ステーション運営に関する記事

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定
2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定
特集
2024年5月21日
2024年5月21日

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定

2024年度介護報酬改定では、多くのサービスにまたがる義務化措置や加算の見直しが行われています。また、報酬の適正化という観点からの改定も行われました。今回は、そうしたテーマについて取り上げます。 BCPが未策定の場合の減算規定 まずは、2021年度に基準上の規定が設けられ、3年の経過措置をもって完全義務化された業務継続計画(以下、BCP)策定等の取り組みと高齢者虐待防止の推進です。いずれも2024年度からの完全義務化に伴い、未実施の場合の減算規定も設けられました。 1つめのBCP策定に関する完全義務化の内容を整理すると以下のようになります。 1. 感染症および自然災害の発生時を想定したBCPの策定2. 1に従い必要な措置(備蓄品の管理や担当者の使命など)を講ずること3. 従事者に対して、1にかかる研修を実施すること※4. 従事者に対して、1にかかる訓練(シミュレーション)を実施すること※ ※3および4に関しては、訪問看護の場合で年1回以上 上記のうち、1、2が未実施の場合の減算が設けられました。これを「業務継続計画未策定減算」といい、未策定の状況が解消されるまで所定単位数から1%が減算されます(施設・居住系については3%)。感染症および自然災害のBCP、いずれか1つでも未策定の場合で減算適用となるので注意しましょう。ただし、訪問看護を含む訪問系サービスについては、感染症対策の強化に関する義務化から日が浅いため減算規定の適用は2025年3月末まで猶予されます。 なお、減算になる期間は「1、2を満たさない状況が発生した翌月(状況の発生が月の初日であればその月)」からスタートし、「1、2を満たさない状況が解消された月」までです。 高齢者虐待防止措置の未実施も減算 高齢者虐待防止の推進において、2024年度から完全義務化となる項目は以下のとおりです。 1. 虐待の防止のための対策を検討する委員会(オンライン開催可能)を定期的に開催すること2. 1の結果について、従事者に周知徹底を図ること3. 虐待の防止のための指針を整備すること4. 従事者に対し、虐待の防止のための研修を年1回以上実施すること5. 1~4の措置を適切に実施するための担当者を置くこと この1~5のいずれかでも実施されていない状況が生じた場合、速やかに都道府県*1に「改善計画」を提出しなければなりません。その上で、「改善計画」に則った取り組みを行い、「実施されていない状況」が生じて*2から3ヵ月後に、改善状況をやはり都道府県に報告して「改善」が認められることが必要です。 上記の「実施されていない状況が生じた月の翌月」から「最終的に都道府県に改善が認められた月」までの間は、減算が適用されます。これを「高齢者虐待防止措置未実施減算」といい、月あたり所定単位数から1%の減算が行われます。 *1 看護小規模多機能型居宅介護の場合、市町村(指定権者)に改善計画を提出する。 *2 運営指導等で未実施が発見された場合、その発見月の翌月からとなる。 身体的拘束等の適正化が運営基準に 先の高齢者虐待防止の取り組みは、利用者の尊厳確保に関して不可欠なテーマです。同様のテーマから定められた規定がもう1つあります。それが「身体的拘束等の適正化」です。診療報酬改定でも規定されていますが、改めて取り上げましょう。 >>診療報酬改定の「身体的拘束等の適正化」についてはこちら2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化 具体的には、以下の規定が運営基準に設けられました。 1. 利用者または他の利用者等の生命・身体を保護するための「緊急やむを得ない場合」を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下、身体的拘束)を行ってはならない。2. 身体的拘束等を行う場合には、その態様および時間、その際の利用者の心身の状況ならびに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。 いずれも施設系、居住系、短期入所系、小規模多機能系ではすでに設けられている規定ですが、2024年度からは訪問系や通所系、居宅介護支援でも定められました。 1の規定にある「緊急やむを得ない場合」とは、 切迫性(利用者等の生命・身体への危険が切迫していること)非代替性(他に方法がないこと)一時性(一時的であること) の3つの要件を満たすことです。各要件の確認については、組織としての手続きを慎重に踏む必要があります。現場の一従事者の判断だけに任せてはいけません。 特別地域加算等の地域の範囲見直し 訪問系、通所系、小規模多機能系など複数のサービスにまたがる加算上の見直しとしては、特別地域加算、中山間地域等の小規模事業所加算、中山間地域に居住する者へのサービス提供加算があります。いずれも、訪問時の移動に過剰な時間が費やされがちな地域で、その人件費・燃料費等のコストを考慮した加算です。 具体的な対象地域を示します。 いずれの対象地域にも含まれている「過疎地域」。この場合の「過疎地域」とは、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」の第2条第1項に規定された地域です。一方で、同法では「みなし過疎地域」に関する公示もあり、今改定ではこの「みなし」とされていた地域も含めることになりました。 PT等による訪問にかかる厳しい減算 最後に、利用者ニーズに合わせた訪問看護の適切な提供を図るための改定を取り上げます。具体的には、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(以下、PT等)によるサービス提供への評価です。 近年、訪問看護ステーションにおけるPT等の従事者割合が増えており、PT等の訪問による単位数も増加傾向にあります。 こうした状況を受け、リハビリ系サービスとの役割分担の観点から、2021年度改定ではPT等による訪問での基本報酬が引き下げられました。それでも、例えばPT等による訪問回数が看護職員による訪問を上回っているといったケースも指摘されていました。 そこで、2024年度からは、PT等による訪問についての減算も設けられました。減算の対象はPT等による訪問で、要件は以下のとおりです。 1. 事業所における前年度(前年4月から当該年3月まで)のPT等による訪問回数が、看護職員による訪問回数を超えていること2. 1に適合しない場合であっても、前6ヵ月間において、緊急時訪問看護加算、特別管理加算、看護体制強化加算をいずれも算定していないこと【上記を満たす場合】1回につき8単位を所定単位数から減算(なお、1について、2023年度の実績に応じ、2024年度は同年6月1日から2025年3月末までの減算となる) 上記は介護予防訪問看護でも同様です。 なお、2021年度改定では、介護予防訪問看護の適正化の観点からサービス提供が12ヵ月超の場合に5単位の減算が適用されています。このケースについて、上記のPT等による過大訪問の減算が適用されている場合、減算幅は「5単位」⇒「15単位」となります。かなり厳しい減算となる点に注意が必要です。 次回は、トリプル改定のうちの障害福祉サービスの中から、訪問看護に関係のある内容を取り上げます。>>次回の記事はこちら2024年度障害福祉報酬改定 ポイント解説/相談支援における連携への対応など ※本記事は、2024年4月23日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html2024/4/23閲覧○厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15日)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230308.pdf 2024/4/23閲覧

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保
2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保
特集
2024年5月14日
2024年5月14日

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保

トリプル改定のうち、今回と次回は訪問看護の介護報酬について取り上げます。介護報酬改定も、診療報酬とおおむね同様のテーマに沿った改定が行われました。さらに、診療報酬側との整合性を取ることで、医療・介護問わず切れ目ない支援がめざされています。 まず注意したいのは、介護報酬改定の施行時期です。介護報酬改定の施行時期は原則2024年4月ですが、訪問看護については診療報酬改定の施行時期との整合性を取るために6月施行となりました。 この点を頭に入れつつ、具体的な改定項目を見ていきましょう。 24時間対応の充実に向けた加算再編 診療報酬側では、利用者ニーズへの即応性や現場の業務負担の軽減という2つのテーマをめぐり、24時間対応体制の充実が図られました。介護報酬側でも、これに対応して「緊急時訪問看護加算」の改定が行われています。 改定前の同加算の区分は1つ。その要件は「利用者やその家族から、電話等で看護に関する意見を求められた場合に、保健師や看護師(以下、看護師等)が常時対応できる体制にあること」でした。今改定では、追加要件を付した新区分Ⅰが設けられ(旧要件のみの区分はⅡ)、単位が上乗せされています。 緊急時訪問看護加算(月あたり) ※「上記以外」とは「病院・診療所の場合」および「一体型定期巡回・随時対応型訪問 介護看護事業所の場合」をいう 追加要件「現場の業務負担の軽減策」とは 新区分Ⅰに追加された要件は、「緊急時訪問における看護業務の負担軽減に資する十分な業務管理等の体制整備が行われていること」です。具体的には以下の6項目で、そのうち2項目以上を満たす必要があります。 緊急時訪問看護加算(Ⅰ)の看護業務の負担軽減に資する取り組み1. 夜間対応した翌日の勤務間隔の確保2. 夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)まで3. 夜間対応後の暦日(午前0時から24時まで)の休日確保4. 夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫5. ICT・AI・IoT等の活用による業務負担軽減6. 電話等による連絡・相談を担当する者に対する支援体制の確保 なお、上記の6の連絡・相談を担当する者は、以下の条件を満たしている場合には、看護師等以外の職員が担当しても構わないとされました。 ア 看護師等以外の職員が、利用者・家族等からの電話等による連絡・相談に対応する際のマニュアルが整備されていることイ 緊急の訪問看護の必要性の判断を、看護師等が速やかに行える連絡体制および緊急の訪問看護が可能な体制が整備されていることウ 事業所の管理者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員の勤務体制や勤務状況を明らかにすることエ 看護師等以外の職員は、電話等により連絡・相談を受けた際に、看護師等へ報告すること。報告を受けた看護師等は、当該報告内容等を訪問看護記録書に記録することオ アからエまでについて、利用者・家族等に説明し、同意を得ることカ 事業者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員について届け出ること 新区分Ⅰにかかる追加要件と連絡・相談担当者の範囲拡大は、診療報酬側の「24時間対応体制加算」をめぐる要件や届出基準と同じであることが分かります。 専門性の高い看護師による管理を評価 利用者ニーズの即応性に関しては、在宅での重度療養ニーズへの対応強化が図られました。 まずは新加算「専門管理加算(月250単位)」です。これは専門性の高い看護師による利用者への計画的な管理を評価した加算です。要件は、(1)一定の専門研修を受けた看護師が、(2)厚生労働省(以下、厚労省)の定める利用者に計画的な管理を行った場合に算定されます。この(1)と(2)には2ケースあり、具体的な内容は以下のとおりです。 なお、診療報酬では「機能強化型訪問看護管理療養費1」の施設基準として「専門の研修を受けた看護師の配置」が求められました。ここでも、診療報酬との関連が見られます。 退院時にかかわる評価の見直し 退院時の共同指導における要件見直し 重度療養ニーズを有する利用者へのサービスでは、入院医療機関から退院するタイミング以降のかかわりも大きなポイントです。そのタイミングにかかる2つの評価が見直されました。 1つめは、「退院時共同指導加算(1回600単位)」の見直しです。これは、医療機関からの退院や介護老人保健施設からの退所にあたり、(医療機関の医師やそのほかの従事者と合同での)利用者・家族への共同指導、およびその直後の初回訪問看護について評価する加算です。 この要件について、共同指導の内容を「文書」で提供するという規定がなくなりました。利用者の退院後には本人・家族にさまざまな不安や戸惑いが生じがちです。そうした状況への対応に集中するための効率化が図られました。 退院後の「初回加算」はどうなった? 2つめは、先の「退院時共同指導加算」を算定していない場合に退院後の初回訪問を評価した「初回加算」です。同加算について、「退院・退所の当日の訪問」と「当日以降の訪問」によって2区分に再編されました(併算定はできません)。 初回加算 これも、退院当日から本人や家族は大きな不安・戸惑いに直面しがちであるという点から、当日訪問を手厚く評価したことになります。 在宅療養に不可欠な「口腔衛生管理」 自宅療養を行う利用者に対して、自立支援・重度化防止の取り組みも強化されています。2024年度の介護報酬改定で、重点が置かれている取り組みの1つが「口腔衛生」の管理です。 この取り組みへの推進に向け、訪問看護をはじめとした訪問系サービスのほか、短期入所系サービスにおいて、利用者の口腔衛生の状況確認を評価する加算が設けられました。それが「口腔連携強化加算」です。1回50単位で、月1回に限り算定されます。要件は以下のとおりです。 口腔連携強化加算の算定要件1. 訪問看護師等が、利用者の口腔の健康状態の評価を実施すること2. 利用者の同意を得て、1の評価結果を、歯科医療機関および介護支援専門員に情報提供(※)すること※「口腔連携強化加算に係る口腔の健康状態の評価及び情報提供書情報提供書」は以下のリンク先を参照のことhttps://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F12300000%2F001227893.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK3. 1の評価を実施するにあたり、診療報酬の歯科訪問診療料(歯科点数表区分番号C000)の算定実績がある歯科医療機関の歯科医師または歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が、訪問看護師等からの相談に対応する体制を確保し、その旨を文書等で取り決めていること 看取り期での医療保険と介護保険の整合性 在宅療養においては、利用者や家族が「退院して在宅での看取りを望む」といったケースも増えています。仮に本人が介護保険の適用対象にもかかわらず要介護認定を受けていない場合、訪問看護は医療保険でのサービス提供となります。 そうしたケースが増えてくると、医療保険と介護保険での訪問看護にかかるしくみの整合性がますます問われます。その点を考慮した介護報酬側の改定が2つ行われました。 「ターミナルケア加算」の単位アップ 1つは、介護報酬側の「ターミナルケア加算」です。これは、死亡日および死亡日14日以内に2日以上訪問した場合に、死亡月につき算定されます(末期がんなど厚労省が定める疾患に限る)。診療報酬上でこれに対応するのが「訪問看護ターミナルケア療養費」ですが、両者で単位数が異なっていました。今回の介護報酬改定では、以下のように揃えることになりました。 ターミナルケア加算 参考:診療報酬の「訪問看護ターミナルケア療養費Ⅰ(在宅で死亡した場合)」は25,000円1点=10円で計算した場合に診療報酬側とそろう 死亡時の遠隔診断にかかる加算も もう1つは、今改定で誕生した「遠隔死亡診断補助加算(1回150単位)」です。利用者が厚労省の定める離島や過疎地域、豪雪地帯などに居住しており、死亡時に医師が訪問できないとき、訪問看護師が情報通信機器を用いて医師の死亡診断を補助した場合に算定されます。算定要件は以下のとおりです。 遠隔死亡診断補助加算の算定要件1. 訪問する看護師が、「情報通信機器を用いた在宅での看取りに係る研修(日本医師会などが実施)」を受けていること2. 利用者が診療報酬上の「死亡診断加算」の対象(計画的・定期的な訪問診療を行っていること)であること3. 正当な理由のために、医師が直接対面での死亡診断等を行うまでに12時間以上を要することが見込まれる状況であること この加算も、2024年度の診療報酬改定で訪問看護に「遠隔死亡診断補助加算」(1回150単位)が誕生したことに合わせたものです。 次回は、2024年度から完全義務化された業務継続計画(BCP)の策定など、多くのサービスにまたがって適用された運営基準や加算・減算について取り上げます。 >>次回の記事はこちら2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定 ※本記事は、2024年4月16日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○ 厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html2024/4/16閲覧○ 厚生労働省(2024).「介護保険最新情報Vol.1225『「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol1)(令和6年3月15日)」の送付について』」https://www.mhlw.go.jp/content/001227740.pdf2024/4/16閲覧

2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化
2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化
特集
2024年5月7日
2024年5月7日

2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化

診療・介護・障害福祉サービスの各報酬にかかる、個別の改定ポイントを解説。今回は、訪問看護における医療DXにかかる新加算や機能強化型訪問看護ステーションの評価アップ、多様なニーズへの対応、既存加算における各種評価の適正化などを取り上げます。 医療DXへの対応 「訪問看護医療DX情報活用加算」が新設 居宅同意取得型のオンライン資格確認等システムを通じて利用者の診療情報を取得し、その活用によって質の高い訪問看護を提供した場合について、「訪問看護医療DX情報活用加算」が新たに設けられました。月1回に限り50円(5点)が加算されます。 「居宅同意取得型」とは、利用者の自宅でオンラインの資格確認(マイナンバーカードによる本人確認にもとづく資格情報の取得)や薬剤情報の提供に関する同意を、デジタル端末で得ることをいいます。 施設基準は以下の通りです。 施設基準1. 電子情報処理組織の使用による請求(オンライン請求)を行っていること2. 電子資格確認を行う体制を有していること3. 事業所の見やすい場所に、以下の事項を掲示していること ● 医療DX推進の体制に関する事項 ● 上記体制により,質の高い訪問看護を実施するための十分な 情報を取得していること ● 上記の情報を活用して訪問看護を行っていること4. 3の事項について、原則としてウェブサイトに掲載していること なお、4の基準は2025年5月末までの経過措置が設けられています。 オンライン請求に伴う指示書様式の見直し 医療DXに関しては、2024年6月から訪問看護レセプトのオンライン請求が始まります。これを踏まえ、訪問看護指示書(精神科訪問看護指示書含む)の記載事項や様式が見直され、「主たる傷病名」にそれぞれ「傷病名コード」を付すことが原則となりました。 医師の死亡診断に関しICTを使った補助も評価 業務のデジタル化という点では、在宅ターミナルケア加算においてICTを活用した新加算「遠隔死亡診断補助加算(1回150点)」が加わりました。在宅での利用者の看取りに際し、医師が行う死亡診断を、訪問看護師がICTを活用して遠隔で補助した場合の評価です。利用者が離島などに在住し、死亡時に医師の訪問が難しいケースを想定したものです。 対象は、在宅ターミナルケア加算を算定している利用者。その利用者に対し、ICTを用いた在宅での看取りに係る研修を受けた看護師が、医師の指示のもとで死亡診断の補助を行うことが要件です。 機能強化型訪問看護ステーションの評価手厚く 今改定では利用者ニーズへの即応性に関する見直しも行われています。 1つめは、機能強化型訪問看護ステーション(以下、機能強化型)に関する評価です。機能強化型は、24時間の対応体制や手厚いターミナルケアの実績など、重度化する在宅のニーズに応える体制を整えているのが特徴です。今改定では、この機能強化型の訪問看護管理療養費が1~3の各区分ですべて引き上げられました。 機能強化型訪問看護管理療養費(月の初日の訪問の場合) 区分1では、「専門研修を受けた看護師の配置」が「望ましい(推奨)」から「必須」に格上げされています。 なお、2024年3月末までに区分1にかかる届出を行っている事業所は、上記の格上げ要件を満たさなくても、2026年5月末までは区分1の基準を満たしているとみなされます。 機能強化型以外も初日の訪問は引き上げ 機能強化型以外の事業所による「訪問看護管理療養費」についても、月の初日の訪問は以下のように引き上げられました。 機能強化型以外の訪問看護管理療養費(月の初日の訪問) また、算定留意事項には以下の内容が加わりましたので、確認しておきましょう。 訪問看護管理療養費の新たな留意事項(一部意訳)災害等が発生した場合でも、訪問看護の提供を中断させないこと。中断しても可能な限り短期間で復旧させ、利用者への訪問看護の提供を継続的に実施できるよう業務継続計画(BCP)を策定し、必要な措置を講じていること。 介護保険では業務継続にかかる取り組みは、2024年度から完全義務化されています。医療保険でもBCP策定や研修・訓練の実施が問われたことになります。 2日目以降の訪問は? 適正化の細かい基準に注意 一方、2日目以降の訪問は、報酬上の評価がニーズへの対応に見合っているかが精査された上で「適正化」が図られました。 単価は2区分に再編され、区分ロ(訪問看護管理療養費2)については引き下げとなりました。 訪問看護管理療養費[月の2日目以降の訪問(1日につき)] 訪問看護管理療養費1の基準は以下の通りです。 【訪問看護管理療養費1の基準】⇒以下の(1)、(2)にともに該当していること(1)同一建物居住者(※1)が7割未満(2)以下のAまたはBのいずれかに該当することA. 特掲診療料の施設基準等別表の7、8(※2)に該当する者への訪問看護について相当な実績を有することB. 精神科訪問看護基本療養費を算定する利用者のうち、GAF尺度(※3)による判定が40以下の利用者の数が月に5人以上 ※1 同一建物居住者…対象となる利用者と同一の建物に居住する他の者に対して、同一日に指定訪問看護を行う場合※2 特掲診療料の施設基準等別表の7、8は以下のリンクを参照▼厚生労働省「特掲診療料の施設基準等」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9733&dataType=0※3 GAF尺度…以下のリンク先を参照▼厚生労働省「GAF(機能の全体的評定)尺度」https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/11/dl/s1111-2a.pdf 上記の(1)に該当しない、あるいは(2)のA・Bいずれにも該当しない場合は、訪問看護管理療養費2の算定となります。なお、2024年3月末時点で指定を受けている事業所では、2024年9月末までは、上記の要件を満たしていなくても訪問看護管理療養費1の算定が可能です。 「緊急訪問看護加算」も適正化により減算 サービス提供実態によって「適正化」が図られた評価には「緊急訪問看護加算」もあります。同加算は(1)利用者・家族の求めに応じ、(2)主治医の指示にもとづき、(3)緊急の訪問看護を行った場合に算定されるものです。 ただし、訪問が頻回となった場合、それが「緊急訪問として適切か」が問われました。そこで、日数に応じて「月15日以降」の緊急訪問看護に減算が適用されます。 緊急訪問看護加算 算定要件も新たな規定が加わりました。それは、記録の明確化と算定理由の記載です。 緊急訪問看護加算の新基準(意訳)● 緊急に指定訪問看護を実施した場合は、その日時、内容及び対応状況を訪問看護記録書に記録すること● 緊急訪問看護加算を算定する場合には、同加算を算定する「理由」を、訪問看護療養費明細書に記載すること 医療ニーズが高い利用者の退院支援 ニーズへの即応性に関し、さらに注目したいのが次の2つです。(1)医療ニーズの高い利用者の退院支援(2)母子への適切な訪問看護の推進 医療ニーズの高い利用者の退院支援 具体策は、「退院支援指導加算」の要件見直しです。同加算は、利用者の退院にあたり、訪問看護師が退院日に「在宅での療養上必要な指導」を行った場合に算定されます。 変更点は「長時間の訪問を要する者への指導」に関する要件です。改定前は、「1回の退院支援指導が90分超」のみ算定できましたが、ここに「複数回の退院支援指導の合計が90分超」も算定可能となりました。この見直しは、利用者の状態によって長時間指導が難しい(頻回訪問による指導が望ましい)ケースがあるという実態に沿ったものです。 母子への適切な訪問看護の推進 母子への適切な訪問看護の推進には乳幼児の状態に応じた対応への評価と、ハイリスク妊産婦に対する支援の充実が示されています。 前者は、訪問看護基本療養費の「乳幼児加算」の見直しです。同加算は、6歳未満の乳幼児に訪問看護を行った場合に算定されますが、ここに対象者が超重症児や準超重症児などの場合の単価を引き上げた評価が新設されました。 一方で、従来区分については単価を引き下げ、訪問看護での対応ケースの重点化も図られています。 乳幼児加算の見直し ※(2)の別表第七、(3)の別表第八に関しては以下を参照▼厚生労働省「特掲診療料の施設基準等」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9733&dataType=0 後者の具体策は「ハイリスク妊産婦連携指導料」の要件追加です。同加算は、精神疾患を合併したハイリスク妊産婦への支援に向け、診療方針にかかる多職種カンファレンスを2ヵ月に1回開催した場合に算定されます。適用されるのは産科・産婦人科医院ですが、この多職種連携の対象に、患者を担当する訪問看護ステーションの看護師、保健師、助産師が加わりました。 利用者の尊厳保持にかかる2つの基準見直し 最後に、「利用者の尊厳保持」という観点からの訪問看護の運営基準上での見直しに注目します。 具体的には、(1)虐待防止措置、(2)身体的拘束の適正化の推進が定められました。(1)は、訪問看護の運営規程の中に「虐待の防止のための措置に関する事項」を盛り込むことが義務づけられ、(2)については具体的取扱い方針に以下の2つが盛り込まれました。 指定訪問看護の具体的取扱い方針の第15条より(要約)● 指定訪問看護の提供に当たっては、利用者または他の利用者等の生命・身体を保護するため「緊急やむを得ない場合」を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」)を行ってはならない● 前号の身体的拘束等を行う場合には、その態様および時間、その際の利用者の心身の状況、「緊急やむを得ない理由」を記録しなければならない 上記の「緊急やむを得ない場合」とは、切迫性、非代替性(他に方法がないこと)、一時性の3つの要件を満たすことです。また、その要件の確認については、組織としての手続きを慎重に行う必要があります。個人の判断に任せてはいけないということに注意しましょう。 次回は、介護報酬上の改定点について取り上げます。>>次回記事はこちら2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保 ※本記事は、2024年4月9日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 医療DXの推進」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001219984.pdf2024/4/9閲覧○厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf 2024/4/9閲覧

2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善
2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善
特集
2024年4月16日
2024年4月16日

2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善

今回から、診療・介護・障害福祉サービスの各報酬にかかる、個別の改定ポイントを取り上げます。前回の「全体像 ポイント解説」でも述べた課題への対応に向け、訪問看護ではどのような改定が行われたのでしょうか。まずは診療報酬での改定から取り上げます。 >>トリプル改定 全体像 ポイント解説についてはこちら 2024年度トリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉報酬改定)の全体像 解説 医療・介護・障害福祉の各分野が直面する(1)高齢化に伴うニーズの多様化、(2)賃金水準向上と人手不足、(3)現場業務の効率化を図るためのDXという3つの課題。この課題に総合的に対応したのが、訪問看護管理療養費における「24時間対応体制加算」の見直しです。同加算を再編して評価を手厚くし、さらに「看護業務の負担軽減の取組」を評価した高単位の区分を設けました。 「24時間対応体制加算」は報酬を引き上げ2区分に 本改定では、24時間対応体制への評価は以下のように2区分に見直されました。 イは「24時間対応体制における看護業務の負担軽減の取組を行っている場合」、ロは「それ以外の場合」です。イの業務負担軽減の取り組みは以下の6項目です。そのうち、a・bのいずれかを含む2項目以上を満たしている必要があります。 看護業務の負担軽減の取り組み(届出基準通知)a.夜間対応した翌日の勤務間隔が確保されているb.夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)までc.夜間対応後の暦日の休日が確保されているd.夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫がなされているe.ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減がなされているf.電話等による連絡・相談を担当する者への支援体制が確保されている 連絡・相談対応のための担当者配置に特例 24時間対応では、利用者・家族からの相談対応や連絡の体制確保に向けた担当者の配置が必要です。ここでも、事業所の保健師や看護師(以下、看護師等)の「業務負担の軽減」から、サービス提供体制が確保されていれば、看護師等以外の職員を担当としても差し支えない特例が設けられました。 ただし、以下の6つの条件をすべて満たすことが必要です。 ●看護師等以外の担当者が利用者・家族からの連絡・相談に対応する際のマニュアルが整備されていること●緊急の訪問看護の必要性の判断を、保健師や看護師が速やかに行える連絡体制および緊急の訪問看護が可能な体制が整備されていること●事業所の管理者は、看護師等以外の担当者の勤務体制および勤務状況を明らかにすること●看護師等以外の担当者は、電話等により連絡・相談を受けた際に保健師や看護師へ報告すること。報告を受けた保健師や看護師は、その報告内容等を訪問看護記録書に記録すること●上記4項目について、利用者・家族に説明し、同意を得ること●事業者は、看護師等以外の担当者に関して地方厚生(支)局長に届け出ること(様式あり) 訪問看護の処遇改善に「訪問看護ベースアップ評価料」 24時間対応体制などを機能させる上で、先のような「特例」もさることながら、やはり保健師・看護師の確保が欠かせません。そのためには処遇改善が何より重要です。 訪問看護の処遇改善において、カギとなるのは毎月決まって支払われる賃金を引き上げること、つまりベースアップです。これについては改定前から「看護職員処遇改善評価料」が設けられていましたが、訪問看護の職員は対象とはなっていませんでした。 そこで、訪問看護職員にも手厚いベースアップが図れるような加算「訪問看護ベースアップ評価料」が設けられたのです。 ベースとなる加算Ⅰに上乗せとなる加算Ⅱ 訪問看護ベースアップ評価料は、2段階で構成されます。基本はⅠで、給与総額の1.2%増が目指されます。ただし、小規模ゆえにⅠだけでは1.2%増が達成できない場合に、Ⅱが上乗せされます。 処遇改善の対象は、訪問看護に従事する職員(リハビリ職や看護補助者含む)で、事務作業専属の職員は含まれません。ただし、看護補助者が訪問看護に従事する職員の補助として事務作業を行うケースは対象となります。また、訪問看護に従事する職員の賃金が2023年度との比較で一定以上引き上げられた場合には、事務作業専属の職員の賃金改善にあてることができます。 職員の賃金改善にかかる計画作成などが要件 Ⅰ・Ⅱに共通する算定要件は以下のとおりです。 算定要件(Ⅰ・Ⅱともに共通の要件を抜粋)1.2024年度・2025年度の職員の賃金改善にかかる計画を作成していること2.2024年度・2025年度に、対象職員の賃金(役員報酬を除く)の改善(定期昇給を除く)を実施すること。ただし、2024年度分を翌年の賃金改善のために繰越す場合は、この限りではない3.2については、基本給または毎月決まって支払われる手当の引上げにより改善を図ることを原則とすること4.1の計画にもとづく賃金の改善状況を、定期的に地方厚生局長に報告すること Ⅱについては、Ⅰにおいて算定される金額の見込み額が、対象者の給与総額の1.2%未満であることが必要です。介護保険での訪問看護も行っている場合は、対象者の給与総額について「医療保険の利用者の割合」を乗じた上で計算しなければなりません。 区分Ⅱはさらに18区分に細分化 具体的な金額は、以下のようになります。 Ⅱは1~18、つまり18区分あります。これは算定回数の見込みから、以下の計算式で導き出した数字により区分されます。 ※「対象職員の給与総額」は、直近12ヵ月での1月あたりの平均数値※加算Ⅱの算定回数の見込みは、訪問看護管理療養費(月の初日の訪問の場合)の算定回数を用いて計算する。直近3ヵ月での1月あたりの平均の数値を用いる 上記で導き出した「X」について、適用例は以下のようになります。 ここまでの計算が手間という場合は、厚生労働省が「訪問看護ベースアップ評価料計算支援ツール」を示しているので活用してください。 ▼ベースアップ評価料計算支援ツール(訪問看護) https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F12400000%2F001219494.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK 人員不足の時代に向けた管理者「兼務」の緩和 処遇改善が進んでも、労働力人口そのものの減少下では、人員確保のハードルは上がり続けます。特に複数の事業所を設ける法人では、それぞれに管理者を配置することが難しくなることもあります。 そこで、訪問看護の管理者要件が一部緩和されました。管理者は「専従・常勤」であることが原則ですが、訪問看護ステーションの管理業務に支障がない場合に、同じ敷地や隣接の敷地内に限らず、ほかの事業所・施設の管理者や従事者を兼務できるようになりました。 なお、改定後の緩和条件として「管理業務に支障がない状態」が明確化されています。それは、ほかの事業所・施設で兼務する時間帯でも、 管理者を務める事業所において利用者へのサービス提供の場面等で生じる事象を適時適切に把握できること職員・業務への「一元的な管理および指揮命令」に支障が生じないこと です。 次回は、医療DXに関する見直しなどを取り上げます。>>次回の記事はこちら2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化 ※本記事は、2024年4月3日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2023).「令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001224801.pdf2024/4/3閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf 2024/4/3閲覧

2024年度トリプル改定(診療・介護・障害福祉報酬改定)ポイント解説
2024年度トリプル改定(診療・介護・障害福祉報酬改定)ポイント解説
特集
2024年4月9日
2024年4月9日

2024年度トリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉報酬改定)の全体像 解説

2024年度のトリプル改定に向け、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬の3分野の具体的項目が出揃いました。今回から、訪問看護が特に押さえておきたい3分野の改定内容を解説します。改定項目も多い中、まずは全体像を把握し、頭の中を整理しましょう。 医療・介護・障害福祉の各分野は、さまざまな課題に直面しています。その課題は大きくは3つに分けられます。 課題1 高齢化に伴うニーズの多様化 1つめは、高齢化に伴う中長期的な課題です。いわゆる団塊世代が全員75歳以上を迎える2025年が間近に迫り、医療・介護の複合ニーズも急速に高まります。この傾向は、2025年以降さらに顕著になるでしょう。障害福祉の分野も、障害当事者の高齢化でやはり医療・介護の複合ニーズが高まります。 そうした中では、医療・介護・障害福祉の切れ目のない連携とともに、例えば訪問看護では、容態急変時等の緊急対応や在宅での看取りなど、多様な場面での備えを強化しなければなりません。 課題2 賃金水準向上と人手不足 2つめは、「課題1」に対応するためにも解決しなければならない直近の課題。具体的には、近年の急速な物価高騰を受け、全産業での賃金水準も上がっていることです。 こうした状況下では、医療・介護・障害福祉分野も手をこまねいてはいられません。物価高騰によって事業運営が厳しくなれば、そこで働く看護師をはじめとした従事者の賃金も上がりにくくなります。そうなれば、他産業との競合で従事者不足が加速する恐れもあります。 これを解決するには、3分野における現場の支え手の処遇改善とともに、働きやすい職場環境の構築が必要です。 課題3 現場業務の効率化を図るためのDX 3つめの課題は、事業運営や職場環境の改善を視野に入れた場合に不可欠な業務の効率化です。この場合の業務効率化とは、現場従事者の業務負担を減らしつつ、患者・利用者へのサービスの質の維持・向上を実現することを指します。 この業務効率化に向けて求められているのが、医療・介護分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)、いわゆるデジタル改革です。例えば、デジタル化された医療・介護情報の利活用やICTを使った多職種連携などが挙げられます。これらは、「課題1」「課題2」を同時に解決していくカギとなります。 3つの課題はそれぞれに関連しあっている 多様なニーズへの対応強化を図りつつ、事業運営や従事者の処遇改善を進める。そのために「業務効率化」を検討していく。という具合に、3つの課題への対処を同時に進めていくことが、2024年度トリプル改定全般を通じた主要テーマです。 1つの加算内でも「3つの課題」への対応が 訪問看護を例に挙げましょう。訪問看護では、利用者ニーズに応じた24時間対応体制の確保が大きな課題です。これを診療報酬上で評価したものに「24時間対応体制加算」があります。 この加算について今改定で単位数が引き上げられました。これにより、課題1への対処を強化しています。と同時に、24時間対応にかかる看護師の業務負担の軽減への対策を講じた場合に、さらに単位の引き上げを実施。これで、課題2にも対処したことになります。 加えて、その業務負担軽減策では、ICT、AI、IoT等の活用も要件に定められました。これは3つめの課題への対処にあたります。1つの加算の見直しでも、3つの課題への同時対処を目指したことが分かります。 課題対応に向け、報酬はどこまで引き上げられた? 3つの課題解決を同時に進めていくには、当然ながらその原資を確保するために、一定の報酬引き上げが必要です。今改定では、3分野ともにプラスの改定率となりました(薬価を除く)。 まず、診療報酬の改定率は+0.88%。この中には、看護職員、病院薬剤師、その他の医療関係職種(勤務医や勤務歯科医師などを除く)について、2024・2025年度に賃金のベースアップを図るための特例的な対応としての+0.61%も含まれます。 介護報酬の改定率は+1.59%と、診療報酬を上回りました。このうち、介護職員の処遇改善分は+0.98%で、これは6月に施行される新処遇改善加算の加算率の引き上げ分です。 さらに、障害福祉サービスの報酬改定率は+1.12%。こちらの改定率アップも診療報酬を上回っています。 プラス改定が患者・利用者にもたらす影響 このように、3分野ともプラス改定となったことで、事業運営には一定の追い風となります。しかも現場従事者の処遇改善に特に力を入れたことで、人員不足への対処も図られています。 一方、プラス改定となることで、国民の社会保険料や患者・利用者の一時負担も増加する懸念があります。その負担増の納得を得るには、設定された報酬がニーズへの対応やその手間に見合っているかを精査し、「適正化」を図る必要があります。 ニーズ対応やその手間を精査した適正化も 例えば、訪問看護では「緊急時のニーズ対応」について、診療報酬で「緊急訪問看護加算」が算定されます。これが頻回となる場合、本当に緊急時の訪問なのかが問われます。そこで、月あたり15日目以降の単位が引き下げとなりました。 また、診療報酬上の訪問看護療養費について、同一建物居住者の割合に応じて単位を引き下げた区分が設けられました。これは、同じ算定対象でかかる手間に応じた適正化を図ったわけです。 こうした大きな改定の括りを頭に入れることで、今改定で国が何を求めているかを理解しやすくなります。その上で、次回から3分野にわたる改定項目を個別に見ていくことにしましょう。 >>次回の記事はこちら2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善 ※本記事は、2024年3月26日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2023).「診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001180683.pdf2024/3/26閲覧〇厚生労働省(2024).「個別改定項目について」https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001220377.pdf2024/3/26閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf2024/3/26閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001213182.pdf2024/3/26閲覧

交通事故【訪問看護 緊急時の対応法】
交通事故【訪問看護 緊急時の対応法】
特集
2024年4月2日
2024年4月2日

訪問看護の移動中に交通事故が発生したら【緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは訪問看護の移動中に交通事故が発生した場合の対応法です。 交通事故は事業所運営のリスクの1つ 訪問看護業務は利用者さんのご自宅に訪問して看護を提供します。そのための移動手段として一般的には普通自動車や自転車、普通自動二輪車を使用することが多いでしょう。移動を頻繁に行う訪問看護において、交通事故は平常時から安全管理体制を整えておくべき問題です。 交通事故は被害者になることもあれば加害者になることもあり、どちらにおいても事業所の運営におけるリスクの1つといえます。今回は自動車運転中に交通事故の加害者になった場合、被害者になった場合についてそれぞれの対応法を解説します。 加害者になったらどう対応? 移動中に交通事故を起こしてしまったら、負傷者の救護、道路上の危険防止措置、警察への連絡を行います。警察への連絡は対物であっても対人であっても必要です。これらは事故発生時に加害者が行うべき措置として法律で定められた義務です。 【参考】道路交通法第72条第1項交通事故があったときは、(中略)直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。(中略)この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、(中略)警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第七十五条の二十三第一項及び第三項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。 負傷者を救護する ただちに運転を停止し、死傷者の有無や負傷の程度、物損の有無、損壊の程度などを確認します。負傷者がいるなら負傷者の救護が最優先です。負傷者の状態に応じて、近くの医療機関に受診してもらうか、救急車を要請します。救急車が到着するまでの間、可能な限りの応急処置を実施します。 もし、負傷者が「受診するほどではない」と話しても、後遺症がその後発生した場合のことも考え受診してもらうようにします。 道路上の危険を取り除く 事故車両をそのままにせず、ほかの通行車両や歩行者に二次被害が生じないよう安全な場所へ移動させます。停止表示板(三角表示板)を設置する、発煙筒を使用するなど道路上における危険防止の措置を講じます。 警察に連絡する 負傷者の救護と道路上の安全を確保したら、警察に連絡をします。どんなに小さな事故であっても連絡し、事故に係る状況(場所や負傷の程度、損壊の程度など)について説明します。なお、自動車保険を利用する場合、「交通事故証明書」が必要です。交通事故証明書は警察への届出がないと発行してもらえません。この点からも警察への連絡は必須です。 事業所への報告と状況の確認も行う ほかにも大切な手順があります。負傷者だけでなく自分も受傷していないか確認し、その結果と現在の状況を事業所に報告します。事故処理には相応の時間がかかりますので、次の訪問があれば、訪問時間に間に合わないため事業所に対応を依頼します。 事故対応で判断に迷うときは、事業所に連絡し管理者に相談してください。また、決してその場で示談にはしないのも重要な注意点です。相手には氏名、住所、連絡先、保険会社などの情報を確認しておきます。相手の負傷状況が軽度か重度かにかかわらず、誠意をもって対応してください。 事故の大小に限らず、事故を起こしてしまった事実により、それなりに動揺してしまうと思います。車両の破損がなく、運転して事業所に戻るのであれば十分に注意して移動します。 移動手段が自転車や普通自動二輪車であっても事故が起こったときの対応は同様です。 さまざまな事態に備える ここまでで示した対応は一般的な例に過ぎず、交通事故の状況はさまざまです。 例えば、加害者であっても自分で連絡の対応ができない状況も起こり得ます。自分に意識があれば「事業所に連絡して状況を伝えてください」と依頼できますが、それさえもできないケースが考えられます。そのような場合に備え、私の訪問看護ステーションでは、訪問バッグの中や車内の見やすい位置に訪問看護師であること、事業所名、氏名、連絡先を記入したカードを準備しています(図1)。 また、相手に負傷状況を確認しようとしても「大丈夫です」と答え、連絡先を聞いても何も言わずに急いで立ち去ってしまうケースがあります。このようなときでも、警察には一つの事故として必ず届出をしておきましょう。警察に連絡しないで現場を離れてしまうと、後になって救護義務違反として罰則を受ける可能性もあるため、安易な判断は禁物です。 図1 連絡先カード 事故の当事者が連絡対応できない場合に備え、このような連絡先カードを作成し、訪問バッグの中や車内の見やすい位置に準備している。 被害者になったらどう対応? 交通事故の被害者になったときは、加害者になったときと同様に必ず警察に連絡します。また、加害者の氏名、住所、連絡先の確認と医師の診察を必ず受けるようにします。 事故が生じた直後、「利用者宅への訪問に遅れてしまう」という気持ちの焦りが生じます。自分の身体には外傷もないから大したことがないと判断し、利用者さんに迷惑をかけないようにと訪問を優先してしまうかもしれません。 しかし、そのときは問題がないように感じても、数日後に痛みやしびれなどの症状が出る可能性もあります。交通事故では自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)をよく使いますが、業務中であれば労災保険を使うこともあります。保険の問題も関係しますので、利用者さんに迷惑をかけたくない気持ちは理解できますが、そのときの感情だけで行動しないようにしましょう。 事業所として取り組みたいリスク管理 交通事故は誰にでも起こり得ます。訪問看護における移動中の交通事故に関しては、事業所として次に示すようなリスク管理をしておきます。 運転者の心構えをチェックリストにする事故に遭遇したときの連絡体制を定めておく交通事故発生時の対応方法をマニュアル化しておく定期的に事業所内で移動中の事故対応に関する研修会を開催する安全なルートの共有や訪問間隔の確保など、スタッフが安心して移動できるようにサポートする移動中に故障しないように定期的に業務用車両の管理を行う事故に備えて自動車保険に加入する こうした取り組みを行い、実際に事故に遭遇しても焦らず対応できるようにしておきます。事業所は交通事故を未然に防ぐ対策と事故が起きたときの対策を講じなければなりません。 * * * 訪問看護師が加害者となった場合、当事者だけで対応させるのではなく、事業所の管理者ができるだけ早く相手に連絡をします。誠意をもって謝罪にうかがうなど、速やかな対応が必要です。また、事故に遭遇した訪問看護師は落ち込んでいることが予測されます。管理者は訪問看護師のフォローにも配慮してください。事業所として、訪問看護師が安全に移動でき、訪問看護を提供できる環境を作っていきたいものです。 >>関連記事 第7回 防災対策、交通事故、個人情報保護、医療事故編/[その2]スタッフが交通事故を起こしたら? これだけ押さえて冷静に対応! 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社

【学会レポート】第13回日本在宅看護学会学術集会
【学会レポート】第13回日本在宅看護学会学術集会
特集
2024年3月26日
2024年3月26日

【学会レポート】第13回日本在宅看護学会学術集会 「在宅看護、すぐそばに在る」

2023年11月18・19日と2日間にわたり、クロス・ウェーブ船橋(千葉県船橋市)にて「第13回日本在宅看護学会学術集会」が対面・オンラインのハイブリットで開催されました。学術集会長は、東京医療保健大学教授・清水準一氏。学術集会テーマは「在宅看護、すぐそばに在る」です。聴講したNsPace(ナースペース)編集部が学会の模様をレポートします。 テーマは在宅看護へのアクセシビリティ 学会冒頭の学術集会長講演の中で清水氏が訴えたのは、在宅看護へのアクセシビリティの重要性。いまだに在宅看護にアクセスできない方は多く、地理情報システム(GIS)活用の有効性や、地理的関係を考慮した需要の分析・把握していく必要性、若い世代が離脱せず、シニア世代がアクティブに働ける環境づくりの重要性などが語られました。 シンポジウム・教育講演報告 数多くの演目がありましたが、シンポジウム(公開討論会)と教育講演について、編集部がピックアップしてレポートします。 『在宅看護専門看護師の誕生、役割の充実から今後の展望を考える』 座長:鹿内あずさ氏、長内さゆり氏 シンポジスト:河原加代子氏、長内さゆり氏、岩本大希氏 高齢者の医療・介護の需要が増大し、在宅看護への社会的ニーズが高まる中、2012年に誕生した在宅看護専門看護師の役割が重要になってきています。在宅看護専門看護師に求められる6つの役割は「実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究」とのこと。これに加え、地域住民や関連業界から信頼を得るためのPR(Public Relations)や、「最期まで安心して暮らせるまちづくり」への取り組みの必要性にも言及されました。地域共生社会の段階で住民同士が気にかけ合う関係性づくりや、その仕掛けをつくることも期待されており、在宅看護専門看護師は今後の社会において不可欠な存在であると感じました。(編集部I) 『看護師として「遊ぶように働く」ための業務効率化とテクノロジー活用』 座長:吉江悟氏 シンポジスト:藤野泰平氏、宮武晋治氏、大田章子氏 少子高齢化社会において訪問看護のニーズが増加する一方、その担い手が減少していることの解決策を追求すべく、業務効率化、テクノロジー化の必要性について議論されました。効率化が現実となれば、ケアを届けること、磨くことに時間をかけられます。また、アウトソーシングの需要が高まり、外部のリソースやノウハウを活用する動きについても注目。生成AIの活用事例が挙げられ、テクノロジーを活用しながら「遊ぶように働く」ことが、担い手の負担軽減につながる可能性があるのだと学ぶことができました。(編集部I) 『離島・過疎地域におけるICTを利用した遠隔死亡診断と看護』 講師:尾崎章子氏、座長:吉原由美子氏 医療にアクセスしづらい地域における遠隔死亡診断に関する教育講演でした。講演内では、「最期は島の土にかえりたい」と希望する島民は少なくないということ。しかし、本土の病院に移って最期を迎える方が多く、その願いは叶えられにくい現状にあることが共有されました。離島では、円滑に死亡診断書を交付できないことが理由で、火葬できなくなるおそれもあるとのこと。このような状況を踏まえて策定されたのが「ICTを利用した死亡診断書等ガイドライン」。このガイドラインを正しく運用するためには、医師の死亡診断をサポートする看護師が制度について正しく理解することが重要とのことでした。(編集部I) 交流集会報告 続いて、交流集会についてもピックアップしてご紹介します。 『難病療養者の災害の備えについて 防災用品を実際に体験してみよう!』 企画:今福恵子氏 ほか 本集会では、災害への備えに関する調査結果や実践内容の共有、防災用品の体験等が行われました。災害対策用のマニュアル作りや訓練が重要であること。そして、日々利用者のアセスメントを行う看護師は、災害時に状況を推測して適切な対応を行う能力を持つ重要な存在であることが示唆されました。防災グッズの体験については、「意外に力がいる」「大きな音がする」など、試さなければわからない気づきが多くありました。参加者の方々も、自身の事業所の災害対策に活かそうと熱心に体験する様子がみられました。(編集部N) 『BCP―作った?使った?よかった?』 企画:日本在宅看護学会 業務委員会 BCPを策定した日本在宅看護学会 業務委員会の方々より、各事業所のシミュレーションや訓練の実例が発表されました。備蓄の量やそれにかかる経費など、具体的な話に踏み込んで情報共有されました。災害を経験された方からは、「持ち運び可能なマニュアル」が必要というお話も。こうした場で知見が共有されることで、災害時の状況や対応を具体的に想定でき、「自分事」として捉えやすくなる貴重な場だと感じました。(編集部N) 『訪問看護事業所におけるBCP(事業継続計画)とBCM(事業継続マネジメント)』 企画:石田千絵氏 ほか NsPaceの記事([1]そもそもBCPって何だろう?)でご執筆いただいた石田千絵氏をはじめ、訪問看護BCP研究会によるBCP・BCM策定に関するノウハウが発表されました。BCPのみならず、BCMも作る必要があること、具体的なフォーマットや地理情報システムの使い方などにも言及。2024年4月の義務化に向けての実践的な解説がありました。今後特に注目すべき課題であることもあり、参加者の方々は熱心に聞き入っていました。(編集部F) 『新卒訪問看護師を「活かし・育てる」人材育成を考える』 企画:岡田理沙氏 ほか 訪問看護師の人材育成の研究をされている中村順子氏による講演や、参加者との意見交換などが行われました。課題が多いと言われている新卒訪問看護師の人材育成。「教育」を意識するよりも「面白さを分かち合える仲間になる」という気持ちを強く持つことで、結果的によい人材育成に繋がるという示唆がありました。参加者の新卒訪問看護師さんからは、「次は自分が先輩として寄り添いたい」という声も聞かれました。(編集部F) 参加者・受賞者・学術集会長のコメント 学会の参加者、主催者等のコメントもご紹介します。 情報交換会 参加者の声 1日目の終わりに行われた「情報交換会」では、登壇者や聴講していた訪問看護師・企業など、多様な方々によって情報交換が行われました。参加者の中には、訪問看護ステーションの立ち上げを考えている若手看護師も。「登壇者や参加者には若い訪問看護ステーション管理者の方もいて、勇気づけられました。情報交換会も有意義で、2日目にも情報交換会がほしいくらいですね」との感想コメントをいただきました。 学術集会賞 受賞者コメント 閉会式では、一般演題(口演・示説)からの表彰も行われました。「学術集会長賞」を受賞したのは、野口麻衣子(東京医科歯科大学)氏、山花令子氏、砂田純子氏の「専門性の高い看護職による訪問看護師への遠隔相談の試行と実用可能性の検討」でした。野口氏のコメントをご紹介します。 学術集会長賞をいただき、本当に嬉しく思っています。専門性の高い看護職による訪問看護師への遠隔相談、その思考と実用可能性の検討について発表し、その後も耳を傾けてくださった皆さまとお話する機会を持つことができました。遠隔相談の試行時には皮膚・排泄ケア認定看護師さんとがん看護専門看護師さんにご協力いただいたのですが、ニーズが多い精神科・小児科などでの実施や自治体とのコラボレーションについての示唆もいただきました。この領域への「期待」として受け取っています。 学術集会長コメント 最後に、学術集会長・清水準一氏(東京医療保健大学)のコメントをご紹介します。 学会に集まった皆さまは、現場においてさまざまな悩みを抱えているかと思います。今回の学会を通じて、共感することや、新たなアイデアを得ることがあったはず。それこそ学会の原点となるものです。研究と研究を戦わせ、自分のやり方を洗練させていくという流れこそ、ひとつの大きな醍醐味といえるのではないでしょうか。そして、若い方々の新しい発想・取り組みが多いことに感激しました。コロナ禍での停滞を乗り超え、今後大きく発展していくという期待を持ちました。 また、コーディネーターとして秋山正子さんをお招きし、故 村上紀美子さんの追悼ができたことも、研究とは異なる意味合いで印象的でした。ひとつの場所に集まることで、想いを共有できることを実感しました。 * * * 本学会では、多くの方々が集まって積極的に議論を交わし、在宅看護の課題に向き合う場となっていました。最新の実践状況や取り組みも共有し、新たな気づきを得た方も多かったようです。2024年の第14回日本在宅看護学会学術集会のテーマは「可能性がインフィニティ(∞)在宅看護」。次の学会にも注目していきましょう。 取材・編集:NsPace編集部執筆:倉持 鎮子

yellインタビュー「自分らしく楽しく働ける組織にするために。」
yellインタビュー「自分らしく楽しく働ける組織にするために。」
インタビュー
2024年3月19日
2024年3月19日

自分らしく楽しく働ける組織にするために。スタッフを応援する制度&風土

岡山市を中心に、訪問看護ステーション、定期巡回型随時対応型訪問介護看護、居宅介護支援事業所、デイサービスなどを展開するエール。今回は、立ち上げ後に印象に残っているエピソードや、スタッフの教育や自身の学び直し、そして今後の展望について経営者の平田さんに伺いました。 >>これまでの記事はこちら訪問看護ステーション併設の定期巡回・随時対応サービスのメリットとはニーズに応じて事業を拡大。限られた社会資源で地域の幸福度を上げるために 平田 晶奈さんエール 代表取締役社長国立病院機構岡山医療センター小児病棟、岡山県精神科医療センター児童思春期病棟での勤務を経て、在宅支援の必要性を感じ訪問看護師へ転身。地域で在宅療養支援をする中で、地域包括ケアシステム構築のためには、24時間365日の在宅サービスが必須であると確信し、2015年に訪問看護ステーション エールを設立。定期巡回随時対応型訪問介護看護「ケアステップ エール」、介護サービスを利用したい方のケアマネジメントを行う居宅介護支援事業所「ケアメイト エール」、医療ケアが必要な重症心身障がい児・者のデイサービス「すくすく エール」を展開。https://yell-oka.com/ 利用者さんのために主体的に考え、動く姿勢 ―2015年にエールを立ち上げてから、特に印象に残っているうれしかったエピソードについて教えてください。 たくさんありますが、2つご紹介します。 まずは、スタッフにまつわるエピソードとして、一度エールを去った方が再び戻って来てくれたことはとてもうれしかったですね。ほかの施設で働いたことで、「エールが大切にしている利用者さんに対する想いや寄り添い方、社内体制の素晴らしさが改めて分かり、こういう環境で働けることが幸せだったと気づいた」と話してくれました。 利用者さんのエピソードとしては、NICU(新生児集中治療室)の退院後からエールの訪問看護でサポートしている5歳の男の子の利用者さん、Aくんについてご紹介します。Aくんは人工呼吸器を装着しており、退院してから基本的にご自宅、もしくは病院で過ごされていました。でも、2022年にエールがデイサービスを開始したとき、保護者の方から「エールが運営するなら安心して任せられる」というありがたい言葉をいただいて。デイサービスを利用していただくことで、Aくんは初めて「地域デビュー」することができたんです。 また、Aくんには小学生のお兄ちゃんもいます。医療的ケア児がいるご家族は長時間の外出や旅行が難しい傾向にあり、そのお兄ちゃんもかなりの我慢をしていたと思います。なので、ご両親がAくんをショートステイに預けて、お兄ちゃんが行きたかったテーマパークへ夏休みにご家族で遊びに行くという計画を立てていたんですね。ところが、コロナ禍に突入して、残念ながらショートステイが利用できなくなり、その計画が中止に。 訪問看護でお家にお邪魔したスタッフが、落ち込んでいるお兄ちゃんの姿を見て事情を伺い、「何とかしたい!」と私に相談してきたので、「それは何とかしなきゃ!」と検討しました。そして、深夜の2~3時頃にAくんをデイサービスで預かり、ご家族は車でテーマパークへ。日中は目いっぱい遊んで、お父さんとお兄ちゃんだけホテルに泊まり、お母さんは終電で戻ってきていただきました。お母さんは大変だったのですが、なんとかお兄ちゃんに夏休みの思い出をつくってあげることができた、と喜んでいただけました。 今お話ししたエピソードは本当に一例で、人工呼吸器を装着する利用者さんが成人式に出席したり、七五三の写真を撮影したり、ご要望の場所にお出かけしたりと、スタッフが主体的に提案して実現している場面がたくさんあります。利用者さんの喜ぶ顔をみるのもうれしいですし、利用者さんに寄り添ってスタッフたちが主体的に提案・行動してくれることが、経営者として本当にうれしく思います。 ―ありがとうございます。逆に、苦しかったエピソードも教えていただけますか? スタッフと対面でのコミュニケーションが取れなくなったコロナ禍は苦しかったですね。ママさんスタッフの中には、子どもの預け先がなくて仕事を継続できなくなった方もいて、人数が減ったことで組織が不安定な状態に陥ったこともありました。 でもそのとき、「組織が未熟だから、コロナという荒波で船が転覆しそうになったのだ」と気づけました。どんな困難に遭遇しても、自分たちで立ち上がり、対処できる組織にしていかなければいけないと思ったんです。そこから、社員教育にさらに力を入れるようになりました。これまでのスキルアップや資格取得の研修に加え、人間関係やチームビルディング、自らの価値観を知るといった研修も取り入れています。 同時に、スタッフが増えて組織が成長していく中で、私ひとりだけが情報を発信する体制では難しいと考え、組織内での情報共有のしくみ化も重要視しました。管理職の育成に注力し、2020年頃からは月1回の管理職研修も導入しています。この研修では、経営戦略や訪問看護に関するスキルアップだけでなく、管理職としてのあり方やスタッフと向き合う姿勢、理念に基づいた組織運営も意識しています。 デイサービスが小児のケアを学ぶ場に ―エールのスタッフさんの数は増加しているとのことでしたが、採用時にはどのようなポイントを重視されていますか? エールの理念に共感していただけるかどうかですね。経験は重視していないので、新卒の看護師もいます。在宅看護の現場こそ若い人たちの力で盛り上げていかなければいけないと思っていますし、地域医療でしっかり看護について学べる環境を整えたいとも思っています。現在平均年齢が38歳なので、比較的若手が多いと思います。 ―エールでは0歳児から高齢者まで幅広くケアされていますが、当然小児に関するケアが未経験の看護師さんもいるということですよね。どのように教育されているのでしょう。 そうですね、小児科経験のあるスタッフは1割程度です。現在は、2022年に開設したデイサービスが1つの教育機関としての役割を担っています。訪問看護の現場では、医療的ケア児のケアを看護師1人でしなければならず、相当なプレッシャーがかかります。でもデイサービスであれば、まわりのスタッフと一緒に利用者さんを看ることができ、わからなければ質問もできる。訪問看護に比べて利用者さんと長い時間触れ合えるので、慣れるのが早いことも大きなメリットですね。 また、訪問看護の看護師がデイサービスにもいるというのは、医療的ケア児の保護者の皆さまにとっても「いつもの看護師さんが看てくれる」と安心材料になるようで、とても喜んでいただいています。社員教育ができて、ご家族にも喜ばれて、デイサービスをつくったことで「Win-Win」な状態になったと思っています。 もちろんそれだけではなく、訪問看護の現場でも、小児看護未経験の看護師に対しては、ほかのスタッフがしっかり同行しています。「1回、2回同行してOK」ではなく、4回でも5回でも、大丈夫と思えるまで同行し、丁寧に引き継ぐことを大切にしています。 あとは、小児のケア内容は本当に個人差が大きいので、「ケアの見える化」を高齢者以上に大事にしていますね。終礼や引き継ぎなどでは実施したケアの内容を共有し、「なぜそれをやるのか」「次に何をすべきなのか」などをしっかり見える化して、トラブルが起こるリスクを下げています。 ―さきほど、コロナ禍を経てより研修に力を入れるようになったというお話もありましたが、その他の教育制度や取り組みについても教えてください。 「利用者アンケート」を年1回実施し、この結果をもとに、日々の業務に何を入れ、どう改善していくかということを、各部署に考えてもらっています。入社時には、自身の強みが数値化されて導き出される「ストレングスファインダー」というテストも受けてもらっていますね。エールの経営理念は「人の可能性を信じ、応援する。」なので、自分の強みを組織や利用者さんにどう活かしていくかを大事にしてもらっています。また、それぞれの強みをオープンにしてスタッフ同士がお互いの強みを理解し合うことで、協力体制が生まれやすくなるよう心掛けていますね。 なので、私はスタッフに対して「突出している人がチームにいないようにしてほしい」と伝えています。1人だけ抜きん出た人がいたら、「ノウハウを共有してチーム全体のレベルを引き上げる」ことで抜きん出ていない状態にしてほしいと思っているんです。また、エールは一人でも多くの利用者さんに最高のケアやサービスを届けたいという目標があるので、自分たちが倒れては元も子もありません。75%~80%の労力で100%~120%の成果が出せるように、みんなで考えてやっていこうということも言い続けています。 ―社員を応援するための取り組みについて、表彰制度や資格取得応援の制度もあると伺っています。 はい。毎月、輝いているスタッフにスポットを当てるMVPを選出しています。「頑張っている人が報われる」組織でありたいので、頑張っている人を見逃さないように、スポットライトを当てることを大切にしているんです。私は投票権を持っておらず、管理職やスタッフがそれぞれの視点で候補者を挙げ、MVPを決めているのも1つの特徴です。最近では、異職種間の連携に注力して頑張ってくれた看護師が選ばれました。 スタッフの資格取得応援に関しては、取得した資格が目の前の利用者さんや地域、そして一緒に働く仲間たちにとってプラスになる場合、キャリア手当として給与に還元されるしくみも導入しています。スタッフは自己成長や達成感を得られますし、会社としても社員のスキルの向上になるので、Win-Winだと思います。 また、「やりたいことを見つけたら、先行して実行している施設にぜひ見学をお願いしてみて」とも言っています。自分たちで学ぶ場を企画・実行するといったことも、主体的にやってもらっていますね。 ―例えば、スタッフの皆さんはどんな資格取得にチャレンジされているんですか? 介護士だと喀痰吸引と経管栄養の注入ができる資格、看護師であれば遺品整理士や終末期ケア専門士の資格を取得したケースもありました。利用者さんのニーズを見つけて、それに応えるためにチャレンジする人を評価していますね。 訪問看護だと「認定看護師」「専門看護師」「特定行為」が突出して評価されがちな印象があり、もちろんこれらも大事ですが、本当に利用者さんのケアに活かせているかが大事だと私は思っています。遺品整理や終末期ケアの専門知識も、利用者さんにとっておおいに価値があると思うんです。 経営者こそ学び続ける必要がある ―平田さんは、社会人向け専門職大学院で事業構想を学ばれたり、経営学や看護管理学などを教える勝原私塾で学ばれたりもしています。学び続ける理由を教えてください。 経営者は誰かに怒られたり、注意されたりすることが減っていくので、「勘違い」が始まるんです。学びの世界に足を踏み入れると、自分がいかに無知で、至らない部分があるのかを思い知らされるので、経営者こそ学び続けることが大事だと思っています。 スタッフの前では、夢や理想論はいくらでも語れます。実際に実現に向けて努力していますが、多くの困っている人々をサポートするためには、「エールだけがケアできる」という状態ではダメだとも思うんです。だから、自分に問いかけます。「この施設でできることが、ほかの施設でもできるの?」「私のことを誰も知らない場所で、私は同じことを語れるの?」と。そこで「できる」と言えたら本物ですが、そうでないなら、それは本物ではない。だから、どんな場所でも説得力を持って「できる」と言えるように、学び続けています。 実際、学び場ではこれでもかというぐらい指摘・批判される経験をします(笑)。そうすると、注意されて成長しているスタッフを見て「頑張っているんだな」と思えるし、尊敬もできる。学ぶことで自分の視野が広がり、「こうすべき」という固定観念に縛られた発言をしたり、スタッフの意見を受け入れなくなったりすることも減っていくと思います。 事業拡大で若手がチャレンジできる場を ―最後に、エールの今後の展望について教えてください。 まずは管理職も育ってきた今、サービスの提供エリアを広げて、1人でも多く、地域で安心して暮らせる方が増えるように尽力していきたいです。エリアを拡大すれば新しいニーズが見つかるかもしれないし、ニーズ自体が変わっていくかもしれません。また、事業所が増えれば役職も増えるので、若手社員がチャレンジできる機会が増え、キャリアアップの目標にもつながります。「人の可能性を信じ、応援する。」という当社の理念にもマッチします。これからも、会社もスタッフも私自身も、成長できるように努力したいと思います。 ―ありがとうございました! ※本記事は、2023年12月時点の情報をもとに構成しています。 執筆:高島 三幸取材・編集:NsPace 編集部

【トリプル改定 超速報】2024年度介護、障害福祉の報酬改定で訪問看護はどうなる?
【トリプル改定 超速報】2024年度介護、障害福祉の報酬改定で訪問看護はどうなる?
特集
2024年3月12日
2024年3月12日

【トリプル改定 超速報】2024年度介護、障害福祉の報酬改定で訪問看護はどうなる?

2024年度は診療・介護・障害福祉の報酬・基準のトリプル改定。訪問看護は3分野にまたがることが多いだけに、早期にポイントを押さえ、対処にのぞむ必要があります。本記事では、診療報酬の改定から「訪問看護師の処遇改善」にかかるポイントに触れるとともに、介護報酬や障害福祉サービスの報酬の改定についても取り上げます。 >>2024年度【診療報酬改定】超速報はこちら【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定で訪問看護はどうなる? 看護師等の賃金アップを図る新たな評価料 診療報酬改定に関する速報記事では、将来的な労働力人口の減少をにらんだ、人材確保・働き方改革についての改定項目を取り上げました。一方で、人材確保に向けては看護師および准看護師、保健師、助産師(以下、看護師等)の処遇改善も欠かせません。 もともと看護師等の処遇改善については、毎月決まって支払われる賃金の引き上げ(ベースアップ)を図ることを目的とした「看護職員処遇改善評価料」が設けられています。ただし、これはコロナ禍での看護師等の賃金引上げを目的に誕生したもので、訪問看護ステーションを含め、対象とならない医療機関もあります。 そこで、より多くの医療機関で働く看護師等のベースアップを実現するため、新たな報酬上の評価が設けられました。それが、「ベースアップ評価料」です。訪問看護も含まれます。 「24時間対応」の新評価が介護報酬でも 次に、介護報酬での訪問看護にかかる改定項目で目立つのは、今改定を含め、診療報酬側との整合性を図ったことです。 例えば、診療報酬改定項目では、「24時間対応体制加算」において「看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制」を評価する新区分が誕生しました。この「24時間対応体制加算」に該当する介護報酬側の項目といえば、「緊急時訪問看護加算」です。ここに、やはり「看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制」を評価した新区分(月600点)が設けられました。 また、診療報酬の24時間対応の連絡相談については、一定要件を満たせば、訪問看護ステーションの看護師・保健師以外でも対応可能となりました。同様の項目が介護報酬側でも定められています。 看取り期の加算も診療報酬と整合性を 診療報酬ですでに定められている項目と整合性をとった改定もあります。それが「看取り期」の利用者への訪問看護の評価です。 介護報酬での看取り期の対応といえば、「ターミナルケア加算」があります。利用者の死亡日および死亡前14日以内に2日(末期がんなどの場合1日)ターミナルケアを実施することが要件です。この評価が「死亡月に2000単位⇒2500単位」に引き上げられました。 診療報酬での同様の評価項目には、「訪問看護ターミナルケア療養費」があります。この給付額が25,000円なので、介護報酬側の単位はこの数字と揃えたことになります(介護報酬の算定を1点=10円とした場合、金額は揃うことになります)。 遠隔死亡診断補助加算が、介護報酬にも誕生 看取り期では、訪問した看護師が利用者の死亡に立ち会うケースも想定されます。その際、利用者が離島等に在住の場合、医師の訪問による死亡診断が難しいこともあります。 そうしたケースで、訪問した看護師が情報通信機器を使って主治医による死亡診断を補助した場合、介護報酬上で、先の「ターミナルケア加算」に上乗せされる形で「遠隔死亡診断補助加算(1回150単位)」が算定できることになりました。 同じ加算が、診療報酬でも2022年度に誕生しています(1回1,500円)。ここでも、介護・診療報酬の整合性が図られたことになります。 介護報酬でも専門性の高い療養管理を評価 2022年度に設けられた診療報酬上の評価と同じものが、2024年度の介護報酬改定でも誕生──こうしたケースはほかにもあります。 それが「専門管理加算」です。診療報酬では1月に1回2,500円、介護報酬では1月に250単位となります。 これは、緩和ケア、褥瘡ケア、人工肛門・人工膀胱ケアにかかる研修を受けた看護師、あるいは特定行為研修を修了した看護師が計画的な管理(悪性腫瘍の鎮痛・化学療法を行なっている利用者や真皮を越える褥瘡の状態にある利用者などが対象)を行った具合に算定できるものです。 在宅での重度療養ニーズが高まる中、介護報酬が診療報酬のしくみを追いかけるという傾向を象徴した改定といえます。 退院時共同指導加算、実態に合わせた要件に その他、介護報酬上での改定で注目したいのが、利用者の退院・退所に向けた流れの中での訪問看護への評価です。 まず、利用者の入院時(医療機関のほか介護老人保健施設や介護医療院含む)からの対応を評価したもの。そこで訪問看護師等が主治医等と共同し、利用者に対して在宅での療養上の指導を行った場合に、その後の初回訪問で「退院時共同指導加算」が算定できます。 この退院時の共同指導について、「文書で」という要件上の制約が削除されました。これは、入院中の指導にかかわらず、利用者が訪問看護での実地指導に頼るケースが見られる点を受けた改定です。 「退院当日の訪問」を初回加算で上乗せ評価 この「退院時共同指導料」を算定していない場合、退院・退所後の最初の訪問では、介護報酬上で「初回加算」が算定されます。 この「初回加算」について、利⽤者が退院した「その⽇」の訪問を評価する区分が誕⽣しました。既存区分(改定後はⅡ)はその⽉に1回300単位のままですが、「当⽇訪問」を⾏った場合の新区分(Ⅰ)は350単位に引き上げられます。 ちなみに、2021年度改定では「退院・退所の当⽇にも⼀定の管理が必要な利⽤者について初回加算が算定できる」とされました。ただし、特別な管理が必要でなくても、退院当⽇での本⼈や家族の困りごとは多様であることが分かっています。そうした実態から、積極的に「当⽇訪問」を評価したことになります。 理学療法士等による訪問はさらに減算 もう1つ、訪問看護で気になるのは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士(以下、理学療法士等)による訪問の評価でしょう。 2021年度改定では、訪問看護の機能集中の観点から理学療法士等による訪問の基本報酬がさらに引き下げられ、「通所リハビリだけでは屋内でのADL自立が困難」なケースに限定されました。 今改定では、理学療法士等による訪問が、看護師による訪問の回数を上回っている場合(緊急時訪問看護加算等を算定していない場合は同数でも)などで、さらに8単位の減算が行われます。 障害福祉の改定で訪問看護への影響は? 最後に障害福祉サービスに関する改定ですが、訪問看護が障害福祉サービスの報酬を直接受けるしくみはありません。ただし、障害者に対して医療保険での訪問看護を提供している場合、障害福祉サービスとの連携機会があるという点で注意したい項目があります。 それが、医療・保育・教育機関等連携加算です。同加算は、計画相談支援・障害児相談支援において、利用者の入退院時といったサービスの利用状況が大きく変化する際に、医療機関等との連携のもとで支援を行うことを評価した加算です。 この加算で、障害福祉サービス機関からの求めに応じて情報を提供する連携機関の中に「訪問看護」が明記されました。障害者に対して医療保険での訪問看護を提供している事業者としては、注意しておきたいポイントです。 ※本記事は、2024年2月27日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集: 株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001195261.pdf2024/2/27閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001205321.pdf2024/2/27閲覧

yellインタビュー「自分らしく楽しく働ける組織にするために。」
yellインタビュー「自分らしく楽しく働ける組織にするために。」
インタビュー
2024年3月12日
2024年3月12日

ニーズに応じて事業を拡大。限られた社会資源で地域の幸福度を上げるために

岡山市を中心に、訪問看護ステーション、定期巡回型随時対応型訪問介護看護、居宅介護支援事業所、デイサービスなどを展開するエール。2回目の今回は、経営者の平田さんにエールを立ち上げた経緯や、複数事業を展開する理由についても伺いました。 >>前回の記事はこちら訪問看護ステーション併設の定期巡回・随時対応サービスのメリットとは 平田 晶奈さんエール 代表取締役社長国立病院機構岡山医療センター小児病棟、岡山県精神科医療センター児童思春期病棟での勤務を経て、在宅支援の必要性を感じ訪問看護師へ転身。地域で在宅療養支援をする中で、地域包括ケアシステム構築のためには、24時間365日の在宅サービスが必須であると確信し、2015年に訪問看護ステーション エールを設立。定期巡回随時対応型訪問介護看護「ケアステップ エール」、介護サービスを利用したい方のケアマネジメントを行う居宅介護支援事業所「ケアメイト エール」、医療ケアが必要な重症心身障がい児・者のデイサービス「すくすく エール」を展開。https://yell-oka.com/ 医療的ケア児の家族が抱える悩み ―そもそも、ご自身で事業所を立ち上げようと思われたきっかけについて教えてください。 看護学校を卒業後に病棟で働いたのですが、精神的にも身体的にも過酷だと思いました。違う職場を経験したり、他の職場で働く看護師に話を聞いたりもしましたが、やはり厳しくて過酷な状況に耐えている人ばかりだったんです。看護師は尊い職業なのに、なぜみんなが気持ちよく仕事できるような環境にならないのかなと疑問を持ちました。そして、「そういう組織がないんだったら、自分で作ろう」と思ったんです。 ―エールには小児から高齢者まで幅広い利用者さんがいらっしゃいますが、平田さんは「子どもと関わっていきたい」という想いを強くお持ちだと伺っています。そこに至るまでの背景も教えてください。 私は、岡山医療センターの小児科を経て教育学部で学び、その後、精神科医療センターの児童思春期病棟で5年ほど働きました。その過程で多くの子どもたちやご家族との出会いがあったことが大きいですね。最初の小児科病棟では、小児がんを患った子どもや、先天性の疾患がある子ども、重度の障害を持った子どもたちを看護しました。児童思春期病棟では、親から虐待を受けて保護されて入院している子、摂食障害や重度の自閉症、何かの依存症を抱えている子など、精神疾患や精神障害を抱えている子どもたちと多く接してきました。 これらの経験の中で、子どもたちの退院後に家庭で孤軍奮闘しながら育児をするのは、何か違うのではないか、と思うようになったんです。徐々に、「訪問看護師として退院後も子どもたちや保護者をサポートしたい」という気持ちが強くなっていっていきました。しかし、当時の訪問看護は介護保険で高齢者を中心にサポートする事業所ばかり。医療的ケアが必要な子どもや精神疾患がある子どもを24時間365日サポートする訪問看護はなかなかありませんでした。運営面でもスタッフの技術的にも難しいからです。 ここでも「だったら、自分でやるしかない」というスイッチが入って、私の強い想いに賛同してくれた3人のメンバーでエールを立ち上げました。想いを掲げて発信していくうちに、共感したスタッフが徐々に集まってきてくれて、今に至っています。 ―訪問看護ステーションとして開業後、他の事業を展開されるに至った理由について教えてください。経営的なメリットもあるのでしょうか。 訪問看護をしていく中で、改めて在宅で医療的ケア児の保護者の方々がお子さんにつきっきりになっている状況を目の当たりにしました。そして、例えば「きょうだいの子たちはとても我慢している」「お母さんが介護で眠れていない」などのご家族のつらさも耳にし、サポートしてほしいというニーズがあることを知ったんです。そのような状況があると知ったら、いても立ってもいられません。どうすれば支援やサポートができるかと考えた結果、必要な事業が増えていったという流れです。 なので、会社を大きくしたいとか、利益を増やしたいといった目的で始めたわけでありませんが、経営的なメリットはありますね。利用者さんが「本当に欲しい」と思っているサービスを展開しているので、当然ニーズがあります。新規事業を始めて3年もかからず黒字化し、軌道に乗るのが早かったと思います。 でも、やっぱり利用者さんに喜んでいただけることが、この仕事の一番のやりがいです。「本当に困っていた。応えてくれてありがとう」「次は何をやるの?」「こんなことをしてほしい!頼むよ」といったお声をいただくとうれしいですね。利用者さんと一緒に事業を育てている感じがします。 利用者さんやご家族の自立を妨げない ―地域包括ケアシステムの実現に向けてのお考えや、展望を教えてください。 国は、地域包括ケアシステムを2025年までに実現することを目標にしており、団塊ジュニア世代が65歳以上になることによって起こる2040年問題を見据えて、地域共生社会の実現を目指しています。これは、支援される側と支援する側といった枠組みから脱して、「地域全体が協力してともに生きる社会」へ移行することを意味しています。 ですから、地域の中の私たちは「支援する側」だけではなくて、されることもあると思うんですよね。その認識を忘れず、専門職も地域住民の一員だと思うことが大事。「イマカフェ」や「ル・リアン」などのイベントにも、有識者・専門家として参加しているつもりはなく、私たちも教えてもらうこと、助けてもらうことがたくさんあります。その地域で生活をする1人の人間として、どんな貢献や生活ができるのかを考えていきたいと常々思っています。 ―ありがとうございます。「訪問看護師として」という部分にフォーカスすると、どういったことを重視されていますか? そうですね。訪問看護師に限ったことではないのですが、私たち専門職は利用者さんやご家族が「自分たちで生活する」のが基本であることを忘れてはいけないと思っています。専門職が力を発揮するのは、利用者さんやご家族がご自身で対応できないことだけ。過剰・過保護になりすぎて、「できること」を奪ってはいけないと思います。これは、在宅での看取りでも同じことが言えると思います。専門職も含めた「地域の社会資源」が限られる中で、いかに利用者さんやご家族が納得感と幸福感を得ながら最期を迎えられるのか。「あれもこれもすべて必要」という考えではなく、私たちも含めた地域全体の最善を意識しながら関わっていきたいですね。 その際、各専門職が協力し、対話し合うためのしくみも必要だと思います。私たちの目的は、利用者さんが在宅で快適に生活できること。それに向けて必要な支援を実現するために、職種にこだわらず動いていくのが理想だと思っています。 利用者さんの生活にいかに柔軟に対応できるか ―具体的には、どのように動いていくのが理想的でしょうか。 考え方としては、「リハビリスタッフ/看護師が何曜日の何時に訪問」と決めて動くのではなく、「利用者さんが生活する中で、今日は○○と○○の支援が必要だよね。必要な支援内容とエールのリソースを鑑みて、今日は○○と○○が入ろうか」という流れになっていきたいんです。 ケアマネジャーが作ったプラン通りに行うことが、現状の地域包括ケアシステムが指定するサービスです。でも、人は毎日同じ時間に同じことをするわけではありません。通院する必要がある、体調に変動があるなどイレギュラーなことばかり起こります。利用者さんの生活に合わせて柔軟かつ迅速な対応ができることが、究極のケアやサービスではないかと思っていて、私たちはこういうサービスを利用者さんに届けたいんです。 しかし、さきほどもお話ししたとおり、私たちも限られた社会資源です。地域の皆さまに対して提供できるサービスの量には限界があり、一部の方に注力しすぎてしまうと、他の方にサービスを提供できなくなってしまいます。だからこそ、その場でケアにあたっている人が職種の枠をできるだけなくしてサービスを提供したほうが、結果的にみんなの負担が減ると思うんです。 もちろん、点滴や傷の処置といった看護師の専門分野を介護士や理学療法士が担うわけにはいきませんが、看護師が褥瘡のケアをするときに、介護士がオムツを交換したり、理学療法士がシーツを整えたりといった「処置しやすくする補助」はできる。それが本当の異職種の連携ではないでしょうか。みんなで集まってミーティングをするのは、本当の意味での「連携」ではなく、情報共有に留まるのではないかと私は思います。 もちろん、スタッフによってスキルや経験の差があるので、ケアの質を均一化するのは難しいですね。なかなか一筋縄ではいきませんが、理想的なチーム連携を実現するためにスタッフへの声掛けや研修、ミーティングなどを実施しています。 ―ありがとうございました。次回は、教育制度や今後の事業展開などについて伺います。 >>次回の記事はこちら自分らしく楽しく働ける組織にするために。スタッフを応援する制度&風土 ※本記事は、2023年12月時点の情報をもとに構成しています。 執筆:高島 三幸取材・編集:NsPace 編集部

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら