コミュニケーションに関する記事

特集
2021年4月14日
2021年4月14日

訪問看護あるある座談会 vol.2 感染対策編

訪問看護のお悩みあるあるの中に、感染対策があるのではないでしょうか。病院では清潔・不潔をはっきり分けられる反面、在宅では病院ほど明確に清潔・不潔を区別することへの難しさもあります。前回に続き、3人の訪問看護師さんにお集まりいただき、感染症対策をテーマに訪問看護の「あるある」についてぶっちゃけトークをしてもらいました。 コロナ感染対策の悩み。手袋NG!?訪問看護の入浴介助 りさ:悩みあるあるは感染対策です。 ゆり:あるよね。エプロンしないとか「これも素手でやっちゃうの?」みたいな。 りさ:在宅の利用者さんは手袋すると嫌がるんだよって言われたことがあったんです。それで手袋付けずに入浴介助してるお家もあります。 ゆり:その家の清潔の具合によるかもしれないけど、自分の感染リスクもあるし、他の家に菌を持っていっちゃうリスクもあるよね。お風呂場で「こんなの裸足で入るのよ!」って入っていく看護師もいるけど。笑 りさ:えっ、むしろ裸足以外で入浴介助してるんですか? ゆり:うちでは長靴持っていったり、家によっては買ってもらったりしてます。ステーションごとに感染対策って違うんじゃないかな。 みほ:うちのステーションではご自宅で使ってるバスシューズを借りることもありますね。 りさ:へー、そうなんですね。イヤイヤ裸足で入ってました…。 ゆり:他のステーションではこうしているらしいから、感染対策の見直しをするのはどうですかって提案してみるのはどう?今はコロナもあるし。 りさ:そうですね。素手でストマを洗うのとか、粘膜だから抵抗あって悩んでたんです。 ゆり:だって便とか触れるからね。 りさ:信頼関係を大事にしすぎて、手袋をつけて嫌われるんじゃないかって思っている先輩もいて…。 ゆり:でも自分は守らないといけないもんね。最近は新型コロナで自宅に消毒液置いてくれてる家も多くなったし、看護師は働きやすきなったんじゃないかな。 みほ:そうですね。新型コロナを理由に何かと感染対策できるようになったのは、よかったのかもしれないですね。「新型コロナなので」って説明して、今まで抵抗あったお宅でもエプロンとか手袋を付けさせてもらえたり。 りさ:マスクもしてもらいやすくなりましたね。 みほ:今までそのまま咳されてましたからね…。 ゆり:唾飛んだよ!みたいな。気になってコンビニのトイレで顔洗ったこともありました。笑 みほ:帰り際に洗面所で手洗いできなかった時、コンビニのトイレとか公園で手洗ったりしますね。 ゆり:公園の子供たちに混ざって手洗いますよね。訪問先で「さようなら〜」って挨拶してそのまま手洗うタイミング逃しちゃったり。手指消毒で済ませるときもありますけどね。 看護師、膀胱炎になりがち。訪問看護のトイレ問題 ゆり:最近はコロナでトイレ使えなかったですよね。 みほ:めっちゃ不便でした。 ゆり:ですよね!私、膀胱炎になりました。 りさ:えー!わかります!私もなりかけましたもん。 みほ:ひえー。今年じゃないけど私も前なりました。 ゆり:病棟でもそうでしたけど、トイレ我慢しちゃうじゃないですか。在宅だとトイレにいつでも行ける環境じゃないので、尚更。 りさ:私も水飲むの控えちゃってました。去年の夏に突然38度くらいの熱が出て「コロナか!?」って思ったんですけど、実は脱水で。 ゆり:わかるー。私もおなかの調子が悪くて腸炎かと思ったら高熱出て。OS1を一気飲みしたらおいしくて。こんな美味しい飲み物だったかなっていう。笑 手足の痺れもあって、今思うと重度の熱中症でしたね。 みほ:やばいやばい。 ゆり:夏、高齢の方ってなかなか熱中症に気づかないじゃないですか。クーラー付けてないのも怖いですよね…。 りさ:クーラー自体無いおうちもありますね。必死でアイスノン当てたりしてました。 ゆり:看護師側も夏と冬は辛いですよね。冬は着込んで自転車乗るので、利用者さんの家に着く頃にじんわり汗かいてて。訪問中もケアして汗かいて、外出ると寒くて。風邪引きそうになっちゃいます。 みほ:分厚いダウンだけだと利用者さんの家出てすぐ着るには暑いこともあって。フリースの上に薄手のダウンの重ねてますね。 ゆり:うん、上着は重ねて調節できないと体調崩しますね。朝に子どもを保育園送るのが重労働で、出勤する頃には冬でも汗だくで。笑 着る物失敗すると、夏みたいに汗かきますね。 ー③に続きますー 記事編集:NsPace

特集
2021年4月7日
2021年4月7日

訪問看護あるある座談会 vol.1 ライフスタイル編

たくさんの訪問看護ステーションがありますが、利用者さんのお宅を回るという点では全国共通です。車や自転車での移動、病棟時代とは異なる生活スタイル、利用者さんごとに違う家のルール、ナースステーションとは違うステーションの雰囲気など、病院とはまた違った訪問看護ならではの環境があると思います。今回は、3人の訪問看護師さんにお集まりいただき、ライフスタイルをテーマに訪問看護「あるある」についてぶっちゃけトークをしてもらいました。 訪問看護師への転身で朝起きて夜眠れる生活に みほ:りささんは訪問看護に来て1年くらいと聞きました。ぶっちゃけどうですか? りさ:そうですね。夜勤はないので体調はめっちゃ良くなりました。 ゆり:わかる。ホルモンバランスの乱れも減るよね。 りさ:肌もちょっときれいになった気がします!あと、よく眠れるようになりました。病院時代は不眠症だったので。 ゆり:私も病院の時、夜勤明けは眠剤飲んで寝てたもん。目が冴えちゃって。 りさ:ちょっとでも光が入ると眠れなくて、遮光カーテン1級にしてました。眠れなくなると体調を崩して、負のスパイラルに入っちゃうんです。 ゆり:そう考えると、普通のサラリーマンみたいに朝起きて夜寝る生活ができるのが良いところだよね。 天気に左右される訪問看護の移動準備 りさ:天気予報を毎日チェックするようになりました。自転車移動なので。 ゆり:わかる。前のところではバイクだったけど、今のところは電動自転車。 みほ:うちも自転車メインなので、天気予報は絶対見ますね。 ゆり:天気予報アプリを3つ入れてて、雨雲レーダーで今どこに雨雲がいるか確認して、風向きを見て「そろそろ降りそう」とかやってます。笑 りさ・みほ:すごい!笑 みほ:ゆりさんみたいに天気に詳しい人、1ステーションに1人いるの、あるあるじゃないですか? りさ:いるいる!うちにも詳しいPTさんいます。カッパ持ってった方がいいよーって教えてくれます。 ゆり:私もよくそれ言う側です!笑 みほ:周りはすごくありがたいです。笑 ゆり:天気予報見るの、趣味みたいになってますね。雨が急に降ってきたら長靴の中までビショビショになっちゃうこともあるじゃないですか。それがイヤで。 みほ:ありますね…。替えの靴下とか持ち歩いてます。 ゆり:でも利用者さんち行って、帰りにその長靴履いたら結局ビショビショになっちゃうんだよね。笑 赤字から意識するようになった訪問看護ステーションの経営 りさ:経営視点を持てるようになりましたね。病院だと、全部病院が管理して給料も払ってくれるけど、訪問看護ステーションって病院と比べると小規模じゃないですか。だから「自分の働きがいくらになるのか」「自分の働きがどのくらいステーションに影響を及ぼしてるのか」って考えるようになりましたね。自分がサボったらボーナス減るなるのかな、なんて思ったり。笑 ゆり:大事ですよねー。看護をするために営業はしなきゃいけないし、訪問回らないと自分たちのお給料の維持ができないし。営業とかのことは考えたくないって看護師もいるけど、ちゃんと考えないと自分の生活が守れないんだよね。 みほ:りささんは、経営について考えるようになったきっかけがあったんですか? りさ:そうなんです。去年、ターミナルの方が1ヶ月で10件以上も出たことがあって。それからしばらく赤字だったんです。そこでみんなが危機意識を持つようになりましたね。今は黒字に戻ってきています。連日訪問の方とか、複数名訪問で行っている方もいたので、大変でした。 ゆり:うわー。きっと月あたり100万円くらいのお金の穴ができたよね。そういうときに「もう辞めよう」ってなっちゃう人がいるけど、みんなでなんとかしよう!ってなったのがすごいよね。 りさ:10年以上ここで訪問看護をやってる人が多いのもあるかもしれないですね。私は10年ぶりの新人で、すごく大事に育ててもらってます。笑 みほ:ちゃんとみんなで育ててくれるステーションに入って、本当によかったですね。 ゆり:ほんとありがたいです。娘より若いって言われます。 ー②に続きますー 記事編集:NsPace

コラム
2021年3月16日
2021年3月16日

訪問看護師にビジネスマインドを持ってもらうには?

「看護師が一件一件の訪問に時間をかけ過ぎていて、トータルの訪問件数が増えず、売上が伸びない…」 「ステーション管理者が、労務管理やコンプライアンス遵守の感覚を持っていない…」 「人材採用やスタッフ教育を、もっと現場でしっかりやって欲しい…」 訪問看護事業を「ビジネス」として運営する事業者は、訪問看護師やステーション管理者などの専門職に対して、上記のような悩みや要望を持っている場合が多いようです。特に昨今は、訪問看護業界に民間事業者の参入が増えていることもあり、医療現場の経験がない「ビジネスマン」と、ビジネスの経験がない専門職が、お互いにカルチャーショックを受けるケースが増えています。事業者が日頃慣れ親しんでいるビジネス用語を使って現場業務の改善をリクエストしても、専門職がその意味や意図を十分に理解できず、一方的に指示を出す事業者に対して「現場のことをわかっていない!」と反発心を覚えるケースもあるでしょう。 本稿では、事業者を主な読者と想定して、訪問看護師にビジネスマインドを持ってもらうための、専門職とのコミュニケーションにおける工夫と心構えについて考察します。 コラム執筆者: 株式会社メディヴァ/コンサルタント 内野宗治   「奉仕の精神」と「ビジネス」は共存可能という現実を伝える 多くの事業者が「専門職はビジネスマインドに乏しい」と感じる背景には、専門職が経営やビジネスについて学ぶ機会を持つことが少ないという現実があります。 例えば看護学校や病院では、看護技術や「患者のための奉仕の精神」は学ぶものの、医療機関の経営やマネジメントについてはほとんど学びません。また、医療は公的な社会資本であり、多くの民間ビジネスのように純粋な市場原理で動いている世界ではないことも、看護師に限らず医療職が自身の仕事を「ビジネス」として捉えにくい一因でしょう。人によっては「奉仕の精神」と「ビジネス(≒お金儲け)」は相反するものだという認識を持っていて、事業者が利潤を追求することを快く思わないかもしれません。   こうした背景を踏まえると、専門職に対していきなり「ビジネスマインドを持て!」と言うのではなく、まずは「奉仕の精神」と「ビジネス」が共存可能であり、むしろビジネスとして成立してこそ継続的に「奉仕の精神」を発揮することができる、という現実を伝えていくことが重要でしょう。その上で、「ビジネスマインドを持つ」とは具体的にどういうことなのかを説明する必要があります。 課題の羅列ではなく、まずはポジティブなフィードバックを 事業者が「専門職はビジネスマインドに乏しい」と感じる事例として、例えば訪問看護師の中には「利用者さんのために」という気持ちが強い故に、一人の利用者への訪問に規定以上の時間を費やしてしまう人がいることが挙げられます。これは専門職としてのプロ意識、情熱の表れであるとも言える一方、訪問一件あたりにかける時間が増えると必然的にトータルの訪問件数が減ってしまうため、目先の売上は減少してしまいます。 もちろん、たとえ訪問件数が増えても、訪問時間が短くなったことによって一人一人の利用者に対するケアの質が下がってしまい、その結果として利用者が減少してしまうようでは本末転倒です。あくまでも「一人一人の利用者に質の良いケアを提供する」ことを前提に、時折「自分がしている仕事はどれくらいお金を生んでいて、どれくらいコストがかかっているのか」と考えて欲しい、というのが、多くの事業者にとっての望みではないでしょうか。効率化やコストカットばかり考えても、それが良いケアの提供に繋がる可能性は低いでしょう。 具体的なアプローチ方法として、まずは経営に関する情報やデータを必要に応じて専門職と共有し、職種の垣根を越えて対話する機会を設けてみるのはいかがでしょうか。その際、「訪問件数が少ない」「コストがかかり過ぎている」といった課題を羅列するのではなく、まずは「あなたがこれだけ売上を出してくれて、助かっている」といったポジティブなフィードバックを行い、その上で「もっと良くするにはどうすれば良いか」を話し合うことで、建設的な対話に発展する可能性が高まります。 専門職と非専門職の間で「翻訳」するスタッフがいることが理想 専門職と非専門職の間で、上記のような対話をスムーズに行うことができるに越したことはありませんが、実際にはなかなか難しく、上手くいかない場合もあるでしょう。そのような場合の解決策のひとつとして、両者の橋渡しを担う「翻訳者」とも言うべき人材を確保することが挙げられます。 経営的に成功している事業所には、現場の看護師と経営サイドの中間に立って、両者の意見や要望を「翻訳」して伝えるスタッフがいる場合があります。例えば「売上を伸ばす」「営業する」といったビジネスレベルの表現を「良いケアを実施して、地域で評価され、より多くの利用者に依頼される」「地域で顔の見える関係性を構築して、チームケアの質を向上させる」といった現場レベルの表現に言い換えることによって、専門職にとって受け入れやすい言葉になります。 小規模の事業所だと、そのような人材を探して採用することは現実的に難しいかもしれませんが、その場合は今いるスタッフの中から適任者を探して、実務を通じて「翻訳」技術を学んでもらうことが望ましいでしょう。また、たとえ「翻訳」できるスタッフがいるとしても、事業者自身が専門職の考えや現場の苦労を理解する努力をし、専門職とのコミュニケーションを図る必要があることは言うまでもありません。「訪問看護師にビジネスマインドを持ってもらう」には、まず事業者が「専門職マインドを持つ」ことが、実は一番の近道なのではないでしょうか。 株式会社メディヴァ コンサルタント 内野宗治 東京都出身。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。IT系コンサルティング会社勤務、ニュースサイト編集者、スポーツライター、通信社記者(マレーシア支局)等を経て現職。メディヴァでは、ヘルスケア関連企業の新規ビジネス開発や先進医療の普及・実用化に向けた戦略策定支援、自治体の地域医療拡充サポート、中央省庁の調査案件等に携わる。

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

医師・他職種とのコミュニケーションスキル

第1回では、「本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル」と「本人・家族の平時の生活を想像するスキル」について解説しました。今回は「医師・多職種とコミュニケーションを取るスキル」について解説します。 訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル ②本人・家族の平時の生活を想像するスキル ③他職種とコミュニケーションを取るスキル ④マネジメントスキル ⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル ⑥在宅療養利用者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) ⑦医療制度・介護制度などに関しての知識 ⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 ③他職種とコミュニケーションを取るスキル(全般) 多くの専門職種とコミュニケーションを取ることは、在宅医療、介護領域において、利用者さんやそのご家族のQOL向上のために、重要となります。 そういった中で、訪問看護を経験したことのない病院勤務の看護師さんとコミュニケーションの話をすると、「ほかの職種とコミュニケーションを取ることは病院でもやっているので、特に難しいことはないと思います」という回答が返ってくることがあります。 もちろんそれ自体を否定するものではないですが、在宅医療・介護領域における他職種とのコミュニケーションは正確に言うと、多くの場合「物理的に距離のある別法人の他職種とのコミュニケーション」となります。(病院の場合は「物理的に距離が近い同一法人内の他職種とのコミュニケーション」) 俯瞰的に物事を考える力 つまり経営方針や、時には治療方針が異なる別法人所属の、すぐに会って話をすることが困難な他職種とうまくコミュニケーションを取ることが求められるのです。 そのために在宅医療介護領域において、良好なコミュニケーションを取るための考え方の基盤として、「俯瞰的に物事を考える力」が必要だと感じます。 俯瞰的に物事を考える力 ・相手の専門性を考えること ・相手の業務を考えること ・相手の法人内・事業所内での立場を考えること 事例 ここで私自身の失敗談を共有させていただきます。 私が訪問診療を開始した直後の話ですが、ある株式会社の介護施設で入居者向けの訪問診療を担当していました。 主治医交代で担当したばかりの私は、入居者の内服薬の種類の多さに非常に驚きました。そこで私はポリファーマシーの観点からも、それらの薬剤の整理を始めたのですが、その方針で施設看護師さんと大きな軋轢が生まれてしまい、結果としてその施設の担当を離れることになってしまいました。 当時の私は、軋轢が生じた理由がよく分からず「利用者さんのためにやっているのに、なぜこうなるのだろう・・・」と自身の診療スタイルに対して、自信を無くしていました。 しかしその後、当時の自院スタッフと議論を重ね、また別の施設担当看護師さんと話をしたことで見えてきたことがありました。 それは、私が施設看護師さんの業務や立場を俯瞰して考えられていなかったということです。 施設看護師さんが薬剤変更時にその都度、利用者のご家族に変更理由を電話で説明していたとことを知らなった私は、度重なる変更をしながら理由をご家族に説明しやすい形で施設看護師さんに伝えていませんでした。 また施設看護師さんが利用者のご家族は入居金などの支払者という意識を持ち、対顧客としてご家族との関係性構築に非常に気を遣っていることにも、株式会社所属という意識もなかった私は気づいていませんでした。 この時、私は大きな反省をしました。私は、少なくとも「相手の業務を考えること」、「相手の法人内・事業所内での立場を考えること」ができていなかったのです。 ここで得た反省から、薬剤変更を含めた医療的判断をする際は、ご利用者家族に説明しやすいように、その判断理由を他職種に伝えるように心がけるようになりました。 この事例からの示唆は、利用者さんのQOLを上げるための医療介護を実践するのは当たり前だとしても、「連携する他職種の立場も踏まえて、皆が実践できる方法を考える」ことであると言えます。 すべての職種にあてはまる ここでは医師の視点からの事例を述べましたが、これはもちろんどの職種でも当てはまることです。例えば、訪問看護師さんが医師やケアマネージャーに「○○をお願いしたが、中々が動いてくれない」といった時に、相手が動いてくれないからしょうがない、と結論付けるのは簡単です。 しかしここでぜひ、俯瞰的に相手の立場を見て、もし自身がサポートできることがあれば実践し、相手とベクトル合わせをしていただきたいと思います。 ③他職種とコミュニケーションを取るスキル(対医師) 前項では他職種とコミュニケーションを取るための考え方の基盤を述べましたが、ここではフォーカスを絞り、訪問看護師のみなさんが訪問診療医とコミュニケーションをうまく取るための方法(正確には業務を円滑に進めるための方法)を述べたいと思います。なお、ここではコミュニケーションを取る相手は同一法人でない在宅診療所の医師を想定しています。 医師との連携において、訪問看護師さんからよく聞く困りごとはいくつかあります。その中でも、コールの報告内容、頻度、訪問看護指示書に関しての事柄が多くあります。(訪問看護指示書については、次回のコラムに記載させていただきます) コールに関しては、 ・報告すると医師の機嫌が悪くなる ・詳しく報告しているのに医師の反応があまり良くない ・「私(医師)にどうしてほしいの?」と言われる などの声が訪問看護師さんからよく聞かれます。 一方医師側は ・報告だけなら連絡しなくてよいのに ・話が長くて、重要なことがわからない・・・ ・アセスメントがない といった声が多いです。 訪問看護師側としては、 ・医師に利用者さんの報告をするは当然 ・報告しないと不安 ・利用者さんの背景から現在の病態を詳細に説明したい ・端的に医師からの指示を仰ぎたい という気持ちがあるかと思います。こういった思いを持ちながら、医師とうまくコミュニケーションするにはどうすれば良いでしょうか。 ここであらためて重要なのは、SBARに則った行動ができているかです。こちらの訪問看護師と訪問診療医の連絡に対してのコメント対比させた表を元にご説明します。 SBAR 状況(Situation)、背景(Background)、アセスメント(Assessment)、提案(Recommendation)の頭文字を取った言葉。この順番で報告をすると相手に伝わりやすいというものであり、コミュニケーションにおいて非常に重要なフレームになる。 <訪問看護師と訪問診療医の連絡に対してのコメント対比> ➀報告必要性の検討 「報告すると医師の機嫌が悪くなる」については、SBARの前段である医師への報告必要性の検討でクリアできることが多いです。もちろん報告を求める医師もいるため、事前にどういった時に報告が必要か、医師と調整するのが良いでしょう。 ここで一点気を付けていただきたいのが、訪問看護師からの報告に対して、診療報酬上の電話等再診算定が発生する場合があることです。(算定は医療機関) 算定するか否かは医師の判断によることが多いですが、例えば22時以降の電話等再診の場合、約500点/回(ご利用者負担1割の場合、約500円/回)となり、これはもちろん利用者さんの経済的負担になります。 そのため医師に連絡をする場合は、必要性と共に経済的負担が発生する可能性を検討した上で、実施いただきたいと思います。 ②SとBの逆転有無確認 「詳しく報告しているのに医師の反応があまり良くない」については、SBARの状況(S)と背景(B)が逆転しているのが原因であり、SBARの順に伝えることでクリアできることが多いです。 背景(B)として、利用者さんの病態の背景や家族背景などの説明は重要ですが、ここに多くの時間をかけて説明してしまうと、医師は「何が一番伝えたいことなのかわからない」という状態となってしまいます。 まずは「今起きていること」と「判断を仰ぎたいこと」を伝えた上で、必要に応じて背景を説明すると良いでしょう。 ③AとRの有無確認 「『私(医師)にどうしてほしいの?』と言われる」については、SBARのアセスメント(A)と提案(R)が足りていないことが原因であり、これらをきちんと実施することでクリアできることが多いです。 逆に医師から「△△訪看ステーションはアセスメントや提案がしっかりしていて、非常にありがたい」というコメントがあると、医師と訪問看護ステーションが良好な関係性が築けているのだと感じます。 アセスメント(A)と提案(R)が足りていないとは、バイタルや状況を伝え、それで終了してしまうパターンです。 もちろん、各々の状況に対して臨床的判断することは医師の役割ですが、医師も少なからず判断に負担を感じていることがあります。ですから、看護側からのアセスメントや提案は非常にありがたく、臨床的判断をしやすくなるだけでなく、負担感も軽減にもつながります。 ただし、アセスメントと提案には、しっかりしたフィジカルアセスメント技術が必要です。訪問看護師さんはフィジカルアセスメントに長けている方が多いと感じていますが、今一度その重要さを振り返り、より良いアセスメントと提案につなげていただけると良いと思います。 医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

思いを吸い上げるスキル・想像するスキル

利用者さんご本人やご家族と接する時間が長く、より生活視点での看護的観察やアセスメントが必要なのが訪問看護です。本コラムでは、特に訪問看護師に必要なスキル・知識について、これまでの訪問診療医としての経験や、訪問看護師さんとのコミュニケーションから得た気づきを、私なりにまとめました。   訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル②本人・家族の平時の生活を想像するスキル③他職種とコミュニケーションを取るスキル④マネジメントスキル⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル⑥在宅療養利用者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)⑦医療制度・介護制度などに関しての知識⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 さまざまな意見があると思いますが、これまで私自身が大学病院、市中病院、外来/在宅診療所などで勤務した経験から、訪問看護については最もその看護スキルを発揮できる場と私は捉えています。   ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル 利用者さん本人の医療、介護に対しての思いや考え方を吸い上げることは、最も重要なことと考えられます。なぜなら、医療介護は我々医療従事者の満足のために行われるものではなく、利用者さんご本人のために行われるものだからです。そのため、その思いや考え方の吸い上げなくして、医療介護方針の立案はないと考えています。ただし、意思の表出が難しい方や、本人や家族が我々(特に医師)への気遣いで考え方を述べることを躊躇され、その意向の吸い上げが難しくなることがしばしばあります。そういった時の意向の確認で、最も適している職種が訪問看護師であると考えています。 必要なことは何かを考えるスキル 私も連携している訪問看護師から、ご本人やご家族の思いや考え方を伺い、方針決定の参考にさせていただき、さらに方針変更をしたこともあります。その時に求められるのが、その方が希望する生活を継続するために、必要なことは何か考えるスキルです。さらに、その希望も時期によって変わるため、利用者さんにとって必要なことは何かを「考え続ける」こととなります。なお、意向の吸い上げは以下の項目について利用者さん側が理解した上で、初めてできると考えます。 利用者さんに必要な理解・医療に対しての理解・今後、起こりうることとその対処方法についての理解・医療介護サービス提供方法や頻度についての理解・必要な費用についての理解 前者2つは医療的な側面のため、説明が漏れることが少ないようです。一方、後者2つは制度面に紐づけられるため、特に訪問看護をはじめて間もない看護師さんは、病院や外来診療所ではこういった話をすることがほとんどなく、知識面から説明が不足することが多くなる傾向にあります。しかし、非常に重要な事項であるため、ぜひ知識を身に着けていただきたいと感じています。特に経済的側面と医療介護に対しての意向については、それが良いことか悪いことかの議論はあると思いますが、大いに相関すると感じています。それでも意思疎通ができる方の中において、意向や考えの表出が少ない利用者さんもおられるでしょう。ただ、考えのない方は絶対におらず、その場合、ちょっとした表情の変化や言動の変化などをもとにその考えを推測することとなり、場合によりそれをもとに、こちら側からの問いかけなどで、意向をより明確なものにしましょう。 思いを吸い上げるスキル さらにご本人が自身の考え方に気づいていないこともあるため、その際もこういったアプローチを繰り返すことで、ご本人に自身の考えを気づいていただくことが重要になります。利用者さんの思いを知ることにより、良いケアができた事例をひとつ紹介します。 ある高齢の乳癌ターミナルの女性の話です。その方は常に疼痛を訴え、自宅で布団をかぶり、うずくまっている状態でした。もちろん疼痛コントロールを目的として、麻薬などを内服していましたが、内服量を増やしても、その疼痛の訴えは一向に減らず、その方の活動性は向上しませんでした。ある時、訪問看護師が「何か不安や困っていることがあるのではないか?」という仮説のもと、その方と多くの時間を使い、色々と話す時間を設けました。話は1回ではなく、数回におよびましたが、結果として、その方は乳癌という病気についてのこと、そして今後、どういった病態になるのか、また疼痛が強くなるのではないか・・という不安と常に戦っていることがわかりました。それらに対して、その訪問看護師は病気のこと、内服によって多くの場合、疼痛は抑えられることなどを非常に丁寧に説明しました。その説明により、その方は不安が取れ、疼痛の訴えは急激に減少し、一時的にではありますが、内服による疼痛コントロールは必要ない状態になり、散歩もするようになりました。その数か月後にその方は亡くなりましたが、その方が与えてくれた強烈な示唆は、やはり本人の思いの吸い上げは何よりも重要だということです。私たちは常時それを念頭におき、治療に臨まないといけないと思います。   ②利用者さんの平時の生活を想像するスキル このスキルは、利用者さんの病態などの変化を感じるために必要なスキルです。利用者さんやご家族は我々が訪問診療や訪問看護でご自宅にうかがう時、部屋の整理整頓や掃除をして頂いていることが多いです。それ自体は決して問題ではないのですが、それにより日常の生活が見えなくなることがあります。 探偵力 例えば、日常から部屋を掃除されている方が、さまざまな要因から掃除の頻度が下がり、訪問診療や訪問看護の前だけ実施する場合などがあります。訪問者である我々から見ると、部屋は綺麗になっているため、掃除の頻度が低下していることに気付きにくくなり、その要因の発見が遅くなります。同様に、トイレに行っているかどうかなどについても、ご本人は事実と異なることを言われることがあります。これらに対して、我々は疑いの目というより、変化を感じる視線が必要となります。平常時を推察するために、特に独居の方などは、訪問した際に部屋の隅などを見て、その清潔感などの変化をみます。あるいは、トイレであれば、トイレットペーパーの端を折り曲げたり、トイレのスリッパなどを揃えて帰り、次回訪問時に、それらを確認し、トイレを実際に使っているかどうかを推察したりすることができます。また家屋や本人の臭いの変化などももちろん重要となります。要は利用者さんの日常の変化に気付く「探偵力」が必要となるのです。やはり我々がベンチマークとするべきは、利用者さんの日常です。これらのちょっとした生活環境の変化などに気付くことで、本人の病態や考え方の変化、家族を含めた介護力の変化を推測し、サービス提供方法の検討に生かすことが重要です。   医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士久富護東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

管理者は組織に勇気をもって関わろう(対話の場)

職場の人間関係がスタッフの離職率の高さに影響していると感じることはありませんか? 訪問看護ステーションのスタッフは、その一人ひとりの専門性が高く、かつさまざまなバックグラウンドを持ち、働き方も異なります。今回は、管理者としてスタッフ同士の関係性をどのようにみるべきかを解説し、組織の関係の質を高める「対話の場」のつくり方をお伝えしていきます。 目に見えない上下関係 はじめに注目していただきたいのが、「職場内で心理的安全性が保たれているかどうか」です。 あなたのステーション内で、スタッフ同士の関係性にさまざまな「目に見えない上下関係」が発生してはいないでしょうか。 「目に見えない上下関係」とは、各々が仕事に誇りを持つがゆえに、他の人との価値観や看護観の違いを理解できない、あるいは、理解しようとしないということが原因でできあがってしまう人間関係のことです。 例えば、働き方が異なる同僚を下に見る、スタッフ内で派閥ができてしまう、事務スタッフへの上から目線な対応、ベテランスタッフが面倒臭がって新人を育てない。これらにはすべて「目に見えない上下関係」が存在します。 第2回のコラムで触れたように、管理者として個々のスタッフと関係を深めたとしても、上述のような「目に見えない上下関係」が職場内にあると、それぞれのスタッフの言い分が異なるため、個々にいくら対応しようとしても溝が埋まらないという経験もあるのではないでしょうか。 この軋轢が大きくなればなるほど、解決は難しくなっていきます。そこで軋轢が大きくならないうちにやっていただきたいのが、普段の業務管理、進捗管理とは異なる目的で、スタッフ同士を集めてミーティングを開くことです。 スタッフ一人ひとりに向き合う場を「1on1」と呼ぶのに対し、スタッフ同士が向き合うこのミーティングをここでは「対話の場」と呼びます。 「対話の場」開催のポイント この対話の場は、業務の話をする場ではありません。さらに飲み会とも別で行うことをおすすめします。飲み会はつい話が流れてしまいがちになり、また人によって集中力に違いが出やすくなるためです。 上述のような上下関係が生まれるのは、大概「相手が本当は何者かわからない怖さ」から来ます。管理者として、その「怖さ」がなるべく小さいうちにお互いを「相手が本当はどんな人か」理解し合える場を作ることが大切です。 最初は話しやすい話から始め、徐々にもっとその人がわかるような深いテーマにしていくといいでしょう。下記に開催時のポイントをいくつか具体的に挙げます。 ①話しやすいテーマからスタートする 対話の場は一度で終わらせる必要はなく、何度も開催するものだと思ってください。なので、最初はとにかく話しやすいテーマからスタートさせるといいでしょう。 その際に注意していただきたいのが、相手の許可なしに興味本位で話を掘り下げないようにすることです。各自「話せる範囲」を前提とし、互いに尊重して話を聴き合うことが大事です。 【テーマ例】過去のキャリアや背景、なぜこの仕事についたか、大変だったこと、充実していたこと、乗り越えたことなど ②対話の場のルールを明確にする この場で話したことは絶対に他の場では話さない、相手の話を遮らずちゃんと最後まで聴く、などお互いのことを少しでも安心安全に話せる場を前提とするためにルールを明確にしておくとよいでしょう。 【ルール例】守秘義務、相互サポート、評価判断はしない、尊重し合う、など ③時間を区切る(ダラダラ話さない) 対話の場の開催をはじめた当初は、業務以外の事を話すことに価値を見出してくれるスタッフはそう多くないでしょう。 やっていくうちに徐々に「自分の話もできる」「相手を知ることがそう悪くない」という気持ちになるので、時間としてはあくまで業務を邪魔しない程度の時間(30分〜1時間くらい)でお互いの事を話し合えるよう、配慮する必要があります。これは何度目の開催でも同様です。 そのためには1人が話す時間もせいぜい10分以内。もし、事前準備が必要ならそのように伝えておきましょう。人数が多いなら、数回に分けて同じテーマを話すのもいいかもしれません。 管理者のあり方を見せることが関係性を創る 管理者としては、各々のスタッフのプロ意識や仕事ぶりに信頼を置いている人が多いことでしょう。 管理者自身とスタッフ個人の関係性ができていれば、仕事自体は回るかもしれません。ですが、組織は人の集まりである以上、やはり職場全体のやりづらさ、働きづらさについても、少し注意しながら観察する必要があります。 そして関係性について気づいたことがあったらそれがなるべく小さな火種の時に何かしら関わることが必要です。組織のあり方を信じつつも、そこに勇気を持って関わっていくこと。 管理者がオープンで正直であり、フラットな気持ちで組織の関係性に関与していることが、その組織のあり方に反映されていくのです。 対話の場を設けたとしたら、ぜひ管理者自身が自分の話もしていきましょう。管理者のリアルな話が「その話をしてもいいんだ」という安心感を場にもたらすきっかけになるかもしれません。 組織のメンバーが互いに理解しあい、関係性についてもお互い気を使うことができれば、組織としてもっとやりたい看護を地域に提供することも可能です。ひとりの力ではできないことを、組織で取り組むことが可能だからです。 人をマネジメントするということは、その業務の管理だけではなく、人を育て、組織を育てることに管理者として心を砕いていくことです。そのことを通じて、個人としての成長のみならず、組織としての成長をも促すことができるでしょう。 OfficeItself 代表 コーチ・ファシリテーター 山縣いつ子 2008年から企業や医療従事者向けにコーチングや研修を提供。クライアントは中間管理層を始め、女性管理者も多く、ベンチャーの執行役員、医療従事者、NPO組織の代表など幅広く担当している。 【コラムご意見番】 ~訪問看護ステーション管理者 ぴあの目~ 訪問看護ステーションは開設当初は十分に話し合いができる人数でスタートすることが多いですが、利用者が増え、スタッフの人数も増えるにつれて出勤しても他のスタッフと顔を合わせないことも増えていきます。 その様な状況になると、コラムにもあるように先輩看護師と若い看護師の間に目に見えない上下関係が生じることや、相談したいことを話せず悩んでしまうスタッフが出てくると感じます。 対話の場の一つとして、現場で最も馴染みがあるのは「カンファレンス」かと思います。 これは、看護師の人数が少ないうちは活発な意見交換を行う場として適していますが、組織が大きくなってくると、意見を発することができないスタッフも出て来てしまいます。 例えば私が働いていたステーションでは、どうしてもベテランのスタッフの意見に対して、若手のスタッフが意見を出しにくいという問題がありました。 そこであるカンファレンス時に、スタッフをランダムに組み合わせて話し合ったところ、一人一人が意見を出してくれるようになりました。 またこの時のカンファレンスの議題が「ステーション内のルールを決める」という、スタッフ一人ひとりが自分自身に関係のある身近に感じられるテーマだったのですが、そこでスタッフの業務だけではわからない新たな一面を知ることができました。 このカンファレンスを振り返ってみると、対話の場の「話しやすいテーマからスタートする」というポイントをクリアした話し合いになっていたからこそ、以前のカンファレンスより有意義なものに感じたのかもしれないと思いました。 私自身、管理業務を行なっていると、業務に追われスタッフが話しかけにくい雰囲気を醸し出してしまうことがありました。 今回のコラムを読んで、「1on1」の面談だけではなく、「対話の場」を通してスタッフの新たな一面を知り、私の一面を知ってもらうことで、小さな軋轢が生まれそうになっても、思いやりを持ってお互いの関係性を構築していけるようになるといいなと思いました。

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

答えはスタッフの心の中にある(1on1ミーティング)

近年、主には大企業の人材育成の一環として、上司部下の間で行われている「1on1ミーティング」は、上司部下との関係性を高め、部下のやる気を引き出し、組織へのエンゲージメントを高めることなどによって離職率の低下に効果が出ています。 今回は、管理者が一人ひとりのスタッフとの関係の質を高める「1on1ミーティング」のやり方をお伝えしていきます。 1on1ミーティング 管理者として、日ごろからスタッフの方々と、どのようなコミュニケーションをとっているでしょうか。業務上の報告・連絡・相談はもとより、スタッフのその日の調子を確認する声かけや、時にはプライベートな話からちょっとした雑談まで、あらゆるコミュニケーションを心がけていらっしゃると思います。 管理者としてスタッフ全員と等しく、心理的安全な関係ができたら、それは仕事をお互い気持ちよく進める上で理想的な関係と言えます。 しかし、時として忙しくてミーティング時以外は話さない、ルーティーンの電話連絡で必要最低限のことしかやり取りしない、などコミュニケーションを取る時間がない場合もあるでしょう。 また、なかなか心が通わない相手だったり、気軽に話はできても肝心なことは言いにくかったり、人間関係のあんばいで仕事が前進しないこともご経験があるのではないでしょうか。 関係性を深めるためには、意図的にスタッフ一人ひとりとしっかり話す場を設ける必要があります。 そこでやっていただきたいのが「1on1ミーティング」です。 これは評価面談や、業務相談の場ではありません。時間をとって、一対一でスタッフの思いや価値観、今後のキャリアなどを聴く場です。 スタッフと関わる時の三つの「耳」 「1on1ミーティング」はあくまで話し手が、自分の考えや思いを掘り下げ、可能性に気づき、行動につなげることが大切です。基本的な考え方としては「答えは話し手の中にある」ので、アドバイスはせず、問いかけることでコミュニケーションを取っていきます。 そこで大切なのが、傾聴する技術です。ここでは傾聴する技術について、三つの「耳」を用いて説明します。 ①事柄を聞く耳 一つ目はスタッフの話す内容にしっかりと耳を傾ける「事柄を聞く耳」です。 普段は忙しく、業務以外の話を聞けていない方もいるかもしれませんが、「1on1ミーティング」ではしっかり時間をとって話を聞いて行きます。 何か相談に乗るときも、プライベートの内容でもスタッフが話す事にきちんと耳を傾け受け止めましょう。 ②思いや価値観を聴く耳 二つ目は、その事柄の奥にある「思いや価値観を聴く耳」です。 スタッフがなぜそのことを話してくれるのでしょうか。スタッフが普段から大事にしている価値観が潜んでいないでしょうか。 本当の思いや本音、本人も気づいていない本心がその奥にないでしょうか。管理者としてはそこにもしっかり耳を傾けていきます。 「Aさんが仕事を通じて、大事にしていることは何ですか?」 「そのことを通じて気づいたことは、どんなことですか?」 「Aさんは粘り強く仕事をすることを、大事にしていますね」 など、話されている事象の言葉にならない言葉にも注目するような感じです。「聞く」が「聴く」となったように、耳だけではなく心で聴いていきます。 ③その人の成長を願う耳 三つ目は、「その人の成長を願う耳」です。 これは少し抽象的かもしれませんが、この次に触れる、「聴く姿勢」にも通ずる「常に相手の可能性に耳をそば立てる」聴き方です。 この人の可能性はなんだろう、この組織の未来とこの人の未来はどう交わるのだろう、この人はどんな未来に向かっていきたのだろう。こんな思いを持って相手の話を聴いていきます。 大事なのは管理者の聴く心の姿勢 普段一緒に働いているとつい、スタッフに対しても色々な意味での「色メガネ」をかけてみてしまいます。そのメガネをかけたまま「1on1」を行うと、安心安全な場が作りにくく、スタッフの本心が聴きだせなくなります。 「1on1」の時に大事なのは、管理者としての評価判断は一旦脇に置き、スタッフの人そのものに対して焦点を当て、好奇心を持って聴くことです。上述の「その人の成長を願う耳」で聴くのです。 そしてそれは、管理者としての普段からの自身の「あり方」と関係します。 パーソナルコーチングはあくまでコミュニケーションの行動形態の一つです。ですが、コーチがクライアントの成長を願わず、自分のエゴを押し付けてしまっていたら、相手をコントロールしたり、言うことをきかせていたりすることで、「クライアントの中にある答え」を引き出せなくなってしまうのです。 管理者として、スタッフ1人ひとりにどんな願いを持っているでしょうか。「自分のために」「組織のために」の前に、そのスタッフ自身がどのように成長してくれたら嬉しいでしょうか。 その願いを持つ管理者のあり方は、必ずスタッフ本人に言わずもがな伝わります。 その上でさらにスタッフのことを深く知るために「1on1」などの丁寧で意図的なコミュニケーションが必要になります。 このようなコミュニケーションを続けることで成功循環モデルの「関係の質」が高まっていきます。 OfficeItself 代表 コーチ・ファシリテーター 山縣いつ子 2008年から企業や医療従事者向けにコーチングや研修を提供。クライアントは中間管理層を始め、女性管理者も多く、ベンチャーの執行役員、医療従事者、NPO組織の代表など幅広く担当している。 【コラムご意見番】 ~訪問看護ステーション管理者 ぴあの目~ コラムを読んで、私は思わず「う~ん」と唸ってしまいました。 管理者として自分自身コミュニケーションを振り返ってみると、特に「思いや価値観を聴く耳」と「その人の成長を願う耳」を、私は本当に持っていただろうか。持っている気になっていただけだったかも・・・と反省しました。 「思いや価値観を聞く耳」についての話です。 私にはとても信頼を置いているスタッフがいて、私が不在の時なども安心してそのスタッフにステーション運営を任せることができていました。 不在時のステーションの状況報告や提案なども積極的にしてくれ、コニュニケーションも十分取れていると思っていたので、彼女にステーションのリーダー昇格を打診したら、引き受けてくれると思っていました。 しかし、実際にリーダー昇格の打診をしたところ「管理者不在の時は同じ職場で働く仲間としてサポートしただけであり、リーダーなどの管理業務には興味がない。私はこの先も看護師として学んでいきたい」と言われてしまいました。 リーダーの打診をする以前から、リーダーの役割を担ってくれていたので、私は勝手に「彼女はリーダーになりたいに違いない」と思い込み、断られる事は想定していませんでした。 「思いや価値観を聞く耳」をもって「1on1ミーティング」をしていたらこのような事態は防げたのではないかと思います。 仕事ができるからリーダーになって欲しいという思いは、管理者である私の一方的な思いであり、スタッフが仕事に対してどのように向き合っているかまで聞くことができていませんでした。 「その人の成長を願う耳」についても、思い出すエピソードがあります。あるスタッフが「みんなのように成長できる気がしません」と言って退職してしまったことがありました。 スタッフ全員が同じような手技を身につけていくことが当たり前ではなく、キャパシティを超えた努力をしているスタッフの状況を把握できなかったことに問題がありました。 「成長を願う耳」をもってスタッフの勤務状況やケアの内容、スタッフの成長過程について向き合っていれば、このスタッフは違った成長を遂げたのではないかと今でも後悔することがあります。 このコラムを読み、私は実際にすべてのスタッフに平等に「1on1」を実施するようになりました。するとステーションの人間関係も良好になり、業務に関するディスカッションも頻繁に行われるようになりました。 まだ聴き手として未熟な部分も多いですが、「1on1」の中で仕事や生活で大切にしていることを聴くことで、生活の大部分を占める「仕事」の場を、より過ごしやすい環境にできるのではないかと感じています。

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

なぜスタッフの心が離れてしまうのか?(ビジョンと成果)

訪問看護ステーションにおける大きな課題として、スタッフの離職率の高さがあります。スタッフが1人辞めると、採用・育成コストはもちろん、利用者さんとの信頼関係にも影響がでます。 本コラムでは、スタッフに安心して長く働いでもらうために、経営者や管理者が知っておくべきこと、やるべきことをお伝えします。 「ビジョン」と「成果」を明確にする 訪問看護ステーションの運営は、「ビジョン」と「成果」によって決まります。「ビジョン」とは実現したい将来像であり、「成果」とはビジョンを実現するための具体的な行動指針です。 ビジョンの設定 多くの訪問看護ステーションには経営者の理想の看護観や理念があると思います。利用者さんへのひとかたならぬ思いには私も常に感服する気持ちでいっぱいです。 ですが、せっかくの理念が、将来どのような姿となって実現されているか、はっきりと描かれており、明確にスタッフに伝わっているでしょうか? もし理念のみしか設定していないのであれば、まずご自身の事業の方向性と未来の事業の姿を融合させて、ビジョンを設定しましょう。 例えば「情報技術を活用し、多職種連携と連携して、2025年までに地域に欠かせない訪問看護ステーションとなる」などです。 想いの共有 次に、スタッフ自身には「何のためにここで働くのか」「何のためにこの仕事をするのか」を考えてもらいます。ビジョンを設定する段階から、スタッフと一緒に考えてもいいかもしれません。 組織の思いと個人の思いが重なるところが、スタッフたちの育成方針となっていきます。 逆に、自身の理想の看護を追求するあまりスタッフの思いに気づかないでいると、知らないうちにスタッフとの関係に溝ができることにもなるので、十分気を付けましょう。 成果の設定 「ビジョン」が明確になり、想いを共有できたら、次にビジョンを実現するためにはどんな「成果」が必要か考えます。 皆さんの事業所の「成果」とはなんでしょうか? 「成果」として最もわかりやすいのが売り上げです。売り上げとは数字だけでなく、例えばどんな思いで達成していくかもひとつの「成果」と言えます。 また当然ですが、成果を出していくことは経営者や管理者一人では成し得ないことで、スタッフたちにもその成果への理解を深めてもらう必要があります。 そのためにも自分たちにとっての成果とは何かについてスタッフとしっかりと話し合い、「成果の基準」を明確にすることが必要です。 成功循環モデル 「成果の基準」が明確になったら、その成果を得るために、どうすべきか考えます。ここではダニエル・キム「成功循環モデル」における、「結果の質」の上げ方をご紹介します。 このモデルでは、「結果の質」を上げるには、「行動の質」を高める必要があります。「行動の質」を上げるには、「思考の質」を高める必要があります。「思考の質」を上げるには、「関係の質」を高める必要があります。では「関係の質」を高めるとは、どういうことでしょうか? 関係の質を高める 訪問看護ステーションでは、集まってくるスタッフは皆、専門スキルを持った者同士。それぞれのキャリアや背景があります。そのために個々の考えや価値観が異なるのは当然でしょう。 一方、訪問看護は個別で利用者さんのところへ行く仕事ではありますが、事務所ではさまざまな連携やコミュニケーションが必要になっていきます。 では、もしスタッフ同士が相手への理解や信頼をしていない状態で事業が運営されていたら、何が起こるでしょうか? スタッフ同士の心理的な安全性を保てていないため、必要なことすら共有されず、仕事が行き違い、結果的には利用者さんへのサービスの質の低下にもつながるでしょう。また、サービスは提供できたとしても、非効率で、働き方としては無駄の多いやり方になってしまいかねません。 そのために、管理者としてはこのスタッフ同士の「関係性」に関わっていくことが必須となります。 次回はこの関係性を意図的に改善していくために、管理者として「コーチング」の視点を持つことで何ができるかについてお話します。 OfficeItself 代表 コーチ・ファシリテーター 山縣いつ子 2008年から企業や医療従事者向けにコーチングや研修を提供。クライアントは中間管理層を始め、女性管理者も多く、ベンチャーの執行役員、医療従事者、NPO組織の代表など幅広く担当している。 【コラムご意見番】 ~訪問看護ステーション管理者 ぴあの目~ 本コラムを読んで、スタッフがビジョンを理解することで、行動が変わったケースを思い出しました。私が新設の訪問看護ステーションで管理者をやっていた時のお話です。 当時は新設のため利用者が少なく、スタッフみんなで営業に行って新規の利用者を獲得しないと、ステーションの運営も困難な状況でした。 ですが、スタッフたちは「看護しに来ているのに、なんで営業なんか・・・」という思いが強くあり、なかなか営業に行ってくれませんでした。 しかし、私が言った一言で、スタッフたちが営業に行ってくれるようになりました。そして、このコラムを読んで、その言葉がビジョンにつながっていたんだと気づきました。 「看護を提供できる場を広げるために私たちのことを地域の人たちに知ってもらおう。依頼が来たら、みんなでいい看護を提供できるようをがんばろう」 当たり前の言葉に思えますが、お互いが「私たち看護をたくさんの人に届けたい」という想いを共有できたことが結果的に、「たくさんの方に利用してもらうために営業をがんばろう」と成果の設定へとつながったと思います。 その一方コラムを読んで、あの時、成果の基準を明確にして、スタッフみんなで成功循環モデル回せていたら、もっと地域に愛される訪問看護ステーションになれたかもしれないなという後悔も少しありました。

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

【精神科訪問看護】向き合い、選ぶ採用

精神科訪問看護を提供する、訪問看護ステーションみのりの採用基準を進さん、小瀬古さんにお話頂きました。 どんな人材を求め、どういった意識付けをしているのか、引き続き、進さんと小瀬古さんにお伺いしていきます。 採用したいのはどんな人材? 進: みのりでは、組織の中でも自分の役割とは何かを見つけて、主体的に動いていってくれる方を採用したいと思っています。 採用基準としては、自分が正しい、利用者さんのために何かしてあげたいと押し付けるのではなく、自分としっかり向き合うことができる、向き合いたいと思っていることです。 みのりは土日祝日休み、有休消化率100%で給料もそこそこ、16~17時までの時短などもあり、子育て中の人も働きやすい仕組みなので、応募者は多いです。最近は小瀬古が書いた本(※注1)を読んで、みのりで働きたいと思ってくれている方もいますね。 そこからメールでやりとりし、電話やzoomなどで一次面接、同行訪問、最後に私との対面面接の流れです。 まず、メールの時点で「自分と向き合うこと、アウトプット、自己研鑽を求めます」とはっきり書くと、そこで半分くらいは辞退します。履歴書から、物事を選択した理由とその方の行動が一致しているかは厳しく見ていくようにしています。 結果的には、問い合わせから実際に採用になるまで、最近は20人に1人くらいの割合になっています。 小瀬古: よくある話で言うと、例えば新卒でA病院に入りました。1年くらいで辞めて、次はB病院の精神科で2年働きました。次はCという老人福祉施設に行って半年で辞めて、訪問看護として当ステーションに応募したとします。 それぞれ転職した理由を聞くと、「A病院はこういう形で学びになると思ったけど、管理が厳しくてすごく窮屈になってしまった」ともっともらしい理由は出てくるんです。 でも詳細を確認していくと、なんとなく就職先を選択している人が多く、中には人のせいや環境のせいにして転職を繰り返している人もいます。 新人に必要なスキルは ―新人の訪問看護師に必要なスキルなどはありますか? 進: 利用者さんのところに行くと1対1なので、最低限何が起こっているのかを言語化して、記録に書けないといけません。 特に若い頃はインプットばかりに偏りがちなので、経験したことを自分の言葉で整理して、アウトプットすることを大事にしています。アウトプットは本人の学びにはなるし、聞く側も自分がこういう状況だったらどうしようと、考えることになりますよね。 チームとしては、朝と夕に30分ずつミーティングの時間を設けていて、先輩やスタッフ同士で意見交換ができるようにしています。情報共有としての申し送りではなく、教育としての気づきや、視野を広げるのが目的です。 それだけでは時間が足りないこともあるので、会社で支給しているiPadで自分のもやもやとした話を社内SNSにアウトプットして、スタッフ全員が共有できるようにしています。 小瀬古: また精神科の訪問看護が初めてという方は、どうしても利用者さんに拒否されることがあります。その場合は拒否のつらさも共有しながら、利用者さんの背景などを一緒にチームで考えていきます。 「長時間の対応で気を遣っていたのかな?」「ベテランさんとの信頼関係に執着していたのかな?」と話していくと、その利用者さんの生きづらさが見えてきます。 この生きづらさに寄り添っていけるようになると、新人も受け入れてもらえますし、利用者さんも生きやすくなっていきます。 そこに精神科の技術があります。 ―最後に、知識や技術のアップデートをする方法や意識していることがあれば教えてください。 小瀬古: 看護師は疾患や看護の勉強をする人は多いですけど、コミュニケーションに関して勉強することは少ないのではないかと思います。もちろん利用者さんとのやりとりを後ほど振り返ることでの学びはありますが、それだけではなくスタッフ間のやりとりの中から勉強になることもあります。 例えば、管理職がスタッフにどう動機付けをして、どんな風に人が動いていくかも1つの学びです。日々の仕事やスタッフへの接し方でも、応用できるものがありますよね。 ささいなことも、自分だったら、相手だったら、上司だったら、部下だったらと立場を変えて想像することで、知識と経験が積み重なっていくと思います。 (※注1)『精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本 “横綱級”困難ケースにしないための技と型』小瀬古伸幸著、医学書院、2019年09月第1版 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括管理責任者 / 看護師・WRAPファシリテーター 進あすか 精神科の急性期閉鎖病棟に勤務していた頃、退院した患者がすぐ病院に戻ってくる現状を見て地域に興味を持つ。30歳の頃に精神科特化型の訪問看護ステーションに転職。より良い働き方とケアの実現のため、2012年にみのり訪問看護ステーションの立ち上げる。2020年11月現在、大阪、東京、横浜、奈良に4事業所・8つのサテライトを運営している。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括所長 / 精神科認定看護師・WRAPファシリテーター 小瀬古伸幸 看護補助者として精神科病院に就職、勤めながら正看護師を取得。その後、精神科救急病棟に約8年勤務。進さんに出会い、病院の中からではなく地域から精神科看護を変えていきたい思いから、訪問看護ステーションみのりに入職。 採用と定着についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

【精神科訪問看護】『きつい?怖い?』精神科訪問看護の醍醐味

病院から訪問看護ステーションに転職すると、利用者さんとの関わり方などに戸惑う方が多くいます。精神科訪問看護は、病院やほかの訪問看護とどのような違いがあるのでしょうか。 訪問看護ステーションみのり の進さんと小瀬古さんに、転職時の悩みや精神科訪問看護の醍醐味についてお伺いしました。 病院から訪問看護へ転職の難しさ 進:見えない精神機能や精神症状を可視化していくことや、「これが正解」ということがわからない難しさはあります。 中には緊迫した状況はありますが、導入からしっかりと関わっていくと、そのような状態に至る前に回避できると感じます。 私自身は精神の訪問看護を怖いと感じた経験もあります。 昔、病棟でのやり方をそのまま訪問看護に持ち込んだら、知らない間に利用者さんが「看護師に死ねと言われた」と周囲に話しまわっていたことがありました。 このときに、こちらのペースで思い込みのままやっていると、突然相手が思いがけないことをしてくる怖さを感じました。 これまでも病院でそれなりにやってこられたから、その経験を活かして、「バイタルを測って話をすればいいんでしょ」というように、あまり勉強してこない人もいましたが、知識や技術が少ないまま訪問をしていると、怖さや難しさなどを感じることがあると思います。 小瀬古: 自分も最初は利用者さんから訪問拒否ばかり受けて、難しさを感じていました。 新人の時には、注射の練習は何度もやりますけど、コミュニケーションの練習はしないですよね。なぜならコミュニケーションって普段から練習しなくても相手と意思疎通がとれれば問題ないわけで、看護をするために練習しようとならないわけですね。 しかし、自分の感覚だけで対話いくと、どんどんおかしな方向に向かっていくことを痛感しています。現場での積み重ねを試行錯誤しながら言語化して、根拠となる文献を紐解き、また現場で実践するといったサイクルで徐々に上達したと思います。 精神訪問看護の醍醐味 小瀬古: 訪問看護に来て、自分はもう病院には戻れないなと思ったのは、自分が地域でやればやるほど、利用者さんだけではなく、地域全体も変わっていくのを目の当たりにしたことでしょうか。 違う組織の人たちと仕事をすることも多くなり、自分が地域の役割の一端を担っているという認識が強くなっていきました。同時にその責任は大きいものと感じています。実際に行政機関や家族、利用者さんご本人から直接ご相談をいただくことも多いです。 自分たちの精神科訪問看護の意義や目的、具体的な実践が当事者や家族に伝わると、自ら「訪問看護を受けたい」という依頼も多くなります。 長くやればやるほど、地域での信頼も増していくので、地域の役割としての変化がしっかりと出てきます。それが自分の中ではとても大きいですね。 ―印象的な利用者さんは、いらっしゃいますか? 小瀬古: パーソナリティー障害の方に、「訪問看護を受けたことで、自分自身が変われた」と言ってもらえたことが印象に残っています。 当初「私を良くするのが医療者じゃないのか」と、利用者さんは言われたのですが、私はサポートの意味を山登りに例えてご説明しました。 「目的地まで連れていくことも、あなたの荷物を背負うことはできない。でも山頂まであなたと向き合い、一緒に考えて歩いていくことはできる」という内容です。 その後、「どのような自分で在りたいのか」「周りの人を振り回すような言動や自傷行為は、どのような状況や人との関わりで生じたのか」「そのとき本当はどうしたかったのか」など、対話していく中で、ご本人が少しずつ変化していくのが見えました。 私が当時の事業所を離れることになった時、ご本人が 「自分は当事者として今のままではダメだとわかってはいたけれども、どうすればいいかわからなかった。だけど訪問看護のケアを受け、当事者としてやれることがすごく見えてきた」 と話してくれました。また、 「自分の経験を活かし、ピアスタッフとして当事者を支える活動に参加したい」 と将来の希望も語ってくれて、自分が関わってよかったと思いましたね。 ―素敵なエピソードですね。 進さんは精神科訪問看護の醍醐味について、いかがでしょうか? 進: 精神科看護では利用者さんと向き合い、寄り添うことをしますが、そのなかでお互いに成長していくものだと思っています。 例えば、「貯金がなくなったから風俗で働く」と利用者さんが言ったとします。 その時に、最初から「風俗はダメ」と伝えるのではなく、「どうしてその選択をしたのか」ということを詳細にやりとりできるのが精神科訪問看護だと思うんです。 その方が考える「ありたい自分」を一緒に探して、どんなことができるか一緒に考える。そうすることで、利用者さんとの経験を通じて、看護師も成長するし、ご本人もどんどん元気になっていく。 利用者さん主体で、症状を持ちながらも考えて選択し、行動することをサポートする。そうした人生を歩んでいるところに向き合っていくと、その循環の中で看護師自身も成長できます。 それが精神科訪問看護の醍醐味ではないでしょうか。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括管理責任者 / 看護師・WRAPファシリテーター 進あすか 精神科の急性期閉鎖病棟に勤務していた頃、退院した患者がすぐ病院に戻ってくる現状を見て地域に興味を持つ。30歳の頃に精神科特化型の訪問看護ステーションに転職。より良い働き方とケアの実現のため、2012年にみのり訪問看護ステーションの立ち上げる。2020年11月現在、大阪、東京、横浜、奈良に4事業所・8つのサテライトを運営している。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括所長 / 精神科認定看護師・WRAPファシリテーター 小瀬古伸幸 看護補助者として精神科病院に就職、勤めながら正看護師を取得。その後、精神科救急病棟に約8年勤務。進さんに出会い、病院の中からではなく地域から精神科看護を変えていきたい思いから、訪問看護ステーションみのりに入職。

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