セミナーレポートに関する記事

【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-
【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-
特集 会員限定
2023年2月7日
2023年2月7日

【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-

2022年10月28日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「ターミナル期における家族看護」を開催しました。講師を務めてくれたのは、家族支援看護に造詣が深い堀 美帆さんです。 今回はそのセミナーの様子を、前後編にわけてご紹介。前編では、訪問看護の現場で家族看護を実践する堀さんに、ターミナル期の家族看護にあたる上で看護師にもとめられる意識や、ご家族に対してできることを教えてもらいました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】堀 美帆さんウィル訪問看護ステーション葛西サテライト元 家族支援専門看護師(2017年~2022年)新卒で小児専門病院に入職。そこで病気の子どもを育てる家族の思いを知り、自分にできることを模索すべく大学院に進学し、家族看護について学ぶ。その後、重症心身障害児者病院での勤務を経て、地域で生活する子どもと家族の生活を支えたいとの思いから訪問看護の世界へ。現在は幅広い年代の利用者さん、およびその家族に寄り添い、「家族の力を引き出すケア」を提供している。 目次 1. ターミナル期の家族看護の難しさ 2. ターミナル期の家族看護のポイント3つ  (1)ご家族の病気体験を理解する  (2)死への準備教育  (3)ご家族一人ひとりに療養上の役割を見出す --> ターミナル期の家族看護の難しさ 私はこれまで、ターミナル期における家族看護の難しさを実感する場面にたくさん直面してきました。 とくに最近多く見られるのは、利用者さんが入院するもコロナ禍で長らく面会できず、ご家族が入院中の状況をきちんと把握できていないケース。退院後、想像以上に利用者さんが衰弱しており、「こんなにケアが大変だと思わなかった」と私たちに話すご家族は多くいらっしゃいます。 自宅での看取りに向けて訪問看護が介入する際は、予後が数週間〜半年程度というケースも多く、わずかな時間でご家族との関係を構築しなければならないことも多いです。また、利用者さんとご家族、その他関係者の希望の折り合いがつかない意思決定場面も多々あるでしょう。 利用者さんの病状がご家族の心理に影響を与えることも、難しさのひとつです。利用者さんが体調不良でイライラすれば、ご家族も気持ちに余裕がなくなってしまいます。 ターミナル期の家族看護のポイント3つ では、ターミナル期の家族看護において、具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。ひとつは、ご家族の病気体験を理解すること。次に、死への準備教育をすること。そして3つめは、ご家族の一人ひとりに療養上の役割を見出すことです。 ご家族の病気体験を理解する 利用者さんの病気が発症し、診断され、現在に至るまでに、ご家族はどんな体験をしてきたのかを詳しくヒアリングします。話を聞く中で、「がんになってから家事ができなかったけれど、家族が手伝ってくれて助かった」という言葉があれば、家庭の中で柔軟に役割を交代できていることがわかりますよね。 ほかにも、ご家族の病気や服薬への理解と捉え方、現在の心情、信念や価値観、これまでの生き方やライフワーク、今後の治療や看護への希望……病気体験からは、さまざまな情報を得られます。 なお、病気体験を理解する上で私が最も大事にしているのは、やはり話を丁寧に聞くことです。時間はかかりますが、その行為自体がご家族との関係づくりの第一歩にもなります。 死への準備教育 たとえ予後数週間であっても、利用者さんもご家族も、退院時に「亡くなるために家に帰る」とは思っていません。もちろん、自宅で最期を迎えたいという考えはありますが、ご本人は家でやりたいこともあるでしょうし、ご家族もできるだけ長く一緒に過ごしたいと思っています。そんな気持ちを汲み、実現に向けたお手伝いをするという意識をもって関わることも、死への準備教育のひとつです。 病院で自宅看取りの方針が決定すると、ご家族は片道切符を渡されたような絶望感を抱くもの。そんなときはぜひ、緩和ケアの目的を伝え、「マイナスなことばかりではないですよ」と寄り添ってください。 あとは基本的なことですが、先々起こる症状やその対処方法などを、看取りのパンフレットを用いながらご家族に説明するのもよいでしょう。このように死への準備教育を行う中で、ご家族が少しずつ「看取る覚悟」をもてるようにすることが重要です。 難しいことではありますが、覚悟がないと、苦痛をとる薬剤もうまく使えないことが多いんです。副作用が出た際、「この薬剤はだめなんじゃないか」とご家族が自己判断して適切に薬剤を使用しなくなってしまうケースもあります。 ご家族一人ひとりに療養上の役割を見出す ご家族一人ひとりの心身の状態や担っている役割(家事役割や経済的に支える役割など)との兼ね合いを考えながら、できるだけ介護負担が集中することのないように、療養上の役割を見出します。このとき、大きな役割を担えないがゆえに不全感を抱く方が出ないように注意する必要があるでしょう。些細なことでも肯定的にフィードバックするよう心がけることが大切です。 それから、役割を言葉で明確に伝えることもおすすめです。ただ見守るのみの役割であっても、「そばで見ていてあげるだけでいいですよ」と声をかけ、承認するよう意識してみてください。また、治療システムの中でご家族がどのような役割を果たせるか、ご自身がもっている力を考慮しながら模索してもらうこともあります。 何をしていいかわからず、結果的に何もできずにいるご家族は多いもの。訪問看護師として寄り添い、一緒に役割を見つけていただければと思います。 次回は「ご家族の力を引き出すためのQ&A」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

【セミナーレポート】「だから」が分かると腑に落ちる精神看護
【セミナーレポート】「だから」が分かると腑に落ちる精神看護
特集 会員限定
2023年1月10日
2023年1月10日

【セミナーレポート】「だから」が分かると腑に落ちる精神看護

2022年9月30日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「『だから』が分かると腑に落ちる精神看護」。講師として登壇してくださったのは、精神看護専門看護師であり、現在は訪問看護事業を展開する株式会社N・フィールドで広報部長を務める中村創さんです。病院での勤務や「べてるの家」での生活経験をふまえ、訪問看護現場での精神疾患を抱える患者さんとの向き合い方、看護師にできることなどを教えてもらいました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】中村 創さん 株式会社N・フィールド 事業管理本部 広報部 部長/精神看護専門看護師/公認心理師精神看護専門看護師として、急性期病棟や閉鎖病棟を含む複数の病院に勤務。精神疾患を抱えた方々の地域活動拠点である「べてるの家」の一室で暮らし、当事者研究のイベント運営にも携わる中で、地域の受け入れ体制を整備する必要があると実感する。訪問看護にその可能性を感じ、2019年より株式会社N・フィールドで活動。 目次 ▶ 精神看護では患者さんとの関係構築が重要 ▶ 感情をぶつけられたらその裏側を想像しながら対応を ▶ 統合失調症の看護では「安心」を一緒につくる ▶ 自殺を考える人との対話では、自殺の話題から逃げない --> ▶ 精神看護では患者さんとの関係構築が重要 精神疾患の治療において、優れた臨床成績を出している療法を学び、実践することはもちろん大事です。しかし、患者さんと治療者との間に関係が構築されていなければ、どんな療法も効果が発揮されないと私は考えています。 また、私が病院、訪問の別なく看護の現場で何よりも重要だと実感しているのは、「患者さんの語り」に耳を傾けること、「この人になら話してみよう」と思ってもらえる関係を構築することです。安全が担保されている関係が構築されなければ、患者さんが語り始めることはありません。 ▶ 感情をぶつけられたらその裏側を想像しながら対応を 臨床で患者さんから怒りをぶつけられた経験がある方は少なくないと思います。そんなときは、「怒りの裏側」に思いを巡らせると、同じ場面が違って見えます。 人は、他者との関わりにおいて自己が傷つくのを防ぐため、つまり自己防衛のために怒りを手段として使うことがあります。もしくは、相手を支配し、自分が主導権を握りたいときにも怒りを用います。 このように、怒りの奥には何らかの思いが潜んでいます。そして、怒っている瞬間は心に余裕がなく、根底にある「自分が傷つけられそうになっている」「相手を思いどおりにしたい」「正しいのは私」といった思いを修正することはできません。 臨床で患者さんの強い怒りに触れたとき、そういった怒りの感情を無理に鎮めようとするのではなく、鎮まるのを待つほうがいいでしょう。精神看護においては、こうした「見えない部分」を想像しながら対応を考えていくことが重要になります。 ▶ 統合失調症の看護では「安心」を一緒につくる 統合失調症は、英語で「Schizophrenia」といいます。「schizo」は分裂、「phrenia」は連想という意味です。頭の中で情報をまとめる、統合することが難しくなる状態です。急性期では、自他の境界が分からなくなり、強い恐怖を感じています。怖くてしかたがないから眠れなくなり、さらに神経が過敏になって、症状も強くなります。 そんなときに私たち看護師ができるのは、「あなたは安全だから大丈夫」と説得することではなく、患者さんが安心できる環境を一緒につくること、相手の内側で何が起こっているかを想像し寄り添うことです。「説得は無理に抑えつけようとする行為である」と心に留める必要があります。 また、看護師自身が「この状態はいずれおさまる」と信じることも重要です。念じるだけでも構いません。看護師の回復への信頼は、患者さんにも伝わります。その信頼が伝わることで少しずつ気持ちが落ち着き、話ができるようになっていくのです。 ▶ 自殺を考える人との対話では、自殺の話題から逃げない 自殺の行動化で搬送される人の中には、周囲からみれば些細に思える動機を淡々と話される方もいます。例えば、「水たまりを踏んで靴下が濡れたので死のうと思いました」といった具合です。耳を疑ってしまいますが、これは、その人が行動を起こす瞬間に至るまでに、多くの荷物を背負ってきたからです。靴下が濡れた瞬間、積荷の重さが限界を超えてしまったということです。 そんな精神状態にある方は、視野が狭くなり、自殺という選択肢しか見えなくなります。「自殺が唯一の解決策」と考えるようになり、周囲にいるかもしれない家族や仲間、支援者が見えなくなっているのです。 そうした方と対話する際、私たちは誠実な態度で話を聴かなければなりません。自殺の話題から逃げず、はっきりと尋ねましょう。例えば、私は「今死にたいという気持ちはどのくらいでしょうか?」「『死なない』と私に一言いってもらえませんか?」などと伝えます。真正面から受け止める人が「そこにいる」ことが、自殺を思いとどまるひとつのファクターになります。 また私たち看護師は、一人で抱え込まないことも大切です。チームのメンバーに状況を共有し、個人ではなく、チームで対処するという姿勢で臨みましょう。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
特集 会員限定
2022年12月13日
2022年12月13日

【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-

2022年8月26日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護における生活期リハビリテーション」。刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科 部長の小口先生を座長に迎え、同課の理学療法士 仲村先生と作業療法士 日比先生に、それぞれの視点から訪問看護の現場で役立つ生活期リハの知識や具体的なテクニックを教えていただきました。 そんなセミナーの様子を、3回に分けてご紹介。第3回は、日比先生による「症例を通した日常生活動作の工夫」についての講演の後半をまとめます。 【講師】(座長)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科部長/リハビリテーション科専門医小口 和代 先生2000年より刈谷豊田総合病院勤務。2004年院内に回復期リハビリテーション病棟、2007年訪問リハビリテーション事業所を開設し、急性期から回復期、生活期まで幅広くリハビリテーション診療に携わっている。指導医として若手医師へのリハビリテーション教育やチーム医療の質の向上に取り組む。監修本:『Excelで効率化! リハビリテーション自主トレーニング指導パットレ!Pro.』医歯薬出版 2021年 (講演Ⅰ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科理学療法士仲村 我花奈 先生2002年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期(神経、整形、ICU)、介護老人保健施設を経験。現在は訪問リハビリテーションを担当している。利用者の社会参加やQOLの向上を目指し、前向きな生活が送れるよう取り組んでいる。 (講演Ⅱ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科作業療法士日比 健一 先生 2004年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期、回復期、介護老人保健施設を経験。認知症サポートチーム、緩和ケアチーム、ICTワーキングの経験を活かし、訪問リハビリテーションでは横断的な専門的支援を提供している。 目次▶︎ 検討症例の基本情報:90歳・男性のBさん▶︎ 困りごと(1) 起き上がりから車椅子への移乗が難しい ・移乗動作を助ける福祉用具 ・適切な車椅子を選んで移乗の負担の軽減を▶︎ 困りごと(2)食べるスピードが遅く、食事中ぼーっとする ・食具の種類と導入の注意点▶︎ 利用者さんの生活動作について助言する際のポイント --> ▶︎ 検討症例の基本情報:90歳・男性のBさん 90歳の男性Bさんの架空の症例を通して、具体的な生活動作へのアドバイス方法を考えていきましょう。最初にBさんの基本情報をご確認ください。 2症例目:Bさん(90歳/男性)・妻と二人暮らし。・4年前に脳梗塞を発症し、重度片麻痺の後遺症が残っている。・ADL動作は、食事以外は介助が必要。要介護認定は「要介護3」・移動は車椅子で全介助。ベッドで寝ていることが多く、外に出る気はまったく起きない。 そんなBさん、およびその妻が日常で感じているさまざまな困りごとについて順番に見ていきます。 1症例目はこちら>> ▶︎ 困りごと(1) 起き上がりから車椅子への移乗が難しい 最初の困りごとは、起き上がりから車椅子への移乗です。妻は「夫は体が大きいので介助が大変だ」と話し、Bさん本人も「車椅子に乗ると疲れるから、ベッドで寝ていればいい」といいます。寝たきりになるリスクが非常に高い状態ですね。 そこで、起き上がりと移乗の動作についてアドバイスします。それぞれ以下のような手順を踏むと、比較的スムーズに体を動かせるでしょう。 ※黄色のテープを巻いている足は、健康状態が悪い足を表現しています 【起き上がり動作の手順】STEP1:ギャッジアップ座位にするベットに頭を付けたままギャッジアップで上体を起こす。STEP2:高さ調整介助者の腰が深く曲がらないように、ベッドの高さを調整する。STEP3:足を降ろし、上体を起こす下肢を先に降ろし、上体を健康な足側の方向に起き上がらせる。 ※黄色のテープを巻いている足は、健康状態が悪い足を表現しています 【移乗動作の手順】STEP1:座面を上げる立ち上がりやすい高さ(目安は股関節が90度以上になる状態)までベッドを上げる。STEP2:上体を曲げ、臀部を上げるお辞儀をさせるように上体を曲げ、お尻が浮きやすい体勢にして立ち上がる。STEP3:悪い足を固定し、方向転換する悪い足を固定し、健康な足側に重心をかけて方向転換させる。 移乗動作を助ける福祉用具 併せて提案したいのが、移乗動作を助ける福祉用具です。利用者さんが臥位・座位・立位のどの状態から移乗するかによって選定してください。 立つことが可能であれば、L字手すりを設置し、立ち上がりをサポートします。座位の場合は、トランスファーボードや介助用ベルトを使用し、転倒予防や介助負担の軽減を図りましょう。そして座ることも難しい場合は、介助用リフトの導入を検討します。 適切な車椅子を選んで移乗の負担軽減を 移乗の負担を軽減するには、利用者さんに合った車椅子を選ぶことも重要になります。車椅子の選定ポイントは、車椅子の座位姿勢、使用目的、そして移乗動作の介助量です。選定基準を詳しく見ていきましょう。 ・普通型車椅子移乗の介助量が少なく、座位保持が可能な方向け。自走に適している。・モジュラー式車椅子移乗の介助量は中等度で、座位保持が可能な方向け。自走に適している。・リクライニング型車椅子移乗の介助量が大きく、座位保持が困難な方向け。介助用に適している。なお、リクライニング型車椅子はチルト機能があるものがおすすめ。座面から臀部がずれ落ちるのを軽減でき、転倒を予防できる。長い時間座位を保持する場合にも便利。 ▶︎ 困りごと(2) 食べるスピードが遅く、食事中ぼーっとする 続いての困りごとは、食事についてです。妻からは「食べるスピードが遅い。食事中にぼーっとしているのも気になる」と、本人からは「箸が使いにくくて疲れてしまう」という声が聞かれました。 食事動作へのアドバイスをする際には、まず先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期のどの段階に問題があるかを見極めましょう。Bさんの場合は、先行期に問題があるケースになります。 次に、具体的な評価と改善案を考えていきます。例えば「食べるのが遅い」ことには、多くの場合疲労の問題が隠れています。肘つきのある椅子やリクライニング機能のある車椅子に変えたり、一回の食事時間を短くして回数を増やしたりといった工夫をしてみてください。また、「ぼーっとしている」のは傾眠傾向にある可能性があります。覚醒している時間に食事をとるようにすると、介助者の負担を軽減できるかもしれません。 食具の種類と導入の注意点 「普通箸が使いにくい」とお困りの場合には、食具の見直しがおすすめです。利用者さんがどのような動作を難しく感じているかを観察し、以下の基準を参照して合うものを選定してあげてください。 指の曲げ伸ばしが困難な場合 → 自助具箸握り・つまみ動作が困難な場合 → 万能スプーン握りが困難な場合 → 万能カフ 食具の提案で注意してほしいのは、本人が自力でできる動きまでサポートしてしまうものは選ばないこと。過剰に動作を助ける道具を使うと、残存機能を低下させてしまう可能性があります。 ▶︎ 利用者さんの生活動作について助言する際のポイント 私の講演では、疾患や介助量が異なる2つの症例を通して、日常の生活動作や環境設定へのアドバイス方法についてご説明してきました。今回ご紹介した症例に類似するケースに限定せず、助言する際のポイントは大きく3つあります。 1つ目は、生活動作については安全で、誰でも実践できて、かつ習慣化できる内容を提案すること。2つ目は、環境設定は、心身機能の状態に合わせて検討すること。そして3つ目は、福祉用具を選ぶ際は、残存機能を発揮できるものにすることです。 上記に基づいたアドバイスは、きっと利用者さんの社会参加の一歩につながります。ぜひ、明日からの現場で実践してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

【セミナーレポート】vol.2 具体的なアドバイス方法(1) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
【セミナーレポート】vol.2 具体的なアドバイス方法(1) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
特集 会員限定
2022年12月6日
2022年12月6日

【セミナーレポート】vol.2 具体的なアドバイス方法(1) -訪問看護における生活期リハビリテーション-

2022年8月26日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護における生活期リハビリテーション」。刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科 部長の小口先生を座長に迎え、同課の理学療法士 仲村先生と作業療法士 日比先生に、それぞれの視点から訪問看護の現場で役立つ生活期リハの知識や具体的なテクニックを教えていただきました。 そんなセミナーの様子を、3回に分けてご紹介。第2回は、日比先生による「症例を通した日常生活動作の工夫」についての講演の前半をまとめます。 【講師】(座長)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科部長/リハビリテーション科専門医小口 和代 先生2000年より刈谷豊田総合病院勤務。2004年院内に回復期リハビリテーション病棟、2007年訪問リハビリテーション事業所を開設し、急性期から回復期、生活期まで幅広くリハビリテーション診療に携わっている。指導医として若手医師へのリハビリテーション教育やチーム医療の質の向上に取り組む。監修本:『Excelで効率化! リハビリテーション自主トレーニング指導パットレ!Pro.』医歯薬出版 2021年 (講演Ⅰ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科理学療法士仲村 我花奈 先生2002年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期(神経、整形、ICU)、介護老人保健施設を経験。現在は訪問リハビリテーションを担当している。利用者の社会参加やQOLの向上を目指し、前向きな生活が送れるよう取り組んでいる。 (講演Ⅱ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科作業療法士日比 健一 先生2004年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期、回復期、介護老人保健施設を経験。認知症サポートチーム、緩和ケアチーム、ICTワーキングの経験を活かし、訪問リハビリテーションでは横断的な専門的支援を提供している。 目次▶︎ 検討症例の基本情報:80歳・女性のAさん▶︎ 困りごと(1) 階段で転びそうになる ・段差があるところで利用できる福祉用具▶︎ 困りごと(2) 便座に座ると立ち上がるのに苦労する▶︎ 困りごと(3) 杖を持つ手や、先に踏み出す足がわからない▶︎ 困りごと(4) 廊下のマットで足を滑らせた▶︎ 困りごと(5) 脱臼が怖くて靴下を履くのが不安 ・脱臼を予防する道具の使用を習慣化するのもおすすめ▶︎ 困りごと(6) 滑るのが怖くて浴槽に入れない --> ▶︎ 検討症例の基本情報:80歳・女性のAさん 私の講演では、明日から訪問看護の現場で役立ててもらえる「生活動作へのアドバイス方法」について、2つの架空の症例を通してご紹介していきます。 1症例目は、80歳の女性Aさん。最初に、以下Aさんの基本情報をご確認ください。 1症例目:Aさん(80歳/女性)・独居。・2年前に転倒し、大腿骨頸部を骨折。人工股関節術を受けている。・ADL動作は自立。要介護認定は「要支援1」・杖を使えば歩けるが、最近転びやすくなってきたこともあり、外に出る気が起きなくなっている。 そんなAさんが日常で感じているさまざまな困りごとについて、具体的な解決策を考えていきたいと思います。 ▶︎ 困りごと(1) 階段で転びそうになる 最初の困りごとは、転倒のリスクです。Aさんは「新聞をとりに行こうとしたら、玄関の階段でつまずきそうになった」と話します。 そこでアドバイスしたいのが、正しい階段昇降の方法です。まず階段を上るときには、健康な足から踏み出し、続いて悪い足を上げます。健康な足で体を持ち上げましょう。逆に降りるときは、悪い足を先に下ろします。健康な足で体を支えながら踏み出すことで、動きが安定するためです。 この階段での足の動かし方は、「行き(上り)はよいよい(いい足)、帰り(降り)は怖い(悪い足)」と覚えてみてください。 段差があるところで利用できる福祉用具 福祉用具を導入するのも有効な手段です。今回は玄関の階段での転倒リスクが問題になっているため、段差昇降や立位のバランスを安定させる「踏み台」や「玄関用の手すり」が役立つ可能性があります。また、立って靴を履くのが難しいケースや、玄関の上がりかまちが低く、座って靴を履くと立てなくなってしまうケースには、「靴を履くときの椅子」の設置を提案してもいいでしょう。 ▶︎ 困りごと(2) 便座に座ると立ち上がるのに苦労する 続いての困りごとは、トイレでの動作です。Aさんは「便座に座ったら立ち上がるのに苦労した」と話します。 便座からの立ち上がりをラクにするには、便座の位置を高くすることが効果的です。以下のような便座を活用すれば、問題を解消できる可能性があります。 ・設置式洋式便座便座の形状を和式から洋式に変更できるもの・高座便座現状の便座の上に補高便座を設置するもの・昇降便座自動で便座が持ち上がり、立ち上がるときに「お辞儀の体制」をとりやすくしてくれるもの また、トイレでは便座だけでなく扉の種類もチェックしておくことがおすすめです。折戸の扉は開閉に必要なスペースが狭いため、利用者さんの姿勢の移動が少なく、また介助者が一緒に入る空間も確保しやすいです。一方、一般的な片開きドアは開閉スペースが広くなり、扉を開くときに後方へバランスを崩しやすくなったり、介助者が入りにくかったりします。 トイレ動作は日中、夜間ともに頻度がとても高いので、利用者さんがおかれている環境を確認してください。必要に応じて手すりをはじめとした福祉用具の設置や、動作練習をしておくとよいでしょう。 ▶︎ 困りごと(3) 杖を持つ手や、先に踏み出す足がわからない 続いての困りごとは、歩行についてです。Aさんから「杖を持つ手や先に出す足がどちらかわからなくなってしまう」と相談を受けました。 杖を持つのは、健康な足側の手です。そうすることで、健康な足への重心移動がスムーズになり、悪い足が前へ出やすくなります。また、先に踏み出すのは悪い足です。健康な足で重心移動すると踏み出しやすくなるためです。 ▶︎ 困りごと(4) 廊下のマットで足を滑らせた 続いてAさんから「廊下に敷いていたマットで足を滑らせてしまった」という相談がありました。自宅で転倒する代表的な要因としては、マットやスリッパの利用が挙げられます。マットはずれないように工夫する、もしくは取り外す。スリッパはやめて、滑り止めのついた靴下を履くなど、転倒しにくい環境づくりについてぜひアドバイスしてください。 また、コードに足を引っかけて転んでしまうケースもよく見られます。頻繁に移動する場所にはコードを設置しないようにするといいでしょう。 ▶︎ 困りごと(5) 脱臼が怖くて靴下を履くのが不安 次は、更衣動作に関する困りごとです。Aさんは「人工股関節術を受けてから足を深く曲げてはいけないといわれていて、靴下を履くのが怖い」と話します。Aさんのいうとおり、人工股関節術を受けた方は、特定の姿勢をとると脱臼しやすくなります。特に術後6ヵ月までは、筋力低下の影響もあり、脱臼リスクが高くなるので注意が必要です。 では、脱臼しやすい姿勢とは具体的にどんなものでしょうか? 術式によって異なります。 前方侵入法の場合:体をひねって後ろを振り向く姿勢後方侵入法の場合:体を深く曲げる姿勢、足を体の内側に向かってねじる姿勢 なお、利用者さんは自分がどの術式で手術を受けたかわからないことも多いです。そんなときは、手術の傷跡を見て確認しましょう。前方侵入法は大腿部側面に、後方侵入法は臀部に傷跡があります。 脱臼を予防する道具の使用を習慣化するのもおすすめ 利用者さんに脱臼しやすい姿勢をずっと覚えていてもらうことはなかなか難しいので、リスクの低減につながる道具の使用を習慣化することがおすすめです。 例えば、靴下を履くときはソックスエイドを、靴を履くときは長めの靴べらを使う習慣をつければ、体を深く曲げる姿勢を自然と避けられます。 ▶︎ 困りごと(6) 滑るのが怖くて浴槽に入れない 最後の困りごとは、入浴についてです。Aさんは「浴槽で滑るのが怖いので、シャワーで済ませている」と話します。 こうしたケースでは、浴室での立ち上がりを助けたり、転倒を予防したりする用具を提案してみましょう。具体的には以下のような選択肢があります。 ・シャワーチェアー一般的にお風呂で使われている椅子より座面が高く、また肘つきや背もたれがあるので、立ち上がりがラクになる。肘つきや背もたれは手すりがわりにもなる。・バスボード浴槽を座ってまたぐ動作を安全に行える。ただし、設置すると浴槽内が狭くなるため、浴槽に入ってから取り外さなければならない場合も。・すのこ浴室の床に設置することで、床と入り口や浴槽との段差を小さくできる。ただし、扉がすのこに当たって開閉できなくなることがあるので要注意。 また、ぜひアドバイスしてほしいのが浴槽のまたぎ動作についてです。立ってまたぐ場合は、股関節を深く曲げずに済みますが、バランスを崩しやすいというデメリットがあります。一方、座ってまたぐ場合は股関節を深く曲げることになるものの、立位よりバランスが安定しやすくなります。 利用者さんの立位の安定性と、浴室のどこに手すりがあるかといった環境に応じて、そのケースに合った動作を検討してください。 次回は、「vol.3 生活動作への具体的なアドバイス方法(2)」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

【セミナーレポート】vol.1 生活期リハビリの要点 -訪問看護における生活期リハビリテーション-
【セミナーレポート】vol.1 生活期リハビリの要点 -訪問看護における生活期リハビリテーション-
特集 会員限定
2022年11月29日
2022年11月29日

【セミナーレポート】vol.1 生活期リハビリの要点 -訪問看護における生活期リハビリテーション-

2022年8月26日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護における生活期リハビリテーション」。刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科 部長の小口先生を座長に迎え、同課の理学療法士 仲村先生と作業療法士 日比先生に、それぞれの視点から訪問看護の現場で役立つ生活期リハビリの知識や具体的なテクニックを教えていただきました。 そのセミナーの様子を、3回に分けてご紹介。第1回は、仲村先生による「生活期リハビリのポイントや成果を出すコツ」「訪問看護師と療法士の連携」についての講演をまとめます。 【講師】(座長)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科部長/リハビリテーション科専門医小口 和代 先生2000年より刈谷豊田総合病院勤務。2004年院内に回復期リハビリテーション病棟、2007年訪問リハビリテーション事業所を開設し、急性期から回復期、生活期まで幅広くリハビリテーション診療に携わっている。指導医として若手医師へのリハビリテーション教育やチーム医療の質の向上に取り組む。監修本:『Excelで効率化! リハビリテーション自主トレーニング指導パットレ!Pro.』医歯薬出版 2021年 (講演Ⅰ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科理学療法士仲村 我花奈 先生2002年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期(神経、整形、ICU)、介護老人保健施設を経験。現在は訪問リハビリテーションを担当している。利用者の社会参加やQOLの向上を目指し、前向きな生活が送れるよう取り組んでいる。 (講演Ⅱ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科作業療法士日比 健一 先生2004年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期、回復期、介護老人保健施設を経験。認知症サポートチーム、緩和ケアチーム、ICTワーキングの経験を活かし、訪問リハビリテーションでは横断的な専門的支援を提供している。 目次▶︎ 「活動」と「参加」の問題へのアプローチが重要▶︎ 「できないこと」よりも「できること」に着目を ・活動・参加の内容の考え方▶︎ 生活期リハビリの具体的な流れとポイント ・ポイント1:活動・参加につながる目標を立てる ・ポイント2:リハビリは本人や家族だけでできる内容にする ・ポイント3:利用者さんの心を揺さぶる提示を意識 ・ポイント4:些細な変化を見逃さない&本人に伝える▶︎ 療法士が望む、生活期リハビリにおける訪問看護師との連携 --> ▶︎ 「活動」と「参加」の問題へのアプローチが重要 療法士が利用者さんの現在の状況を把握する際に使用する「ICF(国際生活機能分類)」の枠組みをご存じでしょうか。ICFとは、「(1)健康状態」「(2)生活機能(心身機能・身体構造/活動/参加)」「(3)背景因子(環境因子/個人因子)」という互いに関係し合う3つの観点から、対象者の生活機能と障害について分類するものです。 このなかの「(2)生活機能(心身機能・身体構造/活動/参加)」の視点から利用者さんの健康状態を整理すると、以下のような問題点が見えてきます。 ●「心身機能・身体構造(心体の動き)」の問題→麻痺、筋力低下など心身の機能や構造に問題がある状態●「活動」の問題→着替えや食事、排泄、家事動作など「生活に必要な行為」に支障がある状態●「参加」の問題→趣味や地域活動、労働など、本人がもつ「役割」を果たせない状態 「活動」は生活に必要な行為すべてを、「参加」は社会や家庭で役割を果たすことを指します。生活期リハビリを支援するにあたっては、この「活動」と「参加」の問題をいかに改善していくかを常に考えることが重要です。 ▶︎ 「できないこと」よりも「できること」に着目を 「活動」と「参加」にアプローチすることで、心身機能の向上を図ることもできます。なぜなら、心身機能と活動、参加は互いに影響を与え合うものだからです。 このときにポイントとなるのが、「できないこと」にばかり注目するのではなく、「できること」に目を向けること。支援する私たちも利用者さんも「できないこと」ばかりに意識が向いてしまいがちですが、それでは多くの場合うまくいきません。「心身機能に問題がある=実践できる活動や参加がない」ということは決してありません。「今できる活動・参加」を実践して成功体験を重ねれば、自己効力感が向上し、自信が回復してさまざまなことに能動的に挑戦できるようになるはず。そうして、心身機能の回復につながっていくことが期待できます。 活動・参加の内容の考え方 活動・参加に積極的に取り組んでもらうためには、利用者さんの希望に合った内容にすることが大切です。日頃から利用者さん中心のコミュニケーションを重ね、その人の価値観や生活背景を探り、それに基づいた内容を考えてみましょう。例えば「カメラが趣味だ」という利用者さんがいたとします。それだけ聞いて「撮影の練習をしましょう」と提案しても、その方が撮った写真を自慢することが好きだった場合、リハビリはうまくいきません。それよりも、今までに撮った写真について話せるコミュニティーへの参加を検討するほうが、きっと主体的に取り組んでくれるはずです。普段の会話のなかにひそむヒントをぜひ見つけてください。 ▶︎ 生活期リハビリの具体的な流れとポイント 続いて、生活期リハビリの具体的な流れに沿って、内容の決定や利用者さんへの提示などにおけるポイントをご紹介していきます。 ポイント1:活動・参加につながる目標を立てる まずは、利用者さんの課題や現状を整理し、本人が望む活動・参加につながる具体的な目標を立てましょう。例えば、「家族に食事を振る舞えるようにする」「孫を膝に乗せられるようにする」などです。 ポイント2:リハビリは本人や家族だけでできる内容にする そして次に、その目標を達成するためのリハビリ内容を考えていきます。このときのポイントは、療法士がいなくても本人や家族だけでもできるものにすることです。無理なく継続できるような内容にしましょう。 ポイント3:利用者さんの心を揺さぶる提示を意識 リハビリの提示をする際は、「心を揺さぶる伝え方」を意識してください。内容は同じでも、言い方ひとつで利用者さんのモチベーションは大きく変わるものです。 例えば、立ち上がり練習をしてもらいたいとき。「足の筋力が弱いので、立つ練習をしましょう」と伝えるよりも、「30秒つかまり立ちができれば、トイレや着替えがラクになりますよ。まずは10秒立つことから始めてみませんか?」と伝えたほうが、利用者さんのやる気を引き出しやすくなるはずです。 ポイント4:些細な変化を見逃さない&本人に伝える リハビリを継続してもらうには、効果を感じてもらえるようにすることが重要です。利用者さんの変化をよく観察し、言葉にして積極的に伝えましょう。また、療法士だけでなく看護師さんやご家族など、周りのみんなで伝えることもポイント。「前よりもよくなったね!」と声をかけられると、利用者さん本人も自身の変化を実感しやすくなります。 ▶︎ 療法士が望む、生活期リハビリにおける訪問看護師との連携 リハビリでは、PDCAサイクルを回して、常により効果的な形を模索していきます。訪問看護師のみなさんには、ぜひこのサイクルに参加してほしいと考えています。看護師さんの視点から、その方にあった活動と参加はどんなものか、その実現のためにはどんなリスクがあるのか、どんどん意見を出してほしい。また、リハビリの評価についてもぜひ話し合いたいです。そうやって、療法士と看護師さんとで一緒によりよいリハビリをつくっていければと思います。 次回は、日比先生による講演「vol.2 生活動作への具体的なアドバイス方法(1)」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

「だから」がわかると腑に落ちる精神看護 Q&A編
「だから」がわかると腑に落ちる精神看護 Q&A編
特集 会員限定
2022年11月8日
2022年11月8日

先行公開! 「だから」がわかると腑に落ちる精神看護 Q&A編【セミナーレポート】

2022年9月30日(金)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー 『「だから」がわかると腑に落ちる精神看護』を開催いたしました。株式会社N・フィールドの中村 創さんを講師に迎え、精神看護について解説いただきました。 本記事では、セミナー時に皆さまからいただいた質問へのご回答を、セミナーレポートに先んじて公開いたします。当日、時間の都合により回答し切れなかった質問にも回答いただきました。セミナーに参加いただいた方も参加できなかった方も、ぜひご覧ください。 【講師】中村 創さん 株式会社 N・フィールド/事業管理本部 広報部 部長 精神看護専門看護師 怒りを前にしたときは、「利用者さんは自分を守ろうとしている」と考えてみて <Q1>攻撃的な言動のある利用者さんについて、生活背景に「寂しさ」があるというお話がありました。しかし、その背景は周囲からは見えないため、怖さだけが際立ちます。どのような点に気を付けて接すると、隠れた寂しさなどに気付くことができますか? 確かに「攻撃性」「怒り」「他害的な言動」は怖さが際立ってしまい、「寂しさの可能性」まで気が回りません。ここで考えたいことは、「ポジティブな感情を抱いているときに怒りを表出することはあるだろうか?」ということです。多くの方が「それはない」と考えることと思います。 「攻撃的言動」「怒り」の目的は以下の(1)~(4)であるというお話を講演の中でさせていただきました。 (1)権利擁護(2)支配(3)主導権争い(4)正義感の発揮 臨床で遭遇する怒りの目的の多くは、(1)~(3)である印象があります。それぞれ、「自身の窮地を脱するため」「相手を思い通りにするため」「自身が有利になるため」と置き換えて考えたとき、どうしてそうする必要があるのでしょうか。「窮地にいると感じているから」「相手を支配しないと自分が怖いから」「常に自分が不利だと感じているから」という答えに行きつくでしょう。利用者さんは、不安や恐怖、脅威や自尊感情の欠落を怒りで払拭しようとしている状態なのだと推察できるわけです。 いずれにせよ、利用者さんが「自身を守るため」の攻撃性であるということは共通すると考えられます。怒りを前にしたとき、「何かから自分を守ろうとしてのものなのかもしれない」と考えてみると、看護師側も少し落ち着ける場合があります。そのように、自分の感情と思考に気を付けてみることをおすすめします。 ちなみに、「この場を何とかしなければ」と思えば思うほど何とかならないことが多いでしょう。できれば「この場を何とかしなければ」という思考自体を「何とか」していただくと(これもまた難しいのですが…)、少し冷静になれる場合があります。怒りに対して怒りで返したり、焦ったりすることは状況を悪化させることが大半です。まずは一息つける工夫を検討することをおすすめします。 重要なのは関係性構築。精神科受診を促す前に、困りごとを共有しよう <Q2> がんのため、介護保険で訪問看護している利用者さんがいます。「壁から音が聞こえる」などの幻聴があり精神科の受診歴がありますが、「治らなかった」とすぐに受診をやめてしまい、その後受診していません。再受診を促したいのですが、どのようにアプローチすればよいでしょうか? 熱心に訪問すればするほど、「受診すれば状況は変わるのに!」と思うでしょう。私も「なんとか受診を」と挑戦してはうまくいかない…ということが往々にしてありました。その都度「どうすればよかったのか」と考えてきました。そして、私の経験則から出せた結論は、「受診を促す前に、困りごとを共有する」ということです。 以前、母娘二人暮らしで、お母様が介護保険で訪問看護を利用されており、言動の辻褄が合わない未受診の娘さんがいらっしゃるご家庭を訪問していたことがあります。相当前から、「親戚に家具を盗まれた」とおっしゃるなど言動に辻褄が合わない内容が増え、親戚や地域から孤立していた娘さんでした。 訪問中は、娘さんがスタッフに「親戚が物を盗むのでどうしたらいいですか?」などとお話をし続けるため、お母様のお話がほとんど聞けないという状況。対処に行き詰まりを感じたステーションからご相談を受け、私も訪問に入らせていただきました。私が徹底したことは、「娘さんとの会話に時間を使う」ということ。複数名で訪問に入り、お母様のお話はもう一人の訪問スタッフがしっかりと聞くことにしました。 娘さんと話していくうちに、身体的な不調やお金のこと、お母様との関係、書類に関する不明点など、困りごとに関する話題も増えてきました。解決できる困りごとは一緒に対応していったところ、だんだんと信用していただけるようになりました。 あるとき娘さんから、「もう少し訪問時間が増えるといいんですけど」と要望をいただきました。そこで、「私たちは精神科医から指示書を書いてもらって訪問をしています。先日お疲れで眠れないと伺いましたが、そういう相談を含め精神科を受診していただけると、私たちはさらに時間をかけられます。可能でしょうか」と伺うと、「わかりました」と案外スッと承諾いただけました。 この経験から、私は「この人が言うのであれば受診もいいかな」と思っていただけるような関係の構築が重要ということを実感しました。これは受診に限らず、さまざまな生活範囲の拡大を促す場合にも言えることと考えています。「困っていることを確認して対応する」→「お互いが困りごとを解消できた実感を持つ」という流れを繰り返すことで、こちらの提案を受けていただきやすくなるということです。受診も提案の一つと捉えて臨んでいます。 利用者さんの主体性を伸ばすためには、「今ある主体性に気づく」ことから始めよう <Q3> 洗濯機を回せない利用者さんに対し、洗濯機にデコレーションをして解決に至ったエピソード、すごいと思いました。利用者さんの主体性を伸ばすアイデアの思考法や、考えるプロセスなどはあるでしょうか? お褒めにあずかり光栄です。「デコレーションをする」というアイデアは、ステーションで働く作業療法士の発案でした。「何とかしよう!」ではなく、「さらに良くするには?」という視点の変更がポイントになったと思います。 精神疾患に罹患した利用者さんは、ご自身が「自己決定」「主体性の発揮」から離れようとする場面が多いように感じられます。これは、自己決定を否定されてきた不全体験や、自身で決定をする前に周囲に決定されてきてしまった生活習慣などが影響していると考えられます。 自己決定ができずに生活していく過程で、自分の思考そのものが分からなくなったという方もいらっしゃいます。「あなたはどうしたいですか?」の問いに、「わからないです」と回答される方は案外多いと感じます。 私の経験則ですが、例えば入院が長かった方は病院で指示される、自身の言葉よりも周囲の言葉が優先されるという経験が長かったこともあり自身の判断に自信が持てない方が多いです。入院に限らず、幼少からの家庭環境の影響で自信を失った方もいらっしゃいます。 そういった方々の主体性を伸ばしていくには、現在ある自主性に私たちが気づくことから始めることが重要だと思っています。 そして、その気づいた自主性と行動に対して最大限労うことで、患者さんが「自主性とはこういうことなのか」と振り返ることができると、最終的に主体性を伸ばす支援になるでしょう。生活することは決断の連続ですから、まずは私たちがその決断の場面に気づくことから始めることが重要と考えています。 暴力に対しては、事業所としての方向性確認&安全確保の枠組み設定を優先 <Q4> 統合失調症、暴力行為のある方の訪問をしています。複数名でいくと恐怖を与えてしまうようで、単独訪問しています。しかし、毎回どこかしらを殴られてしまいます。訪問を止めることはできず、正しい対処法がわかりません。 大変な思いをしながら訪問をされているとのこと、ストレスも相当なものではないかと思います。 CVPPP(包括的暴力防止プログラム)やKYT(危険予知トレーニング)など、対応策・予防策はさまざまありますが、念頭に置いていただきたいのは、「ご自分が被害者にならない=患者さんを加害者にしない」ということです。 私がこれまでお会いした暴力被害に遭遇したことのある看護師さんは、その場を「何とかしよう」と考える、根が真面目な方が多いように思います。報告書などを読むと、不測の事態というよりも、徐々に緊張感が高まっていくなかで諫めようと尽力した結果、被害に遭ってしまったという経過を辿ったケースが多いことに気が付きます。「玄関に入って1分で被害に遭う」というよりは、徐々に段階を経ることが多いようです。 日本臨床救急医学会は、暴言・暴力の予兆として・時間を気にし始める・落ち着きがなくなる・語気が粗くなる・早口になる・急に言葉が少なくなる・目つきが変わる(鋭くなる)という兆候を上げています。 日本臨床救急医学会は、予兆を感じ取ったら積極的に傾聴する姿勢を示し、「自分の主張を理解してもらえる」と相手に感じてもらうように働きかけることをすすめています。できない要求まで理解して飲むということではなく、あくまで相手の背景を理解しようとする姿勢が大切です。 利用者さんの背景が詳細に分からないため、疑問にお答えできていないかもしれませんが、まずは「聴く」という姿勢を持つこと、予兆が出た場合も聴き続けること。「これ以上は無理」と思う2歩手前で引くということが大事だと思います。できれば、ご本人が落ち着いてお話ができるときに「これ以上は留まれない」という線を一緒に設定できるとよいでしょう。 また、「殴ることでコミュニケーションが成立する」という誤った学習は、将来ご本人の不利になります。そういったコミュニケーションをしているうちは引き、「また来ます」と言う。落ち着いて話ができたときは、「本当にうれしい」とご本人にお伝えすることも大切でしょう。しかし、これは本当に難しい対応で、なによりストレスフルです。事業所としての方向性と、対象となる方との安全を確保できる枠組みの設定を優先的にされることが重要だと考えます。 短時間の施設見学&リモート講義で精神科実習を行っている学校も <Q5> コロナ禍で精神科実習ができていません。学内実習で代替できることはないでしょうか? この大変な世情のなか、実習含めカリキュラムを組み立てるご苦労は相当なものと推察いたします。私がご依頼をいただく専門学校や大学では、「短時間の施設見学」+「現場のスタッフが講義」という形式をとっていました。私も現場のスタッフとして講義をしており、リモートと対面、どちらも対応しております。そのような事例があるということをお伝えさせていただきます。 うつ病の利用者さんには焦って安易な手段をとらず、回復を「一緒に待つ」姿勢で <Q6> うつ病の利用者さんとの接し方を教えてください。 うつ病で私が心がけていることは大きく「自殺防止」と「自然体でいること」の二つです。 質問者様がどのような場面でうつ病の方との関係性にお困りなのか、想像の域を出ませんが、これまでお会いしてきたうつ病と診断された方からは、「普通でいてくれた方がありがたい」という声が多く聞かれました。うつ病を発症する方は、「他者が気を遣っている」という感覚を必要以上に取り込んでしまう傾向にあるようです。「自分が迷惑をかけている」という意識が強くなるのだそうです。妙に明るい口調では疲れるようですし、かといって相手のトーンに合わせて自分が普段しないような落としすぎたトーンで接すると、それこそ「気を遣われている」と感じるようです。 まずは、あくまで自然体であることをおすすめします。その上で、無理に相手を動かそうとしないということを私は心がけています。 不思議なもので、それまで仕事一筋であった方が療養期間中にピアノを始めたり、同じような経緯の方がそれまで観たことのない映画にはまったり、空手を始めてみたり、という具合に回復の過程において、新しいものに興味を抱く方が一定数いらっしゃいました。共通しているのは、「活動とセット」ということでした。私は「興味の引き出しがどのくらいあるか」ということを、回復の目安にしています。 また、近年言われているうつ病の脳内炎症モデルを知ると、「抑うつはむしろ回復過程」と私は励まされる気持ちになります。なれなれしい自然体を嫌う患者さんも多いので、あくまでご自身の良識の範囲で関わっていくことがコツです。また、私は「うつ病は休息を身体が欲している」という状態であるということを念頭に入れ、回復を一緒に待つことを心がけています。間違っても「こうすれば改善する」といった安易な手段を取らず、忍耐をもってお話を伺うことが重要と考えています。 恋愛感情をもたれたら、「これ以上接近するといい関係を保てない」と伝えることも大切 <Q7> 3年以上担当していた統合失調症の男性に恋愛感情を持たれてしまいました。担当を外れても私にこだわってしまい、1ヵ月ほどで別の訪問看護事業所にお願いすることになりました。距離感を意識していたはずですが、難しいなと感じました。このようなご経験はありますか? 恋愛感情を持たれたとき、「自分の接し方に問題があったのではないか」と感じてしまう方もいらっしゃるでしょう。私も恋愛感情を持たれたことはあります。そのときも、「自分が最初にきちんと線引きをしていなかったからだ」と行動を戒めようしましたが、距離をとりすぎて、かえってよそよそしくなってしまいました。この辺りの線引きはとても難しいと思いますが、考えてみれば人間関係はそういった微妙なバランス感覚の上に成立していることが多いでしょう。 ところが精神科の臨床では、うまい距離感を保ち関係を維持する体験が少なく、「相手との距離感をとることが苦手」という方が一定数いらっしゃいます。そういう方の人間関係は、「大好きか大嫌いか」の二択に限定されてしまっています。生育環境において安定した人間関係を構築できなかった代償とも言えるでしょう。成育歴は、そういう観点から非常に大事であると思っています。 被虐待児にそういう傾向が顕著であることは有名でしょう。しかし、療育環境に問題がなさそうと思えても、塾や習い事をいくつも掛け持ちし、対等な人間関係を育まずに成長してきた患者さんがいらっしゃいました。 「看護とは対人関係のプロセスである」と知ってからの私は、「自身を媒体としてどういった関係が心地よいかを患者さんと一緒に考えることが看護師の役割の一つ」と認識を改めるようになりました。以来、「あなたとは良好な支援関係を崩したくない。これ以上接近してしまうと、いい関係を保つことは難しくなる」とはっきりお伝えするようにしています。また、「あなたが望むほど緊密ではないけれど、私はあなたとの関係は切らない」ということを、言葉でも態度でも表現するよう心掛けています。 もちろん、そうお伝えした上で「それならもういい」と言われたこともなかったわけではありませんが、案外その後も支援を継続できる方もいらっしゃいます。細くても切れない、支える糸の一本であるという気持ちで臨まれてはいかがでしょう。 ** 中村さんの豊富な経験に基づくご回答をお届けしました。明日からの精神訪問看護に生かせるヒントが、たくさん見つかったのではないでしょうか。 オンラインセミナー 『「だから」がわかると腑に落ちる精神看護』の講義内容をダイジェストにしたレポート記事も公開しております。ぜひそちらもご覧ください。 【参考】〇岩井俊憲,宮本秀明,永藤かおる『アンガーマネジメント―怒りの感情をコントロールしよう』https://hrd.php.co.jp/hr-strategy/hrm/post-578.php(2015.1.13)2022/10/31閲覧〇Adler.A 著,岸見一郎 翻訳.『人生の意味の心理学(上)-アドラー・セレクション』p.49,アルテ,2010.〇Williams.E,Barlow.R 著.壁屋康洋,下里誠二,黒田治 翻訳.『軽装版 アンガーコントロールトレーニング』.p.34,星和書店,2012.〇衛藤暢明 著.日本臨床救急医学会 監修.『救急医療における精神症状評価と初期診療 PEECガイドブック』.p.77,へるす出版,2012. 記事編集:NsPace(ナースペース)

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2022年10月25日
2022年10月25日

【セミナーレポート】vol.3 上手な活用のポイント/訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは

2022年7月22日(金)、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは」を開催。田中公孝先生を講師に迎え、医療・介護領域におけるICTの必要性や活用方法などを教えていただきました。セミナーレポート最終回となる今回は、ICTをより有効活用するために意識したいポイントをご紹介します。 【講師】田中 公孝 先生杉並PARK在宅クリニック 院長日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医/難病指定医2017年より東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに携わるかたわら、医療・介護分野におけるICTの普及活動に従事。市や医師会のICT事業にも参加する。2021年春には杉並PARK在宅クリニックを開業し、区内の医療現場でのICTによる多職種連携を牽引している。 目次▶ 【ポイント1】職種ならではの言葉を理解しようとする意識をもつ ・多職種連携を成功させるには『三方よし』の精神が必要▶ 【ポイント2】災害時にこそ、多職種でICTの積極的な活用を▶ 【ポイント3】ICTでの連絡頻度は、患者さんの状態によって判断 ・ICTでの連絡で訪問看護に期待されること▶ 【ポイント4】ICTを有効活用できるかどうかは関係性が左右する --> ▶︎ 【ポイント1】職種ならではの言葉を理解しようとする意識をもつ 多職種がICTを利用する体制を構築できると、『その職種ならではの言葉』を理解しやすくなります。たとえば、看護師さんからはよく「随伴症状」という言葉を聞きますが、介護職の方には伝わりづらいかもしれません。そんなふうにどの職種にもよく使われる専門用語があって、これがICT上で文字のコミュニケーションを重ねることで、徐々に理解できるようになる。すると、職種間の連携のハードルがどんどん下がっていきます。 また、ICTでこまめにやりとりをすることで、他職種の人の考え方やクセへの理解も深まるでしょう。個人的には、「文字化されることでお互いを理解しやすくなる構造」は、多職種連携を推進するための重要なポイントだと考えています。 多職種連携を成功させるには『三方よし』の精神が必要 近江商人の有名な理念に『三方よし』というものがあります。売り手と買い手だけでなく、世間にもいい影響を与える商売をしようという、私も大好きな考え方です。 この精神は、多職種連携にも通じるものです。具体的には、みなさんが売り手としてサービスを提供するとき、買い手である患者さんやご家族を満足させるだけでなく、他職種の人たちのことも意識してほしいという思いがあります。薬剤師やリハビリ職、ヘルパーなど、ケアに携わる全員がいいと思える形をつくることが、多職種連携を成功させるためには必要なんです。もちろん、ケアは常に利用者さん本意であるべきですが、職種間できちんと目線を合わせることも同じくらい重要なポイントだと思います。そしてそのためには、ICTを活用するなどして、ほかの職種が大事にしていることや背景を理解することが有効でしょう。 ▶︎ 【ポイント2】災害時にこそ、多職種でICTの積極的な活用を ICTを活用するなら、ぜひ災害時の備えになることも意識しておきたいですね。まず、電話以外に情報の入手・発信ができる手段があるという点だけでも大きな価値があります。そして、ICTを多職種で活用することで、お互いにほかの職種がもっている情報を入手できます。災害時は情報が勝負になるので、幅広い情報をタイムリーに入手できることはとても有益です。また、最近はBCPも業界で注目のテーマとなっていますが、その観点でもICTは活躍してくれます。利用者さんの情報を共有することで、より確実に、効率的に安否確認ができるでしょう。 ▶︎ 【ポイント3】ICTでの連絡頻度は、患者さんの状態によって判断 「ICTでの連絡はどれくらいの頻度でするのがいいですか?」という質問をよくいただきますが、そこは患者さんの状態に応じて判断するといいでしょう。病状が不安定な方や、介入してからまだ日が浅い方の場合は、比較的まめに情報を共有するべきです。一方で、生活が落ち着いている方の場合は、たまにでいいと思います。 頻回共有が必要なケースとしては、やはり終末期が挙げられます。お看取りの直前は、強い疼痛や不眠などが頻繁に見られる事例があり、その際はレスキュー、眠剤の使用も多くなりがち。少なくとも終末期の患者さんにはICTでやりとりができる訪問看護ステーションと連携できるとありがたいと思っています。すでに東京都では、医師に合わせてICTを導入している訪問看護ステーションが増えている状況なので、この動きがさまざまな地域にもぜひ広がってほしいですね。 ICTでの連絡で訪問看護に期待されること 訪問看護師のみなさんにまずお願いしたいこととしては、ご家族の発言や不安、臨時対応についての情報共有です。こちらは先にお伝えした連絡頻度の目安にかかわらず、ぜひ連絡してください。 また、ほかの職種より高頻度で訪問されている訪問看護師さんだからこそできる提案も積極的にしてほしいですね。例えば末期がんの患者さんなら、麻薬のベースアップや排便コントロールなど。それから、今後は独居の高齢者の見守りも増えていくと思うので、そうした情報も多職種に連携していただくことを期待しています。 ▶︎ 【ポイント4】ICTを有効活用できるかどうかは関係性が左右する ICTを効果的に活用するためには、メンバーの関係性が重要になります。「こんなこと聞いていいのかな」と思わない・思わせない関係がないと、ICTを導入したものの、情報がまったく共有されないという結果になってしまいます。つまり、『ICTが入るとチームの連携がよくなる』のではなく『日々コミュニケーションがとれている関係の中で、ICTがよりよく活きる』と考えるべきなんです。 また、ICTを導入した後も、それだけに頼ることはおすすめしません。ずっと文字だけでやりとりをしていると、どうしてもニュアンスがずれるなどの課題が生まれてしまいます。電話や対面でのコミュニケーションもしっかりとりながら、ICTを併用してもらえるといいと思います。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年10月18日
2022年10月18日

【セミナーレポート】vol.2 ICT活用の成功事例/訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは

2022年7月22日(金)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは」を開催。田中公孝先生を講師に迎え、医療・介護領域におけるICTの必要性や活用方法などを教えていただきました。全3回に分けてお届けしているセミナーレポートのうち、第2回となる今回は、田中先生が実際に見てきたICT活用の事例と分析をご紹介します。 【講師】田中 公孝 先生杉並PARK在宅クリニック 院長日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医/難病指定医2017年より東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに携わるかたわら、医療・介護分野におけるICTの普及活動に従事。市や医師会のICT事業にも参加する。2021年春には杉並PARK在宅クリニックを開業し、区内の医療現場でのICTによる多職種連携を牽引している。 目次▶ 【事例1】時間外対応の細かな内容把握が可能に ・緊急連絡にICTは基本的にNG。チーム内でルール確認を▶ 【事例2】終末期の情報共有における負担を軽減▶ 【事例3】独居見守りにおける、多職種での情報交換が迅速に▶ 【事例4】地域とのつながりが明らかになり、より行き届いたケアを実現 --> ▶︎ 【事例1】時間外対応の細かな内容把握が可能に 訪問看護ステーションで22時過ぎに患者さんから電話相談を受けた。相談内容について、看護師による回答を含めた詳細と、その後は患者さんからとくに連絡がなかった旨を、看護師がICTで報告。医師は翌日の朝に内容を確認。時間外対応の情報を無理なく報告することが可能になり、医師もこれまで把握できなかった情報を得られるようになった。 この事例からわかるのは、ICTを活用すれば、夜間や土日などの時間外対応の情報を関係者が無理なく把握できるということです。勤務時間外の患者さんの状況について、担当者以外はなかなか把握しにくい状態にありますよね。もちろん、緊急性が高いケースでは、電話で情報共有がされているでしょう。しかし、「電話をかけるほどではない」と判断された情報は、ほかの事業所に伝達されないケースも多いのではないでしょうか。ICTは、電話と違って受け手が無理のないタイミングで情報を確認できるため、緊急性が低い内容も報告しやすくなります。そうして多くの情報が入ってくることで、患者さんの状態の理解や今後の予測がしやすくなるのです。 緊急連絡にICTは基本的にNG。チーム内でルール確認を ただし、緊急対応にICTが適さないことは、チーム全員が理解しておく必要があります。「土日に書き込んだ情報を相手が見るのは、週明け月曜日になる可能性がある」という前提で使わないと、トラブルを招きかねません。ICTを導入する際は、最初にチーム内で『目線合わせ』をきちんと行うことが重要です。 ▶︎ 【事例2】終末期の情報共有における負担を軽減 終末期の患者さんのケアを行う際、訪問看護師が容態(意識レベルや排尿量、血圧、脈拍、SpO2など)やご家族の様子をICTにて都度報告。看取りの際は、医師が死亡診断と死亡時刻、およびその場の状況などをICTに報告。関係者の疲弊を防ぎながらスムーズなお看取りにつながった。 一日でダイナミックに状態が変わることも多い、つまり連絡頻度が極めて高くなる終末期の情報共有は、ICTが最も活躍するといっても過言ではない場面です。すべての報告を電話で行っていると、関係者はかなり疲弊してしまいますからね。電話で細かなニュアンスの確認をする機会はもちろん必要ですが、とくにお看取りが近いタイミングの報告には、ぜひともICTを活用したいところです。私の場合は、終末期の患者さんのケアには、ほぼすべてのケースで訪問看護師さんにICTを使っていただいています。私もお看取りの際には、ICTで死亡診断と死亡時刻などを必ず報告します。これをやっておくと、ターミナルケア加算の算定にも便利です。 ▶︎ 【事例3】独居見守りにおける、多職種での情報交換が迅速に 独居の方への訪問時、軽度の症状や日々のケアの中で気になったことなど、細かなことをICTで共有。服薬管理がうまくいっていないなどの課題を報告することで、多職種で迅速に改善方法を模索することも可能に。 こちらは、ICTの可能性を別の角度からお伝えするための事例です。独居の方のケアでは、職種間の連携が課題になるケースが多く見られます。たとえば服薬管理なら、看護師さんは「患者さんがうまく服薬できていないので、もっと工夫してほしい」と望んでいるものの、薬剤師側は「訪問回数などの兼ね合いで責任をもちきれない」と考えるなどといった具合ですね。 このような状況では、まず関係者全員が情報をこまめに把握できる状態をつくることが望まれます。ご自宅に連絡帳を置いて情報共有する方法もありますが、連絡帳を確認するには、現場に行かなければならないため、課題をタイムリーに認識することが難しい。場合によっては、一週間以上経って情報が伝わることもあるでしょう。しかしICTなら、訪問しなくても情報をキャッチすることが可能。質の高いケアを目指しやすくなるでしょう。 ▶︎ 【事例4】地域とのつながりが明らかになり、より行き届いたケアを実現 医師が訪問時、同じタイミングで地域の民生委員の方が訪問。患者さんがその方から生活のサポートを受けていることを把握。また、民生委員の方から「ゴミ出しがうまくできていない」「新聞を複数契約してしまっている」などといった情報を入手し、併せてICTで関係者に共有。情報を受け、ケアマネージャーが積極的に介入するようになった。 この事例から伝えたいのは、幅広い情報を共有しやすくなるというICTのメリットに加えて、『実は私たち専門職が見えている範囲は狭いかもしれない』ということです。みなさんの中には、患者さんだけでなく、そのご家族まで見ている方も多いでしょう。しかし、患者さんが独居や二人暮らしの場合は、地域の方々が深く関わっていることもある。そんなケースでは、家族以外との関係にも目を向けられるのがベストです。まさにこの事例では、民生委員さんとの連携が生まれ、日常生活の困りごとを専門職間で共有できたことで、よりケアの質が高まりました。 すべてのケースにおいて地域の方との関係を意識する必要はありませんが、「地域包括支援センターからケアマネージャーさんにサポートが切り替わると、地域とのつながりが途切れてしまうケースもある」という話は耳にするので、紹介しました。これから独居高齢者を支えていくためには、地域資源の存在を意識することがより必要になっていくのではないでしょうか。 次回は、「vol.3 ICTの上手な活用のために知っておきたいポイント」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年10月11日
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【セミナーレポート】vol.1 現場で感じる3つのメリット/訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは

2022年7月22日(金)に行ったNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは」では、田中公孝先生を講師に迎え、医療・介護領域におけるICTの必要性や活用方法などを教えていただきました。その内容を3回に分けてレポート。第1回の今回は、ICTの基礎知識やもたらすメリットをご紹介します。 【講師】田中 公孝 先生杉並PARK在宅クリニック 院長日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医/難病指定医2017年より東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに携わるかたわら、医療・介護分野におけるICTの普及活動に従事。市や医師会のICT事業にも参加する。2021年春には杉並PARK在宅クリニックを開業し、区内の医療現場でのICTによる多職種連携を牽引している。 目次▶ チャットツール感覚で便利に使える「ICT」 ・杉並区では「バイタルリンク」を導入▶ コロナ禍で多職種連携の質が低下 ・杉並区における多職種連携の継続、強化への取り組み▶ 【導入メリット1】職種間で目線を合わせやすくなる ・薬局や訪問入浴とのICT連携も視野に入れたい▶︎ 【導入メリット2】写真による状況把握ができる▶︎ 【導入メリット3】休みの間の状況を細かに把握できる --> ▶︎ チャットツール感覚で便利に使える「ICT」 ICTとは、「 Information and Communication Technology 」の略称で、日本語では情報通信技術と訳されます。要するに、インターネットを利用したコミュニケーションのことですね。具体的には、「チャットツール」をイメージしてもらえるといいと思います。コミュニケーションという観点では、形式こそ異なるものの、メールなどと変わりません。ただし、メールはアドレスを知らないと連絡できませんが、ICTならアカウントがあればアドレスを知らない人同士でも情報を共有できます。 そんなICTの位置づけは、「対面」と「電話・FAX」の中間と考えてください。対面でのやりとりでは、細かな情報を共有しやすいですよね。ICTも対面には及びませんが、電話やFAXよりも気軽に「緊急で報告するほどではないけれど伝えておきたい情報」を共有できます。とはいえ、電話もやはり必要です。ICTでは、相手が情報を確認するのが数時間後や翌日になってしまうこともあるので、緊急性が高い場合は電話がベストでしょう。 杉並区では「バイタルリンク」を導入 私のクリニックがある杉並区では、帝人ファーマ株式会社の医療・介護多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」を使用しています。ICT導入にあたっては、やはりセキュリティの問題が気になるかと思いますが、「バイタルリンク」は厚生労働省がガイドラインで定めるセキュリティ基準をクリアしています。また、オンライン会議を簡単に開始できる機能(参加用のURLを共有する機能)が備わっているのも魅力。退院時カンファレンスや担当者会議などにも、もっと活用していくべきだと考えています。 ▶︎ コロナ禍で多職種連携の質が低下 近年、医療現場において多職種連携の強化は大きな課題です。しかし、新型コロナウイルスの流行により、その機会が減っているという危機的状況にあります。杉並区でもこの2〜3年は地域の連携会が非常に少なくなっていますし、おそらくどの市区町村でも同じ状況でしょう。 今や現場での連絡方法のメインは電話・FAXになり、対面のやりとりは激減しています。他職種の方との連携においても、緊急度が高いときや「ニュアンス」を確認するときにしか電話は使わず、FAXにいたっては、サインをもらうなどの用途がほとんど……という方も多いはず。つまり今、「対面」「電話・FAX」のコミュニケーション手段しか持っていない場合、多職種連携の質はコロナ前よりも低下している可能性が高いのです。 杉並区における多職種連携の継続、強化への取り組み 杉並区では、コロナ禍で多職種連携の質が低下するリスクを受け、昨年から地域福祉部委員会内にICT小委員会を設置。ICT普及に向けた取り組みを推し進め、連携の維持、強化を目指しています。また、多職種が参加するオンライン会議を実施し、感染状況が落ち着いたタイミングでは対面での会合開催も検討しています。なお、困難事例については、綿密に話し合いを行わないと職種ごとに目線がずれてしまいがち。オンライン会議を積極的に行ったり、短時間に収めるなど気をつけながら対面で打ち合わせをしたりといった工夫をしないと、連携の質が低下してしまう実感があります。 ▶ 【導入メリット1】職種間で目線を合わせやすくなる ICTの特徴は、職種を問わず、利用者さん全員に情報を一網打尽に流せること。これにより「情報を知らない人」をつくりにくくできます。この「情報を知らない人」には医師も含まれます。医師が2週間に1回しか訪問しないケースでは、前回の訪問時の最新情報がすでに古くなっていることもざらにあるので、訪問看護師さんにはぜひICTに最新情報を書き込んでほしいですね。 というのも、訪問看護師さんとご家族とで話し合った情報を医師が把握していないと、医療判断が「押しつけ」になってしまうケースが少なくありません。事情をよく知っている看護師さんが患者さんのご家族に「先生が来たら●●を伝えると良いですよ、▲▲してほしいと言ってくださいね」などとアドバイスをし、看護師さんから聞いたことをご家族が医師に伝える……という、『ご家族を通じての医師への情報伝達』を試みた経験がある方も多いかと思うのですが、これではニュアンスまで伝わらないことがほとんど。結果的に医師が、ご家族や担当看護師さんの思いに反する判断をしてしまうリスクがとても高いんです。今後はICTを活用して、クリニックと訪問看護が直接コミュニケーションを図るのが望ましいと考えます。また、訪問看護師さんからさまざまな情報が共有されることで、生活をベースにした医療提案を実現しやすくするというメリットもありますね。 訪問看護師さん側も、自分たちだけで抱えていていいものか迷う情報をICTに流し、そこに医師から「いいね」がつけば、自分たちだけが責任を負う状態ではないという安心感を得られるでしょう。 薬局や訪問入浴とのICT連携も視野に入れたい 薬局が最新の薬の処方状況や管理方法などの情報をICTに書き込んでくれれば、より連携の質が向上するはず。現段階ではこうした対応をしてくれる薬局はまだ少ないですが、引き続き薬局業界への啓発を行い、よりよい連携の形をつくっていければと思います。それから、訪問入浴やヘルパーの方々も、ぜひICTに入ってほしいところ。利用者さんの最新の状況を受け、医師や訪問看護師さんが「入浴は控えて清拭にしてください」などの指示を出せれば、関係者の負担を軽減できます。 ▶︎ 【導入メリット2】写真による状況把握ができる 訪問看護におけるICTのメリットとして、「写真による情報伝達」が挙げられます。ICTに写真や書類を添付すれば、情報共有の量、質ともに向上できます。例えば、私のようにクラウドカルテを利用していれば、その情報をコピーアンドペーストもしくはスクリーンショットすれば、迅速にデータを共有することが可能です。また、逆に訪問看護師さんからの写真報告を受けて、医師がフィジカルアセスメントをすることもできます。触診はできなくても「百聞は一見にしかず」で、遠隔での診断の質は確実に向上するでしょう。それから、利用者さんの居住環境の把握にも役立ちますね。「連絡帳はここ、薬はここに保管する」などといったルールも、ICTで写真を共有すれば確実に認識できます。これがFAXだと、「黒く塗りつぶされてしまって見えない」ということが起こりかねません。 ▶︎ 【導入メリット3】休みの間の状況を細かに把握できる 土日や夜間など、休みの間の利用者さんの状況を無理なく把握できることも、大きなメリットのひとつ。訪問看護ステーション内での情報共有に役立つのはもちろん、医師にとっても有益です。たとえば、訪問看護師さんから「(休みの間に)緊急で対応しましたが、様子を見ても問題ないと判断して退出しました。ご報告まで」などとICTに記録があれば、医師は「次回出勤時にフォローアップしておこう」と判断できます。自分が休んでいる間の利用者さんの状況はぜひとも知りたいですが、やはり電話は緊急のときのみにしてほしいもの。こういうシーンでも、ICT活用のメリットを実感しますね。 次回は、「vol.2 ICT活用の成功事例」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年8月30日
2022年8月30日

【セミナーレポート】vol.3 専門家が考える正しいフットケアQ&A ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に実施した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。講師に皮膚科医の高山かおる先生、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、訪問看護の現場における足元のケアについて考えました。セミナーレポート第3回となる今回は、Q&Aセッションの様子をお届けします。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい?▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは?▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて!▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある?▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は?▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない?▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 --> ▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい? 【質問】白癬を患っている利用者さんが多く、厚く、脆くなっている爪を整える場面がよくあります。脆い爪は際限なく削れてしまうのですが、どこまでケアしたらいいのでしょうか? 【回答】高山先生:出血などしない程度であれば、自然に剥離してしまっている部分は削ってしまっても問題ありません。爪が靴下などに引っかからないようにする、隣の指を傷つけるなど危なくないようにするという意識をもってもらうといいと思います。 ▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは? 【質問】肥厚した爪、巻いている爪はどのように除去したらいいですか? 【回答】大場さん:まずはその方が歩けるかどうかで、残す爪の長さを検討してみましょう。歩く方の場合は、痛みが出ないように配慮しつつ、ある程度の長さを保って端から切っていきます。爪が皮膚に食い込んでいる場合はヤスリを使ってください。ただ、巻き爪は長くなればなるほど巻きが強くなるので要注意。あとは炎症が起きていたり、化膿していたりする場合は処置が必要になるので、その見極めも重要です。 高山先生:痛みがなければ、巻き爪であること自体は悪いことではありません。大場さんがおっしゃるとおり、伸びてしまうと先端が丸くなるので、適切な長さに整えることが大切です。すでに痛みを訴えている方の場合は、痛むポイントを探してあげて、そこに念入りにヤスリをかけるのもいいですよね。 大場さん:そうですね。痛みを取り除いてあげるだけでも、歩けるようになりますから。ADLの低下だけは避けたいので、私も歩行に支障が出ないようなケアをすること、自身では対応できないケースは訪問看護師さんにお願いすること徹底しています。 ▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて! 【質問】大場さんが現場で使用している愛用のヤスリを教えてください。 【回答】大場さん:基本的にダイヤモンド平ヤスリを使っています。 高山先生:厚い爪甲も削れますか? 大場さん:はい、ほとんどのケースで削れますよ。煮沸消毒できるので、衛生面を考えてもおすすめです。 ▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある? 【質問】次回の診療までに、訪問看護の現場でやっておくべき白癬の応急処置はどんなものですか? 【回答】高山先生:きれいに洗ってもらえれば十分です。白癬の餌は角質なので、足浴と保湿で角質をなくしてあげれば、症状は進行しにくくなります。なお、ワセリンで白癬が繁殖することはないので、保湿もしっかり行ってください。特別なことをして刺激を与えるより、基本的な処置を徹底してくださいね。 ▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は? 【質問】利用者さんから、まだあまり爪が伸びていない段階で「切ってほしい」とお願いされて判断に迷います。深爪にしてはいけない理由はあるのでしょうか? 【回答】高山先生:足の爪には体重の負荷を支える役割があるため、深爪はNGです。爪を切りすぎたり、斜めに切ったりすると、巻き爪につながってしまいます。また、そもそも適切な爪の長さを知らずに長年深爪にしてしまい、結果巻き爪になってしまっている方も多く見られます。まさに生活習慣病ですね。この利用者さんには、靴下に引っかかるなど不快な状態にならないように、ヤスリのかけかたを教えてあげるといいと思います。 ちなみに、歩行時にきちんと踏み込めている方は、理論的には深爪にはできません。なぜかというと、きちんと指先まで使って踏み込んで歩くためには、硬さのある爪が必要不可欠だからです。足を踏み込むと床反力(足と床の接地部分にかかる反力)が生じますが、必要十分な長さの爪がないと、この床反力が上手く体に伝わりません。つまり深爪にしてしまう方は、きちんと歩けていない可能性も高いと考えられます。 ▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない? 【質問】足底の白癬で皮膚が肥厚している方に対し、足浴時に軽石で削りながら洗い、保湿剤を塗布することを一年半ほど続けています。現在は肥厚部がかなり薄くきれいになりましたが、この方法を続けてもいいでしょうか? 【回答】高山先生:軽石でゴシゴシ削ることには賛成しかねますが、削りすぎにならない程度に、目の細かいヤスリをかけるのはいいと思います。ただ、濡れている足を削ると傷がつく恐れがあるので、風呂場などで行うのは控えてください。削りすぎて逆に皮膚が厚くなってしまう可能性もあります。このケースでは、おそらく保湿剤をしっかり塗っていることが効いているのだと思いますね。 ▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 【質問】爪切りに使う器具の洗浄はどのようにしていますか? 【回答】高山先生:体液がつかなければ、表面の汚れを落として乾かす、つまり除菌すれば十分だと考えています。もちろん、出血が見られたときなどは滅菌が必要ですが。衛生管理の専門家の先生に聞くと、大切なのは毎回同じ工程で洗浄することとおっしゃいますね。そうすることで習慣化でき、洗浄不足になることを防げるので。器具のどこをどうやって何回洗うか、ルールを決めて実践してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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