スタッフ支援に関する記事

融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
特集
2022年12月20日
2022年12月20日

融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、新人訪問看護師に必要な心構えや注意したいメンタルヘルスの症状をお伝えします。 要望ばかりでは心に負担も 「融通」も忘れずに 訪問看護の新人看護師は、どのくらいの臨床経験があるのでしょう。看護師国家試験を合格してすぐに訪問看護ステーションに就職する人はほとんどおらず、早くても5年程度の臨床経験を経てから訪問看護師になる人が多いのではないでしょうか。10年程度してから訪問看護師になる人も結構多く、訪問看護は年齢を気にせずに新しい世界にワクワクして入職できる分野かもしれません。 新しい世界はどんなことが待ち受けているかわかりません。想像するような仕事かどうかは、入職時にはある程度知っておきたいものです。もしあなたが入職前にこの記事を読んでいるのであれば、どういう仕事があるかは調べたりたずねたりしておきましょう。予想外の仕事が来た場合にメンタルを崩すことが減ります。 ただ、ここで大事なキーワードは「融通」です。ある程度の柔軟さは仕事をする上で大事ですし、人間関係のこじれを少なくすることもできます。働きだしてからの自分のためにも、要望ばかりにならないよう、与えられた仕事に対して臨機応変に処理することも大切です。自分の中で折り合いを付けられるように融通を利かせる許容範囲も考えておきましょう。 もうすでに入職している人は、職場でのキャリアプランやスキルアップについてはどこかの時点で上司に聞きつつ、自分のビジョンも伝えておくとよいでしょう。ギャップが少なければストレスが溜まりにくくなります。 焦りは禁物! 落ち着いた心持ちで働く 一方で、特に若い方は「医療は作業」という側面もあると改めて認識しておくとよいかもしれません。少しずつ自分のスキルや提供できる看護技術は上がっていきますが、月日を経て患者さんが変わりはすれども基本は同じような日々の繰り返しです。その中で自分の気持ちをどう安定させたり維持させたりできるかも大事になってきます。 さて「どうやって気持ちを維持させるか?」ですが、最初に意気込んでしまう人ほど慣れてくると意気消沈してしまうことがあります。また、まじめで責任感が強い人も、一生懸命がんばりすぎて気力を維持できなくなることもあります。 どちらの場合も「まずは急いでパワーアップしようと思わず、勤務を続けること」が大事です。最初の1~2ヵ月は言われたことを落ち着いた気持ちで遂行することを目標にしてください。ポイントは落ち着いた気持ちで仕事ができることです。 職場に相談できる人をつくる 気持ちがいっぱいいっぱいになったり、落ち込んできたりしたときは自分だけで抱え込まず職場の人に相談しましょう。訪問看護は1人業務になりやすい業態ですが、職場の中で話しやすい人を1人でよいので見つけておくとよいでしょう。職場に相談できる人がいるかどうかが、職場での気持ちの安定につながります。 とはいえ、入職後すぐは話しやすい人なんて誰もいない状態からスタートします。なるべく自ら話しかけることにトライしてみてください。話すきっかけとしては興味を持たれなくてもよいので雑談をしてみましょう。自分とまったく同じ人はいませんので、話したことすべてに興味を持ってもらえることはまずありません。 話題を考える時に参考になる有名なフレーズがあります。それは「木戸に立ちかけし衣食住」というものです。「季節(気象)」「道楽、趣味」「ニュース」「旅」「知人」「家庭」「健康」「仕事」の頭文字に「衣・食・住」を加えたフレーズで、これらの話題のうちどれかを選んで話すと雑談がしやすいと言われています。逆に、避けたほうがよいとされる「話題の3S」というものもあります。これは、話題にするとトラブルになる可能性がある「スポーツ」「政治」「宗教」のローマ字の頭文字Sを取った覚え方です。 うつを見抜くサイン こんな症状に気をつけて! 最後は、しんどくなったときに備え、知っておいてほしい内容をお伝えします。うつ病や適応障害によるうつ状態のときに出る症状は、気分の落ち込みや意欲の低下だけではありません。他にも注意してほしい症状があるのでご紹介します。同じ症状が見られる場合は早めに受診をしましょう。 不眠 代表的な症状が不眠です。寝られなくなったら何らかの精神的な不調が隠れている可能性を考えてください。少なくとも無理をしてしまっている可能性は大いにあります。 食欲低下 食欲低下は食べられないということ以外にも、おいしく感じなかったり、無理に食べている感覚が出たりします。 消化器症状や身体症状 うつ病の診断基準にはありませんが、下痢、便秘、胃痛、腹痛といった消化器症状、頭痛や動悸や呼吸困難感といった身体症状も出てくる場合があります。他に、涙が出る、仕事に行くのに足がすくんでしまうこともあります。 自責感・罪責感 自分で気づきにくい症状としては自責感・罪責感があります。自分を責めてしまう、迷惑をかけていると思ってしまう症状です。「今、休むと他の人に迷惑が掛かってしまう」。このセリフがよぎったときは危険信号だと思ってください。案外耳にしそうなセリフですが、精神的に追い込まれている状況でもこのセリフを言い続けて自分を責めてしまいます。 * 精神科に通院しながら働いている人は近年非常に増えており、受診を気に病む必要はありません。受診したことで何か冷たい扱いを受けるようであれば、逆にそういう職場であることを早めに知ることができて幸運だと思うくらいでよいかもしれません。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社

管理者のみなさんへのエール
管理者のみなさんへのエール
特集
2022年12月13日
2022年12月13日

管理者のみなさんへのエール

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。最終回は、第8回・第9回に続き、医療法人ハートフリーやすらぎの大橋奈美さんから、訪問看護管理者のみなさんへのエールです。 お話大橋奈美医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者(訪問看護認定看護師) 感染した利用者さん宅への訪問 私たちの事業所がある大阪市住吉区には、41の訪問看護ステーションがあります。そのうち、新型コロナウイルス感染症の感染者や濃厚接触者への訪問を積極的に行なっていたのは、わが事業所を含めて2ヵ所のみだと承知しています。私たちがコロナ禍で苦しむ以上に、利用者さんは苦しんでいます。訪問を拒む理由はありません。だから私たちは感染者への訪問を躊躇しませんでした。 多くのステーションが感染者への訪問を断るため、私たちの事業所には、新規の利用者さんが次々に紹介されました。入院できずに自宅療養を強いられているケースが多く、利用者さんはストレスを募らせています。そのストレスが怒りに変わり、訪問したスタッフに「何で入院させてくれへんの?」と暴言を吐く利用者さんもいます。 そこで私たちは、2名体制で訪問することにしました。2名であれば、もしもの場合でも110番通報が可能です。もちろん、そこまでに至ることはなく、おおむね利用者さんの怒りは翌日には静まり、「昨日は取り乱してすんません」と謝られる場合がほとんどでした。 加えていえば、「感染した利用者さんへの訪問は、むしろ安全だった」というのが今の実感です。なぜなら、感染者や濃厚接触者には、厳重なPPEで臨めるからです。さらに、感染者への訪問には、それなりの加算がつき、経営面でも好材料となったことを報告しておきます。 愚痴を言いたくなったら とはいえ、コロナ禍での訪問業務には、やはり、通常とは違うストレスを伴います。管理者ならなおさらで、愚痴の一つも言いたくなるのではないでしょうか。ただし、ステーション内での愚痴は厳禁です。懸命に頑張っているスタッフの士気を下げてしまいます。 愚痴は利害関係のない相手に漏らしましょう。管理者へのおすすめの愚痴相手は、ほかのステーションの管理者です。私は、管理者同士が集まる機会を設けています。 愚痴を漏らして、ほかの管理者が「あるある、うちもそうやねん」と反応したとき、「うちだけじゃ、ないねんな」と悩める管理者は解放されます。 規模の大きさは武器 管理者との愚痴の言い合い、聞き合いを通じて感じることがあります。特にコロナ禍においては、規模の小さなステーションの管理者ほど、悩みが深いということです。「もしスタッフに感染者が出たら、やり繰りできない」と顔を曇らせます。そのストレスが、感染対策だけではなく、スタッフの一挙手一投足への愚痴となっているようです。いつもなら笑って見過ごせることも、許容できず、スタッフへの不満となるわけです。 私は、「そうやなあ。その気持ちわかるわ」と受けとめた後、「でも、スタッフが10人を超えたら、把握でけへんよ」と続けました。私たちのステーションは常勤看護師が21名います。統括所長である私は、スタッフを信じて任せるしかありません。 規模が大きければ、スタッフの代替やサポートも容易です。私たちのステーションでは、一時期、スタッフの8名が感染または濃厚接触者になったことがありました。でも、何とかなりました。規模の大きさはさまざまな面でメリットが大きいのです。 人を増やすには これも私の感想なのですが、辞めるスタッフが多いステーションは、所長や管理者がスタッフに厳しすぎる傾向が強いようです。 離職者の多いステーションの管理者が、「私、褒められへんわ」と言いました。 私は、「褒めんでもかめへんよ」と返し、「ありがとうは言えるやろ」と続けました。 「ゴミを捨ててくれてありがとう、自転車を並べてくれてありがとう、吸引チューブを替えてくれてありがとうで、ええねん」 そんな「ありがとう」で、スタッフは自分が認められたと思えます。すると事業所の雰囲気は明るくなり、笑い声があふれ、自然にスタッフは定着し、増員もやりやすくなります。 スタッフに任せる 私はスタッフから、「大橋さんって、いつも丸投げする」とよく指摘されます。もちろん、丸投げではなく、最終のチェックは忘れず、不具合があれば責任をとる覚悟のもとに任せるわけなのですが、「丸投げする」と指摘したスタッフには、こう返します。 「せやねん、あんたやから、丸投げしていいかなと思ったんやわ」 すると、多くの場合、責任感を持って業務に向き合ってくれます。そして、業務が遂行できたのを見届け、「やっぱり、あんたに任せてよかったわ」と必ず伝えます。 コロナ禍で苦しむ管理者には、「どうぞ、これからもスタッフを大切にしてください」との言葉を贈りたいと思います。事業所やあなたが苦しいとき、助けてくれるのは、あなたに大切にされたスタッフたちなのです。 記事編集:株式会社メディカ出版

CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その2:相談に対して管理者はどう対応するか
CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その2:相談に対して管理者はどう対応するか
特集
2022年12月6日
2022年12月6日

CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その2:相談に対して管理者はどう対応するか

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第5回は、カスタマーハラスメントへの対応として、管理者としての具体的な行動を考えます。 はじめに 前回は、田中さんの心理的ケアと事実確認の必要性、ハラスメント対応のために関係する人々は誰なのか、意見を出しあいました。続く今回は、訪問看護管理者として何ができるのかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE2 スタッフから、利用者によるハラスメントの相談を受けたとき スタッフナース田中さんから「利用者Hさんの訪問を外してほしい」と相談を受けた。利用者Hさんには脳梗塞後麻痺と心不全があり、入浴介助を行なっていた。Hさんはニコニコと穏やかな性格だったが、介助時に「裸になって一緒に入ろう」などとセクハラ発言をされるのが不快という理由だった。Hさんは一人暮らしで、以前利用していた訪問看護ステーションでも同様の言動がみられ、さらに、キーパーソンの娘が「厳格で真面目な父がそんなことをするはずがない」と主張し、その訪問看護ステーションでトラブルになっていた。そんな経緯での当ステーションへの依頼だったため、依頼を受けることにはスタッフナースたちから反対の声が大きかった。よく依頼をくれるケアマネジャーからの依頼で、しかも直近は当ステーションの売上が低迷しているために、依頼を受けることにしたのだ。管理者としてどう対応したらよいだろうか? 設問もしあなたがこの管理者であれば、Hさんのような利用者への対応はどのようにすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 相談を受けた後にどのように対応していくか 講師ここまでの意見交換で、カスタマーハラスメントへの対応として、多くの関係者との協力が必要なことがわかってきました。では管理者として、やるべきこと・できることは、どんなことでしょうか? Aさん注2田中さんの話をよく聞き、そしてHさんに話を聞く必要があります。田中さんは思い出すのも嫌だとは思いますが、ハラスメント発生時のことについて詳細に記録を書くように指示します。あとはHさんの既往歴から考えると、Hさんに話をする前に、主治医と相談する必要があるなと思います。 Bさんできるだけ早く、ケアマネやキーパーソンの娘さんにも連絡する必要があると思います。ケアマネにはすぐに電話報告でいいと思いますが、娘さんは気難しそうですし、誤解があるといけないので対面でお話をしたいです。 Cさんすでに発言が出ていたと思いますが、事実確認と田中さんの心理的なケアはできるだけ早く行う必要があります。そしてハラスメントの事実があるのであれば、Hさんやその家族に対して契約解除もやむを得ないことを毅然とした態度で伝えるべきです。 Dさん田中さんの代わりに入るスタッフの検討も必要です。このステーションは売上が低迷しているので、ここで契約終了というのはなかなか言えないと思うんですよね。 Eさんセクハラについて相談できる専門家、弁護士さんのような人がいるといいですね。悪質なセクハラに発展しないとも限りませんし。でもスタッフを守ることも管理者としてやるべきことですよね。 講師記録をつけることは大切ですね。そして、田中さん・Hさんに事実確認をする順番やその方法についても、実際の問題に直面したときは考えなくてはなりませんね。ここまで、ハラスメントが起きた後に管理者としてできること・すべきことを議論してきました。 Fさんハラスメントが起きてしまった後の対応については、まさに今まで議論してきたことが役立つと思います。でも、ケースの管理者さんは、ハラスメントが起きる前にいろいろ対処ができたと思うんですよね。Hさんの状況も把握していたわけですし。 講師そうですね。では次回、ハラスメントを未然に防ぐ視点で、管理者はどうすればいいのか議論していきましょう。 「相談を受けた後にどのように対応していくか」の小括 「ハラスメントが起きてしまったら管理者として何をすべきか」を議論することで、①被害者のケア ②事実確認 ③関係者との対応協議 ④行為者への適切な措置 ── の4つのステップの大切さが共有されました。 そして次回は、「ハラスメントを未然に防ぐ視点で管理者はどうすればいいのか」を議論します。 ー第6回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

安心感をどう作るか⑧ コロナ禍のスタッフマネジメントで印象に残ったこと
安心感をどう作るか⑧ コロナ禍のスタッフマネジメントで印象に残ったこと
特集
2022年11月29日
2022年11月29日

安心感をどう作るか⑧ コロナ禍のスタッフマネジメントで印象に残ったこと

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、第8回に続き、医療法人ハートフリーやすらぎの大橋奈美さんです。 お話大橋奈美医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者(訪問看護認定看護師)  直行直帰を巡って コロナ禍で実施したあることに対して、スタッフが予想しなかった反応を示しました。 新型コロナウイルス感染症拡大の第1波から第3波まで、私たちの訪問看護ステーションでは、常勤看護師21名のうち、約半数を直行直帰としました。たとえ事業所内でクラスターが発生しても、少なくとも半数は、継続して業務ができるようにしたのです。 直行直帰組からは、「いちいち事業所に行かなくていいので、楽ちんや」とか、「残業がないから、いいわ〜」などの感想が返ってくると思っていました。 ところが、直行直帰をしていたスタッフは、予想外の言葉を口にするようになります。 「すごく心がしんどい」 あるスタッフは、「すごく心がしんどい」と打ち明けました。「いつステーションに行けますか?」「直行直帰は、いつまで続くんですか?」いつもの勤務形態に戻ることを切望する声が次々に聞こえてきます。「うつになりそうです」とまで言うスタッフもいました。 ことあるごとに、オンライン会議やチャットアプリのビデオ通話で「みんな元気?」「はい、元気です」などとやりとりをしているのですが、「一日でも早くみんなに会いたい」が本音のようでした。 訪問看護師の孤独 コロナ禍での業務経験を積むにつれ、PPE(個人防護具)の着用や手洗い・消毒などの感染予防を徹底さえすれば、それほど恐れる必要がないことはわかってきました。しかし、重症化リスクの高い利用者さんや高齢のご家族に感染させないように、細心の注意を払う必要があります。さらに、利用者さんのお宅でPPEを着用するときは、利用者さんを感染者扱いしているように思われない配慮が求められますし、玄関の外でPPEを着けると、「あそこの家は感染者がいる」と、いわゆる「コロナ差別」を誘発することにもつながりかねません。 ふだん以上に、気疲れするのがコロナ禍の訪問です。「仲間と話したい」と思っても、直行直帰では、それがかないません。多くのスタッフは、孤独感を深めます。 そんな直行直帰組が何よりも欲していたのは、仲間との何気ない会話です。会議やミーティングなどの改まった席ではなく、トイレで手を洗っているときや、昼食後の歯磨きのときに交わす「大変やね」「それ、わかるわ。そうや、大変やわ」「もう少し頑張れへんといけませんね」「そうやなあ、しんどいなあ」などの何気ない会話がどれほど大切なのかを、コロナ禍で痛感することになりました。 サポートできないもどかしさ 統括所長である私も、直行直帰組には、サポートがなかなか届かないもどかしさを感じていました。 たとえば、いつもなら朝礼でうつむいているスタッフを目にしたら、「家で何かあったの? 大丈夫? しんどいんとちゃうの?」などと声を掛けます。すると、うつむいていたスタッフの顔が、自然に上がってくるのです。ところが、直行直帰では、そんなサポートができません。 そこで、直行直帰組には、ビデオ通話で「頑張って〜、一人じゃないよ〜」と懸命に呼びかけました。通話している私のそばに事務所通勤組が集まってきて、「私たちも応援してるよ〜」と声を掛けます。それを聞いたスタッフは、「涙が出ました」と後で話してくれました。でもやっぱり、ステーションに行くことで感じる温もりにはかないません。 築き上げてきた「温もり」の大切さ 私は、何よりもスタッフを大事にしてきました。「さすが〜」「知らんかったわ」「すごいなあ」「センスいいわ」「そうやなあ」の〈さしすせそ〉を常に心掛けながら、スタッフに接してきました。 午前の訪問から帰って来て、「こうしたけど、よかったでしょうか?」と心配するスタッフには、「ええやん、それでええで、私も同じようにしたわ」と笑顔で応じました。その言葉を聞いて、スタッフは午後の訪問に元気良く出掛けます。 もちろん、所長だけではありません。先輩や仲間が、温かく声を掛けあいます。私たちのステーションには、たわいない会話や冗談が飛び交う日常がありました。それが、掛け替えのない財産なのだと、コロナ禍が続く今、しみじみと噛みしめています。 第4波以降、直行直帰を中止しました。 「あと1週間(直行直帰が)続いたら、私、病んでいたかもしれません」とあるスタッフが言い、「脅さんといて」と私が答えます。「マジだったんです」「申し訳なかったなあ、次から(直行直帰は)せえへんから」 本当にスタッフは宝物です。 ー第10回に続く記事編集:株式会社メディカ出版

安心感をどう作るか⑦ 人が辞めない事業所の雰囲気づくり
安心感をどう作るか⑦ 人が辞めない事業所の雰囲気づくり
特集
2022年11月15日
2022年11月15日

安心感をどう作るか⑦ 人が辞めない事業所の雰囲気づくり

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、医療法人ハートフリーやすらぎの大橋奈美さんです。 お話大橋奈美医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者(訪問看護認定看護師) 職員を最優先に 私たちの医療法人には、24時間支援診療所、訪問看護ステーション(機能強化型Ⅰ)、居宅介護支援事業所、ナーシングデイがあります。そのなかで、私は、職員の安心と幸せを最優先にした姿勢を貫いています。極端な言いかたを許してもらえば、「利用者さんよりも職員を大切にする」という姿勢です。 大切にされている職員だからこそ、利用者さんやご家族を大切にすることができます。 退職率は低いが、若い職員も多い 常勤看護師は、現在21名です。コロナ禍での看護師の退職の増加が話題になりましたが、辞める人が少ないのが私たちのステーションの特徴です。一方で、看護師の平均年齢は30代前半と比較的若いのも特徴です。毎年新人の応募者が殺到し、採用試験は3次まで行っています。 なぜ、職員が辞めずに新人の応募も多いのか、思い当たる理由を九つ挙げていきます。 ①事業所内で雑談が多い 当ステーションで飛び交う話は、仕事の話よりも雑談のほうが多いかもしれません。ほかのステーションの管理者さんと話をすると、雑談が少ないところほど、辞める人が多い傾向がある感じがします。たとえば、トイレで一緒になった職員にはこんな声を掛けます。 「その髪、あの女優さんみたいで、かわいいなあ」「言いすぎでしょう?」「ははは、褒めすぎたわ」 そんな雑談の積み重ねが、「悩み相談」をしやすい柔らかな雰囲気を生み出します。 ②利用者宅でも柔らかな雰囲気を継続 冗談が飛び交う柔らかな雰囲気は、訪問の際、利用者さんにも伝わります。たとえば、新人と先輩が一緒に訪問したとします。 「わしもなあ、どの道その道、あの世に行く道や。この子にわしの血管に打たしてやって、この子が点滴を上手になるのがわしの役割や」 利用者さんも新人を育ててくれるのです。 ③「ありがとう」と何度も言う 職員に対し、感謝の気持ちを一日に100回以上伝えていると思います。ステーションが運営できるのは、職員の働きがあるからです。その感謝の気持ちを「あいうえお」の言葉で表します。すなわち、「ありがとう、いいね、うれしかったわ、ええやん、おおきに」です。 ④褒めるだけの職員面接 年に2回、人事考課の面接があります。そこでは、その職員がやって来たことを具体的に褒め、注意に類することは一切言いません。 注意に関しては、当ステーションの管理職や先輩たちが、現場でそのつど行います。 「褒める」ことは、「認める」ことでもあります。管理職を私が認めれば、管理職は自然に部下を認めます。 ⑤自分で目標を考えてもらう 人事考課の面接で私が心がけていることは、自分で目標を立ててもらうことです。 「自分の弱みは何だと思う?」「ターミナルケアで、家族にいろいろ言われると、何もできなくなることです」「どないしたらええのやろ?」「何かをしようとするよりも先に、家族の話にもっと耳を傾けるように努力します」 自分の考えた目標だからこそ責任を持てるのだと思います。次のような言い方に比べてモチベーションがあがるのは確実です。 「あんたってなあ、ターミナルケアで、家族に高圧的に言われたら、何もできへんよなあ」 ⑥好き嫌いを認める 利用者さんだって、合う看護師と合わない看護師がいるように、看護師だって、相性の悪い利用者さんがいます。私は、それを認めています。苦手や弱みを克服するよりも、得意や強みを伸ばすほうが、のびのびと働けます。 ⑦毅然とした姿勢を示す瞬間も 職員に感謝する一方で、毅然と姿勢を示す瞬間もあります。「ニコニコ笑顔」が当ステーションの文化であり、苦虫をつぶしたような顔をしている職員には、「どんなことが家であったのか知らんけど、そんな表情ゆるさへん」などと、すぐに注意を飛ばします。 ⑧一人では何もできないと自覚する 本音で語り合え、思いを共有できる仲間を一人確保するところからステーションづくりを始めました。その後、何があっても揺るがない仲間が、三人、四人と増えていきました。 ⑨できる方法を考える できない言い訳よりも、できる方法を考えるよう徹底しています。たとえば、新型コロナに感染した利用者さん宅に「訪問したい」という職員がいました。こちらが、「行くな」と止めても、「助けたい」と職員は言います。これ以上止めたら、モチベーションが下がります。そこで私は、次のように言いました。 「よっしゃ、わかった、行きたいんやな。じゃあ、安全に訪問できる方法を考えようや」 * 利用者さんを助けたいと申し出る職員たちを、私は誇りに思っています。そんな職員を守り、大切にするのが私たち管理者の役目です。 ー第9回に続く 記事編集:株式会社メディカ出版

ケースメソッドで考える悩ましい管理者業務への処方箋
ケースメソッドで考える悩ましい管理者業務への処方箋
特集
2022年11月8日
2022年11月8日

CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その1:何を考える必要があるか

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第4回は、カスタマーハラスメントへの対応時にどんな検討が必要かを考えていきます。 はじめに 今回から3回にわたり、利用者からのハラスメントの事例をテーマに考えます。 みなさんのなかにも、ハラスメントへの対応に悩まれたり、苦い経験をしたりしている人が少なからずいると思います。また痛ましい事件のことを思い浮かべた人もいらっしゃるでしょう。そのことを思い出して、苦しくなったり、嫌な気持ちになったりするかもしれません。 しかし、今後そのようなカスタマーハラスメントの場面に遭遇したとき、管理者としてよりよいアクションをとれるように、学ぶことに価値があると考えています。みなさんも、「自分だったらどうするだろう」と考えながら読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE2 スタッフから、利用者によるハラスメントの相談を受けたとき スタッフナース田中さんから「利用者Hさんの訪問を外してほしい」と相談を受けた。利用者Hさんには脳梗塞後麻痺と心不全があり、入浴介助を行なっていた。Hさんはニコニコと穏やかな性格だったが、介助時に「裸になって一緒に入ろう」などとセクハラ発言をされるのが不快という理由だった。Hさんは一人暮らしで、以前利用していた訪問看護ステーションでも同様の言動がみられ、さらに、キーパーソンの娘が「厳格で真面目な父がそんなことをするはずがない」と主張し、その訪問看護ステーションでトラブルになっていた。そんな経緯での当ステーションへの依頼だったため、依頼を受けることにはスタッフナースたちから反対の声が大きかった。よく依頼をくれるケアマネジャーからの依頼で、しかも直近は当ステーションの売上が低迷しているために、依頼を受けることにしたのだ。管理者としてどう対応したらよいだろうか? 設問もしあなたがこの管理者であれば、Hさんのような利用者への対応はどのようにすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 田中さんからの相談を受けたとき、配慮すべきことは何か 講師今回は、ハラスメントの言動がある利用者のケースです。みなさんがこの管理者であれば、どのような対応をしていきますか? Aさん注2田中さんから「Hさんの訪問は外してほしい」と言われているので、田中さんの心理的なケアがいちばんに必要だと思います。そしてその後の対応策となると難しいですね。田中さん以外のスタッフに訪問に行ってもらっても、同じことが起こると予想されます。 Bさん田中さんに「我慢してHさんに訪問してよ」と言ったら、それこそ管理者のパワハラです。Hさんには脳梗塞の既往歴があり、セクハラ発言は高次脳機能障害によるものかもしれません。主治医にも相談が必要です。 Cさん主治医に相談もですけど、まずはHさんにセクハラ発言についての事実を確認します。そして、ケアマネや主治医らとHさんへのケアの方針を相談します。 Dさん今までの発言にまだ出てきていませんが、娘さんとコンタクトをとる必要があります。あとはステーション内でHさんについての情報共有をするミーティングが必要だと思います。 「田中さんからの相談を受けたとき、配慮すべきことは何か」の小括 利用者によるハラスメントの相談を受けたケースを題材に、まず、管理者として何を考えなければならないかを話しあいました。 ●田中さんへの心理的なケアがいちばんに必要。訪問に行くスタッフを替えるだけじゃダメ。●既往歴を考えると、Hさんの言動に影響している可能性があるので、主治医に相談する。●事実確認の上で、主治医だけではなくケアマネも含めて、今後のケア方針を相談する。●キーパーソンとコンタクトをとる必要がある。●ステーション内でミーティングし、情報共有する。 田中さんへのケアと、事実確認、そして問題解決に向けて多くの人たちと協力して事を進めていかなくてはならないことが見えてきました。 次回は、「問題の解決に向けて管理者としてどのような行動をすべきなのか」を考えていきます。 ー第5回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。参加者の発言が何よりも学びを豊かにする鍵となります。 注2 発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年10月11日
2022年10月11日

CASE1スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき_その3:どのように面談を行うか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第3回は、CASE1「スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき」の議論のまとめです。 はじめに 前回は、終末期の利用者に過度な感情移入をしているように見える佐藤さんを支援するために、具体的にどのような介入が必要か、A・B・C・Dさんそれぞれの考えを出しあいました。今回は、佐藤さんとの面談を行う際の注意点について話しあいます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE1 スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき スタッフナースの佐藤さんについて、「担当利用者に感情移入しすぎなのではないか?」と別のスタッフナースから相談があった。どうやら寝ても覚めても利用者のことを考えているらしい。佐藤さんは、在宅看取りの看護に携わることを希望して、病院から訪問看護に転職してきた背景がある。終末期の利用者を担当するのは2回目、今回は主担当として任されている。そのためか思いが強くなりすぎているように見える佐藤さんに対して、管理者としてどのような支援ができるだろうか? 設問あなたがこの管理者であれば、佐藤さんのようなスタッフへの支援はどのようにすべきと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 面談の目的を佐藤さんの育成にフォーカスする 講師ここまでのみなさんの意見から、面談の目的を「佐藤さんの育成」と設定したいと思います。そうすると、面談はどのように進めるべきだと考えますか? Aさん注2まずは佐藤さんに話をしてもらわないといけないので、利用者の状況を聞いて、その時に佐藤さん自身はどういう気持ちになったのかを話してもらいます。いろいろ聞きたいのはグッとこらえます。 Bさん話してもらうことは大切ですけど、やはり、確認すべきことや言うべきことはちゃんとしたいです。なかなか言いにくいこともあったりするのですが、管理者としてステーション全体のことも考える必要があると思います。 Cさん言うべきことはちゃんと言ったうえで、佐藤さんとしてはこれからどうしたいか? 管理者からどういう支援があれば助かるか?を話したいです。 Dさんそうなんですよね、佐藤さんの状況や気持ちを確認して、その上で、「次の訪問はどうしようか」という話ができるのがいちばんよいと思います。 講師Aさんから「グッとこらえる」と発言がありましたが、表情を見ると、ほかのみなさんも同意されているようです。一方みなさんの言われるように、スタッフにとって耳に痛いことも管理者としてしっかり言わないといけない。スタッフの振る舞いは、ステーション全体の評判につながります。そして、面談の終わりには、「今後に向けてどうするのか」が必ず確認したいことですね。 訪問看護師を育成する手法「1on1」 講師では、これまでの議論を受けて、CASE1のまとめです。 今回は、「終末期の利用者に対して過度な感情移入をしているように見える佐藤さん」のケースを通して、管理者がスタッフを育成する手法としての1on1について考えました。 スタッフの置かれている状況や、スタッフの持つスキルなどによって、支援の内容は変わりますが、基本的に1on1の目的は、スタッフの抱える問題を解決することです。今回のケースでいえば、決して佐藤さんを評価することではありません。1on1は、スタッフの抱える問題解決と、それに向けたスタッフの成長のために行うものです。これを念頭に置き、経営者・管理者の方は、次の3つのステップを毎回行うことを意識してください。 信頼関係を構築する → 学びを深化させる → 次の行動の決定をうながす 佐藤さんが自身の問題を解決することは、そのステーションの問題を解決することでもあります。「1on1はスタッフのための時間」を意識してください。これが難しいんですけどね。あれこれ言いたくなってしまいますよね(笑)。 Aさん面談って、あれこれ問い詰めてしまったり、「こうしなさい」と指導してしまったりすることが多くて。「育成を目的とした1on1はスタッフのための時間」と意識するといいんですね。 講師そうですね、「スタッフである訪問看護師の成長のプロセスを支援する」という立場に管理者が立つことが大切です。ある企業のマネジャーさんは、1on1ではストップウォッチを持って「今日はまず5分間は話を聞くぞ」とされているそうです。1on1の原則である、3つのステップを意識して、いろいろ工夫しながら進めてみてください。 * 次回は、CASE2「利用者からのハラスメントにどう対応するか?」を考えます。 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇本間浩輔.『ヤフーの1on1:部下を成長させるコミュニケーションの技法』東京,ダイヤモンド社,2017,244p.〇松尾睦.『職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門』東京,ダイヤモンド社,2011,224p.〇松尾睦.『「経験学習」ケーススタディ』東京,ダイヤモンド社,2015,200p.

特集
2022年9月6日
2022年9月6日

CASE1スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき_その2:管理者としてどう支援できるか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第2回も前回に引き続き、利用者に感情移入しすぎているように見えるスタッフナースのケースです。今回は管理者として何ができるかを考えます。 はじめに 前回は、終末期の利用者さんに過度な感情移入をしているように見える佐藤さんの状況について、A・B・C・Dさんはどう考えるか、それぞれの考えを出しあいました。続く今回は、「訪問看護管理者として何ができるか」をテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE1 スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき スタッフナースの佐藤さんについて、「担当利用者に感情移入しすぎなのではないか?」と別のスタッフナースから相談があった。どうやら寝ても覚めても利用者のことを考えているらしい。佐藤さんは、在宅看取りの看護に携わることを希望して、病院から訪問看護に転職してきた背景がある。終末期の利用者を担当するのは2回目、今回は主担当として任されている。そのためか思いが強くなりすぎているように見える佐藤さんに対して、管理者としてどのような支援ができるだろうか? 設問あなたがこの管理者であれば、佐藤さんのようなスタッフへの支援はどのようにすべきと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 管理者としてどのような支援ができるのか 講師ここまでのみなさんの意見から、管理者としては佐藤さんに何かしらの働きかけが必要なのは間違いなさそうです。では、具体的に、どのように働きかけますか? Aさん注2難しいかもしれませんが、私はステーションのメンバー全員でこの件について話をして、佐藤さん担当の利用者のところに、ほかのスタッフでも訪問できるようにしたいと思います。 Bさん私は、すぐに佐藤さんと話をする必要があるので、一対一の面談の時間を作ると思います。ほかのスタッフも含めてカンファレンスをできればよいですが、忙しいとなかなか集まりにくいので、現実的には一対一かなと。訪問看護師としての佐藤さんの成長を促すような支援ができればと考えます。 Cさん私も、チームで話をするにしても、まず佐藤さんと話をしておくべきだと思います。Bさんが言われたように、管理者が支援をするなら早いほうがよいと思うので。 講師一対一かチームか、人数の違いはありますが、佐藤さんと話す場を持つのは共通の意見ですね。その上で、できるだけ早いほうがよい、チームで対話するとしてもまずは一対一の面談からという考えも出ました。管理者として佐藤さんの異変に気がついたのであれば、すぐに行動に移すというのは自然な流れでしょう。 一対一の対話をどのように進めていくのか 講師では、佐藤さんと一対一で対話をすることを考えてみましょう。その面談は、どのような目的で行いましょうか。 Aさんこの利用者のことを佐藤さんが背負い込みすぎないような支援が目的になります。そしてその後に、より良いケアができるようになるために成長支援もしていきたいです。 Bさん事実確認もしたいです。制度外での訪問や、金銭授受といったことがもしあれば、そちらへの対処も検討しないといけませんから。佐藤さんやステーション全体の今後のことも考えて、この点も確認しておきたいです。 Cさん佐藤さんの育成を主目的に面談をするのは私も賛成です。ルールからの逸脱についての確認も、佐藤さんの状況についてはほかのスタッフから聞いただけなので、事実はどうなのか、管理者として確認することが必要だと思います。ですが、「〇〇さんがこう言っていたよ」と佐藤さんに伝えることは、うまく言えませんが間違っている気がするので、避けたいです。どんな言いかたで伝えるのがいいのか……、悩みます。 「何を目的に面談をするか」の小括 みなさんの話しあいから、面談の目的が大きく二つ出てきました。1.佐藤さんの、看護師としての成長をどうやって支援していくのか。2.ルールからの逸脱の確認。もし逸脱があれば対応を検討することも含まれます。これら二つの目的の背景には、管理者としてステーションをどのように運営していくべきなのかが根底にありますね。また、具体的に佐藤さんにどうやって伝えるのかの視点も登場しました。 そこで、次は「佐藤さんとの面談をどのように行うのか」を考えていきます。 ─第3回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学び、参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月9日
2022年8月9日

スタッフの不安解消、安心できる仕事環境の整備は管理者の責務

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第1回は、東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さんです。 お話中島朋子東久留米白十字訪問看護ステーション 所長  「スタッフを感染させない!」 新型コロナウイルス感染症が国内でくすぶりはじめたとき、私の頭はその思いでいっぱいになりました。精神的緊張状態のなか、「今このときに、管理者として何をすれば最善なのか」を考え続け、一つひとつ実行してきました。 先手先手のPPEストック 感染症対策は、見えない相手との闘いです。闘いには武器が必要です。有力な武器の筆頭は、PPE(個人防護具)です。2020年2月早々には、PPEのストックを始めました。その費用が持ち出しになる心配はありましたけれど、スタッフの安全には代えられません。 日本国内では、感染者もまだまだ少なく、死者も出ていない段階でしたが、2月7日には、感染・リスクマネジメント係に、ストックを急ぐようにハッパをかけました。 個別事情に応える本音アンケート スタッフが抱く不安には個人差があります。その不安を「本音」で聞くために、アンケートを実施しました。質問は、感染、または、感染の疑いのある利用者宅を訪問できるかどうかを尋ねるものです。 事業所の看護師は13人です。そのうち、1人が「行きたくない」、数人が「できれば行きたくない」と答えました。一方で、半数が「職務上の使命から必要があれば行く」、4人が「積極的に行く」と答えてくれました。 「行きたくない」には、個別の事情もあります。「訪問したら発熱していたということもあるからPPEは持参してね」と言ったうえで、希望に添うようにシフトを組みました。 必要に応じて、躊躇なく 国内の感染者が拡大するにつれ、PPE関連が品薄になりました。ストックのおかげで少しだけ余裕がありましたが、先行きを考えると、PPEの在庫には不安を覚えます。 100均ショップなどで、代替品を工夫し補充するとともに、「どのような場合に、どの防護具を選択するのか」の白十字版の簡易マニュアルを作成し、「必要に応じて、躊躇なく使える」判断基準を示しました。これには、かなり時間を掛けました。 利用者への協力要請で働きやすくする 利用者への手紙も4報まで出しました。内容は、発熱時の事前連絡、訪問を受ける前の換気、発熱時は個人防護具を着用など、スタッフを感染から守るためのお願いです。こちら側からの要望ではあったわけですが、感染予防を徹底したスタッフが訪問してくれるとの印象を与えたのでしょう。利用者側からの苦情はありませんでした。 働きかたの環境整備 働きかたの環境も、非常時に合わせる必要が出てきます。そこで、社労士(社会保険労務士)と入念な話し合いを重ねながら、在宅ワークができるように就業規則を改変していきました。具体的には、事務職の在宅ワーク移行、直行・直帰による訪問の実施などです。 事務所レイアウトと雰囲気づくり 事務所レイアウトを大きく変更。部屋を三つに分散、デスクは壁向きなど、3密を徹底的に避けました。ただ、管理者の死角で、愚痴を言い合い気分的な負の連鎖が起きないようにする対策も必要でした。そこで、「完璧な職場なんてないんだから」と前置きしたうえで、愚痴や不満は、建設的な意見として言えるような雰囲気づくりに注力しました。 事業所連携でBCP構築 地域にはさまざまな事業所があります。コロナ禍での活動内容にも温度差があります。そのなかで、価値観を共有する訪問看護事業所に、BCP(事業継続計画)の協働を持ちかけました。どちらかの事業所が感染で休止になった場合には、代替でケアが提供できるようにするものです。その準備として、約200人の利用者をトリアージしました。事業所との連携は、管理者どうしで愚痴をこぼしあえる関係もつくれ、とても大切です。 管理者としての責務 そのほか、正しく怖がるための最新情報の収集と提供、PPE研修会の開催、スタッフの自己免疫力を高めるための残業の軽減、連携在宅診療医との発熱者対応の方向性共有、会議のオンライン化、ICT化の推進、事業所の換気工事、事務所内にシャワーと宿泊場所の確保など、さまざまな対策を講じてきました。 とはいえ、ウィズコロナへの道は、平坦ではありません。発熱した利用者宅に訪問してくれているスタッフを思うと涙が滲んだこともありました。 当初、「所長の私が発熱者宅を訪問する」と提案もしてみましたが、もちろん、副所長やスタッフから反対され、管理者としてやるべきことに注力するように割り切りました。本当にスタッフには感謝の気持ちでいっぱいです。これからは、管理者としてのプレッシャーを一人で抱え込まず、「私も不安なの」と本音をこぼせるような風土づくりも必要かもしれないと思っています。 ―第2回に続く 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月9日
2022年8月9日

CASE1スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき_その1:状況をどうとらえるか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第1回は、利用者に感情移入しすぎているように見えるスタッフナースに対して、管理者としてその状況をどうみるかを考えます。 はじめに 合同会社manabico代表の鶴ケ谷理子と申します。弊社は、訪問看護管理者に対するコンサルティングやセミナーを行なっている会社です。この連載は、私が講師を務めて開催しているケースメソッドセミナーの形式をもとに展開します。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながら読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE1 スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき スタッフナースの佐藤さんについて、「担当利用者に感情移入しすぎなのではないか?」と別のスタッフナースから相談があった。どうやら寝ても覚めても利用者のことを考えているらしい。佐藤さんは、在宅看取りの看護に携わることを希望して、病院から訪問看護に転職してきた背景がある。終末期の利用者を担当するのは2回目、今回は主担当として任されている。そのためか思いが強くなりすぎているように見える佐藤さんに対して、管理者としてどのような支援ができるだろうか? 設問あなたがこの管理者であれば、佐藤さんのようなスタッフへの支援はどのようにすべきと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 佐藤さんの状況を多面的にとらえる 講師このケースで議論したいことは、「管理者として佐藤さんにどのような支援ができるか」です。その前にまず、佐藤さんの状況について、みなさんはどのように考えますか? Aさん注2佐藤さんのように利用者に対して思い入れがあることは、看護師として悪いことではないと思います。ただ、思いが強すぎる と、利用者が亡くなった後に、佐藤さんが無力感や喪失感を感じることが心配です。そこへのフォローを考えたいです。 Bさん佐藤さんは、一人で背追い込みすぎていると感じます。ほかのメンバーも含めたケアカンファレンスを実施して、佐藤さんの気持ちのケアや、どういった看護をしていけばよいかを話し合えるといいと思います。でも忙しいからなかなかメンバーが集まらないのかもしれませんね。 CさんAさんも言われたように、利用者への感情移入が大きいと、利用者がお亡くなりになられた際の喪失感も大きくなります。どの利用者のかたに、どのスタッフが訪問に行くか、最終決定は管理者がしているはずです。管理者は、利用者だけでなく、スタッフも大切に考えて判断をすべきだと私は考えます。もっとこまめに佐藤さんに対して支援をすべきだったのではないでしょうか。 Dさん佐藤さんの精神状態も心配ですが、ルールから逸脱がないかどうかも私は気になります。佐藤さんのような様子だと、計画外の訪問や、個人的なやり取りを利用者としているかもしれないと思って。金銭や物品の受け渡しがあったりしたら、加えて別の対処も必要になるので。 「佐藤さんの状況をどうとらえるか」の小括 まずは、「佐藤さんの置かれている状況をどのようにとらえるか」について、それぞれの考えを出しあいました。 ●思い入れがあること自体が悪いわけではないが、佐藤さんの精神状態をよく観察し、フォローが必要。●佐藤さんが一人で背追い込みすぎている。ケアカンファレンスを開いて、ほかのメンバーとともに話し合いたい。●そもそも、この利用者への訪問を佐藤さんに続けさせてよかったのか。佐藤さんが行くなら管理者から何かしらの支援が必要だった。●訪問看護のルールから外れていないかを確認する。 一人で考えるだけでは思いつかないこともあり、A・B・C・Dさんは、ほかの人の意見を聞きながら気づきを得ていたようです。 次回は、「管理者として、佐藤さんに対してどのような支援ができるか」を考えていきます。 ─第2回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

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