ステーション運営に関する記事

特集
2021年7月20日
2021年7月20日

第1回 訪問看護ステーションの「働き方改革」/[その3]労働関係法令上の書類の整備と保存期間

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 労働基準法では、労働者を雇用する事業場に対し、作成・管理を義務づけている書類がいくつかあります。今回は、その中でも「法定三帳簿」と呼ばれる書類について確認します。この書類は、事業場の人事や労務管理の基本となります。義務を怠ると処罰の対象となりますので、しっかり押さえておきましょう。 ●ここがポイント! ・労働に関する書類には、記載項目や保存期間が定められているものがある。 ・労務管理ソフトや給与計算ソフトで自動作成できる書類もある。 ・雇用関係助成金を申請する際に必要となる書類もあるためしっかり整備する! 管理者が押さえておきたい「法定三帳簿」とは 法定三帳簿とは「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の3つを指し、労働基準法第107条から第109条によって規定された書類です。職員を適切に管理するためにも、訪問看護ステーションでは、これらの帳簿を整備し、保存しなければなりません。帳簿ごとに定められた記載項目、保存期間について順に説明していきます。 労働者名簿 労働者名簿は、労働基準法第107条においてその作成が義務づけられています。労働者(日々雇い入れられる者を除く)の氏名や生年月日、履歴等、8つの項目の記入が必要です。また、記入事項に変更があった場合は、遅滞なく訂正しなければなりません。労働者名簿の保存期間は3年で、労働者の死亡、退職、または解雇の日を起算日とします。 労働者名簿の記載項目 ①労働者氏名 ②生年月日 ③履歴(異動や昇進など) ④性別 ⑤住所 ⑥従事する業務の種類 ※従業員が30人未満の事業場の場合は不要 ⑦雇入年月日 ⑧退職や死亡年月日、死亡の理由や原因 賃金台帳 賃金台帳は、労働基準法第108条においてその作成が義務づけられています。労働日数や労働時間数など賃金計算の基礎となる事項や、賃金の額など、10の項目を記入します。賃金の支払いのたびに遅滞なく記入します。 労働者名簿と異なり、日々雇い入れられる労働者も作成の対象となります。 賃金台帳の保存期間は3年で、起算日は、労働者の最後の賃金について記入した日です。 賃金台帳の記載項目 ①労働者氏名 ②性別 ③賃金の計算期間 ④労働日数 ⑤労働時間数 ⑥時間外労働時間数 ⑦深夜労働時間数 ⑧休日労働時間数 ⑨基本給や手当等の種類と額 ⑩控除項目と額 出勤簿 出勤簿は、2017年に厚生労働省が策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」において、労働基準法第109条に基づき、タイムカード等も含め労働時間の記録に関する書類として保存の義務が明記されました。第109条は、「記録の保存」について定められた条文です。 出勤簿の保存期間も、労働者名簿、賃金台帳と同じく3年です。労働者の最後の出勤日を起算日とします。記載項目は以下のとおりです。 出勤簿の記載項目 ①労働者氏名 ②出勤日 ③始業・終業時刻 ④休憩時間 ⑤その他労働時間を正確に把握できるような情報 法定三帳簿の書式について 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿ともに、労働者1人に対して1枚作成します。各帳簿に決まった様式はありません。表計算ソフトなどで作成する場合は、記載項目が網羅できているかきちんと確認しましょう。 労務管理ソフトや給与計算ソフトなどに自動で帳簿を作成できる機能が付いている場合もありますので、訪問看護ステーションで使用しているソフトを確認してみるとよいでしょう。 なお、労働者名簿と賃金台帳は、厚生労働省のウェブサイトにテンプレートが公開されているので、ダウンロードして使用することができます。 労働者名簿の基本様式 ▼厚生労働省: 「労働者名簿 様式第19号」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/pdf/b.pdf 賃金台帳の基本様式(常用労働者) ▼厚生労働省: 「賃金台帳 様式第20号」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/pdf/d.pdf 出勤簿の基本様式例 「法定三帳簿」以外に整備が必要な書類は? 法定三帳簿以外にも保存期間の定めがある労働関係の書類があります。例えば労働条件通知書や定期健康診断の結果、年次有給休暇管理簿などです。 雇用に関する助成金の申請等の際に、これらの書類の提出が求められることも少なくありません。以下に労働に関する主な書類とその保存期間・起算日をまとめましたので確認しておきましょう。 表 労働に関する主な書類 保存期間が書類によって異なるため、注意する。 (※)労働条件通知書は、厚生労働省のウェブサイトより基本書式のダウンロードが可能。 ▼厚生労働省:「労働者を雇用したら帳簿などを整えましょう」 https://jsite.mhlw.go.jp/okinawa-roudoukyoku/library/okinawa-roudoukyoku/04rouki/houteichoubo.pdf ▼厚生労働省: 「労働基準法関係主要様式 ダウンロードコーナー」 法定三帳簿をはじめ、事業場で必要となる各種書類の様式がダウンロードできます。 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/ ** 加藤明子 加藤看護師社労士事務所代表 看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント 看護師として医療機関に在籍中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。 ▼加藤看護師社労士事務所 https://www.kato-nsr.com/ 編集協力:株式会社照林社

特集
2021年7月13日
2021年7月13日

第1回 訪問看護ステーションの「働き方改革」/[その2]新型コロナウイルス感染症他の災害対策:事業継続のために

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 令和3年度介護報酬改定で感染症・災害対策の強化が義務化されました。職員を守り、地域の利用者を守り続けられる、災害や感染症にも負けない訪問看護ステーションが求められています。 ●ここがポイント!・令和3年度介護報酬改定で感染症・災害対策の強化が義務化された。・国が提供するツールを活用して、効率よくBCPを作成しよう!・ステーション内だけでなく、他のステーションや事業所とも協働し、いざというときの連携体制をとれるようにしよう! 最近の自然災害・感染症にはどんなものがある? 2020年初頭から私たちの生活を脅かし続けている新型コロナウイルス感染症。最近では変異株が流行ってきているということもあり、1日でも早い収束が望まれるところです。 私たちの生活を脅かしているのは、新型コロナウイルス感染症だけではありません。最近の自然災害を見てみましょう。 2017年 7月 福岡県と大分県で集中豪雨。死者行方不明者40人以上2018年 6月 大阪府北部を震源とする震度6弱の地震2018年 6月~8月 東日本・西日本に記録的な猛暑2018年 7月 広島県、岡山県、愛媛県などに集中豪雨。死亡者200人以上2018年 9月 北海道胆振東部で震度7の地震。約295万戸が停電に2019年 8月 九州北部で長時間にわたる集中豪雨。観測史上1位の記録を更新した地域も2019年 9月 関東地方で過去最強クラスの台風(台風15号)2019年 10月 関東地方・甲信地方・東北地方などで記録的な大雨2020年 7月 熊本県を中心に九州地方や中部地方などに集中豪雨が発生2020年 1月 新型コロナウイルス感染症の拡大 ここ数年だけ見ても、各地で大規模な自然災害、甚大な被害が発生していることがわかります。 令和3年度介護報酬改定で義務化された感染症や災害対策 令和3年度介護報酬改定では、「感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に提供される体制を構築」することが求められるようになりました。 具体的には、日ごろからの備えと業務継続に向けた取り組みの推進として、次のことが求められます。 ◎感染症対策の強化(※3年の経過措置期間あり)〈目的〉感染症の発生やまん延等に関する取り組みの徹底を求めるため〈義務づけられる取り組み〉委員会の開催、指針の整備、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等 ◎業務継続に向けた取り組みの強化(※3年の経過措置期間あり)〈目的〉感染症や災害が発生した場合でも、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を構築するため〈義務づけられる取り組み〉業務継続に向けた計画(BCP)等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等 守るべき資源とはどんなもの? 災害や感染症の流行といった自然災害に遭遇しても、地域に必要な看護サービスを止めない、もしくは一時的に止めても再開できる事業所運営が求められます。そして、その看護サービス提供に必要な資源を守ることが重要です。 守るべき資源とは、まず職員。そして、建物・設備、そしてライフライン(電気・ガス・水道・情報通信など)です。 なお、雇用契約を結んだ時点で、ステーションには職員の安全や健康を守る義務(安全配慮義務)が発生し、労働安全衛生法に従い、さまざまな措置を講じる義務があります。 ①安全衛生教育(労働安全衛生法第59条)事業者は労働者に対して、雇入れ時および作業内容の変更時などに、安全衛生教育を実施 ②健康診断(労働安全衛生法第66条)事業者は常時使用する労働者に対して、雇入れ時および1年以内ごとに1回、定期的に健康診断を実施 上記以外にも、感染予防に努めたり、体調不良の職員がいた場合は勤務調整などを行わなければいけません。 最近の自然災害の状況を見てもわかる通り、水害や地震、停電など人命やライフラインに影響が起きるような災害が発生しています。 職員の生命を守るためにも、そして地域で事業継続し、必要な看護を届けるためにも、災害の種類に応じた資源の守り方や事業継続のしかたを考えていきましょう。 まず、業務継続に向けた計画(BCP)等を作成してみよう! まずは、業務継続計画(BCP)を作成してみましょう。厚労省のホームページでは、BCPを作成するための研修動画やガイドライン、ひな形が掲載されています。 ▼厚生労働省HP:介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html 研修動画を見ながら、そしてひな形を活用しながら、ステーションの防災・減災の取り組みの活動の一環として職員の方々と対話をしながら作成していくとよいでしょう。また、地域の訪問看護ステーション連絡協議会などの会議の場で、各地域で想定される自然災害や各ステーションの防災対策、連携方法や情報共有方法などについて話し合い、いざという時の協力関係を結べるようにしておきましょう。 なお、内閣府の防災情報のページから、都道府県ごとに設けている防災に関するホームページにアクセスすることができますので、ぜひご確認ください。 ▼内閣府HP:各自治体防災情報 ホームページ一覧http://www.bousai.go.jp/simulator/list.html 加藤明子 加藤看護師社労士事務所代表看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント 看護師として医療機関に在籍中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。 ▼加藤看護師社労士事務所https://www.kato-nsr.com/ 編集協力:株式会社照林社

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2021年7月6日
2021年7月6日

第1回 訪問看護ステーションの「働き方改革」/[その1]訪問看護ステーションで押さえておきたい「働き方改革」

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 「働き方改革」は、働く人たちが個々の事情に応じた多様な働き方を自分で「選択」できるようにするために、国が強力に進めている施策の1つです。働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(いわゆる「働き方改革関連法」)によって、労働基準法などが改正され、2019年4月より順次施行されています。 ●ここがポイント! ・「働き方改革」、まずは「労働時間管理」や「有給休暇管理」から始めてみよう! ・「働き方改革」をサポートしてくれるさまざまなサービスも活用しよう! ・誰でも働き続けたくなる魅力的な職場づくりのために前向きな取り組みとアピールを 働き方改革がめざすもの 日本国内の生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)は1990年代がピークで、それ以降は減少傾向が続いており増加の見込みもないのが現状です。一方で、働く人たちの働き方(働く時間、働く場所、仕事内容など)のニーズの多様化も進んできています。このような状況の中で、働く人一人ひとりがよりよい将来の展望を持てるようにすることをめざして進められているのが「働き方改革」です。 具体的には、「労働時間」「保健」「有給休暇」「賃金」の各項目において、大企業、中小企業別に次の表のようなスケジュールで改革が進められています。ここで言う「中小企業」とは、資本金の額または出資の総額が5000万円以下、または常時使用する労働者の数が100人以下の企業のことを言いますから、訪問看護ステーションはほとんど中小企業になると思われます。 表 働き方改革関連法施行スケジュール 訪問看護ステーションの「働き方改革」のポイント 訪問看護ステーションが取り組むべき「働き方改革のポイント」としては、以下の5つの義務が挙げられます。 ①労働時間の客観的な把握の義務づけ ②時間外労働の上限規制 ③年5日間の年次有給休暇の取得の義務づけ ④同一労働同一賃金 ⑤月60時間を超える残業に対する割増賃金率の引上げ この中でまずは、「労働時間の客観的な把握の義務づけ」「時間外労働の上限規制」や「年5日間の年次有給休暇の取得の義務づけ」への対応を進めていきましょう。 労働時間の把握義務化への罰則はありませんが、従業員の労働時間の把握・管理を怠り、時間外労働の上限規制や年5日間の有給休暇取得義務に違反した場合、法律で罰則が科せられます。 「働き方改革」をサポートしてくれるツールやサービス 「労働時間の客観的な把握の義務づけ」、「時間外労働の上限規制」や「年5日間の年次有給休暇の取得の義務づけ」については、いずれも2019年4月より施行されていますが、施行された当時よりも現在は、働き方改革に対応するための業務運営用のソフトやサービスが改善されています。 例として、「労働時間の客観的な把握の義務づけ」について、簡単に説明しましょう。 労働時間の客観的な把握の義務づけ」への対応策としては、以下のようなことを行う必要があります。 ◎原則として「タイムカードやICカード、パソコンの使用時間の記録」などの客観的な方法で労働時間を把握する。 ◎法律の「労働時間」の考え方に沿って、労働時間を取り扱う。 ◎管理監督者を含む、すべての労働者を対象 こうした「労働時間の客観的な把握の義務づけ」を支援するために、さまざまな業務用ソフトやサービスが開発されています。 例えば、 ・クラウド型勤怠管理システム ・ICタイムカード ・スマホやタブレットで利用できる専用のアプリ このほかに、 ・介護ソフトにタイムカード機能・勤怠管理機能が追加 ・給与計算ソフトにタイムカード機能・勤怠管理機能が追加 ・給与計算ソフトと連携機能をもった無料の勤怠管理アプリ などのサービスが開発・提供されています。 すでにご使用になっている業務運営ソフト(介護ソフトや給与計算ソフトなど)に、勤怠管理や有給休暇管理などの機能が追加されていないか、また、現在使用されている業務運営ソフト以外にも、使いやすかったり、手ごろな価格で利用できる自社に合ったサービスはないか、調べてみてはいかがでしょうか。 「働き方改革」は職場の魅力につながります! さらに最近では、新型コロナウイルス感染症の対応として、テレワークを推進したり、利用者さん宅に直行・直帰を認めているステーションもあります。テレワーク勤務や直行・直帰の問題点としては、職場内のコミュニケーションの機会が減少してしまうことがしばしば挙げられますが、一方でそれを補うような取り組みを進めているステーションは、職員の勤続意欲も高まります。 職場環境の改善を行い、職員が安心して働き続けられる職場づくりを行っているステーションは、人材確保や人材定着にもつながり、そして利用者やご家族の安心感や信頼にもつながるのです。ぜひ前向きに取り組み、アピールしてください。 ** 加藤明子 加藤看護師社労士事務所代表 看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント 看護師として医療機関に在籍中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。  ▼加藤看護師社労士事務所 https://www.kato-nsr.com/ 編集協力:株式会社照林社

インタビュー
2021年5月6日
2021年5月6日

外部センターとICTの活用で運営効率アップ!

株式会社ツクイでは、効率的な事業運営や現場スタッフの負担軽減のために、外部センターやICTの運用を進めているそうです。 今回は、事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに、外部センターやICTの活用によって現場にどのようなメリットがあるのか、詳しくお話を伺いました。 外部センターを活用して現場の負担を減らす ―外部の事務センターを利用しているそうですが、どのように活用しているのでしょうか。 竹澤: 今は、医療保険の請求業務だけですが、全国の訪問看護ステーションのレセプト入力から提出までの業務を、すべて沖縄にある外部の事務センターが行っています。介護保険の請求業務はまだ体制が整っていないので、各地域、各県にある自社の事務センターで、介護保険の請求業務や勤怠管理、その他事務にかかわることを行っています。 今後、変更申請や事業所の新規出店、新しい加算の申請に関する書類手続きなどの事務作業も、全部やっていけるようにと考えています。 ―なぜ、外部の事務センターなのですか? 竹澤: 悠翔会さんとツクイが同じグループ企業になったということもあり、両者が育てばいいなという気持ちで、悠翔会さんの沖縄にある外部センターを選択しました。 また、一括集中できる事務業務は、外部の事務センターでも可能なので、事務作業のための事務員はステーションに置いていません。 現場のスタッフがサービスを提供しながら電話を受けるのは、お客様にも失礼ですし、スタッフも大変なので、2021年度からは夜間の電話だけでなく昼間の電話も、沖縄の事務センターで受けてもらうように調整しています。 ICT活用でステーション内のシステムを標準化 ―ICTの活用はどのようにされているのでしょうか。 竹澤: 悠翔会さんの在宅医療用クラウド型電子カルテhomis(ホーミス)を利用し、実績入力など請求関連をおこない、直行直帰ができるようになっています。 記録に関してはWyL株式会社のオマハシステム(※1)を実装してトライアル中で、それが終われば2021年4月から本格始動の予定です。オマハシステムはケアの質の標準化、情報共有、スケジュール管理も全部できます。また、携帯でとったものが転送され、大事なものを持ち歩かなくていいので、現場看護師の受け入れは良さそうです。今は記録が手書きなので、「楽になるよ」と、伝えています。 電子カルテは病院向けにできていることが多く、領域も少なく、在宅での汎用性の低さを感じていました。訪問看護をやっていくうえで、一人一人使ってきたカルテも違いますし、記録の書き方なども違うので、オマハシステムを導入することでやり方を全員統一することができるのは良いですね。 今後オマハシステムとhomisの連携作業を行い、さらに効率化を進める予定です。 ―今後、業務の効率化のためにやっていきたいことはありますか?  竹澤: とにかく現場の事務業務を無くすことです。 例えば今は、事故やトラブルが発生した際の業務を、本部の事故課で引き取るようにしています。初動は事業管理者がしなくてはならないですが、入力フォームがあって、そこに必要事項を入力すればシステム上にあがるようになっています。 本部でまだ作っているところではありますが、そのように事務業務を現場から取り上げて、現場のスタッフが業務に集中できるようにしたいです。 ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美 【参考】 ※1 オマハシステム 関連記事:ケアの質を向上させる!オマハシステムを徹底解説(ウィル訪問看護ステーション 岩本大希)

インタビュー
2021年4月20日
2021年4月20日

1年間で10拠点!スピード出店の秘訣

訪問看護事業に参入し、1年間で10拠点の出店を果たした、株式会社ツクイ。大手介護事業所が訪問看護事業に参入するにあたり、様々な課題にたいして地道な取り組みをされたそうです。 今回は、事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに訪問看護事業参入の実態や、新拠点での運営戦略、今後の出店戦略について詳しくお話を伺いました。 介護事業所が訪問看護事業に参入するときのハードル ―ツクイさんは多くの事業を展開してきた中で、なぜ今、訪問看護なのでしょうか。 竹澤: 実は7年前に、既に広島と札幌、横浜に訪問看護ステーションがありました。しかし、売り上げが伸びなかったり、看護師のコントロールができなかったりと、福祉を軸としてやってきた会社としては、医療系事業の訪問看護ステーション運営は中々難しかったようです。そのため、あえて最初は3拠点から増やしませんでした。 その後は地域連携を進めながら、複合的にサービスを展開している地域や、会社が定める重点地域に立てていきました。 今は全国にあったほうが、その地域の既存サービスとのシナジーや、日本全土での自社サービスのシェア状況、地域差など見られるのでいいと思っています。 ―介護の会社で訪問看護を行う難しさってなんでしょう? 竹澤: 絶対的価値観をもって働く専門性の高い看護師と、相対的価値観でお客様の考えや思いに寄り添う介護士の考え方のギャップだと思います。そこをマネジメントするのが難しかったです。 あとは、給料のこと。看護師の専門性に見合った給料体系でないと訪問看護は成立しないと考え、私は給料の見直しからはじめました。 今でも苦戦しているのは、今ある社内ルールの中で新しくルールを作り上げていくことです。 ツクイでは1事業所あたりの付与されるパソコンや車の数が、利用者数やスタッフ数など、事業所の規模によって決まっています。そのため、パソコンや車をすごく少ない数で回すことになるので、訪問が終わってから記録をするのにパソコンが空くのを待たなければならず、その間どんどんコストがかかってしまいます。数千円のリースでそれぞれにパソコンを貸与したほうが効率は上がると思うのですが、「看護師だけ特別扱いはできない」と言われることもありますし、違和感を持たれることもあると思います。 ―竹澤さんは現場と経営陣との間にいる立場かと思いますが、どのように調整をされるのでしょうか? 竹澤: 経営陣と考え方が違って相いれないときでも、喧嘩するのではなく、粘り強くこちらの意図を説明して落としどころをちゃんと見つけるようにしています。訪問看護の責任者である私と経営陣との間に溝ができると、全国の看護師が損をするので、時間も体力も必要ですが、経営陣とは一枚岩になるように対話を重ねることを大切にしています。 ―今の組織体制はどのようになっているのですか? 竹澤: エリア長がいて、部長、所長、管理者がいます。私は部長とエリア長を兼務しています。現在、エリア長は1人ですが、いずれは西東北の3つのエリアに配置したいと思っています。エリア長はプレイヤーにはなりませんが、他はプレイヤーにもなります。 管理者として配置はできませんが、理学療法士を採用し、所長となって管理者を育成する立場で働いていたりもします。 ほかにも、決まった拠点を持たずにいくつかの事業所をみる主任所長というポジションもあり、これをエリア長が管理しています。 新しく出店する際の運営ポイント ―出店拠点を広げていますが、新しい拠点での運営方法のポイントはなんでしょう? 竹澤: 重点地域では、いろんなケアマネージャーさんや病院との関わりがあるので、ツクイの事業所が多くある拠点に行くと、「ツクイさんがやっている訪問看護」という信頼感があるようです。ツクイブランドに信頼感を持っていただけていると、訪問看護の出店もしやすく感じます。 新しい拠点のアプローチは、病院などの医療連携を先に行い、医療依存度の高い利用者さんや特別訪問看護指示書に基づいて頻回訪問が必要な利用者の受け入れを行っていきます。だんだんと訪問枠が埋まってきたら、隙間を埋めるようにして、ケアマネージャーから紹介を受けた介護保険の利用者さんの受け入れに力を入れていきます。 会社としては、訪問件数が増えることは望ましいことですが、むやみに多くすることはしません。訪問件数や訪問単価等は全部数値化していますが、1時間換算で一人あたり月80件訪問くらいが、経営的にもスタッフの負担感も丁度良いと思っています。 ―今後の訪問看護ステーション出店戦略について教えてください。 竹澤: 今、M&A含めて動いているものもありますが、一気に増やすというよりは、一拠点一拠点を少しずつ増やそうと考えています。重点拠点とマッチしたところに、ご縁があればいいですね。 目標は6年くらいで47都道府県に展開することです。2021年度に伸びてきそうな拠点がいくつかあるので、サテライトも3店ほど、新店舗は5か所ほど、ホスピスも考えています。 一人の利用者さんを要支援のときから、要介護度が上がって要介護になったとき、そしてお看取りまでみられる流れを作っていきたいと思っています。せっかくお世話させていただいても、「要介護度が高くなったらみることができない」というのはしたくないですね。 ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美

インタビュー
2021年4月13日
2021年4月13日

訪問看護事業参入で地域包括ケアシステムの実現へ

  『介護のことならツクイ』。株式会社ツクイは介護事業に参入してから35年以上、顧客や社会のニーズにあわせて事業を拡大してきました。 今回は、ツクイの訪問看護事業参入プロジェクトを牽引されている事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに、ツクイ入社までの経緯や訪問看護事業参入の経緯、ツクイが手掛けている事業についてお話を伺いました。 患者さんは、退院した後が本当の生活との闘い ―竹澤さんのこれまでのご経歴を教えてください。 竹澤: 看護師になろうと思ったのは、学校の先生に強く勧められてです。看護学校卒業後は、長野県内の病院に就職し、救急外来やオペ室、外科、ICU、脳外科、循環器など様々な経験をし、トータル10年ほど働きました。夫の転勤で上京後は、元々ケアマネージャーの資格を初年度に取って、違う環境で資格を活かせたらいいなと思っていました。それが病院から介護業界に入ったきっかけです。 ケアマネージャーとして働きはじめてからは、病院できちんと管理されていた、服薬や食事、排泄、保清などが行き届いていない生活状況を目にしました。老々介護で追い詰められて自死を選択するという、テレビで見ていた悲惨な状況も目の当たりにし、衝撃を受けました。 病院にいたら、「おめでとうございます」と言って患者さんを退院させますが、退院した後が本当の生活との闘いだと感じました。在宅の現状を知り、私の中で病院に戻る選択肢はなくなりました。在宅業界で自分の資格を活かして働いていこうと思いました。 ―その後どのように働かれたのですか。 竹澤: ケアマネージャーを4年ほどやりました。その後、都内に新しくできるショートステイに施設長として行きました。いろいろな課題がありましたが、訪問看護事業や有料老人ホーム事業、生活に関わる周辺の事業にも関わり、15年ほど働いていました。施設長は8年ほど、訪問看護の統括のような立場にもいました。 前社ではM&Aの関係もあり、ショートステイやデイサービス、訪問看護ステーションが一緒になったりしました。他の会社に買ってもらうときは、ルールに従わなきゃいけない難しさはありましたけど、柔軟に対応していました。逆に、他の会社を買ったときは、社内のルールや介護のしかた、有休の使い方など、文化が違うということで苦労しました。 経営陣の思いがまっすぐで同じベクトルであること ―ツクイに入った経緯は?決め手は何だったのでしょう。 竹澤: 元々は社長の会などに参加させてもらっていて、女子会のような流れでツクイの取締役と知り合いました。その当時、前社では訪問看護事業を拡大していくことはないといった感じで。管理の仕事をしていましたが、「訪問看護の仕事がしたい」、「自分はサービスに出たい」と思い、訪問看護での独立を考えていました。それを聞きつけたツクイの取締役が、「うちでやってみないか?」と声をかけてくださったんです。 ツクイは福祉事業だけで35年間真面目にやってきた会社ですし、これから全国展開していく中で、その拠点ごとに訪問看護を増やしていきたいという思いがあったのが入社の決め手です。あとは、経営陣たちの思いがまっすぐで同じベクトルだったので、ここなら思う存分訪問看護ができるなと感じました。 ―取締役は竹澤さんのどのようなところを見込んで、声をかけられたんでしょう? 竹澤: 在宅のときから地域に根付いてやってきたことを、お世話になっていたコンサルタントさんから聞いてご存じだったのかもしれません。また、私は数字を見ながらきちんと売り上げをあげることも意識しています。思い通りじゃないと嫌というわけでなく、柔軟に対応できるタイプだと思うので、そこがツクイに入ってもやっていけると思ってもらえたんじゃないでしょうか。 その後はコンセプトなどを1年くらいかけて聞かせていただいて、医療系事業プロジェクトをつくるためにいろいろ調べ、多くの方にお会いして、3年前にツクイに入社しました。 地域包括ケアシステム実現のために必要なこと ―今ツクイさんで手掛けている事業と、今後の展望について教えてください。 竹澤: グループ全体では734の事業所があり、デイサービスが527、グループホームが45、介護付き有料老人ホームが28、住宅型有料老人ホームが2、サービス付き高齢者向け住宅が22、訪問看護ステーションは14です。(2021年2月時点) ツクイでは、「人生100年(幸福に生きる)時代へ。」というコンセプトを掲げています。また、「ツクイは、地域に根付いた真心のこもったサービスを提供し、誠意ある行動で責任を持って、お客様と社会に貢献します。」という事業理念のもと、各種事業を展開しています。 その中の地域戦略推進の一つが訪問看護事業です。ツクイでは、人々が地域で暮らすために、福祉を軸として周辺の事業や医療との連携を強め、地域価値を創造していくという方向性で事業に取り組んでいます。 地域包括ケアシステムを実現するには、介護だけでも医療だけでもだめで、介護と医療の融合が必要です。そのために、医療系事業の訪問看護もしっかり伸ばしていく必要があると思っています。 ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美

インタビュー
2021年4月6日
2021年4月6日

看護師としてのやりがいは地域での仕事、助け合いもますます重要に

訪問ボランティアナースの会「キャンナス」を25年前に立ち上げて地域ケアの先頭を走りつづけてきた代表の菅原由美さん。今後は、子供のケアや子育て支援に力を入れていきたいと話しています。在宅介護の担い手として、ヘルパーを准看護師として育成したい思いもあるそうです。まだまだ猪突猛進が続きそうです。 今後の構想 菅原: 私が一人開業って言い出したのを応援してもらったり、3.11東日本大震災で避難所の支援をしてから被災地支援が活動の一つとして加わったりと、振り返るといろいろなことをしてきたなぁと。介護保険ができる時には、訪問介護事業所の管理者をなぜ看護師がやってはいけないのか、厚労省に直談判もしたんですよ。最初は、掃除、洗濯は看護師の教育にはないからって言われたんですが、制度がはじまる直前になって、看護師資格を1級ヘルパー扱いとすることになりました。厚労省も含めて、みんな手探りでした。新しいことがはじまるというわくわく感はありました。 介護保険に引っ張られて高齢者ケアに行き過ぎてしまった思いはあります。 私としては、これからは子育て支援や子どものケアに力を入れ行きたいと思っているところです。 実は私は県の委託で3人の子どもの里親になった経験があります。親が育てきれずに施設に預けた子どもたちで、その中には知的障害者もつ子もいて、養育の難しさも感じました。こういう子どもたちは今もたくさんいて、なんとかできないかと。私がキャンナスを立ち上げた時の最初の利用者も、障害児のお母さんでした。その子を預けることができないので、兄弟を病院につれていけないと困っていました。今のお母さんはみんな働いているじゃないですか。高齢者の小規模多機能型サービスの子ども版があって、日中預かるだけでなく、なんかあったら泊まっていいし、病気の時はおうちにも行くよ みたいなサービスがあったらいいなと思ったりもしています。 介護保険ができればキャンナスなんていらなくなると思っていて、きちんと制度をつくりあげることが役割と思ってきたわけですが、状況はそうはなっていません。 このコロナ禍で、医療や介護にまわす財源が先細っていって、地域の助け合いでお願いしますという部分が増えていくのではないかと思います。 ―最後に訪問看護師として働いている方、これから働こうとしている方にメッセージをお願いします。 菅原: 私は病院には10カ月しかいなかったので、それが良いとか悪いとか言える立場にはありませんが、訪問看護の世界に入った人間が病院に戻ることは極々まれです。看護師としてのやりがい、生きがい、楽しみは訪問看護にあるので、せひ来て欲しいし、地域に根ざして頑張ってほしいです。 現実的には、訪問看護師は転職の多い職場ですが、今は仕事がたくさんあって、いくらでも選べるから仕方がない面もあります。そういう意味では、私はヘルパーにも期待していて、現場で頑張っているヘルパーに働きながら看護師の資格をとってもらったらどうかと思っています。 それで在宅での医療ニーズはかなりカバーできます。社会人が4年制大学や3年の専門学校に行くのはハードルが高いから、准看護師がいいのではと思っています。 キャンナスの仲間や介護経営者は、賛同してくれる人が多いです。准看護師は減らす方向で、学校もどんどん減っているので焦っています。 どうしてこう物議を醸すことばかり思いつくのか、自分でも不思議です。まだまだやらないと、と思うことは沢山あります。 キャンナスの25年間の取り組みや、お話ししたような考えは昨年10月に出版した『ボランティアナースの奇跡』(※1)で紹介していますので、ご一読いただけると光栄です。 ** 訪問ボランティアナースの会 キャンナス代表 菅原 由美 東海大学病院ICUに1年間勤務。その後、企業や保健・非常勤勤務の傍ら3人の子育て。96年ボランティアナースの会「キャンナス」を設立。98年有限会社「ナースケア」設立。2009年「ナースオブザイヤー賞」、「インディペンデント賞」受賞。 【参考】 ※1:菅原由美「ボランティアナースの奇跡」

インタビュー
2021年3月30日
2021年3月30日

訪問看護ステーション“一人開業”の必要性、地方分権で基準緩和が争点に

全国訪問ボランティナースの会「キャンナス」の代表、菅原さんには、訪問看護ステーションの一人開業の旗手というイメージもあります。3.11の被災地特例で実現にこぎつけましたが、時間切れで制度化にはいたっていない。“一人開業”の必要性について、菅原さんにお伺いします。 訪問看護ステーションの一人開業 ―訪問看護ステーションの一人開業について、今はどうお考えでしょうか。 菅原: この問題はまだ終わったわけじゃないんです。まだ、火はくすぶっているのはご存知ですか。地方分権に対する地方からの提案で、最低2.5人以上必要となっている人員基準を、都道府県知事の判断で変えられるようにしてほしいというのが出てきました。過疎地の看護師不足は深刻で、1人辞めてしまうと、採用ができなくて、ステーションが維持できなくなります。少ない人数でできるようにしてほしいということです。これは私たちの主張とまったく同じ。令和4年度中に結論を得ることになっていて、期待しています。今回は地方VS厚労省という図式で、私たちは見守るしかないのですが、実現のためならなんでもお手伝いしたいという思いでいます。 ―一人開業に取り組んだきっかけはなんでしょうか? 菅原: 訪問看護が充実すれば、隙間をうめていたキャンナスはなくなるだろうと考えていました。制度の充実が市民の幸せだと。それには、訪問看護ステーションを増やす必要があります。ところが、当初はなかなか増えなかったです。ネックになっていたのが人員配置基準でした。1人辞めるのだけれど、どうしても次がみつからなくて、1.5人になっちゃう。休止しないといけないのかっていうSOSは今もわたしのところにしょっちゅう入ってきます。 どんな商売だって、お客さんが少ない時は1人から始める。ケアマネジャーだって1人から始めて、利用者が増えたときに増員するわけです。それなのに、国家資格をもっている私たちがなんでだめなのって。シンプルなんです。開業する時に、お客さんが1人もいないのに、他の2人分の人件費払って、パソコンも人数分揃えてなんてやっていたら初期投資もかかります。ある程度収益が出るようになったら人を雇います。急に人が辞めてもお客さんを手放さないで、自分で穴埋めして頑張るというのが熱意ある管理者ナースのあるべき姿ではないですか?今は効率化のため大型化がいいという風潮ですが、1人ででもやりたいという意思と能力があれば、それを認めてほしいです。 09年に「開業看護師を育てる会」をキャンナスとは別に立ち上げて、たくさん訪問看護ステーションを増やしていきたいという思いで、「星降るほどの訪問看護ステーションを!」とキャッチフレーズを決めて、シンポジウムを開いて問題提起したり、ロビー活動をしたりとがむしゃらに活動していました。2.5人の基準の根拠はなんですかとずっと聞いてきたのですが、厚労省はずっと説明できていません。民主党政権ができたのが追い風になって、3.11の被災地特例でとして規制緩和が実現した時はやったー!と喜びました。自治体の反発や無理解もあって、特例は3ヵ所で期限がきて、打ち切りになってしまいましたが、1人でも大丈夫という成果を示せたと思っています。 大切なのは「志」(こころざし) 今、訪問看護ステーションもずいぶん増えて、あの頃とは状況が変わってきました。資格があれば、いくらでも仕事があるみたいな時代になって。それで、数ではなくてやはり「志」(こころざし)だと考え直しました。キャッチフレーズも変えて、「星降るほどの訪問看護“志”を!」にしています。 志(こころざし)があって、2.5人以上集まらないなら、自費で1時間1,600円、2,000円という世界ですが、キャンナスとして仲間に入ってもらえるとありがたいなと思います。 ** 訪問ボランティアナースの会 キャンナス代表 菅原 由美 東海大学病院ICUに1年間勤務。その後、企業や保健・非常勤勤務の傍ら3人の子育て。96年ボランティアナースの会「キャンナス」を設立。98年有限会社「ナースケア」設立。2009年「ナースオブザイヤー賞」、「インディペンデント賞」受賞。

インタビュー
2021年3月23日
2021年3月23日

訪問看護ステーションとボランティアを両輪で。補完し合い各地で多様な事業展開

「志」でつながっているという全国訪問ボランティアナースの会「キャンナス」。今回は各拠点の具体的な事業内容について代表の菅原由美さんにうかがいました。 制度事業とボランティア ―菅原代表のところでは、ボランティアとしてのキャンナスと営利法人での訪問看護ステーションの両方をやっていますね。 菅原: キャンナスをはじめて、しばらくしたら介護保険制度ができることがわかりました。制度の事業をするには、法人格が必要で、選択肢としては非営利のNPO法人もあったので、かなり悩みました。大手企業も続々参入する介護保険事業が非営利と思えなかったので、営利法人を別につくって、訪問介護、訪問看護はそちらで始めることにしました。キャンナスは制度の足りないところを埋めるスキマ産業で、制度が充実していけば、なくなると思っていたんです。キャンナスは1時間1,600円ですが、介護保険だと1割負担で数百円。制度が成熟することが市民の幸せだと。結果的には、この時の選択は正しかったのだと思います。両輪だから補い合うことができます。 各拠点での活動内容 ―各拠点で、どのような活動をなさっているのか詳しく教えていただけませんか? 菅原: 本当にいろいろです。細かなところまでは正直よくわからないのですが、よかったら、昨年10月にこの25年の活動を『ボランティアナースの奇跡』(※1)として出版しましたのでご覧ください。 この中では、8ヵ所の拠点のルポもあって、たとえば、キャンナス世田谷用賀は、もともと訪問看護ステーションがあって、患者さんの「普通の暮らしがしたい」という願いをかなえるために6年後にキャンナスを始めました。 キャンナス名古屋の代表は、ALSの患者さんのシェアハウスをやっていて、会社で訪問看護、訪問介護、居宅介護支援を行い、キャンナスは楽しみや人生の目的の支援と位置付けています。 石川県のキャンナス加賀山中は、訪問看護師として働くかたわら、空き家になった代表の実家を拠点に500円でワンコイン入浴をしていて、そこを地域の高齢者の通いの場にもしています。自分の体調も万全ではないのに、引きこもりの若者を引っ張り出して、林業に世話したりと、ひとり暮らしの高齢者の家に雪かきに行ったり飛びまわっていて、これが原点と頭が下がる思いです。 この本に掲載はされていないですが、北海道では、農協と連携して、家族が農作業をしている間に、お年寄りを集めて預かるという事業をキャンナスとしている代表もいます。 みんな違ってそれでいい 菅原: 医療保険、介護保険で足りない部分をキャンナスで補うかたちで考えている方もいれば、サラリーマン看護師として、空いている時間でやっている方もいて本当にそれぞれです。 本では、各拠点に行ったアンケートも紹介しています。回答してくれたのは、34カ所で、右向け右みたいな統制がとれてないところがキャンナスらしいねと笑いましたが、おおむねこんな感じではと思います。併設事業所がないキャンナスだけをやっているところと、併設事業所があるところがだいたい半分ずつ。 キャンナスをはじめようと思った理由も聞いていますが、「訪問看護ではできない暮らしの手助けがしたい」が一番で、次が、「看護師として地域貢献したい」で、その次が「訪問看護の上乗せ」でした。制度の穴埋めがメインの理由ではなく基本的にはみんなおせっかいなおばさん(笑)。 提供したことのある支援では、「通院以外の外出の付き添い」「通院時の付き添い」が多く、「宿泊付き旅行の付き添い」もいれると長時間になる外出系はニーズがある。次に、「喀痰吸引」で「掃除・洗濯」「食事・洗濯」と続いています。利用料は1時間あたり1,500円から3,000円くらいで、支援内容によって差をつけているところもあります。 地方では、他の訪問看護ステーションで対応できない時間帯の摘便に行ってとか、そういう使われ方をすることもあるようです。 ですが、それが地域の信頼を得ている、ということにもつながっているような気がします。訪問看護ステーション+キャンナスがあることで、補完し合い、地域に活かせると思います。 ** 訪問ボランティアナースの会 キャンナス代表 菅原 由美 東海大学病院ICUに1年間勤務。その後、企業や保健・非常勤勤務の傍ら3人の子育て。96年ボランティアナースの会「キャンナス」を設立。98年有限会社「ナースケア」設立。2009年「ナースオブザイヤー賞」、「インディペンデント賞」受賞。 【参考】 ※1:菅原由美著「ボランティアナースの奇跡」

インタビュー
2021年3月23日
2021年3月23日

管理者インタビューMy Care Style vol.1

管理者インタビュー『My Care Style 』第1回目は、訪問看護ステーションリカバリー看護師の柴山様にお話をうかがいます。 スタッフに対しても、利用者さんに対しても、相手の視点で考えることを大切にしています。 訪問看護ステーションリカバリー 看護師・柴山 宜也(しばやま よしなり) 消化器急性期病棟で3年、老健やデイサービスで1年働いた後に、訪問看護未経験で現在のステーションに入社し、7年目になります。身内の不幸をきっかけに看護師を目指し、初めは看護技術を習得するために、急性期を極めようと大学病院に勤務しました。しかし、「そもそも倒れないような関わりが必要なのでは?」と思うようになったことで高齢者医療や予防医療に興味を持ち、「倒れても対応できる看護師から、倒れないように対応できる看護師へ」と考え方が変わりました。 休日は、今は家族と過ごすことが多いですが、以前は勉強会に積極的に参加して他のステーションの管理者や責任者、その他医療介護業界の方と交流をしていて、それが今の新宿医介塾の運営につながっています。 Q ステーション運営で心がけていることは? 相手の立場に立って考えることが大事だと、過去の経験から痛感しています。 初めて管理者になったときはとても意気込んでいて、新人が少しでも早く一人前になれるように情熱を注いだ結果、逆効果になったことがありました。新人に対して1から10まで教えて、完璧を求めてしまったために、パンクしてしまったのです…とても反省しています。 今は、新人の気持ちや、本人が受け入られるキャパシティを見極めた上で、話し合いながら育成するようにしています。 新人教育は、基本的にはOJTがメインで、現場チューター制度をとり、担当をつけつつチームで教育を行っています。管理者は全体の教育を考える立場ですが、新人と年齢が離れていることで話しづらい時もあり、気軽に相談できるチューターが中心になって進めています。 新人には3ヵ月同行しますが、みなさん優秀で、3ヵ月経つと8割以上は一人前になります。あとは、その中で見ていない疾患に同行したり、契約を覚えてもらったりで、おおよそ一年で大体の業務は対応できるようになります。 管理者以外のスタッフにも契約を覚えてもらい、重要事項説明をしてもらうのは、お金の管理も含めて、「訪問看護の対価はどのくらいか=自分の価値を知る」を理解してもらいたいからです。 リハビリ職など他の職種とのコミュニケーションについても、相手がどう考えるかを常に気をつけています。 看護師には看護師なりの考えがあり、リハビリにはリハビリの考え方があり、利用者さんにとってはどちらも大切な専門職です。双方の異なる価値観を尊重することが、お互いの知識と経験を養い、成長につながり、結果的には利用者さんにより良いが提供できると思います。 しかし、看護職はリハビリ職を「大切なパートナー」と考える人もいれば、残念ながら「下級医療職」と見下してしまう人もいます。また、リハビリ職は「看護師は忙しそう、話しづらい」と考える人もいます。 そういった垣根を壊すような運営方針、取り組みを行っています。 またマネジメントについては、もちろん社内の人にも相談はしますが、個人的に参加していた勉強会で社外の管理者などと知り合うことができ、社外にも相談できるネットワークができたのは財産です。 Q 利用者さんに対して心がけていることは? 大きくは二つあります。 一つは、会社理念でもある「もう一人の家族」の視点で関わること。 「利用者さんが自分の両親、親族だったら何をしてあげたいか」「もし利用者さんの家族に医療者がいたら、どんな相談をしたいか」を親身になって考えるようにしています。 もう一つは、思い込まないこと。主訴の裏には大きな異変が隠れていることもあります。 家族から「朝、寝室から起きてきて、リビングでくつろいでいたけど、リビングで寝たまま起きないんです」と相談されたことがあります。糖尿病のある方だったので低血糖も疑って訪問してみると、脳梗塞を発症していて除脳硬直状態、すぐに救急搬送になりました。 病院と在宅では、いくつか違いがあります。 病院では患者さんが病院に治療を受けに来ますが、在宅では利用者さんの療養している家に私たちが入ります。看護師は、病院ではホームですが、在宅だとアウェイです。そのため、アウェイでは利用者さんとの信頼関係がものすごく重要で、知識・技術以上に人間性、コミュニケーション力が求められると思います。 また病院では、一人の患者さんにじっくり向き合うことが難しいのが現状ですが、在宅では利用者さんとの決まった時間が確保されています。その時間の中で、精一杯利用者さんに向き合うことで、信頼関係が構築できた時はとてもうれしいですね。 病院では「看護師さん」や「リハビリの先生」と呼ばれますが、訪問看護では名前で呼んでくれる利用者さんが多いです。それは人として向き合ったことで、看護師個人として評価・信頼してもらっている証だと思っています。 Q 未経験の方にメッセージをお願いします。 「訪問看護をやりたい!」と思っていても、学校の先生や、病院の先輩から「まだ早い」とか「色々な科を経験してからじゃないと」とか、いろいろ言われる業界ですので、ハードルが高く感じる方もたくさんいると思います でも一番大事なのは、訪問看護に対して興味があることではないでしょうか。目の前の患者さん、利用者さんとがむしゃらに関わることができる人であれば、臨床経験の長さはあまり問題にならないと思います。 ITが普及している昨今であれば、訪問時に困ってもすぐに先輩に相談できますし、教育体制がしっかり整っているステーションもあります。実際、私たちのステーションも未経験者ばかりですが、みなさん楽しそうに訪問しています。 「できるか、できないか」ではなく、「やってみたい」という前向きな気持ちが何よりも大切です。ぜひチャレンジしてみてください! ** 会社名:Recovery International株式会社 ステーション名:訪問看護ステーションリカバリー 併設サービス:訪問マッサージ 所在地:東京都新宿区西新宿6-16-12第一丸善ビル6階 最寄り駅:都営大江戸線西新宿5丁目駅 ■職場環境 スタッフ数:看護師10名、セラピスト10名 年齢層:23~40歳。平均年齢32歳 訪問エリア:主に新宿と渋谷方面 移動手段:基本は電動自転車。悪天候時は公共交通機関を使用 周辺環境:都庁や新宿中央公園があり、都会の中でも緑が多い。オフィス街と住宅街があり、周囲には飲食店も多く環境は良い。 オンコール対応:東京では希望性のため月1回から。希望した場合や指導する立場の看護師は月8回程度。実際には平均月10回程度で、半年以上オンコールに呼ばれない看護師も多くいる。電話は1日1~2回で、18~22時にかかってくる電話が7割以上、深夜は月に5回未満 ■利用者層 疾患の傾向:ご利用者さんを重症度などで選定していないため、要介護5から要支援1まで請け負っており、さまざまな疾患がある。ALSやパーキンソン病などの難病の方、癌末期の方、糖尿病や慢性腎不全や心不全を抱えている方など 保険別の割合:季節にもよるが、介護保険が7~8割、医療保険が2~3割程度

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