セミナーレポートに関する記事

訪問看護の夜間緊急対応/頭痛のケーススタディ
訪問看護の夜間緊急対応/頭痛のケーススタディ
特集 会員限定
2023年11月14日
2023年11月14日

訪問看護の夜間緊急対応/頭痛のケーススタディ【セミナーレポート後編】

2023年8月18日に開催したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護の夜間緊急対応~頭が痛い!待てる?待てない?~」。訪問看護の現場で活躍する診療看護師の坂本未希さんを講師に迎え、頭痛を訴える利用者さんのトリアージに必要な知識を、ケーススタディを交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、緊急コールを受けた際に活用すべきツールの紹介と、ケーススタディの内容をまとめました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護の夜間緊急対応~頭痛の種類と特徴~【セミナーレポート前編】 【講師】坂本 未希さん看護師、保健師/ウィル訪問看護ステーション江戸川 所属宮城大学 看護学部看護学科を卒業後、長崎県の病院での勤務を経て、訪問看護に携わるべくウィル訪問看護ステーション江戸川に入職する。訪問看護師として勤務する傍ら、国際医療福祉大学大学院に進学し、2019年3月には修士課程を修了。診療看護師の資格を取得した。 緊急コールを受けた際に使える3つのツール 緊急コールを受けた際の対応には、3つの選択肢があります。緊急度の高い順に、・救急車を呼ぶ・看護師が訪問して状態確認やケアをする・利用者さんやそのご家族に電話で対応方法を説明するです。選択においては、以下のツールを使って検討してください。 緊急性を判断する「ABCDE」アプローチ 緊急性、重症度を判断するにあたり、最初に「気道」「呼吸」「循環」「意識」「体表」の5つから成る「ABCDE」を聞いていきましょう。 各項目を電話口で確認する際のコツは以下のとおりです。 A(airway):気道「会話や呼吸はできますか」「顔色はどうですか」「胸の動きはどうですか」など、わかりやすい言葉で質問しましょう。 B(breathing):呼吸「呼吸のリズムは早いですか、遅いですか」「肩を上げて苦しそうな呼吸をしていないですか」など、わかりやすい言葉で質問しましょう。 C(circulation):循環血圧や脈拍を測れない場合も、末梢が冷たくなっていないか、チアノーゼがないかなどを確認します。 D(dysfunction of CNS):意識声かけに対しての反応の有無だけでなく、普段と比べてどうかも判断のポイントになります。 E(exposure):体表冷や汗をかいているか、体熱感があるかなど、すぐに確認できる変化を聞いてみましょう。 現病歴を確認する「OPQRST2」 「ABCDE」で目立った問題がない場合は、より詳しく問診していきます。このときに意識してほしいのが、「時間軸」と「症状経過」です。時間の経過に伴って症状が悪化している場合は注意が必要になります。 この時間軸と症状経過に関する情報を漏れなく聞くためには、「痛みのOPQRST2」という現病歴をチェックするためのツールを使うのがおすすめです。 前編(「訪問看護の夜間緊急対応~頭痛の種類と特徴~」参照)で説明した「見逃せない頭痛=二次性頭痛」の判断材料として、頭痛の発症様式は極めて重要な情報になります。例えば、くも膜下出血はハンマーで叩かれたような頭痛が突然起こり、発症後すぐにピークを迎えて、以降ずっと痛みが続くのが一般的。このほかにも、突然発症の頭痛は緊急性が高いケースが多いので、見逃さないでください。 一方、一次性頭痛に分類される片頭痛や緊張性頭痛、群発性頭痛は、痛みに波があることが多いです。 既往歴を確認する「AMPLES(アンプルズ)」 現病歴と併せて、基礎情報も確認しておきましょう。その際に使えるツールが「AMPLES」です。 アレルギーや内服薬、既往歴、社会歴に加え、カルテには載っていない最終の食事や月経も大切な問診項目です。「AMPLES」は、通常の初回訪問時にしっかりと調べておくよう心がけてください。 「OPQRST2」と「AMPLES」を使って得た情報をふまえて、鑑別疾患や、今現れている症状がこれからどういう経過をたどるかを考えていきます。ただし、利用者さんやご家族がパニックに陥っている場合、電話の問診で必要な情報をすべて聞けない時があります。その際は、より丁寧なやりとりを心がけてください。判断に迷う場合は出動しましょう。 ケーススタディ ここからは、ご紹介した知識やツールを使ってケーススタディをしていきます。頭痛を訴える利用者さんのアセスメントと対応について考えてみましょう。 電話での問診、および訪問による状況の確認 利用者さんの妻から、上記のような緊急コールが入りました。まずはカルテの記載を見つつ、AMPLESを使って既往歴をチェックします。 糖尿病や脂質異常症があること、18時頃に最後の食事をとったことなどがわかりました。 続いて、OPQRST2で現病歴を聞いていきます。 夕食後に急に頭痛を訴えはじめたそうですが、「急に」がどれくらい急なのかがよくわかりませんでした。ただ、突然発症の頭痛は緊急性が高く、また辛い痛みで臥床しているとのことで、出動を決めます。 そして、看護師が現場で確認したABCDEは以下のとおりです。 いつもよりぼんやりしていて、意識レベルはJCSI-3に分類されます。また、汗をびっしょりかいており、熱感もありました。 さらに、訪問後に改めて現病歴を問診すると、数日前に感冒症状があったことが新たにわかります。電話での問診ではわからなかった痛みの場所は頭部全体で、随伴症状は39℃の発熱。脈拍は100で頻脈、血圧はやや低下。項部硬直が見られ、頭痛は徐々に強くなり、意識レベルは少しずつ下がる傾向にありました。 アセスメント 以上の情報をふまえ、私が最初に鑑別疾患に挙げるのは髄膜炎です。眼痛があったり、ペンライト法で陽性だったりすれば緑内障も挙げますが、今のところは認められないので除外します。 このように、アセスメントではまず二次性頭痛を除外できないかを考えましょう。そして、除外しきれなければ一次性頭痛については考えず、二次性頭痛として報告を上げます。 「SBAR(エスバー)」を用いた報告 報告する際は「SBAR」というツールを利用します。 このケースは頭痛が主訴なので、診療所や病院には「◯◯さんから緊急連絡があり、訪問しました。頭痛の利用者さんです」と最初に伝えます。続いて、背景=現病歴について。バイタルサインで特に気になる点があれば報告します。今回であれば、体温や血圧、項部硬直ですね。その上で、評価と提案は「髄膜炎の可能性があるので報告しました。緊急搬送を考えていますが、いかがでしょうか?」と伝えるとよいでしょう。 なお、確認した所見をすべて報告する必要はありません。重視すべき所見をピックアップして端的に伝えましょう。もし不足があれば医師から質問があるので、それに回答し、一緒にアセスメントしていけば大丈夫です。 * * * 夜間待機を担当する際、「うまく情報を拾えないかもしれない」「正しい判断ができなかったらどうしよう」といった不安を抱えている方は多いのではないでしょうか。今回ご紹介したトリアージのノウハウが、みなさんの自信や安心につながることを願っています。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

訪問看護の夜間緊急対応~頭痛の種類と特徴~【セミナーレポート前編】
訪問看護の夜間緊急対応~頭痛の種類と特徴~【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2023年11月7日
2023年11月7日

訪問看護の夜間緊急対応~頭痛の種類と特徴~【セミナーレポート前編】

2023年8月18日に開催したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護の夜間緊急対応~頭が痛い!待てる?待てない?~」。訪問看護の現場で活躍する診療看護師の坂本未希さんを講師に迎え、頭痛を訴える利用者さんのトリアージに必要な知識を、ケーススタディを交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、訪問看護におけるトリアージの考え方や、頭痛の種類とその見分け方などをまとめました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】坂本 未希さん看護師、保健師/ウィル訪問看護ステーション江戸川 所属宮城大学 看護学部看護学科を卒業後、長崎県の病院での勤務を経て、訪問看護に携わるべくウィル訪問看護ステーション江戸川に入職する。訪問看護師として勤務する傍ら、国際医療福祉大学大学院に進学し、2019年3月には修士課程を修了。診療看護師の資格を取得した。 訪問看護におけるトリアージとは トリアージとは、疾患の重症度や緊急度に基づいて治療の優先度を決定し、選別を行うことです。もう少し噛み砕いて説明すると、「患者さんに必要な医療を提供できる臨床スタッフに繋ぐ」ことを指します。 救急の現場では重症度や緊急度に応じて優先順位をつけることが重視されますが、訪問看護現場におけるトリアージでは、「ご家族で対応可能か」「自分たち看護師で対応可能か」「診療所や病院に対応してもらうべきか」を見極めることが大切です。 今回は、頭痛を訴える利用者さんのトリアージについて考えていきましょう。 頭痛の種類 利用者さんから頭痛を訴える連絡が入ったときは、まず「一次性頭痛」か「二次性頭痛」かを判断します。 一次性頭痛頭痛の原因となる疾患がないもので、具体的には片頭痛や緊張性頭痛、群発頭痛の3つがあります。二次性頭痛に比べて緊急性は低いです。 二次性頭痛何らかの疾患があり、その結果として起こる頭痛です。原因となる疾患はさまざまで、代表例としてはくも膜下出血や髄膜炎、急性緑内障が挙げられます。 続いて、上記2種類の頭痛の特徴についてより詳しくご紹介します。 二次性頭痛の特徴と見分け方 まず、緊急性の高い二次性頭痛からお伝えします。危険な疾患の症状として現れる二次性頭痛は、特に見逃せません。先に代表例として挙げたくも膜下出血や髄膜炎は、診断・治療の遅れが命に関わるため、早期発見・治療が必須。緑内障は死には至らないものの、失明する可能性があり、機能的予後が重篤な疾患です。 これらの頭痛は、いずれも「圧」がキーになります。くも膜下出血と髄膜炎は急激な頭蓋内圧の亢進が、緑内障では眼圧の亢進が痛みを引き起こすのが特徴です。 くも膜下出血、髄膜炎の判断基準 くも膜下出血と髄膜炎では、多くの場合「髄膜刺激徴候」が見られます。代表的なのが項部硬直で、首を支えて頭部を持ち上げようとしても、硬直しているため頭部を前屈させられません。硬直が強い場合は、頭を持ち上げると肩まで一緒に浮いてしまいます。 また「ケルニッヒ(kernig)徴候」といって、下肢を股関節で90度に曲げた状態で膝を130度以上伸ばそうとすると、抵抗や痛みが生じます。これらの身体所見を確認できた場合は、くも膜下出血や髄膜炎を強く疑いましょう。 そのほか、くも膜下出血は発症後すぐに頭痛のピークに達すること、髄膜炎は発熱や吐き気があり、必ずしも髄膜刺激徴候があるわけではないことも覚えておきたいポイントです。 緑内障の判断基準 緑内障の判断にはペンライト法が有効です。眼球の横からペンライトの光を当てると、正常な場合は虹彩全体が照らされます。しかし、緑内障を発症している場合は光が抜けず、反対側に影ができます。これは、眼圧が上がることで「虹彩」がせり出してくるためです。 二次性頭痛の判断に役立つ「SNNOOP10(スヌープテン)」 二次性頭痛の代表例としてくも膜下出血、髄膜炎、緑内障を挙げましたが、頭痛を主訴とする疾患はほかにもたくさんあります。「頭痛」というひとつの所見だけで危険度は判断できないので、随伴症状や経過、環境など、さまざまな角度からレッドフラッグがないかを調べて判断することが大切です。 そうした二次性頭痛のレッドフラッグをまとめた「SNNOOP10」というリストがあるので、ぜひ一度チェックしてください。 【SNNOOP10】・発熱を含む全身症状 S:Systemic symptoms including fever・新生物の既往 N:Neoplasm in history・神経脱落症状または機能不全 N:Neurologic deficit or dysfunction (including decreased consciousness)・急または突然に発症する頭痛 O:Onset of headache is sudden or abrupt・高齢(50歳以上) O:Older age (after 50 years)・頭痛パターンの変化または最近発症した新しい頭痛 P:Pattern change or recent onset of headache・姿勢によって変化する頭痛 P:Positional headache・くしゃみ、咳、または運動により誘発される頭痛 P:Precipitated by sneezing, coughing, or exercise・乳頭浮腫 P:Papilledema・進行性の頭痛、非典型的な頭痛 P:Progressive headache and atypical presentations・妊娠中または産褥期 P:Pregnancy or puerperium・自律神経症状を伴う頭痛 P:Painful eye with autonomic features・外傷後に発症した頭痛 P:Posttraumatic onset of headache・HIVをはじめとした免疫系病態を有する患者 P:Pathology of the immune system such as HIV・鎮痛剤使用過多もしくは薬剤新規使用に伴う頭痛 P:Painkiller overuse or new drug at onset of headache 上記すべての項目を暗記する必要はなく、一読して大体を頭に入れておくだけでも、トリアージを行う際に役立つはずです。 また、上記の「SNNOOP10」には含まれていませんが、利用者さんだけでなく同居人の方にも頭痛があったり、ガス器具の炎の色がオレンジだったり、換気すると頭痛が改善するといった場合、一酸化炭素中毒の疑いがあります。特に古い住居ではその可能性が高まると考えてください。 一次性頭痛の特徴と治療方法 次に、頭痛を訴えるケースで多い一次性頭痛についてお伝えします。判別において知っておきたいそれぞれの特徴としては以下が挙げられます。 片頭痛頭痛が起こる前、光に過敏になる、目がチカチカするといった前兆が見られます。緊張性頭痛随伴症状はありませんが、長時間同じ姿勢をとることが誘発因子となるため、仕事や生活スタイルに影響を受けている可能性が高いです。群発頭痛上記の2つよりも強い痛みが生じることが特徴で、くも膜下出血との判別が難しいケースがあります。頭痛が生じている箇所と同側の目の充血、涙が止まらないなどの随伴症状が判断のポイントになります。また、女性よりも男性に起こることが多いです。 なお、群発頭痛の有病率は0.1〜0.4%と低く、あまり見かけません。そのため、先にご紹介した二次性頭痛の可能性を除外できた際に「では、これはどんな頭痛か」と考えるにあたって、片頭痛と緊張生頭痛の可能性を念頭に置くといいでしょう。 一次性頭痛の治療 軽症の片頭痛と緊張性頭痛は、アセトアミノフェン含有の鎮痛剤を服用すると大体はよくなります。そのほか、片頭痛にはNSAIDsも効果的です。緊張性頭痛であれば、首をマッサージしたり、温めたりすると痛みが緩和することもあるでしょう。なお、鎮痛剤が効かない場合は、医師にほかの治療薬を検討してもらう必要があります。 群発頭痛の治療には酸素投与が有効と考えられているので、痛みがひどい場合は医師に連絡し、搬送すべきか指示を仰いでください。 >>後編はこちら訪問看護の夜間緊急対応/頭痛のケーススタディ【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

お金の基礎知識2
お金の基礎知識2
特集 会員限定
2023年9月19日
2023年9月19日

お金の基礎知識/分散投資の基本&新NISA解説【セミナーレポート後編】

2023年6月23日に実施した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「お金の基礎知識~貯蓄・投資・NISAについて学ぼう~」。看護師のみなさんが気になるお金にまつわる知識を、ファイナンシャルプランナーの工藤清美さんに教えてもらいました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、投資で資産を増やしていくために必要な知識の続きと、新NISA制度についてご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちらお金の基礎知識/貯蓄方法&投資の種類とリスク【セミナーレポート前編】 【講師】工藤 清美さんファイナンシャルプランナー・CFP(R)認定者/株式会社エフピーブラッサム 代表取締役早稲田大学大学院ファイナンス研究科を修了し、1級FP技能士、CFP(R)試験に合格。個人顧客の資産形成をサポートする独立系FPとして、10年以上にわたって活躍している。2023年4月には、著書『解くだけでお金が増える! 世界一面白い! とっておき資産形成トレーニング』(PHP研究所)を出版。 資産を増やすための分散投資とは 定額積立投資による時間分散で利益を上げる 時間分散とは、今もっているお金を一括で投資するのではなく、投資するタイミングを分けることです。一定の金額を定期的に投資していく「積立投資」は、代表的な時間分散投資の方法です。 運用商品の価格は一定ではなく、上がったり下がったりするものです。そこで積立投資をすると、価格が高いときには少しだけ、安いときにはたくさんの量(株数、口数)を自動的に購入できます。投資で利益を上げるには、安いときにたくさん買うことが重要なので、放っておいてもそれができる時間分散には大きなメリットがあります。 資産分散で「資産全体のリスク」を低減できる 資産分散とは、資産をジャンルの異なる投資対象に分けてもつ方法です。例えば100万円をもっているときに、それを「国内債券」「国内株式」「外国株式」「外国債券」に分けてそれぞれ25万円ずつ投資するようなやり方です。 債券も株式も、価格は毎日変動します。しかし、それぞれがまったく同じ値動きをすることはなく、例えば「国内株式は上がったけれど、国内債券は下がった」「外国債券は上がったけれど、国内株式は下がった」というケースが頻繁に起こります。 そんなとき、投資対象を多様化していれば、ブレ幅が相殺されやすくなります。つまり、資産全体としてのブレが小さくなるのです。前編でお伝えしたとおり、ブレ幅とはすなわちリスクなので、資産分散で資産全体のリスクを小さくできるといえます。 資産分散には「資産価値を守る」効果も 資産分散には、インフレやデフレ、円高や円安といったさまざまな環境の変化が生じたときにも資産価値を守れるメリットもあります。 現在(2023年6月時点)の日本では、多くの方が円預金に資産を集中させています。しかしそれでは、インフレが起こってお金の価値が下がったとき、または今まさに起こっている円安になったときに、資産価値がどんどん下がってしまいます。世界経済の状況は変わっていくものなので、どんな状況においても資産価値を減らさないためには、資産分散をしておくことがおすすめです。 資産分散して長期的に投資するとマイナスにならない? 1995年から2021年のデータを見ると、国内外の株式や債券など4つの資産に分散投資をして10年間保有し続けた場合、いつ投資を始めてもプラスになることが証明されています。ただし、これはあくまで過去のデータから導き出された結果であり、この先を予測するものではありません。 しかし、私たちにできることは、過去のデータを分析し、より成功確率の高いやり方を採用していくことです。当たるか外れるかというスリリングな投資をするのではなく、資産分散で可能な限りブレを小さくしながら長い目で投資し、コツコツと着実に資産を増やしていく。この方法なら、投資による資産形成にも怖がらずにチャレンジできるのではないでしょうか。 2024年の制度拡充を理解してNISAを活用 NISA(少額投資非課税制度)は、その枠組みの中で得た利益がすべて非課税になる制度です。通常、資産運用で利益が出た場合は20.315%の税金が差し引かれますが、NISA口座内で得た利益に対しては非課税となります。 また、2024年に大幅な制度変更があり、「新NISA」が新たにスタートします。従来の制度と新制度、それぞれの特徴を見ていきましょう。 金融庁「NISAとは?」を参考に、編集部作成 金融庁「NISAとは?」を参考に、編集部作成 2023年末までの従来のNISAは、「つみたてNISA」と「一般NISA」のどちらかを選択して口座を開設します。一方、新NISAではその別はなくなり、ひとつの口座の中に「つみたて投資枠」と「成長投資枠」という2つの枠があり、両方を使えるようになります。さらに、保有期間の制限も撤廃され、年間の投資枠も大幅にアップしています。 そして、非課税投資枠の再利用ができるようになったことも新NISAの大きな特徴です。保有商品を売却すると、その金額分の枠が翌年に復活します。従来のNISAでは、一度商品を購入して枠を使うとその分は売却しても戻らなかったので、より使いやすくなっています。 なお、対象商品については従来のNISAと新NISAとで大きく変わることはありません。つみたてNISAとつみたて投資枠の商品は同じで、成長投資枠は一般NISAにあった商品の一部(毎月分配型、高レバレッジ商品など)を除くラインナップから選べます。 NISA口座を開設する金融機関選びは慎重に これからNISA口座の開設を考えている方は、慎重に金融機関を選んでください。今後、新NISA口座は資産形成のメイン口座になるケースが多くなるため、当然各金融機関は「ぜひうちで開設を」とアピールするでしょう。そこで目先のキャンペーンに踊らされず、自分がほしい商品を扱っているかを必ず確認してください。口座開設後の金融機関変更も可能ですが、手間がかかるため、最初の開設時に十分に検討しておくことをおすすめします。 * * * たくさんの仕事を抱え毎日が忙しい看護師のみなさんは、資産形成についてじっくり考える時間の余裕なんてない、と感じるかもしれません。しかし、お金について考えることは、これからの人生を描くことです。ぜひ今回ご紹介したノウハウを生かして、お金を貯め、増やすアクションを起こしてみてください。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

お金の基礎知識1
お金の基礎知識1
特集 会員限定
2023年9月12日
2023年9月12日

お金の基礎知識/貯蓄方法&投資の種類とリスク【セミナーレポート前編】

2023年6月23日に実施した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「お金の基礎知識~貯蓄・投資・NISAについて学ぼう~」。看護師のみなさんが気になるお金にまつわる知識を、ファイナンシャルプランナーの工藤 清美さんに教えてもらいました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、お金への漠然とした不安を払拭する方法や、投資で資産を増やしていくために必要な知識についてご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】工藤 清美さんファイナンシャルプランナー・CFP(R)認定者/株式会社エフピーブラッサム 代表取締役早稲田大学大学院ファイナンス研究科を修了し、1級FP技能士、CFP(R)試験に合格。個人顧客の資産形成をサポートする独立系FPとして、10年以上にわたって活躍している。2023年4月には、著書『解くだけでお金が増える! 世界一面白い! とっておき資産形成トレーニング』(PHP研究所)を出版。 資産への認識を明瞭にして、計画的に貯蓄 まずは、みなさんが漠然と抱えている資産に関する不安をなくす方法をご説明します。お金への不安を解消するには、「資産の見える化」「ファイナンシャル・ゴールの設定」「貯まるしくみづくり」この3ステップをふむ必要があります。以下で、それぞれの具体的な方法を見ていきましょう。 資産の見える化、ファイナンシャル・ゴールの設定 「今の貯蓄ペースで問題ない?」「そもそも、いくら貯めれば安心なの?」……そんな資産に関する疑問は、以下に挙げる5つの観点で情報を整理するとだんだん明確になっていきます。 現在の保有資産の把握銀行の預貯金はもちろん、保有している株式や債券、保険商品などを含む総資産を洗い出しましょう。 毎月の収支の把握収入は給与明細で確認を。収支は前月の残高と今月の残高を比較すれば、家計簿をつけていなくても把握できます。最近は便利なアプリもあるので、うまく活用してみてください。 1年間の資産増減の把握年間の資産の動きがわかれば、今後どれくらいのペースで資産を積み上げていけるかを予測できるようになります。 将来かかる支出の把握住宅購入費や教育費、自己研鑽のための費用など、これから先10年の間に必要になる大きな支出を整理しましょう。 ファイナンシャル・ゴールの設定ファイナンシャル・ゴールとは、人生設計における経済面の目標のこと。30代までは10年後にほしい金額を、40代以降はリタイアする際にほしい金額を考えてみましょう。 なお、この先どんな支出があるかを把握するために、一度ライフプランを書いてみることをおすすめします。家族との関係や住まい、仕事、余暇の過ごし方などの観点から、「自分がいつ何をしたいか」を考え、1枚の紙にまとめましょう。また、やりたいことの中で優先順位をつけ、実現にはどのくらいのお金が必要になるかの試算もしてみてください。 貯まるしくみづくり お金が貯まるしくみとは、ずばり「先取り貯蓄」のこと。収入が入ってきたら、先に貯蓄分をよけてしまい、残ったお金を使っていくという行動パターンです。入ってきたお金をなんとなく使い、残ったらお金を貯める方法では、なかなか貯蓄は増えません。資産を築いていくため、ぜひ「収入ー貯蓄=支出」という先取り貯蓄を実践してください。 投資で資産を増やすことにチャレンジ ファイナンシャル・ゴールを達成するには、お金を貯めるだけでなく、増やすためのアクションも必要になるでしょう。そう、近年ますます注目を集めている投資です。ここからは、投資で資産を増やすために知っておいていただきたい基礎知識をご紹介します。 投資には2つの種類がある 私は、投資を「趣味の投資」と「資産形成のための投資」の2つに分けて考えています。このうち「資産形成のための投資」については、これからの時代、ほとんどの方がやるべきだと考えています。 これから成長していく銘柄を探し当てることを楽しんだり、相場感を見極めてタイミングよく売買して儲けたりするのは、「趣味の投資」です。一方、「資産形成のための投資」は、お金にも働いてもらうことを目指します。詳しくはこの後ご説明しますが、世界経済の成長が今後も続くと考えて、そこにお金を投じ、利益の一部をいただくという投資手法です。 まずは、投資と一口にいっても趣味の投資と資産形成のための投資があり、それぞれまったく考え方が異なることをぜひ、覚えておいてください。 世界のGDPは約40年間で9倍に 先ほど「世界経済が成長し続けると考えて、そこに投資をする」とお話ししましたが、世界のGDP(国内総生産=1年間に国内で生産された付加価値)の推移を見てみると、1980年から2020年までの40年間で、約9倍にも増えています。世界経済の成長がこの先も続くのであれば、早くお金を投じることによって、得られる利益は大きくなります。 「投資のリスク」とは「ブレ幅」のこと 投資のリスクを、「投資で損をする可能性」「元本割れしてしまう可能性」と認識している方が多く見られます。しかし実は、投資のリスクとは損することではなく「価格のブレ幅」を指すのです。 たくさんプラスが出ることもあれば、大きくマイナスになることもある投資先(リスクが高い投資先)は、基本的に平均リターンも高くなります。反対にブレ幅が小さい投資先は、マイナスになる可能性も小さいけれども、得られるリターンも小さくなります。大きなリターンを得たいのであれば、このブレ幅を受け入れなければならない、ということになります。 過去のデータをもとに分析すると、株式はブレが激しくて(リスクが高くて)リターンが大きく、債券はあまりブレがなく(リスクが低くて)リターンは小さい投資先となります。 ※編集部注:「株式」「債権」等の説明については、金融庁の「基礎から学べる金融ガイド」(2021)や金融機関のウェブサイトをご参照ください。 * * * 次回は、「資産形成のための投資」の具体的な方法について解説していきます。 >>後編はこちらお金の基礎知識/分散投資の基本&新NISA解説【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

在宅ケアに生かせる/ピラティスの実践
在宅ケアに生かせる/ピラティスの実践
特集 会員限定
2023年8月8日
2023年8月8日

在宅ケアに生かせる/ピラティスの実践【セミナーレポート後編】

2023年5月19日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「ピラティスの基礎知識&実践【在宅ケアに生かせる】」を実施しました。講師を務めてくださったのは、理学療法士として訪問看護の現場でピラティスを実践した経験をもつ、ピラティスインストラクターのTatsuya.Sさんです。後編では、看護師のみなさんにぜひ実践いただきたいピラティスをご紹介します。 >>前編はこちら在宅ケアに生かせる/ピラティスの基礎知識&事例【セミナーレポート前編】 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】Tatsuya.Sさんピラティスインストラクター(zen place pilates武蔵小杉スタジオ 所属)/理学療法士・健康運動指導士・介護支援専門員大学で理学療法を学び、理学療法士として6年間にわたって総合病院に勤務。回復期リハビリテーション、訪問リハビリテーション、デイケアを経験する。その中で予防分野に興味をもつようになり、ピラティスと出会う。訪問看護の現場で理学療法士としてピラティスを実践した後、より学びを深めるため、現在はピラティスインストラクターとして活動している。 ピラティスを実践してみよう ピラティスを指導する上では、自身が実践者であることがとても重要なポイントになります。自分が実際に感じたことでないと、他者に伝えることは難しいからです。 ここからは、看護師のみなさんにぜひ実践いただきたいピラティスをご紹介しますので、ぜひこの記事を読みながらトライしてみてください。マットやバスタオルが手元にある方は床で、ない方は座位の動きではイスを、臥位の動きは壁を使って行ってください。 立位→四つ這いのエクササイズ 【STEP 1】足を軽く開いて立つ足を坐骨の幅(こぶしひとつが入るくらい)に合わせて開いて立ち、背骨が左右の足の中心にくるように意識します。さらにイメージできる方は、「母指球・小指球・かかとの3点×左右の足=6点」の中心に背骨がくるようにしましょう。 【STEP 2】どこまで体重をかけられるのか確認(前後)つま先とかかとそれぞれに、交互に体重をかけていきます。「これ以上傾くと倒れそう」というギリギリまで体重を移動しながら、足裏に意識を集中して、自分がどこまで体重をかけられるのかを確認します。このとき、背骨がどのような状態になっているかも意識できるとベターです。 【STEP 3】どこまで体重をかけられるのか確認(左右)STEP 1の状態に戻ったら、次は左右に揺れます。STEP 2と同じように足裏の感覚に意識を向け、今どこに体重がかかっていて、どこまで重心を移動できるか確認してください。 【STEP 4】ゆっくりと四つ這いの姿勢になる続いて、四つ這いの姿勢に移行します。まずは頭をゆっくりと前に傾け、次に太ももで体を支えながら膝を曲げていきます。頭は5kgもの重量がありますから、その重みにつられて背骨が上から順番に丸まっていきます。 【STEP 5】尾骨から頭まで一直線にキープ体が左右どちらかに傾いていないか注意しながら手を床まで下ろしたら、四つ這いになります。肩の下に手、股関節の下に膝がある体勢です。背中は、頭のほうがやや高い状態で、尾骨から頭まで一直線にキープします。 【STEP 6】「骨盤後傾」の動きまずは尾骨のみを丸め(尾骨は小さいので、外からは動いていないように見えます)、続いて仙骨、腰の背骨を曲げます。「骨盤後傾」という動きです。 【STEP 7】さらに体を丸める手と足で床を押しながら、胸の背骨、首、頭までを順番に丸めていきます。 【STEP 8】つま先を立て、背骨を一直線に次に、足首を返して床につま先を立てましょう。そのまま膝を空中に浮かせて、背骨を一直線にします。 【STEP 9】坐骨を天井に向かって上げるそのまま坐骨を天井に向かって上げます。手と手の間に頭があり、尾骨から頭まで斜め一直線になっている状態が理想的です。 アップストレッチ 【STEP 10】「アップストレッチ」を行う右膝を少し曲げ、左のかかとは下げてストレッチします。続いて左膝を同じように曲げて、右のかかともストレッチしましょう。呼吸を止めないように注意してください。 座位(あぐら)のエクササイズ 【STEP 1】座って背筋を伸ばすマットがある方は、あぐらの状態で床に座ります。イスを使う方は浅く腰かけてください。いずれも、坐骨に座ることを意識しましょう。また、尾骨から頭まで「長い背骨」をつくるイメージで、背筋を伸ばします。 【STEP 2】手を前に伸ばし上下に動かす両手を「前ならえ」の状態にしたら、息を吐きながら上に上げます。続いて、息を吐きながら前ならえの形に戻します。背骨の形はキープします。 【STEP 3】手を伸ばし左右に開閉する次に、前ならえの状態から、息を吸いながら横に手を広げましょう。そして、息を吐きながら手を閉じます。 【STEP 4】頭・首・胸を反らした後、背骨全体を丸める今度は、息を吸いながら手をオープンしたら、尾骨は動かさずに、頭と首、胸を反らせます。そして、息を吐きながら手を戻し、背骨全体を丸めてください。 【STEP 5】側屈の動きSTEP 1の姿勢に戻したら、手を頭の後ろに添え、側屈の動きをしていきます。息を吸いながら背骨を右に曲げ、吐きながら戻す。同じ要領で左にも曲げましょう。 【STEP 6】背骨をひねる動き続いて、背骨をひねる動きです。頭を背骨の上でくるくる回すイメージで、息を吐きながら左右にひねり、吸いながら戻します。イメージできる方は、胸椎7・8番からひねることを意識しましょう。 仰向けのエクササイズ 【STEP 1】基本姿勢をとるマットがある方は床に仰向けに寝て、足を軽く曲げ、お尻をもち上げやすい位置までかかとを引き寄せます。壁を使う方は、背中をつけた状態で膝を曲げ、かかとは壁から一足分離してください。全員、足幅は坐骨幅に開きます。 【STEP 2】「ペルビックカール」を行う尾骨の先端から丸めるように動かし、骨盤を後傾します。続いて、仙骨の上と腰の背骨を浮かせます。そして、尾骨に近いほうの背骨から順番に、胸の背骨の一番上まで床から剥がしてもち上げます。このエクササイズを「ペルビックカール」といいます。 ペルビックカール 【STEP 3】ゆっくりともとの姿勢へ戻すSTEP 2(ペルビックカール)の状態で息を吸い、吐きながら胸から順に戻していきます。 【STEP 4】「シングルレッグリフト」を行う(1)続いて、シングルレッグリフトを行います。右足を膝関節の角度が直角(90度)になるようにもち上げましょう。股関節も90度にし、足首は伸ばします。ピラティスの用語では、このポーズを「テーブルトップポジション」といいます。 テーブルトップポジション 【STEP 5】「シングルレッグリフト」を行う(2)息を吸いながら右足のつま先を床にタッチします。ももの角度は45度です。そして息を吐きながらテーブルトップポジションに戻しましょう。骨盤や背骨をキープすることを意識しながら、左足も同じように行います。これで、シングルレッグリフトは終了です。なお、壁を使う方は足踏みをするような状態になります。 【STEP 6】「チェストリフト」を行うここから、チェストリフトを行います。STEP 1の体勢(かかとは楽な位置で構いません)に戻ったら、頭の後ろで手を組み、肘が視野にギリギリ入るようにします。その状態で息を吸って、吐く息で頭から順に、首、胸、腰、尾骨まですべての背骨を丸めていきます。そして、息を吸いながら戻しましょう。 チェストリフト 【STEP 7】「チェストリフト ウィズ ローテーション」を行う次に、頭から尾骨まで丸めた状態でホールドし、息を吐きながら胸の背骨を左右にひねります。戻すときは息を吸いましょう。両ももの間でひねるようなイメージで行います。これでチェストリフトとチェストリフト ウィズ ローテーションが完了です。 チェストリフト ウィズ ローテーション うつぶせのエクササイズ 【STEP 1】「バックエクステンション」を行う(1)床にうつぶせに寝転がり、手を顔の横にもってきます。壁を使う方は、壁から少し離れている状態でOKです。 【STEP 2】「バックエクステンション」を行う(2)息を吸いながら、頭、首、胸を反らせましょう。息を吐きながら戻します。おへそが少し床から浮いているイメージをもって行ってください。 バックエクステンション 深呼吸のエクササイズ 【STEP 1】「キャットストレッチ」を行う四つ這いの姿勢をとります。肩の下に手、股関節の下に膝がくるようにし、両手両足で背骨を支えます。その状態で、息を吐きながら背骨全体を丸め、吸いながら反らせましょう。少しテンポを上げて繰り返します。 【STEP 2】膝を1cm浮かせたり戻したりする次に、四つ這いの体勢で足首を返して床につま先を立て、息を吸います。そして、息を吐きながら膝を1cm浮かせてください。再び吸いながら戻し、繰り返します。 【STEP 3】お尻をもち上げ、ゆっくりと起き上がる四つ這いからお尻を天井に向けてもち上げたら、両足のかかとを床につき、手を足のほうへ歩かせて体を起こしていきます。背骨全体が丸まって、腕はだらんと脱力した状態です。そのまま、背骨を下から順番に積み重ねる意識で起き上がります。 【STEP 4】「ロールダウン」を行う息を吸ったら、吐きながら上から順番に背骨を丸めます。再び背骨が丸まって、手がだらんと垂れ下がる姿勢になります。そこで息を吸い、再び吐きながら体を起こしてください。 ロールダウン 【STEP 5】腕を大きく動かしながら深呼吸最後に、体を起こしたら手を前からもち上げて「バンザイ」の姿勢をとります。下ろすときは体の横からです。続いて、息を吸いながら横から手をもち上げ、吐きながら、今度は前に下ろしましょう。 ピラティスで最も大事なことは、難しいポーズをとることではなく、体の隅々に意識を向け、その反応を観察しながら行うことです。利用者さんの体の状態を見ながら、ぜひ訪問看護の現場で実践していただき、一人でも多くの方の心身機能がより良い状態になったらうれしいです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ピラティスの基礎知識
ピラティスの基礎知識
特集 会員限定
2023年8月1日
2023年8月1日

在宅ケアに生かせる/ピラティスの基礎知識&事例【セミナーレポート前編】

2023年5月19日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「ピラティスの基礎知識&実践【在宅ケアに生かせる】」を実施しました。講師を務めてくださったのは、理学療法士として訪問看護の現場でピラティスの実践経験をもつ、ピラティスインストラクターのTatsuya.Sさんです。 セミナーでは、ピラティスの定義や目的、訪問看護における活用事例の紹介のほか、受講者のみなさんでピラティスを実践する時間も設けました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、ピラティスの基礎知識と、実際にピラティスを導入した訪問看護の症例をご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】Tatsuya.Sさんピラティスインストラクター(zen place pilates武蔵小杉スタジオ 所属)/理学療法士・健康運動指導士・介護支援専門員大学で理学療法を学び、理学療法士として6年間にわたって総合病院に勤務。回復期リハビリテーション、訪問リハビリテーション、デイケアを経験する。その中で予防分野に興味をもつようになり、ピラティスと出会う。訪問看護の現場で理学療法士としてピラティスを実践した後、より学びを深めるため、現在はピラティスインストラクターとして活動している。 ピラティスとは ピラティスとは、自分の身体に意識を向けながら、繊細に、正確に動かすことで、心身の機能を調整していく方法論のことです。 筋肉や関節の柔軟性を高め、また体の軸を伸ばすことで、バランス力やコントロール力に優れた「安定した強い体」を目指します。また同時に、体の内部に意識を向けて集中することで「瞑想」をしている状態になり、心を落ち着け、頭をクリアにする効果も期待できるでしょう。 心と身体へのアプローチ 筋肉は「表層筋=アウターマッスル(歩行やものを運ぶときなどに使う筋肉)」と「深層筋=インナーマッスル(骨と骨をつなぎ、骨とアウターマッスルを同時に使う際に補助する筋肉)」とに分けられますが、ピラティスでは体の中心にある背骨からアプローチし、後者のインナーマッスルを細かく動かしていきます。 すると、体の軸だけで姿勢を維持できるようになり、ほかの部分の力を緩めることが可能に。具体的には、背骨がすっと上に伸び、肩が落ちて首が長くなり、胸が広がっている姿勢になります。また、心も緊張から解き放たれ、エネルギーに満ちあふれた状態になります。 ピラティスの歴史 ピラティスは、ドイツ人のジョセフ・ヒューベルト・ピラティス氏によって提唱されました。ピラティス氏は、喘息やリウマチ、くる病を患っており、自身の病気を治すために水泳をはじめとしたさまざまなスポーツや治療法を勉強していました。その中で生まれたのが、ピラティスというボディワークメソッドです。古くは、戦争負傷兵のリハビリテーションとしても使われていました。 また、ピラティスというと多くの方がマットを使うことをイメージしますが、実は始まりはマットではなくマシンを使った動きでした。ピラティス氏が病院にあったベッドを改造してバネをつくり、それを活用して始められたといわれています。 ピラティスの目的 ピラティスを行う目的は、「Well Being(ウェルビーイング)な状態」になることです。これは、私が所属するZEN PLACEの企業理念でもあります。 私たちが考えるウェルビーイングとは、簡単にいうと「その人が自身の存在のすべてを認め、前に進んでいると感じている状態」のことです。自分の嫌なところにも目を向けて受け入れる。誰かと比較せずに自分のことをきちんと把握し、好きになる。ピラティスを実践することで、そんなウェルビーイングな状態を目指します。 医療現場におけるピラティスの位置づけ 日本では、ピラティスは「ダイエットやボディメイクなどを目的としたエクササイズの一種」と認識されており、現段階では医療への活用はあまり進んでいません。インストラクターの資格も、国家資格ではなく民間資格となっています。 しかし、海外ではピラティスと医療の融合が進んでおり、理学療法士の多くがピラティスの資格を取得。スタンダードな選択肢として医療現場で実践しています。 訪問看護現場でのピラティスの実践 続いて、私が理学療法士として訪問看護の現場でどのようにピラティスを実践していたかを、実際の症例を挙げてご紹介します。 利用者さんの情報 対象となった利用者さんは、100歳の女性です。大腿骨頸部骨折にて手術を受けてからは、自分ひとりで起き上がれなくなり、座っているときも見守りが必要な状態でした。介助があれば立ち上がれましたが、トイレに行くことが難しく、オムツを着用。また食事もベッド上でとっていたため、基本的に移動することはありませんでした。 実践した動作1(手の上げ下げ) この利用者さんの場合は立ち上がって動くことが難しいので、以下のような座位での動作を実践しました。 【STEP 1】イスに座る坐骨に体重をかけることを意識しながらイスに座ります。 【STEP 2】背筋を伸ばす頭まで貫く「長い背骨」をつくるイメージで、尾骨から頭までまっすぐな線になるように背筋を伸ばします。このとき、骨盤と肋骨の隙間を広げることを意識します。 【STEP 3】両足を開く坐骨と同じくらいの幅になるように両足を開き、足の裏はしっかりと床につけます。 【STEP 4】息を吸いながら手を上げるここまででつくった姿勢を維持した状態で、息を吸いながら両手を上にゆっくりと上げましょう。骨盤と肋骨の距離がだんだんと離れていくイメージです。くれぐれも無理はしないように気をつけながら、横から見たときに手ができるだけまっすぐになるように上げます。 【STEP 5】息を吐きながらゆっくり手を下ろす骨盤と肋骨の距離をキープしたまま、息を吐きながら手を下ろします。手を下ろす動作は早くなりがちですが、ゆっくりと下ろしましょう。 【STEP 6】繰り返す手の上げ下げを繰り返します。※手を動かす中で背中が丸まってきたら、声をかけるようにします。 実践した動作2(手の開閉) 【STEP 1】息を吸いながら、胸の高さで手を左右に開く実践した動作1のSTEP 1~3までを行ったら、手を胸の高さまで上げ、息を吸いながら開きます。※このとき背骨が反ってしまう方が多いので、背骨の形をキープしたままで開ける限界の位置を伝えてください。 【STEP 2】息を吐きながら閉じる息を吐きながら手を閉じます。 【STEP 3】繰り返す手の開閉を繰り返します。 ピラティスを実践した結果 この利用者さんの場合は、リハビリにピラティスを取り入れることで、最終的にピックアップ型の歩行器を使って数メートル移動できるようになりました。これにより、食事をベッドではなくテーブルに移動してとる機会も生まれています。 >>後編はこちら在宅ケアに生かせる/ピラティスの実践【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ご遺体への最新詰め物事情
ご遺体への最新詰め物事情
特集 会員限定
2023年7月18日
2023年7月18日

納棺師解説/ご遺体への最新詰め物事情【セミナーレポート後編】

2023年4月14日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」。納棺師の大垣麻里さんを講師に迎え、在宅でのエンゼルケアについて、知っておきたい基礎知識やCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行を受けての変化を教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、COVID-19流行以降のエンゼルケア・葬儀の情勢や、ご遺体への詰め物の対応についてご紹介します。 >>前編はこちら納棺師解説/死後24時間以降のご遺体変化と対処法【セミナーレポート前編】 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 COVID-19がお別れに与えた影響 COVID-19が発生してから3年以上が経ちましたが、その間、エンゼルケアや葬儀のあり方は大きく変わってきました。 まず発生当時、亡くなった方は直火葬となり、ご家族は収骨もできない状況でした。しかし2022年頃からは、ご遺体を透明の納体袋に入れて棺の蓋をしたままであれば、フィルム越しではあるものの、対面してのお別れが可能に。とはいっても、故人に直接触れることはできませんでした。 そして、2023年1月6日。厚生労働省から「ご遺体を清拭し、鼻や肛門に詰め物をし、紙オムツを使用していれば、納体袋には入れずにこれまでどおりの形式で葬儀をしてもよい」という事務通達が出たのです。現在では、まったく従来のとおりに、故人の顔や体に触れながらのお別れができています。葬儀の形式についても、何の制限もなく行われています。 詰め物をするメリットとデメリット エンゼルケアにあたり、対応を悩まれる方が多いのが詰め物でしょう。詰め物をするメリットとしては、やはり体液漏れが起こるリスクを低減できることです。しかし、亡くなったという事実を受け止めがたく感じているご家族の方からは「詰め物をされると、息ができないように見えて痛々しい」という声がよく聞かれます。 これをふまえて、私は見た目が悪くならないように詰め物をするのがベストではないかと考えています。 部位別の詰め物対応のポイント 詰め物をする際に気をつけたいポイントついて、部位別に詳しくご紹介していきます。 耳、鼻、口 まず、耳には基本的に詰め物を入れなくても構いません。交通事故に遭われ頭蓋骨骨折があり、出血が予想されるといったケースでは耳にも詰め物をしていますが、亡くなられたときに耳から出血や体液漏れなどが起きていなければ不要です。 続いて鼻は、小鼻ではなく、上の図に矢印で示したように鼻の奥へしっかりと詰め物をしてください。 同じく口も、図の矢印が示す部分、咽頭奥深くに舌を巻き込まないよう注意しながら詰め物を入れます。口腔内ではなく、その奥に詰めることで、気管や食道からの体液漏れをしっかりと防ぐことができます。 尿 尿漏れへの対処法は男性と女性とで異なります。 まず女性の場合は、男性よりも尿道が短いので、膀胱に溜まっている尿が出てくる可能性があります。そのため、できるだけ尿パッドをつけるといいでしょう。在宅の利用者さんは、多くの場合尿パッドや紙オムツをつけられていると思いますので、その対応で十分です。 また、膣への詰め物については、子宮疾患があって出血が見られるといった特別な事情がなければ不要です。 一方男性の場合は尿道が長いので、ご遺体を動かすたびに尿が漏れることは女性と比較すると少ないですが、念のため紙オムツを装着したり、男性用の尿パッドを巻いたりされると安心かと思います。 なお、尿道カテーテルをされていた方は、カテーテル抜去によって尿道から出血することがあるので、尿パッドをきちんと巻いてください。 便 便については、性状よって対応が異なります。硬い便の場合は、直腸に溜まっているものを可能な範囲で摘便したら、その後さらに出てくることはありません。ただし、タール便や液状便が出ている方の場合は、対処が必要です。とはいっても綿を肛門に詰める必要はなく、周囲をきれいにしてから綿で肛門を塞ぐようにして、その上から紙オムツを当てれば大丈夫です。紙オムツと肛門の間に隙間がなければ、ダラダラと漏れ出てくることはありません。 詰め物の必要性をどう判断するか 前提として、葬儀において「●●しないといけない」という決まりは2つだけしかありません。ひとつは、亡くなった後24時間は火葬できないこと。もうひとつは、棺に収めること。それだけなんです。着物を左前に着せなければならない、帯を縦結びにしなければならないといったことは、決まりではなく風習です。詰め物についても、原則としてご家族のご意向を受け止めて対応されるとよいと思います。仮に、「体液が流出したとしても詰め物をしたくない」といったご意向があれば、それに沿って対応します。 ただし、とくに在宅でお看取りをされたケースでは、COVID-19の影響も考慮されてか、ご家族は詰め物をしないことに不安を感じられることが多い印象です。また、多くのご家族は、ただでさえ急なことにショックを受け、今後のこともなかなか想像できていらっしゃらない状況です。その状況下で、体液が流出するリスクをふまえて詰め物をすべきかどうかのご判断をすることは、かなり難しいでしょう。 こうしたご家族の状況や心情をふまえると、先ほども少し触れたとおり、亡くなられた方のお顔の印象を損なわないよう、ご家族の目に触れない奥の部分に詰め物をしていくのが、私はよいと思っています。見栄えに十分に配慮して詰め物をすることが、ご家族のお気持ちに寄り添いつつ、お見送りまでの時間をトラブルなく安心して過ごしていただける方法ではないでしょうか。 可能な限り、最後の身支度はご家族と一緒に これはエンゼルケア全般に通じる話ですが、故人の身支度は、できるだけご家族と一緒に行っていただきたいです。在宅看護を選択されてきたご家族の多くは、「家族を自宅で送りたい」という想いが強いので、身支度に参加できるよう調整すると喜ばれるかと思います。 正直なところ、ご家族と一緒に支度をするとスムーズにいかないこともあるかと思います。しかし、それよりもご家族の方が「私たちも最後の身支度をしてあげた」と思えることのほうが大事ではないかと私は考えています。その経験はきっと、ご家族のその後の支えになっていくのではないでしょうか。 * * * ご家族ができるだけ心を痛めずに故人とお別れできるようにするには、ご遺体をきれいに保つための対処が必要不可欠です。そして、その対処の多くは可能な限り早く行うことが求められます。 訪問看護師のみなさんには、今回ご紹介した在宅でのエンゼルケアの方法をぜひ現場で実践していただき、「ご家族が前を向けるお別れ」の実現をサポートしてもらえたらと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情
【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情
特集 会員限定
2023年7月11日
2023年7月11日

納棺師解説/死後24時間以降のご遺体変化と対処法【セミナーレポート前編】

2023年4月14日に開催したNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」。納棺師の大垣麻里さんを講師に迎え、在宅でのエンゼルケアについて、知っておきたい基礎知識やCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行を受けての変化を教えていただきました。 そのセミナーの内容を、前後編に分けてご紹介。前編では、死後のご遺体に起こるさまざまな変化と、その対処法についてまとめます。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 死後24時間以内に起こる変化「死斑」 死斑(亡くなった方の皮膚に見られる赤紫や青紫色の斑点)は、故人が息を引き取ってから徐々に発生し、死後15時間程度で最高潮となります。発生を避けることはできませんが、きちんと対策すれば、顔に死斑が出ないようにすることはできます。 ご遺体が仰向けに寝ている場合、耳や首、背面部に死斑が出現し、顔は蒼白化していきます。これは体液や血液が重力に従って下がっていくためで、自然な死斑の現れ方です。逆に、亡くなられたときにうつ伏せの状態だった場合は、顔をはじめ体の前面に死斑が出現します。 しかし、中には仰向けになっているにも関わらず、顔が腫れてきたり、どんどん紫色に変化したりするケースがあります。これは大変よくない状況で、体内の血液が顔に流れてしまっています。ご家族の目に触れる顔をきれいな状態に保つためには、すぐに対策しなければなりません。 顔に死斑が出ないようにする方法 仰向けに寝ていても顔に向かって血液が流れてしまう場合は、できるだけ早く上体を起こすようにします。枕を少し高くしたり、座布団を挟んだりしても構いません。 このような現象が発生する方は、体格がよくて胸板が厚く、横から見たときに心臓の位置が顔より高いことがほとんどです。顔が心臓よりも下にならないようにすれば、顔への血液の流れを防ぐことができます。 また、横向きに寝ているのが安楽だった利用者さんが亡くなった場合、「故人が安楽に感じる姿勢のままにしてあげたい」と、ご遺体を横向きのままにすることを望むご家族は少なくありません。お気持ちはとてもよくわかりますが、少なくとも顔だけは、亡くなった後すぐに上に向けるようにしてください。 もしそのままにしておくと顔の片側にだけ死斑が出てしまい、それをカバーするために通常よりも濃いお化粧をしないといけなくなります。普段お化粧をしていなかった利用者さんもその方らしいお支度で送れるよう、顔に死斑が出ないように予防することがとても大事です。 死後24時間以内に起こる変化「死後硬直」 みなさんご存知のとおり、人は亡くなると体がこわばって自由に動かなくなりますが(死後硬直)、この硬直は自然に解けていきます。死後15〜20時間でだんだん硬直が強くなり、夏なら約2日、冬なら約3日で、どなたでも必ず緩解していきます。 とはいっても、例えば「着替えをさせたいので、自然に緩解する前に硬直を解きたい」といったこともあるでしょう。そのときは、腕を自然に曲げ伸ばしするだけで、柔らかく動くようになります。骨が折れるほどの力をかけたり、関節を特殊なやり方で動かしたりといった必要はありません。下肢の場合も同様で、筋肉をマッサージして伸ばすだけで硬直は解けます。 なお、死後15〜20時間以内に筋肉を動かして硬直を解いた場合、再度体がこわばることもありますが、その際はもう一度曲げ伸ばしすれば問題ありません。 ここでのポイントは、「死後硬直はいつでも解ける」ということです。これを知っていると、「亡くなったら着せてあげたい服があるので、急いで取りにいきます」とご家族がおっしゃる場合でも、「着替えはいつでもできるので、焦らずゆっくり用意していただいて大丈夫ですよ」とお声がけできます。 拘縮が見られる方への対応 ただし、生前に拘縮が見られる方は、亡くなっても固まった関節が緩解することはありません。死後に無理やり体を伸ばそうとすると、骨折や筋の損傷を起こす原因になるので、十分に気をつけてください。 死後24時間以内に起こる変化「乾燥」 死後は、皮膚の乾燥がどんどん進み、茶色くくすんだり硬くなったりします。顔の乾燥を防ぐために、できるだけ早く保湿をしてください。ご家庭にあるような一般的な保湿クリーム、もしくはハンドクリームやスキンケア用オイルなどを使ってもよいです。 ご遺体の顔に白いハンカチがかかっている様子をご覧になったことがあると思いますが、あれには乾燥を防ぐ意味合いもあります。 死後24時間以内に起こる変化「腐敗」 「腐敗」とは、体内のたんぱく質が細菌に分解されて、水・気体・臭気が発生している状態をいいます。空気中の細菌がご遺体に作用して起こるのではなく、亡くなった方ご自身の体内にいる菌によって起こるため、これを防ぐためにできることは、温度コントロールしかありません。ご遺体の温度を下げて菌が繁殖しにくい状態を保ち、腐敗をできるだけ進行させないようにします。 具体的には、まずは大腸菌や腸球菌の温床となっている腹部を、次いで血液が溜まっている胸部を冷やしてください。このように内臓を冷やすことが、腐敗を進行させないために重要です。 腐敗が進行すると、体内でガスが発生して体腔内圧が高まり、口や鼻から体液や血液が漏れ出てきます。 在宅で意識したい腐敗対策 在宅では、気温が低い冬でもご遺体の腐敗が進んでしまうケースがよくあります。その原因となるのが、ホットカーペットや電気敷布・毛布、ご遺体に向いたエアコンやストーブです。エンゼルケアを行う際は、まずご家族と一緒にこれらの状態を確認し、腐敗が進行しないようにうまく声をかけながら調整してください。 カテーテル抜去部や点滴痕からの出血に注意 死後に注意すべき点として、カテーテル抜去部や点滴痕からの出血や体液の漏れも挙げられます。こうした医療処置による創傷があると、体内で発生したガスに押された血液や体液が、そこから漏れ出す可能性が高いです。しかも、ガーゼやドレッシング材でカバーしても、ちょっとしたシワから体液や血液が滲み出してしまうケースがほとんどです。 正しい圧迫固定の方法 これを防ぐには、正しい方法で創部を圧迫固定する必要があります。 上の図のように、小さく固めた綿花やガーゼなどでカテーテル抜去部や点滴痕をしっかりと圧迫します。また、テープで腕一周を巻くように留めて、さらに圧迫を強めましょう。こうすることでテープが剥がれにくくなります。大きく平たく創部を覆うのではなく、局所的に圧迫してください。 鼠径部も同じ方法で圧迫固定します。搬送の際にテープが剥がれるケースが多いので、伸縮性のあるテープを使用し、腸骨から内股にかけてぐるっと一周巻いて圧迫をします。 >>後編はこちら納棺師解説/ご遺体への最新詰め物事情【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ご遺体変化&詰め物事情セミナー
ご遺体変化&詰め物事情セミナー
特集 会員限定
2023年6月27日
2023年6月27日

特別先行公開! 死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情 セミナーQ&A

2023年4月14日(金)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」を開催いたしました。納棺師で株式会社沙羅代表の大垣 麻里氏を講師に迎え、エンゼルケアの後にご遺体に何が起こっているのか、詰め物の処置をどうすべきかなどについて解説いただきました。 本記事では、セミナー時に受講者の皆さまからいただいたご質問への回答を、セミナーレポートに先んじて公開いたします。当日、時間の都合により回答し切れなかった質問にも回答いただきました。セミナーにご参加いただいた方も参加できなかった方も、ぜひご覧ください。 【講師/質問回答】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 ■お役立ちツールも公開!お役立ちツール『「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧』では、より多数のご質問への回答を読むことができます。ぜひご活用ください。>>「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧 死後の対応・医療的処置について <Q1>検死になる条件について教えてください。例えば、訪問診療を導入しておらず、延命処置を希望しない方が孤独死した場合、救急車を呼ぶしかないのでしょうか。 医療にかかっていない状態で死亡された場合には、その原因をはっきりさせるために検死が行われます。孤独死の方のご遺体を発見された場合や、救急車を呼んだけれど到着した時点ですでに亡くなっていた場合も検死となってしまいます。ですので、ご質問にある訪問診療を導入していない孤独死の方の場合、検死になりますし、救急車を呼ぶのではなく警察に連絡することになります。 セミナー内でお伝えした通り、検死になるとご遺体が着衣なしで袋に入れられた状態での帰宅となり、ご家族が大変ショックを受けるケースが多いものです。「万が一の際にはかかりつけ医や訪問看護ステーションに連絡を」ということを、ご家族にお伝えいただいたほうがよいかと思います。 救急車到着時点でお亡くなりになっていない場合には検死にはなりませんが、救急車内で心臓マッサージや酸素吸入、点滴などがなされるかと思います。よくお伺いする事例として、心臓マッサージをして肋骨がすべて折れてしまい、ご家族が亡くなった後にそのことを知り、「救急車を呼んだせいで、痛い思いをさせてしまった」と落ち込まれることがあります。こうした、予想外の最期になってしまわないようにするためにも、ご家族に事前のご説明をしていただくのがよろしいのではないかと思います。 <Q2>最近は火葬場が混み合い、1週間程度後に火葬されることも多々あると思います。その状況を踏まえて気をつけるべきことがあれば、教えてください。 確かにCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行時は、1週間~10日と長くお待ちいただくことが大変多くありました。やはり、一番のポイントは乾燥対策と保冷です。 訪問看護師さんには、保湿剤をしっかりお顔やその周辺に塗っていただけると助かります。保冷については、訪問看護師さんがドライアイスを使用することは難しいかと思いますので、できるだけ室内の温度を低くしていただき、まずは腹部を、次いで胸部を保冷剤で冷却いただければと思います。その後、我々葬儀社が臓器の上や顔の横をしっかりとドライアイスで保冷していきます。 腐敗・冷却について <Q3>葬儀社が到着する前に冷却しなくてよいのでしょうか。室内の温度設定については、どれくらいがいいでしょうか。 ご遺体のことだけを考えればできるだけ早い冷却がよいでしょう。しかし、ご家族の立場に立ったとき、亡くなったばかりで、まだその状況を受け入れられていないときに、ご遺体に冷却材をのせられるというのは、非常につらいことだと思いますので、タイミングへの配慮が必要だと思っております。 例えば、高熱を出してお亡くなりになった方に、熱冷ましのイメージで「熱がおありだったので、少し置かせていただきますね」と保冷剤を置く…といった対応はできるかと思いますが、状況によって限界があるかと思います。 葬儀社が到着し、ドライアイスで強く冷却するのは、死後10時間~15時間程度経過後が一般的(※)かと思います。そのタイミングでも、もちろんご家族がおつらいのですが、比較的受け止めていただきやすいものです。無理はせず、強い冷却は葬儀社にお任せいただくのがよろしいかと思います。 室温は、腐敗防止の観点では一番低い設定温度でお願いできればベストですが、そばで見守るご家族にも配慮する必要があるでしょう。「できるだけ低い」温度設定でお願いできればと思います。 ※亡くなられた後、ご家族がどれくらいで葬儀社に連絡されるかによります。ただし、葬儀社を選択され、翌日に連絡したり、何社か見積もりをとって検討されたりする方もいらっしゃるため、ある程度の時間経過はあるものとお考えください。 <Q4>すい臓がんの方で、死亡確認翌日に全身が腫れあがり、たらこ唇になってしまったことがあります。生前のお顔と変わってしまったため、ご家族からご相談を受けました。お亡くなり直前に高熱が出ていたため、エンゼルケア後に腹部に保冷剤を載せ、暖房も切っていましたが詰め物はしていませんでした。どう対応すればよかったのでしょうか。 典型的な腐敗現象です。お亡くなりになる前からお身体の状態が悪く、腐敗が進行しやすい条件がそろっていたのではないかと思います。詰め物との関連性はなく、保冷が足りなかったことが主原因です。状態の悪い方については、ドライアイスを使用しての急速な保冷を行うことが大切だと思います。葬儀社に引継ぐ際、「状態が悪いので至急ドライアイスをしっかりあててください」とご伝言くださると助かります。 <Q5>エンバーミングについて教えてください。どのような内容で、どんなご遺体に実施されるのでしょうか。 簡単に説明いたしますと、血管を通じて血液を排出し、代わりに赤く着色した防腐液(ホルマリン、フェノール等)を注入し、体に行き渡らせることで、腐敗進行を遅らせるような処置を施していきます。それにより、ご遺体を長期間維持できるようにするご遺体保全処置がエンバーミングです。 事情があって火葬までの期間が長いケースや、ご遺体の損傷修復のためにも行われますが、実際には「感染予防になるから」「きれいになるから」といったご要望に基づく実施が多いです。 体液漏れについて <Q6>生前(数日前)に点滴の抜針をして、止血を確認しました。エンゼルケア時に抜針したわけではないですが、死亡後にその抜針した部位から血液や浸出液が出てくることはありますか? 2~3日前の皮下点滴の痕であっても、圧迫固定は必要になりますか? はい、生前止血を確認しても、針穴から体液が漏れることはあります。 皮下点滴の痕についても、実際に漏れるかどうかはケースバイケースですが、その後のご遺体の安置環境が不確定なため、圧迫固定の処置をされていたほうが安心だと思います。 詰め物について <Q7>訪問看護の現場では詰め物をしないように指導を受けていますが、詰め物をしたほうがよいのでしょうか。また、葬儀社では詰め物をしてもらえないのでしょうか。 確かに、詰め物をしていないケースは多いかと思います。在宅看護の方だけではなく、病棟・検死の方も含むデータですが、弊社(株式会社沙羅)の調査でも、60%近い方が「詰め物をしていない」という結果でした。 しかし、新型コロナウイルスの感染、もしくは感染疑いのある方に対し、詰め物・紙おむつ等をして体液の漏出予防を行った場合、納体袋不要という厚生労働省のガイドラインも出ました(2023年1月)。それに基づき、ご家族から詰め物のご要望があることもございます。また、必ずご遺体から体液が出るということはございませんが、詰め物をしていれば体液漏れのリスクが少なくなります。新型コロナウイルス感染有無に限らず、少しでも体液流出の可能性を少なくしたほうがよいのではないかとも考えます。「詰め物をしないといけない」とまでは思いませんが、「できるだけ詰め物をしたほうがよいのではないか」というのが現状の私の見解です。 葬儀社が詰め物をするかどうかについては、会社により対応がまちまちな現状があります。きちんと行うケースもあれば、まったく何も行わないケースもあり、一概に「葬儀社がちゃんと詰め物をしてくれます」と言えないのが心苦しいところです。 「どんな葬儀社に頼んでも、〇〇は行ってもらえる」ときちんと言えるような信頼できる業界になるべく、私も働きかけていきたいと思っております。 <Q8>訪問看護ステーションで用意しておくべき詰め物や、詰める際の道具についてアドバイスをお願いします。詰める際に割り箸をつかうことが多いのですが、ご家族がみていらっしゃることを思うと、心苦しいです。また、肛門に詰め物をせずに面で抑える際には、具体的にどのような処置をするとよいのでしょうか。 詰め物は、綿花が扱いやすいかと思います。詰める際には、可能ならエンゼルケア専用の鑷子(せっし/ピンセット)をご用意いただけたらベストです。 肛門については、肛門を覆うようにガーゼ・綿花・尿パット等でふさぎ、紙おむつと空間ができないようにしておくイメージです。 エンゼルケア・保湿について <Q9>ご遺体の手は組んだほうがよいのでしょうか。 死の習俗として手を組むイメージを持たれている方が多いのですが、そうしなければいけないという根拠はありません。ご家族のご要望があった場合に組む、という対応でよいかと思います。葬儀社では、搬送の際にストレッチャーに手が挟まってけがをさせないようにするために手を組んだり、合掌バンドを装着したりしている現状があります。 なお、例えば拘縮があるような場合は、手を組むことが難しいかと思います。ご家族に対して「無理に組まなくても問題はない」というお声がけをすると、安心いただけるかと思います。中には、「組まなければ成仏できない」と考え、不安に思われるご家族もいらっしゃいます。 ここで拘縮がある方のお身体を無理に伸ばしてしまうと、骨折してしまうこともあります。葬儀社は、制限はあるものの、ある程度高さ・幅に余裕のある棺をご用意するかと思いますので、ご安心ください。 <Q10>目の閉じ方を教えてください。目が閉じずに、眼球が乾燥している場合はどうしたらよいですか? 文章での説明がなかなか難しいのですが、目が薄く開いている程度でしたら、綿を眼球の上に乗せて閉じています。イメージとしてはコンタクトレンズのように薄く綿花をのせていただき、下まぶたを上げて上まぶたを下げます。 綿で閉じることが難しい場合は、エンゼルケア用の整容ゲルを用います。整容ゲルにはアルコールが含まれているのですが、アルコールを注入することで、体液と混ざって膨らみ、目が閉じやすくなります。 <Q11>保湿について、使用する保湿剤や頻度、ポイントなどを教えてください。メイク後の保湿方法や、白色ワセリンを使用してよいかについても教えてください。 保湿剤は、お手持ちの保湿剤でよろしいかと思います。頻度は、あくまで目安ですが一日一回程度です。お顔だけでなく、唇、耳、首などの周辺も忘れないようにしてください。 メイク後の保湿のやり方ですが、オイル系でもクリーム系でも、メイクスポンジに保湿剤を含ませてそっとおさえるように足していきます。白色ワセリンでも問題はありませんが、保湿効果が高い一方で、少しべっとり感があり、テカリが強く出ます。気を付けないと仕上がりに違和感が生じることがありますので、塗りすぎないようにお気を付けください。 <Q12>特別な化粧品を使ったほうがよいのでしょうか。ご本人が使用したものを使っていますが、問題ありませんか? また、自然に見せるためにはどうすればいいかについても教えてください。 我々はご遺体専用の化粧品を使用していますが、皆さんはご本人使用のお化粧品があればそちらでよいかと思います。ただし、ご遺体は体温が低いので、温度で発色するタイプの化粧品は使用することができません。また、クレンジング後、ベースメイクの前に保湿するようにしてください。保湿剤を充分にお持ちでない場合、足して差し上げてください。ベビーオイル・ハンドクリーム・ワセリンなどでも問題ありません(ワセリンは塗りすぎ注意)。 自然に見せる方法については、亡くなられた方によって好みが違うため、どのような見せ方が「その方にとっての自然」と感じるメイクなのか、非常に難しいところです。ただ、どのようなメーカーの化粧品でも、「保湿効果が高いものを選ぶこと」「色の濃淡の種類を多く用意すること」がポイントだと思います。 湯灌(ゆかん)について <Q13>湯灌の定義や、葬儀社が行う湯灌の内容について教えてください。また、訪問看護で清拭を行った場合も、湯灌は行うのでしょうか。 湯灌は、なかなか一口に説明をするのが難しいものですが、温かいお湯に入っていただく、火葬前の最後のお風呂です。洗髪・洗顔・お顔剃りなどを行い、全身を丁寧にボディソープで洗い流します。ただし、地域によっては清拭を「湯灌」と呼ぶこともあります(特に、関東より東の地域)。 湯灌は葬儀のプランの中でご家族が希望された場合に行うことなので、訪問看護でお体をきれいにされていた場合、通常は湯灌しないケースが多いかと思います。 <Q14>湯灌の前に、詰め物やエンゼルケアを行っても問題ないのでしょうか。詰め物がとれてしまうことはありませんか。湯灌する場合、ポリマーの詰め物はよくないというお話も聞きました。 問題ありません。特別なことがない限り、湯灌の際に詰め物が出ることはないでしょう。詰め物は、濡れるため湯灌後に葬儀社で交換するのですが、それでも意味があります。亡くなられてから湯灌されるまで間に、寝台車で移動されたり、安置されたりとお身体を動かすことが多いため、体液漏れの予防処置としての詰め物をお願いしたいです。 ポリマーは水を含むと100倍近く増えるため、どうしてもあふれ出ますが、湯灌をされるかどうかはエンゼルケア時には不確定のため、ポリマー処置されていても問題ありません。ただし、鼻腔については副鼻腔内ではなく、より奥にポリマーを注入しておいていただければと思います。 葬儀社の対応と訪問看護との連携について <Q15>訪問看護では、エンゼルケアは自費負担をしていただいています。葬儀は費用を抑えたものや湯灌なしのものなど、さまざまなプランがあるようで、どこまで自分たちが行うべきか迷います。訪問看護と葬儀社で、対応の違いはあるのでしょうか? 訪問でするべき対応は何だと思われますか。ご家族に説明するためにも知りたいです。 皆さんをはじめ医療者の方々が行うエンゼルケアは、病気と闘い人生を終えられた後、その方らしく身支度を整えること、本来の姿へ戻ること、という意味合いが強いと考えております。一方、我々葬儀社が行うケア・身支度は、「宗教儀式に向けての準備」という意味合いが強いです。 私は葬儀社サイドの者なので、ご家族に会うのは亡くなられた後になります。でも、皆さんは訪問看護でご家族のことも、亡くなられた方のこともよくご存知のはず。私がご家族だったら、故人が生前からお世話になった方に最後の身支度をしてほしいと思います。ですから、訪問看護師さんができる限り亡くなられたときの身支度をされるのが、ご家族の心情としてはベストではないでしょうか。ご家族のご要望に沿うことが基本ですが、場合によっては髪の毛を解くだけだったり、ご本人の口紅を塗ったりするのみでもよろしいかと思います。私は、ご家族が葬儀社に対し、「訪問看護師さんに綺麗にしてもらったからもう大丈夫です」とおっしゃるケースがもっと増えたらよいのではないかと考えています。 また、費用の兼ね合いから葬儀を当初の想定より縮小される方も大変多くいらっしゃいますので、結果的に訪問看護師さんによるエンゼルケアが最後のお支度になることもあります。 <Q16>訪問看護師がご遺体のお着替えをした後、葬儀場でもまたお着替えをすることになるのでしょうか? また、エンゼルケアのやり直しを行うことはありますか? ご家族に、看護師とエンゼルケアをしたいか、葬儀社にお任せしたいかの確認を行っていますが、看護師と行う場合も、例えば詰め物のやり方が不十分だったのではないか、やり直しをするのであれば無駄に金銭的負担をかけているのではないか、と不安になります。 ご家族の金銭的ご負担も考慮の上、そのようなお声がけをしていただいていること、大変ありがたく思います。 ご家族がどの葬儀社に依頼されるかによって異なりますが、弊社の場合は、訪問看護師さんがご遺体のお着替えやメイクをされていた場合、ご家族がそれを望まれたと判断し、特にご要望がない限りはお着替えやメイクをいたしません。 ただし、葬儀社によっては、例えば「白装束を販売したい」という都合によって、お着替えをしているにも関わらず「仏着に着替えないといけません」といった言い方をする良くないケースもあるようです。基本的には、ご家族から再度の着替え要望がなければ、する必要はないと私は考えております。メイクについても、ご家族から「イメージと違うのでやり直してほしい」というようなご要望がない限り行いません。 詰め物については、時間経過とともに変化が起きることも多いため、「完璧な処置」というのはどの時点であっても不可能だと思っています。状況に応じてやり直しが発生します。しかし、詰め物をしていただくことで、体液漏れの予防処置になりますので決して無駄にはなりません。ご遺体・ご家族のためにも大変ありがたいです。 <Q17>小児の場合にも大人と同じような処置をしていますか? 小児の方の場合、綿花詰をしないことが多いです。小さなお鼻やお口に詰め物をすることに、大変心苦しさを感じるためです。ご両親、特にお母様のご要望に寄り添い、どうされたいのかを充分に聞き取って対応するようにしています。また、ご両親がお見送りまでの間に何度も抱っこできる状態にしておけるように気を付けております。訪問看護師の皆さんも、ぜひご両親に対して、「抱っこしてもよい」ということをお伝えいただければと思います。 * * * 後日、オンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」の講義内容をダイジェストにしたレポート記事も公開いたします。ぜひそちらもご覧ください。 >>シリーズ一覧はこちら「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」セミナーレポート>>お役立ちツールはこちら「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧 編集: NsPace編集部

訪問看護の褥瘡ケア
訪問看護の褥瘡ケア
特集 会員限定
2023年5月16日
2023年5月16日

写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編

2023年2月10日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「写真事例で解説!訪問看護の褥瘡ケア」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師としてお迎えし、褥瘡の評価やケアのポイントについて、実際の事例を交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、褥瘡評価スケール「DESIGN-R2020」(※1)を使って実際の褥瘡を評価する、ケーススタディの様子をご紹介します。 >>前編はこちら写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表赤十字病院や複数の訪問看護ステーションにて勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマに関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 「DESIGN-R2020」で褥瘡評価 「DESIGN-R2020」での評価方法について学んできたところで、ここからは実際の褥瘡の写真を見ながら、「DESIGN-R2020」を用いて評価してみましょう。 事例1:壊死組織で創底が見えない場合 こちらは、1ケース目の褥瘡です。「DESIGN-R2020」での評価は「DU-e3s8i1G6N6p0:24点」となります。 <基本情報>・褥瘡のサイズは6cm×5.8cmで、ポケットはありません。・褥瘡のケアとしては、1日1回ガーゼの交換を行っています。・ガーゼの約半分が汚染される程度の滲出液が見られます。 褥瘡を見てみると、創部は色が黒くなっており、創周囲の皮膚は赤くなっているので、「DTI(深部損傷褥瘡)ではないか?」と思われるかもしれません。しかし、この褥瘡は壊死組織(黒色部分)が全面を覆っていて、創底が見えない。つまり、壊死組織によって深さの評価ができない褥瘡です。また、創面が壊死組織で覆われていることから、肉芽も上がっていません。 創周囲の皮膚は、先にも触れたとおり赤くなり、炎症を起こしています。現段階では炎症で済んでいますが、今後感染に移行してしまう可能性も十分にあります。こういう場合は、創周囲の皮膚にポケットができていないか、膿が溜まっていないかを必ず確認しましょう。 また、速やかに壊死組織を除去することが重要なポイントです。このケースでは、スルファジアジン銀クリームを使って、壊死組織の自己融解を進めています。そのため、壊死組織の外縁から中心に柔らかい組織に変化していっていることがわかるかと思います。 事例2:DTI(深部損傷褥瘡)疑いの場合 続いて2ケース目の褥瘡。「DESIGN-R2020」での評価は「DDTI-e1S15i1g0n0p0:17点」となります。 <基本情報>・サイズは18.5cm× 10cmで、ポケットはありません。・褥瘡ケアは、1日に1回行われています。・滲出液は少なく、ガーゼにわずかに付着する程度です。 こちらはDTI疑いの褥瘡です。「DESIGN-R2020」では、深さの表記は「DDTI」とします。 DTI疑いの場合の評価のポイントのひとつが、肉芽組織(Granulation)の項目。DTIのときの肉芽組織は、0点(g0と表記)で評価するという決まりです。みなさんが訪問看護の現場でDTIの褥瘡の評価に当たる際、「このあたりはいい肉芽が育っているかもしれない」と感じられることもあるかもしれませんが、「肉芽はまったくできていない」と判定しましょう。 事例3:複数の深刻な褥瘡がある場合 3ケース目は、仙骨部と右坐骨結節部、左坐骨結節部の3ヵ所に褥瘡がある方です。「DESIGN-R2020」での評価は、順番に「D4-E6s9I3cG6n0P6:30点(※2)」「D4-E6s6I3cG6n0P6:27点」「D3-E6s6I3cG6n0P12:33点」となります。 ※2 Dは従来通り合計点数には含まれません。また臨界的定着疑い(「訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価 /前編」参照)は3cと記載し点数は3点とします。 <基本情報>・仙骨部にはぬめりがあり、淡黄色の滲出液が多く分泌されています。・右坐骨結節部にはぬめりがあり、淡黄緑色の滲出液が多く分泌されています。・左坐骨結節部にはぬめりがあり、淡黄色〜淡黄緑色の滲出液が多く分泌されています。・栄養状態が低下しており、脱水も確認できます。・頭側挙上をしており、食事にも時間がかかるため、長時間にわたって座位姿勢をとっています。・自力での体位変換はできません。 今回のケースでは、以下のような評価ができるでしょう。 1. 肉芽の状態創面は赤くなっているように見えますが、浮腫性の不良肉芽で覆われています。すべての褥瘡において「良性肉芽が育っていない」と評価します。 2. 肉芽の剥離、段差の有無仙骨部の褥瘡には、肉芽の剥離と段差が見られます。これには、頭側挙上をしていること、座位姿勢をとっている時間が長いことが関係していると考えられるでしょう。ギャッジアップをした際、ずれと圧迫が加わって肉芽が剥がれてしまっています。 さらに、左右の坐骨結節部にも肉芽の剥離がありますね。長時間の座位姿勢をとっているために圧迫され、さらに慢性的な体位のずれも加わって、肉芽が剥離しています。とくに左坐骨結節部は、左側への体幹の傾きを生じているためより強い外力が加わることにより、肉芽は深くまで剥離しています。 3. 滲出液の量3カ所ともぬめりが見られ、多量の滲出液があります。黄緑色の滲出液が出ている部位も確認できました(緑膿菌感染の疑い)。さらに、3ヵ所とも創周囲の皮膚は浸軟しています。これはつまり、臨界的定着疑いの褥瘡であると考えられるでしょう。 4. 巻き込み(エピロール)の有無臨界的定着の疑いがある上に、座位姿勢の時間が長かったり、自身で体位変換ができなかったりして、局所には慢性的に圧迫やずれが加わります。さらに、マイクロクライメット管理も不十分であることから表皮の巻き込みという現象が起こります。これは褥瘡治癒を遅延させるリスクの高い状態といえます。 5. ポケットの有無褥瘡にはポケットも確認できます。体位変換をするときに左右にずれることから、ポケットも左右に広がっています。さらに、ギャッジアップをすることで縦方向にもずれが加わりますから、上部にもポケットが残っています。 複数の褥瘡がある場合も、評価の方法は変わりません。一つひとつの創面を指で触ってぬめりや感触(創周囲がぶよぶよしていないか、膿がたまっていないかなど)を確かめたり、段差や肉芽の剥離がないかをチェックしたり、生活の中で生じている外力(圧迫、摩擦やずれ)がないかを検討したりして、各褥瘡に何が起こっているかを評価してください。 * 褥瘡ケアでは、なにより重要なのは「予防」。一方、すでにできてしまっている褥瘡に対しては「DESIGN-R2020」を使って褥瘡評価を行うことが大切です。創面と創周囲の皮膚に何が起こっているのか、その要因は何なのかについて、局所ケアの状況や生活などから多面的に見極める必要があります。 そして、ご本人や家族と一緒に実践できるケアを考えることが大事です。褥瘡の状態や利用者さんのライフスタイルをふまえ、継続できる最善のケア方法を考えましょう。 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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