ステーション運営に関する記事

特集
2022年8月23日
2022年8月23日

安心感をどう作るか① ミーティング、カンファレンスなどのオンライン化

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第2回は前回に続き、東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さんです。 お話中島朋子東久留米白十字訪問看護ステーション 所長  カンファレンスをオンライン化 新型コロナウイルス感染症への対応で、オンライン化への取り組みは、一気に速度を上げました。結論から言ってしまえば、「やって良かった、デメリットはまったく感じない」と断言できると思います。 従来どおりの頻度でミニカンファレンス 利用者情報の共有は、訪問看護業務の生命線といってもよいでしょう。従来から、出勤者全員が参加する、毎朝30分のミニカンファレンスを開いていましたが、コロナ禍になっても休止したり、縮小したりすることは、まったく頭にありませんでした。 そこで、いち早くZoomを活用したオンライン会議を開始。3密を避けるために事務所のレイアウト変更を行ってからは、三部屋に分かれ、壁に向くようにデスクを配置。スタッフそれぞれは、背中合わせになるような形でパソコンの画面に向かいます。 また、事業所内のスタッフ密度を減らすため、自宅が近い人は自宅から会議に参加します。自宅参加のスタッフは、会議終了後に事務所に立ち寄り、訪問看護バッグをピックアップする方式に切り替えました。 余談ですが、壁向きのデスク配置は、業務が集中してできるという観点から、コロナ禍以前から検討していたレイアウトです。結果的に、コロナ禍で早期に実現できることになりました。 夕方の申し送りは、アラームが合図 17時30分、事務所内にアラームが響きます。夜勤者に引き継ぐための申し送りもZoomで行います。アラームを合図に、参加者は各自のデスクから会議に参加します。また、直帰したスタッフは自宅から参加します。 直帰するのは、主に、発熱のある利用者を訪問したスタッフです。発熱者への訪問は1日の最後とし、訪問後は直帰して、ただちに自宅で入浴することにしています。これは感染症対策の一環ですが、オンライン会議なので、自宅からの参加が可能となるのです。 そのほか、オンラインによる研修や外部機関との会議も、積極的に参加したり、活用したりしています。Zoomなどのオンライン会議システムは、コロナ禍が終わっても、欠かすことはできないでしょう。 在宅勤務を可能にするクラウド活用 感染状況に応じて、事務職を中心に在宅勤務を進めました。それを可能にしたのが、クラウドの活用です。 計画書、報告書、各種フォーマット、利用者情報、記録、サービス内容実績など、必要な人が、必要な時に、どこからでもアクセスすることができます。業務効率化のために、コロナ禍以前からシステム構築を行っていましたが、一気に実用レベルに仕上がりました。 訪問中に瞬時に共有 訪問看護の主戦場は、利用者の自宅です。訪問中に、タブレット端末(iPadなど)からクラウドにアクセスできることは、コロナ禍でなくても、極めてメリットが大きいと考えます。加えて、メッセージ交換アプリを利用し、ケアチームなどのグループ内で利用者情報を共有するといった方法もごく普通に行われるようになりした。 もはやICTは、訪問看護業務になくてはならないものになっています。 ICTに詳しいスタッフの力 2021年3月に採用した事務職員がICTに詳しく、ICT化の相談に乗ってくれたり、使い方を教えてくれたりなど、職場内でのICT普及に大きな力になってくれたことも報告しておきます。 どちらかというと、情報機器に弱いナースが多いなかで、「情報機器に明るいスタッフ」の存在は、必要不可欠なのかもしれません。 「助成金」を貪欲に狙う こうした一連のオンラインやICTなどの推進には、ある程度の費用がかかります。法人トップの決断は言うまでもありませんが、私は、助成金を貪欲に狙ってきました。都、市、その他、注意深く通達などをチェックしたり、アンテナを張っておいたりすると、さまざまな助成金をキャッチすることができます。 申請手続きなど若干面倒ですが、予算に限りがあるなかでの助成金の魅力は、それを超えるものがあります。 たとえば、iPadを夜間当番に配布できたのも助成金によるものです。 一般企業向けの助成金も活用する 訪問看護ステーションや在宅医療関連だけではなく、一般企業向けの助成金を活用することもできます。 就業規則の改定やICT化に向けたコンサルテーションを受ける費用は、中小企業向けの市の助成金制度で賄いました。 スプレッドシートを利用した、私たち事業所自慢のシフト表も、そのコンサルテーションの結果生まれました。無理なく、効率よく、柔軟な勤務を実現するシフト表により、感染予防に必要な健康的な働きかたが可能です。 ―第3回に続く  記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月9日
2022年8月9日

スタッフの不安解消、安心できる仕事環境の整備は管理者の責務

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第1回は、東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さんです。 お話中島朋子東久留米白十字訪問看護ステーション 所長  「スタッフを感染させない!」 新型コロナウイルス感染症が国内でくすぶりはじめたとき、私の頭はその思いでいっぱいになりました。精神的緊張状態のなか、「今このときに、管理者として何をすれば最善なのか」を考え続け、一つひとつ実行してきました。 先手先手のPPEストック 感染症対策は、見えない相手との闘いです。闘いには武器が必要です。有力な武器の筆頭は、PPE(個人防護具)です。2020年2月早々には、PPEのストックを始めました。その費用が持ち出しになる心配はありましたけれど、スタッフの安全には代えられません。 日本国内では、感染者もまだまだ少なく、死者も出ていない段階でしたが、2月7日には、感染・リスクマネジメント係に、ストックを急ぐようにハッパをかけました。 個別事情に応える本音アンケート スタッフが抱く不安には個人差があります。その不安を「本音」で聞くために、アンケートを実施しました。質問は、感染、または、感染の疑いのある利用者宅を訪問できるかどうかを尋ねるものです。 事業所の看護師は13人です。そのうち、1人が「行きたくない」、数人が「できれば行きたくない」と答えました。一方で、半数が「職務上の使命から必要があれば行く」、4人が「積極的に行く」と答えてくれました。 「行きたくない」には、個別の事情もあります。「訪問したら発熱していたということもあるからPPEは持参してね」と言ったうえで、希望に添うようにシフトを組みました。 必要に応じて、躊躇なく 国内の感染者が拡大するにつれ、PPE関連が品薄になりました。ストックのおかげで少しだけ余裕がありましたが、先行きを考えると、PPEの在庫には不安を覚えます。 100均ショップなどで、代替品を工夫し補充するとともに、「どのような場合に、どの防護具を選択するのか」の白十字版の簡易マニュアルを作成し、「必要に応じて、躊躇なく使える」判断基準を示しました。これには、かなり時間を掛けました。 利用者への協力要請で働きやすくする 利用者への手紙も4報まで出しました。内容は、発熱時の事前連絡、訪問を受ける前の換気、発熱時は個人防護具を着用など、スタッフを感染から守るためのお願いです。こちら側からの要望ではあったわけですが、感染予防を徹底したスタッフが訪問してくれるとの印象を与えたのでしょう。利用者側からの苦情はありませんでした。 働きかたの環境整備 働きかたの環境も、非常時に合わせる必要が出てきます。そこで、社労士(社会保険労務士)と入念な話し合いを重ねながら、在宅ワークができるように就業規則を改変していきました。具体的には、事務職の在宅ワーク移行、直行・直帰による訪問の実施などです。 事務所レイアウトと雰囲気づくり 事務所レイアウトを大きく変更。部屋を三つに分散、デスクは壁向きなど、3密を徹底的に避けました。ただ、管理者の死角で、愚痴を言い合い気分的な負の連鎖が起きないようにする対策も必要でした。そこで、「完璧な職場なんてないんだから」と前置きしたうえで、愚痴や不満は、建設的な意見として言えるような雰囲気づくりに注力しました。 事業所連携でBCP構築 地域にはさまざまな事業所があります。コロナ禍での活動内容にも温度差があります。そのなかで、価値観を共有する訪問看護事業所に、BCP(事業継続計画)の協働を持ちかけました。どちらかの事業所が感染で休止になった場合には、代替でケアが提供できるようにするものです。その準備として、約200人の利用者をトリアージしました。事業所との連携は、管理者どうしで愚痴をこぼしあえる関係もつくれ、とても大切です。 管理者としての責務 そのほか、正しく怖がるための最新情報の収集と提供、PPE研修会の開催、スタッフの自己免疫力を高めるための残業の軽減、連携在宅診療医との発熱者対応の方向性共有、会議のオンライン化、ICT化の推進、事業所の換気工事、事務所内にシャワーと宿泊場所の確保など、さまざまな対策を講じてきました。 とはいえ、ウィズコロナへの道は、平坦ではありません。発熱した利用者宅に訪問してくれているスタッフを思うと涙が滲んだこともありました。 当初、「所長の私が発熱者宅を訪問する」と提案もしてみましたが、もちろん、副所長やスタッフから反対され、管理者としてやるべきことに注力するように割り切りました。本当にスタッフには感謝の気持ちでいっぱいです。これからは、管理者としてのプレッシャーを一人で抱え込まず、「私も不安なの」と本音をこぼせるような風土づくりも必要かもしれないと思っています。 ―第2回に続く 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月9日
2022年8月9日

CASE1スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき_その1:状況をどうとらえるか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第1回は、利用者に感情移入しすぎているように見えるスタッフナースに対して、管理者としてその状況をどうみるかを考えます。 はじめに 合同会社manabico代表の鶴ケ谷理子と申します。弊社は、訪問看護管理者に対するコンサルティングやセミナーを行なっている会社です。この連載は、私が講師を務めて開催しているケースメソッドセミナーの形式をもとに展開します。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながら読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE1 スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき スタッフナースの佐藤さんについて、「担当利用者に感情移入しすぎなのではないか?」と別のスタッフナースから相談があった。どうやら寝ても覚めても利用者のことを考えているらしい。佐藤さんは、在宅看取りの看護に携わることを希望して、病院から訪問看護に転職してきた背景がある。終末期の利用者を担当するのは2回目、今回は主担当として任されている。そのためか思いが強くなりすぎているように見える佐藤さんに対して、管理者としてどのような支援ができるだろうか? 設問あなたがこの管理者であれば、佐藤さんのようなスタッフへの支援はどのようにすべきと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 佐藤さんの状況を多面的にとらえる 講師このケースで議論したいことは、「管理者として佐藤さんにどのような支援ができるか」です。その前にまず、佐藤さんの状況について、みなさんはどのように考えますか? Aさん注2佐藤さんのように利用者に対して思い入れがあることは、看護師として悪いことではないと思います。ただ、思いが強すぎる と、利用者が亡くなった後に、佐藤さんが無力感や喪失感を感じることが心配です。そこへのフォローを考えたいです。 Bさん佐藤さんは、一人で背追い込みすぎていると感じます。ほかのメンバーも含めたケアカンファレンスを実施して、佐藤さんの気持ちのケアや、どういった看護をしていけばよいかを話し合えるといいと思います。でも忙しいからなかなかメンバーが集まらないのかもしれませんね。 CさんAさんも言われたように、利用者への感情移入が大きいと、利用者がお亡くなりになられた際の喪失感も大きくなります。どの利用者のかたに、どのスタッフが訪問に行くか、最終決定は管理者がしているはずです。管理者は、利用者だけでなく、スタッフも大切に考えて判断をすべきだと私は考えます。もっとこまめに佐藤さんに対して支援をすべきだったのではないでしょうか。 Dさん佐藤さんの精神状態も心配ですが、ルールから逸脱がないかどうかも私は気になります。佐藤さんのような様子だと、計画外の訪問や、個人的なやり取りを利用者としているかもしれないと思って。金銭や物品の受け渡しがあったりしたら、加えて別の対処も必要になるので。 「佐藤さんの状況をどうとらえるか」の小括 まずは、「佐藤さんの置かれている状況をどのようにとらえるか」について、それぞれの考えを出しあいました。 ●思い入れがあること自体が悪いわけではないが、佐藤さんの精神状態をよく観察し、フォローが必要。●佐藤さんが一人で背追い込みすぎている。ケアカンファレンスを開いて、ほかのメンバーとともに話し合いたい。●そもそも、この利用者への訪問を佐藤さんに続けさせてよかったのか。佐藤さんが行くなら管理者から何かしらの支援が必要だった。●訪問看護のルールから外れていないかを確認する。 一人で考えるだけでは思いつかないこともあり、A・B・C・Dさんは、ほかの人の意見を聞きながら気づきを得ていたようです。 次回は、「管理者として、佐藤さんに対してどのような支援ができるか」を考えていきます。 ─第2回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

特集 会員限定
2022年7月26日
2022年7月26日

【セミナーレポート】訪問看護の診療報酬改定ポイント~押さえておきたい変更点のポイント~

2022年4月20日に開催した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー『訪問看護の診療報酬改定ポイント』。セミナーレポート第3回となる今回は、訪問看護関係者が押さえておきたい変更ポイントをまとめます。※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】酒井 麻由美さん株式会社リンクアップラボ代表取締役。医業経営コンサルタント。急性期病院の医事課に勤務した後、2002年から医療や介護領域のコンサルタントとして活動。2018年には独立、自身の会社を設立する。「月刊保険診療」(医学通信社)、「看護管理」(医学書院)、「月刊WAM」(福祉医療機構)など医業・介護経営雑誌に多数寄稿。 目次▶ 「専門性の高い看護師」への期待と評価 ・同行訪問の条件追加 ・専門管理加算の新設 ・医師の手順書加算の新設▶ より合理的な算定を目指すための改定 ・複数名による訪問についての見直し ・情報提供にかかる条件変更 ・ターミナル療養費の条件変更 ・退院支援指導加算の見直し ・遠隔死亡診断補助加算の新設▶ 届出内容に変更が生じた場合に必要な対応▶ 訪問看護指示書の様式 ・リハビリテーション欄変更▶オンライン対応による業務の効率化・合理化を推進 ・カンファレンスの条件変更 ・在宅管理の評価見直し ・入退院支援加算1の算定要件の変更 --> ▶ 「専門性の高い看護師」への期待と評価 ・同行訪問の条件追加 訪問看護ステーションの看護師が訪問する際、専門性の高い看護師が同行すると、追加で点数を算定できます。これまでは「専門性の高い看護師=国または医療関係団体等が主催する褥瘡ケアに係る専門の研修を600時間以上受けた者」と定義されていましたが、今回の改定では「創傷管理関連の特定行為研修(特定行為に係る看護師の研修制度の創傷管理関連の区分の研修)を受けた者」という条件も追加されました。 ・専門管理加算の新設 緩和ケア・褥瘡ケアまたは人工肛門ケアおよび人工膀胱ケアに係る専門の研修を受けた看護師が単独で計画的管理を行った際の評価が新設されました。「専門管理加算」といい、月1回2,500円を算定できます。特定行為研修を修了した看護師も対象になりますが、その場合は医師が訪問指示書と併せて手順書を発行する必要があります。すなわち、特定行為研修を修了した看護師の訪問に専門管理加算を算定できるのは、手順書加算を算定できる利用者を診たときのみです。なお、専門管理加算を算定する月には、専門性の高い看護師が必ず1回以上訪問しなければなりません。また、ひとりの利用者に対して専門管理加算を算定できるのは月1回のみ。複数名の専門の高い看護師が別々に訪問した場合も、算定は1回だけです。 ・医師の手順書加算の新設 医師や歯科医師が、看護師の診療補助を目的に手順書(文書または電磁的記録)を発行した場合、6ヶ月に1回(手順書の有効期限が最大6ヶ月であるため)、150点の手順書加算の算定が認められました。この手順書加算が算定されないと、特定行為研修を修了した看護師の専門管理加算が算定できないので要注意です。 ▶ より合理的な算定を目指すための改定 ・複数名による訪問についての見直し 別表7や別表8に該当する方、特別訪問看護指示書に係る指定訪問看護を受けている方、暴力行為が見られる方などの訪問では「複数名訪問看護加算」を算定できますが、その同行者の定義が明確になりました。「看護補助者」の記載が「その他職員」に変わり、看護師、准看護師、看護補助者(事務職員等を含む)がこれに含まれます。ただし、職種によって訪問回数に上限があります。看護師やPT・OT・ST、准看護師は週1回、看護補助者は週3日です。なお、これまで看護補助者は訪問看護事業所で雇用されていない人員でも構いませんでしたが、秘密保持や安全の観点から事前に研修を行っておくことは重要でしょう。 ・情報提供にかかる条件変更 訪問看護情報提供療養費1には、情報提供先に指定特定相談支援事業者と指定障害児童支援事業者が追加され、算定対象の年齢は15歳未満の小児が18歳未満の児童に拡大されました。訪問看護情報提供療養費2では、情報提供先に高等学校が追加され、算定対象の年齢はすべての条件において15歳未満から18歳未満に引き上げられています。 ・ターミナル療養費の条件変更 利用者が退院翌日に亡くなった場合、退院日は退院支援指導加算を算定するため、その日の訪問は訪問看護ターミナル療養費の算定基準となる2回にカウントできませんでした。今回の改定では、退院支援指導加算の対象日もカウントが可能になり、訪問看護ターミナル療養費を算定しやすくなっています。 ・退院支援指導加算の見直し 長時間にわたる療養上必要な指導を行ったときは、退院支援指導加算を8,400円算定していいという要件が加わりました。 ・遠隔死亡診断補助加算の新設 遠隔死亡診断を行う際、従来は看護師のサポートへの評価は行われていませんでしたが、遠隔死亡診断加算として1,500円を算定できるようになりました。ただし、厚生労働大臣が定める地域に居住する利用者であること、厚生労働省「在宅看取りに関する研修事業」および「ICTを活用した在宅看取りに関する研修推進事業」により実施されている研修を受けた看護師が配置されていることという条件を満たした場合のみになります。 ▶ 届出内容に変更が生じた場合に必要な対応 従来は、届出内容に変更があって当該届出基準を満たさなくなった、もしくは当該届出基準の届出区分が変更となった場合は、変更の届出を行うことが義務づけられていました。今回の改定では、「機能強化型訪問看護療養費に係る届出」に記載した看護職員数等について、当該届出基準に影響がない変動なら、変更の届出は不要となっています。なお、「専門管理加算に係る届出」に記載した専門の研修を受けた看護師が退職し、同様の研修を受けた看護師を新たに雇用した場合は、算定要件に影響するため変更の届出が必要です。 ▶ 訪問看護指示書の様式 訪問看護指示書内の「留意事項及び指示事項」Ⅱの1記載が変更になりましたが、2022年3月31日以前に交付した分は、変更後の様式による再発行は不要です。 ・リハビリテーション欄変更 訪問看護指示書のリハビリの欄について、PT・OT・STの誰が行くのか、また1日あたり何分、週何回行くのかの指示が必要になりました。PT・OT・STの訪問回数が決まったことにより、看護師の代わりにPT・OT・STが訪問するのもNGに。指示書と異なる訪問を行う場合は再発行が必要です。 ▶ オンライン対応による業務の効率化・合理化を推進 ・カンファレンスの条件変更 医療従事者等によって行われるカンファレンスについて、参加者全員のオンライン参加が可能になりました。例えば退院後カンファレンスもオンラインのみで完結します。 ・在宅管理の評価の見直し 在宅時医学総合管理料(施設入居時等医学管理料)について、これまでは月の訪問回数が2回または1回の2種類で管理料を定めていましたが、今回の改定から「月2回の訪問のうち1回はオンラインで管理」という種類が加わり、点数が新設されました。 ・入退院支援加算1の算定要件の変更 100床以上を有する地域包括ケア病棟は入院支援加算1の算定が必須となり、連携する医療機関や介護施設など、訪問看護ステーションを含む25ヶ所以上の職員と、年3回以上の面会が必要になりました。なお、この面会はオンラインでOK。つまり、病院にとってオンライン対応ができない訪問看護ステーションは連携しにくいということです。オンライン設備の整備・活用は、今後必須になるといっても過言ではないでしょう。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年7月19日
2022年7月19日

【セミナーレポート】訪問看護の診療報酬改定ポイント~これからの訪問看護ステーションに求められること~

2022年4月20日に開催したオンラインセミナー『訪問看護の診療報酬改定ポイント』。セミナーレポート第2回となる今回は、改定によって「これからの訪問看護ステーションには、なにが求められるのか」についてお届けします。※約60分間のセミナーのから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】酒井 麻由美さん株式会社リンクアップラボ代表取締役。医業経営コンサルタント。急性期病院の医事課に勤務した後、2002年から医療や介護領域のコンサルタントとして活動。2018年には独立、自身の会社を設立する。「月刊保険診療」(医学通信社)、「看護管理」(医学書院)、「月刊WAM」(福祉医療機構)など医業・介護経営雑誌に多数寄稿。 目次▶ より高まる「機能強化型」訪問看護ステーションへの期待 ・地域医療機関や住民への情報提供 ・地域の訪問看護ステーションへの研修の実施 ・「専門の研修を受けた看護師」の配置は今後2年間で検討を▶ これからは事業継続計画(BCP)の策定が必須に ・複数の訪問看護ステーションによる、24時間対応体制の評価拡大 --> ▶ より高まる「機能強化型」訪問看護ステーションへの期待 2024年以降は病院の病床数を減らし、その分訪問看護をもっと活用していこうという流れがあるなかで、今回の診療報酬改定では「機能強化型1」「機能強化型2」にあたる訪問看護ステーションの単価が増額されました。その代わりに、以下のとおり新たに求められることも増えています。 ・地域医療機関や住民への情報提供 訪問看護の利用拡大に向けた課題のひとつに、「訪問看護がどういうときに使えるか、どんなメリットがあるか」が十分に理解されていない現状が挙げられます。病院の医師や看護師を含め、「訪問看護は、点滴など何らかの処置が自宅で必要になったときに利用するもの」だと思っている方も多いですが、実際はそうではありませんよね。みなさんご存じのとおり、病状を観察したり、患者さんの家族の相談に応じたりといった対応も行っています。そうした「訪問看護に関する正しい情報を、地域の医療機関や住民に発信する」ことが、機能強化型1、機能強化型2の訪問看護ステーションに新たに求められます。 ・地域の訪問看護ステーションへの研修の実施 訪問看護ステーションのなかでも、機能強化型1、2に分類される施設には多くの看護師が在籍していて、看取りの対応や重症の患者さんの看護経験も豊富な傾向にあります。そこで、機能強化型1、2の訪問看護ステーションで培われた「質の高いノウハウを、地域のそのほかの訪問看護ステーションに研修で伝える」ことが義務づけられました。これにより、各地域の訪問看護の品質を底上げすることが狙いです。 この「研修」の内容や期間については、現在のところ明確な基準は特にありません。訪問看護の品質向上やより幅広い利用につながるものであればOKとされています。例えば、地域の訪問看護ステーションと連携して事業継続計画(BCP)を策定し、その内容を研修や訓練という形で共有する。または、地域の医療従事者の方々に訪問看護に同行してもらい、実際の現場の様子を見せながら研修を行うといったことが挙げられるでしょう。 なお、研修の形式はオンラインでも可能とされています。ご自身の事業所の状況に合う研修の形を考えてみてください。 ・「専門の研修を受けた看護師」の配置は今後2年間で検討を 今回の改定で注目したいポイントのひとつが、すべての機能強化型訪問看護ステーションに「在宅看護に係る専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましい」という記載があることです。「在宅看護に係る専門の研修」とは、具体的には以下のとおりです。 ・日本看護協会の認定看護師教育課程・日本看護協会が認定している看護系大学院の専門看護師教育課程・日本精神科看護協会の精神科認定看護師教育課程・特定行為に係る看護師の研修制度により、厚生労働大臣が指定する指定研修機関において行われる研修 なお、2022年の改定では「配置されていることが『望ましい』」という記載にとどまっていますが、2024年にはおそらく配置が『必須』になると予想されます。次回の改定の際に焦ることのないように、今後2年間のうちに専門の研修を受けた看護師の配置を実現できるよう対応を進めておくことをおすすめします。 ▶ これからは事業継続計画(BCP)の策定が必須に もうひとつ今回の改定で義務づけられたのが、業務継続に向けた取り組みの強化、つまりはBCPの策定です。感染症や非常災害が発生した際も利用者に訪問看護の提供を継続的に実施すること、もしくは非常時の体制で早期にサービス提供の再開を図ることを目指します。なお、BCPの策定は2021年の介護報酬改定でも義務づけられています。その際に対応している場合は、同じ内容で問題ないでしょう。 ・複数の訪問看護ステーションによる、24時間対応体制の評価拡大 BCPの策定にあたって知っておきたいのが、24時間対応体制の構築における複数の訪問看護ステーションの連携ルールが変わったことです。これまでも、2つの訪問看護ステーションが連携して24時間対応をした場合であっても、「24時間対応体制加算」の算定は認められていました。ただし、特別地域もしくは医療資源が少ない地域に所在する訪問看護ステーションのみという条件がついていたのです。 しかし今回の改定では、前述の条件に加えて、自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワークに参画している訪問看護ステーションでも算定が認められることになりました。「自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワーク」とは、具体的には以下の3つを指します。 ・都道府県、市町村または医療関係団体等が主催する事業・自然災害や感染症等の発生により業務継続が困難な事態を想定して整備された事業・都道府県、市町村または医療関係団体等が当該事業の調整等を行う事務局を設置し、当該事業に参画する訪問看護ステーション等の連絡先を管理している なお、医療資源が少ない地域の訪問看護ステーションと、(特別地域もしくは医療資源が少ない地域にある)地域の相互支援ネットワークに参画している訪問看護ステーションとが連携した場合も、24時間対応体制加算の算定が可能です。 次回は、「押さえておきたい変更点のポイント」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年7月12日
2022年7月12日

【セミナーレポート】訪問看護の診療報酬改定ポイント~2022年改定の目的とは~

2022年4月20日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー『訪問看護の診療報酬改定ポイント』を開催しました。講師は、株式会社リンクアップラボの代表取締役、医業経営コンサルタントの酒井麻由美さん。3回に分けてセミナーの様子をお届けします。※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】酒井 麻由美さん株式会社リンクアップラボ代表取締役。医業経営コンサルタント。急性期病院の医事課に勤務した後、2002年から医療や介護領域のコンサルタントとして活動。2018年には独立、自身の会社を設立する。「月刊保険診療」(医学通信社)、「看護管理」(医学書院)、「月刊WAM」(福祉医療機構)など医業・介護経営雑誌に多数寄稿。 目次▶ 高齢者の支え手、医療人材の不足を受けた診療報酬改定▶ 地域医療構想のこれまでの変遷と、2024年以降の見通し▶ 病床削減に向けて22年改定で示された2つの方針 ・方針1:地域包括ケア病棟機能の見直し ・方針2:在院日数の短縮・入退院支援機能の強化▶ 訪問診療、オンライン診療のニーズはますます拡大する --> ▶ 高齢者の支え手、医療人材の不足を受けた診療報酬改定 2022年の診療報酬改定の背景には、深刻な少子高齢化があります。高齢者が増えると同時に、その方々を支える若い人が減っていることは、我が国が抱える重大な問題です。具体的には、2012年はひとりの高齢者を2.4人で支えていたのに対し、2050年にはひとりあたり1.2人で支えるところまで減少する見通しになっています。そこで必要なのが、支え手を増やす努力。今回の診療報酬改定にもその方針が反映されました。また、少子高齢化に紐づく問題として、労働人口の減少も挙げられます。医療資源が限られるなかで、高品質のサービスを効率的に提供し続けられるしくみづくり、すなわち「地域医療構想」も、今回の改定でさらにその内容が見直されています。 ▶ 地域医療構想のこれまでの変遷と、2024年以降の見通し 2012年から始まった地域医療構想は、以下のように段階を踏んで、医療現場が抱える課題の解決を目指しています。 2012年〜2017年:機能分化、役割分担まず2017年までには、機能分化と役割分担が進められました。具体的には、これまで精神科を除く病院の病床は「一般/療養」の2種類に分けられていたものを、2014年6月には「高度急性期/急性期/回復期/慢性期/自宅・介護施設・高齢者住宅」の5つに細分化しています。 2018年〜2023年:機能強化続いて2018年からは、各役割の業務内容の見直しが進められ、機能強化を図っています。急性期・高度急性期は医師・看護師の人員配置が厚いのだから、相応の取り組み、救急医療や専門・集中的な治療を中心にやるなどといった具合です。 2024年以降:病床削減そして2024年以降は、主に急性期を中心に病床削減が進むことが予想されています。コロナ禍でも2022年の改定が厳しい内容となったのは、2024年からの病床削減に向けた準備が必要だったからであると考えられます。 ▶ 病床削減に向けて22年改定で示された2つの方針 2024年からの病床削減に向け、今回の診療報酬改定では大きく2つの方針が示されました。 ・方針1:地域包括ケア病棟機能の見直し まずは、地域包括ケア病棟の機能の見直しです。加齢に伴って増える肺炎や尿路感染、脱水、骨折などの疾病は、高度急性期・急性期ではなく、より看護師配置の割合が低い(10:1〜13:1)地域包括ケア病棟で対応することが求められています。これによって実現するのが、急性期の病床削減、すなわち人材不足問題の解消と医療費の削減です。看護師配置が5:1〜7:1の急性期の入院単価は、40,000円以上。看護師配置20:1、単価19,000円の慢性期と比較すると、急性期を減らすことでどれだけ大きな効果が得られるかがわかるでしょう。 ・方針2:在院日数の短縮・入退院支援機能の強化 そしてもうひとつが、在院日数の短縮。患者さんが今より短い期間で退院すれば、自ずとベッドの使用率を下げることができます。そうして病棟全体の病床数を減らし、その代わり看護師配置30:1の自宅・介護施設・高齢者住宅のベッドを増やすのです。 これはすなわち、疾病によっては病院の外の領域で治療をしていくということになります。実際に2021年の介護報酬改定では、介護老人保健施設で肺炎、尿路感染、帯状疱疹、蜂窩織炎の治療をする場合、1日475単位、つまり4,750円を10日間算定できると定められました。訪問看護においても、今回の改定で同じような変更がありました。医師が指示書と手順書を発行すれば特定行為の研修を受けた看護師が、在宅で褥瘡や脱水などの治療をして良いと明確に認められたのです。これからの時代は「完治したら退院」ではなく、「完全には治ってはいないけれど、続きの治療は老健や在宅で行う」という考え方になっていくことが予想されます。 ▶ 訪問診療、オンライン診療のニーズはますます拡大する 今後、訪問看護のニーズは確実に拡大していきます。なぜなら、2025年には団塊の世代の方々が全員75歳以上に突入し、85歳以上の人口がどんどん増大していくからです。年齢別に要介護認定を受けている方の割合を見ていくと、75歳以上では約3割なのに対し、85歳以上になると約6割にも上ります。これはつまり、6割の方は外来受診が難しくなるということを指します。 実は現在ほとんどの地域で、外来患者数はすでにピークを過ぎています。「新型コロナの影響で患者数が減った」とおっしゃる医師も少なくありませんが、実際は新型コロナの流行と外来患者が減る時期とが重なったのです。オンライン診療が推進された理由も、医療費削減だけではなく、そもそも病院に通えない患者さんが増えていることがあります。また、これからの10年間は亡くなる方が増えます。しかも単身世帯や、老老世帯が増えている状況下にありますから、診療だけでなく、看取りの対応も課題になってくるでしょう。 次回は、「これからの訪問看護ステーションに求められること」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

インタビュー
2022年6月28日
2022年6月28日

訪問看護サービスの規模拡大や株式上場を目指す方へ

2022年2月3日、リカバリーインターナショナル株式会社が東証マザーズに上場。訪問看護サービス事業を専門に行う会社として、唯一の上場企業(2022年3月現在)となりました。vol.3では、代表取締役社長である大河原さんから、訪問看護ステーション事業の拡大を目指す方や、株式上場を志している方に向けたメッセージをお伝えします。 Profile/リカバリーインターナショナル株式会社代表取締役社長/看護師大河原峻 看護師として9年間、手術室や救急外来・ICUなどで従事。27歳のとき参加した海外ボランティアを通して、アジア各国では在宅看護が当たり前であることを目の当たりにする。「在宅死を希望する方の願いを、地域に密着し、もうひとりの家族のような存在で叶えていく。そんな訪問看護ステーションを運営したい」という想いを抱き、帰国後2013年にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。現在18店舗を展開(2022年4月現在)。 目次▶ 上場に向けて学んだ知識と、上場後にアクセスしている情報▶ 上場前後でのライフスタイルの変化▶ リカバリーインターナショナル株式会社が目指す訪問看護の理想形▶ 規模拡大や株式上場を目指す方へのメッセージ ▶ 上場に向けて学んだ知識と、上場後にアクセスしている情報 ――上場に向けて、意識的に吸収した知識や情報はありますか? P/L(Profit and Loss Statement)など会計管理や、最新の法令について情報収集しました。方法としては、周りの経営者に話を聞いたり、日本看護協会、財団の研修に参加したり。必要に迫られる前に、自分で早めに情報を集めるのが大事だと思います。 ――上場後の主な業務と、アクセスしている情報について教えてください。 上場前から変わらず、業務の中心は役職者への教育や新規出店の計画です。また、利用者様にも看護師にも訪問看護のことをもっと知ってもらいたいと考え、IRにも注力するようになりました。 意識的に見る機会が増えたのは、他業種や他社のマーケティング手法。移動中には、街中の広告や、新規開店した店舗の業態、逆に閉店した店舗の業態などを観察しています。そして、自分たちの会社だけを潤わせるのではなく、訪問看護の業界全体を大きくしていきたいという想いから、さまざまな企業の方と対話する機会を設けています。デイサービスや訪問介護を始めた会社に当社の取り組みをお伝えしたり、飲食のフランチャイズ展開をしている会社やコンサルティング会社の方と意見交換を行ったりしています。どの業界も会社の構造などの基本は同じだと感じていて、経営者として参考になります。 ▶ 上場前後でのライフスタイルの変化 ――株式上場したことで、ライフスタイルに変化はありましたか? ライフスタイルについては正直、まったく変化がありません(笑)。月曜日から土曜日の午前中まで目いっぱい仕事をして、土曜日の午後から日曜日はプライベートの時間を確保しています。毎週月曜日は、「自分がしなければならない仕事」と「誰かに任せられる仕事」を振り分けることから始まります。上場にあたり組織図や業務分掌規程などの整理を行い、自分が担う仕事が明確になったため、今のほうが時間はあるかもしれません。 ――プライベートはどんなふうに過ごしていますか? 「今、世の中が求めているもの」に対して敏感でいるために、プライベートでは視野を広げる時間をつくることを意識しています。部下の好きなことにも興味をもつようにしていて、Aという漫画が好きだと聞けばそれを読んでみる、Bというアーティストが好きだと聞けばその展覧会に行ってみる、という具合です。共通言語をつくり一緒に楽しみながら距離を近づけられたらいいなと思っています。 ▶ リカバリーインターナショナル株式会社が目指す訪問看護の理想形 ――訪問看護の、将来的な理想の形について教えてください。 現在の訪問看護は利用者様が看護師を指名する、あるいは少し気に入らないと交代させるといったことが許されてしまう世界。私も看護師なのでわかるのですが、利用者様に「あなたに来てほしい」と言われると嫌な気はしません。しかし指名方式だと看護師の精神的な負担が重くなるだけでなく、訪問時間を守れなかったり、利用者様の健康面の判断に思い込みが生じてしまったりというリスクもあります。さらにコロナ禍において、より個人に依存することのデメリットが明確になりました。看護師が感染症にかかり、利用者様との調整に追われたステーションもあったのではないでしょうか。これらのリスクを回避するためには、複数の看護師による多様な視点で利用者様を看ることが必要です。当社が大事にしているのは、ひとりで完璧な看護を目指すのではなく、チームとしてまずは全員が70~80点の看護を目指し、徐々に100点に近づけていく意識。訪問看護のチーム制はマネジメントの効率化とともに、利用者様やご家族様の理想を叶えることにつながると考えています。 ――チーム制にすることで、訪問看護師の働き方も変わっていくでしょうか? 訪問看護は、看護師の「利用者様に寄り添いたい」という気持ちを実現できる仕事です。しかし一方で、オンコールやご指名制に不安を感じ訪問看護業界への転職を躊躇したり、早期退職につながったりする方も少なくありません。そうならないように、仕事の日は仕事、休みの日は休みと、きっちりメリハリをつけて働くことが理想だと考えています。 また心身への負荷を減らすため、看護師同士お互いを承認し合い、成長できる環境も大事。優秀な看護師ほど「ひとりで120点の看護」を目指してしまい、1度の失敗でドロップアウトしてしまうケースも多く見てきました。信頼し合えるチームでは、休みやすく、相談もしやすく、そして一緒に働く仲間の意見が気づきになって成長できます。 オンオフのメリハリをつけて笑顔で働ける環境は、時代にも合っていますし、今後、訪問看護師の理想の働き方となっていくと考えています。 ▶ 規模拡大や株式上場を目指す方へのメッセージ ――訪問看護サービスの規模拡大や上場を志す方にメッセージをお願いします。 私は病院でリーダーや訪問看護管理者を経験しました。その中で、自分を犠牲にして働いたことが多かったですし、そういう先輩や同志を多く見てきました。当時はそれが正しいと思っていましたが、今は継続性という観点から、チームとして動くことが大事だと考えています。組織の規模拡大は間違いなく、チームがないと成り立ちません。 チームで動ける組織にする第一歩は、ご自分や部下の目指す姿・解決したいことなどをしっかりと話し合うことです。部下の目標や理想の姿をしっかり聞き、自分がどうなりたいか、どうしていきたいかを伝える必要があります。もしコミュニケーションが難しいと感じているなら、コーチングを受けてみることをおすすめします。 私自身、起業後3年間は休みなく働いてきましたが、今は時間に余裕が生まれました。組織が育ち、仕事の委任や業務分掌規程などの整理ができたからです。事業規模の拡大や株式上場を目指す人は、自分だけで抱えることのないよう、周りの人との相互理解を深めていってください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

インタビュー
2022年6月14日
2022年6月14日

vol.2 上場企業として成長するためのマネジメントと戦略

2022年2月3日、リカバリーインターナショナル株式会社が東証マザーズに上場。訪問看護サービス事業を専門に行う会社として、唯一の上場企業(2022年3月現在)となりました。vol.2では、代表取締役社長である大河原さんに、上場企業として重視している組織マネジメントや、今後を見据えての戦略についてお話をうかがいました。 Profile/リカバリーインターナショナル株式会社代表取締役社長/看護師大河原峻 看護師として9年間、手術室や救急外来・ICUなどで従事。27歳のとき参加した海外ボランティアを通して、アジア各国では在宅看護が当たり前であることを目の当たりにする。「在宅死を希望する方の願いを、地域に密着し、もうひとりの家族のような存在で叶えていく。そんな訪問看護ステーションを運営したい」という想いを抱き、帰国後2013年にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。現在18店舗を展開(2022年4月現在)。 目次▶ 採用と社員教育▶ 組織をマネジメントする上で重視していること▶ 現在感じている自社の課題と今後の戦略▶ 地方出店への展望 ▶ 採用と社員教育 ――社員の採用や教育において重視していることを教えてください。 「当社の社員を増やす」だけでなく「訪問看護師を増やす」ため、訪問看護未経験者の採用も積極的に行っています。また、病院や他の訪問看護ステーションでは、先輩看護師がマンツーマンで指導を行う「プリセプター制度」を採用しているところが多いですが、当社の教育の基本は「チューター制度」。年齢の近い先輩(チューター)が新人に伴走するスタイルで「一緒に考え、成長していく」ことを目指しています。未経験者でも半年から一年で育成可能なプログラムを構築しているので、早ければ3ヶ月ほどで一人で利用者様の元を訪問できるようになります。拠点によっては、チューターに教えてもらっていた新人が、すぐに他の人のチューター側にまわるケースもあります。 ――チューターに対してはどのような教育を行っていますか? 各拠点にいる役職者がしっかりとサポートする体制をつくっています。チューターに繰り返し伝えているのは「上から教えるのではなく一緒に考える」ことの重要性です。訪問看護はいつも一つの正解があるような仕事ではありません。指導する側、される側が一つの正解を求めてしまうと、現実とのギャップが生じます。 「指摘し合うのではなく認め合う」というチューター制度の基本姿勢は、職員の退職率が下がった一つの要因だと感じています。 ▶ 組織をマネジメントする上で重視していること ――円滑な組織運営のために意識していることはありますか? 組織マネジメントの要は、各拠点の役職者です。当社では1拠点に3名の役職者を置き、その育成に力を入れています。週1回「リーダー研修」を行い、役職者としての考え方や姿勢はもちろん、PLを含めた経営上の数字の読み方や労務管理などの知識、コーチングやリーダーシップなどについてレクチャーしています。さらに、研修を受けたリーダーには、各拠点にいる他のリーダーに、学んだことをアウトプットしてもらうようにして、知識の定着を促しています。 また、訪問看護サービスの要となるのはいうまでもなくひとりひとりの看護師です。専門職は成長や変化を望む人が多いので、役職者が看護師に対して年3回の面談を行い、各自の目標管理を徹底しています。面談を通じて目標管理や到達へのフィードバックを行えるよう、役職者への「面談スキル」研修も行っています。 ▶ 現在感じている自社の課題と今後の戦略 ――現在、組織経営で感じている課題はありますか? 拠点が18に増えたことで、会社としての考え方がすみずみまで浸透しきっていないと感じています。各拠点のトップである所長に100の情報を伝えたとしても、所長から副所長へ伝達する時点で伝わるのが80%くらい。さらにその部下へとなると、60%程度しか情報が伝っていないことも少なくありません。 ――そうした状況を改善するための戦略について教えてください。 たとえば所長から副所長への情報共有後、副所長から所長へ毎回感想をアウトプットしてもらうようにしています。その逆も同様です。2年前からスタートし、少しずつ手応えを感じるようになりました。 今後は社内の情報について今よりも取り扱いルールを緩和し、もっと多くの社員がアクセスできるようにしていきたいと考えています。現在、情報は私や幹部が各拠点の所長に伝える構造になっていますが、さらに拠点数を増やす場合は、幹部と所長とを結ぶ「エリアマネージャー」のような役職をつくって、そこから各エリアに向けて情報を伝達できるようなしくみを構築したいですね。 そして、ここまで展開してきて実感するのは、役職者教育が成功すれば、あとは自然と上手く回っていくということです。病院経営はトップダウンで「上の言うことが絶対」というところも多いですが、訪問看護サービスの経営には、新しいやり方が必要だと考え、常に模索をしています。 ▶ 地方出店への展望 ――御社は地方にも展開されていますが、今後も増やしていく予定ですか? 今後は、ドミナント戦略でまずは神奈川、埼玉、千葉といった関東エリアでの出店を考えています。関西は兵庫や高知に拠点があるので、そこを足がかりにできればと思っています。一方、地縁のない地域への出店は急いでいません。というのも、知らない土地での役職者選定と教育には課題が多いからです。まず難しいのは、優秀な看護師が必ずしも優秀な管理者になるとは限らないという点。優秀な方は部下にも自分と同じ水準を求めてしまう傾向があるのですが、当社は個々人が100点を目指すのではなく、チーム制で全体として70点から80点を確実に提供するサービスを目指しています。そういう考え方をしっかりと役職者に浸透させることが重要だと考えているため、まずはドミナント戦略での地方出店を検討しています。 ――人口減が問題となっている地域への出店について考えを聞かせてください。 人口が少ない地域は実際に利用者様が伸びないので、拠点を増やしづらいのは事実です。しかし、県庁所在地などある程度の規模のある地域であれば、1〜2ヶ所は出店できるのではと考えています。 ただ、人口が少ない地域では「利用者様数が伸びない」と同時に、「看護師の確保が難しい」ことも課題になりがちです。看護師の数が少ないと必然的にオンコール対応の頻度が高くなり、その負担が問題となります。当社ではオンコールの当番を週1回未満となるようにしています。そうするためには各拠点に看護師が最低8人は必要です。地方出店の重要なポイントは、利用者様の確保よりもまずは看護師の数を確保して、組織としてしっかりとした体制をつくれるかどうかです。当社は、そこをおさえた上で、今後の地方出店を考えていきたいと思っています。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

インタビュー
2022年6月7日
2022年6月7日

vol.1 訪問看護サービスが株式上場するメリット/デメリット

2022年2月3日、リカバリーインターナショナル株式会社が東証マザーズに上場。訪問看護サービス事業を専門に行う会社として、唯一の上場企業(2022年3月現在)となりました。その代表取締役社長である大河原さんに、上場を決めた理由やそのメリット・デメリット、訪問看護業界の課題などについてうかがいました。全3回でお届けします。 Profile/リカバリーインターナショナル株式会社代表取締役社長/看護師大河原峻 看護師として9年間、手術室や救急外来・ICUなどで従事。27歳のとき参加した海外ボランティアを通して、アジア各国では在宅看護が当たり前であることを目の当たりにする。「在宅死を希望する方の願いを、地域に密着し、もうひとりの家族のような存在で叶えていく。そんな訪問看護ステーションを運営したい」という想いを抱き、帰国後2013年にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。現在18店舗を展開(2022年4月現在)。 目次▶ 株式上場を考えたきっかけ▶ 上場することのメリット/デメリット▶ 上場企業として求められる内部管理▶ 訪問看護業界が抱える課題と会社としての取り組み ▶ 株式上場を考えたきっかけ ――まず、なぜ株式上場を目指そうと思われたのでしょうか? 理由は二つあります。まず一つは自社を含め、「訪問看護サービスを提供する会社の信用性」を上げたいと考えたためです。きっかけは、当社で働いていた社員が住宅ローンの審査に落ちたこと。勤務先が病院であれば問題ないはずの条件での審査落ちでした。さらに、採用活動を進めるなかで「訪問看護という仕事はよくわからないから不安だと、親に就職を反対された」という理由で内定辞退を受けることが重なりました。この経験から、働く人や家族が安心できる会社になるためには、病院のようなしっかりとした経営環境を整える必要があると感じ、その手段として株式上場を検討するようになりましたね。 二つめの理由は、訪問看護サービスを広く社会に知ってもらうためです。訪問看護師の人数、利用者様への情報伝達、いずれも不十分だと感じています。それを打破するためになにができるかと考えたとき、株式上場はどちらの問題に対しても解決の一助になると感じました。 ▶ 上場することのメリット/デメリット ――自社のメリットはもちろん、訪問看護業界全体へのメリットを見据えた上場なのですね。 そのとおりです。2025年までに15万人の訪問看護師が必要だと言われていますが、現在、訪問看護師の数は約9万人。看護師資格を持っている人は約150万人いるはずにもかかわらず、訪問看護師の数はその10%にも満たない状況です。当社が上場することで社会に訪問看護師の存在を知ってもらい、さらに、安心して働ける仕事であることが認知されれば、訪問看護師の人数を増やすことにもつながると考えています。 また、事業を進めるなかで利用者様から「もっと早く訪問看護を知っていれば良かった」という声をよく耳にします。業界への信用性や認知度が上がることは、潜在的な利用者様にとってもメリットとなるはずです。 ――上場することで想定されたデメリットはありますか? 上場企業として求められる内部管理のレベルは高く、それをキープするためにはコストがかかります。働きやすい環境づくりにコストをかけるよりも、個人への利益還元を優先してほしいと考える社員にとっては、デメリットだととらえられているかもしれません。また、IRなどを通じて経営状況をはじめとした多くの内部情報を開示することになるため、「他社から真似されるリスクがある」という声は社内で上がっていました。この点について私自身は、業界が栄える=当社も伸びるという考えです。多くのステーション様と一緒に業界全体を伸ばしていきたいですね。 ▶ 上場企業として求められる内部管理 ――上場に際して、会社の就業規定は変更しましたか? ケガや病気のときなどに、休業補償を利用して安心して休めるよう変更しました。また、残業を事前申請制にするなど、勤怠管理を徹底することで労働環境が向上するように改定しました。事務作業のバックオフィス体制も整備して、働きやすい環境づくりを進めています。 ――社員の方からはどのような反応がありましたか? ポジティブな反応ばかりではなく、ネガティブな反応もありましたね。新しくルールをつくると、雇用される側は窮屈に感じたり、よく思わなかったりする人もいます。とくに理解してもらうのが難しかったのが、残業の事前申請。勤務管理を適切に行うことは上場する上で必要ですし、社員の健康管理の面からも重要ですが、現場では「残業はいくらでも好きなだけやっていい」という感覚が根強い。現在でも浸透しきっているとは言い難い状況ですが、各拠点の残業を「見える化」することで社員の意識が少しずつ変わってきている手応えがあります。 ▶ 訪問看護業界が抱える課題と会社としての取り組み ――業界全体に対して感じている課題と、それに対する御社の解決策を教えてください。 訪問看護業界に根付いている古い文化の一つに「紙文化」があります。業務の連絡にFAXを利用しているケースも多く見られますが、現代において最善とは言い難い。当社ではメールやWEBシステムの整備などのIT化を進め、事務作業や電話対応も本社で一括化することで経営の効率化を図っています。勤怠管理も、もちろんWEBで行っています。 また、訪問看護サービスでは「広範囲エリア対応」が当たり前になっていますが、長時間の自動車運転による事故や看護師の疲労など、さまざまなリスクが生じます。当社ではステーションごとに担当エリアを明確に定めることで看護師の心身の健康を守り、利用者様数が増えてもきちんとケアできる体制を構築しています。 ――利用者を増やすために、どのような営業活動を行っていますか? あえて営業部門などはおかず、看護師と地域連携機関との関係性を構築することで利用者様を増やしています。具体的には、「ホウレンソウ(報告、連絡、相談)」の徹底です。もちろん、どの訪問看護ステーションでも、ホウレンソウは意識をされていると思います。ただ、多くの場合、リスクの高い利用者様や問題が発生したときにしか連絡をしていないのではないでしょうか。当社は、とくに大きな変化がなくても「今日も変わりなく元気です」という日々の連絡を徹底しています。たとえ問題がなくても、毎日連絡をするということはご家族の不安を解消するためにとても大切。また、医師やケアマネジャーなど連携している他社の方から見ても、わざわざ確認しなくても、日々の状態がいつも把握できていることで、安心して仕事ができます。 ご家族や地域連携機関との信頼関係をしっかり築けば、自ずと依頼が来ます。看護師が当たり前のことをきちんとやることで利用者様を獲得する、というのが当社の営業活動です。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

インタビュー
2022年5月31日
2022年5月31日

希少がんの治験にいつか訪問看護師の力が

全国から被験者を募る希少がんでの治験では、訪問看護に期待できるものとしてプレスクリーニング時のオンライン診療の場などが考えられます。今回は、がんの治験に関する訪問看護の親和性を四つの観点から考えます。 砂川優聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 はじめに 今回は、がんの治験に関する訪問看護の親和性を、①がん治験の重要性と困難性 ②治験業務に求められるもの ③訪問看護が関与するオンライン診療のイメージ ④がん患者へのメリット ── の四つの観点から考えます。さらに、DCT(Decentralized Clinical Trial)普及の壁と訪問看護への期待に言及します。 ①がん治験の重要性と困難性 がん治験の対象になるのは、主に進行がんで、余命が告げられた患者さんも少なくありません。訪問看護に従事する皆さんは、そのような患者さん・利用者さんを対象にして、ケアを提供されているのだと思います。 がん治療において、治験そのものが治療となります。従来の薬では症状の改善が見込めない患者さんが対象であり、治験への参加が患者さんの生きる望みとなる場合だってあるのです。 ただ、希少な遺伝子異常を有するがんの場合、治験の対象となる患者さんを見つけるためには、100人検査して1人いるかというレベルで遺伝子異常を探し出す作業を必要とします。 こうした作業を、医療機関への来院に依存する従来型の治験で実施した場合、症例の集積がきわめて困難です。全国的に広く治験の対象となる患者さんを見つける必要性からもDCTは有効であり、さらに、DCTが普及すれば、在宅にいる患者さんに、プレスクリーニング、スクリーニング、そして、治験を実施できる可能性が生まれます。 ②治験業務に求められるもの 治験業務には、決められたプロトコールがあります。高い精度の実施および報告水準が求められ、誰が行っても同じ結果になることが必須です。 看護師という資格のうえに、研修等で治験に必要なスキルを積み上げれば、治験が求める水準の診療補助行為を実施することができるはずです。 こうしたことから、DCTの普及の条件の一つに、治験に対応できる訪問看護師さんの登場があると考えます。 ③訪問看護が関与するDCTのイメージ 治験参加中の患者さんには、採血、採尿、バイタル測定などの検査および観察を実施し、体調の変化や病状の回復具合を調べます。そのようなデータ収集を担うのが訪問看護師さんだとイメージしています。 また、オンライン診療で医師が診察をする際に、患者さんの横に訪問看護師さんが寄り添い、バイタル測定や五感をフル動員して観察を行い、医師に報告するといったDCTへの関与のしかたもイメージできます。 訪問看護師さんがいることで、在宅治験の精度が上がるのだと思います。 ④がん患者へのメリット 自宅などに居ながら治験に参加するにあたって、プレスクリーニングやスクリーニングを含め、患者さんの最も近くにいる訪問看護師さんたちのサポートがあれば、患者さん自身も安心して治験に臨めます。つまり、訪問看護師さんたちがいることで、患者さんが全国のどこに住んでいても治験といった治療を享受できる可能性が生まれます。 たとえば、「治験を実施している医療機関が近くにない」「医療機関が遠くてとても通えない」などと治験を諦めていた患者さん。または、「自分の疾患が治験の対象になるかもしれないという情報すら知らなかった」といった患者さんに、DCTの普及と訪問看護師さんたちの存在は、大きなチャンスを贈ることができるのかもしれません。 DCT普及の壁と訪問看護への期待 日本におけるDCTへの取り組みは、始まったばかりです。オンライン診療の信頼性をどのように確保するか、治験に参加している患者さんの状態を正確に把握するためにはどうするか、得られたデータが治験の水準を満たすのか、拠点病院の設定基準はどのように定めるのか、治験業務を担ってくれる医師・CRC(治験コーディネーター)・看護師の連携はどのように行うのかなど、DCTのレギュレーションを確立するために、乗り越えなければならない壁の高さは決して低くはありません。コスト面に関してのさらなる検討も必要でしょう。 DCTは、そうした高い壁を乗り越えるだけのメリットを、医療側にも患者さん側にももたらすものだと確信しています。 DCTには、デジタルデバイスを含めたICTの発展も欠かせません。しかし、それだけでDCTの質を上げることはできません。臨床の現場にはすぐれた専門職が必要です。患者さんに直接触れ合うことができる訪問看護師さんの存在は、治験の質、日本の医療の質を高めてくれる可能性に満ちています。 記事編集:株式会社メディカ出版

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