ステーション運営に関する記事

認定看護師活動記
認定看護師活動記
コラム
2023年7月25日
2023年7月25日

看多機(かんたき)を通じて広げる「輪」 【訪問看護認定看護師 活動記/北関東ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師・在宅ケア認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 北関東ブロックに所属する、山崎 佳子さんの活動記をご紹介します。 看護小規模多機能型居宅介護事業所(看多機)の管理者としても活躍する山崎さんに、北関東ブロックの活動や、看多機の管理者としての活動などをご紹介いただきます。 執筆:山崎 佳子在宅ケア認定看護師株式会社やさしい手 看多機かえりえ南佐津間 管理者福岡県出身。看護学校卒業後、総合病院・医療器メーカー・CRC等に従事。2005年より訪問看護に携わる2007年 介護支援専門員資格取得2017年 訪問看護認定看護師教育課程修了2018年9月 「看多機かえりえ河原塚」管理者となる2020年度~2021年度 松戸市小多機看多機連絡協議会会長、松戸市介護保険運営協議会委員2022年 特定行為研修 在宅ケアパッケージ修了2023年5月 新規オープンの「看多機かえりえ南佐津間」管理者となる 訪問看護認定看護師 北関東ブロックの活動 まずは、私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会の「北関東ブロック」についてご紹介します。北関東ブロックは、千葉・群馬・栃木・新潟・茨城の5県の会員で構成しており、会員数は2023年7月時点で40名弱。半数以上は千葉の会員、群馬・新潟・栃木は5名前後、茨城は1名のみです。2022年度の活動としては、前期に事例検討会、後期に地域向け研修会を実施しました。 人数構成上、どうしても例年、活動が千葉県中心になってしまうので、年1回行っている地域向け研修会を、各県の持ち回りで行うことにしています。2022年は、5名の群馬県の会員を中心に、他県の実行委員を加えた10名で研修会の企画を進めていきました。会費をいただいての研修なので、失礼があってはならないと色々なことを想定して準備を進め、Zoomでの会議のほか、LINEを使って話し合いをもち、時には夜遅くまで意見交換をすることもありました。その結果11月の研修会は46名の参加をいただき、スムーズに開催をすることができました。 実際には、北関東ブロック内で一度も対面でお会いしていないメンバーもたくさんいますが、ブロック全体で力を合わせて開催できたと感じました。2023年度もこの取り組みを継続しており、新潟県のメンバーが中心になって新しい実行委員も加わり研修の準備を進めているところです。 看多機の管理者として多職種連携に取り組む では、ブロック活動以外に、私が普段どのような活動をしているかについてもご紹介します。私は、約5年前に社内異動で訪問看護ステーションの管理者から看護小規模多機能型居宅介護事業所(看多機かえりえ河原塚)の管理者になりました。当時、「看多機」という名称は知っていましたが、実際にどんなことをやっているのかはまったくといっていいほど理解していない状態。私は、この異動をきっかけに多職種連携に正面から取り組むことになったのです。 看護職と介護職の違い 赴任して、まず私に立ちはだかった壁は、「看護師と同じように伝えても、介護職には伝わらない」ということです。しかし、ある時、介護職の一人が「介護は、『寄り添いなさい』『受け入れなさい』って教育されるのですよ」と言ったのです。その言葉を聞き、看護職は問題解決思考になりやすく、いつも利用者さんが抱える問題点を探しているように思い、その違いにはっとしました。なるほど…。視点が違うのだから、理解や思いにも違いが生じるのは当たり前だ、と改めて気づいたのです。 互いに伝えることが大切 そして、介護職が看護師に遠慮して、自分たちの思いや考えを言いそびれている場面をよく見かけたので、介護職がそれらを言語化し、発信できるようになることが必要と感じました。介護職は生活援助を通して看護師より利用者さんのそばにいる時間が長いので、ありのままの利用者像を知っていることが多いと感じます。「看護師には言えないんだけど…」というような、利用者さんの本音を聞く機会もあるようです。介護職が持っている情報はとても大切で重要なものだということを自覚して、とにかく自信を持ってその情報を発信してほしい、と伝え続けています。 また、一番身近な介護職が利用者さんの変化に気づくことができれば、病状の変化にもいち早く対応できると思います。それを実現するためには、疾病の知識、観察点、予後予測などを看護師がしっかり学んで理解し、常日頃から介護職に丁寧に伝達していくことが、必要と考えます。介護職にわかってもらえるためにはどうしたらよいか…。看護師には、特に伝える力を養ってほしいと考えています。 看多機では、看護師と介護職が同じ空間で同じ利用者さんを、それぞれの専門性をもってみることができます。互いの情報を持ち寄れば、より快適な療養生活を送るには何が必要か、見えてきます。それをもとに重度の方にも安心して過ごしていただけるための支援を考え、実践していけるのではないかと感じています。 今後も、定期的に利用者さんについて話し合う機会を持ち、お互いの専門性を認め合い、意見を遠慮なく言い合える雰囲気づくりを心掛けていきたいと考えています。 松戸市の小多機・看多機連絡協議会の活動 地域での活動についてもご紹介しましょう。私が赴任した看多機かえりえ河原塚は、千葉県の松戸市というところにあります。松戸市の人口は50万人弱ですが、そこに小多機・看多機が9つずつあり、計18事業所が「小多機・看多機連絡協議会」に参加しています。 主に小多機・看多機の普及活動や、市、医師会、介護連(他の介護事業所が集まった協議会)などとの連携、自己研鑽のための研修などの活動をおこなっています。私は看多機の管理者になって2年目に、前会長の退職をきっかけに協議会の会長に就任することになりました。会長として介護保険運営協議会、基幹の地域ケア会議、医師会在宅ケア委員会等へ参加して、地域の医療や介護の事業のしくみを学べたのはとても有意義な経験でした。定例会は2ヵ月に1度開催して、さまざまな意見を話し合います。そこで出た意見を行政(松戸市)に伝え、ルール変更や統一の対応をしていただいたこともありました。 こうした活動を通じて、同業者との横のつながりは、仕事をしていく上での大きな心の支えになることも実感しました。「競合他社」ではありますが、管理者の悩みは一緒であることが多いもの。話をしていると互いに気持ちをわかりあえることが心地よく、「明日も頑張ろう」という力が湧いてくるのを感じました。 2023年7月 千葉県看多機協議会を立ち上げ その後、私は松戸市の隣の鎌ヶ谷市の看多機(看多機かえりえ南佐津間)への異動が決まったため、2年で会長を辞任しました。 鎌ヶ谷市では1件目の看多機なので、今まで協議会の仲間や市とコミュニケーションをとりながら過ごしてきた私は心細さを感じ、同じ県内で看多機を立ち上げておいでの福田裕子先生(株式会社まちナース まちのナースステーション八千代統括所長)にお願いして、2023年の7月に千葉県看多機協議会の立ち上げをすることになりました。 看多機かえりえ南佐津間 立ち上げ準備のために千葉県内の看多機を調べ、連絡を取ってみて気づいたのは、自治体に看多機が1ヵ所しかないところもまだまだ多いということ。そして、管理者の皆様が、「同業者と話をしたい」と思っているということです。 千葉県看多機協議会は、横の繋がりを強化することで、それぞれの事業所が安心していきいきと運営できるよう活動していきたいという思いで設立されます。看多機はできてまだ10年。本当にこれでよかったのか、もっと良い使い方はないのか、現場では毎日試行錯誤しながら実践に取り組んでいます。協議会の活動を通して、地域の頼れる社会資源として成長していきたいと考えています。 * * * 私は、在宅に携わった看護師がみんな、「この仕事をしてよかった」と思ってもらいたいと考えて、日本訪問看護認定看護師協議会の活動に参加してきました。今後は対象を広げ、在宅に関わるすべての職種に「よかった」と思ってもらうことを目指して、活動していきたいと思っています。 ※本記事は、2023年7月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

訪問看護師のためのウェルビーイング推進
訪問看護師のためのウェルビーイング推進
インタビュー
2023年6月27日
2023年6月27日

具体的に何をすればいいの? 訪問看護師のためのウェルビーイング推進

スタッフが笑顔で幸せに働くために、「ウェルビーイング推進グループ」を設置しているソフィアメディ。今回は、ウェルビーイング推進グループ マネジャーの宮地麻美さんに、活動内容の詳細や、グループ設置後のスタッフの反応などを伺っていきます。 >>前回の記事はこちらどうすればスタッフが幸せになる?訪問看護師のためのウェルビーイング推進 ソフィアメディ株式会社「英知を尽くして『生きる』を看る。」を使命として、首都圏を中心に全国約90ヵ所で訪問看護ステーションを運営。訪問看護や訪問リハビリテーションなど、在宅医療に特化したサービスを提供している宮地 麻美さん/ウェルビーイング推進グループ マネジャー1972年群馬県生まれ。看護師歴22年。精神薄弱児施設で4年働いた後、医療知識を求めて看護師の道へ。ナショナルセンターで15年勤務しつつ、看護教員資格を取得し、大学院へ進学。遷延性意識障害看護を学ぶ中で、口腔ケアの重要性を感じて摂食・嚥下障害看護認定看護師となり、急性期での看護を実践。2016年に回復期リハビリテーション病院に転職し、在宅看護の重要さを知る。2019年にソフィアメディへ転職後は訪問看護ステーション管理者として3年従事し、2022年2月より新設されたウェルビーイング推進グループのマネジャーを担当。 人と人をつなぎ、訪問看護の楽しさを共有 ―ソフィアメディのウェルビーイング推進グループは、従業員満足度(ES)の向上を目的に活動されていると伺いました。より具体的な業務内容について教えてください。 はい。私たちは「ありがとう」「いいね」がソフィアメディ全体に行き渡るようにしたいと考えています。そのため、スタッフ同士やスタッフと経営陣の気持ちをつなぐための活動や、やる気が上がり、不安が軽減するための取り組みを行っています。 ソフィアメディ内での呼び名も含まれますが、具体的な業務内容は以下のとおりです。 【ウェルビーイング推進グループの業務】・毎月の「ありがとうメール」配信・「ソフィアメディチャンネル」(月に一度の全社会)での「生きるを看る物語り」の発信・CEOとのステーション訪問・社内報のウェルビー記事・新入社スタッフのサポート・おせっかいお人好しの部屋・応援ナース 医療職流動化 ─気になる名称の活動が並んでいますが、まず「ありがとうメール」について教えてください。 働く環境や体調・メンタルなど、現在のコンディションを確認することを目的に、毎月全スタッフを対象にウェブアンケートをとっています。そのフリーコメント欄に、その月に感謝を伝えたい相手への「ありがとうメッセージ」を書けるようにしました。そのメッセージはウェルビーイング推進グループから相手の上長にメールで送り、上長から該当メンバーに共有されるようにしています。 ―直接ではなく、上長を介しているんですね。 はい、そのほうが一人のありがとうで完結せず、ありがとうがありがとうを生むしくみとしてやる気アップにつながると思いますので、あえてそうしています。コンディション確認のアンケートでは、スタッフからネガティブなコメントをもらうこともあるのですが、そのあとにしっかりと「ありがとうメッセージ」が書かれていることもあります。「ぜひありがとうを伝えたい」という強い意思をもったコメントも多く見られるようになりました。毎月のアンケートを回答するとき、今月は誰にメッセージをしようと考えるので、その月にお世話になった色々な人の顔を思い浮かべる時間になっているんです。 ─「ソフィアメディチャンネル」での「生きるを看る物語り」についても教えてください。 ソフィアメディチャンネルは、月に一度行われるソフィアメディの全社会なのですが、毎回時間をもらって、「生きるを看る物語り」を配信しています。日々の忙しさに身を任せながら訪問看護をしていると、「自分がどうありたいのか」「何のために何をしているのか」「何を実現したかったのか」を見失いがちです。それこそ、看護師になった理由や、何を期待し、何を実現したくて弊社に入社したのかも忘れかけてしまうことがあります。それらを振り返るきっかけとなるようなストーリーづくりを心がけています。 内容は幅広く、訪問看護のスタッフの人生を紹介するものやお客様へのインタビュー、お客様とスタッフの交流エピソード、看護・リハビリのあり方などを物語にまとめています。例えば、ACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)を話題にしたときは、「死というものに向き合わなければならないとき、患者さんが最終的に伝えたいことは何か」「まだ心の準備ができていないご家族はどうこの時間を過ごせばいいか」といった内容を発信しました。動画ではなく、抽象的なシーンを紙芝居のように見せながら語る、という形式で、観ている方が自身に重ねたり、想像したりができるように余白のある作りこみを心がけています。 アンケートで、「そういう看護がしたかった!」「自分もそういった観点を心がけて看護をしている」といった意見をもらえると、うれしい気持ちになりますね。事務職のスタッフに「大事にしてきた想い」を尋ねた回に、それを聞いた別の事務担当から「事務業務をこんなふうに考えることができるんだと知り、やる気が出た」といった意見をもらったことも。多種多様なスタッフがいますので、それぞれが持つ琴線に触れられるよう、幅広い視点で発信を続けています。 ギャップに苦しみがちな新入社スタッフのサポート ─新入社スタッフに対しては、どのようなサポートを行っていますか? 年間100名以上の新入社スタッフを対象として、入社後のフォロー・サポートを行っています。実務のオリエンテーションは別の部署が行うので、ウェルビーイング推進グループが行うのは、主にコンディションのフォローですね。多くの新入社スタッフは、実際に仕事を始めると、ギャップや違和感に苦しんでしまうんです。 新入社といっても、ソフィアメディの場合「看護師として1年目」という人はいません。病棟勤務から、想いをもって訪問看護へ、というケースがほとんど。でも、訪問看護のお客様は、病棟とは異なり本当に多種多様です。また、医療設備や必要物品が整っていないことが多いお客様のご自宅で、臨機応変に判断・対応していくスキルが求められます。病棟と大きく価値観が異なるため、リアリティショック(理想と現実とのギャップによるショック)は避けられませんが、ショックをなるべく減らすよう新人看護師の声を聞いたり、私たちが目指す看護について改めて話したりしています。 最近始めたのが、「1ヵ月目のあなたへ」というメールの配信です。スタッフたちと同じ目線に立ち、「どうしても100点を目指してしまうものだけど、60点でも十分なんだよ。一人で頑張りすぎなくていいんだよ」ということを伝えています。気持ちが和らぐよう、表現やデザインも工夫しています。できないことはできないと声をあげてもらうことが重要で、できないものだとこちらが把握できれば、手助けも可能なんですね。メールを通じて、「まずは自分を大切にしてほしい」ということを第一に訴えています。 ありのままを受け入れる存在の重要性 ─新入社スタッフの方に限らず、訪問看護師さんたちとのコミュニケーションについてもう少し詳しく教えてください。普段の声掛けではどんな点に気を付けていますか? そうですね。看護師は「看護に関して何でもできてあたりまえ」が前提とされる世界にいます。できないことがあると、患者さんの状況悪化に直結してしまう。だから誰もが気を張っていて、お互いを褒め合うことはあまりありません。お客様から「ありがとう」と言われることはあっても、看護師同士では「できて当然」という空気感のため、なかなか声を掛け合うことがないんです。 そして、「できてあたりまえ」という世界だからこそ、「患者さんを助けられなかった」という事態に直面すると、大きなショックを受けてしまいます。私自身、看護師になって10年ほどは泣きながら帰ることも珍しくありませんでした。誠意をもって強い気持ちで取り組もうとするほど、自分を追い込んでしまうものなんですね。 でも、看護師ひとりがどんなに力を尽くそうが、どうにもならないことはいくらでもあります。自分の看護のあり方をそのまま受け止めてくれる存在がいたら、私もそこまで自分を追い詰めることはなかったのではないかと思うんです。あのとき、「今のままでいいよ」「ちゃんとがんばってるよ」「十分だよ」という一言をもらえていたら、違ったんじゃないかな、という気持ちが大きいんです。そんな体験をもとに、できるだけスタッフたちに寄り添う言葉を選んでいます。 ─なるほど。自分で自分を追い込んでいる方が、さらに他人から叱られたら、とてもつらい気持ちになってしまいそうですね。 そのとおりです。マネジャー側も必死ですし、できないことがあると強い言葉で注意してしまうこともあるかと思うのですが、誰かに叱られるとなかなか前向きになれないもの。頭のなかが「叱られたこと」だけでいっぱいになってしまいますよね。教わったはずのことも吹き飛んでしまうかもしません。私が関わる看護師には、そういう経験をしてほしくないと強く思っています。 看護師はどうしても自分を二の次にしてしまい、自分を大切にすることが得意ではありません。でも、人生は一度だけなんです。看護師という仕事を選び、続けているスタッフたちをとにかく応援したいですし、自分を大切にしてほしい。そんな気持ちがいまの私を動かしていると思います。 ─ウェルビーイング推進活動を通じて、スタッフの皆さんに変化はありましたか? はい。生き生きと働いている様子を聞くこともありますし、各自抱え込んでしまいがちなステーション業務の大変さを打ち明けてもらえることも増えました。 ―解決が難しいお悩みだった場合は、どのように対応しているのでしょうか。 2022年度には70名ほどの看護師たちとお話ししたのですが、悩みがあれば、話を聞いて「リフレーミング」をしていきます。リフレーミングとは、一定の枠組みで捉えている物事を、違う枠組みで捉えようとする心理学的アプローチです。 例えば管理者と考え方が合わない場合、別の捉え方ができないか検討していきます。それぞれの看護観、人間観や仕事観などが影響してくるのですべてが合うことは難しいと思います。でもその中で「自分がどう考えたら、動いたら少しでも良い関係が築けると思いますか?」とご自身に問い、ご自身の中での最適解をご自身で選んでもらうのです。悩んでいると視野が狭くなってしまうものですが、一緒に視点を変えて考えることで、別の方法に気づき、ポジティブな考え方ができるようになってくれればと思っています。「自分が幸せになれないのは、社会のしくみや環境のせいだ」と考えがちな人もいますが、「自分自身の考え方が変わることでその社会の見え方が大きく変わる」こともあるのだ、と知ることで楽になることが増えると思います。 もちろん、ステーションごとにコンディションも違いますし、それぞれの強い想いがあって簡単にはいかないこともあります。でも、私たちは他人をコントロールすることはできませんし、一人ひとり違うからこそ、人間は面白い。その人の強みを生かせるよう、私自身が一歩引きながら考えることを心がけています。難しいことなので、これは人生を通した課題ですね。 自分の存在を認め、大切にすることが肝心 ─他のステーションの管理者の皆さまに向けて、「ウェルビーイングな職場づくり」をするためのコツを教えてください。 いろいろなアプローチがあると思いますが、一番の肝の部分は、「相手の存在そのものを認めること」ではないでしょうか。存在を認めることは、その人の命や人生を大切にすることに繋がります。具体的にどうすればいいの?と思うかもしれませんが、難しいことではありません。「まずは挨拶から」でいいんです。良い関係でないと、挨拶もままならないものですよね。挨拶は相手の存在を認めていることを伝える一番簡単な手段と思っています。 無事戻ってこられるよう「いってらっしゃい」と声をかけること。帰ってきたときには「おかえり、帰ってきてくれて嬉しい」と言葉で伝えること。 次に重要なのが「失敗が言える関係」にステップアップしていくことです。失敗を自ら好んでする人はいません。でも人は失敗するものでもあると思います。なので失敗を自分だけでなんとか取り繕おうとしたり、隠そうとしたりするのではなく、そのままを報告できること。言い訳を考える時間は、本当に無駄です。私は、そんなことを看護師にさせたくありません。「報告さえしてもらえればちゃんと引き継げるよ」「フォローできるよ」という姿勢が重要だと考えています。対処したあとに一緒に振り返ることはもちろんしていきます。 また、当然のことですが、管理者からのダメ出しは、看護師たちに大きな影響をもたらします。最大限言葉を選んで、「これから学んでいこう」と思えるメッセージを伝えたいですよね。その人が次の一歩を踏み出せるような言葉を考えることが重要だと思います。チーム作りは時間がかかりますが、それぞれの自分らしさを大切にしながら、じっくりすすんでいきましょう。 ─ありがとうございました! ※本記事は、2023年4月の取材時点の情報をもとに制作しています。 取材・執筆: 倉持 鎮子編集: NsPace編集部

訪問看護師のためのウェルビーイング
訪問看護師のためのウェルビーイング
インタビュー
2023年6月20日
2023年6月20日

どうすればスタッフが幸せになる?訪問看護師のためのウェルビーイング推進

訪問看護師が笑顔で幸せに働くためには、どうすればいいのか。多くの訪問看護ステーションが抱える課題でしょう。今回お話を伺ったのは、ソフィアメディ株式会社で「ウェルビーイング推進グループ」のマネジャーを担当する宮地麻美さん。管理者経験もある宮地さんに、「ウェルビーイング」とは何か、ウェルビーイング推進グループではどんな取り組みを行っているのか、などを伺いました。 ソフィアメディ株式会社「英知を尽くして『生きる』を看る。」を使命として、首都圏を中心に全国約90ヵ所で訪問看護ステーションを運営。訪問看護や訪問リハビリテーションなど、在宅医療に特化したサービスを提供している宮地 麻美さん/ウェルビーイング推進グループ マネジャー1972年群馬県生まれ。看護師歴22年。精神薄弱児施設で4年働いた後、医療知識を求めて看護師の道へ。ナショナルセンターで15年勤務しつつ、看護教員資格を取得し、大学院へ進学。遷延性意識障害看護を学ぶ中で、口腔ケアの重要性を感じて摂食・嚥下障害看護認定看護師となり、急性期での看護を実践。2016年に回復期リハビリテーション病院に転職し、在宅看護の重要さを知る。2019年にソフィアメディへ転職後は訪問看護ステーション管理者として3年従事し、2022年2月より新設されたウェルビーイング推進グループのマネジャーを担当。 体制変更やコロナ禍でスタッフが疲弊 ─まずは、宮地さんが訪問看護師になったきっかけをお教えください。 私は看護師になる以前、精神薄弱児施設に勤務していたのですが、気管内吸引をはじめとした医療的処置が必要な子や、多数の薬を飲んでいる子たちがいました。その子どもたちと関わるうちに医療の道に興味をもち、看護師を志すようになったんです。看護師になってからは、口腔ケアに興味を持ち、医学博士の紙屋克子先生や歯科医師の黒岩恭子先生のもとで学んだ後、摂食・嚥下障害看護認定看護師として病院で働いていました。 しかし、病院ではどうしても多数の患者さんをケアするために優先順位を考えて対応せざるを得ません。「もっと患者さん本位の看護をしたい」「在宅での看護をしたい」と思うようになったことが、訪問看護師になるきっかけですね。回復期リハビリテーション病院に転職して、在宅看護を目の当たりにしたということも大きいです。自分の身の回りに関するものも人間関係も、基本的には「家」が中心。家で治療・療養ができれば、より患者さんの心が満たされる看護ができるのではないかとも思いました。 ―在宅看護に夢を持って、ソフィアメディに転職されたのですね。 はい。2019年に転職し、「ソフィアメディ訪問看護ステーション元住吉」の管理者を任されました。「地域のみなさんに安心してもらえるようなステーションにしたい」「スタッフにも利用者様にもケアマネジャーさんたちにも笑顔になってほしい」と、夢や希望でいっぱいでした。 しかし、2019年はちょうど診療報酬の改定があり、ソフィアメディでも在宅で中重度のお客様を受け入れられるよう体制を整えはじめた大転換期。土日・夜間の対応強化による忙しさにスタッフたちは疲弊し、漠然とした不安がステーション内に広がり、管理者としてふがいなさを感じていました。さらに、2020年には新型コロナウイルス感染症の波が訪れ、課題は山積み…。スタッフたちの笑顔が少なくなっていきました。 このときに私は、「絶対にステーションを笑顔いっぱいする!」と決心したんです。 ウェルビーイング=「健康で幸せな状態」 ―管理者時代の経験が、現在の「ウェルビーイング推進」のお仕事につながっているのですね。では、そもそもウェルビーイングとは何なのか、定義から教えてください。 ウェルビーイング(Well-being)は、「ウェル」(良好な、健康な)と「ビーイング」(状態)をつなげた言葉で、「健康で幸せな状態」のことを指します。慶應義塾大学の前野隆司教授によれば、長続きしないお金や社会的地位などではなく、長続きする「社会的、身体的、精神的に良好な状態」がウェルビーイングです。日本は、社会的・身体的な部分については高水準だと言われていますが、「精神的」な部分が課題だと言われています。 ―ウェルビーイングは、単純に「うれしい」「楽しい」という状態ではないのですね。 そうですね。前野教授は、幸せを高める因子として、以下の4つを挙げていらっしゃいます。例えば、強みを生かして主体的に動けている状態や、他者と比べず「自分は自分」と思える状態も、ウェルビーイングに含まれるんです。私は、この4つの因子を参考にしながら、ステーション内を笑顔でいっぱいにすべく、動いていきました。 ■前野 隆司教授による幸せの4つの因子・「ありがとう!」因子(つながりと感謝)・「やってみよう!」因子(自己実現と成長)・「ありのままに!」因子(独立と自分らしさ)・「なんとかなる!」因子(前向きと楽観) ―具体的に、訪問看護ステーション元住吉でどのような取り組みを行ったのでしょうか。 まずは、スタッフの心理を分析しました。訪問看護に携わる看護師・セラピストたちは、職種柄「自分がやらねば!」という責任感や正義感が強く、患者さんのために自分自身を犠牲にしたり、ミスをした際に過剰に自分を責めたりする傾向にあると思います。 ソフィアメディ 「スタッフの心理」セミナー資料より引用 こうした現状を踏まえて、「4つの因子」に当てはめて改善をしていきました。 ソフィアメディ 「幸せを高める4つの因子」セミナー資料より引用 例えば、以下のような行動です。 (1)「ありがとう!」因子(つながりと感謝) ・誰よりも早く大きな声で「おかえり」「いってらっしゃい」などの声をかける・日々スタッフの命が一番大事であることを伝える・マイナスな意見に対しても「改善のきっかけになった」と感謝する (2)「やってみよう!」因子(自己実現と成長) ・「理想の看護」について、スタッフ一人ひとりにヒアリングする・自分の意見を押し付けず、スタッフたちの意見に「いいね!」と伝える・難しい案件も断らず、必要に応じて管理者である自分自身が訪問して看護方針を策定 (3)「ありのままに!」因子(独立と自分らしさ) ・会話を通じて、スタッフのコンディションを把握・プライベートの事情や趣味も把握し、応援し合う・「自分を犠牲にせず、自分が幸せになるやりかたを考えよう」と伝える (4)「なんとかなる!」因子(前向きと楽観) ・インシデント報告に対して「ありがとう」「大変だったね」と感謝・ねぎらいの言葉をかける・「寝坊しました!」とはっきり言えるくらい、相談しやすい雰囲気づくりをする・困りごとの解決策は、一緒に考える こうした動きをしていったことで、ステーション内の雰囲気が良くなり、年間で一人も離職者は出ませんでした。アンケートでのスタッフの従業員満足度(ES)も高くなりました。 「ありがとう」「いいね」が行き交う組織へ ─訪問看護ステーション元住吉での取り組みを経て、ソフィアメディ内でウェルビーイング推進グループを立ち上げ、取り組みを会社全体に広げているのですね。では、ウェルビーイング推進グループの立ち位置について教えてください。 はい。ウェルビーイング推進グループ設立の目的は、まさに全体の従業員満足度を高めていくことです。『「ありがとう」や「いいね」が行き交う組織にする』というヴィジョンを掲げて活動しています。4名という少数で活動しており、グループ内でなにか相談したいことがあれば、すぐに話し合っています。 ─ウェルビーイング推進と、ワークライフバランス推進は異なるものでしょうか? はい、そこは明確に異なります。「ワークライフバランス」という言葉は、「仕事とプライベートをしっかり切り分ける」といった意味合いが強いですよね。たしかに公私混同しないことは重要ですが、仕事をしているときの自分も、家に居るときの自分も、どちらも「自分」。切り分けることはできません。ウェルビーイングを推進する際は、その前提に立って考えています。 当たり前のことですが、家で嫌なことがあれば、仕事に気が乗りませんし、仕事でいいことがあれば、家でもずっといい気持ちでいられますよね。「仕事とプライベートは相互に影響し合うもの」「繋がっているもの」ということを意識して、両方大切にしていきたいというのがウェルビーイング推進グループの基本的な考え方です。仕事の時間は人生の多くを占めますので、楽しんでもらえるような環境・関係をつくりたいと思っています。 例えば、「今日は家族の具合が悪いから帰りたい」、「好きなアイドルのコンサートがあるから早帰りさせてほしい」。そんな一言が言いやすい環境がいいと思います。そういった発言が聞けると、「ご家族の調子がよくなくて大変なんだな」とか、「そんな趣味を持っているんだ」などと、スタッフたちの事情が見えてきますよね。事情がわかれば、互いに配慮し合えます。公私を完全に切り離すのでなく、どちらも「その人を形成するもの」として知り、自分のことも知ってもらう。そうすることで、円満な関係が生まれやすくなると思います。 ―ありがとうございます。次回はウェルビーイング推進グループの業務の詳細や、スタッフの皆さんの反応についてお話しいただきます。 >>続きはこちら具体的に何をすればいいの? 訪問看護師のためのウェルビーイング推進 ※本記事は、2023年4月の取材時点の情報をもとに制作しています。 取材・執筆: 倉持 鎮子編集: NsPace編集部

孤独な管理者を支える ステーション支援2
孤独な管理者を支える ステーション支援2
インタビュー
2023年5月30日
2023年5月30日

孤独な管理者を支える「ステーション支援」の取り組み 成果&スタッフの反応は?

ソフィアメディのステーション支援グループは、管理者と目線を一緒にして、ともに考える伴走型のサポートを行っています。今回は、CQOの篠田耕造さんとグループリーダーの村山忍さんに、ステーション支援グループが誕生したことによる変化や、スタッフの反応等についてお話しいただきます。 >>前編はこちらともに悩んで孤独な管理者を支える「ステーション支援」の取り組み ソフィアメディ株式会社「英知を尽くして『生きる』を看る。」を使命として、首都圏を中心に全国約90ヵ所で訪問看護ステーションを運営。訪問看護や訪問リハビリテーションなど、在宅医療に特化したサービスを提供している。篠田耕造さん/最高品質責任者CQO(Chief Quality Officer)公立総合病院、専門病院、地域包括ケアを行う法人で、教育体制や業務プロセス・品質管理に携わりながら、MBA(経営管理学修士)・認定看護管理者を取得。日本看護協会教育委員・学会企画、岐阜県看護協会副会長等を歴任。JNAラダー・教育システム、管理者研修、医療経営セミナー講師などを行う。2022年よりソフィアメディCQOに就任。 村山忍さん/ステーション支援グループリーダー看護師経験25年。ソフィアメディに入社し15年目。総合病院や個人病院に勤務後、訪問看護に携わる。ソフィアメディ2号店の管理者や、新規立ち上げ事業所の管理者を経験した後、ステーション支援グループ リーダーへ。全国を飛び回り管理者をサポートしている。 ※文中敬称略 やるべきことがクリアになると不安が軽減 ―ステーション支援グループが誕生したことによる変化を教えてください。 村山: ステーション支援グループができて、管理者の離職率はかなり低下しました。従業員満足度評価の総合スコアも全体平均を上回って、ポジティブな結果を得られました。やはり、一人で抱え込まずにいつでも相談できる体制に加えて、指標やマニュアルで管理業務を細かく確認しながら進められる体制にしたことが良かったのではないかと思っています。これによって管理者は「具体的に何をするのか」「何を優先すべきか」ということが明確になったんです。見えない不安が減ったことで、結果的に離職率が低下したのではないでしょうか。 ―ステーション支援グループとして活動しているなかで、喜びを感じることや、課題を感じていることについて教えてください。 村山: 私は、サポートしたメンバーの前向きな声・表情を見ると幸せな気持ちになります。例えば、新規依頼にうまく対応できず落ち込んでいる管理者がいたので、一緒に考えてサポートしていたんです。次に会った時に「うまくいきました!」と報告を受けて「すごい!やればできるよね!」とほめる。その後、「今度はこれもやってみますね」と前向きな姿勢になってくれる…といった姿をみると、本当に嬉しくなります。 もうひとつ例をあげると、開設当初から「管理者はもう無理です。私にはやれません」と訴える管理者がいたんですが、地道に励まし、サポートしていきました。もちろん本人もとても頑張り、一年が経過。私が「一年経ったね!」と声をかけたら、その管理者は「私もやれました!」と感激していました。シンプルですが、一年間やり抜いてくれたこと、自分でもやれると自信をつけてくれたことがすごく嬉しかったです。 課題に感じていることは、管理者へのメンタルサポートですね。ステーション運営をしていると、当然良いことばかりではなく、変化が大きいんです。前週までは調子が良くても、例えばお客様からのクレーム1本で管理者がとても落ち込むこともありますよね。この大きなギャップをフォローするには、私自身のメンタルサポートの勉強が必要だと感じています。みんなをしっかりとサポートできるように、自己研鑽していこうと思っています。 篠田: 私はやはり、新規のお客様が入ったときに、我々がこれからどうケアしていくべきか、メンバーと一緒にプランを練っている時間が一番楽しいですね。逆に、在宅を希望されているお客様が再入院になってしまったときは悔しいです。どのステーションも同じだと思いますが、そういうときは事例を振り返ってレビューするようにしています。 もう少し視野を広げると、訪問看護の認知度がまだまだ低いことを日々感じていますね。訪問看護を全国にどう根付かせていくべきか、そのためにどのような教育をしてどう定着させていくべきか、ステーション支援をしながら常日頃考えています。また、地域包括ケアシステムの中での人材育成も課題です。これについては、施設や組織、地域の垣根を越えて柔軟に取り組んでいきたいですね。安全・感染管理、災害支援などもステーション支援グループのミッションのうちのひとつですが、一つひとつ着実に基準を確立していきたいと思っています。 地域の勉強会に参加して視野と人脈を広める ―社内でなかなかサポートを受けられない他のステーションの管理者がモチベーションを上げるには、どのような取り組みが効果的でしょうか。 篠田: 訪問看護ステーションは地域包括ケアシステムの中で大変重要ですが、経営的に不安定になりやすく、事業継続の難易度が高いと思います。そのため、国を挙げて大規模化が図られています。小規模なステーションでは、どうしても管理者に負荷が集中する傾向にあり、一人でできることには限界があるでしょう。そんな中でぜひ活用して欲しいのは、都道府県看護協会や訪問看護連絡協議会の活動です。私も以前、岐阜県看護協会の副会長をやっていましたが、サークル活動のようなことを行っているので、ぜひ参加してみると良いと思います。もちろん組織の中で解決しなければいけないこともあると思いますが、地域の中では、例えば小児医療や癌末期の連携についての勉強会なども結構あるんですよ。 そういった場にどんどん参加して自分たちの役割を伝え、困り事を一緒に考えてもらうのも良いのではないでしょうか。そういった場への訪問看護の出席率は低い傾向にありますが、地域の中での相互理解を深めるためにもおすすめしたいと思います。 また、これは社内でもいつも言っていることなのですが、地域包括ケアシステムの中で看護師はキーパーソンだと思っています。我々看護師は、コミュニティレベルを高くして、地域包括ケアシステムを自分たちで築いていくんだという意識をもつことが大切ではないでしょうか。 訪問看護の質向上にはベンチマークが必要 ―今後、訪問看護業界全体の質向上を図る上で、何が必要だと思いますか。また、今後の展望を教えて下さい。 篠田: 私は病院で25年間、在宅医療の分野では6年ほど働いていますが、在宅医療はまだ質のばらつきが大きいと感じています。病院は標準化されて品質が保証されてきていますが、在宅医療にはベンチマーク(基準)となるものがないことが課題だと思っています。ソフィアメディは全国展開しているので、特に地域によってやり方も課題も異なることを実感しているんです。 これまでの訪問看護は、「事業所数を増やす」という量的な部分に着目してきましたが、これからは「質」の部分に着目され、国を挙げてベンチマークが作られていくはず。そうした潮流の中で、私たちも全国展開の知見を活かし、業界の基準となる指標を提言できないか検討しています。まずは基準を満たしてから各事業所の特徴を押し出していくほうが、全体の質向上に繋がるのではないでしょうか。 ―ありがとうございました。 ※本記事は、2023年2月の取材時点の情報をもとに構成しています。 執筆・編集:NsPace編集部

運営指導(実地指導)体験談
運営指導(実地指導)体験談
特集
2023年5月23日
2023年5月23日

運営指導(実地指導)体験談 大切なのは日々の業務を基本に忠実に行うこと

「運営指導で準備することは何?」「当日はどんなふうに進行するの?」運営指導に関してこんな疑問を抱いている管理者は多いのではないでしょうか。今回は、大阪市住吉区にある医療法人ハートフリーやすらぎの訪問看護ステーション管理者の田端さんに、2022年に受けたばかりという運営指導の体験談を教えていただきました。事前準備のノウハウはもちろん、運営指導を受けて再認識したことなど、盛りだくさんの内容でお届けします。 約2週間前に運営指導の実施通知が届く 介護事業を行っていれば、いつかは必ずやってくる運営指導。わかってはいるものの、いざ実施通知が届くとびっくりするものです。 通知には、「介護保険サービスの質の確保および保険給付の適正化を図ることを目的に、実地指導を実施します」の文言とともに、実施日時や当日訪問予定の大阪市福祉局の担当職員2名の名前に加え、膨大な数の準備書類が記載されていました。 当事業所で実施通知を受け取ったのは、実施日の約2週間前。介護給付費に関する書類も準備しなければなりません。これは大変なことになったぞと思い、急いで準備に取り掛かりました。 書類は独自リストを活用し効率よく準備 運営指導では、介護サービスの実施状況と運営体制の構築について必要書類に基づき確認されます。必要な書類や確認内容はサービス種別によって変わってきます。具体的には、「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」の別添資料「確認項目及び確認文書」にまとめられているので、ぜひご覧になってみてください。 今回、準備書類で苦労したのは、サービス提供実施記録や居宅サービス計画書、サービス担当者会議の記録など、サービスに関する書類です。当事業所には約300名の利用者さんがいらっしゃいます。管理者だけでは手に負える数ではないため、主任やスタッフにも協力してもらい、事業所全体で準備を進めました。 運営指導の実施時間は3時間。その時間で全利用者さんの書類が確認されるわけではありませんが、どの書類が選ばれるかは当日にならないとわかりません。どの利用者さんのどの書類が選ばれても問題ないように、全員分のすべての書類をそろえておく必要があります。 スタッフには、確認の抜けや漏れがないように、必要な書類とそれぞれのチェックポイントをまとめたリストを配布しました。例えば、「訪問看護計画書」のチェックポイントは以下のとおりです。 訪問看護計画書 ・利用者さんの氏名、生年月日、要介護度、住所等の基本情報が記入できているか。・目標に、利用者さん、ご家族の希望を取り入れているか。・主治医の指示と相違がないか。・ケアマネジャーが作成するケアプラン(居宅サービス計画書)と相違がないか。・「利用者の状態に変化があった時」、「指示書に変更点があった場合」、「ケアプランに変更があった場合」は、必ず利用者さん、ご家族に説明し、サインをもらっているか。・変更がなくても、最低6ヵ月に1回のタイミングで、利用者さんに説明し、サインをもらっているか。・「衛生材料等が必要な処置の有無」「処置の内容」「衛生材料等」「必要量」の欄について⇒衛生材料等が必要になる処置の有無について○を付けているか。また、衛生材料等が必要になる処置がある場合、「処置の内容」と「衛生材料等」について具体的に記入し、「必要量」については1ヵ月間に必要となる量を記入しているか。・「訪問予定の職種」の欄について、訪問予定の職種とその訪問日について、利用者さんに分かるように記載しているか。・内容がずっと一緒のコピーになっていないか。状態の変化やプラン変更の記載ができているか。・複数名訪問加算を算定している利用者さんの場合、計画書にその理由が記載できているか。・目標の達成状況が記録されているか、その状況に基づき計画を変更修正しているか。 この内容に沿って、受け持ちの利用者さんのカルテを確認してもらいました。 特に注意したのは、介護保険証の有効期間と、サービス担当者会議の記録、居宅サービス計画書、看護計画書がきちんと連動しているかということです。オリジナルの連動チェック表を作成し、各書類を横断的に確認できるようにしました。 報酬請求状況は必ず確認されます! 介護サービスの実施状況と運営体制の確認以外にも、運営指導には大切な目的があります。それは、報酬請求状況の確認です。特に各種加算に関してきちんと算定要件を満たし、適正に介護報酬の請求が行われているかどうかが重点的に確認されます。 そこで、請求状況についても当事業所で算定している加算をリスト化し、それぞれの算定基準から必要な項目を整理しました。このリストに沿って、スタッフに利用者さんのカルテを見直してもらい、準備を進めました。例えば、「ターミナルケア加算」では以下の項目を洗い出してまとめました。 ターミナルケア加算 ・主治医との連携のもと、ターミナルケアに係る計画、支援体制について利用者さん、ご家族に説明を行い、同意を得てターミナルケアを行っているか。・24時間連絡が取れる体制を確保・整備しているか。・ターミナルケアの提供について、利用者さんの身体状況の変化等、必要な事項が適切に記録されているか。・療養や死別に関する利用者さん、ご家族の精神的な状態やその変化、それに対するケアの記録があるか。・利用者さん、ご家族の意向に基づく、アセスメントや対応の記録があるか。 運営指導では請求書を見てカルテを選定 当日は事前通知どおり2名の担当職員が訪問されました。こちらは管理者の私と事務員の2名で対応しました。 簡単な挨拶の後、最初に「請求書を見せてください」と言われました。請求書の確認後、数名の利用者さんの名前がピックアップされ、カルテを見せてほしいと依頼されました。その後、事前に準備した書類とカルテの確認に入られました。 書類確認中はずっと立ち会うわけではなく、通常業務をしていても問題はありませんでしたが、たまに「この書類はどこにありますか?」と聞かれ、対応しました。なお、書類は、一覧表の順番通りに並べ、一覧表と同じ番号を記載した付箋を貼っておきました。担当職員から「〇〇の書類を見せてください」と急に言われても、さっと取り出せたので、これはやってよかった工夫のひとつです。 「口頭指導」を受けました 運営指導の指導方法には、文書指導、口頭指導、助言の3つがあります。今回、当事業所が受けたのは、口頭指導でした。口頭指導は、法令や通知等で規定された事項に違反しているものの、その程度が軽微な場合、または文書指導を行わなくても改善が見込まれる場合に行われます。改善報告が必要なレベルの重大な違反がなくて、本当に安心しました。口頭指導で、いくつか指摘された中から、みなさんの事業所でも参考になりそうなものを紹介します。 運営規定と重要事項説明書との整合性 運営規定と重要事項説明書との記載内容は、同じである必要があります。当事業所では、夏季休暇について運営規程では「8月14日、15日」、重要事項説明書では「盆休み」と記載していたため、この記載を合わせるように指摘を受けました。 勤務表の管理 職種(訪問看護師/理学療法士/作業療法士等)や勤務形態(常勤/非常勤)がわかるように項目を追加し、管理するように指摘を受けました。 加算の算定要件の詳細を再確認 当事業所では、サービス提供体制強化加算を取得しています。この加算では、職員の一定の勤続年数や研修計画に基づく研修の開催、利用者さんに関する留意事項の伝達や技術指導を目的とした会議を実施するといったことが主な算定要件です。 要件はクリアしているものの、スタッフごとに研修を計画し目標がわかるようにしておくことや、職種や勤務形態を問わず、すべてのスタッフが研修を受けられるように計画するよう指摘を受けました。 日々の業務管理こそ運営指導対策の王道 必要書類の準備から当日の指摘事項を振り返ってみて、あらためて感じたのは「基本に忠実に」日々の業務を遂行することの大切さです。法令や条例、規則等を遵守しながら、利用者さんへのサービスの質を確保し、日々着実に仕事をすること、これに勝る運営指導対策はないと思います。 利用者さんの介護保険証の有効期間を確認する、利用者さんの状態が変わったら必ずサービス担当者会議を行って記録を残す、看護計画を更新したら利用者さんにきちんと説明し同意を得てサインをもらう、等々。これらはどれも当たり前のことです。 ただし、どんな仕事でも必ずイレギュラーが発生します。例えば、利用者さんのサインがもらえなかったときにどうするか。重要なのは、そのままで済ませない、イレギュラーのままで終わらせないことです。運営指導の通知が届いてから準備していては、必ず何かが抜けてしまいます。常日頃から、スタッフ一人ひとりが各書類の目的を理解し、きちんと整備できる意識の醸成、しくみづくりが不可欠と感じました。 最後にもう1点、事業所の郵便受けは毎日必ず見るようにしてください。実施通知は郵送で届きます。しかも、いつ届くかわかりません。ポストを確認する習慣がなく、実施当日に通知に気づいた…という笑えない話を聞いたことがあります。みなさん、ぜひご注意ください。 執筆:田端 支普医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション 管理者●プロフィール1997年看護学校卒業後、総合病院に8年間勤務。小児科・産婦人科病棟を含む混合病棟を経て、2006年訪問看護ステーション ハートフリーやすらぎに入職。2020年より現職。2012年訪問看護認定看護師資格取得。2019年特定行為研修終了。2021年在宅ケア認定看護師へ移行手続き終了。

孤独な管理者を支える ステーション支援1
孤独な管理者を支える ステーション支援1
インタビュー
2023年5月16日
2023年5月16日

ともに悩んで孤独な管理者を支える「ステーション支援」の取り組み

訪問看護ステーション数は年々増加し、ニーズの多様化に伴い管理者業務も多岐に渡っています。訪問看護の実務から運営まで、一人で何役もこなす管理者の負担は計り知れません。ソフィアメディでは、そんな管理者を組織でサポートする「ステーション支援グループ」を2020年に設立しました。グループ設立のきっかけや具体的な業務内容について、CQOの篠田耕造さんと、ステーション支援グループリーダーの村山忍さんにお話しいただきます。 ソフィアメディ株式会社「英知を尽くして『生きる』を看る。」を使命として、首都圏を中心に全国約90ヵ所で訪問看護ステーションを運営。訪問看護や訪問リハビリテーションなど、在宅医療に特化したサービスを提供している。篠田耕造さん/最高品質責任者CQO(Chief Quality Officer)公立総合病院、専門病院、地域包括ケアを行う法人で、教育体制や業務プロセス・品質管理に携わりながら、MBA(経営管理学修士)・認定看護管理者を取得。日本看護協会教育委員・学会企画、岐阜県看護協会副会長等を歴任。JNAラダー・教育システム、管理者研修、医療経営セミナー講師などを行う。2022年よりソフィアメディCQOに就任。 村山忍さん/ステーション支援グループリーダー看護師経験25年。ソフィアメディに入社し15年目。総合病院や個人病院に勤務後、訪問看護に携わる。ソフィアメディ2号店の管理者や、新規立ち上げ事業所の管理者を経験した後、ステーション支援グループ リーダーへ。全国を飛び回り管理者をサポートしている。 ※文中敬称略 管理者と一緒に悩みながらサポート ―ステーション支援グループ設立の経緯や、具体的な活動内容について教えてください。 村山: ステーション支援グループは、管理者やスタッフからの「ステーションをサポートする体制が欲しい」という声から生まれました。私も管理者になったばかりのころ、新規の利用者様への対応や看護師としての対応はできても人事労務の対応ではわからないことが多く、その都度本部に相談していたので、このニーズはとてもよくわかります。 ステーション支援グループが行っている活動は、簡単に言うと「管理者のサポート」ですね。基本的には新任管理者や新規開設事業所のサポートの割合が高いです。事業所に行ってサポートすることもあれば、オンラインでサポートすることもありますね。 具体的には、新人ナースの同行訪問を含む業務サポート、管理業務のレクチャー、業務マニュアルの整備などを行っています。例えば、人手が足りない事業所に新人ナースを配属するケースが多いですが、人手が足りない事業所は管理者もフルで訪問にまわっていることが多く、新人ナースの育成にかけられるパワーが足りません。そういったところに私も入っていって、一緒に新人ナースを育成していきます。 ソフィアメディ株式会社「2022年 BEACON OF HOPE」より 篠田:まとめると上の5つが主な業務内容ですが、随時検討・改善を行っています。例えば、「03. 欠員時の業務代行」の活動は現状減っていますね。今はまだ試行しながら実装している段階ですが、病棟でよく行っているような、人員数や稼働率をモニターして稼働率が高いところに人員を充当するしくみを導入したんです。 「上から言う」のではなく一緒に悩む ―「ステーション支援グループ」は、ソフィアメディの中ではどういった立ち位置になるのでしょうか。人員構成についても教えてください。 篠田:ステーション支援グループは、クオリティマネジメント本部という部署に属していて、地域横断の「横軸」としてのサポートを行っています。「縦軸」として、訪問看護事業本部のエリアプロデューサーという存在もいます。地域連携や経営的なサポートについてはエリアプロデューサーが行っていて、我々はスタッフと同じ目線に立ちながらしっかり「お客様第一主義」というソフィアメディの行動指針を保証していく。QC(品質管理)からQA(品質保証)まで行っているイメージですね。 ステーション支援グループのメンバーは、延べ人数で8名です。私も含めて管理者経験者は5名で、専業は村山のみ。村山には全国の事業所を飛び回ってもらっていますが、他のメンバーは管理者やクオリティマネジメント本部の「教育研修グループ」「ウェルビーイング推進グループ」などと兼務しています。兼務者が多いのである程度ビジーにはなりますが、例えば教育研修グループの担当者がステーション支援に関わることで、教育・研修内容のブラッシュアップに繋がる。また、アップデートした教育システムが浸透しやすくなるといった相乗効果もありますね。 ―ステーション支援グループとして活動されている中で、どんなことを心がけていますか? 村山: 管理者の率直な気持ちを引き出せるよう、ざっくばらんに会話することを心がけています。例えば、何らかの事情でお客様のご希望に沿った支援が叶わないときや、運営がうまくいかないとき、人間関係のトラブルが起こったときなど、管理者には精神的に大きな負荷がかかります。私もその気持ちがよくわかるので、経験談を交えながら、同じ目線で一緒に悩み、考えてサポートしています。また、新人ナースの同行訪問では、ソフィアメディが大事にしている使命を伝えることも心がけています。 篠田: そうですね。本当に「一緒に悩み、考えること」ことは大切だと思っており、管理者のメンター的な役割として、村山や私、バックオフィスのメンバーが具体的な対応を一緒に検討しています。ソフィアメディの使命は「英知を尽くして『生きる』を看る」です。これを実現するには、高いところから指導をするような姿勢では伝わりません。何が起きて何に困っているのか、それを解決するためにはどうすればいいのか、一丸となって考える。それにより、我々の価値を発揮できると思っています。ステーション支援グループには管理者経験者が多いので、当事者意識をもちつつ、予測的に対応できるところが強みです。 また、管理者になったからこそ味わえるマネジメントの醍醐味ややりがいというものがあります。少しずつでも「自分にもやれた!」という達成感を得られると、「スタッフの育成を頑張ろう」「もう少し地域に根付いた活動をしよう」と、モチベーションアップに繋がっていくんですね。そうした達成感を味わえるようにサポートしています。一つひとつ積み上げながら成長していけば、非常に強い基盤を作れると思っています。 村山: 達成感は、本当に大事だと思います。私が管理者と関わるときも、どんな小さなことでも良い点を認め、伝えるようにしています。小さなことでも認められ、ほめられることを積み重ねていくと、「これでいいんだ」というお墨付きをもらった感じになるようです。 即実践できる知識を伝え、育成期間を短縮 ―管理者の人材育成プランに関して教えてください。 篠田: 人材育成はとかく時間がかかるものですが、管理者の育成期間をできるだけ短くするように努めています。訪問看護では高い調整能力が求められますが、説明するだけではそういったスキルは習得しづらいのが現実です。ですので、連携や調整方法、スケジュール管理に至るまで、日常的にある小さな疑問・悩み事を聞き、即実践できる知識を伝えています。これを繰り返すことで、管理者としての自立促進を高めていくんです。 また、現在3段階のマネジメントラダーを作成・考案しています。初めて管理者に着任するメンバーから地域をまとめるマネジャーまで、領域を分けてサポートする体制を目指しているんです。管理者未経験者が圧倒的に増えてきているので、そういったメンバーに対しては村山を中心に開設前からリードしています。 具体的には、全国訪問看護事業協会が作成した訪問看護のガイドライン(※)をベースとして、そこに弊社が必要だと考える項目を追加して使用しています。運営上の指標が145項目あり、それに関連するマニュアルも作っているんです。開設前後に関わらず、この指標を活用して「どこまでできて何が課題か」「何が不安なのか」を確認する流れになっています。はじめが肝心ですし、管理者も不安と緊張の連続だと思うので、開設から約1年間は手厚くサポートするようにしています。 ※訪問看護ステーションにおける事業所自己評価のガイドライン ―ありがとうございました。次回は、ステーション支援グループが誕生したことによる変化や、スタッフの反応について伺います。 >>後編はこちら孤独な管理者を支える「ステーション支援」の取り組み 成果&スタッフの反応は? ※本記事は、2023年2月の取材時点の情報をもとに構成しています。 執筆・編集:NsPace編集部

運営指導 制度解説
運営指導 制度解説
特集
2023年5月9日
2023年5月9日

運営指導(実地指導)制度解説 名称変更で何が変わったの?

2022年度から「実地指導」は「運営指導」に名称が変更されました。この変更によって何が変わったのでしょうか。この記事では、訪問看護事業に関わる方のために変更ポイントだけでなく、行政機関による運営指導の意味や内容、向き合い方についてお伝えします。 「運営指導」とは事業所を正しい方向へ導く制度 「運営指導」とは介護保険法に基づき、行政機関が事業所に対し、適正な事業運営が実施されているか指導するものです。もともと「実地指導」と呼ばれていましたが、2022年度から、指導に際しオンライン会議ツールの活用が明記され、指導場所が必ずしも「実地」ではなくなることから名称が「運営指導」に改められました。 なお、ここでいう行政機関とは、利用者が介護サービスを受けた場合にその費用を支払う「保険者」でもあり、介護サービスを行う事業所に対し、指定または許可した事業所を所管する「指定等権者」としての立場にあります。 いうまでもなく介護保険事業は、保険料と公費で賄われる公益性の高いサービスです。介護保険法(以下「法」とします)の第1条には、その目的として介護や看護、医療が必要な人の「尊厳の保持」、および「自立した日常生活の支援」が謳われています。したがって、サービスの担い手である事業所は、利用者さんに対し、この目的を果たすよう適切にサービスを行わなくてはなりません。 そして、行政機関は、各事業所がこうした責任を果たし、適正にサービスを行うことができるよう指導・支援する必要があります。そのため、行政は定期的に指導に入り、事業所を正しい方向に導いているのです。 「運営指導」と「監査」はまったく違う 行政機関が行う指導には、運営指導とは別に「監査」と呼ばれるものがあります。言葉がよく似ているので混同されるケースがあるようですが、まったく違います。ここで、介護保険制度における指導監督の全体像について確認しておきましょう。 厚生労働省による「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」を見ると、指導監督について次のように説明されています。「介護保険制度の健全かつ適正な運営及び法令に基づく適正な事業実施の確保のため、法第23条又は法第24条に規定する権限(中略)に基づき行う介護保険施設等に対する『指導』、不正等の疑いが認められる場合に行う法第76条等の権限(中略)に基づき行う『監査』により行われます」1)。ここで言う「指導」とは運営指導を含みます。 指導と監査の違いについて具体的に説明しましょう。 (1)指導 指導には、集団指導と運営指導があります。 ■集団指導集団指導は事業所を1ヵ所に集めて開催されます。現場において対応が必要な法改正や留意点等、事業運営について必須の情報を伝達・共有することで、介護保険サービスの質の確保と保険給付の適正化を目的としています。 ■運営指導一方、運営指導は事業所ごとに行われます。先述のとおり、介護サービスの質、運営体制、介護報酬請求の実施状況などの確認のために実施するもので、契約書や計画書・記録等の文書提示の求めや質問によって行われます。 (2)監査 監査とは、事業所に運営基準違反や介護報酬の不正請求等が認められる場合、またそのおそれがある場合に行われる「強制調査」です。行政は違反や不正等の事実関係を明確にした上で、それらが認められる場合、勧告または指定取消等の行政処分を行います。 * 指導は、あくまで事業所側の任意の協力によるものですが、監査には強制力がある点が最大の違いです。立入検査の権限も監査に含まれます。運営指導で違反や不正等の疑いがあった場合、運営指導では立入検査ができないため、途中で監査に切り替えて事実確認が行われるケースもあります。 「運営指導」に移行し「効率化」が強化 「運営指導」に変更するに伴い強化されたこと、それは「効率化」です2)。ポイントは次の3つ。冒頭で述べた「オンラインの活用」、そして「ローカルルールの是正」と「実施頻度の明記と推進」です。 (1)オンラインの活用 運営指導は基本的に実地で行うことが想定されていますが、最低基準等運営体制指導や報酬請求指導については、実地でなくとも確認できる内容であるため、オンライン等の活用が可能であることが明記されました。 (2)ローカルルールの是正 効果的、効率的な指導を推進するため、自治体ごとの異なる指導ルール(いわゆるローカルルール)について是正が図られました。具体的には次のようなことが明記されました。 ・標準的な確認項目や確認文書(※)以外の項目は原則として確認しないこと※厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」の別添資料「確認項目及び確認文書」にサービス種別ごとの確認項目と確認文書がまとめられています。例えば、訪問看護における「サービス提供記録」であれば「訪問看護計画にある目標を達成するための具体的なサービスの内容が記載されているか」、「日々のサービスについて、具体的な内容や利用者の心身の状況等を記録しているか」が確認項目として挙げられています。・1回の指導にかかる時間をできる限り短縮すること・提出を求める書類の写しは1部とすること・自治体がすでに保有している文書は再提出を求めないこと (3)実施頻度の明記と推進 運営指導の実施頻度は、原則、指定または許可の有効期間(6年)内に少なくとも1回以上と定められました。 運営指導は業務改善のチャンス 運営指導と聞くと、どうしても身構えてしまい、指導通知が来ると「運が悪い」と感じたり、慌ててしまったりすることがあるかもしれません。ですが、これまで解説してきたとおり、運営指導は正しく質の高いサービスをしっかり利用者さんに提供できているかどうかを外部の目で点検してくれる機会です。「業務の確認や改善のチャンス」とプラスに受け止められるとよいでしょう。 もし、運営指導で法令違反があった場合、軽微なものであれば口頭、あるいは後日書面で改善点が指摘されます。また、不正請求ではなく、単なる請求上の誤りがあった場合は、過誤調整(報酬返還)を要することもあります。いずれにせよ、これらに速やかに対応し改善すれば、運営指導の段階ではそこで終了です。指定取消といった厳しい処分に進むことはまずないため、安心してください。 「運営指導対策」という言葉を見聞きしますが、手を抜いたり、即席で対策が完了したりといった楽ができるような方法は存在しません。真に有効であり、唯一の対策は「普段からきちんとやる」ことにほかならないのです。それは、利用者さんとの契約や同意の書面を忘れずに取り交わす、利用者さんごとに計画をしっかり協議し立案する、計画に沿ったケアを提供するといった当たり前のことであり、これらを丁寧に記録化していく作業が大切です。日々の業務をきちんとこなすことが運営指導の準備につながります。 また、運営指導にリニューアルしたことで効率化の観点からチェックするポイントが絞られ明確化されました。各自治体から配布されている自己点検票が役に立ちます。問われるポイントが絞られたことから、事業所側としてはより対応しやすくなったといえるでしょう。 執筆:外岡 潤介護・福祉系 弁護士法人おかげさま 代表弁護士 ●プロフィール弁護士、ホームヘルパー2級介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命とする。著書に『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)他多数。 YouTubeにて「介護弁護士外岡潤の介護トラブル解決チャンネル」を配信中。https://www.youtube.com/user/sotooka 編集:株式会社照林社 【参考・引用】1)厚生労働省.「介護保険施設等運営指導マニュアル 令和4年3月」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000949269.pdf2023/3/20閲覧 2)厚生労働省.「介護保険施設等指導指針」(2022年3月31日)

訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
インタビュー
2023年4月11日
2023年4月11日

規模が拡大してどうなった? 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会

8期目を迎えた福岡県の訪問看護ステーション、レスピケアナース(管理者:山田真理子氏)。2022年12月現在、看護師20名、リハビリスタッフ10名、事務4名という大所帯ですが、設立当初のメンバーは数名のみ。建物の一角、「台所」からのスタートでした。 そんなレスピケアナースの初期時代を知る「台所メンバー」が集まっての座談会。前編では、立ち上げ当時のことや規模が拡大していく過程を振り返っていただきました。後半の今回は、規模が拡大したことによる変化や、今後の展望などについてお話しいただいた内容をお伝えします。 >>前編はこちら設立当時を振り返る 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会>>レスピケアナース管理者 山田真理子氏 インタビュー記事はこちら規模拡大への想いと理念浸透の秘訣【利用者も看護師も幸せにする経営】 神﨑 喜代子さん(看護師)立ち上げメンバー。管理者山田さんとは学生時代からの付き合い。看護師歴18年、訪問看護歴は7年目。レスピケアナース入職前は、大規模病院の心臓外科や消化器内科などで、終末期の患者に向き合う看護を経験。長崎県の総合診療クリニックにて、主任の経験も。堀川 佐和子さん(事務)立ち上げメンバー。山田さんとは福岡病院の地域連携室にて出会う。レスピケアナースの前身となる訪問看護ステーションからの参加。平行して病院の連携室にも勤めていたが、2015年に退職し、レスピケアナース立ち上げに携わることとなった。 亀谷 涼子さん(看護師)レスピケアナース稼働から4ヵ月後に入社。訪問看護歴は15年程度。前職中、さらなるやりがいを求めて転職活動をしていたところ、Facebookで情報発信している山田さんを知る。ともに働きたいとの希望を伝え、レスピケアナースに転職した。 大久保 奈央子さん(看護師)2016年に登録看護師として入職、現在は楽らく療養通所「プルーンベリーハウス」の準社員。小児科外来で看護師をした後、一時専業主婦に。長子の小学校入学を機に知人から山田さんを紹介され、訪問看護の世界に入る。 ※文中敬称略 幅広い利用者の受け入れ&広がっていく連携 ─これまでを振り返って、嬉しかったことや心に残っていることなどを教えてください。 大久保: 私はやっぱり、利用者さんとの思い出が心に残っています。特に覚えているのは、18トリソミーのお子さんが歩けるようになったことですね。そこまでの成長や歩みも思い出して、ご家族と一緒になって喜びました。もちろん、病院で勤めていたころにも似た経験はあったのですが、訪問看護だと長くご一緒できるぶん、さらにご家族と一歩踏み込んだ関係になれるように思います。 亀谷: わかります。訪問看護は幅広い年齢層の利用者さんと関われるから、その年代ごとに異なる感動がありますよね。お子さんの場合はやはり成長がダイナミックで、それをそばで見ていられるのはとてもワクワクします。 規模が拡大していくにつれ、より幅広い利用者さんを受け入れられるようになりますし、リハビリ職との連携も増えました。チームで情報共有して、利用者さんによりよい看護を提供できると、やっぱりうれしいですね。 ─規模が大きくなると、それだけスタッフ間のコミュニケーションが難しくなってくる側面もあるのでは? 堀川: そう感じた時期もありますね。事業所の体制が整う前に辞めてしまったスタッフが何人かいて、コミュニケーション不足が原因だったかもしれないと思うことはあります。私からすれば「山田さんにストレートに伝えればなんでも解決する」職場なんですが、やはり自分の意見をうまく外に出せない人というのはどうしてもいる。タイミングもあるのでしょうが、なんとかなった可能性が捨てきれないだけに、残念な気持ちはあります。 いまはそのときよりもスタッフが増えていますが、利用者さんのことはもちろん、プライベートのことも含めてよくコミュニケーションがとれていると思います。ここまでよい組織になってきたことに対して、喜びややりがいも感じています。 神﨑: そうそう。堀川さんは、一般的に想像する事務の範囲を超えて、利用者さんの情報をしっかり提供してくれて、ありがたいんですよね。利用者さんのことをしっかり把握していて、それこそどのようにご家族と過ごしているのかとか、利用者さん個人の「背景」まで把握している。 亀谷: 私もそう思います。堀川さん、利用者さんについてすごく詳しいので、最初のころ私は堀川さんが看護師資格を持つ方だと思い込んでいたんですよ(笑)。それくらい、的確な情報を伝えてくださると思います。 神﨑: やっぱり、レスピケアナースとして目指すところがはっきりしているからだと思うんですよね。それは亀谷さんも大久保さんも同じで、共通した強い思いがあるから、しっかり連携できるんじゃないかな。 「いつでも相談できる」という安心 ─規模が大きくなって、改めて感じたメリットを教えてください。 亀谷: まず、休みが取りやすくなりましたね。スタッフが多いので、気兼ねなく休日を取得できる。ほかのメンバーも、自分のライフスタイルに合わせて、柔軟な働き方ができていると思います。ありがたいことですよね。そういったことも含め、全体的にゆとりができたと言えます。 堀川: 山田さんと神﨑さんが日替わりで相談担当をやってくださるのも助かります。なにかあったらすぐ相談する、というシステムが整えられているんです。これもスタッフの層が厚いからこそできることではないかと。 ─「相談担当」と言うのは、訪問時に何かあった際の相談を受け付けているのでしょうか? 神﨑: いえいえ! もちろん訪問時の相談もありますが、内容はそれこそなんでも、「全部」です。当日のスタッフの体調不良や、「事故に遭った」などのトラブルも。今後自分はどう働いていけばいいのか、といった就業問題もありますね。件数で言うと、1日40件くらい、かな。 一同: えー!!?? ─みなさんも相談件数まではご存じなかったんですね(笑) 神﨑: 相談担当の日は、ずっとイヤホンを付けて電話していますね。例えば、「これから緊急訪問がある」というスタッフがいる場合、やはりそのスタッフは少し緊張しているんです。だから、少しでもその緊張がほぐれればいいな、と思いながら話します。まずは誰からコールがあったかを私に知らせてもらう。スタッフが利用者さんのところに到着したら、再び電話。実際に利用者さんの状態を確認してもらい、私からどう対応するかを提案するわけです。医師とコンタクトを取ったときにも電話をもらい、診療が完了したらまた連絡をもらう。そんな感じでやりとりをするので、夜通し電話は鳴っています。 ─とても大変なことだと思いますが、それだけ「相談を受ける」ことを大事にされているのですね。 神﨑: そうですね。やはり「レスピケアらしい看護」をしてほしい。その想いにブレが生じるのはイヤだから、客観的には大変に見えるかもしれませんが、相談してもらっていいんです。規模が大きくなるのはいいことですが、あくまでもレスピケアらしく、大きくならないと意味がない。少なくとも私はそう思っているので。 なかには「相談したいというより、話をしたいだけなんだな」っていう内容のときもありますが、それはそれでいいんじゃないかな。窓口をちゃんと開けておくことが大事ではないでしょうか。 子どもの夢の選択肢に「訪問看護師」を ─レスピケアナースは順調に規模を拡大されていますが、今後の目指している姿について教えてください。 神﨑: まず、訪問看護業界そのものに課題があるのは明白です。これを変えていくような働きかけをしたいですね。もちろん、うちの事務所だけが変わればいいという話ではありません。 訪問看護業界全体の人手不足が何年も続いている状況なので、高い技術を持つ人だけでなく、「さまざまなレベルの人がこの業界で働ける」というシステムの構築が必要なのではないかと思います。敷居を低くして、幅広い方が訪問看護業界の仕事に携わっていけるような社会にすることが理想です。利用者と看護師の数のバランスが取れ、訪問看護が特別なものでなく、地域社会に必要なもの、当然あるもの、という位置付けが確立されていくといいですよね。 それから、職場内での教育を継続していきたいとも考えています。立ち上げ当時からしばらくは毎日大変だったのですが、少ない人数でマンツーマンで教え合い、経験できたこと、学べたことがある。さらに規模が大きくなっても、そういった教育が維持できるような体制を整えていきたいですね。 時間があれば、その教育を地域に広げたい。中学校などに行って、子どもたちに訪問看護とはどういうものか、見せてあげたいんです。そういう職業があるんだ、こういう感じなんだ、というのを伝えたいですね。いつの日か、子どもたちから「将来の夢は訪問看護師」という言葉が出てくる世の中になるといいなと、思います。 ─ありがとうございました! 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部 ※本記事は、2023年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。

訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
インタビュー
2023年4月4日
2023年4月4日

設立当時を振り返る 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会

8期目を迎えた福岡県のレスピケアナース(管理者:山田真理子氏)。2022年12月現在、看護師はパートを含め20名(正規スタッフ15名人)所属。加えてリハビリスタッフ10名、事務4名という大所帯です。しかし、設立当初のメンバーは数名のみ。建物の一角、「台所」からのスタートでした。初期から在籍したメンバーが「台所メンバー」と呼ばれるゆえんです。今回の座談会では、台所メンバーの皆さんに、立ち上げ当時や規模が拡大していく過程を振り返っていただきました。 >>レスピケアナース管理者 山田真理子氏 インタビュー記事はこちら規模拡大への想いと理念浸透の秘訣【利用者も看護師も幸せにする経営】 神﨑 喜代子さん(看護師) 立ち上げメンバー。管理者山田さんとは学生時代からの付き合い。看護師歴18年、訪問看護歴は7年目。レスピケアナース入職前は、大規模病院の心臓外科や消化器内科などで、終末期の患者に向き合う看護を経験。長崎県の総合診療クリニックにて、主任の経験も。 堀川 佐和子さん(事務)立ち上げメンバー。山田さんとは福岡病院の地域連携室にて出会う。レスピケアナースの前身となる訪問看護ステーションからの参加。平行して病院の連携室にも勤めていたが、2015年に退職し、レスピケアナース立ち上げに携わることとなった。 亀谷 涼子さん(看護師)レスピケアナース稼働から4ヵ月後に入社。訪問看護歴は15年程度。前職中、さらなるやりがいを求めて転職活動をしていたところ、Facebookで情報発信している山田さんを知る。ともに働きたいとの希望を伝え、レスピケアナースに転職した。大久保 奈央子さん(看護師)2016年に登録看護師として入職、現在は楽らく療養通所「プルーンベリーハウス」の準社員。小児科外来で看護師をした後、一時専業主婦に。長子の小学校入学を機に知人から山田さんを紹介され、訪問看護の世界に入る。 ※文中敬称略 レスピケアナース入職のきっかけ ─まずは、皆さんが集まってひとつの事業所をつくることになった、そのきっかけを教えてください。管理者の山田真理子さんとはどのような出会いだったのでしょうか。 神﨑: 私は、山田さんとは高校と准看学校の同級生なんです。名簿順では隣り合わせでしたね。学校を卒業した後の配属先でも、病棟が隣り合わせ。さらにその後、私は地元に帰って就職と結婚をしたのですが、なんと結婚相手が山田さんのおばあちゃんの家の裏に住んでいて(笑)、なんだか不思議な縁がありましたね。 そもそもは友人の就職のために山田さんにお声がけしたのですが、友人が引っ越しをすることになり、なぜか私が働くことになりました。それまで訪問診療の経験しかなかったので、訪問看護の世界を知ってはいたものの、自分が携わることになるとは思っていませんでしたね。 堀川: 私が山田さんや神﨑さんと知り合ったのは、山田さんがレスピケアナースのひとつ前の訪問看護ステーションを立ち上げたときです。そこで「事務のお手伝いをしてくれないか」と声をかけていただいて。しばらくは、日赤病院の連携室にもパートとして所属し続けていたのですが、2015年には完全に退職し、その半年後に山田さんや神﨑さんたちとレスピケアナースを立ち上げました。 レスピケアナースの始まりの場所となった台所 亀谷: 私が山田さんのお名前を知ったのは、福岡市南区の研修会ですね。転職活動中にはFacebookでの発信も覗かせていただきました。そうしているうちに、なんだか自分も山田さんと一緒に働いているような気持ちになっていまして(笑)。なにか通じるものがあったんでしょうね。「ぜひご一緒させていただきたい」と私から山田さんに連絡し、入職しました。転職してよかったなあと思いつつ、充実した日々を送っています。 大久保: 私は入社してもうすぐ7年になるかな、というところです。山田さんについては「すごい人がいるから、訪問看護をやってみないか」と友達に誘われまして。面接の時、訪問看護の経験がないことが不安だと伝えたら、「血圧が測れるなら大丈夫だから、おいで」と言ってもらって、入職しました。 神﨑: そうそう。私も大久保さんも、入職当時は人工呼吸器の管理なんてやったことがなかったんですよね。一から覚えていって、できるようになりました。大久保さんはすごくきっちりしている人で、管理やケアの方法を記録してしっかり勉強して、丁寧に取り組んでいたことを思い出します。 依頼を断らず、常によりよいケアを目指して ─レスピケアナースが規模を拡大できた理由は何だと思われますか? 堀川: 立ち上げ当時、とにかく新規依頼が多かったんです。それに対して十分な対応をするためにも、スタッフの増員は急務でした。 神﨑: なにせ、当時は訪問する看護師が、私と亀谷さんの2人しかいなかったんですよね。20時になっても訪問が終わらない。亀谷さんと電話で、「全部終わった?」「全然終わってない」「やっぱり?私も。じゃあね」などと、慌ただしくやり取りしながら回っていました(笑)。事務関連の業務についても、外注ができるわけもなく、自分たちでやるしかありません。苦手でも無理矢理ですね。 亀谷: そんなときもありましたね(笑)。どんなに利用申し込みが多くても、断ることはありませんでしたからね。すごいことだと思っていました。たとえ他の事業所で断られるようなケースでも、うちでは断りませんでしたから。 最初はバタバタしましたが、そうやっていくうちに、利用者さんからは「ありがとう」って言っていただいて。それに、外部に対してもレスピケアナースの価値をうまくアピールできていたと思います。必要なことを医師やケアマネジャーにフィードバックして、よりよいケアに繋げる。一つひとつ着実にやっていくことで、新規依頼も呼び込めます。そういった、良い循環をつくれたことが大きかったんじゃないでしょうか。 「理想の看護」を追い求めた結果が規模拡大 ─レスピケアナースはとても風通しが良いように見えますが、そうした職場環境も成長の要因になったのでしょうか? 大久保: もちろん、関係していると思います。不安なことがあっても、カンファレンスや情報共有の場ですぐに解決できました。しっかりコミュニケーションをとっていくとスタッフ同士いい関係を築きやすくなりますし、とても働きやすくなるんです。 カンファレンスではレスピケアナースとしての数値目標も共有されていましたので、自分も一緒になってその数字を目指していこうという気持ちにもなる。「貢献したい」と思えたんです。個々のモチベーションアップにも繋がりますし、規模の拡大という結果にも繋がったのでは。きっと、「みんなで同じ目標を持つ」ということが、自然にできていたんですよね。 亀谷: いまも、みんなが意見を聞いてくれて、シームレスに話せる環境ができあがっていますね。意思決定も早い。「今後どうしたいか」がしっかり伝わり、全体に浸透するんです。山田さんが持つ目標というのも、単純に規模を大きくすることがゴールではないとわかります。訪問看護はあくまでも入り口に過ぎない。地域の人々の困りごとを減らし、生活しやすい場所に整えていきたい、という確たる目標がある。そして、みんながそれについていこうとしています。 神﨑: 山田さんは管理者としての視点で組織の規模拡大を見据えていたと思いますが、私自身は規模拡大を強く目指していたわけではありませんでした。ただ、ご依頼が増えるぶん、やはりそれだけの器は必要です。無理に数をこなし続ければ、看護師として働き続けることはできません。仲間が無理をしなければならないという状況にあって、どうすれば問題解決できるのか、やりたい看護を実践するにはどうすればいいか……ということを考えたら、結果的に規模の拡大が解決策であった、ということです。 「自分たちがどんな看護をしたいのか」というのを意識するのは、とても重要ですね。それは、事業所の収益や個々の報酬といった形でもいいし、利用者さんやそのご家族が喜んでくださる姿でもいい。それらを具体的に表現することはできないとしても、スタッフの間で少しずつ意見交換し、想いを共有しながらやってこられたからこそ、自分たちの理想の看護に近づくことができた。その結果がいまの姿なのではないかと思います。 >>後編に続く規模が拡大してどうなった? 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部 ※本記事は、2023年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。

訪問看護事業所の休廃止を防ぐ
訪問看護事業所の休廃止を防ぐ
インタビュー
2023年3月14日
2023年3月14日

訪問看護事業所の休廃止を防ぐ~利益創出の理解と組織づくりの思考は看護と同じくらい大切~

訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッション。最終回は、訪問看護事業所の休廃止を回避し維持するために、何が必要かを語り合いました。管理者自身が、お金の動きを理解できる力をつけること、組織マネジメントに必要な思考を身につけること。そのために、自分で抱え込む精神を捨てるアンラーニングが重要です。 第3回「訪問看護管理者が真にやるべきこと」はこちら>> 「看護+パッション」だけでは起業はできても維持が難しい 中原: 訪問看護で事業を始めようとするなら、もちろん看護のスキルも必要なんだけど、どれだけの入るお金があって、どれだけお金が出ていくのか。そこを理解できるスキルが絶対に必要。しかも最初から2.5人で、人数分の利益を上げなきゃならないでしょう。 その次に、私だったら組織づくりを考えるかなと思います。1人いなくなったら休止だから、とにかく離職を避けなくてはならない。 乾: そうなんですよね。個人商店ではない。2.5人必要で、もともと組織化されていますから。売上をあげて、いくらコストがかかって……に始まり、人を採用して定着させるところまで。 中原: それらと同じぐらい看護が大事ではあるんだけれど、ビジネスの理解やマネジメントスキルが必要だという認識をもって、覚悟をくくっておかないと、「看護+パッション=訪問看護」だけでは起業はできても維持が難しい。 学び直しの機会がなかった 乾: 病院に勤務してきて「やりたい看護がしたい」で訪問看護に飛び込む、一般的な看護師さんのキャリアパスでは、そういった視点を得る機会ってなさそうですよね。 中原: 訪問看護のマネジャーがど・はまりしてつまずいていくパターンや、どうマネジメントしていけばいいか、そんな研究や理論はあるんでしょうか。 落合: 看護師って、思いを馳せて患者さんをずっとみて育っていて。なので、マネジメントも「後輩を思いやって」という文化で、そこにマネジメントの根拠や理論はないことが多いんです。 たとえば「フィードバックってどうやるんだ?」ってときも、「中原先生の本にある、こういうフィードバックの方法に基づいて……」のような考えかたはせずに、ひたすら「思いやりを込めて……」とか、先輩から受けてきたフィードバックを後輩に同じようにする。だから、パターナリズムなフィードバックを受けてきた人は、ちゃんとパターナリズム的なフィードバックをしてしまう。そんなことがありがちだと思っています。 一方で患者さんに対しては、たとえば緩和ケアだと患者さんに寄り添うコミュニケーション技術が構築されていて、看護のスキルであれば学べといわれるし、学ぶんです。なのに、組織運営に関する技術は学んでこないんですね。 過去の先輩の知恵を大切にしつつ、マネジメントとか経営の技術は知るべきだよな、とはすごく思います。 中原: せっかく思いを持って立ち上げるんだから、その思いが無駄にならないような学び直しの機会があったら、先ほどの休廃止に至る典型的パターンが避けられるかもしれないですよね。 マネジメントの武器は、「聞く」「しゃべる」くらいしかない 中原: 訪問看護の管理者は、ソロプレイヤーでもありながらマネジメントもやって、かつ従業員側もみなくてはならないし、利用者側もみなくてはならない。そんな状況で、何から始めて、どういうふうにステップアップしていくのか。学び直す機会をどう持つかだと思います。 この業界に合った形のマネジメントの手法をどう実現するのか、そこから、知見を積み重ねることです。皆さんの領域の研究者が、皆さんのカルチャーや状況に合ったマネジメント手法や組織開発手法を、地道に研究したほうがいいのではないでしょうか。私の本なんか読まないでいいですから(笑)。地道に地道に、皆さん自身の領域で起こっていることを「探究」するとよいと思います。 乾: いえ、中原先生の本にある1on1だとかフィードバックだとか、一般的なマネジメントのスキルも、実際現場ではすごく必要とされているし、重要だと思います。私たちの支援先の事業所さんでも、「こうしたいけど、どうすればいいんだっけ」と知らなかったり経験不足だったりが現実にあるので。それは業界の特殊性以前に、土台として必要なことだと。 中原: なるほど、そうですね。どこの世界でもマネジメントって、起こったことを傾聴していきながら振り返って、じゃあ今後はどうしようと目標を設定していく、そういったことを地道にやるしかない。マネジメントって結局、そんなにたくさん武器はないんです。聞いてしゃべるくらいしかなくて、それを愚直にやっていくのがマネジメントですから。マネジメントは「ABC」ってよく言われます、絶望しますけど。「A:あたりまえのこと」を「B:ばかにせず」「C:ちゃんとやる」、これに尽きますね。 乾: その「どんな武器があるのか」や「武器の使いかた」を知ることが、現場で必要とされているのだと思います。 落合: そういうものだと私も思います。 管理者にこそアンラーニングが必要 落合: 訪問看護師的な感覚でいうと、思いだけでやるならたぶん、中原先生がおっしゃるみたいに1人でやるのが本当にいちばんいい。だけど制度上それは無理で、すると2.5人とか3人とか、5人までのいわゆる小規模でやるのがいいんでしょう。聞く・話すの能力だけで考えても、結果的に5人ぐらいまでが、管理者1人(優しい人で)が面倒をみることができる限界の人数なんだろうと。 そこに、「聞く」や「話す」をマネジメントの技術として実践できると、10人とか15人ぐらいの人を支えられるのかなと。そのために見える化のサービスが必要なのかもしれないし、中原先生の本を読むのがいいのかもしれないし、いわゆる業界理解をすると伝えかたが変わるのかもしれないし。 それは勉強が必要ではあるんだけど、自分で抱え込む精神をまず真っ先にアンラーニングして、いち管理者の努力で解決しようとせずに、うまく外部を活用して自分のものにしていったらいいんじゃないかな。 ─ 管理者としては、病院から訪問看護に入ってきた人へ学習機会を提供して、ゲームチェンジを理解させること。そして訪問看護は病院看護の延長ではない、異なる競技に挑んでいるんだという前提で、管理者自身にもアンラーニングの必要性があることに気づかされました。どうもありがとうございました。 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら