地域包括ケアに関する記事

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

元気なうちから、地域に出ていこう

地域の高齢者は医療や介護が必要になって初めて、専門職に関わったという方が多いでしょう。しかし、澤登さんはもっと前の元気なうちから、お互いが関わることが大切だとおっしゃいます。 『みま~も』に参加することで、参加者ご自身(『みま~もサポーター』)にどんなメリットがあるのか、お伺いしました。  『みま~もサポーター』のメリット 澤登: 例えば病院に入院して、医療や介護のサービスが必要となり地域に帰るとします。その方たちに医療や介護のサービスだけを提供して、地域で暮らし続けられるかというと、これが難しい。 こちらの平均寿命と健康寿命のデータをみてください。 日本は世界的にみても長寿国ですが、女性の場合には平均寿命約87歳、健康寿命が約75歳で、介護や医療が必要な状態が平均約12年もあるというデータがあります。この約12年というのは、専門職が関わる期間と言ってもいいでしょう。 一方、『みま~もサポーター』は平均加入年齢が72歳なので、活動の中で元気なうちから専門職と関わることになります。 これは健康でいる時間を長くする、あるいは介護になってからも、顔の見える関係の専門職にケアしてもらえるというメリットがあります。  新型コロナウイルスの影響 ―新型コロナウイルスの影響で、できなくなった取り組みも多いかと思いますが、今はどんな活動をされていますか? 澤登: 一部セミナーや公園での体操などはコロナ禍で一旦中止にしています。その代わりに『みま~も』のYouTubeチャンネルを作り、専門職がオンライン上でいろんな情報をあげていています。 コロナ禍で、高齢者の中でも今まで地域とのつながりも十分にあって、自分自身が地域のいろんな活動も積極的に参加していた方ほど、影響がすごく大きいと感じます。 活動などが一切なくなってしまったわけで、そういう中かで精神的に落ち込んでしまったり、うつ症状や認知症が進んでしまった、という話も多く聞きました。 『みま~も』は、2020年8月くらいから今までと同じような活動を再開する予定でしたが、セミナーでもまだまだ人と会うのが怖い、自粛したいという人も多いですし、平行してオンラインでも参加できるものを少しずつはじめて、選択肢を増やしているところです。 ―時代に合わせて地域に合わせて、変化し続けながら活動されているんですね。 澤登: はい。しかし、まだまだ高齢者の人たちにとってオンラインの参加は難しいものがあります。スマホを持っている人は7割ほどいるのですが、多くは電話機能として活用しているだけなんです。 人と繋がる手段としての操作はまだまだできない人たちが多く、高齢者の方たちにもスマホやパソコンなどにも慣れてもらう、つながりを切らさないでいられるような取り組みも引き続きやっていきたいと思います。 コロナの状況になって地域の人の声を聞きながら柔軟に、スピード感をもって新たなことをはじめています。 『みま~も』は自治体や行政などのしがらみにとらわれないから、いろいろなことが可能なのかもしれません。楽しいからこそ、みなさんやっているし、続けていける。それが何より大事なのかなと思います。  牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄 大学時代、児童演劇に夢中になり、舞台芸術を提供する地域の団体職員として8年勤務。結婚し、子供ができたことをきっかけにデイサービスに就職。介護福祉士・ケアマネージャー・社会福祉士の資格を取得後、牧田総合病院に入職。病院内に地域ささえあいセンターを立ち上げ、センター長として地域貢献に尽力している。

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

全国に拡大中!地域を支える『みま~も』とは?

前回、地域を「面」で支えるしくみを作るために「地域ささえあいセンター」が立ちあがったと伺いました。その活動の一つに『みま~も』があります。 ほかの地域からも「真似したい!」と言われる取り組みとはどんなものか、澤登さんに伺いました。 『みま~も』の活動 澤登: 3つの主な活動として「地域づくりセミナー」、「SOS『みま~も』キーホルダー登録システム」、「『みま~も』ステーション」があります。 地域づくりセミナー 澤登: こちらは地域に暮らす人たちに向けて毎月セミナーを開催していて、毎回130人を超える地域住民の方が参加してくれています。 活動資金は賛同してくださる企業や病院、事業所、クリニックなどから協賛という形で募っています。また専門職が多いネットワークなので、セミナー講師を引き受ける形で支援していただくこともあります。 SOS『みま~も』キーホルダー登録システム 澤登: こちらはその方の個人番号、暮らすエリアや地域包括支援センターの電話番号が記載されたキーホルダーを配布する活動です。例えば、認知症の方が徘徊して警察に保護されたケースなどで、身元確認をするのに役に立ちます。 今、大田区では65歳以上が16万人いる中で、高齢者見守りキーホルダーの登録者が5万人います。多くの方の外出時の安心につながっていると思います。 また、この取り組みは大田区だけでなく全国に広がっていて、私が把握する限りですけど、50の自治体で導入しているそうです。 『みま~も』ステーション 澤登: こちらは商店街の空き店舗に活動拠点を作り、さまざまなプログラムを提供する場所として利用しています。元々は、商店街として場所は余っているけれど、どの店主も80~90歳と高齢の方が多く、サービス業などをやる余力がないという状況がありました。 そこで私たちがその場所を借りることで、商店街にとってはお客さんが増え、私たちにとっても活動の拠点ができ、商店街を訪れる人たちにとっても買い物がてら、プログラムに参加できる。三者にメリットがある関係を構築することができました。この活動を始めて、今年がちょうど10年目くらいです。 『みま~も』が広がった理由 ―『みま~も』ステーションでは、子育て世代から高齢者まで幅広いプログラムが多いですよね。 澤登: 立ち上げたときは高齢者向けで活動を始めましたが、活動を続けていく中で高齢者だけを対象にしてもそれは見守り、支え合いとしては広がっていかないと思ったんです。 若い世代、子どもまですべての世代がこのネットワークに参加することで、本当の意味での見守りができると思います。 また、私たちが大事にしているのは、高齢者の人たちを参加者やお客さんにしないということです。ネットワークの作り手として一緒に入ってもらう、健康でいるための運動はもちろん大事だけど、役割や生きがいも大事にしています。 社会参加、地域とのつながりを持ちながら、自分が必要とされていることを感じられる高齢者を増やしていく。 例えば、「元気かあさんのミマモリ食堂」というものがありますが、ごはんを作るのは高齢者の「かあさん」たち。この食堂は地域の中で、ご飯を食べながら何気ないおしゃべりができる心がほっこりする場所になっています。たまに若い「かあさん」が参加したときに、先輩「かあさん」たちが温かい声をかけている光景を見るのも楽しみのひとつです。 ―『みま~も』の活動がこんなにも広がっているのは、 なぜでしょうか。 澤登: 活動を続けていく中で、ひとつ自分を褒めてあげたいなと思うのは、「辞めなかったこと」です。 こういった活動というのは継続性が大事だと思います。最初は様子見でお客さんとして来る人はいるかもしれませんが、何度か参加するなかでいい活動だと思ってくださって、この活動のために自分も協力しようと思えるような、一人ひとりの行動変容につながっていったのではないかと思います。 そしてのれんわけとして、地方版『みま~も』も全国9ヶ所に誕生しています。地域によって課題は異なるため、同じ活動をするというのは難しいと思いますが、協賛の街づくりをしたいということであれば、ノウハウなどを提供するようにしています。 牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄 大学時代、児童演劇に夢中になり、舞台芸術を提供する地域の団体職員として8年勤務。結婚し、子供ができたことをきっかけにデイサービスに就職。介護福祉士・ケアマネージャー・社会福祉士の資格を取得後、牧田総合病院に入職。病院内に地域ささえあいセンターを立ち上げ、センター長として地域貢献に尽力している。

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2021年1月21日
2021年1月21日

これからの病院のあり方

厚生労働省が実現を目指す「地域包括ケアシステム」ですが、その主体は自治体であることがほとんどです。 そんな中、地域包括センターの限界を感じ、全国的に見ても珍しい「病院が主体となったシステムの実現」を試みるのが、牧田総合病院の澤登さんです。地域を守るために、これからの病院の在り方を、澤登さんに伺いました。 地域包括支援センターの現状 ―以前は、地域包括支援センターにお勤めだったと伺いました。当時はどのような課題を感じていましたか? 澤登: 私が以前働いていた地域包括支援センターでは、皆、日々の業務をこなすのが精一杯という状況でした。しかし私は、「これでは地域包括支援センターは本来のセンターの役割を果たせていないのでは?」と思っていました。 まずは、私が考えていたセンターの本来の役割についてご説明する前に、牧田総合病院が受託・運営する地域包括支援センターと大田区が抱える問題について、お話させてください。 大田区では地域包括支援センターが21か所ありますが、その21か所のセンターで月に約1万件の相談に対応しています。 一番多い相談は介護保険に関するものですが、家族問題、経済問題、高齢者の虐待、住まいの問題など、ここ数年で相談件数が急増してきているものもあります。こういった問題に共通する特徴は、全体から見た割合としては少ないけれど、さまざまな相談内容が絡みあっているということです。 さらにいうと、この相談に来た人たちは、ある意味では公的な相談窓口にたどり着くことができ、サービスにつながることができた人たちでもあります。 しかし、地域の中には本当は専門家や各サービスを必要としているけど、自分たちでは声をあげることができない人たちもたくさんいます。 また、私がいた地域包括支援センターのエリアでは、65歳以上の高齢者は9000人いましたが、この9000人を7人の職員で対応しています。少人数の職員体制では、相談に来ることができた高齢者に対して、サービスを提供するだけの対応に終始しがちです。 今後ますます高齢化が進んでいけば、今と同じようにサービスを提供していくのすら難しいでしょう。そして、この現状は全国に5000近くある地域包括支援センターでも、同じかもしれないと思いました。 私は、本来の地域包括支援センターの役割は、対象者本人と組織をつなぐ、組織と組織をつなぐ、組織と機関をつなぐ、こうしたコーディネート機能だと考えています。 今までは、専門職が支援を必要とする人を「点」で支えていましたが、個別支援の限界を感じ、地域で暮らすすべての人たちを「面」で支えるしくみを作りたいと思いました。 このしくみを実現するために作ったのが、地域ささえあいセンターです。 『地域ささえあいセンター』 「地域包括ケアシステム」の具現化をはかる中核の部署として、病院の中に作られた組織。地域包括支援センターや退院調整をしている医療相談室、介護保険サービスのデイケア、居宅介護支援事業所など病院の中でも地域とつながりがある施設や部署が集められている。 ―澤登さんご自身がそのように考えるようになったのは、どうしてでしょうか。 澤登: 実は私は大学卒業後、親子向けの舞台芸術を提供している地域の団体職員をしていました。その後、デイサービス勤務を経て、牧田総合病院内の地域包括センターで働くことになりました。 元々、地域活動をしていたこともあり、病院は「怪我や病気を抱える人たちに来てもらう、受動的な場所」ではなく、「地域に暮らす人たちの、健康を支える拠点」になるべきだと思っていました。 病院は、さまざまな専門職種がいる人的資源の宝庫です。 その病院が治療をするだけの役割のままではもったいないと感じ、病院の中に地域とつながりがある部署を集めた地域ささえあいセンターを作りました。 牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄 大学時代、児童演劇に夢中になり、舞台芸術を提供する地域の団体職員として8年勤務。結婚し、子供ができたことをきっかけにデイサービスに就職。介護福祉士・ケアマネージャー・社会福祉士の資格を取得後、牧田総合病院に入職。病院内に地域ささえあいセンターを立ち上げ、センター長として地域貢献に尽力している。 社会医療法人社団 仁医会 牧田総合病院 東京都大田区の大森地区にある、地域密着型の急性機病院。昭和17年創設、地域に根ざして90年になる。

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2021年1月21日
2021年1月21日

通いの場で、多面的なケア

ビュートゾルフ柏では、地域支援事業として実施する通いの場「ご近所カフェみんなのたまり場」の運営を通して、「訪問看護だけではできないこと」に気づいたそうです。 今後、訪問看護ステーションとして地域の中でどんな役割を担いたいと思っているのでしょうか。 手が届かない部分にリーチする「通いの場」 ―どうして、通いの場の運営を始めようと思ったのでしょうか。 吉江:継続性を重んじるプライマリ・ケア、あるいはアドバンス・ケア・プランニングを考えたとき、要介護状態ではない住民と地域で出会える工夫をしておくことはメリットがあると思っています。 実際、看護に幅が出るようになったのは確かです。 ある高齢女性の例を紹介します。 彼女は足にしびれや痛みがあり、要介護状態で訪問看護を使っていました。病気や障害を根本から解決することはできず、我々看護師がすごく役に立っているかというと、対症的な範囲にとどまっていたと思います。 その彼女があるきっかけから、得意とする布草履づくりを私たちの通いの場で披露し、他のボランティアに教え、そして売るようになったんです。 すると要介護状態ではあるけど、人の役に立つというか、何かを作って社会に貢献するということで、彼女はもちろん、他のボランティアもとても喜んでくれました。 売り上げの一部は、少しではありますが本人の収入と、通いの場の運営費になり、彼女自身もボランティアのひとりになる。通いの場で、ご近所の方との交流もできる。訪問看護だけだとできない、社会的処方の資源としての、通いの場の価値を感じる経験でした。 また、通いの場は住民が誰でも自由に集まる場所です。 利用者さんの友達が来ていることもありますし、誰の子どもと誰の子どもが小学校の同級生だとか、地域住民の方の色々な関係性が見えてきます。 また私たちがそういった情報を多面的にとることができると、今まで保健師さんがやってきた地域の健康を守るという役割を、訪問看護と通いの場によって一部担えるのではないかと思います。 ―通いの場をつくった当初はどのように人を集められたんですか? 吉江: まずは、通いの場の運営に協力してくれるボランティアのコアになるような人を探しました。 私が柏市で長年育っていたら知り合いも多くいたかもしれませんが、実際は大学の仕事で柏市に住むようになっただけなので、その地域を長年知っている人を経由してネットワークを拡げていくことが有効だと考えました。 東京大学の仕事で交流があった柏市役所OBの方に相談したところ、「この地域ならこの人がいい」と民生委員経験者の方を紹介してもらいました。地域のお節介おばちゃんのような方です。 上述した柏市役所OBの方は30年以上柏市民と向き合ってきた方ですから、期待した通り、二つ返事で適切な方を紹介してくれました。 もし、これから通いの場などの住民との接点を設けたいと考えている訪問看護師の方がいらしたら、その地域で長年働いている保健師さん、民生委員さんなどとよくやり取りをして進めていくとスムーズなのではないかと思います。 「住まい」と「子育て支援」 ―最後に、ビュートゾルフ柏が今後、どういうことをやっていきたいか教えてください。 吉江: 「住まい」と「子育て支援」です。 「住まい」については、家族の負担が大きくて入所・入院しましたという人はやはり一定数経験しており、課題意識があります。 ただ、サ高住や有料老人ホームというイメージではなく、さまざまな特性をもった世帯が一定数集まって、お互いがゆるいつながりの中で助けあうようなイメージの住まいを作ってみたいですね。 「子育て支援」については、私が柏市の生活支援コーディネーターの活動している中で、高齢世帯以上に、子育て世帯が困っているという調査結果を見たことがきっかけです。 石川県小松市の「ややのいえ」のような、訪問看護と助産院を組み合わせたステーションができないかな、と思っています。 一般社団法人Neighborhood Care 代表理事 / 東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員 / ビュートゾルフ柏代表 / 看護師・保健師 吉江悟 東京大学に入学後、看護学コースに進学し、看護師の資格を取得。大学卒業後は、大学院の修士課程と博士課程に進学。並行して保健センターや虎の門病院に勤務。大学院卒業後は、東大の研究員や病院での非常勤講師と並行して、在宅医療のプロジェクトに関わるようになる。2015年に、研究として関わっていたビュートゾルフを日本でも展開するプロジェクトとして、ビュートゾルフ柏を立ち上げ、代表に就任。現在も、看護師として現場に関わりながら、研究員としてさまざまなプロジェクトに参加し、臨床と研究の両立を大切にしている。   

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2021年1月21日
2021年1月21日

研究を飛び越えて、魅せる強み

ビュートゾルフ柏では「住み慣れた地域での穏やかで彩りある人生に生涯を通じて伴走する」をモットーにしています。研究と臨床を両立しているからこそできる、制度の活用やステーションを運営することになった経緯について伺いました。 ビュートゾルフの4要素 ―モットーには、どのような思いが込められていますか。 吉江: イメージしているのはイギリスやオランダの家庭医みたいなものです。 同じ地域の中で「この人は支えるけど、この人は支えない」ということはなくて、子どもでも、高齢者でも、障害のある方でも、すべてみる。地域の住民全体と契約をするイメージです。 精神科や小児科など何かに特化するというやり方は性に合わなくて、特化するなら区域に、と考え立ち上げのときに作った絵がこちらです。今もこのコンセプトは変わっていません。 訪問看護ステーションという形で立ち上げたのですが、それだとどうしても基本自宅にいて、外出しないという方が対象になってしまい、元気に外を歩いている方とは仕事上でお会いする機会がないですよね。そこをなんとかしたいと思いました。 訪問看護ステーションを始めた時期に、行政の地域支援事業として住民による通いの場や生活支援体制整備事業が推進され始めました。 タイミングも良かったので、私たちもやってみたら、たまたまうまくいきました。これは、ビュートゾルフの4要素に通じるものがあります。 ―ビュートゾルフの4要素とは、どういうものでしょうか? 4要素とは「場」「住民」「看護師」「各種制度をうまく組み合わせる知恵」のことです。 「看護師」と「住民」が互酬的な関係を持ち、また住民同士が支え合う「場」を作る。その際に「各種制度をうまく組み合わせる」ことで、補助金や助成金などを上手く利用していくというのが、基本的な考えです。 ―地域支援事業などを上手く利用していくにはどうしたら良いでしょうか。 制度を組み合わせる知恵というのは、地域包括ケアの分野で研究をしてきた私の強みでもあるかもしれません。 地域包括ケアのしくみは本当に細分化されていて、これをやらせてあげる代わりにこれが義務として発生するなど、一長一短があるなと思っています。 そこを熟知して役所とも渡り合いながら、本当の意味で住民をハッピーにできるような道具だけを使っていきたい、足枷を増やさないように努めています。 研究から実践へ ―なぜ吉江さんは、オランダのビュートゾルフを日本に導入して、ステーションを始めようと思ったのですか? 吉江: 当時は東京大学で研究職をやっていて、千葉県柏市の在宅医療のプロジェクトなどをやっていました。看護師として地域包括ケアに関わる中で、私自身も訪問看護ステーションの運営を経験してみたいなと漠然と思っていました。 その時期にちょうど、オレンジクロスという新設の財団法人でビュートゾルフの研究プロジェクトを1年間やるので、プロジェクトマネジャーみたいなことをやらないか誘われたことがきっかけです。 ―ビュートゾルフのプロジェクトとはどのようなものだったんですか? 吉江: 正式名称は地域包括ケアステーション実証開発プロジェクトといいます。 日本でもビュートゾルフの考え方を広めるために、もし日本でやるとしたらどういう形がいいのか、みんなで勉強しながら進めていくプロジェクトでした。 黒船が来たみたいに拒否反応を示されるのは避けつつ、ビュートゾルフの名前を使う、使わないに関係なく、日本の実践者のみなさんにも参考になればいいなという思いで、研究を進めていました。 その中で、ビュートゾルフの名前を使って実践しているところも必要だよねという話が出て、私が訪問看護ステーションを立ち上げることになりました。 一般社団法人Neighborhood Care 代表理事 / 東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員 / ビュートゾルフ柏代表 / 看護師・保健師 吉江悟 東京大学に入学後、看護学コースに進学し、看護師の資格を取得。大学卒業後は、大学院の修士課程と博士課程に進学。並行して保健センターや虎の門病院に勤務。大学院卒業後は、東大の研究員や病院での非常勤講師と並行して、在宅医療のプロジェクトに関わるようになる。2015年に、研究として関わっていたビュートゾルフを日本でも展開するプロジェクトとして、ビュートゾルフ柏を立ち上げ、代表に就任。現在も、看護師として現場に関わりながら、研究員としてさまざまなプロジェクトに参加し、臨床と研究の両立を大切にしている。    地域で活躍する訪問看護ステーションについてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

特集
2021年1月20日
2021年1月20日

地域に信頼される訪問看護ステーションになろう

病院から在宅へと療養の場が移り変わる中、地域包括ケアシステムの必要性が求められています。その一端を担っているのが、訪問看護ステーションです。そんな中、「もっと地域に貢献したいけど、どんなことをすればいいかわからない」という方もいるのではないでしょうか。この特集では、コミュニティカフェの運営や見守りネットワークを構築を通して地域で活躍するステーションにスポットライトを当ててご紹介します。   「見える事例検討会」で地域力の底上げに貢献 木のように伸びる地図が、カラフルに描かれたホワイトボード。「見え検マップ」と呼ばれるこの地図は、課題解決の糸口を見つけるのに役立ちます。冨田さんは、病床数が減り病院の受け皿が少なくなる中、在宅メインの生活を実現するためには多職種連携が必要と考え「見える事例検討会」を開始しました。「名刺交換したらネットワークが広がった気になることもあると思うんですが、名刺交換した人がどんな気持ちで利用者さんと関わっているか、知る機会はなかなかありません」野花ヘルスプロモート代表の冨田昌秀さんは語ります。「見える事例検討会」は医療面に偏りがちな医療者の視点に対し、ケアマネジャーなど他の職種は社会面や経済面など異なった切り口で事例を見てくれるため、お互いを補い合う関係性に気づくことができます。また、自分の事業所はこんな思いで訪問看護をしています、と地域の方々に知ってもらう場にもなり、交流だけでなく事業所のPRにも繋がります。それ以外にも、NOBANASIDE CAFEというカフェ運営、地域の見守りネットワーク「みま〜も」の活動など、幅広く活動しています。地域に出ていくことで、普段の訪問看護だけでは繋がれないような方と繋がることもでき、自然とファンが生まれるのです。詳しくはこちらの取材記事をご覧ください。地域の強みを活かし合う「見える事例検討会」とは(野花ヘルスプロモート 冨田昌秀) 住民同士が支え合える環境づくりも、看護のひとつ ビュートゾルフ柏(千葉県柏市)では、地域住民を巻き込んでコミュニティカフェの運営をしています。カフェは住民がおしゃべりをしたり、ボランティアさんが昼食を作ってくれたり、ご近所さんや小学生が遊びに来たりなど、地域住民の居場所となっています。研究者でもある代表の吉江さんは、自治体とも協力した地域支援事業として通いの場の運営を始めました。「訪問看護ステーションという形で立ち上げたのですが、どうしても基本自宅にいて、外出しないという方が対象になってしまいます。元気に外を歩いている人とは仕事上でお会いする機会がないですよね。そこをなんとかしたいと思いました」と語ります。住民と看護師が持ちつ持たれつの関係をつくることを目指し、また、住民同士が支え合える環境づくりも看護のひとつと考えて運営をされています。開設にあたっては地縁のある柏市役所のOBさんから、ボランティアの核になってくれそうな人を紹介してもらい、運営の手伝いをしてもらっているそうです。住民の方との繋がりでネットワークを拡大することが、地域との接点を持つための鍵になるようです。詳しくはこちらの取材記事をご覧ください。研究を飛び越えて、魅せる強み(ビュートゾルフ柏 吉江悟)   地域に出ることが看護師のモチベーションにも繋がる 「元気なころから訪問看護ステーションの看護師が関わっていれば、利用者さんとしても安心できるし、例えば看取りの時期も本人自身では思いを表出できなくなったとしても、その方の生き方を支えていけると思うんです」牧田総合病院(東京都大田区)の地域ささえあいセンター長の澤登久雄さんは言います。澤登さんは、前述の「みま〜も」の立ち上げに携わった第一人者です。今では大田区以外にも広がり、高齢者の見守りネットワークを各所で展開しつつあります。「みま〜も」にも看護師をはじめとした専門職が関わっており、地域の元気な高齢者と共に活動することでモチベーションの向上にも繋がっているそうです。地域の活動で出会った住民の方が、何かあった時に「この訪問看護ステーションを選びたい」と思ってもらえることも組織のメリットになります。地域で多職種や住民で集まる会が盛り上がりを見せている今、そういった会や地域の活動に参加することで、顔が見える関係になることができます。詳しくはこちらの取材記事をご覧ください。地域に選ばれる訪問看護ステーションになる(牧田総合病院 地域支えあいセンター 澤登久雄) こうした関わりで地域からの信頼度もアップし、地域に根付いたステーションになっていくのではないでしょうか。保険サービス以外に地域での活動がしたい方のヒントになれば幸いです。

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