるのは、利用者さんが入院するもコロナ禍で長らく面会できず、ご家族が入院中の状況をきちんと把握できていないケース。退院後、想像以上に利用者さんが衰弱しており、「こんなにケアが大変だと思わなかった」と私たちに話すご家族は多くいらっしゃいます。 自宅での看取りに向けて訪問看護が介入する際は、予後が数週間〜半年程度というケースも多く、わずかな時間でご家族との関係を構築しなければならないことも多いです。また、利用者さんとご家族、その他関係者の希望の折り合いがつかない意思決定場面も多々あるでしょう。 利用者さんの病状がご家族の心理に影響を与えることも、難しさのひとつです。利用者さんが体調不良でイライラすれば、ご家族も気持ちに余裕がなくなってしまいます。 ターミナル期の家族看護のポイント3つ では、ターミナル期の家族看護において、具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。ひとつは、ご家族の病気体験を理解すること。次に、死への準備教育をすること。そして3つめは、ご家族の一人ひとりに療養上の役割を見出すことです。 ご家族の病気体験を理解する 利用者さんの病気が発症し、診断され、現在に至るまでに、ご家族はどんな体験をしてきたのかを詳しくヒアリングします。話を聞く中で、「がんになってから家事ができなかったけれど、家族が手伝ってくれて助かった」という言葉があれば、家庭の中で柔軟に役割を交代できていることがわかりますよね。 ほかにも、ご家族の病気や服薬への理解と捉え方、現在の心情、信念や価値観、これまでの生き方やライフワーク、今後の治療や看護への希望……病気体験からは、さまざまな情報を得られます。 なお、病気体験を理解する上で私が最も大事にしているのは、やはり話を丁寧に聞くことです。時間はかかりますが、その行為自体がご家族との関係づくりの第一歩にもなります。 死への準備教育 たとえ予後数週間であっても、利用者さんもご家族も、退院時に「亡くなるために家に帰る」とは思っていません。もちろん、自宅で最期を迎えたいという考えはありますが、ご本人は家でやりたいこともあるでしょうし、ご家族もできるだけ長く一緒に過ごしたいと思っています。そんな気持ちを汲み、実現に向けたお手伝いをするという意識をもって関わることも、死への準備教育のひとつです。 病院で自宅看取りの方針が決定すると、ご家族は片道切符を渡されたような絶望感を抱くもの。そんなときはぜひ、緩和ケアの目的を伝え、「マイナスなことばかりではないですよ」と寄り添ってください。 あとは基本的なことですが、先々起こる症状やその対処方法などを、看取りのパンフレットを用いながらご家族に説明するのもよいでしょう。このように死への準備教育を行う中で、ご家族が少しずつ「看取る覚悟」をもてるようにすることが重要です。 難しいことではありますが、覚悟がないと、苦痛をとる薬剤もうまく使えないことが多いんです。副作用が出た際、「この薬剤はだめなんじゃないか」とご家族が自己判断して適切に薬剤を使用しなくなってしまうケースもあります。 ご家族一人ひとりに療養上の役割を見出す ご家族一人ひとりの心身の状態や担っている役割(家事役割や経済的に支える役割など)との兼ね合いを考えながら、できるだけ介護負担が集中することのないように、療養上の役割を見出します。このとき、大きな役割を担えないがゆえに不全感を抱く方が出ないように注意する必要があるでしょう。些細なことでも肯定的にフィードバックするよう心がけることが大切です。 それから、役割を言葉で明確に伝えることもおすすめです。ただ見守るのみの役割であっても、「そばで見ていてあげるだけでいいですよ」と声をかけ、承認するよう意識してみてください。また、治療システムの中でご家族がどのような役割を果たせるか、ご自身がもっている力を考慮しながら模索してもらうこともあります。 何をしていいかわからず、結果的に何もできずにいるご家族は多いもの。訪問看護師として寄り添い、一緒に役割を見つけていただければと思います。 次回は「ご家族の力を引き出すためのQ&A」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

休職の目安や復職支援のポイントは? 訪問看護管理者が行うメンタルヘルスケア
休職の目安や復職支援のポイントは? 訪問看護管理者が行うメンタルヘルスケア
特集
2023年2月7日
2023年2月7日

休職の目安や復職支援のポイントは? 訪問看護管理者が行うメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、管理者によるラインケア・スタッフ管理について考えていきましょう。 管理者が忙しいとスタッフは相談しづらい  「少しお話があります」。退職や勤務削減のお願いのセリフは管理者が聞きたくないセリフの上位です。なぜもう少し早く相談してくれなかったのかと思う人もいるかもしれません。とはいえ、相談できる体制にしていても相談をしにくい環境を作っている場合があります。 ストレスチェックで高ストレス者になった人の話を聞くと、自分の残業時間が多いことより、上司の残業時間が多いことを悩みとして挙げている方が多くいらっしゃいました。なぜ、自分ではなく上司がたくさん残業をしていることがストレスなのか? 理由は「相談ができない」「常に忙しそうなので相談すると申し訳ない」というものでした。「なんでも相談してね」と言うだけではなく、言える雰囲気を作る、イライラしない、余裕を見せるといった態度を示すことで、相談しやすい環境を作ることが大切です。 スタッフの問題に気づいたら注意ではなく心配を スタッフの不調に事前に気づくことはできないものでしょうか。先に述べたように相談する環境が整っていないと、スタッフは不調があっても相談することを避けてしまい、「大丈夫です」と言う場合も出てきてしまいます。スタッフの抑うつが気になった場合は、以下の点に注意して観察してみてください。・仕事の能率が落ちたり、ミスが増えたりしていないか・会話や口数が減っていないか・食事量がいつもより少なくなっていないか・日中ウトウトしたりぼーっとしたりと睡眠不足がありそうかこうした表面に現れやすいところをチェックするとよいでしょう。 そして、問題に気が付いたときは決して注意から入らず、心配する態度で接してください。声をかけるなら「しっかりしてちょうだい」ではなくて「大丈夫?」です。あなたのことを心配しているという気持ちを伝えると同時に、起こっている問題を一緒に解決していきましょうという気持ちを伝えるのです。 がんばっているよりもがんばっていないほうがよい 職場環境はある程度余力があるような状況にしておくことが大事です。管理者としては心配になるかもしれませんが、一見ダラダラ働いているような時間がそれなりにある状況です。むしろ、いつもギリギリの状況で全員忙しそうに働いている職場のほうが危機的です。何かあったら総崩れになるリスクを抱えています。リラックスしている状況でゆったり働けているのであれば安心してください。 僕がよく患者さんに話すことで、「がんばっている」と言う人と「がんばっていない」と言う人ではどちらのほうがよいか、という話題があります。メンタル面に関してはがんばっていない人のほうが、明らかに余裕があります。「毎日がんばっています。一生懸命がんばって仕事に行っています」と「特にがんばらなくても、普通に仕事に行くことができています。何も問題ないです」というセリフを比べてもらえればわかりやすいでしょう。 休職中のルールを伝えて安心して休めるようにする 休職者が出てしまったときの対応もお伝えしておきます。スタッフが休職したばかりのときは、こちらも気が動転してしまい、いろいろと聞きたいことも出てくると思います。ですが、まずはスタッフの気持ちが落ち着くまでは職場と距離をおいてあげることが重要です。 ありがちなよくないケースとして、毎週報告を求めてしまい、休職者に苦痛を与える方がいます。とはいえ、会社も雇用している限りは安全配慮義務もあるので休職中月1回程度はメールで様子を窺うことは合理的といえるでしょう。 休職を開始するときに、本人の希望を聞いて面談や定期連絡のルールを設定することも望ましいです。例えば、連絡の窓口は管理者がよいのか、親会社があるなら親会社の人事担当がよいのかなどを聞いておきます。会社ごとに何ヵ月間か休職可能期間が設定されていますので、そのような人事上のルールを早めに伝えるのもよいでしょう。 「元気そうね」はNGワード! 「無理せず、ゆっくり」が安心につながる 少しよくなってきたら職場面談を行うところもあると思います。そのときのポイントとしては「元気そうね」とは言わないことです。まだ休職中で不調な状態ですので、人によっては「元気そうなのに休んでいる」と嫌味を言われたと受け止める人もいます。こちらの感想を伝えることは一切不要です。 「早く戻ってきてほしい」もNGで、あなたは必要な人だと伝えたいのかもしれませんが本人を焦らせてしまう言葉です。どうしても気遣いをしているという声かけをしたいなら「無理せず」「焦らずゆっくり休んで」くらいが妥当でしょう。あとは「何か聞きたいことはないですか」とたずねて、本人が気になることや話したいことを中心に会話を進めるとよいでしょう。 日常生活が可能な状態と就業可能な状態は異なる 「休職中の面談時になぜか元気そうに見える」というお話もよく聞きます。それは、その面談が仕事の負荷がかかっていない通常の会話だからです。他の例を挙げると、映画館に行けるからといって仕事ができるわけではありません。復職リハビリテーションでは日常生活を問題なく送れるようになったら、その次の段階として負荷のかかる作業ができるかを指導していきます。日常会話や映画に行くことは日常生活の負荷なのです。 また、「いつになったら治るのか」と聞く人もいますが、本人が一番苦しんでおり、答えられない内容です。がんの人にいつになったら腫瘍が消えるのかと聞くようなものと思っておいてもらえたらと思います。 精神科を受診される際は産業医学に詳しい医師、せめて産業医資格を持つ医師が望ましいです。精神医学分野では就労者支援は希望者しか学ばないので、就労者支援をできる医師とできない医師がいます。できない医師でも患者さんに求められたら休職の診断書を書くことはできますが、その後の療養中の指導や復職の適切な判断を行うことができません。場合によっては、復職までのリハビリテーションが十分でない状況で復帰の診断書が出てしまうこともあります。 最後に、事業所レベルで本当に復職できる状態かどうかを判断できる基準例をご紹介します。それは、復職プログラムの策定にも有用な「生活リズムの確認」という方法です。具体的には、月~金に自宅から外出し、図書館やカフェなどで9~17時まで本を読んで過ごすことができるかどうかを見ます。これは普通の日勤の生活ができるかどうかを試しています。逆に、これができる程度に心身の耐久力が戻っていないと就業可能な状態とは言えません。職場で復職プログラムを考えたい場合、この生活リズムが取れるかどうかを確認してみてください。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社)がある。 記事編集:株式会社照林社

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?
CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?
特集
2023年2月7日
2023年2月7日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第8回は前回に引き続き、連携がしにくいと評判のドクターについてのケースです。 はじめに 前回(「その1:なぜ連携しにくいのか?」参照)は、連携しにくいと評判のK医師の特徴や、K医師に関係する周囲の人々の状況について、A・B・C・Dさんそれぞれの考えを出しあいました。続く今回は、なぜK医師との連携がうまくいかないかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか  「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?  設問あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 なぜ連携がうまくいかないのか 講師ここまで(「その1:なぜ連携しにくいのか?」参照)のみなさんの意見から、K医師との連携がうまくいかない理由として、①K医師の特徴と②多職種連携の際に生じる問題、の二つが出てきました。では、この二つを連携がうまくいかないことの原因として考えたとき、みなさんはどんな意見を持ちますか? Aさん注2性格って、人から言われて変わるものではないですよね。在宅医療の経験を増やすといっても、これには時間もかかります。組織や職種も違いますし、私たち訪問看護管理者が働きかけられることでもありません。 Bさん他の組織の、違う職種に関することですし、私たちが無闇にどうこう言うことで、今後その医療法人との連携で角が立つのもよくないと思います。とはいえ、利用者のことや今後の連携を考えると、何かはしないといけませんよね。 講師他人の性格を変えようとするのは難しいことですね。私たちに何ができるかを考えると、多職種連携の際に生じる問題の解決に目を向けるほうが建設的ですね。 Cさんケースに書かれているのは「K医師が看護師の提案に耳を傾けてくれない」という看護師側の訴えだけで、K医師の考えはわかりません。K医師の考えや、K医師の所属する診療所としての考えを聞いてみてもよいかもしれません。 Dさんもしかしたら、看護師からの提案がK医師にとっては自分への批判ととらえられてしまっているのかもしれませんよね。ふだんから、「看護師がどのような情報を持っていて何を考えているのか」を伝えていくなどのコミュニケーションも必要でしょうね。 「なぜ連携がうまくいかないのか」の小括 議論が進むと、K医師自身(性格や働きかた など)を変えることの難しさが改めて浮き彫りになりました。そして話題は「他職種連携の際に生じる問題」の難しさに移りました。この問題の難しさの原因は、突き詰めると二つです。 目的の不一致K医師(利用者の治療を目指す)と訪問看護(利用者の在宅生活の維持向上を目指す)の目的が一致しない。K医師の行動は、違う目的を持った訪問看護の側からは理解しにくいかもしれない。情報の非対称性医師が病院や診療所内でどのように動いているのか、利用者の治療についてどのように考えているかが、訪問看護側からは見えにくい。 逆に、医師からは訪問看護が何を考えてどのように動いているか、訪問看護が把握している利用者の普段の生活状況や悩みなどの情報が見えていない可能性もある。 この二つを解消するために動くことが管理者には必要です。そして次回は、「管理者として連携しにくいと評判の医師に、どのように働き掛けるか」を考えていきます。 >>次回「その3:どのように働きかけることが効果的なのか?」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇入山章栄.『世界標準の経営理論』東京,ダイヤモンド社,2019,114-132.

マネジメントに必要な心構えとは 訪問看護管理者のためのメンタルヘルスケア
マネジメントに必要な心構えとは 訪問看護管理者のためのメンタルヘルスケア
特集
2023年1月24日
2023年1月24日

マネジメントに必要な心構えとは 訪問看護管理者のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、管理者としての心構えをご紹介しつつ、ストレスとの向き合い方を考えていきます。 訪問看護ステーションで働く看護師は20~60代まで幅広い年齢層の方がいますが、特に多い世代は40~50代のようです。管理者の年齢層も40~50代が多く、非常勤で働く訪問看護師も同年代が多いようです1)。この年代に限っていうと、管理者か非常勤かの二極化と言ってもよいかもしれません。キャリアとしては訪問看護10年目前後から管理者になる人が出てきます。 スタッフはサラッと辞めてしまうと理解しておく 管理者はマネジメントが業務として含まれてくるので、看護技術とは別のスキルと心構えが必要になってきます。まず、マネジメントにおいて理解しておくとよいのは「スタッフは辞める」ということです。極端な表現かもしれませんが、ビックリするほどサラッと辞めます。 スタッフのマネジメントも管理者の重要な業務ですので、突然の退職は、当然想定しておく必要があります。 よくあるハラスメントと捉えられかねない事例ですが「長く続けるのが当然、途中でやめるのは問題」などと自身の人生観やキャリアを他人に押し付けることはよくありません。相手にも苦痛になりますし、自分と重ね合わせようとする考え方自体が柔軟な対応の邪魔になり、自分自身を悩ませ苦しめることになります。 スタッフを信頼しても過剰な期待はしない マンパワーは流動的で、いつ誰が急に休んだり辞めたりするかはわかりません。そのため経営する側としてはマンパワー的に少なくとも0.5人分程度の余剰人員で回すくらいの人員管理は必要でしょう。もしあなたが経営者でない管理者であって、経営者が余裕を持った人員配置を理解してくれない職場で働いているなら、その職場自体は今後改善の余地が非常に大きいと思われます。  管理者の苦労は管理者にならないとわかりません。管理者をめざそうとしている人であれば少しはわかってくれるかもしれませんが、そうでない人にとってはわかる必要のない世界なのです。管理者業務もステーション業務の1つなのだから理解しようとするのは当然ではないかとの意見もあるでしょう。でもそれは、あなたが管理者になるキャリアを歩んできた人だからそう思うのであって、他の人も同じ考えであるとは限りません。 主人公が海賊王をめざす某人気漫画を例示してよく言われるように、今の世代は、導くリーダーよりも一緒に戦う仲間を欲しているという感覚を知っておいてもよいでしょう。管理者のメンタルヘルスがテーマなのに、管理者にとって厳しい話をしているようですが、「スタッフを信頼するけれど非現実的な期待をしない」ことが上手に管理者を務めるための心構えです。思い通りにならないことが多いと非常にストレスを感じます。精神医学で言う認知(物事の受け止め方)を変える、つまりこの場合は思い通りにならないと理解することがストレス軽減につながります。 板挟みの孤独と強すぎる正義感 日常診療をしていると、訪問看護ステーションの管理者が受診されることはしばしばあります。管理者が抱える悩みは大体2つのパターンに分けられます。 最も多いのは、裁量権の小さい管理者で経営者と他のスタッフとの間に挟まれているパターンです。結果、自身が業務を背負ってしまい、過重労働に陥ってしまいます。管理者は自分自身がトップ、もしくはトップに近い立場であるため、相談先がほとんどありません。まじめで考え込んでしまう人ほど、一人で悩みを抱えこみがちになります。 割合は減りますが、もう1つは自分の正義感に振り回されるパターンです。「スタッフがよく辞めていく」「スタッフから怖いと言われる」「正しいことを伝えているのに相手がなぜか泣き出す」、このような経験がある場合、注意が必要です。「あなたのためを思っている」「患者さんのためを思っている」といった言葉とともに強い怒り、もしくは強い悲しみが湧き出てくるタイプの人が多いです。 このパターンの方は周囲に疲弊して受診をされるのですが、実は周囲もこの人に疲弊しているという負の連鎖が起こっています。正論を突き通そうとするあまり、バランスのよい最適解に妥協することができず、周囲とぶつかることが多いです。そして、自分の正論を押し付けて揉めに揉めた結果、スタッフへのパワーハラスメントになることがあります。この場合、本人も周囲が理解してくれず自分がしんどくなっていき、被害者のような感覚になります。さらに収拾がつかず、スタッフもあきれ果てて次々に辞職していくパターンを取ります。 仲間を作ってストレス発散 このように厳しい立場にある管理者ですが、行き詰まらないためにも取り組んでおきたいことがあります。それは仲間を作ることです。トップになれば自分と同列で話せる人は職場にはほとんどいないかもしれません。その場合、職場以外のコミュニティで仲間を作り、相談してみるのはいかがでしょう。業務上の役割や立場を意識せずに、悩みを話したりもできますし、人の話を聞くことで自分と他の人の違いを知ることもできます。暴走しているようであれば気づきを得ることも可能です。よいストレス発散にもなります。 通院してくる方に聞くとストレスの発散が苦手な人もいます。問題解決に目を向けすぎて、問題が消えていない状況で小休止を取るのはよくないことだと考えてしまい、上手に発散ができないのです。旧知の知人と疎遠になっているなら、習い事を始めて新しい仲間を作ってもいいですし、学会のような懇親会に参加するのもよいでしょう。医療分野に限らず、経営者勉強会の集まりもありますし、今はSNSのようにインターネットを利用していろいろな人とつながることもできます。職場の行き来だけになっている人は、人と会うことを考えてみてはいかがでしょうか。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本看護協.「2014 年 訪問看護実態調査 報告書」,https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/report/2015/homonjittai.pdf2022/10/25閲覧

コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する
コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する
インタビュー
2023年1月17日
2023年1月17日

コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第13回は、演劇というツールを使いコミュニケーション教育に取り組んでいる劇作家・演出家の平田オリザさんと、医療や教育に必要なものについて話し合った。(内容は2018年7月当時のものです。) ゲスト:平田オリザ劇作家・演出家こまばアゴラ劇場芸術総監督・城崎国際アートセンター芸術監督。国際基督教大学教養学部卒業。1995年「東京ノート」で第39回岸田國士戯曲賞受賞。大阪大学COデザインセンター特任教授、東京藝術大学特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐、京都文教大学客員教授、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事長、埼玉県富士見市民文化会館キラリ☆ふじみマネージャー、日本演劇学会理事などを歴任。 医師の診療は患者との対話である 川越●平田さんは、劇作家、演出家としてだけでなく、教育の現場や自治体の依頼で演劇を用いたコミュニケーションデザインを教えていると伺いました。コミュニケーションをデザインするとは、どのようなことなんでしょう。 平田●たとえば「患者が医者に質問しにくいのは、医者が高圧的なのではなく、病院に来るまでに交通機関を乗り継いでへとへとになっているからかもしれない。それなら交通行政を変える必要があり、医療行政だけでは解決しない」というのがコミュニケーションデザインの考えかたです。 川越●がん治療中の人が、電車やバスを乗り継いで1時間以上かけて病院に来ても、外来で医師と話すのはせいぜい15分。医師がその時間で何もかも説明するのは難しく、ましてや患者さんが的確な質問をするのはより難しいでしょうね。 平田●あるセンテンスのなかで、本当に伝えたいこと以外の言葉がどれくらい入っているかを、冗長率といいます。家族との世間話がいちばん冗長率が高いように思えますが、ふだんの会話では、実は冗長率はそんなに高くならないんです。 川越●言いたいことだけを言っているわけですね。 平田●そうです。いちばん冗長率が低いのは、長年連れ添った夫婦間の「飯、風呂、新聞」という会話です(笑)。逆に冗長率が高くなるのは「会話」ではなく「対話」なんです。異なる価値観のすり合わせや新しいことを伝える瞬間なので、どうしても時間がかかってしまう。 川越●医者と患者の関係がまさにそうですね。医師の診察が「対話」だという認識はなかったです。どうしても問診をして、説明するという感じになっています。 平田●いわゆる家庭医、ファミリークリニックで実績のある方たちは、そこがうまい。 都会でも地方でも子どもの地域社会がない 川越●これだけコミュニケーションが大事といわれるのは、現代社会は人と人とのつながりが希薄になってきているからでしょうか。 平田●コミュニケーション能力とは本来、子どもがままごとやごっこ遊びで自然に身につけるものなんですが、少子化や核家族化、地域社会の崩壊などで、そういうことを経験していない子が増えています。特に小学校から私立だと、まず地域社会がない。 地方でも少子化で、隣の友だちの家まで1時間とか、学校の統廃合が進んでスクールバス通学になると、寄り道ができない。子どもにとって通学路ってとても大事なコミュニケーションの場所なんですが、社会が合理的になっていくと、どんどんコミュニケーションの機会が失われます。 川越●確かに電車通学だと、放課後一緒に遊べないですね。 平田●それに習い事などで忙しくて、同じ階層の子としか付き合わなくなってしまう。都心部だと7~8割が中学受験をするので、地域社会が完全に崩壊しているわけです。 川越●都心に住んでいても、遠くの大病院にわざわざ1時間かけて行くのと似ていますね。 平田●私は都内の国立大学でも教えているんですが、学生の8割が男子、7割が関東出身、6割が中高一貫校の出身で、ディスカッション型の授業をやっても、みな同じ意見になってしまう。「貧乏って何?」という感じで、実感としてわからないんですね。 川越●在宅医療はご自宅に行くので、さまざまな家庭があることを自然に経験できて、医療は画一的にはできないことを学ぶんですが、病院しか知らないと、ベッドの上の患者さんは生物としての対象になってしまうのと同じですね。 勉強はできても異性とちゃんと話せない 平田●ある進学校で演劇教育を取り入れているんですが、男子校なので、うちの劇団に「女性との付き合いに慣れさせたいので、そういう劇をやってほしい」というオーダーがくるんです。 それで行ったら、うちの女優が初対面の高校生にいきなり「バストいくつですか」と聞かれたことがあって、保護者会などでこの話をすると、さすがにお母さんたちも焦る。だってそういう子たちが弁護士や医者になるんですから(笑)。勉強はできても、異性とちゃんと話せないんですね。 川越●男性の生涯未婚率が23パーセント(注:2018年時点で最新のデータであった2015年数値)という現実もあり、均質化やコミュニケーション能力が乏しいことが少子化の原因の一つかもしれません。男女交際の話は、もう国家施策としてやったほうがいいかもしれませんね(笑)。でないと国が滅びます。 文化による社会包摂の機能が見直される 川越●これから都市部では孤独死などが増えていくと思いますが、あれはインフォーマルな見守り機能が崩壊しているからだと思うんです。 平田●あとは行政もなかなか手が出せないようなごみ屋敷の問題。あれも完全に社会と隔絶してしまった結果でしょうね。 川越●毎日、何らかのかたちで自然に社会とつながっていれば、そういうことは抑止されるかもしれないですね。 平田●最近、文化による社会包摂機能というものが見直されています。何でもいいから、とにかく社会とつながっていてもらいたいと。 川越●コミュニティとしてのつながりが増えないかぎり、包摂機能は尻すぼみになって、ごみ屋敷や孤独死として顕在化するのでしょうね。 今まで、学校は知識を与える場所、医療機関は医療を施す場所のように思われていましたが、そんな単純な話ではなくなっていて、これからは社会のあらゆるところにコミュニケーション教育をビルトインしていくことが求められているんですね。 >>次回「命まで責任を負う団地自治会のまちづくり」はこちら あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2018年7月発行より要約転載。本文中の数値は掲載当時のものです。

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか _その1:なぜ連携しにくいのか?
CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか _その1:なぜ連携しにくいのか?
特集
2023年1月17日
2023年1月17日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その1:なぜ連携しにくいのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第7回は、連携がしにくいと評判のドクターについて、なぜ連携がしづらいのかについて多角的に考えます。 はじめに 「ドクターをどう動かせばいいのか」という悩みは、看護管理者の方からよく聞くテーマです。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか   「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?   設問 あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 連携しにくいと評判の医師について 講師このケースで議論したいことは、「管理者として連携しにくいドクターをどのように動かすか」です。その前にまず、連携しにくいと評判のK医師の特徴や、そのK医師に関係する周囲の人々の状況について、皆さんはどのように考えますか? Aさん注2K医師はふだんは大学病院で働いていますし、在宅医療の経験があまりないので、訪問看護の状況をよくわかっていないと思います。こういうことってよくあるのではないでしょうか。 Bさんすごく対応のよい医師とそうでない医師の差が大きいですよね。もともとの性格などもあるかもしれませんが、医師の経験や価値観が、在宅医療へのかかわりに影響していそうだと個人的には思っています。ここは訪問看護としてはどうしようもないですが。 Cさん医師はどうしても治療に目が行きがちなのかもしれません。特に、病院勤務で、在宅の経験があまりないとその傾向が強い気がします。でも訪問看護の目的は、在宅生活の維持・向上です。私の経験上、ここが一致しないためになかなか話が進まないことがよくありました。 DさんK医師は、利用者の状況を、診察時点の「点」でしかみていないのではないかと思います。利用者やご家族のなかには、「医師に生活全体の状況や困っていることを率直に伝えられない」という人もいらっしゃいます。 「連携しにくいと評判の医師について」の小括 最初の議論は、「連携しにくいと評判のK医師の特徴やそのK医師に関係する周囲の人々の状況について」、それぞれの考えを出しあいました。 これらの発言は、①個人の特徴 ②多職種連携の際に生じる問題、の大きく二つに分類できます。 ①K医師の特徴・本業は病院の医師であり、かつ在宅医療の経験があまりない。・在宅医療への理解が不足しており、自己の価値観を優先している。②多職種連携の際に生じる問題・K医師は治療を、訪問看護は在宅生活の維持・向上を目指しており、目標が一致していない。・医師の立場では、看護師に比べて、利用者の細かな生活状況がわかりにくい。 発言をこのように分類してみると、管理者として働き掛けることができる部分は、②多職種連携の際に生じる問題であることが、参加者のみなさんには見えてきたようです。 次回は、「なぜ連携がうまくいかないのか」について、この二つの面から考えていきます。 >>次回「その2:なぜ連携がうまくいかないのか?」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

【セミナーレポート】「だから」が分かると腑に落ちる精神看護
【セミナーレポート】「だから」が分かると腑に落ちる精神看護
特集 会員限定
2023年1月10日
2023年1月10日

【セミナーレポート】「だから」が分かると腑に落ちる精神看護

2022年9月30日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「『だから』が分かると腑に落ちる精神看護」。講師として登壇してくださったのは、精神看護専門看護師であり、現在は訪問看護事業を展開する株式会社N・フィールドで広報部長を務める中村創さんです。病院での勤務や「べてるの家」での生活経験をふまえ、訪問看護現場での精神疾患を抱える患者さんとの向き合い方、看護師にできることなどを教えてもらいました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】中村 創さん 株式会社N・フィールド 事業管理本部 広報部 部長/精神看護専門看護師/公認心理師精神看護専門看護師として、急性期病棟や閉鎖病棟を含む複数の病院に勤務。精神疾患を抱えた方々の地域活動拠点である「べてるの家」の一室で暮らし、当事者研究のイベント運営にも携わる中で、地域の受け入れ体制を整備する必要があると実感する。訪問看護にその可能性を感じ、2019年より株式会社N・フィールドで活動。 目次 ▶ 精神看護では患者さんとの関係構築が重要 ▶ 感情をぶつけられたらその裏側を想像しながら対応を ▶ 統合失調症の看護では「安心」を一緒につくる ▶ 自殺を考える人との対話では、自殺の話題から逃げない --> ▶ 精神看護では患者さんとの関係構築が重要 精神疾患の治療において、優れた臨床成績を出している療法を学び、実践することはもちろん大事です。しかし、患者さんと治療者との間に関係が構築されていなければ、どんな療法も効果が発揮されないと私は考えています。 また、私が病院、訪問の別なく看護の現場で何よりも重要だと実感しているのは、「患者さんの語り」に耳を傾けること、「この人になら話してみよう」と思ってもらえる関係を構築することです。安全が担保されている関係が構築されなければ、患者さんが語り始めることはありません。 ▶ 感情をぶつけられたらその裏側を想像しながら対応を 臨床で患者さんから怒りをぶつけられた経験がある方は少なくないと思います。そんなときは、「怒りの裏側」に思いを巡らせると、同じ場面が違って見えます。 人は、他者との関わりにおいて自己が傷つくのを防ぐため、つまり自己防衛のために怒りを手段として使うことがあります。もしくは、相手を支配し、自分が主導権を握りたいときにも怒りを用います。 このように、怒りの奥には何らかの思いが潜んでいます。そして、怒っている瞬間は心に余裕がなく、根底にある「自分が傷つけられそうになっている」「相手を思いどおりにしたい」「正しいのは私」といった思いを修正することはできません。 臨床で患者さんの強い怒りに触れたとき、そういった怒りの感情を無理に鎮めようとするのではなく、鎮まるのを待つほうがいいでしょう。精神看護においては、こうした「見えない部分」を想像しながら対応を考えていくことが重要になります。 ▶ 統合失調症の看護では「安心」を一緒につくる 統合失調症は、英語で「Schizophrenia」といいます。「schizo」は分裂、「phrenia」は連想という意味です。頭の中で情報をまとめる、統合することが難しくなる状態です。急性期では、自他の境界が分からなくなり、強い恐怖を感じています。怖くてしかたがないから眠れなくなり、さらに神経が過敏になって、症状も強くなります。 そんなときに私たち看護師ができるのは、「あなたは安全だから大丈夫」と説得することではなく、患者さんが安心できる環境を一緒につくること、相手の内側で何が起こっているかを想像し寄り添うことです。「説得は無理に抑えつけようとする行為である」と心に留める必要があります。 また、看護師自身が「この状態はいずれおさまる」と信じることも重要です。念じるだけでも構いません。看護師の回復への信頼は、患者さんにも伝わります。その信頼が伝わることで少しずつ気持ちが落ち着き、話ができるようになっていくのです。 ▶ 自殺を考える人との対話では、自殺の話題から逃げない 自殺の行動化で搬送される人の中には、周囲からみれば些細に思える動機を淡々と話される方もいます。例えば、「水たまりを踏んで靴下が濡れたので死のうと思いました」といった具合です。耳を疑ってしまいますが、これは、その人が行動を起こす瞬間に至るまでに、多くの荷物を背負ってきたからです。靴下が濡れた瞬間、積荷の重さが限界を超えてしまったということです。 そんな精神状態にある方は、視野が狭くなり、自殺という選択肢しか見えなくなります。「自殺が唯一の解決策」と考えるようになり、周囲にいるかもしれない家族や仲間、支援者が見えなくなっているのです。 そうした方と対話する際、私たちは誠実な態度で話を聴かなければなりません。自殺の話題から逃げず、はっきりと尋ねましょう。例えば、私は「今死にたいという気持ちはどのくらいでしょうか?」「『死なない』と私に一言いってもらえませんか?」などと伝えます。真正面から受け止める人が「そこにいる」ことが、自殺を思いとどまるひとつのファクターになります。 また私たち看護師は、一人で抱え込まないことも大切です。チームのメンバーに状況を共有し、個人ではなく、チームで対処するという姿勢で臨みましょう。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

困難事例は精神科の知識で対応 中堅訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
困難事例は精神科の知識で対応 中堅訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
特集
2023年1月10日
2023年1月10日

困難事例は精神科の知識で対応 中堅訪問看護師のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、中堅訪問看護師が出会いがちな困難事例を取り上げ、精神医学で解消できる部分をアドバイスしていきます。 対応困難例に生かす精神医学的アプローチ 今回の対象である中堅訪問看護師は、受け持ちの患者さんに難しいケースが多いため対応に苦慮するあまり、ご自身のメンタルヘルスに影響することも多いようです。そこで訪問看護師の精神的負担を少しでも軽減できるように、対応困難例への精神医学的アプローチの方法を紹介しましょう。 中堅の訪問看護師が直面する関わりの難しいケースの中には、精神医学で言う「パーソナリティ障害」や「発達障害」の方がいらっしゃるように思われます。特にパーソナリティ障害の患者さんの場合、ご本人は「普通のこと」「常識的なこと」と思い込んでいることが多くあります。そんなとき、「できないことはできません」とお断りすると、「裏切られた」と感じられてしまうこともあります。こうした反応は、訪問看護師にとってはとてもストレスフルで疲弊してしまいます。 そこで今回は、接し方が難しい患者さんへの対応に役立つ、精神科の知識をご紹介します。特に看護の現場で困ることの多い、「パーソナリティ障害」と「発達障害」を取り上げ、それぞれの疾患の特徴と対応をお伝えしますので、ぜひ現場でお役立てください。 パーソナリティ障害の患者さんの特徴と対応 まずは、クレーム対応の話でも話題に上がるパーソナリティ障害に比重を置いてお話しします。なお、パーソナリティ障害にはいくつか種類がありますが、ここでは「境界性パーソナリティ障害」を取り上げます。境界性パーソナリティ障害は期待感に関しての問題を持っています。自分の常識を世間の常識だと思い込み、自分の思いを相手がくみ取ってくれると過剰に期待して、断られるといった期待外れに直面すると激怒するのが特徴です。 「付かず離れず」で過剰な期待をさせない 対応方法としては期待をさせないことが大事です。具体的には「すべての要望に応えることはできない」と相手に伝えます。少しストレートで言葉が悪いように聞こえてしまうかもしれませんが、言い換えたフレーズとしては「ここまではできて、これ以上はできない」となります。一定の距離を保つということです。これは「付かず離れず」の関係であり、大きく距離を取ったり見捨てたりすることではありません。 境界性パーソナリティ障害の人は一度行ったサービスの基準を下げると「嫌われた」「見捨てられた」と思う傾向があります。こちらが親切心から一度だけした行為を「次回もまたしてくれるのでは」と思ってしまい、過剰な期待を寄せてしまうのです。この心理は思い当たる人も多いと思いますが、境界性パーソナリティ障害の人では期待外れのときの落ち込み具合や怒り具合が病的に強いのです。 例えば、パートナーからのクリスマスプレゼントで考えてみます。2年前は「3万円のネックレス」で、去年は「3万円の指輪」でした。そして、今年は「5千円のマフラー」でしたとなるとショックを受け、嫌われたのだろうか? 他に好きな人ができたのだろうか? と大きな不安を感じてしまうと思います。大概はそこで我慢するのですが、境界性パーソナリティ障害の場合、我慢ができず、大声を出したり、暴力をふるったりと、過剰な反応や行動に出てしまうのです。 いつもと変わらないケアをいつもと同じように提供する 大事なことは常に一定のサービスを提供し、それ以上の過大な期待を抱かせないことです。サービスという言葉から「いつもよりも喜ばしいことを相手に提供する」というニュアンスを抱きがちかもしれません。しかし、トラブルにならないサービスとは「いつもと変わらないものをいつものように提供すること」なのです。 私の診療は、境界性パーソナリティ障害の人に対してかなり淡々としていると診察を見学した研修医から言われたことがあります。「いつもの先生がいつものように診察をしてくれて、特別なこともせず見捨てることもせず、裏切らない世界が診察室にあるという安心感」が狙いなので、それでいいわけです。境界性パーソナリティ障害の人は、最初は愛想のよい人が多いので、こちらも気分をよくしてしまい特別扱いしてあげたくなるのですが、そこはぐっとがまんして常に同じ内容の看護を提供し続けてください。 チームで対応方法を情報共有する 境界性パーソナリティ障害の人に関しては情報共有も大事です。なぜなら自分だけが特別なことをしないように心がけていても、他の人がはみ出たことをやってしまうと「あの人はやってくれたのにあなたはやってくれないのか」ということになるからです。 他にもトラブルを起こしやすいパーソナリティ障害に「自己愛性パーソナリティ障害」と「反社会性パーソナリティ障害」があります。パーソナリティ障害のタイプの中でもいずれもトラブルを起こしやすいB群パーソナリティ障害に属しています。興味のある人は調べてみてください。 発達障害の患者さんの特徴と対応 主な発達障害に注意欠如・多動症(ADHD ※1)と自閉スペクトラム症(ASD ※2)がありますが、ASDの患者さんへの対応を知っておくとよいでしょう。 パーソナリティ障害もコミュニケーションがうまくいかないといった特徴がありますが、比較的社交的な人もいらっしゃり、コミュニケーションが巧みでこちらを操作してくるケースもあります。それに対し、ASDの人は人間関係やコミュニケーションが苦手でうまく意思疎通が図れません。 伝えたいことは口頭ではなくメモを活用 ASDの人は細かいことにこだわってしまい、全体的に大切なことを見渡すことができません。こだわりのあまり不安が強く、いろいろ訴える面倒な人と思われがちです。話をまとめることも下手なのでダラダラと話してしまい、何がポイントの会話であるかはっきりしません。想像力を働かせるのも苦手で、口で伝えたことが頭に入りにくい傾向があります。そのためメモに残したり、見える形で一つひとつ確認したりすることが重要になります。 障害の特徴を知って対応におけるストレスを減らす パーソナリティ障害や発達障害の特徴を知っておくと、訪問看護師としてストレスを抱えずに対応できるケースもあるでしょう。「普通では考えにくい独特な考え方をすることがある」「そういう不思議なところがある」と認識しておくだけでもこちらのストレスが大きく減ります。患者さんと向き合いつつ、自分の心の負担を少しでも軽くするために精神科のエッセンスを活用していただければ幸いです。 そのほか、知的障害の人も、説明をうまく理解することが難しいなど対応に困ることがあります。ただし、会話内容に裏表がなく揚げ足取りをするようなこともほぼないため、シンプルに短い文章で説明することが大事になってきます。一気に複数の指導をすると混乱しがちなので、「まずこれだけする」と1つのことに絞り、徐々にできるようになれば次の課題を促していくとよいでしょう。発達障害と同様に、ポイントを口頭で伝えず、文章で伝えることも有効です。 ※1 ADHD:attention-deficit hyperactivity disorder ※2 ASD:autism spectrum disorder 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。  記事編集:株式会社照林社

融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
特集
2022年12月20日
2022年12月20日

融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、新人訪問看護師に必要な心構えや注意したいメンタルヘルスの症状をお伝えします。 要望ばかりでは心に負担も 「融通」も忘れずに 訪問看護の新人看護師は、どのくらいの臨床経験があるのでしょう。看護師国家試験を合格してすぐに訪問看護ステーションに就職する人はほとんどおらず、早くても5年程度の臨床経験を経てから訪問看護師になる人が多いのではないでしょうか。10年程度してから訪問看護師になる人も結構多く、訪問看護は年齢を気にせずに新しい世界にワクワクして入職できる分野かもしれません。 新しい世界はどんなことが待ち受けているかわかりません。想像するような仕事かどうかは、入職時にはある程度知っておきたいものです。もしあなたが入職前にこの記事を読んでいるのであれば、どういう仕事があるかは調べたりたずねたりしておきましょう。予想外の仕事が来た場合にメンタルを崩すことが減ります。 ただ、ここで大事なキーワードは「融通」です。ある程度の柔軟さは仕事をする上で大事ですし、人間関係のこじれを少なくすることもできます。働きだしてからの自分のためにも、要望ばかりにならないよう、与えられた仕事に対して臨機応変に処理することも大切です。自分の中で折り合いを付けられるように融通を利かせる許容範囲も考えておきましょう。 もうすでに入職している人は、職場でのキャリアプランやスキルアップについてはどこかの時点で上司に聞きつつ、自分のビジョンも伝えておくとよいでしょう。ギャップが少なければストレスが溜まりにくくなります。 焦りは禁物! 落ち着いた心持ちで働く 一方で、特に若い方は「医療は作業」という側面もあると改めて認識しておくとよいかもしれません。少しずつ自分のスキルや提供できる看護技術は上がっていきますが、月日を経て患者さんが変わりはすれども基本は同じような日々の繰り返しです。その中で自分の気持ちをどう安定させたり維持させたりできるかも大事になってきます。 さて「どうやって気持ちを維持させるか?」ですが、最初に意気込んでしまう人ほど慣れてくると意気消沈してしまうことがあります。また、まじめで責任感が強い人も、一生懸命がんばりすぎて気力を維持できなくなることもあります。 どちらの場合も「まずは急いでパワーアップしようと思わず、勤務を続けること」が大事です。最初の1~2ヵ月は言われたことを落ち着いた気持ちで遂行することを目標にしてください。ポイントは落ち着いた気持ちで仕事ができることです。 職場に相談できる人をつくる 気持ちがいっぱいいっぱいになったり、落ち込んできたりしたときは自分だけで抱え込まず職場の人に相談しましょう。訪問看護は1人業務になりやすい業態ですが、職場の中で話しやすい人を1人でよいので見つけておくとよいでしょう。職場に相談できる人がいるかどうかが、職場での気持ちの安定につながります。 とはいえ、入職後すぐは話しやすい人なんて誰もいない状態からスタートします。なるべく自ら話しかけることにトライしてみてください。話すきっかけとしては興味を持たれなくてもよいので雑談をしてみましょう。自分とまったく同じ人はいませんので、話したことすべてに興味を持ってもらえることはまずありません。 話題を考える時に参考になる有名なフレーズがあります。それは「木戸に立ちかけし衣食住」というものです。「季節(気象)」「道楽、趣味」「ニュース」「旅」「知人」「家庭」「健康」「仕事」の頭文字に「衣・食・住」を加えたフレーズで、これらの話題のうちどれかを選んで話すと雑談がしやすいと言われています。逆に、避けたほうがよいとされる「話題の3S」というものもあります。これは、話題にするとトラブルになる可能性がある「スポーツ」「政治」「宗教」のローマ字の頭文字Sを取った覚え方です。 うつを見抜くサイン こんな症状に気をつけて! 最後は、しんどくなったときに備え、知っておいてほしい内容をお伝えします。うつ病や適応障害によるうつ状態のときに出る症状は、気分の落ち込みや意欲の低下だけではありません。他にも注意してほしい症状があるのでご紹介します。同じ症状が見られる場合は早めに受診をしましょう。 不眠 代表的な症状が不眠です。寝られなくなったら何らかの精神的な不調が隠れている可能性を考えてください。少なくとも無理をしてしまっている可能性は大いにあります。 食欲低下 食欲低下は食べられないということ以外にも、おいしく感じなかったり、無理に食べている感覚が出たりします。 消化器症状や身体症状 うつ病の診断基準にはありませんが、下痢、便秘、胃痛、腹痛といった消化器症状、頭痛や動悸や呼吸困難感といった身体症状も出てくる場合があります。他に、涙が出る、仕事に行くのに足がすくんでしまうこともあります。 自責感・罪責感 自分で気づきにくい症状としては自責感・罪責感があります。自分を責めてしまう、迷惑をかけていると思ってしまう症状です。「今、休むと他の人に迷惑が掛かってしまう」。このセリフがよぎったときは危険信号だと思ってください。案外耳にしそうなセリフですが、精神的に追い込まれている状況でもこのセリフを言い続けて自分を責めてしまいます。 * 精神科に通院しながら働いている人は近年非常に増えており、受診を気に病む必要はありません。受診したことで何か冷たい扱いを受けるようであれば、逆にそういう職場であることを早めに知ることができて幸運だと思うくらいでよいかもしれません。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社

【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
特集 会員限定
2022年12月13日
2022年12月13日

【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-

2022年8月26日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護における生活期リハビリテーション」。刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科 部長の小口先生を座長に迎え、同課の理学療法士 仲村先生と作業療法士 日比先生に、それぞれの視点から訪問看護の現場で役立つ生活期リハの知識や具体的なテクニックを教えていただきました。 そんなセミナーの様子を、3回に分けてご紹介。第3回は、日比先生による「症例を通した日常生活動作の工夫」についての講演の後半をまとめます。 【講師】(座長)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科部長/リハビリテーション科専門医小口 和代 先生2000年より刈谷豊田総合病院勤務。2004年院内に回復期リハビリテーション病棟、2007年訪問リハビリテーション事業所を開設し、急性期から回復期、生活期まで幅広くリハビリテーション診療に携わっている。指導医として若手医師へのリハビリテーション教育やチーム医療の質の向上に取り組む。監修本:『Excelで効率化! リハビリテーション自主トレーニング指導パットレ!Pro.』医歯薬出版 2021年 (講演Ⅰ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科理学療法士仲村 我花奈 先生2002年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期(神経、整形、ICU)、介護老人保健施設を経験。現在は訪問リハビリテーションを担当している。利用者の社会参加やQOLの向上を目指し、前向きな生活が送れるよう取り組んでいる。 (講演Ⅱ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科作業療法士日比 健一 先生 2004年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期、回復期、介護老人保健施設を経験。認知症サポートチーム、緩和ケアチーム、ICTワーキングの経験を活かし、訪問リハビリテーションでは横断的な専門的支援を提供している。 目次▶︎ 検討症例の基本情報:90歳・男性のBさん▶︎ 困りごと(1) 起き上がりから車椅子への移乗が難しい ・移乗動作を助ける福祉用具 ・適切な車椅子を選んで移乗の負担の軽減を▶︎ 困りごと(2)食べるスピードが遅く、食事中ぼーっとする ・食具の種類と導入の注意点▶︎ 利用者さんの生活動作について助言する際のポイント --> ▶︎ 検討症例の基本情報:90歳・男性のBさん 90歳の男性Bさんの架空の症例を通して、具体的な生活動作へのアドバイス方法を考えていきましょう。最初にBさんの基本情報をご確認ください。 2症例目:Bさん(90歳/男性)・妻と二人暮らし。・4年前に脳梗塞を発症し、重度片麻痺の後遺症が残っている。・ADL動作は、食事以外は介助が必要。要介護認定は「要介護3」・移動は車椅子で全介助。ベッドで寝ていることが多く、外に出る気はまったく起きない。 そんなBさん、およびその妻が日常で感じているさまざまな困りごとについて順番に見ていきます。 1症例目はこちら>> ▶︎ 困りごと(1) 起き上がりから車椅子への移乗が難しい 最初の困りごとは、起き上がりから車椅子への移乗です。妻は「夫は体が大きいので介助が大変だ」と話し、Bさん本人も「車椅子に乗ると疲れるから、ベッドで寝ていればいい」といいます。寝たきりになるリスクが非常に高い状態ですね。 そこで、起き上がりと移乗の動作についてアドバイスします。それぞれ以下のような手順を踏むと、比較的スムーズに体を動かせるでしょう。 ※黄色のテープを巻いている足は、健康状態が悪い足を表現しています 【起き上がり動作の手順】STEP1:ギャッジアップ座位にするベットに頭を付けたままギャッジアップで上体を起こす。STEP2:高さ調整介助者の腰が深く曲がらないように、ベッドの高さを調整する。STEP3:足を降ろし、上体を起こす下肢を先に降ろし、上体を健康な足側の方向に起き上がらせる。 ※黄色のテープを巻いている足は、健康状態が悪い足を表現しています 【移乗動作の手順】STEP1:座面を上げる立ち上がりやすい高さ(目安は股関節が90度以上になる状態)までベッドを上げる。STEP2:上体を曲げ、臀部を上げるお辞儀をさせるように上体を曲げ、お尻が浮きやすい体勢にして立ち上がる。STEP3:悪い足を固定し、方向転換する悪い足を固定し、健康な足側に重心をかけて方向転換させる。 移乗動作を助ける福祉用具 併せて提案したいのが、移乗動作を助ける福祉用具です。利用者さんが臥位・座位・立位のどの状態から移乗するかによって選定してください。 立つことが可能であれば、L字手すりを設置し、立ち上がりをサポートします。座位の場合は、トランスファーボードや介助用ベルトを使用し、転倒予防や介助負担の軽減を図りましょう。そして座ることも難しい場合は、介助用リフトの導入を検討します。 適切な車椅子を選んで移乗の負担軽減を 移乗の負担を軽減するには、利用者さんに合った車椅子を選ぶことも重要になります。車椅子の選定ポイントは、車椅子の座位姿勢、使用目的、そして移乗動作の介助量です。選定基準を詳しく見ていきましょう。 ・普通型車椅子移乗の介助量が少なく、座位保持が可能な方向け。自走に適している。・モジュラー式車椅子移乗の介助量は中等度で、座位保持が可能な方向け。自走に適している。・リクライニング型車椅子移乗の介助量が大きく、座位保持が困難な方向け。介助用に適している。なお、リクライニング型車椅子はチルト機能があるものがおすすめ。座面から臀部がずれ落ちるのを軽減でき、転倒を予防できる。長い時間座位を保持する場合にも便利。 ▶︎ 困りごと(2) 食べるスピードが遅く、食事中ぼーっとする 続いての困りごとは、食事についてです。妻からは「食べるスピードが遅い。食事中にぼーっとしているのも気になる」と、本人からは「箸が使いにくくて疲れてしまう」という声が聞かれました。 食事動作へのアドバイスをする際には、まず先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期のどの段階に問題があるかを見極めましょう。Bさんの場合は、先行期に問題があるケースになります。 次に、具体的な評価と改善案を考えていきます。例えば「食べるのが遅い」ことには、多くの場合疲労の問題が隠れています。肘つきのある椅子やリクライニング機能のある車椅子に変えたり、一回の食事時間を短くして回数を増やしたりといった工夫をしてみてください。また、「ぼーっとしている」のは傾眠傾向にある可能性があります。覚醒している時間に食事をとるようにすると、介助者の負担を軽減できるかもしれません。 食具の種類と導入の注意点 「普通箸が使いにくい」とお困りの場合には、食具の見直しがおすすめです。利用者さんがどのような動作を難しく感じているかを観察し、以下の基準を参照して合うものを選定してあげてください。 指の曲げ伸ばしが困難な場合 → 自助具箸握り・つまみ動作が困難な場合 → 万能スプーン握りが困難な場合 → 万能カフ 食具の提案で注意してほしいのは、本人が自力でできる動きまでサポートしてしまうものは選ばないこと。過剰に動作を助ける道具を使うと、残存機能を低下させてしまう可能性があります。 ▶︎ 利用者さんの生活動作について助言する際のポイント 私の講演では、疾患や介助量が異なる2つの症例を通して、日常の生活動作や環境設定へのアドバイス方法についてご説明してきました。今回ご紹介した症例に類似するケースに限定せず、助言する際のポイントは大きく3つあります。 1つ目は、生活動作については安全で、誰でも実践できて、かつ習慣化できる内容を提案すること。2つ目は、環境設定は、心身機能の状態に合わせて検討すること。そして3つ目は、福祉用具を選ぶ際は、残存機能を発揮できるものにすることです。 上記に基づいたアドバイスは、きっと利用者さんの社会参加の一歩につながります。ぜひ、明日からの現場で実践してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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