初めての訪問看護に関する記事

コラム
2022年2月22日
2022年2月22日

ALSの治療法について 〜栄養療法がとても大切!〜

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。ALSでは薬物療法と並んで栄養療法がとても大切です。 日本で承認されているALS治療薬 現在日本では、ALSにはリルゾールとエダラボンの二つが、治療薬として認可されています。 リルゾールは、神経伝達物質であるグルタミン酸の過剰興奮による、運動ニューロン(骨格筋を支配する神経細胞)の変性を抑える作用があるといわれるものです。人工呼吸器装着までの期間を3か月程度遅らせる効果があるとされていますが、生活の質(QOL)の低下速度を緩やかにする効果については言及されていません。 一方エダラボンは、もともと2001年に脳梗塞急性期治療薬として承認された薬剤です。細胞が傷害される原因の一つであるフリーラジカル(活性酸素)を取り除き、細胞を保護する作用を有することから、ALSに有効ではないかと考えられ、2015年に世界に先立って初めて日本で認可された薬剤です(アメリカでも2017年に認可されています)。 QOLの低下速度を緩やかにする効果があるとされていますが、人工呼吸器装着までの期間を遅らせる効果については言及されていません。 残念ながらどちらも満足した治療効果が期待できるとはいえないものの、ある程度の治療効果は認められており、発症早期から開始するほうがよいです。何よりも、前向きに治療をしている姿勢が、病気とともに生きていくうえで精神衛生上とても良い方向に働くと考えます。 私も発症早期から、どちらも積極的に開始しています。 体重を落とさないことが予後を良くするといわれている! これらの薬物療法に加えて、ALSでは栄養療法がとても重要と考えられています。 ALS患者さんでは、しばしば病初期から著しく体重減少を起こすことがあります。 原因としては、ALS特有の病初期〜中期(人工呼吸器を装着するまで)にかけての異常な代謝の亢進、病気の進行に伴う全身の筋肉量の減少、嚥下機能の低下に伴う食事摂取量の減少、呼吸機能の低下に伴う努力性呼吸(自然に呼吸ができないため、一所懸命に呼吸をすること)によるエネルギー消費量の増加、などが考えられますが、はっきりとしたことはわかっていません。 ただ、もともと体重の軽い人や、病初期からの体重減少のスピードが速い人は、病気の進行速度も速いというデータも出ており1)、体重減少を抑えることが重要であると考えられています。 また、最近の見解では、「ALSを発症した当初から体重を落とした群と、体重を落とさなかった群を比較すると、体重を落とさなかった群のほうが、人工呼吸器を装着するまでの期間が長く、QOLが低下する速度も緩やかである」2、3)という結果が出ており、食事と併せた高カロリー療法が、進行を遅らせる効果があるとされています。 効率的にカロリーをとる工夫 一般的に、カロリーを多くとることは、肥満や糖尿病や高脂血症などの原因としてマイナスなイメージがありますが、ALS患者さんではそんなことを言っている場合ではないと思います。すでに合併症のある方は注意が必要ですが、カロリーを多くとることを最優先に考えてもよいのではないでしょうか。 またALSは全身の筋力が落ちていく病気のため、筋肉の原料であるタンパク質を多くとろうと思われる人もいらっしゃいますが、ALS患者さんに必要なのはあくまでも体重を落とさないためのカロリーですので、タンパク質にこだわらず、糖質や脂質などもしっかりとることをおすすめします。 タンパク質と糖質は4kcal/g、脂質は8kcal/gですので、食事量を多くとるのが大変な人は、脂質を多く摂取したほうが効率よくカロリーがとれるのでおすすめです。 冷や奴に揚げ玉を追加したり、味噌汁にごま油を垂らしたり、ヨーグルトにオリーブオイルを混ぜたりと、方法は何でもよいかと思います。皆さんが食べやすい方法を試してみてください。 体重を減らさないために ちなみに、私は2015年に34歳という若さでALSを発症しました。まだまだ食欲もあり、一日でも長く「生きたい」「愛する家族と一緒にいたい」と強く思っていました。 なので、発症当初から、とにかく体重を減らさないように気をつけて食事をとるように意識し、いろいろなものを大盛りで食べていたら、結果的に半年間で体重が10kgも増えました。 体重を増やしたほうがよいのかについては、今のところ明確なエビデンスは出ていませんので、まずは体重を落とさないことを意識してみてください。 早めの胃瘻造設がおすすめ 栄養療法は、薬剤による治療ではないため見落とされがちですが、とても重要です! 経口摂取ができるうちは、体重を落とさないように意識して食事のメニューを考えましょう。そして、経口摂取に疲労を感じたら(できれば疲労を感じる前に)早めに胃瘻を作る。つまり、安定して栄養を摂取できるようにしておくことを、強くおすすめします。 胃瘻を作ったら経口摂取できないのでは?と誤解をされている患者さんもいらっしゃいますが、そんなことはありません。胃瘻を作っても今までどおり経口摂取できます。 実際私は、胃瘻を作ったあとも経口摂取を続け、胃瘻を使わない期間がしばらくありました。 ちなみに胃瘻を作る手術は、外科or消化器内科の医師が、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を用いて行います。手術は原則的に仰臥位で自発呼吸下にて行うため、呼吸状態がある程度保たれていないと手術ができません。特殊なNPPV(非侵襲的陽圧換気。気管切開を行わないで、マスクを着けるだけの人工呼吸器)をつけながら手術ができる施設もありますが、手術の難易度が格段に上がり、患者さんの負担も大きくなってしまいますので、その点も考慮して、早めに主治医の先生とご相談することをおすすめします。 ※本コラムは執筆者個人の見解です。治療については主治医とご相談ください。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)Shimizu,T.et al.Reduction rate of body mass index predicts prognosis for survival in amyotrophic lateral sclerosis:a multicenter study in Japan.Amyotroph.Lateral Scler.13,2012,363.2)Shimizu,T.et al.Prognostic significance of body weight variation after diagnosis in ALS: a single-centre prospective study.J.Neurol.266,2019,1412-20.3)Nakayama,Y.et al.Body weight variation predicts disease progression after invasive ventilation in amyotrophic lateral sclerosis.Sci.Rep.9,2019,12262.

特集 会員限定
2022年2月15日
2022年2月15日

【セミナーレポート】看取りの作法~事例検討と質疑応答編~

2021年12月17日(金)、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーを行いました。講師に田中公孝先生をお迎えした今回のテーマは、2021年11月開催セミナーから引き続き「看取りの作法」。リアルな看取りの実例を通し『医療者が看取りに向き合う』ときに意識したい点について、田中先生のご経験をふまえながらお話いただきました。今日の訪問看護からすぐに取り入れられるエッセンスをピックアップしてお届けします。 2021年11月12(金)開催「看取りの作法」セミナーレポートはこちら≫ 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 「看取り」を見据えた医療者のかかわり方 サービス開始時、利用者の方の情報を分析し、医療の視点からみなさん計画を立てると思います。もちろん決めつけすぎるのは良くありませんが、計画段階で『どこまでを見据えるか』という点は重要です。看護計画に主眼を置きすぎると見落としてしまいがちな「本人はどうしたいのだろう」という視点。この視点もバランス良く持ちながら患者さんとかかわっていく必要があると考えていて、私の場合は「最期をどういうふうに迎えたいか」という点も注視します。・最期について、家族とどうやって話し合うのか・専門職としてどのような意志決定の支援ができるかというところまで思考を拡張させながら、医学アセスメント、家族関係や希望を含め、計画を立てていきます。 家族間の問題が表出したとき、医療者はクッションになり得る 終末期になると家族の問題や関係性が集約されてきます。これまで関係性が希薄だった家族が集合してコミュニケーションをとり始めると、ギクシャクしてしまうことも多い。そういった場面で、専門職はクッションになれる可能性がある。その点についても意識しながら、看護計画を立てていくと良いのかなと考えています。 利用者の方の日々の生活から読み取る観察眼 利用者の方のことを知るために、私が意識しているのは次の2つです。まずひとつは利用者の方に「具体的な質問をする」こと。たとえば「食事のあとはなにをして過ごしますか?」と漠然と聞くのではなく、「新聞は読みますか?」「テレビは観ますか?」など1歩踏み込んで尋ねることで初めて返ってくる答えがあります。もうひとつは「観察する」ことです。利用者の方の身の周りに置いてあるものや日常でよく使うもの、飾っているもの。そういったもののなかに、大切にしたい思い出や誇りを持っていることが隠れている。そこに目配りをすることでコミュニケーションのきっかけができるだけでなく、短期間でも心の距離を縮めやすくなり、心を開いてもらうことにつながります。これは利用者本人だけでなく、家族に対しても同じことが言えます。 グリーフケアのコーディネート 会いたい人に会えるように 看取りの際、私たちの行為にはグリーフケアをコーディネートするという側面が含まれます。ご家族からも話を聞くことは、利用者本人のことを知るだけでなく、ご家族に対する死前のグリーフケアにもなるんです。死前に「悲嘆を共有できる専門職」として家族に認めてもらうことで、死後のグリーフケアもスムーズになります。 グリーフケアの基本についてはこちら≫ また、やりたいことを叶えていくことで、本人はもちろんご家族も「良かった」と思える。死前のグリーフケアという意味も含めて本人に「やりたいことはないですか?」「会いたい人はいますか?」と聞いたり、「会いたい人には会った方が良いですよ」と促したりします。 そして心構えを伝えることも重要です。私たち医療者は事例を見ているので看取りへ向かう経過のイメージができますが、ご家族には難しい。だから事前に「これから1カ月でこうなります」「1週間でこうなります」という変化を専門家として提示することで心構えを促します。そうすると「じゃあ、あれをやらなくちゃ」と家族の行動が変わる。そこをコーディネートするのがすごく重要かなと考えています。 Q&Aセッション 短期間で関係性を構築するためのアドバイスいただけますか? Q 最近は介入後に数週間で旅立たれることが多いです。関係性や信頼関係に中途感があります。短期間で関係性を構築するためのアドバイスをいただけますか? A 事前にどれだけ看取りに向けてのシナリオを描けるかというのが鍵となります。準備無しで行き当たりばったりだと、絶対に中途半端になってしまう。これまでの治療で患者さんや家族が抱えた気持ちのモヤモヤを解きほぐして、家族に看取りへの心構えや経過を説明して、家族関係のコーディネートをして…ということができれば中途感はぬぐえるかなと思います。このとき、ひとりでパンクしないために看取りのためのベストチームを形成しておくことも重要です。同じような価値観で組める医師に依頼して、看取り経験が豊富な看護師、ケアマネージャーともトライアングルチームを組んで、家族のグリーフケアもケアマネージャーにフォローしてもらって、というようなプロデュースをしてチームで手分けできると、かかわる時間が短く自分たちがあまり時間を割けないなかでも、上手くいくように思います。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年2月15日
2022年2月15日

5日前インフルエンザにかかり、ずっと排便がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第4回は、インフルエンザにかかってからずっと排便がない患者さん。さて訪問看護師はどのようにアセスメントをしますか? 事例 5日前からインフルエンザにかかり、昨日から熱が下がってきた80歳女性。 ふだんは2日に1回の頻度で排便があるのですが、ここ5日間は排便がなく、何らかの対処が必要かどうか看護師は考えています。 便の頻度や便の性状は、▷食事の摂取量 ▷水分出納 ▷交感神経と副交感神経のバランスが乱れたことによる腸蠕動運動の変調 ── など、さまざまな要因で変化します。排便のケアを考えるにあたっては、便がどの程度、どこに貯留しているかをアセスメントする必要があります。 たとえば、下行結腸に便が貯留していないのに浣腸をしても排便は起こりません。腹部のアセスメントを十分に行ってからケアを考え、苦痛が最小限になるような排便ケアを考えていきましょう。 ここに注目! ●排便の頻度からみると、便秘状態と考えられる。●インフルエンザ罹患の影響で、食事や水分の摂取、腸蠕動に変調があった後であり、便の貯留はどの程度かをアセスメントし、ケアを考える必要がある。 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・便秘の経過(ふだんの排便の頻度と性状、最終排便からの日数、最終排便の量・性状、排便困難、ふだんの下剤や浣腸の使用、など)・便秘の症状(腹部膨満感とこれに伴う苦痛、腹痛、腹部不快感、排ガス、便意、悪心、など)・便秘の要因について(食事摂取量、食事内容〈繊維質の量、ヨーグルトなどの乳酸菌食品の摂取〉、水分摂取量、水分出納、など) 客観的情報の収集 便の性状と回数 これまでの排便、最終排便の状況について、記録を参照し、量と硬さを確認して現在の便の貯留量を推測します。ふだんから排便量が少ない場合は、食事摂取ができていなければ、もっと便の量が減る可能性があります。 腹部の視診・触診 視診で腹部全体の膨満があれば、便やガスの貯留が疑われます。皮下脂肪が少ない場合は、便の貯留部位が膨隆して視診できる場合があります。恥骨結合直上から左側腹部にかけてよく視診します。 触診は、恥骨結合の上から左下腹部を少し深め(3cmくらい)の位置で、手を動かして感触を探りながら行います。 普通便が貯留している腸は、鉛筆ほどの太さで柔らかく触れます。大量に貯留している場合は、より太く、範囲が広くなります。また、兎糞便化している場合は、コロコロと小さく硬く触れます。 腹部の打診 打診では、ガスが貯留している場合は鼓音となり、音の性質もポンポンと高い音になります。固形の便が貯留している場合は、その部分が濁音となります。左下腹部を重点的に打診して、どの程度、便が貯留しているかを見積もります。 腹部打診音とその評価 鼓音 (ポンポンと高く響く軽い音)ガスの貯留であり、腸の存在部位では正常音。高い鼓音は、高度なガス貯留を示す濁音 (ドンドンと響かない短い音)水分が多い状態、充満した膀胱、肝臓、便、腫瘍 腸音 右の下腹部で腸音を1分間聴取します。腸の蠕動が低下している場合は、腸音は低く、頻度が少なくなります。 ストレスなどにより腸の運動を支配している自律神経のバランスが乱れると、下痢と便秘を繰り返す痙攣性の便秘となることがあります。精神的ストレスが大きいときに起こることが多い便秘の種類です。この場合は、腸蠕動が亢進していることも考えられます。 報告のポイント ・最終排便からの日数と腹部膨満感や嘔吐、食欲不振の症状の有無・腸蠕動と排ガスの有無による腸管麻痺の可能性・腹部膨満、打診・視診による便の貯留の位置や量の推定 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年2月15日
2022年2月15日

悪性関節リウマチ

悪性関節リウマチは、関節リウマチに血管炎などの関節外症状を合併した病型です。 病態 悪性関節リウマチは、関節リウマチに加え、血管炎や臓器障害など関節以外の症状があって難治性または重症のものをいいます。重症の関節リウマチを指す疾患名ではありません。 関節リウマチとは、免疫異常のために関節に炎症が起こり、進行すると関節の変形などをきたす病気です。男性より女性に4倍多く、中年期以降の発症が多い疾患です。 関節リウマチも悪性関節リウマチも、原因は不明です。ただ、悪性関節リウマチは家族内での発症も12%にみられ、遺伝的な要因がある程度かかわっていると考えられています。 なお、「悪性関節リウマチ」は日本独自の疾患名・概念で、欧米では血管炎を伴う関節リウマチは「リウマトイド血管炎」と呼ばれます。 疫学 悪性関節リウマチの頻度は、関節リウマチ患者のうち0.6〜1.0%です。関節リウマチよりも男性の占める割合が高いのが特徴です。また、悪性関節リウマチと診断される年齢のピークは60歳代と、関節リウマチよりもやや高齢です。 前述のように、関節リウマチに血管炎などを合併するものが悪性関節リウマチですが、血管炎は、一般的に関節リウマチに長く罹患し、関節の破壊が進行した人に起こります。 2019年度末時点で、悪性関節リウマチでの受給者証所持者数は約5,000人です。やはり60歳代が最も多く、70歳以上の人の割合も多くなっています。 関節リウマチの早期診断や治療の進歩により、近年では、悪性関節リウマチの発症頻度は低下傾向と報告されています。 症状・予後 関節リウマチの多発関節炎に加えて、血管炎による症状が加わります。血管炎は、全身性血管炎型と末梢動脈炎型に分けられます。 血管炎の症状 全身性血管炎型     全身の血管炎に基づく症状(38℃以上の発熱、体重減少、紫斑、上強膜炎、筋痛、筋力低下、間質性肺炎、胸膜炎、多発単神経炎、消化管出血、など)末梢動脈炎型潰瘍、末梢の血管梗塞、四肢先端の壊死・壊疽、など 全身性血管炎型では、症状は急速に出現して悪化します。末梢動脈炎型では通常、進行は緩徐です。 悪性関節リウマチの予後は、国内の疫学調査では軽快21%、不変26%、悪化31%、死亡14%、不明・その他8%と報告されています。血管炎による臓器障害や間質性肺炎を伴う場合は、生命予後が悪いとされています。死因で最も多いのは呼吸不全で、それに続くのは感染症の合併、心不全、腎不全などです。 治療・管理など 基本的な治療方針は、関節外病変を取り除くことと、関節の変形や身体機能低下の進行の抑制です。 悪性関節リウマチに対しては、炎症を抑えるステロイド、関節リウマチに用いられる抗リウマチ薬、免疫抑制薬が用いられ、合併症対策として血栓を防ぐ抗凝固薬などが用いられます。重症例などでは、血液内にできてしまった免疫複合体などを取り除くために血漿交換療法が行われることもあります。 看護の観察ポイント 入院での治療が基本となりますが、在宅で気になる症状があった場合は、すぐに主治医に相談しましょう。在宅での繰り返す心不全の急性憎悪などの場合には、訪問看護による観察が重要になります。 ●男女を問わず、長く関節リウマチを患い関節破壊が進行した人、60歳以上の人などでは特に留意●発熱や体重減少、急に出現し悪化する息苦しさ、手足の紫斑や皮膚潰瘍、手首・足首の知覚異常や力の入りにくさには注意 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 〇厚生労働省.難病・小児慢性特定疾病.『令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『悪性関節リウマチ(指定難病46)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/43〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『悪性関節リウマチ(指定難病46)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/205〇磯部光章ほか.悪性関節リウマチ『血管炎症候群の診療ガイドライン』2017年改訂版.2018,91-5.

コラム
2022年2月8日
2022年2月8日

患者・家族の認識とグリーフケア

訪問特化型クリニックから、在宅緩和ケアのtipsを紹介する「家庭医が伝える在宅緩和ケア」。最終回は、在宅緩和ケアのなかでも難しさとやりがいが入り混ざる「患者・家族の認識とグリーフケア」について紹介します。 患者家族の受け入れ度合いはさまざま 終末期と一言でいっても、訪問診療や訪問看護に紹介されてくる患者さん・家族は、認識や受け入れの度合いがさまざまです。 在宅医療になって納得している人。納得していない人。前医の不平不満がある人。不安が強い人。現状を受け入れがたいと思っている人。 こうした患者さんとその家族に対して、皆さんはどのように考えて取り組んでいますか?私からは、一つ。エリザベス・キューブラー=ロスの「死の受容プロセス」をふまえてアセスメントすることをおすすめします。 キューブラー=ロスの死の受容プロセス ① 否認と隔離② 怒り③ 取引④ 抑うつ⑤ 受容 キューブラー=ロスによれば、死に直面した人間の感情は、おおよそ、①から⑤へと順を追って経過するといいます。順番が前後することもあるといわれ、実際に経験としても実感があります。 それでは、私が遭遇してきた臨床場面を例に、具体的に考えていきましょう。 ②「怒り」の時期 いちばんよく出会うのは、前医への不満や怒りがある患者さんとその家族の場合です。これは、②「怒り」のステージの状態です。 この段階のときは、ひたすら傾聴して、ときには相槌や、これまで経験してきた他の事例などもお話に交えながら、ためているものを吐き出してもらいます。 ためているものをここで一定程度出していただかないと、次の受容段階に進みません。そして、これから緩和ケアを提供していくなかで、どんな声掛けが合っているのかがつかみにくい状況になってしまいます。 これまでの経過や感情を出してもらうことを最優先として、特に初回・2回目の訪問では、病状の変化ももちろん重要ですが、傾聴してこれまでの経緯や感情をとらえることを最優先事項にします。 できれば「在宅医療が入ってくれたから苦痛が緩和された」「食事や排泄の負担・不安が軽減された」と感じてもらえるアプローチも同時にできると、怒りの消化とともに、在宅医療への信頼感の熟成につながる印象です。 ③「取引」と④「抑うつ」の時期 この時期が他の段階と比べても悲嘆が強い印象で、これらの時期と判断した際は、ケアの合間やケアが終わった後に心情をお聞きして、相槌をうちながら傾聴するのが重要です。 特に本人や家族が不安として抱えていることについて、専門職が訪問するたびに吐き出してもらうことを意識します。 傾聴や、さまざまな質問に答えながらコミュニケーションを重ねることは、より受容を促します。「これから先どうなっていくのか」という不安を支えていくことが、この時期の専門職の重要な役目と思います。 ⑤「受容」に至った状態 「受容」に至ったと判断すれば、あとは、どんな最期になるかを説明したり、それに向けて準備をしてもらったりを促していきます。 特に最近、私自身が強く感じるのは、病状経過の説明だけでなく、銀行関係の話、葬式業者の話など、死後の社会的な手続きについても、少しでよいので言及することが大事だと考えています。それこそ、死後の処置としてエンゼルケアをするかどうか、といった話もあらかじめ具体的に詰めておくことが重要でしょう。また、お会いになりたい家族・親戚がいないか、いたら早めに会いに来てもらうよう勧めることも、ケア職の大事な役目です。 かかわりはじめからグリーフケアが始まっている 個人的な経験として、キューブラー=ロスの死の受容プロセスをしっかり通ると、死前のグリーフケアも非常にうまくいく印象です。このため、終末期にかかわる専門職は、「在宅緩和ケアでかかわった瞬間からグリーフケアが始まっている」という認識で臨むことが重要だといえるでしょう。 トータルペインの考えかたは前回お話ししましたが、かかわる時点でさまざまな側面の苦痛をアセスメントし、それぞれにアプローチしていくだけでも、かなり骨が折れる作業ではあります。ですが、今回の「患者・家族の認識とグリーフケア」のように、患者さんとその家族の感情面や葛藤にフォーカスした専門的アプローチも、相当重要な位置を占めると私は考えています。 事例から得る学びを糧にする 終末期の事例は、やること・意識することが非常に多いのですが、経験を重ねていくほど似た場面も経験します。まったく同じ事例はないのですが、それまでの経験を糧にして目の前の事例に応用できると、個人的経験からも思います。 ですので、一つ一つの終末期事例の経験を大事に、自らの糧にしていくよう心がけてください。特にデスカンファレンスなど他者と振り返る機会は、自分が気づかなかった視点を得られる重要な機会です。ぜひ、かかわった職種で振り返る機会をつくることをおすすめします。 私が好きな「コルブの経験学習サイクル」1)という考えかたがあります。簡単にいうと、経験を振り返って知恵を紡ぎ出し、明日に生かすという学びのサイクルです。 一つの終末期事例の経験をしたら、しっかり振り返ることで、概念化、いわゆる教訓や気づきを言語化し、次の事例に適応させていく。そんなサイクルを忙しい在宅の臨床業務のなかでもしっかり回していってもらえれば、徐々に終末期の対応力が上がっていくと思います。 連載のおわりに さて、看取りの作法について、全3回取り扱ってきましたが、いかがでしたでしょうか? 看取りの1週間前に今後起きることについて説明することも、トータルペインでアセスメントして多面的なアプローチをすることも、キューブラー=ロスの死の受容プロセスを活用することも、かなり実践的なものだと思って、本連載で紹介させていただきました。 皆様の明日からの臨床現場での参考にしてもらえれば幸いです。 著者田中 公孝2009年滋賀医科大学医学部卒業。2015年家庭医療後期研修修了し、同年家庭医療専門医取得。2017年4月東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げにかかわり、医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、市や医師会のICT事業などにもかかわる。引き続き、その人らしく最期まで過ごせる在宅医療を目指しながらも、新しいコンセプトのクリニック事業の立ち上げを決意。2021年春 東京都杉並区西荻窪の地に「杉並PARK在宅クリニック」開業。 杉並PARK在宅クリニックホームページhttps://www.suginami-park.jp/ 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)Kolb,DA.Experiential Learning:experience as the Source of Learning and Development.Englewood Cliffs,Prentice Hall,1984.

コラム
2022年2月8日
2022年2月8日

看護師の皆さん!ALSに対するイメージで勝手に壁を作っていませんか?

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。難病患者とあまりかかわったことのない看護師さんに特にお伝えしたい、ALS患者の願いです。 ALSに対するイメージで、壁を作っていませんか? 看護師の皆さんはALS患者に対してどんなイメージを持っているでしょうか。 ALS患者とあまり接したことがない看護師さんの多くは、「コミュニケーションのとれないやっかいな患者」「何を考えているのかわからない」「どう接すればよいのかわからない」そんなイメージを持っているのではないでしょうか。 入院は「どaway」 私は2021年2月に気管切開と声門閉鎖手術を行いました。コロナの影響でヘルパーさんの付き添いが認められず、一人きりの入院でした。 ふだんは、私の性格や行動パターンを理解して、会話もスムーズにできる家族やヘルパーさんや看護師さんたちに囲まれて、楽しく快適に暮らしています。まさに「home」です。しかし、一人きりの入院となると、私のことをまったく知らない人たちに囲まれての生活です。まさに「どaway」。 主治医を信頼していたので手術に対する不安は全然ありませんでしたが、一人きりになることが、不安で不安でしかたありませんでした。 皆さんも、自分に置き換えて想像してみてください。体が動かせず、通訳もいない状態で、言葉の通じない病院に一人きりで入院する感じです。想像しただけも恐ろしい……。 文字盤も説明書も手作りボードも使われず…… なので、いろいろ対策をしていきました。もちろん初対面で文字盤を使い、コミュニケーションをとることは難しいとよくわかっていたので、文字盤の使いかたを書いた説明書と、いろいろな種類の文字盤を持参しました。それでも使えないときのために、あらかじめ、「頭を置き直して」「足を曲げて」「iPadをセットして」「痛い」「苦しい」など、伝えたくなるであろうことを書いたボードも持参しました。 実際に持参したボード ですが、それすらほとんど使ってもらえませんでした。声も出せず、目以外ほとんど動かせない自分と、積極的にコミュニケーションをとってくれようとした看護篩さんは、ほとんどいませんでした。ある程度想像していたものの、ここまでとは思いませんでした。 誰か一人でもコミュニケーションをとろうとしてくれたら 入院中にこんなことがありました。 手術後ICUにいたとき、体勢を整えた際に枕が高すぎて首が前屈し、気切部のカニューレが圧迫されていました。このときから、部屋にいた看護師さんに苦しい合図を出していましたが、目を合わせてもらえず、合図は届きません。看護師さんが離れ、何とか足元のナースコールを押そうとしてもがいていたら、体がずり下がり、首の前屈が強くなりました。徐々に気切部のカニューレが閉塞し、呼吸ができなくなっていきました。 SpO2が下がりアラームが鳴って、看護師さんたちが集まって来たときには、すでにSpO2は80%台。私は必死で「首」「首」と心で叫びながら目で合図を送り続けていましたが、誰にも届きません。 SpO2が70%台まで下がり、苦しすぎて気を失いかけたとき、ようやく首が前屈しておりカニューレが閉塞していることに気がついてくれて、首の位置を直してもらい、なんとか立ち直りました。 誰か一人でも私とコミュニケーションをとろうとしてくれていれば、こんなことにならなかったのに……。 下手でもいいんです なぜコミュニケーションをとろうとしてくれないのだろうか? 看護をしたい気持ちがないからだろうか? 違います。看護師の皆さんからは、看護をしたい気持ちは伝わってきます。 ただ、「話し掛けてもコミュニケーションをとれるのだろうか」「話し掛けてもコミュニケーションがとれないなら、なるべくかかわらないほうがよいのでは」 そんなふうに考え、未知のものに触れる不安で、一歩を踏み出す勇気が出ないのだと思います。 私のような難病患者は、はじめから上手にコミュニケーションをとれるなんて、思っていません。たどたどしくてもいい、下手でもいい、ただ勇気を出して話し掛けてくれさえすれば、こちらはコミュニケーションをとれる方法を準備して、待っています。 なので、ALSなどの難病患者とあまりかかわったことのない看護師の皆さんには、この記事を読んで、一歩前に踏み出す勇気を持ってもらえたら嬉しいです。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年2月8日
2022年2月8日

胃瘻患者さんの家族から「口から食べられませんか?」と相談された場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第3回は、胃瘻造設の患者さんで、ご家族から「元気になってきたから、もう口から食べられるのではないでしょうか?」と相談されました。さて訪問看護師はどのようにアセスメントをしますか? 事例 85歳男性で、入院前にはADLが自立していました。肺炎で入院し嚥下の状態が不安定だったため、胃瘻を作り経管栄養となりました。肺炎が完治したため自宅に戻りました。現在は座位が安定して取れるようになり、短距離の歩行もできるようになりました。家族から、「元気になってきたので、もう口から食べられるのではないでしょうか?」と相談されました。 全身状態の改善に伴い、嚥下機能が改善した可能性のある患者さんです。食事開始は医師の指示によりますが、経口摂取の可能性がどれだけあるのかをアセスメントし、報告することで言語聴覚士(ST)や医師の判断を促すことができます。呼吸状態を確認し、問題がないようなら嚥下に関するアセスメントを行ない、他職種と結果を共有し、ケアプランを考えましょう。 ここに注目! ●筋力が戻れば経口摂取の再開が可能ではないか?●嚥下の機能改善についてアセスメントする必要がある。 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ▪ 食事摂取の意欲、空腹感はあるか▪ 呼吸器症状(痰の量、咳嗽・むせの有無、痰の喀出ができるか、など) 客観的情報の収集 今回の事例は、神経麻痺の可能性は低いと考えられますが、念のために口腔と嚥下の状態をアセスメントします。 口唇を閉じることができるか 「パ」の音を発音してもらって確認します。口唇を閉じないと、正しく「パ」を発声することができません。 または、頬を膨らませてもらい、息漏れがないかを観察することでも確認できます。 口蓋垂の偏位 「あー」と声を出してもらい、口蓋垂の偏位がないかを確認します。舌咽神経・迷走神経に麻痺がある場合、健側に偏位します。 舌の偏位 舌の動きが悪くなると、食塊を奥に運ぶことができませんので、舌の動きを確認します。舌を前にいっぱいに出してもらい、偏位がないか、上下左右に動かしてもらい、スムーズに動くかを確認します。 舌の動きは舌下神経がつかさどっています。麻痺がある場合は、麻痺側に偏位し、動きも鈍くなります。 これらの症状がすべてみられなければ、経口摂取できる可能性が高まります。 歯の状態 歯牙の状態、入れ歯が合うかどうかを確認します。しばらく経口摂取していなかったため、入れ歯が合わなくなっている可能性があります。 舌の表面 舌の表面を視診し、清潔に保たれているか確認します。舌苔があったり、凹凸がなくてつるりとしていたりすると、味覚を感じにくくなり、食欲不振につながります。せっかく食事を始めても、味わう楽しみが得られません。 嚥下のアセスメント 唾液を飲み込んでもらい、喉頭隆起の動きがスムーズか、むせがないかを確認します。麻痺がある場合は、麻痺側の運動が遅れるので、うねるような動きがみられます。 嚥下の評価テストには、空嚥下を30秒以内に3回以上できるかを確認する反復唾液嚥下テスト(repetitive saliva swallowing test;RSST)や、水を飲みこませてむせや呼吸の状態を確認する水飲みテスト(modified water swallow test;MWST)などがあります。医師に相談して許可が得られれば行なってみましょう。 報告のポイント ▪患者・家族ともに経口摂取の意欲があること▪呼吸の状態▪嚥下にかかわる神経障害の有無、嚥下評価テストの結果 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年2月8日
2022年2月8日

認知症のある患者さんに接するときの7か条(後編)

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第2回は、「認知症のある患者さんと接するときの7か条」の、後編です。 4条 わかりやすい短い文章で話しましょう 短く区切って話しましょう 認知症の人は、一度に多くの話をすると理解できずに混乱してしまうことがあります。わかりやすい言葉で簡潔に伝えましょう。 たとえば、「リハビリの後、トイレに行って食事にしましょう」と、複数のことを一度に話しても、わかりにくく、伝わりにくいです。「トイレに行きましょう」「ご飯を食べましょう」と、短く区切って具体的に話すと伝わりやすくなります。 認知症の人は理解力が低下しているので、早口で話されると聞き取りにくいことがあります。聞き取りやすいように、声が聞こえるように近づいたり、ゆっくりとしたスピードで話すことなどしてみましょう。 その人に合った手段を探しましょう 高齢者では視力や聴力が低下していることもあります。言葉だけでなくジェスチャーや絵を活用するのもよいです。難聴がある場合は補聴器をつけることや、「トイレ」の絵や文字などを使うことなども一つの方法です。非言語コミュニケーションをうまく活用するなど、その人に合ったコミュニケーション手段を探すことが大切です。 相手にわかりやすいよう配慮することで、より良いコミュニケーションにつながります。 5条 低めの落ち着いた声でゆっくり話しましょう 認知症の人は、認知機能低下や加齢に伴う聴力の低下によって、急な変化への対応が難しいことがあります。急がせる・慌てさせる言葉や態度は、相手のペースを乱し、パニックに陥らせてしまいます。 話をするときは、声のトーンを落とし、ゆっくり落ち着いた雰囲気で話すことが大切です。低めの声でゆっくり話すことは聞き取りやすくもなります。一緒に話をして楽しい、安心できると感じるようなコミュニケーションをとりましょう。 コミュニケーションがうまく図れない原因が、認知症による影響のほか、睡眠不足や脱水傾向などが原因のこともあります。認知症以外の健康管理や、認知症以外でコミュニケーションを阻害する要因にも注意を払い、対応することも大切です。 6条 自尊心を傷つける言葉を使わないようにしましょう 認知症の人は、記憶の障害、見当識の障害、判断力の障害から、現在の状況とは違った言動を示すことがあります。認知症の人とコミュニケーションをとるときは、本人の在る世界を理解し、尊重することです。理解しがたい言動にも、何かしら意味があります。その気持ちを理解し、寄り添い、不安や不快なものは取り除くようにしましょう。 また、認知症の人は「話をしてもわからない」「どうせ忘れてしまう」と思われがちです。しかし、最近のことは忘れても古い記憶は残っていることが多いです。認知症が進み、記憶力が低下しても、感情も豊かで羞恥心やプライドは変わりません。その点をよく理解したうえで本人に話しかける必要があります。否定や強制的な説得など、自尊心を傷つける態度は避けましょう。 7条 相手の気持ちに寄り添いましょう 認知症の人は、話すのに時間がかかる、何か伝えたいことがあってもそれをなかなか言葉に出すことができないことがあります。そのときは、言葉が出てくるまでゆっくり静かに待ちましょう。 また、待っている間、表情や動きを見ながら、どんなことを伝えたいか想像しながら待ってみましょう。何らかの反応を感じられるかも知れません。 そして、認知症の人と話をするときは、相づちをうちながら傾聴し、相手の気持ちに寄り添いましょう。徘徊や妄想などの症状がある場合は、意味がわからない言動であっても、その人なりの理由があることが多いものです。否定や説得ではなく本人の気持ちに寄り添い、その言動の理由を見つけるよう努めましょう。 相手を受け入れ理解するには、その人を知ろうとする姿勢が大切です。感情を理解し、寄り添うことで、お互いに信頼関係が生じスムーズな会話につながります。 執筆浅野均(あさの・ひとし)つくば国際大学医療保健学部看護学科 教授 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇一般社団法人日本認知症ケア学会.『認知症ケアの実際Ⅱ:各論.改訂5版』東京,ワールドプランニング,2018,113-6.〇一般社団法人日本認知症ケア学会.『認知症ケアの実際Ⅰ:総論.改訂4版』東京,ワールドプランニング,2016,39-45.〇鷲見幸彦監著.『一般病棟で役立つ!はじめての認知症看護』東京,エクスナレッジ,2014,66-7.〇鈴木みずえ監修.『認知症の人の気持ちがよくわかる聞き方・話し方』東京,池田書店,2018,34-47.〇飯干紀代子.『看護にいかす認知症の人とのコミュニケーション』東京,中央法規出版,2019,50-84.〇井藤英喜監.『認知症の人の「想い」からつくるケア:在宅ケア・介護施設・療養型病院編』東京,インターメディカ,2017,32-47.〇井藤英喜監.『認知症の人の「想い」からつくるケア:急性期病院編』東京,インターメディカ,2017,22-9.〇鈴木みずえ監.『3ステップ式パーソン・センタード・ケアでよくわかる認知症看護のきほん』東京,池田書店,2019,37-44.

特集
2022年2月1日
2022年2月1日

\ユーザー調査/病棟看護師から訪問看護師への転職

病棟看護師から訪問看護師へ転職する際、不安があった方も多いのではないでしょうか。NsPace(ナースペース)では、35名の訪問看護師さんへアンケートを行い、訪問看護でのやりがいや、お困りごとなどエピソードを伺いました。 訪問看護師35名に聞いた!訪問看護師になる前の職場は? NsPace(ナースペース)ユーザーのリアルな実態を調査。(2021年11月、ナースペース調べ) 一般病院で経験を積んでから訪問看護に転職する方が多いようですね!最近では新卒で訪問看護を選択なさる方もいらっしゃるようです。新卒から訪問看護の道もこれからもっと増えていくといいですね。 訪問看護師歴は何年目? 訪問看護師1~2年目の方から10年目以上の方まで幅広い経験年数の方が働いており、どの世代でも活躍できる素敵な環境ですね。 訪問看護師になろう(転職しよう)と思ったきっかけは? 「在宅医療に興味があった」と回答した方が4割という結果になりました。また、「利用者さんとじっくり関わりたいと思った」との回答も多く寄せられました。訪問看護師は利用者さんと一対一で向き合うことができます。一人ひとりとじっくり向き合い、看護ができる点は、やりがいに繋がりますね。 訪問看護師になってみて、困ったことや難しいと感じていることは? 訪問看護の仕事は、病棟業務と異なる部分があり、それゆえ戸惑いを感じる方もいるようです。なかでも、訪問看護師特有の「夜間の拘束(オンコール対応)」について、慣れるまでは難しいと感じることが多いようですね。 困った時の対応方法は? 職場の方に相談する他、自己学習で努力している方が多いようです。連絡や情報共有を大事にし、観察力やコミュニケーション能力が向上したというお声もありました! 訪問看護師の働きがいは? 病棟で学んだ経験を活かし、利用者さんとじっくり向き合っている方が多いようです。最期を自宅で過ごしたいと希望される利用者様やそのご家族様の支援ができる喜びを感じるとのお声もありました。訪問看護の醍醐味ですね。 これから訪問看護師になる方へ 患者さんのご自宅に直接伺って、家族や多職種とかかわることができ、とても勉強になる仕事だと思います。大変なこともあるけれど「ありがとう」の一言でどんなことでも頑張れる気がする。そんな仕事です。 一人で訪問するからこそ、判断が難しい時、困った時は同僚や上司に相談します。だから、一人のように見えても実は一人じゃありません。今はスマホをフル活用して、瞬時に先生に画像を送り、指示を受けることもできます。ぜひとも訪問看護にチャレンジしてみて下さい。 在宅医療を支えるには、在宅医だけでは成り立ちません。多職種連携していく中心にあるのが、実は看護師だと感じてます。責任ある立場です。その分、看護師としてのやりがいや充実感があります。最新の機器や検査や治療はありませんが、『家で過ごせる』ということに想像以上の延命効果があるんです。それを側で見守り支援していくお仕事です。 病院ではきっと長時間向きあうことは考えられないかと思いますが、じっくりと一人のご利用者様と向き合うことができます。人との関りを持ちたいと思う方は楽しいと思える職種だと思います。 利用者様が病院と違い永年過ごした場所で過ごせることで良かったと思ってもらえることや一人に対し寄り添った看護ができることが訪問看護師ならではと思います。違う視点で見ることができ病院での学びを活かしながらその方にあった関わリ方ができると思います。また色々な方面からのケアを提供できると思います。 病院で勤務していたときは、診療補助業務を必死でやってきて、とにかく事故なく退院させることが重要でした。少し爪が伸びてるなと思っても爪切りができる余裕もなく過ごしてきました。訪問看護を始めてからは地域のことだったり、利用者さんの歩んできた人生だったり、ご家族のことだったり、死生観について考えさせられたりと…。私自身の人生が少し豊かになった気がします。不安もあるでしょうが、喜びの方が大きいです。 これから、今以上に、在宅で過ごす方が増える時代になると思います。病棟で、色々な経験をしてる方はもちろん、そうでない方も、人と人と、じっくり関わることができ、その方の日常の一部にお邪魔する、そんな素敵な職業だと思います。私は「自宅で自分らしく過ごす」方のお手伝いができる、この仕事が大好きです。ぜひ、これから訪問看護を志す方、一緒に頑張って行きましょう。 記事編集:NsPace

特集
2022年2月1日
2022年2月1日

ミトコンドリア病

ミトコンドリア病は、発症年齢も症状もさまざまで、とらえどころのない難病の一つです。細胞内のミトコンドリアの働きの低下が、原因であることがわかっています。 病態 ミトコンドリア病は、ミトコンドリアの働きの低下により起こる病気の総称です。 ミトコンドリアとは、全身の細胞に存在する器官で、ミトコンドリアによりエネルギーが産生されます。そのエネルギーが細胞の活動の源になるため、ミトコンドリアの働きが低下すると、細胞そのものの活動性も低下します。特に脳や心臓など、多くのエネルギーを必要とする臓器では、影響が大きくなります。 ミトコンドリア病の発症時期は幅広く、乳幼児期から成人までとさまざまです。原因は、先天的な遺伝子変異が主体です。 ミトコンドリア病に関係する遺伝子変異は、今わかっているだけで200種類程度に上り、病型や個人によってもそのパターンは多彩です。それらの遺伝子変異は、細胞の核にあるDNAの変異のほか、ミトコンドリア内にある別のDNA(ミトコンドリアDNA)の変異でもみられます。 核のDNA上の遺伝子変異は、親から子に伝わる可能性があります。一方、ミトコンドリアDNAは母親から子どもに伝わるので(母系遺伝)、ミトコンドリアDNA上の遺伝子に変異などがある場合は、母親から子に伝わる可能性があります。核DNA上での遺伝子変異と、ミトコンドリアDNA上の遺伝子変異は、いずれも突然変異で生じる場合もあります。 疫学 ミトコンドリア病の発症は、乳児から成人まであらゆる年齢の人でみられます。性別による発症差はありません。発症頻度は、イギリスやフィンランドで人口10万人あたり9~16人という報告もありますが、実はもっと多いのではないかともいわれています。 2019年度末時点でのミトコンドリア病での受給者証所持者数は1,500人程度です。10歳未満から75歳以上まで幅広い年齢層におよんでいます。 症状・予後 症状は中枢神経や筋肉、心臓、目や耳などの感覚器、肝臓、腎臓、内分泌系など多様な臓器・組織にみられ、症状も幅広いのが特徴です。表は、小児期に発症する代表的なミトコンドリア病の病型です。 表 ミトコンドリア病の病型例 病型特徴CPEO (慢性進行性外眼筋麻痺症候群)・主な症状は、眼瞼下垂、眼球運動障害・CPEOに、網膜色素変性と心伝導障害を合併するものをカーンズ・セイヤ症候群と呼ぶ・小児~成人期に発症MELAS(メラス)  ・脳卒中様症状を伴うミトコンドリア病(けいれん、意識障害、視野狭窄、視力障害、運動麻痺など)・小児~成人期に発症MERRF(マーフ)・ミオクローヌスてんかんや小脳症状を特徴とするミトコンドリア病・小児~成人期に発症リー脳症・精神運動発達遅滞、筋力低下、けいれんなど、脳と筋肉の症状・乳幼児~小児期に発症 治療・管理など 対症療法として、各症状への適切な治療・管理をすることが重要です。症状が生じている臓器の専門医と連携した対応が求められます。 ミトコンドリアの働き自体を回復させる原因療法の確立も目指されています。日本では、MELASによる脳卒中発作の抑制の目的で、2019年にタウリンが保険適用されました。 ミトコンドリア内でエネルギーを産生する過程に使われる各種ビタミンや栄養素を補給する意味で、ふだんからのバランスの良い食事が治療の基本とされています。 リハビリのポイント 症状に応じたリハビリが必要とされます。また、運動麻痺などに対して、装具や福祉用具などが必要になることもあります。 看護の観察ポイント 現れている症状に応じた観察が必要になります。 ミトコンドリア病では介護保険の対象にならない年齢層の患者も多いため、障害者総合支援法による支援などへの橋渡しも求められます。加えて、症状が複数の臓器に及ぶと、複数の診療科、医療機関にかかることもあるため、情報共有を意識してかかわることが大切です。 そのほか、介護する家族にかかる介護負担が大きくなりがちなので、レスパイトケアを提案することも必要です。 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『ミトコンドリア病(指定難病21)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/194〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『ミトコンドリア病(指定難病21)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/335〇厚生労働省.難病・小児慢性特定疾病.『令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら